JP2004076822A - トロイダル形無段変速機 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐久性に優れた長寿命のトロイダル形無段変速機を提供する。
【解決手段】少なくとも入出力ディスク1,2と、該入出力ディスク1,2を転走するパワーローラ6a,7aとを備えたトロイダル形無段変速機20において、前記入出力ディスク1,2及び前記パワーローラ6a,7aの内の少なくとも一つが、S(硫黄)の含有量が、 S≦0.013%であり、 かつ硫化物系介在物の最大長が最大接触楕円の長径の1/5以下である鋼からなる。
【選択図】 図6
【解決手段】少なくとも入出力ディスク1,2と、該入出力ディスク1,2を転走するパワーローラ6a,7aとを備えたトロイダル形無段変速機20において、前記入出力ディスク1,2及び前記パワーローラ6a,7aの内の少なくとも一つが、S(硫黄)の含有量が、 S≦0.013%であり、 かつ硫化物系介在物の最大長が最大接触楕円の長径の1/5以下である鋼からなる。
【選択図】 図6
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車用の自動変速機として用いられるトロイダル形無段変速機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のトロイダル型無段変速機20は、 例えば、 図6に示すように、 入力ディスク1と出力ディスク2とが図示しないハウジング内に同軸上に互いに対向配置されている。この入力ディスク1および出力ディスク2を有するトロイダル変速部の軸心部分には入力軸3が貫通配置されており、この入力軸3の一端(右端)にはローディングカム4が配設されている。 このローディングカム4が、 カムローラ5を介して入力ディスク1に入力軸3の動力( 回転力) を伝達するようになっている。
【0003】
入力ディスク1および出力ディスク2は略同一形状とされており、 それらの対向面が協働して軸方向断面で見て略半円形となるようなトロイダル面を形成している。入力ディスク1および出力ディスク2のトロイダル面で形成されるトロイダルキャビティ内には、 入力ディスク1および出力ディスク2に接して一対の運転伝達用のパワーローラ軸受6およびパワーローラ軸受7が配設されている。
【0004】
なお、 前記パワーローラ軸受6は、 入力ディスク1および出力ディスク2のトロイダル面を転走するパワーローラ6a(パワーローラ軸受6を構成する内輪に相当)、外輪6bおよび複数の転動体(鋼球)6cから構成されており、 パワーローラ軸受7は、 入力ディスク1および出力ディスク2のトロイダル面を転走するパワーローラ7a(パワーローラ軸受7を構成する内輪に相当)、外輪7bおよび複数の転動体(鋼球)7cから構成されている。
【0005】
即ち、前記パワーローラ6aは、 パワーローラ軸受6を構成する内輪の役割も兼ねており、 前記パワーローラ7aは、 パワーローラ軸受7を構成する内輪の役割も兼ねている。 この構造では、 前記パワーローラ6aは、 枢軸8、 外輪6bおよび複数の転動体6cを介してトラニオン10に回転自在に支持されると共に、 入力ディスク1および出力ディスク2のトロイダル面の中心となるピボット軸Oを中心として傾転自在に支持されている。
【0006】
一方、 前記パワーローラ7aは、 枢軸9、 外輪7bおよび複数の転動体7cを介してトラニオン11に回転自在に支持されると共に、 入力ディスク1および出力ディスク2のトロイダル面の中心となるピボット軸Oを中心として傾転自在に支持されている。
そして、 前記入力ディスク1および出力ディスク2、 パワーローラ6aおよびパワーローラ7aとの接触面には、 粘性摩擦抵抗の大きい潤滑油が供給され、 入力ディスク1に入力される動力を、 潤滑油膜とパワーローラ6aおよびパワーローラ7aとを介して出力ディスク2に伝達する構造となっている。
【0007】
なお、 前記入力ディスク1および出力ディスク2は、 ニードルベアリング12を介して入力軸3とは独立した状態(すなわち、 入力軸3の動力に直接影響されない状態) となっている。 前記出力ディスク2には、 入力軸3と平行に配設されると共に、 アンギュラ玉軸受13を介して図示しないハウジングに回転自在に支持された出力軸14が配設されている。
【0008】
このトロイダル形無段変速機20では、 入力軸3の動力がローディングカム4に伝達され、この動力の伝達によりローディングカム4が回転すると、 この回転による動力がカムローラ5を介して入力ディスク1に伝達され、 該入力ディスク1が回転する。 さらに、 この入力ディスク1の回転により発生した動力は、 パワーローラ6aおよびパワーローラ7aを介して出力ディスク2に伝達され、これにより、出力ディスク2が出力軸14と一体となって回転する。
【0009】
また、変速時には、 トラニオン10およびトラニオン11をピボット軸O方向に微小距離移動させると、トラニオン10およびトラニオン11の軸方向移動でパワーローラ6aおよびパワーローラ7aの回転軸と入力ディスク1および出力ディスク2の軸との交差がわずかに外れる。
すると、 パワーローラ6aおよびパワーローラ7aの回転周速度と、 入力ディスク1の回転周速度との均衡が崩れ、 且つ入力ディスク1の回転駆動力の分力によって、 パワーローラ6aおよびパワーローラ7aがピボット軸Oの回りに傾転する。
【0010】
このため、 パワーローラ6aおよびパワーローラ7aが、 入力ディスク1および出力ディスク2の曲面上を傾転し、 その結果、 速度比が変わり、 減速または増速が行われる。
ところで、上記のように構成されるトロイダル形無段変速装置は、より高いトルクの伝達が必要とされるため、入出力ディスク1,2およびパワーローラ6a,7a等が、一般的な歯車や軸受等の通常の繰り返し応力が加わる機械部品と比較して、非常に大きな繰り返し曲げ応力および繰り返しせん断応力を受ける。したがって、これらの入出力ディスク1,2およびパワーローラ6a,7a等は、従来の一般的な機械部品より一層疲労強度の高い材料から製造されることが要求される。
【0011】
このような要求に応える技術として、例えば特開平9−79336号公報には、Crを含有する機械構造用鋼であるSCM420に浸炭窒化処理を施して表面硬さと残留圧縮応力を高くした入出力ディスクおよびパワーローラ等を備えたトロイダル形無段変速機が提案されている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、最近のエンジンの高出力化に伴って従来よりも一層疲労強度に優れた入出力ディスクおよびパワーローラ等を備えたトロイダル形無段変速機が要求されるようになってきており、上記従来のトロイダル形無段変速機では最近のエンジンの高出力化には対応が難しいという問題がある。
【0013】
本発明はこのような技術的要請に応えるためになされたものであり、より疲労強度に優れたトロイダル形無段変速機を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成すべく、 トロイダル形無段変速機の入出力ディスクやパワーローラの疲労メカニズムについて鋭意研究を行った結果、 従来それほど疲労に有害でないと考えられていた硫化物系の介在物を起点として疲労割れや転がり疲労によるはくりが発生することを見い出した。 具体的には、500MPa以上の曲げ応力、3.5GPa以上の接触面圧が加わると鋼中に含まれる硫化物系の介在物が応力集中部となり、き裂が発生して破断或いははくりに至ることを見い出した。
【0015】
そして、本発明者らは、 含有する硫化物系の介在物が異なる数種類の鋼からなる入出力ディスクおよびパワーローラを個別に組み込んだトロイダル形無段変速機について多くの試験を行い、 破損品について調査した結果、これらの硫化物系介在物を起因とする破損についての知見を得、 かかる知見に基づいて疲労強度を向上させるための適切な条件を求め、 本発明を完成するに至ったものである。
【0016】
即ち、上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、少なくとも入出力ディスクと、該入出力ディスクを転走するパワーローラとを備えたトロイダル形無段変速機において、
前記入出力ディスク及び前記パワーローラの内の少なくとも一つが、S(硫黄)の含有量が、 S≦0.013%であり、 かつ硫化物系介在物の最大長が最大接触楕円の長径の1/5以下である鋼からなることを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記S(硫黄)の含有量が、 S≦0.003%であり、かつ硫化物系介在物の最大長が最大接触楕円の長径の1/10以下である鋼からなることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、前記鋼がCa、Te及びZrの内の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
S(硫黄)は鋼中のMnと結合することにより、 MnSを形成する。 このMnSが適量含まれると切削性の向上に寄与する。 そのため、SCr420やSCM420などの浸炭鋼においては、 切削性を確保するためにSの含有量は0.020%程度とし、 鋼中に一定量のMnSを含ませている。
【0019】
しかしながら、トロイダル形無段変速機のように、 極めて高荷重、 高トルクで使用される場合には、 このようなMnSは鋼中の欠陥となって疲労強度を低下させてしまうことになる。
そこで、この実施の形態のトロイダル形無段変速機においては、 特に高い負荷を受ける入出力ディスク、 パワーローラの少なくとも一つは、 鋼中のSの含有量を0. 013%以下、好ましくは0.003%以下とすることにより、 MnSの存在量を減少させるとともに、 そのMnSの最大長を入出力ディスクとパワーローラの接触部において、 最大接触楕円の長径の1/5以下の大きさ、好ましくは1/10以下の大きさとし、これにより、優れた疲労強度を得、最近のエンジンの高出力化への対応を可能にしたものである。
【0020】
ここで、鋼中のSの含有量が0.013%を超えると粗大なMnSを形成しやすくなって十分な疲労割れ強度を得ることができなくなるため、 Sの含有量を0.013%以下とした。 なお、 Sの含有量を0.006%以下、より好ましくは0.003%以下とすることにより、より一層の疲労強度の向上効果を得ることができる。
【0021】
また、MnSの最大長を最大接触楕円の長径の1/5以下の大きさとしたのは、 入出力ディスクおよびパワーローラの転がり面においては、 接触面圧が3.5GPa以上になることがあるが、 その際、大きな(長い)MnSが接触部下に存在すると短時間ではくりが発生してしまうためである。
MnSは素材の圧延時に、 圧延方向に伸ばされることが知られている。 そのため、入出力ディスクおよびパワーローラの鋼中のSの含有量を0.013%以下とすることにより、鋼中のMnS量を減少させ、更に、入出力ディスクおよびパワーローラの転がり面におけるMnSの最大長を最大接触楕円の長径の1/5以下の大きさとして大きなMnSをなくすことにより、短寿命品をなくすことが可能となる。
【0022】
なお、Ca,Te及びZrの内の少なくとも一つの元素を微量添加することにより、鋼中にCa−MnS、Te−MnS、Zr−MnSを生成して圧延、鍛造による変形を抑制し、これにより、MnSの長さを制御してMnSの最大長が最大接触楕円の長径の1/5以下の大きさにすることの容易化を図ることができる。
【実施例】
まず、SCr420の鋼について、Sの含有量を0.003%〜0.030%の範囲で変えたものを溶製した。
【0023】
得られた材料をφ100mmの丸棒に圧延し、圧延方向に対して垂直になる断面から回転曲げ疲労試験片を製造した。試験片は840°Cで焼入れ、180°Cで焼戻しの熱処理を行った。熱処理後、表面の研磨加工を行い、回転曲げ疲労試験を行った。試験結果を図1に示す。
図1は鋼の含有S量と疲労強度との関係を示したものであり、図から明らかなように、Sの含有量が0.013%以下になると疲労強度が向上することが判る。これは破壊の起点となるMnSの存在確率が低くなるためと、MnSの大きさが小さくなるためである。
【0024】
また、上記の材料から、素材の圧延方向と試験片の長手方向が同じになるように圧延方向にシャルピー衝撃試験片を切り出した。試験片は840°Cで焼入れ、180°Cで焼戻しの熱処理を行った。熱処理後、表面仕上げ加工を行い、衝撃試験を行った。図2に試験結果を示す。
図2は得られた鋼のS含有量とシャルピー衝撃値の関係を示したものであり、図から明らかなように、Sの含有量が0.013%以下になるとシャルピー衝撃値が大きくなって耐衝撃強度が向上し、Sの含有量が0.013%を超えるとシャルピー衝撃値が低下するのが判る。シャルピー衝撃値が低下するのは、MnSの量が多くなり、MnSが大きくなるためである。
【0025】
次に、表1に示す素材から入出力ディスクおよびパワーローラを製作し、トロイダル形無段変速機を組み立てた。
【0026】
【表1】
【0027】
入出力ディスクおよびパワーローラには、図3に示すように、Rxガス+エンリッチガス(+5%アンモニア)で900〜960°Cの温度で10〜30時間の浸炭窒化処理を行った後に、820〜860°Cで1時間油焼入れし、次いで、180°Cで2時間の焼き戻しを行った。製作したトロイダル形無段変速機を用いて耐久試験を下記の試験条件で行った。
【0028】
試験条件
入力軸の回転数:4000min−1
入力トルク :380Nm
使用オイル :トラクション油
オイル供給温度:120°C
この試験条件において最大接触面圧はPmax =3.7GPaとなる。試験は入出力ディスクあるいはパワーローラが破損するか、200時間まで試験を行い、未破損で試験を終了した。耐久試験後に入出力ディスクおよびパワーローラのミクロ組織を観察した。面積30,000mm2 のミクロ組織を光学顕微鏡の倍率100倍にて観察しながら倍率400倍にて、MnSの最大長を測定し、存在するMnSの最大長と最大接触楕円との比を求めた。表1に、それぞれの試験時間と破損形態を併せて記載した。
【0029】
表1の実施例1〜10は本発明例であり、SCr420、SCM435のいずれの場合も148時間以上の試験時間であった。また、Sの含有量の減少とともに破損に至るまでの時間は長くなっていた。
一方、比較例1〜10の耐久試験結果から判るように、Sの含有量が0.013%を超えたり、MnS最大長と最大接触楕円長径との比が0.20を超えた場合には、105時間以下でパワーローラトラクション面或いはディスクトラクション面にはくりが発生した。
【0030】
図4は、Sの含有量と寿命との関係を示したものである。図から判るように、Sの含有量が減少すると寿命は長くなる傾向にあるが、Sの含有量が0.010〜0.015%の範囲では、寿命のばらつきが大きくなっている。
図5はMnSの最大長と最大接角楕円長径との比と、寿命との関係を示したものである。図から判るように、長寿命のものは、比が0.20以下となっている。比が0.20のものは寿命のばらつきが大きくなっているが、長寿命のものはSの含有量が0.013%以下のものであった。また、Sの含有量が0.003%であり、MnSの最大長と最大接触楕円長径との比が0.10以下のものには破損が生じなかった。
【0031】
【発明の効果】
上記の説明から明らかなように、本発明によれば、入出力ディスクおよびパワーローラの内の少なくとも一つをより疲労強度に優れたものとすることができるので、耐久性に優れた長寿命のトロイダル形無段変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼中のSの含有量と疲労強度との関係を示すグラフ図である。
【図2】鋼中のSの含有量とシャルピー衝撃値との関係を示すグラフ図である。
【図3】浸炭窒化処理の工程図である。
【図4】寿命と鋼中のSの含有量との関係を示すグラフ図である。
【図5】寿命とMnS最大長/最大接触楕円長径との関係を示すグラフ図である。
【図6】トロイダル形無段変速機の一例を示す要部断面図である。
【符号の説明】
1…入力ディスク
2…出力ディスク
6a,7a…パワーローラ
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車用の自動変速機として用いられるトロイダル形無段変速機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のトロイダル型無段変速機20は、 例えば、 図6に示すように、 入力ディスク1と出力ディスク2とが図示しないハウジング内に同軸上に互いに対向配置されている。この入力ディスク1および出力ディスク2を有するトロイダル変速部の軸心部分には入力軸3が貫通配置されており、この入力軸3の一端(右端)にはローディングカム4が配設されている。 このローディングカム4が、 カムローラ5を介して入力ディスク1に入力軸3の動力( 回転力) を伝達するようになっている。
【0003】
入力ディスク1および出力ディスク2は略同一形状とされており、 それらの対向面が協働して軸方向断面で見て略半円形となるようなトロイダル面を形成している。入力ディスク1および出力ディスク2のトロイダル面で形成されるトロイダルキャビティ内には、 入力ディスク1および出力ディスク2に接して一対の運転伝達用のパワーローラ軸受6およびパワーローラ軸受7が配設されている。
【0004】
なお、 前記パワーローラ軸受6は、 入力ディスク1および出力ディスク2のトロイダル面を転走するパワーローラ6a(パワーローラ軸受6を構成する内輪に相当)、外輪6bおよび複数の転動体(鋼球)6cから構成されており、 パワーローラ軸受7は、 入力ディスク1および出力ディスク2のトロイダル面を転走するパワーローラ7a(パワーローラ軸受7を構成する内輪に相当)、外輪7bおよび複数の転動体(鋼球)7cから構成されている。
【0005】
即ち、前記パワーローラ6aは、 パワーローラ軸受6を構成する内輪の役割も兼ねており、 前記パワーローラ7aは、 パワーローラ軸受7を構成する内輪の役割も兼ねている。 この構造では、 前記パワーローラ6aは、 枢軸8、 外輪6bおよび複数の転動体6cを介してトラニオン10に回転自在に支持されると共に、 入力ディスク1および出力ディスク2のトロイダル面の中心となるピボット軸Oを中心として傾転自在に支持されている。
【0006】
一方、 前記パワーローラ7aは、 枢軸9、 外輪7bおよび複数の転動体7cを介してトラニオン11に回転自在に支持されると共に、 入力ディスク1および出力ディスク2のトロイダル面の中心となるピボット軸Oを中心として傾転自在に支持されている。
そして、 前記入力ディスク1および出力ディスク2、 パワーローラ6aおよびパワーローラ7aとの接触面には、 粘性摩擦抵抗の大きい潤滑油が供給され、 入力ディスク1に入力される動力を、 潤滑油膜とパワーローラ6aおよびパワーローラ7aとを介して出力ディスク2に伝達する構造となっている。
【0007】
なお、 前記入力ディスク1および出力ディスク2は、 ニードルベアリング12を介して入力軸3とは独立した状態(すなわち、 入力軸3の動力に直接影響されない状態) となっている。 前記出力ディスク2には、 入力軸3と平行に配設されると共に、 アンギュラ玉軸受13を介して図示しないハウジングに回転自在に支持された出力軸14が配設されている。
【0008】
このトロイダル形無段変速機20では、 入力軸3の動力がローディングカム4に伝達され、この動力の伝達によりローディングカム4が回転すると、 この回転による動力がカムローラ5を介して入力ディスク1に伝達され、 該入力ディスク1が回転する。 さらに、 この入力ディスク1の回転により発生した動力は、 パワーローラ6aおよびパワーローラ7aを介して出力ディスク2に伝達され、これにより、出力ディスク2が出力軸14と一体となって回転する。
【0009】
また、変速時には、 トラニオン10およびトラニオン11をピボット軸O方向に微小距離移動させると、トラニオン10およびトラニオン11の軸方向移動でパワーローラ6aおよびパワーローラ7aの回転軸と入力ディスク1および出力ディスク2の軸との交差がわずかに外れる。
すると、 パワーローラ6aおよびパワーローラ7aの回転周速度と、 入力ディスク1の回転周速度との均衡が崩れ、 且つ入力ディスク1の回転駆動力の分力によって、 パワーローラ6aおよびパワーローラ7aがピボット軸Oの回りに傾転する。
【0010】
このため、 パワーローラ6aおよびパワーローラ7aが、 入力ディスク1および出力ディスク2の曲面上を傾転し、 その結果、 速度比が変わり、 減速または増速が行われる。
ところで、上記のように構成されるトロイダル形無段変速装置は、より高いトルクの伝達が必要とされるため、入出力ディスク1,2およびパワーローラ6a,7a等が、一般的な歯車や軸受等の通常の繰り返し応力が加わる機械部品と比較して、非常に大きな繰り返し曲げ応力および繰り返しせん断応力を受ける。したがって、これらの入出力ディスク1,2およびパワーローラ6a,7a等は、従来の一般的な機械部品より一層疲労強度の高い材料から製造されることが要求される。
【0011】
このような要求に応える技術として、例えば特開平9−79336号公報には、Crを含有する機械構造用鋼であるSCM420に浸炭窒化処理を施して表面硬さと残留圧縮応力を高くした入出力ディスクおよびパワーローラ等を備えたトロイダル形無段変速機が提案されている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、最近のエンジンの高出力化に伴って従来よりも一層疲労強度に優れた入出力ディスクおよびパワーローラ等を備えたトロイダル形無段変速機が要求されるようになってきており、上記従来のトロイダル形無段変速機では最近のエンジンの高出力化には対応が難しいという問題がある。
【0013】
本発明はこのような技術的要請に応えるためになされたものであり、より疲労強度に優れたトロイダル形無段変速機を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成すべく、 トロイダル形無段変速機の入出力ディスクやパワーローラの疲労メカニズムについて鋭意研究を行った結果、 従来それほど疲労に有害でないと考えられていた硫化物系の介在物を起点として疲労割れや転がり疲労によるはくりが発生することを見い出した。 具体的には、500MPa以上の曲げ応力、3.5GPa以上の接触面圧が加わると鋼中に含まれる硫化物系の介在物が応力集中部となり、き裂が発生して破断或いははくりに至ることを見い出した。
【0015】
そして、本発明者らは、 含有する硫化物系の介在物が異なる数種類の鋼からなる入出力ディスクおよびパワーローラを個別に組み込んだトロイダル形無段変速機について多くの試験を行い、 破損品について調査した結果、これらの硫化物系介在物を起因とする破損についての知見を得、 かかる知見に基づいて疲労強度を向上させるための適切な条件を求め、 本発明を完成するに至ったものである。
【0016】
即ち、上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、少なくとも入出力ディスクと、該入出力ディスクを転走するパワーローラとを備えたトロイダル形無段変速機において、
前記入出力ディスク及び前記パワーローラの内の少なくとも一つが、S(硫黄)の含有量が、 S≦0.013%であり、 かつ硫化物系介在物の最大長が最大接触楕円の長径の1/5以下である鋼からなることを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記S(硫黄)の含有量が、 S≦0.003%であり、かつ硫化物系介在物の最大長が最大接触楕円の長径の1/10以下である鋼からなることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、前記鋼がCa、Te及びZrの内の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
S(硫黄)は鋼中のMnと結合することにより、 MnSを形成する。 このMnSが適量含まれると切削性の向上に寄与する。 そのため、SCr420やSCM420などの浸炭鋼においては、 切削性を確保するためにSの含有量は0.020%程度とし、 鋼中に一定量のMnSを含ませている。
【0019】
しかしながら、トロイダル形無段変速機のように、 極めて高荷重、 高トルクで使用される場合には、 このようなMnSは鋼中の欠陥となって疲労強度を低下させてしまうことになる。
そこで、この実施の形態のトロイダル形無段変速機においては、 特に高い負荷を受ける入出力ディスク、 パワーローラの少なくとも一つは、 鋼中のSの含有量を0. 013%以下、好ましくは0.003%以下とすることにより、 MnSの存在量を減少させるとともに、 そのMnSの最大長を入出力ディスクとパワーローラの接触部において、 最大接触楕円の長径の1/5以下の大きさ、好ましくは1/10以下の大きさとし、これにより、優れた疲労強度を得、最近のエンジンの高出力化への対応を可能にしたものである。
【0020】
ここで、鋼中のSの含有量が0.013%を超えると粗大なMnSを形成しやすくなって十分な疲労割れ強度を得ることができなくなるため、 Sの含有量を0.013%以下とした。 なお、 Sの含有量を0.006%以下、より好ましくは0.003%以下とすることにより、より一層の疲労強度の向上効果を得ることができる。
【0021】
また、MnSの最大長を最大接触楕円の長径の1/5以下の大きさとしたのは、 入出力ディスクおよびパワーローラの転がり面においては、 接触面圧が3.5GPa以上になることがあるが、 その際、大きな(長い)MnSが接触部下に存在すると短時間ではくりが発生してしまうためである。
MnSは素材の圧延時に、 圧延方向に伸ばされることが知られている。 そのため、入出力ディスクおよびパワーローラの鋼中のSの含有量を0.013%以下とすることにより、鋼中のMnS量を減少させ、更に、入出力ディスクおよびパワーローラの転がり面におけるMnSの最大長を最大接触楕円の長径の1/5以下の大きさとして大きなMnSをなくすことにより、短寿命品をなくすことが可能となる。
【0022】
なお、Ca,Te及びZrの内の少なくとも一つの元素を微量添加することにより、鋼中にCa−MnS、Te−MnS、Zr−MnSを生成して圧延、鍛造による変形を抑制し、これにより、MnSの長さを制御してMnSの最大長が最大接触楕円の長径の1/5以下の大きさにすることの容易化を図ることができる。
【実施例】
まず、SCr420の鋼について、Sの含有量を0.003%〜0.030%の範囲で変えたものを溶製した。
【0023】
得られた材料をφ100mmの丸棒に圧延し、圧延方向に対して垂直になる断面から回転曲げ疲労試験片を製造した。試験片は840°Cで焼入れ、180°Cで焼戻しの熱処理を行った。熱処理後、表面の研磨加工を行い、回転曲げ疲労試験を行った。試験結果を図1に示す。
図1は鋼の含有S量と疲労強度との関係を示したものであり、図から明らかなように、Sの含有量が0.013%以下になると疲労強度が向上することが判る。これは破壊の起点となるMnSの存在確率が低くなるためと、MnSの大きさが小さくなるためである。
【0024】
また、上記の材料から、素材の圧延方向と試験片の長手方向が同じになるように圧延方向にシャルピー衝撃試験片を切り出した。試験片は840°Cで焼入れ、180°Cで焼戻しの熱処理を行った。熱処理後、表面仕上げ加工を行い、衝撃試験を行った。図2に試験結果を示す。
図2は得られた鋼のS含有量とシャルピー衝撃値の関係を示したものであり、図から明らかなように、Sの含有量が0.013%以下になるとシャルピー衝撃値が大きくなって耐衝撃強度が向上し、Sの含有量が0.013%を超えるとシャルピー衝撃値が低下するのが判る。シャルピー衝撃値が低下するのは、MnSの量が多くなり、MnSが大きくなるためである。
【0025】
次に、表1に示す素材から入出力ディスクおよびパワーローラを製作し、トロイダル形無段変速機を組み立てた。
【0026】
【表1】
【0027】
入出力ディスクおよびパワーローラには、図3に示すように、Rxガス+エンリッチガス(+5%アンモニア)で900〜960°Cの温度で10〜30時間の浸炭窒化処理を行った後に、820〜860°Cで1時間油焼入れし、次いで、180°Cで2時間の焼き戻しを行った。製作したトロイダル形無段変速機を用いて耐久試験を下記の試験条件で行った。
【0028】
試験条件
入力軸の回転数:4000min−1
入力トルク :380Nm
使用オイル :トラクション油
オイル供給温度:120°C
この試験条件において最大接触面圧はPmax =3.7GPaとなる。試験は入出力ディスクあるいはパワーローラが破損するか、200時間まで試験を行い、未破損で試験を終了した。耐久試験後に入出力ディスクおよびパワーローラのミクロ組織を観察した。面積30,000mm2 のミクロ組織を光学顕微鏡の倍率100倍にて観察しながら倍率400倍にて、MnSの最大長を測定し、存在するMnSの最大長と最大接触楕円との比を求めた。表1に、それぞれの試験時間と破損形態を併せて記載した。
【0029】
表1の実施例1〜10は本発明例であり、SCr420、SCM435のいずれの場合も148時間以上の試験時間であった。また、Sの含有量の減少とともに破損に至るまでの時間は長くなっていた。
一方、比較例1〜10の耐久試験結果から判るように、Sの含有量が0.013%を超えたり、MnS最大長と最大接触楕円長径との比が0.20を超えた場合には、105時間以下でパワーローラトラクション面或いはディスクトラクション面にはくりが発生した。
【0030】
図4は、Sの含有量と寿命との関係を示したものである。図から判るように、Sの含有量が減少すると寿命は長くなる傾向にあるが、Sの含有量が0.010〜0.015%の範囲では、寿命のばらつきが大きくなっている。
図5はMnSの最大長と最大接角楕円長径との比と、寿命との関係を示したものである。図から判るように、長寿命のものは、比が0.20以下となっている。比が0.20のものは寿命のばらつきが大きくなっているが、長寿命のものはSの含有量が0.013%以下のものであった。また、Sの含有量が0.003%であり、MnSの最大長と最大接触楕円長径との比が0.10以下のものには破損が生じなかった。
【0031】
【発明の効果】
上記の説明から明らかなように、本発明によれば、入出力ディスクおよびパワーローラの内の少なくとも一つをより疲労強度に優れたものとすることができるので、耐久性に優れた長寿命のトロイダル形無段変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼中のSの含有量と疲労強度との関係を示すグラフ図である。
【図2】鋼中のSの含有量とシャルピー衝撃値との関係を示すグラフ図である。
【図3】浸炭窒化処理の工程図である。
【図4】寿命と鋼中のSの含有量との関係を示すグラフ図である。
【図5】寿命とMnS最大長/最大接触楕円長径との関係を示すグラフ図である。
【図6】トロイダル形無段変速機の一例を示す要部断面図である。
【符号の説明】
1…入力ディスク
2…出力ディスク
6a,7a…パワーローラ
Claims (3)
- 少なくとも入出力ディスクと、該入出力ディスクを転走するパワーローラとを備えたトロイダル形無段変速機において、
前記入出力ディスク及び前記パワーローラの内の少なくとも一つが、S(硫黄)の含有量が、 S≦0.013%であり、 かつ硫化物系介在物の最大長が最大接触楕円の長径の1/5以下である鋼からなることを特徴とするトロイダル形無段変速機。 - 前記S(硫黄)の含有量が、 S≦0.003%であり、かつ硫化物系介在物の最大長が最大接触楕円の長径の1/10以下である鋼からなることを特徴とする請求項1記載のトロイダル型無段変速機。
- 前記鋼がCa、Te及びZrの内の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のトロイダル形無段変速機。
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- 2002-08-13 JP JP2002235318A patent/JP2004076822A/ja active Pending
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