JP2004065244A - ヨーネ菌検出用プライマーおよびこれを用いたヨーネ病の診断法 - Google Patents
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Abstract
【目的】ヨーネ菌挿入配列IS900上の特異的塩基配列の効率的増幅、およびこれを利用したヨーネ病の簡便な遺伝子診断法の提供。
【解決手段】ヨーネ菌の挿入配列IS900(配列番号1)またはその相補鎖上から選択される標的領域の塩基配列を増幅し、
(1)第1領域として、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列にアニールしてプライマーとして機能する塩基配列、および
(2)第2領域として、第1領域の3’側の塩基配列に相補的配列からなり、第1領域の5’側に位置する塩基配列を含むことを特徴とする、新規プライマー。
ならびに、前記プライマーによるLAMP法を利用したヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列の増幅。
【選択図】 なし
【解決手段】ヨーネ菌の挿入配列IS900(配列番号1)またはその相補鎖上から選択される標的領域の塩基配列を増幅し、
(1)第1領域として、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列にアニールしてプライマーとして機能する塩基配列、および
(2)第2領域として、第1領域の3’側の塩基配列に相補的配列からなり、第1領域の5’側に位置する塩基配列を含むことを特徴とする、新規プライマー。
ならびに、前記プライマーによるLAMP法を利用したヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列の増幅。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列に基づいて設計された新規プライマーと該プライマーを用いたヨーネ病の遺伝子診断法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヨーネ病は、ヨーネ菌(Mycobacterium avium subs. Paratuberculosis)によって牛やめん羊などの反芻動物が経口感染し、慢性腸炎と体重の著しい減少を主症状とする伝染病で、昭和46年に法定伝染病に指定されている。また、ヨーネ病は病気の経過が極めて長く、感染から発病までに、1〜数年、時には10年もの潜伏期間がある。しかも、この無症状感染している牛は大量の菌を糞便中に排泄するため、多数の同居牛に病気を伝染させる。現在、本病の予防・治療が難しいことから、伝播を防ぐ最も効果的な防疫手段は、罹患牛を早く見つけて、排除することであり、家畜伝染病予防法のもとで殺処分という強制的な措置がとられている。このように、ヨーネ病は、発生頭数が多いため、酪農や肉牛経営にとっては最も被害の大きい重要疾病の一つであり、病畜による生産性低下や殺処分による直接的損害だけでなく、清浄化のための長期間にわたる定期診断や病畜の移動制限により、大きな経済的負担となっている。したがって、ヨーネ病を早期に診断して、清浄化することは重要である。
【0003】
ヨーネ病の診断には、血清を用いたELISA法、抗原を皮内に接種するヨーニン反応、および家畜の糞便からヨーネ菌を検出する方法がある。この糞便を用いたヨーネ病の診断には、1)細菌学的診断として、糞便培養法、2)遺伝子診断法として、PCR法がある。
【0004】
1)糞便培養法:
糞便培養法は、マイコバクチン添加ハロルド(Herrold)培地を用いて希釈した糞便を培養する方法であり、ヨーネ病検査として最も信頼性のある生前診断法である。しかし、判定に1〜3ヶ月の長い時間を要する
【0005】
2)PCR法:
培養を必要としない迅速診断法としてPCR法がある。希釈した糞便からDNAを抽出し、そのDNAを鋳型にしてPCRを行って、増幅産物(PCR産物)をアガロース電気泳動にかけて、ヨーネ菌を検出している。
【0006】
PCR法は、標的配列の両端の一方のセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドと、両端の他方のアンチセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドよりなる2種類のプライマーを用いた核酸増幅法である。PCR法では、まず、相補的な2本鎖核酸を熱処理により1本鎖核酸に変性させる。次に、各々の1本鎖核酸に3’側からプライマーを相補的に結合(アニール)させ、引き続き、鋳型依存性核酸合成酵素により結合したプライマーからDNA伸長させる。ここまでの工程で、元の鋳型から増幅したい領域は2倍に増幅することになる。これを1サイクルとすると、PCR法は、このサイクルを繰り返し行うことによって、標的配列を指数関数的に増幅することができる。ただし、PCR法は各段階で反応温度が異なるため、反応の段階に応じて温度を制御する必要がある。
【0007】
PCR法を用いたヨーネ菌の検出は、ヨーネ菌に特異的な塩基配列を増幅できる1組のプライマーを用い、希釈した糞便から得られたDNA試料を鋳型としてPCRを行うものである。上記特異的配列を有するヨーネ菌があるDNA試料では鋳型DNAが増幅されて検出が可能となるが、ヨーネ菌がない場合は増幅されず検出されない。しかし、プライマーの塩基配列によっては、目的以外の塩基配列にわずかでもアニーリングした場合、標的配列以外の塩基配列が増幅してしまう。したがって、プライマーの選定は特に重要となる。現在、ヨーネ菌検出用プライマーとしては、マクファデンらの米国特許(特許文献1)に記載されたヨーネ菌の挿入配列IS900検出用のプライマーが知られている。
【0008】
また、希釈した糞便からから抽出できるDNA試料は非常に微量であるため、例えば、ヨーネ菌挿入配列IS900検出用の1組のプライマーを用いてPCRを行い、この増幅したPCR産物を鋳型として、他の1組のプライマーを用いて再びPCRを行うnested PCRが行われている。
【0009】
本発明者らは、コリンズらのヨーネ菌検出用のnested PCR用のプライマーセット(例えば、非特許文献1参照)を改変して、新たなIS900のnestedPCR用のプライマーを開発している。
【0010】
一方、本発明者らは遺伝子増幅法として、ループ媒介等温増幅法(Loop−mediated isothermal AMPlification:LAMP法)を完成している(例えば、特許文献2および非特許文献2参照)。LAMP法は鋳型となるヌクレオチドに自身の3’末端をアニールさせて相補鎖合成の起点とするとともに、このとき形成されるループにアニールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能とした。またLAMP法では、プライマーの3’末端が常に試料に由来する領域に対してアニールするために、塩基配列の相補的結合によるチェック機構が繰り返し機能する。その結果、特異性の高い遺伝子増幅反応が可能となった。
【特許文献1】
米国特許明細書 5,225,324号
【特許文献2】
国際公開00/28082号パンフレット
【非特許文献1】
「ベタリナリー ミクロバイオロジー(Veterinary Microbiology)」, 1993, Vol.36, p289−299
【非特許文献2】
「ヌクレイック アシッド リサーチ(Nucleic Acid Res.)」, 2000,Vol.28, No.12, e63
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、本発明は、ヨーネ菌挿入配列IS900上の特異的塩基配列を検出するための新規プライマーと、該プライマーを用いたLAMP法によるヨーネ病の簡便な遺伝子診断を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題を解決するため鋭意研究を行なった結果、ヨーネ菌の挿入配列IS900に特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを作製し、このオリゴヌクレオチドをプライマーとしてLAMP法によりヨーネ菌の挿入配列IS900に特異的な塩基配列を増幅する事により、ヨーネ病を診断できる事を見出し本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、ヨーネ菌検出のための核酸増幅法に用いる、ヨーネ菌検出用プライマーであって、ヨーネ菌の挿入配列IS900(配列番号1)またはその相補鎖上から選択される標的領域の塩基配列を増幅し、
(1)第1領域として、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列にアニールしてプライマーとして機能する塩基配列、および
(2)第2領域として、第1領域の3’側の塩基配列に相補的であり、第1領域の5’側に位置する塩基配列
を含むことを特徴とする、新規プライマーを提供する。
【0014】
また本発明は、配列番号2〜13および配列番号20〜29に示される塩基配列、あるいはこれらに相補的な塩基配列から選ばれるいずれか1の塩基配列上の、少なくとも連続する15塩基を含む、前記プライマー。
【0015】
また本発明は、ヨーネ菌の挿入配列IS900に特異的なヨーネ病診断の塩基配列を増幅できる、以下の1)〜6)から選ばれるいずれか1のオリゴヌクレオチドを含む、前記プライマーを提供する。
1)配列番号2の塩基配列に相補的な配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
2)配列番号5の塩基配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号6の塩基配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド
3)配列番号8の塩基配列に相補的な配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号9の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
4)配列番号11の塩基配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号12の塩基配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド
5)配列番号20の塩基配列に相補的な配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号21の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
6)配列番号23の塩基配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号24の塩基配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド
【0016】
さらに本発明は、核酸増幅法がLAMP法である前記プライマー、および該プライマーを用いたLAMP法によるヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列の増幅法を提供する。
さらにまた、本発明は前記増幅法を利用して、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列を検出することを特徴とするヨーネ病の遺伝子診断法を提供する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
【発明の実施の形態】
核酸増幅法によるヨーネ病の遺伝子診断用の試料としては、糞便を希釈した溶液(糞便希釈溶液)、もしくは数日から数週間の短期間の糞便培養を行った培地表面を掻き取って希釈した液(短期培養希釈液)を使用する。LAMP法の試料としては、この糞便希釈溶液または短期培養希釈液から、熱、アルカリ等で適宜選択された処理法により抽出された核酸が使用される。
【0018】
本発明において標的配列とは、増幅すべきポリヌクレオチドの塩基配列を意味する。一般にポリヌクレオチドの塩基配列は、5’側から3’側に向けてセンス鎖の塩基配列を記載する。本発明において、連続的に新たな標的塩基配列が合成される事を増幅と呼ぶ。更に本発明において、相補鎖合成の起点を与えることとは、鋳型となるポリヌクレオチドに対して、相補鎖合成に必要なプライマーとして機能するポリヌクレオチドの3’末端をハイブリダイズさせることを言う。また本発明において、3’末端、あるいは5’末端とは、単にいずれかの末端の1塩基のみならず、末端の1塩基を含み、かつ末端に位置する領域を意味する。本発明において、プライマーセットとは同時に用いられるプライマーの組み合せをいう。
【0019】
PCR法は、標的配列の両端の一方のセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドと、両端の他方のアンチセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドよりなる2種類のプライマーを用いた核酸増幅法である。まず、相補的な二本鎖核酸を熱処理により一本鎖核酸に変性させる。次に、各々の一本鎖核酸に3’側からプライマーを相補的に結合(アニ−ル)させ、引き続き、鋳型依存性核酸合成酵素により結合したプライマーからDNA伸長させる。ここまでの工程で元の鋳型から増幅したい領域は2倍に増幅したことになる。ここまでを1サイクルとすると、PCR法は、このサイクルを繰り返し行なうことによって、標的配列を指数関数的に増幅することができる。ただし、PCR法は各段階で反応温度が異なるため、反応の段階に応じて変更する必要がある。
【0020】
これに対してLAMP法は、プライマーとして少なくとも4種類のオリゴヌクレオチドを用いる核酸増幅法で、このうち2種類をインナープライマー(Inner Primer)、残りの2種類をアウタープライマー(Outer Primer)と呼ぶ。LAMP法は、これら4種類のプライマー、鎖置換合成活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素、および基質を用いて、熱変性を必要とせずに、終始等温で速やかに特異性の高い遺伝子増幅反応が進行することを特徴とする。
【0021】
前記プライマー設計のために、標的塩基配列の3’末端から当該ポリヌクレオチド鎖の3’末端方向に向かって順に、第1の任意配列F1c、第2の任意配列F2c、第3の任意配列F3cをそれぞれ選択し、標的領域の5’末端から当該ヌクレオチド鎖の5’末端方向に向かって順に、第4の任意配列R1、第5の任意配列R2、第6の任意配列R3それぞれ選択する。F1c、F2c、F3cの相補配列をそれぞれF1、F2、F3、またR1、R2、R3の相補鎖をR1c、R2c、R3cと呼ぶ。
【0022】
インナープライマー(Inner Primer)とは、標的遺伝子上の「ある特定のヌクレオチド配列領域」を認識し、かつ合成起点を与える塩基配列を3’末端に有し、同時にこのプライマーを起点とする核酸合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を5’末端に有することを特徴としたオリゴヌクレオチドである。ここで、F2より選ばれた塩基配列、およびF1より選ばれた塩基配列と相補的な塩基配列を含むプライマーをインナープライマーF、R2より選ばれた塩基配列およびR1より選ばれた塩基配列と相補的な塩基配列を含むからなるプライマーをインナープライマーRと呼ぶ。
【0023】
アウタープライマー(Outer Primer)とは、標的塩基配列上の『「ある特定のヌクレオチド配列領域」の下流に存在するある特定のヌクレオチド配列領域』を認識かつ合成起点を与える塩基配列を有することを特徴としたオリゴヌクレオチドである。F3より選ばれた塩基配列を含むプライマーをアウタープライマーF、R3より選ばれた塩基配列を含むプライマーをアウタープライマーRと呼ぶ。インナープライマーおよびアウタープライマーにおいて、Fは、標的遺伝子のセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマーの表示であり、Rは、標的遺伝子のアンチセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマーの表示である。
【0024】
標的遺伝子に選択的にアニールしたインナープライマーからの核酸合成反応が進行すると同時に、アウタープライマーを起点とするその下流からの核酸合成反応によって鎖置換反応が起こる。そのためにインナープライマーを起点とする伸長鎖が鋳型である標的遺伝子から分離し、自身の5’末端でループ構造を形成する。インナープライマーの3’末端を起点とした伸長鎖に、もうひとつのインナープライマーが選択的にアニールし、合成起点となり核酸合成が進行する。同時にもうひとつのアウタープライマーを起点とする核酸合成反応によって鎖置換反応が起こる。その結果、自己を鋳型としながら合成起点となる3’末端を有し、両端にそれぞれループ構造を有することを特徴とする「ダンベル型」ヌクレオチドが形成される。
【0025】
上述の「ダンベル型」ヌクレオチドのループの塩基配列は、3’末端側のループの一本鎖部分にインナープライマーが相補的にアニールして合成起点を与えるので、ループ構造を有する中間産物は連続的にインナープライマーの鋳型として機能し、核酸合成が進行する。特に、ループ構造を複数有する中間産物は、複数の核酸合成反応が同時多発的に進行する鋳型となりながら、鎖置換反応によってまた新たなループ構造を有する中間産物を生成させる。このように、LAMP法では、等温条件下で連続的かつ大量に標的遺伝子の特定のヌクレオチド配列を増幅することが可能になる。
【0026】
LAMP法においては、インナープライマーとアウタープライマーに加え、さらにこれらとは別のプライマー、すなわち、ループプライマーを用いることができる。ループプライマー(Loop Primer)は、ダンベル構造の5’末端側のループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的な塩基配列を持つプライマーである。このプライマーを用いると、核酸合成の起点が増加し、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能になる(PCT/JP01/08142)。ループプライマーの塩基配列は上述のダンベル構造の5’末端側のループの1本鎖部分の塩基配列に相補的であれば、標的遺伝子の塩基配列あるいはその相補鎖から選ばれてもよく、他の塩基配列でもよい。また、ループプライマーは1種類でも2種類でも良い。
【0027】
本発明において、インナープライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの長さは、30塩基以上、好ましくは35塩基以上で、化学合成あるいは天然の核酸のどちらでもよい。F側のインナープライマーは、その塩基配列として標的遺伝子配列のある配列よりなるオリゴヌクレオチドを3’側に、そしてそれより下流の別の塩基配列の相補鎖よりなるオリゴヌクレオチドを5’側に持ち、その間には0から50塩基よりなる任意のオリゴヌクレオチドを持っても良い。R側のインナープライマーの塩基配列は、F側のインナープライマーより下流の、標的遺伝子配列のある配列の相補鎖よりなるオリゴヌクレオチドを3’側に、そしてそれより上流の別の塩基配列を5’側に持ち、その間には0から50塩基よりなる任意の塩基配列を持ってもよい。また、プライマーは検出可能なように標識されていてもよい。アウタープライマーならびにループプライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの長さは、10塩基以上、好ましくは15塩基以上で、化学合成あるいは天然のどちらでも良い。
また、LAMP法で使用する各プライマーは単一のオリゴヌクレオチドであっても、複数のオリゴヌクレオチドの混合物であっても良い。
【0028】
したがって、本発明にかかる、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列を増幅するためのインナープライマーは、
(1)第1の任意配列(第1領域)として、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列にアニールしてプライマーとして機能する塩基配列、および
(2)第2の任意配列(第2領域)として、第1領域の3’側の塩基配列に相補的であり、第1領域の5’側に位置する塩基配列、を有するものとして設計される。
【0029】
前記第1の任意配列またはその相補配列としては、例えば、配列番号3、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号21および配列番号24に示される塩基配列を挙げることができる。また、第2の任意配列またはその相補配列としては、例えば、配列番号2、配列番号5、配列番号8、配列番号11、配列番号20および配列番号23を挙げることができる。
さらに、アウタープライマーのための第3の任意配列またはその相補配列として、例えば、配列番号4、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号22および配列番号25を挙げることができる。
さらにまた、ループプライマーのための任意配列およびその相補配列として、例えば、配列番号26〜29を挙げることができる。
【0030】
こうして設計される、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列を迅速に増幅できるLAMP法用プライマーセットの好適な例として、以下のA、B、Cの3組を挙げることができる。
【0031】
【0032】
これらのプライマーは、その塩基配列を設定されれば、市販のDNA合成機あるいはDNA合成を専門に取り扱う機関に委託することによって、慣用の方法で容易に合成することができる。
【0033】
本発明に使用するプライマーは、マクファデンらが考案したヨーネ菌の挿入配列IS900検出用のDNAプローブおよびプライマー(米国特許5225324号)と一部重複している。しかし、本発明にかかるプライマーは、第1領域と第2領域からなる特異な構造を有するLAMP法用プライマーであるという点で、マクファデンらのDNAプローブやプライマーとは、構造も目的も異なっている。
【0034】
本発明の増幅法において、鋳型依存性核酸合成反応で使用する酵素は、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素であれば特に限定されない。このような酵素としては、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo−)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNA ポリメラーゼIのクレノウフラグメント、Vent(Exo−)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、DeepVent(Exo−)DNAポリメラーゼ(DeepVent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)およびKOD DNAポリメラーゼ等が挙げられ、好ましくはBst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)が挙げられる。Bst DNAポリメラーゼを用いる場合は、その反応至適温度である65℃付近で反応を行うのが望ましい。
【0035】
増幅産物の検出には公知の技術が適用できる。例えば増幅された遺伝子配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドを用いたり、あるいは、反応終了後の反応液をそのままアガロース電気泳動にかけても容易に検出できる。LAMP法では塩基長の異なる多数のバンドがラダー(はしご)状に検出される。
【0036】
さらに、LAMP法による遺伝子増幅は加速度的かつ効率的に行なわれるので、反応液中にあらかじめ二本鎖核酸の分子内に特異的に取り込まれるインターカレーターであるエチジウムブロマイドやSYBR Green(Molecular Probes 社製)等を添加することにより増幅を確認できる(特開2001−242169)。また、経時的に蛍光強度を観察することができるABI Prism 7700(Applied Biosystems社製)等の連続蛍光光度計で、増幅の有無の確認や速度論的解析をすることも可能である。
【0037】
その他、LAMP法では核酸の合成により基質が大量に消費され、副産物であるピロリン酸が、共存するマグネシウムと反応してピロリン酸マグネシウムとなり、肉眼でも確認できる程に白濁する。この白濁を反応終了後の観察、もしくは反応中の濁度の上昇を経時的に光学的に観察できる測定機器、例えば400mmの吸光度の変化を通常の分光光度計を用いて増幅の確認が可能である(WO01/83817)。
【0038】
また、増幅された遺伝子配列を特異的に認識する担体固相オリゴヌクレオチドによるハイブリダイゼーションまたはそれを起点とした伸長反応により、増幅の確認が可能である(特開2002−201269)。
【0039】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
1.プライマーの合成
プライマーは、IS900の塩基配列(配列番号1)に基づいてその塩基配列を設定し、DNA合成を専門に取り扱う機関に委託して、当該機関所有のDNA合成機で、ホスホアミダイド法により化学合成した。合成したプライマーは、逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーでさらに精製した。
こうして合成された、プライマーセットA、B、Cの塩基配列を以下に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
2.LAMP法で使用する試料および試薬の調整
1)試料の調製(核酸抽出法)
ヨーネ菌標準株およびヨーネ菌類似の他のマイコバクテリウム属菌の菌株を培養して、形成されたコロニーを掻き取り、Insta Gene Matrix(BioRad社)で抽出した溶液あるいはさらにこの抽出液をフェノール・クロロフォルム法で抽出して調製した溶液を試料とした。
【0044】
2)対照用試料
陰性対照として滅菌水を使用した。また陽性対照の鋳型DNAとして、ヨーネ菌標準株ATCC19698から抽出したDNA(ゲノムDNA)あるいはIS900の遺伝子(1番から1451番の塩基配列)をクローニングしたプラスミドDNA(クローニングベクターpBluescript II)を試料とした。
【0045】
3.糞便から分離したヨーネ菌のLAMP法による反応
I LAMP法に用いる試薬組成及び濃度
1)10倍濃度の反応用緩衝液
200mM Tris−HCl(pH 8.8)
100mM KCl
100mM (NH4)2SO4
80mM MgSO4
1 % Tween 20
2)基質溶液
dATP,dCTP,dGTP,dTTPの最終濃度25mM混合液
3)Betaine溶液:Betaineを溶解し、5Mに調整したもの
4)プライマー混合溶液
各セットのPrimerについて、25μl反応溶液中の最終濃度が以下になるように6μl/1 sampleでプライマー混合溶液を調整した。
インナープライマーF,R 2.4μM
アウタープライマーF,R 0.2μM
ループプライマー F,R 0.8μM
5)Bst DNA polymerase(New England Biolab社製) 8000U/ml
【0046】
II LAMP法による反応
10倍濃度反応用緩衝液 2.5μl、基質溶液 1.4μl、Betaine溶液 4μlおよびプライマーセットA、B、Cの各プライマー混合溶液 6.0μl、Bst DNA polymerase 1μlに滅菌水 5.1μlを1サンプルあたりの量で混合し、反応溶液とする。この混合液20μlを0.2mlの専用チューブに分注した。これらに、陽性対照としてプラスミドDNAおよびヨーネ菌標準株から抽出したDNA、または糞便から分離したヨーネ菌野外株から抽出したDNAを5μl添加し試料として反応させた。また、陰性対照として、滅菌水5μlを添加し反応させた。各反応試料 25μlについて、65℃で90〜120分間LAMP反応を行い、3%アガロースゲルによる電気泳動により増幅産物を確認した。
【0047】
4.結果
図1に示すように、挿入配列IS900のプラスミドDNAおよびヨーネ菌標準株から抽出したDNAは同様のラダー状のバンドが検出された。また、野外株でも同様のラダー状のバンドが検出されたことから、ヨーネ菌特異的なDNAの増幅が見られたと考えられる。この時、陰性対照の増幅はみられなかった。したがって、ヨーネ菌野外株は、LAMP法によりDNAは増幅され、その泳動像はIS900のプラスミドDNAおよびヨーネ菌標準株のDNAと同じであり、ヨーネ菌は特異的に検出できることが明らかとなった。
【0048】
実施例2:PCR法との比較
表1に、挿入配列IS900のプラスミドDNAにおけるヨーネ菌遺伝子のLAMP法およびPCR法による検出限界を示す。また、表2に、ヨーネ菌標準株から抽出したDNAにおけるヨーネ菌遺伝子のLAMP法およびPCR法による検出限界を示す。プラスミドDNAの場合、nested PCRは0.005pg/μlまで検出され、LAMP法では、プライマーセットAが0.005pg/μl、プライマーセットBが0.05pg/μl、プライマーセットCが0.005pg/μlまで検出された。さらに、現実のヨーネ菌ゲノムDNAであるヨーネ菌標準株から抽出したDNAの場合、プライマーセットA及びCを用いたLAMP法では0.5pg/μlまで検出され、nested PCRの1pg/μlより検出感度は高かった。また、プライマーセットBを用いたLAMP法の検出限界は10pg/μlで、PCR法の検出限界の100pg/μlより感度が高かった。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
実施例3:プライマーの特異性
(類似の他のマイコバクテリウム属菌における反応)
表3に、LAMP法とnestedPCR法との検出結果の比較を示す。Nested PCR法での検出結果は、ヨーネ菌標準株以外全て陰性であり、LAMP法でも、プライマーセットB、Cにおいては、ヨーネ菌標準株(M. avium subsp paratb)以外全て陰性であった。プライマーセットAは、17ng/μlより高濃度の場合、マイコバクテリウム シュクロフィラセウム菌(M. scrofulaceum)において増幅がみられたが、0.1ng/μlより低濃度では増幅はみられないため、特異性においてはB、Cよりやや低い傾向であった。したがって、本発明の挿入配列IS900に特異的なプライマーセットとして、プライマーセットA、B、Cを用いると、LAMP法によるヨーネ菌の検出精度が非常に高いことが確認された。また、IS900遺伝子と95%の相同性を持つマイコバクテリウム2333株(Englund,S., Boelske,G. and Johansson,K. FEMS Microbiol.Lett.209(2), 267−271 (2002))の挿入配列についても特異性を確認したところ、プライマーセットAでは1pg/μlで、プライマーセットBでは高濃度ながら10ng/μlで検出された。しかし、プライマーセットCにおいては10ng/μlでも検出されなかった。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例4:LAMP法の吸光度(濁度)による測定
(ヨーネ菌およびマイコバクテリウム シュクロフィラセウム菌におけるLAMP)
10倍濃度反応用緩衝液 2.5μl、基質溶液 1.4μl、Betaine溶液 4μlおよびプライマーセットB、Cの各プライマー混合溶液 6.0μlに、Bst DNA polymerase 1 μl、滅菌水 5.1μlを加えて混合する。この混合溶液 20μlを、0.2mlの専用チューブに分注する。これらに、プラスミドDNAおよび菌株から抽出したDNA5μlを試料として反応させた。また、陰性対照として、滅菌水5μlを用いて反応させた。各反応試料 25μlについて、65℃で90分間LAMP反応を行い、分光光度計を用いて、波長650nmでの吸光度(濁度)を反応開始から経時的に観察した。LAMP反応90分後の吸光度を測定した。
【0054】
図2に、挿入配列IS900のプラスミドDNA、ヨーネ菌標準株から抽出したDNAおよび抽出DNAのLAMP反応90分後の吸光度を示した。
図2から明らかなように、プライマーセットB、Cを用いた挿入配列IS900のプラスミドDNAおよびヨーネ菌標準株から抽出したDNAのLAMP反応では、吸光度はいずれもおよそ0.5の値を示したのに対し、陰性対照およびマイコバクテリウム シュクロフィラセウム菌では増幅がみられず、吸光度はおよそ0であった。マイコバクテリウム2333株では、プライマーセットBでは陽性対象より吸光度は低い(およそ0.3程度)であるが反応が見られた。しかしプライマーセットCでは反応は見られなかった。したがって、LAMP法で増幅を行えば、吸光度によってヨーネ菌を容易に検出でき、また、増幅に伴って生成する濁度は肉眼でも観察できるため、目視によるヨーネ病の簡便な診断が可能であることが確認された。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列を効率的に増幅することができる。したがって、この増幅法を利用することにより、ヨーネ病の簡便な遺伝子診断が可能となる。すなわち、従来のPCR法では増幅時間の短縮に限界があり、診断のために電気泳動が必要であったが、本発明の方法は操作が簡便で、極めて単時間に標的塩基配列を増幅でき、迅速なヨーネ病診断を可能とする。しかも、LAMP法副産物によって生じる濁りは、肉眼でも確認できるため、検出限界が非常に高いという利点も有する。
【0056】
【配列表】
【配列表フリーテキスト】
配列番号2〜34: 人工配列の説明:プライマー
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ヨーネ菌野外株によるLAMP反応結果を示す。
【図2】図2は、吸光度によるLAMP反応測定結果を示す。
【図3】図3は、ヨーネ菌特異的配列(IS900)プライマー設計概念図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列に基づいて設計された新規プライマーと該プライマーを用いたヨーネ病の遺伝子診断法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヨーネ病は、ヨーネ菌(Mycobacterium avium subs. Paratuberculosis)によって牛やめん羊などの反芻動物が経口感染し、慢性腸炎と体重の著しい減少を主症状とする伝染病で、昭和46年に法定伝染病に指定されている。また、ヨーネ病は病気の経過が極めて長く、感染から発病までに、1〜数年、時には10年もの潜伏期間がある。しかも、この無症状感染している牛は大量の菌を糞便中に排泄するため、多数の同居牛に病気を伝染させる。現在、本病の予防・治療が難しいことから、伝播を防ぐ最も効果的な防疫手段は、罹患牛を早く見つけて、排除することであり、家畜伝染病予防法のもとで殺処分という強制的な措置がとられている。このように、ヨーネ病は、発生頭数が多いため、酪農や肉牛経営にとっては最も被害の大きい重要疾病の一つであり、病畜による生産性低下や殺処分による直接的損害だけでなく、清浄化のための長期間にわたる定期診断や病畜の移動制限により、大きな経済的負担となっている。したがって、ヨーネ病を早期に診断して、清浄化することは重要である。
【0003】
ヨーネ病の診断には、血清を用いたELISA法、抗原を皮内に接種するヨーニン反応、および家畜の糞便からヨーネ菌を検出する方法がある。この糞便を用いたヨーネ病の診断には、1)細菌学的診断として、糞便培養法、2)遺伝子診断法として、PCR法がある。
【0004】
1)糞便培養法:
糞便培養法は、マイコバクチン添加ハロルド(Herrold)培地を用いて希釈した糞便を培養する方法であり、ヨーネ病検査として最も信頼性のある生前診断法である。しかし、判定に1〜3ヶ月の長い時間を要する
【0005】
2)PCR法:
培養を必要としない迅速診断法としてPCR法がある。希釈した糞便からDNAを抽出し、そのDNAを鋳型にしてPCRを行って、増幅産物(PCR産物)をアガロース電気泳動にかけて、ヨーネ菌を検出している。
【0006】
PCR法は、標的配列の両端の一方のセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドと、両端の他方のアンチセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドよりなる2種類のプライマーを用いた核酸増幅法である。PCR法では、まず、相補的な2本鎖核酸を熱処理により1本鎖核酸に変性させる。次に、各々の1本鎖核酸に3’側からプライマーを相補的に結合(アニール)させ、引き続き、鋳型依存性核酸合成酵素により結合したプライマーからDNA伸長させる。ここまでの工程で、元の鋳型から増幅したい領域は2倍に増幅することになる。これを1サイクルとすると、PCR法は、このサイクルを繰り返し行うことによって、標的配列を指数関数的に増幅することができる。ただし、PCR法は各段階で反応温度が異なるため、反応の段階に応じて温度を制御する必要がある。
【0007】
PCR法を用いたヨーネ菌の検出は、ヨーネ菌に特異的な塩基配列を増幅できる1組のプライマーを用い、希釈した糞便から得られたDNA試料を鋳型としてPCRを行うものである。上記特異的配列を有するヨーネ菌があるDNA試料では鋳型DNAが増幅されて検出が可能となるが、ヨーネ菌がない場合は増幅されず検出されない。しかし、プライマーの塩基配列によっては、目的以外の塩基配列にわずかでもアニーリングした場合、標的配列以外の塩基配列が増幅してしまう。したがって、プライマーの選定は特に重要となる。現在、ヨーネ菌検出用プライマーとしては、マクファデンらの米国特許(特許文献1)に記載されたヨーネ菌の挿入配列IS900検出用のプライマーが知られている。
【0008】
また、希釈した糞便からから抽出できるDNA試料は非常に微量であるため、例えば、ヨーネ菌挿入配列IS900検出用の1組のプライマーを用いてPCRを行い、この増幅したPCR産物を鋳型として、他の1組のプライマーを用いて再びPCRを行うnested PCRが行われている。
【0009】
本発明者らは、コリンズらのヨーネ菌検出用のnested PCR用のプライマーセット(例えば、非特許文献1参照)を改変して、新たなIS900のnestedPCR用のプライマーを開発している。
【0010】
一方、本発明者らは遺伝子増幅法として、ループ媒介等温増幅法(Loop−mediated isothermal AMPlification:LAMP法)を完成している(例えば、特許文献2および非特許文献2参照)。LAMP法は鋳型となるヌクレオチドに自身の3’末端をアニールさせて相補鎖合成の起点とするとともに、このとき形成されるループにアニールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能とした。またLAMP法では、プライマーの3’末端が常に試料に由来する領域に対してアニールするために、塩基配列の相補的結合によるチェック機構が繰り返し機能する。その結果、特異性の高い遺伝子増幅反応が可能となった。
【特許文献1】
米国特許明細書 5,225,324号
【特許文献2】
国際公開00/28082号パンフレット
【非特許文献1】
「ベタリナリー ミクロバイオロジー(Veterinary Microbiology)」, 1993, Vol.36, p289−299
【非特許文献2】
「ヌクレイック アシッド リサーチ(Nucleic Acid Res.)」, 2000,Vol.28, No.12, e63
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、本発明は、ヨーネ菌挿入配列IS900上の特異的塩基配列を検出するための新規プライマーと、該プライマーを用いたLAMP法によるヨーネ病の簡便な遺伝子診断を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題を解決するため鋭意研究を行なった結果、ヨーネ菌の挿入配列IS900に特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを作製し、このオリゴヌクレオチドをプライマーとしてLAMP法によりヨーネ菌の挿入配列IS900に特異的な塩基配列を増幅する事により、ヨーネ病を診断できる事を見出し本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、ヨーネ菌検出のための核酸増幅法に用いる、ヨーネ菌検出用プライマーであって、ヨーネ菌の挿入配列IS900(配列番号1)またはその相補鎖上から選択される標的領域の塩基配列を増幅し、
(1)第1領域として、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列にアニールしてプライマーとして機能する塩基配列、および
(2)第2領域として、第1領域の3’側の塩基配列に相補的であり、第1領域の5’側に位置する塩基配列
を含むことを特徴とする、新規プライマーを提供する。
【0014】
また本発明は、配列番号2〜13および配列番号20〜29に示される塩基配列、あるいはこれらに相補的な塩基配列から選ばれるいずれか1の塩基配列上の、少なくとも連続する15塩基を含む、前記プライマー。
【0015】
また本発明は、ヨーネ菌の挿入配列IS900に特異的なヨーネ病診断の塩基配列を増幅できる、以下の1)〜6)から選ばれるいずれか1のオリゴヌクレオチドを含む、前記プライマーを提供する。
1)配列番号2の塩基配列に相補的な配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
2)配列番号5の塩基配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号6の塩基配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド
3)配列番号8の塩基配列に相補的な配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号9の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
4)配列番号11の塩基配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号12の塩基配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド
5)配列番号20の塩基配列に相補的な配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号21の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
6)配列番号23の塩基配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号24の塩基配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド
【0016】
さらに本発明は、核酸増幅法がLAMP法である前記プライマー、および該プライマーを用いたLAMP法によるヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列の増幅法を提供する。
さらにまた、本発明は前記増幅法を利用して、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列を検出することを特徴とするヨーネ病の遺伝子診断法を提供する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
【発明の実施の形態】
核酸増幅法によるヨーネ病の遺伝子診断用の試料としては、糞便を希釈した溶液(糞便希釈溶液)、もしくは数日から数週間の短期間の糞便培養を行った培地表面を掻き取って希釈した液(短期培養希釈液)を使用する。LAMP法の試料としては、この糞便希釈溶液または短期培養希釈液から、熱、アルカリ等で適宜選択された処理法により抽出された核酸が使用される。
【0018】
本発明において標的配列とは、増幅すべきポリヌクレオチドの塩基配列を意味する。一般にポリヌクレオチドの塩基配列は、5’側から3’側に向けてセンス鎖の塩基配列を記載する。本発明において、連続的に新たな標的塩基配列が合成される事を増幅と呼ぶ。更に本発明において、相補鎖合成の起点を与えることとは、鋳型となるポリヌクレオチドに対して、相補鎖合成に必要なプライマーとして機能するポリヌクレオチドの3’末端をハイブリダイズさせることを言う。また本発明において、3’末端、あるいは5’末端とは、単にいずれかの末端の1塩基のみならず、末端の1塩基を含み、かつ末端に位置する領域を意味する。本発明において、プライマーセットとは同時に用いられるプライマーの組み合せをいう。
【0019】
PCR法は、標的配列の両端の一方のセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドと、両端の他方のアンチセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドよりなる2種類のプライマーを用いた核酸増幅法である。まず、相補的な二本鎖核酸を熱処理により一本鎖核酸に変性させる。次に、各々の一本鎖核酸に3’側からプライマーを相補的に結合(アニ−ル)させ、引き続き、鋳型依存性核酸合成酵素により結合したプライマーからDNA伸長させる。ここまでの工程で元の鋳型から増幅したい領域は2倍に増幅したことになる。ここまでを1サイクルとすると、PCR法は、このサイクルを繰り返し行なうことによって、標的配列を指数関数的に増幅することができる。ただし、PCR法は各段階で反応温度が異なるため、反応の段階に応じて変更する必要がある。
【0020】
これに対してLAMP法は、プライマーとして少なくとも4種類のオリゴヌクレオチドを用いる核酸増幅法で、このうち2種類をインナープライマー(Inner Primer)、残りの2種類をアウタープライマー(Outer Primer)と呼ぶ。LAMP法は、これら4種類のプライマー、鎖置換合成活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素、および基質を用いて、熱変性を必要とせずに、終始等温で速やかに特異性の高い遺伝子増幅反応が進行することを特徴とする。
【0021】
前記プライマー設計のために、標的塩基配列の3’末端から当該ポリヌクレオチド鎖の3’末端方向に向かって順に、第1の任意配列F1c、第2の任意配列F2c、第3の任意配列F3cをそれぞれ選択し、標的領域の5’末端から当該ヌクレオチド鎖の5’末端方向に向かって順に、第4の任意配列R1、第5の任意配列R2、第6の任意配列R3それぞれ選択する。F1c、F2c、F3cの相補配列をそれぞれF1、F2、F3、またR1、R2、R3の相補鎖をR1c、R2c、R3cと呼ぶ。
【0022】
インナープライマー(Inner Primer)とは、標的遺伝子上の「ある特定のヌクレオチド配列領域」を認識し、かつ合成起点を与える塩基配列を3’末端に有し、同時にこのプライマーを起点とする核酸合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を5’末端に有することを特徴としたオリゴヌクレオチドである。ここで、F2より選ばれた塩基配列、およびF1より選ばれた塩基配列と相補的な塩基配列を含むプライマーをインナープライマーF、R2より選ばれた塩基配列およびR1より選ばれた塩基配列と相補的な塩基配列を含むからなるプライマーをインナープライマーRと呼ぶ。
【0023】
アウタープライマー(Outer Primer)とは、標的塩基配列上の『「ある特定のヌクレオチド配列領域」の下流に存在するある特定のヌクレオチド配列領域』を認識かつ合成起点を与える塩基配列を有することを特徴としたオリゴヌクレオチドである。F3より選ばれた塩基配列を含むプライマーをアウタープライマーF、R3より選ばれた塩基配列を含むプライマーをアウタープライマーRと呼ぶ。インナープライマーおよびアウタープライマーにおいて、Fは、標的遺伝子のセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマーの表示であり、Rは、標的遺伝子のアンチセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマーの表示である。
【0024】
標的遺伝子に選択的にアニールしたインナープライマーからの核酸合成反応が進行すると同時に、アウタープライマーを起点とするその下流からの核酸合成反応によって鎖置換反応が起こる。そのためにインナープライマーを起点とする伸長鎖が鋳型である標的遺伝子から分離し、自身の5’末端でループ構造を形成する。インナープライマーの3’末端を起点とした伸長鎖に、もうひとつのインナープライマーが選択的にアニールし、合成起点となり核酸合成が進行する。同時にもうひとつのアウタープライマーを起点とする核酸合成反応によって鎖置換反応が起こる。その結果、自己を鋳型としながら合成起点となる3’末端を有し、両端にそれぞれループ構造を有することを特徴とする「ダンベル型」ヌクレオチドが形成される。
【0025】
上述の「ダンベル型」ヌクレオチドのループの塩基配列は、3’末端側のループの一本鎖部分にインナープライマーが相補的にアニールして合成起点を与えるので、ループ構造を有する中間産物は連続的にインナープライマーの鋳型として機能し、核酸合成が進行する。特に、ループ構造を複数有する中間産物は、複数の核酸合成反応が同時多発的に進行する鋳型となりながら、鎖置換反応によってまた新たなループ構造を有する中間産物を生成させる。このように、LAMP法では、等温条件下で連続的かつ大量に標的遺伝子の特定のヌクレオチド配列を増幅することが可能になる。
【0026】
LAMP法においては、インナープライマーとアウタープライマーに加え、さらにこれらとは別のプライマー、すなわち、ループプライマーを用いることができる。ループプライマー(Loop Primer)は、ダンベル構造の5’末端側のループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的な塩基配列を持つプライマーである。このプライマーを用いると、核酸合成の起点が増加し、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能になる(PCT/JP01/08142)。ループプライマーの塩基配列は上述のダンベル構造の5’末端側のループの1本鎖部分の塩基配列に相補的であれば、標的遺伝子の塩基配列あるいはその相補鎖から選ばれてもよく、他の塩基配列でもよい。また、ループプライマーは1種類でも2種類でも良い。
【0027】
本発明において、インナープライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの長さは、30塩基以上、好ましくは35塩基以上で、化学合成あるいは天然の核酸のどちらでもよい。F側のインナープライマーは、その塩基配列として標的遺伝子配列のある配列よりなるオリゴヌクレオチドを3’側に、そしてそれより下流の別の塩基配列の相補鎖よりなるオリゴヌクレオチドを5’側に持ち、その間には0から50塩基よりなる任意のオリゴヌクレオチドを持っても良い。R側のインナープライマーの塩基配列は、F側のインナープライマーより下流の、標的遺伝子配列のある配列の相補鎖よりなるオリゴヌクレオチドを3’側に、そしてそれより上流の別の塩基配列を5’側に持ち、その間には0から50塩基よりなる任意の塩基配列を持ってもよい。また、プライマーは検出可能なように標識されていてもよい。アウタープライマーならびにループプライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの長さは、10塩基以上、好ましくは15塩基以上で、化学合成あるいは天然のどちらでも良い。
また、LAMP法で使用する各プライマーは単一のオリゴヌクレオチドであっても、複数のオリゴヌクレオチドの混合物であっても良い。
【0028】
したがって、本発明にかかる、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列を増幅するためのインナープライマーは、
(1)第1の任意配列(第1領域)として、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列にアニールしてプライマーとして機能する塩基配列、および
(2)第2の任意配列(第2領域)として、第1領域の3’側の塩基配列に相補的であり、第1領域の5’側に位置する塩基配列、を有するものとして設計される。
【0029】
前記第1の任意配列またはその相補配列としては、例えば、配列番号3、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号21および配列番号24に示される塩基配列を挙げることができる。また、第2の任意配列またはその相補配列としては、例えば、配列番号2、配列番号5、配列番号8、配列番号11、配列番号20および配列番号23を挙げることができる。
さらに、アウタープライマーのための第3の任意配列またはその相補配列として、例えば、配列番号4、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号22および配列番号25を挙げることができる。
さらにまた、ループプライマーのための任意配列およびその相補配列として、例えば、配列番号26〜29を挙げることができる。
【0030】
こうして設計される、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列を迅速に増幅できるLAMP法用プライマーセットの好適な例として、以下のA、B、Cの3組を挙げることができる。
【0031】
【0032】
これらのプライマーは、その塩基配列を設定されれば、市販のDNA合成機あるいはDNA合成を専門に取り扱う機関に委託することによって、慣用の方法で容易に合成することができる。
【0033】
本発明に使用するプライマーは、マクファデンらが考案したヨーネ菌の挿入配列IS900検出用のDNAプローブおよびプライマー(米国特許5225324号)と一部重複している。しかし、本発明にかかるプライマーは、第1領域と第2領域からなる特異な構造を有するLAMP法用プライマーであるという点で、マクファデンらのDNAプローブやプライマーとは、構造も目的も異なっている。
【0034】
本発明の増幅法において、鋳型依存性核酸合成反応で使用する酵素は、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素であれば特に限定されない。このような酵素としては、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo−)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNA ポリメラーゼIのクレノウフラグメント、Vent(Exo−)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、DeepVent(Exo−)DNAポリメラーゼ(DeepVent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)およびKOD DNAポリメラーゼ等が挙げられ、好ましくはBst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)が挙げられる。Bst DNAポリメラーゼを用いる場合は、その反応至適温度である65℃付近で反応を行うのが望ましい。
【0035】
増幅産物の検出には公知の技術が適用できる。例えば増幅された遺伝子配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドを用いたり、あるいは、反応終了後の反応液をそのままアガロース電気泳動にかけても容易に検出できる。LAMP法では塩基長の異なる多数のバンドがラダー(はしご)状に検出される。
【0036】
さらに、LAMP法による遺伝子増幅は加速度的かつ効率的に行なわれるので、反応液中にあらかじめ二本鎖核酸の分子内に特異的に取り込まれるインターカレーターであるエチジウムブロマイドやSYBR Green(Molecular Probes 社製)等を添加することにより増幅を確認できる(特開2001−242169)。また、経時的に蛍光強度を観察することができるABI Prism 7700(Applied Biosystems社製)等の連続蛍光光度計で、増幅の有無の確認や速度論的解析をすることも可能である。
【0037】
その他、LAMP法では核酸の合成により基質が大量に消費され、副産物であるピロリン酸が、共存するマグネシウムと反応してピロリン酸マグネシウムとなり、肉眼でも確認できる程に白濁する。この白濁を反応終了後の観察、もしくは反応中の濁度の上昇を経時的に光学的に観察できる測定機器、例えば400mmの吸光度の変化を通常の分光光度計を用いて増幅の確認が可能である(WO01/83817)。
【0038】
また、増幅された遺伝子配列を特異的に認識する担体固相オリゴヌクレオチドによるハイブリダイゼーションまたはそれを起点とした伸長反応により、増幅の確認が可能である(特開2002−201269)。
【0039】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
1.プライマーの合成
プライマーは、IS900の塩基配列(配列番号1)に基づいてその塩基配列を設定し、DNA合成を専門に取り扱う機関に委託して、当該機関所有のDNA合成機で、ホスホアミダイド法により化学合成した。合成したプライマーは、逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーでさらに精製した。
こうして合成された、プライマーセットA、B、Cの塩基配列を以下に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
2.LAMP法で使用する試料および試薬の調整
1)試料の調製(核酸抽出法)
ヨーネ菌標準株およびヨーネ菌類似の他のマイコバクテリウム属菌の菌株を培養して、形成されたコロニーを掻き取り、Insta Gene Matrix(BioRad社)で抽出した溶液あるいはさらにこの抽出液をフェノール・クロロフォルム法で抽出して調製した溶液を試料とした。
【0044】
2)対照用試料
陰性対照として滅菌水を使用した。また陽性対照の鋳型DNAとして、ヨーネ菌標準株ATCC19698から抽出したDNA(ゲノムDNA)あるいはIS900の遺伝子(1番から1451番の塩基配列)をクローニングしたプラスミドDNA(クローニングベクターpBluescript II)を試料とした。
【0045】
3.糞便から分離したヨーネ菌のLAMP法による反応
I LAMP法に用いる試薬組成及び濃度
1)10倍濃度の反応用緩衝液
200mM Tris−HCl(pH 8.8)
100mM KCl
100mM (NH4)2SO4
80mM MgSO4
1 % Tween 20
2)基質溶液
dATP,dCTP,dGTP,dTTPの最終濃度25mM混合液
3)Betaine溶液:Betaineを溶解し、5Mに調整したもの
4)プライマー混合溶液
各セットのPrimerについて、25μl反応溶液中の最終濃度が以下になるように6μl/1 sampleでプライマー混合溶液を調整した。
インナープライマーF,R 2.4μM
アウタープライマーF,R 0.2μM
ループプライマー F,R 0.8μM
5)Bst DNA polymerase(New England Biolab社製) 8000U/ml
【0046】
II LAMP法による反応
10倍濃度反応用緩衝液 2.5μl、基質溶液 1.4μl、Betaine溶液 4μlおよびプライマーセットA、B、Cの各プライマー混合溶液 6.0μl、Bst DNA polymerase 1μlに滅菌水 5.1μlを1サンプルあたりの量で混合し、反応溶液とする。この混合液20μlを0.2mlの専用チューブに分注した。これらに、陽性対照としてプラスミドDNAおよびヨーネ菌標準株から抽出したDNA、または糞便から分離したヨーネ菌野外株から抽出したDNAを5μl添加し試料として反応させた。また、陰性対照として、滅菌水5μlを添加し反応させた。各反応試料 25μlについて、65℃で90〜120分間LAMP反応を行い、3%アガロースゲルによる電気泳動により増幅産物を確認した。
【0047】
4.結果
図1に示すように、挿入配列IS900のプラスミドDNAおよびヨーネ菌標準株から抽出したDNAは同様のラダー状のバンドが検出された。また、野外株でも同様のラダー状のバンドが検出されたことから、ヨーネ菌特異的なDNAの増幅が見られたと考えられる。この時、陰性対照の増幅はみられなかった。したがって、ヨーネ菌野外株は、LAMP法によりDNAは増幅され、その泳動像はIS900のプラスミドDNAおよびヨーネ菌標準株のDNAと同じであり、ヨーネ菌は特異的に検出できることが明らかとなった。
【0048】
実施例2:PCR法との比較
表1に、挿入配列IS900のプラスミドDNAにおけるヨーネ菌遺伝子のLAMP法およびPCR法による検出限界を示す。また、表2に、ヨーネ菌標準株から抽出したDNAにおけるヨーネ菌遺伝子のLAMP法およびPCR法による検出限界を示す。プラスミドDNAの場合、nested PCRは0.005pg/μlまで検出され、LAMP法では、プライマーセットAが0.005pg/μl、プライマーセットBが0.05pg/μl、プライマーセットCが0.005pg/μlまで検出された。さらに、現実のヨーネ菌ゲノムDNAであるヨーネ菌標準株から抽出したDNAの場合、プライマーセットA及びCを用いたLAMP法では0.5pg/μlまで検出され、nested PCRの1pg/μlより検出感度は高かった。また、プライマーセットBを用いたLAMP法の検出限界は10pg/μlで、PCR法の検出限界の100pg/μlより感度が高かった。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
実施例3:プライマーの特異性
(類似の他のマイコバクテリウム属菌における反応)
表3に、LAMP法とnestedPCR法との検出結果の比較を示す。Nested PCR法での検出結果は、ヨーネ菌標準株以外全て陰性であり、LAMP法でも、プライマーセットB、Cにおいては、ヨーネ菌標準株(M. avium subsp paratb)以外全て陰性であった。プライマーセットAは、17ng/μlより高濃度の場合、マイコバクテリウム シュクロフィラセウム菌(M. scrofulaceum)において増幅がみられたが、0.1ng/μlより低濃度では増幅はみられないため、特異性においてはB、Cよりやや低い傾向であった。したがって、本発明の挿入配列IS900に特異的なプライマーセットとして、プライマーセットA、B、Cを用いると、LAMP法によるヨーネ菌の検出精度が非常に高いことが確認された。また、IS900遺伝子と95%の相同性を持つマイコバクテリウム2333株(Englund,S., Boelske,G. and Johansson,K. FEMS Microbiol.Lett.209(2), 267−271 (2002))の挿入配列についても特異性を確認したところ、プライマーセットAでは1pg/μlで、プライマーセットBでは高濃度ながら10ng/μlで検出された。しかし、プライマーセットCにおいては10ng/μlでも検出されなかった。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例4:LAMP法の吸光度(濁度)による測定
(ヨーネ菌およびマイコバクテリウム シュクロフィラセウム菌におけるLAMP)
10倍濃度反応用緩衝液 2.5μl、基質溶液 1.4μl、Betaine溶液 4μlおよびプライマーセットB、Cの各プライマー混合溶液 6.0μlに、Bst DNA polymerase 1 μl、滅菌水 5.1μlを加えて混合する。この混合溶液 20μlを、0.2mlの専用チューブに分注する。これらに、プラスミドDNAおよび菌株から抽出したDNA5μlを試料として反応させた。また、陰性対照として、滅菌水5μlを用いて反応させた。各反応試料 25μlについて、65℃で90分間LAMP反応を行い、分光光度計を用いて、波長650nmでの吸光度(濁度)を反応開始から経時的に観察した。LAMP反応90分後の吸光度を測定した。
【0054】
図2に、挿入配列IS900のプラスミドDNA、ヨーネ菌標準株から抽出したDNAおよび抽出DNAのLAMP反応90分後の吸光度を示した。
図2から明らかなように、プライマーセットB、Cを用いた挿入配列IS900のプラスミドDNAおよびヨーネ菌標準株から抽出したDNAのLAMP反応では、吸光度はいずれもおよそ0.5の値を示したのに対し、陰性対照およびマイコバクテリウム シュクロフィラセウム菌では増幅がみられず、吸光度はおよそ0であった。マイコバクテリウム2333株では、プライマーセットBでは陽性対象より吸光度は低い(およそ0.3程度)であるが反応が見られた。しかしプライマーセットCでは反応は見られなかった。したがって、LAMP法で増幅を行えば、吸光度によってヨーネ菌を容易に検出でき、また、増幅に伴って生成する濁度は肉眼でも観察できるため、目視によるヨーネ病の簡便な診断が可能であることが確認された。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列を効率的に増幅することができる。したがって、この増幅法を利用することにより、ヨーネ病の簡便な遺伝子診断が可能となる。すなわち、従来のPCR法では増幅時間の短縮に限界があり、診断のために電気泳動が必要であったが、本発明の方法は操作が簡便で、極めて単時間に標的塩基配列を増幅でき、迅速なヨーネ病診断を可能とする。しかも、LAMP法副産物によって生じる濁りは、肉眼でも確認できるため、検出限界が非常に高いという利点も有する。
【0056】
【配列表】
【配列表フリーテキスト】
配列番号2〜34: 人工配列の説明:プライマー
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ヨーネ菌野外株によるLAMP反応結果を示す。
【図2】図2は、吸光度によるLAMP反応測定結果を示す。
【図3】図3は、ヨーネ菌特異的配列(IS900)プライマー設計概念図である。
Claims (6)
- ヨーネ菌検出のための核酸増幅法に用いるヨーネ菌検出用プライマーであって、ヨーネ菌の挿入配列IS900(配列番号1)またはその相補鎖上から選択される標的領域の塩基配列を増幅し、
(1)第1領域として、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列にアニールしてプライマーとして機能する塩基配列、および
(2)第2領域として、第1領域の3’側の塩基配列に相補的であり、第1領域の5’側に位置する塩基配列
を含むことを特徴とする、新規プライマー。 - 配列番号2〜13および配列番号20〜29に示される塩基配列、あるいはこれらに相補的な塩基配列から選ばれるいずれか1の塩基配列上の、少なくとも連続する15塩基を含む、請求項1に記載のプライマー。
- 以下の1)〜6)から選ばれるいずれか1のオリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載のプライマー。
1)配列番号2の塩基配列に相補的な配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
2)配列番号5の塩基配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号6の塩基配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド
3)配列番号8の塩基配列に相補的な配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号9の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
4)配列番号11の塩基配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号12の塩基配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド
5)配列番号20の塩基配列に相補的な配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号21の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
6)配列番号23の塩基配列、塩基数0から50の任意の塩基配列および配列番号24の塩基配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド - 核酸増幅法がLAMP法であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプライマー。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のプライマーを用いることを特徴とする、LAMP法によるヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列の増幅法。
- 請求項5記載の増幅法を用いて、ヨーネ菌の挿入配列IS900上の特異的塩基配列を検出することを特徴とする、ヨーネ病の遺伝子診断法。
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WO2005035787A1 (en) * | 2003-10-16 | 2005-04-21 | Joannis Ikonomopoulos | Molecular detection of mycobacterium avium subsp. paratuberculosis |
-
2003
- 2003-06-04 JP JP2003159573A patent/JP2004065244A/ja active Pending
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