JP2004084933A - 水素ステーションシステム - Google Patents
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Abstract
【課題】離島や山間部の様な、遠隔地において、水素自動車又は定地施設に、低コストで安定的に水素を供給することが可能な水素ステーションシステムを提供すること。
【解決手段】水素を需要先に供給するための水素ステーションシステムであって、該システムは、
(A)デカリンと1−メチルデカリンの混合物から水素を取り出す水素供給システム、
(B)水素スタンドシステム、
(C)(A)で生成する芳香族化合物の貯蔵システム、及び
(D)水素を(A)より(B)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステム、或いは、
さらに、
(E)水素供給体を取り出す水素貯蔵システム、
(F)芳香族化合物を(C)より(E)へ輸送するシステム、及び
(G)(E)より生成した水素供給体を(A)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステムにて提供した。
【選択図】 図1
【解決手段】水素を需要先に供給するための水素ステーションシステムであって、該システムは、
(A)デカリンと1−メチルデカリンの混合物から水素を取り出す水素供給システム、
(B)水素スタンドシステム、
(C)(A)で生成する芳香族化合物の貯蔵システム、及び
(D)水素を(A)より(B)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステム、或いは、
さらに、
(E)水素供給体を取り出す水素貯蔵システム、
(F)芳香族化合物を(C)より(E)へ輸送するシステム、及び
(G)(E)より生成した水素供給体を(A)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステムにて提供した。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素ステーションシステムに関し、さらに詳しくは、離島や山間部の様な、遠隔地においても、水素を動力源として走行する水素自動車に、あるいは工場、コンビニ、病院、家屋等の定地施設に、低コストで水素を供給することが可能な水素ステーションシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の動力源としては、ガソリン、LPG、軽油等が長い間使用されてきたが、これらは燃焼した後、炭酸ガス、窒素酸化物、炭素微粒子等を発生し、地球温暖化、森林枯死、呼吸器疾患、建築構造物の汚染等様々な弊害を生じており、クリーンな動力源が求められてきた。
クリーンな動力源としては、燃焼後は水のみしか発生しない水素がすぐれており、近年、水素燃料電池でモーターを回転させ、車を走行させたり、水素をエンジンルームで爆発させ往復運動を回転運動に変換し車を走行させる、所謂水素自動車が開発され、一部の自動車メーカーは、試作車を発表している。
しかしながら、水素自動車は、動力源の水素が、まだ価格が高いことや、ガソリンスタンドのように、全国津々浦々まで配置されていなく、車の燃料が途中で無くなると対応が出来ないこと等が原因で普及が遅れている。
【0003】
自動車以外の水素の需要としては、遠隔地の工場、コンビニ、病院、家屋等の定地施設における電力源としての水素燃料電池や、水素を燃料とする内燃機関があるが、上記の水素自動車の普及が遅れている理由と同様な理由で普及が遅れている。
これを克服するため、水素自動車、工場、コンビニ、病院又は家屋への水素を供給するための水素ステーションは、1)天然ガス改質、2)水電気分解により、オンサイト(供給するその場)で水素を発生させる方法が現在検討中である。
【0004】
オンサイトでの水素発生以外の方法としては、
1)超高圧ボンベにより、圧縮水素として水素ステーションまで輸送する、
2)液体水素として、水素ステーションまで輸送する、
3)水素吸蔵合金等に吸蔵させて、水素ステーションまで輸送する
等の方法が検討中である。
【0005】
しかしながら、天然ガス改質の場合は、水素ステーションまでガスパイプライン等が到達していなければならず、離島山間部のような遠隔地へパイプラインを敷設するのには、莫大な設備投資コストが必要となり、非現実的である。
さらには、水素取り出しに、必ず二酸化炭素発生を伴うため、環境へ影響を及ぼす問題がある。また、水電気分解の場合は、たとえば燃料電池で1kWの発電をさせるために必要な水素を得るために、約2.5kWの電力を投入する必要があり、エネルギー効率が非常に悪い。
さらに、圧縮水素による水素輸送の場合、一度に輸送できる水素量は少なく、効率が悪く、液体水素による水素輸送の場合、まず、水素を液化させるのに大きなエネルギーを必要とし、さらに輸送中あるいは保管中にボイルオフによる水素ガス発生が必ず起こり、効率が悪いと共に、危険性が大きい。
水素吸蔵合金による水素輸送の場合、重量あたりの水素貯蔵量が少なく、効率が悪い。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、こうした従来技術の問題点に鑑み、離島や山間部の様な、遠隔地においても、水素自動車、工場、コンビニ、病院又は家屋等に、低コストで水素を供給することが可能な水素ステーションシステムを提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を達成すべく鋭意研究した結果、低コストで水素が製造できる水素供給システムを、オンサイトに設置することにより、またこれと、工場地帯に立地する水素貯蔵システムを組合せることにより、更に低コストで水素が製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、水素を需要先に供給するための水素ステーションシステムであって、該システムは、
(A)デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体の脱水素反応を利用して水素を取り出す水素供給システム、
(B)取り出された水素を需要先に供給する水素スタンドシステム、
(C)(A)で生成するナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物からなる芳香族化合物を分離回収し、貯蔵する芳香族化合物の貯蔵システム、及び
(D)水素を(A)より(B)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、該システムは、さらに、
(E)ナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物からなる水素貯蔵体の水素化反応を利用して、水素供給体を取り出す水素貯蔵システム、
(F)芳香族化合物を(C)より(E)へ輸送するシステム、及び
(G)(E)で生成する水素供給体を(A)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、前記水素貯蔵システム(E)の水素化反応に用いられる水素は、下記から選ばれる少なくとも1種の水素であることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
(E−1) 製鉄工業の排出ガス中に含まれる水素
(E−2) ソーダ電解工業より発生する水素
(E−3) 石油精製工業より発生する水素
(E−4) アンモニア製造工場の余剰水素
(E−5) 自然エネルギーによる電力で水を電気分解して得られる水素
(E−6) 太陽光による触媒反応で水を直接水素と酸素に分解する反応により得られる水素
【0010】
また、本発明の第4の発明によれば、第2の発明において、該システムは、さらに、
(H)水素貯蔵システム(E)に用いられる芳香族化合物を天然ガス(メタン)より直接製造するシステム
(I)(H)で生成する芳香族化合物を(E)へ輸送するシステム、及び
(J)(H)で発生する水素を(E)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0011】
本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記水素スタンドシステム(B)は、(B−1)(A)より取り出した水素を貯蔵するための水素貯蔵手段と、(B−2)水素自動車に水素を供給するための水素計量供給手段と、(B−3)水素自動車を停留させるための停留手段とを含むことを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0012】
本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、前記水素供給システム(A)の脱水素反応に用いられるデカリンと1−メチルデカリンとの混合物中におけるデカリンの含有割合は、1−メチルデカリン100体積部に対して20〜2000体積部であることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0013】
また、本発明の第7の発明によれば、第1又は6の発明において、前記水素供給システム(A)の脱水素反応に用いられるデカリンと1−メチルデカリンとの混合物は、さらに、水素化芳香族化合物類の少なくとも1種を含有することを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0014】
さらに、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、上記水素化芳香族化合物類の含有割合は、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物100体積部に対して、0.1〜100体積部であることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0015】
本発明の第9の発明によれば、第1の発明において、前記水素供給システム(A)は、(a)水素供給体を収納する原料貯蔵手段と、(b)水素供給体の脱水素反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置と、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段と、(d)原料貯蔵手段内の水素供給体を反応装置へ供給する水素供給体供給手段と、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて水素と脱水素体に分離する気液分離手段と、(f)分離した脱水素体を回収する反応物回収手段とからなることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0016】
また、本発明の第10の発明によれば、第2の発明において、前記水素貯蔵システム(E)は、(a)水素貯蔵体を収納する原料貯蔵手段と、(b)水素貯蔵体の水素化反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置と、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段と、(d)原料貯蔵手段内の水素貯蔵体を反応装置へ供給する水素貯蔵体供給手段と、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて未反応水素と該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体に分離する気液分離手段と、(f)分離した水素供給体を回収する反応物回収手段とからなることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0017】
さらに、本発明の第11の発明によれば、第9又は10の発明において、上記金属担持触媒は、担持金属が、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルト、又は鉄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、一方、担持金属を担持する担体が、活性炭、カーボンナノチューブ、モレキュラシーブ、ゼオライト、シリカゲル、又はアルミナ若しくは金属の多孔質体から選ばれるいずれか1種の化合物であることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の水素ステーションシステムについて、各項目毎に説明する。
【0019】
1.水素の需要先
本発明において、水素の需要先としては、水素を動力源とする自動車(水素自動車と略称することもある。)、または定地施設である。
水素を動力源とする自動車とは、水素燃料電池で発電しモーターを回転させ、車を走行させたり、水素をエンジンルームで爆発させ往復運動を回転運動に変換し車を走行させる、所謂水素自動車であり、いずれの方式においても車体の一部に水素貯蔵装置を設置する必要がある。
【0020】
水素貯蔵装置としては、25MPa〜70MPa程度の高圧水素ガスを2.2kg〜6.1kg程度貯蔵できる容積が100L程度の高圧ボンベ(継ぎ目なしのアルミライナー製ボンベの外側に炭素繊維を巻き、樹脂で固めた構造)や、水素吸蔵性の合金、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー等を充填したタンク等、あるいは断熱処理を施した液体水素タンク等が好ましい。
定地施設としては、工場、コンビニ、スーパーマーケット、デパート、病院、家屋、教会、神社、仏閣、体育館、運動場、競馬場、競輪場、博物館、図書館、学校、飛行場、水族館、動物園、植物園、ホテル、旅館、山荘、別荘等が挙げられ、そこにおいて、水素を燃料電池や内燃機関の燃料(エネルギー源)として利用する。
【0021】
2.水素供給体
本発明において、水素供給体とは、水素発生に用いる水素供給システム(A)の原料であり、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる。
本発明に係る水素供給体は、常温・常圧で液体状態のものであり、安定に存在するため、ガソリン等と同様の扱いができ、既存のガソリンスタンド等の貯蔵タンクや、タンクローリー等の移送手段を利用することが可能であるため、インフラ整備にかかる費用も非常に少なくてすむ。
デカリンや1−メチルデカリンは、単位容積当たりの水素発生量が多く、毒性も少なく、両者を混合して使用すると、システム系内における固着や凝固問題がおこらず、常温においても流動性があり、また脱水素されて生成するナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物からなる水素貯蔵体は、常温・常圧で液体状態のものであり、安定に存在するため、ガソリン等と同様の扱いができ、既存のガソリンスタンド等の貯蔵タンクや、タンクローリー等の移送手段を利用することが可能であり、水素貯蔵システム(E)の原料として使用できるので、本発明においては、特に水素供給体としてデカリンと1−メチルデカリンとの混合物を選択し、採用した。
デカリンと1−メチルデカリン及びそれらの混合物などについて、更に詳細に説明する。
【0022】
2.1 デカリン
本発明において使用する、水素供給体の主成分としてのデカリンは、下記の化学構造式(1)及び(2)でそれぞれ表わされる異性体の総称であり、化学構造式(1)のcis−デカリンは、融点−43.26℃、沸点195.7℃であり、また、化学構造式(2)のtrans−デカリンは、融点−31.16℃、沸点185.5℃の化合物である。
【0023】
【化1】
【0024】
【化2】
【0025】
水素供給体としては、デカリンが水素供給能力、安全性、入手の容易さから、最も優れているため、本発明においては、ベースの水素供給体としてデカリンを主要な成分として採用している。
デカリンは、上記したように融点が−43〜−31℃と低いので、融点が約80℃のナフタレンの融点を降下させ溶解し、ナフタレンが反応装置系内に固着しないようにすることができる効果もある。
【0026】
2.2 1−メチルデカリン
本発明において、水素供給体として用いる1−メチルデカリンには、4種の立体異性体(以降、1−メチルデカリン異性体と略称することもある。)があり、下記の化学構造式(3)〜(6)でそれそれ表わされるtrans−cis−1−メチルデカリン、trans−trans−1−メチルデカリン、cis−cis−1−メチルデカリン、又はcis−trans−1−メチルデカリン等で表わされるものである。
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
【化5】
【0030】
【化6】
【0031】
1−メチルデカリン異性体は、本発明に係る水素貯蔵システム(E)を用い、1−メチルナフタレンの水素添加反応によって得られ、また、本発明に係る水素供給システム(A)を用い、1−メチルデカリン異性体の脱水素反応によって1−メチルナフタレンと水素に変換される。
上記4種類の1−メチルデカリン異性体の確認と、及びこれらが全て水素供給体として有効であることは、本発明者等によって始めて実証されたものである。
【0032】
2.3 デカリンと1−メチルデカリンとの混合物
水素供給体としては、前述したように、デカリンが水素供給能力、安全性、流動性、入手の容易さ、価格等の観点から、他の水素供給体と比較し優れているため、本発明においては、ベースの水素供給体としてデカリンを主要な成分として採用している。そして、デカリン単独であると、次のような問題があるので、1−メチルデカリンとの併用によって解決したものである。
すなわち、これまでナフタレンは、毒性が少なく、単位重量当たりの水素発生量が多いので、最も好ましい水素貯蔵体として多用されているが、ナフタレンを水素貯蔵体として水素貯蔵反応を行わせる場合、常温で固体(融点80.2℃)であるから、これ単独では、反応装置のパイプライン中を流動させて供給することはできないので、ナフタレンへの水素添加反応は、他の溶媒に溶解させてから行う必要があったが、溶媒の選択(例えば、直鎖状のn−へキサンや、ヘプタンのようなn−アルカン、エーテル類、ケトン類等々の水素貯蔵/供給能力のないもの)によっては、水素添加後に生成するデカリン混合液中のデカリンの割合、すなわち水素供給体の割合が低下し、その溶液からの水素発生能力が低くなってしまう問題があった。
【0033】
そこで、デカリンと共存する(或いは混合される)1−メチルデカリンは、脱水素されて1−メチルナフタレンとなり、その1−メチルナフタレンは、融点が−22℃と低く、デカリンの脱水素化物である融点が約80℃のナフタレンと混合し、ナフタレンの融点を降下させ溶解し、ナフタレンが反応装置系内に固着しないようにする効果があり、また、気液分離手段系内や反応物回収手段系内において凝固させないようにする効果もある。
【0034】
デカリンと1−メチルデカリンとの混合物において、デカリンの含有割合は、1−メチルデカリン100体積部に対して20〜2000体積部、好ましくは50〜500体積部、最も好ましくは80〜120体積部である。20体積部未満であると、1−メチルデカリンの価格は、高価であるので水素供給体は、コスト高となり望ましくなく、一方、2000体積部を超えると、デカリンの脱水素化物であるナフタレンの比率が多くなり過ぎ、水素供給体は、流動化させることができず、望ましくない。
【0035】
本発明においては、1−メチルデカリン異性体の脱水素体である1−メチルナフタレンは、他の水素貯蔵体(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等)あるいは水素供給体(シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、テトラリン等)と比較して、最もナフタレンの溶解力が大きいことを実証し、上記のナフタレンの流動性問題を解決できたので、1−メチルデカリン異性体を水素供給体の一部として採用した。
【0036】
1−メチルデカリン異性体は、その構造上、通常の水素添加反応では、1−メチルナフタレンから4種類の異性体が生成する可能性があり、この4種類とも本発明に係る水素貯蔵システム(E)による合成で検出されている。水素供給体としては、これら4種類の1−メチルデカリン異性体を分離する必要性は全くなく、混合物として使用しても全く問題はない。なぜならば、これらの4種類のどの異性体からも、水素発生反応後に生成するのは、1−メチルナフタレンただ1種類であるからである。
本発明では、ナフタレンに各種の炭化水素を配合し、ナフタレンの溶解度試験を行い、1−メチルナフタレンが優れた溶解度を示すことを実証し、これの水素添加物である1−メチルデカリン異性体を、デカリンに配合する特定の水素供給体として選び出した。
【0037】
ナフタレンへの水素添加反応を、本システムで行う場合、ナフタレンを溶媒に溶かして行う必要があるが、この場合の溶媒としては、1−メチルナフタレンが最適である。なぜならば、1−メチルナフタレンは、ナフタレンの溶解度が最も大きいため、少量の添加で済み、かつ、1−メチルナフタレン自体が水素添加反応によって水素供給体である1−メチルデカリン異性体に変化し、全体としての水素貯蔵/発生能力の低下が起こらないからである。
【0038】
2.4 デカリンと1−メチルデカリンとの混合物に、さらに、水素化芳香族化合物類の少なくとも1種を配合した水素供給体
本発明の水素ステーションシステムにおいては、水素供給体として、主にデカリンと1−メチルデカリンとの混合物を用いるものであるが、それらの混合物に、さらに、水素化芳香族化合物類の少なくとも1種を配合したものも、用いることができる。
【0039】
上記水素化芳香族化合物類は、脱水素されてベンゼン、トルエン、キシレン又はエチルベンゼン等を生成するが、それらは、ややナフタレンと比較し毒性があるものの、ナフタレンを流動化させ、低価格であるので、所望に応じて、「デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体」に配合して使用することができる。
【0040】
本発明において、水素化芳香族化合物類としては、芳香族化合物の完全もしくは一部水素添加された化合物、またはそのアルキル置換体等が挙げられる。具体的には、炭素数で30程度、芳香族環の環数で6環程度までの芳香族化合物の水素添加物であり、環数の化合物として分類すると、単環系化合物、2環の縮合環系化合物、3環の縮合環系化合物、4環以上の縮合環系化合物、非縮合系の多環系化合物等として分類した次の構造式(7)〜(16)で表される単環、多環系の芳香族化合物の完全もしくは一部水素添加された化合物、またはそのアルキル置換体等を挙げることができる。
【0041】
(1) 構造式(7)で表される無置換単環系化合物、1置換単環系化合物
【0042】
【化7】
(Rはアルキル基を示す)
【0043】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(7)の具体的化合物としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、i−プロピルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0044】
(2) 構造式(8)で表される2置換以上の単環系化合物
【0045】
【化8】
(Rはアルキル基を示す)
【0046】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(8)の具体的化合物としては、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサンもしくはエチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0047】
(3) 構造式(9)で表される2環の縮合環系化合物
【0048】
【化9】
(Rはアルキル基を示す)
【0049】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(9)の具体的化合物としては、テトラリン、デカリン、それらのアルキル置換体が挙げられる。
なお、構造式(9)で表される2環の縮合環系化合物は、3置換以上の化合物も含む。
【0050】
(4) 構造式(10)で表される3環の縮合環系化合物
【0051】
【化10】
(Rはアルキル基を示す)
【0052】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(10)の具体的化合物としては、アントラセンの完全または部分水素添加体、それらのアルキル置換体が挙げられる。
なお、構造式(10)で表される3環の縮合環系化合物は、2置換以上の化合物も含む。
【0053】
(5) 構造式(11)、(12)、(13)で表される3環の縮合環系化合物
【0054】
【化11】
(Rはアルキル基を示す)
【0055】
【化12】
(Rはアルキル基を示す)
【0056】
【化13】
(Rはアルキル基を示す)
【0057】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(11)、(12)、(13)の具体的化合物としては、フェナントレンの完全または部分水素添加体、それらのアルキル置換体が挙げられる。
なお、構造式(11)、(12)、(13)で表される3環の縮合環系化合物は、2置換以上の化合物も含む。
【0058】
(6) 構造式(14)で表される3環の縮合環系化合物
【0059】
【化14】
(Rはアルキル基を示す)
【0060】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(14)の具体的化合物としては、フェナレンの完全または部分水素添加体、それらのアルキル置換体が挙げられる。
なお、構造式(14)で表される3環の縮合環系化合物は、2置換以上の化合物も含む。
【0061】
(7) 構造式(15)で表される4環以上の縮合環系化合物を完全もしくは一部水素化された化合物(ただし、4環以上の縮合環系化合物の完全もしくは一部水素化された化合物及びそのアルキル置換体は、その組合せが多岐にわたるため、水素化前および未置換体のみの例示をしたが、これらに限定されるものではない。)
【0062】
【化15】
【0063】
構造式(15)の具体的化合物としては、ピレン、クリセン、べンズアントラセン、ベンズフェナントレン、ベンズピレン等である。本発明で用いる水素化芳香族化合物類としては、それらの完全もしくは一部水素添加された化合物、それらのアルキル置換体である。
なお、アルキル置換体のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。
【0064】
(8) 構造式(16)で表される非縮合系の多環化合物
【0065】
【化16】
【0066】
構造式(16)の具体的化合物としては、ビフェニル、トリフェニルの完全又は部分水素添加物等が挙げられる。なお、構造式(16)で表される非縮合系多環化合物はアルキル置換体も含む。また、アルキル置換体のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。
また、構造式(16)には、具体的に例示してはいないが、環数として6環程度までの非縮合系の多環芳香族化合物の完全もしくは一部水素添加物、またはそのアルキル置換体も、本発明における水素化芳香族化合物類として使用可能である。
【0067】
本発明において、水素化芳香族化合物類の配合割合は、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物100体積部に対して、0.1〜100体積部が好ましく、より好ましくは1〜30体積部である。0.1体積部未満であると、水素化芳香族化合物類の添加効果がない。一方、100体積部を超えると、添加物の方が多くなり、脱水素反応後の生成物が固化してしまい、系内で固着する、あるいは粘性の強い液体となり、触媒反応を阻害する。
【0068】
芳香族化合物の完全もしくは一部水素添加された化合物、またはそのアルキル置換体であるシクロヘキサン類、すなわち水素化芳香族化合物類は、前述したように、脱水素されて生成するベンゼン、トルエン、キシレン又はエチルベンゼン等が、ややナフタレンと比較し毒性があるものの、ナフタレンを流動化させ、低価格であるので、所望に応じて、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体に配合して使用することができる。
【0069】
本発明においては、デカリンの脱水素反応によって生成した水素貯蔵体であるナフタレンは、融点が約80℃であり、反応装置系内に固着し流動性に問題があるので、前述したように、これに特定の水素供給体を配合することによって解決できる。
本発明では、前述した1−メチルナフタレンと同様に、ナフタレンに各種の炭化水素を配合し、ナフタレンの溶解度試験を行い、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼン等が優れた溶解度を示すことを実証し、これらの水素添加物である芳香化合物の完全もしくは一部水素添加された化合物、またはそのアルキル置換体であるシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、又はエチルシクロヘキサン等から選ばれる炭化水素を、デカリンと1−メチルナフタレンの混合物に配合することができる上記の特定の水素供給体として、選び出した。
【0070】
上記の選ばれた特定の炭化水素は、混合する化合物自体が、デカリンと同様に水素供給能力をもち、水素発生反応後に水素貯蔵体として使用できるものであるから、全体としての水素発生量は低下しない。
【0071】
3.水素供給体の脱水素反応
本発明において、水素供給体の脱水素反応とは、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体から脱水素により、水素と、ナフタレン及び1−メチルナフタレンとの混合物からなる芳香族化合物とを生成させる反応であり、水素は水素スタンドを経由して、水素自動車、工場又は家屋の貯蔵ボンベ、水素吸臓合金タンク等に貯蔵される。
芳香族化合物は、タンクローリー等で工場地帯の水素貯蔵システムに送られ、そこで工場地帯の安価な副生水素により水素化され、水素供給体となり、タンクローリー等で、上記の水素供給システムに送られ、再度水素生成のための原料となる。
【0072】
4.水素供給システム(A)
本発明において、水素供給システム(A)とは、芳香族化合物(ナフタレン及び1−メチルナフタレンとの混合物)の水素化誘導体からなる水素供給体(デカリンと1−メチルデカリンとの混合物)の脱水素反応を利用して水素と芳香族化合物(ナフタレン及び1−メチルナフタレンとの混合物)を取り出すシステムを意味するが、具体的な態様としては、例えば(a)水素供給体を収納する原料貯蔵手段と、(b)水素供給体の脱水素反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置と、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段と、(d)原料貯蔵手段内の水素供給体を反応装置へ供給する水素供給体供給手段と、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて水素と脱水素体に分離する気液分離手段と、及び(f)分離した脱水素体を回収する反応物回収手段とからなる。これらの各手段については、後述の図面を用いて更に詳細に説明する。
【0073】
5.水素スタンドシステム(B)
本発明において、水素スタンドシステム(B)とは、水素供給システム(A)で発生した水素を水素自動車、工場又は家屋等の定地施設に、供給するための機器やスペースを備えたシステムであり、従来のガソリン自動車用のガソリンスタンドに相当する。
水素スタンドシステムは、具体的な態様としては、水素貯蔵手段と、水素計量供給手段と、及び水素自動車の停留手段とからなる。
水素貯蔵手段としては、例えば、高圧水素ボンベ、液体水素ボンベ、水素吸蔵合金ボンベなどが設置される。
高圧水素ボンベを使用する場合は、図4(C)に示すように、水素ガスを圧縮するためのコンプレッサー、圧縮水素ボンベ(圧力計を装備することが望ましい)、計量ポンプ等が必要である。
【0074】
通常、車載の圧縮水素ボンベに供給する場合は、ステーション側と車載側の、それぞれのボンベの圧力差を利用して、充填するため、ステーション側を高圧にする必要がある。この場合、貯蔵用のボンベを高圧のものとしてもよいし、車載ボンベに供給する手前で昇圧してもよい。
貯蔵ボンベを高圧のものとする場合は、複数個並列に並べ、それぞれのボンベが、水素貯蔵、水素放出の異なる工程を、タイムラグをおいて行ってもよい。
液体水素ボンベを使用する場合は、図4(A)に示すように、水素ガスを液体水素にするための、水素コンプレッサー、圧縮水素冷却器、断熱膨張器等が必要である。
液体水素車載タンクに供給する場合は、断熱膨張器は不要となる。
【0075】
また、水素吸蔵合金ボンベを使用する場合は、図4(B)に示すように、水素を高圧にする水素コンプレッサー、水素吸蔵合金ボンベに水素を吸蔵させる場合(低温にする必要あり)の冷却器と水素吸蔵合金ボンベを収納する水素吸蔵室、水素吸蔵合金ボンベから水素を放出させる場合(高温にする必要あり)の加熱器と水素吸蔵合金ボンベを収納する水素放出室が必要である。水素を吸蔵させたボンベは、水素を放出させる場合は、水素吸蔵室から水素放出室に移動させる。
水素吸蔵合金ボンベを使用する場合の別の水素吸蔵・放出方法としては、水素吸蔵合金ボンベを収納する部屋は一つとし、水素吸蔵合金ボンベを複数個並列に並べ、それぞれのボンベの内部又は表面に、加熱媒体又は冷却媒体を内部に流動させる熱交換パイプを設け、それぞれのボンベが、水素吸着、水素貯蔵、水素放出の異なる工程を、タイムラグをおいて行ってもよい。
【0076】
6.芳香族化合物の貯蔵システム(C)
本発明においては、水素供給システム(A)にて、水素と芳香族化合物を生成するが、資源の有効利用の観点から循環使用することが望ましく、そのためには、工場地帯に輸送し、安価な副生水素を添加して水素供給体とし、逆輸送し、再使用する必要があるので、オンサイトにて、一時的に芳香族化合物を貯蔵する必要がある。
水素供給システム(A)より水素取り出し後に回収される芳香族化合物の貯蔵システム(C)とは、上記したオンサイトにて、一時的に芳香族化合物を貯蔵するシステムである。
【0077】
7.水素の輸送システム(D)
本発明において、水素供給システム(A)より水素を、水素スタンドシステム(B)へ輸送するシステム(D)とは、水素供給システム(A)で発生した水素を、水素スタンドシステム(B)に輸送するためのシステムであり、パイプで直接輸送してもよく、又は高圧断熱ボンベに入れ、輸送してもよい。
その際、(A)を(B)内に設置し、パイプで輸送することが、エネルギーロスが少なく好ましい。
【0078】
8.水素ステーションシステム
本発明において、水素ステーションシステムとは、水素を動力源とする自動車、工場又は家屋等の定地施設に、水素を供給するためのシステムである。
該システムは、
(A)デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体の脱水素反応を利用して水素を取り出す水素供給システム、
(B)取り出した水素を水素自動車に供給する水素スタンドシステム、
(C)(A)で生成するナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物からなる芳香族化合物を分離回収し、貯蔵する芳香族化合物の貯蔵システム、及び
(D)水素を(A)より(B)へ輸送するシステム
を含むものを基本システムとし、これに下記に記載する基本システムの効率を良くする支援システムを、付加した拡張システムも包含する。
次に図を用いてさらに説明すると、基本システムは、図1(A)の右側の長方形で囲んだ、遠隔地水素ステーションシステムにて示してあり、本発明の第1の発明(請求項1)に対応する。
支援システムとしては、下記にて説明する水素貯蔵システム、水素製造工場、水素貯蔵体製造工場等があり、図1(A)の左側の長方形で囲んだ工場地帯水素供給体製造システムにて示してある。
従って、遠隔地水素ステーションシステムの拡張システムとしては、例えば下記の3ケースが考えられる。
イ.基本システム+水素貯蔵システム+輸送システム (請求項2に対応)
ロ.イ+副生水素等の利用 (請求項3に対応)
ハ.イ+天然ガス(メタン)からの水素と芳香族化合物の直接製造システム (請求項4に対応)
なお、図1(B)には、図1(A)の本発明の水素ステーションシステムの各構成要素にて、発生(合成)したり、貯蔵されたり、輸送されたりする、水素、水素貯蔵体(ナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物であり、代表としてナフタレンで示す)、水素供給体(デカリンと1−メチルデカリンとの混合物であり、代表としてデカリンで示す)等を化学式で示し、輸送方向を→で示した。
【0079】
基本システムは、他の水素ステーションシステムと比較し、設備投資費用が少なくてすみ、比較的手軽に事業をスタートすることができる利点がある。
この場合、副生する水素貯蔵体(芳香族化合物)の再利用問題は、水素供給システム(A)を使用し、触媒、反応圧力、反応温度等の条件を変更すれば、水素と反応させ、元の水素供給体に戻せるので、解決できる。
例えば、オンサイトに水電解装置を設置し、太陽光発電又は夜間電力を利用し水素を発生させ、芳香族化合物に水素を付加すれば、水素ボンベの代わりにもなり、変動する水素自動車や定地施設の水素需要に対応できる。
【0080】
9.拡張システム
本発明に係る拡張システムに包含される個別のシステムについて、以下に詳述する。
9.1 水素貯蔵システム(E)
本発明において、水素貯蔵システム(E)とは、上記した離島や山間部等に設置される水素供給システムで副生した芳香族化合物を、タンクローリー等で工場地帯に輸送し、そこに立地する芳香族化合物に水素を添加し水素供給体を得るシステムであり、工場地帯の安価な余剰水素を、デカリンや1−メチルデカリンの様な、効率的な水素供給体として、水素を費用のかかる高圧水素ボンベに代えて貯蔵できるメリットがある。得られたデカリンや1−メチルデカリンの様な、効率的な水素供給体は、タンクローリー等によって、離島や山間部等に設置される水素供給システムに輸送される。
【0081】
この水素貯蔵システム(E)は、具体的な態様としては、例えば(a)水素貯蔵体を収納する原料貯蔵手段と、(b)水素貯蔵体の水素化反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置と、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段と、(d)原料貯蔵手段内の水素貯蔵体を反応装置へ供給する水素貯蔵体供給手段と、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて未反応水素と該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体に分離する気液分離手段と、及び(f)分離した水素供給体を回収する反応物回収手段とからなるものであり、これらの各手段については、後述の図面を用いて更に詳細に説明する。
【0082】
9.2 芳香族化合物の輸送システム(F)
本発明において、輸送システム(F)とは、(A)の離島や山間部等に設置される水素供給システムより回収した貯蔵システム(C)にある芳香族化合物を、(E)の工場地帯に立地する水素貯蔵システムへ輸送するシステムであり、芳香族化合物をタンクローリー等で輸送したり、芳香族化合物をコンテナーに入れ、トラック、鉄道車両、又はフェリーに積載し輸送する形態等である。
水素供給システム(A)と水素貯蔵システム(E)が接近する場合は、パイプライン等での輸送も可能である。
芳香族化合物がナフタレンのように常温で固体の場合は、1−メチルナフタレンとの混合物とし、流動性を付与する。
【0083】
9.3 水素供給体の輸送システム(G)
本発明において、輸送システム(G)とは、(E)の工場地帯に立地する水素貯蔵システムにて生成した水素供給体を、(A)の離島や山間部等に設置される水素供給システムへ輸送するシステムであり、水素供給体をタンクローリー等で輸送したり、水素供給体をコンテナーに入れトラック、鉄道車両、又はフェリーに積載し輸送する形態等である。
輸送システム(F)と同様に、(A)と(E)が接近する場合は、パイプライン等での輸送も可能である。
【0084】
9.4 工場地帯で調達できる水素及び芳香族化合物
工場地帯に立地する(E)の水素貯蔵システムに必要な水素は、水素供給体のコストを下げ、惹いては水素自動車等に供給する水素の価格を低くするためには、工場地帯で調達できる安価な水素が好ましい。
比較的に安価な水素としては、製鉄工業の排出ガス中に含まれる水素、ソーダ電解工業より発生する水素、石油精製工業で発生する水素、アンモニア製造工場の余剰水素があり、また、自然エネルギーによる電力で水を電気分解して得られる水素、太陽光による触媒反応で水を直接水素と酸素に分解する反応により得られる水素等も利用できる。
【0085】
工場地帯に立地する(E)の水素貯蔵システムに必要な芳香族化合物は、水素供給体のコストを下げ、惹いては水素自動車に供給する水素の価格を低くするためには、工場地帯で調達できる安価な副生芳香族化合物であることが好ましい。
副生芳香族化合物としては、製鉄工業の排出ガス中に含まれる芳香族化合物、石油精製工業で発生する芳香族化合物、ナフサクラッカーより発生する芳香族化合物等の副生芳香族化合物が安価であり、副生量も十分あり、好ましい。
【0086】
9.5 天然ガスを原料とした芳香族化合物及び水素の製造システム
工場地帯に立地する(E)の水素貯蔵システムに必要な芳香族化合物及び水素は、水素供給体のコストを下げ、惹いては水素自動車に供給する水素の価格を低くするためには、工場地帯で調達できる安価な芳香族化合物及び水素でなければならず、上記の芳香族化合物及び水素以外に、安価で安定的に供給できる別の調達ルートも確保しておくことが好ましい。
本発明においては、別の調達ルートとして、
(H)(E)の水素貯蔵システムに必要な芳香族化合物を、天然ガス(メタン)より直接製造するシステム、
(I)(H)で生成した芳香族化合物を(E)へ輸送するシステム、および
(J)(H)で発生する水素を(E)へ輸送するシステム
を含む芳香族化合物及び水素の製造システムが好適である。
そして、この芳香族化合物及び水素の製造システムを(E)の水素貯蔵システムに包含させることにより、本発明の水素ステーションシステムは、更に拡張されたシステムとなる。この拡張システムは、本発明の第4の発明(請求項4)に対応する。
【0087】
水素貯蔵システム(E)に必要な芳香族化合物及び水素を、天然ガス(メタン)より直接製造するシステムとしては、例えば、特開平11−60514号公報に記載されている方法がある。この方法によると、下記の触媒を選定し、反応器内で固定床、移動床、又は流動床として使用した上で、天然ガス(メタン)を回分式、或いは連続式で供給し、下記の反応条件で反応させている。
【0088】
触媒:レニウム、亜鉛、ガリウム、コバルト、鉄、クロム、ランタン、ネオジム、サマリウム、イットリウム、タングステン、モリブデン、希土類金属またはこれらの化合物の1種以上を触媒活性成分とし、4.5〜6.5Å径の細孔を有する多孔質メタロシリケート担体に担持させた触媒。
反応条件:天然ガス(メタン)を、一酸化炭素及び/又はニ酸化炭素の存在下で300〜800℃、好ましくは450〜775℃の温度で触媒と接触させる。圧力は、0.1〜10気圧、好ましくは0.5〜5気圧であり、重量時間空間速度(WHSV)は、0.1〜10であり、好ましくは0.5〜5.0である。
【0089】
10.水素供給システム(A)の具体的な構成
以下、本発明に係る水素供給システムの実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0090】
図2は、水素の供給を行うことができる水素供給システムの構成を模式的に示す説明図である。尚、本発明においては、水素供給体としてデカリンと1−メチルデカリンとの混合物を使用するが、この混合物をデカリン混合物と呼称する。また、水素貯蔵体としてナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物を使用するが、この混合物をナフタレン混合物と呼称する。
この水素供給システム1は、主に、デカリン混合物貯蔵手段2と、デカリン混合物供給手段3と、反応装置4と、気体分離手段5と、反応物回収手段8と、制御手段10とを備えている。
なお、本発明の水素ステーションシステムは、その理解を容易にするため、図1に概念図を、さらに図2及び図3に詳細図を示したが、その関係で概念図における構成要素を示す符号と、詳細図における構成要素を示す符号とは、一致しない場合があるので、本明細書では、下記の様に必要に応じて符号を読み替えるものとする。
1) 本発明の第1の発明(請求項1)及び図1の水素供給システム(A)は、図2及び図3の水素貯蔵・供給システム1と同一物である。
2) 本発明の第1の発明(請求項1)及び図1の芳香族化合物の貯蔵システム(C)は、図2及び図3の反応物回収手段8と同一物である。
【0091】
原料貯蔵手段2は、タンク状に形成され、水素供給体であるデカリン混合物が収納される。
また、デカリン混合物供給手段3は、デカリン混合物貯蔵手段2から導いたデカリン混合物を加圧して反応装置4にデカリン混合物を供給するための構成部であり、コンプレッサ(ポンプ)31と、電磁弁よりなるバルブ32とにより構成されており、デカリン混合物貯蔵手段2と配管接続されている。バルブ32により、反応装置4に供給されるデカリン混合物の供給量や供給時間が制御される。
【0092】
反応装置4は、デカリン混合物を金属担持触媒に噴射、供給して、脱水素反応を行わせる構成部である。反応装置4の内面底部には、ハニカムシート状の触媒41が設けられており、反応装置4の上部中央付近には、触媒41に対向して、原料供給手段3に配管接続された噴射ノズル42が設けられている。噴射ノズル42は、原料が触媒上に均一に噴射されるように設置されており、原料を噴射ノズル42から噴射することにより、反応装置4内の触媒41表面に、原料の均一な液膜が形成される。
【0093】
触媒41としては、本実施の形態では、ハニカムシート状の活性炭素地に主金属として白金を、副金属としてロジウムを担持させた触媒を用い、反応装置内の触媒重量を総量で50gとしているが、その重量や大きさは必要に応じて調整すべき因子であり、特に限定されない。
【0094】
反応装置4の底部には、触媒41を加熱するヒーター43が備えられている。ヒーター43は、ニクロム線による抵抗加熱体であり、触媒41に接しているアルミ製のヒーター格納部44に一体的に内蔵され、ヒーター格納部44を介して熱伝導により触媒41が加熱される。また、触媒41に接した熱電対45により触媒温度を検知し、ヒーターへの供給熱量を調整して触媒41の温度が調整される。
ところで、本実施の形態では、触媒の加熱にニクロム線による抵抗加熱体を用いているが、加熱手段は、特に限定されず、電磁誘導コイルに高周波電流を流すことにより発生させた高周波で導電体を誘導加熱する高周波誘導加熱等も使用できる。高周波誘導加熱を用いる場合は、金属担持触媒の担体としてカーボン等の導電体を用い、渦電流が発生する形状に形成することにより、触媒を直接加熱することができる。
【0095】
触媒41の温度は、ヒーター43により、デカリン混合物の脱水素反応によりナフタレン混合物を生成させる際には、約220〜400℃に加熱する。
反応装置4は、電磁弁よりなるバルブ6を介して気液分離手段5に配管接続されている。
【0096】
バルブ6は、反応装置4内の生成物を気液分離手段5に導くときに使用される。反応装置4において、デカリン混合物の脱水素反応が起きるとナフタレン混合物と水素が生成するが、これらの生成物は気体であるため、気液分離手段5は、反応装置4から送られてくるナフタレン混合物を完全に液化させて水素を分離するために設けられている。
【0097】
気液分離手段5は、冷却水による冷却を行う、らせん状細管、交互冷却パイプ構造等の熱交換器51aからなる蒸気凝縮部51と、水素に同伴する液滴を分離する、活性炭や水素セパレータ膜等の水素分離部52aからなる水素抽出部52とにより構成されている。蒸気凝縮部51は、発生した水素とナフタレン混合物との気液分離を効率的に実現するため、例えば、冷却水温度(例えば5〜20℃)を調節して最適化を図ることが好ましい。
また、デカリン混合物供給手段31の部分と併設し、原料デカリン混合物と発生ガスとの間で熱交換し、原料デカリン混合物を予熱する手段としても使用可能である。
【0098】
水素抽出部52は、通常、蒸気凝縮部51の接触面積、冷却水温度、発生水素速度等の諸因子を操作することにより、水素の分離・精製を行うことが可能であるため、必ずしも必要としないが、より高純度(99.9%以上)の水素の供給が要求される場合には、活性炭や、水素セパレータ膜のシリカ分離膜やパラジウム・銀分離膜等の従来技術を用いて水素の高純度化を行う必要があるので、本実施の形態では追加設置している。
なお、反応物回収手段(C)と水素抽出部52との間に、例えばガラスウール、ワイヤーメッシュ等を充填した気液分離部(図示せず)を設けて、水素抽出部52への液滴の同伴量を減少させることもできる。
【0099】
反応物回収手段(C)は、気液分離手段5の蒸気凝縮部51と配管接続されており、蒸気凝縮部51で冷却されて液化したナフタレン混合物は、反応物回収手段(C)に送られて回収される。
また、反応物回収手段(C)は、気液分離手段5の水素抽出部52とも配管接続されており、生成した水素は、蒸気凝縮部51で液化したナフタレン混合物(水素貯蔵体)と共に一旦反応物回収手段(C)に入った後、水素抽出部52に送られ、水素抽出部52内に設置された活性炭や水素セパレータ膜からなる水素分離部52aにより、質量が軽く、また拡散速度が大きい水素ガスのみが分離精製される。精製された水素は、水素抽出部52に接続された配管91及び水素放出側バルブ92を通って、水素スタンドシステム(B)に効率的に供給される。
【0100】
上述のように、気液分離手段5の水素抽出部52は、通常は不用なので、気液分離手段5の蒸気凝縮部51と水素抽出部52出口とを直接配管接続し、水素抽出部52をバイパスして水素を配管91に送り、蒸気凝縮部51の底部に溜まった液状のナフタレン混合物を反応物回収手段(C)に回収してもよい。
また、配管91には、発生ガス量を計測するためのセンサ93が設置されているため、水素の発生量を測定することができる。
【0101】
一方、コンプレッサ(ポンプ)31、バルブ32、ヒーター43、熱電対45、バルブ6、バルブ92、センサ93は、それぞれ制御手段10と電気的に接続されており、熱電対45、センサ93等からの情報をもとに、コンプレッサ(ポンプ)や各バルブの作動、ヒーターへの熱量(制御手段は図示せず)を制御できるように構成されている。
本発明に係る水素供給システム(A)の基本構成について、前述の図2に基づき、詳細に説明したが、図3に示す基本構成も本発明に係る水素供給システムに適用できる。
【0102】
図3の基本構成は、図2の構成と比較して、基本的に反応装置4の構成が異なるのみなので、反応装置4の構成について詳述する。
図3の反応装置4は、デカリン混合物を触媒に接触させて、水素化反応を行わせる構成部であるが、少なくとも1本の筒状体で反応装置を形成することを特徴とする。
反応装置4は、アルミナ、セラミック等の耐熱性の高い絶縁体の筒状体で形成されており、筒状体本体42の内部には、ポーラスな触媒41が収納されている。筒状体本体42の一端42aは、原料供給手段3に配管接続されており、原料供給装置3からの原料が、例えば分散板により、触媒41上に均一に分散される。尚、反応装置4は、原料の均一な分散、触媒の加熱効率等の観点から、複数の細管で形成してもよい。
【0103】
ここで、筒状体本体42は、流路を保ちながら金属担持触媒を充填できるものであれば任意の形状でよく、また、内径をすり鉢状や蛇腹状のように変化させてもよく、その形状寸法は、使用状態に合わせて適宜選択することができる。
また、筒状体本体42は、ニクロム線等のヒーターにより触媒を加熱する場合には、アルミ等の熱伝導性のよい材質で形成するのが好ましい。
【0104】
触媒41としては、本実施の形態では、活性炭素地に主金属として白金を、副金属としてロジウム担持させた、原料及び反応生成物が透過可能なポーラスな触媒を用い、反応装置内の触媒の重量を総量で50gとしているが、その重量や大きさは、必要に応じて調整すべき因子であり、特に限定されない。
【0105】
また、触媒の加熱手段としては、特に限定されず、高圧高温水蒸気や炭化水素の燃焼ガスを熱交換器により変換した輻射熱、ニクロム線ヒーターによる抵抗加熱、高周波誘導加熱等が使用できるが、本実施の形態においては、反応装置4の筒状体本体42を取り巻くように、触媒41を加熱するコイル状の電磁誘導コイル11が配置されており、触媒41に接した熱電対45により触媒温度を検知し、電磁誘導コイルへの高周波電流を調整して触媒41の温度が調整される。
【0106】
尚、高周波誘導加熱は、電磁誘導コイルに高周波電流を流すことにより発生させた高周波で導電体を誘導加熱するもので、電磁誘導作用により導電体に渦電流が発生し、ジュール熱によって導電体が加熱されるものである。電磁誘導コイルに印加する高周波電流の周波数としては、加熱する導電体とのインピーダンスマッチングにもよるが、一般的には350〜450kHzが使用される。
【0107】
電磁誘導コイルの形状としては、一般的なコイル形状の他、渦巻き形状が採用できる。コイル形状の場合は、加熱する導電体をコイルの中心に、渦巻き形状の場合は、導電体を渦巻きの中心線上に配置すると、効率的かつリスポンスよく加熱できる。
【0108】
高周波誘導加熱を行う場合には、電磁誘導コイルに高周波電流を流し続けると導電体が加熱され続けるため、一般的には温度制御が必要となる。温度制御の方法としては、導電体の温度を測定して電磁誘導コイルに流れる高周波電流を制御する種々のフィードバック制御が可能であり、本発明で用いる加熱温度(100〜500℃)においては、一般的な熱電対によるフィードバック制御で十分である。また、加熱のために投入されるエネルギーと反応に要するエネルギーとのバランスを取るために、反応に必要な単位時間当たりの熱量を求めて電磁誘導コイルに印加する電流(電力)を制御することも可能である。
【0109】
また、より効率的に、かつレスポンスよく加熱を行うためには、金属担持触媒の担体としてカーボン等の導電体を用い、渦電流が発生する形状に形成することにより、金属担持触媒を直接加熱することが好ましい。担体が非導電体の場合には、担体とステンレス等の一般的な導電体とを層状又はブレンド状等に形成し、担体に導電性を付与する。さらに、金属担持触媒のみを効率よく瞬時に加熱するために、筒状体本体をアルミナやセラミック等の耐熱性の高い絶縁体で形成する。筒状体本体が複数の場合には、各筒状体本体を電磁誘導コイルで取り囲んで各々加熱するようにしてもよく、複数の筒状体本体をまとめて1つの電磁誘導コイルで取り囲んで加熱してもよい。
尚、筒状体本体の長手方向に電磁誘導コイルを複数配置し、例えば、原料の供給側から順に触媒温度が高くなるように加熱してもよい。
【0110】
触媒41の温度は、電磁誘導コイル11により、デカリン混合物の脱水素反応によりナフタレン混合物を生成させる際には、約220〜400℃に加熱する。同様に変換効率を考慮すると、250〜380℃に加熱することが好ましい。
また、反応装置4の筒状体本体42の他端42bは、電磁弁よりなるバルブ6を介して気体分離手段5に配管接続されている。
【0111】
11.水素供給システムの稼動方法
本発明に係る水素供給システムは、上述のような構成からなり、かつ、反応装置(4)中に収納された金属担持触媒は、下記に記載する金属担持触媒を用いるものである。
【0112】
11.1 脱水素反応
本発明に係る水素供給システムを用いて、デカリン混合物の脱水素反応により外部に水素を供給する手順との一例を、図2に基づいて簡単に説明する。
デカリン混合物の脱水素反応により水素を外部に供給する場合には、まず、反応装置4内のヒーター43に通電して触媒41の温度を350℃前後に調整しながら、バルブ32を開くと共に、コンプレッサ(ポンプ)31を作動させて、デカリン混合物貯蔵手段2内のデカリン混合物を反応装置4に所定量供給し、噴射ノズル42より触媒41に向けてデカリン混合物を噴射させる。噴射終了後は、コンプレッサ(ポンプ)31の作動を停止させると共に、バルブ32を閉じる。
【0113】
このとき、脱水素反応に伴なって気体状のナフタレン混合物と水素が生成するが、生成したナフタレン混合物は、気液分離手段5の蒸気凝縮部51で冷却されて液状となり、反応物回収装置(C)に移動して反応物回収手段(C)内に蓄えられる。一方、生成した水素は、一旦反応物回収手段(C)に入り、気液分離手段5の水素抽出部52から配管91、センサ93を経由して、外部に移動する。
【0114】
11.2 反応圧力
水素供給システムにおけるデカリン混合物脱水素化反応時の水素分圧は、通常は0.1〜50気圧、好ましくは0.1〜10気圧、より好ましくは0.5〜5気圧である。脱水素化反応時は、上記水素分圧範囲内の低圧側が好ましい。
【0115】
12.金属担持触媒
本発明で使用される金属担持触媒は、デカリン混合物の脱水素反応を促進する機能をもつものであり、下記の担体に金属を担持させて得られたものである。
【0116】
担持される金属としては、ニッケル、パラジウム、白金、バナジウム、クロム、コバルト、鉄、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルト等の貴金属類等が挙げられるが、これらは単一であっても2種以上併用してもよい。その内、白金、タングステン、レニウム、モリブデン、ロジウム、バナジウム、ルテニウムは、活性、安定性、取り扱い性等の面から特に好ましい。
【0117】
金属担持触媒における金属の担持率は、担体に対して通常0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜20質量%である。また、2種以上の金属を用いる複合金属系触媒の場合は、主金属成分M1に対して添加金属M2の添加量が、M2/M1原子数比で0.001〜10、特に、0.01〜5であることが好ましい。なお、M1及びM2は、各々以下に示す金属である。
M1:白金、パラジウム、クロム。
M2:イリジウム、レニウム、ニッケル、モリブデン、タングステン、ロジウム、ルテニウム、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルト、鉄。
【0118】
一方、触媒金属を担持する炭素系材料及び無機系材料の担体としては、公知の担体ならば特に限定されないが、例えば、炭素系材料としては、活性炭、カーボンナノチューブ、グラファイト等を用いるのが好ましく、また、無機系材料としては、モレキュラーシーブス、ゼオライト等の多孔質担体、シリカゲル、又はアルミナ等あるいは金属多孔質体等を用いるのが好ましい。
【0119】
上記金属担持触媒の形状は、特に限定されず、顆粒状、シート状、織布状、ハニカム状、メッシュ状、ポーラス状等、使用形態に合わせて適宜選択される。
【0120】
本発明に係る水素供給システムでは、金属担持触媒の触媒金属を担持する担体は、水素の供給を行う脱水素反応であるので、炭素系材料であることが好ましい。
このような担体を選択することにより、脱水素反応においてデカリン混合物は、その化学的な構造から、分子としての極性は非常に小さいため、活性炭等の炭素系材料のような極性の小さい担体には、親和性が大きく、吸着しやすくなり、触媒金属近傍に存在しやすくなって、反応が容易に進行する。
【0121】
13.水素貯蔵システム(E)の具体的な構成
本発明において使用する水素貯蔵システム(E)は、上記の水素供給システム(A)を転換したシステムを使用することができる。
水素供給システムを水素貯蔵システムに転換(転用)するには、下記の様にすればよい。実質的には、ハードウエアは、そのまま改造しないで使用でき、機器の名前を変えただけである。
【0122】
すなわち、(a)水素供給体を収納する原料貯蔵手段を、水素貯蔵体を収納する原料貯蔵手段に、(b)水素供給体の脱水素反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置を、水素貯蔵体の水素化反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置に、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段はそのままとし、(d)原料貯蔵手段内の水素供給体を反応装置へ供給する水素供給体供給手段を、原料貯蔵手段内の水素貯蔵体を反応装置へ供給する水素貯蔵体供給手段に、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて水素と脱水素体に分離する気液分離手段を、反応装置からの生成気体を凝集させて水素と水素供給体に分離する気液分離手段に、(f)分離した脱水素体を回収する反応物回収手段を、分離した水素供給体を回収する反応物回収手段に転換し、更に水素貯蔵タンクと水素供給パイプを追加して設置すればよい。
【0123】
また、水素供給システムにおける原料のデカリン混合物を、水素貯蔵システムにおいては、ナフタレン混合物に置換し、シリカゲルやアルミナ担体に、白金やニッケルを担持させた触媒を用い、反応温度を60〜200℃程度に下げ、反応圧力は50〜100気圧程度に上げることによって、デカリン混合物からなる水素供給体を製造することができる。
【0124】
【実施例】
以下に、本発明の水素自動車用水素ステーションシステムに関して、実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0125】
[水素供給用(脱水素反応用)金属担持触媒Aの調製]
主担持金属用として、1.328gの塩化白金酸6水和物を蒸留水200mlに溶かした水溶液を作製した。
この水溶液に担体として4.45gの活性炭を浸漬させて十分に攪拌し、一夜放置させた後、活性炭を混合液の中から取り出し、十分に水洗した後、乾燥させた。
そして、この乾燥活性炭を窒素気流下400℃で加熱して付着した塩分を十分に分解させ、さらに、約400ml/分の流量の水素気流下350℃で4時間加熱し担持金属を還元・活性化させて、約5gの水素供給用金属担持触媒Aを調製した。調製された金属担持触媒Aにおける主担持金属の白金の含有量は、10質量%であった。
【0126】
[水素貯蔵用(水素添加反応用)金属担持触媒Bの調製]
主担持金属用として、1.328gの塩化白金酸6水和物を蒸留水200mlに溶かした水溶液を作製した。
この水溶液に担体として4.45gのアルミナを浸漬させて十分に攪拌し、一夜放置させた後、アルミナを混合液の中から取り出し、十分に水洗した後、乾燥させた。
そして、この乾燥アルミナを窒素気流下400℃で加熱して付着した塩分を十分に分解させ、さらに、約400ml/分の流量の水素気流下350℃で4時間加熱し担持金属を還元・活性化させて、約5gの水素貯蔵用金属担持触媒Bを調製した。調製された金属担持触媒Bにおける主担持金属の白金の含有量は、10質量%であった。
【0127】
[水素発生試験]
図2に示す装置で、反応容器部分のみを複数設けたものを用いて実験を行った。金属担持触媒としては、活性炭に10質量%の白金を担持させたハニカムシート状のもの(触媒A)を複数用いた。触媒の総量は50gとし、次の要領でデカリン:1−メチルデカリン異性体の1:1(体積比)混合物の脱水素反応を行わせ水素とナフタレン:1−メチルナフタレンの1:1(体積比)混合物を得た。
図2に示す装置の反応装置4に、金属担持触媒として上記触媒Aを収納し、この触媒Aを350℃に加熱して、原料としてのデカリン:1−メチルデカリン異性体の1:1(体積比)混合物を反応容器1つあたりで、1回あたり2mlの割合で触媒に噴射して水素発生を行わせた。原料の噴射時間と停止時間をそれぞれ1秒、5秒として1分間あたりの水素発生量を測定した結果、水素生成速度は全量で100L/分であった。
【0128】
[実施例1]
図2に示す水素供給システムと、図4に示す水素スタンドからなる水素自動車用水素ステーションシステムを構築した。
水素供給システムを稼動し、上記の水素発生試験に示すように、100L/分の水素生成速度で水素を発生させ、水素スタンドにパイプで輸送した。
水素スタンドにおいて図4(B)に示す装置により、水素を水素吸蔵合金に吸蔵させた。この水素吸蔵合金に吸蔵させた水素を、ボンベを加熱することにより放出させ計量ポンプを経由して水素自動車の水素ボンベに供給した。
【0129】
[水素貯蔵実験]
図2に示す装置を工場地帯に建設し、その複数設けた反応装置4に、金属担持触媒として上記触媒Bを収納し、この触媒Bを200℃に加熱し、水素加圧(2MPa)下で、原料としての上記の水素供給システムで得られたナフタレン:1−メチルナフタレンの1:1(体積比)混合物を、タンクローリーで輸送したものを反応容器1つあたりで、1回あたり2mlの割合で触媒に噴射して水素貯蔵を行わせた。原料の噴射時間と停止時間をそれぞれ1秒、5秒として1分間あたりの水素貯蔵量を測定した結果、水素貯蔵速度は全量で100L/分であった。ナフタレン:1−メチルナフタレンの1:1(体積比)混合物から、デカリン:1−メチルデカリンの1;1(体積比)混合物が得られ、流動性は十分あり、これを水素供給体としてタンクローリーで山間部の水素供給システムに輸送した。
なお、水素は、石油精製工場で副生した水素を利用した。
【0130】
[メタンからの芳香族化合物と水素の合成実験]
パラレニウム酸アンモニウム、ニ塩化コバルト、三塩化鉄を蒸留水に溶解し、シリカ/アルミナ比が40、表面積が900m2/g、細孔径が5.8×6.0Åのゼオライト担体に含浸させ、酸素ガス雰囲気で380℃で1.5時間、焼成し金属担持触媒を得た。
この触媒0.5gを固定床流通式反応装置の石英製反応管(内径10mm)に充填し、反応温度700℃、3気圧で、メタンに対し2%炭酸ガスを添加した反応ガスを30ml/minの流量で提供し、ベンゼン、ナフタレン及び水素を得た。100分経過後のメタン転化率は13.5%、選択率はベンゼン88.7%、ナフタレン4.8%、ベンゼン生成速度2150(nmol/g−cat/g)、水素生成速度3120(nmol/g−cat/g)であった。
ここで、得られたベンゼン、ナフタレンおよび水素を水素貯蔵システムに輸送し、水素供給体の原料として使用した。
【0131】
【発明の効果】
以上のように、本発明の水素ステーションシステムは、離島や山間部の様な、遠隔地において、水素を動力源として走行する水素自動車、あるいは工場、コンビニ、病院、又は家屋等の定地施設に、低コストで安定的に水素を供給することが可能となる効果があり、また、従来のガソリン、LPG、軽油等を燃料とする自動車の、炭酸ガス、窒素酸化物、炭素微粒子等の発生による、地球温暖化、森林枯死、呼吸器疾患、建築構造物の汚染等様々な弊害を解決できる効果がある。
更に、本発明における水素供給システムや水素貯蔵システムは、水素の取り出しに、二酸化炭素の発生を伴わないため、環境への影響は非常に小さく、芳香族化合物とその水素化誘導体の間で、水素の出し入れができるため、消費されるのは水素だけで、環境に優しい。
さらに、製鉄工場、ソーダ電解工場、石油精製工場等から発生する水素は、現在、輸送・保管に難があるため、ほとんど有効利用されていないが、この水素を有効利用することができる等の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の水素ステーションシステムの構成を模式的に示す説明図である。
なお、(A)は、各構成要素のブロック図、(B)は、各構成要素に対応する化合物及びその移動方向を示す。
【図2】本発明に係る水素供給システム(水素貯蔵システムに転用可能)の構成を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明に係る他の水素供給システム(水素貯蔵システムに転用可能)の構成を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明に係る水素スタンドの構成を模式的に示す説明図である。
なお、(A)は、水素を液体水素としてボンベに貯蔵する場合、(B)は、水素を水素吸蔵合金充填ボンベに貯蔵する場合、(C)は高圧水素ボンベに貯蔵する場合を示す。
【符号の説明】
1 水素貯蔵・供給システムの全体
2 原料貯蔵手段
3 原料供給手段
31 コンプレッサ(ポンプ)
32 バルブ
4 反応装置
41 触媒
42 噴射ノズル
43 ヒーター
44 ヒーター格納部
45 熱電対
5 気液分離手段
51 蒸気凝縮部
52 水素抽出部
6 バルブ
7 バルブ
8 反応物回収手段
91 水素送出ライン
92 バルブ
93 センサ
10 制御手段
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素ステーションシステムに関し、さらに詳しくは、離島や山間部の様な、遠隔地においても、水素を動力源として走行する水素自動車に、あるいは工場、コンビニ、病院、家屋等の定地施設に、低コストで水素を供給することが可能な水素ステーションシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の動力源としては、ガソリン、LPG、軽油等が長い間使用されてきたが、これらは燃焼した後、炭酸ガス、窒素酸化物、炭素微粒子等を発生し、地球温暖化、森林枯死、呼吸器疾患、建築構造物の汚染等様々な弊害を生じており、クリーンな動力源が求められてきた。
クリーンな動力源としては、燃焼後は水のみしか発生しない水素がすぐれており、近年、水素燃料電池でモーターを回転させ、車を走行させたり、水素をエンジンルームで爆発させ往復運動を回転運動に変換し車を走行させる、所謂水素自動車が開発され、一部の自動車メーカーは、試作車を発表している。
しかしながら、水素自動車は、動力源の水素が、まだ価格が高いことや、ガソリンスタンドのように、全国津々浦々まで配置されていなく、車の燃料が途中で無くなると対応が出来ないこと等が原因で普及が遅れている。
【0003】
自動車以外の水素の需要としては、遠隔地の工場、コンビニ、病院、家屋等の定地施設における電力源としての水素燃料電池や、水素を燃料とする内燃機関があるが、上記の水素自動車の普及が遅れている理由と同様な理由で普及が遅れている。
これを克服するため、水素自動車、工場、コンビニ、病院又は家屋への水素を供給するための水素ステーションは、1)天然ガス改質、2)水電気分解により、オンサイト(供給するその場)で水素を発生させる方法が現在検討中である。
【0004】
オンサイトでの水素発生以外の方法としては、
1)超高圧ボンベにより、圧縮水素として水素ステーションまで輸送する、
2)液体水素として、水素ステーションまで輸送する、
3)水素吸蔵合金等に吸蔵させて、水素ステーションまで輸送する
等の方法が検討中である。
【0005】
しかしながら、天然ガス改質の場合は、水素ステーションまでガスパイプライン等が到達していなければならず、離島山間部のような遠隔地へパイプラインを敷設するのには、莫大な設備投資コストが必要となり、非現実的である。
さらには、水素取り出しに、必ず二酸化炭素発生を伴うため、環境へ影響を及ぼす問題がある。また、水電気分解の場合は、たとえば燃料電池で1kWの発電をさせるために必要な水素を得るために、約2.5kWの電力を投入する必要があり、エネルギー効率が非常に悪い。
さらに、圧縮水素による水素輸送の場合、一度に輸送できる水素量は少なく、効率が悪く、液体水素による水素輸送の場合、まず、水素を液化させるのに大きなエネルギーを必要とし、さらに輸送中あるいは保管中にボイルオフによる水素ガス発生が必ず起こり、効率が悪いと共に、危険性が大きい。
水素吸蔵合金による水素輸送の場合、重量あたりの水素貯蔵量が少なく、効率が悪い。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、こうした従来技術の問題点に鑑み、離島や山間部の様な、遠隔地においても、水素自動車、工場、コンビニ、病院又は家屋等に、低コストで水素を供給することが可能な水素ステーションシステムを提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を達成すべく鋭意研究した結果、低コストで水素が製造できる水素供給システムを、オンサイトに設置することにより、またこれと、工場地帯に立地する水素貯蔵システムを組合せることにより、更に低コストで水素が製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、水素を需要先に供給するための水素ステーションシステムであって、該システムは、
(A)デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体の脱水素反応を利用して水素を取り出す水素供給システム、
(B)取り出された水素を需要先に供給する水素スタンドシステム、
(C)(A)で生成するナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物からなる芳香族化合物を分離回収し、貯蔵する芳香族化合物の貯蔵システム、及び
(D)水素を(A)より(B)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、該システムは、さらに、
(E)ナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物からなる水素貯蔵体の水素化反応を利用して、水素供給体を取り出す水素貯蔵システム、
(F)芳香族化合物を(C)より(E)へ輸送するシステム、及び
(G)(E)で生成する水素供給体を(A)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、前記水素貯蔵システム(E)の水素化反応に用いられる水素は、下記から選ばれる少なくとも1種の水素であることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
(E−1) 製鉄工業の排出ガス中に含まれる水素
(E−2) ソーダ電解工業より発生する水素
(E−3) 石油精製工業より発生する水素
(E−4) アンモニア製造工場の余剰水素
(E−5) 自然エネルギーによる電力で水を電気分解して得られる水素
(E−6) 太陽光による触媒反応で水を直接水素と酸素に分解する反応により得られる水素
【0010】
また、本発明の第4の発明によれば、第2の発明において、該システムは、さらに、
(H)水素貯蔵システム(E)に用いられる芳香族化合物を天然ガス(メタン)より直接製造するシステム
(I)(H)で生成する芳香族化合物を(E)へ輸送するシステム、及び
(J)(H)で発生する水素を(E)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0011】
本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記水素スタンドシステム(B)は、(B−1)(A)より取り出した水素を貯蔵するための水素貯蔵手段と、(B−2)水素自動車に水素を供給するための水素計量供給手段と、(B−3)水素自動車を停留させるための停留手段とを含むことを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0012】
本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、前記水素供給システム(A)の脱水素反応に用いられるデカリンと1−メチルデカリンとの混合物中におけるデカリンの含有割合は、1−メチルデカリン100体積部に対して20〜2000体積部であることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0013】
また、本発明の第7の発明によれば、第1又は6の発明において、前記水素供給システム(A)の脱水素反応に用いられるデカリンと1−メチルデカリンとの混合物は、さらに、水素化芳香族化合物類の少なくとも1種を含有することを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0014】
さらに、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、上記水素化芳香族化合物類の含有割合は、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物100体積部に対して、0.1〜100体積部であることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0015】
本発明の第9の発明によれば、第1の発明において、前記水素供給システム(A)は、(a)水素供給体を収納する原料貯蔵手段と、(b)水素供給体の脱水素反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置と、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段と、(d)原料貯蔵手段内の水素供給体を反応装置へ供給する水素供給体供給手段と、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて水素と脱水素体に分離する気液分離手段と、(f)分離した脱水素体を回収する反応物回収手段とからなることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0016】
また、本発明の第10の発明によれば、第2の発明において、前記水素貯蔵システム(E)は、(a)水素貯蔵体を収納する原料貯蔵手段と、(b)水素貯蔵体の水素化反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置と、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段と、(d)原料貯蔵手段内の水素貯蔵体を反応装置へ供給する水素貯蔵体供給手段と、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて未反応水素と該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体に分離する気液分離手段と、(f)分離した水素供給体を回収する反応物回収手段とからなることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0017】
さらに、本発明の第11の発明によれば、第9又は10の発明において、上記金属担持触媒は、担持金属が、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルト、又は鉄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、一方、担持金属を担持する担体が、活性炭、カーボンナノチューブ、モレキュラシーブ、ゼオライト、シリカゲル、又はアルミナ若しくは金属の多孔質体から選ばれるいずれか1種の化合物であることを特徴とする水素ステーションシステムが提供される。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の水素ステーションシステムについて、各項目毎に説明する。
【0019】
1.水素の需要先
本発明において、水素の需要先としては、水素を動力源とする自動車(水素自動車と略称することもある。)、または定地施設である。
水素を動力源とする自動車とは、水素燃料電池で発電しモーターを回転させ、車を走行させたり、水素をエンジンルームで爆発させ往復運動を回転運動に変換し車を走行させる、所謂水素自動車であり、いずれの方式においても車体の一部に水素貯蔵装置を設置する必要がある。
【0020】
水素貯蔵装置としては、25MPa〜70MPa程度の高圧水素ガスを2.2kg〜6.1kg程度貯蔵できる容積が100L程度の高圧ボンベ(継ぎ目なしのアルミライナー製ボンベの外側に炭素繊維を巻き、樹脂で固めた構造)や、水素吸蔵性の合金、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー等を充填したタンク等、あるいは断熱処理を施した液体水素タンク等が好ましい。
定地施設としては、工場、コンビニ、スーパーマーケット、デパート、病院、家屋、教会、神社、仏閣、体育館、運動場、競馬場、競輪場、博物館、図書館、学校、飛行場、水族館、動物園、植物園、ホテル、旅館、山荘、別荘等が挙げられ、そこにおいて、水素を燃料電池や内燃機関の燃料(エネルギー源)として利用する。
【0021】
2.水素供給体
本発明において、水素供給体とは、水素発生に用いる水素供給システム(A)の原料であり、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる。
本発明に係る水素供給体は、常温・常圧で液体状態のものであり、安定に存在するため、ガソリン等と同様の扱いができ、既存のガソリンスタンド等の貯蔵タンクや、タンクローリー等の移送手段を利用することが可能であるため、インフラ整備にかかる費用も非常に少なくてすむ。
デカリンや1−メチルデカリンは、単位容積当たりの水素発生量が多く、毒性も少なく、両者を混合して使用すると、システム系内における固着や凝固問題がおこらず、常温においても流動性があり、また脱水素されて生成するナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物からなる水素貯蔵体は、常温・常圧で液体状態のものであり、安定に存在するため、ガソリン等と同様の扱いができ、既存のガソリンスタンド等の貯蔵タンクや、タンクローリー等の移送手段を利用することが可能であり、水素貯蔵システム(E)の原料として使用できるので、本発明においては、特に水素供給体としてデカリンと1−メチルデカリンとの混合物を選択し、採用した。
デカリンと1−メチルデカリン及びそれらの混合物などについて、更に詳細に説明する。
【0022】
2.1 デカリン
本発明において使用する、水素供給体の主成分としてのデカリンは、下記の化学構造式(1)及び(2)でそれぞれ表わされる異性体の総称であり、化学構造式(1)のcis−デカリンは、融点−43.26℃、沸点195.7℃であり、また、化学構造式(2)のtrans−デカリンは、融点−31.16℃、沸点185.5℃の化合物である。
【0023】
【化1】
【0024】
【化2】
【0025】
水素供給体としては、デカリンが水素供給能力、安全性、入手の容易さから、最も優れているため、本発明においては、ベースの水素供給体としてデカリンを主要な成分として採用している。
デカリンは、上記したように融点が−43〜−31℃と低いので、融点が約80℃のナフタレンの融点を降下させ溶解し、ナフタレンが反応装置系内に固着しないようにすることができる効果もある。
【0026】
2.2 1−メチルデカリン
本発明において、水素供給体として用いる1−メチルデカリンには、4種の立体異性体(以降、1−メチルデカリン異性体と略称することもある。)があり、下記の化学構造式(3)〜(6)でそれそれ表わされるtrans−cis−1−メチルデカリン、trans−trans−1−メチルデカリン、cis−cis−1−メチルデカリン、又はcis−trans−1−メチルデカリン等で表わされるものである。
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
【化5】
【0030】
【化6】
【0031】
1−メチルデカリン異性体は、本発明に係る水素貯蔵システム(E)を用い、1−メチルナフタレンの水素添加反応によって得られ、また、本発明に係る水素供給システム(A)を用い、1−メチルデカリン異性体の脱水素反応によって1−メチルナフタレンと水素に変換される。
上記4種類の1−メチルデカリン異性体の確認と、及びこれらが全て水素供給体として有効であることは、本発明者等によって始めて実証されたものである。
【0032】
2.3 デカリンと1−メチルデカリンとの混合物
水素供給体としては、前述したように、デカリンが水素供給能力、安全性、流動性、入手の容易さ、価格等の観点から、他の水素供給体と比較し優れているため、本発明においては、ベースの水素供給体としてデカリンを主要な成分として採用している。そして、デカリン単独であると、次のような問題があるので、1−メチルデカリンとの併用によって解決したものである。
すなわち、これまでナフタレンは、毒性が少なく、単位重量当たりの水素発生量が多いので、最も好ましい水素貯蔵体として多用されているが、ナフタレンを水素貯蔵体として水素貯蔵反応を行わせる場合、常温で固体(融点80.2℃)であるから、これ単独では、反応装置のパイプライン中を流動させて供給することはできないので、ナフタレンへの水素添加反応は、他の溶媒に溶解させてから行う必要があったが、溶媒の選択(例えば、直鎖状のn−へキサンや、ヘプタンのようなn−アルカン、エーテル類、ケトン類等々の水素貯蔵/供給能力のないもの)によっては、水素添加後に生成するデカリン混合液中のデカリンの割合、すなわち水素供給体の割合が低下し、その溶液からの水素発生能力が低くなってしまう問題があった。
【0033】
そこで、デカリンと共存する(或いは混合される)1−メチルデカリンは、脱水素されて1−メチルナフタレンとなり、その1−メチルナフタレンは、融点が−22℃と低く、デカリンの脱水素化物である融点が約80℃のナフタレンと混合し、ナフタレンの融点を降下させ溶解し、ナフタレンが反応装置系内に固着しないようにする効果があり、また、気液分離手段系内や反応物回収手段系内において凝固させないようにする効果もある。
【0034】
デカリンと1−メチルデカリンとの混合物において、デカリンの含有割合は、1−メチルデカリン100体積部に対して20〜2000体積部、好ましくは50〜500体積部、最も好ましくは80〜120体積部である。20体積部未満であると、1−メチルデカリンの価格は、高価であるので水素供給体は、コスト高となり望ましくなく、一方、2000体積部を超えると、デカリンの脱水素化物であるナフタレンの比率が多くなり過ぎ、水素供給体は、流動化させることができず、望ましくない。
【0035】
本発明においては、1−メチルデカリン異性体の脱水素体である1−メチルナフタレンは、他の水素貯蔵体(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等)あるいは水素供給体(シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、テトラリン等)と比較して、最もナフタレンの溶解力が大きいことを実証し、上記のナフタレンの流動性問題を解決できたので、1−メチルデカリン異性体を水素供給体の一部として採用した。
【0036】
1−メチルデカリン異性体は、その構造上、通常の水素添加反応では、1−メチルナフタレンから4種類の異性体が生成する可能性があり、この4種類とも本発明に係る水素貯蔵システム(E)による合成で検出されている。水素供給体としては、これら4種類の1−メチルデカリン異性体を分離する必要性は全くなく、混合物として使用しても全く問題はない。なぜならば、これらの4種類のどの異性体からも、水素発生反応後に生成するのは、1−メチルナフタレンただ1種類であるからである。
本発明では、ナフタレンに各種の炭化水素を配合し、ナフタレンの溶解度試験を行い、1−メチルナフタレンが優れた溶解度を示すことを実証し、これの水素添加物である1−メチルデカリン異性体を、デカリンに配合する特定の水素供給体として選び出した。
【0037】
ナフタレンへの水素添加反応を、本システムで行う場合、ナフタレンを溶媒に溶かして行う必要があるが、この場合の溶媒としては、1−メチルナフタレンが最適である。なぜならば、1−メチルナフタレンは、ナフタレンの溶解度が最も大きいため、少量の添加で済み、かつ、1−メチルナフタレン自体が水素添加反応によって水素供給体である1−メチルデカリン異性体に変化し、全体としての水素貯蔵/発生能力の低下が起こらないからである。
【0038】
2.4 デカリンと1−メチルデカリンとの混合物に、さらに、水素化芳香族化合物類の少なくとも1種を配合した水素供給体
本発明の水素ステーションシステムにおいては、水素供給体として、主にデカリンと1−メチルデカリンとの混合物を用いるものであるが、それらの混合物に、さらに、水素化芳香族化合物類の少なくとも1種を配合したものも、用いることができる。
【0039】
上記水素化芳香族化合物類は、脱水素されてベンゼン、トルエン、キシレン又はエチルベンゼン等を生成するが、それらは、ややナフタレンと比較し毒性があるものの、ナフタレンを流動化させ、低価格であるので、所望に応じて、「デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体」に配合して使用することができる。
【0040】
本発明において、水素化芳香族化合物類としては、芳香族化合物の完全もしくは一部水素添加された化合物、またはそのアルキル置換体等が挙げられる。具体的には、炭素数で30程度、芳香族環の環数で6環程度までの芳香族化合物の水素添加物であり、環数の化合物として分類すると、単環系化合物、2環の縮合環系化合物、3環の縮合環系化合物、4環以上の縮合環系化合物、非縮合系の多環系化合物等として分類した次の構造式(7)〜(16)で表される単環、多環系の芳香族化合物の完全もしくは一部水素添加された化合物、またはそのアルキル置換体等を挙げることができる。
【0041】
(1) 構造式(7)で表される無置換単環系化合物、1置換単環系化合物
【0042】
【化7】
(Rはアルキル基を示す)
【0043】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(7)の具体的化合物としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、i−プロピルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0044】
(2) 構造式(8)で表される2置換以上の単環系化合物
【0045】
【化8】
(Rはアルキル基を示す)
【0046】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(8)の具体的化合物としては、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサンもしくはエチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0047】
(3) 構造式(9)で表される2環の縮合環系化合物
【0048】
【化9】
(Rはアルキル基を示す)
【0049】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(9)の具体的化合物としては、テトラリン、デカリン、それらのアルキル置換体が挙げられる。
なお、構造式(9)で表される2環の縮合環系化合物は、3置換以上の化合物も含む。
【0050】
(4) 構造式(10)で表される3環の縮合環系化合物
【0051】
【化10】
(Rはアルキル基を示す)
【0052】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(10)の具体的化合物としては、アントラセンの完全または部分水素添加体、それらのアルキル置換体が挙げられる。
なお、構造式(10)で表される3環の縮合環系化合物は、2置換以上の化合物も含む。
【0053】
(5) 構造式(11)、(12)、(13)で表される3環の縮合環系化合物
【0054】
【化11】
(Rはアルキル基を示す)
【0055】
【化12】
(Rはアルキル基を示す)
【0056】
【化13】
(Rはアルキル基を示す)
【0057】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(11)、(12)、(13)の具体的化合物としては、フェナントレンの完全または部分水素添加体、それらのアルキル置換体が挙げられる。
なお、構造式(11)、(12)、(13)で表される3環の縮合環系化合物は、2置換以上の化合物も含む。
【0058】
(6) 構造式(14)で表される3環の縮合環系化合物
【0059】
【化14】
(Rはアルキル基を示す)
【0060】
ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。構造式(14)の具体的化合物としては、フェナレンの完全または部分水素添加体、それらのアルキル置換体が挙げられる。
なお、構造式(14)で表される3環の縮合環系化合物は、2置換以上の化合物も含む。
【0061】
(7) 構造式(15)で表される4環以上の縮合環系化合物を完全もしくは一部水素化された化合物(ただし、4環以上の縮合環系化合物の完全もしくは一部水素化された化合物及びそのアルキル置換体は、その組合せが多岐にわたるため、水素化前および未置換体のみの例示をしたが、これらに限定されるものではない。)
【0062】
【化15】
【0063】
構造式(15)の具体的化合物としては、ピレン、クリセン、べンズアントラセン、ベンズフェナントレン、ベンズピレン等である。本発明で用いる水素化芳香族化合物類としては、それらの完全もしくは一部水素添加された化合物、それらのアルキル置換体である。
なお、アルキル置換体のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。
【0064】
(8) 構造式(16)で表される非縮合系の多環化合物
【0065】
【化16】
【0066】
構造式(16)の具体的化合物としては、ビフェニル、トリフェニルの完全又は部分水素添加物等が挙げられる。なお、構造式(16)で表される非縮合系多環化合物はアルキル置換体も含む。また、アルキル置換体のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基等が挙げられる。
また、構造式(16)には、具体的に例示してはいないが、環数として6環程度までの非縮合系の多環芳香族化合物の完全もしくは一部水素添加物、またはそのアルキル置換体も、本発明における水素化芳香族化合物類として使用可能である。
【0067】
本発明において、水素化芳香族化合物類の配合割合は、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物100体積部に対して、0.1〜100体積部が好ましく、より好ましくは1〜30体積部である。0.1体積部未満であると、水素化芳香族化合物類の添加効果がない。一方、100体積部を超えると、添加物の方が多くなり、脱水素反応後の生成物が固化してしまい、系内で固着する、あるいは粘性の強い液体となり、触媒反応を阻害する。
【0068】
芳香族化合物の完全もしくは一部水素添加された化合物、またはそのアルキル置換体であるシクロヘキサン類、すなわち水素化芳香族化合物類は、前述したように、脱水素されて生成するベンゼン、トルエン、キシレン又はエチルベンゼン等が、ややナフタレンと比較し毒性があるものの、ナフタレンを流動化させ、低価格であるので、所望に応じて、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体に配合して使用することができる。
【0069】
本発明においては、デカリンの脱水素反応によって生成した水素貯蔵体であるナフタレンは、融点が約80℃であり、反応装置系内に固着し流動性に問題があるので、前述したように、これに特定の水素供給体を配合することによって解決できる。
本発明では、前述した1−メチルナフタレンと同様に、ナフタレンに各種の炭化水素を配合し、ナフタレンの溶解度試験を行い、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼン等が優れた溶解度を示すことを実証し、これらの水素添加物である芳香化合物の完全もしくは一部水素添加された化合物、またはそのアルキル置換体であるシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、又はエチルシクロヘキサン等から選ばれる炭化水素を、デカリンと1−メチルナフタレンの混合物に配合することができる上記の特定の水素供給体として、選び出した。
【0070】
上記の選ばれた特定の炭化水素は、混合する化合物自体が、デカリンと同様に水素供給能力をもち、水素発生反応後に水素貯蔵体として使用できるものであるから、全体としての水素発生量は低下しない。
【0071】
3.水素供給体の脱水素反応
本発明において、水素供給体の脱水素反応とは、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体から脱水素により、水素と、ナフタレン及び1−メチルナフタレンとの混合物からなる芳香族化合物とを生成させる反応であり、水素は水素スタンドを経由して、水素自動車、工場又は家屋の貯蔵ボンベ、水素吸臓合金タンク等に貯蔵される。
芳香族化合物は、タンクローリー等で工場地帯の水素貯蔵システムに送られ、そこで工場地帯の安価な副生水素により水素化され、水素供給体となり、タンクローリー等で、上記の水素供給システムに送られ、再度水素生成のための原料となる。
【0072】
4.水素供給システム(A)
本発明において、水素供給システム(A)とは、芳香族化合物(ナフタレン及び1−メチルナフタレンとの混合物)の水素化誘導体からなる水素供給体(デカリンと1−メチルデカリンとの混合物)の脱水素反応を利用して水素と芳香族化合物(ナフタレン及び1−メチルナフタレンとの混合物)を取り出すシステムを意味するが、具体的な態様としては、例えば(a)水素供給体を収納する原料貯蔵手段と、(b)水素供給体の脱水素反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置と、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段と、(d)原料貯蔵手段内の水素供給体を反応装置へ供給する水素供給体供給手段と、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて水素と脱水素体に分離する気液分離手段と、及び(f)分離した脱水素体を回収する反応物回収手段とからなる。これらの各手段については、後述の図面を用いて更に詳細に説明する。
【0073】
5.水素スタンドシステム(B)
本発明において、水素スタンドシステム(B)とは、水素供給システム(A)で発生した水素を水素自動車、工場又は家屋等の定地施設に、供給するための機器やスペースを備えたシステムであり、従来のガソリン自動車用のガソリンスタンドに相当する。
水素スタンドシステムは、具体的な態様としては、水素貯蔵手段と、水素計量供給手段と、及び水素自動車の停留手段とからなる。
水素貯蔵手段としては、例えば、高圧水素ボンベ、液体水素ボンベ、水素吸蔵合金ボンベなどが設置される。
高圧水素ボンベを使用する場合は、図4(C)に示すように、水素ガスを圧縮するためのコンプレッサー、圧縮水素ボンベ(圧力計を装備することが望ましい)、計量ポンプ等が必要である。
【0074】
通常、車載の圧縮水素ボンベに供給する場合は、ステーション側と車載側の、それぞれのボンベの圧力差を利用して、充填するため、ステーション側を高圧にする必要がある。この場合、貯蔵用のボンベを高圧のものとしてもよいし、車載ボンベに供給する手前で昇圧してもよい。
貯蔵ボンベを高圧のものとする場合は、複数個並列に並べ、それぞれのボンベが、水素貯蔵、水素放出の異なる工程を、タイムラグをおいて行ってもよい。
液体水素ボンベを使用する場合は、図4(A)に示すように、水素ガスを液体水素にするための、水素コンプレッサー、圧縮水素冷却器、断熱膨張器等が必要である。
液体水素車載タンクに供給する場合は、断熱膨張器は不要となる。
【0075】
また、水素吸蔵合金ボンベを使用する場合は、図4(B)に示すように、水素を高圧にする水素コンプレッサー、水素吸蔵合金ボンベに水素を吸蔵させる場合(低温にする必要あり)の冷却器と水素吸蔵合金ボンベを収納する水素吸蔵室、水素吸蔵合金ボンベから水素を放出させる場合(高温にする必要あり)の加熱器と水素吸蔵合金ボンベを収納する水素放出室が必要である。水素を吸蔵させたボンベは、水素を放出させる場合は、水素吸蔵室から水素放出室に移動させる。
水素吸蔵合金ボンベを使用する場合の別の水素吸蔵・放出方法としては、水素吸蔵合金ボンベを収納する部屋は一つとし、水素吸蔵合金ボンベを複数個並列に並べ、それぞれのボンベの内部又は表面に、加熱媒体又は冷却媒体を内部に流動させる熱交換パイプを設け、それぞれのボンベが、水素吸着、水素貯蔵、水素放出の異なる工程を、タイムラグをおいて行ってもよい。
【0076】
6.芳香族化合物の貯蔵システム(C)
本発明においては、水素供給システム(A)にて、水素と芳香族化合物を生成するが、資源の有効利用の観点から循環使用することが望ましく、そのためには、工場地帯に輸送し、安価な副生水素を添加して水素供給体とし、逆輸送し、再使用する必要があるので、オンサイトにて、一時的に芳香族化合物を貯蔵する必要がある。
水素供給システム(A)より水素取り出し後に回収される芳香族化合物の貯蔵システム(C)とは、上記したオンサイトにて、一時的に芳香族化合物を貯蔵するシステムである。
【0077】
7.水素の輸送システム(D)
本発明において、水素供給システム(A)より水素を、水素スタンドシステム(B)へ輸送するシステム(D)とは、水素供給システム(A)で発生した水素を、水素スタンドシステム(B)に輸送するためのシステムであり、パイプで直接輸送してもよく、又は高圧断熱ボンベに入れ、輸送してもよい。
その際、(A)を(B)内に設置し、パイプで輸送することが、エネルギーロスが少なく好ましい。
【0078】
8.水素ステーションシステム
本発明において、水素ステーションシステムとは、水素を動力源とする自動車、工場又は家屋等の定地施設に、水素を供給するためのシステムである。
該システムは、
(A)デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体の脱水素反応を利用して水素を取り出す水素供給システム、
(B)取り出した水素を水素自動車に供給する水素スタンドシステム、
(C)(A)で生成するナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物からなる芳香族化合物を分離回収し、貯蔵する芳香族化合物の貯蔵システム、及び
(D)水素を(A)より(B)へ輸送するシステム
を含むものを基本システムとし、これに下記に記載する基本システムの効率を良くする支援システムを、付加した拡張システムも包含する。
次に図を用いてさらに説明すると、基本システムは、図1(A)の右側の長方形で囲んだ、遠隔地水素ステーションシステムにて示してあり、本発明の第1の発明(請求項1)に対応する。
支援システムとしては、下記にて説明する水素貯蔵システム、水素製造工場、水素貯蔵体製造工場等があり、図1(A)の左側の長方形で囲んだ工場地帯水素供給体製造システムにて示してある。
従って、遠隔地水素ステーションシステムの拡張システムとしては、例えば下記の3ケースが考えられる。
イ.基本システム+水素貯蔵システム+輸送システム (請求項2に対応)
ロ.イ+副生水素等の利用 (請求項3に対応)
ハ.イ+天然ガス(メタン)からの水素と芳香族化合物の直接製造システム (請求項4に対応)
なお、図1(B)には、図1(A)の本発明の水素ステーションシステムの各構成要素にて、発生(合成)したり、貯蔵されたり、輸送されたりする、水素、水素貯蔵体(ナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物であり、代表としてナフタレンで示す)、水素供給体(デカリンと1−メチルデカリンとの混合物であり、代表としてデカリンで示す)等を化学式で示し、輸送方向を→で示した。
【0079】
基本システムは、他の水素ステーションシステムと比較し、設備投資費用が少なくてすみ、比較的手軽に事業をスタートすることができる利点がある。
この場合、副生する水素貯蔵体(芳香族化合物)の再利用問題は、水素供給システム(A)を使用し、触媒、反応圧力、反応温度等の条件を変更すれば、水素と反応させ、元の水素供給体に戻せるので、解決できる。
例えば、オンサイトに水電解装置を設置し、太陽光発電又は夜間電力を利用し水素を発生させ、芳香族化合物に水素を付加すれば、水素ボンベの代わりにもなり、変動する水素自動車や定地施設の水素需要に対応できる。
【0080】
9.拡張システム
本発明に係る拡張システムに包含される個別のシステムについて、以下に詳述する。
9.1 水素貯蔵システム(E)
本発明において、水素貯蔵システム(E)とは、上記した離島や山間部等に設置される水素供給システムで副生した芳香族化合物を、タンクローリー等で工場地帯に輸送し、そこに立地する芳香族化合物に水素を添加し水素供給体を得るシステムであり、工場地帯の安価な余剰水素を、デカリンや1−メチルデカリンの様な、効率的な水素供給体として、水素を費用のかかる高圧水素ボンベに代えて貯蔵できるメリットがある。得られたデカリンや1−メチルデカリンの様な、効率的な水素供給体は、タンクローリー等によって、離島や山間部等に設置される水素供給システムに輸送される。
【0081】
この水素貯蔵システム(E)は、具体的な態様としては、例えば(a)水素貯蔵体を収納する原料貯蔵手段と、(b)水素貯蔵体の水素化反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置と、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段と、(d)原料貯蔵手段内の水素貯蔵体を反応装置へ供給する水素貯蔵体供給手段と、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて未反応水素と該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体に分離する気液分離手段と、及び(f)分離した水素供給体を回収する反応物回収手段とからなるものであり、これらの各手段については、後述の図面を用いて更に詳細に説明する。
【0082】
9.2 芳香族化合物の輸送システム(F)
本発明において、輸送システム(F)とは、(A)の離島や山間部等に設置される水素供給システムより回収した貯蔵システム(C)にある芳香族化合物を、(E)の工場地帯に立地する水素貯蔵システムへ輸送するシステムであり、芳香族化合物をタンクローリー等で輸送したり、芳香族化合物をコンテナーに入れ、トラック、鉄道車両、又はフェリーに積載し輸送する形態等である。
水素供給システム(A)と水素貯蔵システム(E)が接近する場合は、パイプライン等での輸送も可能である。
芳香族化合物がナフタレンのように常温で固体の場合は、1−メチルナフタレンとの混合物とし、流動性を付与する。
【0083】
9.3 水素供給体の輸送システム(G)
本発明において、輸送システム(G)とは、(E)の工場地帯に立地する水素貯蔵システムにて生成した水素供給体を、(A)の離島や山間部等に設置される水素供給システムへ輸送するシステムであり、水素供給体をタンクローリー等で輸送したり、水素供給体をコンテナーに入れトラック、鉄道車両、又はフェリーに積載し輸送する形態等である。
輸送システム(F)と同様に、(A)と(E)が接近する場合は、パイプライン等での輸送も可能である。
【0084】
9.4 工場地帯で調達できる水素及び芳香族化合物
工場地帯に立地する(E)の水素貯蔵システムに必要な水素は、水素供給体のコストを下げ、惹いては水素自動車等に供給する水素の価格を低くするためには、工場地帯で調達できる安価な水素が好ましい。
比較的に安価な水素としては、製鉄工業の排出ガス中に含まれる水素、ソーダ電解工業より発生する水素、石油精製工業で発生する水素、アンモニア製造工場の余剰水素があり、また、自然エネルギーによる電力で水を電気分解して得られる水素、太陽光による触媒反応で水を直接水素と酸素に分解する反応により得られる水素等も利用できる。
【0085】
工場地帯に立地する(E)の水素貯蔵システムに必要な芳香族化合物は、水素供給体のコストを下げ、惹いては水素自動車に供給する水素の価格を低くするためには、工場地帯で調達できる安価な副生芳香族化合物であることが好ましい。
副生芳香族化合物としては、製鉄工業の排出ガス中に含まれる芳香族化合物、石油精製工業で発生する芳香族化合物、ナフサクラッカーより発生する芳香族化合物等の副生芳香族化合物が安価であり、副生量も十分あり、好ましい。
【0086】
9.5 天然ガスを原料とした芳香族化合物及び水素の製造システム
工場地帯に立地する(E)の水素貯蔵システムに必要な芳香族化合物及び水素は、水素供給体のコストを下げ、惹いては水素自動車に供給する水素の価格を低くするためには、工場地帯で調達できる安価な芳香族化合物及び水素でなければならず、上記の芳香族化合物及び水素以外に、安価で安定的に供給できる別の調達ルートも確保しておくことが好ましい。
本発明においては、別の調達ルートとして、
(H)(E)の水素貯蔵システムに必要な芳香族化合物を、天然ガス(メタン)より直接製造するシステム、
(I)(H)で生成した芳香族化合物を(E)へ輸送するシステム、および
(J)(H)で発生する水素を(E)へ輸送するシステム
を含む芳香族化合物及び水素の製造システムが好適である。
そして、この芳香族化合物及び水素の製造システムを(E)の水素貯蔵システムに包含させることにより、本発明の水素ステーションシステムは、更に拡張されたシステムとなる。この拡張システムは、本発明の第4の発明(請求項4)に対応する。
【0087】
水素貯蔵システム(E)に必要な芳香族化合物及び水素を、天然ガス(メタン)より直接製造するシステムとしては、例えば、特開平11−60514号公報に記載されている方法がある。この方法によると、下記の触媒を選定し、反応器内で固定床、移動床、又は流動床として使用した上で、天然ガス(メタン)を回分式、或いは連続式で供給し、下記の反応条件で反応させている。
【0088】
触媒:レニウム、亜鉛、ガリウム、コバルト、鉄、クロム、ランタン、ネオジム、サマリウム、イットリウム、タングステン、モリブデン、希土類金属またはこれらの化合物の1種以上を触媒活性成分とし、4.5〜6.5Å径の細孔を有する多孔質メタロシリケート担体に担持させた触媒。
反応条件:天然ガス(メタン)を、一酸化炭素及び/又はニ酸化炭素の存在下で300〜800℃、好ましくは450〜775℃の温度で触媒と接触させる。圧力は、0.1〜10気圧、好ましくは0.5〜5気圧であり、重量時間空間速度(WHSV)は、0.1〜10であり、好ましくは0.5〜5.0である。
【0089】
10.水素供給システム(A)の具体的な構成
以下、本発明に係る水素供給システムの実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0090】
図2は、水素の供給を行うことができる水素供給システムの構成を模式的に示す説明図である。尚、本発明においては、水素供給体としてデカリンと1−メチルデカリンとの混合物を使用するが、この混合物をデカリン混合物と呼称する。また、水素貯蔵体としてナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物を使用するが、この混合物をナフタレン混合物と呼称する。
この水素供給システム1は、主に、デカリン混合物貯蔵手段2と、デカリン混合物供給手段3と、反応装置4と、気体分離手段5と、反応物回収手段8と、制御手段10とを備えている。
なお、本発明の水素ステーションシステムは、その理解を容易にするため、図1に概念図を、さらに図2及び図3に詳細図を示したが、その関係で概念図における構成要素を示す符号と、詳細図における構成要素を示す符号とは、一致しない場合があるので、本明細書では、下記の様に必要に応じて符号を読み替えるものとする。
1) 本発明の第1の発明(請求項1)及び図1の水素供給システム(A)は、図2及び図3の水素貯蔵・供給システム1と同一物である。
2) 本発明の第1の発明(請求項1)及び図1の芳香族化合物の貯蔵システム(C)は、図2及び図3の反応物回収手段8と同一物である。
【0091】
原料貯蔵手段2は、タンク状に形成され、水素供給体であるデカリン混合物が収納される。
また、デカリン混合物供給手段3は、デカリン混合物貯蔵手段2から導いたデカリン混合物を加圧して反応装置4にデカリン混合物を供給するための構成部であり、コンプレッサ(ポンプ)31と、電磁弁よりなるバルブ32とにより構成されており、デカリン混合物貯蔵手段2と配管接続されている。バルブ32により、反応装置4に供給されるデカリン混合物の供給量や供給時間が制御される。
【0092】
反応装置4は、デカリン混合物を金属担持触媒に噴射、供給して、脱水素反応を行わせる構成部である。反応装置4の内面底部には、ハニカムシート状の触媒41が設けられており、反応装置4の上部中央付近には、触媒41に対向して、原料供給手段3に配管接続された噴射ノズル42が設けられている。噴射ノズル42は、原料が触媒上に均一に噴射されるように設置されており、原料を噴射ノズル42から噴射することにより、反応装置4内の触媒41表面に、原料の均一な液膜が形成される。
【0093】
触媒41としては、本実施の形態では、ハニカムシート状の活性炭素地に主金属として白金を、副金属としてロジウムを担持させた触媒を用い、反応装置内の触媒重量を総量で50gとしているが、その重量や大きさは必要に応じて調整すべき因子であり、特に限定されない。
【0094】
反応装置4の底部には、触媒41を加熱するヒーター43が備えられている。ヒーター43は、ニクロム線による抵抗加熱体であり、触媒41に接しているアルミ製のヒーター格納部44に一体的に内蔵され、ヒーター格納部44を介して熱伝導により触媒41が加熱される。また、触媒41に接した熱電対45により触媒温度を検知し、ヒーターへの供給熱量を調整して触媒41の温度が調整される。
ところで、本実施の形態では、触媒の加熱にニクロム線による抵抗加熱体を用いているが、加熱手段は、特に限定されず、電磁誘導コイルに高周波電流を流すことにより発生させた高周波で導電体を誘導加熱する高周波誘導加熱等も使用できる。高周波誘導加熱を用いる場合は、金属担持触媒の担体としてカーボン等の導電体を用い、渦電流が発生する形状に形成することにより、触媒を直接加熱することができる。
【0095】
触媒41の温度は、ヒーター43により、デカリン混合物の脱水素反応によりナフタレン混合物を生成させる際には、約220〜400℃に加熱する。
反応装置4は、電磁弁よりなるバルブ6を介して気液分離手段5に配管接続されている。
【0096】
バルブ6は、反応装置4内の生成物を気液分離手段5に導くときに使用される。反応装置4において、デカリン混合物の脱水素反応が起きるとナフタレン混合物と水素が生成するが、これらの生成物は気体であるため、気液分離手段5は、反応装置4から送られてくるナフタレン混合物を完全に液化させて水素を分離するために設けられている。
【0097】
気液分離手段5は、冷却水による冷却を行う、らせん状細管、交互冷却パイプ構造等の熱交換器51aからなる蒸気凝縮部51と、水素に同伴する液滴を分離する、活性炭や水素セパレータ膜等の水素分離部52aからなる水素抽出部52とにより構成されている。蒸気凝縮部51は、発生した水素とナフタレン混合物との気液分離を効率的に実現するため、例えば、冷却水温度(例えば5〜20℃)を調節して最適化を図ることが好ましい。
また、デカリン混合物供給手段31の部分と併設し、原料デカリン混合物と発生ガスとの間で熱交換し、原料デカリン混合物を予熱する手段としても使用可能である。
【0098】
水素抽出部52は、通常、蒸気凝縮部51の接触面積、冷却水温度、発生水素速度等の諸因子を操作することにより、水素の分離・精製を行うことが可能であるため、必ずしも必要としないが、より高純度(99.9%以上)の水素の供給が要求される場合には、活性炭や、水素セパレータ膜のシリカ分離膜やパラジウム・銀分離膜等の従来技術を用いて水素の高純度化を行う必要があるので、本実施の形態では追加設置している。
なお、反応物回収手段(C)と水素抽出部52との間に、例えばガラスウール、ワイヤーメッシュ等を充填した気液分離部(図示せず)を設けて、水素抽出部52への液滴の同伴量を減少させることもできる。
【0099】
反応物回収手段(C)は、気液分離手段5の蒸気凝縮部51と配管接続されており、蒸気凝縮部51で冷却されて液化したナフタレン混合物は、反応物回収手段(C)に送られて回収される。
また、反応物回収手段(C)は、気液分離手段5の水素抽出部52とも配管接続されており、生成した水素は、蒸気凝縮部51で液化したナフタレン混合物(水素貯蔵体)と共に一旦反応物回収手段(C)に入った後、水素抽出部52に送られ、水素抽出部52内に設置された活性炭や水素セパレータ膜からなる水素分離部52aにより、質量が軽く、また拡散速度が大きい水素ガスのみが分離精製される。精製された水素は、水素抽出部52に接続された配管91及び水素放出側バルブ92を通って、水素スタンドシステム(B)に効率的に供給される。
【0100】
上述のように、気液分離手段5の水素抽出部52は、通常は不用なので、気液分離手段5の蒸気凝縮部51と水素抽出部52出口とを直接配管接続し、水素抽出部52をバイパスして水素を配管91に送り、蒸気凝縮部51の底部に溜まった液状のナフタレン混合物を反応物回収手段(C)に回収してもよい。
また、配管91には、発生ガス量を計測するためのセンサ93が設置されているため、水素の発生量を測定することができる。
【0101】
一方、コンプレッサ(ポンプ)31、バルブ32、ヒーター43、熱電対45、バルブ6、バルブ92、センサ93は、それぞれ制御手段10と電気的に接続されており、熱電対45、センサ93等からの情報をもとに、コンプレッサ(ポンプ)や各バルブの作動、ヒーターへの熱量(制御手段は図示せず)を制御できるように構成されている。
本発明に係る水素供給システム(A)の基本構成について、前述の図2に基づき、詳細に説明したが、図3に示す基本構成も本発明に係る水素供給システムに適用できる。
【0102】
図3の基本構成は、図2の構成と比較して、基本的に反応装置4の構成が異なるのみなので、反応装置4の構成について詳述する。
図3の反応装置4は、デカリン混合物を触媒に接触させて、水素化反応を行わせる構成部であるが、少なくとも1本の筒状体で反応装置を形成することを特徴とする。
反応装置4は、アルミナ、セラミック等の耐熱性の高い絶縁体の筒状体で形成されており、筒状体本体42の内部には、ポーラスな触媒41が収納されている。筒状体本体42の一端42aは、原料供給手段3に配管接続されており、原料供給装置3からの原料が、例えば分散板により、触媒41上に均一に分散される。尚、反応装置4は、原料の均一な分散、触媒の加熱効率等の観点から、複数の細管で形成してもよい。
【0103】
ここで、筒状体本体42は、流路を保ちながら金属担持触媒を充填できるものであれば任意の形状でよく、また、内径をすり鉢状や蛇腹状のように変化させてもよく、その形状寸法は、使用状態に合わせて適宜選択することができる。
また、筒状体本体42は、ニクロム線等のヒーターにより触媒を加熱する場合には、アルミ等の熱伝導性のよい材質で形成するのが好ましい。
【0104】
触媒41としては、本実施の形態では、活性炭素地に主金属として白金を、副金属としてロジウム担持させた、原料及び反応生成物が透過可能なポーラスな触媒を用い、反応装置内の触媒の重量を総量で50gとしているが、その重量や大きさは、必要に応じて調整すべき因子であり、特に限定されない。
【0105】
また、触媒の加熱手段としては、特に限定されず、高圧高温水蒸気や炭化水素の燃焼ガスを熱交換器により変換した輻射熱、ニクロム線ヒーターによる抵抗加熱、高周波誘導加熱等が使用できるが、本実施の形態においては、反応装置4の筒状体本体42を取り巻くように、触媒41を加熱するコイル状の電磁誘導コイル11が配置されており、触媒41に接した熱電対45により触媒温度を検知し、電磁誘導コイルへの高周波電流を調整して触媒41の温度が調整される。
【0106】
尚、高周波誘導加熱は、電磁誘導コイルに高周波電流を流すことにより発生させた高周波で導電体を誘導加熱するもので、電磁誘導作用により導電体に渦電流が発生し、ジュール熱によって導電体が加熱されるものである。電磁誘導コイルに印加する高周波電流の周波数としては、加熱する導電体とのインピーダンスマッチングにもよるが、一般的には350〜450kHzが使用される。
【0107】
電磁誘導コイルの形状としては、一般的なコイル形状の他、渦巻き形状が採用できる。コイル形状の場合は、加熱する導電体をコイルの中心に、渦巻き形状の場合は、導電体を渦巻きの中心線上に配置すると、効率的かつリスポンスよく加熱できる。
【0108】
高周波誘導加熱を行う場合には、電磁誘導コイルに高周波電流を流し続けると導電体が加熱され続けるため、一般的には温度制御が必要となる。温度制御の方法としては、導電体の温度を測定して電磁誘導コイルに流れる高周波電流を制御する種々のフィードバック制御が可能であり、本発明で用いる加熱温度(100〜500℃)においては、一般的な熱電対によるフィードバック制御で十分である。また、加熱のために投入されるエネルギーと反応に要するエネルギーとのバランスを取るために、反応に必要な単位時間当たりの熱量を求めて電磁誘導コイルに印加する電流(電力)を制御することも可能である。
【0109】
また、より効率的に、かつレスポンスよく加熱を行うためには、金属担持触媒の担体としてカーボン等の導電体を用い、渦電流が発生する形状に形成することにより、金属担持触媒を直接加熱することが好ましい。担体が非導電体の場合には、担体とステンレス等の一般的な導電体とを層状又はブレンド状等に形成し、担体に導電性を付与する。さらに、金属担持触媒のみを効率よく瞬時に加熱するために、筒状体本体をアルミナやセラミック等の耐熱性の高い絶縁体で形成する。筒状体本体が複数の場合には、各筒状体本体を電磁誘導コイルで取り囲んで各々加熱するようにしてもよく、複数の筒状体本体をまとめて1つの電磁誘導コイルで取り囲んで加熱してもよい。
尚、筒状体本体の長手方向に電磁誘導コイルを複数配置し、例えば、原料の供給側から順に触媒温度が高くなるように加熱してもよい。
【0110】
触媒41の温度は、電磁誘導コイル11により、デカリン混合物の脱水素反応によりナフタレン混合物を生成させる際には、約220〜400℃に加熱する。同様に変換効率を考慮すると、250〜380℃に加熱することが好ましい。
また、反応装置4の筒状体本体42の他端42bは、電磁弁よりなるバルブ6を介して気体分離手段5に配管接続されている。
【0111】
11.水素供給システムの稼動方法
本発明に係る水素供給システムは、上述のような構成からなり、かつ、反応装置(4)中に収納された金属担持触媒は、下記に記載する金属担持触媒を用いるものである。
【0112】
11.1 脱水素反応
本発明に係る水素供給システムを用いて、デカリン混合物の脱水素反応により外部に水素を供給する手順との一例を、図2に基づいて簡単に説明する。
デカリン混合物の脱水素反応により水素を外部に供給する場合には、まず、反応装置4内のヒーター43に通電して触媒41の温度を350℃前後に調整しながら、バルブ32を開くと共に、コンプレッサ(ポンプ)31を作動させて、デカリン混合物貯蔵手段2内のデカリン混合物を反応装置4に所定量供給し、噴射ノズル42より触媒41に向けてデカリン混合物を噴射させる。噴射終了後は、コンプレッサ(ポンプ)31の作動を停止させると共に、バルブ32を閉じる。
【0113】
このとき、脱水素反応に伴なって気体状のナフタレン混合物と水素が生成するが、生成したナフタレン混合物は、気液分離手段5の蒸気凝縮部51で冷却されて液状となり、反応物回収装置(C)に移動して反応物回収手段(C)内に蓄えられる。一方、生成した水素は、一旦反応物回収手段(C)に入り、気液分離手段5の水素抽出部52から配管91、センサ93を経由して、外部に移動する。
【0114】
11.2 反応圧力
水素供給システムにおけるデカリン混合物脱水素化反応時の水素分圧は、通常は0.1〜50気圧、好ましくは0.1〜10気圧、より好ましくは0.5〜5気圧である。脱水素化反応時は、上記水素分圧範囲内の低圧側が好ましい。
【0115】
12.金属担持触媒
本発明で使用される金属担持触媒は、デカリン混合物の脱水素反応を促進する機能をもつものであり、下記の担体に金属を担持させて得られたものである。
【0116】
担持される金属としては、ニッケル、パラジウム、白金、バナジウム、クロム、コバルト、鉄、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルト等の貴金属類等が挙げられるが、これらは単一であっても2種以上併用してもよい。その内、白金、タングステン、レニウム、モリブデン、ロジウム、バナジウム、ルテニウムは、活性、安定性、取り扱い性等の面から特に好ましい。
【0117】
金属担持触媒における金属の担持率は、担体に対して通常0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜20質量%である。また、2種以上の金属を用いる複合金属系触媒の場合は、主金属成分M1に対して添加金属M2の添加量が、M2/M1原子数比で0.001〜10、特に、0.01〜5であることが好ましい。なお、M1及びM2は、各々以下に示す金属である。
M1:白金、パラジウム、クロム。
M2:イリジウム、レニウム、ニッケル、モリブデン、タングステン、ロジウム、ルテニウム、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルト、鉄。
【0118】
一方、触媒金属を担持する炭素系材料及び無機系材料の担体としては、公知の担体ならば特に限定されないが、例えば、炭素系材料としては、活性炭、カーボンナノチューブ、グラファイト等を用いるのが好ましく、また、無機系材料としては、モレキュラーシーブス、ゼオライト等の多孔質担体、シリカゲル、又はアルミナ等あるいは金属多孔質体等を用いるのが好ましい。
【0119】
上記金属担持触媒の形状は、特に限定されず、顆粒状、シート状、織布状、ハニカム状、メッシュ状、ポーラス状等、使用形態に合わせて適宜選択される。
【0120】
本発明に係る水素供給システムでは、金属担持触媒の触媒金属を担持する担体は、水素の供給を行う脱水素反応であるので、炭素系材料であることが好ましい。
このような担体を選択することにより、脱水素反応においてデカリン混合物は、その化学的な構造から、分子としての極性は非常に小さいため、活性炭等の炭素系材料のような極性の小さい担体には、親和性が大きく、吸着しやすくなり、触媒金属近傍に存在しやすくなって、反応が容易に進行する。
【0121】
13.水素貯蔵システム(E)の具体的な構成
本発明において使用する水素貯蔵システム(E)は、上記の水素供給システム(A)を転換したシステムを使用することができる。
水素供給システムを水素貯蔵システムに転換(転用)するには、下記の様にすればよい。実質的には、ハードウエアは、そのまま改造しないで使用でき、機器の名前を変えただけである。
【0122】
すなわち、(a)水素供給体を収納する原料貯蔵手段を、水素貯蔵体を収納する原料貯蔵手段に、(b)水素供給体の脱水素反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置を、水素貯蔵体の水素化反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置に、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段はそのままとし、(d)原料貯蔵手段内の水素供給体を反応装置へ供給する水素供給体供給手段を、原料貯蔵手段内の水素貯蔵体を反応装置へ供給する水素貯蔵体供給手段に、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて水素と脱水素体に分離する気液分離手段を、反応装置からの生成気体を凝集させて水素と水素供給体に分離する気液分離手段に、(f)分離した脱水素体を回収する反応物回収手段を、分離した水素供給体を回収する反応物回収手段に転換し、更に水素貯蔵タンクと水素供給パイプを追加して設置すればよい。
【0123】
また、水素供給システムにおける原料のデカリン混合物を、水素貯蔵システムにおいては、ナフタレン混合物に置換し、シリカゲルやアルミナ担体に、白金やニッケルを担持させた触媒を用い、反応温度を60〜200℃程度に下げ、反応圧力は50〜100気圧程度に上げることによって、デカリン混合物からなる水素供給体を製造することができる。
【0124】
【実施例】
以下に、本発明の水素自動車用水素ステーションシステムに関して、実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0125】
[水素供給用(脱水素反応用)金属担持触媒Aの調製]
主担持金属用として、1.328gの塩化白金酸6水和物を蒸留水200mlに溶かした水溶液を作製した。
この水溶液に担体として4.45gの活性炭を浸漬させて十分に攪拌し、一夜放置させた後、活性炭を混合液の中から取り出し、十分に水洗した後、乾燥させた。
そして、この乾燥活性炭を窒素気流下400℃で加熱して付着した塩分を十分に分解させ、さらに、約400ml/分の流量の水素気流下350℃で4時間加熱し担持金属を還元・活性化させて、約5gの水素供給用金属担持触媒Aを調製した。調製された金属担持触媒Aにおける主担持金属の白金の含有量は、10質量%であった。
【0126】
[水素貯蔵用(水素添加反応用)金属担持触媒Bの調製]
主担持金属用として、1.328gの塩化白金酸6水和物を蒸留水200mlに溶かした水溶液を作製した。
この水溶液に担体として4.45gのアルミナを浸漬させて十分に攪拌し、一夜放置させた後、アルミナを混合液の中から取り出し、十分に水洗した後、乾燥させた。
そして、この乾燥アルミナを窒素気流下400℃で加熱して付着した塩分を十分に分解させ、さらに、約400ml/分の流量の水素気流下350℃で4時間加熱し担持金属を還元・活性化させて、約5gの水素貯蔵用金属担持触媒Bを調製した。調製された金属担持触媒Bにおける主担持金属の白金の含有量は、10質量%であった。
【0127】
[水素発生試験]
図2に示す装置で、反応容器部分のみを複数設けたものを用いて実験を行った。金属担持触媒としては、活性炭に10質量%の白金を担持させたハニカムシート状のもの(触媒A)を複数用いた。触媒の総量は50gとし、次の要領でデカリン:1−メチルデカリン異性体の1:1(体積比)混合物の脱水素反応を行わせ水素とナフタレン:1−メチルナフタレンの1:1(体積比)混合物を得た。
図2に示す装置の反応装置4に、金属担持触媒として上記触媒Aを収納し、この触媒Aを350℃に加熱して、原料としてのデカリン:1−メチルデカリン異性体の1:1(体積比)混合物を反応容器1つあたりで、1回あたり2mlの割合で触媒に噴射して水素発生を行わせた。原料の噴射時間と停止時間をそれぞれ1秒、5秒として1分間あたりの水素発生量を測定した結果、水素生成速度は全量で100L/分であった。
【0128】
[実施例1]
図2に示す水素供給システムと、図4に示す水素スタンドからなる水素自動車用水素ステーションシステムを構築した。
水素供給システムを稼動し、上記の水素発生試験に示すように、100L/分の水素生成速度で水素を発生させ、水素スタンドにパイプで輸送した。
水素スタンドにおいて図4(B)に示す装置により、水素を水素吸蔵合金に吸蔵させた。この水素吸蔵合金に吸蔵させた水素を、ボンベを加熱することにより放出させ計量ポンプを経由して水素自動車の水素ボンベに供給した。
【0129】
[水素貯蔵実験]
図2に示す装置を工場地帯に建設し、その複数設けた反応装置4に、金属担持触媒として上記触媒Bを収納し、この触媒Bを200℃に加熱し、水素加圧(2MPa)下で、原料としての上記の水素供給システムで得られたナフタレン:1−メチルナフタレンの1:1(体積比)混合物を、タンクローリーで輸送したものを反応容器1つあたりで、1回あたり2mlの割合で触媒に噴射して水素貯蔵を行わせた。原料の噴射時間と停止時間をそれぞれ1秒、5秒として1分間あたりの水素貯蔵量を測定した結果、水素貯蔵速度は全量で100L/分であった。ナフタレン:1−メチルナフタレンの1:1(体積比)混合物から、デカリン:1−メチルデカリンの1;1(体積比)混合物が得られ、流動性は十分あり、これを水素供給体としてタンクローリーで山間部の水素供給システムに輸送した。
なお、水素は、石油精製工場で副生した水素を利用した。
【0130】
[メタンからの芳香族化合物と水素の合成実験]
パラレニウム酸アンモニウム、ニ塩化コバルト、三塩化鉄を蒸留水に溶解し、シリカ/アルミナ比が40、表面積が900m2/g、細孔径が5.8×6.0Åのゼオライト担体に含浸させ、酸素ガス雰囲気で380℃で1.5時間、焼成し金属担持触媒を得た。
この触媒0.5gを固定床流通式反応装置の石英製反応管(内径10mm)に充填し、反応温度700℃、3気圧で、メタンに対し2%炭酸ガスを添加した反応ガスを30ml/minの流量で提供し、ベンゼン、ナフタレン及び水素を得た。100分経過後のメタン転化率は13.5%、選択率はベンゼン88.7%、ナフタレン4.8%、ベンゼン生成速度2150(nmol/g−cat/g)、水素生成速度3120(nmol/g−cat/g)であった。
ここで、得られたベンゼン、ナフタレンおよび水素を水素貯蔵システムに輸送し、水素供給体の原料として使用した。
【0131】
【発明の効果】
以上のように、本発明の水素ステーションシステムは、離島や山間部の様な、遠隔地において、水素を動力源として走行する水素自動車、あるいは工場、コンビニ、病院、又は家屋等の定地施設に、低コストで安定的に水素を供給することが可能となる効果があり、また、従来のガソリン、LPG、軽油等を燃料とする自動車の、炭酸ガス、窒素酸化物、炭素微粒子等の発生による、地球温暖化、森林枯死、呼吸器疾患、建築構造物の汚染等様々な弊害を解決できる効果がある。
更に、本発明における水素供給システムや水素貯蔵システムは、水素の取り出しに、二酸化炭素の発生を伴わないため、環境への影響は非常に小さく、芳香族化合物とその水素化誘導体の間で、水素の出し入れができるため、消費されるのは水素だけで、環境に優しい。
さらに、製鉄工場、ソーダ電解工場、石油精製工場等から発生する水素は、現在、輸送・保管に難があるため、ほとんど有効利用されていないが、この水素を有効利用することができる等の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の水素ステーションシステムの構成を模式的に示す説明図である。
なお、(A)は、各構成要素のブロック図、(B)は、各構成要素に対応する化合物及びその移動方向を示す。
【図2】本発明に係る水素供給システム(水素貯蔵システムに転用可能)の構成を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明に係る他の水素供給システム(水素貯蔵システムに転用可能)の構成を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明に係る水素スタンドの構成を模式的に示す説明図である。
なお、(A)は、水素を液体水素としてボンベに貯蔵する場合、(B)は、水素を水素吸蔵合金充填ボンベに貯蔵する場合、(C)は高圧水素ボンベに貯蔵する場合を示す。
【符号の説明】
1 水素貯蔵・供給システムの全体
2 原料貯蔵手段
3 原料供給手段
31 コンプレッサ(ポンプ)
32 バルブ
4 反応装置
41 触媒
42 噴射ノズル
43 ヒーター
44 ヒーター格納部
45 熱電対
5 気液分離手段
51 蒸気凝縮部
52 水素抽出部
6 バルブ
7 バルブ
8 反応物回収手段
91 水素送出ライン
92 バルブ
93 センサ
10 制御手段
Claims (11)
- 水素を需要先に供給するための水素ステーションシステムであって、該システムは、
(A)デカリンと1−メチルデカリンとの混合物からなる水素供給体の脱水素反応を利用して水素を取り出す水素供給システム、
(B)取り出された水素を需要先に供給する水素スタンドシステム、
(C)(A)で生成するナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物からなる芳香族化合物を分離回収し、貯蔵する芳香族化合物の貯蔵システム、及び
(D)水素を(A)より(B)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする水素ステーションシステム。 - 該システムは、さらに、
(E)ナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合物からなる水素貯蔵体の水素化反応を利用して、水素供給体を取り出す水素貯蔵システム、
(F)芳香族化合物を(C)より(E)へ輸送するシステム、及び
(G)(E)で生成する水素供給体を(A)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする請求項1に記載の水素ステーションシステム。 - 前記水素貯蔵システム(E)の水素化反応に用いられる水素は、下記から選ばれる少なくとも1種の水素であることを特徴とする請求項2に記載の水素ステーションシステム。
(E−1) 製鉄工業の排出ガス中に含まれる水素
(E−2) ソーダ電解工業より発生する水素
(E−3) 石油精製工業より発生する水素
(E−4) アンモニア製造工場の余剰水素
(E−5) 自然エネルギーによる電力で水を電気分解して得られる水素
(E−6) 太陽光による触媒反応で水を直接水素と酸素に分解する反応により得られる水素 - 該システムは、さらに、
(H)水素貯蔵システム(E)に用いられる芳香族化合物を天然ガス(メタン)より直接製造するシステム、
(I)(H)で生成する芳香族化合物を(E)へ輸送するシステム、及び
(J)(H)で発生する水素を(E)へ輸送するシステム
を含むことを特徴とする請求項2に記載の水素ステーションシステム。 - 前記水素スタンドシステム(B)は、(B−1)(A)より取り出した水素を貯蔵するための水素貯蔵手段と、(B−2)水素自動車に水素を供給するための水素計量供給手段と、(B−3)水素自動車を停留させるための停留手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の水素ステーションシステム。
- 前記水素供給システム(A)の脱水素反応に用いられるデカリンと1−メチルデカリンとの混合物中におけるデカリンの含有割合は、1−メチルデカリン100体積部に対して20〜2000体積部であることを特徴とする請求項1に記載の水素ステーションシステム。
- 前記水素供給システム(A)の脱水素反応に用いられるデカリンと1−メチルデカリンとの混合物は、さらに、水素化芳香族化合物類の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1又は6に記載の水素ステーションシステム。
- 上記水素化芳香族化合物類の含有割合は、デカリンと1−メチルデカリンとの混合物100体積部に対して、0.1〜100体積部であることを特徴とする請求項7に記載の水素ステーションシステム。
- 前記水素供給システム(A)は、(a)水素供給体を収納する原料貯蔵手段と、(b)水素供給体の脱水素反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置と、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段と、(d)原料貯蔵手段内の水素供給体を反応装置へ供給する水素供給体供給手段と、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて水素と脱水素体に分離する気液分離手段と、(f)分離した脱水素体を回収する反応物回収手段とからなることを特徴とする請求項1に記載の水素ステーションシステム。
- 前記水素貯蔵システム(E)は、(a)水素貯蔵体を収納する原料貯蔵手段と、(b)水素貯蔵体の水素化反応を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置と、(c)金属担持触媒を加熱する加熱手段と、(d)原料貯蔵手段内の水素貯蔵体を反応装置へ供給する水素貯蔵体供給手段と、(e)反応装置からの生成気体を凝集させて未反応水素と該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体に分離する気液分離手段と、(f)分離した水素供給体を回収する反応物回収手段とからなることを特徴とする請求項2に記載の水素ステーションシステム。
- 上記金属担持触媒は、担持金属が、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルト、又は鉄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、一方、担持金属を担持する担体が、活性炭、カーボンナノチューブ、モレキュラシーブ、ゼオライト、シリカゲル、又はアルミナ若しくは金属の多孔質体から選ばれるいずれか1種の化合物であることを特徴とする請求項9又は10に記載の水素ステーションシステム。
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JP2005350299A (ja) * | 2004-06-10 | 2005-12-22 | Hitachi Ltd | 水素燃料製造システム,水素燃料製造方法および水素燃料製造プログラム |
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-
2003
- 2003-04-22 JP JP2003117542A patent/JP2004084933A/ja active Pending
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