JP2004065087A - 高密度培養が可能な細胞培養体とその培養モジュール - Google Patents

高密度培養が可能な細胞培養体とその培養モジュール Download PDF

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小林 尚俊
Tetsushi Taguchi
田口 哲志
Junzo Tanaka
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Abstract

【課題】コンパクトなスペースで大量の細胞培養を可能にする細胞培養体とその培養モジュールを提供する。
【解決手段】表面に複数の凹凸(C)または突起を設けたシート(B)の複数のものが積層された積層体を備え、凹凸(C)または突起によって、その内部から外部に連通する通路が形成している細胞培養体(A)とし、形成された通路内に細胞(E)を接着培養する。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は細胞培養体と培養モジュールに関するものであり、さらに詳しくは、人工臓器、人工骨、人工皮膚等の細胞を高密度に培養することのできる細胞培養体とこれを用いた細胞培養モジュールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
医療の高度化に伴い、テイッシュ−エンジニアリング(細胞再生)の手法を駆使した先端医療技術や細胞から産生される各種サイトカイン(cytokine) 、ファクター類を用いた治療、さらには細胞組込み型の人工臓器等において、大量の細胞を必要とする技術の進歩が著しい。それとともに、これらの各種細胞をインビトロで効率的に培養するための方法が様々な観点より検討されている。現在のところ、細胞をインビトロで培養する場合には樹脂製のシャーレやボトル内で培養する方法が一般的である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、実際にシャーレやボトル内で細胞を大量に培養するには大きなスペースが必要であるためこのようなスペースの確保や、操作、そして経済面において大きな負担となっている。
【0004】
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの従来の問題点を解消し、コンパクトなスペースで簡便に大量の細胞培養が可能とされる、新しい細胞培養体と、その細胞培養体で産生した細胞を基材より剥がすことなく体内への埋入をも可能にする細胞培養モジュールを提供することを課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するためのものとして、第1には、少なくとも片面に複数の凹凸または突起が設けられている有機材料または無機材料のシートの複数のものが積層された積層体を備え、凹凸または突起によって積層体の内部から外部に連通する通路が形成されていることを特徴とする細胞培養体を提供する。また、第2には、この出願の発明は、積層体を構成する前記シートが積層組立てとその分離が自在とされていることを特徴とする細胞培養体を提供する。
【0006】
そして、この出願の発明は、第3には、シートの表面に設けられている複数の凹凸または突起のピッチ幅が2μm〜10mmの範囲で、深さ(高さ)が2μm〜2mmの範囲であることを特徴とする上記細胞培養体を提供する。
【0007】
第4には、シートの材質が高分子材であることを特徴とする上記細胞培養体を、第5には、シートの材質が生分解性高分子材であることを特徴とする上記細胞培養体を提供し、第6には、シートの材質が乳酸、グリコール酸、カプロラクトン、ヒドロキシブチレートの重合体またはこれらの共重合体並びにこれらの重合体または共重合体とポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコールとのブロックコポリマー、そしてキチン、キトサン、コラーゲン等の生体由来高分子のうちのいずれかであることを特徴とする上記細胞培養体を提供する。第7には、シートの材質がハイドロキシアパタイト等のセラミックスであることを特徴とする上記細胞培養体を提供する。
【0008】
そして、この出願の発明は、第8には、シートが連通空孔を有していることを特徴とする上記細胞培養体を提供し、第9には、シートの表面に細胞接着性または増殖性を向上するための処理が施されていることを特徴とする細胞培養体を、第10には、シートの表面処理がオゾン処理、コロナ処理、およびプラズマ処理のうちの少くともいずれかであることを特徴とする細胞培養体を、第11には、シートの表面処理が細胞接着性蛋白質、糖蛋白質、細胞接着性オリゴペプチド、ペプチド等のいずれかのコーティングまたは固定化であることを特徴とする上記細胞培養体を提供する。
【0009】
さらにまた、この出願の発明は、第12には、以上いずれかの細胞培養体とこれにより培養された細胞からなる培養モジュールを提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0011】
なによりも特徴的なことは、この出願の発明においては、マイクロレプリケーション技術(微小形状体の複製技術)やリソグラフィー技術(光照射を利用する転写技術)等を用いて表面に複数の凹凸や突起を有するシートを形成し、これを積層することによって細胞培養体を構成していることである。図1は細胞培養体(A)を模式的に図示したものであるが、細胞培養体を構成する各シート(B)の表面には凹凸(C)が形成されており、このものはピッチ幅が2μm〜10mmの範囲で、深さが2μm〜2mmの範囲の溝と山が繰り返されている微細な形状を有している。この微細な凹凸(C)の凹部(D)を利用して細胞(E)を培養することができる。
【0012】
この出願の発明の積層体の内部から外部への通路を有する細胞培養体(A)を構成するシート(B)として、表面に連続した凹凸(C)が設けられたものは、図1に例示したものに限定されることなく様々であってよく、たとえば図2の断面図に例示したような各種の連続した凹凸あるいは突起をもつものでもよい。もちろん、これらの断面形状を組合わせたものであってもよい。
【0013】
さらにまた、シートの表面に連続した凹凸や突起が設けられたシートだけではなく、たとえば図3に概要が示されているような独立した種々の突起が設けられているシートであってもよい。たとえば、多角錘、多角柱、円柱状、円錐状、台形状、またはそれらを組み合わせたものが考えられる。
【0014】
このように表面に連続もしくは非連続に配設した凹凸(C)や突起を有するシート(B)を積層することによってシートとシートの間にスペースが形成され、このスペースが細胞培養体の内部と外部の通路を形成し、この通路を通して細胞(E)の生存に必要な栄養分やグロスファクター(成長因子)またはサイトカイン等の培養液等を周囲から細胞培養体の中心部まで供給することができ、また細胞(E)の排出物を細胞培養体の内部から除去することが可能となる。
【0015】
そして、この出願の発明はシート(B)を積層するだけで立体的な細胞培養体(A)が形成されるだけでなく、細胞培養体(A)を構成する各シート(B)は細胞(E)を組み込んだ細胞培養モジュールとしても利用できるのである。
【0016】
なお、シート(B)の積層に際しては、図1に示されているように各々のシートの凹凸(C)が同一方向である場合だけでなく、シート(B)毎にその方向は異っていてもよい。
【0017】
シート表面の凹凸や突起はシートの片面または両面に設けることが可能であるが、片面だけに設ける場合はそれぞれのシートが移動しないようにたとえば図4に示すようなシートの裏面に契合用凹部(a)を設けることによってシートの移動を抑制することができる。また、各々の凹凸や突起の形状は細胞培養体の内部と外部が連通する通路が形成されるものであれば、その形状は制限されないが、成形が簡単で単位面積の細胞密度が高くなるような形状とすることが好ましい。
【0018】
この出願の発明のシートの材質については細胞培養に悪影響を与えない限りどのような材料でも使用可能であるが、成形性がよく安価であることから、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の樹脂シートが好適なものとして例示される。
【0019】
また、このような樹脂高分子材だけでなく、ハイドロキシアパタイトのようなセラミックスやその他無機材料も使用することが可能である。
【0020】
そして、シートの形態として透過性の材料を使用することも考慮される。細胞培養の効率がさらに向上するからである。すなわち、非透過性のシートを使用して積層した細胞培養体に比べ、中心部への液性成分の拡散がより円滑になり、積層体中心部分に位置する細胞への栄養供給や老廃物の排出が促進されることになる。マイクロポーラスシート(微小空孔含有シート)を使用したものは栄養分やグロスファクター(成長因子)やサイトカイン(cytokine)等の液性成分の透過性が向上するため中心部分での細胞壊死がなくなり、より高密度培養が可能になる。
【0021】
また、シート材の材質としては、乳酸、グリコール酸、カプロラクタン、ヒドロキシブチレートの重合体またはこれらの共重合体並びにこれらの重合体または共重合体とポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコールとのブロックコポリマー、そしてキチン、キトサン、コラーゲン等の生体由来高分子のような生分解で生体内への吸収性を有する高分子材を使用することによって、細胞をシートから剥離することなくそのまま細胞培養モジュールとして使用することが可能になる。
【0022】
さらには、表面処理を施してシート表面の細胞接着性や増殖性を向上させることが可能である。この細胞の付着増殖性を向上させるための方法としては、オゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理等による処理方法やコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニン、ラミニンフラグメント等の細胞接着性蛋白質、糖蛋白質、RGD、RGDS,GRGDS,YIGSR,IKVAV等の細胞接着性オリゴペプチド、ポリ−L−リジン等のペプチドをコーティング或いは固定する手法等が考慮される。
【0023】
【実施例】
<実施例1>
熱硬化性アクリル樹脂の表面にマイクロレプリケーションの手法を用いて、断面が三角形状で深さ(高さ)23μmの凹凸が50μmピッチで連続して表面に配設されたシートを作製した。このシートを直径13mmとなるようにポンチで打ち抜き、メタノールを用いてソックスレー抽出を行い精製した。精製したシートをEOG滅菌し試料片とした。この試料片を24穴マルチウエル細胞培養用ディシュに凹凸面が上になるように置き、4×10cells/mlのL−929/EagleMEM+FCS細胞縣濁液を無菌的に加え、試料片表面に細胞を播種した。その後、1時間ほど静置した後5枚の試料片を無菌的に積層し培養を継続した。積層後、経時的に試料片を取り出し、各層の上に付着した細胞の増殖挙動を1週間まで観察した。その結果、この試料片上に播種した細胞は、表面層、中心層に関わらずほぼ同様の増殖挙動を示した。このことは凹凸表面構造をとることで積層しても充分に内部まで培養が可能とされることを示している。
【0024】
<実施例2>
ポリカーボネートシートの表面にマイクロレプリケーションの手法を用いて、実施例1と同様の形状の、25μmピッチで深さ(高さ)13μmの凹凸を表面に持つシートを作製した。作製したシートを直径13mmとなるようにポンチで打ち抜き、メタノールを用いてソックスレー抽出を行い精製した。
【0025】
精製したシートをEOG滅菌し試料片とした。この試料片を24穴マルチウエル細胞培養用ディシュに凹凸面が上になるように置き、4×10cells/mlのL−929/EagleMEM+FCS細胞縣濁液を無菌的に加え、試料片表面に細胞を播種した。その後、1時間ほど静置した後5枚の試料片を無菌的に積層し培養を継続した。積層後、経時的に試料片を取り出し、各層の上に付着した細胞の増殖挙動を1週間まで観察した。その結果、この試料上に播種した細胞は、表面層、中心層に関わらずほぼ同様の増殖挙動を示した。
<実施例3>
熱硬化性アクリル樹脂の表面にマイクロレプリケーションの手法を用いて、実施例1と同様の形状の、50μmピッチで深さ(高さ)43μmの凹凸を表面に持つシートを作製した。作製したシートを直径13mmとなるようにポンチで打ち抜き、メタノールを用いてソックスレー抽出を行い精製した。このシートを3mg/mlのコラーゲン水溶液に浸漬した後、乾燥させてコラーゲンをコーティングした。同様にしてゼラチン、ラミニンのコーティングを行った。これらの蛋白質をコーティングしたフィルムをEOG滅菌した試料片とした。試料片を2cells/mlのL−929/EagleMEM+FCS細胞縣濁液を無菌的に加え、試料片表面に細胞を播種した。
【0026】
その後、1時間ほど整地した後5枚の試料片を無菌的に積層し培養を継続した。積層後、経時的に試料片を取り出し、各層の上に付着した細胞の増殖挙動を1週間まで観察した。その結果、凹凸シート上への初期の細胞付着性が著しく向上した。この試料片上に播種した細胞は、表面層、中心層に関わらず略同様の増殖挙動を示した。
<実施例4>
生体内分解吸収性高分子であるポリL乳酸(分子量2万)を130℃に加熱しそのポリマーフィルム表面にマイクロレプリケーションの手法を用いて、実施例1と同様の形状の、50μmピッチで深さ(高さ)43μmの凹凸を表面に持つシートを作製した。作製したシートを直径13mmとなるようにポンチで打ち抜き、メタノールを用いてソックスレー抽出を行い精製した。このシートを3mg/mlのコラーゲン水溶液に浸漬した後、乾燥させてコラーゲンをコーティングした。同様にしてゼラチン、ラミニンをコーティングした。これらの蛋白質をコーティングしたシートをEOG滅菌し試料片とした。試料片を24穴マルチウエル細胞培養用ディシュに凹凸面が上になるように置き、4×10cells/mlのL−929/EagleMEM+FCS細胞縣濁液を無菌的に加え、試料片表面に細胞を播種した。その後、1時間ほど静置した後5枚の試料片を無菌的に積層し培養を継続した。積層後、経時的に試料片を取り出し、各層の上に付着した細胞の増殖挙動を1週間まで観察した。
【0027】
その結果、凹凸シート上への初期の細胞付付着性が著しく向上した。この試料片上に播種した細胞は、表面層、中心層に関わらずほぼ同様の増殖挙動を示した。このことは、実施例1〜3と同様に、凹凸表面構造をとることで積層しても充分に内部まで培養されていることを示している。
【0028】
【発明の効果】
単位面積当たりの培養密度が高い細胞培養体および細胞培養モジュールを効率よく提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の細胞培養体の模式図である。
【図2】表面に凹凸もしくは突起の形状が設けられた各種のシートを例示した断面図である。
【図3】表面に突起形状が設けられた各種のシートを例示した断面図である。
【図4】シート裏面に設けた契合部を示す模式図である。
【符号の説明】
A 細胞培養体
B シート
C 凹凸部
D 凹部
E 細胞
a 契合部

Claims (12)

  1. 少なくとも片面に複数の凹凸または突起が設けられている有機材料または無機材料のシートの複数のものが積層された積層体を備え、凹凸または突起によって積層体の内部から外部に連通する通路が形成されていることを特徴とする細胞培養体。
  2. 積層体を構成するシートが積層組立てとその分離が自在とされていることを特徴とする請求項1の細胞培養体。
  3. シートの表面に設けられている複数の凹凸または突起のピッチ幅が2μm〜10mmの範囲で、深さ(高さ)が2μm〜2mmの範囲であることを特徴とする請求項1記載の細胞培養体。
  4. シートの材質が高分子材であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の細胞培養体。
  5. シートの材質が生分解性高分子材であることを特徴とする請求項4記載の細胞培養体。
  6. シートの材質が乳酸、グリコール酸、カプロラクトンおよびヒドロキシブチレートの重合体またはこれらの共重合体並びにこれらの重合体または共重合体とポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコールとのブロックコポリマー、そしてキチン、キトサン、コラーゲン等の生体由来高分子のうちのいずれかであることを特徴とする請求項5記載の細胞培養体。
  7. シートの材質がハイドロキシアパタイト等のセラミックスであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の細胞培養体。
  8. シートが連通空孔を有していることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の細胞培養体。
  9. シートの表面に細胞接着性または細胞増殖性を向上するための処理が施されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の細胞培養体。
  10. シートの表面処理がオゾン処理、コロナ処理、およびプラズマ処理のうちの少くともいずれかであることを特徴とする請求項9記載の細胞培養体。
  11. シートの表面処理が細胞接着性蛋白質、糖蛋白質細胞接着性オリゴペプチド、ペプチド等のいずれかのコーティングまたは固定化であることを特徴とする請求項9記載の細胞培養体。
  12. 請求項1ないし11のいずれかの細胞培養体とこれにより培養された細胞からなることを特徴とする培養モジュール。
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