JP2004091316A - 単結晶の無欠陥領域を最大化するシミュレーション方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】先ずパラメータP1の単結晶製造条件で融液12の対流を考慮して融液から成長する単結晶14内の温度分布を求め、冷却過程における単結晶内の温度分布を求めることにより、単結晶内のボイド及び高酸素析出物の濃度分布及びサイズ分布を予測する。次いで単結晶内の第1等濃度線と第1分布線を計算で求めた後に、第1等濃度線の変曲点の最大値と第1分布線の変曲点の最小値との差を計算で求める。次に上記単結晶製造条件のパラメータをP2から順にPNまで変え、上記と同様にして第1等濃度線の変曲点の最大値と第1分布線の変曲点の最小値との差を計算で求める。更に上記第1等濃度線の変曲点の最大値と第1分布線の変曲点の最小値との差が最も大きくなる単結晶製造条件を求める。
【選択図】 図6
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チョクラルスキー(以下、CZという。)法にて引上げられるシリコン等の単結晶の無欠陥領域をコンピュータシミュレーションにより最大化する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の半導体集積回路の超微細化にともないデバイスの歩留まりを低下させる要因として、結晶に起因したパーティクル(Crystal Originated Particle、以下、COPという。)や、酸化誘起積層欠陥(Oxidation Induced Stacking Fault、以下、OISFという。)の核となる酸素析出物の微小欠陥や、或いは侵入型転位(Interstitial−type Large Dislocation、以下、L/Dという。)の存在が挙げられている。
【0003】
COPは、鏡面研磨されたシリコンウェーハをアンモニアと過酸化水素の混合液で洗浄すると、ウェーハ表面に出現するピットである。このウェーハをパーティクルカウンタで測定すると、このピットがパーティクルとして検出される。このピットは結晶に起因する。COPは電気的特性、例えば酸化膜の経時絶縁破壊特性(Time Dependent dielectric Breakdown、TDDB)、酸化膜耐圧特性(Time Zero Dielectric Breakdown、TZDB)等を劣化させる原因となる。またCOPがウェーハ表面に存在するとデバイスの配線工程において段差を生じ、断線の原因となり得る。そして素子分離部分においてもリーク等の原因となり、製品の歩留りを低くする。
【0004】
OISFは、結晶成長時に微小な酸素析出核がシリコン単結晶中に導入され、半導体デバイスを製造する際の熱酸化工程等で顕在化する欠陥である。このOISFは、デバイスのリーク電流を増加させる等の不良原因になる。L/Dは、転位クラスタとも呼ばれたり、或いはこの欠陥を生じたシリコンウェーハをフッ酸を主成分とする選択エッチング液に浸漬するとピットを生じることから転位ピットとも呼ばれる。このL/Dも、電気的特性、例えばリーク特性、アイソレーション特性等を劣化させる原因となる。以上のことから、半導体集積回路を製造するために用いられるシリコンウェーハからCOP、OISF及びL/Dを減少させることが必要となっている。
【0005】
このCOP、OISF及びL/Dを有しない無欠陥の単結晶インゴット及びこの単結晶インゴットからスライスされたシリコンウェーハが開示されている(例えば、特許文献1参照)。この無欠陥の単結晶インゴットは、単結晶インゴット内での空孔型点欠陥の凝集体及び格子間シリコン型点欠陥の凝集体がそれぞれ存在しないパーフェクト領域を[P]とするとき、パーフェクト領域[P]からなる単結晶インゴットである。パーフェクト領域[P]は、単結晶インゴット内で空孔型点欠陥が優勢であって凝集した点欠陥を有する領域[V]と、格子間シリコン型点欠陥が優勢であって凝集した点欠陥を有する領域[I]との間に介在する。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第6,045,610号明細書に対応する特開平11−1393号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来の特開平11−1393号公報に示された無欠陥の単結晶インゴットでは、単結晶インゴットの全長にわたって空孔型点欠陥の凝集体及び格子間シリコン型点欠陥の凝集体が存在しない引上げ条件を設定するために、引上げ機の種類や単結晶インゴットの太さ毎に実際に単結晶インゴットを引上げてそのライフタイムを測定するという実験を数多く繰返さなければならず、最適な引上げ条件を設定するのに極めて多くの時間と労力を要する不具合があった。
また、上記従来の無欠陥の単結晶インゴットでは、点欠陥濃度を求めるために用いているV/G理論、即ち単結晶の引上げ速度をV(mm/分)とし、単結晶及び融液の固液界面近傍の温度勾配をG(℃/mm)とするときに、V/G(mm2/分・℃)を制御するボロンコフの理論を簡略化した一次元モデル(単結晶の引上げ方向だけのモデル)であるため、単結晶の半径方向への点欠陥の拡散(外方拡散)が考慮されておらず、単結晶の半径方向への点欠陥の濃度勾配を求めることができない問題点があった。
更に、上記従来の無欠陥の単結晶インゴットでは、V/G理論にて点欠陥の濃度を求める場合に、上記Gを高精度で求めるために融液の対流をモデル化して計算する必要があるにも拘らず、このような考慮が全くなされていないため、単結晶内の点欠陥の濃度分布を精度良く求めることができない問題点もあった。
【0008】
本発明の目的は、実際に単結晶を引上げるという実験の回数を少なくすることができ、これにより比較的少ない時間と労力で、単結晶の引上げ方向及び半径方向に無欠陥領域が最も拡大する単結晶製造条件を計算により正確に求めることができる、シミュレーション方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、図1〜図7に示すように、引上げ機11により単結晶14を引上げるときの単結晶製造条件としてフィードバックされる変数を一定の間隔で変量させたパラメータ群P1,P2,…,PNを任意に定義する第1ステップと、パラメータ群P1,P2,…,PNのうちパラメータP1を単結晶製造条件として単結晶14の融液からの引上げ開始時から単結晶14の冷却完了時までの引上げ機11のホットゾーンをメッシュ構造でモデル化する第2ステップと、ホットゾーンの各部材毎にメッシュをまとめかつこのまとめられたメッシュに対する各部材の物性値とともにパラメータ群P1,P2,…,PNのうちのパラメータP1をコンピュータに入力する第3ステップと、各部材の表面温度分布をヒータの発熱量及び各部材の輻射率に基づいて求める第4ステップと、各部材の表面温度分布及び熱伝導率に基づいて熱伝導方程式を解くことにより各部材の内部温度分布を求めた後に融液12が乱流であると仮定して得られた乱流モデル式及びナビエ・ストークスの方程式を連結して解くことにより対流を考慮した融液12の内部温度分布を更に求める第5ステップと、単結晶14及び融液12の固液界面形状を単結晶の三重点Sを含む等温線に合せて求める第6ステップと、第4ステップから第6ステップを三重点Sが単結晶14の融点になるまで繰返し引上げ機11内の温度分布を計算して単結晶14のメッシュの座標及び温度を求めこれらのデータをそれぞれコンピュータに入力する第7ステップと、単結晶14の引上げ長及び引上げ高さを段階的に変えて第2ステップから第7ステップまでを繰返し引上げ機11内の温度分布を計算して単結晶14のメッシュの座標及び温度を求めこれらのデータをそれぞれコンピュータに入力する第8ステップと、単結晶14の融液12からの引上げ開始時から単結晶14の冷却完了時までの時間を所定の間隔毎に区切りこの区切られた時間間隔毎に第8ステップで求めた単結晶14のメッシュの座標及び温度のデータから単結晶14の引上げ長及び引上げ高さと単結晶14内の温度分布とを求める第9ステップと、単結晶14内の空孔及び格子間原子の拡散係数及び境界条件に基づいて拡散方程式を解くことにより所定の時間間隔の経過した後の空孔及び格子間原子の濃度分布を求める第10ステップと、空孔の濃度分布に基づいてボイドの形成開始温度を求める第11ステップと、空孔の濃度分布に基づいて高温酸素析出物の形成開始温度を求める第12ステップと、単結晶14内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が次第に低下してボイドの形成開始温度になったときのボイドの濃度を求める第13ステップと、単結晶14内のそれぞれのメッシュの格子点における温度がボイドの形成開始温度より低いときのボイドの半径を求める第14ステップと、単結晶14内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が次第に低下して高温酸素析出物の形成開始温度になったときの高温酸素析出物の濃度を求める第15ステップと、単結晶14内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が高温酸素析出物の形成開始温度より低いときの高温酸素析出物の半径を求める第16ステップと、第9ステップから第16ステップを単結晶14の冷却が完了するまで繰返す第17ステップと、高温酸素析出物の存在するPバンドとボイド及び高温酸素析出物のいずれも存在しない無欠陥領域とを区画しかつ無欠陥領域がPバンドより単結晶ボトム側に位置するように区画する第1等濃度線HC1Xを求める第18ステップと、高濃度酸素析出物が存在するBバンドと無欠陥領域とを区画しかつ無欠陥領域がBバンドより単結晶トップ側に位置するように区画する第1分布線BC1Xを求める第19ステップと、第1等濃度線HC1Xの変曲点の最大値と第1分布線BC1Xの変曲点の最小値との差ΔZ1を求める第20ステップと、単結晶製造条件のパラメータをP2からPNに順次変え第2ステップから第20ステップを繰返して第1等濃度線HC1Xの変曲点の最大値と第1分布線BC1Xの変曲点の最小値との差ΔZ1を求めた後にこの差ΔZ1が最も大きくなる単結晶製造条件を求める第21ステップとを含むコンピュータを用いて単結晶の無欠陥領域を最大化するシミュレーション方法である。
【0010】
この請求項1に記載された単結晶の無欠陥領域を最大化するシミュレーション方法では、パラメータP1の単結晶製造条件で融液12の対流を考慮して融液12から成長する単結晶14内の温度分布を求めるだけでなく、更に冷却過程における単結晶14内の温度分布までも求めることによって、即ち融液12から切離された単結晶14の冷却過程における単結晶14の徐冷及び急冷の効果を考慮して解析することによって、単結晶14内のボイドの濃度分布及びサイズ分布を予測するとともに、単結晶14内の高温酸素析出物の濃度分布及びサイズ分布も予測する。次いで単結晶14内の第1等濃度線HC1Xと第1分布線BC1Xを計算により求めた後に、第1等濃度線HC1Xの変曲点の最大値と第1分布線BC1Xの変曲点の最小値との差ΔZ1を計算により求める。
次に上記単結晶製造条件のパラメータをP2から順にPNまで変え、上記と同様にして第1等濃度線HC1Xの変曲点の最大値と第1分布線BC1Xの変曲点の最小値との差ΔZ1を計算により求める。更に上記第1等濃度線HC1Xの変曲点の最大値と第1分布線BC1Xの変曲点の最小値との差ΔZ1が最も大きくなる単結晶製造条件を求める。これにより単結晶14の引上げ方向及び半径方向に無欠陥領域が最も拡大する単結晶製造条件を計算により正確に求めることができる。
【0011】
なお、本明細書において「高温酸素析出物」とは、ボイド欠陥の内側に析出する内壁酸化膜を球形に近似して扱ったものをいう。また酸素析出物を高温と限定したのは、ボイド欠陥より低温で析出するBMD(Bulk Micro Defect)等の析出核となるものと区別するためである。また、本明細書において「無欠陥領域」には、空孔が優勢な真性点欠陥を含む無欠陥領域及び格子間原子が優勢な真性欠陥を含む無欠陥領域が存在する。
【0012】
請求項2に係る発明は、図6及び図8〜図12に示すように、請求項1に記載の第1ステップから第17ステップと、高温酸素析出物の存在するPバンドとボイド及び高温酸素析出物のいずれも存在しない無欠陥領域とを区画しかつ無欠陥領域がPバンドより単結晶トップ側に位置するように区画する第2等濃度線HC2Xを求める第18ステップと、高濃度酸素析出物が存在するBバンドと無欠陥領域とを区画しかつ無欠陥領域がBバンドより単結晶ボトム側に位置するように区画する第2分布線BC2Xを求める第19ステップと、第2等濃度線HC2Xの変曲点の最小値と第2分布線BC2Xの変曲点の最大値との差ΔZ2を求める第20ステップと、単結晶製造条件のパラメータをP2からPNに順次変え第2ステップから第20ステップを繰返して第2等濃度線HC2Xの変曲点の最小値と第2分布線BC2Xの変曲点の最大値との差ΔZ2を求めた後にこの差ΔZ2が最も大きくなる単結晶製造条件を求める第21ステップとを含むコンピュータを用いて単結晶の無欠陥領域を最大化するシミュレーション方法である。
【0013】
この請求項2に記載された単結晶の無欠陥領域を最大化するシミュレーション方法では、パラメータP1の単結晶製造条件で上記請求項1と同様に、単結晶14内のボイドの濃度分布及びサイズ分布を予測するとともに、単結晶14内の高温酸素析出物の濃度分布及びサイズ分布も予測する。次いで単結晶14内の第2等濃度線HC2Xと第2分布線BC2Xを計算により求めた後に、第2等濃度線HC2Xの変曲点の最大値と第2分布線BC2Xの変曲点の最小値との差ΔZ2を計算により求める。
次に上記単結晶製造条件のパラメータをP2から順にPNまで変え、上記と同様にして第2等濃度線HC2Xの変曲点の最大値と第2分布線BC2Xの変曲点の最小値との差ΔZ2を計算により求める。更に上記第2等濃度線HC2Xの変曲点の最大値と第2分布線BC2Xの変曲点の最小値との差ΔZ2が最も大きくなる単結晶製造条件を求める。これにより単結晶14の引上げ方向及び半径方向に無欠陥領域が最も拡大する単結晶製造条件を計算により正確に求めることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図6に示すように、シリコン単結晶引上げ機11のチャンバ内には、シリコン融液12を貯留する石英るつぼ13が設けられる。この石英るつぼ13は図示しないが黒鉛サセプタ及び支軸を介してるつぼ駆動手段に接続され、るつぼ駆動手段は石英るつぼ13を回転させるとともに昇降させるように構成される。また石英るつぼ13の外周面は石英るつぼ13から所定の間隔をあけてヒータ(図示せず)により包囲され、このヒータは保温筒(図示せず)により包囲される。ヒータは石英るつぼ13に投入された高純度のシリコン多結晶体を加熱・溶融してシリコン融液12にする。またチャンバの上端には図示しないが円筒状のケーシングが接続され、このケーシングには引上げ手段が設けられる。引上げ手段はシリコン単結晶14を回転させながら引上げるように構成される。
【0015】
このように構成されたシリコン単結晶引上げ機11におけるシリコン単結晶14の無欠陥領域を最大化する第1のシミュレーション方法を図1〜図7に基づいて説明する。
▲1▼ シリコン単結晶14内のボイドの濃度分布及びサイズ分布
先ず第1ステップとして、シリコン単結晶引上げ機11によりシリコン単結晶14を引上げるときの単結晶製造条件を任意に定義する。この単結晶製造条件は引上げ機11によりシリコン単結晶11を引上げるときに、後述する引上げ機11のホットゾーンにフィードバックされる変数を一定の間隔で変量させたパラメータ群P1,P2,…,PNである。また単結晶製造条件としては、シリコン単結晶14の引上げ速度、シリコン単結晶14の回転速度、石英るつぼ13の回転速度、アルゴンガスの流量、ヒートキャップを構成する部材の形状及び材質、ヒートキャップの下端及びシリコン融液12表面間のギャップ、ヒータ出力等が挙げられる。
【0016】
第2ステップとして、シリコン単結晶14を所定長さL1(例えば100mm)まで引上げた状態における引上げ機11のホットゾーンの各部材、即ちチャンバ,石英るつぼ13,シリコン融液12,シリコン単結晶14,黒鉛サセプタ,保温筒等をメッシュ分割してモデル化する。具体的には上記ホットゾーンの各部材のメッシュ点の座標データをコンピュータに入力する。このときシリコン融液12のメッシュのうちシリコン単結晶14の径方向のメッシュであってかつシリコン融液12のシリコン単結晶14直下の一部又は全部のメッシュ(以下、径方向メッシュという。)を0.01〜5.00mm、好ましくは0.25〜1.00mmに設定する。またシリコン融液12のメッシュのうちシリコン単結晶14の長手方向のメッシュであってかつシリコン融液12の一部又は全部のメッシュ(以下、長手方向メッシュという。)を0.01〜5.00mm、好ましくは0.1〜0.5mmに設定する。
【0017】
径方向メッシュを0.01〜5.00mmの範囲に限定したのは、0.01mm未満では計算時間が極めて長くなり、5.00mmを越えると計算が不安定になり、繰返し計算を行っても固液界面形状が一定に定まらなくなるからである。また長手方向メッシュを0.01〜5.00mmの範囲に限定したのは、0.01mm未満では計算時間が極めて長くなり、5.00mmを越えると固液界面形状の計算値が実測値と一致しなくなるからである。なお、径方向メッシュの一部を0.01〜5.00の範囲に限定する場合には、シリコン単結晶14直下のシリコン融液12のうちシリコン単結晶14外周縁近傍のシリコン融液12を上記範囲に限定することが好ましく、長手方向メッシュの一部を0.01〜5.00の範囲に限定する場合には、シリコン融液12の液面近傍及び底近傍を上記範囲に限定することが好ましい。
【0018】
第3ステップとして上記ホットゾーンの各部材毎にメッシュをまとめ、かつこのまとめられたメッシュに対して各部材の物性値をそれぞれコンピュータに入力する。例えば、チャンバがステンレス鋼にて形成されていれば、そのステンレス鋼の熱伝導率,輻射率,粘性率,体積膨張係数,密度及び比熱がコンピュータに入力される。またシリコン単結晶14の引上げ長及びこの引上げ長に対応するシリコン単結晶14の引上げ速度と、後述する乱流モデル式(1)の乱流パラメータCとをコンピュータに入力する。
【0019】
第4ステップとして、ホットゾーンの各部材の表面温度分布をヒータの発熱量及び各部材の輻射率に基づいてコンピュータを用いて計算により求める。即ち、ヒータの発熱量を任意に設定してコンピュータに入力するとともに、各部材の輻射率から各部材の表面温度分布をコンピュータを用いて計算により求める。次に第5ステップとしてホットゾーンの各部材の表面温度分布及び熱伝導率に基づいて熱伝導方程式(1)をコンピュータを用いて解くことにより各部材の内部温度分布を計算により求める。ここでは、記述を簡単にするためxyz直交座標系を用いたが、実際の計算では円筒座標系を用いる。
【0020】
【数1】
ここで、ρは各部材の密度であり、cは各部材の比熱であり、Tは各部材の各メッシュ点での絶対温度であり、tは時間であり、λx,λy及びλzは各部材の熱伝導率のx,y及びz方向成分であり、qはヒータの発熱量である。
一方、シリコン融液12に関しては、上記熱伝導方程式(1)でシリコン融液12の内部温度分布を求めた後に、このシリコン融液12の内部温度分布に基づき、シリコン融液12が乱流であると仮定して得られた乱流モデル式(2)及びナビエ・ストークスの方程式(3)〜(5)を連結して、シリコン融液12の内部流速分布をコンピュータを用いて求める。
【0021】
【数2】
ここで、κtはシリコン融液12の乱流熱伝導率であり、cはシリコン融液12の比熱であり、Prtはプラントル数であり、ρはシリコン融液12の密度であり、Cは乱流パラメータであり、dはシリコン融液12を貯留する石英るつぼ13壁からの距離であり、kはシリコン融液12の平均流速に対する変動成分の二乗和である。
【0022】
【数3】
ここで、u,v及びwはシリコン融液12の各メッシュ点での流速のx,y及びz方向成分であり、νlはシリコン融液12の分子動粘性係数(物性値)であり、νtはシリコン融液12の乱流の効果による動粘性係数であり、Fx,Fy及びFzはシリコン融液12に作用する体積力のx,y及びz方向成分である。
【0023】
上記乱流モデル式(2)はkl(ケイエル)−モデル式と呼ばれ、このモデル式の乱流パラメータCは0.4〜0.6の範囲内の任意の値が用いられることが好ましい。乱流パラメータCを0.4〜0.6の範囲に限定したのは、0.4未満又は0.6を越えると計算により求めた界面形状が実測値と一致しないという不具合があるからである。また上記ナビエ・ストークスの方程式(3)〜(5)はシリコン融液12が非圧縮性であって粘度が一定である流体としたときの運動方程式である。
上記求められたシリコン融液12の内部流速分布に基づいて熱エネルギ方程式(6)を解くことにより、シリコン融液12の対流を考慮したシリコン融液12の内部温度分布をコンピュータを用いて更に求める。
【0024】
【数4】
ここで、u,v及びwはシリコン融液12の各メッシュ点での流速のx,y及びz方向成分であり、Tはシリコン融液12の各メッシュ点での絶対温度であり、ρはシリコン融液12の密度であり、cはシリコン融液12の比熱であり、κlは分子熱伝導率(物性値)であり、κtは式(1)を用いて計算される乱流熱伝導率である。
【0025】
次いで第6ステップとして、シリコン単結晶14及びシリコン融液12の固液界面形状を図6の点Sで示すシリコンの三重点S(固体と液体と気体の三重点(tri−junction))を含む等温線に合せてコンピュータを用いて計算により求める。第7ステップとして、コンピュータに入力するヒータの発熱量を変更し(次第に増大し)、上記第4ステップから第6ステップを三重点Sがシリコン単結晶14の融点になるまで繰返した後に、引上げ機11内の温度分布を計算してシリコン単結晶のメッシュの座標及び温度を求め、これらのデータをコンピュータに記憶させる。
【0026】
次に第8ステップとして、シリコン単結晶14の引上げ長L1にδ(例えば50mm)だけ加えて上記第2ステップから第7ステップまでを繰返した後に、引上げ機11内の温度分布を計算してシリコン単結晶14のメッシュの座標及び温度を求め、これらのデータをコンピュータに記憶させる。この第8ステップは、シリコン単結晶14の引上げ長L1が長さL2(L2はシリコン融液12から切離されたときのシリコン単結晶14の長さ(成長完了時の結晶長)である。)に達してシリコン単結晶14がシリコン融液12から切離された後、更にシリコン単結晶14が引上げられてその高さH1(H1はシリコン単結晶14の直胴開始部からシリコン融液12の液面までの距離である(図6)。)がH2(H2は冷却完了時のシリコン単結晶14の直胴開始部からシリコン融液12の液面までの距離である。)に達するまで、即ちシリコン単結晶14の冷却が完了するまで行われる。なお、シリコン単結晶14がシリコン融液12から切離された後は、シリコン単結晶14の引上げ高さH1にδ(例えば50mm)だけ加え、上記と同様に上記第2ステップから第7ステップまでを繰返す。
【0027】
シリコン単結晶14の引上げ高さH1がH2に達すると、第9ステップに移行する。第9ステップでは、シリコン単結晶14をシリコン融液12から成長させて引上げ始めたときt0から、シリコン単結晶14をシリコン融液12から切離して更にシリコン単結晶14を引上げ、その冷却が完了したときt1までの時間を、所定の間隔Δt秒(微小時間間隔)毎に区切る。このときシリコン単結晶14内の格子間シリコン及び空孔の拡散係数及び境界条件のみならず、後述するボイド及び高温酸素析出物の濃度分布及びサイズ分布を求めるための式に用いられる定数をそれぞれコンピュータに入力する。上記区切られた時間間隔Δt秒毎に、第8ステップで求めたシリコン単結晶14のメッシュの座標及び温度のデータから、シリコン単結晶14の引上げ長L1及び引上げ高さH1と、シリコン単結晶14内の温度分布とを計算により求める。
【0028】
即ち、第2〜第8ステップでシリコン単結晶のメッシュの座標及び温度を引上げ長δ毎に求め、シリコン単結晶を例えば50mm引上げるのに数十分要するため、この数十分間でのシリコン単結晶のメッシュの温度変化を時間の関数として微分することにより、時刻t0からΔt秒後におけるシリコン単結晶14の引上げ長L1及び引上げ高さH1とシリコン単結晶14内の温度分布を算出する。次にシリコン単結晶14内の空孔及び格子間シリコンの拡散係数及び境界条件に基づいて拡散方程式を解くことにより、Δt秒経過後の空孔及び格子間シリコンの濃度分布を計算により求める(第10ステップ)。
【0029】
具体的には、空孔の濃度Cvの計算式が次の式(7)で示され、格子間シリコンの濃度Ciの計算式が次の式(8)で示される。式(7)及び式(8)において、濃度Cv及び濃度Ciの経時的進展を計算するために、空孔と格子間シリコンの熱平衡がシリコン単結晶の全表面で維持されると仮定する。
【0030】
【数5】
ここで、K1及びK2は定数であり、Ei及びEvはそれぞれ格子間シリコン及び空孔の形成エネルギーであり、Cv e及びCi eの肩付き文字eは平衡量、kはボルツマン定数、Tは絶対温度を意味する。
上記平衡式は時間で微分され、空孔及び格子間シリコンに対してそれぞれ次の式(9)及び式(10)になる。
【0031】
【数6】
ここで、Θ(x)はヘビサイド関数(Heaviside function)である。即ち、x<0のときΘ(x)=0であり、かつx>0のときΘ(x)=1である。またTnは高温酸素析出物の形成開始温度Tpとボイドの形成開始温度Tv0とを比較したときの高い方の温度である。更に式(9)及び(10)のそれぞれ右側の第1項はフィックの拡散式であり、右側の第1項中のDv及びDiは、次の式(11)及び(12)に表される拡散係数である。
【0032】
【数7】
ここで△Ev及び△Eiはそれぞれ空孔及び格子間シリコンの活性化エネルギーであり、dv及びdiはそれぞれ定数である。また式(9)及び式(10)のそれぞれ右側の第2項中の
【数8】
は熱拡散による空孔及び格子間シリコンの活性化エネルギーであり、kBはボルツマン定数である。式(9)及び式(10)のそれぞれ右側の第3項のkivは空孔及び格子間シリコンペアの再結合定数である。式(9)及び式(10)のそれぞれ右側の第4項のNv0はボイドの濃度であり、rv0はボイドの半径であり、更に式(9)の右側の第5項のNpは高温酸素析出物の濃度であり、Rpは高温酸素析出物の半径であり、γはSiO2析出物が歪まずに析出するために必要な酸素1原子当りの空孔消費量である。
【0033】
一方、上記式(9)が成立つのは、空孔が析出するための流速が十分大きく、SiマトリックスとSiO2との単位質量当りの体積差を埋められる場合、即ちDv(Cv−Cv e)≧γD0C0の場合である。上記以外の場合には、次式(13)が成立つ。
【0034】
【数9】
次に第11ステップとして、上記拡散方程式を解くことにより求めた空孔の濃度Cv分布に基づいて、ボイドの形成開始温度Tv0を次の式(14)から求める。
【0035】
【数10】
ここで、Cvmはシリコン融液の融点Tmでの空孔平衡濃度であり、Evは空孔形成エネルギーであり、Tmはシリコン単結晶14の融点温度である。またσvはシリコン単結晶14の結晶面(111)における界面エネルギーであり、ρはシリコン単結晶14の密度であり、kBはボルツマン定数である。
【0036】
第12ステップは後述することにして、第13ステップを説明する。第13ステップでは、シリコン単結晶14内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が次第に低下してボイドの形成開始温度Tv0になったときに、次の近似式(15)を用いてボイドの濃度Nv0を求める。
【0037】
【数11】
更に第14ステップとして、シリコン単結晶14内のそれぞれのメッシュの格子点における温度がボイドの形成開始温度Tv0より低いときのボイドの半径rv0を、次の式(16)から求める。
【0038】
【数12】
ここで、t1はシリコン単結晶14のメッシュの格子点における温度がボイドの形成開始温度Tv0まで低下したときの時刻であり、rcrはボイドの臨界径である。上記第9〜第11ステップ、第13及び第14ステップをシリコン単結晶14が800〜1000℃の間の特定値、例えば900℃以下に冷却するまで繰返す(第17ステップ)。なお、式(9)〜式(16)は連成してコンピュータにより解く。また第15及び第16ステップは後述する。
【0039】
▲2▼ シリコン単結晶14内の高温酸素析出物の濃度分布及びサイズ分布
第12ステップに戻って、上記拡散方程式(9)及び(10)を解くことにより求めた空孔の濃度Cv分布に基づいて、高温酸素析出物の形成開始温度Tpを次の式(17)から計算により求める。
【0040】
【数13】
ここで、C0は酸素濃度であり、C0mはシリコン融液12の融点Tmでの酸素平衡濃度であり、E0は酸素溶解エネルギーである。またEvは空孔形成エネルギーであり、σpはシリコン単結晶14内のSiとSiO2との界面エネルギーである。更にγはSiO2析出物が歪まずに析出するために必要な酸素1原子当りの空孔消費量であり、その値は0.68である。
【0041】
次に第15ステップとして、シリコン単結晶14内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が次第に低下して高温酸素析出物の形成開始温度Tpになったときに、次の近似式(18)を用いて高温酸素析出物の濃度Npを求める。なお、式(18)において、a2は定数である。
【0042】
【数14】
更に第16ステップとして、シリコン単結晶14内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が高温酸素析出物の形成開始温度Tpより低いときの高温酸素析出物の半径Rpを、次の式(19)から求める。
【0043】
【数15】
ここで、t2はシリコン単結晶14のメッシュの格子点における温度が高温酸素析出物の形成開始温度Tpまで低下したときの時刻であり、Rcrは高温酸素析出物の臨界径である。
【0044】
一方、上記式(19)が成立つのは、空孔が析出するための流速が十分大きく、SiマトリックスとSiO2との単位質量当りの体積差を埋められる場合、即ちDv(Cv−Cv e)≧γD0C0の場合である。上記以外の場合には、次式(20)が成立つ。
【0045】
【数16】
上記第9、第10、第12、第15及び第16ステップをシリコン単結晶14が800〜1000℃の間の特定値、例えば900℃以下に冷却するまで繰返す(第17ステップ)。なお、上記式(9)〜式(13)及び式(17)〜式(20)は連成してコンピュータにより解く。
【0046】
第18ステップとして、上記高温酸素析出物の存在するPバンドとボイド及び高温酸素析出物のいずれも存在しない無欠陥領域とを区画し、かつ無欠陥領域がPバンドより単結晶ボトム側に位置するように区画する第1等濃度線HC1Xを計算により求める(図7)。次に第19ステップとして、高濃度酸素析出物が存在するBバンドと無欠陥領域とを区画し、かつ無欠陥領域がBバンドより単結晶トップ側に位置するように区画する第1分布線BC1Xを計算により求める。上記第1分布線は、格子間シリコン濃度がシリコン融点での格子間シリコンの平衡濃度に対して0.12〜0.13%の範囲の特定値、例えば0.126%である等濃度線をいう。ここで格子間シリコン濃度0.12〜0.13%の範囲の特定値、例えば0.126%とは、シミュレーションを行って得られた格子間シリコン濃度のうちライフタイムのマップ等から観察されるBバンドに対応する濃度である。またBバンドとは、格子間シリコンの凝集体が核となり熱処理によって酸素析出が高濃度に発生している領域をいう。
【0047】
その後、第20ステップとして、第1等濃度線HC1Xの変曲点の最大値と第1分布線BC1Xの変曲点の最小値との差ΔZ1(X)を求める。第1等濃度線HC1Xの変曲点が例えば3つある場合には、各変曲点Q1(1,X)、Q1(2,X)及びQ1(3,X)の座標を(rQ1(1,X),zQ1(1,X))、(rQ1(2,X),zQ1(2,X))及び(rQ1(3,X),zQ1(3,X))とすると、これらの座標のうちz座標zQ1(1,X)、zQ1(2,X)及びzQ1(3,X)のうちの最大値zQ1(1,X)を求める。また第1分布線BC1Xの変曲点が例えば5つある場合には、各変曲点S1(1,X)、S1(2,X)、S1(3,X)、S1(4,X)及びS1(5,X)の座標を(rS1(1,X),zS1(1,X))、(rS1(2,X),zS1(2,X))、(rS1(3,X),zS1(3,X))、(rS1(4,X),zS1(4,X))及び(rS1(5,X),zS1(5,X))とすると、これらの座標のうちz座標zS1(1,X)、zS1(2,X)、zS1(3,X)、zS1(4,X)及びzS1(5,X)のうちの最小値zS1(3,X)を求める。そして第1等濃度線HC1Xの変曲点の最大値zQ1(1,X)と第1分布線BC1Xの変曲点の最小値zS1(3,X)との差ΔZ1(X)を求める。
【0048】
第21ステップとして、単結晶製造条件のパラメータをP2に変え第2ステップから第20ステップを実行し、単結晶製造条件のパラメータをP3に変え第2ステップから第20ステップを実行するというように、単結晶製造条件のパラメータがPNになるまで上記第2ステップから第20ステップを繰返した後に、第1等濃度線HC1Xの変曲点の最大値と第1分布線BC1Xの変曲点の最小値との差ΔZ1(X)を求め、更にこの差ΔZ1(X)が最も大きくなる単結晶製造条件を計算により求める。
【0049】
このように計算して求められたシリコン単結晶引上げ機11における単結晶製造条件は、シリコン単結晶14の引上げ方向及び半径方向に無欠陥領域が最も拡大する条件であり、この単結晶製造条件を上記計算により正確に求めることができる。この結果、上述のようにコンピュータを用いた計算によりシリコン単結晶14の無欠陥領域が最も拡大する単結晶製造条件を設定することができるので、実際にシリコン単結晶を引上げてライフタイム等を測定する実験は上記単結晶製造条件が無欠陥領域が実際に拡大しているか否かの確認のためにだけ行えば済む。従って、上記実験の回数を低減できるので、比較的少ない時間と労力で、最適な単結晶製造条件を得ることができる。なお、図7から明らかなように、上記差ΔZ1(X)が大きくなると、シリコン単結晶14の引上げ方向及び半径方向にわたって無欠陥領域とするためのシリコン単結晶14の引上げ速度の幅、即ちピュアマージンが大きくなるので、全長のわたって無欠陥のシリコン単結晶14を比較的容易に引上げることができる。
【0050】
次にシリコン単結晶引上げ機11におけるシリコン単結晶14の無欠陥領域を最大化する第2のシミュレーション方法を図6〜図12に基づいて説明する。
第1〜第17ステップは、上記第1のシミュレーション方法の第1〜第17ステップと同一である。
【0051】
第18ステップとして、上記高温酸素析出物の存在するPバンドとボイド及び高温酸素析出物のいずれも存在しない無欠陥領域とを区画し、かつ無欠陥領域がPバンドより単結晶トップ側に位置するように区画する第2等濃度線HC2Xを計算により求める(図7)。次に第19ステップとして、高濃度酸素析出物が存在するBバンドと無欠陥領域とを区画し、かつ無欠陥領域がBバンドより単結晶ボトム側に位置するように区画する第2分布線BC2Xを計算により求める。上記第2分布線は、格子間シリコン濃度がシリコン融点での格子間シリコンの平衡濃度に対して0.12〜0.13%の範囲の特定値、例えば0.126%である等濃度線をいう。ここで格子間シリコン濃度0.12〜0.13%の範囲の特定値、例えば0.126%とは、シミュレーションを行って得られた格子間シリコン濃度のうちライフタイムのマップ等から観察されるBバンドに対応する濃度である。
【0052】
その後、第20ステップとして、第2等濃度線HC2Xの変曲点の最小値と第2分布線BC2Xの変曲点の最大値との差ΔZ2(X)を求める。第2等濃度線HC2Xの変曲点が例えば3つある場合には、各変曲点Q2(1,X)、Q2(2,X)及びQ2(3,X)の座標を(rQ2(1,X),zQ2(1,X))、(rQ2(2,X),zQ2(2,X))及び(rQ2(3,X),zQ2(3,X))とすると、これらの座標のうちz座標zQ2(1,X)、zQ2(2,X)及びzQ2(3,X)のうちの最小値zQ2(1,X)を求める。また第2分布線BC2Xの変曲点が例えば5つある場合には、各変曲点S2(1,X)、S2(2,X)、S2(3,X)、S2(4,X)及びS2(5,X)の座標を(rS2(1,X),zS2(1,X))、(rS2(2,X),zS2(2,X))、(rS2(3,X),zS2(3,X))、(rS2(4,X),zS2(4,X))及び(rS2(5,X),zS2(5,X))とすると、これらの座標のうちz座標zS2(1,X)、zS2(2,X)、zS2(3,X)、zS2(4,X)及びzS2(5,X)のうちの最大値zS2(3,X)を求める。そして第2等濃度線HC2Xの変曲点の最小値zQ2(1,X)と第2分布線BC2Xの変曲点の最大値zS2(3,X)との差ΔZ2(X)を求める。
【0053】
第21ステップとして、単結晶製造条件のパラメータをP2に変え第2ステップから第20ステップを実行し、単結晶製造条件のパラメータをP3に変え第2ステップから第20ステップを実行するというように、単結晶製造条件のパラメータがPNになるまで上記第2ステップから第20ステップを繰返した後に、第2等濃度線HC2Xの変曲点の最小値と第2分布線BC2Xの変曲点の最大値との差ΔZ2(X)を求め、更にこの差ΔZ2(X)が最も大きくなる単結晶製造条件を計算により求める。
【0054】
このように計算して求められたシリコン単結晶引上げ機11における単結晶製造条件は、シリコン単結晶14の引上げ方向及び半径方向に無欠陥領域が最も拡大する条件であり、この単結晶製造条件を上記計算により正確に求めることができる。この結果、上述のようにコンピュータを用いた計算によりシリコン単結晶14の無欠陥領域が最も拡大する単結晶製造条件を設定することができるので、実際にシリコン単結晶を引上げてライフタイム等を測定する実験は上記単結晶製造条件が無欠陥領域が実際に拡大しているか否かの確認のためにだけ行えば済む。従って、上記実験の回数を低減できるので、比較的少ない時間と労力で、最適な単結晶製造条件を得ることができる。なお、図7から明らかなように、上記差ΔZ2(X)が大きくなると、シリコン単結晶14の引上げ方向及び半径方向にわたって無欠陥領域とするためのシリコン単結晶14の引上げ速度の幅、即ちピュアマージンが大きくなるので、全長のわたって無欠陥のシリコン単結晶14を比較的容易に引上げることができる。
なお、上記実施の形態では、単結晶としてシリコン単結晶を挙げたが、GaAs単結晶,InP単結晶,ZnS単結晶若しくはZnSe単結晶でもよい。
【0055】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、先ず所定の単結晶製造条件で融液の対流を考慮することにより、計算した結晶及び融液の固液界面形状が実際の単結晶の引上げ時の形状とほぼ一致するようにして単結晶の内部温度を求めるだけでなく、更に冷却過程における単結晶内の温度分布までも求めることによって、即ち融液から切離された単結晶の冷却過程における単結晶の徐冷及び急冷の効果を考慮することによって、単結晶内の欠陥の濃度分布及びサイズ分布をコンピュータを用いて求める。次に単結晶内の第1等濃度線と第1分布線を計算により求めて、第1等濃度線の変曲点の最大値と第1分布線の変曲点の最小値との差を計算により求めた後に、上記単結晶製造条件のパラメータを変え、上記と同様にして第1等濃度線の変曲点の最大値と第1分布線の変曲点の最小値との差を計算により求める。更に上記第1等濃度線の変曲点の最大値と第1分布線の変曲点の最小値との差が最も大きくなる単結晶製造条件を求める。これにより単結晶の引上げ方向及び半径方向に無欠陥領域が最も拡大する単結晶製造条件を計算により正確に求めることができる。このため上記無欠陥領域が最も拡大する単結晶製造条件を設定するのに数多くの実験を繰返す必要のあった従来の無欠陥の単結晶インゴットと比較して、本発明では、上記無欠陥領域が最も拡大する単結晶製造条件を設定するための実験の回数を低減できる。この結果、本発明では、比較的少ない時間と労力で、無欠陥領域が最も拡大する単結晶製造条件を得ることができる。
【0056】
また単結晶内の第2等濃度線と第2分布線を計算により求めて、第2等濃度線の変曲点の最大値と第2分布線の変曲点の最小値との差を計算により求めた後に、上記単結晶製造条件のパラメータを変え、上記と同様にして第2等濃度線の変曲点の最大値と第2分布線の変曲点の最小値との差を計算により求め、更に上記第1等濃度線の変曲点の最大値と第1分布線の変曲点の最小値との差が最も大きくなる単結晶製造条件を求めても、上記と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施形態の第1のシミュレーション方法の第1段を示すフローチャート。
【図2】そのシミュレーション方法の第2段を示すフローチャート。
【図3】そのシミュレーション方法の第3段を示すフローチャート。
【図4】そのシミュレーション方法の第4段を示すフローチャート。
【図5】そのシミュレーション方法の第5段を示すフローチャート。
【図6】シリコン融液をメッシュ構造としたシリコン単結晶の引上げ機の要部断面図。
【図7】そのシリコン単結晶の引上げ速度を変化させたときのシリコン単結晶内の格子間シリコン及び空孔の分布を示す説明図。
【図8】本発明実施形態の第2のシミュレーション方法の第1段を示すフローチャート。
【図9】そのシミュレーション方法の第2段を示すフローチャート。
【図10】そのシミュレーション方法の第3段を示すフローチャート。
【図11】そのシミュレーション方法の第4段を示すフローチャート。
【図12】そのシミュレーション方法の第5段を示すフローチャート。
【符号の説明】
11 シリコン単結晶引上げ機
12 シリコン融液
14 シリコン単結晶
S シリコンの三重点
Claims (2)
- 引上げ機(11)により単結晶(14)を引上げるときの単結晶製造条件としてフィードバックされる変数を一定の間隔で変量させたパラメータ群P1,P2,…,PNを任意に定義する第1ステップと、
前記パラメータ群P1,P2,…,PNのうちパラメータP1を前記単結晶製造条件として前記単結晶(14)の融液からの引上げ開始時から前記単結晶(14)の冷却完了時までの前記引上げ機(11)のホットゾーンをメッシュ構造でモデル化する第2ステップと、
前記ホットゾーンの各部材毎にメッシュをまとめかつこのまとめられたメッシュに対する前記各部材の物性値とともに前記パラメータ群P1,P2,…,PNのうちのパラメータP1をコンピュータに入力する第3ステップと、
前記各部材の表面温度分布をヒータの発熱量及び前記各部材の輻射率に基づいて求める第4ステップと、
前記各部材の表面温度分布及び熱伝導率に基づいて熱伝導方程式を解くことにより前記各部材の内部温度分布を求めた後に融液(12)が乱流であると仮定して得られた乱流モデル式及びナビエ・ストークスの方程式を連結して解くことにより対流を考慮した前記融液(12)の内部温度分布を更に求める第5ステップと、
前記単結晶(14)及び前記融液(12)の固液界面形状を前記単結晶の三重点(S)を含む等温線に合せて求める第6ステップと、
前記第4ステップから前記第6ステップを前記三重点(S)が前記単結晶(14)の融点になるまで繰返し前記引上げ機(11)内の温度分布を計算して前記単結晶(14)のメッシュの座標及び温度を求めこれらのデータをそれぞれ前記コンピュータに入力する第7ステップと、
前記単結晶(14)の引上げ長及び引上げ高さを段階的に変えて前記第2ステップから前記第7ステップまでを繰返し前記引上げ機(11)内の温度分布を計算して前記単結晶(14)のメッシュの座標及び温度を求めこれらのデータをそれぞれ前記コンピュータに入力する第8ステップと、
前記単結晶(14)の前記融液(12)からの引上げ開始時から前記単結晶(14)の冷却完了時までの時間を所定の間隔毎に区切り前記区切られた時間間隔毎に第8ステップで求めた前記単結晶(14)のメッシュの座標及び温度のデータから前記単結晶(14)の引上げ長及び引上げ高さと前記単結晶(14)内の温度分布とを求める第9ステップと、
前記単結晶(14)内の空孔及び格子間原子の拡散係数及び境界条件に基づいて拡散方程式を解くことにより前記所定の時間間隔の経過した後の空孔及び格子間原子の濃度分布を求める第10ステップと、
前記空孔の濃度分布に基づいてボイドの形成開始温度を求める第11ステップと、
前記空孔の濃度分布に基づいて高温酸素析出物の形成開始温度を求める第12ステップと、
前記単結晶(14)内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が次第に低下して前記ボイドの形成開始温度になったときの前記ボイドの濃度を求める第13ステップと、
前記単結晶(14)内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が前記ボイドの形成開始温度より低いときの前記ボイドの半径を求める第14ステップと、
前記単結晶(14)内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が次第に低下して前記高温酸素析出物の形成開始温度になったときの前記高温酸素析出物の濃度を求める第15ステップと、
前記単結晶(14)内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が前記高温酸素析出物の形成開始温度より低いときの前記高温酸素析出物の半径を求める第16ステップと、
第9ステップから第16ステップを前記単結晶(14)の冷却が完了するまで繰返す第17ステップと、
前記高温酸素析出物の存在するPバンドと前記ボイド及び前記高温酸素析出物のいずれも存在しない無欠陥領域とを区画しかつ前記無欠陥領域が前記Pバンドより単結晶ボトム側に位置するように区画する第1等濃度線(HC1X)を求める第18ステップと、
高濃度酸素析出物が存在するBバンドと前記無欠陥領域とを区画しかつ前記無欠陥領域が前記Bバンドより単結晶トップ側に位置するように区画する第1分布線(BC1X)を求める第19ステップと、
前記第1等濃度線(HC1X)の変曲点の最大値と前記第1分布線(BC1X)の変曲点の最小値との差(ΔZ1)を求める第20ステップと、
前記単結晶製造条件のパラメータをP2からPNに順次変え前記第2ステップから前記第20ステップを繰返して前記第1等濃度線(HC1X)の変曲点の最大値と前記第1分布線(BC1X)の変曲点の最小値との差(ΔZ1)を求めた後に前記差(ΔZ1)が最も大きくなる単結晶製造条件を求める第21ステップと
を含むコンピュータを用いて単結晶の無欠陥領域を最大化するシミュレーション方法。 - 引上げ機(11)により単結晶(14)を引上げるときの単結晶製造条件としてフィードバックされる変数を一定の間隔で変量させたパラメータ群P1,P2,…,PNを任意に定義する第1ステップと、
前記パラメータ群P1,P2,…,PNのうちパラメータP1を前記単結晶製造条件として前記単結晶(14)の融液からの引上げ開始時から前記単結晶(14)の冷却完了時までの前記引上げ機(11)のホットゾーンをメッシュ構造でモデル化する第2ステップと、
前記ホットゾーンの各部材毎にメッシュをまとめかつこのまとめられたメッシュに対する前記各部材の物性値とともに前記パラメータ群P1,P2,…,PNのうちのパラメータP1をコンピュータに入力する第3ステップと、
前記各部材の表面温度分布をヒータの発熱量及び前記各部材の輻射率に基づいて求める第4ステップと、
前記各部材の表面温度分布及び熱伝導率に基づいて熱伝導方程式を解くことにより前記各部材の内部温度分布を求めた後に融液(12)が乱流であると仮定して得られた乱流モデル式及びナビエ・ストークスの方程式を連結して解くことにより対流を考慮した前記融液(12)の内部温度分布を更に求める第5ステップと、
前記単結晶(14)及び前記融液(12)の固液界面形状を前記単結晶の三重点(S)を含む等温線に合せて求める第6ステップと、
前記第4ステップから前記第6ステップを前記三重点(S)が前記単結晶(14)の融点になるまで繰返し前記引上げ機(11)内の温度分布を計算して前記単結晶(14)のメッシュの座標及び温度を求めこれらのデータをそれぞれ前記コンピュータに入力する第7ステップと、
前記単結晶(14)の引上げ長及び引上げ高さを段階的に変えて前記第2ステップから前記第7ステップまでを繰返し前記引上げ機(11)内の温度分布を計算して前記単結晶(14)のメッシュの座標及び温度を求めこれらのデータをそれぞれ前記コンピュータに入力する第8ステップと、
前記単結晶(14)の前記融液(12)からの引上げ開始時から前記単結晶(14)の冷却完了時までの時間を所定の間隔毎に区切り前記区切られた時間間隔毎に第8ステップで求めた前記単結晶(14)のメッシュの座標及び温度のデータから前記単結晶(14)の引上げ長及び引上げ高さと前記単結晶(14)内の温度分布とを求める第9ステップと、
前記単結晶(14)内の空孔及び格子間原子の拡散係数及び境界条件に基づいて拡散方程式を解くことにより前記所定の時間間隔の経過した後の空孔及び格子間原子の濃度分布を求める第10ステップと、
前記空孔の濃度分布に基づいてボイドの形成開始温度を求める第11ステップと、
前記空孔の濃度分布に基づいて高温酸素析出物の形成開始温度を求める第12ステップと、
前記単結晶(14)内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が次第に低下して前記ボイドの形成開始温度になったときの前記ボイドの濃度を求める第13ステップと、
前記単結晶(14)内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が前記ボイドの形成開始温度より低いときの前記ボイドの半径を求める第14ステップと、
前記単結晶(14)内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が次第に低下して前記高温酸素析出物の形成開始温度になったときの前記高温酸素析出物の濃度を求める第15ステップと、
前記単結晶(14)内のそれぞれのメッシュの格子点における温度が前記高温酸素析出物の形成開始温度より低いときの前記高温酸素析出物の半径を求める第16ステップと、
第9ステップから第16ステップを前記単結晶(14)の冷却が完了するまで繰返す第17ステップと、
前記高温酸素析出物の存在するPバンドと前記ボイド及び前記高温酸素析出物のいずれも存在しない無欠陥領域とを区画しかつ前記無欠陥領域が前記Pバンドより単結晶トップ側に位置するように区画する第2等濃度線(HC2X)を求める第18ステップと、
高濃度酸素析出物が存在するBバンドと前記無欠陥領域とを区画しかつ前記無欠陥領域が前記Bバンドより単結晶ボトム側に位置するように区画する第2分布線(BC2X)を求める第19ステップと、
前記第2等濃度線(HC2X)の変曲点の最小値と前記第2分布線(BC2X)の変曲点の最大値との差(ΔZ2)を求める第20ステップと、
前記単結晶製造条件のパラメータをP2からPNに順次変え前記第2ステップから前記第20ステップを繰返して前記第2等濃度線(HC2X)の変曲点の最小値と前記第2分布線(BC2X)の変曲点の最大値との差(ΔZ2)を求めた後に前記差(ΔZ2)が最も大きくなる単結晶製造条件を求める第21ステップと
を含むコンピュータを用いて単結晶の無欠陥領域を最大化するシミュレーション方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2016013957A (ja) * | 2014-07-03 | 2016-01-28 | 信越半導体株式会社 | 点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法、Grown−in欠陥面内分布計算方法及びこれらを用いたシリコン単結晶製造方法 |
CN113744818A (zh) * | 2021-09-03 | 2021-12-03 | 上海大学 | 一种三元稀土氧化物复合点缺陷的预测方法 |
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