JP2004091233A - 金属硫化物薄膜およびその製造方法 - Google Patents

金属硫化物薄膜およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】金属硫化物の良質な単相薄膜、および金属硫化物薄膜を安価にかつ容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】第1原料としてハロゲン化鉄(FeCl、FeI、FeBr、FeCl、FeI、FeBr)等の金属ハロゲン化物、第2原料としてチオアセトアミド等のチオアミド化合物を用い、好ましくは、これらを気化させ、大気圧下で反応させる金属硫化物薄膜の製造方法およびこの方法により製造された金属硫化物薄膜を提供する。
【選択図】   なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属硫化物薄膜およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
硫化鉄〔特に二硫化鉄(パイライトFeS)〕薄膜は、薄膜太陽電池における光吸収材料として期待され、近年盛んに開発が進められている。このような金属硫化物薄膜を工業製品として実用化するためには、薄膜の質の高さが要求されるばかりでなく、薄膜を安価にかつ大量に生産可能とすることなどが要求され、これらの条件を満たす技術の開発がなされてきた。
【0003】
このような金属硫化物薄膜の製造方法として、MOCVD、スパッタリングなど、真空下での薄膜製造方法、または金属薄膜の熱処理による硫化などが挙げられる。
【0004】
MOCVD(有機金属化学気相蒸着法:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)は、薄膜材料を高温中で反応させて基材上に成膜するCVDプロセスのうち、特にその材料に有機金属を用いる方法をいい、MOCVDによる薄膜製造法は、例えば、Jounal of Crystal Growth,151巻,325頁,1995に開示されている。
また、スパッタリングは、金属などに不活性ガスを吹きつけ、それにより弾き出された分子を目的物の表面につける方法をいい、スパッタリングによる薄膜製造法は、例えば、Thin Solid Films,246巻,6頁,1994に開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの製造方法は高価な真空系設備やTBDS等の高価な原料が必要であり、かつ成膜速度が遅い、あるいは工程数が多いなど工業化に関して多くの問題点を抱えていた。特に硫化鉄は、トロイライトFeS、ピロータイトFe1−xS、パイライトFeS、マルカサイトFeSといった様々な化合物形態を有しており、これらの中から良質な単相のみからなる薄膜を製造するには厳密な条件設定等が必要であった。なかでも薄膜太陽電池用材料として期待される二硫化鉄(パイライトFeS)薄膜の製造は困難であり、硫黄の欠陥が存在すると薄膜の一部がピロータイトFe1−xSになるなど、多相薄膜となってしまうといった問題があった。
【0006】
また、金属硫化物薄膜の製造方法として、特開平8−199333号公報、特開平8−218161号公報において、Fe+CuO膜またはFe+S膜を製造後、硫黄を含む雰囲気中で加熱処理することにより金属を硫化する方法が提案されている。しかし、成膜後に加熱処理などの後処理がさらに必要となるなど工程が複雑であり、また、加熱処理により完全に金属を硫化するための条件設定が難しく、良質な単相薄膜を製造することが困難であるなどの問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、金属硫化物の良質な単相薄膜、および該薄膜を安価にかつ容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、金属硫化物薄膜の製造方法であって、第1原料として金属ハロゲン化物、第2原料としてチオアミド化合物を用いることを特徴とする。好ましくは、前記金属ハロゲン化物および前記チオアミド化合物は気化させ、大気圧下で反応させる。
【0009】
なお、前記金属ハロゲン化物はハロゲン化鉄が好ましく、特に、前記ハロゲン化鉄は、FeClと、FeIと、FeBrと、FeClと、FeIと、FeBrとからなる群から選ばれる少なくとも1つであると好ましい。また、前記チオアミド化合物はチオアセトアミド(CHCSNH)が好ましい。なお、「チオアミド化合物」とは、チオアミド基(−CSNH)を有する有機化合物(R−CSNH)を意味する。
なお、特に、副産物としてトリアジン化合物が生成すると好ましい。
【0010】
また、本発明は、別の側面として、金属硫化物薄膜であり、該金属硫化物薄膜は、上記の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0011】
本発明によると、原料である金属ハロゲン化物およびチオアミド化合物は、従来の真空系薄膜製造装置で用いるような高純度材料である必要はなく、このため安価な原料により金属硫化物薄膜を製造することができる。また、硫黄源をチオアミド化合物とすることで、比較的容易に硫黄元素を供給できる。このため、金属ハロゲン化物を効率的に硫化することができ、欠陥などの少ない良質の金属硫化物薄膜を製造することができる。特に、以下に詳細に説明するように、チオアミド化合物が反応する過程で、トリアジン化合物が副生し、さらに単体の硫黄元素が生成するので、この硫黄元素により金属ハロゲン化物を効率的に硫化することが可能となり、良質な金属硫化物の単相薄膜を、比較的低温で製造することができる。
また、本発明にかかる金属硫化物薄膜の製造方法は膜の成長速度が速く、また、成膜と同時に良質な金属硫化物薄膜が完成するため加熱処理による硫化といった後工程が不要である。
【0012】
また、大気圧下で金属硫化物薄膜を製造できるため、特に硫黄元素などの欠陥の発生が抑制され、良質な金属硫化物薄膜が製造できる。さらに、高価な真空系設備が不要であるため、設備を簡易化できる。
また、特に、ハロゲン化鉄とチオアミド化合物を原料にすることで、薄膜太陽電池の光吸収材料として期待される硫化鉄単相薄膜(パイライトFeS)を製造することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る金属硫化物薄膜の製造方法を、その実施の形態について、添付図面を参照して説明する。もっとも、以下の実施の形態は本発明を限定するものではない。
図1に、本発明を実施するための装置について、その1実施の形態を示す。
本装置は、水平置きの反応器であり、主要な要素として第1原料気化部11、第2原料気化部12、成膜部13を備える。
【0014】
第1原料気化部11は、その周囲に、第1原料気化部11を所定の温度に制御するためのヒーター5aを備え、その内部に、第1原料を入れるための原料ボート4aを備える。また、第1原料気化部11は、その一端からキャリアガスを供給可能であり、他端からガスを送出可能である。
【0015】
同様に、第2原料気化部12は、その周囲に、第2原料気化部12を所定の温度に制御するためのヒーター5bを備え、その内部に、第2原料を入れるための原料ボート4bを備える。また、第2原料気化部12は、その一端からキャリアガスを供給可能であり、他端からガスを送出可能である。
【0016】
成膜部13は、その周囲に、成膜部13を所定の温度に制御するためのヒーター5cを備え、その内部に、基材3を配置するための基材支持台6を備える。また、上記した、第1原料気化部11、第2原料気化部12から送出されたガスは、成膜部13に供給される。なお、成膜部13に供給する各原料を含むガスの、基材3に対する向きは、特に限定されるものではない。すなわち、ガスを供給する向きは、基材3の薄膜を設ける面に対して平行であっても垂直であってもよく、さらにある角度をもっていてもよい。
【0017】
次に、図1の装置を用いて、本発明にかかる金属硫化物薄膜の製造方法を実施する形態について説明する。
【0018】
まず、第1原料として金属ハロゲン化物1を、第2原料としてチオアミド化合物2を、それぞれ原料ボート4a、4bに入れる。ここで、上記したように、金属ハロゲン化物1としてハロゲン化鉄が好ましく、ハロゲン化鉄としてFeCl、FeI、FeBr、FeCl、FeI、FeBrが好ましい。特に、扱いが容易、かつ値段が安いという理由で、FeClが好適である。また、チオアミド化合物2としては、チオアセトアミドが好ましい。なお、原料となる金属ハロゲン化物1とチオアミド化合物2の純度は、従来の真空系薄膜製造装置で用いるような高純度材料である必要はなく、例えば99.5%程度の純度があれば十分である。
【0019】
次に、第1原料気化部11および第2原料気化部12を加熱することにより、各原料の一部を気化する。ここで、各原料を加熱する温度は、各原料が気化する温度であれば良く、例えば、第1原料としてFeClを用いた場合は、第1原料気化部11は約180℃とすると好ましく、第2原料としてチオアセトアミドを用いた場合は、第2原料気化部12は約70℃とすると好ましい。
【0020】
次に、気化した各原料は、キャリアガスにより成膜部13に供給する。このとき基材3の配置された成膜部13は加熱し、所定の温度に保持しておく。
ここで、成膜部13は、好ましくは350〜450℃、さらに好ましくは375〜425℃に加熱する。この時、装置内の圧力は大気圧に保つことができる。
また、基材3は特に限定されるものではなく、ガラスあるいは単結晶材料であるサファイア、シリコンなどを用いることができる。また、基材3上に金属硫化物薄膜との格子不整合度の差を緩和するためのバッファー層を設け、このバッファー層の上に金属硫化物薄膜を形成することにより、さらに結晶性に優れた金属硫化物薄膜(例えば単結晶薄膜)を製造することもできる。なお、バッファー層は通常の被膜処理により形成することができ、また、バッファー層としては、例えば、硫化鉄薄膜を作製する場合には、Fe、FeS、Fe1−xS、FeS、MoSなどを用いることができる。
【0021】
成膜部13で加熱された各原料は反応し、チオアミド化合物2からトリアジン化合物が生成すると同時に、基材3上に金属硫化物の薄膜が形成される。
なお、各原料の供給量は各原料の加熱温度、キャリアガス流量により制御可能である。また、キャリアガスは、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスも使用できるが、安価という点で窒素(N)が好ましい。
【0022】
【実施例】
[実施例]
以下に、本発明にかかる金属硫化物薄膜の製造方法の実施例を示す。本実施例は、上記した実施の形態に基づき、図1と同様の、水平置きで石英ガラス製の反応器を用いて行った。
本実施例では、第1原料としてFeCl、第2原料としてチオアセトアミド(CHCSNH)を用いて、硫化鉄(パイライトFeS)薄膜を製造した。なお、基材3としてガラス基材を用いた。第1原料気化部11、第2原料気化部12、成膜部13は、それぞれ180℃、70℃、400℃に加熱した。また、キャリアガスとしてNを、総ガス流量が1200mL/minとなるように供給し、60分間成膜を行った。なお、この間、装置内の圧力は大気圧に保った。
【0023】
ガラス基材上に形成された薄膜をX線回折した結果、およびJCPDSカードに示されているFeS(パイライト)、FeS(マルカサイト)、Fe1−xS(ピロータイト)のX線回折パターンを図2に示す。この結果から、薄膜太陽電池の光吸収材料を目的とするFeS(パイライト)薄膜が形成されていることがわかった。また、このFeS(パイライト)薄膜は不純物の混在や欠陥のない良質な単相薄膜であった。ここから、本発明にかかる薄膜の製造方法は、成膜後に硫黄雰囲気中で加熱処理(硫化)などの後処理をする必要がなく、工業化に対して非常に有利であることが了解された。
【0024】
また、本発明者らは、ガスクロマトグラフと質量分析を組み合わせることにより、本実施例での反応機構を明らかにした。図3に、チオアセトアミドを所定の温度で加熱した際に生成する物質をガスクロマトグラフ質量分析計により分析した結果を示す。図3に示すように、基材温度368℃付近において、化1に示すトリメチルトリアジン(Trimethyltriazine)が生成していることがわかった。
【0025】
【化1】
Figure 2004091233
【0026】
ここから、図4に示すように、本実施例の成膜温度である400℃付近において、チオアセトアミドからトリメチルトリアジン21が生成されることが分かる。
以上の結果から、化2に示す反応機構で、FeClおよびチオアセトアミドからパイライトFeSが生成すると考えられる。
【0027】
【化2】
Figure 2004091233
【0028】
つまり、加熱化においてチオアセトアミドからトリメチルトリアジン21が生成し、その過程で単体の硫黄22が同時に生成する。さらにこの単体の硫黄22がFeClを硫化することによりパイライトFeS単相薄膜が形成される。
以上のように、チオアミド化合物からトリアジン化合物が生成される過程により、単体の硫黄が生成され、この硫黄が金属硫化物薄膜の生成に寄与することにより、後工程なしで良質な金属硫化物薄膜を製造できる。
【0029】
[比較例]
本発明者らは、比較実験として、第1原料としてFeCl、硫黄源となる第2原料として硫化水素(HS)ガス、あるいはチオ尿素(CHCSCH)を用いて薄膜の製造を試みた。なお、硫化水素(HS)ガスは、硫黄源として一般的に用いられるものであり、チオ尿素(CHCSCH)は、チオアセトアミドと類似の構造を有している。しかし、どちらの化合物を硫黄源として用いた場合も、硫化鉄薄膜は製造できなかった。これらの結果から、第2原料としてチオアミド化合物を用いることが重要であることがわかる。
【0030】
【発明の効果】
上記したところから明らかなように、本発明によれば、金属硫化物の良質な単相薄膜、および金属硫化物薄膜を安価にかつ容易に製造する方法が提供される。また、本発明にかかる金属硫化物薄膜の製造方法は、膜の生成速度も速く、真空計設備等の高価な設備を要しないため、工業化に適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る金属硫化物薄膜を実施するための装置の1実施の形態を示す概念図である。
【図2】本発明に係る金属硫化物薄膜の製造方法により製造した硫化鉄(パイライトFeS)薄膜のX線回折の結果を示すグラフである。
【図3】本発明に係る金属硫化物薄膜の製造方法により製造した硫化鉄(パイライトFeS)薄膜のガスクロマトグラフと質量分析の解析結果を示すグラフである。
【図4】チオアセトアミドからトリメチルトリアジンが生成される過程の反応メカニズムを示す模式図である。
【符号の説明】
1  金属ハロゲン化物(第1原料)
2  チオアミド化合物(第2原料)
3  基材
4a,b  原料ボート
5a,b,c  ヒーター
6  基材支持台
11 第1原料気化部
12 第2原料気化部
13 成膜部
21 トリメチルトリアジン
22 硫黄

Claims (7)

  1. 第1原料として金属ハロゲン化物、第2原料としてチオアミド化合物を用いることを特徴とする金属硫化物薄膜の製造方法。
  2. 前記金属ハロゲン化物および前記チオアミド化合物を気化させ、大気圧下で反応させることを特徴とする請求項1に記載の金属硫化物薄膜の製造方法。
  3. 前記金属ハロゲン化物がハロゲン化鉄であることを特徴とする請求項1または2に記載の硫化鉄薄膜の製造方法。
  4. 前記ハロゲン化鉄が、FeClと、FeIと、FeBrと、FeClと、FeIと、FeBrとからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載の硫化鉄薄膜の製造方法。
  5. 前記チオアミド化合物がチオアセトアミドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の製造方法。
  6. 副産物としてトリアジン化合物が生成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか1に記載の方法により製造されたことを特徴とする金属硫化物薄膜。
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