JP2004058028A - 電気化学セル型化学反応システム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】被処理物質の化学反応を行うための化学反応システムであって、酸素イオン伝導体(イオン伝導相)、及びこれを挟んで相対するカソード(還元相)及びアノード(酸化相)の両電極を基本単位として化学反応部を構成し、上記化学反応部における、イオン伝導体、電子伝導体、混合導電体のいずれかを組み合わせて構成される電子伝導相とイオン伝導相の接点に対して、通電、電界印加、又は還元性雰囲気若しくは減圧下で熱処理を行うことにより、上記化学反応部の一部に、被処理物質に対する酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入したことを特徴とする、化学反応システム。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気化学セル型化学反応システムに関するものであり、更に詳しくは、例えば、酸素を含む燃焼排ガスから窒素酸化物を効率的に浄化する化学反応システムに関するものである。本発明は、上記化学反応システムの化学反応部の一部に、被処理物に対する酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入し、排ガス中から酸素と窒素酸化物を上記微小反応領域内の特定構造により分離吸着することにより、少ない消費電力で高効率に被処理物質を処理することを可能とする新しい化学反応器を提供するものとして有用である。
【0002】
【従来の技術】
ガソリンエンジンから発生する窒素酸化物の浄化は、現在、三元系触媒による方法が主流となっている。しかし、燃費向上を可能とするリーンバーンエンジンやディーゼルエンジンにおいては、燃焼排ガス中に酸素が過剰に存在するため、三元系触媒表面への酸素の吸着による触媒活性の激減が問題となり、窒素酸化物を浄化することができない。
【0003】
一方、酸素イオン伝導性を有する固体電解質膜を用いて、そこへ電流を流すことにより、排ガス中の酸素を触媒表面に吸着させることなく除去することも行われている。触媒反応器として提案されているものとして、電極に両面を挟まれた固体電解質に電圧を印加することにより、表面酸素を除去すると同時に窒素酸化物を酸素と窒素に分解するシステムが知られている。
【0004】
しかしながら、上記方法では、燃焼排ガス中に過剰の酸素が存在する場合、共存している酸素と窒素酸化物の吸着分解反応サイトが同一の酸素欠陥よりなるため、酸素分子に対する窒素酸化物の吸着確率は、分子選択性及び共存分子数比から見て著しく低くなり、このため、窒素酸化物を分解するには多量の電流を流す必要があり、消費電力が増大するという問題点を有する。
【0005】
このような状況の中で、本発明者らは、既に、化学反応器において、カソードの内部構造を、同層上部にナノメートルサイズの貫通孔を取り巻いて、電子伝導体とイオン伝導体がナノメートルからミクロン以下のサイズで相互に密着したネットワーク状に分布する構造とすることで、被処理物質の化学反応を行う際に妨害ガスとなる過剰な酸素を低減させることにより、少ない消費電力で高効率に被処理物質を処理できることを見出している(特願2001−225034)。しかし、その際に、この方法では、同層上部を通過してきた被処理ガス中に残存する酸素分子は、依然として窒素酸化物より優先的に反応サイトに吸着分解されるため、消費電力の低減は不十分であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、これらの諸問題を解決することを目標として鋭意研究を重ねた結果、化学反応部(例えば、カソード上部に位置する作動電極層)において、還元反応を同時に行うための反応場の対を形成し、各々の有する酸素分子と窒素酸化物への選択吸着性を利用することで、反応の効率化が可能であることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明の課題は、上記先行技術の問題点を解決することにあり、燃焼排ガス中に過剰の酸素が存在する場合に、酸素分子と窒素酸化物分子に対する選択吸着性物質を対にして、窒素酸化物を吸着しやすくすることにより、窒素酸化物の分解に必要な電流量を減らし、少ない消費電力で高効率に窒素酸化物を浄化できる化学反応器を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)被処理物質の化学反応を行うための化学反応システムであって、酸素イオン伝導体(イオン伝導相)、及びこれを挟んで相対するカソード(還元相)及びアノード(酸化相)の両電極を基本単位として化学反応部を構成し、上記化学反応部における、イオン伝導体、電子伝導体、混合導電体のいずれかを組み合わせて構成される電子伝導相とイオン伝導相の接点に対して、通電、電界印加、又は還元性雰囲気若しくは減圧下で熱処理を行うことにより、上記化学反応部の一部に、被処理物質に対する酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入したことを特徴とする、化学反応システム。
(2)上記微小反応領域として、電子伝導相とイオン伝導相の接点に、電子伝導相の金属相部、イオン伝導相の酸素欠乏部、及びそれらの接点周辺の微小空間部(空隙)、からなる界面を形成したことを特徴とする、前記(1)記載の化学反応システム。
(3)カソードに、上記酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入したことを特徴とする、前記(1)記載の化学反応システム。
(4)カソードの上部に酸化還元反応を司る作動電極層を形成し、同層内に、上記酸化還元反応が行われる、ナノメートル〜マイクロメートルの大きさの微小反応領域を導入したことを特徴とする、前記(1)記載の化学反応システム。
(5)上記微小反応領域の全体もしくは一部を構成する物質が、被処理物質に対して酸化及び還元作用を及ぼすことを特徴とする、前記(1)記載の化学反応システム。
(6)上記金属相が、上記化学反応システムへの通電処理又は還元雰囲気中での熱処理により、電子伝導体又は混合導電体の一部若しくは全体にわたり発生させた、酸化還元反応により生成した金属相の超微粒子からなることを特徴とする、前記(1)記載の化学反応システム。
(7)上記酸素欠乏部が、上記化学反応システムへの通電処理又は還元雰囲気中での熱処理により、イオン伝導体又は混合導電体の一部若しくは全体にわたり発生させた、酸化還元反応により生成した酸素欠乏層からなることを特徴とする、前記(1)記載の化学反応システム。
(8)上記微小反応領域の構成として、イオン伝導体と電子伝導体が少なくとも1ヵ所において直接接触している構造を有するか、又はその製造過程において接触していることを特徴とする、前記(1)記載の化学反応システム。
(9)電気化学セル表面から上記の化学反応が行われる空間へ被処理物質が到達する経路において、電子伝導を遮断可能な物質によるバリア層を含むことを特徴とする、前記(1)記載の化学反応システム。
(10)上記の化学反応が、物質、又はエネルギーの変換反応であることを特徴とする、前記(1)記載の化学反応システム。
(11)上記被処理物質が、窒素酸化物であることを特徴とする、戦記(1)記載の化学反応システム。
(12)上記化学反応が、窒素酸化物の還元分解であることを特徴とする、前記(10)記載の化学反応システム。
(13)上記化学反応システムにおいて、以下の一般式で表される化学反応、
一般式:MOx+xe→M+x/2O2 −
M→xe+MX+
(M:金属、O:酸素原子、e: 電子)
を生じせしめることを特徴とする、前記(9)記載の化学反応システム。
(14)前記(1)から(13)のいずれかに記載の化学反応システムを製造する方法であって、上記化学反応部における、イオン伝導体、電子伝導体、混合導電体のいずれかを組み合わせて構成される電子伝導相とイオン伝導相の接点に対して、通電処理又は還元雰囲気中での熱処理を行うことにより、上記化学反応部に、被処理物質に対する酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入することを特徴とする、化学反応システムの製造方法。
(15)上記物質が接して界面を構成する際に、いずれか一方又は両方が還元状態にあることを特徴とする、前記(14)記載の方法。
(16)前記(1)記載の化学反応システムにおいて、電流を通電することにより、電子伝導相又は混合導電相の金属相部と、イオン伝導相又は混合導電相の酸素欠乏部との対を形成することを特徴とする、化学反応システムの活性化方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、被処理物質の化学反応を行うための化学反応システムに係るものであり、この化学反応システムは、前記被処理物質の前記化学反応を進行させる化学反応部と、好ましくは、酸素のイオン化を阻害するためのバリア層とからなる。
【0009】
被処理物質の化学反応を行う化学反応部は、好ましくは、被処理物質中に含まれる元素へ電子を供給してイオンを生成させる還元相と、還元相からのイオンを伝導するイオン伝導相と、このイオン伝導相を伝導したイオンから電子を放出させる酸化相とを備えている。
【0010】
本発明において、好ましくは、被処理物質が、燃焼排ガス中の窒素酸化物であり、還元相において窒素酸化物を還元して酸素イオンを生成させ、イオン伝導相において酸素イオンを伝導させる。しかし、本発明における被処理物質は、窒素酸化物に限定されるものではない。本発明の化学反応器によって、二酸化炭素を還元して一酸化炭素を生成でき、メタンから水素と一酸化炭素との混合ガスを生成でき、あるいは水から水素を生成できる。
【0011】
化学反応システムの形態は、例えば、管状、平板状、ハニカム状等であってよいが、特に、管状、ハニカム状のように、一対の開口を有する貫通孔を一つ又は複数有しており、各貫通孔中に化学反応部が位置していることが好ましい。
【0012】
上記化学反応において、還元相は、多孔質とし、反応の対象とする物質を選択的に吸着することが好ましい。還元相では、被処理物質中に含まれる元素へと電子を供給しイオンを生成させ、生成したイオンをイオン伝導相へ伝達するために、導電性物質からなることが好ましい。また、電子及びイオンの伝達を促進するために、電子伝導性とイオン伝導性の両特性を有する混合伝導性物質からなること、又は、電子伝導性物質とイオン伝導性物質の混合物からなることがより好ましい。還元相は、これらの物質を少なくとも二相以上積層した構造であってもよい。
【0013】
還元相として用いられる導電性物質及びイオン導電性物質は、特に限定されるものではない。導電性物質としては、例えば、白金、パラジウム等の貴金属や、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化銅、ランタンマンガナイト、ランタンコバルタイト、ランタンクロマイト等の金属酸化物が用いられる。被処理物質を選択的に吸着するバリウム含有酸化物やセオライト等も還元相として用いられる。前記物質の少なくとも1種類以上を、少なくとも1種類以上のイオン伝導性物質との混合質として用いることも好ましい。イオン伝導性物質としては、例えば、イットリア又は酸化スカンジウムで安定化したジルコニアや酸化ガドリニウム又は酸化サマリウムで安定化したセリア、ランタンガレイト等が用いられる。還元相が前記物質を少なくとも二相以上積層した構造からなることも好ましい。より好ましくは、還元相は、白金等の貴金属からなる導電性物質相と酸化ニッケルとイットリア又は酸化スカンジウムで安定化したジルコニアの混合物相の二相を積層した構造からなる。
【0014】
イオン伝導相は、イオン伝導性を有する固体電解質からなり、好ましくは、酸素イオン導電性を有する固体電解質からなる。酸素イオン伝導性を有する固体電解質としては、例えば、イットリア又は酸化スカンジウムで安定化したジルコニアや酸化ガドリニウム又は酸化サマリウムで安定化したセリア、ランタンガレイトが挙げられるが、特に限定されるものではない。好ましくは、高い導電性と強度を有し、長期安定性に優れたイットリア又は酸化スカンジウムで安定化したジルコニアが用いられる。
【0015】
酸化相は、イオン伝導相からのイオンから電子を放出させるため、導電性物質を含有する。電子及びイオンの伝達を促進するため、電子伝導性とイオン伝導性の両特性を有する混合伝導性物質からなること、又は、電子伝導性物質とイオン伝導性物質の混合物からなることが好ましい。酸化相として用いられる導電性物質及びイオン伝導性物質は、特に限定されるものではない。導電性物質としては、例えば、白金、パラジウム等の貴金属や、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化銅、ランタンマンガナイト、ランタンコバルタイト、ランタンクロマイト等の金属酸化物が用いられる。イオン伝導性物質としては、例えば、イットリア又は酸化スカンジウムで安定化したジルコニアや酸化ガドリニウム又は酸化サマリウムで安定化したセリア、ランタンガレイトが用いられる。
【0016】
バリア層は、酸素分子を表面吸着した際に、酸素イオンを生成するために必要な電子の供給を防ぐため、化学反応部、特に、還元相による供給電子が表面に到達することを抑止する材料及び構造を有する。このバリア層は、イオン伝導体又は混合導電体又は絶縁体であることが望ましく、混合導電体の場合は、電子伝導性が大きいと電子伝導の抑止効果が低下するため、電子伝導性の割合が極力小さいことが望ましい。
【0017】
本発明は、上記化学反応部における、イオン伝導体、電子伝導体、混合導電体のいずれかを組み合わせて構成される電子伝導相とイオン伝導相の接点に対して、通電、電界印加、又は還元性雰囲気若しくは減圧下で熱処理を行うことにより、上記化学反応部の一部に、被処理物に対する酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入したことを特徴としている。本発明では、上記微小反応領域として、電子伝導相とイオン伝導相の接点に、電子伝導相の金属相部、イオン伝導相の酸素欠乏部、及びそれらの接点周辺の微小空間部(空隙)、からなる界面を形成すること、また、カソードに、上記酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入したこと、また、カソードの上部に酸化還元反応を司る作動電極層を形成し、同層内に、上記酸化還元反応が行われる、ナノメートル〜マイクロメートルの大きさの微小反応領域を導入したこと、が特徴点としてあげられる。
【0018】
化学反応部中のカソード上部に位置する作動電極層は、先に見出された高効率での被処理物質の吸着分解(特願2001−225034)に加え、酸素分子の吸着と被処理物質の吸着を、各々の反応に適した別々の物質により同時に行うことが可能な構造を有するものである。即ち、図2に例示したように、酸化物の還元により生成、若しくは、当初から含まれる金属相(高反応性を得るためには、望ましくは、超微粒子(10nm〜100nm程度の粒子径)の態様)と、その近傍に存在するイオン伝導相の酸素欠乏部とが接し、接点の周辺に数nmから数10nm以下の微小空間部を介在することにより、導入された被処理ガス中の酸素分子が酸素欠乏部に、被処理物が金属相に各々選択的に吸着分解されることで、消費電力が著しく低減される。接点周辺の空間の大きさが数10nm以上になると、ガス分子の平均自由行程より大きくなる結果、分離吸着効果は次第に減少し、若しくは接点周辺部の形成領域が100nmより大きくなること、即ち、デバイ長及び酸素欠損の拡散長より十分大きくなる結果としても、被処理ガスに対する選択分離浄化性能は低減する。
【0019】
また、金属相と酸素欠乏部とは、その生成メカニズムから通常は接点を形成するが、上記の選択分離機能が作用するためには、必ずしも接触する必要はない。即ち、通電により、金属相(反応前には酸化物相)からの電子供与によるイオン伝導相中の酸素の移動の結果、形成される酸素欠乏部と金属相とが、その形成後に熱収縮などの作用で接触を失うとしても、本発明の作用である被処理ガスに対する選択分離機能の重大な妨げとなるものではない。
【0020】
このような構造は、先に見出された構造の形成に必要な熱処理プロセス(ジルコニア−酸化ニッケル系で1400〜1450℃大気中での熱処理)に加え、化学反応システムへの通電又は還元雰囲気若しくは減圧下で熱処理を行うことにより形成される。即ち、上記構造は、比較的容易に還元されやすい酸化物を用い、数100℃以上の高温下で通電すること、若しくは水素雰囲気等の還元雰囲気若しくは減圧下で熱処理を施すことで還元相を形成することが必要条件である。
【0021】
その過程で、酸化還元反応による結晶相の体積変化により、被処理ガスの導入に適したナノメートルからミクロンメートルサイズの空孔の生成、還元相の再結晶による超微粒子化、更には、酸化還元反応を通じたイオン伝導相の酸素欠乏部の形成等の、高効率反応に好ましい微細構造が同時に形成されることが、特に、通電処理の場合により好ましく生じる。
【0022】
このような構造を構成する物質としては、イオン伝導相と電子伝導相の組合せ、混合伝導相同士又はこれとイオン伝導相、電子伝導相との組合せが可能である。被処理物を窒素酸化物とした場合、還元相としては、ニッケル等の金属相が高選択吸着性を示すためにより好ましい。
【0023】
本発明では、上記微小反応領域の全体若しくは一部を構成する物質が、被処理物質に対して酸化及び還元作用を及ぼす。上記金属相は、例えば、上記化学反応システムへの通電処理又は還元雰囲気中での熱処理により、電子伝導体又は混合導電体の一部若しくは全部にわたり発生させた、酸化還元反応により生成した金属相の超微粒子からなる。また、上記酸素欠乏部は、上記化学反応システムへの通電処理又は還元雰囲気中での熱処理により、イオン伝導体又は混合導電体の一部若しくは全部にわたり発生させた、酸化還元反応により生成した酸素欠乏層からなる、上記微小反応領域では、イオン伝導体と電子伝導体は、少なくとも1ヵ所において直接接触している構造を有するか、又はその製造過程において接触している。
【0024】
本発明の化学反応システムは、上記化学反応部における、イオン伝導体、電子伝導体、混合導電体のいずれかを組み合わせて構成される電子伝導相とイオン伝導相の接点に対して、通電処理又は還元雰囲気若しくは減圧下で熱処理を行うことにより、上記化学反応部に、被処理物質に対する酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入することにより作製できる。上記物質が接している界面を構成する際に、いずれか一方又は両方が還元状態にあることが好ましい。
本発明は、上記化学反応が、物質、又はエネルギーの変換反応であること、上記被処理物質が、窒素酸化物であること、上記化学反応が、窒素酸化物の還元分解であること、上記化学反応が、一般式:MOx+xe→M+x/2O2 −
M→xe+MX+
(M:金属、O:酸素原子、e: 電子)
であること、が好ましい。
【0025】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。図1は、本発明の一実施態様に係る化学反応システムの構成図である。被処理物であるガスの流れに対し、化学反応システム7を構成する化学反応部6は、作動電極層2、カソード(還元相)3、イオン伝導相4、アノード(酸化相)5の順に上流側から位置し、その上流側にバリア層1が位置する。すなわち、被処理ガスは、1から5の順に通過する。
図2は、本発明に係る作動電極層2における望ましい内部局所構造の微小反応領域の一例である。以下、被処理物質として、窒素酸化物を用いた場合について具体的に説明する。
【0026】
実施例1
イオン伝導相4として、イットリアで安定化したジルコニアを用い、その形状は、直径20mm、厚さ0.5mmの円板状とした。還元相3は、白金及びジルコニアの混合層、作動電極層2は、酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニアの混合物からなる膜とした。白金膜は、イオン伝導相4の片面に面積約1.8cm2 となるようにスクリーン印刷した後、1200℃で熱処理することにより形成した。酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニアの混合膜は、白金膜上に白金膜と同一面積となるようにスクリーン印刷した後、1450℃で熱処理することにより形成した。酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニアの混合比は、モル比で6:4とした。還元相を形成したイオン伝導相4の他方の面に面積約1.8cm2 となるように白金膜をスクリーン印刷した後、1200℃で熱処理することにより形成し、酸化相5とした。バリア層1はイットリア安定化ジルコニアを用い、スクリーン印刷と1400℃の熱処理により、約3ミクロンの膜厚で作動電極層2の上部に形成した。更に、カソード3とアノード5の間に1.2V−25mAの電流を通電しながら温度を650℃に上昇させ、1時間保った後で通電停止、徐冷した。
【0027】
このようにして形成した本発明の化学反応システムによる窒素酸化物の処理方法を、次に示す。被処理ガス中に化学反応システム7を配置し、還元相3と酸化相5に白金線をリード線として固定し、直流電源に接続、直流電圧を印加して電流を流した。評価は、反応温度500℃から600℃の範囲で行った。被処理ガスとして、一酸化窒素1000ppm、酸素2%、ヘリウムバランスのモデル燃焼排ガスを流量50ml/minで流した。化学反応器に流入前後における被処理ガス中の窒素酸化物濃度を化学発光式NOx計で測定し、窒素及び酸素濃度をガスクロマトグラフィーで測定した。窒素酸化物の減少量から、窒素酸化物の浄化率を求め、浄化率が50%となるときの電流密度及び消費電力を測定した。
【0028】
化学反応器を反応温度600℃に加熱し、化学反応部に通電を行った。この時、電流量の増加と共に窒素酸化物の浄化率は向上し、電流密度31mA/cm2、消費電力61mW/ cm2 の時に窒素酸化物は約50%に減少した。図3に、本発明の化学反応リアクターの性能例を、既出願リアクターの性能及び既存の研究成果と比較して記載する。この図から、本発明の化学反応リアクターの性能が、既存研究成果と比べて優れていることが明らかである。
【0029】
実施例2
実施例1と同様に行った化学反応システムの、作製プロセス最終段階の通電加熱処理について、カソード3とアノード5の間に1.2V−25mAの電流を通電しながら温度を650℃に上昇させ、1時間保った後で通電停止、徐冷するサイクルを4回繰り返し、処理回数と窒素酸化物処理能力との関係を調べた。この時、2サイクル処理時に電流密度25mA/cm2 、消費電力49mW/cm2で窒素酸化物の除去率50%に達し、更に、3サイクル処理時には、電流密度24mA/cm2 、消費電力47mW/cm2 減少したが、4サイクル処理時の結果は、3サイクル処理時とほぼ同等の値であった。
【0030】
実施例3
実施例1と同様に作製した化学反応システムについて、反応を阻害する共存酸素量の量、及び被処理物である窒素酸化物の濃度に対する、反応性の変化を調べた。実施例1と同様の実験条件で、(a)酸素量を2%から10%に増大させた場合、(b)窒素酸化物の濃度を1000ppmから500ppmに減少させた場合の50%分解時の電流密度及び所要電力を測定したところ、各々(a)電流密度:55mA/cm2 、所要電力:150mW/cm2 (b)電流密度:20mA/cm2 、所要電力:37mW/cm2 となり、本発明の化学反応システムが、共存酸素量が多い場合でも相対的な処理能力としては向上すること、希薄な窒素酸化物濃度に対して著しい性能向上が認められることが明らかとなった。
【0031】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、以下のような効果が奏される。
(1)被処理物質の化学反応を妨害する酸素が過剰に存在する場合においても、高効率に被処理物質を処理できる化学反応システムを提供できる。
(2)窒素酸化物の分解に必要な電流量を減らし、少ない消費電力で高効率に窒素酸化物を浄化できる。
(3)上記化学反応システムの化学反応部の一部に、被処理物の酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入できる。
(4)電子伝導相をイオン伝導相の接点に、電子伝導相の金属相部、イオン伝導相の酸素欠乏部、及びそれらの接点周辺の微小空間部(空隙)、からなる界面を形成した化学反応部を有する化学反応システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施態様に係る化学反応システムの構成図である。
【図2】作動電極層の内部構造として望ましい局所構造の一例である。
【図3】本発明に係る化学反応システムによる窒素酸化物の除去性能と通電電流量との関係を、既存研究成果及び本発明者らによる既出願リアクターの性能と比較して、表した性能図である。
【符号の説明】
1 バリア層
2 作動電極層
3 カソード(還元相)
4 イオン伝導相
5 アノード(酸化相)
6 化学反応部
7 化学反応システム
Claims (16)
- 被処理物質の化学反応を行うための化学反応システムであって、酸素イオン伝導体(イオン伝導相)、及びこれを挟んで相対するカソード(還元相)及びアノード(酸化相)の両電極を基本単位として化学反応部を構成し、上記化学反応部における、イオン伝導体、電子伝導体、混合導電体のいずれかを組み合わせて構成される電子伝導相とイオン伝導相の接点に対して、通電、電界印加、又は還元性雰囲気若しくは減圧下で熱処理を行うことにより、上記化学反応部の一部に、被処理物質に対する酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入したことを特徴とする、化学反応システム。
- 上記微小反応領域として、電子伝導相とイオン伝導相の接点に、電子伝導相の金属相部、イオン伝導相の酸素欠乏部、及びそれらの接点周辺の微小空間部(空隙)、からなる界面を形成したことを特徴とする、請求項1記載の化学反応システム。
- カソードに、上記酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入したことを特徴とする、請求項1記載の化学反応システム。
- カソードの上部に酸化還元反応を司る作動電極層を形成し、同層内に、上記酸化還元反応が行われる、ナノメートル〜マイクロメートルの大きさの微小反応領域を導入したことを特徴とする、請求項1記載の化学反応システム。
- 上記微小反応領域の全体もしくは一部を構成する物質が、被処理物質に対して酸化及び還元作用を及ぼすことを特徴とする、請求項1記載の化学反応システム。
- 上記金属相が、上記化学反応システムへの通電処理又は還元雰囲気中での熱処理により、電子伝導体又は混合導電体の一部若しくは全体にわたり発生させた、酸化還元反応により生成した金属相の超微粒子からなることを特徴とする、請求項1記載の化学反応システム。
- 上記酸素欠乏部が、上記化学反応システムへの通電処理又は還元雰囲気中での熱処理により、イオン伝導体又は混合導電体の一部若しくは全体にわたり発生させた、酸化還元反応により生成した酸素欠乏層からなることを特徴とする、請求項1記載の化学反応システム。
- 上記微小反応領域の構成として、イオン伝導体と電子伝導体が少なくとも1ヵ所において直接接触している構造を有するか、又はその製造過程において接触していることを特徴とする、請求項1記載の化学反応システム。
- 電気化学セル表面から上記の化学反応が行われる空間へ被処理物質が到達する経路において、電子伝導を遮断可能な物質によるバリア層を含むことを特徴とする、請求項1記載の化学反応システム。
- 上記の化学反応が、物質、又はエネルギーの変換反応であることを特徴とする、請求項1記載の化学反応システム。
- 上記被処理物質が、窒素酸化物であることを特徴とする、請求項1記載の化学反応システム。
- 上記化学反応が、窒素酸化物の還元分解であることを特徴とする、請求項10記載の化学反応システム。
- 上記化学反応システムにおいて、以下の一般式で表される化学反応、
一般式:MOx+xe→M+x/2O2 −
M→xe+MX+
(M:金属、O:酸素原子、e: 電子)
を生じせしめることを特徴とする、請求項9記載の化学反応システム。 - 請求項1から13のいずれかに記載の化学反応システムを製造する方法であって、上記化学反応部における、イオン伝導体、電子伝導体、混合導電体のいずれかを組み合わせて構成される電子伝導相とイオン伝導相の接点に対して、通電処理又は還元雰囲気中での熱処理を行うことにより、上記化学反応部に、被処理物質に対する酸化還元反応が行われる微小反応領域を導入することを特徴とする、化学反応システムの製造方法。
- 上記物質が接して界面を構成する際に、いずれか一方又は両方が還元状態にあることを特徴とする、請求項14記載の方法。
- 請求項1記載の化学反応システムにおいて、電流を通電することにより、電子伝導相又は混合導電相の金属相部と、イオン伝導相又は混合導電相の酸素欠乏部との対を形成することを特徴とする、化学反応システムの活性化方法。
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