JP2006283848A - トロイダル型無段変速機 - Google Patents
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Abstract
【課題】 トロイダル型無段変速機の寿命を長くする。
【解決手段】 入力ディスク2、出力ディスク3、パワーローラ5、およびスラスト軸受20の玉10のうち少なくとも一つを、質量比で、C含有率が0.3%以上0.6%以下で、Cr含有率が3%以上5%以下の鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、焼戻し処理とをこの順で施して作製する。そして、その動力伝達面2a,3a,5aまたは転動面(玉10の表面)をなす表層部の硬さをHv697以上、前記表層部のCおよびNの合計含有率を0.9%以上2.0%以下、前記表層部の残留オーステナイト量を15体積%以上45体積%以下とし、芯部の硬さをHv302以上とする。
【選択図】 図1
【解決手段】 入力ディスク2、出力ディスク3、パワーローラ5、およびスラスト軸受20の玉10のうち少なくとも一つを、質量比で、C含有率が0.3%以上0.6%以下で、Cr含有率が3%以上5%以下の鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、焼戻し処理とをこの順で施して作製する。そして、その動力伝達面2a,3a,5aまたは転動面(玉10の表面)をなす表層部の硬さをHv697以上、前記表層部のCおよびNの合計含有率を0.9%以上2.0%以下、前記表層部の残留オーステナイト量を15体積%以上45体積%以下とし、芯部の硬さをHv302以上とする。
【選択図】 図1
Description
本発明は、トロイダル型無段変速機に関する。
トロイダル型無段変速機は、入力軸と連動して回転する入力ディスクと、出力軸と連動して回転する出力ディスクと、これら入出力ディスクの対向する内側面に設けられた両動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラと、このパワーローラの動力伝達面を入出力ディスクの両動力伝達面に対して摺接可能に支持するパワーローラ支持軸受と、を備えている。また、入出力ディスクおよびパワーローラの各動力伝達面には、潤滑油(トラクションオイル)が充填されている。
このトロイダル型無段変速機は、入力軸の回転が、入力ディスク、パワーローラ、および出力ディスクを介して出力軸に伝達されるようになっており、パワーローラと入力ディスクおよび出力ディスクとの接触半径を変化させることにより、変速比を無段階で変えることができる。
このようなトロイダル型無段変速機を効率よく動作させるためには、入出力ディスク間の押し付け力を大きくするか、トラクション係数を高くすることで、トルク伝達能力を向上させる必要がある。
このようなトロイダル型無段変速機を効率よく動作させるためには、入出力ディスク間の押し付け力を大きくするか、トラクション係数を高くすることで、トルク伝達能力を向上させる必要がある。
ここで、トラクション係数は使用されるトラクションオイルによって略決定するため、入出力ディスク間の押し付け力をできる限り大きくすることが一般的に行われる。このため、トロイダル型無段変速機の駆動時には、各動力伝達面に高い剪断応力が発生して、表面疲労による剥離が生じる場合がある。
特許文献1では、入力ディスク、出力ディスクおよびパワーローラを作製する際に浸炭又は浸炭窒化処理を行い、鋼材の表面から2〜4mmの範囲内にHv550以上の硬化層を形成することにより、各動力伝達面に剥離を生じ難くすることが提案されている。
特許文献1では、入力ディスク、出力ディスクおよびパワーローラを作製する際に浸炭又は浸炭窒化処理を行い、鋼材の表面から2〜4mmの範囲内にHv550以上の硬化層を形成することにより、各動力伝達面に剥離を生じ難くすることが提案されている。
また、上述したトロイダル型無段変速機では、パワーローラと入力ディスクおよび出力ディスクとの接触半径を変えて変速させているため、スピン滑りの発生が避けられない。このため、トロイダル型無段変速機は、高い剪断応力に加えて、スピン滑りが発生する条件下で使用される。
したがって、トロイダル型無段変速機では、その動力伝達面で局部的に極めて高い温度となり、WECと呼ばれる白色組織変化が短時間で発生して、剥離が生じる場合がある。
したがって、トロイダル型無段変速機では、その動力伝達面で局部的に極めて高い温度となり、WECと呼ばれる白色組織変化が短時間で発生して、剥離が生じる場合がある。
すなわち、トロイダル型無段変速機の各動力伝達面で高い剪断応力を受けたトラクションオイルの分子結合が、高い剪断応力とスピン滑りによる発熱とによって切断されて、トラクションオイルから水素原子が放出される。そして、トラクションオイルから放出された水素原子は、入出力ディスクやパワーローラに侵入・拡散して、これらを構成する鉄の金属結合力を弱めて、脆性破壊しやすくする。その結果、トロイダル型無段変速機の入出力ディスクやパワーローラの各動力伝達面で剥離が生じる。ここで、WECが発生した部分では、その周囲よりも炭化物の量が少なくなるため、白く観察される。(例えば、非特許文献1参照)。
特許文献2では、入出力ディスクおよびパワーローラ等の動力伝達部品を、C含有率が0.7〜1.3質量%の鋼からなる素材で構成し、且つ、完成品の表層部(表面から1mmの深さまでの部分)の硬さをHRC58以上、芯部の硬さをHRC40〜55とすることにより、スピン滑りによる表面損傷を生じ難くすることが提案されている。
また、非特許文献2では、転動体の転動面に、水素原子の拡散速度が遅いNi皮膜を電気めっき法で形成することにより、転動面から鋼中への水素侵入を抑制することが提案されている。
特開平7−71555号公報
特開2001−181785号公報
METALLURGICAL TRASACTIONS A,VOLUME7A(1976年8月),1099頁
社団法人自動車技術会、学術講演会前刷集、No.30−02(2002年)、5〜8頁
また、非特許文献2では、転動体の転動面に、水素原子の拡散速度が遅いNi皮膜を電気めっき法で形成することにより、転動面から鋼中への水素侵入を抑制することが提案されている。
しかしながら、上述した特許文献1および2では、動力伝達面から鋼中への水素侵入によるWECを抑制することについては言及されていない。したがって、特許文献1および2に記載の技術には、トロイダル型無段変速機の各動力伝達面に剥離を生じ難くするという点でさらなる改善の余地がある。
また、上述した非特許文献2に記載の技術では、Ni皮膜が柔らかいことから摩耗により脱落し易いため、潤滑油の粘度が低く、且つ、高振動、荷重変動、滑り等により油膜切れが生じ易い条件下で使用されるトロイダル型無段変速機において、動力伝達面から鋼中への水素侵入を効果的に抑制することは難しい。
また、上述した非特許文献2に記載の技術では、Ni皮膜が柔らかいことから摩耗により脱落し易いため、潤滑油の粘度が低く、且つ、高振動、荷重変動、滑り等により油膜切れが生じ易い条件下で使用されるトロイダル型無段変速機において、動力伝達面から鋼中への水素侵入を効果的に抑制することは難しい。
さらに、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、トロイダル型無段変速機では、上述したWECに加えて、トロイダル型無段変速機特有の組織変化が極めて短時間で発生して、剥離が生じていることを突き止めた。この特有の組織変化は、WECと同様に、その発生部分ではその周囲よりも炭化物の量が少なくなるため白く観察されるが、WECのような規則正しい方向性を持たないものである。
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高い剪断応力やスピン滑りが発生する条件下で使用されるトロイダル型無段変速機の寿命を長くすることを課題としている。
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高い剪断応力やスピン滑りが発生する条件下で使用されるトロイダル型無段変速機の寿命を長くすることを課題としている。
このような課題を解決するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、対向する内側面にそれぞれ断面円弧状の動力伝達面を有する入力ディスクおよび出力ディスクと、これら両ディスク間に配置されて、前記両動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラと、このパワーローラを前記両動力伝達面に対して摺接可能に支持するパワーローラ支持軸受と、を備えたトロイダル型無段変速機において、前記入力ディスク、前記出力ディスク、前記パワーローラ、および前記パワーローラ支持軸受の転動体のうち少なくとも一つは、質量比で、C含有率が0.3%以上0.6%以下で、Cr含有率が3%以上5%以下である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、焼戻し処理とがこの順で施されて得られ、その動力伝達面または転動面をなす表層部の硬さはHv697(HRC60)以上、前記表層部のCおよびNの合計含有率は0.9%以上2.0%以下、前記表層部の残留オーステナイト量は15体積%以上45体積%以下となっているとともに、芯部の硬さはHv302(HRC30)以上となっていることを特徴とするものである。
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、入力ディスク、出力ディスク、パワーローラ、およびパワーローラ支持軸受の転動体のうち少なくとも一つについて、C含有率およびCr含有率を特定した鋼からなる素材を所定形状に加工した後、以下に示す熱処理を施して、動力伝達面または転動面をなす表層部と芯部の構成を特定したことにより、表面疲労による剥離と、WECおよびトロイダル型無段変速機に特有の組織変化による剥離とをともに抑制できる。
以下、本発明における各数値限定の理由と熱処理について、詳細に説明する。
〔C:0.3質量%以上0.6質量%以下〕
C(炭素)は、基地に固溶して、焼入れおよび焼戻し後の硬さを向上させることにより、鋼の強度を増加させる作用を有する。また、Cは、Fe(鉄),Cr(クロム),Mo(モリブデン),V(バナジウム)等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成することにより、耐摩耗性を高める作用も有する。
〔C:0.3質量%以上0.6質量%以下〕
C(炭素)は、基地に固溶して、焼入れおよび焼戻し後の硬さを向上させることにより、鋼の強度を増加させる作用を有する。また、Cは、Fe(鉄),Cr(クロム),Mo(モリブデン),V(バナジウム)等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成することにより、耐摩耗性を高める作用も有する。
素材をなす鋼のC含有率が少な過ぎると、浸炭または浸炭窒化処理を行う際に動力伝達面または転動面として必要な硬化層深さを得るための熱処理時間が長くなり、生産コストの著しい上昇を招いたり、場合によってはδフェライトが生じて靱性を低下させる場合がある。よって、C含有率は0.3質量%以上とする。
一方、素材をなす鋼のC含有率が多過ぎると、製鋼時に粗大な共晶炭化物を生成し易くなり、転がり疲れ寿命や強度を著しく損なったり、鍛造性、冷間加工性、および被削性が低下して、生産コストの著しい上昇を招く場合がある。よって、C含有率は0.6質量%以下とする。
一方、素材をなす鋼のC含有率が多過ぎると、製鋼時に粗大な共晶炭化物を生成し易くなり、転がり疲れ寿命や強度を著しく損なったり、鍛造性、冷間加工性、および被削性が低下して、生産コストの著しい上昇を招く場合がある。よって、C含有率は0.6質量%以下とする。
〔Cr:3質量%以上5重量%以下〕
Crは、(Fe,Cr)3 Cや(Fe,Cr)7 C3 等の高硬度で微細な炭化物を形成して、鋼を安定させるため、炭化物が少なくなることで生じるWECやトロイダル型無段変速機特有の組織変化を抑制する作用を有する。
また、Crが形成する高硬度で微細な炭化物は、鋼中の非金属介在物に代わって、水素原子をトラップする。ここで、鋼中に存在する炭化物は、非金属介在物のように同時に多くの水素原子をトラップすることなく、一つの炭化物で少数の水素原子のみをトラップする。このため、鋼中に侵入した水素原子は、炭化物にトラップされて、鋼中に均等に分散して存在することにより、従来は、一つの非金属介在物に多数の水素原子がトラップされることで発生していた脆性破壊を抑制することが可能となる。
Crは、(Fe,Cr)3 Cや(Fe,Cr)7 C3 等の高硬度で微細な炭化物を形成して、鋼を安定させるため、炭化物が少なくなることで生じるWECやトロイダル型無段変速機特有の組織変化を抑制する作用を有する。
また、Crが形成する高硬度で微細な炭化物は、鋼中の非金属介在物に代わって、水素原子をトラップする。ここで、鋼中に存在する炭化物は、非金属介在物のように同時に多くの水素原子をトラップすることなく、一つの炭化物で少数の水素原子のみをトラップする。このため、鋼中に侵入した水素原子は、炭化物にトラップされて、鋼中に均等に分散して存在することにより、従来は、一つの非金属介在物に多数の水素原子がトラップされることで発生していた脆性破壊を抑制することが可能となる。
さらに、Crは、基地に固溶して、焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性、耐食性、および耐摩耗性を向上させる他、浸炭処理特性や転がり疲れ寿命を向上させる作用も有する。さらに、Crは、CやN(窒素)等の侵入型固溶元素を実質的に動き難くして基地組織を安定にすることにより、水素侵入による寿命低下を大幅に抑制する作用も有する。これらの作用を得るために、Cr含有率は3質量%以上とする。
一方、Cr含有率が多過ぎると、冷間加工性、被削性、および浸炭処理特性が低下して、生産コストの著しい上昇を招いたり、粗大な共晶炭化物が生成して、転がり疲れ寿命や強度を著しく損なう場合がある。よって、Cr含有率は5質量%以下とする。
一方、Cr含有率が多過ぎると、冷間加工性、被削性、および浸炭処理特性が低下して、生産コストの著しい上昇を招いたり、粗大な共晶炭化物が生成して、転がり疲れ寿命や強度を著しく損なう場合がある。よって、Cr含有率は5質量%以下とする。
〔表層部のCおよびNの合計含有率:0.9質量%以上2.0質量%以下〕
CおよびN(窒素)は、基地に固溶して、動力伝達面または転動面をなす表層部に、動力伝達面または転動面として必要な硬さおよび残留オーステナイト量を付与するとともに、表面疲労を抑制するために必要な炭化物または炭窒化物を付与する作用を有する。この作用を得るために、前記表層部のCおよびNの合計含有率は0.9質量%以上、好ましくは1.0質量%以上とする。
一方、前記表層部のCおよびNの合計含有率が多過ぎると、窒化物や炭窒化物が粗大化して、十分な転がり疲れ寿命が得られなくなる。よって、前記表層部のCおよびNの合計含有率は2.0質量%以下とする。
CおよびN(窒素)は、基地に固溶して、動力伝達面または転動面をなす表層部に、動力伝達面または転動面として必要な硬さおよび残留オーステナイト量を付与するとともに、表面疲労を抑制するために必要な炭化物または炭窒化物を付与する作用を有する。この作用を得るために、前記表層部のCおよびNの合計含有率は0.9質量%以上、好ましくは1.0質量%以上とする。
一方、前記表層部のCおよびNの合計含有率が多過ぎると、窒化物や炭窒化物が粗大化して、十分な転がり疲れ寿命が得られなくなる。よって、前記表層部のCおよびNの合計含有率は2.0質量%以下とする。
〔表層部の残留オーステナイト量:15体積%以上45体積%以下〕
前記表層部の残留オーステナイトは、動力伝達面または転動面の表面疲労を軽減する作用を有する。この作用を得るために、前記表層部の残留オーステナイト量は15体積%以上、好ましくは20体積%以上とする。
一方、前記表層部の残留オーステナイト量が多過ぎると、硬さが低下して強度および表面疲労特性が得られなくなるとともに、装置の組み立て時に前記表層部に変形が生じて、組み立て性が低下する。よって、前記表層部の残留オーステナイト量は45体積%以下、好ましくは40体積%以下とする。
前記表層部の残留オーステナイトは、動力伝達面または転動面の表面疲労を軽減する作用を有する。この作用を得るために、前記表層部の残留オーステナイト量は15体積%以上、好ましくは20体積%以上とする。
一方、前記表層部の残留オーステナイト量が多過ぎると、硬さが低下して強度および表面疲労特性が得られなくなるとともに、装置の組み立て時に前記表層部に変形が生じて、組み立て性が低下する。よって、前記表層部の残留オーステナイト量は45体積%以下、好ましくは40体積%以下とする。
〔表層部および芯部の硬さについて〕
高い剪断応力やスピン滑りが生じる条件下であっても、転がり疲れ寿命を確保するために、前記表層部は硬くして表面疲労を生じ難くし、芯部は前記表層部に比べて柔らかくして靱性や耐震性を確保する必要がある。よって、前記表層部の硬さはHv697(HRC60)以上、好ましくはHv720(HRC61)以上とし、芯部の硬さはHv302(HRC30)以上とする。
高い剪断応力やスピン滑りが生じる条件下であっても、転がり疲れ寿命を確保するために、前記表層部は硬くして表面疲労を生じ難くし、芯部は前記表層部に比べて柔らかくして靱性や耐震性を確保する必要がある。よって、前記表層部の硬さはHv697(HRC60)以上、好ましくはHv720(HRC61)以上とし、芯部の硬さはHv302(HRC30)以上とする。
ここで、前記表層部の硬さがHRC60未満となると、動力伝達面または転動面に剥離が生じ易くなる。一方、前記表層部の硬さが硬過ぎると、残留オーステナイトを確保し難くなるため、Hv832(HRC65)以下とすることが好ましい。
また、芯部の硬さがHRC30未満となると、塑性変形が生じ易くなる。一方、芯部の硬さが硬過ぎると、靱性が確保出来ず、割れが生じ易くなるため、Hv550(HRC52)以下とすることが好ましい。
また、芯部の硬さがHRC30未満となると、塑性変形が生じ易くなる。一方、芯部の硬さが硬過ぎると、靱性が確保出来ず、割れが生じ易くなるため、Hv550(HRC52)以下とすることが好ましい。
〔熱処理について〕
まず、上述した特定の鋼からなる素材を鍛造または切削加工により所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化処理を行う。これらの処理は、浸炭処理を行う場合には混合ガス(RXガス+エンリッチガス)を導入した炉内で、浸炭窒化処理を行う場合には混合ガス(RXガス+エンリッチガス+アンモニアガス)を導入した炉内で、例えば900〜960℃程度で加熱保持することにより行う。
まず、上述した特定の鋼からなる素材を鍛造または切削加工により所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化処理を行う。これらの処理は、浸炭処理を行う場合には混合ガス(RXガス+エンリッチガス)を導入した炉内で、浸炭窒化処理を行う場合には混合ガス(RXガス+エンリッチガス+アンモニアガス)を導入した炉内で、例えば900〜960℃程度で加熱保持することにより行う。
次に、焼入れ処理を行った後、焼戻し処理を行う。ここで、浸炭または浸炭窒化処理の直後に焼入れ処理を行うと、旧オーステナイト結晶粒径が大きくなり、主に大きな残留オーステナイト粒とレンズ状マルテンサイトとからなる組織になる。しかし、これらの組織では寿命改善効果が期待できない。
そこで、浸炭または浸炭窒化処理後に、一旦A1 変態点以下に長時間保持するか、室温まで冷却した後に、再度820〜860℃程度に加熱して焼入れを行い、最終的に160〜200℃程度で焼戻しを行うことが好ましい。これにより、焼入れおよび焼戻し処理後の鋼を、マルテンサイトと残留オーステナイトとからなる基地組織に、高硬度で微細な炭窒化物が均一に分散した良好な組織にすることができる。
そこで、浸炭または浸炭窒化処理後に、一旦A1 変態点以下に長時間保持するか、室温まで冷却した後に、再度820〜860℃程度に加熱して焼入れを行い、最終的に160〜200℃程度で焼戻しを行うことが好ましい。これにより、焼入れおよび焼戻し処理後の鋼を、マルテンサイトと残留オーステナイトとからなる基地組織に、高硬度で微細な炭窒化物が均一に分散した良好な組織にすることができる。
本発明のトロイダル型無段変速機では、前記鋼として、質量比で、含有率が0.3%以上2.0%以下であるSi、含有率が0.3%以上1.5%以下であるMn、含有率が0.03%以下であるP、含有率が0.03%以下であるS、含有率が0.1%以上1.0%以下であるMo、含有率が0.07%以下であるAl、含有率が0.05%以下であるN、含有率が1.0%以下であるNbのうち少なくとも一つ以上をさらに含むものとすることにより、トロイダル型無段変速機の転がり疲れ寿命をさらに長くできる。
以下、鋼に含まれると好適な成分の各数値限定の理由について説明する。
〔Si:0.3質量%以上2.0質量%以下〕
Si(珪素)は、製鋼時に脱酸剤として作用するとともに、焼戻し軟化抵抗性を向上させる作用を有する。この作用を得るために、Si含有率は0.3質量%以上とする。一方、Si含有率が多過ぎると、鍛造性および冷間加工性が低下する。よって、Si含有率は、2.0質量%以下とする。
〔Si:0.3質量%以上2.0質量%以下〕
Si(珪素)は、製鋼時に脱酸剤として作用するとともに、焼戻し軟化抵抗性を向上させる作用を有する。この作用を得るために、Si含有率は0.3質量%以上とする。一方、Si含有率が多過ぎると、鍛造性および冷間加工性が低下する。よって、Si含有率は、2.0質量%以下とする。
〔Mn:0.3質量%以上1.5質量%以下〕
Mn(マンガン)は、焼入れ性を向上させる作用を有する。この作用を得るために、Mn含有率は0.3質量%以上とする。一方、Mn含有率が多過ぎると、加工性および熱間加工性が低下する。よって、Mn含有率は1.5質量%以下とする。
〔P:0.03質量%以下〕
P(リン)は、素材をなす鋼中に多量に存在すると、結晶粒界に偏折して粒界を脆化させる原因となる。このため、少なければ少ないほどよいが、製造上実用的な上限として0.03質量%とする。
〔S:0.03質量%以下〕
S(硫黄)は、MnSなどの非金属介在物を生成し、切削性を向上させる作用を有する。しかし、S含有率が多過ぎると、表面疲労特性が劣化するため、その上限を0.03質量%とする。
Mn(マンガン)は、焼入れ性を向上させる作用を有する。この作用を得るために、Mn含有率は0.3質量%以上とする。一方、Mn含有率が多過ぎると、加工性および熱間加工性が低下する。よって、Mn含有率は1.5質量%以下とする。
〔P:0.03質量%以下〕
P(リン)は、素材をなす鋼中に多量に存在すると、結晶粒界に偏折して粒界を脆化させる原因となる。このため、少なければ少ないほどよいが、製造上実用的な上限として0.03質量%とする。
〔S:0.03質量%以下〕
S(硫黄)は、MnSなどの非金属介在物を生成し、切削性を向上させる作用を有する。しかし、S含有率が多過ぎると、表面疲労特性が劣化するため、その上限を0.03質量%とする。
〔Mo:0.1質量%以上1.0質量%以下〕
Moは、Crと同様に、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗性を向上させるとともに、WECやトロイダル型無段変速機特有の組織変化を抑制する作用を有する。この作用を得るために、Moは0.1質量%以上とする。しかし、MoはCrと同様に炭化物形成元素であるため、Mo含有率が多過ぎると、表面疲労特性を劣化させる粗大な共晶炭化物の生成を促進する。よって、Mo含有率は1.0質量%以下とする。
Moは、Crと同様に、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗性を向上させるとともに、WECやトロイダル型無段変速機特有の組織変化を抑制する作用を有する。この作用を得るために、Moは0.1質量%以上とする。しかし、MoはCrと同様に炭化物形成元素であるため、Mo含有率が多過ぎると、表面疲労特性を劣化させる粗大な共晶炭化物の生成を促進する。よって、Mo含有率は1.0質量%以下とする。
〔Al:0.07質量%以下〕
Al(アルミニウム)は、製鋼時に脱酸剤としての作用を有するとともに、Nと結合して結晶粒を微細化することにより、鋼の靱性を向上させる作用も有する。特に、高い剪断応力やスピン滑りが発生した条件下で、上述したWECおよびトロイダル型無段変速機特有の組織変化の遅延を促進できるため、転がり疲れ寿命をより一層向上させる作用を有する。
このような組織変化を遅延させる作用は、鋼中にAlを単独で多量に含むことにより十分な効果が得られる。しかし、Al含有率が多過ぎると、その効果が飽和するとともに、靱性および加工性が劣化するため、その上限を0.07質量%とする。
Al(アルミニウム)は、製鋼時に脱酸剤としての作用を有するとともに、Nと結合して結晶粒を微細化することにより、鋼の靱性を向上させる作用も有する。特に、高い剪断応力やスピン滑りが発生した条件下で、上述したWECおよびトロイダル型無段変速機特有の組織変化の遅延を促進できるため、転がり疲れ寿命をより一層向上させる作用を有する。
このような組織変化を遅延させる作用は、鋼中にAlを単独で多量に含むことにより十分な効果が得られる。しかし、Al含有率が多過ぎると、その効果が飽和するとともに、靱性および加工性が劣化するため、その上限を0.07質量%とする。
〔N:0.05質量%以下〕
N(窒素)は、製鋼時の脱酸剤として低酸素化に有効に作用するとともに、窒化物形成元素と結合して結晶粒を微細化する作用や、基地に固溶して焼入れおよび焼戻し処理後の強度を高めることにより、転がり疲れ寿命を向上させる作用を有する。また、WECおよびトロイダル型無段変速機特有の組織変化の遅延を促進することにより、転がり疲れ寿命を向上させる作用も有する。しかし、素材をなす鋼のN含有率が多過ぎると、靱性および加工性が劣化するため、その上限を0.05質量%とする。
N(窒素)は、製鋼時の脱酸剤として低酸素化に有効に作用するとともに、窒化物形成元素と結合して結晶粒を微細化する作用や、基地に固溶して焼入れおよび焼戻し処理後の強度を高めることにより、転がり疲れ寿命を向上させる作用を有する。また、WECおよびトロイダル型無段変速機特有の組織変化の遅延を促進することにより、転がり疲れ寿命を向上させる作用も有する。しかし、素材をなす鋼のN含有率が多過ぎると、靱性および加工性が劣化するため、その上限を0.05質量%とする。
〔Nb:1.0質量%以下〕
Nb(ニオブ)は、上述したWECおよびトロイダル型無段変速機特有の組織変化を遅延させることにより、転がり疲れ寿命を向上させる作用を有する。また、Nbは、炭化物を安定させることにより、耐摩耗性を向上させる作用も有する。さらに、Nbは、結晶粒を微細化することにより、靱性を向上させる作用も有する。しかし、Nb含有率が多過ぎると、焼入れ時の固溶C量が減少して強度が低下するため、その上限を1.0質量%とする。
なお、本発明は、ハーフトロイダル型無段変速機に適用してもよいし、フルトロイダル型無段変速機に適用してもよい。
また、本発明のトロイダル型無段変速機において、前記表層部とは、表面から所定深さ(例えば、50μmの深さ)までの部分を指す。
Nb(ニオブ)は、上述したWECおよびトロイダル型無段変速機特有の組織変化を遅延させることにより、転がり疲れ寿命を向上させる作用を有する。また、Nbは、炭化物を安定させることにより、耐摩耗性を向上させる作用も有する。さらに、Nbは、結晶粒を微細化することにより、靱性を向上させる作用も有する。しかし、Nb含有率が多過ぎると、焼入れ時の固溶C量が減少して強度が低下するため、その上限を1.0質量%とする。
なお、本発明は、ハーフトロイダル型無段変速機に適用してもよいし、フルトロイダル型無段変速機に適用してもよい。
また、本発明のトロイダル型無段変速機において、前記表層部とは、表面から所定深さ(例えば、50μmの深さ)までの部分を指す。
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、入出力ディスクおよびパワーローラの各動力伝達面や、パワーローラ支持軸受を構成する転動体の転動面において、表面疲労による剥離と、WECやトロイダル型無段変速機に特有の組織変化による剥離とをともに抑制できる。よって、高い剪断応力やスピン滑りが発生する条件下で使用されるトロイダル型無段変速機の寿命を長くできる。
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のトロイダル型無段変速機の一例であるハーフトロイダル型無段変速機を示す断面図である。なお、図1は、ハーフトロイダル型無段変速機の入力軸の軸方向に沿った断面である。
このハーフトロイダル型無段変速機は、図1に示すように、入力軸1と連動して回転する入力ディスク2と、出力軸と連動して回転する出力ディスク3と、これら両ディスク2,3間に配置されたパワーローラ5と、を備えている。両ディスク2,3の対向する内側面には、それぞれ断面円弧状の動力伝達面2a,3aが形成されている。パワーローラ5は、両ディスク2,3の動力伝達面2a,3aに摺接する動力伝達面5aを有する。
図1は、本発明のトロイダル型無段変速機の一例であるハーフトロイダル型無段変速機を示す断面図である。なお、図1は、ハーフトロイダル型無段変速機の入力軸の軸方向に沿った断面である。
このハーフトロイダル型無段変速機は、図1に示すように、入力軸1と連動して回転する入力ディスク2と、出力軸と連動して回転する出力ディスク3と、これら両ディスク2,3間に配置されたパワーローラ5と、を備えている。両ディスク2,3の対向する内側面には、それぞれ断面円弧状の動力伝達面2a,3aが形成されている。パワーローラ5は、両ディスク2,3の動力伝達面2a,3aに摺接する動力伝達面5aを有する。
また、このハーフトロイダル型無段変速機は、パワーローラ5を回転可能に支持する変位軸8と、この変位軸8を枢軸6を中心として入力軸1の軸方向(図1における左右方向)に揺動可能に支持するトラニオン7と、を備えている。
さらに、このハーフトロイダル型無段変速機は、パワーローラ5に加わるスラスト荷重を支持しつつ、パワーローラ5の回転を許容するスラスト軸受(パワーローラ支持軸受)20を備えている。
さらに、このハーフトロイダル型無段変速機は、パワーローラ5に加わるスラスト荷重を支持しつつ、パワーローラ5の回転を許容するスラスト軸受(パワーローラ支持軸受)20を備えている。
スラスト軸受20の内輪軌道面5bはパワーローラ5に形成され、外輪9はトラニオン7側に取り付けられている。そして、このスラスト軸受20は、内輪軌道面5bおよび外輪軌道面9aの間に複数の玉10(パワーローラ支持軸受の転動体)が転動可能に配設され、この玉10を転動可能に保持する保持器11を備えている。
このハーフトロイダル型無段変速機では、入力軸1の回転がローディングカム1A、入力ディスク2、パワーローラ5、出力ディスク3および出力歯車4を介して、出力軸に伝達されるようになっている。
このハーフトロイダル型無段変速機では、入力軸1の回転がローディングカム1A、入力ディスク2、パワーローラ5、出力ディスク3および出力歯車4を介して、出力軸に伝達されるようになっている。
そして、枢軸6を中心にトラニオン7を揺動させ、パワーローラ5の動力伝達面5aを入力ディスク2の中心寄り部分と出力ディスク3の外周寄り部分とに変位させると、入力軸1の回転が出力軸に減速されて伝わり、逆にパワーローラ5の動力伝達面5aを入力ディスク2の外周寄り部分と出力ディスク3の中心寄り部分とに変位させると、入力軸1の回転が出力軸に増速されて伝わるようになっている。
本実施形態では、ハーフトロイダル型無段変速機を構成する入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5を、以下のように作製した。
まず、表1に示す各含有率の鋼からなる素材を鍛造により所定形状に加工した後、表1に示す各方法の熱処理を施した。
なお、表1に「浸炭窒化→焼入れ焼戻し」で示す熱処理は、以下に示す条件で行った。まず、RXガス+エンリッチガス+アンモニアガスの雰囲気中において、930℃で10時間保持することにより浸炭窒化を行った後、油焼入れを行った。次に、180℃で2時間保持することにより焼戻しを行った。
まず、表1に示す各含有率の鋼からなる素材を鍛造により所定形状に加工した後、表1に示す各方法の熱処理を施した。
なお、表1に「浸炭窒化→焼入れ焼戻し」で示す熱処理は、以下に示す条件で行った。まず、RXガス+エンリッチガス+アンモニアガスの雰囲気中において、930℃で10時間保持することにより浸炭窒化を行った後、油焼入れを行った。次に、180℃で2時間保持することにより焼戻しを行った。
また、表1に「浸炭→焼入れ焼戻し」で示す熱処理は、以下に示す条件で行った。まず、RXガス+エンリッチガスの雰囲気中において、930℃で10時間保持することにより浸炭を行った後、油焼入れを行った。次に、180℃で2時間保持することにより焼戻しを行った。
さらに、表1に「焼入れ焼戻し」で示す熱処理は、以下に示す条件で行った。まず、RXガス雰囲気中において、840℃で3時間保持した後、油焼入れを行った。次に、180℃で2時間保持することにより焼戻しを行った。
さらに、表1に「焼入れ焼戻し」で示す熱処理は、以下に示す条件で行った。まず、RXガス雰囲気中において、840℃で3時間保持した後、油焼入れを行った。次に、180℃で2時間保持することにより焼戻しを行った。
このようにして得られた入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5において、それぞれの動力伝達面2a,3a,5aをなす表層部(表面から50μmまでの深さまでの部分)のCおよびNの合計含有率(C+N)を、電子線マイクロアナライザ (EPMA)により測定した。この結果を、表1に併せて示した。
また、前記表層部の残留オーステナイト量(γR )を、X線回折装置により測定した。この結果を、表1に併せて示した。
また、前記表層部の残留オーステナイト量(γR )を、X線回折装置により測定した。この結果を、表1に併せて示した。
さらに、前記表層部の硬さと、芯部(製品の断面中心)の硬さを、ビッカース硬度計を用いて測定した。この結果を、表1に併せて示した。
そして、これらの入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5と、これら以外の部品(通常品)とを用いて、ハーフトロイダル型無段変速機を組み立てた。
次に、これらのハーフトロイダル型無段変速機にトラクションオイルを充填して、以下に示す条件で耐久試験を行った。この耐久試験は、試験開始から100時間までを上限として、入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5の少なくとも一つに破損(剥離または割れ)が生じるまでハーフトロイダル型無段変速機の運転を行い、破損が生じるまでの時間を寿命として測定した。この結果は、ワイブル分布関数に基づいて算出したL10寿命として、表1に併せて示した。
そして、これらの入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5と、これら以外の部品(通常品)とを用いて、ハーフトロイダル型無段変速機を組み立てた。
次に、これらのハーフトロイダル型無段変速機にトラクションオイルを充填して、以下に示す条件で耐久試験を行った。この耐久試験は、試験開始から100時間までを上限として、入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5の少なくとも一つに破損(剥離または割れ)が生じるまでハーフトロイダル型無段変速機の運転を行い、破損が生じるまでの時間を寿命として測定した。この結果は、ワイブル分布関数に基づいて算出したL10寿命として、表1に併せて示した。
〔耐久試験条件〕
入力軸の回転速度:4500min-1
入力トルク:400N・m
最大面圧:3.5GPa
温度:150℃(但し、温度の測定は入力ディスク2の外径面で行っているため、高い剪断応力が加わる各動力伝達面ではこの温度よりも局部的に高くなっている。)
また、耐久試験後、破損が生じたサンプルにおいてはその破損部品を、破損が生じなかったサンプルにおいては入力ディスク2を光学顕微鏡を用いて観察し、WECおよびトロイダル型無段変速機特有の組織変化の有無を調べた。この結果は、表1に併せて示した。
入力軸の回転速度:4500min-1
入力トルク:400N・m
最大面圧:3.5GPa
温度:150℃(但し、温度の測定は入力ディスク2の外径面で行っているため、高い剪断応力が加わる各動力伝達面ではこの温度よりも局部的に高くなっている。)
また、耐久試験後、破損が生じたサンプルにおいてはその破損部品を、破損が生じなかったサンプルにおいては入力ディスク2を光学顕微鏡を用いて観察し、WECおよびトロイダル型無段変速機特有の組織変化の有無を調べた。この結果は、表1に併せて示した。
表1に示すように、ハーフトロイダル型無段変速機の入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5を全て本発明の構成(鋼中のC,Crの含有率と、前記表層部のCおよびNの合計含有率と、前記表層部の残留オーステナイト量と、前記表層部の硬さと、前記芯部の硬さ)とした発明例No.1〜No.5では、入力ディスク2、出力ディスク3、パワーローラ5を本発明の構成外とした比較例No.6〜No.12と比べて、長寿命であった。
発明例であるNo.1〜No.5のうち、鋼中のSi,Mn,P,S,Mo,Al,N,Nbの含有率についても特定したNo.1〜No.4では、鋼中のC,Crの含有率のみを特定したNo.5と比べて、長寿命であった。
一方、No.6では、素材となる鋼中のC含有率が本発明の範囲外であったため、前記表層部および芯部の硬さが低く、高い剪断応力に耐えられなかった。
一方、No.6では、素材となる鋼中のC含有率が本発明の範囲外であったため、前記表層部および芯部の硬さが低く、高い剪断応力に耐えられなかった。
また、No.7,8では、素材となる鋼中のCr含有率が本発明の範囲外であったため、動力伝達面2a,3a,5aに、組織変化による剥離が生じた。
さらに、No.9では、Cr,Si,Mn,P,S,Mo,Al,N,Nbの含有率が本発明の範囲外であったため、動力伝達面2a,3a,5aに、表面疲労による剥離と組織変化による剥離が生じた。
さらに、No.9では、Cr,Si,Mn,P,S,Mo,Al,N,Nbの含有率が本発明の範囲外であったため、動力伝達面2a,3a,5aに、表面疲労による剥離と組織変化による剥離が生じた。
さらに、No.10では、前記表層部のCおよびNの合計含有率が本発明の範囲外であったため、動力伝達面2a,3a,5aに、表面疲労による剥離と組織変化による剥離が生じた。
さらに、No.11では、本発明の範囲外の熱処理を施したことにより、前記表層部のCおよびNの合計含有率が本発明の範囲外であったため、靱性が不足して芯部に割れが生じるとともに、動力伝達面2a,3a,5aに組織変化による剥離が生じた。
さらに、No.11では、本発明の範囲外の熱処理を施したことにより、前記表層部のCおよびNの合計含有率が本発明の範囲外であったため、靱性が不足して芯部に割れが生じるとともに、動力伝達面2a,3a,5aに組織変化による剥離が生じた。
さらに、No.12では、本発明の範囲外の熱処理を施したことにより、前記表層部の残留オーステナイト量が本発明の範囲外であったため、動力伝達面2a,3a,5aに、圧痕縁を起点とする剥離と組織変化による剥離が生じた。
以上の結果から、入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5を本発明の構成(鋼中のC,Crの含有率と、前記表層部のCおよびNの合計含有率と、前記表層部の残留オーステナイト量と、前記表層部の硬さと、前記芯部の硬さ)にすることにより、ハーフトロイダル型無段変速機の寿命を長くできることが分かった。
以上の結果から、入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5を本発明の構成(鋼中のC,Crの含有率と、前記表層部のCおよびNの合計含有率と、前記表層部の残留オーステナイト量と、前記表層部の硬さと、前記芯部の硬さ)にすることにより、ハーフトロイダル型無段変速機の寿命を長くできることが分かった。
また、上述した構成に加えて、入力ディスク2、出力ディスク3、およびパワーローラ5の素材となる鋼中のSi,Mn,P,S,Cr,Mo,Al,N,Nbの含有率を特定することにより、ハーフトロイダル型無段変速機の寿命をさらに長くできることが分かった。
なお、本実施形態では、トロイダル型無段変速機の一例としてハーフトロイダル型無段変速機について説明したが、本発明はこれに限らず、図2に示すようなフルトロイダル型無段変速機に適用してもよい。
なお、本実施形態では、トロイダル型無段変速機の一例としてハーフトロイダル型無段変速機について説明したが、本発明はこれに限らず、図2に示すようなフルトロイダル型無段変速機に適用してもよい。
このフルトロイダル型無段変速機は、図2に示すように、対向する内側面に動力伝達面2a,3aを有する入力ディスク2および出力ディスク3と、これらの動力伝達面2a,3aに摺接する動力伝達面5aを有するパワーローラ5と、このパワーローラ5に加わるラジアル荷重を支持しつつ、パワーローラ5の回転を許容するラジアル軸受(パワーローラ支持軸受)30と、を備えている。このラジアル軸受30は、内輪31と、外輪32と、内輪31および外輪32間に転動可能に配設される玉(転動体)33と、からなる。
このようなフルトロイダル型無段変速機に本発明を適用する場合には、入力ディスク2、出力ディスク3、パワーローラ5、およびラジアル軸受30の玉33のうち少なくとも一つを、本発明の鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、焼戻し処理とをこの順で施して作製する。そして、これらの動力伝達面2a,3a,5aまたは転動面(玉33の表面)をなす表層部の硬さと、前記表層部のCおよびNの合計含有率と、前記表層部の残留オーステナイト量と、芯部の硬さとを本発明の構成にする。
2 入力ディスク
2a 動力伝達面
3 出力ディスク
3a 動力伝達面
5 パワーローラ
5a 動力伝達面
10 玉(パワーローラ支持軸受の転動体)
20 スラスト軸受(パワーローラ支持軸受)
30 ラジアル軸受(パワーローラ支持軸受)
33 玉(パワーローラ支持軸受の転動体)
2a 動力伝達面
3 出力ディスク
3a 動力伝達面
5 パワーローラ
5a 動力伝達面
10 玉(パワーローラ支持軸受の転動体)
20 スラスト軸受(パワーローラ支持軸受)
30 ラジアル軸受(パワーローラ支持軸受)
33 玉(パワーローラ支持軸受の転動体)
Claims (2)
- 対向する内側面にそれぞれ断面円弧状の動力伝達面を有する入力ディスクおよび出力ディスクと、これら両ディスク間に配置されて、前記両動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラと、このパワーローラを前記両動力伝達面に対して摺接可能に支持するパワーローラ支持軸受と、を備えたトロイダル型無段変速機において、
前記入力ディスク、前記出力ディスク、前記パワーローラ、および前記パワーローラ支持軸受の転動体のうち少なくとも一つは、
質量比で、C含有率が0.3%以上0.6%以下で、Cr含有率が3%以上5%以下である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化処理と、焼入れ処理と、焼戻し処理とがこの順で施されて得られ、
その動力伝達面または転動面をなす表層部の硬さはHv697以上、前記表層部のCおよびNの合計含有率は0.9%以上2.0%以下、前記表層部の残留オーステナイト量は15体積%以上45体積%以下となっているとともに、芯部の硬さはHv302以上となっていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。 - 前記鋼は、質量比で、含有率が0.3%以上2.0%以下であるSi、含有率が0.3%以上1.5%以下であるMn、含有率が0.03%以下であるP、含有率が0.03%以下であるS、含有率が0.1%以上1.0%以下であるMo、含有率が0.07%以下であるAl、含有率が0.05%以下であるN、含有率が1.0%以下であるNbのうち少なくとも一つ以上を、さらに含むことを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2005103221A JP2006283848A (ja) | 2005-03-31 | 2005-03-31 | トロイダル型無段変速機 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2015030900A (ja) * | 2013-08-05 | 2015-02-16 | 新日鐵住金株式会社 | 軸受及び転がり軸受並びにこれらの製造方法 |
Citations (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPH0979338A (ja) * | 1995-09-13 | 1997-03-25 | Kobe Steel Ltd | 転動疲労強度に優れたトロイダル式無段変速機用転動体材料および転動体 |
JP2005076843A (ja) * | 2003-09-03 | 2005-03-24 | Nsk Ltd | トロイダル型無段変速機 |
-
2005
- 2005-03-31 JP JP2005103221A patent/JP2006283848A/ja active Pending
Patent Citations (2)
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