JP2004084037A - 表面処理方法、金属部品および時計 - Google Patents
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Abstract
【課題】美的外観に優れた銀色の色彩を有し、耐食性に優れた金属部品を提供すること、前記金属部品を製造することができる表面処理方法を提供すること、また、前記金属部品を有する時計を提供すること。
【解決手段】本発明の表面処理方法は、基材21の表面の少なくとも一部(3a)に、下地層23を形成する工程(3b)と、下地層23の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Cを得る工程(3c)と、Ag層22の表面の少なくとも一部に、めっき法により、Al層3を形成する工程(3d)と、Al層3に対して封孔処理を行う工程とを有する。Al層3に対する封孔処理は、Al層3が形成された金属部材2Cを、熱水中に浸漬することにより行う。前記熱水の温度は、85℃以上であるのが好ましい。
【選択図】図5
【解決手段】本発明の表面処理方法は、基材21の表面の少なくとも一部(3a)に、下地層23を形成する工程(3b)と、下地層23の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Cを得る工程(3c)と、Ag層22の表面の少なくとも一部に、めっき法により、Al層3を形成する工程(3d)と、Al層3に対して封孔処理を行う工程とを有する。Al層3に対する封孔処理は、Al層3が形成された金属部材2Cを、熱水中に浸漬することにより行う。前記熱水の温度は、85℃以上であるのが好ましい。
【選択図】図5
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面処理方法、金属部品および時計に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属部品、特に時計用外装部品のような装飾品には、優れた美的外観が要求される。銀(Ag)は、美しく、高級感溢れる外観を有することから、装飾品に好んで用いられている。
しかしながら、銀は、硫黄との親和性が極めて強く、大気中に長期間放置すると、大気中の酸素と反応して酸化銀を生成し、あるいは、大気中に存在する微量の硫黄化合物と反応して硫化銀または硫酸銀を生成し、次第に変色して美的外観を損ねてしまう。
そこで、耐食性の付与、および銀の変色防止を目的として、銀の表面に、ニッケル、ロジウムで構成された薄膜を形成する方法等が検討されている。しかしながら、ニッケルやロジウムは、銀(Ag)とは色調が異なり、銀(Ag)特有の高級感を表現するのが困難であり、特に、ニッケルでは、十分な耐食性の向上を実現するのが困難である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、美的外観に優れた銀色の色彩を有し、耐食性に優れた金属部品を提供すること、前記金属部品を製造することができる表面処理方法を提供すること、前記金属部品を備えた時計を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(24)の本発明により達成される。
【0005】
(1) 少なくとも表面付近がAgを主とする材料で構成された金属部材の表面に、主としてAlで構成されたAl層をめっき法により形成することを特徴とする表面処理方法。
(2) 前記金属部材は、基材と、主としてAgで構成されたAg層とを有するものであり、
前記Al層を形成するのに先立ち、前記基材の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層を形成する工程を有し、
前記Ag層の表面に前記Al層を形成する上記(1)に記載の表面処理方法。
【0006】
(3) 基材の表面の少なくとも一部に主としてAgで構成されたAg層を形成することにより金属部材を製造する工程と、前記金属部材の表面に、主としてAlで構成されたAl層をめっき法により形成する工程とを有することを特徴とする表面処理方法。
(4) 前記金属部材は、基材と、下地層と、主としてAgで構成されたAg層とを有するものであり、
前記Al層を形成するのに先立ち、前記基材の表面の少なくとも一部に下地層を形成する工程と、前記下地層の表面の少なくとも一部に前記Ag層を形成する工程とを有し、
前記Ag層の表面に前記Al層を形成する上記(1)に記載の表面処理方法。
【0007】
(5) 基材の表面に下地層を形成する工程と、前記下地層の表面に主としてAgで構成されたAg層を形成することにより金属部材を製造する工程と、前記Ag層の表面に主としてAlで構成されたAl層をめっき法により形成する工程とを有することを特徴とする表面処理方法。
【0008】
(6) 電解めっきにより前記Ag層を形成する上記(2)ないし(5)のいずれかに記載の表面処理方法。
(7) 前記Al層を形成する工程の後に、前記Al層の表面に、主として有機材料で構成された被覆層を形成する工程を有する上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の表面処理方法。
(8) 塗布法により、前記被覆層を形成する上記(7)に記載の表面処理方法。
(9) 前記被覆層は、アクリル系材料、ウレタン系材料、セルロース系材料のうち少なくとも1種を含む材料で構成されたものである上記(7)または(8)に記載の表面処理方法。
(10) 前記Al層を電解めっきにより形成する上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の表面処理方法。
(11) 前記Al層を形成した後、当該Al層に封孔処理を施す上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の表面処理方法。
(12) 前記封孔処理は、前記Al層が形成された前記金属部材を、熱水中に浸漬することにより行う上記(11)に記載の表面処理方法。
【0009】
(13) 上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の表面処理方法を用いて製造されたことを特徴とする金属部品。
(14) 少なくとも表面付近がAgを主とする材料で構成された金属部材と、
めっき法により形成され、主としてAlで構成されたAl層とを有することを特徴とする金属部品。
【0010】
(15) 前記金属部材は、基材と、主としてAgで構成されたAg層とを有するものである上記(14)に記載の金属部品。
(16) 前記金属部材は、前記基材と、前記Ag層との間に、下地層を有するものである上記(15)に記載の金属部品。
(17) 前記Al層の、前記金属部材と接触するのとは反対側の面側に、主として有機材料で構成された被覆層を有する上記(14)ないし(16)のいずれかに記載の金属部品。
(18) 前記被覆層は、主として、アクリル系材料および/またはセルロース系材料で構成されたものである上記(17)に記載の金属部品。
(19) 前記Al層に対して封孔処理を施した上記(14)ないし(18)のいずれかに記載の金属部品。
(20) 前記封孔処理は、前記Al層が形成された前記金属部材を、熱水中に浸漬することにより行われたものである上記(19)に記載の金属部品。
【0011】
(21) 前記Al層が形成された部位の表面の色彩は、JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、a*が−0.7〜0.7であり、かつ、b*が0〜5.2の範囲内である上記(13)ないし(20)のいずれかに記載の金属部品。
(22) 装飾品として用いられる上記(13)ないし(21)のいずれかに記載の金属部品。
(23) 時計の文字盤である上記(13)ないし(22)のいずれかに記載の金属部品。
(24) 上記(13)ないし(23)のいずれかに記載の金属部品を有することを特徴とする時計。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の表面処理方法、金属部品および時計の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の表面処理方法の第1実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の表面処理方法は、Agを主とする材料で構成された金属部材2Aの表面の少なくとも一部(1a)に、めっき法により、主としてAlで構成されたAl層3を形成する工程(1b)を有する。
【0013】
[金属部材2A]
金属部材2Aは、Agを主とする材料で構成されたものである。金属部材2Aは、実質的にAgのみで構成されるものであってもよいし、Ag以外の成分を所定量含むものであってもよい。Ag以外の成分を含むものである場合、金属部材2A中に占めるAgの割合は、80wt%以上であるのが好ましく、95wt%以上であるのがより好ましい。Agの割合が80wt%未満であると、最終的に得られる金属部品1Aにおいて、Ag特有の高級感のある色彩や、化学的特性、物理的特性が十分に発揮されない場合がある。金属部材2Aの組成は、各部位で一定のものであってもよいし、各部位で異なるものであってもよい。
【0014】
金属部材2Aの製造方法は、特に限定されず、例えば、プレス加工、切削加工、鍛造加工、鋳造加工、粉末冶金焼結、金属粉末射出成形(MIM)、ロストワックス法等が挙げられる。この中でも特に、鋳造加工または金属粉末射出成形(MIM)が好ましい。鋳造加工、金属粉末射出成形(MIM)は、特に、加工性に優れている。このため、これらの方法を用いた場合、複雑な形状の金属部材2Aを比較的容易に得ることができる。
【0015】
金属粉末射出成形(MIM)は、通常、以下のようにして行われる。まず、金属粉と有機バインダーとを含む材料を混合、混練して混練物を得る。次に、この混練物を射出成形することにより成形体を形成する。その後、この成形体に対して、脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。この脱脂処理は、通常、減圧条件下で、加熱することにより行われる。さらに、得られた脱脂体を焼結することにより、焼結体を得る。この焼結処理は、通常、前記脱脂処理より高温で加熱することにより行われる。本発明では、以上のようにして得られる焼結体を金属部材2Aとして用いることができる。
【0016】
また、金属部材2Aの表面に対しては、例えば、鏡面加工、スジ目加工、梨地加工等の表面加工を施してもよい。これにより、得られる金属部品1Aの表面の光沢具合にバリエーションを持たせることが可能となり、得られる金属部品1Aを装飾品として用いる場合に、その装飾性をさらに向上させることができる。
【0017】
また、金属部材2AとAl層3との密着性の向上等を目的として、後述するAl層3の形成に先立ち、金属部材2Aに対して、前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、ブラスト処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗、有機溶剤洗浄、ボンバード処理等の清浄化処理、エッチング処理等が挙げられるが、この中でも特に、清浄化処理が好ましい。金属部材2Aの表面に、清浄化処理を施すことにより、金属部材2AとAl層3との密着性が特に優れたものとなる。
【0018】
[Al層3の形成]
金属部材2Aの表面に、Al層3を形成する(1b)。本発明は、主としてAlで構成されたAl層3を形成するという点に特徴を有する。Al層3を形成することにより、銀に特有の色彩を生かしつつ、長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性に優れた金属部品1Aを得ることができる。その結果、銀の酸化や硫化が抑えられ、該化学反応による銀の変色がなく、美的外観に優れた金属部品1Aを得ることができる。また、Al層3を形成することにより、金属部品1Aは、十分な耐食性、耐久性を有するものとなる。また、金属部品1Aは、十分な耐食性、耐久性を有し、長期間にわたって、Agに特有の白っぽい銀色の色彩を保持することができるため、暗い場所等においても、視認しやすい状態を長期間にわたって維持することができる。
【0019】
また、本発明は、このようなAl層3を、めっき法により形成する点に特徴を有する。めっき法を用いてAl層3を形成することにより、均質で、かつ金属部材2Aとの密着性に優れたAl層3を容易に形成することができる。このように、金属部材2AとAl層3との密着性が優れたものとなるため、得られる金属部品1Aの耐久性は、特に優れたものとなる。
【0020】
めっき法としては、例えば、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、真空蒸着、スパッタリング、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、イオンプレーティング等の乾式めっき法等が挙げられる。
【0021】
この中でも特に、湿式めっきが好ましく、電解めっきがより好ましい。Al層3の形成方法として、湿式めっき法を用いることにより、金属部材2Aとの密着性に特に優れるAl層3を、比較的簡易な装置、方法で、形成することができる。その結果、得られる金属部品1Aの長期耐久性は、特に優れたものとなる。
【0022】
特に、めっき法として、電解めっきを用いた場合、上記のような効果がさらに顕著になる。また、めっき法として、電解めっきを用いた場合、めっき液組成、めっき液温度(浴温)、電流密度、めっき時間等のめっき条件を容易に制御することができ、これにより、形成されるAl層3の膜厚、組成等を容易に調節することができる。その結果、例えば、金属部品1Aの色彩や、耐食性等の物性を容易に調節することができる。
【0023】
電解めっきは、例えば、以下のような条件で行うのが好ましい。
電解めっき時における浴温は、特に限定されないが、20〜40℃であるのが好ましく、25〜35℃であるのがより好ましい。浴温が、前記下限値未満であると、Alの析出効率が低下し、形成されるAl層3の光沢が低下する傾向を示す。一方、浴温が、前記上限値を超えると、形成されるAl層3の色彩にムラを生じたり、クモリを生じ易くなる。
【0024】
また、電解めっき時における電流密度は、特に限定されないが、0.01〜0.05A/dm2であるのが好ましく、0.01〜0.03A/dm2であるのがより好ましい。電流密度が、前記下限値未満であると、Al層3の形成に要する時間が長くなり、金属部品1Aの生産性が低下する。一方、電流密度が、前記上限値を超えると、いわゆる、クモリ、カブリといった光沢不良を生じる場合がある。
【0025】
電解めっきに用いるめっき液中におけるAlの濃度は、特に限定されないが、5〜20[g/リットル]であるのが好ましく、10〜15[g/リットル]であるのがより好ましい。めっき液中におけるAlの濃度が前記下限値未満であると、形成されるAl層3の硬度が低下する傾向を示す。一方、めっき液中におけるAlの濃度が前記上限値を超えると、Alの析出効率が低下する傾向を示す。
【0026】
めっき液中に含まれるアルミニウム化合物としては、例えば、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム等が挙げられるが、この中でも、硫酸アルミニウムが好ましい。アルミニウム化合物として硫酸アルミニウムを用いることにより、長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性により優れたAl層3を形成することができる。
【0027】
めっき法により形成されるAl層3の平均厚さは、特に限定されないが、1〜50nmであるのが好ましく、5〜10nmであるのがより好ましい。Al層3の平均厚さが前記下限値未満であると、Al層3にピンホールが発生し易くなり、本発明の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、Al層3の平均厚さが前記上限値を超えると、Al層3の内部応力が高くなり、Al層3と金属部材2Aとの密着性が低下したり、Ag特有の色彩を保持するのが困難になる場合がある。
【0028】
なお、Al層3は、図示の構成では金属部材2Aの全面に形成されているが、金属部材2Aの表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。
また、Al層3の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、Al層3は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。また、Al層3は、例えば、組成の異なる複数の層の積層体であってもよい。
また、Al層3と、金属部材2Aとの境界は、必ずしも、図示のように明確なものでなくてもよい。
【0029】
さらに、本発明では、Al層3に対して封孔処理を行うのが好ましい。封孔処理を行うことにより、Al層3中に存在する微細孔が閉塞、充填される。その結果、金属部品1Aの長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性をさらに向上することができる。
【0030】
この封孔処理は、熱水からなる封孔浴中に、Al層3が形成された金属部材2Aを浸漬することにより行う。Al層3が形成された金属部材2Aを熱水中に浸漬することで以下に示すような反応が起こり、これによりAl層3中の微細孔が閉塞、充填されると考えられる。
AlO+H2O → AlO(OH) → AlO・H2O
また、封孔処理を加圧下で行ってもよい。封孔処理を加圧下で行うことにより、封孔浴である熱水の温度を、常圧下での沸点以上に熱水の温度を上げることができ、耐食性向上の効果がより大きいものとなる。
【0031】
熱水の温度は、常圧付近の圧力雰囲気下においては、85℃以上であるのが好ましく、90℃以上であるのがより好ましい。熱水の温度が85℃未満であると、封孔処理の効果が十分に得られない場合がある。
また、熱水への浸漬時間は、0.5〜5分間であるのが好ましく、1〜2分間であるのがより好ましい。熱水への浸漬時間が前記下限値未満であると、封孔処理の効果が十分に得られない場合がある。一方、熱水への浸漬時間が前記上限値を超えると、封孔処理による効果のさらなる向上を図るのが困難となり、また、金属部品1Aの生産性が低下する。
【0032】
以上説明したような表面処理方法により、金属部品1Aが得られる。このようにして得られる本発明の金属部品1Aは、長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性に優れ、酸化や硫化に起因する銀の変色が起こり難く、優れた外観を長期間にわたって保持することができる。
【0033】
このようにして得られる本発明の金属部品1Aは、長期間にわたって銀に特有の色彩を保持することができるため、装飾品として用いられるときに特に好適である。装飾品としては、装飾性を備えた物品であればいかなるものでもよいが、例えば、置物等のインテリア、エクステリア用品、宝飾品、時計ケース(胴、裏蓋等)、時計バンド、文字盤、時計用針等の時計用外装部品、ムーブメントの地板、歯車、輪列受け、回転錘等の時計用内装部品、メガネ、ネクタイピン、カフスボタン、指輪、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、ブローチ、ペンダント、イヤリング、ピアス等の装身具、ライターまたはそのケース、ゴルフクラブ等のスポーツ用品、銘板、パネル、賞杯、その他ハウジング等を含む各種機器部品、各種容器等が挙げられる。
【0034】
この中でも特に、時計用外装部品、具体的には文字盤として用いられることがより好ましい。文字盤のような時計用外装部品は、装飾品として、変色のない外観の美しさが要求されるとともに、実用品として、耐久性、耐食性等が要求されるが、本発明によればこれらの要件を全て満足することができる。
【0035】
このようにして得られる本発明の金属部品1Aは、JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、a*が−0.7〜0.7であり、かつ、b*が0〜5.2の範囲であるのが好ましい。このような条件を満足することにより、金属部品1Aを例えば装飾品として用いるような場合に、美的外観が特に優れたものとなり、高級感がさらに向上する。
【0036】
また、この金属部品1Aは、銀の酸化や硫化等の化学反応が防止されるため、前記化学反応に起因する抵抗変化等、電気的特性変化が起こらない。そのため、金属部品1Aは、電子部品として好適に用いることができる。
【0037】
また、本発明の時計は、上述したような本発明の金属部品を有するものである。上述したように、本発明の金属部品は、美的外観に優れた銀色の色彩を有し、耐食性に優れたものである。このため、このような金属部品を備えた本発明の時計は、時計としての求められる要件を十分に満足することができる。すなわち、本発明の時計は、特に優れた審美性を長期間にわたって保持することができる。また、変色を生じにくいため、視認しやすい状態を長期間にわたって維持することができる。また、金属部品1Aを電子部品として用いた場合、本発明の時計は、安定した電気的特性を長期間にわたって保持することができるため、電子機器としての信頼性に優れたものとなる。特に、本発明によれば、特別な気密構造を必要とすることなく、上記のような効果が得られる点に特徴を有する。なお、本発明の時計を構成する前記金属部品以外の部品としては、公知のものを用いることができる。
【0038】
次に本発明の表面処理方法、金属部品および時計の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明の表面処理方法の第2実施形態を示す断面図である。
以下、第2実施形態の表面処理方法および該方法を用いて製造される第2実施形態の金属部品、時計について、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
【0039】
図2に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材21の表面の少なくとも一部(2a)に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Bを得る工程(2b)と、金属部材2Bの表面の少なくとも一部に、めっき法により、主としてAlで構成されたAl層3を形成する工程(2c)とを有する。すなわち、Al層を形成する金属部材として、基材の表面にAg層を形成することにより得られるものを用いる以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0040】
[基材21]
基材21は、いかなる材料で構成されるものであってもよく、例えば、プラスチック等の非金属性の材料で構成されるものであっても、あるいは金属材料で構成されるものであってもよい。
基材21が金属材料で構成される場合、特に優れた強度特性を有する金属部品1Bを提供することができる。基材21が非金属材料で構成される場合、比較的軽量で携帯し易く、かつ、重厚な外観を有する金属部品1Bを提供することができる。
【0041】
また、基材21が非金属材料で構成される場合、比較的容易に、所望の形状に成形することができる。このため、直接成形するのが困難な形状の金属部品1Bであっても、比較的容易に提供することができる。また、基材21が非金属材料で構成される場合、電磁ノイズを遮蔽する効果も得られる。
【0042】
基材21を構成する金属材料としては、例えば、Fe、Cu、Zn、Ni、Mg、Cr、Mn、Mo、Nb、Al、V、Zr、Sn、Au、Pd、Pt、Ag等の各種金属や、これらのうち少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。この中でも特に、基材21が、Cu、Zn、Niまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金で構成されたものであると、金属部材2Bの加工性が向上し、金属部材2Bの成形の自由度がさらに増す。さらに、基材21はCu−Zn系合金、いわゆる真鍮で構成されることが好ましい。基材21を真鍮で構成することで、金属部材2Bの加工性がさらに向上し、金属部材2Bの成形の自由度がさらに増す。
【0043】
また、基材21が、主として、ステンレス鋼で構成されるものである場合、金属部材2Bの加工性が向上し、金属部材2Bの成形の自由度がさらに増す。なお、ステンレス鋼としては、Fe−Cr系合金、Fe−Cr−Ni系合金等が挙げられる。Fe−Cr−Ni系合金としては、例えば、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L等が挙げられ、Fe−Cr系合金としては、例えば、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F等が挙げられる。
【0044】
また、基材21を構成する非金属材料としては、例えば、プラスチックやセラミックス、石材、木材、ガラス等が挙げられる。
プラスチックとしては、各種熱可塑性樹脂、各種熱硬化性樹脂が挙げられる。基材21がプラスチックで構成される場合、比較的軽量で携帯し易く、かつ、重厚な外観を有する金属部品1Bを得ることができる。また、基材21がプラスチックで構成される場合、比較的容易に、所望の形状に成形することができる。このため、複雑な形状を有する金属部品1Bであっても、比較的容易に製造することができる。また、基材21がプラスチックで構成される場合、電磁ノイズを遮蔽する効果が得られる。
セラミックスとしては、例えば、Al2O3、SiO2、TiO2、Ti2O3、ZrO2、Y2O3、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の酸化物系セラミックス、AlN、Si3N4、SiN、TiN、BN、ZrN、HfN、VN、TaN、NbN、CrN、Cr2N等の窒化物系セラミックス、グラファイト、SiC、ZrC、Al4C3、CaC2、WC、TiC、HfC、VC、TaC、NbC等の炭化物系のセラミックス、ZrB2、MoB等のホウ化物系のセラミックス、あるいは、これらのうちの2以上を任意に組合せた複合セラミックスが挙げられる。基材21が前記のようなセラミックスで構成される場合、高強度、高硬度の金属部品1Bを得ることができる。
【0045】
基材21の製造方法は、特に限定されない。基材21が金属材料で構成される場合、その製造方法としては、例えば、プレス加工、切削加工、鍛造加工、鋳造加工、粉末冶金焼結、金属粉末射出成形(MIM)、ロストワックス法等が挙げられるが、この中でも特に、鋳造加工または金属粉末射出成形(MIM)が好ましい。鋳造加工、金属粉末射出成形(MIM)は、特に、加工性に優れている。このため、これらの方法を用いた場合、複雑な形状の基材21を比較的容易に得ることができる。
【0046】
また、基材21が前記のようなプラスチックで構成される場合、その製造方法としては、例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、光造形等が挙げられる。また、基材21が前記のようなセラミックスで構成される場合、その製造方法は、特に限定されないが、金属粉末射出成形(MIM)であるのが好ましい。金属粉末射出成形(MIM)は、特に、加工性に優れているため、複雑な形状の基材21を比較的容易に得ることができる。
【0047】
[Ag層22の形成(金属部材2Bの製造)]
基材21の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Bが得られる(2b)。
【0048】
Ag層22は、実質的にAgのみで構成されるものであってもよいし、Ag以外の成分を所定量含むものであってもよい。Ag以外の成分を含むものである場合、Ag層22中に占めるAgの割合は、80wt%以上であるのが好ましく、95wt%以上であるのがより好ましい。Agの割合が80wt%未満であると、最終的に得られる金属部品1Bにおいて、Ag特有の高級感のある色彩や、化学的特性、物理的特性が十分に発揮されない場合がある。
【0049】
Ag層22は、めっき法により形成するのが好ましい。めっき法を用いてAg層22を形成することにより、均質で、かつ基材21との密着性に優れたAg層22を容易に形成することができる。このように、基材21とAg層22との密着性が優れたものとなるため、得られる金属部品1Aの耐久性は、特に優れたものとなる。
【0050】
めっき法としては、例えば、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、真空蒸着、スパッタリング、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、イオンプレーティング等の乾式めっき法等が挙げられる。
【0051】
この中でも特に、湿式めっきが好ましく、電解めっきがより好ましい。Ag層22の形成方法として、湿式めっき法を用いることにより、基材21との密着性に特に優れるAg層22を、比較的簡易な装置、方法で、形成することができる。その結果、得られる金属部品1Aの長期耐久性は、特に優れたものとなる。
【0052】
特に、めっき法として、電解めっきを用いた場合、上記のような効果がさらに顕著になる。また、めっき法として、電解めっきを用いた場合、めっき液組成、めっき液温度(浴温)、電流密度、めっき時間等のめっき条件を容易に制御することができ、これにより、形成されるAg層22の膜厚、組成等を容易に調節することができる。その結果、例えば、金属部品1Aの色彩や、耐食性等の物性を容易に調節することができる。
【0053】
電解めっきは、例えば、以下のような条件で行うのが好ましい。
電解めっき時における浴温は、特に限定されないが、15〜30℃であるのが好ましく、16〜20℃であるのがより好ましい。浴温が、前記下限値未満であると、Agの析出効率が低下し、形成されるAg層22の光沢が低下する傾向を示す。一方、浴温が、前記上限値を超えると、形成されるAg層22が黄色味を帯びた色となる傾向を示し、最終的に得られる金属部品1Bの審美性が低下する場合がある。
【0054】
また、電解めっき時における電流密度は、特に限定されないが、0.5〜3A/dm2であるのが好ましく、0.5〜1A/dm2であるのがより好ましい。電流密度が、前記下限値未満であると、Ag層22の形成に要する時間が長くなり、金属部品1Aの生産性が低下する。一方、電流密度が、前記上限値を超えると、いわゆる、クモリ、カブリといった光沢不良を生じる場合がある。
【0055】
電解めっきに用いるめっき液中におけるAgの濃度は、特に限定されないが、5〜30[g/リットル]であるのが好ましく、10〜20[g/リットル]であるのがより好ましい。めっき液中におけるAgの濃度が前記下限値未満であると、Agの析出効率が低下し、金属部品1Bの生産性が低下する。一方、めっき液中におけるAgの濃度が前記上限値を超えると、形成されるAg層22が黄色味を帯びた色となる傾向を示し、最終的に得られる金属部品1Bの審美性が低下する場合がある。
【0056】
Ag層22の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜2μmであるのが好ましく、0.1〜0.5μmであるのがより好ましい。Ag層22の平均厚さが前記下限値未満であると、Ag層22にピンホールが発生し易くなる。一方、Ag層22の平均厚さが前記上限値を超えると、形成されるAg層22が黄色味を帯びた色となる傾向を示し、最終的に得られる金属部品1Bの審美性が低下する場合がある。
【0057】
なお、Ag層22は、図示の構成では基材21の全面に形成されているが、基材21の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。
また、Ag層22の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、Ag層22は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
また、Ag層22と、基材21との境界は、必ずしも、図示のように明確なものでなくてもよい。
【0058】
以上のようにして、基材21の少なくとも表面の一部にAg層22を有する金属部材2Bが得られる。
以上のようにして得られた金属部材2Bの表面に、前記第1実施形態と同様にして、Al層3を形成することにより金属部品1Bが得られる(2c)。
【0059】
次に、本発明の表面処理方法、金属部品および時計の第3実施形態について説明する。
図3は、本発明の表面処理方法の第3実施形態を示す断面図である。
以下、第3実施形態の表面処理方法および該方法を用いて製造される第3実施形態の金属部品、時計について、前記第1、第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
【0060】
図3に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材21の表面の少なくとも一部(3a)に、下地層23を形成する工程(3b)と、下地層23の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Cを得る工程(3c)と、Ag層の表面の少なくとも一部に、めっき法により、Al層3を形成する工程(3d)とを有する。すなわち、金属部材2Cの作製において、Ag層22の形成に先立ち、基材21の表面の少なくとも一部に、下地層23を形成する以外は、前述した第2実施形態と同様である。
以下、下地層23について詳細に説明する。
【0061】
[下地層23]
下地層23は、いかなる目的で形成するものであってもよいが、以下のような機能を有するものであるのが好ましい。
【0062】
下地層23は、例えば、基材21とAg層22との電位差を緩和する緩衝層として機能するものであるのが好ましい。これにより、基材21とAg層22との電位差による腐食(異種金属接触腐食)の発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0063】
また、下地層23は、例えば、基材21と、Ag層22との密着性を向上させる機能を有するものであるのが好ましい。このように、基材21と、Ag層22との密着性が向上することにより、金属部品1Cの耐食性がさらに優れたものとなる。その結果、金属部品1Cは、特に耐久性に優れたものとなる。
また、下地層23は、例えば、基材21の孔、キズ等をレベリング(ならし)により補修する機能等を有するものであってもよい。
【0064】
下地層23の形成方法としては、例えば、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、真空蒸着、スパッタリング、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、イオンプレーティング等の乾式めっき法、溶射、金属箔の接合等が挙げられるが、この中でも特に、湿式めっき法または乾式めっき法が好ましい。下地層23の形成方法として、湿式めっき法または乾式めっき法を用いることにより、形成される下地層23は、基材21との密着性に特に優れたものとなる。その結果、得られる金属部品1Cの長期耐久性は、特に優れたものとなる。
【0065】
また、下地層23は、例えば、基材21の表面に、酸化処理、窒化処理、クロメート処理、炭化処理、酸浸漬、酸電解処理、アルカリ浸漬処理、アルカリ電解処理等の化学処理を施すことにより形成された被膜、特に、不動態膜であってもよい。
【0066】
下地層23の構成材料は、特に限定されないが、Cu、Co、Pd、Au、Ag、In、Sn、Ni、Ti、Zn、Al、Fe、Cr、Pt、Rh、Ru、Ir等の金属材料や、前記金属材料のうち少なくとも1種を含む合金、前記金属材料のうち少なくとも1種による金属化合物(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等)、またはこれらを2種以上組み合わせたもの等が挙げられる。
【0067】
下地層23が、Cu、Co、Pd、Au、Ag、In、Sn、Ni、Ti、Zn、Al、Fe、Cr、Pt、Rh、Ru、Irまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金で構成されるものである場合、基材21とAg層22との電位差による腐食の発生を、さらに効果的に防止することができる。
【0068】
また、下地層23が上記のような材料で構成されたものである場合、基材21、Ag層22との密着性も向上する。このように、基材21と、Ag層22との密着性が向上することにより、金属部品1Cの耐食性がさらに優れたものとなる。その結果、金属部品1Bは、特に耐久性に優れたものとなる。
【0069】
また、下地層23が、Cu、Co、Pd、Au、Ag、In、Sn、Ni、Ti、Znまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金で構成されたものである場合、上述した効果はさらに顕著なものとなる。
【0070】
また、下地層23の構成材料は、基材21を構成する材料またはAg層22を構成する材料のうち少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。これにより、基材21と、Ag層22との密着性がさらに向上する。このように、基材と、Ag層との密着性が向上することにより、金属部品1Cの耐食性がさらに優れたものとなる。その結果、金属部品1Cは、特に耐久性に優れたものとなる。
【0071】
また、下地層23の標準電位は、基材21の標準電位と、Ag層22の標準電位との間の値であるのが好ましい。すなわち、下地層23は、その標準電位が、基材21の構成材料の標準電位と、Ag層22の構成材料の標準電位との間の値である材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、基材21とAg層22との電位差による腐食(異種金属接触腐食)の発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0072】
具体的に、例えば、基材21がCu−Zn系合金、いわゆる真鍮からなる場合、下地層23は、Niから構成されることが好ましい。下地層23をNiから構成することで、真鍮からなる基材21と、Ag層22との密着性が良好なものとなる。また、下地層23をNiから構成することで、真鍮からなる基材21とAg層22との電位差による腐食(異種金属接触腐食)の発生もより効果的に防止することができる。その結果、得られる金属部品1Cの耐食性、耐久性は特に優れたものとなる。
【0073】
下地層23の平均厚さは、例えば、0.5〜3μmであるのが好ましく、0.5〜1μmであるのがより好ましい。下地層23の平均厚さが前記下限値未満であると、上述した下地層23の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、下地層23の平均厚さが前記上限値を超えると、下地層23の各部位における膜厚のバラツキが大きくなる傾向を示す。また、基材21の表面形状(例えば、基材21表面に形成された模様)等を、最終的に得られる金属部品1Cの外観に十分に反映するのが困難となる。
【0074】
なお、下地層23は、図示の構成では基材21の全面に形成されているが、基材21の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。
また、下地層23の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、下地層23は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
また、下地層23と、基材21との境界は、必ずしも、図示のように明確なものでなくてもよい。
また、下地層23は、前記のような機能を有するものに限定されない。例えば、下地層23は、保管時(Ag層22の形成の工程までの間)等に腐食が発生するのを防止する機能等を有するものであってもよい。
【0075】
次に、本発明の表面処理方法、金属部品および時計の第4実施形態について説明する。
図4は、本発明の表面処理方法の第4実施形態を示す断面図である。
以下、第4実施形態の表面処理方法および該方法を用いて製造される第4実施形態の金属部品、時計について、前記第1〜第3実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
【0076】
図4に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材21の表面の少なくとも一部(4a)に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Bを得る工程(4b)と、Ag層の表面の少なくとも一部に、めっき法により、Al層3を形成する工程(4c)と、Al層3の表面の少なくとも一部に、被覆層4を形成する工程(4d)とを有する。すなわち、Al層3を形成する工程の後に、Al層3の表面の少なくとも一部に、被覆層4を形成する工程を有する以外は、前述した第2実施形態と同様である。
以下、被覆層4について詳細に説明する。
【0077】
[被覆層4]
Al層3の表面に形成する被覆層4は、主として有機材料で構成されたものである。このように、Al層3と被覆層4とを積層することにより、銀に特有の色彩を十分に生かしつつ、得られる金属部材1Dの長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性をさらに優れたものとすることができる。また、これにより、金属部品1Dは、極めて優れた耐食性、耐久性を有するものとなる。
【0078】
被覆層4の形成方法としては、例えば、ディッピング、ドクターブレード、スピンコート、刷毛塗り、スプレー塗装、ロールコーター等の各種塗布法、溶射法、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、真空蒸着、スパッタリング、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、イオンプレーティング等の乾式めっき法等が挙げられるが、この中でも、塗布法が好ましい。
【0079】
このような塗布法によれば、その操作は、極めて簡単であり、かつ、大掛かりな装置も必要としないので、金属部品1Dの製造コストの削減、製造時間の短縮に有利である。また、塗布法によれば、例えばマスキング等を用いることにより、所望のパターン形状の被覆層4を容易に得ることができる。
【0080】
被覆層4の構成材料は、被覆層4を形成したときの厚さにおいて、実質的に無色のものであれば特に限定されないが、アクリル系材料、ウレタン系材料、セルロース系材料のうち少なくとも1種を含む材料で構成されたものであるのが好ましく、主としてアクリル系材料、ウレタン系材料またはセルロース系材料で構成されたものであるのがより好ましい。被覆層4がこのような材料で構成されることにより、銀に特有の色彩を十分に生かしつつ、金属部品1Dの長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性をさらに優れたものにすることができる金属部品1Dを得ることができる。
【0081】
アクリル系材料としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの誘導体を含む重合体を用いることができる。
このような重合体の構成成分としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸メトキシエチル等のアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド等の官能基含有モノマーのほか、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。なお、アクリル系材料は、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの誘導体以外の構成成分(例えば、その他のモノマー成分)を含むものであってもよい。
【0082】
ウレタン系材料としては、例えば、ウレタン結合を有する重合体を用いることができる。ウレタン結合は、一般に、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを反応させることにより形成することができる。
ウレタン系材料を構成するポリオール成分としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリブタジエンポリオールおよび水添物、ポリイソプレンポリオールおよび水添物、フェノーリックポリオール、エポキシポリオール、ポリスルホンポリオール等が挙げられる。また、ポリオール成分としては、ポリエステル・ポリエーテルポリオールのような共重合体ポリオールを用いることもできる。
ウレタン系材料を構成するポリイソシアナート成分としては、例えば、トリレンジイソシアナート、水素化トリレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、メチレンビス(4−フェニルメタン)ジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート等の芳香族ジイソシアナート、脂肪族ジイソシアナート等が挙げられる。なお、ウレタン系材料は、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分以外の構成成分(例えば、その他のモノマー成分)を含むものであってもよい。
【0083】
セルロース系材料は、セルロース類を含む物である。なお、本明細書中で、セルロース類とは、セルロースのほか、各種のセルロース誘導体をも含む概念であり、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、トリチルセルロース、シアンエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、アミノエチルセルロース、オキシエチルセルロース等のセルロースエーテル、ニトロセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、アセチルセルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸酪酸セルロース等のセルロースエステル、ナトリウムセルロース、カリウムセルロース、リチウムセルロース等のアルカリセルロース、ヘミセルロースをも含む概念である。
【0084】
被覆層4の平均厚さは、特に限定されないが、5〜20μmであるのが好ましく、5〜15μmであるのがより好ましい。被覆層4の平均厚さが前記下限値未満であると、被覆層4にピンホールが発生し易くなり、本発明の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、被覆層4の平均厚さが前記上限値を超えると、被覆層4の内部応力が高くなり、被覆層4とAl層3との密着性が低下したり、クラックが発生し易くなるとともに、Ag特有の色彩を保持するのが困難になる場合がある。
【0085】
なお、被覆層4は、図示の構成ではAl層3の全面に形成されているが、Al層3の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。
また、被覆層4の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、被覆層4は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。また、被覆層4は、例えば、組成の異なる複数の層の積層体であってもよい。
【0086】
次に、本発明の表面処理方法、金属部品および時計の第5実施形態について説明する。
図5は、本発明の表面処理方法の第5実施形態を示す断面図である。
以下、第5実施形態の表面処理方法および該方法を用いて製造される第5実施形態の金属部品、時計について、前記第1〜第4実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
【0087】
図5に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材21の表面の少なくとも一部(5a)に、下地層23を形成する工程(5b)と、下地層23の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Cを得る工程(5c)と、Ag層の表面の少なくとも一部に、めっき法により、Al層3を形成する工程(5d)と、Al層3の表面の少なくとも一部に、被覆層4を形成する工程(5e)とを有する。すなわち、Al層3を形成する工程の後に、Al層3の表面の少なくとも一部に、被覆層4を形成する工程を有する以外は、前述した第3実施形態と同様である。
【0088】
このように、下地層23を形成する工程と、被覆層4を形成する工程とを有することにより、得られる金属部品1Eは、下地層23による利点と、被覆層4による利点とを併有することができ、金属部品として特に優れた機能を有するものになる。
【0089】
以上、本発明の表面処理方法、金属部品および時計の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、前述した第3実施形態においては、1層の下地層が形成された構成について説明したが、このような下地が2層以上形成されたものであってもよい。この場合、下地層の少なくとも1層がその片方の面側と他方の面側との電位差を緩和する作用を有するものであるのが好ましい。また、隣接する2つの下地層は、互いに共通の元素を含む材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、隣接する下地層の密着性は、特に優れたものとなる。
また、本発明による金属部品は、Agを主とする材料で構成された(実質的にAgのみで構成された)金属部材2Aの表面にAl層を有し、さらにその表面に、前述した被覆層が形成された構成のものであってもよい。すなわち、前述した第1実施形態の金属部品1Aの表面に被覆層を形成してもよい。これにより、銀に特有の色彩を十分に生かしつつ、得られる金属部材の長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性をさらに優れたものとすることができる。また、これにより、得られる金属部品は、極めて優れた耐食性、耐久性を有するものとなる。
また、金属部品の表面の少なくとも一部には、耐食性、耐光性、耐水性、耐油性、耐摩耗性、耐変色性等の機能を向上させ、防錆、防汚、防曇、防傷等の効果を向上する保護層等が形成されていてもよい。
【0090】
【実施例】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.金属部品の製造
(実施例1)
以下に示すような表面処理を施すことにより、金属部品(時計用文字盤)を製造した。
まず、JIS H 2141で規定される銀地金1種(Ag含有率:99.99%以上)を用いて、鋳造により、時計用文字盤の形状を有する金属部材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。次に、この金属部材を洗浄した。金属部材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を20秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、5wt%硫酸を用いた中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を5秒間行った。
【0091】
このようにして洗浄を行った金属部材の表面に、Al層を形成することにより、金属部品(時計用文字盤)を製造した。Al層の形成は、以下に説明するような電解めっきにより行った。
まず、Al2(SO4)3・nH2Oと、硫酸ニッケル(NiSO4)と、水とを用いて、めっき液を調製した。得られためっき液中における、Alの濃度CAlは15[g/リットル]であり、pHは3.5であった。このめっき液を用いて、浴温:30℃、電流密度:0.03A/dm2、時間:60秒間という条件で、電解めっきを行った。電解めっきにより形成されたAl層の平均厚さは、2nmであった。
【0092】
(実施例2)
Al層を形成した金属部材に対して封孔処理を行った以外は、実施例1と同様にして金属部品(時計用文字盤)を製造した。封孔処理は、大気圧雰囲気下、pHが6.8に調整された、温度が98℃の熱水中に、Al層を形成した金属部材を1分間浸漬することにより行った。
【0093】
(実施例3)
以下に示すような表面処理を施すことにより、金属部品(時計用文字盤)を製造した。
まず、Cu−Zn系合金(合金組成:Cu60wt%−Zn40wt%)を用いて、鋳造により、時計用文字盤の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を20秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、5wt%硫酸を用いた中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を5秒間行った。
【0094】
このようにして洗浄を行った基材の表面に、Ag層を形成し、金属部材を得た。Ag層の形成は、以下に説明するような電解めっきにより行った。
まず、シアン化銀カリウム(20g/リットル)と、シアン化ナトリウム(23g/リットル)と、炭酸ナトリウム(12g/リットル)と、水とを用いて、めっき液を調製した。得られためっき液中におけるAgの濃度CAgは10.8[g/リットル]であった。このめっき液を用いて、浴温:18℃、電流密度:0.5A/dm2、時間:20秒間という条件で、電解めっきを行った。電解めっきにより形成されたAg層の平均厚さは、0.2μmであった。
【0095】
このようにして洗浄を行った金属部材の表面に、Al層を形成することにより、金属部品(時計用文字盤)を得た。Al層の形成は、以下に説明するような電解めっきにより行った。
まず、Al2(SO4)3・nH2Oと、硫酸ニッケル(NiSO4)と、水とを用いて、めっき液を調製した。得られためっき液中における、Alの濃度CAlは15[g/リットル]であり、pHは3.5であった。このめっき液を用いて、浴温:30℃、電流密度:0.03A/dm2、時間:60秒間という条件で、電解めっきを行った。電解めっきにより形成されたAl層の平均厚さは、2nmであった。
【0096】
(実施例4)
Al層を形成した金属部材に対して封孔処理を行った以外は、実施例3と同様にして金属部品(時計用文字盤)を製造した。封孔処理は、大気圧雰囲気下、pHが6.8に調整された、温度が98℃の熱水中に、Al層を形成した金属部材を1分間浸漬することにより行った。
【0097】
(実施例5)
Ag層の形成に先立ち、基材の表面に、Niで構成される下地層を形成した以外は、実施例4と同様にして金属部品(時計用文字盤)を製造した。
【0098】
下地層の形成は、電解めっき(ストライクめっき)により、浴温:30℃、電流密度:2A/dm2、時間:1分間という条件で行った。このようにして形成された下地層の平均厚さは、0.5μmであった。
そして、下地層が形成された基材を洗浄した後、Ag層を形成した。この洗浄としては、まず、アルカリ浸漬脱脂を20秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を5秒間行った。
【0099】
(実施例6)
Al層を形成した金属部材に対して封孔処理を行った以外は、実施例5と同様にして金属部品(時計用文字盤)を製造した。封孔処理は、大気圧雰囲気下、pHが6.8に調整された、温度が98℃の熱水中に、Al層を形成した金属部材を1分間浸漬することにより行った。
【0100】
(比較例1)
JIS H 2141で規定される銀地金1種(Ag含有率:99.99%以上)を用いて、鋳造により、時計用文字盤の形状を有する金属部材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨することにより、金属部品(時計用文字盤)を得た。
【0101】
(比較例2)
まず、Cu−Zn系合金(合金組成:Cu60wt%−Zn40wt%)を用いて、鋳造により、時計用文字盤の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を20秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、5wt%硫酸を用いた中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を5秒間行った。
【0102】
このようにして洗浄を行った基材の表面に、Ag層を形成することにより、金属部品(時計用文字盤)を製造した。Ag層の形成は、以下に説明するような電解めっきにより行った。
まず、シアン化銀カリウム(20g/リットル)と、シアン化ナトリウム(23g/リットル)と、炭酸ナトリウム(12g/リットル)と、水とを用いて、めっき液を調製した。得られためっき液中におけるAgの濃度CAgは10.8[g/リットル]であった。このめっき液を用いて、浴温:18℃、電流密度:0.5A/dm2、時間:20秒間という条件で、電解めっきを行った。電解めっきにより形成されたAg層の平均厚さは、0.2μmであった。
【0103】
(比較例3)
まず、Cu−Zn系合金(合金組成:Cu60wt%−Zn40wt%)を用いて、鋳造により、時計用文字盤の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を20秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、5wt%硫酸を用いた中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を5秒間行った。
【0104】
このようにして洗浄を行った基材の表面に、Ag層を形成することにより、金属部材を得た。Ag層の形成は、以下に説明するような電解めっきにより行った。
まず、シアン化銀カリウム(20g/リットル)と、シアン化ナトリウム(23g/リットル)と、炭酸ナトリウム(12g/リットル)と、水とを用いて、めっき液を調製した。得られためっき液中におけるAgの濃度CAgは10.8[g/リットル]であった。このめっき液を用いて、浴温:18℃、電流密度:0.5A/dm2、時間:20秒間という条件で、電解めっきを行った。電解めっきにより形成されたAg層の平均厚さは、0.2μmであった。
【0105】
その後、金属部材の表面に、Niで構成された被膜を形成することにより、金属部品(時計用文字盤)を製造した。被膜の形成は、電解めっきにより、浴温:50℃、電流密度:0.03A/dm2、時間:1分間という条件で行った。
前記各実施例および各比較例の金属部品の構成等を表1にまとめて示す。
【0106】
【表1】
【0107】
2.金属部品の外観評価
上記各実施例および各比較例で製造した金属部品について、表面の色調を色度計(ミノルタ社製、CM−2022)を用いて測定し、以下の4段階の基準に従い、評価した。
◎:a*b*L*表示の色度図において、a*が−0.4〜0.4であり、かつ、b*が0〜5の範囲内である。
○:a*b*L*表示の色度図において、a*が−0.6〜0.6であり、かつ、b*が0〜5.2の範囲内(ただし、◎の範囲は除く。)である。
△:a*b*L*表示の色度図において、a*が−0.7〜0.7であり、かつ、b*が0〜5.2の範囲内(ただし、◎および○の範囲は除く。)である。
×:a*b*L*表示の色度図において、a*が−0.7〜0.7であり、かつ、b*が0〜5.2である範囲(◎、○または△の範囲)から外れるものである。
【0108】
なお、色度計の光源としては、JIS Z 8720で規定されるD65のものを用い、視野角:2°で測定した。
測定により得られた色度図を図4に示す。図4中、本発明の金属部品を●で示し、比較例を▲で示す。
【0109】
3.金属部品の耐酸化性評価
上記各実施例および各比較例で製造した金属部品を、40℃、常圧の大気雰囲気下で100時間放置し、その後の表面の色調を、色度計(ミノルタ社製、CM−2022)を用いて測定し、上記の4段階の基準に従い、評価した。
各実施例および各比較例の金属部品について、上記環境下に放置した後の色度図を図5に示す。図5中、本発明の金属部品を●で示し、比較例の金属部品を▲で示す。また、図5中には、製造直後の比較例1を、■で示した。
【0110】
4.金属部品の耐硫化性評価
上記各実施例および各比較例で製造した金属部品を、室温(23℃)の環境下で、NaSが150ppm濃度で存在する硫化雰囲気中に3分間放置し、その後の、表面の色調を、色度計(ミノルタ社製、CM−2022)を用いて測定し、上記の4段階の基準に従い、評価した。
各実施例および各比較例の金属部品について、上記環境下に放置した後の色度図を図6に示す。図6中、本発明の金属部品を●で示し、比較例の金属部品を▲で示す。また、図6中には、製造直後の比較例1を、■で示した。
【0111】
5.金属部品の耐光性評価
上記各実施例および各比較例で製造した金属部品について、以下のような耐光性試験を行った。
【0112】
まず、高さ0.3mm×幅3.9cm×奥行3.8cmのケースを用意した。この中に、0.1ミリリットルの蒸留水を含ませた濾紙と、上記各実施例および各比較例で製造した金属部品とを入れ、密閉状態とした後、カーボンアークフェドメータ(スガ試験株式会社製、FA−2型)を用いて、金属部品の表面に、紫外線を照射した。なお、紫外線照射時におけるケース内の温度は、63±3℃であった。50時間、紫外線を照射した後、金属部品をケース内から取り出し、その後の表面の色調を、色度計(ミノルタ社製、CM−2022)を用いて測定し、上記の4段階の基準に従い、評価した。
これらの結果を表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
表1、表2から明らかなように、本発明の金属部品は、銀特有の色彩を有しており、前述した長期安定性試験、耐酸化性試験、耐硫化性試験の各試験後においても、美的外観に優れた色彩を保持しており、優れた耐食性を有していることがわかる。中でも、Al層に対して封孔処理を行った金属部品(実施例2、4および6)では、特に優れた耐食性が得られた。
このように、本発明の表面処理方法を用いて製造された金属部品は、長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性に優れていた。これらの結果から、本発明の金属部品は、長期間にわたって色調変化が起こらず、優れた外観を保持することができるものであることがわかる。また、Al層に対して封孔処理を行うことで、耐食性をさらに向上させることができる。また、Al層の表面に被覆層を有する金属部品は、特に優れた耐食性を有していた。
これに対し、比較例の金属部品では、前記各試験後における変色の度合いが大きく、十分な耐食性を有していなかった。
【0115】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、耐食性に優れた金属部品、時計を提供すること、また、前記金属部品を製造することができる表面処理方法を提供することができる。
特に、Al層に対して封孔処理を施したり、Al層の表面に被覆層を形成することにより、金属部品、時計の長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性等を、特に優れたものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表面処理方法の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の表面処理方法の第2実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の表面処理方法の第3実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の表面処理方法の第4実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の表面処理方法の第5実施形態を示す断面図である。
【図6】各実施例および各比較例で得られた金属部品の色彩を示す色度図である。
【図7】各実施例および各比較例で得られた金属部品の、耐酸化性試験後の色彩を示す色度図である。
【図8】各実施例および各比較例で得られた金属部品の、耐硫化性試験後の色彩を示す色度図である。
【符号の説明】
1A、1B、1C、1D、1E……金属部品 2A、2B、2C……金属部材21……基材 22……Ag層 23……下地層 3……Al層 4……被覆層
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面処理方法、金属部品および時計に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属部品、特に時計用外装部品のような装飾品には、優れた美的外観が要求される。銀(Ag)は、美しく、高級感溢れる外観を有することから、装飾品に好んで用いられている。
しかしながら、銀は、硫黄との親和性が極めて強く、大気中に長期間放置すると、大気中の酸素と反応して酸化銀を生成し、あるいは、大気中に存在する微量の硫黄化合物と反応して硫化銀または硫酸銀を生成し、次第に変色して美的外観を損ねてしまう。
そこで、耐食性の付与、および銀の変色防止を目的として、銀の表面に、ニッケル、ロジウムで構成された薄膜を形成する方法等が検討されている。しかしながら、ニッケルやロジウムは、銀(Ag)とは色調が異なり、銀(Ag)特有の高級感を表現するのが困難であり、特に、ニッケルでは、十分な耐食性の向上を実現するのが困難である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、美的外観に優れた銀色の色彩を有し、耐食性に優れた金属部品を提供すること、前記金属部品を製造することができる表面処理方法を提供すること、前記金属部品を備えた時計を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(24)の本発明により達成される。
【0005】
(1) 少なくとも表面付近がAgを主とする材料で構成された金属部材の表面に、主としてAlで構成されたAl層をめっき法により形成することを特徴とする表面処理方法。
(2) 前記金属部材は、基材と、主としてAgで構成されたAg層とを有するものであり、
前記Al層を形成するのに先立ち、前記基材の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層を形成する工程を有し、
前記Ag層の表面に前記Al層を形成する上記(1)に記載の表面処理方法。
【0006】
(3) 基材の表面の少なくとも一部に主としてAgで構成されたAg層を形成することにより金属部材を製造する工程と、前記金属部材の表面に、主としてAlで構成されたAl層をめっき法により形成する工程とを有することを特徴とする表面処理方法。
(4) 前記金属部材は、基材と、下地層と、主としてAgで構成されたAg層とを有するものであり、
前記Al層を形成するのに先立ち、前記基材の表面の少なくとも一部に下地層を形成する工程と、前記下地層の表面の少なくとも一部に前記Ag層を形成する工程とを有し、
前記Ag層の表面に前記Al層を形成する上記(1)に記載の表面処理方法。
【0007】
(5) 基材の表面に下地層を形成する工程と、前記下地層の表面に主としてAgで構成されたAg層を形成することにより金属部材を製造する工程と、前記Ag層の表面に主としてAlで構成されたAl層をめっき法により形成する工程とを有することを特徴とする表面処理方法。
【0008】
(6) 電解めっきにより前記Ag層を形成する上記(2)ないし(5)のいずれかに記載の表面処理方法。
(7) 前記Al層を形成する工程の後に、前記Al層の表面に、主として有機材料で構成された被覆層を形成する工程を有する上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の表面処理方法。
(8) 塗布法により、前記被覆層を形成する上記(7)に記載の表面処理方法。
(9) 前記被覆層は、アクリル系材料、ウレタン系材料、セルロース系材料のうち少なくとも1種を含む材料で構成されたものである上記(7)または(8)に記載の表面処理方法。
(10) 前記Al層を電解めっきにより形成する上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の表面処理方法。
(11) 前記Al層を形成した後、当該Al層に封孔処理を施す上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の表面処理方法。
(12) 前記封孔処理は、前記Al層が形成された前記金属部材を、熱水中に浸漬することにより行う上記(11)に記載の表面処理方法。
【0009】
(13) 上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の表面処理方法を用いて製造されたことを特徴とする金属部品。
(14) 少なくとも表面付近がAgを主とする材料で構成された金属部材と、
めっき法により形成され、主としてAlで構成されたAl層とを有することを特徴とする金属部品。
【0010】
(15) 前記金属部材は、基材と、主としてAgで構成されたAg層とを有するものである上記(14)に記載の金属部品。
(16) 前記金属部材は、前記基材と、前記Ag層との間に、下地層を有するものである上記(15)に記載の金属部品。
(17) 前記Al層の、前記金属部材と接触するのとは反対側の面側に、主として有機材料で構成された被覆層を有する上記(14)ないし(16)のいずれかに記載の金属部品。
(18) 前記被覆層は、主として、アクリル系材料および/またはセルロース系材料で構成されたものである上記(17)に記載の金属部品。
(19) 前記Al層に対して封孔処理を施した上記(14)ないし(18)のいずれかに記載の金属部品。
(20) 前記封孔処理は、前記Al層が形成された前記金属部材を、熱水中に浸漬することにより行われたものである上記(19)に記載の金属部品。
【0011】
(21) 前記Al層が形成された部位の表面の色彩は、JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、a*が−0.7〜0.7であり、かつ、b*が0〜5.2の範囲内である上記(13)ないし(20)のいずれかに記載の金属部品。
(22) 装飾品として用いられる上記(13)ないし(21)のいずれかに記載の金属部品。
(23) 時計の文字盤である上記(13)ないし(22)のいずれかに記載の金属部品。
(24) 上記(13)ないし(23)のいずれかに記載の金属部品を有することを特徴とする時計。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の表面処理方法、金属部品および時計の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の表面処理方法の第1実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の表面処理方法は、Agを主とする材料で構成された金属部材2Aの表面の少なくとも一部(1a)に、めっき法により、主としてAlで構成されたAl層3を形成する工程(1b)を有する。
【0013】
[金属部材2A]
金属部材2Aは、Agを主とする材料で構成されたものである。金属部材2Aは、実質的にAgのみで構成されるものであってもよいし、Ag以外の成分を所定量含むものであってもよい。Ag以外の成分を含むものである場合、金属部材2A中に占めるAgの割合は、80wt%以上であるのが好ましく、95wt%以上であるのがより好ましい。Agの割合が80wt%未満であると、最終的に得られる金属部品1Aにおいて、Ag特有の高級感のある色彩や、化学的特性、物理的特性が十分に発揮されない場合がある。金属部材2Aの組成は、各部位で一定のものであってもよいし、各部位で異なるものであってもよい。
【0014】
金属部材2Aの製造方法は、特に限定されず、例えば、プレス加工、切削加工、鍛造加工、鋳造加工、粉末冶金焼結、金属粉末射出成形(MIM)、ロストワックス法等が挙げられる。この中でも特に、鋳造加工または金属粉末射出成形(MIM)が好ましい。鋳造加工、金属粉末射出成形(MIM)は、特に、加工性に優れている。このため、これらの方法を用いた場合、複雑な形状の金属部材2Aを比較的容易に得ることができる。
【0015】
金属粉末射出成形(MIM)は、通常、以下のようにして行われる。まず、金属粉と有機バインダーとを含む材料を混合、混練して混練物を得る。次に、この混練物を射出成形することにより成形体を形成する。その後、この成形体に対して、脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。この脱脂処理は、通常、減圧条件下で、加熱することにより行われる。さらに、得られた脱脂体を焼結することにより、焼結体を得る。この焼結処理は、通常、前記脱脂処理より高温で加熱することにより行われる。本発明では、以上のようにして得られる焼結体を金属部材2Aとして用いることができる。
【0016】
また、金属部材2Aの表面に対しては、例えば、鏡面加工、スジ目加工、梨地加工等の表面加工を施してもよい。これにより、得られる金属部品1Aの表面の光沢具合にバリエーションを持たせることが可能となり、得られる金属部品1Aを装飾品として用いる場合に、その装飾性をさらに向上させることができる。
【0017】
また、金属部材2AとAl層3との密着性の向上等を目的として、後述するAl層3の形成に先立ち、金属部材2Aに対して、前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、ブラスト処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗、有機溶剤洗浄、ボンバード処理等の清浄化処理、エッチング処理等が挙げられるが、この中でも特に、清浄化処理が好ましい。金属部材2Aの表面に、清浄化処理を施すことにより、金属部材2AとAl層3との密着性が特に優れたものとなる。
【0018】
[Al層3の形成]
金属部材2Aの表面に、Al層3を形成する(1b)。本発明は、主としてAlで構成されたAl層3を形成するという点に特徴を有する。Al層3を形成することにより、銀に特有の色彩を生かしつつ、長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性に優れた金属部品1Aを得ることができる。その結果、銀の酸化や硫化が抑えられ、該化学反応による銀の変色がなく、美的外観に優れた金属部品1Aを得ることができる。また、Al層3を形成することにより、金属部品1Aは、十分な耐食性、耐久性を有するものとなる。また、金属部品1Aは、十分な耐食性、耐久性を有し、長期間にわたって、Agに特有の白っぽい銀色の色彩を保持することができるため、暗い場所等においても、視認しやすい状態を長期間にわたって維持することができる。
【0019】
また、本発明は、このようなAl層3を、めっき法により形成する点に特徴を有する。めっき法を用いてAl層3を形成することにより、均質で、かつ金属部材2Aとの密着性に優れたAl層3を容易に形成することができる。このように、金属部材2AとAl層3との密着性が優れたものとなるため、得られる金属部品1Aの耐久性は、特に優れたものとなる。
【0020】
めっき法としては、例えば、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、真空蒸着、スパッタリング、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、イオンプレーティング等の乾式めっき法等が挙げられる。
【0021】
この中でも特に、湿式めっきが好ましく、電解めっきがより好ましい。Al層3の形成方法として、湿式めっき法を用いることにより、金属部材2Aとの密着性に特に優れるAl層3を、比較的簡易な装置、方法で、形成することができる。その結果、得られる金属部品1Aの長期耐久性は、特に優れたものとなる。
【0022】
特に、めっき法として、電解めっきを用いた場合、上記のような効果がさらに顕著になる。また、めっき法として、電解めっきを用いた場合、めっき液組成、めっき液温度(浴温)、電流密度、めっき時間等のめっき条件を容易に制御することができ、これにより、形成されるAl層3の膜厚、組成等を容易に調節することができる。その結果、例えば、金属部品1Aの色彩や、耐食性等の物性を容易に調節することができる。
【0023】
電解めっきは、例えば、以下のような条件で行うのが好ましい。
電解めっき時における浴温は、特に限定されないが、20〜40℃であるのが好ましく、25〜35℃であるのがより好ましい。浴温が、前記下限値未満であると、Alの析出効率が低下し、形成されるAl層3の光沢が低下する傾向を示す。一方、浴温が、前記上限値を超えると、形成されるAl層3の色彩にムラを生じたり、クモリを生じ易くなる。
【0024】
また、電解めっき時における電流密度は、特に限定されないが、0.01〜0.05A/dm2であるのが好ましく、0.01〜0.03A/dm2であるのがより好ましい。電流密度が、前記下限値未満であると、Al層3の形成に要する時間が長くなり、金属部品1Aの生産性が低下する。一方、電流密度が、前記上限値を超えると、いわゆる、クモリ、カブリといった光沢不良を生じる場合がある。
【0025】
電解めっきに用いるめっき液中におけるAlの濃度は、特に限定されないが、5〜20[g/リットル]であるのが好ましく、10〜15[g/リットル]であるのがより好ましい。めっき液中におけるAlの濃度が前記下限値未満であると、形成されるAl層3の硬度が低下する傾向を示す。一方、めっき液中におけるAlの濃度が前記上限値を超えると、Alの析出効率が低下する傾向を示す。
【0026】
めっき液中に含まれるアルミニウム化合物としては、例えば、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム等が挙げられるが、この中でも、硫酸アルミニウムが好ましい。アルミニウム化合物として硫酸アルミニウムを用いることにより、長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性により優れたAl層3を形成することができる。
【0027】
めっき法により形成されるAl層3の平均厚さは、特に限定されないが、1〜50nmであるのが好ましく、5〜10nmであるのがより好ましい。Al層3の平均厚さが前記下限値未満であると、Al層3にピンホールが発生し易くなり、本発明の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、Al層3の平均厚さが前記上限値を超えると、Al層3の内部応力が高くなり、Al層3と金属部材2Aとの密着性が低下したり、Ag特有の色彩を保持するのが困難になる場合がある。
【0028】
なお、Al層3は、図示の構成では金属部材2Aの全面に形成されているが、金属部材2Aの表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。
また、Al層3の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、Al層3は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。また、Al層3は、例えば、組成の異なる複数の層の積層体であってもよい。
また、Al層3と、金属部材2Aとの境界は、必ずしも、図示のように明確なものでなくてもよい。
【0029】
さらに、本発明では、Al層3に対して封孔処理を行うのが好ましい。封孔処理を行うことにより、Al層3中に存在する微細孔が閉塞、充填される。その結果、金属部品1Aの長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性をさらに向上することができる。
【0030】
この封孔処理は、熱水からなる封孔浴中に、Al層3が形成された金属部材2Aを浸漬することにより行う。Al層3が形成された金属部材2Aを熱水中に浸漬することで以下に示すような反応が起こり、これによりAl層3中の微細孔が閉塞、充填されると考えられる。
AlO+H2O → AlO(OH) → AlO・H2O
また、封孔処理を加圧下で行ってもよい。封孔処理を加圧下で行うことにより、封孔浴である熱水の温度を、常圧下での沸点以上に熱水の温度を上げることができ、耐食性向上の効果がより大きいものとなる。
【0031】
熱水の温度は、常圧付近の圧力雰囲気下においては、85℃以上であるのが好ましく、90℃以上であるのがより好ましい。熱水の温度が85℃未満であると、封孔処理の効果が十分に得られない場合がある。
また、熱水への浸漬時間は、0.5〜5分間であるのが好ましく、1〜2分間であるのがより好ましい。熱水への浸漬時間が前記下限値未満であると、封孔処理の効果が十分に得られない場合がある。一方、熱水への浸漬時間が前記上限値を超えると、封孔処理による効果のさらなる向上を図るのが困難となり、また、金属部品1Aの生産性が低下する。
【0032】
以上説明したような表面処理方法により、金属部品1Aが得られる。このようにして得られる本発明の金属部品1Aは、長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性に優れ、酸化や硫化に起因する銀の変色が起こり難く、優れた外観を長期間にわたって保持することができる。
【0033】
このようにして得られる本発明の金属部品1Aは、長期間にわたって銀に特有の色彩を保持することができるため、装飾品として用いられるときに特に好適である。装飾品としては、装飾性を備えた物品であればいかなるものでもよいが、例えば、置物等のインテリア、エクステリア用品、宝飾品、時計ケース(胴、裏蓋等)、時計バンド、文字盤、時計用針等の時計用外装部品、ムーブメントの地板、歯車、輪列受け、回転錘等の時計用内装部品、メガネ、ネクタイピン、カフスボタン、指輪、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、ブローチ、ペンダント、イヤリング、ピアス等の装身具、ライターまたはそのケース、ゴルフクラブ等のスポーツ用品、銘板、パネル、賞杯、その他ハウジング等を含む各種機器部品、各種容器等が挙げられる。
【0034】
この中でも特に、時計用外装部品、具体的には文字盤として用いられることがより好ましい。文字盤のような時計用外装部品は、装飾品として、変色のない外観の美しさが要求されるとともに、実用品として、耐久性、耐食性等が要求されるが、本発明によればこれらの要件を全て満足することができる。
【0035】
このようにして得られる本発明の金属部品1Aは、JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、a*が−0.7〜0.7であり、かつ、b*が0〜5.2の範囲であるのが好ましい。このような条件を満足することにより、金属部品1Aを例えば装飾品として用いるような場合に、美的外観が特に優れたものとなり、高級感がさらに向上する。
【0036】
また、この金属部品1Aは、銀の酸化や硫化等の化学反応が防止されるため、前記化学反応に起因する抵抗変化等、電気的特性変化が起こらない。そのため、金属部品1Aは、電子部品として好適に用いることができる。
【0037】
また、本発明の時計は、上述したような本発明の金属部品を有するものである。上述したように、本発明の金属部品は、美的外観に優れた銀色の色彩を有し、耐食性に優れたものである。このため、このような金属部品を備えた本発明の時計は、時計としての求められる要件を十分に満足することができる。すなわち、本発明の時計は、特に優れた審美性を長期間にわたって保持することができる。また、変色を生じにくいため、視認しやすい状態を長期間にわたって維持することができる。また、金属部品1Aを電子部品として用いた場合、本発明の時計は、安定した電気的特性を長期間にわたって保持することができるため、電子機器としての信頼性に優れたものとなる。特に、本発明によれば、特別な気密構造を必要とすることなく、上記のような効果が得られる点に特徴を有する。なお、本発明の時計を構成する前記金属部品以外の部品としては、公知のものを用いることができる。
【0038】
次に本発明の表面処理方法、金属部品および時計の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明の表面処理方法の第2実施形態を示す断面図である。
以下、第2実施形態の表面処理方法および該方法を用いて製造される第2実施形態の金属部品、時計について、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
【0039】
図2に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材21の表面の少なくとも一部(2a)に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Bを得る工程(2b)と、金属部材2Bの表面の少なくとも一部に、めっき法により、主としてAlで構成されたAl層3を形成する工程(2c)とを有する。すなわち、Al層を形成する金属部材として、基材の表面にAg層を形成することにより得られるものを用いる以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0040】
[基材21]
基材21は、いかなる材料で構成されるものであってもよく、例えば、プラスチック等の非金属性の材料で構成されるものであっても、あるいは金属材料で構成されるものであってもよい。
基材21が金属材料で構成される場合、特に優れた強度特性を有する金属部品1Bを提供することができる。基材21が非金属材料で構成される場合、比較的軽量で携帯し易く、かつ、重厚な外観を有する金属部品1Bを提供することができる。
【0041】
また、基材21が非金属材料で構成される場合、比較的容易に、所望の形状に成形することができる。このため、直接成形するのが困難な形状の金属部品1Bであっても、比較的容易に提供することができる。また、基材21が非金属材料で構成される場合、電磁ノイズを遮蔽する効果も得られる。
【0042】
基材21を構成する金属材料としては、例えば、Fe、Cu、Zn、Ni、Mg、Cr、Mn、Mo、Nb、Al、V、Zr、Sn、Au、Pd、Pt、Ag等の各種金属や、これらのうち少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。この中でも特に、基材21が、Cu、Zn、Niまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金で構成されたものであると、金属部材2Bの加工性が向上し、金属部材2Bの成形の自由度がさらに増す。さらに、基材21はCu−Zn系合金、いわゆる真鍮で構成されることが好ましい。基材21を真鍮で構成することで、金属部材2Bの加工性がさらに向上し、金属部材2Bの成形の自由度がさらに増す。
【0043】
また、基材21が、主として、ステンレス鋼で構成されるものである場合、金属部材2Bの加工性が向上し、金属部材2Bの成形の自由度がさらに増す。なお、ステンレス鋼としては、Fe−Cr系合金、Fe−Cr−Ni系合金等が挙げられる。Fe−Cr−Ni系合金としては、例えば、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L等が挙げられ、Fe−Cr系合金としては、例えば、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F等が挙げられる。
【0044】
また、基材21を構成する非金属材料としては、例えば、プラスチックやセラミックス、石材、木材、ガラス等が挙げられる。
プラスチックとしては、各種熱可塑性樹脂、各種熱硬化性樹脂が挙げられる。基材21がプラスチックで構成される場合、比較的軽量で携帯し易く、かつ、重厚な外観を有する金属部品1Bを得ることができる。また、基材21がプラスチックで構成される場合、比較的容易に、所望の形状に成形することができる。このため、複雑な形状を有する金属部品1Bであっても、比較的容易に製造することができる。また、基材21がプラスチックで構成される場合、電磁ノイズを遮蔽する効果が得られる。
セラミックスとしては、例えば、Al2O3、SiO2、TiO2、Ti2O3、ZrO2、Y2O3、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の酸化物系セラミックス、AlN、Si3N4、SiN、TiN、BN、ZrN、HfN、VN、TaN、NbN、CrN、Cr2N等の窒化物系セラミックス、グラファイト、SiC、ZrC、Al4C3、CaC2、WC、TiC、HfC、VC、TaC、NbC等の炭化物系のセラミックス、ZrB2、MoB等のホウ化物系のセラミックス、あるいは、これらのうちの2以上を任意に組合せた複合セラミックスが挙げられる。基材21が前記のようなセラミックスで構成される場合、高強度、高硬度の金属部品1Bを得ることができる。
【0045】
基材21の製造方法は、特に限定されない。基材21が金属材料で構成される場合、その製造方法としては、例えば、プレス加工、切削加工、鍛造加工、鋳造加工、粉末冶金焼結、金属粉末射出成形(MIM)、ロストワックス法等が挙げられるが、この中でも特に、鋳造加工または金属粉末射出成形(MIM)が好ましい。鋳造加工、金属粉末射出成形(MIM)は、特に、加工性に優れている。このため、これらの方法を用いた場合、複雑な形状の基材21を比較的容易に得ることができる。
【0046】
また、基材21が前記のようなプラスチックで構成される場合、その製造方法としては、例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、光造形等が挙げられる。また、基材21が前記のようなセラミックスで構成される場合、その製造方法は、特に限定されないが、金属粉末射出成形(MIM)であるのが好ましい。金属粉末射出成形(MIM)は、特に、加工性に優れているため、複雑な形状の基材21を比較的容易に得ることができる。
【0047】
[Ag層22の形成(金属部材2Bの製造)]
基材21の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Bが得られる(2b)。
【0048】
Ag層22は、実質的にAgのみで構成されるものであってもよいし、Ag以外の成分を所定量含むものであってもよい。Ag以外の成分を含むものである場合、Ag層22中に占めるAgの割合は、80wt%以上であるのが好ましく、95wt%以上であるのがより好ましい。Agの割合が80wt%未満であると、最終的に得られる金属部品1Bにおいて、Ag特有の高級感のある色彩や、化学的特性、物理的特性が十分に発揮されない場合がある。
【0049】
Ag層22は、めっき法により形成するのが好ましい。めっき法を用いてAg層22を形成することにより、均質で、かつ基材21との密着性に優れたAg層22を容易に形成することができる。このように、基材21とAg層22との密着性が優れたものとなるため、得られる金属部品1Aの耐久性は、特に優れたものとなる。
【0050】
めっき法としては、例えば、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、真空蒸着、スパッタリング、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、イオンプレーティング等の乾式めっき法等が挙げられる。
【0051】
この中でも特に、湿式めっきが好ましく、電解めっきがより好ましい。Ag層22の形成方法として、湿式めっき法を用いることにより、基材21との密着性に特に優れるAg層22を、比較的簡易な装置、方法で、形成することができる。その結果、得られる金属部品1Aの長期耐久性は、特に優れたものとなる。
【0052】
特に、めっき法として、電解めっきを用いた場合、上記のような効果がさらに顕著になる。また、めっき法として、電解めっきを用いた場合、めっき液組成、めっき液温度(浴温)、電流密度、めっき時間等のめっき条件を容易に制御することができ、これにより、形成されるAg層22の膜厚、組成等を容易に調節することができる。その結果、例えば、金属部品1Aの色彩や、耐食性等の物性を容易に調節することができる。
【0053】
電解めっきは、例えば、以下のような条件で行うのが好ましい。
電解めっき時における浴温は、特に限定されないが、15〜30℃であるのが好ましく、16〜20℃であるのがより好ましい。浴温が、前記下限値未満であると、Agの析出効率が低下し、形成されるAg層22の光沢が低下する傾向を示す。一方、浴温が、前記上限値を超えると、形成されるAg層22が黄色味を帯びた色となる傾向を示し、最終的に得られる金属部品1Bの審美性が低下する場合がある。
【0054】
また、電解めっき時における電流密度は、特に限定されないが、0.5〜3A/dm2であるのが好ましく、0.5〜1A/dm2であるのがより好ましい。電流密度が、前記下限値未満であると、Ag層22の形成に要する時間が長くなり、金属部品1Aの生産性が低下する。一方、電流密度が、前記上限値を超えると、いわゆる、クモリ、カブリといった光沢不良を生じる場合がある。
【0055】
電解めっきに用いるめっき液中におけるAgの濃度は、特に限定されないが、5〜30[g/リットル]であるのが好ましく、10〜20[g/リットル]であるのがより好ましい。めっき液中におけるAgの濃度が前記下限値未満であると、Agの析出効率が低下し、金属部品1Bの生産性が低下する。一方、めっき液中におけるAgの濃度が前記上限値を超えると、形成されるAg層22が黄色味を帯びた色となる傾向を示し、最終的に得られる金属部品1Bの審美性が低下する場合がある。
【0056】
Ag層22の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜2μmであるのが好ましく、0.1〜0.5μmであるのがより好ましい。Ag層22の平均厚さが前記下限値未満であると、Ag層22にピンホールが発生し易くなる。一方、Ag層22の平均厚さが前記上限値を超えると、形成されるAg層22が黄色味を帯びた色となる傾向を示し、最終的に得られる金属部品1Bの審美性が低下する場合がある。
【0057】
なお、Ag層22は、図示の構成では基材21の全面に形成されているが、基材21の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。
また、Ag層22の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、Ag層22は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
また、Ag層22と、基材21との境界は、必ずしも、図示のように明確なものでなくてもよい。
【0058】
以上のようにして、基材21の少なくとも表面の一部にAg層22を有する金属部材2Bが得られる。
以上のようにして得られた金属部材2Bの表面に、前記第1実施形態と同様にして、Al層3を形成することにより金属部品1Bが得られる(2c)。
【0059】
次に、本発明の表面処理方法、金属部品および時計の第3実施形態について説明する。
図3は、本発明の表面処理方法の第3実施形態を示す断面図である。
以下、第3実施形態の表面処理方法および該方法を用いて製造される第3実施形態の金属部品、時計について、前記第1、第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
【0060】
図3に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材21の表面の少なくとも一部(3a)に、下地層23を形成する工程(3b)と、下地層23の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Cを得る工程(3c)と、Ag層の表面の少なくとも一部に、めっき法により、Al層3を形成する工程(3d)とを有する。すなわち、金属部材2Cの作製において、Ag層22の形成に先立ち、基材21の表面の少なくとも一部に、下地層23を形成する以外は、前述した第2実施形態と同様である。
以下、下地層23について詳細に説明する。
【0061】
[下地層23]
下地層23は、いかなる目的で形成するものであってもよいが、以下のような機能を有するものであるのが好ましい。
【0062】
下地層23は、例えば、基材21とAg層22との電位差を緩和する緩衝層として機能するものであるのが好ましい。これにより、基材21とAg層22との電位差による腐食(異種金属接触腐食)の発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0063】
また、下地層23は、例えば、基材21と、Ag層22との密着性を向上させる機能を有するものであるのが好ましい。このように、基材21と、Ag層22との密着性が向上することにより、金属部品1Cの耐食性がさらに優れたものとなる。その結果、金属部品1Cは、特に耐久性に優れたものとなる。
また、下地層23は、例えば、基材21の孔、キズ等をレベリング(ならし)により補修する機能等を有するものであってもよい。
【0064】
下地層23の形成方法としては、例えば、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、真空蒸着、スパッタリング、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、イオンプレーティング等の乾式めっき法、溶射、金属箔の接合等が挙げられるが、この中でも特に、湿式めっき法または乾式めっき法が好ましい。下地層23の形成方法として、湿式めっき法または乾式めっき法を用いることにより、形成される下地層23は、基材21との密着性に特に優れたものとなる。その結果、得られる金属部品1Cの長期耐久性は、特に優れたものとなる。
【0065】
また、下地層23は、例えば、基材21の表面に、酸化処理、窒化処理、クロメート処理、炭化処理、酸浸漬、酸電解処理、アルカリ浸漬処理、アルカリ電解処理等の化学処理を施すことにより形成された被膜、特に、不動態膜であってもよい。
【0066】
下地層23の構成材料は、特に限定されないが、Cu、Co、Pd、Au、Ag、In、Sn、Ni、Ti、Zn、Al、Fe、Cr、Pt、Rh、Ru、Ir等の金属材料や、前記金属材料のうち少なくとも1種を含む合金、前記金属材料のうち少なくとも1種による金属化合物(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等)、またはこれらを2種以上組み合わせたもの等が挙げられる。
【0067】
下地層23が、Cu、Co、Pd、Au、Ag、In、Sn、Ni、Ti、Zn、Al、Fe、Cr、Pt、Rh、Ru、Irまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金で構成されるものである場合、基材21とAg層22との電位差による腐食の発生を、さらに効果的に防止することができる。
【0068】
また、下地層23が上記のような材料で構成されたものである場合、基材21、Ag層22との密着性も向上する。このように、基材21と、Ag層22との密着性が向上することにより、金属部品1Cの耐食性がさらに優れたものとなる。その結果、金属部品1Bは、特に耐久性に優れたものとなる。
【0069】
また、下地層23が、Cu、Co、Pd、Au、Ag、In、Sn、Ni、Ti、Znまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金で構成されたものである場合、上述した効果はさらに顕著なものとなる。
【0070】
また、下地層23の構成材料は、基材21を構成する材料またはAg層22を構成する材料のうち少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。これにより、基材21と、Ag層22との密着性がさらに向上する。このように、基材と、Ag層との密着性が向上することにより、金属部品1Cの耐食性がさらに優れたものとなる。その結果、金属部品1Cは、特に耐久性に優れたものとなる。
【0071】
また、下地層23の標準電位は、基材21の標準電位と、Ag層22の標準電位との間の値であるのが好ましい。すなわち、下地層23は、その標準電位が、基材21の構成材料の標準電位と、Ag層22の構成材料の標準電位との間の値である材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、基材21とAg層22との電位差による腐食(異種金属接触腐食)の発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0072】
具体的に、例えば、基材21がCu−Zn系合金、いわゆる真鍮からなる場合、下地層23は、Niから構成されることが好ましい。下地層23をNiから構成することで、真鍮からなる基材21と、Ag層22との密着性が良好なものとなる。また、下地層23をNiから構成することで、真鍮からなる基材21とAg層22との電位差による腐食(異種金属接触腐食)の発生もより効果的に防止することができる。その結果、得られる金属部品1Cの耐食性、耐久性は特に優れたものとなる。
【0073】
下地層23の平均厚さは、例えば、0.5〜3μmであるのが好ましく、0.5〜1μmであるのがより好ましい。下地層23の平均厚さが前記下限値未満であると、上述した下地層23の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、下地層23の平均厚さが前記上限値を超えると、下地層23の各部位における膜厚のバラツキが大きくなる傾向を示す。また、基材21の表面形状(例えば、基材21表面に形成された模様)等を、最終的に得られる金属部品1Cの外観に十分に反映するのが困難となる。
【0074】
なお、下地層23は、図示の構成では基材21の全面に形成されているが、基材21の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。
また、下地層23の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、下地層23は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
また、下地層23と、基材21との境界は、必ずしも、図示のように明確なものでなくてもよい。
また、下地層23は、前記のような機能を有するものに限定されない。例えば、下地層23は、保管時(Ag層22の形成の工程までの間)等に腐食が発生するのを防止する機能等を有するものであってもよい。
【0075】
次に、本発明の表面処理方法、金属部品および時計の第4実施形態について説明する。
図4は、本発明の表面処理方法の第4実施形態を示す断面図である。
以下、第4実施形態の表面処理方法および該方法を用いて製造される第4実施形態の金属部品、時計について、前記第1〜第3実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
【0076】
図4に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材21の表面の少なくとも一部(4a)に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Bを得る工程(4b)と、Ag層の表面の少なくとも一部に、めっき法により、Al層3を形成する工程(4c)と、Al層3の表面の少なくとも一部に、被覆層4を形成する工程(4d)とを有する。すなわち、Al層3を形成する工程の後に、Al層3の表面の少なくとも一部に、被覆層4を形成する工程を有する以外は、前述した第2実施形態と同様である。
以下、被覆層4について詳細に説明する。
【0077】
[被覆層4]
Al層3の表面に形成する被覆層4は、主として有機材料で構成されたものである。このように、Al層3と被覆層4とを積層することにより、銀に特有の色彩を十分に生かしつつ、得られる金属部材1Dの長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性をさらに優れたものとすることができる。また、これにより、金属部品1Dは、極めて優れた耐食性、耐久性を有するものとなる。
【0078】
被覆層4の形成方法としては、例えば、ディッピング、ドクターブレード、スピンコート、刷毛塗り、スプレー塗装、ロールコーター等の各種塗布法、溶射法、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、真空蒸着、スパッタリング、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、イオンプレーティング等の乾式めっき法等が挙げられるが、この中でも、塗布法が好ましい。
【0079】
このような塗布法によれば、その操作は、極めて簡単であり、かつ、大掛かりな装置も必要としないので、金属部品1Dの製造コストの削減、製造時間の短縮に有利である。また、塗布法によれば、例えばマスキング等を用いることにより、所望のパターン形状の被覆層4を容易に得ることができる。
【0080】
被覆層4の構成材料は、被覆層4を形成したときの厚さにおいて、実質的に無色のものであれば特に限定されないが、アクリル系材料、ウレタン系材料、セルロース系材料のうち少なくとも1種を含む材料で構成されたものであるのが好ましく、主としてアクリル系材料、ウレタン系材料またはセルロース系材料で構成されたものであるのがより好ましい。被覆層4がこのような材料で構成されることにより、銀に特有の色彩を十分に生かしつつ、金属部品1Dの長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性をさらに優れたものにすることができる金属部品1Dを得ることができる。
【0081】
アクリル系材料としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの誘導体を含む重合体を用いることができる。
このような重合体の構成成分としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸メトキシエチル等のアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド等の官能基含有モノマーのほか、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。なお、アクリル系材料は、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの誘導体以外の構成成分(例えば、その他のモノマー成分)を含むものであってもよい。
【0082】
ウレタン系材料としては、例えば、ウレタン結合を有する重合体を用いることができる。ウレタン結合は、一般に、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを反応させることにより形成することができる。
ウレタン系材料を構成するポリオール成分としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリブタジエンポリオールおよび水添物、ポリイソプレンポリオールおよび水添物、フェノーリックポリオール、エポキシポリオール、ポリスルホンポリオール等が挙げられる。また、ポリオール成分としては、ポリエステル・ポリエーテルポリオールのような共重合体ポリオールを用いることもできる。
ウレタン系材料を構成するポリイソシアナート成分としては、例えば、トリレンジイソシアナート、水素化トリレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、メチレンビス(4−フェニルメタン)ジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート等の芳香族ジイソシアナート、脂肪族ジイソシアナート等が挙げられる。なお、ウレタン系材料は、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分以外の構成成分(例えば、その他のモノマー成分)を含むものであってもよい。
【0083】
セルロース系材料は、セルロース類を含む物である。なお、本明細書中で、セルロース類とは、セルロースのほか、各種のセルロース誘導体をも含む概念であり、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、トリチルセルロース、シアンエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、アミノエチルセルロース、オキシエチルセルロース等のセルロースエーテル、ニトロセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、アセチルセルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸酪酸セルロース等のセルロースエステル、ナトリウムセルロース、カリウムセルロース、リチウムセルロース等のアルカリセルロース、ヘミセルロースをも含む概念である。
【0084】
被覆層4の平均厚さは、特に限定されないが、5〜20μmであるのが好ましく、5〜15μmであるのがより好ましい。被覆層4の平均厚さが前記下限値未満であると、被覆層4にピンホールが発生し易くなり、本発明の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、被覆層4の平均厚さが前記上限値を超えると、被覆層4の内部応力が高くなり、被覆層4とAl層3との密着性が低下したり、クラックが発生し易くなるとともに、Ag特有の色彩を保持するのが困難になる場合がある。
【0085】
なお、被覆層4は、図示の構成ではAl層3の全面に形成されているが、Al層3の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。
また、被覆層4の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、被覆層4は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。また、被覆層4は、例えば、組成の異なる複数の層の積層体であってもよい。
【0086】
次に、本発明の表面処理方法、金属部品および時計の第5実施形態について説明する。
図5は、本発明の表面処理方法の第5実施形態を示す断面図である。
以下、第5実施形態の表面処理方法および該方法を用いて製造される第5実施形態の金属部品、時計について、前記第1〜第4実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
【0087】
図5に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材21の表面の少なくとも一部(5a)に、下地層23を形成する工程(5b)と、下地層23の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層22を形成することにより、金属部材2Cを得る工程(5c)と、Ag層の表面の少なくとも一部に、めっき法により、Al層3を形成する工程(5d)と、Al層3の表面の少なくとも一部に、被覆層4を形成する工程(5e)とを有する。すなわち、Al層3を形成する工程の後に、Al層3の表面の少なくとも一部に、被覆層4を形成する工程を有する以外は、前述した第3実施形態と同様である。
【0088】
このように、下地層23を形成する工程と、被覆層4を形成する工程とを有することにより、得られる金属部品1Eは、下地層23による利点と、被覆層4による利点とを併有することができ、金属部品として特に優れた機能を有するものになる。
【0089】
以上、本発明の表面処理方法、金属部品および時計の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、前述した第3実施形態においては、1層の下地層が形成された構成について説明したが、このような下地が2層以上形成されたものであってもよい。この場合、下地層の少なくとも1層がその片方の面側と他方の面側との電位差を緩和する作用を有するものであるのが好ましい。また、隣接する2つの下地層は、互いに共通の元素を含む材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、隣接する下地層の密着性は、特に優れたものとなる。
また、本発明による金属部品は、Agを主とする材料で構成された(実質的にAgのみで構成された)金属部材2Aの表面にAl層を有し、さらにその表面に、前述した被覆層が形成された構成のものであってもよい。すなわち、前述した第1実施形態の金属部品1Aの表面に被覆層を形成してもよい。これにより、銀に特有の色彩を十分に生かしつつ、得られる金属部材の長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性をさらに優れたものとすることができる。また、これにより、得られる金属部品は、極めて優れた耐食性、耐久性を有するものとなる。
また、金属部品の表面の少なくとも一部には、耐食性、耐光性、耐水性、耐油性、耐摩耗性、耐変色性等の機能を向上させ、防錆、防汚、防曇、防傷等の効果を向上する保護層等が形成されていてもよい。
【0090】
【実施例】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.金属部品の製造
(実施例1)
以下に示すような表面処理を施すことにより、金属部品(時計用文字盤)を製造した。
まず、JIS H 2141で規定される銀地金1種(Ag含有率:99.99%以上)を用いて、鋳造により、時計用文字盤の形状を有する金属部材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。次に、この金属部材を洗浄した。金属部材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を20秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、5wt%硫酸を用いた中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を5秒間行った。
【0091】
このようにして洗浄を行った金属部材の表面に、Al層を形成することにより、金属部品(時計用文字盤)を製造した。Al層の形成は、以下に説明するような電解めっきにより行った。
まず、Al2(SO4)3・nH2Oと、硫酸ニッケル(NiSO4)と、水とを用いて、めっき液を調製した。得られためっき液中における、Alの濃度CAlは15[g/リットル]であり、pHは3.5であった。このめっき液を用いて、浴温:30℃、電流密度:0.03A/dm2、時間:60秒間という条件で、電解めっきを行った。電解めっきにより形成されたAl層の平均厚さは、2nmであった。
【0092】
(実施例2)
Al層を形成した金属部材に対して封孔処理を行った以外は、実施例1と同様にして金属部品(時計用文字盤)を製造した。封孔処理は、大気圧雰囲気下、pHが6.8に調整された、温度が98℃の熱水中に、Al層を形成した金属部材を1分間浸漬することにより行った。
【0093】
(実施例3)
以下に示すような表面処理を施すことにより、金属部品(時計用文字盤)を製造した。
まず、Cu−Zn系合金(合金組成:Cu60wt%−Zn40wt%)を用いて、鋳造により、時計用文字盤の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を20秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、5wt%硫酸を用いた中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を5秒間行った。
【0094】
このようにして洗浄を行った基材の表面に、Ag層を形成し、金属部材を得た。Ag層の形成は、以下に説明するような電解めっきにより行った。
まず、シアン化銀カリウム(20g/リットル)と、シアン化ナトリウム(23g/リットル)と、炭酸ナトリウム(12g/リットル)と、水とを用いて、めっき液を調製した。得られためっき液中におけるAgの濃度CAgは10.8[g/リットル]であった。このめっき液を用いて、浴温:18℃、電流密度:0.5A/dm2、時間:20秒間という条件で、電解めっきを行った。電解めっきにより形成されたAg層の平均厚さは、0.2μmであった。
【0095】
このようにして洗浄を行った金属部材の表面に、Al層を形成することにより、金属部品(時計用文字盤)を得た。Al層の形成は、以下に説明するような電解めっきにより行った。
まず、Al2(SO4)3・nH2Oと、硫酸ニッケル(NiSO4)と、水とを用いて、めっき液を調製した。得られためっき液中における、Alの濃度CAlは15[g/リットル]であり、pHは3.5であった。このめっき液を用いて、浴温:30℃、電流密度:0.03A/dm2、時間:60秒間という条件で、電解めっきを行った。電解めっきにより形成されたAl層の平均厚さは、2nmであった。
【0096】
(実施例4)
Al層を形成した金属部材に対して封孔処理を行った以外は、実施例3と同様にして金属部品(時計用文字盤)を製造した。封孔処理は、大気圧雰囲気下、pHが6.8に調整された、温度が98℃の熱水中に、Al層を形成した金属部材を1分間浸漬することにより行った。
【0097】
(実施例5)
Ag層の形成に先立ち、基材の表面に、Niで構成される下地層を形成した以外は、実施例4と同様にして金属部品(時計用文字盤)を製造した。
【0098】
下地層の形成は、電解めっき(ストライクめっき)により、浴温:30℃、電流密度:2A/dm2、時間:1分間という条件で行った。このようにして形成された下地層の平均厚さは、0.5μmであった。
そして、下地層が形成された基材を洗浄した後、Ag層を形成した。この洗浄としては、まず、アルカリ浸漬脱脂を20秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を5秒間行った。
【0099】
(実施例6)
Al層を形成した金属部材に対して封孔処理を行った以外は、実施例5と同様にして金属部品(時計用文字盤)を製造した。封孔処理は、大気圧雰囲気下、pHが6.8に調整された、温度が98℃の熱水中に、Al層を形成した金属部材を1分間浸漬することにより行った。
【0100】
(比較例1)
JIS H 2141で規定される銀地金1種(Ag含有率:99.99%以上)を用いて、鋳造により、時計用文字盤の形状を有する金属部材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨することにより、金属部品(時計用文字盤)を得た。
【0101】
(比較例2)
まず、Cu−Zn系合金(合金組成:Cu60wt%−Zn40wt%)を用いて、鋳造により、時計用文字盤の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を20秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、5wt%硫酸を用いた中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を5秒間行った。
【0102】
このようにして洗浄を行った基材の表面に、Ag層を形成することにより、金属部品(時計用文字盤)を製造した。Ag層の形成は、以下に説明するような電解めっきにより行った。
まず、シアン化銀カリウム(20g/リットル)と、シアン化ナトリウム(23g/リットル)と、炭酸ナトリウム(12g/リットル)と、水とを用いて、めっき液を調製した。得られためっき液中におけるAgの濃度CAgは10.8[g/リットル]であった。このめっき液を用いて、浴温:18℃、電流密度:0.5A/dm2、時間:20秒間という条件で、電解めっきを行った。電解めっきにより形成されたAg層の平均厚さは、0.2μmであった。
【0103】
(比較例3)
まず、Cu−Zn系合金(合金組成:Cu60wt%−Zn40wt%)を用いて、鋳造により、時計用文字盤の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を20秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、5wt%硫酸を用いた中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を5秒間行った。
【0104】
このようにして洗浄を行った基材の表面に、Ag層を形成することにより、金属部材を得た。Ag層の形成は、以下に説明するような電解めっきにより行った。
まず、シアン化銀カリウム(20g/リットル)と、シアン化ナトリウム(23g/リットル)と、炭酸ナトリウム(12g/リットル)と、水とを用いて、めっき液を調製した。得られためっき液中におけるAgの濃度CAgは10.8[g/リットル]であった。このめっき液を用いて、浴温:18℃、電流密度:0.5A/dm2、時間:20秒間という条件で、電解めっきを行った。電解めっきにより形成されたAg層の平均厚さは、0.2μmであった。
【0105】
その後、金属部材の表面に、Niで構成された被膜を形成することにより、金属部品(時計用文字盤)を製造した。被膜の形成は、電解めっきにより、浴温:50℃、電流密度:0.03A/dm2、時間:1分間という条件で行った。
前記各実施例および各比較例の金属部品の構成等を表1にまとめて示す。
【0106】
【表1】
【0107】
2.金属部品の外観評価
上記各実施例および各比較例で製造した金属部品について、表面の色調を色度計(ミノルタ社製、CM−2022)を用いて測定し、以下の4段階の基準に従い、評価した。
◎:a*b*L*表示の色度図において、a*が−0.4〜0.4であり、かつ、b*が0〜5の範囲内である。
○:a*b*L*表示の色度図において、a*が−0.6〜0.6であり、かつ、b*が0〜5.2の範囲内(ただし、◎の範囲は除く。)である。
△:a*b*L*表示の色度図において、a*が−0.7〜0.7であり、かつ、b*が0〜5.2の範囲内(ただし、◎および○の範囲は除く。)である。
×:a*b*L*表示の色度図において、a*が−0.7〜0.7であり、かつ、b*が0〜5.2である範囲(◎、○または△の範囲)から外れるものである。
【0108】
なお、色度計の光源としては、JIS Z 8720で規定されるD65のものを用い、視野角:2°で測定した。
測定により得られた色度図を図4に示す。図4中、本発明の金属部品を●で示し、比較例を▲で示す。
【0109】
3.金属部品の耐酸化性評価
上記各実施例および各比較例で製造した金属部品を、40℃、常圧の大気雰囲気下で100時間放置し、その後の表面の色調を、色度計(ミノルタ社製、CM−2022)を用いて測定し、上記の4段階の基準に従い、評価した。
各実施例および各比較例の金属部品について、上記環境下に放置した後の色度図を図5に示す。図5中、本発明の金属部品を●で示し、比較例の金属部品を▲で示す。また、図5中には、製造直後の比較例1を、■で示した。
【0110】
4.金属部品の耐硫化性評価
上記各実施例および各比較例で製造した金属部品を、室温(23℃)の環境下で、NaSが150ppm濃度で存在する硫化雰囲気中に3分間放置し、その後の、表面の色調を、色度計(ミノルタ社製、CM−2022)を用いて測定し、上記の4段階の基準に従い、評価した。
各実施例および各比較例の金属部品について、上記環境下に放置した後の色度図を図6に示す。図6中、本発明の金属部品を●で示し、比較例の金属部品を▲で示す。また、図6中には、製造直後の比較例1を、■で示した。
【0111】
5.金属部品の耐光性評価
上記各実施例および各比較例で製造した金属部品について、以下のような耐光性試験を行った。
【0112】
まず、高さ0.3mm×幅3.9cm×奥行3.8cmのケースを用意した。この中に、0.1ミリリットルの蒸留水を含ませた濾紙と、上記各実施例および各比較例で製造した金属部品とを入れ、密閉状態とした後、カーボンアークフェドメータ(スガ試験株式会社製、FA−2型)を用いて、金属部品の表面に、紫外線を照射した。なお、紫外線照射時におけるケース内の温度は、63±3℃であった。50時間、紫外線を照射した後、金属部品をケース内から取り出し、その後の表面の色調を、色度計(ミノルタ社製、CM−2022)を用いて測定し、上記の4段階の基準に従い、評価した。
これらの結果を表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
表1、表2から明らかなように、本発明の金属部品は、銀特有の色彩を有しており、前述した長期安定性試験、耐酸化性試験、耐硫化性試験の各試験後においても、美的外観に優れた色彩を保持しており、優れた耐食性を有していることがわかる。中でも、Al層に対して封孔処理を行った金属部品(実施例2、4および6)では、特に優れた耐食性が得られた。
このように、本発明の表面処理方法を用いて製造された金属部品は、長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性に優れていた。これらの結果から、本発明の金属部品は、長期間にわたって色調変化が起こらず、優れた外観を保持することができるものであることがわかる。また、Al層に対して封孔処理を行うことで、耐食性をさらに向上させることができる。また、Al層の表面に被覆層を有する金属部品は、特に優れた耐食性を有していた。
これに対し、比較例の金属部品では、前記各試験後における変色の度合いが大きく、十分な耐食性を有していなかった。
【0115】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、耐食性に優れた金属部品、時計を提供すること、また、前記金属部品を製造することができる表面処理方法を提供することができる。
特に、Al層に対して封孔処理を施したり、Al層の表面に被覆層を形成することにより、金属部品、時計の長期安定性、耐酸化性、耐硫化性、耐光性等を、特に優れたものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表面処理方法の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の表面処理方法の第2実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の表面処理方法の第3実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の表面処理方法の第4実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の表面処理方法の第5実施形態を示す断面図である。
【図6】各実施例および各比較例で得られた金属部品の色彩を示す色度図である。
【図7】各実施例および各比較例で得られた金属部品の、耐酸化性試験後の色彩を示す色度図である。
【図8】各実施例および各比較例で得られた金属部品の、耐硫化性試験後の色彩を示す色度図である。
【符号の説明】
1A、1B、1C、1D、1E……金属部品 2A、2B、2C……金属部材21……基材 22……Ag層 23……下地層 3……Al層 4……被覆層
Claims (24)
- 少なくとも表面付近がAgを主とする材料で構成された金属部材の表面に、主としてAlで構成されたAl層をめっき法により形成することを特徴とする表面処理方法。
- 前記金属部材は、基材と、主としてAgで構成されたAg層とを有するものであり、
前記Al層を形成するのに先立ち、前記基材の表面の少なくとも一部に、主としてAgで構成されたAg層を形成する工程を有し、
前記Ag層の表面に前記Al層を形成する請求項1に記載の表面処理方法。 - 基材の表面の少なくとも一部に主としてAgで構成されたAg層を形成することにより金属部材を製造する工程と、前記金属部材の表面に、主としてAlで構成されたAl層をめっき法により形成する工程とを有することを特徴とする表面処理方法。
- 前記金属部材は、基材と、下地層と、主としてAgで構成されたAg層とを有するものであり、
前記Al層を形成するのに先立ち、前記基材の表面の少なくとも一部に下地層を形成する工程と、前記下地層の表面の少なくとも一部に前記Ag層を形成する工程とを有し、
前記Ag層の表面に前記Al層を形成する請求項1に記載の表面処理方法。 - 基材の表面に下地層を形成する工程と、前記下地層の表面に主としてAgで構成されたAg層を形成することにより金属部材を製造する工程と、前記Ag層の表面に主としてAlで構成されたAl層をめっき法により形成する工程とを有することを特徴とする表面処理方法。
- 電解めっきにより前記Ag層を形成する請求項2ないし5のいずれかに記載の表面処理方法。
- 前記Al層を形成する工程の後に、前記Al層の表面に、主として有機材料で構成された被覆層を形成する工程を有する請求項1ないし6のいずれかに記載の表面処理方法。
- 塗布法により、前記被覆層を形成する請求項7に記載の表面処理方法。
- 前記被覆層は、アクリル系材料、ウレタン系材料、セルロース系材料のうち少なくとも1種を含む材料で構成されたものである請求項7または8に記載の表面処理方法。
- 前記Al層を電解めっきにより形成する請求項1ないし9のいずれかに記載の表面処理方法。
- 前記Al層を形成した後、当該Al層に封孔処理を施す請求項1ないし10のいずれかに記載の表面処理方法。
- 前記封孔処理は、前記Al層が形成された前記金属部材を、熱水中に浸漬することにより行う請求項11に記載の表面処理方法。
- 請求項1ないし12のいずれかに記載の表面処理方法を用いて製造されたことを特徴とする金属部品。
- 少なくとも表面付近がAgを主とする材料で構成された金属部材と、
めっき法により形成され、主としてAlで構成されたAl層とを有することを特徴とする金属部品。 - 前記金属部材は、基材と、主としてAgで構成されたAg層とを有するものである請求項14に記載の金属部品。
- 前記金属部材は、前記基材と、前記Ag層との間に、下地層を有するものである請求項15に記載の金属部品。
- 前記Al層の、前記金属部材と接触するのとは反対側の面側に、主として有機材料で構成された被覆層を有する請求項14ないし16のいずれかに記載の金属部品。
- 前記被覆層は、主として、アクリル系材料および/またはセルロース系材料で構成されたものである請求項17に記載の金属部品。
- 前記Al層に対して封孔処理を施した請求項14ないし18のいずれかに記載の金属部品。
- 前記封孔処理は、前記Al層が形成された前記金属部材を、熱水中に浸漬することにより行われたものである請求項19に記載の金属部品。
- 前記Al層が形成された部位の表面の色彩は、JIS Z8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、a*が−0.7〜0.7であり、かつ、b*が0〜5.2の範囲内である請求項13ないし20のいずれかに記載の金属部品。
- 装飾品として用いられる請求項13ないし21のいずれかに記載の金属部品。
- 時計の文字盤である請求項13ないし22のいずれかに記載の金属部品。
- 請求項13ないし23のいずれかに記載の金属部品を有することを特徴とする時計。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002249226A JP2004084037A (ja) | 2002-08-28 | 2002-08-28 | 表面処理方法、金属部品および時計 |
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JP2002249226A JP2004084037A (ja) | 2002-08-28 | 2002-08-28 | 表面処理方法、金属部品および時計 |
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---|---|
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ID=32056403
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JP2002249226A Pending JP2004084037A (ja) | 2002-08-28 | 2002-08-28 | 表面処理方法、金属部品および時計 |
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JP (1) | JP2004084037A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006010403A (ja) * | 2004-06-23 | 2006-01-12 | Seiko Epson Corp | 時計用外装部品の補修方法 |
WO2007021069A1 (en) * | 2005-08-19 | 2007-02-22 | Seoul Opto Device Co., Ltd. | Light emitting diode employing an array of nanorods and method of fabricating the same |
JPWO2013187324A1 (ja) * | 2012-06-14 | 2016-02-04 | ポリマテック・ジャパン株式会社 | 基板シートおよびタッチパネル |
-
2002
- 2002-08-28 JP JP2002249226A patent/JP2004084037A/ja active Pending
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