JP2004079691A - Blt強誘電体薄膜キャパシタ及びその作製方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】強誘電体特性を利用した不揮発性メモリなどの各種デバイスに供されるBLT強誘電体薄膜キャパシタ、及びそのBLT強誘電体相を安定的かつ簡便に得られる作製方法の提供。
【解決手段】半導体基板上に、少なくとも、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層(A)、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を形成してなるBLT強誘電体薄膜キャパシタであって、前記密着層(A)の酸素親和性を低減させることによりBi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)中におけるパイロクロア相の形成を実質的になくし、さらにBLT結晶がc軸方向に実質的に配向しないことを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタによって提供。
【選択図】 なし
【解決手段】半導体基板上に、少なくとも、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層(A)、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を形成してなるBLT強誘電体薄膜キャパシタであって、前記密着層(A)の酸素親和性を低減させることによりBi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)中におけるパイロクロア相の形成を実質的になくし、さらにBLT結晶がc軸方向に実質的に配向しないことを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタによって提供。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、BLT強誘電体薄膜キャパシタ及びその作製方法に関し、さらに詳しくは、強誘電体特性を利用した不揮発性メモリなどの各種デバイスに供されるBLT強誘電体薄膜キャパシタ、及びそのBLT強誘電体相が安定的かつ簡便に得られる作製方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、PZT(すなわち、PbZrOx−PbTiOx系)などのPb系ペロブスカイト型酸化物、あるいはSBT(すなわち、SrBi2Ta2Ox系)などのBi系層状ペロブスカイト型酸化物といった強誘電体薄膜を、不揮発性メモリに応用する研究、FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)の研究が盛んに行われている。
【0003】
FeRAMは、強誘電体のヒステリシス特性を利用するため、残留分極が大きく、分極反転疲労特性に優れた(繰り返し分極反転しても残留分極が低下しない)強誘電体薄膜材料が求められる。
【0004】
最近、Bi系層状ぺロブスカイト型酸化物の一種であるBLT、すなわち(Bi,La)4Ti3O12は、PZTとSBTのそれぞれの特徴である高い残留分極値と優れた分極反転疲労特性を合わせ持つことが明らかにされ、PZT、SBTに続く薄膜材料として研究されている。
【0005】
一般的なFeRAMのキャパシタは、基板上に酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層を形成する工程、該密着層上に電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層を形成する工程、下部電極層上に強誘電体材料の構成金属元素からなる金属酸化物薄膜層を形成した後に、該薄膜層を熱処理して結晶化させ強誘電体薄膜層を形成する工程、強誘電体薄膜層上に電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層を形成する工程、エッチング加工してキャパシタ構造を形成する工程、および必要に応じて再熱処理する工程を経ることで作製されている。
【0006】
基板としてはバリア層(SiO2皮膜)をSi表面に形成したSiO2/Si基板、密着層としてはTi薄膜、上部・下部電極層としてはPt薄膜が用いられることが多い。
【0007】
Ti薄膜は、Pt薄膜とSiO2皮膜の双方に対して密着性がよく、Pt薄膜は導電性が高く、化学的に安定であるため、強誘電体薄膜の下部電極層として都合がよいが、酸素バリア特性は低い。
【0008】
BLT強誘電体薄膜層を室温で形成する方法には、ゾルゲル法やMOD(Metal Organic Decomposition)法などの有機物を出発原料とする方法と、スパッタリング法などの有機物を出発原料としない方法がある。
ゾルゲル法やMOD法は、強誘電体薄膜が多元素で構成される酸化物である場合でも組成制御が容易であるため、多くの強誘電体薄膜の形成に用いられている。
【0009】
例えば、特開2002−87819号公報には、ビスマスランタンチタネート、ビスマスランタンチタネート薄膜およびその製造方法、並びにこの薄膜を用いた電子素子が開示され、ビスマスランタンチタネート薄膜すなわちBLT薄膜がBi4−xLaxTi3O12(0<x≦2)で表されることを特徴としているが、強誘電体薄膜であるBLT薄膜は、MOD法により形成されている。
また、特開2002−26001号公報にも、誘電体膜および半導体装置が開示され、BLT薄膜が等粒状組織を有するように形成されることを特徴としているが、BLT薄膜は、MOD法によって形成されている。
【0010】
ゾルゲル法やMOD法による強誘電体薄膜層には、結晶化熱処理前の状態で安定な金属−酸素の結合が形成されている。強誘電体薄膜を結晶化熱処理する過程において、Ti薄膜の酸素親和性は、かなり高い状態になるが、この安定な結合が存在するため、強誘電体薄膜層が酸素を奪われることは少ない。
その結果、Pt/Ti界面で相互拡散によるTi薄膜(密着層)、Pt薄膜(下部電極層)に乱れは生じるものの、強誘電体薄膜層が大きな影響を受けることはなく、強誘電性が大幅に低下する現象は起き難い。
【0011】
これに対して、スパッタリング法は、半導体産業において生産性や再現性の面で既に実績が築かれているが、構成元素間の蒸気圧が異なるため、組成制御はゾルゲル法やMOD法ほど容易ではない。このような背景から、強誘電体薄膜層の研究もしくは生産初期の段階では、組成制御が容易なゾルゲル法やMOD法などの方法が広く用いられてきた。
しかし、強誘電体薄膜キャパシタの本格的な生産段階を迎えて、強誘電体薄膜の生産性や再現性が問われ、技術的に組成制御が可能になったことから、スパッタリング法があらためて注目されている。
【0012】
スパッタリング法で成膜したBLT強誘電体薄膜層は、ゾルゲル法などによる成膜層と比べると、金属−酸素間の結合安定性に乏しい。そのため、BLT強誘電体薄膜層を結晶化熱処理する過程において、Ti薄膜(密着層)が酸素バリア特性の低いPt薄膜(下部電極層)を介して、強誘電体薄膜層から酸素を奪う現象が起こる。酸素が不足した状態では、BLT強誘電体相であるべきBLT強誘電体薄膜層にパイロクロア相Bi2Ti2O7などの常誘電体相が生成されやすい。この常誘電体相が多量に生じると、強誘電性が大きく損なわれてしまう。
【0013】
このように、スパッタリング法で成膜したBLT強誘電体薄膜層を、酸素親和性の高いTi薄膜(密着層)、酸素バリア特性の低いPt薄膜(下部電極層)と組み合わせた場合には問題がある。
【0014】
しかし、BLT強誘電体薄膜そのものが新しい材料であるうえ、スパッタリング法による研究は前記の理由からあまり多くない。そのため、BLT強誘電体キャパシタにおけるパイロクロア相などの第二相の生成を根本的に解決する方法は提案されておらず、安定的にBLT強誘電体相を得ることが可能なBLT強誘電体薄膜およびその作製方法についての報告も殆どなされていない。
【0015】
また、BLTの結晶は、強誘電性を示す((Bi,La)2Ti3O10)2−層と、強誘電性を示さない、すなわち常誘電性の(Bi2O2)2+層が交互に積層した、Bi層状ぺロブスカイト構造をとる。この構造に由来して、強誘電層が常誘電層によって分断されるc軸方向には、強誘電性をほとんど示さず、a軸方向に強誘電性を示すとされている。
【0016】
したがって、BLTの強誘電性を向上するためには、c軸方向の結晶成長を抑制することが有効であると考えられる。これを実現する方法としては、エピタキシャル成膜によるa軸、b軸方向への配向技術(「FeRAM2001 Extended Abstract」44頁)はあるが、特殊で高価な電極を必要とするため技術的に困難であり、上記のキャパシタ作製工程への適用が簡便な方法は未だ提案されていない。
【0017】
そのため、こうした状況下、BLT強誘電体薄膜層中におけるパイロクロア相の形成を抑制して、BLT結晶がc軸方向に実質的に配向しないBLT強誘電体薄膜キャパシタを容易に作製しうる方法の出現が切望されていた。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、前述した従来技術の問題点に鑑み、強誘電体特性を利用した不揮発性メモリなどの各種デバイスに供されるBLT強誘電体薄膜キャパシタ、及びそのBLT強誘電体相を安定的かつ簡便に得られる作製方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、強誘電体薄膜キャパシタの作製工程における強誘電体薄膜形成工程、特にBLTの構成元素からなる金属酸化物薄膜を強誘電体薄膜へと結晶化させる熱処理過程に注目して鋭意研究を重ねた結果、従来の熱処理過程では、高い酸素親和性をもつ金属薄膜層が、下部電極層を経由し、BLT強誘電体薄膜層から酸素を奪うため、BLTの結晶化が部分的に阻害され、パイロクロア相などの第二相が生成するという、全く予期もしない新規なメカニズムを解明し、このメカニズムに従って、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層を形成した後、予め、該密着層の酸素親和性を低減させると、BLT強誘電体薄膜中におけるパイロクロア相などの第二相が実質的に存在せず、さらにはBLTの結晶が、強誘電性を示さないc軸方向に実質的に配向しないBLT薄膜が得られることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0020】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、半導体基板上に、少なくとも、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層(A)、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を形成してなるBLT強誘電体薄膜キャパシタであって、前記密着層(A)の酸素親和性を低減させることによりBi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)中におけるパイロクロア相の形成を実質的になくし、さらにBLT結晶がc軸方向に実質的に配向しないことを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタが提供される。
【0021】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、密着層(A)が、Ti薄膜であることを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタが提供される
【0022】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、半導体基板上に、少なくとも、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層(A)、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を順次形成する工程を含むBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法であって、前記密着層(A)を形成した後、引き続き、酸素雰囲気下、500〜1200℃の温度で予備熱処理し金属薄膜の酸素親和性を低減することを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法が提供される。
【0023】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、予備熱処理が、酸素雰囲気下、800〜1200℃の温度で行われることを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法が提供される。
【0024】
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)層が、スパッタリングによって形成されることを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法が提供される。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタおよびその作製方法について詳細に説明する。
【0026】
1.BLT強誘電体薄膜キャパシタ
本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタは、半導体基板上に、少なくとも、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層(A)、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を形成してなるBLT強誘電体薄膜キャパシタにおいて、前記密着層(A)の酸素親和性を低減させることにより、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)中におけるパイロクロア相の形成を実質的になくし、さらにはBLT結晶がc軸方向に実質的に配向しないようにしたBLT強誘電体薄膜キャパシタである。
【0027】
A 密着層
密着層は、半導体基板と下部電極とを接着する金属薄膜である。材料は、Ti、Taなどが挙げられ、これら金属の1種又は2種以上を含有するものであり、最も好ましいのはTiである。金属薄膜は、ターゲットを用いたスパッタリングなどにより、厚さ10〜200nm程度に形成され、当初その酸素親和性は高い状態にあるが、下部電極層が形成される前に、予備熱処理を施して酸素親和性を低い状態にしておくことが重要である。
半導体基板は、特に限定されないが、Si、Ge、ならびにGaAsなどが採用され、特にシリコン単結晶が好ましい。半導体基板には通常、熱酸化などによりSiO2膜(厚さ100〜1000nm)を形成しておく。
【0028】
B 下部電極層
下部電極層は、電気伝導性の金属、すなわちPt、Au、Ir、Ru、Re、若しくはOsから選択される1種以上、又はIrO2、RuO2、若しくはSrRuO3などの電気伝導性酸化物からなる層であり、特にPtが好ましい。この層は、スパッタリングなどにより膜厚が50〜200nmに形成される。
【0029】
C BLT強誘電体薄膜層
強誘電体薄膜層は、(Bi,La)3.8〜4.2Ti2.8〜3.2Ox、Bi/La=3.1〜3.4/0.6〜0.9のBi系層状ペロブスカイト型BLTであって、膜厚は15〜500nmである。薄膜には常誘電体相であるパイロクロア相が実質的に存在しないだけでなく、強誘電性を示さないc軸方向へ実質的に配向しないという特徴を有する。
【0030】
パイロクロア相が実質的に存在しないとは、X線回折パターンの2θ=14.5°付近にBi2Ti2O7(111)の高いピークが見られないことをいう。すなわち、2θ=14.5°付近に高いピークがなければ実質的にパイロクロア相が存在しないといえる。
【0031】
また、BLTの結晶が、c軸方向へ実質的に配向しないとは、X線回折パターンの(Bi,La)4Ti3O12(004)、(006)、(008)、(0010)にピークが認められないことをいう。特に、BLTの場合、2θ=16.5°付近のピーク強度が高くなる傾向にあり、この(006)のピーク強度が低ければ、実質的にc軸に配向していないといえる。
【0032】
D 上部電極層
下部電極層と同様に、電気伝導性の金属、すなわち、Pt、Au、Ir、Ru、Re、若しくはOsから選択される1種以上、又はIrO2、RuO2、若しくはSrRuO3などの電気伝導性酸化物からなる層であり、特にPtが好ましい。この層も、スパッタリングなどにより膜厚が50〜200nmに形成される。
【0033】
このように、本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタは、半導体基板上に、少なくとも密着層(A)、下部電極層(B)、BLT強誘電体薄膜層(C)、上部電極層(D)を積層してなるものであり、これ以外に層間絶縁層、保護膜などを適宜設けることができる。
【0034】
なお、本発明の強誘電体薄膜キャパシタは、スパッタリング法で成膜した強誘電体薄膜がもつ本来の強誘電性を十分に引き出すことが可能な下部電極構造を有するため、不揮発性メモリに限らず、ピロ電気センサ、圧電素子など他のデバイスへの応用も可能であって、用途は特に制限されない。
【0035】
2.BLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法
本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタは、半導体基板上に、少なくとも、密着層(A)、下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および上部電極層(D)を順次形成して作製される。
すなわち、1)半導体基板上への密着層形成工程、2)密着層の予備熱処理工程、3)下部電極層の形成工程、4)BLT強誘電体薄膜層の形成工程、5)上部電極層の形成工程を、この手順で実施して本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタが作製される。
【0036】
1)密着層形成工程は、半導体基板上に、金属薄膜からなる密着層(A)を、スパッタリングなどにより形成する工程である。酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層が形成されることで、半導体基板と下部電極層との接着性を改善することができる。密着層を形成するのに、特に好ましい方法は、Tiターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法である。
【0037】
2)密着層の予備熱処理工程は、該密着層(A)を、特定条件の酸素雰囲気下、特定の温度以上で熱処理する工程である。この工程は、本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法において重要であり、密着層を形成後、引き続いて、500℃以上の温度の酸素雰囲気で熱処理することにより、金属薄膜の酸素親和性を低減する目的で行われる。
【0038】
熱処理温度が500℃以上であれば、Ti薄膜など金属薄膜の酸素親和性を十分低減でき、パイロクロア相を抑制できるが、さらに800℃以上で熱処理することにより、金属薄膜の酸素親和性の低減に加え、BLTが強誘電性を示さないc軸方向に実質的に配向しなくなる効果が得られる。
【0039】
いいかえれば、500〜800℃で密着層を予備熱処理すればBLT相のパイロクロア相を抑制でき、800℃以上の高温で熱処理すれば、パイロクロア相を抑制できるだけでなくc軸方向に実質的に配向しないBLT相が得られるわけである。ただし、1300℃以上の温度は現実的ではない。
【0040】
予備熱処理は、酸素雰囲気下で行うのが好ましく、特に酸素分圧0.2MPa以上とすることが好ましい。熱処理時間は、他の条件にもよるが、1〜60分、好ましくは1〜30分とすればよい。
【0041】
3)下部電極層の形成工程は、密着層の上に、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)を形成する工程である。既に密着層が予備熱処理され、薄膜の酸素親和性が低減されているので、次に形成されるBLT強誘電体薄膜層から、酸素が密着層へと移行するのが阻止される。
【0042】
4)BLT強誘電体薄膜層の形成工程は、スパッタリング法などによって、下部電極上にBi系層状ペロブスカイト型のBLT強誘電体薄膜層(C)を形成する工程である。薄膜は、例えば、Bi3.0〜4.0La0.6〜0.8Ti2.9〜3.1O12ターゲットを使用し、RFマグネトロンスパッタリングにより成膜する。
【0043】
スパッタリング後は、酸素雰囲気下、700℃以上の温度で熱処理する。この工程によって、BLTが結晶化し、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜となる。熱処理温度は、750℃以上が好ましい。また、酸素分圧は、特に0.2MPa以上とすることが好ましい。熱処理時間は、他の条件にもよるが、1〜60分、好ましくは1〜30分とすればよい。
【0044】
下部電極上にBLT強誘電体薄膜をスパッタリングによって形成すると、成膜時の真空度が高いため、成膜直後、酸素欠損の程度が大きくなるが、前記のとおり、金属薄膜からなる密着層は、予備熱処理され、酸素親和性が低減しているので、BLTは、熱処理過程で酸素が奪われることなく層状ペロブスカイト型構造をとり、さらには強誘電性を示さないc軸方向に実質的に配向しなくなる結果、残留分極値が高くなるという顕著な効果を得ることができる。
【0045】
ただし、ゾルゲル膜、MOD膜なども、成膜過程において、酸素欠損の状態になり易いため、当該予備熱処理の効果は充分得られることから、BLT強誘電体薄膜層をゾルゲル法によるスピンコート、MOD法などの方法で形成しても良い。
【0046】
5)最後に、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を、下部電極と同様にして形成する。
以上の工程を経ることによって、BLT強誘電体薄膜キャパシタの作製工程が完結するが、必要により、BLT強誘電体薄膜の再熱処理工程を付加できる。再熱処理は、酸素雰囲気下、温度450〜800℃、特に500〜600℃で行うことが好ましい。また、酸素分圧は、特に0.2MPa以上が好ましい。
【0047】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
本発明の強誘電体薄膜キャパシタを以下の方法で作製した。
予め、熱酸化によって膜厚500nmのSiO2を形成したSiO2/Siウェハー上に、φ6インチのTiターゲットを使用して、DCマグネトロンスパッタリングで、出力200W、Ar圧0.3Paの条件にて膜厚130nmのTi薄膜を形成した。
その後、30℃/秒で昇温したあと、酸素中(酸素分圧1.0MPa)にて、500℃で、30分、予備熱処理を行ない、炉冷した。続いて、φ6インチのPtターゲットを使用し、RFマグネトロンスパッタリングによって、出力100W、Ar圧0.3Paの条件にて膜厚160nmのPt薄膜を形成した。
さらに、Pt薄膜上に、φ6インチのBi3.51La0.68Ti3.0O12ターゲットを使用し、RFマグネトロンスパッタリングで、出力200W、Ar圧2.0Paの条件にて膜厚220nmのBLT構成金属元素からなる金属酸化物薄膜を形成した。
次に、金属酸化物薄膜を750℃、30分、酸素中にて熱処理することにより結晶化させ、BLT薄膜とした。この上に、前出のPt薄膜と同じ条件にて、φ500μm、膜厚160nmのPt薄膜を形成した。最後に、600℃、30分、酸素中にて再熱処理を行った。
作製したBLT強誘電体薄膜の組成をICP発光分光分析法によって分析したところ、Bi/La/Ti=3.27/0.76/3.00であった。
【0049】
(実施例2〜7)
予備熱処理の温度条件を、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1200℃に変えた以外は、実施例1と全く同じ方法でBLT強誘電体薄膜キャパシタを作製した。
【0050】
(比較例1)
Ti薄膜形成後に予備熱処理を行わない以外は、実施例1と全く同じ方法でBLT強誘電体薄膜キャパシタを作製した。
【0051】
(比較例2、3)
400℃、450℃において予備熱処理を行った以外は、実施例1と全く同じ方法でBLT強誘電体薄膜キャパシタを作製した。
【0052】
実施例1〜7、比較例1〜3で作製したBLT強誘電体薄膜キャパシタの強誘電性を周波数100Hz、印加電圧5Vの条件で評価した。また、X線回折パターンを測定し、2θ=14.5°付近に現れるパイロクロア相Bi2Ti2O7のピークの有無を調べた。さらに、BLTの結晶がc軸方向へどの程度配向しているのかを調べるために、BLT相(006)のピーク強度を求めた。前記したとおり、BLT相(006)ピーク強度が低ければ、c軸配向が抑制されたことになる。実施例1〜7、比較例1〜3について、これらの結果を表1にまとめて示した。
【0053】
【表1】
【0054】
Ti成膜後の予備熱処理温度と残留分極値2Prの対応をみると、予備熱処理をしない、もしくは450℃以下で予備熱処理すると、残留分極値は2Pr=18.8〜20.2μC/cm2を示し、予備熱処理の効果は認められないが、500〜700℃では、35μC/cm2前後まで急激に向上し、大きな効果が認められる。さらに、800℃以上では、39μC/cm2前後まで一段と向上し、より大きな効果が認められる。
【0055】
次に、Ti成膜後の予備熱処理温度とパイロクロア相生成の対応をみると、予備熱処理をしない、もしくは450℃以下で予備熱処理するとパイロクロア相が生成するが、500℃以上での予備熱処理を施した場合には、パイロクロア相は生成しない。すなわち、500℃以上での予備熱処理は、パイロクロア相の抑制に有効であることが明らかである。
【0056】
さらに、Ti成膜後の予備熱処理温度と(006)ピーク強度の対応をみると、残留分極値が2Pr=35μC/cm2前後を示す予備熱処理温度700℃までは、(006)ピーク強度が3000cps前後まで高くなっていき、BLTの結晶にはc軸方向成分も含まれているが、残留分極値が2Pr=39μC/cm2前後を示す800℃では1000cps前後まで低下し、さらに900℃以上では300cps以下まで低下していることから、BLTの結晶にはc軸方向成分が著しく減少していることがわかる。
すなわち、Ti成膜後に800℃以上の予備熱処理を施すことによって、BLTの結晶が実質的にc軸方向に配向しなくなり、残留分極値が2Pr=39μC/cm2前後まで大きく向上する効果が得られることが明らかである。
以上から、Ti成膜後、500℃以上、特に800℃以上で予備熱処理することが有効であると言える。
【0057】
【発明の効果】
以上、詳述した通り、本発明の強誘電体薄膜キャパシタによれば、予め密着層の酸素親和性を低下させているので、BLT強誘電体薄膜層中に、BLTとは異なるパイロクロアなどの常誘電体相が形成されず、その結果、従来のBLTをはるかに凌ぐ、極めて高い残留分極値を有することから、不揮発性メモリなどの各種デバイスへ広範に応用できる。また、本発明の作製方法によれば、このようなBLT強誘電体薄膜キャパシタを再現性良く製造することが可能であって、その工業的価値は極めて大きい。
【発明の属する技術分野】
本発明は、BLT強誘電体薄膜キャパシタ及びその作製方法に関し、さらに詳しくは、強誘電体特性を利用した不揮発性メモリなどの各種デバイスに供されるBLT強誘電体薄膜キャパシタ、及びそのBLT強誘電体相が安定的かつ簡便に得られる作製方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、PZT(すなわち、PbZrOx−PbTiOx系)などのPb系ペロブスカイト型酸化物、あるいはSBT(すなわち、SrBi2Ta2Ox系)などのBi系層状ペロブスカイト型酸化物といった強誘電体薄膜を、不揮発性メモリに応用する研究、FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)の研究が盛んに行われている。
【0003】
FeRAMは、強誘電体のヒステリシス特性を利用するため、残留分極が大きく、分極反転疲労特性に優れた(繰り返し分極反転しても残留分極が低下しない)強誘電体薄膜材料が求められる。
【0004】
最近、Bi系層状ぺロブスカイト型酸化物の一種であるBLT、すなわち(Bi,La)4Ti3O12は、PZTとSBTのそれぞれの特徴である高い残留分極値と優れた分極反転疲労特性を合わせ持つことが明らかにされ、PZT、SBTに続く薄膜材料として研究されている。
【0005】
一般的なFeRAMのキャパシタは、基板上に酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層を形成する工程、該密着層上に電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層を形成する工程、下部電極層上に強誘電体材料の構成金属元素からなる金属酸化物薄膜層を形成した後に、該薄膜層を熱処理して結晶化させ強誘電体薄膜層を形成する工程、強誘電体薄膜層上に電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層を形成する工程、エッチング加工してキャパシタ構造を形成する工程、および必要に応じて再熱処理する工程を経ることで作製されている。
【0006】
基板としてはバリア層(SiO2皮膜)をSi表面に形成したSiO2/Si基板、密着層としてはTi薄膜、上部・下部電極層としてはPt薄膜が用いられることが多い。
【0007】
Ti薄膜は、Pt薄膜とSiO2皮膜の双方に対して密着性がよく、Pt薄膜は導電性が高く、化学的に安定であるため、強誘電体薄膜の下部電極層として都合がよいが、酸素バリア特性は低い。
【0008】
BLT強誘電体薄膜層を室温で形成する方法には、ゾルゲル法やMOD(Metal Organic Decomposition)法などの有機物を出発原料とする方法と、スパッタリング法などの有機物を出発原料としない方法がある。
ゾルゲル法やMOD法は、強誘電体薄膜が多元素で構成される酸化物である場合でも組成制御が容易であるため、多くの強誘電体薄膜の形成に用いられている。
【0009】
例えば、特開2002−87819号公報には、ビスマスランタンチタネート、ビスマスランタンチタネート薄膜およびその製造方法、並びにこの薄膜を用いた電子素子が開示され、ビスマスランタンチタネート薄膜すなわちBLT薄膜がBi4−xLaxTi3O12(0<x≦2)で表されることを特徴としているが、強誘電体薄膜であるBLT薄膜は、MOD法により形成されている。
また、特開2002−26001号公報にも、誘電体膜および半導体装置が開示され、BLT薄膜が等粒状組織を有するように形成されることを特徴としているが、BLT薄膜は、MOD法によって形成されている。
【0010】
ゾルゲル法やMOD法による強誘電体薄膜層には、結晶化熱処理前の状態で安定な金属−酸素の結合が形成されている。強誘電体薄膜を結晶化熱処理する過程において、Ti薄膜の酸素親和性は、かなり高い状態になるが、この安定な結合が存在するため、強誘電体薄膜層が酸素を奪われることは少ない。
その結果、Pt/Ti界面で相互拡散によるTi薄膜(密着層)、Pt薄膜(下部電極層)に乱れは生じるものの、強誘電体薄膜層が大きな影響を受けることはなく、強誘電性が大幅に低下する現象は起き難い。
【0011】
これに対して、スパッタリング法は、半導体産業において生産性や再現性の面で既に実績が築かれているが、構成元素間の蒸気圧が異なるため、組成制御はゾルゲル法やMOD法ほど容易ではない。このような背景から、強誘電体薄膜層の研究もしくは生産初期の段階では、組成制御が容易なゾルゲル法やMOD法などの方法が広く用いられてきた。
しかし、強誘電体薄膜キャパシタの本格的な生産段階を迎えて、強誘電体薄膜の生産性や再現性が問われ、技術的に組成制御が可能になったことから、スパッタリング法があらためて注目されている。
【0012】
スパッタリング法で成膜したBLT強誘電体薄膜層は、ゾルゲル法などによる成膜層と比べると、金属−酸素間の結合安定性に乏しい。そのため、BLT強誘電体薄膜層を結晶化熱処理する過程において、Ti薄膜(密着層)が酸素バリア特性の低いPt薄膜(下部電極層)を介して、強誘電体薄膜層から酸素を奪う現象が起こる。酸素が不足した状態では、BLT強誘電体相であるべきBLT強誘電体薄膜層にパイロクロア相Bi2Ti2O7などの常誘電体相が生成されやすい。この常誘電体相が多量に生じると、強誘電性が大きく損なわれてしまう。
【0013】
このように、スパッタリング法で成膜したBLT強誘電体薄膜層を、酸素親和性の高いTi薄膜(密着層)、酸素バリア特性の低いPt薄膜(下部電極層)と組み合わせた場合には問題がある。
【0014】
しかし、BLT強誘電体薄膜そのものが新しい材料であるうえ、スパッタリング法による研究は前記の理由からあまり多くない。そのため、BLT強誘電体キャパシタにおけるパイロクロア相などの第二相の生成を根本的に解決する方法は提案されておらず、安定的にBLT強誘電体相を得ることが可能なBLT強誘電体薄膜およびその作製方法についての報告も殆どなされていない。
【0015】
また、BLTの結晶は、強誘電性を示す((Bi,La)2Ti3O10)2−層と、強誘電性を示さない、すなわち常誘電性の(Bi2O2)2+層が交互に積層した、Bi層状ぺロブスカイト構造をとる。この構造に由来して、強誘電層が常誘電層によって分断されるc軸方向には、強誘電性をほとんど示さず、a軸方向に強誘電性を示すとされている。
【0016】
したがって、BLTの強誘電性を向上するためには、c軸方向の結晶成長を抑制することが有効であると考えられる。これを実現する方法としては、エピタキシャル成膜によるa軸、b軸方向への配向技術(「FeRAM2001 Extended Abstract」44頁)はあるが、特殊で高価な電極を必要とするため技術的に困難であり、上記のキャパシタ作製工程への適用が簡便な方法は未だ提案されていない。
【0017】
そのため、こうした状況下、BLT強誘電体薄膜層中におけるパイロクロア相の形成を抑制して、BLT結晶がc軸方向に実質的に配向しないBLT強誘電体薄膜キャパシタを容易に作製しうる方法の出現が切望されていた。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、前述した従来技術の問題点に鑑み、強誘電体特性を利用した不揮発性メモリなどの各種デバイスに供されるBLT強誘電体薄膜キャパシタ、及びそのBLT強誘電体相を安定的かつ簡便に得られる作製方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、強誘電体薄膜キャパシタの作製工程における強誘電体薄膜形成工程、特にBLTの構成元素からなる金属酸化物薄膜を強誘電体薄膜へと結晶化させる熱処理過程に注目して鋭意研究を重ねた結果、従来の熱処理過程では、高い酸素親和性をもつ金属薄膜層が、下部電極層を経由し、BLT強誘電体薄膜層から酸素を奪うため、BLTの結晶化が部分的に阻害され、パイロクロア相などの第二相が生成するという、全く予期もしない新規なメカニズムを解明し、このメカニズムに従って、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層を形成した後、予め、該密着層の酸素親和性を低減させると、BLT強誘電体薄膜中におけるパイロクロア相などの第二相が実質的に存在せず、さらにはBLTの結晶が、強誘電性を示さないc軸方向に実質的に配向しないBLT薄膜が得られることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0020】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、半導体基板上に、少なくとも、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層(A)、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を形成してなるBLT強誘電体薄膜キャパシタであって、前記密着層(A)の酸素親和性を低減させることによりBi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)中におけるパイロクロア相の形成を実質的になくし、さらにBLT結晶がc軸方向に実質的に配向しないことを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタが提供される。
【0021】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、密着層(A)が、Ti薄膜であることを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタが提供される
【0022】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、半導体基板上に、少なくとも、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層(A)、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を順次形成する工程を含むBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法であって、前記密着層(A)を形成した後、引き続き、酸素雰囲気下、500〜1200℃の温度で予備熱処理し金属薄膜の酸素親和性を低減することを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法が提供される。
【0023】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、予備熱処理が、酸素雰囲気下、800〜1200℃の温度で行われることを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法が提供される。
【0024】
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)層が、スパッタリングによって形成されることを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法が提供される。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタおよびその作製方法について詳細に説明する。
【0026】
1.BLT強誘電体薄膜キャパシタ
本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタは、半導体基板上に、少なくとも、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層(A)、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を形成してなるBLT強誘電体薄膜キャパシタにおいて、前記密着層(A)の酸素親和性を低減させることにより、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)中におけるパイロクロア相の形成を実質的になくし、さらにはBLT結晶がc軸方向に実質的に配向しないようにしたBLT強誘電体薄膜キャパシタである。
【0027】
A 密着層
密着層は、半導体基板と下部電極とを接着する金属薄膜である。材料は、Ti、Taなどが挙げられ、これら金属の1種又は2種以上を含有するものであり、最も好ましいのはTiである。金属薄膜は、ターゲットを用いたスパッタリングなどにより、厚さ10〜200nm程度に形成され、当初その酸素親和性は高い状態にあるが、下部電極層が形成される前に、予備熱処理を施して酸素親和性を低い状態にしておくことが重要である。
半導体基板は、特に限定されないが、Si、Ge、ならびにGaAsなどが採用され、特にシリコン単結晶が好ましい。半導体基板には通常、熱酸化などによりSiO2膜(厚さ100〜1000nm)を形成しておく。
【0028】
B 下部電極層
下部電極層は、電気伝導性の金属、すなわちPt、Au、Ir、Ru、Re、若しくはOsから選択される1種以上、又はIrO2、RuO2、若しくはSrRuO3などの電気伝導性酸化物からなる層であり、特にPtが好ましい。この層は、スパッタリングなどにより膜厚が50〜200nmに形成される。
【0029】
C BLT強誘電体薄膜層
強誘電体薄膜層は、(Bi,La)3.8〜4.2Ti2.8〜3.2Ox、Bi/La=3.1〜3.4/0.6〜0.9のBi系層状ペロブスカイト型BLTであって、膜厚は15〜500nmである。薄膜には常誘電体相であるパイロクロア相が実質的に存在しないだけでなく、強誘電性を示さないc軸方向へ実質的に配向しないという特徴を有する。
【0030】
パイロクロア相が実質的に存在しないとは、X線回折パターンの2θ=14.5°付近にBi2Ti2O7(111)の高いピークが見られないことをいう。すなわち、2θ=14.5°付近に高いピークがなければ実質的にパイロクロア相が存在しないといえる。
【0031】
また、BLTの結晶が、c軸方向へ実質的に配向しないとは、X線回折パターンの(Bi,La)4Ti3O12(004)、(006)、(008)、(0010)にピークが認められないことをいう。特に、BLTの場合、2θ=16.5°付近のピーク強度が高くなる傾向にあり、この(006)のピーク強度が低ければ、実質的にc軸に配向していないといえる。
【0032】
D 上部電極層
下部電極層と同様に、電気伝導性の金属、すなわち、Pt、Au、Ir、Ru、Re、若しくはOsから選択される1種以上、又はIrO2、RuO2、若しくはSrRuO3などの電気伝導性酸化物からなる層であり、特にPtが好ましい。この層も、スパッタリングなどにより膜厚が50〜200nmに形成される。
【0033】
このように、本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタは、半導体基板上に、少なくとも密着層(A)、下部電極層(B)、BLT強誘電体薄膜層(C)、上部電極層(D)を積層してなるものであり、これ以外に層間絶縁層、保護膜などを適宜設けることができる。
【0034】
なお、本発明の強誘電体薄膜キャパシタは、スパッタリング法で成膜した強誘電体薄膜がもつ本来の強誘電性を十分に引き出すことが可能な下部電極構造を有するため、不揮発性メモリに限らず、ピロ電気センサ、圧電素子など他のデバイスへの応用も可能であって、用途は特に制限されない。
【0035】
2.BLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法
本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタは、半導体基板上に、少なくとも、密着層(A)、下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および上部電極層(D)を順次形成して作製される。
すなわち、1)半導体基板上への密着層形成工程、2)密着層の予備熱処理工程、3)下部電極層の形成工程、4)BLT強誘電体薄膜層の形成工程、5)上部電極層の形成工程を、この手順で実施して本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタが作製される。
【0036】
1)密着層形成工程は、半導体基板上に、金属薄膜からなる密着層(A)を、スパッタリングなどにより形成する工程である。酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層が形成されることで、半導体基板と下部電極層との接着性を改善することができる。密着層を形成するのに、特に好ましい方法は、Tiターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法である。
【0037】
2)密着層の予備熱処理工程は、該密着層(A)を、特定条件の酸素雰囲気下、特定の温度以上で熱処理する工程である。この工程は、本発明のBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法において重要であり、密着層を形成後、引き続いて、500℃以上の温度の酸素雰囲気で熱処理することにより、金属薄膜の酸素親和性を低減する目的で行われる。
【0038】
熱処理温度が500℃以上であれば、Ti薄膜など金属薄膜の酸素親和性を十分低減でき、パイロクロア相を抑制できるが、さらに800℃以上で熱処理することにより、金属薄膜の酸素親和性の低減に加え、BLTが強誘電性を示さないc軸方向に実質的に配向しなくなる効果が得られる。
【0039】
いいかえれば、500〜800℃で密着層を予備熱処理すればBLT相のパイロクロア相を抑制でき、800℃以上の高温で熱処理すれば、パイロクロア相を抑制できるだけでなくc軸方向に実質的に配向しないBLT相が得られるわけである。ただし、1300℃以上の温度は現実的ではない。
【0040】
予備熱処理は、酸素雰囲気下で行うのが好ましく、特に酸素分圧0.2MPa以上とすることが好ましい。熱処理時間は、他の条件にもよるが、1〜60分、好ましくは1〜30分とすればよい。
【0041】
3)下部電極層の形成工程は、密着層の上に、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)を形成する工程である。既に密着層が予備熱処理され、薄膜の酸素親和性が低減されているので、次に形成されるBLT強誘電体薄膜層から、酸素が密着層へと移行するのが阻止される。
【0042】
4)BLT強誘電体薄膜層の形成工程は、スパッタリング法などによって、下部電極上にBi系層状ペロブスカイト型のBLT強誘電体薄膜層(C)を形成する工程である。薄膜は、例えば、Bi3.0〜4.0La0.6〜0.8Ti2.9〜3.1O12ターゲットを使用し、RFマグネトロンスパッタリングにより成膜する。
【0043】
スパッタリング後は、酸素雰囲気下、700℃以上の温度で熱処理する。この工程によって、BLTが結晶化し、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜となる。熱処理温度は、750℃以上が好ましい。また、酸素分圧は、特に0.2MPa以上とすることが好ましい。熱処理時間は、他の条件にもよるが、1〜60分、好ましくは1〜30分とすればよい。
【0044】
下部電極上にBLT強誘電体薄膜をスパッタリングによって形成すると、成膜時の真空度が高いため、成膜直後、酸素欠損の程度が大きくなるが、前記のとおり、金属薄膜からなる密着層は、予備熱処理され、酸素親和性が低減しているので、BLTは、熱処理過程で酸素が奪われることなく層状ペロブスカイト型構造をとり、さらには強誘電性を示さないc軸方向に実質的に配向しなくなる結果、残留分極値が高くなるという顕著な効果を得ることができる。
【0045】
ただし、ゾルゲル膜、MOD膜なども、成膜過程において、酸素欠損の状態になり易いため、当該予備熱処理の効果は充分得られることから、BLT強誘電体薄膜層をゾルゲル法によるスピンコート、MOD法などの方法で形成しても良い。
【0046】
5)最後に、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を、下部電極と同様にして形成する。
以上の工程を経ることによって、BLT強誘電体薄膜キャパシタの作製工程が完結するが、必要により、BLT強誘電体薄膜の再熱処理工程を付加できる。再熱処理は、酸素雰囲気下、温度450〜800℃、特に500〜600℃で行うことが好ましい。また、酸素分圧は、特に0.2MPa以上が好ましい。
【0047】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
本発明の強誘電体薄膜キャパシタを以下の方法で作製した。
予め、熱酸化によって膜厚500nmのSiO2を形成したSiO2/Siウェハー上に、φ6インチのTiターゲットを使用して、DCマグネトロンスパッタリングで、出力200W、Ar圧0.3Paの条件にて膜厚130nmのTi薄膜を形成した。
その後、30℃/秒で昇温したあと、酸素中(酸素分圧1.0MPa)にて、500℃で、30分、予備熱処理を行ない、炉冷した。続いて、φ6インチのPtターゲットを使用し、RFマグネトロンスパッタリングによって、出力100W、Ar圧0.3Paの条件にて膜厚160nmのPt薄膜を形成した。
さらに、Pt薄膜上に、φ6インチのBi3.51La0.68Ti3.0O12ターゲットを使用し、RFマグネトロンスパッタリングで、出力200W、Ar圧2.0Paの条件にて膜厚220nmのBLT構成金属元素からなる金属酸化物薄膜を形成した。
次に、金属酸化物薄膜を750℃、30分、酸素中にて熱処理することにより結晶化させ、BLT薄膜とした。この上に、前出のPt薄膜と同じ条件にて、φ500μm、膜厚160nmのPt薄膜を形成した。最後に、600℃、30分、酸素中にて再熱処理を行った。
作製したBLT強誘電体薄膜の組成をICP発光分光分析法によって分析したところ、Bi/La/Ti=3.27/0.76/3.00であった。
【0049】
(実施例2〜7)
予備熱処理の温度条件を、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1200℃に変えた以外は、実施例1と全く同じ方法でBLT強誘電体薄膜キャパシタを作製した。
【0050】
(比較例1)
Ti薄膜形成後に予備熱処理を行わない以外は、実施例1と全く同じ方法でBLT強誘電体薄膜キャパシタを作製した。
【0051】
(比較例2、3)
400℃、450℃において予備熱処理を行った以外は、実施例1と全く同じ方法でBLT強誘電体薄膜キャパシタを作製した。
【0052】
実施例1〜7、比較例1〜3で作製したBLT強誘電体薄膜キャパシタの強誘電性を周波数100Hz、印加電圧5Vの条件で評価した。また、X線回折パターンを測定し、2θ=14.5°付近に現れるパイロクロア相Bi2Ti2O7のピークの有無を調べた。さらに、BLTの結晶がc軸方向へどの程度配向しているのかを調べるために、BLT相(006)のピーク強度を求めた。前記したとおり、BLT相(006)ピーク強度が低ければ、c軸配向が抑制されたことになる。実施例1〜7、比較例1〜3について、これらの結果を表1にまとめて示した。
【0053】
【表1】
【0054】
Ti成膜後の予備熱処理温度と残留分極値2Prの対応をみると、予備熱処理をしない、もしくは450℃以下で予備熱処理すると、残留分極値は2Pr=18.8〜20.2μC/cm2を示し、予備熱処理の効果は認められないが、500〜700℃では、35μC/cm2前後まで急激に向上し、大きな効果が認められる。さらに、800℃以上では、39μC/cm2前後まで一段と向上し、より大きな効果が認められる。
【0055】
次に、Ti成膜後の予備熱処理温度とパイロクロア相生成の対応をみると、予備熱処理をしない、もしくは450℃以下で予備熱処理するとパイロクロア相が生成するが、500℃以上での予備熱処理を施した場合には、パイロクロア相は生成しない。すなわち、500℃以上での予備熱処理は、パイロクロア相の抑制に有効であることが明らかである。
【0056】
さらに、Ti成膜後の予備熱処理温度と(006)ピーク強度の対応をみると、残留分極値が2Pr=35μC/cm2前後を示す予備熱処理温度700℃までは、(006)ピーク強度が3000cps前後まで高くなっていき、BLTの結晶にはc軸方向成分も含まれているが、残留分極値が2Pr=39μC/cm2前後を示す800℃では1000cps前後まで低下し、さらに900℃以上では300cps以下まで低下していることから、BLTの結晶にはc軸方向成分が著しく減少していることがわかる。
すなわち、Ti成膜後に800℃以上の予備熱処理を施すことによって、BLTの結晶が実質的にc軸方向に配向しなくなり、残留分極値が2Pr=39μC/cm2前後まで大きく向上する効果が得られることが明らかである。
以上から、Ti成膜後、500℃以上、特に800℃以上で予備熱処理することが有効であると言える。
【0057】
【発明の効果】
以上、詳述した通り、本発明の強誘電体薄膜キャパシタによれば、予め密着層の酸素親和性を低下させているので、BLT強誘電体薄膜層中に、BLTとは異なるパイロクロアなどの常誘電体相が形成されず、その結果、従来のBLTをはるかに凌ぐ、極めて高い残留分極値を有することから、不揮発性メモリなどの各種デバイスへ広範に応用できる。また、本発明の作製方法によれば、このようなBLT強誘電体薄膜キャパシタを再現性良く製造することが可能であって、その工業的価値は極めて大きい。
Claims (5)
- 半導体基板上に、少なくとも、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層(A)、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を形成してなるBLT強誘電体薄膜キャパシタであって、
前記密着層(A)の酸素親和性を低減させることによりBi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)中におけるパイロクロア相の形成を実質的になくし、さらにBLT結晶がc軸方向に実質的に配向しないことを特徴とするBLT強誘電体薄膜キャパシタ。 - 密着層(A)が、Ti薄膜であることを特徴とする請求項1に記載のBLT強誘電体薄膜キャパシタ。
- 半導体基板上に、少なくとも、酸素親和性が高い金属薄膜からなる密着層(A)、電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる下部電極層(B)、Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)、および電気伝導性の金属薄膜または酸化物薄膜からなる上部電極層(D)を順次形成するBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法であって、
前記密着層(A)を形成した後、引き続き、酸素雰囲気下、500〜1200℃の温度で予備熱処理し金属薄膜の酸素親和性を低減することを特徴とする請求項1に記載のBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法。 - 予備熱処理が、酸素雰囲気下、800〜1200℃の温度で行われることを特徴とする請求項3に記載のBLT強誘電体薄膜キャパシタの作製方法。
- Bi系層状ペロブスカイト型BLT強誘電体薄膜層(C)層が、スパッタリングによって形成されることを特徴とする請求項3又は4に記載の強誘電体薄膜キャパシタの作製方法。
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