JP2004067614A - 微量定量噴霧が可能な水性懸濁剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】分散性が良好で、使用感も良好であり、長期保存しても、ノズルの先の固化や噴霧異常がなく、物理的にも安定で、良好な分散性が損なわれることがないような水性懸濁剤を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)難水溶性の薬効成分、(b)多価アルコールから選択される少なくとも1種、(c)結晶セルロース・カルメロースナトリウム、(d)清涼化剤から選択される少なくとも1種を含有する水性懸濁剤である。好適には、(a)が0.01〜1.5重量%、(b)が3〜25重量%、(c)が0.3〜3.5重量%、(d)が0.001〜0.5重量%であり、粘度が5〜400cpsであり、懸濁粒子の粒子径分布が、10μm以下が75%以上、かつ20μm以下が90%以上である。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明は、(a)難水溶性の薬効成分、(b)多価アルコールから選択される少なくとも1種、(c)結晶セルロース・カルメロースナトリウム、(d)清涼化剤から選択される少なくとも1種を含有する水性懸濁剤である。好適には、(a)が0.01〜1.5重量%、(b)が3〜25重量%、(c)が0.3〜3.5重量%、(d)が0.001〜0.5重量%であり、粘度が5〜400cpsであり、懸濁粒子の粒子径分布が、10μm以下が75%以上、かつ20μm以下が90%以上である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鼻腔内への微量定量噴霧に適した水性懸濁剤に関し、より詳しくは、分散性が良好で、噴霧しても口中不快感や違和感がなく、長期保存しても、ノズルの先の固化や噴霧異常がなく、物理的にも安定で、良好な分散性が損なわれることがないような水性懸濁剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
プロピオン酸ベクロメタゾンは、強い局所グルココルチコイド作用を有し、全身作用の少ない合成副腎皮質ホルモンとして、1964年に開発され、日本では昭和47年に外皮用剤、昭和52年に吸入剤として承認された。
【0003】
プロピオン酸ベクロメタゾン吸入剤は、当初エアゾール剤の形態で汎用されていたが、その後、フロンガスの安全性が問題視されるに至り、定量噴霧式の水性懸濁剤が開発され、吸入式のアレルギー性鼻炎治療剤、血管運動性鼻炎治療剤として市販されるようになった。代表的な市販品として、アルデシンAQネーザル(シェリング・プラウ製)がある。その後、プロピオン酸フルチカゾンや塩酸レボカバスチン等が相次いで定量噴霧式の水性懸濁剤として開発されてきた。
【0004】
一般に、水性懸濁剤の調製に当たっては、固形成分が微細化され、懸濁粒子に物理的変化(凝集、結晶成長、沈降)がない、所謂、分散系が安定であるということが重要な課題である。分散系の安定性については、特に粉体のぬれ、静電斥力、粒度分布等が関与しているので、水性懸濁剤を長期間安定させるには、ある種の安定剤が必要である。
【0005】
分散系の安定性で最も注目すべき懸濁粒子の凝集を防止するには、粒子が互いに引力を及ぼし得るような距離にまで接近させないこと、また接近しても斥力ポテンシャルの障壁を充分大きくしてそれを超えないようにすること、の2つが考えられる。即ち、前者は、イオンの吸着に伴う水和層や吸着質自身による立体障害的保護作用によるものであり、後者は、電解質の添加によってイオンを吸着させ、粒子表面の電位を高める電気的保護作用によるものである。
【0006】
水性懸濁剤の分散剤として、一般に使用されているものには、無機および有機酸の塩類、界面活性剤、高分子化合物等があり、具体的には、ヘキサメタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0007】
なお、懸濁粒子の結晶成長を防止するには、粒子径をできるだけ揃えて温度変化に伴う小粒子の溶解と大粒子の成長化を抑制すること、また、懸濁粒子の沈降を防止するには、固形成分の微細化と分散系の粘度調整により、速度を遅延させること、がそれぞれ考えられる。
【0008】
現在市販されているアルデシンAQネーザルには、分散剤として、ポリソルベート80と結晶セルロース・カルメロースナトリウムが配合されている。
【0009】
ポリソルベート80は非イオン性界面活性剤であり、粉体のぬれを向上して凝集粒子を水中に均一に分散させる、所謂、湿潤分散剤として配合されている。一般に、界面活性剤は、粒子がひとつずつ独立した運動体として沈降する自由沈降現象を促進させる可能性があるので、他の分散剤との兼ね合いで界面活性剤の配合量はかなり制限される。
【0010】
結晶セルロース・カルメロースナトリウムは懸濁分散剤であり、一次粒子である微細なセルロース結晶体の表面が、カルボキシメチルセルロースナトリウムにより特殊な方法でコーティングされた網目構造を有し、その分散能力と安全性の面から医薬品分野で汎用されている。
【0011】
しかし、上記のアルデシンAQネーザルにおいては、鼻腔内に噴霧するとポリソルベート80に起因して口中に不快感があり、また、粘度が高いために、使用後長期間保存すると、ノズルの先が固化して詰まったり、噴霧異常が生じたりする、といった問題がある。
【0012】
また、難水溶性の薬効成分を含有する水性懸濁剤として、以下の先行技術がある。
【0013】
特開平9−157157号公報には、難水溶性薬物、多価アルコールおよび非イオン性界面活性剤を含有する耳、鼻、咽頭投与用組成物が開示されている。最も好ましい非イオン性界面活性剤はポリオキシエチレンソルビタンオレートであるが、ポリソルベート80はこれに該当するので、噴霧すると口中不快感がある。また、上述したように、非イオン性界面活性剤の使用は、他の分散剤との兼ね合いでその配合量が制限される。
【0014】
特開平11−130658号公報には、難水溶性薬物および結晶セルロース・カルメロースナトリウムを含有する、物理的安定性が改良された水性懸濁組成物が開示されている。しかし、この組成物では、予め、難水溶性薬物の表面を負電荷帯電性高分子で被覆する必要があり、その分の手間とコストがかかるという問題がある。
【0015】
特開平11−130659号公報には、難水溶性薬物および結晶セルロース・カルメロースナトリウムを含有する、物理的安定性が改良された水性懸濁組成物が開示されている。しかし、この組成物でも、予め、難水溶性薬物を噴霧乾燥法により球形に加工し、被覆する必要があり、その分の手間とコストがかかるという問題がある。
【0016】
特開平11−130660号公報には、難水溶性薬物、結晶セルロース・カルメロースナトリウムおよび非イオン性セルロースエステル類を含有する、鼻腔内での滞留性に優れた水性懸濁剤が開示されている。しかし、この処方の使用感についての記載がないので、実用に耐え得るか否かは定かではない。
【0017】
特開平10−259132号公報には、ロテプレドノール・エタボネートおよび結晶セルロース・カルメロースナトリウムを含有する点鼻用水性懸濁液が開示されている。しかし、この水性懸濁液は粘度が400〜3000センチポアズと非常に高く、これを噴霧すると鼻腔内に違和感がある。また、実施例の水性懸濁液には、ポリソルベート80が配合されているので、噴霧すると口中不快感がある。
【0018】
また、特開平8−151332号公報には、シクロデキストリンと、これに対する安定度指数が1000以下の難水溶性薬物を含有する点鼻用水性懸濁液、特開2002−161032号公報には、血管収縮作用を有するナファゾリン等と抗アレルギー作用を有するアンレキサノクス等を配合した水性の粘膜適用組成物、がそれぞれ開示されている。しかし、これらには、良好な懸濁分散剤である結晶セルロース・カルメロースナトリウムについては何ら開示されていない。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点を解決しようとするもので、その課題は、分散性が良好で、使用感も良好であり、長期保存しても、ノズルの先の固化や噴霧異常がなく、物理的にも安定で、良好な分散性が損なわれることがないような水性懸濁剤を提供することである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題に対し鋭意検討した結果、高い分散性を付与できる結晶セルロース・カルメロースナトリウムを配合すると共に、ポリソルベート80に代えて多価アルコールを配合し、かつ清涼化剤を配合することにより、良好な分散性が維持され、噴霧しても口中不快感や違和感がなく使用感が良好で、また、長期保存しても、ノズルの先の固化や噴霧異常がなく、物理的にも安定で、良好な分散性が損なわれることがない、従って、鼻腔内への微量定量噴霧に適した水性懸濁剤を提供できることを見出し、発明を完成するに至った。また、本発明は、プロピオン酸ベクロメタゾン以外の難水溶性の薬効成分の水性懸濁剤に対しても適用できることも見出した。さらに、本発明の水性懸濁剤は、上記の先行技術とは異なって、非イオン性界面活性剤や非イオン性セルロースエーテル類を含有するものではなく、また、難水溶性の薬効成分に対して、一切、何の前処理も施さないものである。
【0021】
即ち、本発明は、
(a)難水溶性の薬効成分、
(b)多価アルコールから選択される少なくとも1種、
(c)結晶セルロース・カルメロースナトリウム、および
(d)清涼化剤から選択される少なくとも1種
を含有する水性懸濁剤である。
【0022】
好適な態様としては、
(a)難水溶性の薬効成分が0.01〜1.5重量%、
(b)多価アルコールが3〜25重量%、
(c)結晶セルロース・カルメロースナトリウムが0.3〜3.5重量%、および
(d)清涼化剤が0.001〜0.5重量%
それぞれ含有されるものであり、そして、粘度が5〜400cpsであり、懸濁粒子の粒子径分布が、10μm以下が75%以上、かつ20μm以下が90%以上である。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の水性懸濁剤で配合される難水溶性の薬効成分としては、難水溶性の抗炎症薬や抗アレルギー薬が使用可能である。例えば、難水溶性の副腎皮質ホルモンが好適に使用でき、具体的には、プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、フランカルボン酸モメタゾン、ブデソニド、フルニソリド等が例示される。また、塩酸レボカバスチン、エバスチン、ラマトロバン、アンレキサノクス等も好適に使用できる。
【0024】
プロピオン酸フルチカゾンは、化学名を(+)−S−フルオロメチル 6α,9−ジフルオロ−11β−ヒドロキシ−16α−メチル−3−オキソ−17−プロピオニルオキシアンドロスタ−1,4−ジエン−17β−カルボチオエートといい、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎に効果があり、ヒト皮膚血管収縮作用はプロピオン酸べクロメタゾンの約1.9倍、吉草酸ベタメタゾンの約2.6倍、フルオシノロンアセトニドの約9.4倍であり、カラゲニン浮腫抑制作用やアレルギー性鼻炎抑制作用は、吉草酸ベタメタゾン、プロピオン酸べクロメタゾンよりも高く、抗アレルギー作用は、吉草酸ベタメタゾン、クロモグリク酸ナトリウムよりも高い。
【0025】
フランカルボン酸モメタゾンは、化学名を(+)−9,21−ジクロロ−11β,17α−ジヒドロキシ−16α−メチル−1,4−プレグナジエン−3,20−ジオン 17−(2−フロエート)といい、皮膚血管収縮作用は吉草酸ベタメタゾンよりも高く、抗炎症作用はジプロピオン酸べタメタゾン、吉草酸ベタメタゾンよりも高い。
【0026】
塩酸レボカバスチンは、化学名を(−)−(3S,4R)−1−[シス−4−シアノ−4−(4−フルオロフェニル)シクロヘキシル]−3−メチル−4−フェニルピペリジン−4−カルボン酸塩酸塩といい、アレルギー性鼻炎に効果があり、抗ヒスタミン作用を有する。
【0027】
この薬効成分の配合量は、薬効を有効に発揮できる量であればよく、好ましくは、水性懸濁剤中、0.01〜1.5重量%の範囲である。
【0028】
本発明の水性懸濁剤に配合される多価アルコールとしては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、ソルビトールが好ましい。ポリエチレングリコールは、分子量が300〜6000のものが好適に使用できる。これらの中でも、それ自体の味が殆どしないという点で、グリセリンおよび/またはプロピレングリコールの配合が特に好ましい。これらの多価アルコールは少なくとも1種が配合されるが、その中で、グリセリンおよび/またはプロピレングリコールを必須として、ポリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、ソルビトールと併用することが特に好ましい。この多価アルコールの配合量は、多すぎると懸濁粒子の凝集を招くおそれがあり、逆に、少なすぎると分散性が劣るおそれがあるので、薬効成分の種類や配合量、結晶セルロース・カルメロースナトリウムの配合量にもよるが、水性懸濁剤中、3〜25重量%の範囲が好ましい。
【0029】
本発明の水性懸濁剤には、結晶セルロース・カルメロースナトリウムが配合される。その機能は、水中に均一分散されたセルロース結晶体の表面に形成されている負の電気二重層に起因する電気的斥力によってもたらされ、さらにカルボキシメチルセルロースナトリウムの保護コロイド作用とあいまって、分散性がより高められている。ここで形成される網目構造が微細な固形成分をそのマトリックス中に捉え、結果として沈降作用がない安定な水性懸濁剤を調製できるものと考えられている。また、この網目構造によるチキソトロピーは可逆性で、外力によりゾル化しても静止すれば速やかに粘度を回復する。
【0030】
結晶セルロース・カルメロースナトリウムとしては、旭化成(株)より、アビセルシリーズとして販売されており、中でも、アビセルRC−591、アビセルRC−591NF、アビセルRC−A591NFが好ましい。
【0031】
この結晶セルロース・カルメロースナトリウムの配合量は、多すぎると水性懸濁剤の粘度が高くなって、噴霧すると違和感があり、また、使用後長期間放置すると、ノズルの先が固化して詰まったり、噴霧異常が生じたりする。逆に、少なすぎると水性懸濁剤のチキソトロピー性が維持できないといった物理的な安定性に劣る。従って、水性懸濁剤中、0.3〜3.5重量%の範囲が好ましい。
【0032】
本発明の水性懸濁剤に配合される清涼化剤としては、鼻腔内投与に適した清涼性を有するものであれば特に制限されないが、例えば、単環テルペン類が好適に使用でき、具体的には、リモネン(特にd−体)、メントール(特にl−体)およびその誘導体(O−エチルメントール等)、ボルネオール(特にd−体)、カンフル(特にdl−体)、ユーカリ油等が例示される。ここで、メントールには、それが含まれているハッカ油やハッカ水も包含される。また、ウイキョウ油、サリチル酸メチル、クロロブタノール等も好適に使用できる。この清涼化剤の配合量は、水性懸濁液を鼻腔内に噴霧した際に清涼感を付与できる量であればよく、薬効成分や多価アルコールの種類や配合量にもよるが、水性懸濁剤中、0.001〜0.5重量%の範囲が好ましい。
【0033】
本発明の水性懸濁剤においては、市販品に配合されていた、高い分散性を付与できる結晶セルロース・カルメロースナトリウムをそのまま配合すると共に、ポリソルベート80に代えて上記の多価アルコールを配合することにより、市販品と同様の分散性をそのまま維持することができる。また、噴霧してもポリソルベート80に起因する口中不快感がなく使用感が良好であり、清涼化剤を配合することにより、使用感が特に良好となる。
【0034】
本発明の水性懸濁剤は、
(a)難水溶性の薬効成分が0.01〜1.5重量%、
(b)多価アルコールが3〜25重量%、
(c)結晶セルロース・カルメロースナトリウムが0.3〜3.5重量%、および
(d)清涼化剤が0.001〜0.5重量%
それぞれ含有されていることが好ましい。
【0035】
このような水性懸濁剤は、5〜400cpsという低い粘度を有するので、噴霧しても違和感がなく、また、長期保存しても、市販品にみられたようなノズルの先の固化や噴霧異常が生じない。さらに、物理的にも安定である(特にチキソトロピー性が高い)ため、良好な分散性が損なわれることがない。なお、粘度については、10〜200cpsの範囲であることが特に好ましい。
【0036】
また、本発明の水性懸濁剤は、その懸濁粒子の粒子径分布が、10μm以下が75%以上、特に85%以上、かつ20μm以下が90%以上、特に95%以上、というように分散性が良好で、均質な懸濁剤となる。
【0037】
本発明の水性懸濁剤は、鼻腔内投与に適し、粘膜に適用可能な賦形剤をさらに配合してもよく、例えば、等張化剤、防腐剤、安定剤、緩衝剤、粘膜刺激緩和剤等の従来より公知のものが挙げられる。
【0038】
本発明では、例えば、以下の方法により、物理的により安定な水性懸濁剤を得ることができる。まず、予め、ホモミキサーを用いて、精製水にプロピレングリコールを溶解し、次いで結晶セルロース・カルメロースナトリウムを分散させ、これに、プロピレングリコール、グリセリンおよび清涼化剤の混合物を加え、最後に緩衝剤を加えて、予備分散液を調製する。それとは別に、精製水にポリエチレングリコールを溶解し、次いで薬効成分を分散させて、微細化溶液を調製する。この微細化溶液と上記の予備分散液とを混合し、防腐剤等を加え、最後に精製水で濃度調整して、本発明の水性懸濁剤を得る。
【0039】
本発明の水性懸濁剤は、鼻腔内投与用の微量定量噴霧剤だけでなく、滴剤、一般の外用液剤としても利用できる。
【0040】
【実施例】
以下に、本発明を実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
参考例(プロピオン酸ベクロメタゾン配合処方)
35℃に加温した精製水280gに結晶セルロース・カルメロースナトリウム(旭化成製:アビセルRC−591NF)7.2gを加え、加温しながらホモミキサー(7400rpm)で10分間攪拌して分散させた。これにグリセリン14gとプロピレングリコール40gを加えて5分間攪拌し、次いでポリソルベート80を0.08g加えて3分間攪拌し、さらにクエン酸0.32gクエン酸ナトリウム0.88gを加えて3分間攪拌してpHを調整して、予備分散液を調製した。
【0042】
これとは別に、精製水50gに塩化ベンザルコニウム0.04gを加え、ホモミキサー(7400rpm)で1分間攪拌して溶解し、次いでプロピオン酸ベクロメタゾン0.4gを加えて20分間攪拌して、微細化溶液を調製した。
【0043】
この微細化溶液を上記の予備分散液と混合し10分間攪拌した後、精製水を加えて全体を400gに調製し、ホモミキサー(8000rpm)で10分間攪拌して水性懸濁剤を得た。この液を50μl噴霧用ポンプ付の10ml容量のプラスチック製ボトル(PP製)に充填した。
【0044】
実施例1(プロピオン酸ベクロメタゾン配合処方)
35℃に加温した精製水280gにプロピレングリコール20gを加え、ホモミキサー(7400rpm)で1分間攪拌して溶解し、次いで結晶セルロース・カルメロースナトリウム(旭化成製:アビセルRC−591NF)6.0gを加え、40分間攪拌して分散させた。これに、グリセリン7.2g、ハッカ油0.04g、プロピレングリコール10gを予め混合したものを加え、1分間攪拌して混合し、次いでクエン酸0.30gとクエン酸ナトリウム0.88gを加えて5分間攪拌して溶解し、予備分散液を調製した(ホモミキサー使用)。
【0045】
これとは別に、精製水50gにポリエチレングリコール4000を10gを加えて1分間攪拌して溶解し、次いでプロピオン酸ベクロメタゾン0.4gを加えて20分間攪拌して、微細化溶液を調製した。
【0046】
この微細化溶液を上記の予備分散液と混合して1分間攪拌した後、塩化ベンザルコニウム0.08gを加えて1分間攪拌して溶解し、最後に精製水を加えて全体を400gに調製後、ホモミキサー(8000rpm)で40分間攪拌して、水性懸濁剤を得た。この液を参考例と同様の容器に充填した。
【0047】
<試験方法>
1.水性懸濁液の物性の測定方法
比重:20ml容量のメスシリンダーを電子天秤にのせ、試料15mlを滴下して、その重量を測定し、計算により求めた。
pH:日本薬局方に準じた。
濁度:日本薬局方吸光度測定法に準じて、500nmにおける透過率を測定した。
粘度:日本薬局方ウベローデ型粘度計を用いて水中(25℃)で測定した。なお、試料が高チキソトロピー性を有する場合には正確には測定できなかった。
沈降性:設定条件下に静置して、液上層部の澄明度と分離状態を肉眼で観察した。
粒子径:試料をスライドガラスに載せるかまたは噴霧したプレパラートを顕微鏡にセットし、40倍率で1視野中の粒子を観察した。
2.使用感
試料を10ml容量のポリプロピレン製ボトル(50μlの定量噴霧用ポンプ付き)に充填し、健常人3名が片方の鼻腔に1回噴霧して、評価した。
3.保存試験
試料を上記ボトルに充填し、室温中または40℃、75%RH中で保存した。また、0℃中と60℃中にそれぞれ1週間ずつ交互に3回繰り返し保存して、合計6週間保存した。
【0048】
参考例、実施例1で得られた水性懸濁液について、調製直後の物性、使用感、保存後の物性変化を試験し、市販品(シェリング・プラウ製 アルデシンAQネーザル ロット:E025F)と比較した。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、実施例1の試料は、ポリソルベート80の替わりに多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール)を配合し、かつハッカ油も配合しているので、試料が口中に流れても不快味がなく清涼感があった。一方、参考例の試料および市販品は、試料が口中に流れるとポリソルベート80による不快味があった。
【0051】
また、実施例1の試料と市販品は、殆どの粒子が10μm以下であり、分散性が良好であったが、参考例の試料は10μm以上の粒子が多く存在し、良好な懸濁液とはならなかった。これは、結晶セルロース・カルメロースナトリウムの破砕・混合時間が不足しているためである。
【0052】
さらに、参考例と実施例1の試料はいずれも、チキソトロピー性を有し物理的に安定であるため、長期保存しても、良好な分散性が損なわれることはなかった。しかし、市販品は、粘度が非常に高いので、噴霧後長期保存すると、ノズルの先が固化して詰まり噴霧異常が生じた。
【0053】
プロピオン酸ベクロメタゾン配合基本処方例
表2に示す配合により、実施例1に準じた方法により水性懸濁剤を得、これを透明ガラス管に入れ、実施例1と同様の試験を行なった。その結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より、結晶セルロース・カルメロースナトリウムの配合量が0.2重量%の場合は、チキソトロピー性がなく、時間が経過すると白濁沈降が認められることがわかる。緩衝剤の影響を受けずにチキソトロピー性を維持し、かつノズルの先が固化して詰まったり、噴霧異常が生じたりすることがなく実使用に適した粘度を有する水性懸濁剤を得るためには、結晶セルロース・カルメロースナトリウムの配合量は、下限が0.25重量%、上限が4.0重量%であり、0.3〜3.0重量%が好適である。
【0056】
実施例2(プロピオン酸フルチカゾン配合処方)
実施例1に準じた方法により水性懸濁剤を得、実施例1と同様の試験を行ない、市販品(グラクソ製 フルナーゼ点鼻液 ロット:CK441)と比較した。その結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3より、実施例2の試料は、ポリソルベート80の替わりに多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン)を配合し、かつl−メントールも配合しているので、試料が口中に流れても不快味がなく清涼感があった。一方、市販品は、試料が口中に流れるとポリソルベート80による不快味があり、また、フェニルエチルアルコールによる不快臭もあった。
【0059】
また、実施例2の試料と市販品はいずれも、殆どの粒子が10μm以下であり、分散性が良好であった。さらに、チキソトロピー性を有し物理的に安定であるため、長期保存しても、良好な分散性が損なわれることはなかった。
【0060】
実施例3(塩酸レボカバスチン配合処方)
実施例1に準じた方法により水性懸濁剤を得、実施例1と同様の試験を行ない、市販品(日本新薬製 リボスチン点鼻液 ロット:047ABB)と比較した。その結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4より、実施例3の試料は、ポリソルベート80の替わりに多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール)を配合し、かつd−ボルネオールも配合しているので、試料が口中に流れても不快味がなく清涼感があった。一方、市販品は、試料が口中に流れるとポリソルベート80による不快味があった。
【0063】
また、実施例3の試料と市販品は、殆どの粒子が10μm以下であったが、市販品は、使用時に振盪しないと均質な懸濁液とはならなかった。
【0064】
さらに、実施例3の試料は、チキソトロピー性を有し物理的に安定であるため、長期保存しても、良好な分散性が損なわれることはなかった。しかし、市販品は、結晶セルロース・カルメロースナトリウムが配合されていないためチキソトロピー性を有さず、また白濁沈降する液で、よく振って再分散させる必要があった。
【0065】
実施例4(フランカルボン酸モメタゾン配合処方)および実施例5(フルニソリド配合処方)
実施例1に準じた方法により水性懸濁剤を得、実施例1と同様の試験を行なった。その結果を表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
表5より、実施例4の試料はポリソルベート80の配合はなく、多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン)を配合し、かつd−リモネンも配合しているので、口中に流れても不快味がなく清涼感があった。
【0068】
また、実施例5の試料もポリソルベート80の配合はなく、多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール)を配合し、かつクロロブタノールを配合しているが、クロロブタノールの臭いと味が僅かに感じられたが、試料が口中に流れても不快味はなかった。
【0069】
また、実施例4、5の試料は、殆どの粒子が10μm以下であり、分散性が良好であった。
【0070】
さらに、実施例4、5の試料はいずれも、チキソトロピー性を有し物理的に安定であるため、長期保存しても、良好な分散性が損なわれることはなかった。
【0071】
プロピオン酸ベクロメタゾンの安定性試験
実施例1で得られた水性懸濁剤について、加速保存(40℃、75%RH)した後のプロピオン酸ベクロメタゾンの安定性を以下の方法により試験した。
【0072】
水性懸濁剤を軽く振り混ぜた後、約1.0g(プロピオン酸ベクロメタゾン約1mg相当量)を精密に秤量し、以下の内標準溶液5mlを正確に加えた後、メタノールを加えて20mlとした。これを10分間超音波抽出し、次いで10分間振り混ぜた後、メタノールを加えて全体を正確に25mlとした。その後、この液を遠心分離し、上澄液を濾過し、初めの濾液を除き、次の濾液を試料溶液とした(濃度:40μg/ml)。
【0073】
これとは別に、「プロピオン酸ベクロメタゾン標準品」を105℃で3時間乾燥し、その約0.02gを精密に秤量し、メタノールを加えて正確に100mlとした。この液の5mlを正確にとり、これに以下の内標準溶液5mlを正確に加え、メタノールを加えて全体を25mlとして、これを標準溶液とした(濃度:40μg/ml)。
【0074】
上記の試料溶液と標準溶液について、液体クロマトグラフ法による試験を行い、内標準物質のピーク面積に対するプロピオン酸ベクロメタゾンのピーク面積の比QTおよびQSを求めた。
内標準溶液:プロピオン酸テストステロンのメタノール溶液(1→5000)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
【0075】
【表6】
【0076】
表6より、プロピオン酸ベクロメタゾンは、40℃、75%で6ヶ月保存しても殆ど分解が見られず、非常に安定であることがわかる。
【0077】
プロピオン酸フルチカゾンの安定性試験
実施例2で得られた水性懸濁剤について、室温、冷蔵庫または加速保存(40℃、75%RH)した後のプロピオン酸フルチカゾンの安定性を以下の方法により試験した。
【0078】
水性懸濁剤を軽く振り混ぜた後、約1.01g(プロピオン酸フルチカゾン約0.5mg相当量)を精密に秤量し、以下の内標準溶液5mlを正確に加えた後、メタノールを加えて20mlとした。これを10分間超音波抽出し、次いで10分間振り混ぜた後、メタノールを加えて全体を正確に25mlとした。その後、この液を遠心分離し、上澄液を濾過し、初めの濾液を除き、次の濾液を試料溶液とした(濃度:20μg/ml)。
【0079】
これとは別に、「プロピオン酸フルチカゾン標準品」を乾燥し、その約0.02g精密に秤量し、メタノールを加えて正確に100mlとした。この液の2.5mlを正確にとり、これに以下の内標準溶液5mlを正確に加え、メタノールを加えて全体を25mlとして、これを標準溶液とした(濃度:20μg/ml)。
【0080】
上記の試料溶液と標準溶液について、液体クロマトグラフ法による試験を行い、内標準物質のピーク面積に対するプロピオン酸フルチカゾンのピーク面積の比QTおよびQSを求めた。
内標準溶液:吉草酸ジフルコルトロンのメタノール溶液(1→10000)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:239nm)
【0081】
【表7】
【0082】
表7より、プロピオン酸フルチカゾンは、40℃、75%で10ヶ月保存しても殆ど分解が見られず、非常に安定であることがわかる。
【0083】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明の水性懸濁剤においては、市販品に配合されていた、高い分散性を付与できる結晶セルロース・カルメロースナトリウムをそのまま配合すると共に、ポリソルベート80に代えて多価アルコールを配合することにより、長期間にわたり良好な分散性をそのまま維持することができる。また、噴霧してもポリソルベート80に起因する口中不快感がなくなって使用感が良好となり、清涼化剤を配合することにより、使用感が特に良好となる。また、本発明の水性懸濁剤は、低粘度であるので、噴霧しても違和感がない。また、長期保存しても、市販品にみられたようなノズルの先の固化や噴霧異常が生じない。さらに、物理的にも安定(特にチキソトロピー性が高い)しており、良好な分散性が損なわれることがない。従って、鼻腔内への微量定量噴霧に適した、患者のコンプライアンスの良い、安定性の高い水性懸濁剤を提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、鼻腔内への微量定量噴霧に適した水性懸濁剤に関し、より詳しくは、分散性が良好で、噴霧しても口中不快感や違和感がなく、長期保存しても、ノズルの先の固化や噴霧異常がなく、物理的にも安定で、良好な分散性が損なわれることがないような水性懸濁剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
プロピオン酸ベクロメタゾンは、強い局所グルココルチコイド作用を有し、全身作用の少ない合成副腎皮質ホルモンとして、1964年に開発され、日本では昭和47年に外皮用剤、昭和52年に吸入剤として承認された。
【0003】
プロピオン酸ベクロメタゾン吸入剤は、当初エアゾール剤の形態で汎用されていたが、その後、フロンガスの安全性が問題視されるに至り、定量噴霧式の水性懸濁剤が開発され、吸入式のアレルギー性鼻炎治療剤、血管運動性鼻炎治療剤として市販されるようになった。代表的な市販品として、アルデシンAQネーザル(シェリング・プラウ製)がある。その後、プロピオン酸フルチカゾンや塩酸レボカバスチン等が相次いで定量噴霧式の水性懸濁剤として開発されてきた。
【0004】
一般に、水性懸濁剤の調製に当たっては、固形成分が微細化され、懸濁粒子に物理的変化(凝集、結晶成長、沈降)がない、所謂、分散系が安定であるということが重要な課題である。分散系の安定性については、特に粉体のぬれ、静電斥力、粒度分布等が関与しているので、水性懸濁剤を長期間安定させるには、ある種の安定剤が必要である。
【0005】
分散系の安定性で最も注目すべき懸濁粒子の凝集を防止するには、粒子が互いに引力を及ぼし得るような距離にまで接近させないこと、また接近しても斥力ポテンシャルの障壁を充分大きくしてそれを超えないようにすること、の2つが考えられる。即ち、前者は、イオンの吸着に伴う水和層や吸着質自身による立体障害的保護作用によるものであり、後者は、電解質の添加によってイオンを吸着させ、粒子表面の電位を高める電気的保護作用によるものである。
【0006】
水性懸濁剤の分散剤として、一般に使用されているものには、無機および有機酸の塩類、界面活性剤、高分子化合物等があり、具体的には、ヘキサメタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0007】
なお、懸濁粒子の結晶成長を防止するには、粒子径をできるだけ揃えて温度変化に伴う小粒子の溶解と大粒子の成長化を抑制すること、また、懸濁粒子の沈降を防止するには、固形成分の微細化と分散系の粘度調整により、速度を遅延させること、がそれぞれ考えられる。
【0008】
現在市販されているアルデシンAQネーザルには、分散剤として、ポリソルベート80と結晶セルロース・カルメロースナトリウムが配合されている。
【0009】
ポリソルベート80は非イオン性界面活性剤であり、粉体のぬれを向上して凝集粒子を水中に均一に分散させる、所謂、湿潤分散剤として配合されている。一般に、界面活性剤は、粒子がひとつずつ独立した運動体として沈降する自由沈降現象を促進させる可能性があるので、他の分散剤との兼ね合いで界面活性剤の配合量はかなり制限される。
【0010】
結晶セルロース・カルメロースナトリウムは懸濁分散剤であり、一次粒子である微細なセルロース結晶体の表面が、カルボキシメチルセルロースナトリウムにより特殊な方法でコーティングされた網目構造を有し、その分散能力と安全性の面から医薬品分野で汎用されている。
【0011】
しかし、上記のアルデシンAQネーザルにおいては、鼻腔内に噴霧するとポリソルベート80に起因して口中に不快感があり、また、粘度が高いために、使用後長期間保存すると、ノズルの先が固化して詰まったり、噴霧異常が生じたりする、といった問題がある。
【0012】
また、難水溶性の薬効成分を含有する水性懸濁剤として、以下の先行技術がある。
【0013】
特開平9−157157号公報には、難水溶性薬物、多価アルコールおよび非イオン性界面活性剤を含有する耳、鼻、咽頭投与用組成物が開示されている。最も好ましい非イオン性界面活性剤はポリオキシエチレンソルビタンオレートであるが、ポリソルベート80はこれに該当するので、噴霧すると口中不快感がある。また、上述したように、非イオン性界面活性剤の使用は、他の分散剤との兼ね合いでその配合量が制限される。
【0014】
特開平11−130658号公報には、難水溶性薬物および結晶セルロース・カルメロースナトリウムを含有する、物理的安定性が改良された水性懸濁組成物が開示されている。しかし、この組成物では、予め、難水溶性薬物の表面を負電荷帯電性高分子で被覆する必要があり、その分の手間とコストがかかるという問題がある。
【0015】
特開平11−130659号公報には、難水溶性薬物および結晶セルロース・カルメロースナトリウムを含有する、物理的安定性が改良された水性懸濁組成物が開示されている。しかし、この組成物でも、予め、難水溶性薬物を噴霧乾燥法により球形に加工し、被覆する必要があり、その分の手間とコストがかかるという問題がある。
【0016】
特開平11−130660号公報には、難水溶性薬物、結晶セルロース・カルメロースナトリウムおよび非イオン性セルロースエステル類を含有する、鼻腔内での滞留性に優れた水性懸濁剤が開示されている。しかし、この処方の使用感についての記載がないので、実用に耐え得るか否かは定かではない。
【0017】
特開平10−259132号公報には、ロテプレドノール・エタボネートおよび結晶セルロース・カルメロースナトリウムを含有する点鼻用水性懸濁液が開示されている。しかし、この水性懸濁液は粘度が400〜3000センチポアズと非常に高く、これを噴霧すると鼻腔内に違和感がある。また、実施例の水性懸濁液には、ポリソルベート80が配合されているので、噴霧すると口中不快感がある。
【0018】
また、特開平8−151332号公報には、シクロデキストリンと、これに対する安定度指数が1000以下の難水溶性薬物を含有する点鼻用水性懸濁液、特開2002−161032号公報には、血管収縮作用を有するナファゾリン等と抗アレルギー作用を有するアンレキサノクス等を配合した水性の粘膜適用組成物、がそれぞれ開示されている。しかし、これらには、良好な懸濁分散剤である結晶セルロース・カルメロースナトリウムについては何ら開示されていない。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点を解決しようとするもので、その課題は、分散性が良好で、使用感も良好であり、長期保存しても、ノズルの先の固化や噴霧異常がなく、物理的にも安定で、良好な分散性が損なわれることがないような水性懸濁剤を提供することである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題に対し鋭意検討した結果、高い分散性を付与できる結晶セルロース・カルメロースナトリウムを配合すると共に、ポリソルベート80に代えて多価アルコールを配合し、かつ清涼化剤を配合することにより、良好な分散性が維持され、噴霧しても口中不快感や違和感がなく使用感が良好で、また、長期保存しても、ノズルの先の固化や噴霧異常がなく、物理的にも安定で、良好な分散性が損なわれることがない、従って、鼻腔内への微量定量噴霧に適した水性懸濁剤を提供できることを見出し、発明を完成するに至った。また、本発明は、プロピオン酸ベクロメタゾン以外の難水溶性の薬効成分の水性懸濁剤に対しても適用できることも見出した。さらに、本発明の水性懸濁剤は、上記の先行技術とは異なって、非イオン性界面活性剤や非イオン性セルロースエーテル類を含有するものではなく、また、難水溶性の薬効成分に対して、一切、何の前処理も施さないものである。
【0021】
即ち、本発明は、
(a)難水溶性の薬効成分、
(b)多価アルコールから選択される少なくとも1種、
(c)結晶セルロース・カルメロースナトリウム、および
(d)清涼化剤から選択される少なくとも1種
を含有する水性懸濁剤である。
【0022】
好適な態様としては、
(a)難水溶性の薬効成分が0.01〜1.5重量%、
(b)多価アルコールが3〜25重量%、
(c)結晶セルロース・カルメロースナトリウムが0.3〜3.5重量%、および
(d)清涼化剤が0.001〜0.5重量%
それぞれ含有されるものであり、そして、粘度が5〜400cpsであり、懸濁粒子の粒子径分布が、10μm以下が75%以上、かつ20μm以下が90%以上である。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の水性懸濁剤で配合される難水溶性の薬効成分としては、難水溶性の抗炎症薬や抗アレルギー薬が使用可能である。例えば、難水溶性の副腎皮質ホルモンが好適に使用でき、具体的には、プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、フランカルボン酸モメタゾン、ブデソニド、フルニソリド等が例示される。また、塩酸レボカバスチン、エバスチン、ラマトロバン、アンレキサノクス等も好適に使用できる。
【0024】
プロピオン酸フルチカゾンは、化学名を(+)−S−フルオロメチル 6α,9−ジフルオロ−11β−ヒドロキシ−16α−メチル−3−オキソ−17−プロピオニルオキシアンドロスタ−1,4−ジエン−17β−カルボチオエートといい、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎に効果があり、ヒト皮膚血管収縮作用はプロピオン酸べクロメタゾンの約1.9倍、吉草酸ベタメタゾンの約2.6倍、フルオシノロンアセトニドの約9.4倍であり、カラゲニン浮腫抑制作用やアレルギー性鼻炎抑制作用は、吉草酸ベタメタゾン、プロピオン酸べクロメタゾンよりも高く、抗アレルギー作用は、吉草酸ベタメタゾン、クロモグリク酸ナトリウムよりも高い。
【0025】
フランカルボン酸モメタゾンは、化学名を(+)−9,21−ジクロロ−11β,17α−ジヒドロキシ−16α−メチル−1,4−プレグナジエン−3,20−ジオン 17−(2−フロエート)といい、皮膚血管収縮作用は吉草酸ベタメタゾンよりも高く、抗炎症作用はジプロピオン酸べタメタゾン、吉草酸ベタメタゾンよりも高い。
【0026】
塩酸レボカバスチンは、化学名を(−)−(3S,4R)−1−[シス−4−シアノ−4−(4−フルオロフェニル)シクロヘキシル]−3−メチル−4−フェニルピペリジン−4−カルボン酸塩酸塩といい、アレルギー性鼻炎に効果があり、抗ヒスタミン作用を有する。
【0027】
この薬効成分の配合量は、薬効を有効に発揮できる量であればよく、好ましくは、水性懸濁剤中、0.01〜1.5重量%の範囲である。
【0028】
本発明の水性懸濁剤に配合される多価アルコールとしては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、ソルビトールが好ましい。ポリエチレングリコールは、分子量が300〜6000のものが好適に使用できる。これらの中でも、それ自体の味が殆どしないという点で、グリセリンおよび/またはプロピレングリコールの配合が特に好ましい。これらの多価アルコールは少なくとも1種が配合されるが、その中で、グリセリンおよび/またはプロピレングリコールを必須として、ポリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、ソルビトールと併用することが特に好ましい。この多価アルコールの配合量は、多すぎると懸濁粒子の凝集を招くおそれがあり、逆に、少なすぎると分散性が劣るおそれがあるので、薬効成分の種類や配合量、結晶セルロース・カルメロースナトリウムの配合量にもよるが、水性懸濁剤中、3〜25重量%の範囲が好ましい。
【0029】
本発明の水性懸濁剤には、結晶セルロース・カルメロースナトリウムが配合される。その機能は、水中に均一分散されたセルロース結晶体の表面に形成されている負の電気二重層に起因する電気的斥力によってもたらされ、さらにカルボキシメチルセルロースナトリウムの保護コロイド作用とあいまって、分散性がより高められている。ここで形成される網目構造が微細な固形成分をそのマトリックス中に捉え、結果として沈降作用がない安定な水性懸濁剤を調製できるものと考えられている。また、この網目構造によるチキソトロピーは可逆性で、外力によりゾル化しても静止すれば速やかに粘度を回復する。
【0030】
結晶セルロース・カルメロースナトリウムとしては、旭化成(株)より、アビセルシリーズとして販売されており、中でも、アビセルRC−591、アビセルRC−591NF、アビセルRC−A591NFが好ましい。
【0031】
この結晶セルロース・カルメロースナトリウムの配合量は、多すぎると水性懸濁剤の粘度が高くなって、噴霧すると違和感があり、また、使用後長期間放置すると、ノズルの先が固化して詰まったり、噴霧異常が生じたりする。逆に、少なすぎると水性懸濁剤のチキソトロピー性が維持できないといった物理的な安定性に劣る。従って、水性懸濁剤中、0.3〜3.5重量%の範囲が好ましい。
【0032】
本発明の水性懸濁剤に配合される清涼化剤としては、鼻腔内投与に適した清涼性を有するものであれば特に制限されないが、例えば、単環テルペン類が好適に使用でき、具体的には、リモネン(特にd−体)、メントール(特にl−体)およびその誘導体(O−エチルメントール等)、ボルネオール(特にd−体)、カンフル(特にdl−体)、ユーカリ油等が例示される。ここで、メントールには、それが含まれているハッカ油やハッカ水も包含される。また、ウイキョウ油、サリチル酸メチル、クロロブタノール等も好適に使用できる。この清涼化剤の配合量は、水性懸濁液を鼻腔内に噴霧した際に清涼感を付与できる量であればよく、薬効成分や多価アルコールの種類や配合量にもよるが、水性懸濁剤中、0.001〜0.5重量%の範囲が好ましい。
【0033】
本発明の水性懸濁剤においては、市販品に配合されていた、高い分散性を付与できる結晶セルロース・カルメロースナトリウムをそのまま配合すると共に、ポリソルベート80に代えて上記の多価アルコールを配合することにより、市販品と同様の分散性をそのまま維持することができる。また、噴霧してもポリソルベート80に起因する口中不快感がなく使用感が良好であり、清涼化剤を配合することにより、使用感が特に良好となる。
【0034】
本発明の水性懸濁剤は、
(a)難水溶性の薬効成分が0.01〜1.5重量%、
(b)多価アルコールが3〜25重量%、
(c)結晶セルロース・カルメロースナトリウムが0.3〜3.5重量%、および
(d)清涼化剤が0.001〜0.5重量%
それぞれ含有されていることが好ましい。
【0035】
このような水性懸濁剤は、5〜400cpsという低い粘度を有するので、噴霧しても違和感がなく、また、長期保存しても、市販品にみられたようなノズルの先の固化や噴霧異常が生じない。さらに、物理的にも安定である(特にチキソトロピー性が高い)ため、良好な分散性が損なわれることがない。なお、粘度については、10〜200cpsの範囲であることが特に好ましい。
【0036】
また、本発明の水性懸濁剤は、その懸濁粒子の粒子径分布が、10μm以下が75%以上、特に85%以上、かつ20μm以下が90%以上、特に95%以上、というように分散性が良好で、均質な懸濁剤となる。
【0037】
本発明の水性懸濁剤は、鼻腔内投与に適し、粘膜に適用可能な賦形剤をさらに配合してもよく、例えば、等張化剤、防腐剤、安定剤、緩衝剤、粘膜刺激緩和剤等の従来より公知のものが挙げられる。
【0038】
本発明では、例えば、以下の方法により、物理的により安定な水性懸濁剤を得ることができる。まず、予め、ホモミキサーを用いて、精製水にプロピレングリコールを溶解し、次いで結晶セルロース・カルメロースナトリウムを分散させ、これに、プロピレングリコール、グリセリンおよび清涼化剤の混合物を加え、最後に緩衝剤を加えて、予備分散液を調製する。それとは別に、精製水にポリエチレングリコールを溶解し、次いで薬効成分を分散させて、微細化溶液を調製する。この微細化溶液と上記の予備分散液とを混合し、防腐剤等を加え、最後に精製水で濃度調整して、本発明の水性懸濁剤を得る。
【0039】
本発明の水性懸濁剤は、鼻腔内投与用の微量定量噴霧剤だけでなく、滴剤、一般の外用液剤としても利用できる。
【0040】
【実施例】
以下に、本発明を実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
参考例(プロピオン酸ベクロメタゾン配合処方)
35℃に加温した精製水280gに結晶セルロース・カルメロースナトリウム(旭化成製:アビセルRC−591NF)7.2gを加え、加温しながらホモミキサー(7400rpm)で10分間攪拌して分散させた。これにグリセリン14gとプロピレングリコール40gを加えて5分間攪拌し、次いでポリソルベート80を0.08g加えて3分間攪拌し、さらにクエン酸0.32gクエン酸ナトリウム0.88gを加えて3分間攪拌してpHを調整して、予備分散液を調製した。
【0042】
これとは別に、精製水50gに塩化ベンザルコニウム0.04gを加え、ホモミキサー(7400rpm)で1分間攪拌して溶解し、次いでプロピオン酸ベクロメタゾン0.4gを加えて20分間攪拌して、微細化溶液を調製した。
【0043】
この微細化溶液を上記の予備分散液と混合し10分間攪拌した後、精製水を加えて全体を400gに調製し、ホモミキサー(8000rpm)で10分間攪拌して水性懸濁剤を得た。この液を50μl噴霧用ポンプ付の10ml容量のプラスチック製ボトル(PP製)に充填した。
【0044】
実施例1(プロピオン酸ベクロメタゾン配合処方)
35℃に加温した精製水280gにプロピレングリコール20gを加え、ホモミキサー(7400rpm)で1分間攪拌して溶解し、次いで結晶セルロース・カルメロースナトリウム(旭化成製:アビセルRC−591NF)6.0gを加え、40分間攪拌して分散させた。これに、グリセリン7.2g、ハッカ油0.04g、プロピレングリコール10gを予め混合したものを加え、1分間攪拌して混合し、次いでクエン酸0.30gとクエン酸ナトリウム0.88gを加えて5分間攪拌して溶解し、予備分散液を調製した(ホモミキサー使用)。
【0045】
これとは別に、精製水50gにポリエチレングリコール4000を10gを加えて1分間攪拌して溶解し、次いでプロピオン酸ベクロメタゾン0.4gを加えて20分間攪拌して、微細化溶液を調製した。
【0046】
この微細化溶液を上記の予備分散液と混合して1分間攪拌した後、塩化ベンザルコニウム0.08gを加えて1分間攪拌して溶解し、最後に精製水を加えて全体を400gに調製後、ホモミキサー(8000rpm)で40分間攪拌して、水性懸濁剤を得た。この液を参考例と同様の容器に充填した。
【0047】
<試験方法>
1.水性懸濁液の物性の測定方法
比重:20ml容量のメスシリンダーを電子天秤にのせ、試料15mlを滴下して、その重量を測定し、計算により求めた。
pH:日本薬局方に準じた。
濁度:日本薬局方吸光度測定法に準じて、500nmにおける透過率を測定した。
粘度:日本薬局方ウベローデ型粘度計を用いて水中(25℃)で測定した。なお、試料が高チキソトロピー性を有する場合には正確には測定できなかった。
沈降性:設定条件下に静置して、液上層部の澄明度と分離状態を肉眼で観察した。
粒子径:試料をスライドガラスに載せるかまたは噴霧したプレパラートを顕微鏡にセットし、40倍率で1視野中の粒子を観察した。
2.使用感
試料を10ml容量のポリプロピレン製ボトル(50μlの定量噴霧用ポンプ付き)に充填し、健常人3名が片方の鼻腔に1回噴霧して、評価した。
3.保存試験
試料を上記ボトルに充填し、室温中または40℃、75%RH中で保存した。また、0℃中と60℃中にそれぞれ1週間ずつ交互に3回繰り返し保存して、合計6週間保存した。
【0048】
参考例、実施例1で得られた水性懸濁液について、調製直後の物性、使用感、保存後の物性変化を試験し、市販品(シェリング・プラウ製 アルデシンAQネーザル ロット:E025F)と比較した。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、実施例1の試料は、ポリソルベート80の替わりに多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール)を配合し、かつハッカ油も配合しているので、試料が口中に流れても不快味がなく清涼感があった。一方、参考例の試料および市販品は、試料が口中に流れるとポリソルベート80による不快味があった。
【0051】
また、実施例1の試料と市販品は、殆どの粒子が10μm以下であり、分散性が良好であったが、参考例の試料は10μm以上の粒子が多く存在し、良好な懸濁液とはならなかった。これは、結晶セルロース・カルメロースナトリウムの破砕・混合時間が不足しているためである。
【0052】
さらに、参考例と実施例1の試料はいずれも、チキソトロピー性を有し物理的に安定であるため、長期保存しても、良好な分散性が損なわれることはなかった。しかし、市販品は、粘度が非常に高いので、噴霧後長期保存すると、ノズルの先が固化して詰まり噴霧異常が生じた。
【0053】
プロピオン酸ベクロメタゾン配合基本処方例
表2に示す配合により、実施例1に準じた方法により水性懸濁剤を得、これを透明ガラス管に入れ、実施例1と同様の試験を行なった。その結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より、結晶セルロース・カルメロースナトリウムの配合量が0.2重量%の場合は、チキソトロピー性がなく、時間が経過すると白濁沈降が認められることがわかる。緩衝剤の影響を受けずにチキソトロピー性を維持し、かつノズルの先が固化して詰まったり、噴霧異常が生じたりすることがなく実使用に適した粘度を有する水性懸濁剤を得るためには、結晶セルロース・カルメロースナトリウムの配合量は、下限が0.25重量%、上限が4.0重量%であり、0.3〜3.0重量%が好適である。
【0056】
実施例2(プロピオン酸フルチカゾン配合処方)
実施例1に準じた方法により水性懸濁剤を得、実施例1と同様の試験を行ない、市販品(グラクソ製 フルナーゼ点鼻液 ロット:CK441)と比較した。その結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3より、実施例2の試料は、ポリソルベート80の替わりに多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン)を配合し、かつl−メントールも配合しているので、試料が口中に流れても不快味がなく清涼感があった。一方、市販品は、試料が口中に流れるとポリソルベート80による不快味があり、また、フェニルエチルアルコールによる不快臭もあった。
【0059】
また、実施例2の試料と市販品はいずれも、殆どの粒子が10μm以下であり、分散性が良好であった。さらに、チキソトロピー性を有し物理的に安定であるため、長期保存しても、良好な分散性が損なわれることはなかった。
【0060】
実施例3(塩酸レボカバスチン配合処方)
実施例1に準じた方法により水性懸濁剤を得、実施例1と同様の試験を行ない、市販品(日本新薬製 リボスチン点鼻液 ロット:047ABB)と比較した。その結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4より、実施例3の試料は、ポリソルベート80の替わりに多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール)を配合し、かつd−ボルネオールも配合しているので、試料が口中に流れても不快味がなく清涼感があった。一方、市販品は、試料が口中に流れるとポリソルベート80による不快味があった。
【0063】
また、実施例3の試料と市販品は、殆どの粒子が10μm以下であったが、市販品は、使用時に振盪しないと均質な懸濁液とはならなかった。
【0064】
さらに、実施例3の試料は、チキソトロピー性を有し物理的に安定であるため、長期保存しても、良好な分散性が損なわれることはなかった。しかし、市販品は、結晶セルロース・カルメロースナトリウムが配合されていないためチキソトロピー性を有さず、また白濁沈降する液で、よく振って再分散させる必要があった。
【0065】
実施例4(フランカルボン酸モメタゾン配合処方)および実施例5(フルニソリド配合処方)
実施例1に準じた方法により水性懸濁剤を得、実施例1と同様の試験を行なった。その結果を表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
表5より、実施例4の試料はポリソルベート80の配合はなく、多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン)を配合し、かつd−リモネンも配合しているので、口中に流れても不快味がなく清涼感があった。
【0068】
また、実施例5の試料もポリソルベート80の配合はなく、多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール)を配合し、かつクロロブタノールを配合しているが、クロロブタノールの臭いと味が僅かに感じられたが、試料が口中に流れても不快味はなかった。
【0069】
また、実施例4、5の試料は、殆どの粒子が10μm以下であり、分散性が良好であった。
【0070】
さらに、実施例4、5の試料はいずれも、チキソトロピー性を有し物理的に安定であるため、長期保存しても、良好な分散性が損なわれることはなかった。
【0071】
プロピオン酸ベクロメタゾンの安定性試験
実施例1で得られた水性懸濁剤について、加速保存(40℃、75%RH)した後のプロピオン酸ベクロメタゾンの安定性を以下の方法により試験した。
【0072】
水性懸濁剤を軽く振り混ぜた後、約1.0g(プロピオン酸ベクロメタゾン約1mg相当量)を精密に秤量し、以下の内標準溶液5mlを正確に加えた後、メタノールを加えて20mlとした。これを10分間超音波抽出し、次いで10分間振り混ぜた後、メタノールを加えて全体を正確に25mlとした。その後、この液を遠心分離し、上澄液を濾過し、初めの濾液を除き、次の濾液を試料溶液とした(濃度:40μg/ml)。
【0073】
これとは別に、「プロピオン酸ベクロメタゾン標準品」を105℃で3時間乾燥し、その約0.02gを精密に秤量し、メタノールを加えて正確に100mlとした。この液の5mlを正確にとり、これに以下の内標準溶液5mlを正確に加え、メタノールを加えて全体を25mlとして、これを標準溶液とした(濃度:40μg/ml)。
【0074】
上記の試料溶液と標準溶液について、液体クロマトグラフ法による試験を行い、内標準物質のピーク面積に対するプロピオン酸ベクロメタゾンのピーク面積の比QTおよびQSを求めた。
内標準溶液:プロピオン酸テストステロンのメタノール溶液(1→5000)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
【0075】
【表6】
【0076】
表6より、プロピオン酸ベクロメタゾンは、40℃、75%で6ヶ月保存しても殆ど分解が見られず、非常に安定であることがわかる。
【0077】
プロピオン酸フルチカゾンの安定性試験
実施例2で得られた水性懸濁剤について、室温、冷蔵庫または加速保存(40℃、75%RH)した後のプロピオン酸フルチカゾンの安定性を以下の方法により試験した。
【0078】
水性懸濁剤を軽く振り混ぜた後、約1.01g(プロピオン酸フルチカゾン約0.5mg相当量)を精密に秤量し、以下の内標準溶液5mlを正確に加えた後、メタノールを加えて20mlとした。これを10分間超音波抽出し、次いで10分間振り混ぜた後、メタノールを加えて全体を正確に25mlとした。その後、この液を遠心分離し、上澄液を濾過し、初めの濾液を除き、次の濾液を試料溶液とした(濃度:20μg/ml)。
【0079】
これとは別に、「プロピオン酸フルチカゾン標準品」を乾燥し、その約0.02g精密に秤量し、メタノールを加えて正確に100mlとした。この液の2.5mlを正確にとり、これに以下の内標準溶液5mlを正確に加え、メタノールを加えて全体を25mlとして、これを標準溶液とした(濃度:20μg/ml)。
【0080】
上記の試料溶液と標準溶液について、液体クロマトグラフ法による試験を行い、内標準物質のピーク面積に対するプロピオン酸フルチカゾンのピーク面積の比QTおよびQSを求めた。
内標準溶液:吉草酸ジフルコルトロンのメタノール溶液(1→10000)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:239nm)
【0081】
【表7】
【0082】
表7より、プロピオン酸フルチカゾンは、40℃、75%で10ヶ月保存しても殆ど分解が見られず、非常に安定であることがわかる。
【0083】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明の水性懸濁剤においては、市販品に配合されていた、高い分散性を付与できる結晶セルロース・カルメロースナトリウムをそのまま配合すると共に、ポリソルベート80に代えて多価アルコールを配合することにより、長期間にわたり良好な分散性をそのまま維持することができる。また、噴霧してもポリソルベート80に起因する口中不快感がなくなって使用感が良好となり、清涼化剤を配合することにより、使用感が特に良好となる。また、本発明の水性懸濁剤は、低粘度であるので、噴霧しても違和感がない。また、長期保存しても、市販品にみられたようなノズルの先の固化や噴霧異常が生じない。さらに、物理的にも安定(特にチキソトロピー性が高い)しており、良好な分散性が損なわれることがない。従って、鼻腔内への微量定量噴霧に適した、患者のコンプライアンスの良い、安定性の高い水性懸濁剤を提供することができる。
Claims (7)
- (a)難水溶性の薬効成分、
(b)多価アルコールから選択される少なくとも1種、
(c)結晶セルロース・カルメロースナトリウム、および
(d)清涼化剤から選択される少なくとも1種
を含有することを特徴とする、水性懸濁剤。 - 難水溶性の薬効成分が、プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、フランカルボン酸モメタゾン、ブデソニド、フルニソリド、塩酸レボカバスチン、エバスチン、ラマトロバンおよびアンレキサノクスから選択される、請求項1記載の水性懸濁剤。
- 多価アルコールが、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオールおよびソルビトールから選択され、かつ少なくとも1種がグリセリンおよび/またはプロピレングリコールである、請求項1記載の水性懸濁剤。
- 清涼化剤が、リモネン、メントールおよびその誘導体、ボルネオール、カンフル、ユーカリ油、ウイキョウ油、サリチル酸メチルおよびクロロブタノールから選択される、請求項1記載の水性懸濁剤。
- (a)難水溶性の薬効成分が0.01〜1.5重量%、
(b)多価アルコールが3〜25重量%、
(c)結晶セルロース・カルメロースナトリウムが0.3〜3.5重量%、および
(d)清涼化剤が0.001〜0.5重量%
それぞれ含有される、請求項1記載の水性懸濁剤。 - 粘度が5〜400cpsの範囲である、請求項1記載の水性懸濁剤。
- 水性懸濁液中の懸濁粒子の粒子径分布が、10μm以下が75%以上、かつ20μm以下が90%以上である、請求項1記載の水性懸濁剤。
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2002
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