JP2004097434A - ミシン及びその針振り機構 - Google Patents

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Abstract

【課題】ミシンフレームを合成樹脂製とし、針振り機構を金属部材で構成する場合にはミシンフレームの熱膨張に起因して、針棒支持体が針振り方向へ位置ズレする。
【解決手段】ミシン1の針振り機構5は、ミシンフレーム7に軸31で支持された針棒支持体32と、針棒10を揺動するための針振りカム28と、ミシンフレーム7に軸29で支持され且つカムリフトを検出するカムリフト検出体30と、カムリフト検出体30の揺動を針棒支持体32に伝達する伝達機構40とを備え、この伝達機構40は、針棒支持体32に連結された第1伝達体41と、カムリフト検出体30に連結された第2伝達体42と、第1伝達体41と第2伝達体42とを連結し且つミシンフレーム7に作動体軸46で支持された作動体43と、第1,第2伝達体41,42を作動体43に夫々連結する第1,第2連結ピン48,50などを有する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はミシン及びその針振り機構に関し、特に、針振り機構が装着されるミシンフレームの熱膨張率と針振り機構の熱膨張率の違いによる縫針の位置ズレを吸収できるミシン及びその針振り機構に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、直線縫いやジグザグ縫いなどが可能なミシンが種々実用化されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、本願の図6に示すジグザグ縫い可能なミシン1Aは、ジグザグ縫いの為に縫針11を左右に揺動させる針振り機構5を備えている。針振り機構5は、アーム部4のミシンフレーム7に針棒支持体軸31を介して回動可能に支持された針棒支持体32と、脚柱部3のミシンフレーム7にカムリフト検出体軸29を介して回動可能に支持され且つ針振りカム28の凸部27のカムリフトを検出するカムリフト検出体30と、カムリフト検出体30の揺動を針棒支持体32に伝達する伝達体60を備えている。針棒支持体32の下端部と略中間部には、針棒10を上下摺動可能に受ける軸受け34a、34bも設けられ、ミシンベッド部2には、針孔19を形成した針板13が設けられている。
【0003】
このミシン1Aによりジグザグ縫いをする際には、図7(a)、(b)に示すように、ミシンモータにより主軸と連動して回転駆動される針振りカム28の凸部27のカムリフトをカムリフト検出体30により検出し、このカムリフト検出体30の揺動が、伝達体60により針棒支持体32に伝達されると、針棒支持体32と針棒10とが左右に針振り駆動されてジグザグ縫い目Zが形成される。
【0004】
【特許文献1】実公昭62−26061号公報
【特許文献2】特開昭58−111821号公報
【特許文献3】特許第3292383号公報(第4頁、図6−7)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来のミシン1Aでは、金属製のミシンフレーム7が採用されて来たが、最近、ミシンの軽量化と材料コストの削減等の為にミシンフレームを合成樹脂製とする技術が要請されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、ミシンフレーム7を構成する合成樹脂材料と、針振り機構の伝達体60を構成する金属材料では熱膨張率が大きく異なる。例えば、ABS樹脂等の線膨張率は1×10−4−1程度であり、鉄系金属材料の線膨張率は1×10−5−1程度である。
【0006】
そして、図6に示す状態で、伝達体60の水平方向の長さAが−10℃で30cmとし、図8に示すように40℃まで周囲の温度が上昇した際には、ABS樹脂のミシンフレーム7が30cm当り1.5mm膨張するので、金属製の伝達体60のの膨張を差し引いても、ミシンフレーム7と伝達体60のズレ量dが約1.4mm程度になる。
【0007】
この状態でジグザグ縫目を形成する場合、縫針11が針孔19を通過する際には、伝達体60の連結部61は、針棒支持体軸31と縫針11の先端のほぼ中間に位置しているので、縫針11の先端では、上記のズレ量d約1.4mmの約2倍の約2.8mm程度のズレが発生する(図7参照)。例えば、釜が縫針11に通された糸を捕捉できない虞がある。また、ジグザグ縫いの際、このズレにより、ジグザグ縫い目Zの縫製位置がずれたり、最悪の場合には、縫針11が針孔19の周囲の針板13に当接する虞がある。逆に、図6に示す状態が40℃で、図9に示す状態が−10℃であるとすると、ミシン1Aのミシンフレーム7が図9に示すように収縮し、同様の問題が起こる虞がある。
【0008】
そこで、上記のズレを解消するために、例えば、針棒支持体32と伝達体60とをボルトと六角ナット(図示略)で連結すると共に、伝達体60の連結部の連結孔61に偏心ナットを嵌合させて、ボルトをまわすことで調整する方法もあるが、この調整を温度が変化する毎にユーザーが行うのは、非常に手間がかかり、無理がある。
【0009】
他方、例えば、特許文献3に示すように、伝達体を第1連杆と、第2連杆とで構成し、第1連杆の一端を針棒支持体に連結し、第2連杆の一端をカムリフト検出体に連結し、第1連杆の他端側部分と第1連杆の他端側部分とを揺動リンクにより直接連結し、第1連杆の他端部を調節ダイヤルと揺動連杆によりミシンフレームに連結し、調整ダイアルを回すことで第2連杆に対する第1連杆の左右方向の位置を手動操作で調整することにより縫針の左右方向位置を調整可能である。しかし、第1連杆と揺動リンクを連結するピンがミシンフレームに設けられているので、特許文献3の構造では、熱膨張による縫針の針振り方向への位置ズレを自動的に正確に解消することはできない。
【0010】
本発明の目的は、ミシンフレームと針振り機構の熱膨張差に起因する縫針の位置ズレを自動的に吸収可能なミシン及びその針振り機構を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1のミシンは、針棒を揺動させる針振り機構を備えたミシンにおいて、前記針振り機構は、ミシンフレームに針棒支持体軸を介して回動可能に支持された針棒支持体と、前記針棒を揺動するための針振りカムと、前記ミシンフレームにカムリフト検出体軸を介して回動可能に支持され且つ前記針振りカムのカムリフトを検出するカムリフト検出体と、前記カムリフト検出体の揺動を前記針棒支持体に伝達する伝達手段とを備え、前記伝達手段は、前記針棒支持体に連結された第1伝達体と、前記カムリフト検出体に連結された第2伝達体と、前記第1伝達体と前記第2伝達体とを連結し且つ前記ミシンフレームに作動体軸を介して回動可能に支持された作動体と、前記第1伝達体と前記作動体とを回動可能に連結する第1連結ピンと、前記第2伝達体と前記作動体とを回動可能に連結し且つ前記作動体軸に対して前記第1連結ピンと反対側に位置する第2連結ピンとを備えている。
【0012】
ジグザグ縫目の縫製時に針振りカムが回転されると、そのカムリフトに応じてカムリフト検出体が揺動して伝達手段が揺動され、その伝達手段に連結された針棒支持体が揺動されて針棒が左右方向へ揺動され、ジグザグ縫いが実行される。
【0013】
ミシンフレームの熱膨張率と第1,第2伝達体の熱膨張率とが著しく異なる場合に、ミシンフレームが熱膨張すると、ミシンフレームに支持されたカムリフト検出体軸及び針棒支持体軸は、夫々、作動体軸に対する水平方向距離が大きくなる方向へ移動する。
【0014】
その結果、第2伝達体がカムリフト検出体の方へ移動して、作動体が回動する。第1,第2連結ピンは作動体軸に対して互いに反対側に位置しているため、この作動体の回動により第1伝達体は針棒支持体軸側へ移動し、針棒支持体は鉛直姿勢を保持する。
【0015】
上記とは反対に、ミシンフレームが熱収縮する場合には、上記の挙動とは反対になり、作動体は上記とは反対方向へ回動し、同様に、針棒支持体は鉛直姿勢を保持する。
【0016】
請求項2のミシンは、請求項1の発明において、前記作動体軸は、水平方向に関し、前記針棒支持体軸と前記カムリフト検出体軸の間のほぼ中間で且つ前記第1連結ピンと前記第2連結ピンとの中間に配設されたものである。上記のように構成するので、ミシンフレームが膨張もしくは収縮した際に、針棒支持体軸と第2伝達体とは、反対方向へほぼ等距離移動し、第1伝達体は第2伝達体と反対方向へほぼ等距離移動する。つまり、針棒支持体軸と第1伝達体とは同方向へほぼ等距離移動するから、針棒支持体は鉛直姿勢を保持する。
【0017】
請求項3のミシンは、請求項1又は2の発明において、前記針棒支持体軸から前記作動体軸までの水平方向の距離と、前記作動体軸から前記カムリフト検出体軸までの水平方向の距離の比が、前記作動体軸から前記第1連結ピンまでの距離と、前記作動体軸から前記第2連結ピンまでの距離の比と等しいものである。
【0018】
上記のように構成するので、上記の比をA/Bとすると、ミシンフレームの熱膨張や熱収縮による第2伝達体の水平移動量が、作動体の回動を介してA/B倍されて第1伝達体に伝達されるため、結局、針棒支持体軸と第1伝達体とは同方向へ等距離移動することになる。
【0019】
請求項4のミシンは、請求項1〜3の何れかの発明において、前記ミシンフレームに補助作動体軸を介して回動可能に支持された補助作動体を備え、前記第1伝達体の長手方向における一端が、前記針棒支持体に連結され、前記第1伝達体の長手方向における他端が補助作動体に回動可能に連結されたものである。ミシンフレームが膨張もしくは収縮した際や、ジグザグ縫いの際に、第1伝達体は、補助作動体で上下方向の移動を規制されるので、略水平方向に移動する。第1伝達体の他端側部分と、作動体の第1伝達体側半分と、補助作動体と、複数の軸部分とで平行リンクを構成することも可能であり、この場合、ミシンフレームの熱膨張や熱収縮で第1伝達体が移動するとき、略水平移動するように構成可能である。
【0020】
請求項5のミシンは、請求項4の発明において、前記第1伝達体の長手方向のほぼ中間部が前記第1連結ピンにより前記作動体に連結されたものである。第1伝達体の長手方向のほぼ中間部が作動体と連結されている。
【0021】
請求項6のミシンは、請求項1〜5の何れかの発明において、前記ミシンフレームは合成樹脂で構成され、前記第1伝達体と前記第2伝達体とが、前記ミシンフレームの合成樹脂とは線膨張係数が異なる金属で構成されたものである。合成樹脂製のミシンフレームの熱膨張率が、金属製の第1,第2の伝達体の熱膨張率と異なり、ミシンフレームが金属製の伝達体とは異なった量熱膨張、又は、熱収縮して、前述のように、それらの熱膨張差又は熱収縮差が生じても、針棒支持体の鉛直姿勢が保持される。
【0022】
請求項7に記載の針振り機構は、ミシンにおける、針棒と、前記針棒と交差する方向に伸長する針棒支持体軸を介して支持された針棒支持体と、前記針棒を揺動させるための針振りカムと、前記針振りカムのカムリフトを検出するカムリフト検出体と、前記カムリフト検出体の動作を前記針棒支持体に伝える伝達手段とを備えたミシンのための針振り機構において、前記伝達手段は、前記針棒支持体に連結される第1伝達体と、前記カムリフト検出体に連結される第2伝達体と、前記第1伝達体と前記第2伝達体とを連結するための作動体とを備え、前記作動体は、前記ミシンフレームに作動体軸を介して回転可能に支持され、前記第1伝達体と前記第2伝達体とを相反対方向へ移動するように且つ連結するように構成されるものである。
【0023】
請求項1のミシンにおける針振り機構と略同様の構成であるので、請求項1に記載した作用と同様の作用を奏する。
【0024】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。尚、図1の上下左右を上下左右として以下に説明する。本実施形態は、ミシンフレームが合成樹脂により一体成形されたジグザグ縫い可能なミシン及びその針振り機構に本発明を適用した一例である。
【0025】
図1に示すように、ジグザグ縫い可能なミシン1は、ベッド部2と、ベッド部2の右端部分に立設された脚柱部3と、脚柱部3の上端部分からベッド部2と対向して左方へ延びるアーム部4とを有し、ベッド部2、脚柱部3、アーム部4のミシンフレーム7(以下、フレーム7という)が一体成形された、ABS樹脂製のフレーム7に針振り機構5、縫製機構6などの各機構が設けられている。尚、図示しないが、フレーム7には、補強用の補強板や補強板とフレーム7の外周を連結するためのリブなどが、一体形成されている。(本出願人による特願2001−295559号参照)
【0026】
縫製機構6は、針棒10、この針棒10の下端に連結されて糸駒等の上糸供給源から糸調子器を介して延びた上糸が装着される縫針11、針棒10を上下駆動させる針棒上下駆動機構12、図示してない天秤機構、縫針11の下方においてベッド部2の上面に設けられた針板13及びベッド部2の内部に設けられた糸輪捕捉器(回転釜)、この糸輪捕捉器内に収容された下糸ボビンなどを備えている。針棒上下駆動機構12は、ミシンモータ14、ベルト15、ミシンモータ14の出力軸14aとベルト15で連結されたベルトプーリ16、ベルトプーリ16に固定されている主軸17、主軸17に伝達された回転駆動を上下駆動に変えて針棒10に伝達するクランク18等で構成されている。
【0027】
図1、図2に示すように、ミシンモータ14の回転駆動力で駆動される針棒上下駆動機構12により、針棒10とその下端部に取付けられた縫針11を上下駆動させると、縫針11の目孔を通った上糸が糸輪捕捉器により下糸と交絡させられ、天秤機構で上糸を所定量上方へ引き上げることで縫目が形状される。尚、縫製機構6自体は、既存のものと同様のものであるので、詳しい説明は省略する。
【0028】
針振り機構5は、主軸17に固定された第1傘歯ギヤ21、第1傘歯ギヤ21と噛合している第2傘歯ギヤ22、第2傘歯ギヤが固定された回転軸23、回転軸23に固定されたウォームギヤ24、ウォームギヤ24と噛合する回転ギヤ25、外周に凸部27が形成された針振りカム28、針振りカム28の凸部27のカムリフトを検出するカムリフト検出体30、アーム部4のフレーム7に針棒支持体軸31により回動可能に支持された針棒支持体32、針棒支持体32を左方に付勢することでカムリフト検出体30を常に針振りカム28に当接させておく付勢バネ33、カムリフト検出体30の揺動を針棒支持体32に伝達する伝達機構40を備えている。
【0029】
針棒支持体32には、下端部と中間部に軸受け34a、34bが設けられ、針棒10は軸受け34a、34bにより上下摺動可能に支持されている。回転ギヤ25と針振りカム28は、脚柱部3のフレーム7に軸26を介して回動可能に装着されている。カムリフト検出体30は、脚柱部3のフレーム7にカムリフト検出体軸29で回動可能に支持されている。尚、カムリフトとは、カムの半径からベース円の半径を引いた数値である。
【0030】
伝達機構40は、ほぼ「へ」文字状の第1伝達体41、真っ直ぐなロッド状の第2伝達体42、作動体43、第1連結ピン48、第2連結ピン50、下端がフレーム7にピン44を介して回動可能に支持された補助作動体45などを有する。作動体43は、アーム部4のフレーム7に作動体軸46により回動自在に装着されている。第1伝達体41の一端部は針棒支持体32の下部にピン47で回動可能に連結され、第1伝達体41の他端部は補助作動体45の上端にピン52により回動可能に連結され、第1伝達体41は、その長手方向のほぼ中間で作動体43の上端部に第1連結ピン48により回動可能に連結されている。
【0031】
但し、前記「ほぼ中間」とは、正確な中間又はこの中間の付近の位置であって、第1伝達体41がスムーズに水平方向に駆動することが可能な位置であればよい。第1連結ピン48は、第1伝達体41と作動体43の両方に固定されることなく、抜け止めして装着されている。第1伝達体41の作動体43から右側部分は、第2伝達体42と平行に水平姿勢に設けられている。第1伝達体41には、第1連結ピン48を挿通するための連結ピン孔51が、第1伝達体41の駆動をスムーズにするために上下に長い長孔状に形成されている。
【0032】
作動体軸46は、水平方向において、針棒支持体軸31とカムリフト検出体軸29との間のほぼ中間で且つ第1連結ピン48と第2連結ピン50との中間に設けられている。但し、針棒支持体軸31とカムリフト検出体軸29の間のほぼ中間とは、厳密に針棒支持体軸31とカムリフト検出体軸29の中間であってもよいし、中間付近の位置であってもよく、ジグザグ縫いの際に影響が殆ど無い程度に、熱膨張によるズレを解消できる位置であればよい。第1連結ピン48と第2連結ピン50との中間についても同様で、正確に中間であってもよいし、中間付近の位置でもよい。
【0033】
第2伝達体42の一端部は、カムリフト検出体30の上端部にピン49により連結され、第2伝達体42の他端部は作動体軸46に対して第1連結ピン48と反対側(下側)に位置する第2連結ピン50により作動体43に回動可能に連結されている。第2連結ピン50は、第2伝達体42と作動体43の両方に固定されることなく、抜け止めして装着されている。以上説明した、第1伝達体41、第2伝達体42、作動体43、補助作動体45は金属材料で構成されている。尚、補助作動体45は、必須のものではなく省略可能なものである。
【0034】
次に、図1、図3(a)、(b)を参照して、ジグザグ縫いする際の、針振り機構5の作用について説明する。ミシンモータ14で駆動される主軸17の回転を図示外の回転伝達系を介して針振りカム28に伝達し、主軸17に同期させて針振りカム28を回転させる。すると、カムリフト検出体30が針振りカム28の凸部27のカムリフトを検出してカムリフト検出体軸29を中心に揺動し、このカムリフト検出体30の上端部に連結された第2伝達体42が水平移動する。
【0035】
すると、作動体43が回動し、作動体43に連結された第1伝達体41が第2伝達体42と反対方向に水平移動する。その水平移動する第1伝達体41によって針棒支持体32が針棒支持体軸31を中心にして揺動し、針棒支持体32に支持されている針棒10と縫針11が揺動して、針振りカム28のカム形状に対応したジグザグ縫い目Zが形成される。
【0036】
第1伝達体41の作動体43よりも右側部分と、作動体43の上半部と、補助作動体45とはフレーム7に対して回動可能な平行リンク機構であって水平方向へ揺動可能な平行リンク機構を構成しているため、第1伝達体41は安定的に水平移動し、針棒支持体32にカムリフト検出体30の揺動を正確に伝達することが可能になっている。
【0037】
次に、ミシン1のABS樹脂製のフレーム7が熱膨張した際の、針振り機構5の作用について説明する。尚、説明の簡単化の為、作動体軸46からカムリフト検出体軸29の水平方向の距離Gと、作動体軸46から針棒支持体軸31の水平方向の距離Fは等しいものとし、上下方向への膨張の影響は無視して説明する。
【0038】
図1に示すように、カムリフト検出体軸29と針棒支持体軸31の水平方向の熱膨張前の距離がAであり、図4に示すように、前記距離が(A+a)に膨張した際の作用について説明する。但し、第1,第2伝達体41,42の熱膨張量はフレーム7の熱膨張量の約1/10程度であるので、第1,第2伝達体41,42の熱膨張量を無視して以下説明する。作動体軸46は、水平方向に関して、カムリフト検出体軸29と針棒支持体軸31の間の略中間に配設されているので、フレーム7の膨張により、作動体軸46を基準にして、針棒支持体軸31は左方へa/2だけ移動し、カムリフト検出体軸29や針振りカム28は右方へa/2だけ移動する。
【0039】
この移動に伴い、第2伝達体42に連結された作動体43が軸46を中心として反時計回りに回動し、この作動体43に連結された第1伝達体41が左方へa/2だけ移動する。つまり、針棒支持体軸31と軸47とが共に左方へa/2だけ移動することになるから、針棒支持体32は鉛直姿勢を自動的に保持し、フレーム7の熱膨張による針棒支持体32の鉛直姿勢からの位置ズレは発生しない。ジグザグ縫目を形成する際にも、前記の作用は有効であり、針振りカム28のカム形状に応じたジグザグ縫目を精度よく形成することができる。
【0040】
次に、図1に示すように、カムリフト検出体軸29と針棒支持体軸31の水平方向の距離がAの状態から、図5に示すように、距離が(A−a)に収縮した場合には、上記とは反対の挙動となり、作動体43は時計回り方向へ回動し、軸31と第1伝達体41とが共に、a/2だけ右方へ移動することになるから、フレーム7の熱膨張による針棒支持体32の鉛直姿勢からの位置ズレは発生しない。
【0041】
以上、述べたように、ミシン1のフレーム7をABS樹脂で構成し、伝達機構40の第1,第2伝達体41,42等をABS樹脂よりも膨張率の小さい金属材料で構成する場合に、フレーム7の熱膨張や熱収縮に起因して針棒支持体32や針棒10が鉛直姿勢から位置ズレするのを自動的に解消して、針振り機能の精度低下を防止することできる。
【0042】
次に、前記実施の形態を部分的に変更した変更形態について説明する。
【0043】
(1)補助作動体45の一端をアーム部4のフレーム7ではなく、第2伝達体42の対応する個所に連結してもよい。この場合にも、前記実施の形態とほぼ同様に、カムリフト検出体30の揺動を針棒支持体32に伝達できる。
【0044】
(2)フレーム7は、ABS製に限定されるものではなく、スチレン系樹脂等の非結晶性の熱可塑性樹脂(例えば、ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン、アクリロニトリルアクリレートスチレン、アクリロニトリルエチレンスチレン、塩素化アクリロニトリルポリエチレンスチレン)等の合成樹脂材料で構成してもよい。
【0045】
(3)作動体43と第1,第2伝達体41,42を連結する為の連結ピン用の孔や、補助作動体45と第1伝達体41とを連結する為の連結ピン用の孔等は、両伝達体41、42等の駆動がスムーズになるように、長孔に形成したり、曲線状の長孔に形成してもよい。
【0046】
(4)第1伝達体41と第2伝達体42の上下関係を逆にし、第1伝達体41を第2伝達体42よりも下に設け、作動体43で連結してもよい。
【0047】
(5)補助作動体45を作動体43よりも左側に設けてもよい。即ち、第1連結ピン48と第1伝達体41と針棒支持体32との連結のためのピン47との間の位置で、補助作動体45の一端を第1伝達体41に回動可能に連結し、補助作動体45の他端をアーム部4のフレーム7にピンを介して回動可能に支持してもよい。
【0048】
(6)第1連結ピン48及び第2連結ピン50は、作動体43、第1伝達体41、第2伝達体42の何れかに固定もしくは一体形成してもよい。即ち、第1連結ピン48及び第2連結ピン50を作動体43に固定もしくは一体形成すると共に、第1伝達体41を抜け止めによって第1連結ピン48に連結し、第2伝達体42を抜け止めによって第2連結ピン50に連結してもよい。また逆に、第1連結ピン48を第1伝達体41に固定もしくは一体形成し、第2連結ピン50を第2伝達体42に固定もしくは一体形成し、作動体43を第1連結ピン48及び第2連結ピン50に抜け止めによって連結してもよい。このように第1連結ピン48及び第2連結ピン50を作動体43、第1伝達体41、第2伝達体42の1つもしくは複数の何れかに固定もしくは一体形成することで、組み立てが能率的になる。
【0049】
(7)作動体軸46と針棒支持体軸31との水平方向の距離Fと、作動体軸46とカムリフト検出体軸29との水平方向の距離Gとの比F:Gと、第1連結ピン48と作動体軸46との距離f(図示略)と第2連結ピン50と作動体軸46との距離g(図示略)の比f:gとを等しくしてもよい。このように構成することで、合成樹脂のフレーム7のズレを夫々の距離の比に分割して解消するので、更に、確実にズレを解消することができ、正確なジグザグ縫いが可能となる。但し、この構成において、夫々の距離の比は、ジグザグ縫いに影響が無い程度に、熱膨張によるズレを解消できれよく、厳密に等しくする必要はない。
【0050】
(8)本発明をジグザグ縫い可能なミシンのみならず、針の基線を変更するだけのミシンに適用してもよい。例えば、刺繍は中央に縫製し、実用は左基線とするミシン等に適用してもよい。
【0051】
(9)第1伝達体41の端部と針棒支持体32を連結しているが、第1伝達体41の端部以外の部分を連結してもよい。第2伝達体42の端部とカムリフト検出体30を連結しているが、第2伝達体42の端部以外で連結してもよい。
【0052】
(10)カムリフト検出体30を支持するカムリフト検出体軸29を、脚柱部3のフレーム7ではなく、アーム部4のフレーム7に設けるなど、その他夫々の軸においても適宜設ける個所を変更してもよい。
【0053】
本発明のミシン及び針振り機構は、前記の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更を加えた形で実施可能であることは勿論である。
【0054】
【発明の効果】請求項1のミシンによれば、ミシンフレームの熱膨張により、針棒支持体軸が作動体から離れる方向へ移動しても、カムリフト検出体と第2伝達体の作動体から離れる方向への移動と作動体の回動とを介して、第1伝達体を針棒支持体の方へ移動させることができ、熱膨張に起因する針棒支持体の針振り方向への位置ズレを自動的に解消することができる。このことは、ミシンフレームの熱収縮した場合にも同様であり、熱収縮に起因する針棒支持体の針振り方向への位置ズレを自動的に解消することができる。
【0055】
請求項2のミシンにおいては、ミシンフレームの熱膨張又は熱収縮時に、第1,第2伝達体が互いに逆方向に略等しい距離移動するので、ミシンフレームの熱膨張又は熱収縮に起因する針棒支持体の針振り方向への位置ズレを精度よく解消することができる。
【0056】
請求項3のミシンよれば、針棒支持体軸から作動体軸までのミシンアーム部の長さ方向の距離と、作動体軸からカムリフト検出体軸までのミシンアーム部の長さ方向の距離の比をA/Bとすると、ミシンフレームの熱膨張や熱収縮による第2伝達体の水平移動量が、作動体の回動を介してA/B倍されて第1伝達体に伝達されるため、結局、針棒支持体軸と第1伝達体とは同方向へ等距離移動することになるから、針棒支持体の針振り方向への位置ズレが自動的に防止される。
【0057】
請求項4のミシンによれば、ミシンフレームが膨張もしくは収縮した際や、ジグザグ縫いの際に、第1伝達体は、補助作動体によって上下方向の移動を束縛されるので、略水平方向に移動する。それゆえ、第1伝達体と第2伝達体の2部品からなる伝達体に構成しても、伝達体を一体形成した場合と略同様にカムリフト検出体の揺動を針棒支持体に伝達することができる。
【0058】
請求項5のミシンによれば、第1伝達体の長手方向の中間部で作動体と連結されているので、第1伝達体がスムーズに水平方向へ移動できるようになる。
【0059】
請求項6のミシンでは、合成樹脂製のミシンフレームの熱膨張率が、金属製の第1,第2の伝達体の熱膨張率と異なっているが、ミシンフレームが熱膨張又は熱収縮しても、前述のように、それらの熱膨張差又は熱収縮差に起因する針棒支持体の鉛直姿勢からの位置ズレを防止することができるうえ、ミシンフレームが合成樹脂で構成されているので軽量化及び材料コストの点で有利である。
【0060】
請求項7に記載の針振り機構は、請求項1のミシンにおける針振り機構と略同様の構成であるので、請求項1に記載した効果と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態に係るジグザグ縫い可能なミシンの構成図である。
【図2】縫針が下降した状態でのミシンの部分構成図である。
【図3】(a),(b)は共に針振り機構の動作説明用の説明図である。
【図4】熱膨張発生時の針振り機構の作動説明図である。
【図5】熱収縮発生時の針振り機構の作動説明図である。
【図6】従来のジグザグ縫い可能なミシンの構成図である。
【図7】(a),(b)は共に図6のミシンの針振り機構の作動説明図である。
【図8】図6のミシンのフレーム膨張時の説明図である。
【図9】図6のミシンのフレーム収縮時の説明図である。
【符号の説明】
1   ミシン
5   針振り機構
7   フレーム
27   カムリフト
28   針振りカム
29   カムリフト検出体軸
30   カムリフト検出体
31   針棒支持体軸
32   針棒支持体
40   伝達機構
41   第1伝達体
42   第2伝達体
43   作動体
45   補助作動体
46   作動体軸
48   第1連結ピン
50   第2連結ピン

Claims (7)

  1. 針棒を揺動させる針振り機構を備えたミシンにおいて、
    前記針振り機構は、ミシンフレームに針棒支持体軸を介して回動可能に支持された針棒支持体と、前記針棒を揺動するための針振りカムと、前記ミシンフレームにカムリフト検出体軸を介して回動可能に支持され且つ前記針振りカムのカムリフトを検出するカムリフト検出体と、前記カムリフト検出体の揺動を前記針棒支持体に伝達する伝達手段とを備え、
    前記伝達手段は、
    前記針棒支持体に連結された第1伝達体と、
    前記カムリフト検出体に連結された第2伝達体と、
    前記第1伝達体と前記第2伝達体とを連結し且つ前記ミシンフレームに作動体軸を介して回動可能に支持された作動体と、
    前記第1伝達体と前記作動体とを回動可能に連結する第1連結ピンと、
    前記第2伝達体と前記作動体とを回動可能に連結し且つ前記作動体軸に対して前記第1連結ピンと反対側に位置する第2連結ピンとを備えたことを特徴とするミシン。
  2. 前記作動体軸は、水平方向に関し、前記針棒支持体軸と前記カムリフト検出体軸の間のほぼ中間で且つ前記第1連結ピンと前記第2連結ピンの中間に配設されたことを特徴とする請求項1に記載のミシン。
  3. 前記針棒支持体軸から前記作動体軸までの水平方向の距離と、前記作動体軸から前記カムリフト検出体軸までの水平方向の距離の比が、前記作動体軸から前記第1連結ピンまでの距離と、前記作動体軸から前記第2連結ピンまでの距離の比と等しいことを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン。
  4. 前記ミシンフレームに補助作動体軸を介して回動可能に支持された補助作動体を備え、
    前記第1伝達体の長手方向における一端が、前記針棒支持体に連結され、
    前記第1伝達体の長手方向における他端が補助作動体に回動可能に連結されたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のミシン。
  5. 前記第1伝達体の長手方向のほぼ中間部が前記第1連結ピンにより前記作動体に連結されたことを特徴とする請求項4に記載のミシン。
  6. 前記ミシンフレームは合成樹脂で構成され、
    前記第1伝達体と前記第2伝達体とが、前記ミシンフレームの合成樹脂とは、線膨張係数が異なる金属で構成されたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のミシン。
  7. 針棒と、前記針棒と交差する方向に伸長する針棒支持体軸を介して支持された針棒支持体と、前記針棒を揺動させるための針振りカムと、前記針振りカムのカムリフトを検出するカムリフト検出体と、前記カムリフト検出体の動作を前記針棒支持体に伝える伝達手段とを備えたミシンのための針振り機構において、
    前記伝達手段は、前記針棒支持体に連結される第1伝達体と、前記カムリフト検出体に連結される第2伝達体と、前記第1伝達体と前記第2伝達体とを連結するための作動体とを備え、
    前記作動体は、前記ミシンフレームに作動体軸を介して回転可能に支持され、前記第1伝達体と前記第2伝達体とを相反対方向へ移動するように且つ連結するように構成されることを特徴とする針振り機構。
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