JP2004097902A - 排気ガス用炭化水素吸着材及びそれを用いた排気ガス浄化用触媒 - Google Patents
排気ガス用炭化水素吸着材及びそれを用いた排気ガス浄化用触媒 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】酸特性や疎水性、耐熱性に優れ、吸着炭化水素の保持能力が高く、エンジン始動時に排出される炭化水素(コールドHC)の脱離を遅延させることができる排気ガス用炭化水素吸着材と、このような吸着材を使用し、コールドHCの浄化性能に優れた排気ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】Al原子又はSi原子の一部又は全部が他の金属原子によって置換された酸性BETAゼオライト、酸性BETAゼオライトと同じBEA構造を有する酸性NU−2ゼオライト、あるいは酸性BETAゼオライトと類似のBEA構造を有し、SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得られたゼオライトを使用する。
【選択図】 なし
【解決手段】Al原子又はSi原子の一部又は全部が他の金属原子によって置換された酸性BETAゼオライト、酸性BETAゼオライトと同じBEA構造を有する酸性NU−2ゼオライト、あるいは酸性BETAゼオライトと類似のBEA構造を有し、SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得られたゼオライトを使用する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関から排出される排ガス中に含まれる炭化水素(以下、「HC」と称する)の吸着材として用いられるゼオライトの改良技術に係わり、更に詳しくは、粒子表面の酸特性や疎水性、骨格構造の耐熱性に優れたゼオライトから成り、吸着HCの保持能力に優れた排気ガス用HC吸着材と、このようなHC吸着材を使用した排気ガス浄化用触媒に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の冷間始動時に大量に排出されるHC(コールドHC)の浄化を目的に、近年、HC吸着材としてゼオライトを用いたHC吸着型三元触媒(HC吸着機能付き三元触媒)が開発されている。このHC吸着型三元触媒は、三元触媒が活性化しないエンジン始動時の低温域において、大量に排出されるHCを一時的に吸着・保持し、排気ガス温度の上昇によって三元触媒が活性化した時に、HCを徐々に脱離し、浄化するものである。
【0003】
従来の合成ゼオライトを主体としたHC吸着材を用いた排ガス浄化用触媒、特に上記したようなHC吸着型三元触媒においては、排ガス中に含まれる水分がゼオライト細孔内の酸点に対する化学吸着を阻害するため、エンジン始動直後の三元触媒が活性化する前に排出されるコールドHCの吸着は、ゼオライトの分子篩作用を利用した物理吸着によるものが支配的である。しかし、物理吸着したHCは、ゼオライト細孔内での保持力が弱いため、排ガス温度の上昇や排ガス流量の増加などの外的な(物理的な)要因により、容易に脱離するものと推測される。
【0004】
従来においては、コールドHCの分子径に適した細孔径を有すゼオライトを選択することによって、比較的効率よくコールドHCを吸着することは可能であるものの、物理吸着したHCをゼオライト細孔内に長い時間留めて置くことができないため、浄化触媒が充分に活性化する前に脱離が始まってしまい、所望の浄化処理効率を得ることができないのが実情であった。
【0005】
さらに、従来においては、ゼオライト骨格構造の耐熱性の向上を図るため、ゼオライト骨格を構成しているシリカ(SiO2)及びアルミナ(Al2O3)のうちのAlを酸溶液で処理し脱離する方法(脱Al処理)が行われているが、このような脱Al処理を施したゼオライトにおいては、耐熱性が向上する反面、骨格構造中の酸点であるAlのカチオンサイトが減少するため、酸特性が著しく低下し、ゼオライト細孔内に物理吸着したHCを保持する特性に著しく欠けるという難点があった。
【0006】
このようなHC吸着材を用いた排気ガスの浄化システムの改良策としては、例えば特開平6−74019号公報、特開平7−144119号公報、特開平6−142457号公報、特開平5−59942号公報、特開平7−102957号公報、特開平7−96183号公報、特開平11−81999号公報等に開示されたものがある。
すなわち、特開平6−74019号公報には、排気流路にバイパスを設け、エンジン始動直後のコールド時に排出されるHCをバイパス流路に配置したHC吸着材に一旦吸着させ、その後流路を切換え、下流の三元触媒が活性化した後、排気ガスの一部をHC吸着触媒に通じ、脱離したHCを徐々に後段の三元触媒で浄化するシステムが提案されている。
【0007】
また、特開平7−144119号公報では、コールド時に前段の三元触媒に熱を奪わせ中段のHC吸着触媒の吸着効率を向上し、前段の三元触媒活性化後は、タンデム配置した中段のHC吸着触媒を介して後段の三元触媒に反応熱を伝熱し易くし、後段の三元触媒の浄化を促進するシステムを提案している。
【0008】
さらに、特開平6−1421457号公報においては、低温域で吸着したHCが脱離する際に、脱離HCを含む排気ガスを熱交換器で予熱することによって三元触媒における浄化を促進するコールドHC吸着除去システムが提案されている。
【0009】
一方、特開平5−59942号公報には、触媒配置とバルブによる排気ガス流路の切換えによって、HC吸着材の昇温を緩慢にし、コールドHCの吸着効率を向上するシステムが提案されている。
【0010】
特開平7−102957号公報には、後段の酸化・三元触媒の浄化性能を向上するために、前段の三元触媒と中段のHC吸着材の間に空気を供給し、後段の酸化・三元触媒の活性化を促進するシステムが提案されている。
【0011】
また、特開平7−96183号公報では、ゼオライトと接触する触媒層(PdとAl2O3が主成分)の高温下での劣化抑制の観点から、吸着材層と触媒層との間に多孔質バリヤ層を設け、さらに下層吸着材層の吸着能の低下を抑制するため、Pd担持Al2O3粒子の平均粒子径が15〜25μm、耐火性無機質粒子の平均粒子径が5〜15μmのものを用いることを提案している。
【0012】
そして、特開平11−81999号公報では、コールド時に吸着材に捕捉されたHCの脱離を緩慢にするため、HC吸着触媒の温度上昇を十分に遅延させるべく、上流三元触媒と下流吸着触媒との間を結ぶ排気通路の排気管の肉厚を厚くしたり、担体などを設置したりすることにより、当該部分の熱容量を排気マニホールドの熱容量より大きくする方法を提案している。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した各公報に記載された技術は、いずれも排気流路の形状や構造、触媒の多段配置などの工夫によって、HC吸着触媒の昇温を遅らせたり、三元触媒の活性化を促進したりするように温度コントロールすることによって、コールドHCの浄化効率を高めるようにするものであって、HC吸着材の吸着HCの保持能力自体を向上させる試みはなされていない。
【0014】
上記したように、エンジン始動直後の自動車排ガス中に含まれる炭化水素(コールドHC)の吸着は、ゼオライトの分子篩作用を利用した物理吸着が主体になっているため、細孔径や骨格構造の最適化を図ることによってコールドHCの吸着効率の向上を図ることができるが、吸着HCの脱離遅延化を図るには、ゼオライト細孔内の酸点へのH2O分子の優先的吸着によって、これまで有効に機能していなかった化学吸着をも機能させることが必要である。
【0015】
ゼオライト細孔内に新たな酸点を付与したり、酸点の酸強度や酸量を増加させたりするためには、従来、ゼオライト細孔内の酸点(プロトン:H+)を多価カチオンにイオン交換する方法が用いられてきた(Donald W.Break.,ZEOLITE MOLECULAR SIEVES,(1974))。しかしながら、イオン交換した多価カチオンの酸点は、従来の酸点(プロトン;H+)と同様に、排ガス中の水分の影響を受け易く、充分な吸着HCの脱離遅延化の効果を得ることができなかった。さらに、イオン交換して得た酸点は、耐熱性が不十分で高温に曝されたり、還元雰囲気と酸化雰囲気とを繰り返す自動車排ガス雰囲気に長時間曝されたりすると、イオン交換サイトから離脱し、酸点としての機能を損ない易いという問題があった。
【0016】
さらに、従来においては、ゼオライト骨格構造の耐熱性改善を目的に、ゼオライト骨格中のAlを脱Al処理しているため、耐熱性改善効果とのトレードオフとして酸特性が著しく低下し、ゼオライト細孔内に物理吸着したHCを保持する特性に著しく欠けるという問題もあった。
【0017】
本発明は、合成ゼオライトを主成分とする従来のHC吸着材における上記課題に鑑みてなされたものであって、酸特性や疎水性、耐熱性に優れ、吸着HCの保持能力に優れた排気ガス用炭化水素吸着材と、このような吸着材を使用した排気ガス浄化用触媒を提供することを目的としている。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明の排気ガス用HC吸着材は、Al原子又はSi原子の一部又は全部が他の金属原子によって置換された酸性BETAゼオライトからなる構成、酸性BETAゼオライトと同じBEA構造を有する酸性NU−2ゼオライトからなる構成、あるいは酸性BETAゼオライトと類似のBEA構造を有し、SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得られたゼオライトからなる構成としたものであって、排気ガス用HC吸着材におけるこのような構成を上記課題を解決するための手段としたことを特徴としている。
【0019】
また、本発明の排気ガス浄化用触媒は、炭化水素吸着材層の上部に、触媒金属を含有する浄化触媒成分層を積層して成る多層構造を備えたものであって、上記炭化水素吸着材層に、上記した本発明のHC吸着材が含まれている構成としたことを特徴としている。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の排気ガス用HC吸着材について詳細に説明する。
本発明の排気ガス用HC吸着材は、Al原子又はSi原子の一部又は全部が他の金属原子で置換された酸性BETAゼオライトであるから、酸性BETAゼオライト骨格構造の耐熱性と、酸特性及び疎水性が同時に改善され、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したコールドHCの保持特性が著しく向上し、吸着HCの脱離が遅延化することになる。したがって、このようなHC吸着材を炭化水素吸着材層として使用した排気ガス浄化用触媒においては、浄化触媒成分層が充分に活性化した後に吸着HCが脱離するため、HC、特にコールドHCの浄化処理効率が著しく改善されることになる。
【0021】
上記排気ガス用HC吸着材の好適形態としては、酸性BETAゼオライト中のAl原子又はSi原子の一部又は全部を、例えばチタン(Ti)やジルコニウム(Zr)などのIVA族や、例えばガリウム(Ga)などのIIIB族に属する金属原子によって、あるいはこれらの任意の組み合わせによる複数の金属原子によって置換することができ、これによって、ゼオライト骨格構造の耐熱性が向上すると共に、酸特性の経時劣化が抑制され、さらにゼオライト粒子表面・細孔内面の疎水性が向上し水分の影響が緩和され,化学吸着力が増し、物理吸着したHC種をより強く保持することができるようになる。
【0022】
また、上記排気ガス用HC吸着材の他の好適形態においては、酸性BETAゼオライト中のAl原子又はSi原子の一部又は全部を、ゲルマニウム(Ge),バナジウム(V),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),銅(Cu)又は亜鉛(Zn)によって、あるいはこれらの任意の組み合わせによる複数の金属原子によって置換することができ、これによって、ゼオライト細孔内の酸点の酸特性(酸強度や酸量)が向上し、吸着HCの保持能力(酸点による化学吸着力)が強くなり、吸着HCをより長時間保持することができるようになる。
【0023】
さらに、上記排気ガス用HC吸着材の別の好適形態としては、酸性BETAゼオライトの平均結晶サイズを0.005〜1.0μmの範囲とすることが望ましく、これによって吸着材層中のゼオライト粒子に対する排気ガス中のHCの接触効率が向上することになる。
なお、上記平均結晶サイズについては、好ましくは0.01〜0.5μmの範囲、さらには0.02〜0.1μmの範囲とすることが望ましい。また、このような結晶サイズは、例えば走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0024】
本発明の排気ガス用HC吸着材においては、酸性BETAゼオライトの代わりに、似たX線回折パターンを有し同じBEA構造を有すると考えられるNU−2ゼオライトを使用しても、酸性BETAゼオライトと同様の耐熱性、酸特性及び疎水性が得られるため、他のゼオライト(BEA構造以外の構造を持つゼオライト)に比べ、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したコールドHCの保持特性に優れ、吸着HCの脱離が遅延化されることになる。したがって、このようなHC吸着材を炭化水素吸着材層に使用した排気ガス浄化用触媒においては、浄化触媒成分層が充分に活性化した後に吸着HCが脱離することになるため、HC、特にコールドHCの浄化処理効率が著しく改善される。
【0025】
上記排気ガス用HC吸着材の好適形態としては、上記NU−2ゼオライト中のAl原子又はSi原子の一部又は全部を他の金属元素によって置換したものであるから、NU−2ゼオライト骨格構造の耐熱性、酸特性及び疎水性の改善を同時に図ることができ、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したコールドHCの保持特性が著しく向上し、吸着HCの脱離がより遅延化されることになる。
【0026】
さらに、本発明の排気ガス用HC吸着材においては、酸性BETAゼオライトの代わりに、SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得たゼオライトであって、酸性BETAゼオライトと類似のBEA構造を有するゼオライトは、酸性BETAゼオライトと同様の耐熱性、細孔径及び細孔分布を有すため、他のゼオライト(BEA構造以外の構造を持つゼオライト)に比べ、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したコールドHCの保持特性に優れ、吸着HCの脱離が遅延化されることになる。したがって、このようなHC吸着材を炭化水素吸着材層に使用した排気ガス浄化用触媒においては、同様に浄化触媒成分層が充分に活性化した後に吸着HCが脱離することになるため、HC、特にコールドHCの浄化処理効率が著しく改善される。
【0027】
上記排気ガス用HC吸着材の好適形態においては、SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得られた上記ゼオライト中のSi原子の一部又は全部をAl及び又は他の金属元素によって置換したものであるから、上記ゼオライトの骨格構造の耐熱性、酸特性及び疎水性の改善を同時に図ることができ、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したコールドHCの保持特性が著しく向上し、吸着HCの脱離がさらに遅延化されることになる。
【0028】
本発明の上記HC吸着材は、炭化水素吸着材層の上部に、触媒金属を含有する浄化触媒成分層を積層して成る多層構造を備えた排気ガス浄化用触媒における炭化水素吸着材層に吸着材として用いることができ、当該HC吸着材を適用した本発明の排気ガス浄化用触媒においては、コールドHCが炭化水素吸着材層により長時間に吸着保持されることになり、浄化触媒成分層が充分に活性化した後に脱離することになるため、HCの浄化処理効率が著しく改善されることになる。
【0029】
上記排気ガス浄化用触媒の好適形態としては、上記浄化触媒成分層に、白金(Pt),パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)から成る群より選ばれた少なくとも1種の金属と、セリウム(Ce),ジルコニウム(Zr)及びランタン(La)から成る群より選ばれた少なくとも1種を金属換算で1〜10モル%含むアルミナと、ジルコニウム(Zr),ネオジウム(Nd),プラセオジウム(Pr),イットリウム(Y)及びランタン(La)から成る群より選ばれた少なくとも1種を金属換算で1〜50モル%含むセリウム酸化物を含有させることができ、これによって活性成分であるPt及びPdの経時劣化が抑制され、脱離HCの高い浄化処理効率が維持できると共に、三元触媒としても高い浄化性能が得られることになる。
【0030】
上記排気ガス浄化用触媒の他の好適形態として、上記浄化触媒成分層に、更にセリウム(Ce),ネオジウム(Nd),プラセオジウム(Pr),イットリウム(Y)及びランタン(La)から成る群より選ばれた少なくとも1種を金属換算で1〜40モル%含むジルコニウム酸化物を含有させることも望ましく、活性成分であるRhの経時劣化が抑制でき、脱離HCの高い浄化処理効率を維持でき、さらに三元触媒としても高い浄化性能を得ることができる。
【0031】
さらに他の好適形態としては、上記浄化触媒成分層に、更にアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれた少なくとも1種の金属を含有させることができ、これによって、還元雰囲気における浄化活性の向上及び活性成分の経時劣化の抑制を図ることができると共に、脱離HCの高い浄化処理効率が維持でき、三元触媒としても高い浄化性能が得られることになる。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、当該実施例において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0033】
(実施例1)
SiO2/Al2O3比が25のBETAゼオライトをJ.C.S.Chem.Commun.(1992),p589に記載された方法に基づいて調製し、Siの一部をTiに置換したTi含有BETAゼオライト(Ti/(Ti+Si)=0.02)を得た。
得られたTi含有BETAゼオライト粉末2257g、シリカゾル(固形分20%)1215g、純水1000gを磁性ボールミルに投入し、混合粉砕してスラリー液を得た。このスラリー液をコージェライト製担体(300セル/6ミル,担体容量1.0L)に付着させ、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いて乾燥し、400℃で1時間焼成した。そして、このゼオライトを含有する吸着材層のコート量が350g/Lになるまでコーティング作業を繰り返すことによって、触媒−a1を得た。
【0034】
次に、3モル%のCeを含むアルミナ粉末(Al:97モル%)に、硝酸パラジウム水溶液を含浸或いは高速撹拌中で噴霧し、150℃で24時間乾燥した後、400℃で1時間、次いで、600℃で1時間焼成し、Pd担持アルミナ粉末(粉末a)を得た。この粉末aのPd濃度は4.0%であった。
また、1モル%のLaと32モル%のZrを含有するセリウム酸化物粉末(Ce:67モル%)に、硝酸パラジウム水溶液を含浸或いは高速撹拌中で噴霧し、150℃で24時間乾燥した後、400℃で1時間、次いで、600℃で1時間焼成し、Pd担持セリウム酸化物粉末(粉末b)を得た。この粉末bのPd濃度は2.0%であった。
そして、上記Pd担持アルミナ粉末(粉末a)400g、Pd担持セリウム酸化物粉末(粉末b)141、硝酸酸性アルミナゾル240g(ベーマイトアルミナ10%に10%の硝酸を添加することによって得られたゾルで、Al2O3換算で24g)及び炭酸バリウム100g(BaOとして67g)を純水2000gと共に磁性ボールミルに投入し、混合粉砕してスラリー液を得た。このスラリー液を上記コート触媒−a1に付着させ、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いて乾燥し、400℃で1時間焼成して、コート層重量66.5g/Lを塗布した触媒−bを得た。
【0035】
次に、3モル%のZrを含むアルミナ粉末(Al:97モル%)に、硝酸ロジウム水溶液を含浸或いは高速撹拌中で噴霧し、150℃で24時間乾燥した後、400℃で1時間、次いで、600℃で1時間焼成し、Rh担持アルミナ粉末(粉末c)を得た。この粉末cのRh濃度は2.0%であった。
また、3モル%のCeを含むアルミナ粉末(Al:97モル%)に、ジニトロジアンミン白金水溶液を含浸或いは高速撹拌中で噴霧し、150℃で24時間乾燥した後、400℃で1時間、次いで、600℃で1時間焼成し、Pt担持アルミナ粉末(粉末d)を得た。この粉末dのPt濃度は3.0%であった。
さらに、1モル%のLaと20モル%のCeを含有するジルコニウム酸化物粉末に、ジニトロジアンミン白金水溶液を含浸或いは高速撹拌中で噴霧し、150℃で24時間乾燥した後、400℃で1時間、次いで、600℃で1時間焼成し、Pt担持アルミナ粉末(粉末e)を得た。この粉末eのPt濃度は3.0%であった。
そして、上記Rh担持アルミナ粉末(粉末c)118g、Pt担持アルミナ粉末(粉末d)118g、Pt担持ジルコニウム酸化物粉末(粉末e)118g、硝酸酸性アルミナゾル160gを磁性ボールミルに投入し、混合粉砕してスラリー液を得た。このスラリー液を上記コート触媒−bに付着させ、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いて乾燥し、400℃で1時間焼成して、コート層重量37g/Lを塗布した触媒1を得た。
当該触媒1の貴金属担持量は、Pt:0.71g/L、Pd:1.88g/L、Rh:0.24g/Lであった。
【0036】
(実施例2)
SiO2/Al2O3=50のBETAゼオライトをZEOLITES.vol.12 (1992),p280に記載の方法に基づいて調製し、Alの一部をGaに置換したGa含有BETAゼオライト(Ga/(Ga+Al)=0.25)を得た。
上記Ga含有BETAゼオライト粉末2257g、シリカゾル(固形分20%)1215g、純水1000gを磁性ボールミルに投入し、混合粉砕してスラリー液を得た。このスラリー液をコージェライト製担体(300セル/6ミル,担体容量1.0L)に付着させ、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いて乾燥し、400℃で1時間焼成した。そして、このゼオライトを含有する吸着材層のコート量が350g/Lになるまでコーティング作業を繰り返すことによって、触媒−a2を得た。
【0037】
そして、得られたコート触媒−a1に、上記実施例1と同様の要領によって浄化触媒成分層を積層し、当該実施例2に係わる触媒2を得た。
【0038】
(実施例3)
SiO2/Al2O3=40のBETAゼオライトをZEOLITES.vol.10 (1990),p85に記載の方法に基づいて調製して、Alの全部をFeに置換したFe含有BETAゼオライトを得た。
【0039】
そして、このFe含有BETAゼオライトを用いて、上記実施例1と同様の要領によって、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層し、当該実施例3に係わる触媒3を得た。
【0040】
(実施例4)
Micropor.Mesopor.Mater.,37,(2000),p291に記載されている調製法に基づいて得られたMCM−41等を前駆体として欠陥のない全シリカBEAゼオライトを調整し、これを出発物質として、Siの一部をZrで置換したゼオライトを得た。
【0041】
そして、このゼオライトを用い、上記実施例1と同様の要領によって、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層して、当該実施例4に係わる触媒4を得た。
【0042】
(実施例5)
上記実施例4と同様の方法によって、Siの一部をVで置換したゼオライトを得た。そして、このゼオライトを用い、上記実施例1と同様の要領によって、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層し、当該実施例5に係わる触媒5を得た。
【0043】
(実施例6)
上記実施例4と同様の方法によって、Siの一部をZnで置換したゼオライトを得た。そして、このゼオライトを用い、上記実施例1と同様の要領によって、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層し、当該実施例6に係わる触媒6を得た。
【0044】
(実施例7)
例えば、Synthesis of High−Silica Alumino−silicate Zeolites, Studies in SurfaceScience and Catalysis,33,1987,p16に開示されているBETAゼオライトと似たX線回折パターンを有し、EP−A−0055046に開示されているNU−2をHC吸着材として用い、上記実施例1と同様の要領によって、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層し、当該実施例7に係わる触媒7を得た。
【0045】
(実施例8)
J.Phys.Chem.B,102,(1998),p7126に記載されている調製法に基づいて、Siの一部をAlで置換した[Al]SSZ−31を調整し、これをHC吸着材として用いて、上記実施例1と同様の要領により、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層し、当該実施例8に係わる触媒8を得た。
【0046】
(比較例)
SiO2/Al2O3比が25のBETAゼオライトに脱Al処理を施すことにより、SiO2/Al2O3比を1000にしたゼオライトをHC吸着材として用い、これ以外は上記実施例1と同様の要領により、当該比較例に係わる触媒9を得た。
【0047】
以上の実施例及び比較例によって得られた各排気ガス浄化用触媒の仕様を表1に示す。
【0048】
表1に示した触媒1〜9を用いた実施例1〜8および比較例について、下記条件による耐久後の各触媒を図1に示す評価システムの触媒位置2に配置すると共に、触媒位置1に通常の三元触媒を設置して、下記の条件のもとにHC特性評価を行い、HC吸着率と脱離HC浄化率を測定した。
その結果を表1に併せて示す。
【0049】
耐久条件
・エンジン排気量 3000cc
・燃料 ガソリン(日石ダッシュ)
・耐久温度 650℃
・耐久時間 50時間
車両性能試験
・エンジン 日産自動車株式会社製 直列4気筒 2.0L
・評価方法 北米排ガス試験法のLA4−CHのA−bag
【0050】
【表1】
【0051】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の排気ガス用HC吸着材は、Al原子又はSi原子の一部又は全部が他の金属原子で置換された酸性BETAゼオライトからなるものであり、酸性BETAゼオライトと同じBEA構造を有する酸性NU−2ゼオライトからなるものであり、SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得られ、酸性BETAゼオライトと類似のBEA構造を有するゼオライトからなるものであるから、ゼオライト骨格構造の耐熱性向上、酸特性及び疎水性の改善を同時に図ることができ、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したHCの保持特性が著しく向上し、吸着HCの脱離を遅延化することができるという極めて優れた効果をもたらすものである。
【0052】
また、本発明の排気ガス浄化用触媒においては、このようなHC吸着材を炭化水素吸着材層として使用しているので、エンジン始動直後に排出され、当該吸着材に吸着されたコールドHCの吸着材層からの脱離が遅延し、浄化触媒成分層が充分に活性化した後に脱離するようになることから、コールドHCの浄化処理効率を著しく改善することができるという極めて優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例及び比較例によって得られた排気ガス浄化用触媒の性能評価に用いたエンジンシステムの構成を示す概略図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関から排出される排ガス中に含まれる炭化水素(以下、「HC」と称する)の吸着材として用いられるゼオライトの改良技術に係わり、更に詳しくは、粒子表面の酸特性や疎水性、骨格構造の耐熱性に優れたゼオライトから成り、吸着HCの保持能力に優れた排気ガス用HC吸着材と、このようなHC吸着材を使用した排気ガス浄化用触媒に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の冷間始動時に大量に排出されるHC(コールドHC)の浄化を目的に、近年、HC吸着材としてゼオライトを用いたHC吸着型三元触媒(HC吸着機能付き三元触媒)が開発されている。このHC吸着型三元触媒は、三元触媒が活性化しないエンジン始動時の低温域において、大量に排出されるHCを一時的に吸着・保持し、排気ガス温度の上昇によって三元触媒が活性化した時に、HCを徐々に脱離し、浄化するものである。
【0003】
従来の合成ゼオライトを主体としたHC吸着材を用いた排ガス浄化用触媒、特に上記したようなHC吸着型三元触媒においては、排ガス中に含まれる水分がゼオライト細孔内の酸点に対する化学吸着を阻害するため、エンジン始動直後の三元触媒が活性化する前に排出されるコールドHCの吸着は、ゼオライトの分子篩作用を利用した物理吸着によるものが支配的である。しかし、物理吸着したHCは、ゼオライト細孔内での保持力が弱いため、排ガス温度の上昇や排ガス流量の増加などの外的な(物理的な)要因により、容易に脱離するものと推測される。
【0004】
従来においては、コールドHCの分子径に適した細孔径を有すゼオライトを選択することによって、比較的効率よくコールドHCを吸着することは可能であるものの、物理吸着したHCをゼオライト細孔内に長い時間留めて置くことができないため、浄化触媒が充分に活性化する前に脱離が始まってしまい、所望の浄化処理効率を得ることができないのが実情であった。
【0005】
さらに、従来においては、ゼオライト骨格構造の耐熱性の向上を図るため、ゼオライト骨格を構成しているシリカ(SiO2)及びアルミナ(Al2O3)のうちのAlを酸溶液で処理し脱離する方法(脱Al処理)が行われているが、このような脱Al処理を施したゼオライトにおいては、耐熱性が向上する反面、骨格構造中の酸点であるAlのカチオンサイトが減少するため、酸特性が著しく低下し、ゼオライト細孔内に物理吸着したHCを保持する特性に著しく欠けるという難点があった。
【0006】
このようなHC吸着材を用いた排気ガスの浄化システムの改良策としては、例えば特開平6−74019号公報、特開平7−144119号公報、特開平6−142457号公報、特開平5−59942号公報、特開平7−102957号公報、特開平7−96183号公報、特開平11−81999号公報等に開示されたものがある。
すなわち、特開平6−74019号公報には、排気流路にバイパスを設け、エンジン始動直後のコールド時に排出されるHCをバイパス流路に配置したHC吸着材に一旦吸着させ、その後流路を切換え、下流の三元触媒が活性化した後、排気ガスの一部をHC吸着触媒に通じ、脱離したHCを徐々に後段の三元触媒で浄化するシステムが提案されている。
【0007】
また、特開平7−144119号公報では、コールド時に前段の三元触媒に熱を奪わせ中段のHC吸着触媒の吸着効率を向上し、前段の三元触媒活性化後は、タンデム配置した中段のHC吸着触媒を介して後段の三元触媒に反応熱を伝熱し易くし、後段の三元触媒の浄化を促進するシステムを提案している。
【0008】
さらに、特開平6−1421457号公報においては、低温域で吸着したHCが脱離する際に、脱離HCを含む排気ガスを熱交換器で予熱することによって三元触媒における浄化を促進するコールドHC吸着除去システムが提案されている。
【0009】
一方、特開平5−59942号公報には、触媒配置とバルブによる排気ガス流路の切換えによって、HC吸着材の昇温を緩慢にし、コールドHCの吸着効率を向上するシステムが提案されている。
【0010】
特開平7−102957号公報には、後段の酸化・三元触媒の浄化性能を向上するために、前段の三元触媒と中段のHC吸着材の間に空気を供給し、後段の酸化・三元触媒の活性化を促進するシステムが提案されている。
【0011】
また、特開平7−96183号公報では、ゼオライトと接触する触媒層(PdとAl2O3が主成分)の高温下での劣化抑制の観点から、吸着材層と触媒層との間に多孔質バリヤ層を設け、さらに下層吸着材層の吸着能の低下を抑制するため、Pd担持Al2O3粒子の平均粒子径が15〜25μm、耐火性無機質粒子の平均粒子径が5〜15μmのものを用いることを提案している。
【0012】
そして、特開平11−81999号公報では、コールド時に吸着材に捕捉されたHCの脱離を緩慢にするため、HC吸着触媒の温度上昇を十分に遅延させるべく、上流三元触媒と下流吸着触媒との間を結ぶ排気通路の排気管の肉厚を厚くしたり、担体などを設置したりすることにより、当該部分の熱容量を排気マニホールドの熱容量より大きくする方法を提案している。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した各公報に記載された技術は、いずれも排気流路の形状や構造、触媒の多段配置などの工夫によって、HC吸着触媒の昇温を遅らせたり、三元触媒の活性化を促進したりするように温度コントロールすることによって、コールドHCの浄化効率を高めるようにするものであって、HC吸着材の吸着HCの保持能力自体を向上させる試みはなされていない。
【0014】
上記したように、エンジン始動直後の自動車排ガス中に含まれる炭化水素(コールドHC)の吸着は、ゼオライトの分子篩作用を利用した物理吸着が主体になっているため、細孔径や骨格構造の最適化を図ることによってコールドHCの吸着効率の向上を図ることができるが、吸着HCの脱離遅延化を図るには、ゼオライト細孔内の酸点へのH2O分子の優先的吸着によって、これまで有効に機能していなかった化学吸着をも機能させることが必要である。
【0015】
ゼオライト細孔内に新たな酸点を付与したり、酸点の酸強度や酸量を増加させたりするためには、従来、ゼオライト細孔内の酸点(プロトン:H+)を多価カチオンにイオン交換する方法が用いられてきた(Donald W.Break.,ZEOLITE MOLECULAR SIEVES,(1974))。しかしながら、イオン交換した多価カチオンの酸点は、従来の酸点(プロトン;H+)と同様に、排ガス中の水分の影響を受け易く、充分な吸着HCの脱離遅延化の効果を得ることができなかった。さらに、イオン交換して得た酸点は、耐熱性が不十分で高温に曝されたり、還元雰囲気と酸化雰囲気とを繰り返す自動車排ガス雰囲気に長時間曝されたりすると、イオン交換サイトから離脱し、酸点としての機能を損ない易いという問題があった。
【0016】
さらに、従来においては、ゼオライト骨格構造の耐熱性改善を目的に、ゼオライト骨格中のAlを脱Al処理しているため、耐熱性改善効果とのトレードオフとして酸特性が著しく低下し、ゼオライト細孔内に物理吸着したHCを保持する特性に著しく欠けるという問題もあった。
【0017】
本発明は、合成ゼオライトを主成分とする従来のHC吸着材における上記課題に鑑みてなされたものであって、酸特性や疎水性、耐熱性に優れ、吸着HCの保持能力に優れた排気ガス用炭化水素吸着材と、このような吸着材を使用した排気ガス浄化用触媒を提供することを目的としている。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明の排気ガス用HC吸着材は、Al原子又はSi原子の一部又は全部が他の金属原子によって置換された酸性BETAゼオライトからなる構成、酸性BETAゼオライトと同じBEA構造を有する酸性NU−2ゼオライトからなる構成、あるいは酸性BETAゼオライトと類似のBEA構造を有し、SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得られたゼオライトからなる構成としたものであって、排気ガス用HC吸着材におけるこのような構成を上記課題を解決するための手段としたことを特徴としている。
【0019】
また、本発明の排気ガス浄化用触媒は、炭化水素吸着材層の上部に、触媒金属を含有する浄化触媒成分層を積層して成る多層構造を備えたものであって、上記炭化水素吸着材層に、上記した本発明のHC吸着材が含まれている構成としたことを特徴としている。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の排気ガス用HC吸着材について詳細に説明する。
本発明の排気ガス用HC吸着材は、Al原子又はSi原子の一部又は全部が他の金属原子で置換された酸性BETAゼオライトであるから、酸性BETAゼオライト骨格構造の耐熱性と、酸特性及び疎水性が同時に改善され、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したコールドHCの保持特性が著しく向上し、吸着HCの脱離が遅延化することになる。したがって、このようなHC吸着材を炭化水素吸着材層として使用した排気ガス浄化用触媒においては、浄化触媒成分層が充分に活性化した後に吸着HCが脱離するため、HC、特にコールドHCの浄化処理効率が著しく改善されることになる。
【0021】
上記排気ガス用HC吸着材の好適形態としては、酸性BETAゼオライト中のAl原子又はSi原子の一部又は全部を、例えばチタン(Ti)やジルコニウム(Zr)などのIVA族や、例えばガリウム(Ga)などのIIIB族に属する金属原子によって、あるいはこれらの任意の組み合わせによる複数の金属原子によって置換することができ、これによって、ゼオライト骨格構造の耐熱性が向上すると共に、酸特性の経時劣化が抑制され、さらにゼオライト粒子表面・細孔内面の疎水性が向上し水分の影響が緩和され,化学吸着力が増し、物理吸着したHC種をより強く保持することができるようになる。
【0022】
また、上記排気ガス用HC吸着材の他の好適形態においては、酸性BETAゼオライト中のAl原子又はSi原子の一部又は全部を、ゲルマニウム(Ge),バナジウム(V),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),銅(Cu)又は亜鉛(Zn)によって、あるいはこれらの任意の組み合わせによる複数の金属原子によって置換することができ、これによって、ゼオライト細孔内の酸点の酸特性(酸強度や酸量)が向上し、吸着HCの保持能力(酸点による化学吸着力)が強くなり、吸着HCをより長時間保持することができるようになる。
【0023】
さらに、上記排気ガス用HC吸着材の別の好適形態としては、酸性BETAゼオライトの平均結晶サイズを0.005〜1.0μmの範囲とすることが望ましく、これによって吸着材層中のゼオライト粒子に対する排気ガス中のHCの接触効率が向上することになる。
なお、上記平均結晶サイズについては、好ましくは0.01〜0.5μmの範囲、さらには0.02〜0.1μmの範囲とすることが望ましい。また、このような結晶サイズは、例えば走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0024】
本発明の排気ガス用HC吸着材においては、酸性BETAゼオライトの代わりに、似たX線回折パターンを有し同じBEA構造を有すると考えられるNU−2ゼオライトを使用しても、酸性BETAゼオライトと同様の耐熱性、酸特性及び疎水性が得られるため、他のゼオライト(BEA構造以外の構造を持つゼオライト)に比べ、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したコールドHCの保持特性に優れ、吸着HCの脱離が遅延化されることになる。したがって、このようなHC吸着材を炭化水素吸着材層に使用した排気ガス浄化用触媒においては、浄化触媒成分層が充分に活性化した後に吸着HCが脱離することになるため、HC、特にコールドHCの浄化処理効率が著しく改善される。
【0025】
上記排気ガス用HC吸着材の好適形態としては、上記NU−2ゼオライト中のAl原子又はSi原子の一部又は全部を他の金属元素によって置換したものであるから、NU−2ゼオライト骨格構造の耐熱性、酸特性及び疎水性の改善を同時に図ることができ、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したコールドHCの保持特性が著しく向上し、吸着HCの脱離がより遅延化されることになる。
【0026】
さらに、本発明の排気ガス用HC吸着材においては、酸性BETAゼオライトの代わりに、SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得たゼオライトであって、酸性BETAゼオライトと類似のBEA構造を有するゼオライトは、酸性BETAゼオライトと同様の耐熱性、細孔径及び細孔分布を有すため、他のゼオライト(BEA構造以外の構造を持つゼオライト)に比べ、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したコールドHCの保持特性に優れ、吸着HCの脱離が遅延化されることになる。したがって、このようなHC吸着材を炭化水素吸着材層に使用した排気ガス浄化用触媒においては、同様に浄化触媒成分層が充分に活性化した後に吸着HCが脱離することになるため、HC、特にコールドHCの浄化処理効率が著しく改善される。
【0027】
上記排気ガス用HC吸着材の好適形態においては、SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得られた上記ゼオライト中のSi原子の一部又は全部をAl及び又は他の金属元素によって置換したものであるから、上記ゼオライトの骨格構造の耐熱性、酸特性及び疎水性の改善を同時に図ることができ、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したコールドHCの保持特性が著しく向上し、吸着HCの脱離がさらに遅延化されることになる。
【0028】
本発明の上記HC吸着材は、炭化水素吸着材層の上部に、触媒金属を含有する浄化触媒成分層を積層して成る多層構造を備えた排気ガス浄化用触媒における炭化水素吸着材層に吸着材として用いることができ、当該HC吸着材を適用した本発明の排気ガス浄化用触媒においては、コールドHCが炭化水素吸着材層により長時間に吸着保持されることになり、浄化触媒成分層が充分に活性化した後に脱離することになるため、HCの浄化処理効率が著しく改善されることになる。
【0029】
上記排気ガス浄化用触媒の好適形態としては、上記浄化触媒成分層に、白金(Pt),パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)から成る群より選ばれた少なくとも1種の金属と、セリウム(Ce),ジルコニウム(Zr)及びランタン(La)から成る群より選ばれた少なくとも1種を金属換算で1〜10モル%含むアルミナと、ジルコニウム(Zr),ネオジウム(Nd),プラセオジウム(Pr),イットリウム(Y)及びランタン(La)から成る群より選ばれた少なくとも1種を金属換算で1〜50モル%含むセリウム酸化物を含有させることができ、これによって活性成分であるPt及びPdの経時劣化が抑制され、脱離HCの高い浄化処理効率が維持できると共に、三元触媒としても高い浄化性能が得られることになる。
【0030】
上記排気ガス浄化用触媒の他の好適形態として、上記浄化触媒成分層に、更にセリウム(Ce),ネオジウム(Nd),プラセオジウム(Pr),イットリウム(Y)及びランタン(La)から成る群より選ばれた少なくとも1種を金属換算で1〜40モル%含むジルコニウム酸化物を含有させることも望ましく、活性成分であるRhの経時劣化が抑制でき、脱離HCの高い浄化処理効率を維持でき、さらに三元触媒としても高い浄化性能を得ることができる。
【0031】
さらに他の好適形態としては、上記浄化触媒成分層に、更にアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれた少なくとも1種の金属を含有させることができ、これによって、還元雰囲気における浄化活性の向上及び活性成分の経時劣化の抑制を図ることができると共に、脱離HCの高い浄化処理効率が維持でき、三元触媒としても高い浄化性能が得られることになる。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、当該実施例において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0033】
(実施例1)
SiO2/Al2O3比が25のBETAゼオライトをJ.C.S.Chem.Commun.(1992),p589に記載された方法に基づいて調製し、Siの一部をTiに置換したTi含有BETAゼオライト(Ti/(Ti+Si)=0.02)を得た。
得られたTi含有BETAゼオライト粉末2257g、シリカゾル(固形分20%)1215g、純水1000gを磁性ボールミルに投入し、混合粉砕してスラリー液を得た。このスラリー液をコージェライト製担体(300セル/6ミル,担体容量1.0L)に付着させ、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いて乾燥し、400℃で1時間焼成した。そして、このゼオライトを含有する吸着材層のコート量が350g/Lになるまでコーティング作業を繰り返すことによって、触媒−a1を得た。
【0034】
次に、3モル%のCeを含むアルミナ粉末(Al:97モル%)に、硝酸パラジウム水溶液を含浸或いは高速撹拌中で噴霧し、150℃で24時間乾燥した後、400℃で1時間、次いで、600℃で1時間焼成し、Pd担持アルミナ粉末(粉末a)を得た。この粉末aのPd濃度は4.0%であった。
また、1モル%のLaと32モル%のZrを含有するセリウム酸化物粉末(Ce:67モル%)に、硝酸パラジウム水溶液を含浸或いは高速撹拌中で噴霧し、150℃で24時間乾燥した後、400℃で1時間、次いで、600℃で1時間焼成し、Pd担持セリウム酸化物粉末(粉末b)を得た。この粉末bのPd濃度は2.0%であった。
そして、上記Pd担持アルミナ粉末(粉末a)400g、Pd担持セリウム酸化物粉末(粉末b)141、硝酸酸性アルミナゾル240g(ベーマイトアルミナ10%に10%の硝酸を添加することによって得られたゾルで、Al2O3換算で24g)及び炭酸バリウム100g(BaOとして67g)を純水2000gと共に磁性ボールミルに投入し、混合粉砕してスラリー液を得た。このスラリー液を上記コート触媒−a1に付着させ、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いて乾燥し、400℃で1時間焼成して、コート層重量66.5g/Lを塗布した触媒−bを得た。
【0035】
次に、3モル%のZrを含むアルミナ粉末(Al:97モル%)に、硝酸ロジウム水溶液を含浸或いは高速撹拌中で噴霧し、150℃で24時間乾燥した後、400℃で1時間、次いで、600℃で1時間焼成し、Rh担持アルミナ粉末(粉末c)を得た。この粉末cのRh濃度は2.0%であった。
また、3モル%のCeを含むアルミナ粉末(Al:97モル%)に、ジニトロジアンミン白金水溶液を含浸或いは高速撹拌中で噴霧し、150℃で24時間乾燥した後、400℃で1時間、次いで、600℃で1時間焼成し、Pt担持アルミナ粉末(粉末d)を得た。この粉末dのPt濃度は3.0%であった。
さらに、1モル%のLaと20モル%のCeを含有するジルコニウム酸化物粉末に、ジニトロジアンミン白金水溶液を含浸或いは高速撹拌中で噴霧し、150℃で24時間乾燥した後、400℃で1時間、次いで、600℃で1時間焼成し、Pt担持アルミナ粉末(粉末e)を得た。この粉末eのPt濃度は3.0%であった。
そして、上記Rh担持アルミナ粉末(粉末c)118g、Pt担持アルミナ粉末(粉末d)118g、Pt担持ジルコニウム酸化物粉末(粉末e)118g、硝酸酸性アルミナゾル160gを磁性ボールミルに投入し、混合粉砕してスラリー液を得た。このスラリー液を上記コート触媒−bに付着させ、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いて乾燥し、400℃で1時間焼成して、コート層重量37g/Lを塗布した触媒1を得た。
当該触媒1の貴金属担持量は、Pt:0.71g/L、Pd:1.88g/L、Rh:0.24g/Lであった。
【0036】
(実施例2)
SiO2/Al2O3=50のBETAゼオライトをZEOLITES.vol.12 (1992),p280に記載の方法に基づいて調製し、Alの一部をGaに置換したGa含有BETAゼオライト(Ga/(Ga+Al)=0.25)を得た。
上記Ga含有BETAゼオライト粉末2257g、シリカゾル(固形分20%)1215g、純水1000gを磁性ボールミルに投入し、混合粉砕してスラリー液を得た。このスラリー液をコージェライト製担体(300セル/6ミル,担体容量1.0L)に付着させ、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いて乾燥し、400℃で1時間焼成した。そして、このゼオライトを含有する吸着材層のコート量が350g/Lになるまでコーティング作業を繰り返すことによって、触媒−a2を得た。
【0037】
そして、得られたコート触媒−a1に、上記実施例1と同様の要領によって浄化触媒成分層を積層し、当該実施例2に係わる触媒2を得た。
【0038】
(実施例3)
SiO2/Al2O3=40のBETAゼオライトをZEOLITES.vol.10 (1990),p85に記載の方法に基づいて調製して、Alの全部をFeに置換したFe含有BETAゼオライトを得た。
【0039】
そして、このFe含有BETAゼオライトを用いて、上記実施例1と同様の要領によって、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層し、当該実施例3に係わる触媒3を得た。
【0040】
(実施例4)
Micropor.Mesopor.Mater.,37,(2000),p291に記載されている調製法に基づいて得られたMCM−41等を前駆体として欠陥のない全シリカBEAゼオライトを調整し、これを出発物質として、Siの一部をZrで置換したゼオライトを得た。
【0041】
そして、このゼオライトを用い、上記実施例1と同様の要領によって、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層して、当該実施例4に係わる触媒4を得た。
【0042】
(実施例5)
上記実施例4と同様の方法によって、Siの一部をVで置換したゼオライトを得た。そして、このゼオライトを用い、上記実施例1と同様の要領によって、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層し、当該実施例5に係わる触媒5を得た。
【0043】
(実施例6)
上記実施例4と同様の方法によって、Siの一部をZnで置換したゼオライトを得た。そして、このゼオライトを用い、上記実施例1と同様の要領によって、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層し、当該実施例6に係わる触媒6を得た。
【0044】
(実施例7)
例えば、Synthesis of High−Silica Alumino−silicate Zeolites, Studies in SurfaceScience and Catalysis,33,1987,p16に開示されているBETAゼオライトと似たX線回折パターンを有し、EP−A−0055046に開示されているNU−2をHC吸着材として用い、上記実施例1と同様の要領によって、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層し、当該実施例7に係わる触媒7を得た。
【0045】
(実施例8)
J.Phys.Chem.B,102,(1998),p7126に記載されている調製法に基づいて、Siの一部をAlで置換した[Al]SSZ−31を調整し、これをHC吸着材として用いて、上記実施例1と同様の要領により、HC吸着材層及び浄化触媒成分層を積層し、当該実施例8に係わる触媒8を得た。
【0046】
(比較例)
SiO2/Al2O3比が25のBETAゼオライトに脱Al処理を施すことにより、SiO2/Al2O3比を1000にしたゼオライトをHC吸着材として用い、これ以外は上記実施例1と同様の要領により、当該比較例に係わる触媒9を得た。
【0047】
以上の実施例及び比較例によって得られた各排気ガス浄化用触媒の仕様を表1に示す。
【0048】
表1に示した触媒1〜9を用いた実施例1〜8および比較例について、下記条件による耐久後の各触媒を図1に示す評価システムの触媒位置2に配置すると共に、触媒位置1に通常の三元触媒を設置して、下記の条件のもとにHC特性評価を行い、HC吸着率と脱離HC浄化率を測定した。
その結果を表1に併せて示す。
【0049】
耐久条件
・エンジン排気量 3000cc
・燃料 ガソリン(日石ダッシュ)
・耐久温度 650℃
・耐久時間 50時間
車両性能試験
・エンジン 日産自動車株式会社製 直列4気筒 2.0L
・評価方法 北米排ガス試験法のLA4−CHのA−bag
【0050】
【表1】
【0051】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の排気ガス用HC吸着材は、Al原子又はSi原子の一部又は全部が他の金属原子で置換された酸性BETAゼオライトからなるものであり、酸性BETAゼオライトと同じBEA構造を有する酸性NU−2ゼオライトからなるものであり、SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得られ、酸性BETAゼオライトと類似のBEA構造を有するゼオライトからなるものであるから、ゼオライト骨格構造の耐熱性向上、酸特性及び疎水性の改善を同時に図ることができ、ゼオライト骨格構造内に物理吸着したHCの保持特性が著しく向上し、吸着HCの脱離を遅延化することができるという極めて優れた効果をもたらすものである。
【0052】
また、本発明の排気ガス浄化用触媒においては、このようなHC吸着材を炭化水素吸着材層として使用しているので、エンジン始動直後に排出され、当該吸着材に吸着されたコールドHCの吸着材層からの脱離が遅延し、浄化触媒成分層が充分に活性化した後に脱離するようになることから、コールドHCの浄化処理効率を著しく改善することができるという極めて優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例及び比較例によって得られた排気ガス浄化用触媒の性能評価に用いたエンジンシステムの構成を示す概略図である。
Claims (12)
- Al原子又はSi原子の一部又は全部が他の金属原子によって置換された酸性BETAゼオライトからなることを特徴とする排気ガス用炭化水素吸着材。
- 上記酸性BETAゼオライト中のAl原子又はSi原子の一部又は全部がIVA族及びIIIB族から選ばれた少なくとも1種の金属原子によって置換されていることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス用炭化水素吸着材。
- 上記酸性BETAゼオライト中のAl原子又はSi原子の一部又は全部がゲルマニウム,バナジウム,鉄,コバルト,ニッケル,銅及び亜鉛から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属原子によって置換されていることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス用炭化水素吸着材。
- 酸性BETAゼオライトの平均結晶サイズが0.005〜1.0μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の排気ガス用炭化水素吸着材。
- 酸性BETAゼオライトと同じBEA構造を有する酸性NU−2ゼオライトからなることを特徴とする排気ガス用炭化水素吸着材。
- 上記酸性NU−2ゼオライト中のAl原子又はSi原子の一部又は全部が他の金属原子によって置換されていることを特徴とする請求項5に記載の排気ガス用炭化水素吸着材。
- SSZ−31及び/又はSSZ−41を前駆体として得られたゼオライトであって、酸性BETAゼオライトと類似のBEA構造を有するゼオライトからなることを特徴とする排気ガス用炭化水素吸着材。
- 上記ゼオライト中のSi原子の一部又は全部がAl原子及び/又は他の金属原子によって置換されていることを特徴とする請求項7に記載の排気ガス用炭化水素吸着材。
- 炭化水素吸着材層の上部に、触媒金属を含有する浄化触媒成分層を積層して成る多層構造を備え、上記炭化水素吸着材層に請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の炭化水素吸着材が含まれていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
- 上記浄化触媒成分層に、白金,パラジウム及びロジウムから成る群より選ばれた少なくとも1種の金属と、セリウム,ジルコニウム及びランタンから成る群より選ばれた少なくとも1種を金属換算で1〜10モル%含むアルミナと、ジルコニウム,ネオジウム,プラセオジウム,イットリウム及びランタンから成る群より選ばれた少なくとも1種を金属換算で1〜50モル%含むセリウム酸化物が含有されていることを特徴とする請求項9に記載の排気ガス浄化用触媒。
- 上記浄化触媒成分層に、セリウム,ネオジウム,プラセオジウム,イットリウム及びランタンから成る群より選ばれた少なくとも1種を金属換算で1〜40モル%含むジルコニウム酸化物が更に含有されていることを特徴とする請求項10に記載の排気ガス浄化用触媒。
- 上記浄化触媒成分層に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれた少なくとも1種の金属が更に含有されていることを特徴とする請求項10又は11に記載の排気ガス浄化用触媒。
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