JP2004091913A - 成膜装置および成膜方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】マスクを用いた成膜においてのシャドウ効果を防止し、基板面内において均一な膜厚での薄膜形成を行うことが可能な成膜装置および成膜方法を提供する。
【解決手段】基板Wの成膜面Waに膜パターンを形成するための成膜装置1であって、基板保持手段13と、これに保持された基板Wの成膜面Waに対向させた状態にマスク部材Mを保持するマスク保持手段と、これに保持されたマスク部材M側から基板Wの成膜面Waに成膜ガスGを噴き付けるガス供給手段20とを備えた。基板保持手段20は、基板Wの成膜面Waが略垂直に保たれるように基板Waを保持すると共に、ガス供給手段20から噴き出される成膜ガスGに対して基板Wおよびマスク部材Mを相対的に移動させる駆動手段や温度調整手段を備えている。
【選択図】 図1
【解決手段】基板Wの成膜面Waに膜パターンを形成するための成膜装置1であって、基板保持手段13と、これに保持された基板Wの成膜面Waに対向させた状態にマスク部材Mを保持するマスク保持手段と、これに保持されたマスク部材M側から基板Wの成膜面Waに成膜ガスGを噴き付けるガス供給手段20とを備えた。基板保持手段20は、基板Wの成膜面Waが略垂直に保たれるように基板Waを保持すると共に、ガス供給手段20から噴き出される成膜ガスGに対して基板Wおよびマスク部材Mを相対的に移動させる駆動手段や温度調整手段を備えている。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関し、特には有機EL素子のような光学素子を構成する有機薄膜の形成に好適に用いられる成膜装置および成膜方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(electroluminescence:以下ELと記す)を利用した有機EL素子は、陽極と陰極との間に有機層を挟持してなる。このような構成の有機EL素子においては、有機層の材料選択によって各色に発光する発光素子を得ることが可能であり、各色に発光する発光素子を所定状態で配列形成することによって、マルチカラー表示またはフルカラー表示が可能な表示装置を構成することが可能である。
【0003】
ところで、このような有機EL素子の製造においては、真空蒸着法による有機層の形成が行われている。真空蒸着法は、蒸発源の上方に当該蒸発源に対して基板を対向させて配置した状態で、当該蒸発源から蒸着材料を蒸発させることで、当該基板の表面に蒸着材料を供給し堆積させる方法である。そして、この真空蒸着法によって基板の表面に膜パターンを成膜する場合には、蒸発源と基板との間に開口パターンが形成された蒸着マスクを配置し、蒸着マスクの開口パターンを通過した蒸着材料のみが基板の表面に供給されるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した真空蒸着法においては、蒸発源から上方に拡散供給された蒸着材料が基板表面に蒸着されるため、基板表面に対しての蒸着材料の供給角度が、基板の中央部と端部とで異なる角度になる。このため、基板と蒸発源との間に蒸着マスクを配置してパターン蒸着を行う場合には、いわゆるシャドウ効果によって、蒸着マスクにおける開口パターンの位置と基板上に形成される蒸着パターンの位置との間にずれが生じる場合がある。また、このシャドウ効果により、開口パターン内においての蒸着膜厚に差が生じるが、この差が各開口パターンの配置部分によってばらつくことになる。
【0005】
このため、有機EL素子およびこれを用いたディスプレイの製造における有機膜の形成に真空蒸着法を適用した場合には、基板面内および画素面内において均一な膜厚の有機膜を得ることができず、素子特性および表示特性にばらつきを生じさせる要因となっている。
【0006】
そこで本発明は、マスクを用いた膜パターンの形成においてのシャドウ効果を防止し、基板面内において均一な膜厚の膜パターンを得ることが可能な成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するための本発明は、基板の成膜面に膜パターンを形成するための成膜装置であり、基板を保持する基板保持手段の他に、マスク保持手段およびガス供給手段と備えている。このうち、マスク保持手段は、基板保持手段に保持された基板の成膜面に対向させた状態でマスク部材を保持する。また、ガス供給手段は、マスク保持手段に保持されたマスク部材側から基板保持手段に保持された基板の成膜面に成膜ガスを噴き付ける。
【0008】
また本発明は、このような構成の成膜装置を用いた成膜方法でもあり、基板の成膜面に対向させてマスク部材を配置し、当該マスク部材側から成膜面に成膜ガスを噴き付けることを特徴としている。
【0009】
このような成膜装置および成膜方法によれば、基板の成膜面に対向配置されたマスク部材側から、当該基板の成膜面に対して成膜ガスが噴き付けられる。このため、マスク部材および成膜面に向かっての、成膜ガスの広がり(拡散)が抑えられ、その噴き付け方向に向かう方向性を有して成膜ガスがマスク部材および基板の成膜面に供給されることになる。また、微視的には、ガス状なため、マスクのシャドー効果を、回り込みにより低減させる特徴もある。したがって、拡散させた蒸着材料を基板表面に供給する真空蒸着法と比較して、基板の成膜面に対して均一化した成膜が行われることになる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の成膜装置および成膜方法に関する実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。尚、各実施形態においては、先ず成膜装置の構成を説明し、次いでこの成膜装置を用いた成膜方法を説明することとする。
【0011】
<成膜装置>
図1は実施形態の有機薄膜の形成に用いる成膜装置の大まかな構成の一例を示す概略図である。この成膜装置1は、有機薄膜の形成処理が施される基板Wを収納するための処理室11を備えている。
【0012】
この処理室11には、排気システム12が備えられており、内部が所定の圧力にコントロールされる。ここでの図示は省略したが、排気システム12によって排気されるガスは、トラップを通り余分な材料を捕獲し、後で説明するキャリアガス(例えばN2)のみが、装置外に排出される構成となっており、この排気はスクラバーを通過後に大気開放される構成となっている。
【0013】
そして、この処理室11内には、基板Wを保持するための基板保持手段13が収納されている。この基板保持手段13は、後に図面を用いて詳しく説明するように、保持した基板Wの温度制御が自在な温度制御機構を備えると共に、保持した基板Wをその面内において回転またはスライドさせる駆動手段、さらには基板Wの成膜面に対向させてマスク部材Mを配置保持するためのマスク保持手段を備えていることとする。
【0014】
また、この処理室11には、基板保持手段13に基板W(さらにはマスク部材)を固定させる作業を行うためのロードロック室14が設けられている。このロードロック室14は、内部が不活性ガスで自在に置換される構成となっており、不活性ガス雰囲気内において基板保持手段13に対して基板Wおよびマスク部材Mを固定させ、ロードロック室14−処理室11間のゲートバルブ(図示省略)を開くことにより、基板Wおよびマスク部材Mを固定させた基板保持手段13を処理室11内に所定状態で配置収納することが可能である。尚、基板保持手段13は、ロードロック室14と処理室11との間で自在に往復可能であることとし、ロードロック室14および処理室11内において、同様に駆動可能であることとする。
【0015】
また、処理室11には、処理室11内に成膜ガスGを供給するガス供給手段20の供給管ライン21が接続されている。この供給管ライン21の先端であるガス導入口21aは、処理室11内に挿入され、処理室11内に所定状態で配置収納された基板保持手段13の基板保持面に向けて、任意の一定方向に成膜ガスGを吹き出すように構成されている。
【0016】
一方、供給管ライン21の他端は、キャリアガスとなる高純度のガス(例えばN2、He、Ar、H2)のガス精製装置22(またはボンベ)に接続されている。そして、ガス精製装置22から処理室11までの間の供給管ライン21には、ガス精製装置22側から順に、圧力調整機23、マスフローコントローラ24、および原料供給機構25が設けられ、さらにベントライン26が接続されると共に、ベントライン26と処理室11との間にバルブV1が設けられた構成になっている。また、ベントライン26にも、バルブV2が設けられていることとする。
【0017】
このうち、原料供給機構25は、有機薄膜の原料となる有機材料が貯蔵された原料容器25a、供給管ライン21から分岐して原料容器25aに挿入される導入管25b、この導入管25bよりも下流側の供給ライン21から分岐して原料容器25aに挿入された排出管25cを備えている。そして、供給管ライン21における導入管25bと排出管25cとの分岐部の間、導入管25b、および排出管25cには、それぞれバルブV3,V4,V5が設けられている。
【0018】
以上のような構成の成膜装置1において、マスフローコントローラ24〜処理室11までの配管、容器等はすべて、所定の高温に温度制御されることとする。温度制御のための加熱方式は、オーブン内などに設置する空気恒温槽方式でも、高温オイルなどを循環させる方式でも、RF加熱方式(Radio Frequency:高周波誘導加熱方式)でも、ランプ加熱方式でも良く、特に限定されることは無い。
【0019】
また、マスフローコントローラ24およびその下流側の処理室11に至るまでの部分は、必要な数分だけ設けられることとし、これにより複数の原料を用いた成膜も行えるように構成されていても良い。
【0020】
次に、図1を用いて説明した成膜装置1の基板保持手段13の詳しい構成を、図1と共に各図を用いて説明する。尚、以下においては、基板Wおよびマスク部材Mが、厚さが異なる同一の矩形板状である場合を説明するが、基板Wおよびマスク部材Mの形状はこれに限定されることはない。
【0021】
図2に示すように、この基板保持手段13は、基板Wと基板Wの成膜面Wa上に対向配置(載置)されたマスク部材Mとを、ずれなく基板保持手段13上に位置決めして固定するための、位置決め部材101aと固定部材101b,101dとからなる位置決め固定機構を備えている。
【0022】
このうち、位置決め部材101aは、基板保持手段13の保持面13aから突出させて設けられた部材であり、基板Wを構成する4つの側壁のうちの直行する2つの側壁に当接される位置に配置されている。この位置決め部材101aの全てに対して、基板Wの2つの側壁を当接させることで、基板保持手段13の保持面13a上の所定位置に基板Wが配置される。
【0023】
一方、固定部材101bは基板Wの4つの側壁のうち、位置決め部材101aが当接されない少なくとも1つの壁部側、好ましくは2つの側壁側に設けられていることが好ましい。これらの固定部材101bは、基板Wの側壁を位置決め部材101a側に押し圧する機構を備えていることとする。また、固定部材101dは、基板保持手段13の保持面13a上に載置された基板Wおよびマスク部材Mを、保持面13a側に自在に押し圧する機構を備えたものであり、例えば押し圧部分が基板Wおよびマスク部材M上から外されるように回転可能であることとする。尚、図面においては、1つの固定部材101dを図示したが、固定部材101dは複数設けられていることが好ましい。尚、このような固定部材101dの他に、基板Wのみを保持面13a側に押し圧するものを設けても良い。この場合、マスク部材Mの周縁(例えば四隅)から基板Wの縁部を露出させる設定にし、この基板Wの露出部を保持面13a側に押し圧するような固定部材を設けることとする。
【0024】
そして、このように構成された位置決め部材101aと固定部材101b,101dとからなる位置決め固定機構が、基板保持手段13に保持された基板Wの成膜面Waに対向させた状態でマスク部材Mを保持するマスク保持手段ともなっているのである。このような位置決め固定機構を備えたことで、基板Wの成膜面Waに対してマスク部材Mが確実に位置決め固定される。
【0025】
そして、図3に示すように、このような固定機構が設けられた基板保持手段13は、垂直Lvに対して基板Wの成膜面Waを所定の角度θvに保つことが可能であることとする。ここで所定の角度θvとは、垂直Lvに対して±70°の範囲、より好ましくは略垂直(垂直Lvに対して略平行でありθv=0°)であることとする。
【0026】
尚、基板保持手段13は、ガス導入口21a(図1参照)から噴き出された成膜ガスGが、基板Wの成膜面Waの法線Lnに対して任意の一定角度θnを保った方向から成膜面Waに噴き付けられるように、処理室11(図1参照)内に配置されることとする。
【0027】
また、この基板保持手段13は、成膜ガスGに対して、基板保持手段13に位置決め固定された基板Wおよびマスク部材Mを相対的に移動させる駆動手段を備えている。つまり、この駆動手段は、基板保持手段13に位置決め固定されることで一体化される基板Wとマスク部材Mとのユニットを、成膜ガスGの噴き付け位置に対して移動させるものである。そして、特にはガス導入口21a(図1参照)から所定方向に噴き出される成膜ガスGの噴き付け位置が、基板Wの成膜面Waの全面において走査されるように基板保持手段13を駆動可能であることが好ましい。また、駆動手段は、このような走査の際に、成膜面Waの各部に対して一定方向から、好ましくは略垂直方向(θn=0°)から成膜ガスGが噴き付けられるように、基板保持手段13を駆動可能であることとする。ただし、動作は複雑になるが、成膜面Waの各部に対して可変の多方向から成膜ガスGが噴き付けられるように成膜面Waを駆動させる構成であっても良い。
【0028】
以上のような駆動手段の第1例として、図4に示すような駆動軸103を例示することができる。この駆動軸103は、ガス導入口21aから噴き出される成膜ガスGの噴き出し方向(図1参照)に対して直交する方向に配設されると共に、基板保持手段13の側壁(中央部または端部)に立設させた状態で設けられている。そして、この駆動軸103は、ここでの図示を省略したモータによって、図中矢印に示すように回動および伸縮自在に構成され、さらに伸縮方向に対して直行する方向(例えば図面上の上下方向)にスライド自在に構成されていることとする。
【0029】
このような駆動軸103を設けることにより、ガス導入口21aから噴き出される成膜ガスGの噴き出し方向(図1参照)に対して、保持面13aを任意の方向に向けることが可能で、かつ成膜ガスGの噴き付け位置を、基板Wの成膜面Waにおいてくまなく走査可能な基板保持手段13が構成される。そして特に、基板Wおよびマスク部材Mを保持面13aに対して位置決め固定する場合には、図4(2)に示すように、保持面13aを上方に向けることでその作業を容易とすることができる。
【0030】
さらに、駆動手段の第2例としては、図5〜図7に示す駆動軸105を例示することができる。これらの図に示す駆動軸105は、成膜ガスGの噴き出し方向と平行に配設されると共に、基板保持手段13の背面(保持面13aと対する面)13bに立設させた状態で設けられている。背面13bにおける駆動軸105の立設位置は、図5に示すように、基板保持手段13に保持される基板Wの中心位置に対応させても良く、図6,図7に示した様に、この中心位置とずらした位置であっても良い。尚、図5,図6に示した構成においては、基板Wが成膜面Waを保って自転することになる。一方、図7に示した構成においては、基板Wが成膜面Waを保って公転することになる。
【0031】
そして、この駆動軸105は、ここでの図示を省略したモータによって、図中矢印に示すように回動自在に構成され、さらに保持面13aが垂直から図中波線で示すように略水平となるように基板保持手段13を駆動する。
【0032】
このような駆動軸105を設けることにより、成膜ガスGの噴き出し方向に対して、保持面13aを任意の方向に向けることが可能な基板保持手段13が構成される。また、成膜ガスGの噴き付け位置を駆動軸105による回転中心に対してずらした配置とした状態とすることで、成膜ガスGの噴き付け位置を、基板Wの成膜面Waにおいて走査可能な基板保持手段13が構成される。そして特に、基板Wおよびマスク部材Mを保持面13aに対して位置決め固定する場合には、保持面13aを上方に向けてその作業を容易とすることができる。
【0033】
また、駆動手段の第3例としては、図8に示す駆動手段107を例示することができる。この駆動手段107は、駆動軸107aおよび、ピニオン107bとラック107cとを組み合わせたギア列からなる。このうち駆動軸107aは、図4を用いて説明した駆動軸(103)と同様の構成であることとする。また、ギア列を構成するピニオン107bは、例えば駆動軸107aの内部を通って基板保持手段13の外部に導出され、駆動軸107aとは別に設けたモータによって、その延設方向に直線的に移動する。そして、ラック107cは基板保持手段13の保持面13aの一部を切り取ったステージ13cの底部に立設された状態で連結され、ピニオン107bの移動によってステージ13cを回動させる構成となっている。
【0034】
このような構成の駆動手段107を設けることにより、図4を用いて説明した駆動軸を設けた場合に加えて、さらに基板Wを、その成膜面Waを保って自転させることが可能になる。このため、基板Wの成膜面Waにおいての成膜ガスGの噴き付け位置の走査形態のバリエーションを、広げることができる。
【0035】
さらに、駆動手段の第4例として、図9に示す駆動軸109aとギア109bを組み合わせた駆動手段109構成を例示することができる。このうち駆動軸109aは、図7を用いて説明した駆動軸と同様の構成であることとする。また、ギア109bは、駆動軸109aの内部に配設されたもう一つの駆動軸(図示省略)によって回動し、基板保持手段13の保持面13aを一部切り取ったのステージ13cを自在に回動させる。
【0036】
このような構成の駆動手段109を設けることにより、図7を用いて説明した駆動軸を設けた場合に加えて、さらに基板Wを、その成膜面Waを保って自転させることが可能になる。つまり、基板Wを、その成膜面Waを保って自公転させることが可能になる。このため、基板Wの成膜面Waにおいての成膜ガスGの噴き付け位置の走査形態のバリエーションを、広げることができる。
【0037】
尚、図8および図9を用いて説明した駆動手段を有する基板保持手段13においては、それぞれのステージ13cに、図2を用いて説明した位置決め固定機構が備えられていることとする。
【0038】
尚、以上説明した第1例〜第4例においての駆動手段を構成する各駆動軸は、処理室11の外部に導出されてモータに接続されていることとする。そして、処理室11の外部に導出されている部分がベローズ(図示省略)で覆われ、処理室11内の機密状態が保持される様に構成されていることとする。
【0039】
以上説明した駆動手段の他、基板保持手段13には、その保持面13aに保持した基板Wの温度を調整するための温度制御手段が備えられていることとする。この温度制御手段は、例えば基板保持手段13の内部に流体管を配設してなる流体循環方式であっても良いし、ピエゾ素子を用いた方式であっても良い。
【0040】
そして、流体循環方式である場合、図10〜図12に示すように、基板保持手段13に対する流体管201の導入出路は、基板保持手段13の側壁または背面に立設された駆動手段の軸機構内に配設されることとする。これにより、駆動手段による基板保持手段13の駆動と、温度調整された流体を流体管201に流すことによる基板Wの温度調整との両方を達成することができる。
【0041】
例えば、先の図4を用いて説明したように、基板保持手段13の側壁に駆動軸103が立設される場合、図10(1)、図10(2)および図11に示すように、基板保持手段13の側壁から駆動軸103内を介して流体管201が導入出される。特に、基板保持手段13の保持面13aの各部で温度差無く冷却を行うための流体管201の配設形態としては、図10(2)に示したように、保持面13aに対して、渦巻き状に流体管201を配置することで、保持面13aの中心から周囲に向けて流体管201の導入路側と導出路側とが交互に設けられることが好ましい。さらに、基板保持手段13の保持面13aの各部で温度差無く冷却を行うための流体管201の配設形態の他の例としては、図11に示したように、駆動軸103内に配設された流体管201の導入路201aの先端に、基板保持手段13の保持面13aと略同一の面形状の冷媒室201bを接続し、この冷媒室201bを保持面13aの直下に配置する。そして、この冷媒室201bから基板保持手段13の背面側に導き出した流体管201cに、駆動軸103内に配設した導出路201dを接続させる。
【0042】
一方、先の図5,図6,図7を用いて説明したように、基板保持手段13の背面13bに軸機構105が立設される場合には、図12に示すように、基板保持手段13の背面13bから駆動軸105内を介して流体管201が導入出される。
【0043】
また、基板保持手段13に設けられる温度制御手段は、例えば、基板W上に有機膜が形成されている場合またはこの成膜装置1を用いて基板Wの成膜面Waに有機膜を形成する場合には、基板Wの温度を60℃以下に保持可能であり、これにより有機膜の膜質の劣化を防止すると共に、高品質な有機膜の形成が可能な構成であることとする。
【0044】
尚、以上説明した成膜装置1において、マスク部材Mが磁性材料である場合、基板Wおよび基板Wの成膜面Wa上に対向配置(載置)されたマスク部材Mを位置決めして固定するための位置決め固定機構の固定部材として、磁性材料を用いることができる。
【0045】
図13,図14には、このような磁性材料101cを備えた基板保持手段13の一例を示した。図13は基板保持手段13の側壁に駆動軸103が立設されている例であり、図14は基板保持手段13の背面13bに駆動軸105が立設されている例である。
【0046】
これらの図に示す磁性材料101cは、例えば電磁石からなるもので、基板保持手段13に内設されている。また、この磁性材料101cは、流体管201を介して保持面13aの裏面側に配置されていることが好ましく、これにより流体管201からなる温度制御手段による基板Wの温度調整効率(例えば冷却効率)を確保することができる。
【0047】
さらに、磁性材料101cは、基板保持手段13に保持される基板Wおよびマスク部材Mの平面形状よりも充分に大きい平面形状を有していることが好ましい。尚、このような磁性材料101cも、図2を用いて説明した位置決め部材101aや固定部材101bと組み合わせることで、位置決め固定機構を構成する。そして、このような磁性材料101cが、基板保持手段13に保持された基板Wの成膜面Waに対向させた状態でマスク部材Mを保持するマスク保持手段となる。
【0048】
このような磁性材料101cを設けた基板保持手段13においては、保持面13aの所定位置に位置決めされた基板Wとその上部のマスク部材Mとが、磁性材料からなるマスク部材Mと磁性材料101cとの間に働く磁力によって保持面13aに固定される。
【0049】
このため、マスク部材Mの全面が、磁力によって基板W側に引き付けられ、基板Mの全面に対してのマスク部材Mの密着性が非常に良好となる。したがって、基板Wの成膜面Waに対して、部分的な成膜ガスGの回り込みが防止され、マスク部材Mに形成された開口パターンに対して成膜パターンの部分的な位置ずれを生じさせることのない成膜を行うことが可能である。
【0050】
さらに加えて、基板Wの温度制御および基板保持手段13の駆動も同時に達成することができる。磁性材料101cは、例として電磁石を示したが、永久磁石であってもよい。その場合、磁石を移動できる機構を有している方がより好ましい。また、磁性材料101cの磁力が強い場合には、固定部材101dは省くことも可能である。
【0051】
尚、基板保持手段13における基板Wおよびマスク部材Mの位置決め固定の手段は、上述したような機械的な押し圧による機構や磁力を利用した機構だけではなく、例えば電気的方法を利用した機構であっても良い。
【0052】
また、上述した成膜装置1においては、基板保持手段13が、成膜ガスGに対して、基板保持手段13に位置決め固定された基板Wおよびマスク部材Mを移動させる駆動手段を備えている構成を説明した。しかし本発明は、ガス導入口21aから噴き出される成膜ガスGが、基板保持手段13に保持された基板Wの全面にわたって供給されれば、ガス供給手段20に駆動手段を設けた構成であっても良い。
【0053】
図15には、このような構成の成膜装置1’の要部構成図を示す。この図に示す成膜装置1’と、図1を用いて説明した成膜装置(1)との異なるところは、ガス供給手段20のガス供給管ライン21に、ガス導入口21aを移動させる駆動手段21b備えたところにある。また、ガス導入口21aの移動状態によっては、ガス供給ライン21の基板保持手段13にも、先に説明したと同様の駆動手段を合わせて設けても良く、その他の構成は図1を用いて説明した成膜装置(1)と同様であることとする。
【0054】
ここで、ガス供給管ライン21に設けた駆動手段21bは、基板保持手段13に位置決め固定されることで一体化される基板Wとマスク部材Mとのユニットに対しての、成膜ガスGの噴き付け位置を移動させるものである。そして、特にはガス導入口21aから所定方向に噴き出される成膜ガスGの噴き付け位置が、基板Wの成膜面Waの全面において走査されるようにガス導入口21aを駆動可能であることが好ましい。また、駆動手段21bは、このような走査の際に、成膜面Waの各部に対して一定方向から、好ましくは略垂直方向(θn=0°)から成膜ガスGが噴き付けられるように、ガス導入口21aを駆動可能であることとする。
【0055】
また、このようなガス供給口21aの駆動による、反応ガスGの処理室11内へのリーク、さらには処理室11内のガスの処理室11外へのリークを防止するために、処理室11に対してのガス供給口21aの挿入部分に、ベローズ21cが設けられていることとする。
【0056】
ここで、駆動手段21bによるガス導入口21aの具体的な駆動としては、例えば、成膜中において基板保持手段13が固定されている場合、成膜ガスGの噴き付け位置が基板Wの成膜面Waの全面において走査されるように、ガス導入口21aをx−y方向に駆動可能であることとする。ただし、ガス導入口21aが、基板Wの成膜面Waの幅方向にわたる矩形の開口形状を有している場合、駆動手段21bは、ガス導入口21aの開口形状の短辺方向にガス導入口21aをスライドさせるように駆動可能であることとする。
【0057】
また、基板保持手段13が、上述した図4〜図9を用いて説明したような駆動手段を備えている場合、この駆動手段による基板保持手段13の移動と連動し、成膜ガスGの噴き付け位置が基板Wの成膜面Waの全面において走査されるようにガス導入口21aを移動させることとする。
【0058】
尚、動作は複雑になるが、成膜面Waの各部に対して可変の多方向から成膜ガスGが噴き付けられるように、成膜面Waおよびガス供給口21aを駆動させる構成であっても良い。
【0059】
以上のように、ガス導入口21aから噴き出される成膜ガスGが基板保持手段13に保持された基板Wの全面にわたって供給されることを目的として、成膜ガスGを供給するガス導入口21aを移動させる駆動手段21bをガス供給手段に設けたことで、基板Wおよびマスク部材Mを保持した基板保持手段13の移動を抑えることができる。
【0060】
したがって、基板保持手段13の移動による基板Wとマスク部材Mとのずれを抑えることができる。特に、基板保持手段13を移動させず、ガス導入口21aのみを移動させることで、ガス導入口21aから噴き出される成膜ガスGを、基板保持手段13に保持された基板Wの全面にわたって供給させる構成とした場合には、基板Wとマスク部材Mとのずれを完全に防止することが可能になる。この結果、パターン成膜の位置精度の向上および成膜パターンの形状精度の向上を図ることができる。
【0061】
<成膜方法>
次に、以上のような構成の成膜装置1を用いた有機薄膜の形成方法を、図1および必要に応じて各図2〜13を用いて説明する。ここでは、一例として、有機EL素子に一般的に用いられるAlq3[Tris(8−hydroxyquinoline)aluminum]からなる電子輸送性発光層を形成する場合の実施の形態を説明する。
【0062】
まず、ロードロック室14内において、基板保持手段13に基板Wおよびマスク部材Mを保持固定させる。この際、例えば図4を用いて説明したように、保持面13aを上方に向けて作業性を確保した状態で、基板Wおよびマスク部材Mの保持固定作業を行う。そして、図2または図13、図14を用いて説明した位置決め固定機構を用いることで、基板保持手段13の保持面13a上の所定位置に基板Wおよびマスク部材Mを保持固定させる。
【0063】
次いで、ロードロック室14内を減圧にし、処理室11との差圧が所定値以下になった所で、ロードロック室14と処理室11との間のゲートを開けて、基板保持手段13を処理室11内に所定位置に移動させる。そして、排気システム12によって処理室11内を、例えば133Paに保つと共に、図10〜図12を用いて説明した基板保持手段13の温度制御手段によって基板Wを20℃程度に冷却保持する。
【0064】
また、基板保持手段13に設けられた駆動手段を作動させる。これにより、図3を用いて説明したように、基板Wの成膜面Waを、ガス導入口21aに向けた状態で、垂直Lvに対して±70°の範囲(より好ましくは略垂直)に保ちつつ、ガス導入口21aに対して基板Wおよびマスク部材Mを連続的に移動(スライドまたは回転)させる。尚、ガス供給手段20に駆動手段が設けられている場合にはこの駆動手段を作動させるか、ガス供給手段20の駆動手段と基板保持手段13の駆動手段の両方を作動させる。
【0065】
一方、原料供給機構25の原料容器25aには、有機薄膜の原料となる有機材料(ここではAlq3)を貯蔵すると共に、原料容器25a内の有機材料を所定温度(Alq3の場合には280℃)に加熱する。これにより、原料容器25a内に、加熱温度に対する有機材料(Alq3)の蒸気圧分を気体として存在させておく。また、マスフローコントローラ24〜処理室11までの配管、容器等はすべて、所定の高温に温度制御(例えば280℃程度)に加熱しておくこととする。
【0066】
以上のような状態で、バルブV2,V3を閉じ、バルブV1,V4,V5を開く。そして、高純度ガス精製装置22から、圧力調整機23により、例えば0.2MPaに圧力コントロールされ、マスフローコントローラ24により高精度に流量コントロールされたキャリアガス(例えばN2)g1を、供給管ライン21に流す。流量の一例としては、1000sccm(standard cc /min:標準状態での1分あたりの流量)である。そして、キャリアガスg1を原料容器25aに供給し、原料容器25a内において気化された有機材料(Alq3)のガスを、成膜成分ガスg2とし、不活性ガスg1をキャリアガスとして排出管25cおよび供給管ライン21から処理室11内に輸送供給する。
【0067】
これにより、処理室11内の基板保持手段13に固定保持された基板Wに向けて、ガス導入口21aから成膜成分ガスg2として有機材料(Alq3)ガスを含む成膜ガスGが供給される。そして、20℃の温度に保たれた基板Wの表面に有機材料(Alq3)が堆積され、Alq3からなる有機薄膜が形成される。
【0068】
この際、有機薄膜の膜厚は、処理室11内へのガスの供給時間によって制御され、所定膜厚の有機薄膜が形成されたところで、バルブV1,V4,V5を閉じ、バルブV2,V3を開き、処理室11内への成膜成分ガスg2の供給を停止すると共に、処理室11内を不活性ガスg1で置換する。ただし、必要に応じて膜厚モニターを導入しても良い。
【0069】
尚、有機薄膜の成膜は、原料温度、マスフローコントローラ24による原料容器25aへのキャリアガスg1の供給量と、バルブV1の制御によって行われる。このうち、バルブV1による成膜の制御は、バルブV1の変化に即時応答して処理室11内へ供給されるガスGの流量に変調が掛かるため、応答性が良好であり、より好ましい原料の切替えが可能となる。
【0070】
以上の後、基板Wおよび基板保持手段13をロードロック室14に戻し、ロードロック室14内の圧力を常圧に戻して基板Wを取出す。このとき、有機薄膜が形成された基板Wが大気に触れないように、ロードロック室14内において基板Wを専用のN2ガス封止箱に移載し、N2ガス封止箱を成膜装置1の外へ持ち出すようにしても良い。
【0071】
以上説明した成膜装置1およびこれを用いた成膜方法では、基板Wの成膜面Waに対向配置されたマスク部材M側から、成膜面Waに対して成膜ガスGが噴き付けられる。このため、成膜ガスGは、成膜面Waに向かっての成膜ガスGの広がり(拡散)が抑えられ、その噴き付け方向に向かう方向性を有して成膜面Waに供給されることになる。したがって、拡散させた蒸着材料を基板表面に供給する真空蒸着法と比較して、基板Wの成膜面Waに対する成膜ガスの供給角度を均一化した成膜が行われることになる。
【0072】
そして、成膜面Waに対しての成膜ガスGの噴き付け方向と角度を保持した状態で、基板Wとマスク部材Mとを成膜ガスGに対して相対的に移動させて成膜面Waにおいて成膜ガスGの噴き付け位置を走査させることで、成膜面Waの全面に対して供給角度および方向を一定にして成膜ガスを噴き付けることが可能になる。
【0073】
このため、成膜面Waにマスク部材Mを対向配置した状態であっても、マスク部材Mの開口パターン側壁によるシャドウ効果を防止し、成膜面Waの各部において均等な膜厚の成膜パターンを形成することが可能になる。
【0074】
この結果、有機EL素子およびこれを用いたディスプレイの製造における有機膜や電極膜の形成に本成膜装置を用いた成膜方法を適用した場合には、基板面内および画素面内において均一な膜厚の有機膜や電極膜を形成することが可能になるため、素子特性および表示特性の良好なディスプレイを得ることが可能になる。
【0075】
さらに、基板Wおよびマスク部材Mを略垂直に保った状態で上述の成膜を行うことで、マスク部材Mの撓みを防止した状態での成膜を行うことができる。したがって、画素パターンのゆがみが少ない状態で成膜を行うことが可能である。
【0076】
一方、成膜面Waを垂直から下方に向けることで、成膜面Waに対してのゴミ降りを防止した状態での成膜を行うことができる。このため、成膜面Waの汚染を防止した成膜を行うことができる。ただし、上述したマスク部材Mの撓みを防止するためには、成膜面Wが略垂直から上方を向いていることが望ましいため、ゴミ降りによる成膜面Waの汚染防止との両方の効果を得るためには、成膜面Waは略垂直であることが好ましい。
【0077】
【発明の効果】
以上説明した本発明の成膜装置および成膜方法によれば、基板の成膜面に対向配置されたマスク部材側から、成膜面に対して成膜ガスを噴き付けるように成膜を行うことで、基板の成膜面に対する成膜ガスの供給角度を均一化した成膜を行い、マスク部材の開口パターン側壁によるシャドウ効果を防止し、成膜面の各部およびマスク部材における開口パターン内において均等な膜厚の成膜パターンを形成することが可能になる。この結果、有機EL素子およびこれを用いたディスプレイの製造における有機膜や電極膜の形成に本成膜装置を用いた成膜方法を適用した場合には、基板面内および画素面内において均一な膜厚の有機膜や電極膜を形成することが可能になるため、素子特性および表示特性の良好なディスプレイを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の成膜装置の概略構成図である。
【図2】基板保持手段に設けられた基板およびマスク部材の位置決め固定機構の一例を説明する図である。
【図3】基板保持手段による基板の保持状態および成膜ガスとの関係を説明するための図である。
【図4】基板保持手段に設けられた駆動手段の第1例を説明するための図である。
【図5】基板保持手段に設けられた駆動手段の第2例(その1)を説明するための図である。
【図6】基板保持手段に設けられた駆動手段の第2例(その2)を説明するための図である。
【図7】基板保持手段に設けられた駆動手段の第2例(その3)を説明するための図である。
【図8】基板保持手段に設けられた駆動手段の第3例を説明するための図である。
【図9】基板保持手段に設けられた駆動手段の第4例を説明するための図である。
【図10】基板保持手段に設けられた流体循環方式の温度制御手段(その1)を説明するための図である。
【図11】基板保持手段に設けられた流体循環方式の温度制御手段(その2)を説明するための図である。
【図12】基板保持手段に設けられた流体循環方式の温度制御手段(その3)を説明するための図である。
【図13】基板保持手段に設けられた基板およびマスク部材の位置決め固定機構の他の例(その1)を説明する図である。
【図14】基板保持手段に設けられた基板およびマスク部材の位置決め固定機構の他の例(その2)を説明する図である。
【図15】成膜装置の他の例を示す要部構成図である。
【符号の説明】
1,1’…成膜装置、13a…基板保持手段、20…ガス供給手段、101a…位置決め部材、21b…駆動手段、101b,101d…固定部材(マスク保持手段)、101c…磁性材料(マスク保持手段)、103,105…駆動軸(駆動手段)、107,109…駆動手段、201…流体管(温度制御手段)、G…成膜ガス、M…マスク部材、W…基板、Wa…成膜面
【発明の属する技術分野】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関し、特には有機EL素子のような光学素子を構成する有機薄膜の形成に好適に用いられる成膜装置および成膜方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(electroluminescence:以下ELと記す)を利用した有機EL素子は、陽極と陰極との間に有機層を挟持してなる。このような構成の有機EL素子においては、有機層の材料選択によって各色に発光する発光素子を得ることが可能であり、各色に発光する発光素子を所定状態で配列形成することによって、マルチカラー表示またはフルカラー表示が可能な表示装置を構成することが可能である。
【0003】
ところで、このような有機EL素子の製造においては、真空蒸着法による有機層の形成が行われている。真空蒸着法は、蒸発源の上方に当該蒸発源に対して基板を対向させて配置した状態で、当該蒸発源から蒸着材料を蒸発させることで、当該基板の表面に蒸着材料を供給し堆積させる方法である。そして、この真空蒸着法によって基板の表面に膜パターンを成膜する場合には、蒸発源と基板との間に開口パターンが形成された蒸着マスクを配置し、蒸着マスクの開口パターンを通過した蒸着材料のみが基板の表面に供給されるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した真空蒸着法においては、蒸発源から上方に拡散供給された蒸着材料が基板表面に蒸着されるため、基板表面に対しての蒸着材料の供給角度が、基板の中央部と端部とで異なる角度になる。このため、基板と蒸発源との間に蒸着マスクを配置してパターン蒸着を行う場合には、いわゆるシャドウ効果によって、蒸着マスクにおける開口パターンの位置と基板上に形成される蒸着パターンの位置との間にずれが生じる場合がある。また、このシャドウ効果により、開口パターン内においての蒸着膜厚に差が生じるが、この差が各開口パターンの配置部分によってばらつくことになる。
【0005】
このため、有機EL素子およびこれを用いたディスプレイの製造における有機膜の形成に真空蒸着法を適用した場合には、基板面内および画素面内において均一な膜厚の有機膜を得ることができず、素子特性および表示特性にばらつきを生じさせる要因となっている。
【0006】
そこで本発明は、マスクを用いた膜パターンの形成においてのシャドウ効果を防止し、基板面内において均一な膜厚の膜パターンを得ることが可能な成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するための本発明は、基板の成膜面に膜パターンを形成するための成膜装置であり、基板を保持する基板保持手段の他に、マスク保持手段およびガス供給手段と備えている。このうち、マスク保持手段は、基板保持手段に保持された基板の成膜面に対向させた状態でマスク部材を保持する。また、ガス供給手段は、マスク保持手段に保持されたマスク部材側から基板保持手段に保持された基板の成膜面に成膜ガスを噴き付ける。
【0008】
また本発明は、このような構成の成膜装置を用いた成膜方法でもあり、基板の成膜面に対向させてマスク部材を配置し、当該マスク部材側から成膜面に成膜ガスを噴き付けることを特徴としている。
【0009】
このような成膜装置および成膜方法によれば、基板の成膜面に対向配置されたマスク部材側から、当該基板の成膜面に対して成膜ガスが噴き付けられる。このため、マスク部材および成膜面に向かっての、成膜ガスの広がり(拡散)が抑えられ、その噴き付け方向に向かう方向性を有して成膜ガスがマスク部材および基板の成膜面に供給されることになる。また、微視的には、ガス状なため、マスクのシャドー効果を、回り込みにより低減させる特徴もある。したがって、拡散させた蒸着材料を基板表面に供給する真空蒸着法と比較して、基板の成膜面に対して均一化した成膜が行われることになる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の成膜装置および成膜方法に関する実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。尚、各実施形態においては、先ず成膜装置の構成を説明し、次いでこの成膜装置を用いた成膜方法を説明することとする。
【0011】
<成膜装置>
図1は実施形態の有機薄膜の形成に用いる成膜装置の大まかな構成の一例を示す概略図である。この成膜装置1は、有機薄膜の形成処理が施される基板Wを収納するための処理室11を備えている。
【0012】
この処理室11には、排気システム12が備えられており、内部が所定の圧力にコントロールされる。ここでの図示は省略したが、排気システム12によって排気されるガスは、トラップを通り余分な材料を捕獲し、後で説明するキャリアガス(例えばN2)のみが、装置外に排出される構成となっており、この排気はスクラバーを通過後に大気開放される構成となっている。
【0013】
そして、この処理室11内には、基板Wを保持するための基板保持手段13が収納されている。この基板保持手段13は、後に図面を用いて詳しく説明するように、保持した基板Wの温度制御が自在な温度制御機構を備えると共に、保持した基板Wをその面内において回転またはスライドさせる駆動手段、さらには基板Wの成膜面に対向させてマスク部材Mを配置保持するためのマスク保持手段を備えていることとする。
【0014】
また、この処理室11には、基板保持手段13に基板W(さらにはマスク部材)を固定させる作業を行うためのロードロック室14が設けられている。このロードロック室14は、内部が不活性ガスで自在に置換される構成となっており、不活性ガス雰囲気内において基板保持手段13に対して基板Wおよびマスク部材Mを固定させ、ロードロック室14−処理室11間のゲートバルブ(図示省略)を開くことにより、基板Wおよびマスク部材Mを固定させた基板保持手段13を処理室11内に所定状態で配置収納することが可能である。尚、基板保持手段13は、ロードロック室14と処理室11との間で自在に往復可能であることとし、ロードロック室14および処理室11内において、同様に駆動可能であることとする。
【0015】
また、処理室11には、処理室11内に成膜ガスGを供給するガス供給手段20の供給管ライン21が接続されている。この供給管ライン21の先端であるガス導入口21aは、処理室11内に挿入され、処理室11内に所定状態で配置収納された基板保持手段13の基板保持面に向けて、任意の一定方向に成膜ガスGを吹き出すように構成されている。
【0016】
一方、供給管ライン21の他端は、キャリアガスとなる高純度のガス(例えばN2、He、Ar、H2)のガス精製装置22(またはボンベ)に接続されている。そして、ガス精製装置22から処理室11までの間の供給管ライン21には、ガス精製装置22側から順に、圧力調整機23、マスフローコントローラ24、および原料供給機構25が設けられ、さらにベントライン26が接続されると共に、ベントライン26と処理室11との間にバルブV1が設けられた構成になっている。また、ベントライン26にも、バルブV2が設けられていることとする。
【0017】
このうち、原料供給機構25は、有機薄膜の原料となる有機材料が貯蔵された原料容器25a、供給管ライン21から分岐して原料容器25aに挿入される導入管25b、この導入管25bよりも下流側の供給ライン21から分岐して原料容器25aに挿入された排出管25cを備えている。そして、供給管ライン21における導入管25bと排出管25cとの分岐部の間、導入管25b、および排出管25cには、それぞれバルブV3,V4,V5が設けられている。
【0018】
以上のような構成の成膜装置1において、マスフローコントローラ24〜処理室11までの配管、容器等はすべて、所定の高温に温度制御されることとする。温度制御のための加熱方式は、オーブン内などに設置する空気恒温槽方式でも、高温オイルなどを循環させる方式でも、RF加熱方式(Radio Frequency:高周波誘導加熱方式)でも、ランプ加熱方式でも良く、特に限定されることは無い。
【0019】
また、マスフローコントローラ24およびその下流側の処理室11に至るまでの部分は、必要な数分だけ設けられることとし、これにより複数の原料を用いた成膜も行えるように構成されていても良い。
【0020】
次に、図1を用いて説明した成膜装置1の基板保持手段13の詳しい構成を、図1と共に各図を用いて説明する。尚、以下においては、基板Wおよびマスク部材Mが、厚さが異なる同一の矩形板状である場合を説明するが、基板Wおよびマスク部材Mの形状はこれに限定されることはない。
【0021】
図2に示すように、この基板保持手段13は、基板Wと基板Wの成膜面Wa上に対向配置(載置)されたマスク部材Mとを、ずれなく基板保持手段13上に位置決めして固定するための、位置決め部材101aと固定部材101b,101dとからなる位置決め固定機構を備えている。
【0022】
このうち、位置決め部材101aは、基板保持手段13の保持面13aから突出させて設けられた部材であり、基板Wを構成する4つの側壁のうちの直行する2つの側壁に当接される位置に配置されている。この位置決め部材101aの全てに対して、基板Wの2つの側壁を当接させることで、基板保持手段13の保持面13a上の所定位置に基板Wが配置される。
【0023】
一方、固定部材101bは基板Wの4つの側壁のうち、位置決め部材101aが当接されない少なくとも1つの壁部側、好ましくは2つの側壁側に設けられていることが好ましい。これらの固定部材101bは、基板Wの側壁を位置決め部材101a側に押し圧する機構を備えていることとする。また、固定部材101dは、基板保持手段13の保持面13a上に載置された基板Wおよびマスク部材Mを、保持面13a側に自在に押し圧する機構を備えたものであり、例えば押し圧部分が基板Wおよびマスク部材M上から外されるように回転可能であることとする。尚、図面においては、1つの固定部材101dを図示したが、固定部材101dは複数設けられていることが好ましい。尚、このような固定部材101dの他に、基板Wのみを保持面13a側に押し圧するものを設けても良い。この場合、マスク部材Mの周縁(例えば四隅)から基板Wの縁部を露出させる設定にし、この基板Wの露出部を保持面13a側に押し圧するような固定部材を設けることとする。
【0024】
そして、このように構成された位置決め部材101aと固定部材101b,101dとからなる位置決め固定機構が、基板保持手段13に保持された基板Wの成膜面Waに対向させた状態でマスク部材Mを保持するマスク保持手段ともなっているのである。このような位置決め固定機構を備えたことで、基板Wの成膜面Waに対してマスク部材Mが確実に位置決め固定される。
【0025】
そして、図3に示すように、このような固定機構が設けられた基板保持手段13は、垂直Lvに対して基板Wの成膜面Waを所定の角度θvに保つことが可能であることとする。ここで所定の角度θvとは、垂直Lvに対して±70°の範囲、より好ましくは略垂直(垂直Lvに対して略平行でありθv=0°)であることとする。
【0026】
尚、基板保持手段13は、ガス導入口21a(図1参照)から噴き出された成膜ガスGが、基板Wの成膜面Waの法線Lnに対して任意の一定角度θnを保った方向から成膜面Waに噴き付けられるように、処理室11(図1参照)内に配置されることとする。
【0027】
また、この基板保持手段13は、成膜ガスGに対して、基板保持手段13に位置決め固定された基板Wおよびマスク部材Mを相対的に移動させる駆動手段を備えている。つまり、この駆動手段は、基板保持手段13に位置決め固定されることで一体化される基板Wとマスク部材Mとのユニットを、成膜ガスGの噴き付け位置に対して移動させるものである。そして、特にはガス導入口21a(図1参照)から所定方向に噴き出される成膜ガスGの噴き付け位置が、基板Wの成膜面Waの全面において走査されるように基板保持手段13を駆動可能であることが好ましい。また、駆動手段は、このような走査の際に、成膜面Waの各部に対して一定方向から、好ましくは略垂直方向(θn=0°)から成膜ガスGが噴き付けられるように、基板保持手段13を駆動可能であることとする。ただし、動作は複雑になるが、成膜面Waの各部に対して可変の多方向から成膜ガスGが噴き付けられるように成膜面Waを駆動させる構成であっても良い。
【0028】
以上のような駆動手段の第1例として、図4に示すような駆動軸103を例示することができる。この駆動軸103は、ガス導入口21aから噴き出される成膜ガスGの噴き出し方向(図1参照)に対して直交する方向に配設されると共に、基板保持手段13の側壁(中央部または端部)に立設させた状態で設けられている。そして、この駆動軸103は、ここでの図示を省略したモータによって、図中矢印に示すように回動および伸縮自在に構成され、さらに伸縮方向に対して直行する方向(例えば図面上の上下方向)にスライド自在に構成されていることとする。
【0029】
このような駆動軸103を設けることにより、ガス導入口21aから噴き出される成膜ガスGの噴き出し方向(図1参照)に対して、保持面13aを任意の方向に向けることが可能で、かつ成膜ガスGの噴き付け位置を、基板Wの成膜面Waにおいてくまなく走査可能な基板保持手段13が構成される。そして特に、基板Wおよびマスク部材Mを保持面13aに対して位置決め固定する場合には、図4(2)に示すように、保持面13aを上方に向けることでその作業を容易とすることができる。
【0030】
さらに、駆動手段の第2例としては、図5〜図7に示す駆動軸105を例示することができる。これらの図に示す駆動軸105は、成膜ガスGの噴き出し方向と平行に配設されると共に、基板保持手段13の背面(保持面13aと対する面)13bに立設させた状態で設けられている。背面13bにおける駆動軸105の立設位置は、図5に示すように、基板保持手段13に保持される基板Wの中心位置に対応させても良く、図6,図7に示した様に、この中心位置とずらした位置であっても良い。尚、図5,図6に示した構成においては、基板Wが成膜面Waを保って自転することになる。一方、図7に示した構成においては、基板Wが成膜面Waを保って公転することになる。
【0031】
そして、この駆動軸105は、ここでの図示を省略したモータによって、図中矢印に示すように回動自在に構成され、さらに保持面13aが垂直から図中波線で示すように略水平となるように基板保持手段13を駆動する。
【0032】
このような駆動軸105を設けることにより、成膜ガスGの噴き出し方向に対して、保持面13aを任意の方向に向けることが可能な基板保持手段13が構成される。また、成膜ガスGの噴き付け位置を駆動軸105による回転中心に対してずらした配置とした状態とすることで、成膜ガスGの噴き付け位置を、基板Wの成膜面Waにおいて走査可能な基板保持手段13が構成される。そして特に、基板Wおよびマスク部材Mを保持面13aに対して位置決め固定する場合には、保持面13aを上方に向けてその作業を容易とすることができる。
【0033】
また、駆動手段の第3例としては、図8に示す駆動手段107を例示することができる。この駆動手段107は、駆動軸107aおよび、ピニオン107bとラック107cとを組み合わせたギア列からなる。このうち駆動軸107aは、図4を用いて説明した駆動軸(103)と同様の構成であることとする。また、ギア列を構成するピニオン107bは、例えば駆動軸107aの内部を通って基板保持手段13の外部に導出され、駆動軸107aとは別に設けたモータによって、その延設方向に直線的に移動する。そして、ラック107cは基板保持手段13の保持面13aの一部を切り取ったステージ13cの底部に立設された状態で連結され、ピニオン107bの移動によってステージ13cを回動させる構成となっている。
【0034】
このような構成の駆動手段107を設けることにより、図4を用いて説明した駆動軸を設けた場合に加えて、さらに基板Wを、その成膜面Waを保って自転させることが可能になる。このため、基板Wの成膜面Waにおいての成膜ガスGの噴き付け位置の走査形態のバリエーションを、広げることができる。
【0035】
さらに、駆動手段の第4例として、図9に示す駆動軸109aとギア109bを組み合わせた駆動手段109構成を例示することができる。このうち駆動軸109aは、図7を用いて説明した駆動軸と同様の構成であることとする。また、ギア109bは、駆動軸109aの内部に配設されたもう一つの駆動軸(図示省略)によって回動し、基板保持手段13の保持面13aを一部切り取ったのステージ13cを自在に回動させる。
【0036】
このような構成の駆動手段109を設けることにより、図7を用いて説明した駆動軸を設けた場合に加えて、さらに基板Wを、その成膜面Waを保って自転させることが可能になる。つまり、基板Wを、その成膜面Waを保って自公転させることが可能になる。このため、基板Wの成膜面Waにおいての成膜ガスGの噴き付け位置の走査形態のバリエーションを、広げることができる。
【0037】
尚、図8および図9を用いて説明した駆動手段を有する基板保持手段13においては、それぞれのステージ13cに、図2を用いて説明した位置決め固定機構が備えられていることとする。
【0038】
尚、以上説明した第1例〜第4例においての駆動手段を構成する各駆動軸は、処理室11の外部に導出されてモータに接続されていることとする。そして、処理室11の外部に導出されている部分がベローズ(図示省略)で覆われ、処理室11内の機密状態が保持される様に構成されていることとする。
【0039】
以上説明した駆動手段の他、基板保持手段13には、その保持面13aに保持した基板Wの温度を調整するための温度制御手段が備えられていることとする。この温度制御手段は、例えば基板保持手段13の内部に流体管を配設してなる流体循環方式であっても良いし、ピエゾ素子を用いた方式であっても良い。
【0040】
そして、流体循環方式である場合、図10〜図12に示すように、基板保持手段13に対する流体管201の導入出路は、基板保持手段13の側壁または背面に立設された駆動手段の軸機構内に配設されることとする。これにより、駆動手段による基板保持手段13の駆動と、温度調整された流体を流体管201に流すことによる基板Wの温度調整との両方を達成することができる。
【0041】
例えば、先の図4を用いて説明したように、基板保持手段13の側壁に駆動軸103が立設される場合、図10(1)、図10(2)および図11に示すように、基板保持手段13の側壁から駆動軸103内を介して流体管201が導入出される。特に、基板保持手段13の保持面13aの各部で温度差無く冷却を行うための流体管201の配設形態としては、図10(2)に示したように、保持面13aに対して、渦巻き状に流体管201を配置することで、保持面13aの中心から周囲に向けて流体管201の導入路側と導出路側とが交互に設けられることが好ましい。さらに、基板保持手段13の保持面13aの各部で温度差無く冷却を行うための流体管201の配設形態の他の例としては、図11に示したように、駆動軸103内に配設された流体管201の導入路201aの先端に、基板保持手段13の保持面13aと略同一の面形状の冷媒室201bを接続し、この冷媒室201bを保持面13aの直下に配置する。そして、この冷媒室201bから基板保持手段13の背面側に導き出した流体管201cに、駆動軸103内に配設した導出路201dを接続させる。
【0042】
一方、先の図5,図6,図7を用いて説明したように、基板保持手段13の背面13bに軸機構105が立設される場合には、図12に示すように、基板保持手段13の背面13bから駆動軸105内を介して流体管201が導入出される。
【0043】
また、基板保持手段13に設けられる温度制御手段は、例えば、基板W上に有機膜が形成されている場合またはこの成膜装置1を用いて基板Wの成膜面Waに有機膜を形成する場合には、基板Wの温度を60℃以下に保持可能であり、これにより有機膜の膜質の劣化を防止すると共に、高品質な有機膜の形成が可能な構成であることとする。
【0044】
尚、以上説明した成膜装置1において、マスク部材Mが磁性材料である場合、基板Wおよび基板Wの成膜面Wa上に対向配置(載置)されたマスク部材Mを位置決めして固定するための位置決め固定機構の固定部材として、磁性材料を用いることができる。
【0045】
図13,図14には、このような磁性材料101cを備えた基板保持手段13の一例を示した。図13は基板保持手段13の側壁に駆動軸103が立設されている例であり、図14は基板保持手段13の背面13bに駆動軸105が立設されている例である。
【0046】
これらの図に示す磁性材料101cは、例えば電磁石からなるもので、基板保持手段13に内設されている。また、この磁性材料101cは、流体管201を介して保持面13aの裏面側に配置されていることが好ましく、これにより流体管201からなる温度制御手段による基板Wの温度調整効率(例えば冷却効率)を確保することができる。
【0047】
さらに、磁性材料101cは、基板保持手段13に保持される基板Wおよびマスク部材Mの平面形状よりも充分に大きい平面形状を有していることが好ましい。尚、このような磁性材料101cも、図2を用いて説明した位置決め部材101aや固定部材101bと組み合わせることで、位置決め固定機構を構成する。そして、このような磁性材料101cが、基板保持手段13に保持された基板Wの成膜面Waに対向させた状態でマスク部材Mを保持するマスク保持手段となる。
【0048】
このような磁性材料101cを設けた基板保持手段13においては、保持面13aの所定位置に位置決めされた基板Wとその上部のマスク部材Mとが、磁性材料からなるマスク部材Mと磁性材料101cとの間に働く磁力によって保持面13aに固定される。
【0049】
このため、マスク部材Mの全面が、磁力によって基板W側に引き付けられ、基板Mの全面に対してのマスク部材Mの密着性が非常に良好となる。したがって、基板Wの成膜面Waに対して、部分的な成膜ガスGの回り込みが防止され、マスク部材Mに形成された開口パターンに対して成膜パターンの部分的な位置ずれを生じさせることのない成膜を行うことが可能である。
【0050】
さらに加えて、基板Wの温度制御および基板保持手段13の駆動も同時に達成することができる。磁性材料101cは、例として電磁石を示したが、永久磁石であってもよい。その場合、磁石を移動できる機構を有している方がより好ましい。また、磁性材料101cの磁力が強い場合には、固定部材101dは省くことも可能である。
【0051】
尚、基板保持手段13における基板Wおよびマスク部材Mの位置決め固定の手段は、上述したような機械的な押し圧による機構や磁力を利用した機構だけではなく、例えば電気的方法を利用した機構であっても良い。
【0052】
また、上述した成膜装置1においては、基板保持手段13が、成膜ガスGに対して、基板保持手段13に位置決め固定された基板Wおよびマスク部材Mを移動させる駆動手段を備えている構成を説明した。しかし本発明は、ガス導入口21aから噴き出される成膜ガスGが、基板保持手段13に保持された基板Wの全面にわたって供給されれば、ガス供給手段20に駆動手段を設けた構成であっても良い。
【0053】
図15には、このような構成の成膜装置1’の要部構成図を示す。この図に示す成膜装置1’と、図1を用いて説明した成膜装置(1)との異なるところは、ガス供給手段20のガス供給管ライン21に、ガス導入口21aを移動させる駆動手段21b備えたところにある。また、ガス導入口21aの移動状態によっては、ガス供給ライン21の基板保持手段13にも、先に説明したと同様の駆動手段を合わせて設けても良く、その他の構成は図1を用いて説明した成膜装置(1)と同様であることとする。
【0054】
ここで、ガス供給管ライン21に設けた駆動手段21bは、基板保持手段13に位置決め固定されることで一体化される基板Wとマスク部材Mとのユニットに対しての、成膜ガスGの噴き付け位置を移動させるものである。そして、特にはガス導入口21aから所定方向に噴き出される成膜ガスGの噴き付け位置が、基板Wの成膜面Waの全面において走査されるようにガス導入口21aを駆動可能であることが好ましい。また、駆動手段21bは、このような走査の際に、成膜面Waの各部に対して一定方向から、好ましくは略垂直方向(θn=0°)から成膜ガスGが噴き付けられるように、ガス導入口21aを駆動可能であることとする。
【0055】
また、このようなガス供給口21aの駆動による、反応ガスGの処理室11内へのリーク、さらには処理室11内のガスの処理室11外へのリークを防止するために、処理室11に対してのガス供給口21aの挿入部分に、ベローズ21cが設けられていることとする。
【0056】
ここで、駆動手段21bによるガス導入口21aの具体的な駆動としては、例えば、成膜中において基板保持手段13が固定されている場合、成膜ガスGの噴き付け位置が基板Wの成膜面Waの全面において走査されるように、ガス導入口21aをx−y方向に駆動可能であることとする。ただし、ガス導入口21aが、基板Wの成膜面Waの幅方向にわたる矩形の開口形状を有している場合、駆動手段21bは、ガス導入口21aの開口形状の短辺方向にガス導入口21aをスライドさせるように駆動可能であることとする。
【0057】
また、基板保持手段13が、上述した図4〜図9を用いて説明したような駆動手段を備えている場合、この駆動手段による基板保持手段13の移動と連動し、成膜ガスGの噴き付け位置が基板Wの成膜面Waの全面において走査されるようにガス導入口21aを移動させることとする。
【0058】
尚、動作は複雑になるが、成膜面Waの各部に対して可変の多方向から成膜ガスGが噴き付けられるように、成膜面Waおよびガス供給口21aを駆動させる構成であっても良い。
【0059】
以上のように、ガス導入口21aから噴き出される成膜ガスGが基板保持手段13に保持された基板Wの全面にわたって供給されることを目的として、成膜ガスGを供給するガス導入口21aを移動させる駆動手段21bをガス供給手段に設けたことで、基板Wおよびマスク部材Mを保持した基板保持手段13の移動を抑えることができる。
【0060】
したがって、基板保持手段13の移動による基板Wとマスク部材Mとのずれを抑えることができる。特に、基板保持手段13を移動させず、ガス導入口21aのみを移動させることで、ガス導入口21aから噴き出される成膜ガスGを、基板保持手段13に保持された基板Wの全面にわたって供給させる構成とした場合には、基板Wとマスク部材Mとのずれを完全に防止することが可能になる。この結果、パターン成膜の位置精度の向上および成膜パターンの形状精度の向上を図ることができる。
【0061】
<成膜方法>
次に、以上のような構成の成膜装置1を用いた有機薄膜の形成方法を、図1および必要に応じて各図2〜13を用いて説明する。ここでは、一例として、有機EL素子に一般的に用いられるAlq3[Tris(8−hydroxyquinoline)aluminum]からなる電子輸送性発光層を形成する場合の実施の形態を説明する。
【0062】
まず、ロードロック室14内において、基板保持手段13に基板Wおよびマスク部材Mを保持固定させる。この際、例えば図4を用いて説明したように、保持面13aを上方に向けて作業性を確保した状態で、基板Wおよびマスク部材Mの保持固定作業を行う。そして、図2または図13、図14を用いて説明した位置決め固定機構を用いることで、基板保持手段13の保持面13a上の所定位置に基板Wおよびマスク部材Mを保持固定させる。
【0063】
次いで、ロードロック室14内を減圧にし、処理室11との差圧が所定値以下になった所で、ロードロック室14と処理室11との間のゲートを開けて、基板保持手段13を処理室11内に所定位置に移動させる。そして、排気システム12によって処理室11内を、例えば133Paに保つと共に、図10〜図12を用いて説明した基板保持手段13の温度制御手段によって基板Wを20℃程度に冷却保持する。
【0064】
また、基板保持手段13に設けられた駆動手段を作動させる。これにより、図3を用いて説明したように、基板Wの成膜面Waを、ガス導入口21aに向けた状態で、垂直Lvに対して±70°の範囲(より好ましくは略垂直)に保ちつつ、ガス導入口21aに対して基板Wおよびマスク部材Mを連続的に移動(スライドまたは回転)させる。尚、ガス供給手段20に駆動手段が設けられている場合にはこの駆動手段を作動させるか、ガス供給手段20の駆動手段と基板保持手段13の駆動手段の両方を作動させる。
【0065】
一方、原料供給機構25の原料容器25aには、有機薄膜の原料となる有機材料(ここではAlq3)を貯蔵すると共に、原料容器25a内の有機材料を所定温度(Alq3の場合には280℃)に加熱する。これにより、原料容器25a内に、加熱温度に対する有機材料(Alq3)の蒸気圧分を気体として存在させておく。また、マスフローコントローラ24〜処理室11までの配管、容器等はすべて、所定の高温に温度制御(例えば280℃程度)に加熱しておくこととする。
【0066】
以上のような状態で、バルブV2,V3を閉じ、バルブV1,V4,V5を開く。そして、高純度ガス精製装置22から、圧力調整機23により、例えば0.2MPaに圧力コントロールされ、マスフローコントローラ24により高精度に流量コントロールされたキャリアガス(例えばN2)g1を、供給管ライン21に流す。流量の一例としては、1000sccm(standard cc /min:標準状態での1分あたりの流量)である。そして、キャリアガスg1を原料容器25aに供給し、原料容器25a内において気化された有機材料(Alq3)のガスを、成膜成分ガスg2とし、不活性ガスg1をキャリアガスとして排出管25cおよび供給管ライン21から処理室11内に輸送供給する。
【0067】
これにより、処理室11内の基板保持手段13に固定保持された基板Wに向けて、ガス導入口21aから成膜成分ガスg2として有機材料(Alq3)ガスを含む成膜ガスGが供給される。そして、20℃の温度に保たれた基板Wの表面に有機材料(Alq3)が堆積され、Alq3からなる有機薄膜が形成される。
【0068】
この際、有機薄膜の膜厚は、処理室11内へのガスの供給時間によって制御され、所定膜厚の有機薄膜が形成されたところで、バルブV1,V4,V5を閉じ、バルブV2,V3を開き、処理室11内への成膜成分ガスg2の供給を停止すると共に、処理室11内を不活性ガスg1で置換する。ただし、必要に応じて膜厚モニターを導入しても良い。
【0069】
尚、有機薄膜の成膜は、原料温度、マスフローコントローラ24による原料容器25aへのキャリアガスg1の供給量と、バルブV1の制御によって行われる。このうち、バルブV1による成膜の制御は、バルブV1の変化に即時応答して処理室11内へ供給されるガスGの流量に変調が掛かるため、応答性が良好であり、より好ましい原料の切替えが可能となる。
【0070】
以上の後、基板Wおよび基板保持手段13をロードロック室14に戻し、ロードロック室14内の圧力を常圧に戻して基板Wを取出す。このとき、有機薄膜が形成された基板Wが大気に触れないように、ロードロック室14内において基板Wを専用のN2ガス封止箱に移載し、N2ガス封止箱を成膜装置1の外へ持ち出すようにしても良い。
【0071】
以上説明した成膜装置1およびこれを用いた成膜方法では、基板Wの成膜面Waに対向配置されたマスク部材M側から、成膜面Waに対して成膜ガスGが噴き付けられる。このため、成膜ガスGは、成膜面Waに向かっての成膜ガスGの広がり(拡散)が抑えられ、その噴き付け方向に向かう方向性を有して成膜面Waに供給されることになる。したがって、拡散させた蒸着材料を基板表面に供給する真空蒸着法と比較して、基板Wの成膜面Waに対する成膜ガスの供給角度を均一化した成膜が行われることになる。
【0072】
そして、成膜面Waに対しての成膜ガスGの噴き付け方向と角度を保持した状態で、基板Wとマスク部材Mとを成膜ガスGに対して相対的に移動させて成膜面Waにおいて成膜ガスGの噴き付け位置を走査させることで、成膜面Waの全面に対して供給角度および方向を一定にして成膜ガスを噴き付けることが可能になる。
【0073】
このため、成膜面Waにマスク部材Mを対向配置した状態であっても、マスク部材Mの開口パターン側壁によるシャドウ効果を防止し、成膜面Waの各部において均等な膜厚の成膜パターンを形成することが可能になる。
【0074】
この結果、有機EL素子およびこれを用いたディスプレイの製造における有機膜や電極膜の形成に本成膜装置を用いた成膜方法を適用した場合には、基板面内および画素面内において均一な膜厚の有機膜や電極膜を形成することが可能になるため、素子特性および表示特性の良好なディスプレイを得ることが可能になる。
【0075】
さらに、基板Wおよびマスク部材Mを略垂直に保った状態で上述の成膜を行うことで、マスク部材Mの撓みを防止した状態での成膜を行うことができる。したがって、画素パターンのゆがみが少ない状態で成膜を行うことが可能である。
【0076】
一方、成膜面Waを垂直から下方に向けることで、成膜面Waに対してのゴミ降りを防止した状態での成膜を行うことができる。このため、成膜面Waの汚染を防止した成膜を行うことができる。ただし、上述したマスク部材Mの撓みを防止するためには、成膜面Wが略垂直から上方を向いていることが望ましいため、ゴミ降りによる成膜面Waの汚染防止との両方の効果を得るためには、成膜面Waは略垂直であることが好ましい。
【0077】
【発明の効果】
以上説明した本発明の成膜装置および成膜方法によれば、基板の成膜面に対向配置されたマスク部材側から、成膜面に対して成膜ガスを噴き付けるように成膜を行うことで、基板の成膜面に対する成膜ガスの供給角度を均一化した成膜を行い、マスク部材の開口パターン側壁によるシャドウ効果を防止し、成膜面の各部およびマスク部材における開口パターン内において均等な膜厚の成膜パターンを形成することが可能になる。この結果、有機EL素子およびこれを用いたディスプレイの製造における有機膜や電極膜の形成に本成膜装置を用いた成膜方法を適用した場合には、基板面内および画素面内において均一な膜厚の有機膜や電極膜を形成することが可能になるため、素子特性および表示特性の良好なディスプレイを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の成膜装置の概略構成図である。
【図2】基板保持手段に設けられた基板およびマスク部材の位置決め固定機構の一例を説明する図である。
【図3】基板保持手段による基板の保持状態および成膜ガスとの関係を説明するための図である。
【図4】基板保持手段に設けられた駆動手段の第1例を説明するための図である。
【図5】基板保持手段に設けられた駆動手段の第2例(その1)を説明するための図である。
【図6】基板保持手段に設けられた駆動手段の第2例(その2)を説明するための図である。
【図7】基板保持手段に設けられた駆動手段の第2例(その3)を説明するための図である。
【図8】基板保持手段に設けられた駆動手段の第3例を説明するための図である。
【図9】基板保持手段に設けられた駆動手段の第4例を説明するための図である。
【図10】基板保持手段に設けられた流体循環方式の温度制御手段(その1)を説明するための図である。
【図11】基板保持手段に設けられた流体循環方式の温度制御手段(その2)を説明するための図である。
【図12】基板保持手段に設けられた流体循環方式の温度制御手段(その3)を説明するための図である。
【図13】基板保持手段に設けられた基板およびマスク部材の位置決め固定機構の他の例(その1)を説明する図である。
【図14】基板保持手段に設けられた基板およびマスク部材の位置決め固定機構の他の例(その2)を説明する図である。
【図15】成膜装置の他の例を示す要部構成図である。
【符号の説明】
1,1’…成膜装置、13a…基板保持手段、20…ガス供給手段、101a…位置決め部材、21b…駆動手段、101b,101d…固定部材(マスク保持手段)、101c…磁性材料(マスク保持手段)、103,105…駆動軸(駆動手段)、107,109…駆動手段、201…流体管(温度制御手段)、G…成膜ガス、M…マスク部材、W…基板、Wa…成膜面
Claims (11)
- 基板の成膜面に膜パターンを形成するための成膜装置であって、
基板を保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持された基板の成膜面に対向させた状態にマスク部材を保持するマスク保持手段と、
前記マスク保持手段に保持されたマスク部材側から前記基板保持手段に保持された基板の成膜面に成膜ガスを噴き付けるガス供給手段とを備えた
ことを特徴とする成膜装置。 - 請求項1記載の成膜装置において、
前記基板保持手段は、基板の成膜面が略垂直に保たれるように当該基板を保持する
ことを特徴とする成膜装置。 - 請求項1記載の成膜装置において、
前記ガス供給手段から噴き出される成膜ガスが前記基板保持手段に保持された基板の全面にわたって供給されるように、前記ガス供給手段のガス導入口、および前記基板保持手段に保持された基板と前記マスク保持手段に保持されたマスク部材の少なくとも一方を相対的に移動させる駆動手段を備えている
ことを特徴とする成膜装置。 - 請求項1記載の成膜装置において、
前記ガス供給手段は、前記基板保持手段に保持された基板の成膜面に対して略垂直方向から成膜ガスを噴き付ける
ことを特徴とする成膜装置。 - 請求項1記載の成膜装置において、
前記基板保持手段は、当該基板保持手段に保持された基板の温度を調整するための温度制御手段を備えている
ことを特徴とする成膜装置。 - 請求項1記載の成膜装置において、
前記マスク保持手段は、前記基板保持手段内に設けられた磁性材料からなり、前記マスク部材との間の磁力によって当該マスク部材と共に前記基板を当該基板保持手段に対して保持固定する
ことを特徴とする成膜装置。 - 基板の成膜面に対向させてマスク部材を配置し、当該マスク部材側から前記成膜面に成膜ガスを噴き付ける
ことを特徴とする成膜方法。 - 請求項7記載の成膜方法において、
前記基板の成膜面および前記マスク部材は、略垂直に配置される
ことを特徴とする成膜方法。 - 請求項7記載の成膜方法において、
前記成膜ガスの噴き付け位置に対して前記基板および前記マスク部材を相対的に移動させる
ことを特徴とする成膜方法。 - 請求項7記載の成膜方法において、
前記成膜ガスは、前記基板の成膜面に対して略垂直に噴き付けられる
ことを特徴とする成膜方法。 - 請求項7記載の成膜方法において、
前記基板は冷却される
ことを特徴とする成膜方法。
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