JP2004060038A - 被膜密着性に優れた超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】表面にフォルステライト被膜のない、最終仕上焼鈍済の方向性電磁鋼板の表面に、化学気相蒸着処理によって窒化物の被膜を形成するに際し、鋼板中に窒素を20ppm以上含有させる。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
【産業上の利用分野】
この発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関して、特に鋼板の表面に極めて張力付与効果の大きな被膜を形成し、鉄損特性の向上を図ろうとするものである。
【0002】
【従来の技術】
電磁鋼板は、無方向性電磁鋼板と方向性電磁鋼板の2つに大別され、無方向性電磁鋼板は主として回転機等の鉄心材料に、方向性電磁鋼板は主として変圧器その他の電気機器の鉄心材料として使用され、いずれもエネルギーロスを少なくするため、低鉄損の材料が求められている。
【0003】
方向性電磁鋼板の鉄損低減には、板厚を低減する、Si含有量を増す、或いは結晶方位の配向性を高める等の方法があるが、それに加えて鋼板に張力を付与することが有効である。鋼板への張力の付与方法としては、鋼板より熱膨張係数の小さい材質からなる被膜を設けることが一般的である。すなわち、最終的に結晶方位を揃える2次再結晶と鋼板の純化とを兼ねる最終仕上焼鈍工程にて、鋼板表面の酸化物と鋼板表面に塗布した焼純分離剤とが反応してフォルステライトを主成分とする被膜が形成されるが、この被膜は鋼板に与える張力が大きく、鉄損低減に効果がある。さらに、張力効果を増すために、フォルステライト被膜の上に、上塗りの低熱膨張性のコーティングを施して製品とすることも、一般に行われている。
【0004】
ところが、近年、鋼板表面を磁気的に平滑化する手法が開発され、仕上焼純工程で意図的にフォルステライト被膜の形成を抑制したり、形成されたフォルステライト被膜を除去した後、その表面を平滑に仕上げることが、鉄損の減少に有効であることが明らかとなってきている。例えば、特公昭52−24499号公報には、仕上焼鈍後、酸洗により表面生成物を除去し、次いで化学研磨または電解研磨により鏡面状態に仕上げる方法が開示されている。また、特開平5−43943号公報には、フォルステライト被膜を除去後、1000〜1200℃のH2中でサーマルエッチングする方法が開示されている。このような表面処理によって鉄損が減少するのは、磁化過程において、鋼板表面近傍の磁壁移動の妨げとなる、ピニングサイトが減少するためである。
【0005】
なお、ヒステリシス損失を減少させる磁気的に平滑な表面とは、一般にRa(算術平均粗さ)で表現される、いわゆる表面粗さのみで示されるものでなく、特公平4−72920号公報に記載された、表面生成物を除去した後にハロゲン化水溶液中で電解する、結晶方位強調処理にて得られるものも知られている。
【0006】
また、電磁鋼板の表面には、絶縁性の被膜が必要であるため、絶縁コーティングが施されるのが通例であり、現在、フォルステライト被膜を有する方向性電磁鋼板に適用される、張力付加型の絶縁コーティングとしては、Alやアルカリ土類金属のリン酸塩とコロイダルシリカ、無水クロム酸またはクロム酸塩を主成分とした処理液を、鋼板に塗布して焼付けることによって、形成されているものが多い。張力付加型の絶縁コーティングは、鋼板より熱膨張係数の小さいコロイダルシリカに代表される無機質被膜を高温で形成することより、地鉄と絶縁コーティングとの熱膨張差を利用して、常温において張力を鋼板に付与している。この方法で形成される絶縁被膜は鋼板に対して張力を付与する効果が大きく、鉄損低減に有効である。例えば、特公昭53−28375号公報あるいは特公昭56−52117号公報などに、その形成法が示されている。
【0007】
しかしながら、鋼板に対する張力付加の大きい被膜ほど、下地との密着力が強くなければ被膜が剥落してしまうため、上記張力付与型コーティングは、フォルステライト系の最終仕上焼鈍被膜が鋼板表面に存在する場合には問題ないが、鏡面化等の表面平滑化処理を行うような、最終仕上焼鈍後にフォルステライト被膜がない場合には、被膜を付着させることができなかった。このために、表面を磁気的に平滑化し鉄損を低減する技術と張力付与型コーティングによる鉄損低減技術とを両立させることは困難であった。
【0008】
従来、フォルステライト被膜のない表面、さらには調整された平滑な表面に張力付加型コーティングを被成する方法として、いくつかの方法が提案されている。例えば、特公昭52−24499号公報には金属めっき後に、そして特開平6−184762号公報にはSiO2薄膜を形成させた後に、それぞれ張力付加コーティング溶液を塗布して焼付ける方法が、示されている。また、特公昭56−4150号公報には、セラミックス薄膜を蒸着、スパッタリング、または溶射などによって形成させる方法が、そして特公昭63−54767号公報には窒化物や炭化物のセラミックス被膜をイオンプレーティングまたはイオンプランテーションによって形成する方法が、それぞれ示されている。さらに、特開平2−243770号公報には、いわゆるゾル−ゲル法によって、高張力付与型のセラミックス被膜を鋼板表面に直接形成する方法が開示されている。
【0009】
これらの方法は、平滑化された表面を有する鋼板に張力を付与する方法として開発されたものではあるが、いくつかの問題点を有し、実用化されるに至っていない。
すなわち、金属薄めっきを下地とし、その上にコーティング処理する方法では、均一なめっき面の平滑さ故に、被膜の密着性が十分でなく、SiO2薄膜を形成させる方法は張力付与効果に劣るなど、鉄損の改善効果は十分ではなかった。また、窒化物や炭化物等、あるいはその組合せからなるセラミックス被膜はいずれもその熱膨張係数が地鉄と比較してかなり低いため、熱膨張係数差による張力効果は大さいが、それゆえ曲げ加工時の地鉄と被膜との密着性に問題があった。
【0010】
さらに蒸着、スパッタリング、溶射、イオンプレーティング、イオンプランテーションによるセラミックス被膜の形成は高コストである上、大面積を大量処理する際の均一性確保が困難であったり、ゾル−ゲル法では従来と同様の塗布、焼付けによる被膜形成が可能であるものの、0.5μm以上の厚さの健全な被膜の形成がきわめて困難なため、大きな張力付与効果をもたらすには至らず、所期する鉄損善効果が得られなかった。
【0011】
特開昭63−57781号公報には、珪酸塩系被膜を設けた後、クロム酸やリン酸を主体とする絶縁被膜を形成する手法が開示されている。密着性は改善されるが、珪酸塩被膜、クロム酸−リン酸被膜ともに鋼板に対する張力付与効果がなく、被膜張力による鉄損値低減の効果は全く得られない。
【0012】
一方、特開昭61−201732号公報に開示されている化学気相蒸着法は、制約の多い真空槽を必要とすることなく、大面積に均一なセラミックス膜を形成することが可能な有力な手法である。すなわち、高温反応ゆえにセラミックスと鋼板との密着性も良好であり、上記スパッタリング、溶射、イオンプレーティング、イオンプランテーションなどの物理蒸着と比較して、被生成物の鋼板表面への衝突が弱いためか、平滑化された表面で達成されている極めて低いヒステリシス損失を損なうことなく、セラミックス膜を被成することが可能である。特に、ヤング率が高く、熱膨張係数の小さな窒化物や炭化物を、鋼板表面に被成するのに適している。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,セラミックス膜被成後、さらに張力付与型の絶縁コーティングを施したり、剪断歪みを除去する目的で歪取焼鈍を実施した場合に、被膜が変色などの変質を起こしたり、密着性が不十分で剥離する問題が依然として生じていた。これは鋼板とセラミックス膜との熱膨張係数差による解離が第一要因と考えられるが、強大な張力付与効果を得るためには、熱膨張係数差は不可欠な要素であり、何らかの手段で被膜密着性を改善する必要がある。
【0014】
さらに、化学蒸着法は熱活性律速である化学反応を促進させるため、高温にしたり、プラズマを併用したり、レーザー、光等で反応ガスを励起させることが行われるのが通例である。熱化学気相蒸着法では、基板のみを加熱するいわゆる冷壁型反応炉と、反応炉全体を加熱して鋼板を加熱するいわゆる外熱型反応炉とが使用される。冷壁型は基板が小さい場合には有利であるが、基板全体を均一の温度に加熱することが難しく、温度に敏感な熱化学気相反応法では部位によって被膜厚みに差が現れるという問題が生じる。一方、外熱型の場合、基板温度の均一性には優れるが、反応炉壁にも被生成物が同時に析出してしまうという問題が避けられなかった。
【0015】
そこで、この発明は、化学気相蒸着法によって被膜を被成した後に、さらに該被膜上への張力付与型コーティングの焼き付けや歪取焼鈍等の熱処理を行った場合にあっても、優れた被膜密着性が上記被膜において維持される、低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法について提案することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、化学気相蒸着法によって被成した被膜の密着性を向上する手段について鋭意究明したところ、被膜中の基本成分である元素を予め鋼中に含有させることによって、鋼板表面上での成膜を有利に進められることを見出し、この発明を完成するに到った。
【0017】
すなわち、この発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)表面にフォルステライト被膜のない、最終仕上焼鈍済の方向性電磁鋼板の表面に、化学気相蒸着処理によって窒化物の被膜を形成するに際し、該鋼板中に窒素を20ppm以上含有することを特徴とする被膜密着性に優れた超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法。
【0018】
(2)表面にフォルステライト被膜のない、最終仕上焼鈍済の方向性電磁鋼板の表面に、化学気相蒸着処理によって炭化物の被膜を形成するに際し、該鋼板中に炭素を20ppm以上含有することを特徴とする被膜密着性に優れた超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法。
【0019】
(3)表面にフォルステライト被膜のない、最終仕上焼鈍済の方向性電磁鋼板の表面に、化学気相蒸着処理によって炭窒化物の被膜を形成するに際し、該鋼板中に炭素および窒素のいずれか少なくとも一方を20ppm以上含有することを特徴とする被膜密着性に優れた超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を導くに到った実験結果について詳細に説明する。
C:0.07mass%、Si:3.3mass%、Mn:0.07mass%、S:0.025mass%、酸可溶性Al:0.026mass%、N:0.008mass%およびSn:0.1mass%を含む、板厚2.0mmの電磁鋼熱延板を、1120℃で2分間焼鈍した後、最終板厚0.23mmに冷間圧延した。この冷延板を、窒素および水素の混合ガス中において、雰囲気の酸化性(水蒸気と水素の分圧比PH2O/PH2で表せる酸化度)を種々に変化させて、850℃の温度で90秒焼鈍し、一次再結晶させた。得られた焼鈍後の鋼中炭素濃度は、それぞれ5、10、20、40、100、200、400および600ppmであった。
【0021】
引き続き、鋼板表面に、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を水スラリーで塗布した後、最終仕上焼鈍を1200℃まではN2:15vol%+H2:85vol%で行い、1200℃でH2:100vol%に切り替え20時間焼鈍を行った。得られた鋼板において、一次再結晶後の鋼中炭素量が200〜600ppmだった素材では、良好な鏡面が得られた。
【0022】
この理由としては、酸化性が低く鋼板表面に酸化膜が十分形成されていなかったためと推定され、逆に十分に脱炭反応が起こる高い酸化性雰囲気で一次再結晶させた素材では、最終仕上焼鈍後の試料表面には酸化膜が形成されていた。それらの試料については、フッ酸−過酸化水素水による化学研磨を行い、鏡面仕上げとした。
【0023】
その後、1000℃でTiCl4ガス、H2ガス、CH4ガスの混合雰囲気中で、化学気相蒸着処理にてTiCを0.5μm厚で形成させた。次いで、リン酸とコロイダルシリカとを主成分とするコーティング液を塗布し、850℃で絶縁被膜を被成した。その後、100vol%N2ガス中、800℃で3時間の歪取焼鈍を行った。
【0024】
この歪取焼鈍後の素材について、曲げ密着性の試験を行い、被膜の密着性を評価した。すなわち、試料を丸棒に押し当てて湾曲させ、被膜が剥離しない最小径を指標として評価した。その評価結果を、TiCの化学気相蒸着前の鋼中炭素量と併せて、表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1に示すように、化学気相蒸着に先立ち、鋼中炭素量を20ppm以上とした鋼板は、最小曲げ径10mmφ以下の極めて優れた密着性を示した。とりわけ、鋼中炭素量を40ppm以上とした鋼板では、測定限界である5mmφ以下という、さらに優れた密着性が得られた。
【0027】
表1に示した結果は、鋼中に予め窒素を含有させ、その後化学気相蒸着法によりTiN膜を形成した場合、そして鋼中に予め炭素および窒素の少なくともいずれか一方を含有させ、その後化学気相蒸着法によりTiCN膜を形成した場合、でも同様であった。
以上より、通常は炭素で10ppm以下および窒素で5ppm以下の組成を有する、最終仕上焼鈍後の方向性電磁鋼板に対し、20ppm以上の炭素または/および窒素を鋼中に含有させることによって、その後の化学気相蒸着膜の密着性を飛躍的に向上できることがわかった。
【0028】
さらに、適正な厚みのTiC膜の形成に必要な炭素量を予め鋼中に確保しておけば、化学気相蒸着中に炭素源であるCH4ガスを使用しなくても、密着性の良好なTiC膜を形成できることがわかった。これは、上述した熱壁型反応炉を用いて化学気相蒸着処理を行う場合に問題となる、炉の内壁への析出抑止にも効果的であり、また原料ガスからCH4を除いた混合ガス組成で蒸着を行えば、炭素源を持つ鋼板表面でのみTiCの析出反応を起こすことができ、TiCの収率向上の点でも極めて有効である。かような効果は、窒化物および炭窒化物の被膜形成においても同様である。
【0029】
また、鋼中炭素量が多い素材ほど短時間で成膜が終了する傾向が見られた。この理由として、一つは炭素原料の供給経路が二つとなることである。しかしもう一つ、通常は炭素源となるCH4の分解がTiC膜形成の反応律速となっているのに対し、この発明の場合には鋼中より原子状の炭素が直接供給されることが、成膜速度の向上に寄与したのではないかと考えられる。かような効果は、窒化物および炭窒化物の被膜形成においても同様である。
【0030】
ここで、化学気相蒸着法としては、TiC14等の金属塩化物ガスと、もう一方の原料ガスとして、窒化物ならばN2, NH3, (CH3)3N, (CH3)2NHガスなど、炭化物ならばCH4, CO, C2H4, C3H6, C3H8, C2H6, i−C5H12などを混合した雰囲気中にて、鋼板を加熱することにより、セラミックスの被膜を得る。もちろん、両者を混合して炭窒化物としても何ら問題はないし、酸化物や硼化物等も公知の方法で実施可能である。その他、バランスガスとしてArガスなどが使用される。
【0031】
また、金属源として、有機金属ガスを用いる、いわゆるMO−CVD法やプラズマやレーザー、光誘起などを併用し、より低温化を指向したCVD手法も近年盛んになりつつあるが、この発明の場合、後続の熱処理温度にもよるが、試料あるいは化学蒸着槽全体を加熱する熱CVD法がより適していると思われる。ただし、蒸着速度向上等を目的として、上記手法を併用するのは、この発明の範囲内であれば、何ら差し支えない。
【0032】
かくして得られる被膜物質としては、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Co,Ni,Al,BおよびSiなどの窒化物、炭化物または炭窒化物等であり、その2種以上を積層しても構わず、鋼中の炭素か窒素の少なくともいずれかの鋼中含有量が20ppm以上を満たしていれば、TiCNのような炭窒化物膜の密着性にも顕著な効果が見られた。
【0033】
被膜の厚みについては、0.01μm以上5μm以下の範囲が適合し、0.01μmに満たない場合は、十分な張力付与効果や被膜密着性が得られず、5μmを越えると膜自身の密着性や電磁鋼板の占有率において不利となる。
【0034】
この発明に従って化学蒸着処理を適用する仕上焼鈍後の鋼板表面としては、単にフォルステライト被膜の形成を抑制した、もしくはフォルステライト被膜を除去しただけの地鉄面でも有効ではあるが、さらに表面に平滑化処理を施した方が、鉄損値の低下により効果的である。例えば、酸洗、サーマルエッチングや化学研磨等により表面粗さを極力小さくし、鏡面状態に仕上げた表面やハロゲン化物水溶液中での電解による結晶方位強調処理で得られるグレイニング様面等が挙げられる。
なお、「フォルステライト被膜がない」状態とは、フォルステライトが離散的な島状になる等部分的に存在し、実質的に被膜を形成していない場合も含まれる。
【0035】
また、打ち抜き性等の加工性を重視して最終仕上焼鈍に使用する焼純分離剤の主成分を替えたり、添加物を加えることにより、最終仕上焼鈍被膜の形成を抑止した、方向性電磁鋼板も好適である。
【0036】
化学気相蒸着前に鋼中の炭素や窒素量を高める方法は、多々あるため、適宜選択して適用すればよい。例えば、炭素であれば、前述のように一次再結晶焼鈍時に脱炭反応を抑制する雰囲気中で行い、鋼中に炭素を残留させるのが最も簡便であるが、COガス等を利用したガス浸炭処理を行ったり、炭化物を密着させたり、その粉末を塗布する固体浸炭処理を行うことも可能である。窒素についても、AlNやBNなどの窒化物をインヒビターとして使用している場合には、最終仕上焼鈍時に行われるH2による純化処理を行わずに、窒素源を残留させたり、NH3分解を利用したり、イオン窒化やプラズマ窒化法を利用したりすることができる。いずれにしても、化学気相蒸着前に20ppm以上の炭素または/および窒素を含有させることが肝要である。
【0037】
なお、化学気相蒸着後に鋼中に残留する炭素および窒素の上限量は、炭化物または窒化物の析出による時効劣化を抑制するために、それぞれ30mass ppmおよび100mass ppmとすることが好ましい。
【0038】
さらに、化学気相蒸着した窒化物、炭化物または炭窒化物の被膜上に被成する絶縁被膜としては、方向性電磁鋼板に使用される無機質コートが利用可能である。特に、張力付与効果を有するコーティングは、超低鉄損化を達成するために表面を平滑化した方向性電磁鋼板と組合せると、極めて有効である。張力付与型コーティングとしては、熱膨張係数を低下させるシリカを含むコーティングが推奨され、従来、フォルステライト被膜を有する方向性電磁鋼板に用いられている、リン酸塩−コロイダルシリカークロム酸系のコーティング等が、その効果およびコスト、均一処理性などの点から、適している。また、絶縁被膜の厚みとしては、張力付与効果や占積率、被膜密着性等の点から、0.3μm以上10μm以下の範囲が好ましい。
【0039】
また、張力コーティングとしては、上記以外にも、特開平6−65754号公報、特開平6−65755号公報および特開平6−299366号公報などで提案されている、ホウ酸−アルミナ等の酸化物系被膜を適用することも可能である。
【0040】
以下、この発明の方法について、まず電磁鋼板の成分組成から順に説明する。
この発明で使用される鋼板の成分としては、Siを1.5〜7.0mass%含有することが望ましい。すなわち、Siは製品の電気抵抗を高め鉄損を低減するのに有効な成分であるが、Siは7.0mass%を超えると硬度が高くなり、製造や加工が困難になりがちである。一方、1.5%未満であると、最終仕上げ焼鈍中に変態を生じて安定した2次再結晶組織が得られない。
【0041】
また、インヒビター元素として、Alを初期鋼中に0.006mass%以上含有することにより、結晶配向性をより一層向上することができる。上限は0.06mass%程度であり、これを越えると再び結晶配向の劣化が生じる。
【0042】
さらに、鋼中には、上記の元素の他に、公知の方向性電磁鋼板の製造に適するインヒビター成分として、B,Bi,Sb,Mo,Te,Sn,P,Ge,As,Nb,Cr,Ti,Cu,Pb,ZnおよびInなどが知られていて、これらの元素を単独、または複合で含有させることができる。また、インヒビターを使用しない方法による方向性電磁鋼板に対しても、この発明の適用が可能である。
【0043】
次に、この発明の電磁鋼板の製造方法について、詳しく説明する。
上記した所定成分に調整された鋼スラブは、通常スラブ加熱に供された後、熱間圧延により熱延コイルとされるが、この鋼スラブの加熱温度については1300℃以上の高温度とする場合と、1250℃以下の低温度とする場合のいずれでも良い。また、近年、スラブ加熱を行わず連続鋳造後、直接熱間圧延を行う方法が開発されているが、この方法で熱間圧延される場合にも適用できる。
【0044】
熱間圧延後の鋼板は必要に応じて熱延板焼鈍を施し、1回の冷間圧廷もしくは中間焼鈍を挟む複数回の圧延によって最終冷間圧延板とされる。これらの圧延については、動的時効を狙ったいわゆる温間圧延や、静的時効を狙ったパス間時効を施したものであっても良い。
【0045】
最終冷間圧延後の鋼板は、脱炭焼鈍を兼ねる1次再結晶焼鈍に供され、最終仕上焼純により2次再結晶処理をされ、方向性電磁鋼板を得る。通常、1次再結晶焼鈍後に焼鈍分離剤を塗布し、最終仕上焼純の際にフォルステライト被膜を形成させるが、このフォルステライト被膜を酸洗や研磨等により除去するか、もしくは焼鈍分離剤の組成を調整して、鋼板表面上のフォルステライト被膜の生成を抑制し、実質的に金属外観を有する状態とする。
【0046】
このようにして得られた鋼板に、更なる鉄損低減を目的として、レーザーあるいはプラズマ炎等を照射して磁区の細分化を行うことは、絶縁コーティングの密着性にはなんら問題ない。また、この発明の方向性電磁鋼板の製造工程の任意の段階において、磁区細分化のために、鋼板表面にエッチングや歯形ロールで一定間隔の溝を形成することも、一層の鉄損低減をはかる手段として有効である。
【0047】
【実施例】
実施例1
C:0.06mass%、Si:3.2mass%、Mn:0.07mass%およびSe:0.04mass%を含有する、最終板厚0.23mmに圧延された冷延コイルに、磁区細分化のために5mm間隔で、圧延方向に延びる複数の溝をエッチングにて形成してから、脱炭を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した後、MgOを主成分とし塩化鉛を含む焼純分離剤を塗布し、フォルステライト被膜のない平滑な表面を有する、最終仕上焼鈍済の鋼板を作製した。得られた鋼板の窒素含有量は、測定限界(5ppm)以下であった。この鋼板に対して、550℃、50torrの窒素および水素の混合雰囲気下でイオン窒化させ、種々の鋼中窒素含有量を有する試料とした。なお、一部の試料については、増窒化処理を実施しなかった。
【0048】
その後、TiCl4、H2およびN2の混合ガスからなる雰囲気中にて、TiNを片面当たり1.0μm厚で形成した。TiCl4は、気化器で150℃に加熱することによってガス化させ、H2およびN2ガスと種々の混合比率でミキシングし、それぞれの分圧を調整した。次いで、TiN膜の被成後、第一リン酸Mgに重クロム酸Kを15重量部加えた水溶液に、30mass%コロイダルシリカを30重量部混合したものを、ロールコーターで塗布し、800℃で1分間焼き付け、絶縁被膜を形成させた。さらに、歪取焼鈍として850℃で3時間の焼鈍を行った。
【0049】
かくして得られた鋼板について、850℃で3時間の歪取焼鈍後の被膜密着性を最小剥離径で評価した。その評価結果を、TiN化学気相蒸着前の鋼中窒素量および被膜外外観と併せて、表2に示す。試料4〜6は、化学気相蒸着前の鋼中窒素含有量がこの発明の要件を満足するものであり、美麗で優れた外観と極めて優れた被膜密着性を示している。これらに対し、化学気相蒸着前にイオン窒化による増窒化処理を行わなかった試料1や、窒素含有量が十分でない試料2および3は、歪取焼鈍後の被膜密着性が劣り、もともと金色に近かったTiN膜も茶褐色に変化した。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例2
C:0.07mass%、Si:3.3mass%、酸化溶性Al:0.026mass%、N:0.008mass%およびSb:0.05mass%を含有する、最終板厚0.23mmに圧延された冷延板に、一次再結晶焼鈍を施すに当たり、一次再結晶焼鈍における雰囲気酸化性を変化させ、種々の炭素量を含有させた素材を作製した。次いで、酸洗によりSiO2被膜を主体とする酸化膜を除去した後、焼鈍分離剤としてアルミナを用いることにより、フォルステライト被膜のない平滑な表面を有する最終仕上焼鈍板を得た。得られた鋼板に対し、TiCl4、H2およびCH4の混合ガスからなる雰囲気中にて、TiCを片面当たり0.5μm厚で形成した。H2ガスおよびCH4ガスは種々の混合比とし、TiCl4濃度はH2ガスをキャリアガスとしTiCl4液中をバブリングさせることで調整した。
【0052】
次いで、硼酸とベーマイトを主成分とする絶縁コーティング液(酸化物換算モル比B2O3/Al2O3=0.5)をロールコーターにて塗布し、800℃で120秒間焼き付けた。さらに、張力付与のために、900℃で1時間の焼鈍を行った。その後、歪取焼鈍として、850℃で3時間の焼鈍を行った。
【0053】
かくして得られた鋼板について、850℃で3時間の歪取焼鈍後の被膜密着性を最小剥離径で評価した。その評価結果を、TiC化学気相蒸着前の鋼中窒素量および被膜外外観と併せて、表3に示す。試料4〜6は、化学気相蒸着前の鋼中炭素含有量がこの発明の要件を満足するものであり、美麗な外観と極めて優れた被膜密着性が得られた。これらに対し、化学気相蒸着前の炭素含有量が十分でない試料1〜3は、歪取焼鈍後の被膜密着性が劣り、被膜外観も黒変化が著しく均一な被膜外観は得られなかった。
【0054】
【表3】
【0055】
実施例3
実施例2と同様に作製した最終仕上焼鈍板に対し、TiCl4、CH4、N2、H2およびArの混合ガスからなる雰囲気中にて、TiCNを片面当たり0.7μm厚で形成した。CとNのモル比は1:1ではなく多少変動したが、密着性、磁気特性に対する影響は特にみとめられなかった。
ついで、第一リン酸Alに硝酸マンガンとコロイダルシリカを添加・混合したクロムフリーコートを塗布し、850℃で焼き付けた。その後、820℃で3時間の歪取焼鈍を行い、被膜密着性を評価した。その評価結果を表4に示す。試料4〜6はこの発明に適合する例であり、美麗な外観と極めて優れた被膜密着性を示した。これらに対し、化学気相蒸着前の炭素含有量が十分でない試料1〜3は、歪取焼鈍後の被膜密着性に劣り、白味ががった金色のTiCNは茶褐色に変化した。
【0056】
【表4】
【0057】
【発明の効果】
この発明により、フォルステライト被膜のない平滑な方向性電磁鋼板の表面に、張力付与効果が大きく、かつ密着性に極めて優れる被膜を化学蒸着処理にて被成することができるため、被膜密着性に優れる極めて鉄損値の低い方向性電磁鋼板の製造が可能となる。
Claims (3)
- 表面にフォルステライト被膜のない、最終仕上焼鈍済の方向性電磁鋼板の表面に、化学気相蒸着処理によって窒化物の被膜を形成するに際し、該鋼板中に窒素を20ppm以上含有することを特徴とする被膜密着性に優れた超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法。
- 表面にフォルステライト被膜のない、最終仕上焼鈍済の方向性電磁鋼板の表面に、化学気相蒸着処理によって炭化物の被膜を形成するに際し、該鋼板中に炭素を20ppm以上含有することを特徴とする被膜密着性に優れた超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法。
- 表面にフォルステライト被膜のない、最終仕上焼鈍済の方向性電磁鋼板の表面に、化学気相蒸着処理によって炭窒化物の被膜を形成するに際し、該鋼板中に炭素および窒素のいずれか少なくとも一方を20ppm以上含有することを特徴とする被膜密着性に優れた超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法。
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