JP2004090848A - 鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法 - Google Patents

鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鉄道車両の異常を初期段階で早期に発見することができ、誤検出の少ない鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法を提供すること。
【解決手段】列車を編成する複数の鉄道車両1の異常を検知する鉄道車両1の異常検知装置において、鉄道車両1のある特定部位の振動加速度又は角速度を等距離間隔で測定するサンプリング手段11A,11Bと、振動加速度又は角速度の測定信号を空間バンドパスフィルタ処理後に2乗平均して空間周波数に対する加速度パワー又は角速度パワーを求める演算手段12A,12Bと、加速度パワー又は角速度パワーを正規化し、その正規化したものをしきい値と比較することにより、鉄道車両に発生した異常を検知する異常検知手段13とを設ける。
【選択図】  図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄道車両の走行時の異常振動を検知する鉄道車両の異常検知装置と異常検知方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高速走行する鉄道車両では、車体や台車などに異常が生じると、走行が不安定になって高速走行を継続することが困難になるため、急ブレーキ等の手段により鉄道車両を減速若しくは停止させる必要がある。鉄道車両に異常が生じた場合には、車体や台車に固有の異常振動が現れるため、車体や台車の振動に基づいて車輪や台車などの異常を検知することが行われている。
【0003】
かかる鉄道車両の異常検知装置の第1従来例として、列車を編成する複数の鉄道車両にそれぞれ配備された台車に、当該台車の上下方向又は左右方向の振動加速度を検出する振動加速度計を取り付け、いずれかの台車で検出された振動加速度の瞬間値又は平均値から他の台車で検出された振動加速度の瞬間値又は平均値を差し引いて、差し引いた値が所定値以上である場合に、異常が発生したと判断するものである(例えば、特許文献1参照)。かかる第1従来例によれば、各台車がレールなどから同程度に受ける振動と、特定の台車に何らかの異常が発生したことによる振動とを分離することができ、レールから受ける振動を異常振動として誤検出することを防止できる利点がある。
【0004】
また、鉄道車両の異常検知装置の第2従来例として、列車を編成する複数の鉄道車両にそれぞれ配備された台車に、当該台車の左右方向の振動加速度とヨー方向の振動加速度とを経時的に検出する振動加速度計を取り付け、振動加速度計が検出した左右方向の振動加速度とヨー方向の振動加速度を固有周波数帯域のバンドパスフィルタにかけることにより特定の周波数を抽出し、その抽出した周波数が正常状態の周波数を基準として設定されたしきい値以上である場合に異常と判断するものである(例えば、特許文献2参照)。かかる第2従来例によれば、低周波成分などの振幅の大きい異常振動のみならず、高周波成分などの振幅の小さい異常振動も検出することができる利点がある。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−6807号公報(第3−4頁、第1図)
【特許文献2】
特許第2657598号明細書(第2頁、図1、図2、図6〜図9、図12〜図15参照)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、第1,第2従来例には、以下の問題があった。
第1従来例では、振動加速度の瞬間値又は平均値で比較を行うため、振幅の大きい振動加速度の検出は可能であるが、例えば、高周波成分(鉄道車両では、10Hz以上)等の振幅が小さい異常振動を検出できない場合があった。具体的には、車輪の一部が平らになると、通常運行速度において台車に20Hz程度の異常振動が発生するが、第1従来例のように振動加速度の瞬間値又は平均値を比較した場合に、振動加速度の差が僅かになり、異常振動を検出できない恐れがあった。
一方、第2従来例では、誤検出を回避するために、正常状態の鉄道車両が悪い軌道を走行したときのデータを基準としてしきい値を高く設定し、経時的に検出した振動加速度をバンドパスフィルタにかけたものが、そのしきい値を超えるか否かによって異常振動を検知しているため、台車が正常時に発生しうる振動加速度の範囲内で異常初期段階の振動を発生しても、それを早期に発見することが困難であった。また、第2従来例は、時間に依存した異常振動を検知しており、車輪に起因する距離(空間周波数)に起因する異常振動を検出できない問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、鉄道車両の異常を初期段階で早期に発見することができ、誤検出の少ない鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本願発明は以下の構成を有する。
(1)列車を編成する複数の鉄道車両の異常を検知する鉄道車両の異常検知装置において、鉄道車両のある特定部位の振動加速度又は角速度を等距離間隔で測定するサンプリング手段と、振動加速度又は角速度の測定信号を空間バンドパスフィルタ処理後に2乗平均して空間周波数に対する加速度パワー又は角速度パワーを求める演算手段と、加速度パワー又は角速度パワーを正規化し、その正規化したものをしきい値と比較することにより、鉄道車両に発生した異常を検知する異常検知手段とを有することを特徴としている。
【0009】
(2)(1)に記載する鉄道車両の異常検知装置において、サンプリング手段は、鉄道車両の前位置、鉄道車両の後位置、鉄道車両の前位置に配備された台車、又は、鉄道車両の後位置に配備された台車の何れかの部位に設置されていることを特徴としている。
【0010】
(3)(1)又は(2)に記載する鉄道車両の異常検知装置において、異常検知手段は、空間周波数に対応する加速度方向と加速度波長との組合せ毎に加速度パワー又は角速度パワーを比較する部位が異なることを特徴としている。
【0011】
(4)(1)乃至(3)の何れか1つに記載する鉄道車両の異常検知装置において、異常検知手段は、比較回数に対して加速度パワー又は角速度パワーを正規化したものがしきい値を超える回数が所定の割合以上であるときに、異常が発生したと判断することを特徴としている。
【0012】
(5)(1)乃至(4)の何れか1つに記載する鉄道車両の異常検知装置において、しきい値は、検知する異常振動の種類に応じて変更可能であることを特徴としている。
【0013】
(6)(1)乃至(6)の何れか1つに記載する鉄道車両の異常検知装置を使用したことを特徴とする鉄道車両の異常検知方法である。
【0014】
上記構成を有する本発明の鉄道車両の異常検知相違及び異常検知方法は、以下の作用を有する。
例えば、鉄道車両の前位置に配備された台車にサンプリング手段を取り付け、当該台車の左右方向や上下方向の振動加速度や、ヨー方向やピッチ方向の角速度を等距離間隔で測定する。等距離間隔で測定するのは、速度変化などに伴う異常振動の誤検出を排除するためである。そして、測定信号を空間バンドバスフィルタにかけて測定信号に含まれる特定の周波数成分を抽出することにより、低周波成分が高周波成分に埋もれることを防止した後に、空間バンドバスフィルタにかけた測定信号を2乗平均して空間周波数に対応する加速度パワー又は角速度パワーを演算する。そして、加速度パワー又は角速度パワーを正規化し、その正規化したものをしきい値と比較して異常検知を行うので、異常の初期段階で発生する微小な振動変化を検知することが可能である。よって、鉄道車両の異常を初期段階で早期に発見することができ、誤検出を少なくすることができる。
【0015】
サンプリング手段は、鉄道車両の前後に配備された台車や車体の前後位置に設置されると、設置された台車や車体の振動加速度や角速度を検出するので、同車両異位置で測定信号を比較して異常検知したり、異車両同位置で測定信号を比較して異常検知したりすることができる。
【0016】
このとき、空間周波数に対応する加速度方向と波長との組合せ毎に加速度パワー又は角速度パワーを比較する部位を予め決定しておけば、サンプリング手段によって測定された測定信号の加速度パワーを比較する部位を、測定信号の空間周波数に対する加速度方向や加速度波長に応じて適宜変更させることができる。
【0017】
そして、異常振動を検知するときに、比較回数に対して演算結果を正規化したものがしきい値を超える回数が所定の割合以上であると判断したときに、異常が発生したと判断するようにすれば、鉄道車両の異常以外の要因で発生した振動が、鉄道車両の異常時に発生する振動の範囲内のものであっても、誤検出されない。
【0018】
ここで、異常検知手段で基準とされるしきい値を、例えば、小石を車輪で跳ね飛ばしたときなどに発生する瞬間的異常振動、又は、車輪の一部が平らになったときなどに発生する継続的異常振動を検出する場合など、検知する異常振動の種類によって変更するようにすれば、複数種類の異常振動を簡単に識別して検出することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
(第1実施の形態)
次に、本発明の鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法の第1実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、鉄道車両1の異常検知装置のブロック図である。
第1実施の形態の鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法では、同一鉄道車両の前後に配備された前台車3Aと後台車3Bの振動加速度を等距離間隔で測定し、それらの加速度パワーを正規化してしきい値と比較することにより鉄道車両の異常を検知している。
【0020】
鉄道車両1は、車体2の前後に前台車3Aと後台車3Bが連結されている。前台車3Aと後台車3Bには、外周2.5mの車輪が複数備えられている。前台車3Aと後台車3Bには、前台車3Aと後台車3Bの上下方向の振動加速度を検出する振動加速度計4A,4Bがそれぞれ取り付けられるとともに、前台車3Aの車輪回転量と後台車3Bの車輪回転量を検出する車輪回転計5A,5Bがそれぞれ取り付けられている。振動加速度計4A,4Bと車輪回転計5A,5Bは、異常検知装置に接続され、各々の振動加速度計4A,4Bが検出した振動に基づいて前台車3A又は後台車3Bの異常振動が検出されるようになっている。
【0021】
異常検知装置は、サンプリング手段11A,11Bと、演算手段12A,12Bと、異常検知手段13、警報手段14などで構成されている。
サンプリング手段11Aは、前台車3Aの振動加速度計4Aと車輪回転計5Aとに接続し、振動加速計4Aが検出した振動加速度と、車輪回転計5Aが検出した車輪の回転量とを入力するものである。一方、サンプリング手段11Bは、後台車3Bの振動加速度計4Bと車輪回転計5Bとに接続し、振動加速計4Bが検出した振動加速度と、車輪回転計5Bが検出した車輪の回転量とを入力するものである。
【0022】
また、演算手段12Aは、サンプリング手段11Aと接続し、サンプリング手段11Aが測定した測定信号に基づいて演算を行うものである。一方、演算手段12Bは、サンプリング手段11Bと接続し、サンプリング手段11Bが測定した測定信号に基づいて演算を行うものである。
また、異常検知手段13は、演算手段12A,12Bに接続し、演算手段12A,12Bの演算結果に基づいて異常を検知するものである。
さらに、警報手段14は、異常検知手段13と接続し、異常検知手段13から異常信号を入力したときに、鉄道車両1の減速又は停止にかかる警報を運転手に発するものである。
【0023】
こうした鉄道車両1の異常検知装置は、異常検知プログラムを実行されて次のように動作する。図2は、異常検知プログラムのフローチャートを示す図である。図3は、前台車3Aの振動加速度にかかる加速度パワーPfを示す図であり、縦軸に、加速度パワー(G・m)を示し、横軸に空間周波数(1/m)を示す。図4は、後台車3Bの振動加速度にかかる加速度パワーPrを示す図であり、縦軸に、加速度パワー(G・m)を示し、横軸に空間周波数(1/m)を示す。図5は、前台車3Aの加速度パワーPfと後台車3Bの加速度パワーPrとの比較結果を示す図であり、縦軸に前後差(%)を示し、横軸に空間周波数(1/m)を示す。
先ず、ステップ1(以下、「S1」と略記する。)において、鉄道車両1の前台車3Aの上下加速度及び後台車3Bの上下加速度を、前台車3Aの車輪回転量及び後台車3Bの車輪回転量に基づいて等距離間隔で測定する。
【0024】
すなわち、サンプリング手段11Aは、車輪回転計5Aが、例えば、車輪が72度回転したことを検出する毎に振動加速度計4Aから上下方向の振動加速度を入力する。これにより、サンプリング手段11Aは、前台車3Aが0.5m走行する毎に上下方向の振動加速度を入力することとなる。そして、サンプリング手段11Aは、振動車輪回転計5Aから車輪の回転にかかる信号を5回入力したとき、つまり、前台車3Aが車輪を約一回転させて2.5m走行したときに、車輪1回転分の振動加速度を演算手段12Aに送信する。
一方、サンプリング手段11Bは、車輪回転計5Bが、例えば、車輪が72度回転したことを検出する毎に振動加速度計4Bから上下方向の振動加速度を入力する。これにより、サンプリング手段11Bは、後台車3Bが0.5m走行する毎に上下方向の振動加速度を入力することとなる。そして、サンプリング手段11Bは、振動車輪回転計5Bから車輪の回転にかかる信号を5回入力したとき、つまり、後台車3Bが車輪を約一回転させて2.5m走行したときに、車輪1回転分の振動加速度を演算手段12Bに送信する。
尚、等距離間隔で鉄道車両1の前台車3Aと後台車3Bの上下加速度を測定するのは、走行速度変化などに伴う異常振動の誤検出を排除するためである。
【0025】
次に、S2において、前台車3Aにかかる測定信号と、後台車3Bにかかる測定信号とをそれぞれ空間バンドバスフィルタ処理し、S3において、空間バンドバスフィルタ処理後の測定信号をそれぞれ2乗平均する。
【0026】
すなわち、演算手段12Aは、特定の異常要因を生じたときに発生する周波数帯域を固有周波数帯域とする空間バンドパスフィルタを備え、サンプリング手段11Aから入力した測定信号を空間バンドパスフィルタにかけることにより、空間周波数の対応する周波数成分を走行時にレールから受ける振動などから分離させて抽出し、高周波成分が低周波成分に埋もれることを防止する。その後、演算手段12Aは、抽出した周波数成分を2乗平均することにより、図3に示す加速度パワーPfを求める。このようにして加速度パワーPfを求めることによりFFT(高速フーリエ変換)処理を実行する必要がないので、リアルタイムで加速度パワーPfを測定することが可能である。
一方、演算手段12Bは、特定の異常要因を生じたときに発生する周波数帯域を固有周波数帯域とする空間バンドパスフィルタを備え、サンプリング手段11Bから入力した振動加速度を空間バンドパスフィルタにかけることにより、空間周波数に対応する周波数成分を走行時にレールから受ける振動などから分離させて抽出し、高周波成分が低周波成分に埋もれることを防止する。その後、演算手段12Bは、抽出した周波数成分を2乗平均することにより、図4に示す加速度パワーPrを求める。このようにして加速度パワーPrを求めることによりFFT(高速フーリエ変換)処理を実行する必要がないので、リアルタイムで加速度パワーPrを測定することが可能である。
【0027】
このとき、加速度パワーPf,Prは、2乗平均を演算する平均距離を調整することによって、例えば、レール上の小石をはじき飛ばした場合など、振幅が大きく作用時間の短い瞬間的異常振動、又は、例えば、車輪の一部が平らになった場合など、振幅が小さく作用時間の長い継続的異常振動を早期に検出可能になる。
すなわち、平均距離は、例えば、等距離間隔x(m)で上下方向の振動加速度a(x)を測定し、N点の2乗平均値{Σa(x)}/Nを算出するときに、N*xで表される。そして、瞬間的異常振動を検出したい場合には、平均距離を長くすることにより所謂フィルタがかかった状態になる不具合が生じるので、平均距離を短くするとよく、継続的異常振動を検出した場合には、瞬間的な振動の影響を除外するために、平均時間を長くするとよい。本実施の形態では、平均距離を1kmに設定し、継続的異常振動を検出するようにしている。尚、瞬間的異常振動を検出する場合には、例えば、N=1として平均距離を求めればよい。
【0028】
次に、S4において、前台車3Aの加速度パワーPfから後台車3Bの加速度パワーPrを引いた値の絶対値を、前台車3Aの加速度パワーPfと後台車3Bの加速度パワーPrとを足した値を平均化した値で割ったものが、しきい値以上であるか否か(|Pf−Pr|/{(Pf+Pr)/2}≧しきい値)を判断する。前台車3Aの加速度パワーPfから後台車3Bの加速度パワーPrを引いた値の絶対値を、前台車3Aの加速度パワーPfと後台車3Bの加速度パワーPrとを足した値を平均化した値で割ったもの(|Pf−Pr|/{(Pf+Pr)/2})が、しきい値以上でないと判断した場合には(S4:NO)、S1以降の処理を繰り返す。一方、前台車3Aの加速度パワーPfから後台車3Bの加速度パワーPrを引いた値の絶対値を、前台車3Aの加速度パワーPfと後台車3Bの加速度パワーPrとを足した値を平均化した値で割ったもの(|Pf−Pr|/{(Pf+Pr)/2})が、しきい値以上であると判断した場合には(S4:YES)、S5において、異常検知手段13は、警報手段14に異常信号を出力し、警報手段14が鉄道車両1を減速又は停止させる警報を運転手に発する。
【0029】
具体的には、次の通りである。前台車3Aと後台車3Bは、鉄道車両1の前後に配備されているため、おおよそ同じ走行位置をおおよそ同じ走行速度で通過し、加速度パワーPf,Prがほぼ同様になる。このことを前提に、異常検知手段13は、演算手段12A,12Bから走行距離に依存した加速度パワーPf,Prを入力し、前台車3Aの加速度パワーPfから後台車3Bの加速度パワーPrを引き算することにより、前台車3Aと後台車3Bとの加速度パワーPf,Prとの差を求める。
そして、異常検知手段13は、前台車3Aの加速度パワーPfと後台車3Bの加速度パワーPrを足し算して2で割ることにより前台車3Aと後台車3Bの加速度パワーPf,Prの平均値を求める。
それから、異常検知手段13は、前台車3Aと後台車3Bの加速度パワーPf,Prの差を前台車3Aと後台車3Bの加速度パワーPf,Prの平均値でわり算する。
【0030】
このようにして、図5に示すように、加速度パワーPf,Prを正規化し、正規化した値がしきい値以上であると判断したときに(図5に示すD1部参照)、異常信号を警報手段14に出力する。
ここで、しきい値は、鉄道車両1が正常状態で走行したときに検出される振動を元に設定されており、前台車3Aと後台車3Bがレールなどからおおよそ均一に受ける振動を除去して低く設定されている。
【0031】
従って、第1実施の形態の鉄道車両1の異常検知装置によれば、各鉄道車両1に配備される前台車3Aと後台車3Bの振動加速度を、例えば、前台車3Aと後台車3Bの車輪が所定角度回転する毎に測定して、その測定信号を空間バンドバスフィルタにかけて特定の周波数成分を抽出した後に2乗平均することにより、空間周波数に対する加速度パワーPf,Prを求め、加速度パワーPf,Prを正規化してしきい値と比較することにより異常検知を行っており(図2のS1〜S4、図3〜図5参照)、高周波成分から低周波成分の異常振動を幅広く検出するとともに、走行速度変化の影響を排除するので、正常な振動の範囲内で発生する異常初期段階の異常振動を早期に発見して、誤検出を少なくすることができる。
【0032】
また、同一の鉄道車両1の前後に配備された前台車3Aと後台車3Bとに基づいて鉄道車両1の異常を検知しており(図2のS4参照)、前台車3Aと後台車3Bとは、レールなどからほぼ同程度の振動を受けるため、前台車3Aと後台車3Bとが同程度に受ける振動を排除することができる。
【0033】
そして、例えば、しきい値を高く設定すれば、瞬間的異常振動を検出することができ、しきい値を低く設定すれば、継続的異常振動を検出することができるので、複数種類の異常振動を簡単に識別して検出することができる。
【0034】
(第2実施の形態)
続いて、本発明の第2実施の形態について図面を参照して説明する。図6は、異常検知装置のブロック図である。
第2実施の形態の鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法では、異なる鉄道車両の同じ位置に配備された台車の振動加速度を等間隔距離で測定し、それらを比較して正規化することにより鉄道車両の異常を検知している点で、同一鉄道車両の異なる台車の振動加速度を測定して比較する第1実施の形態と相違している。よって、ここでは、第1実施の形態との相違点について詳細に説明する。尚、第1実施の形態と同様の構成には、図面及び説明に同一符号を使用する。
【0035】
鉄道車両1Aは、鉄道車両1Bと連結器6を介して連結されて、列車を編成している。鉄道車両1Aは、前台車3Aの上下方向の振動加速度を検出する振動加速度計4Aと、車輪の回転角度を検出する車輪回転計5Aが、サンプリング手段11Aに接続されている。サンプリング手段11Aには、演算手段12Aが接続されている。演算手段12Aは、異常検知手段23に接続されている。
一方、鉄道車両1Bは、前台車3Aの上下方向の振動加速度を検出する振動加速度計4Aと、車輪の回転角度を検出する車輪回転計5Aが、サンプリング手段11Aに接続されている。サンプリング手段11Aには、演算手段12Aが接続されている。演算手段12Aは、異常検知手段23に接続されている。
従って、鉄道車両1A,1B…では、前台車3A同士で異常検知を行うように構成されている。なお、異常検知手段23には、それぞれ警報手段24が接続されている。
【0036】
こうした第2実施の形態の異常検知装置は、異常検知プログラムを実行されて次のように動作する。この異常検知プログラムは、基本的に第1実施の形態と同様の処理(図2参照)が行われる。
先ず、鉄道車両1Aのサンプリング手段11Aは、車輪回転計5Aが検出する車輪回転量に基づいて前台車3Aが0.5m走行する毎に前台車3Aの上下方向の振動加速度を測定する。そして、鉄道車両1Aのサンプリング手段11Aは、前台車3Aの車輪が1回転して2.5m走行したときに、車輪1回転分の振動加速度を演算手段12Aに送信する。ここで、鉄道車両1Aの前台車3Aについて等距離間隔で上下方向の振動加速度を測定するのは、鉄道車両1Aの走行速度変化などに伴う異常振動の誤検出を排除するためである。
一方、鉄道車両1Bのサンプリング手段11Aは、車輪回転計5Aが検出する車輪回転量に基づいて前台車3Aが0.5m走行する毎に前台車3Aの上下方向の振動加速度を測定する。そして、鉄道車両1Bのサンプリング手段11Aは、前台車3Aの車輪が1回転して2.5m走行したときに、車輪1回転分の振動加速度を演算手段12Aに送信する。ここで、鉄道車両1Bの前台車3Aについて等距離間隔で上下方向の振動加速度を測定するのは、鉄道車両1Bの走行速度変化などに伴う異常振動の誤検出を排除するためである。
【0037】
鉄道車両1Aの演算手段12Aは、特定の異常要因を生じたときに発生する周波数帯域を固有周波数帯域とする空間バンドパスフィルタを備え、サンプリング手段11Aから入力した測定信号を空間バンドパスフィルタを通過させることにより、空間周波数に対応する周波数成分を走行時にレールから受ける振動などから分離させて抽出し、高周波成分が低周波成分に埋もれることを防止する。その後、鉄道車両1Aの演算手段12Aは、抽出した周波数成分を2乗平均することにより、加速度パワーPf1を求める。このようにして加速度パワーPf1を求めることによりFFT(高速フーリエ変換)処理を実行する必要がないので、リアルタイムで加速度パワーPf1を測定することが可能である。
一方、鉄道車両1Bの演算手段12Aは、特定の異常要因を生じたときに発生する周波数帯域を固有周波数帯域とする空間バンドパスフィルタを備え、サンプリング手段11Aから入力した振動加速度を空間バンドパスフィルタにかけることにより、空間周波数に対応する周波数成分を走行時にレールから受ける振動などから分離させて抽出し、高周波成分が低周波成分に埋もれることを防止する。その後、鉄道車両1Bの演算手段12Aは、抽出した周波数成分を2乗平均することにより、加速度パワーPf2を求める。このようにして加速度パワーPf2を求めることによりFFT(高速フーリエ変換)処理を実行する必要がないので、リアルタイムで加速度パワーPf2を測定することが可能である。
【0038】
ここで、鉄道車両1Aの前台車3Aと鉄道車両1Bの前台車3Aは、同一の走行位置を通過するときに車体2やレールから同程度の力を受けるため、加速度パワーPf1,Pf2がほぼ同様になる。そこで、異常検知手段23は、鉄道車両1Aにかかる前台車3Aの加速度パワーPf1と、鉄道車両1Bにかかる前台車3Aの加速度パワーPf2とを比較して、異常振動が発生しているか否かを判断する。そのために、異常検知手段23は、先ず、鉄道車両1Aの演算手段12Aと鉄道車両1Bの演算手段12Aから走行距離に依存した加速度パワーPf1,Pf2を入力し、鉄道車両1Aにかかる前台車3Aの加速度パワーPf1から鉄道車両1Bにかかる前台車3Aの加速度パワーPf2を引き算することにより、鉄道車両1Aの前台車3Aと鉄道車両1Bの前台車3Aとの加速度パワーPf1,Pf2との差を求める。
それから、鉄道車両1Aにかかる前台車3Aの加速度パワーPf1と鉄道車両1Bにかかる前台車3Aの加速度パワーPf2を足し算して2で割ることにより、鉄道車両12Aの前台車3Aと鉄道車両1Bの前台車3Aの加速度パワーPf1,Pf2の平均値を求める。
【0039】
そして、鉄道車両1Aの前台車3Aと鉄道車両1Bの前台車3Aの加速度パワーPf1,Pf2の差を、鉄道車両1Aの前台車3Aと鉄道車両1Bの前台車3Aの加速度パワーPf1,Pf2の平均値でわり算することにより、加速度パワーPf1,Pf2を正規化し、正規化した値がしきい値以上であると判断したときに、異常信号を警報手段24に出力する。
ここで、しきい値は、列車の鉄道車両1A,1B…が正常状態で走行したときに検出される振動を元に設定されており、各鉄道車両1A,1B…がレールなどからおおよそ均一に受ける振動を除去して低く設定されている。
【0040】
従って、第2実施の形態の鉄道車両1A,1B…の異常検知装置及び異常検知方法によれば、一の鉄道車両1Aの前台車3Aにかかる振動加速度と、その一の鉄道車両1Aに連結器6を介して連結される他の鉄道車両1Bにかかる振動加速度とを比較して異常を検知しており、鉄道車両1A,1Bの前台車3Aが鉄道車両1A,1Bの車体2に対してそれぞれ同じような動作をするため、第1実施の形態の鉄道車両1の異常検知装置及び異常検知方法より車体2による影響を排除することができ、誤検出を少なくすることができる。
【0041】
(第3実施の形態)
次に、本発明の鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法の第3実施の形態について図面を参照しながら説明する。図7は、鉄道車両1の異常検知装置のブロック図である。
第3実施の形態の鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法は、上記第1,第2実施の形態を更に改良したものであり、空間周波数に対応する加速度波長や加速度方向の組合せによって加速度パワーを比較する部位を適宜選択して異常を検知している。すなわち、第3実施の形態は、同車両異位置と異車両異位置に基づく異常検知を選択的に行うことができる点で、同車両異位置のみで異常検知を行う第1実施の形態や、異車両同位置のみで異常検知を行う第2実施の形態と相違している。よって、第3実施の形態の鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法にかかる説明は、第1,第2実施の形態との相違点について詳細に行う。尚、第1,第2実施の形態と同様の構成には、図面及び説明に同一符号を使用する。
【0042】
鉄道車両1Aは、他の鉄道車両1B…と連結器6を介して連結され、列車を編成する。鉄道車両1Aには、車体2の上下方向や左右方向の振動加速度を測定するための振動加速度計40A,40Bが車体2の前位置と後位置とにそれぞれ取り付けられている。車体2の前後には、複数の車輪を回転可能に軸支する前台車3Aと後台車3Bが配備され、車輪の回転量を検出するために車輪回転計5A,5Bが前台車3Aと後台車3Bにそれぞれ設けられている。
【0043】
異常検知装置は、鉄道車両1A,1B…の振動加速度計40A,40B及び車輪回転計5A,5Bに接続され、サンプリング手段41A,41B、演算手段42A,42B、異常検知手段43、警報手段44などで構成されている。
サンプリング手段41Aは、鉄道車両1A,1B…の振動加速度計40Aと車輪回転計5Aとに接続され、車体2の前位置における上下方向及び左右方向の振動加速度と、各鉄道車両1A,1B…の前台車3Aに設けられた車輪の回転量とを入力するものである。一方、サンプリング手段41Bは、鉄道車両1A,1B…の振動加速度計4Bと車輪回転計5Bとに接続され、車体2の後位置における上下方向及び左右方向の振動加速度と、各鉄道車両1A,1B…の前台車3Aに設けられた車輪の回転量とを入力するものである。
【0044】
また、演算手段42Aは、サンプリング手段41Aと接続し、サンプリング手段41Aが測定した測定信号に基づいて演算を行うものである。演算手段42Bは、サンプリング手段41Bと接続し、サンプリング手段41Aが測定した測定信号に基づいて演算を行うものである。
また、異常検知手段43は、各鉄道車両1A,1B…の演算手段42A,42Bに接続され、演算手段42A,42Bの演算結果に基づいて異常発生の有無を検知するものである。
更に、警報手段44は、異常検知手段43に接続され、異常検知手段43から異常信号を入力したときに、鉄道車両1の減速又は停止にかかる警報を運転手に発するものである。
【0045】
こうした異常検知装置は、異常検知プログラムを実行されて次のように動作する。図8は、異常検知プログラムのフローチャートである。図9は、信号比較部位を示す図である。
第3実施の形態の異常検知装置及び異常検知方法では、鉄道車両1A,1B…が出発してから目的地に到着するまでの間、各鉄道車両1A,1B…の異常を車体2の振動加速度に基づいて検知する。ここでは、鉄道車両1Aの異常を車体2の前位置における振動加速度に基づいて検知する場合について説明する。
【0046】
鉄道車両1A,1B…が出発すると、先ず、S31において、異常振動検知回数nを0に設定し、前回走行時の異常検知結果をリセットする。それから、S32において、鉄道車両1Aが所定の距離(ここでは、出発地から目的地までの距離)を走行したか否かを判断する。
【0047】
鉄道車両1Aが出発地から目的地までの距離を走行していない場合には(S32:NO)、S33において、鉄道車両1Aの車体2の前位置における左右加速度及び上下加速度を等距離間隔で測定する。すなわち、例えば、鉄道車両1Aのサンプリング手段41Aは、車輪回転量5Aが検出する車輪回転量から鉄道車両1Aの走行距離を求め、鉄道車両1Aが500m走行する毎に振動加速度計40Aから左右方向の振動加速度と上下方向の振動加速度を入力する。ここで、鉄道車両1Aの上下方向及び左右方向の振動加速度を測定するのは、走行速度変化などに伴う異常振動の誤検出を排除するためである。
【0048】
そして、S34において、鉄道車両1Aの演算手段42Aが、サンプリング手段41Aから入力した鉄道車両1Aの左右方向及び上下方向の振動加速度を空間バンドパスフィルタを通過させることにより測定信号の空間バンドパスフィルタ処理を行い、空間周波数に対応する所定の加速度波長を有する周波数成分を抽出する。本実施の形態の空間バンドパスフィルタ処理では、加速度波長が25m〜125m、5m〜25m、1m〜5mの範囲である周波数成分をそれぞれ抽出できるようにしている。それから、鉄道車両1Aの演算手段42Aは、S35において、空間バンドパスフィルタ処理を実行された上下方向又は左右方向の振動加速度を2乗平均することにより加速度パワーP1を求める。このようにして加速度パワーP1を求めることによりFFT(高速フーリエ変換)処理を実行する必要がないので、リアルタイムで加速度パワーP1を測定することが可能である。
【0049】
そして、S36において、空間バンドパスフィルタ処理をされた測定信号の加速度波長が、25m〜125m、5m〜25m、1m〜5mの範囲の何れであるかを判断し、加速度波長と加速度方向の組合せから図9に示す信号比較部位に基づいて加速度パワーP1を比較する部位を特定し、特定した部位の加速度パワーP2を読み出す。
【0050】
ここで、図9の信号比較部位は、走行区間による度数分布のばらつきを小さくして傾向を一致させるために、次のようにして、加速度方向と加速度波長の組合せ毎に決定されている。図10〜図21は、車体の左右方向又は上下方向の振動加速度から空間バンドバスフィルタにより抽出した特定の周波数成分を同車両異位置又は異車両同位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものである。
【0051】
加速度波長が25m〜125mであって、加速度方向が左右方向である場合には、図13に示す異車両同位置の走行区間1〜7における度数分布が図10に示す同車両異位置の走行区間1〜7における度数分布よりばらつきが小さいので、鉄道車両1Aの車体2の前位置にかかる加速度パワーP1を鉄道車両1Bの車体2の前位置にかかる加速度パワーP2と比較して正規化する。
また、加速度波長が5m〜25mであって、加速度方向が左右方向である場合には、図11に示す同車両異位置の走行区間1〜7における度数分布が図14に示す異車両同位置の走行区間1〜7における度数分布よりばらつきが小さいので、鉄道車両1Aの車体2の前位置にかかる加速度パワーP1を鉄道車両1Aの車体2の後位置にかかる加速度パワーP2と比較して正規化する。
さらに、加速度波長が1m〜5mであって、加速度方向が左右方向である場合には、図12に示す同車両異位置の走行区間1〜7における度数分布が図15に示す異車両同位置の走行区間1〜7における度数分布よりばらつきが小さいので、鉄道車両1Aの車体2の前位置にかかる加速度パワーP1を鉄道車両1Aの車体2の後位置にかかる加速度パワーP2と比較して正規化する。
【0052】
一方、加速度波長が25m〜125mであって、加速度方向が上下方向である場合には、図19に示す異車両同位置の走行区間1〜7における度数分布が図16に示す同車両異位置の走行区間1〜7における度数分布よりばらつきが小さいので、鉄道車両1Aの車体2の前位置にかかる加速度パワーP1を鉄道車両1Bの車体2の前位置にかかる加速度パワーP2と比較して正規化する。
また、加速度波長が5m〜25mであって、加速度方向が上下方向である場合には、図20に示す異車両同位置の走行区間1〜7における度数分布が図17に示す同車両異位置の走行区間1〜7における度数分布よりばらつきが小さいので、鉄道車両1Aの車体2の前位置にかかる加速度パワーP1を鉄道車両1Bの車体2の前位置にかかる加速度パワーP2と比較して正規化する。
さらに、加速度波長が1m〜5mであって、加速度方向が上下方向である場合には、図18に示す同車両異位置の走行区間1〜7における度数分布が図21に示す異車両同位置の走行区間1〜7における度数分布よりばらつきが小さいので、鉄道車両1Aの車体2の前位置にかかる加速度パワーP1を鉄道車両1Aの車体2の後位置にかかる加速度パワーP2と比較して正規化する。
【0053】
従って、鉄道車両1Aのサンプリング手段41Aにより測定された上下方向又は左右方向の振動加速度にかかる加速度波長が25m〜125mの範囲である場合には(図8のS36:25m〜125m)、図9に示す比較部位が異車両同位置であるので、図8のS39に進んで、鉄道車両1Bの演算手段42Aが演算した車体2の前位置にかかる加速度パワーP2を鉄道車両1Bの演算手段42Aから入力した後に、S40に進む。
【0054】
また、鉄道車両1Aのサンプリング手段41Aにより測定された振動加速度にかかる加速度波長が5m〜25mの範囲である場合には(図8のS36:5m〜25m)、S37において、加速度方向が左右方向と上下方向の何れかを検出する。加速度方向が左右方向である場合には(S37:左右方向)、図9に示す比較部位が同車両異位置であるので、図8のS38に進んで、鉄道車両1Aの演算手段42Bが演算した車体2の後位置にかかる加速度パワーP2を鉄道車両1Aの演算手段42Bから入力した後に、S40に進む。
一方、加速度方向が上下方向である場合には(図8のS37:上下方向)、図9に示す比較部位が異車両同位置であるので、図8のS39に進んで、鉄道車両1Bの演算手段42Aが演算した車体2の前位置にかかる加速度パワーP2を鉄道車両1Bの演算手段42Aから入力した後に、S40に進む。
【0055】
さらに、鉄道車両1Aのサンプリング手段41Aにより測定された上下方向又は左右方向の振動加速度にかかる加速度波長が1m〜5mの範囲である場合には(図8のS36:1m〜5m)、図9に示す比較部位が同車両異位置であるので、図8のS38に進んで、鉄道車両1Aの演算手段42Bが演算した車体2の後位置にかかる加速度パワーP2を鉄道車両1Aの演算手段42Bから入力した後に、S40に進む。
【0056】
そして、S40において、鉄道車両1Aの加速度パワーP1と入力した他の部位の加速度パワーP2とを比較演算式|P1−P2|/(P1+P2)に当てはめることにより、鉄道車両1の前位置にかかる加速度パワーP1の正規化を実施する。それから、S41において、加速度パワーP1,P2の差の比がしきい値Thを超えるか否かによって、当該振動が異常振動であるか否かを判断する。
【0057】
ここで、図22は、本実施の形態の比較演算結果とパワー比及び振幅比との関係を示す図である。
異常振動であるか否かを判断する方法としては、本実施の形態のように加速度パワーP1,P2の差の比を求める比較演算結果(|P1−P2|/P1+P2)に基づく方法の他に、比較する加速度パワーの比を求めるパワー比(P1>P2のとき、P1/P2)、測定した振動加速度の振幅の比を求める振幅比(P1>P2のとき、√P1/P2)に基づく方法などが考えられる。この点、本実施の形態の比較演算結果は、0.1ずつ規則的に数値変化するのに対して、当該比較演算結果に対応するパワー比や振幅比は、数値変化にばらつきが生じており、本実施の形態の比較演算結果の数値変化率はパワー比や振幅比の数値変化率と一致していない。しかし、本実施の形態の比較演算結果に基づいて異常を検知する方法では、図9の信号比較部位に従って測定信号を比較する部位を選択して異常検知を行ったときに、図12〜図14及び図18〜図20に示すように各走行区間の度数分布傾向が概ね一致するので、異常振動であるか否かを判断するときに走行区間の影響を排除できる。
【0058】
そして、加速度パワーP1,P2の差の比がしきい値Thを超えない場合には(図8のS41:NO)、S32に戻る。加速度パワーP1,P2の差の比がしきい値Thを超える場合には(S41:YES)、異常振動が鉄道車両1Aで発生している可能性が高いので、S42に進んで、異常振動検知回数nに1を加え、S43において、異常判定距離Lにおいて加速度パワーP1,P2の差の比がしきい値Thを超える割合(図23に示す斜線部の割合)がk%以上か否かを判断する。ここで、異常判定距離Lは、2乗平均を演算する距離に比較回数をかけ合わせることにより決定される。従って、本実施の形態では、500m間隔で振動加速度をサンプリングしているので、演算手段42Aが2乗平均を演算する距離は500mであり、例えば、鉄道車両1Aの前位置にかかる加速度パワーP1と他の部位にかかる加速度パワーP2とを比較する比較回数が400回であれば、異常判定距離Lは200kmになる。この場合には、鉄道車両1Aが200km走行した中で加速度パワーP1,P2の差の比がしきい値を超える割合がどの程度か、つまり、異常振動が何回発生して、その異常振動検知回数nが比較回数400回に対してどの程度の割合で発生しているかを求め、その割合がk%を超えているか否かで鉄道車両1Aに異常が発生しているか否かを判断する。
【0059】
異常判定距離Lにおいて加速度パワーP1,P2の差の比がしきい値Thを超える割合がk%以上でない場合には(S43:NO)、鉄道車両1Aが異常を発生している可能性が低いと考えられるので、S32に戻る。一方、異常判定距離Lにおいて加速度パワーP1,P2の差の比がしきい値Thを超える割合がk%以上である場合には(S43:YES)、鉄道車両1Aが異常を発生している可能性が高いと考えられるので、S44に進んで、警報手段44に信号出力して警報を発生させてから、S32に戻る。
【0060】
このとき、異常判定距離L、しきい値Th、度数割合(k%)を適宜変動させることにより、検出する異常の種類を変えることができる。例えば、瞬間的異常振動と継続的異常振動のように種類の異なる異常振動を検出する場合には、比較回数が同じであれば、瞬間的異常振動は、2乗平均を演算する距離を短することにより異常判定距離Lを短くしたり、しきい値Thを大きくして、しきい値を超える度数割合(k%)を小さくしたりすることにより検出される一方、継続的異常振動は、2乗平均を演算する距離を長くすることにより異常判定距離Lを長くしたり、しきい値Thを小さくして、しきい値を超える度数割合(k%)を大きくしたりすることにより検出される。
【0061】
こうした上記一連の処理は、S32において、鉄道車両1Aが目的地に到着するまで継続され、鉄道車両1Aが出発地から目的地までの距離を走行したときに(S32:YES)、処理を終了する。
【0062】
従って、第3実施の形態の鉄道車両1A,1B…の異常検知装置及び異常検知方法によれば、鉄道車両1Aの車体2の前位置にかかる異常振動をサンプリング手段41Aにより等距離間隔で測定し、演算手段42Aにおいて測定信号から空間周波数に対応する特定の加速度波長を有する周波数成分を抽出して2乗平均することにより加速度パワーP1を求めた後に(図8のS33〜S35)、度数分布のばらつきが小さくなるように加速度方向と空間周波数に対応する加速度波長との組合せ毎に決定された図9の信号比較部位に基づいて鉄道車両1Aの前位置にかかる加速度パワーP1を比較する部位を選択し、その選択した部位の加速度パワーP2を入力して加速度パワーの差の比を演算して鉄道車両1Aの異常を検知するので(図8のS36〜S41)、走行速度や走行環境などの影響に加えて、走行区間の影響も排除することができ、誤検出をより一層少なくすることができる。
【0063】
そして、鉄道車両1Aの前位置にかかる加速度パワーP1と図9の信号比較部位に基づいて選択した部位にかかる加速度パワーP2との差の比がしきい値Thを超える割合が所定の割合(k%)以上であるときに、鉄道車両1Aに異常が発生したと判断するので(図8のS42〜S44)、鉄道車両1Aの異常以外の要因で発生した振動が、鉄道車両1Aの異常時に発生する振動の範囲内のものであっても、誤検出されない。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態のものに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0065】
(1)例えば、上記実施の形態では、前台車3Aと後台車3Bの上下方向の振動加速度や車体2の上下方向及び左右方向の振動加速度を検出した。それに対して、前台車3Aと後台車3Bのヨー角速度及びピッチ角速度を等距離間隔で検出するようにしてもよい。
【0066】
(2)例えば、上記実施の形態では、前台車3Aや後台車3Bの車輪回転数に基づいて等距離間隔で前台車3Aや後台車3Bの上下方向の振動加速度や車体2の上下左右方向の振動加速度を測定した。それに対して、例えば、走行速度に基づいて走行距離を算出し、所定距離走行する毎に空間周波数をサンプリングするようにしてもよい。また、振動加速度を所定周期で測定する一方、車輪回転数を所定角度毎に検出し、それらを照合させることにより振動加速度を等距離間隔で測定するようにしてもよい。
【0067】
(3)例えば、上記第3実施の形態では、同時期に走行する鉄道車両1A,1B…同士で測定信号を比較して異常検知を行っている。それに対して、図9の信号比較部位では、図12〜図14や図18〜図20に示すように走行区間毎の度数分布傾向がよく一致しているので、例えば、鉄道車両1Aの走行結果を異日の鉄道車両1Aの走行結果と比較して、度数分布傾向が異なってきたら異常と判断するようにしてもよい。
【0068】
【発明の効果】
従って、本発明の鉄道車両の異常検知装置は、列車を編成する複数の鉄道車両の異常を検知する鉄道車両の異常検知装置において、鉄道車両のある特定部位の振動加速度又は角速度を等距離間隔で測定するサンプリング手段と、振動加速度又は角速度の測定信号を空間バンドバスフィルタ処理後に2乗平均して空間周波数に対する加速度パワー又は角速度パワーを求める演算手段と、加速度パワー又は角速度パワーを正規化し、その正規化したものをしきい値と比較することにより、鉄道車両に発生した異常を検知する異常検知手段とを有しているので、鉄道車両の異常を初期段階で早期に発見することができ、誤検出を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施の形態にかかり、鉄道車両の異常検知装置のブロック図である。
【図2】同じく、異常検知プログラムのフローチャートを示す図である。
【図3】同じく、前台車の振動加速度にかかる加速度パワーを示す図であり、縦軸に、加速度パワー(G・m)を示し、横軸に空間周波数(1/m)を示す。
【図4】同じく、後台車の振動加速度にかかる加速度パワーを示す図であり、縦軸に、加速度パワー(G・m)を示し、横軸に空間周波数(1/m)を示す。
【図5】同じく、前台車3Aの加速度パワーPfと後台車3Bの加速度パワーPrとの比較結果を示す図であり、縦軸に前後差(%)を示し、横軸に空間周波数(1/m)を示す。
【図6】本発明の第2実施の形態にかかり、鉄道車両の異常検知装置のブロック図である。
【図7】本発明の第3実施の形態にかかり、鉄道車両の異常検知装置のブロック図である。
【図8】同じく、異常検知プログラムのフローチャートである。
【図9】同じく、信号比較部位を示す図である。
【図10】同じく、車体の左右方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が25m〜125mの周波数成分を同車両異位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの車体前後差比(ND)を示す。
【図11】同じく、車体の左右方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が5m〜25mの周波数成分を同車両異位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの車体前後差比(ND)を示す。
【図12】同じく、車体の左右方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が1m〜5mの周波数成分を同車両異位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの車体前後差比(ND)を示す。
【図13】同じく、車体の左右方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が25m〜125mの周波数成分を異車両同位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの号車間差の比(ND)を示す。
【図14】同じく、車体の左右方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が5m〜25mの周波数成分を異車両同位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの号車間差の比(ND)を示す。
【図15】同じく、車体の左右方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が1m〜5mの周波数成分を異車両同位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの号車間差の比(ND)を示す。
【図16】同じく、車体の上下方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が25m〜125mの周波数成分を同車両異位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの車体前後差比(ND)を示す。
【図17】同じく、車体の上下方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が5m〜25mの周波数成分を同車両異位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの車体前後差比(ND)を示す。
【図18】同じく、車体の上下方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が1m〜5mの周波数成分を同車両異位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの車体前後差比(ND)を示す。
【図19】同じく、車体の上下方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が25m〜125mの周波数成分を異車両同位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの号車間差の比(ND)を示す。
【図20】同じく、車体の上下方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が5m〜25mの周波数成分を異車両同位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの号車間差の比(ND)を示す。
【図21】同じく、車体の上下方向の振動加速度から空間バンドパスフィルタ処理により抽出した加速度波長が1m〜5mの周波数成分を異車両同位置で比較した比較結果を走行区間別に示すものであり、縦軸は度数割合(%)を示し、横軸は加速度パワーの号車間差の比(ND)を示す。
【図22】同じく、比較演算結果とパワー比及び振幅比との関係を示す図である。
【図23】同じく、異常判定の概念図である。
【符号の説明】
1,1A,1B 鉄道車両
2 車体
3A 前台車
3B 後台車
4A,40A 振動加速度計
4B,40B 振動加速度計
5A 車輪回転計
5B 車輪回転計
11A,41A サンプリング手段
11B,41B サンプリング手段
12A,42A 演算手段
12B,42B 演算手段
13,23,43 異常検知手段

Claims (6)

  1. 列車を編成する複数の鉄道車両の異常を検知する鉄道車両の異常検知装置において、
    前記鉄道車両のある特定部位の振動加速度又は角速度を等距離間隔で測定するサンプリング手段と、
    前記振動加速度又は前記角速度の測定信号をバンドパスフィルタ処理後に2乗平均して空間周波数に対する加速度パワー又は角速度パワーを求める演算手段と、
    前記加速度パワー又は前記角速度パワーを正規化し、その正規化したものをしきい値と比較することにより、前記鉄道車両に発生した異常を検知する異常検知手段とを有することを特徴とする鉄道車両の異常検知装置。
  2. 請求項1に記載する鉄道車両の異常検知装置において、
    前記サンプリング手段は、前記鉄道車両の前位置、前記鉄道車両の後位置、前記鉄道車両の前位置に配備された台車、又は、前記鉄道車両の後位置に配備された台車の何れかの部位に設置されていることを特徴とする鉄道車両の異常検知装置。
  3. 請求項1又は請求項2に記載する鉄道車両の異常検知装置において、
    前記異常検知手段は、前記空間周波数に対応する加速度方向と加速度波長との組合せ毎に加速度パワー又は角速度パワーを比較する部位が異なることを特徴とする鉄道車両の異常検知装置。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載する鉄道車両の異常検知装置において、
    前記異常検知手段は、比較回数に対して前記加速度パワー又は前記角速度パワーを正規化したものがしきい値を超える回数が所定の割合以上であるときに、異常が発生したと判断することを特徴とする鉄道車両の異常検知装置。
  5. 請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載する鉄道車両の異常検知装置において、
    前記しきい値は、検知する異常振動の種類に応じて変更可能であることを特徴とする鉄道車両の異常検知装置。
  6. 請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載する鉄道車両の異常検知装置を使用したことを特徴とする鉄道車両の異常検知方法。
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