JP2004091631A - インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法および記録物 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐ガス性、耐光性に優れ、ブロンズ現象の生じない印刷物を作成できるインク組成物、それを用いたインクジェット記録方法及び該記録方法によって記録された記録物を提供すること。
【解決手段】少なくとも、水と、下記の式1で表される銅フタロシアニン染料とフラボノイド系化合物を含んでなることを特徴とするインク組成物、それを用いたインクジェット記録方法及び該記録方法によって記録された記録物。
【化8】
[式中、R1は、H,アルカリ金属または−NH4を表し、R2は、アルカリ金属 または−NH4を表し、R3は、H,置換されても良いアルキル基または置換されても良いアリール基を表す。また、k、l、nは、それぞれ0〜3、mは、1〜4の自然数であり、且つk+l+m+n=4である。]
【選択図】 なし
【解決手段】少なくとも、水と、下記の式1で表される銅フタロシアニン染料とフラボノイド系化合物を含んでなることを特徴とするインク組成物、それを用いたインクジェット記録方法及び該記録方法によって記録された記録物。
【化8】
[式中、R1は、H,アルカリ金属または−NH4を表し、R2は、アルカリ金属 または−NH4を表し、R3は、H,置換されても良いアルキル基または置換されても良いアリール基を表す。また、k、l、nは、それぞれ0〜3、mは、1〜4の自然数であり、且つk+l+m+n=4である。]
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録に好適なインク組成物、特に、耐ブロンズ性に優れたインク組成物、それを用いたインクジェット記録方法及び該記録方法によって記録された記録物に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録は、微細なノズルからインク組成物を小滴として吐出し、文字や画像(以下、単に「画像」ということもある。)を記録媒体表面に記録する方法である。インクジェット記録方式としては、電歪素子を用いて電気信号を機械信号に変換して、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物を断続的に吐出して記録媒体表面に文字や画像を記録する方法、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物を吐出部分に極近い一部を急速に加熱して泡を発生させて、その泡による体積膨張で断続的に吐出して、記録媒体表面に文字や画像を記録する方法等が実用化されている。
【0003】
また、インクジェット記録用のインク組成物としては、安全性や印字特性の面から各種染料を水または有機溶剤、あるいはそれらの混合液に溶解させたものが一般的であるが、様々な特性において、万年筆やボールペンの様な筆記具用インク組成物に比較し、より厳密な条件が要求される。
【0004】
特に、近年になって、広告用の印刷物の作成にインクジェットプリンタが採用されるようになって来ていることもあって、複数のインク組成物を使用してカラー画像を形成する際には一段と厳しい要求がなされるようになってきている。
なぜなら、複数のインク組成物によって形成されたカラー画像にあっては、一色でも色相の劣るものが存在すると、その色相のために画像全体としての色バランスが劣り、品質の高い画像が得られがたいことになるからである。
シアンインク組成物(特に、色材として金属フタロシアニン系染料を使用した場合)においては、ベタ印刷(100 %Dutyの塗りつぶし印刷)など高Dutyで印刷を行った部分に赤浮き現象(以下、「ブロンズ現象」という)が見られることがある。このような場合、画像全体としての色バランスが不均一となって画像品質を低下されるため、その改善が望まれている。
【0005】
また、上記のようなインク組成物を用いて作成された印刷物が、室内は勿論のこと室外にも設置されることがあるため、太陽光を初めとして種々の光や外気(オゾン、窒素酸化物、硫黄酸化物等)に晒されることとなり、耐光性、耐ガス性に優れたインク組成物の開発がなされているが、特に、耐ガス性の改善を図ったインク組成物においてブロンズ現象が目立ちその改善が望まれている。
【0006】
また、水に対する溶解性の乏しい染料を用いた場合などにおいて、酸性度の強い記録媒体に印刷を行うとブロンズ現象が出ることなどもわかってきている。
この対策として、アルコールアミン類や無機塩類等をpH調整剤として添加することや、記録媒体への浸透力を挙げることが一般に行なわれている。通常、ブロンズ現象は、記録媒体の表面でインク組成物が乾燥することによる染料の結晶化が原因とされ、上記方法は、この結晶化を抑制、もしくは結晶化する前に記録媒体に浸透させる、という観点から有効である。
しかしながら、前者は添加によりpHが過剰に上昇しやすく、記録装置の構成部材を腐蝕したり、また人体に触れた場合の安全性等の面にも課題があり、使用条件や方法等には深長をきさなければならない。また、後者は浸透性が過剰に増した場合、いわゆるブリード現象等その他の印刷品質の悪化が引き起こされる原因となり、万全の解決策ではない。
これらに代わる対策として、特開平6−25575号公報では、2−オキソ−オキサゾリドンや1,3−ビス(βヒドロキシエチル)尿素を添加したインク組成物が提案されている。また、特開平7−228810号公報では、塩基性アミノ酸を添加することでこの課題の解決を提案している。
しかし、残念ながら、本発明者らの種々の調査・研究の結果から、上記に記載されているような方法を用いても、本発明の課題とするところの印刷物堅牢性 (主に耐ガス性、耐光性)に優れたシアン系染料を用いたインク組成物においては、ブロンズ現象の解消・緩和にはなんら効果がないことが判明した。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、上記のような事情を考慮してなされたものであって、その目的とするところは、印刷物堅牢性(主に耐ガス性、耐光性)に優れ、ブロンズ現象の点で改善されたインク組成物を提供すること、それを用いたインクジェット記録方法及び該記録方法によって記録された記録物を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、種々の公知のシアン染料の耐光性、耐ガス性、ブロンズ現象の防止策等について更なる調査・研究を続けていたところ、食用色素と可食性安定剤とを含むインクジェット印刷用可食性インキにおいて(特開平9−302294号公報)、耐水性、耐光性を改善するために可食性安定剤として用いられていた物質の中の一つであるフラボノイド系の物質をシアン染料を含有するインク組成物に添加してみたところ、以外にもブロンズ現象に改善が見られること、特定のシアン染料に対しては一段とその改善が見られることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0009】
1.本発明に係るインク組成物は、少なくとも、水と、シアン系染料と フラボノイド系化合物を含んでなることを特徴とする。
【0010】
2.本発明に係るインク組成物は、上記1に記載のシアン系染料が、金属フタロシアニン系染料であることを特徴とする。
【0011】
3.本発明に係るインク組成物は、上記2に記載の金属フタロシアニン系染料が、下記の式1で表される銅フタロシアニン系染料であることを特徴とす
る。
【0012】
【化2】
[式中、R1は、H,アルカリ金属または−NH4を表し、R2は、アルカリ金属 または−NH4を表し、R3は、H,置換されても良いアルキル基または置換されても良いアリール基を表す。また、k、l、nは、それぞれ0〜3、mは、1〜4の自然数であり、且つk+l+m+n=4である。]
【0013】
4.本発明に係るインク組成物は、上記3に記載の銅フタロシアニン系染料が、C.I.ダイレクトブルー86,87,199であることを特徴とする。
【0014】
5.本発明に係るインク組成物は、上記2〜4のいずれかに記載の金属フタロシアニン系染料は、可視域(約400〜800nm)における吸収スペクトルが波長590〜650nmに最大吸収ピークを有する染料であることを特徴とする。
【0015】
6.本発明に係るインク組成物は、上記2〜5のいずれかに記載の金属フタロシアニン系染料は、可視域(約400〜800nm)における吸収スペクトルが波長590〜615nmに最大吸収ピークを有する染料であることを特徴とする。
【0016】
7.本発明に係るインク組成物は、上記2〜6のいずれかに記載の金属フタロシアニン系染料は、可視域(約400〜800nm)における吸収スペクトルが波長590〜605nmに最大吸収ピークを有する染料であることを特徴とする。
【0017】
8.本発明に係るインク組成物は、上記1〜7のいずれかに記載のインク組成物において、前記フラボノイド系化合物が、少なくとも1つ以上のヒドロキシル基を有する化合物であることを特徴とする。
【0018】
9.本発明に係るインク組成物は、上記1〜8のいずれかに記載のインク組成物において、前記フラボノイド系化合物が、より好ましくは1つ以上3つ以下のヒドロキシル基を有する化合物であることを特徴とする。
【0019】
10.本発明に係るインク組成物は、上記1〜9のいずれかに記載のインク組成物において、前記フラボノイド系化合物をインク組成物全量に対して0.005〜10重量%含んでなることを特徴とする。
【0020】
11.本発明に係るインク組成物は、上記1〜10のいずれかに記載のインク組成物において、前記シアン系染料と、前記フラボノイド系化合物の含有比率が、1:0.005〜1:5の範囲であることを特徴とする。
【0021】
12.本発明に係るインク組成物は、上記1〜11のいずれかに記載のインク組成物において、更に、ノニオン系界面活性剤を含んでなることを特徴とする。
【0022】
13.本発明に係るインク組成物は、上記12に記載のノニオン系界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤であることを特徴とする。
【0023】
14.本発明に係るインク組成物は、上記12又は13に記載のノニオン系界面活性剤をインク組成物全量に対して0.1〜5重量%含んでなることを特徴とする。
【0024】
15.本発明に係るインク組成物は、上記1〜14のいずれかに記載のインク組成物において、更に、浸透促進剤を含んでなることを特徴とする。
【0025】
16.本発明に係るインク組成物は、上記15に記載の浸透促進剤が、グリコールエーテルであることを特徴とする。
【0026】
17.本発明に係るインク組成物は、上記1〜16のいずれかに記載のインク組成物において、20℃におけるインク組成物のpHが、8.0〜10.5であることを特徴とする。
【0027】
18.本発明に係るインク組成物は、インクジェット記録方法において用いられる上記1〜17のいずれかに記載のインク組成物であることを特徴とする。
【0028】
19.本発明に係るインク組成物は、上記18に記載のインクジェット記録方法が、電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法であることを特徴とする。
【0029】
20.本発明に係るインクジェット記録方法は、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として上記1〜19のいずれかに記載のインク組成物を使用することを特徴とする。
【0030】
21.本発明に係る記録物は、上記1〜19のいずれかに記載のインク組成物を用いて記録されたことを特徴とする。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明のインク組成物は、水又は、水と水溶性有機溶剤からなる水性媒体中に、少なくともシアン系染料とフラボノイド系化合物を含有し、必要に応じ、保湿剤、粘度調整剤、pH調整剤やその他の添加剤を含んでなることができる。
【0032】
本発明のインク組成物で使用されるシアン系染料は、特に限定されるものではないが、特に金属フタロシアニン系染料においてより改善効果があり、更には金属フタロシアニン系染料の中でも銅フタロシアニン系染料において、格段の改善効果が得られるものである。
銅フタロシアニン系染料としては、例えば、下記の式1で表わされる染料が挙げられる。
【0033】
【化3】
[式中、R1は、H,アルカリ金属または−NH4を表し、R2は、アルカリ金属 または−NH4を表し、R3は、H,置換されても良いアルキル基または置換されても良いアリール基を表す。また、k、l、nは、それぞれ0〜3、mは、1〜4の自然数であり、且つk+l+m+n=4である。]
【0034】
具体的には、C.I.ダイレクトブルー86,87,199等が挙げられる。
これらの染料は、単独であるいは併用して用いることも可能である。
【0035】
一般に、シアン系染料を含有したインク組成物を用いてインクジェット専用記録媒体(特に光沢系記録媒体)等にベタ印刷した場合に、ブロンズ現象が見られることがある。耐光性及び耐ガス性の両方に優れたシアン系染料ほど、それを含有したインク組成物を用いてインクジェット専用記録媒体(特に光沢系記録媒体)等にベタ印刷した場合、ブロンズ現象が強くなる傾向がある。
このような色材に対して、ブロンズ現象がなく、高画質なインクジェット記録物を得るためには、下記のフラボノイド系化合物を含有せしめることにより達成することができる。
そのようなシアン系染料の具体例としては、C.I.ダイレクトブルー86,87,199等が挙げられる。
本発明においては、上記シアン系染料が含まれるインク組成物であれば、シアンインク組成物は勿論のこと、例えば、ブラックインク組成物やダークイエローインク組成物等の、シアンとは異なる色のインク組成物であっても同様に有効である。
【0036】
これらの染料の含有量は、染料の種類、溶媒成分の種類等により決められる
が、インク組成物全重量に対し、0.1〜10重量%、好ましくは、0.5〜5重量%の範囲である。0.1重量%より少ない場合には、記録媒体上での発色性又は画像濃度が確保できないという問題があり、10重量%より多い場合には、インク組成物の粘度調整が困難となったり吐出信頼性や目詰まり性等の特性が確保できないという問題がある。
【0037】
本発明のインク組成物は、上記のような、シアン系染料を含有したインク組成物を用いてベタ印刷した場合に見られるブロンズ現象を弱める、もしくは無くするために、フラボノイド系化合物を含有する。
本発明で使用するフラボノイド系化合物は、下記の式[2]〜[7]で表される骨格を有する化合物である。
【0038】
【化4】
【0039】
具体的には、例えば、下記の式[8]〜[40]で表される化合物を挙げることができる。
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
【化7】
【0042】
特に、インクジェット記録用として用いる場合には、インク組成物の目詰り信頼性や画像品質を確保するために、好ましくは構造中に1つ以上、より好ましくは、1つ以上3つ以下のヒドロキシル基を有する化合物を選択することによって、より有効かつ効果的に用いることができる。
具体的には、上記の内、式[9]〜[18],[20],[21],[23]〜[25],[27]〜[40]で表される化合物等が挙げることができる。
中でも、より好ましいものとして、式[9],[10],[12]〜[14],[20],[21],[23],[24],[27]〜[30]等を挙げることができる。
【0043】
このフラボノイド系化合物の含有量は、染料の種類、溶媒成分の種類等により決められるが、インク組成物全重量に対し、0.005〜10重量%、好ましくは、0.2〜5重量%の範囲である。
【0044】
本発明のインク組成物においては、シアン系染料とフラボノイド系化合物の含有比率は、フラボノイド系化合物によるブロンズ現象の改善効果を十分に得るため、目詰まりなどの信頼性を良好に確保するため、1:0.005〜1:5、より好ましくは1:0.1〜1:3の範囲であることが好ましい。
【0045】
水性液媒体が酸性であると、染料の溶解性が低下し、またフラボノイド系化合物についても溶解性が低下し析出/沈殿を起こしたり、場合によっては色調が代わるなど、保存安定性や画像品質に影響を及ぼすことから、所定の染料量及びフラボノイド系化合物を安定して溶解させるためには、インク組成物のpH(20℃)を8.0以上とすることが好ましい。また、インク組成物が接する各部材との耐材料性を考慮すると、インク組成物のpHを10.5以下とすることが好ましい。これらの事項をよりよく両立させるためには、インク組成物のpHを8.5〜10.0に調整することがより好ましい。
【0046】
本発明のインク組成物は、さらに蒸気圧が純水よりも小さい水溶性有機溶剤及び/又は糖類から選ばれる保湿剤を含むことができる。
保湿剤を含むことにより、インクジェット記録方式において、水分の蒸発を抑制してインクを保湿することができる。また、水溶性有機溶剤であれば、吐出安定性を向上させたり、インク特性を変化させることなく粘度を容易に変更することができる。
水溶性有機溶剤は、溶質を溶解する能力を持つ媒体を指しており、有機性で蒸気圧が水より小さい水溶性の溶媒から選ばれる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類、アセトニルアセトン等のケトン類、γ−ブチロラクトン、リン酸トリエチル等のエステル類、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、チオジグリコール等が望ましい。また、糖類は、マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等が好ましい。
保湿剤は、インク組成物全量に対して5〜50重量%、より好ましくは、5〜30重量%、さらに好ましくは、5〜20重量%の範囲で添加されることが好ましい。5重量%以上であれば、保湿性が得られ、また、50重量%以下であれば、インクジェット記録に用いられる粘度に調整しやすい。
【0047】
また、本発明のインク組成物には、溶剤として含窒素系有機溶剤を含んでなることが好ましい。含窒素系有機溶剤としては、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン,2−ピロリドン,N−メチル−2−ピロリドン,ε−カプロラクタム等が挙げられ、中でも、が好適に用いられることができる。それらは、単独または2種以上併用して用いられることもできる。
その含有量は、0.5〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは、1〜5重量%である。その含有量が、0.5重量%より少ない場合には、添加することによる「本発明において用いられるフラボノイド系化合物」の溶解性向上が少ないという問題があり、10重量%より多い場合には、インク組成物が接する各種部材との耐材料性を悪化させるという問題がある。
【0048】
また、本発明のインク組成物には、インクの速やかな定着(浸透性)を得ると同時に、1ドットの真円度を保つのに効果的な添加剤として、ノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0049】
本発明に用いられるノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤として、具体的には、サーフィノール465、サーフィノール104、オルフィンSTG( 以上、日信化学工業(株)製、商品名) 等が挙げられる。その添加量は0. 1〜5重量%、好ましくは0. 5〜2重量%である。添加量が0. 1重量%未満であると、十分な浸透性が得られず、また、5重量%を越えると画像ににじみが発生し、画像品質の低下を招くため好ましくない。
【0050】
さらに、ノニオン系界面活性剤に加えて、浸透促進剤として、グリコールエーテル類を添加することにより、より浸透性が増すとともに、カラー印刷を行った場合の隣合うカラーインクとの境界のブリードが減少し、非常に鮮明な画像を得ることができる。
【0051】
本発明のグリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。その添加量は3〜30重量%、好ましくは5〜15重量%である。添加量が3重量%未満であると、ブリード防止の効果が得られない。また、30重量%を越えると画像ににじみが発生するばかりか、油状分離が起きるためにこれらのグリコールエーテル類の溶解助剤が必要となり、それに伴ってインクの粘度が上昇し、インクジェットヘッドでは吐出が難しくなる。
【0052】
さらに、本発明のインク組成物には、必要に応じて、トリエタノールアミンやアルカリ金属の水酸化物等のpH調整剤、尿素及びその誘導体等のヒドロトロピー剤、アルギン酸ナトリウム等の水溶性ポリマー、水溶性樹脂、フッ素系界面活性剤、防カビ剤、防錆剤等が添加されてもよい。
【0053】
本発明のインク組成物の調製方法としては、たとえば、各成分を十分混合溶解し、孔径0. 8μm のメンブランフィルターで加圧濾過したのち、真空ポンプを用いて脱気処理して調製する方法などがある。
【0054】
次に、上述のインク組成物を用いた本発明の記録方法について説明する。本発明の記録方法はインク組成物を微細孔から液滴として吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方式がとりわけ好適に使用できるが、一般の筆記具用、記録計、ペンプロッター等の用途にも使用できることは言うまでまない。
【0055】
インクジェット記録方式としては、従来公知の方式はいずれも使用でき、特に圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)や熱エネルギーを利用する方法においては優れた画像記録を行うことが可能である。
【0056】
【実施例】
次に、本発明の実施例と比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
なお、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0057】
[実施例1〜5及び比較例1,2]
実施例1〜5及び比較例1,2のインク組成物を表1に示す配合割合で各成分を混合して溶解させ、孔径1μmのメンブランフィルターにて加圧濾過を行なって、各インク組成物を調製した。
【0058】
【表1】
なお、表中に示すインク組成物の各成分はインク組成物全量に対する各成分の重量%を示し、残量は水である。
【0059】
上記の実施例1〜5及び比較例1,2に記載のインク組成物を、インクジェットプリンタEM930C(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、これの専用カートリッジ(Cyan室)に充填して、インクジェット専用記録媒体(PM写真用紙、専用光沢フィルム:いずれもセイコーエプソン株式会社製)に印字し、各評価を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0060】
《ブロンズ評価》
上記のカートリッジを用い、1インチ平米当たり1.5〜2.2mgの打ち込み量になるようにベタ印字し得られた印刷物を、光沢度計(PG−1M:日本電色工業株式会社)を用いて測定し(測定角度60°)、光沢度を求めた。
得られた光沢度と以下の式から得た値をブロンズの判定基準とした。
【0061】
光沢度(印刷物)−光沢度(記録媒体)
評価A:15未満
評価B:15以上35未満
評価C:35以上55未満
評価D:55以上
【0062】
《耐オゾン性評価》
上記のカートリッジを用い、OD(Optikal Density)が、0.9〜1.1の 範囲に入るように印加 Duty を調整して印刷を行なって得られた印刷物を、オゾンウエザーメーターOMS−H型(商品名、(株)スガ試験機製)を用い、24℃、相対湿度60%RH、オゾン濃度2ppmの条件下にて、印刷物を所定時間(6,12時間)暴露した。
暴露後、それぞれの印刷物のODを、濃度計(Spectrolino:Gretag社製)を 用いて測定し、次式により光学濃度残存率(ROD)を求め、下記判定基準により、評価した。
【0063】
ROD(%)=(D/D0)×100
D:暴露試験後のOD
D0:暴露試験前のOD)
(但し、測定条件は、Filter:Red,光源:D50,視野角:2度)
[判定基準]
評価A:RODが90%以上
評価B:RODが80%以上90%未満
評価C:RODが70%以上80%未満
評価D:RODが70%未満
【0064】
《耐光性評価》
上記のカートリッジを用い、OD(Optikal Density)が、0.9〜1.1の 範囲に入るように、印加Dutyを調整して得られた印刷物を、その表面を無色のガラスプレートで覆った後、キセノンウエザーメーター(XL−75S:スガ試験機(株)製)を用い、24℃60%RH;BPT(ブラックパネル温度)40℃;300〜400nm間出の照度34W/m2の条件下にて、所定時間(6,12 時間)暴露した。
暴露後、それぞれの印刷物のODを、濃度計(Spectrolino:Gretag社製)を 用いて測定し、次式により光学濃度残存率(ROD)を求め、下記判定基準により、評価した。
【0065】
ROD(%)=(D/D0)×100
D :暴露試験後のOD
D0 :暴露試験前のOD)
(但し、測定条件は、Filter:Red、光源:D50、視野角:2度)
[判定基準]
評価A:RODが90%以上。
評価B:RODが80%以上90%未満。
評価C:RODが70%以上80%未満。
評価D:RODが70%未満。
【0066】
【表2】
【0067】
【発明の効果】
本発明は、以上詳記したとおり、インク組成物の着色剤として上記式1で表わされる金属フタロシアニン系染料を使用し、フラボノイド系化合物を含有させることにより、該インク組成物を用いて記録したものは、印刷物堅牢性(主に耐ガス性、耐光性)に優れ、ブロンズ現象の生じない画像が得られるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインク組成物に含有される染料(C.I.ダイレクトブルー199)の分光特性(吸収波長)を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録に好適なインク組成物、特に、耐ブロンズ性に優れたインク組成物、それを用いたインクジェット記録方法及び該記録方法によって記録された記録物に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録は、微細なノズルからインク組成物を小滴として吐出し、文字や画像(以下、単に「画像」ということもある。)を記録媒体表面に記録する方法である。インクジェット記録方式としては、電歪素子を用いて電気信号を機械信号に変換して、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物を断続的に吐出して記録媒体表面に文字や画像を記録する方法、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物を吐出部分に極近い一部を急速に加熱して泡を発生させて、その泡による体積膨張で断続的に吐出して、記録媒体表面に文字や画像を記録する方法等が実用化されている。
【0003】
また、インクジェット記録用のインク組成物としては、安全性や印字特性の面から各種染料を水または有機溶剤、あるいはそれらの混合液に溶解させたものが一般的であるが、様々な特性において、万年筆やボールペンの様な筆記具用インク組成物に比較し、より厳密な条件が要求される。
【0004】
特に、近年になって、広告用の印刷物の作成にインクジェットプリンタが採用されるようになって来ていることもあって、複数のインク組成物を使用してカラー画像を形成する際には一段と厳しい要求がなされるようになってきている。
なぜなら、複数のインク組成物によって形成されたカラー画像にあっては、一色でも色相の劣るものが存在すると、その色相のために画像全体としての色バランスが劣り、品質の高い画像が得られがたいことになるからである。
シアンインク組成物(特に、色材として金属フタロシアニン系染料を使用した場合)においては、ベタ印刷(100 %Dutyの塗りつぶし印刷)など高Dutyで印刷を行った部分に赤浮き現象(以下、「ブロンズ現象」という)が見られることがある。このような場合、画像全体としての色バランスが不均一となって画像品質を低下されるため、その改善が望まれている。
【0005】
また、上記のようなインク組成物を用いて作成された印刷物が、室内は勿論のこと室外にも設置されることがあるため、太陽光を初めとして種々の光や外気(オゾン、窒素酸化物、硫黄酸化物等)に晒されることとなり、耐光性、耐ガス性に優れたインク組成物の開発がなされているが、特に、耐ガス性の改善を図ったインク組成物においてブロンズ現象が目立ちその改善が望まれている。
【0006】
また、水に対する溶解性の乏しい染料を用いた場合などにおいて、酸性度の強い記録媒体に印刷を行うとブロンズ現象が出ることなどもわかってきている。
この対策として、アルコールアミン類や無機塩類等をpH調整剤として添加することや、記録媒体への浸透力を挙げることが一般に行なわれている。通常、ブロンズ現象は、記録媒体の表面でインク組成物が乾燥することによる染料の結晶化が原因とされ、上記方法は、この結晶化を抑制、もしくは結晶化する前に記録媒体に浸透させる、という観点から有効である。
しかしながら、前者は添加によりpHが過剰に上昇しやすく、記録装置の構成部材を腐蝕したり、また人体に触れた場合の安全性等の面にも課題があり、使用条件や方法等には深長をきさなければならない。また、後者は浸透性が過剰に増した場合、いわゆるブリード現象等その他の印刷品質の悪化が引き起こされる原因となり、万全の解決策ではない。
これらに代わる対策として、特開平6−25575号公報では、2−オキソ−オキサゾリドンや1,3−ビス(βヒドロキシエチル)尿素を添加したインク組成物が提案されている。また、特開平7−228810号公報では、塩基性アミノ酸を添加することでこの課題の解決を提案している。
しかし、残念ながら、本発明者らの種々の調査・研究の結果から、上記に記載されているような方法を用いても、本発明の課題とするところの印刷物堅牢性 (主に耐ガス性、耐光性)に優れたシアン系染料を用いたインク組成物においては、ブロンズ現象の解消・緩和にはなんら効果がないことが判明した。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、上記のような事情を考慮してなされたものであって、その目的とするところは、印刷物堅牢性(主に耐ガス性、耐光性)に優れ、ブロンズ現象の点で改善されたインク組成物を提供すること、それを用いたインクジェット記録方法及び該記録方法によって記録された記録物を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、種々の公知のシアン染料の耐光性、耐ガス性、ブロンズ現象の防止策等について更なる調査・研究を続けていたところ、食用色素と可食性安定剤とを含むインクジェット印刷用可食性インキにおいて(特開平9−302294号公報)、耐水性、耐光性を改善するために可食性安定剤として用いられていた物質の中の一つであるフラボノイド系の物質をシアン染料を含有するインク組成物に添加してみたところ、以外にもブロンズ現象に改善が見られること、特定のシアン染料に対しては一段とその改善が見られることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0009】
1.本発明に係るインク組成物は、少なくとも、水と、シアン系染料と フラボノイド系化合物を含んでなることを特徴とする。
【0010】
2.本発明に係るインク組成物は、上記1に記載のシアン系染料が、金属フタロシアニン系染料であることを特徴とする。
【0011】
3.本発明に係るインク組成物は、上記2に記載の金属フタロシアニン系染料が、下記の式1で表される銅フタロシアニン系染料であることを特徴とす
る。
【0012】
【化2】
[式中、R1は、H,アルカリ金属または−NH4を表し、R2は、アルカリ金属 または−NH4を表し、R3は、H,置換されても良いアルキル基または置換されても良いアリール基を表す。また、k、l、nは、それぞれ0〜3、mは、1〜4の自然数であり、且つk+l+m+n=4である。]
【0013】
4.本発明に係るインク組成物は、上記3に記載の銅フタロシアニン系染料が、C.I.ダイレクトブルー86,87,199であることを特徴とする。
【0014】
5.本発明に係るインク組成物は、上記2〜4のいずれかに記載の金属フタロシアニン系染料は、可視域(約400〜800nm)における吸収スペクトルが波長590〜650nmに最大吸収ピークを有する染料であることを特徴とする。
【0015】
6.本発明に係るインク組成物は、上記2〜5のいずれかに記載の金属フタロシアニン系染料は、可視域(約400〜800nm)における吸収スペクトルが波長590〜615nmに最大吸収ピークを有する染料であることを特徴とする。
【0016】
7.本発明に係るインク組成物は、上記2〜6のいずれかに記載の金属フタロシアニン系染料は、可視域(約400〜800nm)における吸収スペクトルが波長590〜605nmに最大吸収ピークを有する染料であることを特徴とする。
【0017】
8.本発明に係るインク組成物は、上記1〜7のいずれかに記載のインク組成物において、前記フラボノイド系化合物が、少なくとも1つ以上のヒドロキシル基を有する化合物であることを特徴とする。
【0018】
9.本発明に係るインク組成物は、上記1〜8のいずれかに記載のインク組成物において、前記フラボノイド系化合物が、より好ましくは1つ以上3つ以下のヒドロキシル基を有する化合物であることを特徴とする。
【0019】
10.本発明に係るインク組成物は、上記1〜9のいずれかに記載のインク組成物において、前記フラボノイド系化合物をインク組成物全量に対して0.005〜10重量%含んでなることを特徴とする。
【0020】
11.本発明に係るインク組成物は、上記1〜10のいずれかに記載のインク組成物において、前記シアン系染料と、前記フラボノイド系化合物の含有比率が、1:0.005〜1:5の範囲であることを特徴とする。
【0021】
12.本発明に係るインク組成物は、上記1〜11のいずれかに記載のインク組成物において、更に、ノニオン系界面活性剤を含んでなることを特徴とする。
【0022】
13.本発明に係るインク組成物は、上記12に記載のノニオン系界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤であることを特徴とする。
【0023】
14.本発明に係るインク組成物は、上記12又は13に記載のノニオン系界面活性剤をインク組成物全量に対して0.1〜5重量%含んでなることを特徴とする。
【0024】
15.本発明に係るインク組成物は、上記1〜14のいずれかに記載のインク組成物において、更に、浸透促進剤を含んでなることを特徴とする。
【0025】
16.本発明に係るインク組成物は、上記15に記載の浸透促進剤が、グリコールエーテルであることを特徴とする。
【0026】
17.本発明に係るインク組成物は、上記1〜16のいずれかに記載のインク組成物において、20℃におけるインク組成物のpHが、8.0〜10.5であることを特徴とする。
【0027】
18.本発明に係るインク組成物は、インクジェット記録方法において用いられる上記1〜17のいずれかに記載のインク組成物であることを特徴とする。
【0028】
19.本発明に係るインク組成物は、上記18に記載のインクジェット記録方法が、電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法であることを特徴とする。
【0029】
20.本発明に係るインクジェット記録方法は、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として上記1〜19のいずれかに記載のインク組成物を使用することを特徴とする。
【0030】
21.本発明に係る記録物は、上記1〜19のいずれかに記載のインク組成物を用いて記録されたことを特徴とする。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明のインク組成物は、水又は、水と水溶性有機溶剤からなる水性媒体中に、少なくともシアン系染料とフラボノイド系化合物を含有し、必要に応じ、保湿剤、粘度調整剤、pH調整剤やその他の添加剤を含んでなることができる。
【0032】
本発明のインク組成物で使用されるシアン系染料は、特に限定されるものではないが、特に金属フタロシアニン系染料においてより改善効果があり、更には金属フタロシアニン系染料の中でも銅フタロシアニン系染料において、格段の改善効果が得られるものである。
銅フタロシアニン系染料としては、例えば、下記の式1で表わされる染料が挙げられる。
【0033】
【化3】
[式中、R1は、H,アルカリ金属または−NH4を表し、R2は、アルカリ金属 または−NH4を表し、R3は、H,置換されても良いアルキル基または置換されても良いアリール基を表す。また、k、l、nは、それぞれ0〜3、mは、1〜4の自然数であり、且つk+l+m+n=4である。]
【0034】
具体的には、C.I.ダイレクトブルー86,87,199等が挙げられる。
これらの染料は、単独であるいは併用して用いることも可能である。
【0035】
一般に、シアン系染料を含有したインク組成物を用いてインクジェット専用記録媒体(特に光沢系記録媒体)等にベタ印刷した場合に、ブロンズ現象が見られることがある。耐光性及び耐ガス性の両方に優れたシアン系染料ほど、それを含有したインク組成物を用いてインクジェット専用記録媒体(特に光沢系記録媒体)等にベタ印刷した場合、ブロンズ現象が強くなる傾向がある。
このような色材に対して、ブロンズ現象がなく、高画質なインクジェット記録物を得るためには、下記のフラボノイド系化合物を含有せしめることにより達成することができる。
そのようなシアン系染料の具体例としては、C.I.ダイレクトブルー86,87,199等が挙げられる。
本発明においては、上記シアン系染料が含まれるインク組成物であれば、シアンインク組成物は勿論のこと、例えば、ブラックインク組成物やダークイエローインク組成物等の、シアンとは異なる色のインク組成物であっても同様に有効である。
【0036】
これらの染料の含有量は、染料の種類、溶媒成分の種類等により決められる
が、インク組成物全重量に対し、0.1〜10重量%、好ましくは、0.5〜5重量%の範囲である。0.1重量%より少ない場合には、記録媒体上での発色性又は画像濃度が確保できないという問題があり、10重量%より多い場合には、インク組成物の粘度調整が困難となったり吐出信頼性や目詰まり性等の特性が確保できないという問題がある。
【0037】
本発明のインク組成物は、上記のような、シアン系染料を含有したインク組成物を用いてベタ印刷した場合に見られるブロンズ現象を弱める、もしくは無くするために、フラボノイド系化合物を含有する。
本発明で使用するフラボノイド系化合物は、下記の式[2]〜[7]で表される骨格を有する化合物である。
【0038】
【化4】
【0039】
具体的には、例えば、下記の式[8]〜[40]で表される化合物を挙げることができる。
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
【化7】
【0042】
特に、インクジェット記録用として用いる場合には、インク組成物の目詰り信頼性や画像品質を確保するために、好ましくは構造中に1つ以上、より好ましくは、1つ以上3つ以下のヒドロキシル基を有する化合物を選択することによって、より有効かつ効果的に用いることができる。
具体的には、上記の内、式[9]〜[18],[20],[21],[23]〜[25],[27]〜[40]で表される化合物等が挙げることができる。
中でも、より好ましいものとして、式[9],[10],[12]〜[14],[20],[21],[23],[24],[27]〜[30]等を挙げることができる。
【0043】
このフラボノイド系化合物の含有量は、染料の種類、溶媒成分の種類等により決められるが、インク組成物全重量に対し、0.005〜10重量%、好ましくは、0.2〜5重量%の範囲である。
【0044】
本発明のインク組成物においては、シアン系染料とフラボノイド系化合物の含有比率は、フラボノイド系化合物によるブロンズ現象の改善効果を十分に得るため、目詰まりなどの信頼性を良好に確保するため、1:0.005〜1:5、より好ましくは1:0.1〜1:3の範囲であることが好ましい。
【0045】
水性液媒体が酸性であると、染料の溶解性が低下し、またフラボノイド系化合物についても溶解性が低下し析出/沈殿を起こしたり、場合によっては色調が代わるなど、保存安定性や画像品質に影響を及ぼすことから、所定の染料量及びフラボノイド系化合物を安定して溶解させるためには、インク組成物のpH(20℃)を8.0以上とすることが好ましい。また、インク組成物が接する各部材との耐材料性を考慮すると、インク組成物のpHを10.5以下とすることが好ましい。これらの事項をよりよく両立させるためには、インク組成物のpHを8.5〜10.0に調整することがより好ましい。
【0046】
本発明のインク組成物は、さらに蒸気圧が純水よりも小さい水溶性有機溶剤及び/又は糖類から選ばれる保湿剤を含むことができる。
保湿剤を含むことにより、インクジェット記録方式において、水分の蒸発を抑制してインクを保湿することができる。また、水溶性有機溶剤であれば、吐出安定性を向上させたり、インク特性を変化させることなく粘度を容易に変更することができる。
水溶性有機溶剤は、溶質を溶解する能力を持つ媒体を指しており、有機性で蒸気圧が水より小さい水溶性の溶媒から選ばれる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類、アセトニルアセトン等のケトン類、γ−ブチロラクトン、リン酸トリエチル等のエステル類、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、チオジグリコール等が望ましい。また、糖類は、マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等が好ましい。
保湿剤は、インク組成物全量に対して5〜50重量%、より好ましくは、5〜30重量%、さらに好ましくは、5〜20重量%の範囲で添加されることが好ましい。5重量%以上であれば、保湿性が得られ、また、50重量%以下であれば、インクジェット記録に用いられる粘度に調整しやすい。
【0047】
また、本発明のインク組成物には、溶剤として含窒素系有機溶剤を含んでなることが好ましい。含窒素系有機溶剤としては、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン,2−ピロリドン,N−メチル−2−ピロリドン,ε−カプロラクタム等が挙げられ、中でも、が好適に用いられることができる。それらは、単独または2種以上併用して用いられることもできる。
その含有量は、0.5〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは、1〜5重量%である。その含有量が、0.5重量%より少ない場合には、添加することによる「本発明において用いられるフラボノイド系化合物」の溶解性向上が少ないという問題があり、10重量%より多い場合には、インク組成物が接する各種部材との耐材料性を悪化させるという問題がある。
【0048】
また、本発明のインク組成物には、インクの速やかな定着(浸透性)を得ると同時に、1ドットの真円度を保つのに効果的な添加剤として、ノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0049】
本発明に用いられるノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤として、具体的には、サーフィノール465、サーフィノール104、オルフィンSTG( 以上、日信化学工業(株)製、商品名) 等が挙げられる。その添加量は0. 1〜5重量%、好ましくは0. 5〜2重量%である。添加量が0. 1重量%未満であると、十分な浸透性が得られず、また、5重量%を越えると画像ににじみが発生し、画像品質の低下を招くため好ましくない。
【0050】
さらに、ノニオン系界面活性剤に加えて、浸透促進剤として、グリコールエーテル類を添加することにより、より浸透性が増すとともに、カラー印刷を行った場合の隣合うカラーインクとの境界のブリードが減少し、非常に鮮明な画像を得ることができる。
【0051】
本発明のグリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。その添加量は3〜30重量%、好ましくは5〜15重量%である。添加量が3重量%未満であると、ブリード防止の効果が得られない。また、30重量%を越えると画像ににじみが発生するばかりか、油状分離が起きるためにこれらのグリコールエーテル類の溶解助剤が必要となり、それに伴ってインクの粘度が上昇し、インクジェットヘッドでは吐出が難しくなる。
【0052】
さらに、本発明のインク組成物には、必要に応じて、トリエタノールアミンやアルカリ金属の水酸化物等のpH調整剤、尿素及びその誘導体等のヒドロトロピー剤、アルギン酸ナトリウム等の水溶性ポリマー、水溶性樹脂、フッ素系界面活性剤、防カビ剤、防錆剤等が添加されてもよい。
【0053】
本発明のインク組成物の調製方法としては、たとえば、各成分を十分混合溶解し、孔径0. 8μm のメンブランフィルターで加圧濾過したのち、真空ポンプを用いて脱気処理して調製する方法などがある。
【0054】
次に、上述のインク組成物を用いた本発明の記録方法について説明する。本発明の記録方法はインク組成物を微細孔から液滴として吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方式がとりわけ好適に使用できるが、一般の筆記具用、記録計、ペンプロッター等の用途にも使用できることは言うまでまない。
【0055】
インクジェット記録方式としては、従来公知の方式はいずれも使用でき、特に圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)や熱エネルギーを利用する方法においては優れた画像記録を行うことが可能である。
【0056】
【実施例】
次に、本発明の実施例と比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
なお、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0057】
[実施例1〜5及び比較例1,2]
実施例1〜5及び比較例1,2のインク組成物を表1に示す配合割合で各成分を混合して溶解させ、孔径1μmのメンブランフィルターにて加圧濾過を行なって、各インク組成物を調製した。
【0058】
【表1】
なお、表中に示すインク組成物の各成分はインク組成物全量に対する各成分の重量%を示し、残量は水である。
【0059】
上記の実施例1〜5及び比較例1,2に記載のインク組成物を、インクジェットプリンタEM930C(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、これの専用カートリッジ(Cyan室)に充填して、インクジェット専用記録媒体(PM写真用紙、専用光沢フィルム:いずれもセイコーエプソン株式会社製)に印字し、各評価を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0060】
《ブロンズ評価》
上記のカートリッジを用い、1インチ平米当たり1.5〜2.2mgの打ち込み量になるようにベタ印字し得られた印刷物を、光沢度計(PG−1M:日本電色工業株式会社)を用いて測定し(測定角度60°)、光沢度を求めた。
得られた光沢度と以下の式から得た値をブロンズの判定基準とした。
【0061】
光沢度(印刷物)−光沢度(記録媒体)
評価A:15未満
評価B:15以上35未満
評価C:35以上55未満
評価D:55以上
【0062】
《耐オゾン性評価》
上記のカートリッジを用い、OD(Optikal Density)が、0.9〜1.1の 範囲に入るように印加 Duty を調整して印刷を行なって得られた印刷物を、オゾンウエザーメーターOMS−H型(商品名、(株)スガ試験機製)を用い、24℃、相対湿度60%RH、オゾン濃度2ppmの条件下にて、印刷物を所定時間(6,12時間)暴露した。
暴露後、それぞれの印刷物のODを、濃度計(Spectrolino:Gretag社製)を 用いて測定し、次式により光学濃度残存率(ROD)を求め、下記判定基準により、評価した。
【0063】
ROD(%)=(D/D0)×100
D:暴露試験後のOD
D0:暴露試験前のOD)
(但し、測定条件は、Filter:Red,光源:D50,視野角:2度)
[判定基準]
評価A:RODが90%以上
評価B:RODが80%以上90%未満
評価C:RODが70%以上80%未満
評価D:RODが70%未満
【0064】
《耐光性評価》
上記のカートリッジを用い、OD(Optikal Density)が、0.9〜1.1の 範囲に入るように、印加Dutyを調整して得られた印刷物を、その表面を無色のガラスプレートで覆った後、キセノンウエザーメーター(XL−75S:スガ試験機(株)製)を用い、24℃60%RH;BPT(ブラックパネル温度)40℃;300〜400nm間出の照度34W/m2の条件下にて、所定時間(6,12 時間)暴露した。
暴露後、それぞれの印刷物のODを、濃度計(Spectrolino:Gretag社製)を 用いて測定し、次式により光学濃度残存率(ROD)を求め、下記判定基準により、評価した。
【0065】
ROD(%)=(D/D0)×100
D :暴露試験後のOD
D0 :暴露試験前のOD)
(但し、測定条件は、Filter:Red、光源:D50、視野角:2度)
[判定基準]
評価A:RODが90%以上。
評価B:RODが80%以上90%未満。
評価C:RODが70%以上80%未満。
評価D:RODが70%未満。
【0066】
【表2】
【0067】
【発明の効果】
本発明は、以上詳記したとおり、インク組成物の着色剤として上記式1で表わされる金属フタロシアニン系染料を使用し、フラボノイド系化合物を含有させることにより、該インク組成物を用いて記録したものは、印刷物堅牢性(主に耐ガス性、耐光性)に優れ、ブロンズ現象の生じない画像が得られるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインク組成物に含有される染料(C.I.ダイレクトブルー199)の分光特性(吸収波長)を示す図である。
Claims (21)
- 少なくとも、水と、シアン系染料とフラボノイド系化合物を含んでなることを特徴とするインク組成物。
- 前記シアン系染料が、金属フタロシアニン系染料である、請求項1に記載のインク組成物。
- 前記銅フタロシアニン系染料が、C.I.ダイレクトブルー86,87,199である、請求項3に記載のインク組成物。
- 前記金属フタロシアニン系染料は、可視域(約400〜800nm)における吸収スペクトルが波長590〜650nmに最大吸収ピークを有する染料である、請求項2〜4のいずれか一項に記載のインク組成物。
- 前記金属フタロシアニン系染料は、可視域(約400〜800nm)における吸収スペクトルが波長590〜615nmに最大吸収ピークを有する染料である、請求項2〜5のいずれか一項に記載のインク組成物。
- 前記金属フタロシアニン系染料は、可視域(約400〜800nm)における吸収スペクトルが波長590〜605nmに最大吸収ピークを有する染料である、請求項2〜6のいずれか一項に記載のインク組成物。
- 前記フラボノイド系化合物が、少なくとも1つ以上のヒドロキシル基を有する化合物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のインク組成物。
- 前記フラボノイド系化合物が、1つ以上3つ以下のヒドロキシル基を有する化合物である、請求項8に記載のインク組成物。
- 前記フラボノイド系化合物をインク組成物全量に対して0.005〜10重量%含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のインク組成物。
- 前記シアン系染料と、前記フラボノイド系化合物の含有比率が、1:0.005〜1:5の範囲である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のインク組成物。
- 更に、ノニオン系界面活性剤を含んでなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載のインク組成物。
- 前記ノニオン系界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤である、請求項12に記載のインク組成物。
- 前記ノニオン系界面活性剤をインク組成物全量に対して0.1〜5重量%含んでなる、請求項12または13に記載のインク組成物。
- 更に、浸透促進剤を含んでなる、請求項1〜14のいずれか一項に記載のインク組成物。
- 前記浸透促進剤が、グリコールエーテルである、請求項15に記載のインク組成物。
- 20℃におけるインク組成物のpHが、8.0〜10.5である、請求項1〜16のいずれか一項に記載のインク組成物。
- インクジェット記録方法において用いられる、請求項1〜17のいずれか一項に記載のインク組成物。
- 前記インクジェット記録方法が、電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法である、請求項18に記載のインク組成物。
- インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として請求項1〜19のいずれか一項に記載のインク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法。
- 請求項1〜19のいずれか一項に記載のインク組成物を用いて記録されたことを特徴とする記録物。
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---|---|---|---|
JP2002254610A JP2004091631A (ja) | 2002-08-30 | 2002-08-30 | インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法および記録物 |
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