JP2004090434A - 金型およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】大型の金型にも適用可能で、高温での粘性流動加工時間が短縮される、非晶質合金製の金型とその製造方法。
【解決手段】金型10を、キャビティ表面を形成する非晶質合金層12と、同じ非晶質合金の粉末の焼結体からなる第2層14とから構成する。この金型は、母型20の両側に非晶質合金の薄板22を配置し、この非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度の間の温度に加熱しながら該薄板を前記母型の方向に加圧して、薄板22が母型20に密着した中間成形体26を形成し、その両側に非晶質合金の粉末28を充填した後、上記と同様の温度域で加熱・加圧して該粉末を焼結させ、得られた成形体から母型を分離することで製造される。別の方法では、非晶質合金の薄板上で非晶質合金の粉末を焼結させて得た薄板と焼結体との積層体を、母型の両側に配置し、再度熱間プレスして母型に密着させるよう積層体を変形させる。
【選択図】 図3
【解決手段】金型10を、キャビティ表面を形成する非晶質合金層12と、同じ非晶質合金の粉末の焼結体からなる第2層14とから構成する。この金型は、母型20の両側に非晶質合金の薄板22を配置し、この非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度の間の温度に加熱しながら該薄板を前記母型の方向に加圧して、薄板22が母型20に密着した中間成形体26を形成し、その両側に非晶質合金の粉末28を充填した後、上記と同様の温度域で加熱・加圧して該粉末を焼結させ、得られた成形体から母型を分離することで製造される。別の方法では、非晶質合金の薄板上で非晶質合金の粉末を焼結させて得た薄板と焼結体との積層体を、母型の両側に配置し、再度熱間プレスして母型に密着させるよう積層体を変形させる。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラスチックやガラス等の成形に利用される金型とその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、非晶質合金 (アモルファス金属または金属ガラスともいう) を利用して、機械加工を行わずに、1つの母型から容易に複数個の金型を複製して製造することができる金型とその製造方法に関し、大型の金型にも適用可能である。
【0002】
【従来の技術】
プラスチックやガラスの成形に使用される金型は、一般に金型用の金属母材を機械加工することによって製造される。平滑面であることが要求されるレンズ用の金型は、表面粗さを小さく仕上げることが重要であるため、加工コストが高く、金型が高価とならざるを得なかった。ところが、そのレンズ用の金型を用いてガラスまたはプラスチックのプレス成形を繰り返すと、金型は摩耗し、初期の形状が崩れてくる。この崩れが許容範囲を超えると、金型寿命となり、改めて金型を作り直す必要が生じる。そのため、プレス成形個数が多いレンズ用の金型は、最初から複数個を作製しておく必要があり、金型製造コストが非常に大きいという問題があった。
【0003】
機械加工が不要な金型の製造技術として、特開平10−217257号公報に、非晶質合金が示す高温での粘性流動加工性を利用することが提案された。この技術では、まず製品となるレンズと同一形状の母型をガラスまたは金属の機械加工により作製する。この母型に、非晶質合金のブロックを、該合金が粘性流動を示す温度域(具体的には結晶化温度Txとガラス転移点Tgとの間の温度域)で押し当てて、非晶質合金が粘性流動特性により母型に密着した形状に変化するのを待つ。変形終了後、室温まで冷却し、母型を抜き取ってから、金型として利用する。
【0004】
非晶質合金は、その開発当初は、超急冷、固相反応といった方法で作製されたため、薄片もしくは粉末状の合金しか得られなかった。その後、1990年代頃から超急冷しなくても (緩冷却でも) 非晶質相が生成する第2世代の非晶質合金が開発され、板やブロックといったバルク非晶質合金 (バルク金属ガラス) が製作可能になった。上記技術ではこのバルク非晶質合金を金型製造に利用する。
【0005】
バルク非晶質合金の作製方法としては、バルク材の形状に応じて、水焼入れ法、アーク溶解法、銅鋳型鋳造法、吸引鋳造法、型締め鋳造法 (溶湯鍛造法) 等が利用できる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、現在のところ、製作可能なバルク非晶質合金の大きさ(厚さ)には限界があり、あまり厚いブロックまたは板は作製できない。前述した特開平10−217257号に開示の技術は、母型とほぼ同程度の厚さの非晶質合金のブロックが必要であるので、大型 (厚さの大きい) の金型製造には適用できなかった。また、この技術には、高温での粘性流動加工に長時間を必要とするという別の問題もあった。
【0007】
バルク非晶質合金の厚さに限界がある理由は次の通りである。非晶質合金のバルク材を鋳造する場合、その表面の冷却速度は大きくできるが、バルク材の内部の冷却速度は、表面への熱伝導に律速されるため遅くなる。緩冷却で非晶質相が生成する合金組成であっても、冷却速度がある下限値より遅くなると、合金は結晶化する。従って、バルク材の厚さが大きすぎると、冷却速度が大きい表面は非晶質になっても、冷却速度が小さい内部では結晶化してしまうことがある。同一組成の合金でも非晶質と結晶質とでは物性値に違いがあり、特に熱膨張係数が異なるため、金型の内部が結晶化すると金型ひずみの原因になる。これを避けるには、金型の全体を非晶質合金から構成する必要があり、内部まで非晶質のバルク非晶質合金が必要となる。以上より、上述した技術に使用する非晶質合金のブロックは、その厚さをあまり大きくできない。
【0008】
本発明は、非晶質合金を利用し、好ましくは全体を非晶質合金から構成するが、大型の金型にも適用可能で、しかも高温での粘性流動加工時間が短縮される金型とその製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、被成形材料と接触する金型キャビティ表面だけにバルク非晶質合金の薄板から形成される非晶質合金層を配し、それ以外の部分は、このバルク非晶質合金と熱膨張係数がほぼ等しい材料からなる別の層 (第2層) とする。バルク非晶質合金の薄板は、内部まで完全に非晶質のものが容易に安定して製作でき、高温での粘性流動加工に要する時間も短くてすむ。第2層は、望ましくは同じ非晶質合金の粉末の焼結体から構成する。このような焼結体は、現状技術では不可避的にボイド(空隙、気泡)を有するので、成形体の表面状態を決める金型キャビティ表面には使用できない。そのため、金型キャビティ表面はボイドのない非晶質合金層とするが、ボイドが許容される金型の内部には非晶質合金粉末の焼結体を使用することで、上記課題を解決する。
【0010】
ここに、本発明は、金型キャビティ表面を形成するバルク非晶質合金から形成された非晶質合金層と、該層とほぼ同等の熱膨張係数を有する第2層とから構成されることを特徴とする金型である。
【0011】
好適態様において、前記第2層は前記非晶質合金層より低密度であり、これは好ましくは非晶質合金粉末の焼結体からなり、この非晶質合金粉末はより好ましくは前記非晶質合金層と同じ合金の粉末である。
【0012】
ここで、「熱膨張係数がほぼ同等」とは、室温から500 ℃の温度範囲において熱膨張係数が±1×10−6/℃以内しか相違しないことを意味する。金型内に異種の材料が存在していても、材料の熱膨張係数の差がこの範囲内であれば、金型ひずみはほぼ完全に防止できる。もちろん、第2層が金型キャビティ表面を形成する非晶質合金層と同じ非晶質合金から形成されていれば、金型全体が同じ熱膨張係数を有し、金型ひずみの問題は完全に解消される。
【0013】
本発明により金型の製造方法も提供される。第1の金型の製造方法は下記工程を含むことを特徴とする:
(a) 被成形体と同一形状の母型を作製する工程、
(b) 前記母型の両側にそれぞれ非晶質合金の薄板を配置した後、この非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度に加熱しながら該薄板を前記母型の方向に加圧することによって、前記母型の周囲に前記非晶質合金の薄板が密着した中間成形体を得る工程、
【0014】
(c) 前記中間成形体の両側にそれぞれ、前記非晶質合金とほぼ同等の熱膨張係数を有する焼結性材料の粉末を充填した後、加熱・加圧して、該粉末を焼結させる工程、および
(d) 前記母型を分離して、前記非晶質合金薄板から形成された非晶質合金層と前記粉末の焼結体からなる第2層とから構成される金型を得る工程。
【0015】
この方法の好適態様において、工程(c) で用いた粉末は、非晶質合金の粉末、好ましくは工程(b) で用いたのと同じ非晶質合金の粉末であり、工程(c) の加熱温度はこの非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度である。
【0016】
本発明による第2の金型の製造方法は、下記工程を含むことを特徴とする:
(A) 被成形体と同一形状の母型を作製する工程、
(B) 非晶質合金の薄板の上に非晶質合金の粉末を充填し、粉末の非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度で加熱しながら加圧することによって、非晶質合金粉末の焼結体の少なくとも片面に非晶質合金薄板が密着した積層体を形成する工程、
【0017】
(C) 工程(A) で形成した母型の両側にそれぞれ、工程(B) で形成した積層体をその非晶質合金薄板が前記母型に面するように配置した後、存在する全ての非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間になる温度に加熱しながら前記積層体を加圧することによって、前記積層体の前記非晶質合金薄板を前記母型に密着させる工程、
(D) 前記母型を分離して、前記非晶質合金薄板から形成された非晶質合金層と非晶質合金粉末の焼結体からなる第2層とから構成される金型を得る工程。
【0018】
特開平10−217257号公報に開示されるように、非晶質合金を一度に鋳込んだブロックから金型を製造すると、鋳造体内部の冷却速度の不均一分布により内部に結晶相が析出しやすく、そうなると熱膨張係数が不均一となり、金型としてひずみ等の問題が発生する。本発明では、予め完全に非晶質化した非晶質合金の薄板と、好ましくは同材質の非晶質化した合金粉末を熱間プレス加工して一体化するため、非晶質相のみからなる、全体に熱膨張係数が均一な、熱ひずみのない良好な金型を安定して製造することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。以下では、主にレンズの成形について本発明を説明するが、本発明に係る金型および金型の製造方法は、レンズ成形用に限られるものではなく、ガラスやプラスチック等の成形に利用される多様な金型に適用できることは云うまでもない。
【0020】
図1は、本発明に係る金型断面を示す説明図である。図1に示すように、金型10は典型的には上型10Aと下型10Bとからなり、両者の間に成形材料が充填される空間である金型キャビティ16を有する。本発明によると、金型10、即ち、上型10Aと下型10Bのそれぞれは、バルク非晶質合金から形成された非晶質合金層12と、この層12 (即ち、該層を構成する非晶質合金) とほぼ同等の熱膨張係数を有する第2層14とから構成される。つまり、普通の金型のように単一材料で金型を構成するのではなく、非晶質合金層12と第2層14との複合材料から金型を構成する。
【0021】
成形時に被成形材料 (ガラス、プラスチック等) と接触して、成形体の表面状態を決定する金型キャビティ16の表面は、緻密でボイドのない、バルク非晶質合金から形成された非晶質合金層12とする。一方、成形時に被成形材料と接触しない金型の内部 (金型キャビティ面の部分と上型/下型の接触面の部分とを除いた残りの部分) を構成する第2層14は、成形時の加圧力に耐える強度を有していて、成形時に非晶質合金層12を変形させずに保持することができれば、微細なボイドがあっても構わない。一般に、第2層を構成する材料は、引張り強度が100 MPa 以上、ヤング率が50 GPa以上であればよく、このような材料特性が得られる限り、ボイドの存在は許容される。
【0022】
非晶質合金層12の厚みは、成形時の加圧下で金型キャビティ16の形状を保持できる強度を有する厚みであれば、特に制限されない。非晶質合金層の厚みは、通常は 0.1〜2mmの範囲内が好ましい。非晶質合金層12は、バルク金属ガラスとも呼ばれるバルク非晶質合金から形成される。本発明では、薄板状のバルク非晶質合金を使用するので、内部まで完全に非晶質のバルク非晶質合金を容易に安定して作製でき、高温での粘性流動加工に要する時間も短くてすむ。
【0023】
非晶質合金層12を構成する非晶質合金は、薄板状のバルク非晶質合金が形成可能 (即ち、緩冷却でも非晶質化する) であれば特に制限されないが、非晶質状態での粘性流動加工が容易に実施できるように、過冷却液体域 (即ち、ガラス転移点から結晶化温度まで) の温度幅が30K以上あるものが好ましく、この温度幅はより好ましくは50K以上である。
【0024】
使用できる非晶質合金の例としては、Zr−Al−TM合金 (TM:周期表VI〜VIII族遷移金属) 、Zr−Ti−TM合金、Zr−Ti−TM−Be合金、Pd−Cu−Ni−P合金などが挙げられるが、これらに限られない。
【0025】
第2層14は、金型キャビティ面を形成する非晶質合金層12と熱膨張係数がほぼ同等であり、かつ前述した引張り強度およびヤング率を有する任意の材料から構成することができる。後述する本発明に係る金型の製造方法では、第2層14は焼結性の粉末、特に非晶質合金の粉末の熱間プレスにより製造するが、第2層14の素材はそれに限定されるものではない。原理的には、第2層14を粉末冶金法ではなく、鋳造法で形成することも可能である。
【0026】
最も好ましい態様においては、第2層14は、非晶質合金層12と同じ非晶質合金の粉末の熱間プレスにより形成される。こうすると、第2層14は、非晶質合金層12より低密度になるが、この層と全く同じ熱膨張係数を有するため、金型ひずみの問題が完全に解消される。しかし、第2層14は、非晶質合金層12とは合金組成がやや異なるが、熱膨張係数がほぼ同等の別の非晶質合金の粉末から形成してもよい。さらには、非晶質合金層12と熱膨張係数がほぼ同等であれば、第2層14は結晶質の合金もしくは金属から形成することも可能である。
【0027】
次に本発明に係る金型の2つの製造方法について説明する。これらの製造方法は、非晶質合金素材として、ガラス転移点が 700K、結晶化温度が 750K (従って、過冷却温度域の温度幅は約50K) であるZr50Al10Ni10Cu30を使用する場合について説明する。非晶質合金は別のものに変更できるが、その場合には、当業者には明らかなように、その合金のガラス転移点および結晶化温度に応じて熱間プレスの温度を変更する。
【0028】
[第1の製造方法]
(a) まず、被成形体と同一形状の母型 (マスター型) を作製する。レンズの場合、金型でプレス成形したいレンズ形状の母型を、ガラスまたは金属から、通常のレンズ成形法により作製すればよい。このレンズ成形法では、通常行われているように、母材であるガラス塊または金属塊から、切削、研削、研磨などの工程を経て目的とする形状を形作る。母型の表面仕上げは、金型からプレス成形で製造するレンズに要求される以上の面精度で仕上げる必要がある。その理由は、次の工程(b) で非晶質合金の高温粘性流動により母型表面を非晶質合金薄板に転写する際に、該薄板にでき上がる面精度は母型の面精度を越えないからである。
【0029】
(b) 形成したレンズ母型の両側にそれぞれ、薄板状のバルク非晶質合金である非晶質合金薄板を配置する。これは次にようにして実施することができる。
図2(a) に示すように、専用の成形用外枠30を用意し、その中心に母型20を配置する。外枠30の材質は特に制限されないが、かかる圧力は低いので、炭素鋼、ステンレス鋼、金型鋼などでよい。外枠30の形状は、製造する金型の形状に応じて、図2(b) に示すように方形でも、図2(c) に示すように円形でもよい。外枠30の開口部の大きさ (内法寸法) は製造する金型の外径よりやや大きくする。
【0030】
この外枠30は、実線で示す2枚の非晶質合金薄板22を、間に母型20を挟んで離間保持することができる。図示例では、図2(a) に示すように、外枠30の内法寸法を非晶質合金薄板22より小さくし、外枠30の両面側に切り欠きを設けて、開口部の大きさを非晶質合金薄板が載る大きさにし、この切り欠きの台座に非晶質合金薄板を載せた後、別部材の押え枠32を切り欠きに嵌め込むことにより、非晶質合金薄板22を平行に離間させて保持する。こうして、母型20の上下を非晶質合金の薄板22で挟み込み、この薄板22の端を成形用外枠30に固定することができる。
【0031】
母型の周囲には離型シート24を挟み込む。この離型シート24は、外枠30の開口部と同じ大きさで、母型の外周形状に等しい開口部を有する。離型シート24としては、非晶質合金の結晶化温度で軟化しないものがよく、例えば石英ガラス板などのガラス板が好ましい。厚みは特に限定されないが、1mm以下、例えば 0.2〜1mm程度が好ましい。この離型シート24も適当な手段で外枠30により保持される。図示例では外枠30の開口部に設けた断面三角形の保持具34を利用する。
【0032】
従って、実際の組立てにおいては、外枠30にまず下側の非晶質合金薄板22を固定し、次に母型20と離型シート24を配置した後、上側の非晶質合金薄板22を固定する。
【0033】
非晶質合金薄板22は、例えば、非晶質合金原料を水冷銅鋳型にセットし、Arガス雰囲気中でアーク溶解した後、溶融合金を上下の銅鋳型の間で鍛造する型締め鋳造法 (溶湯鍛造法) により作製することができる。また、連続鋳造、吸引鋳造のような他のバルク非晶質合金の製造方法で作ることもできる。
【0034】
成形用外枠30は、母型20を挟んでいる非晶質合金薄板22間の空間内のガスを吸引することが可能な構造となっている。即ち、外枠30には、2枚の薄板22の間の位置で壁面を貫通する排気穴36が一カ所にあけてあり、この排気穴36は排気ポンプ38につながっていて、薄板間の空間内を排気できる。
【0035】
上記のように母型20、非晶質合金薄板22および離型シート24を成型用外枠30に配置したら、図2(a) に示すように、外枠30全体を不活性ガス雰囲気(例、HeまたはAr)の加圧容器40の中に入れ、薄板22を構成する非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度、具体的には 700〜730 K程度の温度に加熱し、成形用外枠30から非晶質合金薄板の間のガスを吸引排気しながら、加圧容器40の内部圧力を増加させる。加圧は、液体圧を利用するハイドロフォーミングにより行うこともできる。
【0036】
この温度域では非晶質合金は粘性流動して変形するので、上記のようにして、2枚の非晶質合金薄板22を外側から加圧し、内部空間を排気すると、これらの薄板は内側方向に押されて母型および離型シートに密着し、図2(a) に破線で示すように、非晶質合金薄板22は母型20に密着する。これに必要な加圧力は非晶質合金薄板の厚み等に応じて変わるが、非晶質合金薄板間の空間の吸引中の圧力との差が1気圧から10気圧程度で十分な変形速度が得られる。無論それ以下でも、それ以上でも変形速度が実用範囲であれば十分である。バルク非晶質合金が薄板であるので、変形に要する時間は比較的短くてすむ。
【0037】
非晶質合金薄板22が十分に変形し、母型20に密着したら、吸引および加圧を停止すると共に、冷却し、母型20および離型シート24の周囲に非晶質合金薄板22が密着した中間成形体26を加圧容器から取り出す。
【0038】
図3には、離型シートを省略して簡略化した状態で第1の製造方法の概要を示す。図3(a), (b)に、母型20の両側に非晶質合金薄板22を配置して外部から加圧し、母型に密着させる工程(b) を示す。
【0039】
(c) 上記工程(b) で得られた中間成形体26を、図3(b) および図4に示すように、最終金型製造用の外型50に入れる。この外型50の内側空間 (内法) の形状は、四角柱または円柱である。まず、工程(b) で得られた中間成形体を、その外形寸法が外型50の内法と同じ寸法になるように裁断してから、外型50の中に水平に入れる。
【0040】
次に、図3(c) に示すように、中間成形体26を下からジグ (図示せず) などで支えて、外型50の中間高さに保持した状態で、上から非晶質合金の粉末28を充填する。非晶質合金の粉末28は、全体が均一な充填状態になるようにタッピングしながら充填して上面を平坦にならした後、図4に示すように、上から押し棒52を挿入する。外型50および押し棒52の材質は上記(b) で説明した外枠30と同様でよい。その後、外型50全体を上下に反転させ、先に中間成形体26を保持していたジグを外してから、上と同様に非晶質合金の粉末28を外型50内に充填し、同様に押し棒52を挿入する。
【0041】
こうして、外型50の内部に、両側から押し棒52が押し込まれ、その内側には非晶質合金粉末28が密に充填された層が形成され、外型50のほぼ真ん中の位置には母型20を非晶質合金薄板22で挟み込んだ中間成形体26が、両側から粉末28の充填層に挟まれて配置された、図4に示す構成の金型成形用の組立体が得られる。
【0042】
焼結後に本発明の金型の第2層を形成する非晶質合金の粉末28は、非晶質合金薄板22と同じ材質の粉末であることが好ましい。しかし、熱膨張係数がほぼ同等であれば、他の非晶質合金の粉末を使用することもできる。さらに、熱膨張係数がほぼ同等で、焼結可能であれば、非晶質合金以外の材質 (例、結晶質金属もしくは合金) の粉末も使用可能である。
【0043】
使用する非晶質合金粉末28は、ガスもしくは油アトマイズ法により得たもの、ロール急冷法等により得た薄片状の合金を粉砕したもの、或いは各種の方法で得た板材、円柱材、線材などの多様な形状のバルク非晶質合金を冷却後に粉砕したもののいずれでもよい。粉砕はボールミル等の常法により実施できる。粉末の粒径は、焼結後に引張り強度100 MPa 以上、ヤング率50 GPa以上の焼結体が得られる限り、特に制限されないが、平均粒径1〜500 μm 程度が好ましい。非晶質合金粉末の粒径は均一でもよく、また充填率が高くなるように粒子形状に応じた粒度分布を持つように調整してもよい。
【0044】
続いて、図3(d) に示すように、外型50全体を 700〜730 K程度に加熱しながら、両側から押し棒を10 MPa程度の圧力で加圧して熱間プレスし、非晶質合金の粉末を焼結させて焼結体28’ とする。その際に、加熱された非晶質合金粉末が粘性流動あるいは固相拡散し、粒子間の接触部が成長し、緻密化が進行する。緻密化の進行と共に、元の粉末粒子間の空隙が減少していくが、熱間プレスだけで空隙をゼロにすることは実際上は不可能であり、ボイド (気泡) が内部欠陥として残る。
【0045】
この時の加熱温度は、粉末が非晶質合金、特に非晶質合金薄板と同じ非晶質合金である場合には、結晶化を防止するため、該合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度とする。但し、工程(c) では非晶質合金薄板の全体を変形させることが必要であるのに対し、工程(d) では粉末の焼結が起こればよく、全体的な変形は必要ないので、条件が許せば加熱温度を工程(c) より低く設定してもよく、またプレス時間も比較的短くてすむ。従って、本発明の方法では熱間プレスを2回行うにもかかわらず、非晶質合金のブロックを粘性流動により変形させる特開平10−217257号公報に記載の方法に比べて、加熱プレス時間は短くなる。
【0046】
本発明では、被成形材料に接触する金型キャビティ面は、非晶質合金薄板から形成した緻密でボイドのない非晶質合金層であるので、それ以外の部分にボイド等の内部欠陥が存在しても、金型としての機能を十分果たす。金型は加圧して使用されるが、材料強度が引張り強度で100 MPa 以上あり、ヤング率が50 GPa以上であれば金型として使えるので、非晶質合金粉末の焼結体の特性がこの条件を満たすような大きさと割合のボイドの存在は許容される。
【0047】
(d) 最後に、プレスの圧力を解除し、放冷して、外型50からプレス成形物を取り出す。その後、非晶質合金薄板22の間に挟み込んでおいた剥離シート24の両側でプレス成形物を分離して、レンズ母型20を取り外すと、10Aと10Bの一組の非晶質合金製のレンズ金型10が完成する。
【0048】
図3(e) に示すように、このレンズ金型10は、非晶質合金薄板から形成された緻密で欠陥のない非晶質合金層12と、非晶質合金の粉末焼結体である第2層14とから構成され、被成形材料と接触して、成形体の表面を決定する金型キャビティ16の表面は非晶質合金層12から形成される。
【0049】
上述した第1の方法は、予め所定形状に変形させた非晶質合金層を形成してから第2層を形成するため、第2層の材料が非晶質合金層と異なる材料である場合にも実施が容易である。その場合、第2層の材料としては、非晶質合金層を構成する非晶質合金の結晶化温度未満の温度で焼結し、かつ非晶質合金層とほぼ同等の熱膨張係数を有するものを選定する。
【0050】
[第2の製造方法]
(A) まず、第1の製造方法の工程(a) と同様に、レンズ母型を作製する。
(B) それとは別に、図5(a) に示すように、非晶質合金薄板22を外型50の中に入れる。外型50には、予め押し棒 (図示せず) を下から差し込んでおく。外型50と押し棒を使用する代わりに、底面の取り外しが可能な金型に非晶質合金薄板22を入れてもよい。外型50の内側空間 (内法) の形状は、四角柱または円柱のいずれでもよい。
【0051】
使用する非晶質合金薄板と外型 (及び押し棒) は、第1の方法に関して前述したものと同様でよく、金型を使用する場合、その素材は外型と同様でよい。
次に、非晶質合金薄板22の上に非晶質合金の粉末28を充填する。非晶質合金の粉末28も第1の方法に関して前述したものと同様でよい。粉末28は、薄板22を構成する非晶質合金と同じ材質のものが好ましいが、薄板22を構成する非晶質合金と同じ温度で粘性流動が可能であり、かつそれと熱膨張係数がほぼ同等であれば、異なる非晶質合金の粉末を使用することも可能である。
【0052】
粉末の充填性を良くするため、タッピング等により充填密度を高くし、温度と圧力を加えたときの緻密化を容易にすることが好ましい。粉末充填体の表面を平坦にならした後、所望により第2の非晶質合金薄板 (図示せず) を上に乗せてもよい。
【0053】
外型50内に上から押し棒 (図示せず) を挿入し、全体を 700〜730 K程度に加熱しながら、両側から押し棒を1〜10 MPa程度の圧力でプレスして、非晶質合金の粉末を焼結させる。こうして、図5(b) に示すように、非晶質合金粉末の焼結体28’ の少なくとも片面に非晶質合金薄板22が密着した積層体29が得られる。
【0054】
第1の方法の工程(c) に関して述べたように、この熱間プレスにより、加熱された非晶質合金粉末が粘性流動あるいは固相拡散し、粒子間の接触部が成長し、緻密化が進行する。緻密化の進行と共に粉末粒子の空隙が減少していくが、熱間プレスだけでこの空隙をゼロにすることはできない。しかし、本発明では、金型のキャビティ面は緻密でボイド等の欠陥のない非晶質合金の薄板から形成するので、それ以外の部分に内部欠陥が存在していても金型としての機能を十分に果たすことができる。
【0055】
なお、この工程での熱間プレスは非晶質合金薄板22を変形させるものではないので、加熱温度は非晶質合金のガラス転移点から結晶化温度までの温度域の中の比較的低い温度でも十分である。
【0056】
別の緻密化方法として、外型50内での熱間プレスはわずかな時間とし、積層体29が形状を保持する程度に緻密化できれば、一旦冷却して積層体29を外型50から取り出し、別の熱間静水圧プレス(HIP) 装置内で温度と圧力を加えて、積層体29を緻密化させることも可能である。この時の緻密化では、圧力は高くしてもよいが、温度は結晶化温度未満とする必要があるので、上記と同様に 700〜730 K程度にするのが好ましい。
【0057】
(C) 上記の積層体29を二つ用意し、図5(b) と図6に示すように、外型50’ の下から挿入した押し棒52 (図6) の上面に一つの積層体29を乗せる。その上に、工程(A) で作製したレンズ母型20を乗せる。このとき、図示していないが、図2(a) に関して説明したのと同様に、レンズ母型20の周囲には、この母型と同形状の穴を開けた剥離シート (例、石英ガラス板) を取り付ける。さらに母型20の上に乗るように、もう一つの積層体29を外型50’ の中に入れ、その上に第2の押し棒52を外型50’ 内に挿入する。
【0058】
図示のように、積層体29がその片面だけに非晶質合金薄板22を有する場合には、二つの積層体はいずれも、その非晶質合金薄板22が母型20に面するように、即ち、非晶質合金薄板22が内側にくるように配置する。
【0059】
外型50’ の内側形状は外型50と同じである。図6に示すように、外型50’ には、図2(a) に示した外枠30と同様に、二つの積層体29の間の空間 (母型が位置する高さ) に通じた排気穴56が外型50の壁面をを貫通するように設けられおり、この排気穴56は排気ポンプ (図示せず) につながっている。こうして、前記空間からガスを吸引して排気することができる。
【0060】
図6に示すように外型50’ 内に二つの押し棒52と積層体29および母型20を配置したら、その全体を適当な加熱加圧装置 (例、図2(a) に示すようなガス加圧容器40) に入れ、非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度、例えば、700〜730 Kの温度に加熱し、成形用外型から二つの積層体間の空間内のガスを吸引して排気しながら、両方の押し棒に荷重をかけて、非晶質合金薄板22を母型20に密着させるように変形させる (図5(c) を参照) 。この時、積層体を構成する非晶質合金の焼結体も、非晶質合金の薄板と同様に、高温での粘性流動により変形する。必要な加圧力は積層体の厚みによっても変わるが、圧力1〜10 MPa前後で十分な変形速度が得られる。もちろんそれ以下でも、それ以上でも変形速度が実用範囲であれば十分である。
【0061】
第2の方法でも、非晶質合金の全体の変形が必要な積層体中の非晶質合金薄板は薄いので容易に変形する上、粉末焼結体の方は粉末表面の粘性流動による位置ズレや、粉末粒子間に一部残った空隙の潰れによって変形可能であるので、ブロック全体が緻密なバルク非晶質合金を変形させるのに比べて、粘性流動による成形時間は短くてすむ。
【0062】
(D) 積層体が十分に変形し、非晶質合金薄板が母型に密着したら、吸引、加圧を停止すると共に、冷却し、プレス成形物を外型50’ から取り出す。その後、非晶質合金薄板の間に挟み込んでおいた剥離シートの両側でプレス成形物を分離して、レンズ母型20を取り外すと、10Aと10Bからなる一組の非晶質合金製のレンズ金型10が完成する。
【0063】
図5(d) に示すように、このレンズ金型10は、非晶質合金薄板から形成された緻密で欠陥のない非晶質合金層12と、非晶質合金の粉末焼結体である第2層14とから構成され、被成形材料と接触して、成形体の表面を決定する金型キャビティ16の表面は非晶質合金層12から形成される。
【0064】
第2の方法は、非晶質合金薄板と非晶質合金粉末の焼結体とからなる積層体を、母型と接触しない状態で別工程で製作する。特に粉末の焼結は工数が多く、手間がかかるため、母型と切り離した別工程で積層体を形成することで、製造作業を効率的に実施することが可能となる。
【0065】
【発明の効果】
本発明に従って金型キャビティ表面だけにバルク非晶質合金から形成された非晶質合金層を配置し、残りの部分は好ましくは同じ材質の非晶質合金の粉末の焼結体とすることで、大型の金型に対しても、全体が非晶質合金から構成される、金型ひずみの恐れのない金型を、1つの母型から多数複製して製造することが可能となる。また、変形させるバルク非晶質合金の厚みが小さいため、高温での粘性流動による変形に要する時間が短くてすみ、生産性が高い。
【0066】
本発明は、特にレンズ (例、カメラ用レンズ、眼鏡レンズ、CDピックアップレンズ) のように、高度の表面平滑さが要求されるため、金型寿命が短く、多数の金型を最初から用意しておくことが有利な成形体用の金型に適用することが有利であり、1つの母型から効率よく多数の金型を製造することができ、かつ大型のレンズ用の金型にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る金型断面を示す説明図。
【図2】図2(a) は、本発明に係る第1の金型製造方法の1工程に使用する装置構成を模式的に示す側面図であり、図2(b) および(c) は異なる形状の外枠の模式的上面図である。
【図3】図3 (a)〜(e) は、本発明に係る第1の金型製造方法の流れを示す説明図である。
【図4】本発明に係る第1の金型製造方法の金型成形の状況を模式的に示す断面図。
【図5】図5 (a)〜(d) は、本発明に係る第2の金型製造方法の流れを示す説明図である。
【図6】本発明に係る第2の金型製造方法の金型成形の状況を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
10:金型、10A:上型、10B:下型、12:非晶質合金層、14:第2層、16:金型キャビティ、20:母型、22:非晶質合金薄板、24:剥離シート、26:中間成形体、28:非晶質合金粉末、28’ :合金粉末焼結体、29:積層体、30:成形用外枠、32:押さえ枠、34:保持具、36, 56:排気穴、38:排気ポンプ、40:加圧容器、50,50’:外型、52:押し棒
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラスチックやガラス等の成形に利用される金型とその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、非晶質合金 (アモルファス金属または金属ガラスともいう) を利用して、機械加工を行わずに、1つの母型から容易に複数個の金型を複製して製造することができる金型とその製造方法に関し、大型の金型にも適用可能である。
【0002】
【従来の技術】
プラスチックやガラスの成形に使用される金型は、一般に金型用の金属母材を機械加工することによって製造される。平滑面であることが要求されるレンズ用の金型は、表面粗さを小さく仕上げることが重要であるため、加工コストが高く、金型が高価とならざるを得なかった。ところが、そのレンズ用の金型を用いてガラスまたはプラスチックのプレス成形を繰り返すと、金型は摩耗し、初期の形状が崩れてくる。この崩れが許容範囲を超えると、金型寿命となり、改めて金型を作り直す必要が生じる。そのため、プレス成形個数が多いレンズ用の金型は、最初から複数個を作製しておく必要があり、金型製造コストが非常に大きいという問題があった。
【0003】
機械加工が不要な金型の製造技術として、特開平10−217257号公報に、非晶質合金が示す高温での粘性流動加工性を利用することが提案された。この技術では、まず製品となるレンズと同一形状の母型をガラスまたは金属の機械加工により作製する。この母型に、非晶質合金のブロックを、該合金が粘性流動を示す温度域(具体的には結晶化温度Txとガラス転移点Tgとの間の温度域)で押し当てて、非晶質合金が粘性流動特性により母型に密着した形状に変化するのを待つ。変形終了後、室温まで冷却し、母型を抜き取ってから、金型として利用する。
【0004】
非晶質合金は、その開発当初は、超急冷、固相反応といった方法で作製されたため、薄片もしくは粉末状の合金しか得られなかった。その後、1990年代頃から超急冷しなくても (緩冷却でも) 非晶質相が生成する第2世代の非晶質合金が開発され、板やブロックといったバルク非晶質合金 (バルク金属ガラス) が製作可能になった。上記技術ではこのバルク非晶質合金を金型製造に利用する。
【0005】
バルク非晶質合金の作製方法としては、バルク材の形状に応じて、水焼入れ法、アーク溶解法、銅鋳型鋳造法、吸引鋳造法、型締め鋳造法 (溶湯鍛造法) 等が利用できる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、現在のところ、製作可能なバルク非晶質合金の大きさ(厚さ)には限界があり、あまり厚いブロックまたは板は作製できない。前述した特開平10−217257号に開示の技術は、母型とほぼ同程度の厚さの非晶質合金のブロックが必要であるので、大型 (厚さの大きい) の金型製造には適用できなかった。また、この技術には、高温での粘性流動加工に長時間を必要とするという別の問題もあった。
【0007】
バルク非晶質合金の厚さに限界がある理由は次の通りである。非晶質合金のバルク材を鋳造する場合、その表面の冷却速度は大きくできるが、バルク材の内部の冷却速度は、表面への熱伝導に律速されるため遅くなる。緩冷却で非晶質相が生成する合金組成であっても、冷却速度がある下限値より遅くなると、合金は結晶化する。従って、バルク材の厚さが大きすぎると、冷却速度が大きい表面は非晶質になっても、冷却速度が小さい内部では結晶化してしまうことがある。同一組成の合金でも非晶質と結晶質とでは物性値に違いがあり、特に熱膨張係数が異なるため、金型の内部が結晶化すると金型ひずみの原因になる。これを避けるには、金型の全体を非晶質合金から構成する必要があり、内部まで非晶質のバルク非晶質合金が必要となる。以上より、上述した技術に使用する非晶質合金のブロックは、その厚さをあまり大きくできない。
【0008】
本発明は、非晶質合金を利用し、好ましくは全体を非晶質合金から構成するが、大型の金型にも適用可能で、しかも高温での粘性流動加工時間が短縮される金型とその製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、被成形材料と接触する金型キャビティ表面だけにバルク非晶質合金の薄板から形成される非晶質合金層を配し、それ以外の部分は、このバルク非晶質合金と熱膨張係数がほぼ等しい材料からなる別の層 (第2層) とする。バルク非晶質合金の薄板は、内部まで完全に非晶質のものが容易に安定して製作でき、高温での粘性流動加工に要する時間も短くてすむ。第2層は、望ましくは同じ非晶質合金の粉末の焼結体から構成する。このような焼結体は、現状技術では不可避的にボイド(空隙、気泡)を有するので、成形体の表面状態を決める金型キャビティ表面には使用できない。そのため、金型キャビティ表面はボイドのない非晶質合金層とするが、ボイドが許容される金型の内部には非晶質合金粉末の焼結体を使用することで、上記課題を解決する。
【0010】
ここに、本発明は、金型キャビティ表面を形成するバルク非晶質合金から形成された非晶質合金層と、該層とほぼ同等の熱膨張係数を有する第2層とから構成されることを特徴とする金型である。
【0011】
好適態様において、前記第2層は前記非晶質合金層より低密度であり、これは好ましくは非晶質合金粉末の焼結体からなり、この非晶質合金粉末はより好ましくは前記非晶質合金層と同じ合金の粉末である。
【0012】
ここで、「熱膨張係数がほぼ同等」とは、室温から500 ℃の温度範囲において熱膨張係数が±1×10−6/℃以内しか相違しないことを意味する。金型内に異種の材料が存在していても、材料の熱膨張係数の差がこの範囲内であれば、金型ひずみはほぼ完全に防止できる。もちろん、第2層が金型キャビティ表面を形成する非晶質合金層と同じ非晶質合金から形成されていれば、金型全体が同じ熱膨張係数を有し、金型ひずみの問題は完全に解消される。
【0013】
本発明により金型の製造方法も提供される。第1の金型の製造方法は下記工程を含むことを特徴とする:
(a) 被成形体と同一形状の母型を作製する工程、
(b) 前記母型の両側にそれぞれ非晶質合金の薄板を配置した後、この非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度に加熱しながら該薄板を前記母型の方向に加圧することによって、前記母型の周囲に前記非晶質合金の薄板が密着した中間成形体を得る工程、
【0014】
(c) 前記中間成形体の両側にそれぞれ、前記非晶質合金とほぼ同等の熱膨張係数を有する焼結性材料の粉末を充填した後、加熱・加圧して、該粉末を焼結させる工程、および
(d) 前記母型を分離して、前記非晶質合金薄板から形成された非晶質合金層と前記粉末の焼結体からなる第2層とから構成される金型を得る工程。
【0015】
この方法の好適態様において、工程(c) で用いた粉末は、非晶質合金の粉末、好ましくは工程(b) で用いたのと同じ非晶質合金の粉末であり、工程(c) の加熱温度はこの非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度である。
【0016】
本発明による第2の金型の製造方法は、下記工程を含むことを特徴とする:
(A) 被成形体と同一形状の母型を作製する工程、
(B) 非晶質合金の薄板の上に非晶質合金の粉末を充填し、粉末の非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度で加熱しながら加圧することによって、非晶質合金粉末の焼結体の少なくとも片面に非晶質合金薄板が密着した積層体を形成する工程、
【0017】
(C) 工程(A) で形成した母型の両側にそれぞれ、工程(B) で形成した積層体をその非晶質合金薄板が前記母型に面するように配置した後、存在する全ての非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間になる温度に加熱しながら前記積層体を加圧することによって、前記積層体の前記非晶質合金薄板を前記母型に密着させる工程、
(D) 前記母型を分離して、前記非晶質合金薄板から形成された非晶質合金層と非晶質合金粉末の焼結体からなる第2層とから構成される金型を得る工程。
【0018】
特開平10−217257号公報に開示されるように、非晶質合金を一度に鋳込んだブロックから金型を製造すると、鋳造体内部の冷却速度の不均一分布により内部に結晶相が析出しやすく、そうなると熱膨張係数が不均一となり、金型としてひずみ等の問題が発生する。本発明では、予め完全に非晶質化した非晶質合金の薄板と、好ましくは同材質の非晶質化した合金粉末を熱間プレス加工して一体化するため、非晶質相のみからなる、全体に熱膨張係数が均一な、熱ひずみのない良好な金型を安定して製造することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。以下では、主にレンズの成形について本発明を説明するが、本発明に係る金型および金型の製造方法は、レンズ成形用に限られるものではなく、ガラスやプラスチック等の成形に利用される多様な金型に適用できることは云うまでもない。
【0020】
図1は、本発明に係る金型断面を示す説明図である。図1に示すように、金型10は典型的には上型10Aと下型10Bとからなり、両者の間に成形材料が充填される空間である金型キャビティ16を有する。本発明によると、金型10、即ち、上型10Aと下型10Bのそれぞれは、バルク非晶質合金から形成された非晶質合金層12と、この層12 (即ち、該層を構成する非晶質合金) とほぼ同等の熱膨張係数を有する第2層14とから構成される。つまり、普通の金型のように単一材料で金型を構成するのではなく、非晶質合金層12と第2層14との複合材料から金型を構成する。
【0021】
成形時に被成形材料 (ガラス、プラスチック等) と接触して、成形体の表面状態を決定する金型キャビティ16の表面は、緻密でボイドのない、バルク非晶質合金から形成された非晶質合金層12とする。一方、成形時に被成形材料と接触しない金型の内部 (金型キャビティ面の部分と上型/下型の接触面の部分とを除いた残りの部分) を構成する第2層14は、成形時の加圧力に耐える強度を有していて、成形時に非晶質合金層12を変形させずに保持することができれば、微細なボイドがあっても構わない。一般に、第2層を構成する材料は、引張り強度が100 MPa 以上、ヤング率が50 GPa以上であればよく、このような材料特性が得られる限り、ボイドの存在は許容される。
【0022】
非晶質合金層12の厚みは、成形時の加圧下で金型キャビティ16の形状を保持できる強度を有する厚みであれば、特に制限されない。非晶質合金層の厚みは、通常は 0.1〜2mmの範囲内が好ましい。非晶質合金層12は、バルク金属ガラスとも呼ばれるバルク非晶質合金から形成される。本発明では、薄板状のバルク非晶質合金を使用するので、内部まで完全に非晶質のバルク非晶質合金を容易に安定して作製でき、高温での粘性流動加工に要する時間も短くてすむ。
【0023】
非晶質合金層12を構成する非晶質合金は、薄板状のバルク非晶質合金が形成可能 (即ち、緩冷却でも非晶質化する) であれば特に制限されないが、非晶質状態での粘性流動加工が容易に実施できるように、過冷却液体域 (即ち、ガラス転移点から結晶化温度まで) の温度幅が30K以上あるものが好ましく、この温度幅はより好ましくは50K以上である。
【0024】
使用できる非晶質合金の例としては、Zr−Al−TM合金 (TM:周期表VI〜VIII族遷移金属) 、Zr−Ti−TM合金、Zr−Ti−TM−Be合金、Pd−Cu−Ni−P合金などが挙げられるが、これらに限られない。
【0025】
第2層14は、金型キャビティ面を形成する非晶質合金層12と熱膨張係数がほぼ同等であり、かつ前述した引張り強度およびヤング率を有する任意の材料から構成することができる。後述する本発明に係る金型の製造方法では、第2層14は焼結性の粉末、特に非晶質合金の粉末の熱間プレスにより製造するが、第2層14の素材はそれに限定されるものではない。原理的には、第2層14を粉末冶金法ではなく、鋳造法で形成することも可能である。
【0026】
最も好ましい態様においては、第2層14は、非晶質合金層12と同じ非晶質合金の粉末の熱間プレスにより形成される。こうすると、第2層14は、非晶質合金層12より低密度になるが、この層と全く同じ熱膨張係数を有するため、金型ひずみの問題が完全に解消される。しかし、第2層14は、非晶質合金層12とは合金組成がやや異なるが、熱膨張係数がほぼ同等の別の非晶質合金の粉末から形成してもよい。さらには、非晶質合金層12と熱膨張係数がほぼ同等であれば、第2層14は結晶質の合金もしくは金属から形成することも可能である。
【0027】
次に本発明に係る金型の2つの製造方法について説明する。これらの製造方法は、非晶質合金素材として、ガラス転移点が 700K、結晶化温度が 750K (従って、過冷却温度域の温度幅は約50K) であるZr50Al10Ni10Cu30を使用する場合について説明する。非晶質合金は別のものに変更できるが、その場合には、当業者には明らかなように、その合金のガラス転移点および結晶化温度に応じて熱間プレスの温度を変更する。
【0028】
[第1の製造方法]
(a) まず、被成形体と同一形状の母型 (マスター型) を作製する。レンズの場合、金型でプレス成形したいレンズ形状の母型を、ガラスまたは金属から、通常のレンズ成形法により作製すればよい。このレンズ成形法では、通常行われているように、母材であるガラス塊または金属塊から、切削、研削、研磨などの工程を経て目的とする形状を形作る。母型の表面仕上げは、金型からプレス成形で製造するレンズに要求される以上の面精度で仕上げる必要がある。その理由は、次の工程(b) で非晶質合金の高温粘性流動により母型表面を非晶質合金薄板に転写する際に、該薄板にでき上がる面精度は母型の面精度を越えないからである。
【0029】
(b) 形成したレンズ母型の両側にそれぞれ、薄板状のバルク非晶質合金である非晶質合金薄板を配置する。これは次にようにして実施することができる。
図2(a) に示すように、専用の成形用外枠30を用意し、その中心に母型20を配置する。外枠30の材質は特に制限されないが、かかる圧力は低いので、炭素鋼、ステンレス鋼、金型鋼などでよい。外枠30の形状は、製造する金型の形状に応じて、図2(b) に示すように方形でも、図2(c) に示すように円形でもよい。外枠30の開口部の大きさ (内法寸法) は製造する金型の外径よりやや大きくする。
【0030】
この外枠30は、実線で示す2枚の非晶質合金薄板22を、間に母型20を挟んで離間保持することができる。図示例では、図2(a) に示すように、外枠30の内法寸法を非晶質合金薄板22より小さくし、外枠30の両面側に切り欠きを設けて、開口部の大きさを非晶質合金薄板が載る大きさにし、この切り欠きの台座に非晶質合金薄板を載せた後、別部材の押え枠32を切り欠きに嵌め込むことにより、非晶質合金薄板22を平行に離間させて保持する。こうして、母型20の上下を非晶質合金の薄板22で挟み込み、この薄板22の端を成形用外枠30に固定することができる。
【0031】
母型の周囲には離型シート24を挟み込む。この離型シート24は、外枠30の開口部と同じ大きさで、母型の外周形状に等しい開口部を有する。離型シート24としては、非晶質合金の結晶化温度で軟化しないものがよく、例えば石英ガラス板などのガラス板が好ましい。厚みは特に限定されないが、1mm以下、例えば 0.2〜1mm程度が好ましい。この離型シート24も適当な手段で外枠30により保持される。図示例では外枠30の開口部に設けた断面三角形の保持具34を利用する。
【0032】
従って、実際の組立てにおいては、外枠30にまず下側の非晶質合金薄板22を固定し、次に母型20と離型シート24を配置した後、上側の非晶質合金薄板22を固定する。
【0033】
非晶質合金薄板22は、例えば、非晶質合金原料を水冷銅鋳型にセットし、Arガス雰囲気中でアーク溶解した後、溶融合金を上下の銅鋳型の間で鍛造する型締め鋳造法 (溶湯鍛造法) により作製することができる。また、連続鋳造、吸引鋳造のような他のバルク非晶質合金の製造方法で作ることもできる。
【0034】
成形用外枠30は、母型20を挟んでいる非晶質合金薄板22間の空間内のガスを吸引することが可能な構造となっている。即ち、外枠30には、2枚の薄板22の間の位置で壁面を貫通する排気穴36が一カ所にあけてあり、この排気穴36は排気ポンプ38につながっていて、薄板間の空間内を排気できる。
【0035】
上記のように母型20、非晶質合金薄板22および離型シート24を成型用外枠30に配置したら、図2(a) に示すように、外枠30全体を不活性ガス雰囲気(例、HeまたはAr)の加圧容器40の中に入れ、薄板22を構成する非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度、具体的には 700〜730 K程度の温度に加熱し、成形用外枠30から非晶質合金薄板の間のガスを吸引排気しながら、加圧容器40の内部圧力を増加させる。加圧は、液体圧を利用するハイドロフォーミングにより行うこともできる。
【0036】
この温度域では非晶質合金は粘性流動して変形するので、上記のようにして、2枚の非晶質合金薄板22を外側から加圧し、内部空間を排気すると、これらの薄板は内側方向に押されて母型および離型シートに密着し、図2(a) に破線で示すように、非晶質合金薄板22は母型20に密着する。これに必要な加圧力は非晶質合金薄板の厚み等に応じて変わるが、非晶質合金薄板間の空間の吸引中の圧力との差が1気圧から10気圧程度で十分な変形速度が得られる。無論それ以下でも、それ以上でも変形速度が実用範囲であれば十分である。バルク非晶質合金が薄板であるので、変形に要する時間は比較的短くてすむ。
【0037】
非晶質合金薄板22が十分に変形し、母型20に密着したら、吸引および加圧を停止すると共に、冷却し、母型20および離型シート24の周囲に非晶質合金薄板22が密着した中間成形体26を加圧容器から取り出す。
【0038】
図3には、離型シートを省略して簡略化した状態で第1の製造方法の概要を示す。図3(a), (b)に、母型20の両側に非晶質合金薄板22を配置して外部から加圧し、母型に密着させる工程(b) を示す。
【0039】
(c) 上記工程(b) で得られた中間成形体26を、図3(b) および図4に示すように、最終金型製造用の外型50に入れる。この外型50の内側空間 (内法) の形状は、四角柱または円柱である。まず、工程(b) で得られた中間成形体を、その外形寸法が外型50の内法と同じ寸法になるように裁断してから、外型50の中に水平に入れる。
【0040】
次に、図3(c) に示すように、中間成形体26を下からジグ (図示せず) などで支えて、外型50の中間高さに保持した状態で、上から非晶質合金の粉末28を充填する。非晶質合金の粉末28は、全体が均一な充填状態になるようにタッピングしながら充填して上面を平坦にならした後、図4に示すように、上から押し棒52を挿入する。外型50および押し棒52の材質は上記(b) で説明した外枠30と同様でよい。その後、外型50全体を上下に反転させ、先に中間成形体26を保持していたジグを外してから、上と同様に非晶質合金の粉末28を外型50内に充填し、同様に押し棒52を挿入する。
【0041】
こうして、外型50の内部に、両側から押し棒52が押し込まれ、その内側には非晶質合金粉末28が密に充填された層が形成され、外型50のほぼ真ん中の位置には母型20を非晶質合金薄板22で挟み込んだ中間成形体26が、両側から粉末28の充填層に挟まれて配置された、図4に示す構成の金型成形用の組立体が得られる。
【0042】
焼結後に本発明の金型の第2層を形成する非晶質合金の粉末28は、非晶質合金薄板22と同じ材質の粉末であることが好ましい。しかし、熱膨張係数がほぼ同等であれば、他の非晶質合金の粉末を使用することもできる。さらに、熱膨張係数がほぼ同等で、焼結可能であれば、非晶質合金以外の材質 (例、結晶質金属もしくは合金) の粉末も使用可能である。
【0043】
使用する非晶質合金粉末28は、ガスもしくは油アトマイズ法により得たもの、ロール急冷法等により得た薄片状の合金を粉砕したもの、或いは各種の方法で得た板材、円柱材、線材などの多様な形状のバルク非晶質合金を冷却後に粉砕したもののいずれでもよい。粉砕はボールミル等の常法により実施できる。粉末の粒径は、焼結後に引張り強度100 MPa 以上、ヤング率50 GPa以上の焼結体が得られる限り、特に制限されないが、平均粒径1〜500 μm 程度が好ましい。非晶質合金粉末の粒径は均一でもよく、また充填率が高くなるように粒子形状に応じた粒度分布を持つように調整してもよい。
【0044】
続いて、図3(d) に示すように、外型50全体を 700〜730 K程度に加熱しながら、両側から押し棒を10 MPa程度の圧力で加圧して熱間プレスし、非晶質合金の粉末を焼結させて焼結体28’ とする。その際に、加熱された非晶質合金粉末が粘性流動あるいは固相拡散し、粒子間の接触部が成長し、緻密化が進行する。緻密化の進行と共に、元の粉末粒子間の空隙が減少していくが、熱間プレスだけで空隙をゼロにすることは実際上は不可能であり、ボイド (気泡) が内部欠陥として残る。
【0045】
この時の加熱温度は、粉末が非晶質合金、特に非晶質合金薄板と同じ非晶質合金である場合には、結晶化を防止するため、該合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度とする。但し、工程(c) では非晶質合金薄板の全体を変形させることが必要であるのに対し、工程(d) では粉末の焼結が起こればよく、全体的な変形は必要ないので、条件が許せば加熱温度を工程(c) より低く設定してもよく、またプレス時間も比較的短くてすむ。従って、本発明の方法では熱間プレスを2回行うにもかかわらず、非晶質合金のブロックを粘性流動により変形させる特開平10−217257号公報に記載の方法に比べて、加熱プレス時間は短くなる。
【0046】
本発明では、被成形材料に接触する金型キャビティ面は、非晶質合金薄板から形成した緻密でボイドのない非晶質合金層であるので、それ以外の部分にボイド等の内部欠陥が存在しても、金型としての機能を十分果たす。金型は加圧して使用されるが、材料強度が引張り強度で100 MPa 以上あり、ヤング率が50 GPa以上であれば金型として使えるので、非晶質合金粉末の焼結体の特性がこの条件を満たすような大きさと割合のボイドの存在は許容される。
【0047】
(d) 最後に、プレスの圧力を解除し、放冷して、外型50からプレス成形物を取り出す。その後、非晶質合金薄板22の間に挟み込んでおいた剥離シート24の両側でプレス成形物を分離して、レンズ母型20を取り外すと、10Aと10Bの一組の非晶質合金製のレンズ金型10が完成する。
【0048】
図3(e) に示すように、このレンズ金型10は、非晶質合金薄板から形成された緻密で欠陥のない非晶質合金層12と、非晶質合金の粉末焼結体である第2層14とから構成され、被成形材料と接触して、成形体の表面を決定する金型キャビティ16の表面は非晶質合金層12から形成される。
【0049】
上述した第1の方法は、予め所定形状に変形させた非晶質合金層を形成してから第2層を形成するため、第2層の材料が非晶質合金層と異なる材料である場合にも実施が容易である。その場合、第2層の材料としては、非晶質合金層を構成する非晶質合金の結晶化温度未満の温度で焼結し、かつ非晶質合金層とほぼ同等の熱膨張係数を有するものを選定する。
【0050】
[第2の製造方法]
(A) まず、第1の製造方法の工程(a) と同様に、レンズ母型を作製する。
(B) それとは別に、図5(a) に示すように、非晶質合金薄板22を外型50の中に入れる。外型50には、予め押し棒 (図示せず) を下から差し込んでおく。外型50と押し棒を使用する代わりに、底面の取り外しが可能な金型に非晶質合金薄板22を入れてもよい。外型50の内側空間 (内法) の形状は、四角柱または円柱のいずれでもよい。
【0051】
使用する非晶質合金薄板と外型 (及び押し棒) は、第1の方法に関して前述したものと同様でよく、金型を使用する場合、その素材は外型と同様でよい。
次に、非晶質合金薄板22の上に非晶質合金の粉末28を充填する。非晶質合金の粉末28も第1の方法に関して前述したものと同様でよい。粉末28は、薄板22を構成する非晶質合金と同じ材質のものが好ましいが、薄板22を構成する非晶質合金と同じ温度で粘性流動が可能であり、かつそれと熱膨張係数がほぼ同等であれば、異なる非晶質合金の粉末を使用することも可能である。
【0052】
粉末の充填性を良くするため、タッピング等により充填密度を高くし、温度と圧力を加えたときの緻密化を容易にすることが好ましい。粉末充填体の表面を平坦にならした後、所望により第2の非晶質合金薄板 (図示せず) を上に乗せてもよい。
【0053】
外型50内に上から押し棒 (図示せず) を挿入し、全体を 700〜730 K程度に加熱しながら、両側から押し棒を1〜10 MPa程度の圧力でプレスして、非晶質合金の粉末を焼結させる。こうして、図5(b) に示すように、非晶質合金粉末の焼結体28’ の少なくとも片面に非晶質合金薄板22が密着した積層体29が得られる。
【0054】
第1の方法の工程(c) に関して述べたように、この熱間プレスにより、加熱された非晶質合金粉末が粘性流動あるいは固相拡散し、粒子間の接触部が成長し、緻密化が進行する。緻密化の進行と共に粉末粒子の空隙が減少していくが、熱間プレスだけでこの空隙をゼロにすることはできない。しかし、本発明では、金型のキャビティ面は緻密でボイド等の欠陥のない非晶質合金の薄板から形成するので、それ以外の部分に内部欠陥が存在していても金型としての機能を十分に果たすことができる。
【0055】
なお、この工程での熱間プレスは非晶質合金薄板22を変形させるものではないので、加熱温度は非晶質合金のガラス転移点から結晶化温度までの温度域の中の比較的低い温度でも十分である。
【0056】
別の緻密化方法として、外型50内での熱間プレスはわずかな時間とし、積層体29が形状を保持する程度に緻密化できれば、一旦冷却して積層体29を外型50から取り出し、別の熱間静水圧プレス(HIP) 装置内で温度と圧力を加えて、積層体29を緻密化させることも可能である。この時の緻密化では、圧力は高くしてもよいが、温度は結晶化温度未満とする必要があるので、上記と同様に 700〜730 K程度にするのが好ましい。
【0057】
(C) 上記の積層体29を二つ用意し、図5(b) と図6に示すように、外型50’ の下から挿入した押し棒52 (図6) の上面に一つの積層体29を乗せる。その上に、工程(A) で作製したレンズ母型20を乗せる。このとき、図示していないが、図2(a) に関して説明したのと同様に、レンズ母型20の周囲には、この母型と同形状の穴を開けた剥離シート (例、石英ガラス板) を取り付ける。さらに母型20の上に乗るように、もう一つの積層体29を外型50’ の中に入れ、その上に第2の押し棒52を外型50’ 内に挿入する。
【0058】
図示のように、積層体29がその片面だけに非晶質合金薄板22を有する場合には、二つの積層体はいずれも、その非晶質合金薄板22が母型20に面するように、即ち、非晶質合金薄板22が内側にくるように配置する。
【0059】
外型50’ の内側形状は外型50と同じである。図6に示すように、外型50’ には、図2(a) に示した外枠30と同様に、二つの積層体29の間の空間 (母型が位置する高さ) に通じた排気穴56が外型50の壁面をを貫通するように設けられおり、この排気穴56は排気ポンプ (図示せず) につながっている。こうして、前記空間からガスを吸引して排気することができる。
【0060】
図6に示すように外型50’ 内に二つの押し棒52と積層体29および母型20を配置したら、その全体を適当な加熱加圧装置 (例、図2(a) に示すようなガス加圧容器40) に入れ、非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度、例えば、700〜730 Kの温度に加熱し、成形用外型から二つの積層体間の空間内のガスを吸引して排気しながら、両方の押し棒に荷重をかけて、非晶質合金薄板22を母型20に密着させるように変形させる (図5(c) を参照) 。この時、積層体を構成する非晶質合金の焼結体も、非晶質合金の薄板と同様に、高温での粘性流動により変形する。必要な加圧力は積層体の厚みによっても変わるが、圧力1〜10 MPa前後で十分な変形速度が得られる。もちろんそれ以下でも、それ以上でも変形速度が実用範囲であれば十分である。
【0061】
第2の方法でも、非晶質合金の全体の変形が必要な積層体中の非晶質合金薄板は薄いので容易に変形する上、粉末焼結体の方は粉末表面の粘性流動による位置ズレや、粉末粒子間に一部残った空隙の潰れによって変形可能であるので、ブロック全体が緻密なバルク非晶質合金を変形させるのに比べて、粘性流動による成形時間は短くてすむ。
【0062】
(D) 積層体が十分に変形し、非晶質合金薄板が母型に密着したら、吸引、加圧を停止すると共に、冷却し、プレス成形物を外型50’ から取り出す。その後、非晶質合金薄板の間に挟み込んでおいた剥離シートの両側でプレス成形物を分離して、レンズ母型20を取り外すと、10Aと10Bからなる一組の非晶質合金製のレンズ金型10が完成する。
【0063】
図5(d) に示すように、このレンズ金型10は、非晶質合金薄板から形成された緻密で欠陥のない非晶質合金層12と、非晶質合金の粉末焼結体である第2層14とから構成され、被成形材料と接触して、成形体の表面を決定する金型キャビティ16の表面は非晶質合金層12から形成される。
【0064】
第2の方法は、非晶質合金薄板と非晶質合金粉末の焼結体とからなる積層体を、母型と接触しない状態で別工程で製作する。特に粉末の焼結は工数が多く、手間がかかるため、母型と切り離した別工程で積層体を形成することで、製造作業を効率的に実施することが可能となる。
【0065】
【発明の効果】
本発明に従って金型キャビティ表面だけにバルク非晶質合金から形成された非晶質合金層を配置し、残りの部分は好ましくは同じ材質の非晶質合金の粉末の焼結体とすることで、大型の金型に対しても、全体が非晶質合金から構成される、金型ひずみの恐れのない金型を、1つの母型から多数複製して製造することが可能となる。また、変形させるバルク非晶質合金の厚みが小さいため、高温での粘性流動による変形に要する時間が短くてすみ、生産性が高い。
【0066】
本発明は、特にレンズ (例、カメラ用レンズ、眼鏡レンズ、CDピックアップレンズ) のように、高度の表面平滑さが要求されるため、金型寿命が短く、多数の金型を最初から用意しておくことが有利な成形体用の金型に適用することが有利であり、1つの母型から効率よく多数の金型を製造することができ、かつ大型のレンズ用の金型にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る金型断面を示す説明図。
【図2】図2(a) は、本発明に係る第1の金型製造方法の1工程に使用する装置構成を模式的に示す側面図であり、図2(b) および(c) は異なる形状の外枠の模式的上面図である。
【図3】図3 (a)〜(e) は、本発明に係る第1の金型製造方法の流れを示す説明図である。
【図4】本発明に係る第1の金型製造方法の金型成形の状況を模式的に示す断面図。
【図5】図5 (a)〜(d) は、本発明に係る第2の金型製造方法の流れを示す説明図である。
【図6】本発明に係る第2の金型製造方法の金型成形の状況を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
10:金型、10A:上型、10B:下型、12:非晶質合金層、14:第2層、16:金型キャビティ、20:母型、22:非晶質合金薄板、24:剥離シート、26:中間成形体、28:非晶質合金粉末、28’ :合金粉末焼結体、29:積層体、30:成形用外枠、32:押さえ枠、34:保持具、36, 56:排気穴、38:排気ポンプ、40:加圧容器、50,50’:外型、52:押し棒
Claims (8)
- 金型キャビティ表面を形成するバルク非晶質合金から形成された非晶質合金層と、該層とほぼ同等の熱膨張係数を有する第2層とから構成されることを特徴とする金型。
- 前記第2層が前記非晶質合金層より低密度である、請求項1記載の金型。
- 前記第2層が非晶質合金粉末の焼結体からなる、請求項2記載の金型。
- 前記非晶質合金粉末が、前記非晶質合金層と同じ合金の粉末である、請求項3記載の金型。
- 下記工程を含むことを特徴とする金型の製造方法:
(a) 被成形体と同一形状の母型を作製する工程、
(b) 前記母型の両側にそれぞれ非晶質合金の薄板を配置した後、この非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度に加熱しながら該薄板を前記母型の方向に加圧することによって、前記母型の周囲に前記非晶質合金の薄板が密着した中間成形体を得る工程、
(c) 前記中間成形体の両側にそれぞれ、前記非晶質合金とほぼ同等の熱膨張係数を有する焼結性材料の粉末を充填した後、加熱・加圧して、該粉末を焼結させる工程、および
(d) 前記母型を分離して、前記非晶質合金薄板から形成された非晶質合金層と前記粉末の焼結体からなる第2層とから構成される金型を得る工程。 - 工程(c) で用いた粉末が非晶質合金の粉末であり、工程(c) における加熱温度が、この非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度である、請求項5記載の方法。
- 工程(c) で用いた粉末が、工程(b) で用いたのと同じ非晶質合金の粉末である、請求項6記載の方法。
- 下記工程を含むことを特徴とする金型の製造方法:
(A) 被成形体と同一形状の母型を作製する工程、
(B) 非晶質合金の薄板の上に非晶質合金の粉末を充填し、粉末の非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間の温度で加熱しながら加圧することによって、非晶質合金粉末の焼結体の少なくとも片面に非晶質合金薄板が密着した積層体を形成する工程、
(C) 工程(A) で形成した母型の両側にそれぞれ、工程(B) で形成した積層体をその非晶質合金薄板が前記母型に面するように配置した後、存在する全ての非晶質合金のガラス転移点と結晶化温度との間になる温度に加熱しながら前記積層体を加圧することによって、前記積層体の前記非晶質合金薄板を前記母型に密着させる工程、
(D) 前記母型を分離して、前記非晶質合金薄板から形成された非晶質合金層と非晶質合金粉末の焼結体からなる第2層とから構成される金型を得る工程。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2006334795A (ja) * | 2005-05-31 | 2006-12-14 | Victor Co Of Japan Ltd | 成形金型 |
JP2009138263A (ja) * | 2007-11-16 | 2009-06-25 | Sanyo Special Steel Co Ltd | 金属ガラス粉末焼結による金型の製造方法とその金型および部材 |
WO2022176974A1 (ja) * | 2021-02-22 | 2022-08-25 | 有限会社スワニー | 成形型の製造法 |
CN115141999A (zh) * | 2021-09-08 | 2022-10-04 | 武汉苏泊尔炊具有限公司 | 涂层及包括涂层的炊具 |
-
2002
- 2002-08-30 JP JP2002255205A patent/JP2004090434A/ja not_active Withdrawn
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