JP2001181785A - 動力伝達部品および駆動装置ならびに動力伝達部品の製造方法 - Google Patents

動力伝達部品および駆動装置ならびに動力伝達部品の製造方法

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JP2001181785A
JP2001181785A JP36080299A JP36080299A JP2001181785A JP 2001181785 A JP2001181785 A JP 2001181785A JP 36080299 A JP36080299 A JP 36080299A JP 36080299 A JP36080299 A JP 36080299A JP 2001181785 A JP2001181785 A JP 2001181785A
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less
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Hirokazu Nakajima
碩一 中島
Kikuo Maeda
喜久男 前田
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NTN Corp
Original Assignee
NTN Corp
NTN Toyo Bearing Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 トラクションドライブやCVT装置への入出
力部品、転動体、カム駆動装置のカムなどのように、用
途上、大きなすべりを伴う動力伝達部品に表面損傷が生
じがたく、かつ長い耐久寿命を確保できる仕様を提供す
る。 【解決手段】 本発明の動力伝達部品は、少なくとも合
金元素として質量%で、素地中にCを0.7%以上1.
3%以下含む鋼からなり、表面から厚み1mmの表面部
はロックウェル硬さHRC58以上であり、中心部はロ
ックウェル硬さHRC40以上55以下である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、トラクションド
ライブやCVT(Continuously Variable Transmissio
n)装置の入出力部品、転動体やカム駆動装置のカムな
どのように、用途上、すべりを伴いながら動力を伝達す
る部品およびそれらから構成された駆動装置ならびに動
力伝達部品の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】トラクションドライブやCVTのように
転がりあるいは転がりすべりにより動力を伝達する装置
が高能率化のために採用される機運にあるが、これらの
摩擦駆動、動力伝達装置の動力伝達部である入出力部品
や転動体や転動部品には、その機構上、表面に接線力や
すべりが作用する。これまではこれらの部品には浸炭鋼
が転動疲労特性に優れることや、浸炭による表層圧縮応
力が接線力による表面亀裂の発生を防ぐ理由から用いら
れてきた。また、CVTの入出力プーリ部ではトルク伝
達時のこま押し付け荷重の作用で曲げ応力が発生し、こ
れによる割れや短寿命の問題があり、これを防ぐために
比較的深い浸炭深さの管理が行なわれてきた。
【0003】しかし、一層の高能率化のためには、今後
更にすべりや接線力が増加し、かつ表面温度も上昇する
ことが考えられる。この場合には、通常の浸炭鋼に浸炭
後、更に高周波焼入れして大きな圧縮応力を与えるとか
(特開平10−103440号公報)、浸炭深さを深く
管理して大きな荷重に耐える(特開平7−71555号
公報)工夫が行なわれている。しかし、これらの方法は
浸炭+高周波焼入れや長時間浸炭などの効率が悪い熱処
理を行なっており、熱処理費用や消費エネルギーの増大
という問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、転が
りすべりにより動力を伝達する装置では、これらの摩擦
駆動部品、動力伝達部品には、その機構上、絶えず接線
力やすべりが作用する。これにより表面が高温になった
り、トラクション油や潤滑油がせん断発熱し、油膜が薄
くなる結果、ピーリングやスミアリングなどの表面損傷
が問題になる。これを防ぐため、従来は大きな圧縮応力
を形成したり浸炭深さを深くするなどの対策が行なわれ
ており、浸炭+高周波焼入れや長時間浸炭などの効率が
悪い熱処理を行なうために、熱処理費用や消費エネルギ
ーの増大という問題があった。
【0005】そこで、この発明の課題は、高接線力、高
すべり条件下でも表面損傷が生じ難く、かつ高温となる
雰囲気条件下でも長い耐久寿命を確保できる摩擦駆動、
動力伝達装置の動力伝達部品を安価な熱処理条件で提供
することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するた
めに、この発明は、動力伝達部品を、合金元素として少
なくともC(炭素)を質量%で素地中に0.7%以上
1.3%以下含む鋼とし、表面から厚み1mmの表面部
をロックウェル硬さHRC58以上とし、中心部をロッ
クウェル硬さHRC40以上55以下としたものであ
る。
【0007】これにより表面層には曲げ疲労寿命や接線
力による表面亀裂の発生寿命を向上できる大きな圧縮応
力が形成され、かつ細かいミクロ組織として表面亀裂に
対する靭性が与えられ、HRC58以上を確保すること
で、通常の転動寿命も得ることができる。また、中心部
がHRC40以上HRC55以下のロックウェル硬度を
有するため、高荷重を受ける部品に必要な靭性が得られ
るとともに、大きな荷重を受けた場合でも部品の割れを
抑制することができる。
【0008】Cを0.7%以上含有させたのは、高周波
焼入れ後のすべりを伴った転動寿命特性のためには、
0.7%以上の炭素量で焼入れ・高温焼戻し後の炭化物
が適度に存在する必要があり、また高周波加熱で均一な
高硬度を安定して得るには、0.7%以上の炭素量が必
要なためである。炭化物が存在しないと、同じ硬度であ
っても転がりすべり時に表面層に塑性流動が生じやす
く、これにより表面亀裂が生じやすい。一方、1.3%
を超える炭素量は、炭化物が大きくなりやすく、逆に応
力集中源になること、高周波焼入れ時に炭素が素地に溶
け込みやすく、残留オーステナイトが多くなって必要硬
度が得られないことによる。またこれ以上の素地の炭素
量は熱処理前の素材硬度を高め、加工性(鍛造性、旋削
性など)を著しく害し、製造コストの上昇を招く。
【0009】また転がりすべり接触時の鋼の軟化による
表面圧縮応力の低減や表面亀裂発生寿命を更に向上する
には、質量%で、少なくとも0.3%以上3.0%以下
のSi(シリコン)、0.2%以上1.5%以下のMn
(マンガン)、0.3%以上5.0%以下のCr(クロ
ム)、0.1%以上3.0%以下のNi(ニッケル)、
0.05%以上1.0%以下のV(バナジウム)、およ
び0.05%以上0.25%未満のMo(モリブデン)
よりなる群より選ばれる1以上の合金元素を鋼中に含ま
せることが好ましい。このような合金組成とすることに
より一層の長寿命化が図れる。その根拠は以下のとおり
である。
【0010】Siを0.3%以上3.0%以下含有させ
たのは、Siは高温にさらされた場合の軟化を抑制し、
耐熱性を改善する作用があるためである。0.3%未満
ではその効果が得られないため、Si含有量の下限を
0.3%とした。またSi含有量の増加に伴って耐熱性
は向上するが、3.0%を超えて多量に含有させてもそ
の効果は飽和し、かつ熱間加工性や被削性が低下するた
め、Si含有量の上限を3.0%とした。
【0011】MnおよびCrは、いずれも鋼材の焼入れ
性を改善し、Mnは鋼中に固溶して鋼を強靭化し、Cr
は炭化物を形成して鋼を強化する。Mn含有量の下限を
0.2%、Cr含有量の下限を0.3%としたのは、こ
れらの効果を得るためである。また、Mn含有量の上限
を1.5%としたのは被削性の低下を避けるためであ
り、Cr含有量の上限を5.0%としたのは、大型の炭
化物の生成による脆化を防止するためである。これらの
元素はまた、転動寿命特性を向上させることが明らかに
なっている。
【0012】Niを0.1%以上3.0%以下、Vを
0.05%以上1.0%以下、Moを0.05%以上
0.25%未満ずつ単独または複合で含有させたのは以
下の理由による。
【0013】Niは、鋼中に固溶してマトリックスを強
化するとともに、特に部品が高温下で使用された場合
に、転動疲労過程における組織の変化を抑制し、かつ高
温域での硬さの低下も抑制する。したがって、Niは高
温環境下での転動疲労特性と耐表面損傷性を向上させる
効果を有する。これらの効果を得るためには、Niを
0.1%以上含有させる必要があるので、Ni含有量の
下限を0.1%とした。しかし、3.0%を超えてNi
を含有させると、焼入れ処理時に多量の残留オーステナ
イトが生成されて、所定の硬さを得られなくなり、また
鋼材コストも高価になるため、Ni含有量の上限を3.
0%とした。
【0014】Vは、炭素と結合して微細な炭化物を析出
させ、結晶粒を微細化して強度、靭性を改善するととも
に、高温での軟化を抑制する。したがって、上述したN
iと同様に、Vは高温環境下での転動疲労特性と耐表面
損傷性を向上させる効果を有する。この効果を得るため
に、V含有量の下限を0.05%とした。上限を1.0
%としたのは、1.0%を超えてVを多量に含有させる
と、被削性と熱間加工性が低下するからである。
【0015】Moは、鋼の焼入れ性を改善するととも
に、焼戻し脆性を防止し、さらに高温域での軟化も抑制
する。したがって、Moも高温環境下での転動疲労特性
と耐表面損傷性を向上させる効果を有する。この効果を
得るために、Mo含有量の下限を0.05%とした。M
o含有量を0.25%以上にすると被削性が低下し、か
つ鋼材コストも上昇するため、Mo含有量の上限を0.
25%未満とした。
【0016】これらの合金成分の作用で、局部的に大き
な温度上昇が生じても、表面の軟化が防止され、ピーリ
ングやスミアリングなどの耐表面損傷強度が向上すると
ともに、転動寿命にも優れた動力伝達用の転動部品材質
にすることができる。
【0017】上記の動力伝達部品は、表面に浸炭窒化層
を有することが好ましい。このように表面に浸炭窒化層
を形成すると、表面層に存在する窒素と炭素とにより高
周波焼入れ後の表層部の圧縮応力を一層大きくでき、ま
た窒素による表面層の焼戻し抵抗性増大の好影響も出る
ので、一層、高強度・長寿命にすることができる。
【0018】すなわち、浸炭窒化処理で表面層の窒素含
有量を高めると、表面層のMs点(マルテンサイト変態
開始温度)が低くなり、これを焼入れすると、表面層に
未変態のオーステナイトが多く残留する。残留オーステ
ナイトは、高い靱性と加工硬化特性とを有し、亀裂の発
生や進展を抑える働きをする。また、Ms点が低下した
表面層は、マルテンサイト変態が内部よりも遅れて始ま
るので、表面層には圧縮の残留応力が形成され、表面層
の疲労強度が向上する結果、ピーリング強度や転動寿命
が向上する。また、浸炭窒化による窒素の侵入は耐熱性
の付与の点でも有利であり、耐スミアリング特性も向上
する。
【0019】上記の動力伝達部品は、表面に高周波焼入
れ組織を有し、内部にはその高周波焼入れ組織とは異な
る焼入れ組織を有することが好ましい。
【0020】本発明では、動力伝達部品に、高周波焼入
れを含む2回の焼入れが施されるため、表面と内部に異
なる焼入れ組織が存在する。
【0021】上記の動力伝達部品により入力軸の動力を
出力軸に伝達できる駆動装置を構成することが好まし
い。これにより、良好な転動寿命、耐ピーリング強度お
よび耐スミアリング強度を有する駆動装置を得ることが
できる。
【0022】また上記の動力伝達部品は、その特性よ
り、コーン型CVT装置およびトロイダル型CVT装置
に用いられることが好ましい。
【0023】また上記の課題を解決するために、本発明
の動力伝達部品の製造方法は以下の工程を備えている。
【0024】図1を参照して、まず合金元素として少な
くともCを、質量%で素地中に0.7%以上1.3%以
下含む鋼が加熱され、焼入れされる(ステップS1)。
そして焼入れされた鋼が350℃以上600℃以下の温
度にて焼戻される(ステップS2)。そして焼戻された
鋼が高周波焼入れされる(ステップS3)。
【0025】このように加熱・焼入れにより全面硬化し
た後、高温焼戻しによりHRC55以下の硬度にするこ
とで内部の靭性を浸炭鋼と遜色ないレベルにすることが
できる。また、その後の高周波焼入れにより必要部分を
十分深い深さまで任意のパターンで硬化させることがで
き、長時間の浸炭や浸炭後高周波焼入れする方法より合
理的に必要材質を得ることができる。
【0026】上記の動力伝達部品の製造方法において、
焼戻す工程前に、鋼に浸炭窒化処理を施すことが好まし
い。
【0027】上述したように浸炭窒化処理を施すことに
より、一層、高強度・長寿命にすることができる。
【0028】上記の動力伝達部品の製造方法において、
鋼が高炭素クロム軸受鋼の場合、焼戻す工程における温
度が350℃以上550℃以下であることが好ましい。
【0029】上記の動力伝達部品の製造方法において、
鋼に質量%で少なくとも、0.3%以上3.0%以下の
Si、0.2%以上1.5%以下のMn、0.3%以上
5.0%以下のCr、0.1%以上3.0%以下のN
i、0.05%以上1.0%以下のV、および0.05
%以上0.25%未満のMoよりなる群より選ばれる1
以上の合金元素が含まれており、焼戻す工程における温
度は400℃以上600℃以下である。
【0030】このように処理を施す対象となる鋼の種類
によって、適切な焼戻し温度が選択される。
【0031】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。
【0032】(本発明例)表1に示す10種類の化学成
分を有する鋼を素材として、転動寿命、ピーリング、ス
ミアリング強度評価用試験片、転動割れ疲労強度試験片
(表1中の本発明例1〜10)を用意した。本発明例1
〜10に示した一部の鋼材に浸炭窒化処理を施した試験
片(表1中の本発明例11〜15)も用意した。
【0033】
【表1】
【0034】浸炭窒化しない試験片については、840
℃〜860℃に加熱した後、油中へ焼入れし、一旦HR
C58以上の硬度を得た後、350℃以上の温度で焼戻
し、内部をHRC55以下にした。浸炭窒化した試験片
については、焼入れ前の加熱をアンモニアガスが添加さ
れた浸炭性雰囲気中で行なった後に上記と同様の焼入れ
・焼戻しをした。
【0035】その後、浸炭窒化していない試験片(本発
明例1〜10)および浸炭窒化した試験片(本発明例1
1〜15)の双方に高周波焼入れを行なった。この高周
波焼入れにより各試験片を表面下1mm深さまで硬化さ
せた後、表層がHRC58以上を確保できる焼戻しを行
なった。
【0036】(比較例)本発明例と同じ化学成分を有す
る5種類の鋼を焼入れ焼戻しした試験片(表2中の比較
例1〜5)および本発明例の化学成分範囲を外れる3種
類の化学成分を有する鋼を焼入れ焼戻しした試験片(表
2中の比較例6〜8)を用意した。また、これらの一部
の鋼材に浸炭窒化処理した後、高周波焼入れした試験片
(表2中の比較例9、10)や、従来の浸炭鋼、炭素鋼
試験片(表2中の比較例11、12)も用意した。
【0037】
【表2】
【0038】上記本発明例および比較例の試験片サンプ
ルについて、転動寿命試験、ピーリング試験、スミアリ
ング試験、割れ疲労強度試験、硬度分布測定を実施し
た。
【0039】各試験および測定の概要と結果は以下のと
おりである。 (1) 転動疲労試験 転動疲労試験は、高面圧、高負荷速度の条件で、加速的
にサンプルを疲労させて評価した。この試験は表3に示
す条件で行なった。またこの試験では、サンプル数Nを
10とし、疲労強度をL10寿命(サンプルの90%が
破損しないで使える負荷回数)で評価した。この転動疲
労試験の結果を表4に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】この表4の結果より、本発明例の試験片
は、総じて転動寿命が長く、浸炭窒化を組合わせたもの
は更に長寿命となっている。比較例のもののうち、本発
明例と化学成分が同じで高周波焼入れしていないものも
転動寿命に関しては長寿命のものがある。
【0043】(2) ピーリング試験 ピーリング試験は、円筒部に緩やかな曲率を有するリン
グ状の試験片を駆動軸と、この駆動軸に平行な従動軸に
取付け、両試験片の円筒面を互いに押し当てて転動させ
て行なった。各試験片の寸法は、直径40mm、高さ1
2mm、円筒部の副曲率半径60mmであり、駆動軸側
試験片の円筒面はRmax3μmの粗さに研削仕上げ
し、従動軸側試験片の円筒面は鏡面仕上げした。ピーリ
ング強度は、試験終了時の従動軸側試験片円筒面ピーリ
ング発生面積率で評価した。この試験は表5に示す条件
で行なった。なお、駆動軸側および従動軸側の両試験片
は、同種のサンプルのものをペアとして用いた。
【0044】
【表5】
【0045】このピーリング試験の結果を表4に併せて
示す。ピーリング試験の結果より、本発明例の試験片
は、いずれもピーリング発生面積率が5%以下であり、
優れたピーリング強度を示す。比較例の各試験片でも、
鋼種によっては、ピーリング発生面積は小さい。どちら
も浸炭窒化によりピーリング強度は向上している。
【0046】(3) スミアリング試験 スミアリング試験は、ピーリング試験と同じ装置を用い
て、ピーリング試験と同一形状の2つのリング状試験片
を同様に転動させて行なった。この試験の場合は、従動
軸は一定速度で回転駆動され、駆動軸は従動軸と等速回
転から徐々に増速される点がピーリング試験と異なる。
また、従動軸側試験片の円筒面が駆動軸側試験片と同じ
表面粗さRmax3μmに仕上げられる点も異なる。ス
ミアリング強度は、試験片の円筒面にスミアリングが発
生した時点の駆動軸と従動軸の速度比で評価した。この
試験は表6に示す条件で行なった。なお、この試験にお
いても、摺動されるペアの試験片は同種のサンプルのも
のとした。
【0047】
【表6】
【0048】このスミアリング試験の結果を表4に併せ
て示す。スミアリング試験の結果より、本発明例の試験
片では、比較例1に対していずれも1.3倍以上の大き
な速度比までスミアリングが発生しない。また浸炭窒化
すると若干スミアリング強度が向上する。
【0049】以上の各試験結果より、本発明例のもの
は、安定してピーリングやスミアリングが生じ難く、か
つ優れた転動疲労特性を示し、表面損傷が生じ易いすべ
りや接線力を伴う転動部品に適した性能を有することが
わかる。
【0050】(4) 割れ疲労強度試験 特にCVT装置では大きな曲げ荷重を繰り返し受けなが
ら転動するため、剥離寿命以外に割れ寿命が長いことが
重要になる。割れ疲労寿命を評価するため、φ60×φ
40×L15のリングを製作し、表7の条件で転動割れ
寿命を評価した。高周波焼入れを行なっているものは、
内周側と外周側との2個所から高周波焼入れ硬化させ
た。
【0051】
【表7】
【0052】この割れ疲労強度試験の結果を表4に併せ
て示す。割れ疲労強度試験の結果より、高周波焼入れし
た本発明例のものは同一鋼種で通常のずぶ焼入れをした
比較例のものよりかなりの長寿命を示し、高周波焼入れ
の効果が明瞭に認められる。浸炭窒化後高周波焼入れし
たものが最も長寿命を示し、割れ寿命に関しては浸炭鋼
(比較例11)と遜色ない。
【0053】(5) 断面硬度分布の測定 材料がSUJ2よりなる本発明例および比較例について
断面硬度分布を測定した。その結果を図2に示す。
【0054】図2を参照して、本発明例21は上述した
リング割れ試験片と同様のものであり、本発明例22は
φ12点接触試験片である。これら本発明例21、22
については、850℃から油中に焼入れし、400℃で
焼戻ししたものにさらに高周波焼入れを行なったものを
用いた。また比較例21については、単にずぶ焼入れ・
焼戻しを行なったものを用いた。比較例22について
は、本発明例のように焼入れ・焼戻しを行なわずに、焼
ならしを行なっただけで表面を硬化させるための高周波
焼入れを行なったものを用いた。
【0055】硬度分布の結果より、比較例21では、単
にずぶ焼入れ・焼戻しを行なっただけであるため、内部
の硬度が高く、高荷重を受ける部品に必要な靭性が得ら
れていない。また、比較例22では、単に焼ならし後に
高周波焼入れを行なっているだけであるため、内部硬度
が低すぎ、大きな荷重を受けた場合には部品が割れてし
まう可能性がある。
【0056】これに対して本発明例21、22は、表層
から1mmの厚みまでは、ロックウェル硬度に換算して
HRC58以上と高い硬度を維持しながらも、それより
内部においてはHRC40以上HRC55以下の適切な
硬度を有している。このように内部において適切な硬度
を有しているため、高荷重を受ける部品に必要な靭性が
得られるとともに、大きな荷重を受けた場合でも部品の
割れが抑制される。
【0057】なお、表面下1mmを過ぎると急速に硬度
が減少しているのは、調質のための高温焼戻しによるも
のと考えられる。
【0058】なお、質量%でCを0.7%以上1.3%
以下含み、さらに0.3%以上3.0%以下のSi、
0.2%以上1.5%以下のMn、0.3%以上5.0
%以下のCr、0.1%以上3.0%以下のNi、0.
05%以上1.0%以下のV、および0.05%以上
0.25%未満のMoよりなる群より選ばれる1以上の
合金元素が含まれた高温用の鋼についても、本発明例2
1、22と同様の熱処理を施した場合、本発明例21、
22と同様の断面硬度分布を示した。
【0059】なお、本発明における高温焼戻しの加熱温
度は、一般の高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)では35
0℃以上550℃以下である。また、上記の高温用の鋼
では、高温焼戻しの加熱温度は400℃以上600℃以
下である。
【0060】このような優れた性能を有する本発明の材
質を、遊星コーン型動力伝達装置、コーン型CVT装
置、またはトロイダル型CVT装置に適用した場合につ
いて以下に説明する。
【0061】(a) 遊星コーン型動力伝達装置 図3は、遊星コーン型動力伝達装置の構成を概略的に示
す一部断面斜視図である。図3を参照して、入力軸1に
嵌合された太陽コーン6は、これに圧接している数個の
遊星コーン3を伝動回転(自転)させる。遊星コーン3
は、他方の円筒面を固定されたリング5の内周面にそれ
ぞれ圧接し、リング5の内周面を自転しながら公転運動
する。この公転運動が遊星コーンホルダ4により自動調
圧機構7を経て出力軸2に伝えられる。
【0062】この際、たとえばハンドル操作によりリン
グ5が遊星コーン3の円錐面に沿って移動する。これに
より、遊星コーン3のリング5に対する接触有効径が変
化し、それだけ遊星コーン3の公転速度が変化して、出
力軸2の回転速度が入力軸1の回転速度に対して無段階
に変化する。
【0063】このような遊星コーン型動力伝達装置にお
いて、たとえば遊星コーン3やリング5や太陽コーン6
に、本発明の材質が用いられる。
【0064】(b) コーン型CVT装置 図4は、コーン型CVT装置の構成を概略的に示す断面
図である。図4を参照して、入力軸11に固定されたリ
ング15は、その内周面にてダブルコーン13に圧接さ
れる。ダブルコーン13はキャリア14に支持され、リ
ング15の内周面を自転しながら公転運動することでド
ライブコーン16を伝動回転させる。このドライブコー
ン16の回転により回転駆動力が出力軸12に伝えられ
る。
【0065】このコーン型CVT装置においては、キャ
リア14が移動することにより、ダブルコーン13のリ
ング15に対する接触有効径が変化し、それだけダブル
コーン13の公転速度が変化する。これにより、出力軸
12の回転速度が入力軸11の回転速度に対して無段階
に変化する。
【0066】このようなコーン型CVT装置において
は、たとえばダブルコーン13やリング15やドライブ
コーン16に、本発明の材質が用いられる。
【0067】(c) トロイダル型CVT装置 図5は、トロイダル型CVT装置の構成を概略的に示す
断面図である。図5を参照して、入力軸21のトルクは
ローリングカムおよびカムローラを経て入力ディスク2
2に伝えられる。入力ディスク22に伝えられたトルク
は、さらにパワーローラ23を介して出力ディスク24
へと伝達される。出力ディスク24は入力軸21には繋
がっていないため、入力軸21を軸にした空回りをす
る。これにより出力ディスク24に固定された歯車25
が回転し、この歯車25の歯車部25aを介して他の歯
車部にトルクが伝達され、出力される。
【0068】このトロイダル型CVT装置においては、
パワーローラ23の傾きによって駆動力伝達時の変速比
が決定する。すなわち、変速比は、(出力ディスク24
とパワーローラ23との接触部における出力ディスクの
回転半径)÷(入力ディスク22とパワーローラ23と
の接触部における入力ディスク22の回転半径)により
決まる。このようにパワーローラ23の傾きを連続的に
変化させることにより、無段階の変速比を得ることがで
きる。
【0069】このようなトロイダル型CVT装置におい
て、たとえば入力ディスク22やパワーローラ23や出
力ディスク24に、本発明の材質が用いられる。
【0070】なお、本発明の動力伝達部品およびそれを
用いた駆動装置は、上記した図3〜図5の構成のものに
限られず、広くすべりを伴いながら転動する動力伝達部
品およびそれを用いた駆動装置である。
【0071】今回開示された実施例はすべての点で例示
であって制限的なものではないと考えられるべきであ
る。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の
範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味およ
び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図され
る。
【0072】
【発明の効果】以上のように、この発明では、トラクシ
ョンドライブやCVT装置の入出力部品やカム駆動装置
のカムなどのように、すべりを伴いながら転動する動力
伝達部品において、少なくとも合金元素として質量%
で、素地中にCを0.7%以上1.3%以下含む中炭素
鋼や高炭素鋼からなり、これを加熱・焼入れにより全面
硬化した後、高温焼戻しによりHRC40以上HRC5
5以下の硬度にし、その後、高周波焼入れにより表面か
ら1mmの厚みの範囲内を硬化させて表面硬さをロック
ウェル硬さHRC58以上として、表層に圧縮応力を形
成することで、安価な熱処理工程で長寿命、高疲労強度
の部品にすることができる。
【0073】また、合金元素としてさらに質量%で、S
iを0.3%以上3.0%以下、Mnを0.2%以上
1.5%以下、Crを0.3%以上5.0%以下、Ni
を01%以上3.0%以下、Vを0.05%以上1.0
%以下、Moを0.05%以上0.25%未満単独また
は複合で含有させることで長寿命で耐表面損傷性に優れ
た動力伝達部品を得ることができる。
【0074】さらには、一旦浸炭窒化層を形成した後、
同様の工程の熱処理を行なうことでさらなる長寿命化、
転動割れ寿命の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の製造工程を示すブロック図である。
【図2】 本発明例と比較例との断面硬度分布を示す図
である。
【図3】 遊星コーン型の動力伝達装置の一部断面斜視
図である。
【図4】 コーン型CVT装置の構成を概略的に示す断
面図である。
【図5】 トロイダル型CVT装置の構成を概略的に示
す断面図である。
【符号の説明】
3 遊星コーン、5,15 リング、6 太陽コーン、
13 ダブルコーン、16 ドライブコーン、22 入
力ディスク、23 パワーローラ、24 出力ディス
ク。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) F16H 15/02 F16H 15/02 15/48 15/48 Fターム(参考) 3J051 AA02 BA03 BA05 EC02 EC03 EC04 EC06 FA01 4K042 AA14 AA16 AA17 BA01 BA04 CA06 CA08 CA10 CA13 DA01 DA02 DA06 DB01 DC02

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 合金元素として少なくともCを、質量%
    で素地中に0.7%以上1.3%以下含む鋼からなり、
    表面から厚み1mmの表面部はロックウェル硬さHRC
    58以上であり、中心部はロックウェル硬さHRC40
    以上55以下である、動力伝達部品。
  2. 【請求項2】 質量%で、少なくとも0.3%以上3.
    0%以下のSi、0.2%以上1.5%以下のMn、
    0.3%以上5.0%以下のCr、0.1%以上3.0
    %以下のNi、0.05%以上1.0%以下のV、およ
    び0.05%以上0.25%未満のMoよりなる群より
    選ばれる1以上の合金元素が前記鋼に含まれている、請
    求項1に記載の動力伝達部品。
  3. 【請求項3】 表面に浸炭窒化層を有する、請求項1ま
    たは2に記載の動力伝達部品。
  4. 【請求項4】 表面には高周波焼入組織を有し、内部に
    は前記高周波焼入組織とは異なる焼入組織を有する、請
    求項1〜3のいずれかに記載の動力伝達部品。
  5. 【請求項5】 請求項1〜4のいずれかに記載の動力伝
    達部品を用いた、駆動装置。
  6. 【請求項6】 請求項1〜4のいずれかに記載の動力伝
    達部品を用いた、コーン型CVT装置。
  7. 【請求項7】 請求項1〜4のいずれかに記載の動力伝
    達部品を用いた、トロイダル型CVT装置。
  8. 【請求項8】 合金元素として少なくともCを、質量%
    で素地中に0.7%以上1.3%以下含む鋼を加熱し焼
    入れする工程と、 焼入された前記鋼を350℃以上600℃以下の温度に
    て焼戻す工程と、 焼戻された前記鋼を高周波焼入する工程とを備えた、動
    力伝達部品の製造方法。
  9. 【請求項9】 前記焼戻す工程前に、前記鋼に浸炭窒化
    処理が施される、請求項8に記載の動力伝達部品の製造
    方法。
  10. 【請求項10】 前記鋼は高炭素クロム軸受鋼であり、
    前記焼戻す工程における温度は350℃以上550℃以
    下である、請求項8または9に記載の動力伝達部品の製
    造方法。
  11. 【請求項11】 前記鋼には、質量%で少なくとも、
    0.3%以上3.0%以下のSi、0.2%以上1.5
    %以下のMn、0.3%以上5.0%以下のCr、0.
    1%以上3.0%以下のNi、0.05%以上1.0%
    以下のV、および0.05%以上0.25%未満のMo
    よりなる群より選ばれる1以上の合金元素が含まれてお
    り、前記焼戻す工程における温度は400℃以上600
    ℃以下である、請求項8または9に記載の動力伝達部品
    の製造方法。
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