JP2004067905A - 軽油組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】90%留出温度が200℃以上380℃以下、15℃での密度が780kg/m3以上870kg/m3以下、硫黄分含有量が10質量ppm以下の水素化分解軽油を含有し、硫黄分含有量が10質量ppm以下、15℃での密度が810kg/m3以上840kg/m3以下、20%留出温度が180℃以上240℃以下、95%留出温度が340℃以下、且つ式(1)を満たす軽油組成物[T10、T20、T80及びT90は10%、20%、80%及び90%留出温度;Nはナフテン化合物含有量;Aは1環芳香族分含有量を表す]。
【数1】
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は軽油組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
大気や道路周辺環境の汚染問題を改善するという観点から、ディーゼルエンジン搭載車両のエンジンから排出される有害成分を低減する手法が検討されている。例えば、ディーゼル排ガス中に含まれる粒子状物質(Particle Matter、PM)や窒素酸化物(NOx)等を低減する方法として、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)やNOx還元触媒を用いた排ガス後処理装置の装着が提案されている。
【0003】
その一方で、運転者が車両から直接感じる追い越し加速、アクセル応答等の運転性能については一層の向上が望まれている。特に、乗車人数が多いときや重い荷物を搭載したときの追い越し加速のレスポンスの良さが重要視されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の排ガス後処理装置を用いると、当該装置によりエンジンの制御が影響を受けやすく、また、排気管の背圧が増加しやすいため、運転性能が損なわれてしまう。
【0005】
一方、運転性能の向上を図るべく、所定の組成又は性状を有する軽油の使用も考えられるが、このような軽油の使用は排ガス後処理装置の性能改善につながるとは必ずしも言えない。
【0006】
本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、排ガス後処理装置を装着したディーゼルエンジン搭載車両において、運転性能を高水準に維持しつつ排ガス後処理装置の性能を向上させることが可能な軽油組成物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の軽油組成物は、90%留出温度が200℃以上380℃以下、15℃における密度が780kg/m3以上870kg/m3以下、且つ硫黄分含有量が10質量ppm以下である水素化分解軽油を含有し、硫黄分含有量が10質量ppm以下、15℃における密度が810kg/m3以上840kg/m3以下、20%留出温度が180℃以上240℃以下、95%留出温度が340℃以下であり、且つ下記式(1):
【0008】
【数2】
[式(1)中、T10、T20、T80及びT90はそれぞれ軽油組成物の10%留出温度(℃)、20%留出温度(℃)、80%留出温度(℃)及び90%留出温度(℃)を表し、Nは軽油組成物中のナフテン化合物含有量(質量%)を表し、Aは軽油組成物中の1環芳香族分含有量(質量%)を表す]
で表される条件を満たすことを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、90%留出温度、15℃における密度及び硫黄分含有量がそれぞれ上記特定範囲内にある水素分解軽油を用いることで、軽油組成物の硫黄分含有量、蒸留性状、ナフテン化合物含有量及び1環芳香族分含有量を容易に且つ確実に制御することが可能となる。そして、当該水素化分解軽油を軽油組成物に含有せしめ、当該組成物の硫黄分含有量、蒸留性状、ナフテン化合物含有量及び1環芳香族分含有量がそれぞれ上記特定の条件を満たすようにすることによって、排ガス後処理装置を装着したディーゼルエンジン搭載車両において、排ガス後処理装置の性能及び運転性能の双方を高水準でバランスよく達成可能な軽油組成物が実現される。
【0010】
また、驚くべきことに、本発明の軽油組成物により、従来では達成が困難であった優れた高温始動性を得ることもできる。例えば、優れた夏場の屋外等の高温下では、運転後に一旦エンジンを切ってしばらく放置し、その後エンジンを再始動させたときに、エンジンの始動が不安定化する、さらには始動しなくなるといった現象が起こる場合がある。本発明の軽油組成物は、これらの現象を回避し、高温下であってもエンジンの安定的な始動を可能とするものである。
【0011】
なお、本発明の軽油組成物により優れた高温始動性が得られる理由は明らかではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、エンジン再始動時の不安定化は、高温下にさらされたり熱を帯びたエンジンにより加熱されたりすることにより燃料が通常の液体としての挙動を示さなくなることが原因であり、本発明の軽油組成物は高温下での挙動の不安定化が起こりにくいため優れた高温始動性を示すものと本発明者らは推察する。
【0012】
また、本発明の軽油組成物により優れた高温始動性が得られるという効果が、ディーゼルエンジン搭載車両における排ガス後処理装置の有無によらないことは言うまでもない。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
(水素化分解軽油)
本発明においては、90%留出温度が200℃以上380℃以下、15℃における密度が780kg/m3以上870kg/m3以下、且つ硫黄分含有量が10質量ppm以下である水素化分解軽油が用いられる。
【0015】
本発明にかかる水素化分解軽油とは、所定の軽油を水素化分解して得られる軽油留分である。水素化分解に供する軽油としては、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油;常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残査油を減圧蒸留装置で処理して得られる減圧軽油;脱硫又は未脱硫の減圧軽油;減圧重質軽油あるいは脱硫重油を接触分解して得られる接触分解軽油;上記の軽油を水素化処理して得られる水素化精製軽油及び水素化脱硫軽油等が挙げられる。
【0016】
水素化分解軽油を製造する際には、重質軽油、減圧軽油等の重質な原料油を、高温高圧水素条件下で、分解と水素化の二元機能を持つ触媒上に通し、水素化分解と共に脱硫、脱窒素等を行う水素化分解装置を使用することができる。触媒の分解能は、多孔性の固体酸担体に起因する傾向にある。固体酸担体としては、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア等のアモルファス系担体、各種の改質や変性が施されたゼオライト等の結晶系担体が用いられる。水素化能は、Ni、Co、Mo、W、Pd、Pt等の金属を2〜3種類組み合わせて担持されることにより発揮されるが、中でもCo−Mo、Ni−Mo、Ni−Wの組み合わせが好ましい。
【0017】
水素化分解装置を運転する際の水素圧力は、8MPa以上、好ましくは10MPa以上25MPa以下である。また、反応温度は、300℃以上、好ましくは350℃以上500℃以下である。液空間速度は、0.1/h以上2.0/h以下、好ましくは1.0/h以下である。水素化分解率は40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。
【0018】
本発明にかかる水素化分解軽油の90%留出温度(以下、場合により「T90」という)は、前述の通り200℃以上であることが必要であり、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは230℃以上、さらにより好ましくは240℃以上である。また当該T90は、エンジンより排出される粒子状物質(Particle Matter、以下、PMという)の増加を抑制する点から、前述の通り380℃以下であることが必要であり、好ましくは370℃以下、より好ましくは360℃以下、さらに好ましくは350℃以下、さらにより好ましくは340℃以下である。なお、ここでいう90%留出温度とは、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0019】
また、本発明にかかる水素化分解軽油の15℃における密度は、前述の通り780kg/m3以上であることが必要であり、好ましくは790kg/m3以上、より好ましくは800kg/m3以上である。また、当該密度は前述の通り870kg/m3以下であることが必要であり、好ましくは860kg/m3以下、より好ましくは850kg/m3以下、さらに好ましくは840kg/m3以下である。なお、ここでいう密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0020】
また、本発明にかかる水素化分解軽油の硫黄分含有量は、前述の通り10質量ppm以下である必要があり、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、さらに好ましくは2質量ppm以下である。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を意味する。
【0021】
本発明にかかる水素化分解軽油の芳香族分含有量は特に制限されないが、33質量%以下であることが好ましく、22質量%以下であることがより好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、11質量%以下であることがさらにより好ましい。水素化分解軽油の芳香族分含有量が前記の範囲内であると、本発明の軽油組成物において規定される性状をより容易に且つ確実に達成することができる。なお、ここでいう芳香族分含有量は、IP 391/95「Petroleum products − Determination of aromatic hydrocarbon types in middle distillates−High performance liquid chromatography method with refractiveindex detection(HPLC法)」に準拠され、測定された芳香族分含有量の質量百分率(質量%)を意味する。
【0022】
本発明における軽油組成物は、上記特定の水素化分解軽油を含有するものである。当該水素化分解軽油を含有しない場合は、排ガス後処理装置を備えるディーゼルエンジン搭載車両において、排ガス後処理装置の性能、運転性能及び高温始動性の全てを高水準で達成することができない。
【0023】
本発明における軽油組成物は、水素化分解軽油に加えて他のベース軽油、合成軽油、灯油基材等の他の燃料基材を1種もしくは2種以上混合して製造することができる。本発明にかかる水素化分解軽油の配合量は、他の基材の配合量や、市販燃料油としての実用性能(例えば低温流動性能や潤滑性能)に応じて適宜設定可能であるが、ディーゼル排ガス中の有害成分の低減効果と燃費向上効果との双方をより高めるためには、好ましくは10容量%以上、より好ましくは15容量%以上、さらに好ましくは20容量%以上、さらにより好ましくは25容量%以上、最も好ましくは30容量%以上である。
【0024】
(軽油組成物)
本発明の軽油組成物は、上記特定の水素化分解軽油を含有し、軽油組成物の硫黄分含有量が10質量ppm以下、15℃における密度が810kg/m3以上840kg/m3以下、20%留出温度が180℃以上240℃以下、95%留出温度が340℃以下であり、且つ下記式(1):
【0025】
【数3】
[式(1)中、T10、T20、T80及びT90はそれぞれ軽油組成物の10%留出温度(℃)、20%留出温度(℃)、80%留出温度(℃)及び90%留出温度(℃)を表し、Nは軽油組成物中のナフテン化合物含有量(質量%)を表し、Aは軽油組成物中の1環芳香族分含有量(質量%)を表す]
で表される条件を満たすものである。
【0026】
本発明の軽油組成物の硫黄分含有量は、前述の通り10質量ppm以下であり、好ましくは7質量ppmであり、より好ましくは5質量ppm以下である。軽油組成物の硫黄分含有量が10質量ppmを超えると、排ガス後処理装置を備えるディーゼルエンジン搭載車両において、ディーゼル排ガス中の有害成分を十分に低減できない。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分含有量を意味する。
【0027】
また、本発明の軽油組成物の15℃における密度は、前述の通り810kg/m3以上840kg/m3以下である。当該密度が前記範囲外であると、排ガス後処理装置の性能、運転性能及び高温始動性の少なくとも一方が損なわれてしまう。特に、運転性能の向上の点から、当該密度は、810kg/m3以上、好ましくは815kg/m3以上、より好ましくは820kg/m3以上である。また、排ガス後処理装置を備えるディーゼルエンジン搭載車両における排ガス中の有害成分(特にPM)の低減の点から、当該密度は、840kg/m3以下、好ましくは835kg/m3以下、より好ましくは830kg/m3以下である。なお、ここでいう密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0028】
また、本発明の軽油組成物の蒸留性状に関し、その20%留出温度(T20)は180℃以上240℃以下であることが必要である。T20が180℃未満であると、過度の軽質化により運転性能が低下してしまう。さらに、運転性能の向上の点から、T20は、好ましくは185℃以上、より好ましくは190℃以上、さらに好ましくは195℃以上、特に好ましくは200℃以上である。他方、T20が240℃を超えると、排ガス後処理装置を備えるディーゼルエンジン搭載車両において排ガス中の有害成分(特にPM)を十分に低減できなくなる。さらに、当該有害成分の低減の点から、T20は、好ましくは235℃以下、より好ましくは230℃以下である。
【0029】
また、本発明の軽油組成物の95%留出温度(T95)は、排ガス後処理装置を備えるディーゼルエンジン搭載車両における排ガス中の有害成分(特にPM)の低減の点から、340℃以下であることが必要であり、好ましくは335℃以下、より好ましくは330℃以下である。
【0030】
またさらに、本発明の軽油組成物において、その蒸留性状に関するT10、T20、T80及びT90と、軽油組成物中のナフテン化合物含有量(N)及び1環芳香族分含有量(A)とは上記式(1)で表される条件を満たすことが必要である。ここで、式(1)中の左辺(すなわち{(T80−T20)/(T90−T10)}×{(N+A)/100})を「運転性指数」という。
【0031】
運転性指数は、車両の運転性能の主要因であるエンジン回転数の応答性と燃料性状との相関を示す指標である。運転性指数の値が大きいほどアクセル入力に対する回転数感度が高く、加速性や運転性に優れている。運転性指数に含まれる(T80−T20)/(T90−T10)は軽油組成物の揮発特性に関する項であり、また、{(N+A)/100}は燃料の発熱量特性に関する項である。運転性指数は、前述の通り0.3以上であることが必要であり、好ましくは0.35以上、より好ましくは0.4以上である。運転性指数が0.3未満の場合には、十分な運転性能向上効果が得られない。
【0032】
なお、運転性能の向上の点からは、燃料の発熱量特性の向上、すなわち燃料の高密度化及び芳香族分含有量の増加が有効であると考えられるが、その一方で、排ガス後処理装置を支援するためには、硫黄分含有量の低減の他に芳香族分含有量の低減、蒸留性状の軽質化が有効であると考えられる。従って、従来のディーゼル燃料においては上述のように相反する要求性状の双方を高水準で達成することは非常に困難である。これに対して本発明では、上記特定の水素化分解軽油を配合せしめることで、排ガス後処理装置の支援のために必要な特性を維持しつつ15℃における密度及び運転性指数が上記の条件を満たす軽油組成物を容易に且つ確実に得ることができる。その結果、排ガス後処理装置を備えるディーゼルエンジン搭載車両において、運転性能、さらには高温始動性を高水準に維持したまま排ガス後処理装置の性能を向上させることができ、排ガス中の有害成分を十分に低減することが可能となる。
【0033】
ここで、T10は、上記式(1)で表される条件を満たせば特に制限されないが、運転性能をさらに向上させる点から、好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。また、T10は排ガス後処理装置の性能をさらに向上させる点から、好ましくは230℃以下、より好ましくは225℃以下、さらに好ましくは220℃以下である。
【0034】
また、T80は、上記式(1)で表される条件を満たせば特に制限されないが、運転性能をさらに向上させる点から、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは230℃以上である。また、T80は、排ガス後処理装置の性能をさらに向上させる点から、好ましくは315℃以下、より好ましくは305℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。
【0035】
また、T90は、上記式(1)で表される条件を満たせば特に制限されないが、運転性能をさらに向上させる点から、好ましくは220℃以上、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは240℃以上である。また、T80は、排ガス後処理装置の性能をさらに向上させる点から、好ましくは330℃以下、より好ましくは325℃以下、さらに好ましくは315℃以下である。
【0036】
なお、T10、T20、T80及びT90は、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0037】
また、本発明の軽油組成物のナフテン化合物含有量(N)は、上記式(1)で表される条件を満たせば特に制限されないが、運転性能をさらに向上させる点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。また、当該ナフテン化合物含有量は、排ガス後処理装置の性能をさらに向上させる点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。なお、本発明でいうナフテン化合物含有量とは、ASTM D2786−91「Standard Test Method for Hydrocarbon Types Analysis of Gas−Oil Saturates Fraction by High Ionizing Voltage Mass Spectrometry(質量分析法)」に準拠して測定されるナフテン分の質量百分率(質量%)を意味する。
【0038】
また、本発明の軽油組成物の1環芳香族分含有量(A)は、上記式(1)を満たせば特に制限されないが、ディーゼル排ガス中の有害成分(特にPM及びNOx)をさらに低減する点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは17質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。また、当該1環芳香族分含有量は、噴射ポンプに使用される材料との適合性の点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上である。
【0039】
またさらに、本発明の軽油組成物において、多環芳香族分(2環以上の芳香族分)の含有量は特に制限されないが、ディーゼル排ガス中の有害成分の低減の点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0040】
また、本発明の軽油組成物の全芳香族分含有量は特に制限されないが、ディーゼル排ガス中の有害成分(特にPM及びNOx)を低減する点から、好ましくは22質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは17質量%以下である。また、当該全芳香族分含有量は、噴射ポンプに使用される材料との適合性の点から、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。
【0041】
なお、本発明でいう1環芳香族分含有量、多環芳香族分含有量及び全芳香族分含有量は、IP 391/95「Petroleum products − Determination of aromatic hydrocarbon types in middle distillates−High performance liquid chromatography method with refractive index detection(HPLC法)」に準拠され、測定された芳香族分含有量の質量百分率(質量%)を意味する。
【0042】
また、本発明の軽油組成物の30℃における動粘度は、好ましくは2mm2/s以上、より好ましくは2.2mm2/s、さらに好ましくは2.5mm2/s以上、さらにより好ましくは2.7mm2/s以上である。当該動粘度が2mm2/sに満たない場合は、燃料噴射ポンプの潤滑性能が確保できないおそれがある。また、当該動粘度は、好ましくは5mm2/s以下、より好ましくは4.7mm2/s以下、さらに好ましくは4.5mm2/s以下、さらにより好ましくは4.2mm2/s以下、最も好ましくは4mm2/s以下である。当該動粘度が5mm2/sを超えると、噴射系が不安定化するおそれがある。なお、ここでいう動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される動粘度を意味する。
【0043】
また、本発明の軽油組成物のセタン価は、好ましくは52以上であり、より好ましくは54以上であり、さらに好ましくは56以上である。セタン価が52に満たない場合には、ディーゼル排出ガス中の有害成分の低減効果が低下する傾向にある。なお、ここでいうセタン価とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「7.セタン価試験方法」に準拠して測定されるセタン価を意味する。
【0044】
また、本発明の軽油組成物におけるセタン指数は、好ましくは50以上であり、より好ましくは52以上であり、さらに好ましくは54以上である。セタン指数が50に満たない場合には、ディーゼル排出ガス中の有害成分の低減効果が低下する傾向にある。ここでいうセタン指数とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」に準拠して算出した値を意味する。上記JIS規格におけるセタン指数は、セタン価向上剤を添加したものに対しては適用されないが、本発明ではセタン価向上剤を添加した軽油組成物についても上記「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」を適用し、当該算出方法により算出される値をセタン指数として表す。
【0045】
また、本発明の軽油組成物は、潤滑性能を示すHFRR摩耗痕径(WS1.4)が好ましくは460μm以下、より好ましくは400μm以下、さらに好ましくは390μm以下、特に好ましくは380μm以下である。HFRR摩耗痕径が460μmを超える場合は、特に分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増、ポンプ各部の摩耗増を引き起こし、排ガス性能、微小粒子性能の悪化のみならずエンジン自体が破壊される恐れがある。また、高圧噴射が可能な電子制御式燃料噴射ポンプにおいても、摺動面等の摩耗が懸念される。なお、ここでいうHFRR摩耗痕径とは、社団法人石油学会から発行されている石油学会規格JPI−5S−50−98「軽油−潤滑性試験方法」により測定される値を意味する。
【0046】
また、本発明の軽油組成物における流動点は、低温始動性ないしは低温運転性の観点、並びに電子制御式燃料噴射ポンプにおける噴射性能維持の観点から、−7.5℃以下であることが好ましく、−15℃以下であることがより好ましく、−20℃以下であることがさらにより好ましい。ここで流動点とは、JIS K2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定される流動点を意味する。
【0047】
また、本発明の軽油組成物における灰分含有量は、好ましくは0.01質量%未満である。灰分含有量が0.01質量%以上であると、灰分が燃料噴射系に対する夾雑物となり、性能を阻害することが懸念される。なお、ここでいう灰分含有量とは、JIS K 2272「原油及び石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の灰分の質量含有量を意味する。
【0048】
また、本発明の軽油組成物の目詰まり点については特に限定されないが、−5℃以下であることが好ましく、−8℃以下であることがより好ましく、−12℃以下であることがさらに好ましく、−19℃以下であることがさらにより好ましい。なお、ここでいう目詰まり点とはJIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」により測定される目詰まり点を意味する。
【0049】
また、本発明の軽油組成物においては、貯蔵安定性の点から、酸化安定性試験後の全不溶解分が1.0mg/100mL以下であることが好ましく、0.5mg/100mL以下であることがより好ましく、0.3mg/100mL以下であることがさらに好ましく、0.2mg/100mL以下であることがさらにより好ましく、0.1mg/100mL以下であることが最も好ましい。なお、ここでいう酸化安定性試験とは、ASTM D2274−94に準拠して、95℃、酸素バブリング下、16時間の条件で実施するものである。また、ここでいう酸化安定性試験後の全不溶解分とは、前記酸化安定性試験に準拠して測定される値を意味する。
【0050】
また、本発明の軽油組成物においては、貯蔵安定性、部材への適合性の点から、上記酸化安定性試験後の過酸化物価が、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、さらに好ましくは2質量ppm以下、さらにより好ましくは1質量ppm以下である。なお、ここでいう過酸化物価とは石油学会規格JPI−5S−46−96に準拠して測定される値を意味する。
【0051】
本発明の軽油組成物には、全不溶解分や過酸化物価を低減するために、酸化防止剤や金属不活性剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【0052】
また、本発明における軽油組成物における導電率は特に限定されないが、安全性の点から50pS/m以上であることが好ましい。本発明の軽油組成物には、導電率を改善するために、適宜帯電防止剤等を添加することができる。なお、ここでいう導電率とは、JIS K 2276「石油製品−航空燃料油試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0053】
(水素化分解軽油以外のベース軽油)
本発明においては、得られる軽油組成物の硫黄分含有量、15℃における密度、蒸留性状(T20等)がそれぞれ上記の範囲内であり、且つ当該軽油組成物が式(1)で表される条件を満たす限りにおいて、上記水素化分解軽油以外の軽油基材を配合することができる。
【0054】
具体的には、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油や常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残査油を減圧蒸留装置で処理して得られる減圧軽油;硫黄分含有量に応じて、前述の軽油を水素化精製装置で水素化処理した水素化精製軽油;水素化精製よりも苛酷な条件で一段階または多段階で水素化脱硫して得られる水素化脱硫軽油等が使用可能である。
【0055】
これらの軽油基材の性状は特に制限されないが、本発明の軽油組成物における目的の性状を容易に且つ確実に達成するためには、後述する特定性状を有することが好ましい。
【0056】
すなわち、上記軽油基材のT90は、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは220℃以上、さらにより好ましくは230℃以上、最も好ましくは240℃以上である。また、当該T90は、好ましくは380℃以下、より好ましくは370℃以下、さらに好ましくは360℃以下、さらにより好ましくは350℃以下、最も好ましくは340℃以下である。なお、ここでいうT90はJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0057】
また、上記軽油基材の15℃における密度は、好ましくは780kg/m3以上、より好ましくは790kg/m3以上、さらに好ましくは800kg/m3以上である。また、当該密度は、好ましくは870kg/m3以下、より好ましくは860kg/m3以下、さらに好ましくは850kg/m3以下、さらにより好ましくは840kg/m3以下である。なお、ここでいう密度とはJIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0058】
また、上記軽油基材の硫黄分含有量は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、さらに好ましくは3質量ppm以下である。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を意味する。
【0059】
また、上記軽油基材の芳香族分含有量は特に制限されないが、33質量%以下であることが好ましく、22質量%以下であることがより好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、11質量%以下であることがさらにより好ましい。なお、ここでいう芳香族分含有量は、IP 391/95「Petroleum products − Determination of aromatic hydrocarbon types in middle distillates−High performance liquid chromatography method with refractive index detection(HPLC法)」に準拠され、測定された芳香族分含有量の質量百分率(質量%)を意味する。
【0060】
上記軽油基材の配合量は、水素化分解軽油の含有量や、市販燃料油としての実用性能(例えば低温流動性能や潤滑性能)に応じて適宜設定可能である。ディーゼル排ガス中の有害成分の低減効果と運転性能向上効果との双方をより高めるためには、当該軽油基材の配合量は、好ましくは5容量%以上、より好ましくは10容量%以上、さらに好ましくは15容量%以上である。また、当該配合量は好ましくは90容量%以下、より好ましくは85容量%以下、さらに好ましくは80容量%以下、さらにより好ましくは75容量%以下、最も好ましくは70容量%以下である。
【0061】
(合成軽油)
本発明においては、得られる軽油組成物の硫黄分含有量、15℃における密度、蒸留性状(T20等)がそれぞれ上記の範囲内であり、且つ当該軽油組成物が式(1)で表される条件を満たす限りにおいて、合成軽油を配合することができる。
【0062】
本発明にかかる合成軽油とは、天然ガス、アスファルト分、石炭等を原料とし、これを化学合成させることで得られる合成軽油をいう。化学合成方法としては間接液化法、直接液化法などがあり、代表的な合成手法として、フィッシャートロップス合成法が挙げられるが、本発明で使用する合成軽油はこれらの製造方法により限定されるものではない。合成軽油は一般に飽和炭化水素類が主成分であり、詳しくはノルマルパラフィン類、イソパラフィン類、ナフテン類から構成されている。すなわち合成軽油は一般に、芳香族分をほとんど含有していない。従って、水素化分解軽油の芳香族分含有量が17質量%を超える場合には、当該合成軽油を用いることによって、軽油組成物の芳香族分含有量を容易に低減できる。
【0063】
本発明の軽油組成物における目的の性状を容易に且つ確実に達成するためには、合成軽油が後述する特定性状を有することが好ましい。
【0064】
すなわち、合成軽油の15℃における密度は、好ましくは720kg/m3以上、より好ましくは730kg/m3以上、さらに好ましくは740kg/m3以上、さらにより好ましくは750kg/m3以上である。また、当該密度は、好ましくは840kg/m3以下、より好ましくは830kg/m3以下、さらに好ましくは820kg/m3以下、さらにより好ましくは810kg/m3以下である。なお、ここでいう密度とはJIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0065】
また、合成軽油の硫黄分含有量は、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、さらに好ましくは2質量ppm以下、さらにより好ましくは1質量ppm以下である。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を意味する。
【0066】
合成軽油の配合量は、水素化分解軽油の含有量や、市販燃料油としての実用性能(例えば低温流動性能や潤滑性能)に応じて適宜設定可能である。特に、水素化分解軽油の芳香族分含有量が17質量%以上である場合、環境負荷低減効果と燃費の向上効果との双方をより高めるためには、好ましくは5容量%以上、より好ましくは10容量%以上、さらに好ましくは20容量%以上、さらにより好ましくは30容量%以上である。また、当該配合量は好ましくは80容量%以下、より好ましくは70容量%以下、さらに好ましくは60容量%以下、さらにより好ましくは50容量%以下である。
【0067】
また、水素化分解軽油の芳香族分含有量が17質量%未満である場合であっても、合成軽油を軽油組成物に含有させることができる。
【0068】
(灯油基材)
本発明においては、得られる軽油組成物の硫黄分含有量、芳香族分含有量、2環以上の芳香族分含有量、及び15℃における密度がそれぞれ上記範囲内であれば灯油基材を配合することができる。
【0069】
かかる灯油基材としては、原油の常圧蒸留により得られる直留灯油;直留原油の常圧蒸留により得られる軽油留分を分解して得られる分解灯油直留灯油;水素化分解軽油と共に製造される水素化分解灯油;上記の灯油留分を水素化精製して得られる水素化精製灯油;天然ガス、アスファルト分、石炭等を原料とする合成灯油等が使用可能である。
【0070】
これらの灯油基材の性状は特に制限されないが、本発明の軽油組成物における目的の性状を容易に且つ確実に達成するためには、後述する特定性状を有することが好ましい。
【0071】
すなわち、灯油基材のT90は、好ましくは140℃以上、より好ましくは145℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。また、当該T90は、好ましくは280℃以下、より好ましく270℃以下、さらに好ましくは260℃以下である。なお、ここでいうT90はJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0072】
また、灯油基材の15℃における密度は、好ましくは750kg/m3以上、より好ましくは760kg/m3以上、さらに好ましくは770kg/m3以上である。また、当該密度は、好ましくは820kg/m3以下、より好ましくは810kg/m3以下、さらに好ましくは800kg/m3以下である。なお、ここでいう密度とはJIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0073】
また、灯油基材の硫黄分含有量は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、さらに好ましくは3質量ppm以下である。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を意味する。
【0074】
また、灯油基材の芳香族分含有量は特に制限されないが、33質量%以下であることが好ましく、22質量%以下であることがより好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、11質量%以下であることが最も好ましい。なお、ここでいう芳香族分含有量は、社団法人石油学会により発行されている石油学会誌JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された、芳香族分含有量の容量百分率(容量%)を意味する。
【0075】
本発明にかかる灯油基材の配合量は、水素化分解軽油の含有量や、市販燃料油としての実用性能(例えば低温流動性能や潤滑性能)に応じて適宜設定可能であるが、環境負荷低減効果と燃費の向上効果との双方をより高めるためには、好ましくは5容量%以上、より好ましくは10容量%以上である。また、当該配合量は好ましくは60容量%以下、より好ましくは50容量%以下、さらに好ましくは40容量%以下、さらにより好ましくは30容量%以下である。
【0076】
(セタン価向上剤)
本発明においては、必要に応じてセタン価向上剤を適量配合し、得られる軽油組成物のセタン価を52以上とすることができる。
【0077】
セタン価向上剤としては、軽油のセタン価向上剤として知られる各種の化合物を任意に使用することができ、例えば、硝酸エステルや有機過酸化物等が挙げられる。これらのセタン価向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0078】
本発明においては、上述のセタン価向上剤の中でも硝酸エステルを用いることが好ましい。かかる硝酸エステルには、2−クロロエチルナイトレート、2−エトキシエチルナイトレート、イソプロピルナイトレート、ブチルナイトレート、第一アミルナイトレート、第二アミルナイトレート、イソアミルナイトレート、第一ヘキシルナイトレート、第二ヘキシルナイトレート、n−ヘプチルナイトレート、n−オクチルナイトレート、2−エチルヘキシルナイトレート、シクロヘキシルナイトレート、エチレングリコールジナイトレートなどの種々のナイトレート等が包含されるが、特に、炭素数6〜8のアルキルナイトレートが好ましい。
【0079】
セタン価向上剤の含有量は、組成物全量基準で500質量ppm以上であることが好ましく、600質量ppm以上であることがより好ましく、700質量ppm以上であることがさらに好ましく、800質量ppm以上であることがさらにより好ましく、900質量ppm以上であることが最も好ましい。セタン価向上剤の含有量が500質量ppmに満たない場合は、十分なセタン価向上効果が得られず、ディーゼル排ガス中の有害成分(PM、アルデヒド類、NOx等)が十分に低減されない傾向にある。また、セタン価向上剤の含有量の上限値は特に限定されないが、軽油組成物全量基準で、1400質量ppm以下であることが好ましく、1250質量ppm以下であることがより好ましく、1100質量ppm以下であることがさらに好ましく、1000質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0080】
セタン価向上剤は、常法に従い合成したものを用いてもよく、また、市販品を用いてもよい。なお、セタン価向上剤と称して市販されているものは、セタン価向上に寄与する有効成分(すなわちセタン価向上剤自体)を適当な溶剤で希釈した状態で入手されるのが通例である。このような市販品を使用して本発明の軽油組成物を調製する場合には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
【0081】
(その他の添加剤)
本発明の軽油組成物においては、上記セタン価向上剤以外の添加剤を必要に応じて配合することができ、特に、潤滑性向上剤及び/又は清浄剤が好ましく配合される。
【0082】
潤滑性向上剤としては、例えば、カルボン酸系、エステル系、アルコール系及びフェノール系の各潤滑性向上剤の1種又は2種以上が任意に使用可能である。これらの中でも、カルボン酸系及びエステル系の潤滑性向上剤が好ましい。
【0083】
カルボン酸系の潤滑性向上剤としては、例えば、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸及び上記カルボン酸の2種以上の混合物が例示できる。
【0084】
エステル系の潤滑性向上剤としては、グリセリンのカルボン酸エステルが挙げられる。カルボン酸エステルを構成するカルボン酸は、1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸等がある。
【0085】
潤滑性向上剤の配合量は、HFRR摩耗痕径が上記範囲内であれば特に制限されないが、組成物全量基準で35質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましい。潤滑性向上剤の配合量が前記の範囲内であると、配合された潤滑性向上剤の効能を有効に引き出すことができ、例えば分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増を抑制し、ポンプの摩耗を低減させることができる。また、配合量の上限値は、それ以上加えても添加量に見合う効果が得られないことから、組成物全量基準で150質量ppm以下であることが好ましく、105質量ppm以下であることがより好ましい。
【0086】
清浄剤としては、例えば、イミド系化合物;ポリブテニルコハク酸無水物とエチレンポリアミン類とから合成されるポリブテニルコハク酸イミド等のアルケニルコハク酸イミド;ペンタエリスリトール等の多価アルコールとポリブテニルコハク酸無水物から合成されるポリブテニルコハク酸エステル等のコハク酸エステル;ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン等とアルキルメタクリレートとのコポリマー等の共重合系ポリマー、カルボン酸とアミンの反応生成物等の無灰清浄剤等が挙げられ、中でもアルケニルコハク酸イミド及びカルボン酸とアミンとの反応生成物が好ましい。これらの清浄剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0087】
アルケニルコハク酸イミドを使用する例としては、分子量1000〜3000程度のアルケニルコハク酸イミドを単独使用する場合と、分子量700〜2000程度のアルケニルコハク酸イミドと分子量10000〜20000程度のアルケニルコハク酸イミドとを混合して使用する場合とがある。
【0088】
カルボン酸とアミンとの反応生成物を構成するカルボン酸は1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、炭素数12〜24の脂肪酸および炭素数7〜24の芳香族カルボン酸等が挙げられる。炭素数12〜24の脂肪酸には、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、炭素数7〜24の芳香族カルボン酸には、安息香酸、サリチル酸等が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、カルボン酸とアミンとの反応生成物を構成するアミンは、1種であっても2種以上であってもよい。ここで用いられるアミンとしては、オレイルアミンが代表的であるが、これに限定されるものではなく、各種アミンが使用可能である。 清浄剤の配合量は特に制限されないが、清浄剤を配合した効果、具体的には、燃料噴射ノズルの閉塞抑制効果を引き出すためには、清浄剤の配合量を組成物全量基準で30質量ppm以上とすることが好ましく、60質量ppm以上とすることがより好ましく、80質量ppm以上とすることがさらに好ましい。30質量ppmに満たない量を添加しても効果が現れない可能性がある。一方、配合量が多すぎても、それに見合う効果が期待できず、逆にディーゼルエンジン排出ガス中のNOx、PM、アルデヒド類等を増加させる恐れがあることから、清浄剤の配合量は300質量ppm以下であることが好ましく、180質量ppm以下であることがより好ましい。
【0089】
なお、先のセタン価向上剤の場合と同様、潤滑性向上剤又は清浄剤と称して市販されているものは、それぞれ潤滑性向上または清浄に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈された状態で入手されるのが通例である。このような市販品を本発明の軽油組成物に配合する際には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
【0090】
また、本発明における軽油組成物の性能をさらに高める目的で、後述するその他の公知の燃料油添加剤(以下、便宜上「その他の添加剤」という)を単独で、または数種類組み合わせて添加することもできる。その他の添加剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アルケニルコハク酸アミドなどの低温流動性向上剤;フェノール系、アミン系などの酸化防止剤;サリチリデン誘導体などの金属不活性化剤;ポリグリコールエーテルなどの氷結防止剤;脂肪族アミン、アルケニルコハク酸エステルなどの腐食防止剤;アニオン系、カチオン系、両性系界面活性剤などの帯電防止剤;アゾ染料などの着色剤;シリコン系などの消泡剤等が挙げられる。
【0091】
その他の添加剤の添加量は任意に決めることができるが、添加剤個々の添加量は、軽油組成物全量基準でそれぞれ好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
【0092】
(排ガス後処理装置)
上記の構成を有する本発明の軽油組成物は、排ガス後処理装置を備えるディーゼルエンジン搭載車両において、排ガス後処理装置の性能と運転性能とを高水準でバランスよく達成することを可能とするものである。また、本発明の軽油組成物は優れた高温始動性を有しているため、高温下でエンジンを再始動させる際に、エンジン始動の不安定化を防止することが可能なディーゼル燃料としても非常に有用である。
【0093】
ここで、排ガス後処理装置とは、排ガス中のNOx、未燃炭化水素、一酸化炭素、PM等を低減するための装置である。排ガス後処理装置の種類、仕様、装着方法は後述するように様々であるが、本発明の軽油組成物はいずれの排ガス後処理装置にも適用可能である。
【0094】
排ガス後処理装置としては、具体的には、アルデヒド類等の低減効果を有する酸化触媒、NOx還元触媒、さらには排ガス中からPMをろ過のようにして物理的に捕集、除去するDPF等を利用したものが挙げられる。これらの形状、構造、担持金属種類、担持金属量、再生方法、制御方法等に関する制限はない。また、現在研究開発が進められている新規の排ガス後処理装置に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0095】
排ガス後処理装置の本体材料は、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。材料の例としては、コージェライト、炭化珪素、多孔体金属、金属繊維等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の材料に対しても、本発明の軽油組成物を適用することが可能である。
【0096】
排ガス後処理装置の本体形状は、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。形状の例としては、モノリスハニカム状、不織布蛇腹状、多重円筒状等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の形状に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0097】
排ガス後処理装置の1平方インチあたりのセル数(孔数)は特に制限されないが、一般的にセル数が著しく多いと反応するための表面積は増加するものの背圧の上昇を招いてしまい、また著しく少ないと反応するための表面積が少なくなってDPFの場合はPM捕集能力が低下する傾向にある。従って当該セル数は自ずと排ガス後処理装置製造会社によって制約されていることが多い。また、セル数に応じて、また技術的根拠を持ってセル間壁厚やセル自体の大きさ(セル径)は変化するが、本発明の軽油組成物と組み合わせる排ガス後処理装置においては特に制限はなく、全てに対して使用可能である。同様に排ガス後処理装置のセルの形状も、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。形状の例としては、四角形、六角形等の多角形、円形、不均等形等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の形状に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0098】
排ガス後処理装置に担持される金属類及びその担持量に関しては、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。金属の例としては、白金、パラジウム、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、ゼオライト等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の担持金属及び担持量に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0099】
DPFの場合、その捕集および再生機構は、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。捕集および再生機構の例としては、交換式、交互式、順送り式、連続式、手動式等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の捕集および再生機構に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。DPFの再生方式は、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。再生方式の例としては、電気ヒータ式、バーナ式、触媒燃焼式、逆洗浄式、酸化触媒式、燃料添加剤式等が挙げられる。また、現在研究開発が進められている新規の再生方式に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0100】
排ガス後処理装置の十分な性能を発揮させるために用いる制御方式は、現在検討されているもの全てに対して使用可能である。制御方式の例としては、背圧式、時間式、排気温度式、エンジン回転速度式、エンジン負荷式、排ガス式、堆積量検出式等が挙げられ、還元剤として燃料もしくは他の化合物を投入する方法、複数の制御方法を組み合わせて使用する方法も挙げられる。また、複数の排ガス後処理装置を複数組み合わせて制御する方式も存在する。また、現在研究開発が進められている新規の制御方式に対しても、本発明の軽油組成物を適用することは可能である。
【0101】
【実施例】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0102】
[実施例1〜3、比較例1〜8]
実施例1〜3及び比較例1〜8においては、それぞれ表1に示すベース軽油及び以下に示す添加剤を用いて、表2に示す組成を有する軽油組成物を調製した。セタン価向上剤:2−エチルヘキシルナイトレート
潤滑性向上剤:リノール酸を主成分とするカルボン酸混合物
清浄剤:オレイン酸を主成分とするカルボン酸混合物とオレイルアミンとの反応生成物
低温流動性向上剤:エチレン−酢酸ビニル共重合体。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
得られた軽油組成物の蒸留性状(10%、20%、50%、80%、90%及び95%留出温度)、15℃における密度、30℃における動粘度、硫黄分含有量、芳香族分含有量(全芳香族分、1環芳香族分、2環以上の芳香族分)、ナフテン分含有量、運転性指数、セタン指数、セタン価、流動点、HFRR摩耗痕径をそれぞれ表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
実施例1〜3においては、水素化分解軽油−1、2を用いることで、それぞれ硫黄分含有量、蒸留性状、ナフテン化合物含有量及び1環芳香族分含有量が本発明で規定する条件を満たす軽油組成物を容易に且つ確実に得ることができた。一方、水素化分解軽油を用いなかった比較例1〜8では、上記性状の全てを満たす軽油組成物は得られなかった。
【0108】
次に、実施例1〜3及び比較例1〜8で得られた各軽油組成物を用いて、以下に示す評価試験を行った。なお、以下の試験において、エンジン単体試験にかかる試験方法は、旧運輸省監修新型自動車審査関係基準集別添29「ディーゼル自動車13モード排出ガス測定の技術基準」に準拠するものである。また、車両試験にかかる試験方法は、同基準集別添27「ディーゼル自動車10・15モード排出ガス測定の技術基準」に準拠するものである。
【0109】
(排ガス後処理装置の性能向上効果の評価)
実施例1〜3及び比較例1〜8の各軽油組成物について、フィルタ部に酸化触媒機能を有するDPFを装着したディーゼルエンジンを用いて以下の試験を行い、DPFの性能向上効果を評価した。用いたエンジンの諸元を以下に示す。
エンジン諸元
エンジンの種類:自然吸気式直列4気筒ディ−ゼル
排気量:5L
圧縮比:19
最高出力:110kW/2900rpm
最高トルク:360Nm/1700rpm
規制適合:平成6年度排ガス規制適合。
【0110】
本試験では、ディーゼル13モード(以下、「D13モード」)で規定される40%回転数及び60%回転数において、負荷をそれぞれ0%から100%まで段階的に変化させたときのエンジン背圧並びにDPF前後の差圧、あるいはさらに連続使用時間を測定し、得られた測定値を評価の指標とした。
【0111】
すなわち、エンジン背圧については、各運転条件での背圧が試験開始時より30kPa以上上昇し、且つその後30分間条件を保持しても背圧が低下しなかった場合に不合格とした。
【0112】
また、DPF前後の差圧については、各運転条件での差圧が試験開始時より30kPa以上上昇し、且つその後30分間条件を保持しても差圧が低下しなかった場合に不合格とした。
【0113】
また、連続使用時間は、試験開始時から背圧上昇が100kPaに達するまでの時間とし、背圧、差圧の判定で不合格となったものについて適用した。
を測定した。
【0114】
そして、これらの背圧及び差圧、並びにDPFに堆積したPM量と再生が必要になるまでの連続使用時間、更にはDPFの連続再生機能への影響等から、DPFの性能向上効果を総合的に判定した。得られた結果を表4に示す。表4中、「○」はいずれの評価項目も合格であったことを意味し、「×」はいずれかの評価項目が不合格であったことを意味する。
【0115】
(運転性能向上効果の評価)
実施例1〜3及び比較例1〜8の各軽油組成物について、酸化触媒を用いた排ガス後処理装置を備えるディーゼルエンジン搭載車両を用いて以下の試験を行い、運転性能向上効果を評価した。用いたディーゼルエンジン搭載車両の諸元を以下に示す。
車両諸元
エンジン種類:インタークーラー付過給直列4気筒ディーゼル
排気量:3L
圧縮比:18.5
最高出力:125kW/3400rpm
最高トルク:350Nm/2400rpm
規制適合:平成9年度排ガス規制適合
車両重量:1900kg
ミッション:4AT
排ガス後処理装置:酸化触媒
本試験では、環境温度25℃、環境湿度60%RHの条件下、シャーシダイナモメータ(勾配条件:5%)上で行った。先ず、上記車両を十分に暖気走行させた後、40km/h定速条件で保持し、所定の時間経過後にスロットル(アクセル)を全開にして運転し、60km/m又は100km/hに達するまでの時間を測定した。得られた結果を表4に示す。
【0116】
(高温始動性の評価)
実施例1〜3及び比較例1〜8の各軽油組成物について、ディーゼルエンジン搭載車両を用いて高温始動性評価試験を行った。用いたディーゼルエンジン搭載車両の諸元を以下に示す。
車両諸元
エンジン主対:インタークーラー付過給直列4気筒ディーゼル
排気量:3.2L
圧縮比:17
最高出力:130kW/3800rpm
最高トルク:380rpm/2000rpm
規制適合:平成10年排ガス規制適合
車両重量:2150kg。
【0117】
本試験では、環境温度及び環境湿度の制御が可能なシャーシダイナモメータ上で、軽油組成物15Lを給油した上記ディーゼルエンジン搭載車両のエンジンを始動し、アイドリング状態で保持した。次いで、環境温度を20℃として試験室内温度を安定化させ、アイドリング中の車両の燃料噴射ポンプ出口温度が安定した時点でエンジンを停止させた。エンジン停止から5分間放置した後でエンジンを再始動させ、このときにエンジンが正常に始動するか否かを評価した。さらに、エンジンが正常に始動した場合には環境温度を25℃、30℃、35℃、40℃と順次上昇させ、それぞれの環境温度において上記の操作を繰り返した。得られた結果を表4に示す。表4中、「○」はエンジンが正常に始動したことを意味し、「×」はエンジンが始動しなかったことを意味する。
【0118】
【表4】
【0119】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明によれば、90%留出温度、15℃における密度及び硫黄分含有量がそれぞれ特定範囲内にある水素分解軽油を用いることによって、従来の基材では実現が困難であった、軽油組成物の硫黄分含有量、蒸留性状、ナフテン化合物含有量及び1環芳香族分含有量を容易に且つ確実に制御することが可能となる。そして、当該水素化分解軽油を軽油組成物に含有せしめ、硫黄分含有量、蒸留性状、ナフテン化合物含有量及び1環芳香族分含有量をそれぞれ上記特定の条件を満たすようにすることで、排ガス後処理装置を装着したディーゼルエンジン搭載車両において、排ガス後処理装置の性能と運転性能との双方を向上させることができる。また、本発明の軽油組成物は高温始動性が優れているため、ディーゼルエンジン搭載車両のエンジンを停止して高温下に放置した場合であっても、エンジンの再始動を安定的に行うことができる。
Claims (2)
- 90%留出温度が200℃以上380℃以下、15℃における密度が780kg/m3以上870kg/m3以下、且つ硫黄分含有量が10質量ppm以下である水素化分解軽油を含有し、
硫黄分含有量が10質量ppm以下、15℃における密度が810kg/m3以上840kg/m3以下、20%留出温度が180℃以上240℃以下、95%留出温度が340℃以下であり、且つ下記式(1):
で表される条件を満たすことを特徴とする軽油組成物。 - 軽油組成物の30℃における動粘度が2mm2/s以上5mm2/s以下、芳香族分含有量が6質量%以上22質量%以下、セタン価が52以上、セタン指数が50以上、HFRR摩耗痕径が460μm以下、流動点が−7.5℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の軽油組成物。
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