JP2006292038A - トロイダル型無段変速機 - Google Patents
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Abstract
【課題】 トロイダル型無段変速機の寿命を長くする。
【解決手段】 パワーローラ軸受20の玉10を、質量比で、C含有率が0.30%以上0.80%未満、Mn含有率が0.6%以上2.0%以下、Cr含有率が1.3%以上2.0%以下、Si含有率が0.9%以上2.0%以下、Mo含有率が0.7%以上1.5%以下、残部がFeおよび不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、高温焼戻し処理とをこの順で施して作製する。そして、玉10の表面をなす表層部のC含有率を0.95質量%以上1.30質量%以下、前記表層部のN含有率を0.05質量%以上0.40質量%以下とする。
【選択図】 図1
【解決手段】 パワーローラ軸受20の玉10を、質量比で、C含有率が0.30%以上0.80%未満、Mn含有率が0.6%以上2.0%以下、Cr含有率が1.3%以上2.0%以下、Si含有率が0.9%以上2.0%以下、Mo含有率が0.7%以上1.5%以下、残部がFeおよび不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、高温焼戻し処理とをこの順で施して作製する。そして、玉10の表面をなす表層部のC含有率を0.95質量%以上1.30質量%以下、前記表層部のN含有率を0.05質量%以上0.40質量%以下とする。
【選択図】 図1
Description
本発明は、トロイダル型無段変速機に関する。
自動車の変速機等として用いられるトロイダル型無段変速機は、入力軸と連動して回転する入力ディスクと、出力軸と連動して回転する出力ディスクと、これら両ディスクの対向する内側面に設けられた両動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラと、このパワーローラに内輪軌道面が形成されて、パワーローラに作用するスラスト荷重を支持するパワーローラ軸受と、を備えた無段変速機構を有している。また、これらの各動力伝達面には、摩擦係数の大きな潤滑油(トラクションオイル)が供給されている。
このトロイダル型無段変速機は、入力ディスクに与えられた動力が、トラクションオイルおよびパワーローラを介して、出力ディスクに伝達されるようになっており、パワーローラと入力ディスクおよび出力ディスクとの接触半径を変化させることにより、変速比を無段階で変えることができる。
このようなトロイダル型無段変速機の駆動時においては、入力ディスクから出力ディスクに高いトルクが伝達されるため、トルク伝達面となる各動力伝達面には高い接触圧力が生じ、パワーローラ軸受は大きなスラスト荷重を受けるようになる。特に、パワーローラ軸受が玉軸受である場合には、上述のような大きなスラスト荷重を受けながら高速で回転すると、玉にスピンすべりが生じ易くなる。
このようなトロイダル型無段変速機の駆動時においては、入力ディスクから出力ディスクに高いトルクが伝達されるため、トルク伝達面となる各動力伝達面には高い接触圧力が生じ、パワーローラ軸受は大きなスラスト荷重を受けるようになる。特に、パワーローラ軸受が玉軸受である場合には、上述のような大きなスラスト荷重を受けながら高速で回転すると、玉にスピンすべりが生じ易くなる。
ここで、パワーローラ軸受の玉にスピンすべりが生じると、パワーローラ軸受の転がり面(パワーローラの内輪軌道面、外輪の外輪軌道面、および玉の表面)の温度が上昇する。この現象は、パワーローラ軸受の内輪(パワーローラ)へのトラクションオイルの流入出における温度差(20〜30℃程度)からも確認でき、その転がり面の温度は最低でも130℃程度まで上昇すると推定される。
一般に、軸受材料は、高温環境下で使用されると、硬さ等の機械的強度が低下して疲労特性や寸法安定性が劣化する。よって、パワーローラ軸受の転がり面の温度が上昇すると、パワーローラ、外輪、および玉の硬さが低下して、各部品に早期剥離・破損が生じる場合がある。
また、パワーローラ軸受の玉にスピンすべりが生じると、その転がり面に接線方向の引っ張り応力に起因する微小クラックが発生し、この微小クラックを起点として各部品に早期剥離・破損が生じる場合がある。
また、パワーローラ軸受の玉にスピンすべりが生じると、その転がり面に接線方向の引っ張り応力に起因する微小クラックが発生し、この微小クラックを起点として各部品に早期剥離・破損が生じる場合がある。
このようなスピンすべりに起因する現象は、パワーローラ軸受の軌道輪(パワーローラや外輪)よりも、体積が小さく且つ熱伝導性に優れた玉に顕著に現れるため、玉には軌道輪よりも先に早期剥離・破損が生じ易い。
ここで、トロイダル型無段変速機を構成する各部品の早期剥離・破損を抑制するための技術としては、特許文献1および2に記載の技術が提案されている。
ここで、トロイダル型無段変速機を構成する各部品の早期剥離・破損を抑制するための技術としては、特許文献1および2に記載の技術が提案されている。
特許文献1では、パワーローラ軸受の転動体について、中炭素鋼または高炭素鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭窒化処理、焼入れ処理および焼戻し処理を施すことが提案されている。
特許文献2では、パワーローラ軸受の内輪(パワーローラ)および外輪を、低炭素または中炭素の浸炭鋼からなる素材で形成するとともに、少なくとも外輪を形成する素材には、残留オーステナイトの分解を遅延させる合金元素を加えることが提案されている。
特開平7−208568号公報
特開平11−172371号公報
特許文献2では、パワーローラ軸受の内輪(パワーローラ)および外輪を、低炭素または中炭素の浸炭鋼からなる素材で形成するとともに、少なくとも外輪を形成する素材には、残留オーステナイトの分解を遅延させる合金元素を加えることが提案されている。
しかしながら、上述した特許文献1および2に記載の技術を組み合わせたとしても、トロイダル型無段変速機の寿命を長くするという点でさらなる改善の余地がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、大きなスラスト荷重が加えられた状態で使用される、トロイダル型無段変速機の寿命を長くすることを課題としている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、大きなスラスト荷重が加えられた状態で使用される、トロイダル型無段変速機の寿命を長くすることを課題としている。
このような課題を解決するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、対向する内側面にそれぞれ断面円弧状の動力伝達面を有する入力ディスクおよび出力ディスクと、これら両ディスク間に配置されて、前記動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラと、このパワーローラに作用するスラスト荷重を支持するパワーローラ軸受と、を備え、このパワーローラ軸受は、前記パワーローラに内輪軌道面が形成され、このパワーローラと、外輪軌道面が形成された外輪との間に複数の転動体が転動自在に配設されてなるトロイダル型無段変速機において、前記転動体は、質量比で、C含有率が0.30%以上0.80%未満、Mn含有率が0.6%以上2.0%以下、Cr含有率が1.3%以上2.0%以下、Si含有率が0.9%以上2.0%以下、Mo含有率が0.7%以上1.5%以下、残部がFeおよび不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、高温焼戻し処理とがこの順で施されて得られ、その転動面をなす表層部は、C含有率が0.95%以上1.30%以下で、N含有率が0.05%以上0.40%以下となっていることを特徴とするものである。
なお、本発明において表層部とは、表面から所定深さ(例えば、50μm)までの範囲を指す。
本発明のトロイダル型無段変速機では、パワーローラ軸受の転動体について、特定の鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、高温焼戻し処理とをこの順で施して、転動面をなす表層部のC含有率およびN含有率を特定したことにより、転動体の疲労特性を向上できるとともに、転動面に微小クラックを生じ難くできる。
本発明のトロイダル型無段変速機では、パワーローラ軸受の転動体について、特定の鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、高温焼戻し処理とをこの順で施して、転動面をなす表層部のC含有率およびN含有率を特定したことにより、転動体の疲労特性を向上できるとともに、転動面に微小クラックを生じ難くできる。
また、軸受材料の寸法安定性は、通常、軸受の使用温度よりも高い温度で焼戻し処理を施すことで良好に保持できることが知られている。このため、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、高温環境下で使用しても寸法安定性に優れた転動体を得るために、高温焼戻し処理を施しても十分な硬さが得られ、且つ、経時的な寸法変化を引き起こす残留オーステナイトの熱処理後の鋼中含有量を最小限にできる鋼を素材として用いることに着目した。そして、本発明者は、熱処理前の素材をなす鋼中のC含有率を特定することで、熱処理後の鋼中に存在する残留オーステナイト量を調節できることを見出した。
つまり、本発明のトロイダル型無段変速機では、高温焼戻し処理後の硬さに影響を及ぼすSi,Moの含有率や、焼入れ処理および高温焼戻し処理後の残留オーステナイト量に影響を及ぼすCの含有率等が特定された鋼からなる素材を用いて転動体を形成したことにより、高温環境下での硬さの低下を抑制し、且つ、寸法安定性を向上できる。
以下、本発明における各数値限定の理由と熱処理について、詳細に説明する。
〔C:0.30質量%以上0.80質量%未満〕
C(炭素)は、焼入れ処理および高温焼戻し処理後の転動体の硬さを向上させる作用を有する。この作用を得るために、素材をなす鋼のC含有率は0.30質量%以上とする。また、素材をなす鋼のC含有率が0.30質量%未満であると、浸炭窒化処理を行う際に転動面として必要な浸炭硬化層深さを得るための熱処理時間が長くなり、生産性が低下する。
一方、素材をなす鋼のC含有率が多過ぎると、素材の段階で巨大な炭化物が生成し易くなり、靱性や強度が低下する。また、素材をなす鋼のC含有率が多過ぎると、鋼中に存在する残留オーステナイト量が多くなり、高温環境下で経時的に寸法が変化し、寸法安定性が劣化する。よって、素材をなす鋼のC含有率は0.80質量%未満とする。
〔C:0.30質量%以上0.80質量%未満〕
C(炭素)は、焼入れ処理および高温焼戻し処理後の転動体の硬さを向上させる作用を有する。この作用を得るために、素材をなす鋼のC含有率は0.30質量%以上とする。また、素材をなす鋼のC含有率が0.30質量%未満であると、浸炭窒化処理を行う際に転動面として必要な浸炭硬化層深さを得るための熱処理時間が長くなり、生産性が低下する。
一方、素材をなす鋼のC含有率が多過ぎると、素材の段階で巨大な炭化物が生成し易くなり、靱性や強度が低下する。また、素材をなす鋼のC含有率が多過ぎると、鋼中に存在する残留オーステナイト量が多くなり、高温環境下で経時的に寸法が変化し、寸法安定性が劣化する。よって、素材をなす鋼のC含有率は0.80質量%未満とする。
〔Mn:0.6質量%以上2.0質量%以下〕
Mn(マンガン)は、鋼の焼入れ性を向上させることにより、基地であるマルテンサイトの靱性を高め、素材をなす鋼の硬さおよび転がり疲れ寿命を向上させる作用を有する。この作用を得るために、Mn含有率は0.6質量%以上とする。
一方、Mn含有率が多過ぎると、被削性が著しく劣化するため、Mn含有率は2.0質量%以下とする。
Mn(マンガン)は、鋼の焼入れ性を向上させることにより、基地であるマルテンサイトの靱性を高め、素材をなす鋼の硬さおよび転がり疲れ寿命を向上させる作用を有する。この作用を得るために、Mn含有率は0.6質量%以上とする。
一方、Mn含有率が多過ぎると、被削性が著しく劣化するため、Mn含有率は2.0質量%以下とする。
〔Cr:1.3質量%以上2.0質量%以下〕
Cr(クロム)は、微細な炭化物を生成して、高温環境下での硬さの低下を抑制し、焼戻し軟化抵抗性、転がり疲れ寿命、および耐摩耗性を向上させる作用を有する。これらの作用を得るために、Cr含有率は1.3質量%以上とする。
一方、Cr含有率が多過ぎると、高温焼戻し処理後の硬さが低下し、高温環境下での転がり疲れ寿命が低下するため、Cr含有率は2.0質量%以下とする。
Cr(クロム)は、微細な炭化物を生成して、高温環境下での硬さの低下を抑制し、焼戻し軟化抵抗性、転がり疲れ寿命、および耐摩耗性を向上させる作用を有する。これらの作用を得るために、Cr含有率は1.3質量%以上とする。
一方、Cr含有率が多過ぎると、高温焼戻し処理後の硬さが低下し、高温環境下での転がり疲れ寿命が低下するため、Cr含有率は2.0質量%以下とする。
〔Si:0.9質量%以上2.0質量%以下〕
Si(ケイ素)は、鋼の溶製時の脱酸剤として作用するとともに、焼戻し軟化抵抗性を向上させる作用を有する。特に、例えば280℃以上で高温焼戻し処理をした後の表面硬さをHRC58以上に保ち、且つ、転がり疲れ寿命を向上させるために、Si含有率は0.9質量%以上とする。
一方、Siの含有率が多過ぎると、被削性および鍛造性を著しく劣化させるため、Si含有率は2.0質量%以下とする。
Si(ケイ素)は、鋼の溶製時の脱酸剤として作用するとともに、焼戻し軟化抵抗性を向上させる作用を有する。特に、例えば280℃以上で高温焼戻し処理をした後の表面硬さをHRC58以上に保ち、且つ、転がり疲れ寿命を向上させるために、Si含有率は0.9質量%以上とする。
一方、Siの含有率が多過ぎると、被削性および鍛造性を著しく劣化させるため、Si含有率は2.0質量%以下とする。
〔Mo:0.7質量%以上1.5質量%以下〕
Mo(モリブデン)は、基地に固溶することにより、焼戻し軟化抵抗性、転がり疲れ寿命、および耐摩耗性を向上させる作用を有する。この作用を得るために、Mo含有率は0.7質量%以上とする。
一方、Mo含有率が多過ぎると、その効果が飽和してコストの上昇を招くため、Mo含有率は1.5質量%以下とする。
Mo(モリブデン)は、基地に固溶することにより、焼戻し軟化抵抗性、転がり疲れ寿命、および耐摩耗性を向上させる作用を有する。この作用を得るために、Mo含有率は0.7質量%以上とする。
一方、Mo含有率が多過ぎると、その効果が飽和してコストの上昇を招くため、Mo含有率は1.5質量%以下とする。
〔表層部のC含有率:0.95質量%以上1.30質量%以下〕
転動面をなす表層部に存在するCは、転動面に、耐転がり疲れに必要な硬さと、曲げ応力負荷に対する強度とを付与する作用を有する。この作用を得るために、表層部のC含有率は0.95質量%以上とする。
一方、表層部のC含有率が多過ぎると、巨大な炭化物が生成し、早期剥離・破損が生じ易くなる。よって、表層部のC含有率は1.30質量%以下とする。
転動面をなす表層部に存在するCは、転動面に、耐転がり疲れに必要な硬さと、曲げ応力負荷に対する強度とを付与する作用を有する。この作用を得るために、表層部のC含有率は0.95質量%以上とする。
一方、表層部のC含有率が多過ぎると、巨大な炭化物が生成し、早期剥離・破損が生じ易くなる。よって、表層部のC含有率は1.30質量%以下とする。
〔表層部のN含有率:0.05質量%以上0.40質量%以下〕
転動面をなす表層部に存在するN(窒素)は、焼戻し軟化抵抗性を向上させるとともに、微細な炭窒化物を分散析出させることにより、疲労強度を向上させる作用を有する。この作用を得るために、表層部のN含有率は0.05質量%以上とする。
一方、表層部のN含有率が多過ぎると、耐摩耗性が向上し過ぎて研磨加工が困難になるとともに、脆性割れ強度が低下する。よって、表層部のN含有率は0.40質量%以下とする。
転動面をなす表層部に存在するN(窒素)は、焼戻し軟化抵抗性を向上させるとともに、微細な炭窒化物を分散析出させることにより、疲労強度を向上させる作用を有する。この作用を得るために、表層部のN含有率は0.05質量%以上とする。
一方、表層部のN含有率が多過ぎると、耐摩耗性が向上し過ぎて研磨加工が困難になるとともに、脆性割れ強度が低下する。よって、表層部のN含有率は0.40質量%以下とする。
〔鋼のその他の構成成分について〕
本発明で使用する鋼において、上述した必須成分(C,Mn,Cr,Si,Mo)以外は、実質的にFe(鉄)からなるが、不可避不純物として、S(硫黄),P(リン),Al(アルミニウム),Ti(チタン),O(酸素)等が含有されていてもよい。
本発明で使用する鋼において、上述した必須成分(C,Mn,Cr,Si,Mo)以外は、実質的にFe(鉄)からなるが、不可避不純物として、S(硫黄),P(リン),Al(アルミニウム),Ti(チタン),O(酸素)等が含有されていてもよい。
〔熱処理について〕
まず、上述した特定の鋼からなる素材を鍛造または切削加工により所定形状に加工した後、浸炭窒化処理を行う。この浸炭窒化処理は、混合ガス(RXガス+エンリッチガス+アンモニアガス)を導入した炉内で、例えば840〜860℃程度で加熱保持することにより行う。
この浸炭窒化処理を施すことにより、CやNが基地であるマルテンサイト中に固溶するため、焼戻し軟化抵抗性を向上させ、且つ、高温環境下での硬さの低下を抑制できる。また、浸炭窒化処理を施すことにより、転動体の芯部と表層部とでC含有率およびN含有率に差が出るため、芯部と表層部とでマルテンサイト変態点がずれる。これにより、焼入れ処理および高温焼戻し処理後の転動体の転動面に残留圧縮応力が生じ、転動面の疲労強度が向上し、且つ、転動面に微小クラックが生じ難くなる。
まず、上述した特定の鋼からなる素材を鍛造または切削加工により所定形状に加工した後、浸炭窒化処理を行う。この浸炭窒化処理は、混合ガス(RXガス+エンリッチガス+アンモニアガス)を導入した炉内で、例えば840〜860℃程度で加熱保持することにより行う。
この浸炭窒化処理を施すことにより、CやNが基地であるマルテンサイト中に固溶するため、焼戻し軟化抵抗性を向上させ、且つ、高温環境下での硬さの低下を抑制できる。また、浸炭窒化処理を施すことにより、転動体の芯部と表層部とでC含有率およびN含有率に差が出るため、芯部と表層部とでマルテンサイト変態点がずれる。これにより、焼入れ処理および高温焼戻し処理後の転動体の転動面に残留圧縮応力が生じ、転動面の疲労強度が向上し、且つ、転動面に微小クラックが生じ難くなる。
次に、焼入れ処理を行った後、高温焼戻し処理を行う。ここで、高温焼戻し処理は、熱処理後の転動体の寸法安定性を良好にするために、例えば、240〜280℃程度で行う。
浸炭窒化処理後に、焼入れ処理および高温焼戻し処理を行うことにより、転動面をなす表層部には、微細なCrやMoの炭化物が析出する。この炭化物の析出硬化により、高温環境下での硬さの低下を抑制できるため、塑性変形が著しく低減し、焼戻し軟化抵抗性を向上できる。また、析出する炭化物が微細であると、応力集中が少なく、表層部にフレーキング割れ等の損傷が生じ難くなる。これにより、転動体の転動面をなす表層部の転がり疲れ寿命および耐摩耗性を向上できる。
浸炭窒化処理後に、焼入れ処理および高温焼戻し処理を行うことにより、転動面をなす表層部には、微細なCrやMoの炭化物が析出する。この炭化物の析出硬化により、高温環境下での硬さの低下を抑制できるため、塑性変形が著しく低減し、焼戻し軟化抵抗性を向上できる。また、析出する炭化物が微細であると、応力集中が少なく、表層部にフレーキング割れ等の損傷が生じ難くなる。これにより、転動体の転動面をなす表層部の転がり疲れ寿命および耐摩耗性を向上できる。
本発明のトロイダル型無段変速機では、大きなスラスト荷重が加わることで生じるスピンすべりの影響を受け易いパワーローラ軸受の転動体について、特定の鋼からなる素材を所定形状に加工した後に浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、高温焼戻し処理とをこの順で施し、て転動面をなす表層部のC含有率およびN含有率を特定した。これにより、大きなスラスト荷重が加えられた状態で使用されるトロイダル型無段変速機の寿命を長くできる。
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のトロイダル型無段変速機の一例であるハーフトロイダル型無段変速機を示す断面図である。なお、図1は、ハーフトロイダル型無段変速機の入力軸の軸方向に沿った断面である。
このハーフトロイダル型無段変速機は、図1に示すように、入力軸1と連動して回転する入力ディスク2と、出力軸と連動して回転する出力ディスク3と、これら両ディスク2,3間に配置されたパワーローラ5と、を備えている。両ディスク2,3の対向する内側面には、それぞれ断面円弧状の動力伝達面2a,3aが形成されている。パワーローラ5は、両ディスク2,3の動力伝達面2a,3aに摺接する動力伝達面5aを有する。
図1は、本発明のトロイダル型無段変速機の一例であるハーフトロイダル型無段変速機を示す断面図である。なお、図1は、ハーフトロイダル型無段変速機の入力軸の軸方向に沿った断面である。
このハーフトロイダル型無段変速機は、図1に示すように、入力軸1と連動して回転する入力ディスク2と、出力軸と連動して回転する出力ディスク3と、これら両ディスク2,3間に配置されたパワーローラ5と、を備えている。両ディスク2,3の対向する内側面には、それぞれ断面円弧状の動力伝達面2a,3aが形成されている。パワーローラ5は、両ディスク2,3の動力伝達面2a,3aに摺接する動力伝達面5aを有する。
また、このハーフトロイダル型無段変速機は、パワーローラ5を回転可能に支持する変位軸8と、この変位軸8を枢軸6を中心として入力軸1の軸方向(図1における左右方向)に揺動可能に支持するトラニオン7と、を備えている。
さらに、このハーフトロイダル型無段変速機は、パワーローラ5に加わるスラスト荷重を支持しつつ、パワーローラ5の回転を許容するパワーローラ軸受20を備えている。
さらに、このハーフトロイダル型無段変速機は、パワーローラ5に加わるスラスト荷重を支持しつつ、パワーローラ5の回転を許容するパワーローラ軸受20を備えている。
パワーローラ軸受20の内輪軌道面5bはパワーローラ5に形成され、外輪9はトラニオン7側に取り付けられている。そして、このパワーローラ軸受20は、内輪軌道面5bおよび外輪軌道面9aの間に複数の玉10(パワーローラ軸受の転動体)が転動可能に配設され、この玉10を転動可能に保持する保持器11を備えている。
このハーフトロイダル型無段変速機では、入力軸1の回転がローディングカム1A、入力ディスク2、パワーローラ5、出力ディスク3および出力歯車4を介して、出力軸に伝達されるようになっている。
このハーフトロイダル型無段変速機では、入力軸1の回転がローディングカム1A、入力ディスク2、パワーローラ5、出力ディスク3および出力歯車4を介して、出力軸に伝達されるようになっている。
そして、枢軸6を中心にトラニオン7を揺動させ、パワーローラ5の動力伝達面5aを入力ディスク2の中心寄り部分と出力ディスク3の外周寄り部分とに変位させると、入力軸1の回転が出力軸に減速されて伝わり、逆にパワーローラ5の動力伝達面5aを入力ディスク2の外周寄り部分と出力ディスク3の中心寄り部分とに変位させると、入力軸1の回転が出力軸に増速されて伝わるようになっている。
本実施形態では、ハーフトロイダル型無段変速機を構成するパワーローラ軸受20の玉10を、以下のようにして作製した。
まず、表1のNo.1〜No.8に示す各含有率の鋼からなる素材を鍛造により所定形状に加工した後、図2に示す熱処理を施した。但し、図2に示す浸炭窒化処理の処理時間は、玉10の表面(転動面)に必要な浸炭硬化層深さ(例えば、表面から3mmまでの深さ)が得られるまでの時間とした。
このようにして得られたパワーローラ軸受20の玉10において、表面をなす表層部(表面から50μmの深さまでの部分)のC含有率およびN含有率を、電子線マイクロアナライザ (EPMA)により測定した。この結果を、表1に併せて示した。
まず、表1のNo.1〜No.8に示す各含有率の鋼からなる素材を鍛造により所定形状に加工した後、図2に示す熱処理を施した。但し、図2に示す浸炭窒化処理の処理時間は、玉10の表面(転動面)に必要な浸炭硬化層深さ(例えば、表面から3mmまでの深さ)が得られるまでの時間とした。
このようにして得られたパワーローラ軸受20の玉10において、表面をなす表層部(表面から50μmの深さまでの部分)のC含有率およびN含有率を、電子線マイクロアナライザ (EPMA)により測定した。この結果を、表1に併せて示した。
また、ハーフトロイダル型無段変速機を構成する入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5は、表1のNo.3に示す各含有率の鋼からなる素材を所定形状に加工した後、図2に示す熱処理を施して作製し、その動力伝達面2a,3a,5aをなす表層部のC含有率およびN含有率はNo.3と同じ値にした。但し、図2に示す熱処理のうち、浸炭窒化処理の処理時間は、入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラの各動力伝達面2a,3a,5aに必要な浸炭硬化層深さ(例えば、入出力ディスク2,3の動力伝達面2a,3aには表面から4mmまでの深さで、パワーローラ5の動力伝達面5aには表面から3mmまでの深さ)が得られるように種々変更した。
そして、これらの入力ディスク2、出力ディスク3、パワーローラ5、パワーローラ軸受20の玉10と、これら以外の部品(通常品)とを用いて、ハーフトロイダル型無段変速機を組み立てた。
そして、これらの入力ディスク2、出力ディスク3、パワーローラ5、パワーローラ軸受20の玉10と、これら以外の部品(通常品)とを用いて、ハーフトロイダル型無段変速機を組み立てた。
次に、これらのハーフトロイダル型無段変速機に潤滑油を充填して、以下に示す条件で寿命試験を行った。この寿命試験は、試験開始から500時間までを上限として、入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5の各動力伝達面2a,3a,5a、およびパワーローラ軸受20の玉10aの表面のうち少なくとも一つに、破損(肉眼または拡大鏡で確認できる剥離や疲労割れ)が生じるまでハーフトロイダル型無段変速機の運転を行い、破損が生じるまでの時間を寿命として測定した。そして、この結果は、ワイブル分布関数に基づいて算出したL10寿命として、表1に併せて示した。
〔寿命試験条件〕
入力軸の回転速度:4500min-1
入力トルク:300N・m
使用潤滑油:合成潤滑油
油温度:180℃
〔寿命試験条件〕
入力軸の回転速度:4500min-1
入力トルク:300N・m
使用潤滑油:合成潤滑油
油温度:180℃
表1に示すように、ハーフトロイダル型無段変速機のパワーローラ軸受20の玉10を本発明の構成(鋼中のC,Mn,Cr,Si,Moの含有率と、前記表層部のC含有率およびN含有率)とした発明例No.1〜No.3では、パワーローラ軸受20の玉10を本発明の構成外とした比較例No.4〜No.8と比べて、長寿命であった。
以上の結果から、パワーローラ軸受20の玉10を本発明の構成(鋼中のの含有率と、表層部のC含有率およびN含有率)にすることにより、ハーフトロイダル型無段変速機の寿命を長くできることが分かった。
以上の結果から、パワーローラ軸受20の玉10を本発明の構成(鋼中のの含有率と、表層部のC含有率およびN含有率)にすることにより、ハーフトロイダル型無段変速機の寿命を長くできることが分かった。
2 入力ディスク
2a 動力伝達面
3 出力ディスク
3a 動力伝達面
5 パワーローラ
5a 動力伝達面
10 玉(パワーローラ軸受の転動体)
20 パワーローラ軸受
2a 動力伝達面
3 出力ディスク
3a 動力伝達面
5 パワーローラ
5a 動力伝達面
10 玉(パワーローラ軸受の転動体)
20 パワーローラ軸受
Claims (1)
- 対向する内側面にそれぞれ断面円弧状の動力伝達面を有する入力ディスクおよび出力ディスクと、これら両ディスク間に配置されて、前記動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラと、このパワーローラに作用するスラスト荷重を支持するパワーローラ軸受と、を備え、このパワーローラ軸受は、前記パワーローラに内輪軌道面が形成され、この内輪軌道面と、外輪に形成された外輪軌道面との間に複数の転動体が転動自在に配設されてなるトロイダル型無段変速機において、
前記転動体は、質量比で、C含有率が0.30%以上0.80%未満、Mn含有率が0.6%以上2.0%以下、Cr含有率が1.3%以上2.0%以下、Si含有率が0.9%以上2.0%以下、Mo含有率が0.7%以上1.5%以下、残部がFeおよび不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、高温焼戻し処理とがこの順で施されて得られ、
その転動面をなす表層部は、C含有率が0.95%以上1.30%以下で、N含有率が0.05%以上0.40%以下となっていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2005112180A JP2006292038A (ja) | 2005-04-08 | 2005-04-08 | トロイダル型無段変速機 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2005112180A JP2006292038A (ja) | 2005-04-08 | 2005-04-08 | トロイダル型無段変速機 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2006292038A true JP2006292038A (ja) | 2006-10-26 |
Family
ID=37412809
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2005112180A Withdrawn JP2006292038A (ja) | 2005-04-08 | 2005-04-08 | トロイダル型無段変速機 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2006292038A (ja) |
-
2005
- 2005-04-08 JP JP2005112180A patent/JP2006292038A/ja not_active Withdrawn
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Legal Events
Date | Code | Title | Description |
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A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20080213 |
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A761 | Written withdrawal of application |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A761 Effective date: 20090901 |