JP2005291340A - トロイダル型無段変速機及びその構成部材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 耐久性を備えたトロイダル型無段変速機を低コストで製造する。
【解決手段】 トロイダル型無段変速機の入力ディスク2、出力ディスク3、及びパワーローラ5の少なくとも一つを、C含有率0.8〜1.1質量%、Si含有率0.15〜0.70質量%、Mn含有率1.2質量%以下、Cr含有率1.6質量%以下、P含有率0.001質量%以下、S含有率0.001質量%以下、Mo含有率0.5質量%以下、O含有率9ppm以下、Ti含有率20ppm以下、残部がFe及び不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工後、窒化処理、高周波焼入れ処理、及び焼戻し処理を施すことにより、動力伝達面をなす表層部の硬さをHv700以上、前記表層部のγR を15〜40体積%、動力伝達面の有効硬化層深さを2.0〜4.0mm、芯部硬さをHv300以下、芯部のγR を5体積%以下とする。
【選択図】 図1
【解決手段】 トロイダル型無段変速機の入力ディスク2、出力ディスク3、及びパワーローラ5の少なくとも一つを、C含有率0.8〜1.1質量%、Si含有率0.15〜0.70質量%、Mn含有率1.2質量%以下、Cr含有率1.6質量%以下、P含有率0.001質量%以下、S含有率0.001質量%以下、Mo含有率0.5質量%以下、O含有率9ppm以下、Ti含有率20ppm以下、残部がFe及び不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工後、窒化処理、高周波焼入れ処理、及び焼戻し処理を施すことにより、動力伝達面をなす表層部の硬さをHv700以上、前記表層部のγR を15〜40体積%、動力伝達面の有効硬化層深さを2.0〜4.0mm、芯部硬さをHv300以下、芯部のγR を5体積%以下とする。
【選択図】 図1
Description
本発明は、トロイダル型無段変速機及びその構成部材の製造方法に関する。
自動車用の変速機等として用いられるトロイダル型無段変速機は、入力軸と連動して回転する入力ディスクと、出力軸と連動して回転する出力ディスクと、これら両ディスクの対向する内側面に設けられた両動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラと、を備えた無段変速機構(バリエータ)を有している。
このトロイダル型無段変速機は、入力軸の回転が、入力ディスク、パワーローラ、及び出力ディスクを介して出力軸に伝達されるようになっており、パワーローラと入力ディスク及び出力ディスクとの接触半径を変化させることにより、変速比を無段階で変えることができる。
このトロイダル型無段変速機は、入力軸の回転が、入力ディスク、パワーローラ、及び出力ディスクを介して出力軸に伝達されるようになっており、パワーローラと入力ディスク及び出力ディスクとの接触半径を変化させることにより、変速比を無段階で変えることができる。
このようなトロイダル型無段変速機の駆動時においては、パワーローラを介して入力ディスクから出力ディスクに高いトルクが伝達されるため、トルク伝達面となる各動力伝達面は、歯車式有段変速機等と比較して、非常に高い剪断応力や曲げ応力を受ける。そこで、入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラの疲労割れ強度を向上させるための技術が種々提案されている。
下記特許文献1では、入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラを作製する際に、中炭素鋼を素材として浸炭又は浸炭窒化を含む熱処理を行い、有効硬化層深さを2.0〜4.0mmとすることが提案されている。
また、下記特許文献2では、入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラを作製する際に、中炭素鋼を素材として浸炭を含む焼入れ処理、高周波焼き入れ処理、及び焼戻し処理を行い、動力伝達面においては、表面硬さをHv750以上で有効硬化層深さを2mm以上とし、且つ、動力伝達面以外においては、表面硬さをHv650以上で有効硬化層深さを2mm以下とすることが提案されている。
特開平7−71555号公報
特開平6−159463号公報
また、下記特許文献2では、入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラを作製する際に、中炭素鋼を素材として浸炭を含む焼入れ処理、高周波焼き入れ処理、及び焼戻し処理を行い、動力伝達面においては、表面硬さをHv750以上で有効硬化層深さを2mm以上とし、且つ、動力伝達面以外においては、表面硬さをHv650以上で有効硬化層深さを2mm以下とすることが提案されている。
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載の技術では、鋼材の表面に硬化層を形成する方法として、いずれも浸炭を含む熱処理を採用しているため、製造コストを低くするという点で未だ改善の余地がある。
また、上記特許文献1及び2に記載の技術では、いずれも中炭素鋼からなる素材を用いているため、より高い耐久性を確保するために、素材の清浄度を向上させるという点でも未だ改善の余地がある。
そこで、本発明は、入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラを構成する鋼の組成及び表面硬化処理方法を検討することにより、耐久性を備えたトロイダル型無段変速機を低コストで製造できるようにすることを課題としている。
また、上記特許文献1及び2に記載の技術では、いずれも中炭素鋼からなる素材を用いているため、より高い耐久性を確保するために、素材の清浄度を向上させるという点でも未だ改善の余地がある。
そこで、本発明は、入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラを構成する鋼の組成及び表面硬化処理方法を検討することにより、耐久性を備えたトロイダル型無段変速機を低コストで製造できるようにすることを課題としている。
上記課題を解決するために、本発明は、トロイダル型無段変速機の構成部材であって、対向する内側面にそれぞれ断面円弧状の動力伝達面を有する入力ディスク及び出力ディスクと、前記入力ディスク及び出力ディスクの間に配置されて、前記動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラを製造する方法において、Cの含有率が0.8〜1.1質量%、Siの含有率が0.15〜0.70質量%、Mnの含有率が1.2質量%以下、Crの含有率が1.6質量%以下、Pの含有率が0.001質量%以下、Sの含有率が0.001質量%以下、Moの含有率が0.5質量%以下、Oの含有率が9ppm以下、Tiの含有率が20ppm以下、残部がFe及び不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、窒化処理、高周波焼入れ処理、及び焼戻し処理を施すことにより、前記動力伝達面をなす表層部(表面から200μmの深さまでの範囲)の硬さをビッカース硬さでHv700以上、前記表層部の残留オーステナイト量を15〜40体積%、前記動力伝達面の有効硬化層深さを2.0〜4.0mm、芯部(全硬化層深さより深い位置)の硬さをビッカース硬さでHv300以下、前記芯部の残留オーステナイト量を5体積%以下とすることを特徴とするトロイダル型無段変速機の構成部材の製造方法を提供する。
本発明はまた、対向する内側面にそれぞれ断面円弧状の動力伝達面を有する入力ディスク及び出力ディスクと、前記入力ディスク及び出力ディスクの間に配置されて、前記動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラと、を備えたトロイダル型無段変速機において、前記入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラの少なくとも一つは、Cの含有率が0.8〜1.1質量%、Siの含有率が0.15〜0.70質量%、Mnの含有率が1.2質量%以下、Crの含有率が1.6質量%以下、Pの含有率が0.001質量%以下、Sの含有率が0.001質量%以下、Moの含有率が0.5質量%以下、Oの含有率が9ppm以下、Tiの含有率が20ppm以下、残部がFe及び不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、窒化処理、高周波焼入れ処理、及び焼戻し処理が施されて得られ、前記動力伝達面をなす表層部(表面から200μmの深さまでの範囲)の硬さがビッカース硬さでHv700以上、前記表層部の残留オーステナイト量が15〜40体積%、前記動力伝達面の有効硬化層深さが2.0〜4.0mm、芯部(全硬化層深さより深い位置)の硬さがビッカース硬さでHv300以下、前記芯部の残留オーステナイト量が5体積%以下となっていることを特徴とするトロイダル型無段変速機を提供する。
本発明において、前記有効硬化層深さとは、JIS G 0559に規定された、表面から限界硬さ(Hv500)の位置までの距離を指す。
なお、トロイダル型無段変速機の耐久性をより向上させるためには、入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラの動力伝達面以外においても、その表層部の硬さをビッカース硬さでHv700以上、前記表層部の残留オーステナイト量を15〜40体積%、有効硬化層深さを2.0〜4.0mmとすることが好ましい。
なお、トロイダル型無段変速機の耐久性をより向上させるためには、入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラの動力伝達面以外においても、その表層部の硬さをビッカース硬さでHv700以上、前記表層部の残留オーステナイト量を15〜40体積%、有効硬化層深さを2.0〜4.0mmとすることが好ましい。
以下、本発明の各数値限定の臨界的意義について説明する。
〔C:0.8〜1.1質量%〕
C(炭素)は、基地に固溶してマルテンサイトを強化させることにより、焼入れ及び焼戻し後の強度を高くするため、転がり疲労寿命の向上に有効な元素である。この効果を得るとともに、Cの還元作用により製鋼時の介在物を減少させて鋼材の清浄度を向上させるために、Cの含有率は0.8質量%以上とする必要がある。一方、Cの含有率が1.1質量%を超えると、表層部の残留オーステナイト量が多くなり、硬さが低下するおそれがあるため、Cの含有率の上限は、1.1質量%とする。
〔C:0.8〜1.1質量%〕
C(炭素)は、基地に固溶してマルテンサイトを強化させることにより、焼入れ及び焼戻し後の強度を高くするため、転がり疲労寿命の向上に有効な元素である。この効果を得るとともに、Cの還元作用により製鋼時の介在物を減少させて鋼材の清浄度を向上させるために、Cの含有率は0.8質量%以上とする必要がある。一方、Cの含有率が1.1質量%を超えると、表層部の残留オーステナイト量が多くなり、硬さが低下するおそれがあるため、Cの含有率の上限は、1.1質量%とする。
〔Si:0.15〜0.70質量%〕
Si(ケイ素)は、鋼の溶製時の脱酸剤として作用するとともに、基地に固溶して焼入れ及び焼戻し後の強度を高くするため、転がり疲労寿命の向上に有効な元素である。この効果を得るために、Siの含有率は0.15質量%以上とする必要がある。一方、Siの含有率が0.70質量%を超えると加工性が劣化するため、Siの含有率の上限は、0.70質量%とする。
Si(ケイ素)は、鋼の溶製時の脱酸剤として作用するとともに、基地に固溶して焼入れ及び焼戻し後の強度を高くするため、転がり疲労寿命の向上に有効な元素である。この効果を得るために、Siの含有率は0.15質量%以上とする必要がある。一方、Siの含有率が0.70質量%を超えると加工性が劣化するため、Siの含有率の上限は、0.70質量%とする。
〔Mn:1.2質量%以下〕
Mn(マンガン)は、Siと同様に、鋼の溶製時に脱酸剤として作用するとともに、焼入れ性を向上させてマルテンサイトを強化させるため、転がり疲労寿命の向上に有効な元素である。また、Mnは、オーステナイト組織を安定させるためにも有効である。しかし、Mnを過度に添加すると被削性が劣化するため、Mnの含有率は1.2質量%以下とする必要がある。一方、Mnの含有率が少ないと、焼入れ性向上の効果が十分見込めないため、Mnの含有率は0.2質量%以上とすることが好ましい。
Mn(マンガン)は、Siと同様に、鋼の溶製時に脱酸剤として作用するとともに、焼入れ性を向上させてマルテンサイトを強化させるため、転がり疲労寿命の向上に有効な元素である。また、Mnは、オーステナイト組織を安定させるためにも有効である。しかし、Mnを過度に添加すると被削性が劣化するため、Mnの含有率は1.2質量%以下とする必要がある。一方、Mnの含有率が少ないと、焼入れ性向上の効果が十分見込めないため、Mnの含有率は0.2質量%以上とすることが好ましい。
〔Cr:1.6質量%以下〕
Cr(クロム)は、焼入れ性を向上させることにより、焼入れ及び焼戻し後の強度を高くするため、転がり疲労寿命の向上に有効な元素である。しかし、Crの含有率が多すぎると、安定炭化物が析出し、耐摩耗性は向上するものの鋼材の硬さが低下するため、転がり疲労寿命が低下する。よって、Crの含有率の上限は、1.6質量%とする必要がある。また、Crの含有率は0.9質量%以上とすることが好ましい。
Cr(クロム)は、焼入れ性を向上させることにより、焼入れ及び焼戻し後の強度を高くするため、転がり疲労寿命の向上に有効な元素である。しかし、Crの含有率が多すぎると、安定炭化物が析出し、耐摩耗性は向上するものの鋼材の硬さが低下するため、転がり疲労寿命が低下する。よって、Crの含有率の上限は、1.6質量%とする必要がある。また、Crの含有率は0.9質量%以上とすることが好ましい。
〔P:0.001質量%以下〕
P(リン)は、鋼材中に多量に存在すると、結晶粒界に偏折し、粒界を脆化させる原因となる。このため、Pの含有率は出来る限り少なくすることが好ましいが、0.001質量%以下であれば許容できる。
〔S:0.001質量%以下〕
S(硫黄)は、MnSなどの介在物を生成し、切削性を向上させるために必要な元素である。しかし、Sの含有率が多すぎると、転がり疲労特性が劣化するため、Sの含有率は0.001質量%以下とする必要がある。
P(リン)は、鋼材中に多量に存在すると、結晶粒界に偏折し、粒界を脆化させる原因となる。このため、Pの含有率は出来る限り少なくすることが好ましいが、0.001質量%以下であれば許容できる。
〔S:0.001質量%以下〕
S(硫黄)は、MnSなどの介在物を生成し、切削性を向上させるために必要な元素である。しかし、Sの含有率が多すぎると、転がり疲労特性が劣化するため、Sの含有率は0.001質量%以下とする必要がある。
〔Mo:0.5質量%以下〕
Mo(モリブデン)は、焼入れ性を向上させることにより、焼入れ及び焼戻し後の強度を高くするため、転がり疲労寿命の向上に有効な元素である。しかし、Moの含有率が多すぎると、Crと同様に、安定炭化物が析出し、耐摩耗性は向上するものの鋼材の硬さが低下するため、転がり疲労寿命が低下する。よって、Moの含有率の上限は、0.5質量%とする必要がある。また、Moの含有率の好ましい範囲は、0.05〜0.25質量%である。
Mo(モリブデン)は、焼入れ性を向上させることにより、焼入れ及び焼戻し後の強度を高くするため、転がり疲労寿命の向上に有効な元素である。しかし、Moの含有率が多すぎると、Crと同様に、安定炭化物が析出し、耐摩耗性は向上するものの鋼材の硬さが低下するため、転がり疲労寿命が低下する。よって、Moの含有率の上限は、0.5質量%とする必要がある。また、Moの含有率の好ましい範囲は、0.05〜0.25質量%である。
〔O:9ppm以下〕
O(酸素)は、硬質な酸化物系介在物を形成して、転がり疲労寿命を低下させる。このため、Oの含有率は出来る限り少なくすることが好ましいが、9ppm以下であれば許容できる。
〔Ti:20ppm以下〕
Ti(チタン)は、Ti系介在物を形成して、転がり疲労寿命を低下させる。このため、Tiの含有率は出来る限り少なくすることが好ましいが、20ppm以下であれば許容できる。
O(酸素)は、硬質な酸化物系介在物を形成して、転がり疲労寿命を低下させる。このため、Oの含有率は出来る限り少なくすることが好ましいが、9ppm以下であれば許容できる。
〔Ti:20ppm以下〕
Ti(チタン)は、Ti系介在物を形成して、転がり疲労寿命を低下させる。このため、Tiの含有率は出来る限り少なくすることが好ましいが、20ppm以下であれば許容できる。
〔動力伝達面をなす表層部の硬さ:Hv700以上〕
転がり疲労寿命を確保するために、動力伝達面をなす表層部の硬さは、ビッカース硬さでHv700以上とする。動力伝達面をなす表層部の硬さがHv700未満となると、動力伝達面に早期剥離が発生し易くなる。一方、動力伝達面をなす表層部の硬さの上限は、残留オーステナイト確保の点から、Hv850とすることが好ましい。
転がり疲労寿命を確保するために、動力伝達面をなす表層部の硬さは、ビッカース硬さでHv700以上とする。動力伝達面をなす表層部の硬さがHv700未満となると、動力伝達面に早期剥離が発生し易くなる。一方、動力伝達面をなす表層部の硬さの上限は、残留オーステナイト確保の点から、Hv850とすることが好ましい。
〔動力伝達面をなす表層部の残留オーステナイト量:15〜40体積%〕
動力伝達面をなす表層部の残留オーステナイト量は、ゴミ等の異物が混入された潤滑条件下における転がり疲労寿命を向上させる。この効果を得るために、動力伝達面をなす表層部の残留オーステナイト量は15体積%以上とする必要がある。一方、残留オーステナイト量が多すぎると、転がり疲労寿命に必要なビッカース硬さHv700が得られず、転がり疲労寿命が低下するため、動力伝達面をなす表層部の残留オーステナイト量の上限は40体積%とする。
動力伝達面をなす表層部の残留オーステナイト量は、ゴミ等の異物が混入された潤滑条件下における転がり疲労寿命を向上させる。この効果を得るために、動力伝達面をなす表層部の残留オーステナイト量は15体積%以上とする必要がある。一方、残留オーステナイト量が多すぎると、転がり疲労寿命に必要なビッカース硬さHv700が得られず、転がり疲労寿命が低下するため、動力伝達面をなす表層部の残留オーステナイト量の上限は40体積%とする。
〔動力伝達面の有効硬化層深さ:2.0〜4.0mm〕
転がり疲労寿命を確保するために、動力伝達面の有効硬化層深さを2.0〜4.0mmとする必要がある。動力伝達面の有効硬化層深さが2.0mm未満であると、動力伝達面の早期剥離が発生し、転がり疲労寿命が低下する。一方、動力伝達面の有効硬化層深さが4.0mmを超えると、疲労割れ強度が低下する。
転がり疲労寿命を確保するために、動力伝達面の有効硬化層深さを2.0〜4.0mmとする必要がある。動力伝達面の有効硬化層深さが2.0mm未満であると、動力伝達面の早期剥離が発生し、転がり疲労寿命が低下する。一方、動力伝達面の有効硬化層深さが4.0mmを超えると、疲労割れ強度が低下する。
〔芯部の硬さ:ビッカース硬さHv300以下〕
芯部の硬さは、表層部との硬さの差により残留圧縮応力を得るとともに、窒化処理前の加工をし易くするために、ビッカース硬さでHv300以下とする必要がある。また、芯部の疲労割れ強度を確保するために、芯部の硬さの下限は、Hv170とすることが好ましい。
芯部の硬さは、表層部との硬さの差により残留圧縮応力を得るとともに、窒化処理前の加工をし易くするために、ビッカース硬さでHv300以下とする必要がある。また、芯部の疲労割れ強度を確保するために、芯部の硬さの下限は、Hv170とすることが好ましい。
〔芯部の残留オーステナイト量:5体積%以下〕
トロイダル型無段変速機に使用されるトラクションオイルは、100℃を超える高い温度に上昇する可能性があるため、芯部の残留オーステナイト量が多すぎると、時効変形により動力伝達面のR形状が崩れて、動力伝達の効率が低下する。よって、芯部の残留オーステナイト量は5体積%以下にする必要があり、0%とするのがより好ましい。
トロイダル型無段変速機に使用されるトラクションオイルは、100℃を超える高い温度に上昇する可能性があるため、芯部の残留オーステナイト量が多すぎると、時効変形により動力伝達面のR形状が崩れて、動力伝達の効率が低下する。よって、芯部の残留オーステナイト量は5体積%以下にする必要があり、0%とするのがより好ましい。
〔熱処理について〕
窒化処理とは、鋼材を窒素雰囲気下で加熱することにより、鋼材の表面に窒化層(硬化層)を得る表面硬化処理方法である。また、高周波焼入れ処理とは、高周波誘導加熱による焼入れであり、高周波発振器で熱処理品表面に誘導電流を発生させて急速に加熱することで、鋼材の表面に硬化層を得る表面硬化処理方法である。
すなわち、鋼材に高清浄度を確保可能な高炭素鋼に、窒化処理、高周波焼入れ処理、及び焼戻し処理を施すことで、従来の浸炭を含む熱処理の場合と比べて短時間且つ低コストで、必要とされる動力伝達面の表層部の硬さ、残留オーステナイト量、及び有効硬化層深さを得ることができる。
窒化処理とは、鋼材を窒素雰囲気下で加熱することにより、鋼材の表面に窒化層(硬化層)を得る表面硬化処理方法である。また、高周波焼入れ処理とは、高周波誘導加熱による焼入れであり、高周波発振器で熱処理品表面に誘導電流を発生させて急速に加熱することで、鋼材の表面に硬化層を得る表面硬化処理方法である。
すなわち、鋼材に高清浄度を確保可能な高炭素鋼に、窒化処理、高周波焼入れ処理、及び焼戻し処理を施すことで、従来の浸炭を含む熱処理の場合と比べて短時間且つ低コストで、必要とされる動力伝達面の表層部の硬さ、残留オーステナイト量、及び有効硬化層深さを得ることができる。
本発明によれば、入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラを構成する鋼の組成及び表面硬化処理方法を検討することにより、耐久性を備えたトロイダル型無段変速機を低コストで製造できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。なお、図1は、トロイダル型無段変速機の入力軸の軸方向に沿った断面である。
本実施形態におけるトロイダル型無段変速機のバリエータは、図1に示すように、入力軸1と連動して回転する入力ディスク2と、出力軸と連動して回転する出力ディスク3と、これら両ディスク2、3間に配置されたパワーローラ5と、を備えている。両ディスク2、3の対向する内側面には、それぞれ断面円弧状(ハーフトロイド状)の動力伝達面2a、3aが形成されている。パワーローラ5は、両ディスク2、3の動力伝達面2a、3aに摺接する動力伝達面5aを有する。
図1は、本発明のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。なお、図1は、トロイダル型無段変速機の入力軸の軸方向に沿った断面である。
本実施形態におけるトロイダル型無段変速機のバリエータは、図1に示すように、入力軸1と連動して回転する入力ディスク2と、出力軸と連動して回転する出力ディスク3と、これら両ディスク2、3間に配置されたパワーローラ5と、を備えている。両ディスク2、3の対向する内側面には、それぞれ断面円弧状(ハーフトロイド状)の動力伝達面2a、3aが形成されている。パワーローラ5は、両ディスク2、3の動力伝達面2a、3aに摺接する動力伝達面5aを有する。
このバリエータは、さらに、パワーローラ5を回転自在に支持する変位軸8と、この変位軸8を枢軸6を中心として入力軸1の軸方向(図1における左右方向)に揺動可能に支持するトラニオン7と、パワーローラ5に加わるスラスト方向の荷重を支承するスラスト軸受20と、を備えている。
スラスト軸受20の内輪軌道面5bはパワーローラ5に形成され、外輪9はトラニオン7側に取り付けられている。そして、このスラスト軸受20は、内輪軌道面5b及び外輪軌道面9aの間に複数の玉10が転動自在に配設され、この玉10を転動自在に保持する保持器11を備えている。
スラスト軸受20の内輪軌道面5bはパワーローラ5に形成され、外輪9はトラニオン7側に取り付けられている。そして、このスラスト軸受20は、内輪軌道面5b及び外輪軌道面9aの間に複数の玉10が転動自在に配設され、この玉10を転動自在に保持する保持器11を備えている。
このトロイダル型無段変速機では、入力軸1の回転がローディングカム1A、入力ディスク2、パワーローラ5、出力ディスク3及び出力歯車4を介して、出力軸に伝達されるようになっている。
そして、枢軸6を中心にトラニオン7を揺動させ、パワーローラ5の動力伝達面5aを入力ディスク2の中心寄り部分と出力ディスク3の外周寄り部分とに変位させると、入力軸1の回転が出力軸に減速されて伝わり、逆にパワーローラ5の動力伝達面5aを入力ディスク2の外周寄り部分と出力ディスク3の中心寄り部分とに変位させると、入力軸1の回転が出力軸に増速されて伝わるようになっている。
そして、枢軸6を中心にトラニオン7を揺動させ、パワーローラ5の動力伝達面5aを入力ディスク2の中心寄り部分と出力ディスク3の外周寄り部分とに変位させると、入力軸1の回転が出力軸に減速されて伝わり、逆にパワーローラ5の動力伝達面5aを入力ディスク2の外周寄り部分と出力ディスク3の中心寄り部分とに変位させると、入力軸1の回転が出力軸に増速されて伝わるようになっている。
本実施形態においては、まず、表1に示すA〜Dの各構成の鋼からなる素材を、図1に示すトロイダル型無段変速機の入力ディスク2及び出力ディスク3の形状に切り出した。そして、入力ディスク2及び出力ディスク3の表面全体に、表2に示す各熱処理(1)を施した後、入力ディスク2及び出力ディスク3の動力伝達面2a、3aに、表2に示す各熱処理(2)を施し、さらに研削、表面仕上げ加工を行った。
なお、表2中の熱処理(1)のうち「窒化」とは、図3に示す窒化を含む熱処理を指し、「浸炭窒化」とは、図5に示す浸炭窒化を含む熱処理を指す。
また、熱処理(2)のうち「高周波焼入れ→焼戻し」とは、図4に示す高周波焼入れ及び焼戻し処理を指し、「ずぶ焼入れ→焼戻し」とは、840〜850℃でのずぶ焼入れ及び160〜180℃での焼戻し処理を指す。
また、熱処理(2)のうち「高周波焼入れ→焼戻し」とは、図4に示す高周波焼入れ及び焼戻し処理を指し、「ずぶ焼入れ→焼戻し」とは、840〜850℃でのずぶ焼入れ及び160〜180℃での焼戻し処理を指す。
ここで、本発明の熱処理(「窒化」→「高周波焼入れ→焼戻し」)を行った入力ディスク2には、図2に示すように、その動力伝達面2aに、有効硬化層Xが表面から2〜3mmの深さまで形成され、その動力伝達面2a以外に、Hv700以上の窒化層Yが表面から5〜10μmの深さまで形成された。この有効硬化層Xは、「窒化」及び「高周波焼入れ→焼戻し」により形成されたHv700以上の部分(表層部)1Xと、「高周波焼入れ→焼戻し」により形成されたHv500以上の部分2Xと、からなる。なお、図2では、入力ディスク2について説明したが、出力ディスク3にも同様の層が形成された。
このようにして得られた入出力ディスク2、3に対して、動力伝達面2a、3aをなす表層部のビッカース硬さ、残留オーステナイト量(γR )及び有効硬化層深さと、芯部のビッカース硬さ及び残留オーステナイト量(γR )とを測定し、この結果を表2に併せて示した。なお、前記表層部及び芯部のビッカース硬さは、JIS Z 2244に準拠して測定し、前記表層部及び芯部の残留オーステナイト量は、X線回折装置で測定した。
そして、鋼の組成及び熱処理が表2に示すようにそれぞれ異なるNo.1〜No.6の入力ディスク2及び出力ディスク3と、これら以外の部材(通常品)を用いて、トロイダル型無段変速機を組み立てた。
そして、鋼の組成及び熱処理が表2に示すようにそれぞれ異なるNo.1〜No.6の入力ディスク2及び出力ディスク3と、これら以外の部材(通常品)を用いて、トロイダル型無段変速機を組み立てた。
次に、これらのトロイダル型無段変速機を試験用ハウジング内に組み込み、以下に示す試験条件で耐久試験を行った。この耐久試験は、入力ディスク2又は出力ディスク3に破損(剥離又は割れ)が生じるまで行い、破損が生じるまでの時間(破損寿命)を測定し、No.6の破損寿命を1とした場合の比で、表2に併せて示した。
(試験条件)
入力軸の回転速度:4000min-1
入力トルク:392N・m
使用オイル:合成潤滑油
給油温度:100℃
(試験条件)
入力軸の回転速度:4000min-1
入力トルク:392N・m
使用オイル:合成潤滑油
給油温度:100℃
表2において、No.1〜No.3は本発明の実施例に相当し、No.4〜6が比較例に相当する。
表2に示すように、本発明の鋼(高炭素鋼)を素材として用いて、本発明の熱処理(窒化→高周波焼入れ→焼戻し)を行ったNo.1〜No.3の寿命は、高炭素鋼を素材として用いて熱処理(1)及び熱処理(2)のいずれかを本発明とは異なるものとしたNo.4、5や、中炭素鋼を素材として用いて熱処理(1)を本発明とは異なるものとしたNo.6の寿命の5〜80倍であった。
表2に示すように、本発明の鋼(高炭素鋼)を素材として用いて、本発明の熱処理(窒化→高周波焼入れ→焼戻し)を行ったNo.1〜No.3の寿命は、高炭素鋼を素材として用いて熱処理(1)及び熱処理(2)のいずれかを本発明とは異なるものとしたNo.4、5や、中炭素鋼を素材として用いて熱処理(1)を本発明とは異なるものとしたNo.6の寿命の5〜80倍であった。
このうち、C含有率が1.0質量%の高炭素クロム軸受鋼を素材としたNo.1及びNo.2では、C含有率が0.9質量%でCrが含有されていない炭素工具鋼を素材としたNo.3よりも、長寿命であった。
一方、No.4では、入出力ディスク2、3の表面全体に熱処理(1)を行っていないため、入出力ディスク2、3の動力伝達面2a、3a以外の表層部の硬さが十分ではなく、入出力ディスク2、3の内径面で剥離が生じた。
一方、No.4では、入出力ディスク2、3の表面全体に熱処理(1)を行っていないため、入出力ディスク2、3の動力伝達面2a、3a以外の表層部の硬さが十分ではなく、入出力ディスク2、3の内径面で剥離が生じた。
No.5では、熱処理(2)としてずぶ焼入れ及び焼戻し処理を行ったため、芯部の硬さが高くなり過ぎて靱性が問題となり、入出力ディスク2、3の芯部から破損が生じた。 No.6では、熱処理(1)として浸炭窒化を含む熱処理を行った後、熱処理(2)として高周波焼入れを含む熱処理を行ったが、8時間の浸炭窒化では有効硬化層深さが1.5mmであったため、入出力ディスク2、3の動力伝達面2a、3aで剥離が生じた。
以上の結果より、トロイダル型無段変速機の入力ディスク2及び出力ディスク3を、本発明の構成を満たすものとすることにより、トロイダル型無段変速機の耐久性を向上できることが分かった。
なお、本実施形態では、入力ディスク2及び出力ディスク3を本発明の構成としたが、これに限らず、パワーローラ5も本発明の構成とすることが好ましい。
なお、本実施形態では、入力ディスク2及び出力ディスク3を本発明の構成としたが、これに限らず、パワーローラ5も本発明の構成とすることが好ましい。
また、本実施形態で示したハーフトロイダル型無段変速機の場合には、スラスト軸受20にも大きな力が加わるため、内輪として機能するパワーローラ5の内輪軌道面5bやスラスト軸受20の外輪9及び玉10についても、使用する鋼の組成と、その転がり面の表層部の硬さ、残留オーステナイト量及び有効硬化層深さと、芯部の硬さ及び残留オーステナイト量と、を本発明の入力ディスク2等と同じ構成とすることが好ましい。
さらに、本実施形態では、トロイダル型無段変速機の一例として、シングルキャビティ式ハーフトロイダル型無段変速機を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれに限らず、他の構成のトロイダル型無段変速機に適用してもよい。
例えば、出力軸と連動する出力歯車を介して二つのバリエータを備えた、ダブルキャビティ式ハーフトロイダル型無段変速機に本発明を適用してもよい。
また、本発明は、入力ディスク及び出力ディスクの対向する内側面に形成される動力伝達面がフルトロイド状である、フルトロイダル型無段変速機に適用してもよい。
例えば、出力軸と連動する出力歯車を介して二つのバリエータを備えた、ダブルキャビティ式ハーフトロイダル型無段変速機に本発明を適用してもよい。
また、本発明は、入力ディスク及び出力ディスクの対向する内側面に形成される動力伝達面がフルトロイド状である、フルトロイダル型無段変速機に適用してもよい。
2 入力ディスク
3 出力ディスク
2a、3a、5a 動力伝達面
5 パワーローラ
3 出力ディスク
2a、3a、5a 動力伝達面
5 パワーローラ
Claims (2)
- トロイダル型無段変速機の構成部材であって、対向する内側面にそれぞれ断面円弧状の動力伝達面を有する入力ディスク及び出力ディスクと、前記入力ディスク及び出力ディスクの間に配置されて、前記動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラを製造する方法において、
Cの含有率が0.8〜1.1質量%、Siの含有率が0.15〜0.70質量%、Mnの含有率が1.2質量%以下、Crの含有率が1.6質量%以下、Pの含有率が0.001質量%以下、Sの含有率が0.001質量%以下、Moの含有率が0.5質量%以下、Oの含有率が9ppm以下、Tiの含有率が20ppm以下、残部がFe及び不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、窒化処理、高周波焼入れ処理、及び焼戻し処理を施すことにより、
前記動力伝達面をなす表層部の硬さをビッカース硬さでHv700以上、前記表層部の残留オーステナイト量を15〜40体積%、前記動力伝達面の有効硬化層深さを2.0〜4.0mm、芯部の硬さをビッカース硬さでHv300以下、前記芯部の残留オーステナイト量を5体積%以下とすることを特徴とするトロイダル型無段変速機の構成部材の製造方法。 - 対向する内側面にそれぞれ断面円弧状の動力伝達面を有する入力ディスク及び出力ディスクと、前記入力ディスク及び出力ディスクの間に配置されて、前記動力伝達面に摺接する動力伝達面を有するパワーローラと、を備えたトロイダル型無段変速機において、
前記入力ディスク、出力ディスク、及びパワーローラの少なくとも一つは、Cの含有率が0.8〜1.1質量%、Siの含有率が0.15〜0.70質量%、Mnの含有率が1.2質量%以下、Crの含有率が1.6質量%以下、Pの含有率が0.001質量%以下、Sの含有率が0.001質量%以下、Moの含有率が0.5質量%以下、Oの含有率が9ppm以下、Tiの含有率が20ppm以下、残部がFe及び不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、窒化処理、高周波焼入れ処理、及び焼戻し処理が施されて得られ、
前記動力伝達面をなす表層部の硬さがビッカース硬さでHv700以上、前記表層部の残留オーステナイト量が15〜40体積%、前記動力伝達面の有効硬化層深さが2.0〜4.0mm、芯部の硬さがビッカース硬さでHv300以下、前記芯部の残留オーステナイト量が5体積%以下となっていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
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---|---|---|---|
JP2004106485A JP2005291340A (ja) | 2004-03-31 | 2004-03-31 | トロイダル型無段変速機及びその構成部材の製造方法 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2011522188A (ja) * | 2008-06-05 | 2011-07-28 | マザロ エンヴェー | 可逆可変変速機−rvt |
US9709168B2 (en) | 2012-12-27 | 2017-07-18 | Mazaro Nv | Power density of a reversible variable transmission—RVT |
-
2004
- 2004-03-31 JP JP2004106485A patent/JP2005291340A/ja not_active Withdrawn
Cited By (3)
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JP2011522188A (ja) * | 2008-06-05 | 2011-07-28 | マザロ エンヴェー | 可逆可変変速機−rvt |
US8512190B2 (en) | 2008-06-05 | 2013-08-20 | Mazaro Nv | Reversible variable transmission-RVT |
US9709168B2 (en) | 2012-12-27 | 2017-07-18 | Mazaro Nv | Power density of a reversible variable transmission—RVT |
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