JP2004050144A - 排水処理用分離膜およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】界面活性剤を含む水の透水処理に用いても、高い脱塩率や高い透過水量を有し、透過水量の低下率の低い複合半透膜を提供すること。
【解決手段】界面活性剤を含む水を処理するための排水処理用分離膜であって、架橋ポリアミド分離機能層が多孔性支持膜上に形成され、該架橋ポリアミドは多官能アミン成分として、芳香族アミン成分と直鎖脂肪族アミン成分を含有し、かつ、該多官能アミン成分中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン成分である排水処理用分離膜。
【選択図】なし
【解決手段】界面活性剤を含む水を処理するための排水処理用分離膜であって、架橋ポリアミド分離機能層が多孔性支持膜上に形成され、該架橋ポリアミドは多官能アミン成分として、芳香族アミン成分と直鎖脂肪族アミン成分を含有し、かつ、該多官能アミン成分中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン成分である排水処理用分離膜。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえば、し尿や家庭用排水等の下水の高度処理、また、染色排水や電着塗料排水などの排水処理、等に用いる排水処理用分離膜、その製造方法、および排水処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から工業的に利用されている複合半透膜には、微多孔性支持膜上に選択分離性を有する薄膜を形成した複合半透膜が提案されている。これには、たとえば、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物からなる薄膜が支持膜上に形成されたもの(特開昭55−147106号公報、特開昭62−121603号公報など)や、多官能芳香族アミンと多官能脂環式酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなる薄膜が支持膜上に形成されたもの(特開昭62−121603号公報など)がある。
【0003】
これらの複合膜の表面は、通常、荷電を持っており、使用が長期にわたったり、逆符号の荷電物質が処理水中に存在する場合には膜が汚れ、透過水量や脱塩率の低下が発生することがある。特に、下水や排水を処理原水とする場合、処理原水には洗剤として使用された界面活性剤が混入していることが多く、この界面活性剤が複合半透膜の膜面に吸着され、膜の分離性能を低下させることがある。このため、上記の複合半透膜による処理を行うと、時間の経過とともに透過水量が著しく低下して安定な処理が困難であるという問題がある。
【0004】
そこで、膜の汚れ(ファウリング)といった問題点を解決する手段として、選択分離性を有する薄膜上に有機重合体層を被覆する方法が提案されている(たとえば、特許3212129号公報、特開2000−176263号公報など)。
しかしながら、これらの方法は、製造工程の増加、透過水量の低下などの問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した従来の問題を解決し、界面活性剤を含む水の透水処理に用いても、高い脱塩率や高い透過水量を有し、透過水量の低下率の低い複合半透膜を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するため、本発明は以下の構成をとる。すなわち本発明は、界面活性剤を含む水を処理するための排水処理用分離膜であって、架橋ポリアミド分離機能層が多孔性支持膜上に形成され、該架橋ポリアミドは多官能アミン成分として、芳香族アミン成分と直鎖脂肪族アミン成分を含有し、かつ、該多官能アミン成分中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン成分である排水処理用分離膜である。
【0007】
また本発明は、上記の排水処理用分離膜を用いて界面活性剤を含む水を透水処理する水処理方法である。
【0008】
また本発明は、多官能アミン化合物と多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させて多孔性支持膜上に架橋ポリアミド膜を形成させる排水処理用分離膜の製造方法であって、前記多官能アミン化合物は、芳香族アミン化合物および直鎖脂肪族アミン化合物を含有し、かつ、該多官能アミン化合物中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン化合物である排水処理用分離膜の製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の分離膜は、例えば、芳香族アミン化合物および直鎖脂肪族アミン化合物を含む多官能アミン化合物と多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させて微多孔性支持膜上に架橋ポリアミド分離機能層を形成させることにより得られる。
【0010】
本発明において、多孔性支持膜とは、実質的には分離性能を有さない層であり、実質的に分離性能を有する架橋ポリアミド分離機能層に強度を与えるために用いられるものである。
【0011】
多孔性支持膜の構造は特に限定されないが、膜の表面から裏面にわたって孔径が均一な微細な孔を有する構造であるか、または、片面に緻密で微細な孔を有し、その面からもう一方の面まで徐々に孔径が大きくなるような孔を有する非対称構造であり、その微細孔の大きさが100nm以下であることが好ましい。また、多孔性支持膜の厚みは、1μm〜数mmであるのが好ましく、膜強度の観点から10μm以上、扱いやすさ、モジュール加工のしやすさの点で数100μm以下がより好ましい。
【0012】
多孔性支持膜に使用する素材は特に限定されず、例えば、ポリスルホン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン等のホモポリマーまたはコポリマーを単独あるいはブレンドして使用することができる。これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることから、ポリスルホンが好ましく使用される。
【0013】
芳香族アミン化合物は、2個以上のアミノ基を有する芳香族の化合物であればいずれでもよい。例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、パラキシリレンジアミン、ジアミノピリジンなどが用いられる。これらの中では、反応性、得られた膜の性能の面から、特にm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好ましく使用される。
【0014】
直鎖脂肪族アミン化合物は、一般式HR1N−R2−NR3Hで表される化合物が好ましい。ここで、R1、R3は炭素原子数1〜3のアルキル基または水素を表し、R2は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ファウリングを防ぐために、直鎖脂肪族アミン化合物は、総炭素原子数が12以下であることが好ましい。例えば、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサンジアミンなどが好ましく用いられる。これらの中で、得られた膜の性能の面から特にエチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミンが特に好ましく使用される。
【0015】
また、直鎖脂肪族アミン化合物のみで用いると脱塩率が低いため、芳香族アミン化合物と混合して用いることにより脱塩率を向上することができる。
【0016】
多官能酸ハロゲン化物としては、たとえば、トリメシン酸ハライド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ハライド、トリメリット酸ハライド、ピロメリット酸ハライド、イソフタル酸ハライド、テレフタル酸ハライド、ナフタレンジカルボン酸ハライド、ジフェニルジカルボン酸ハライド、ピリジンジカルボン酸ハライド、ベンゼンジスルホン酸ハライド、クロルスルホニルイソフタル酸ハライドなどの芳香族酸ハライドを用いることができる。また、シクロヘキサントリカルボン酸ハライド、シクロヘキサンジカルボン酸ハライドなどの脂肪族酸ハライドも用いることができる。なかでも、製膜溶媒に対する溶解性や得られる複合半透膜の特性を考慮すると、イソフタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、トリメシン酸クロライドおよびこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0017】
本発明における架橋ポリアミド分離機能層は、多官能アミン成分として芳香族アミン成分と直鎖脂肪族アミン成分を含有し、多官能アミン成分中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン成分である。ここで、アミン成分とは、ポリアミド中に含まれるアミン残基のことである。アミン成分は、一般式−R1N−R2−NR3−で表され、R1、R3は炭素原子数1〜3のアルキル基または水素を表し、R2は炭素原子数1〜6のアルキル基を表すものが好ましい。また、直鎖脂肪族アミン成分は、重量比で多官能アミン成分中の10%以上30%以下であることがより好ましい。
【0018】
次に本発明の複合半透膜の好ましい製造方法について述べる。
【0019】
まず、密に織ったポリエステル布や不織布などの支持体の上に、例えば、ポリスルホン溶液を一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させて、表面の大部分が直径数十nm以下の微細な孔を有した多孔性支持膜を得る。得られた多孔性支持膜上に、多官能アミン化合物として芳香族アミン化合物および直鎖脂肪族アミン化合物を含む水溶液を塗布し、次に多官能酸ハロゲン化物の溶液を塗布してin−situ界面重縮合反応をさせ、実質的に分離性能を有するポリアミド分離機能層を形成させる。アミン化合物を含む水溶液において、多官能アミン化合物中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン化合物である。より好ましくは、多官能アミン化合物中の重量比で10%以上30%以下が直鎖脂肪族アミン化合物である。
【0020】
多官能アミン化合物水溶液の濃度は、0.1〜20重量%の範囲内にあることが好ましく、0.5〜15重量%の範囲内にあることがより好ましい。多官能アミン化合物濃度が0.1重量%を下回ると、界面重縮合反応の進行が遅くなり、20重量%を超えると分離機能層の膜厚が大きくなり透水性が低下する傾向にある。
【0021】
多官能酸ハロゲン化物を溶解する溶媒は、水と非混和性であり、かつ、多官能酸ハロゲン化物を溶解するとともに、多孔性支持膜の構造を破壊せず、界面重縮合により架橋ポリマを形成し得るものであればよい。例えば、炭化水素化合物、シクロヘキサン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンなどが挙げられるが、反応速度、溶媒の揮発性から、好ましくは、n−ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2トリフルオロエタンなどである。
【0022】
上記溶媒中の多官能酸ハロゲン化物の濃度は、0.01〜1重量%の範囲内であると好ましい。0.01重量%を下回ると、活性層である分離機能層の形成が不十分となりやすく、1重量%を超えると分離機能層表面のカルボキシル基濃度が高くなり、処理原水中にカチオン性有機物(たとえばカチオン界面活性剤など)が含まれる場合に透水性が低下し、また、コスト高となる傾向がある。
【0023】
多官能アミン化合物水溶液および多官能酸ハロゲン化物溶液には、多官能アミン化合物と多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、必要に応じて、アシル化触媒や極性溶媒、酸補足剤、界面活性剤、酸化防止剤などを含有させることもできる。
【0024】
このようにして得られた複合半透膜は、このままでも使用できるが、使用する前に水洗などによって未反応残存物を取り除くことが好ましい。30〜100℃の範囲内にある水で膜を洗浄し、残存するアミノ化合物などを除去することが好ましい。また、洗浄は、上記温度範囲内にある水中に支持膜を浸漬したり、水を吹き付けたりして行うことができる。用いる水の温度が30℃を下回ると、複合半透膜中にアミノ化合物が残存し透過水量が低くなる傾向にある。また、オートクレーブやスチームなどで100℃を超える温度で洗浄を行うと、膜が熱収縮を起こすことがあり、やはり透過水量が低くなる傾向にある。
【0025】
また、このあと、たとえばpHが6〜13の範囲内の塩素含有水溶液に常圧で接触させ、膜の排除率、透水性を高めることも好ましい。
【0026】
本発明の複合半透膜の形態は特に限定されず、例えば、平膜でも中空糸膜、管状膜でも構わない。
【0027】
本発明の複合半透膜を使用することにより、たとえば、操作圧力が0.1〜3MPaの範囲内、より好ましくは0.1〜1.5MPaの範囲内といった低圧領域で、高い透過水量を維持しつつ、複合半透膜や流体分離素子を使用することができる。操作圧力を低くすることができるため、用いるポンプなどの容量を小さくすることができ、消費電力を抑え、造水のコストダウンを図ることができる。
操作圧力が0.1MPaを下回ると、透過水量が少なくなる傾向があり、3MPaを超えるとポンプなどの消費電力が増加するとともに、ファウリングによる膜の目詰まりを起こしやすくなる。
【0028】
本発明の複合半透膜は、pH6.5、濃度が1,500mg/lの塩化ナトリウム水溶液を用い、25℃において、操作圧力1.0MPaで1時間ろ過したときの透過水量が0.5〜3m3/m2・日であることが好ましい。このような複合半透膜は、例えば、前述した製造方法で、製造することができる。透過水量を0.5〜3m3/m2・日の範囲とすることにより、ファウリングの発生を適度に抑え、透水処理を安定的に行うことができる。
【0029】
本発明の複合半透膜では下水等の排水を好ましく処理することができる。たとえば排水中には、界面活性剤などの難生分解性有機物が生物処理で完全には分解されず含まれていることがある。従来の複合半透膜で処理を行うと界面活性剤が膜表面に吸着し、透過水量が低下してしまう。しかし、本発明の複合半透膜は、架橋ポリアミドに含まれる多官能アミン成分として芳香族アミン成分と直鎖脂肪族アミン成分を特定の比率で含んでいることにより、界面活性剤が吸着しにくく透過水量の低下が抑えられる。
【0030】
ここで、透過水量低下率を以下のように定義する。すなわち、25℃にてpH6.5、濃度が1,500mg/lの塩化ナトリウム水溶液を用い操作圧力1.0MPaにて複合半透膜を透過させてろ過した時の透過水量を前透過水量(F1)とし、続いて、この塩化ナトリウム水溶液にノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)を濃度が100mg/lになるように添加してから1時間経過後の透過水量を後透過水量(F2)としたときに、次式で定義される。
【0031】
透過水量低下率=1−(F2/F1)
本発明の複合半透膜は、透過水量低下率が0.35以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.2以下である。このような複合半透膜を用いることにより、界面活性剤に接しても膜面への界面活性剤の吸着がほとんど観られずに、透過水量の低下が僅かであり、充分な透過水量を保持できる。従って、界面活性剤を含む排水の高度処理に用いても、高水質の透過水を安定して得ることができる。
【0032】
本発明の複合半透膜は、取り扱いを容易にするため筐体に納めて流体分離素子とすることができる。この流体分離素子は、たとえば、多数の孔を穿設した筒状の集液管の周りに、複合半透膜の平膜と、トリコットなどの分離液流路材と、プラスチックネットなどの供給液流路材とを含む膜ユニットを巻回し、これらを円筒状の筐体に納めた構造とすると好ましい。複数の流体分離素子を直列あるいは並列に接続して分離膜モジュールとすることもできる。このような分離膜モジュールは排水処理装置に好適に用いることができる。
【0033】
以下、上記複合半透膜を用いた排水処理装置および排水処理方法の好ましいプロセスフローについて図1を用いて説明する。
【0034】
まず、原水である下水を、スクリーン、沈砂、予備曝気槽、最初沈殿槽などに導入して物理的処理を施し、浮遊物や油脂を除去する。このとき、除去効率を上げるために凝集剤等による凝集処理を行うことも好ましい。次に、原水を活性汚泥槽などに導入して生物的処理を施し、原水中の有機物を分解する。その後、最終沈殿槽(図中、記載無し)で懸濁物質を除去し、下水二次処理水を得る。続いて、好ましくは、この下水二次処理水を、砂濾過装置、精密ろ過膜、限外ろ過膜などに供給して、水中の懸濁物質をさらに除去する。ここで、微生物を好適に除去するためには、精密濾過膜や限外濾過膜などを用いることがより好ましく、原水中の高分子除去および後段の膜汚染の軽減のためには、限外濾過膜がさらに好ましい。このような処理を施した水を、本発明の複合半透膜を用いたモジュールに供給し、原水中の塩や有機物を除去する。原水中の塩や有機物が除去された透過水は、親水用水等の用水として再利用することができる。
【0035】
主な処理対象とする下水は、石鹸や洗浄排液のために多量の界面活性剤を含むことがあり、従来のポリアミド系複合半透膜などを用いると早期に透過水量が低下するので安定な処理が困難であったが、本発明では、界面活性剤に接しても膜面への界面活性剤の吸着がほとんど観られずに透過水量の低下が僅かであり、高水質の透過水を安定して得ることができる。
【0036】
また、原水を本発明の複合半透膜に供給する前に精密濾過膜または限外濾過膜で透水処理することが好ましい。このことで、前段で生物学的処理を施した場合にも微生物を好適に除去できるので、後段の複合半透膜モジュールを懸濁物質から保護することができる。
【0037】
【実施例】
実施例および比較例において透過水量は、温度25℃、pH6.5、濃度が1,500mg/lの塩化ナトリウム水溶液を用い操作圧力1.0MPaの条件で1時間ろ過したときの透過水量を評価した。透過水量は、単位時間(日)に単位面積(m2)当たりの膜を透過する水量で求めた。
【0038】
また、温度25℃、pH6.5、濃度が1,500mg/lの塩化ナトリウム水溶液を用い操作圧力1.0MPaにて複合半透膜を透過させてろ過した時の透過水量を前透過水量(F1)とし、続いて、この塩化ナトリウム水溶液にノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)を濃度が100mg/lになるように添加してから1時間経過後の透過水量を後透過水量(F2)とし、次式で透過水量低下率を算出した。
【0039】
透過水量低下率=1−(F2/F1)
脱塩率は次式により求めた。
脱塩率(%)=(1−透過液中の塩濃度/供給液中の塩濃度)×100
透過液中の塩濃度及び供給液中の塩濃度は、各液の電気伝導度を測定することにより求めた。
【0040】
(実施例1)
ポリエステル繊維からなる、縦30cm横20cmの大きさのタフタ(縦糸、横糸とも166デシテックスのマルチフィラメント糸、織密度は縦90本/インチ、横67本/インチ、厚さ160μm)をガラス板上に固定し、その上にポリスルホンの15重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を、200μmの厚みで、25℃にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置し、次いで、90℃2分間熱水中で処理して微多孔性支持膜(以下、FT−PS支持膜という)を得た。このFT−PS支持膜の厚さは200〜210μmであり、純水透過係数は圧力0.1MPa、液温25℃、雰囲気温度25℃で測定したとき0.01〜0.03g/cm2・sec・atmであった。
【0041】
このFT−PS支持膜を、アミン化合物濃度が1.5重量%であって、全アミン化合物のうちメタフェニレンジアミンが79重量%、エチレンジアミンが重量21%であり、ε−カプロラクタム1.5重量%を含む水溶液中に2分間浸漬した。次いで、この支持膜を垂直方向にゆっくりと引上げ、支持膜表面から余分な水溶液を取除いた後、トリメシン酸クロライド0.06重量%を含むデカン溶液を、表面が完全に濡れるように塗布した。次に、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去した後、膜面に残った溶媒を蒸発させるために、膜表面での風速が8m/sとなるように、温度30℃の空気を1分間吹き付けた後、1%Na2CO3水溶液で残存している酸ハライド基を加水分解させた。その後、未反応物を除去するため、90℃の熱水に2分間浸漬後、膜性能向上のため、pH7に調整した次亜塩素酸ナトリウム500ppmを含む溶液中に2分間浸漬し、亜硫酸水素ナトリウム1,000ppm水溶液に浸漬し、残存する次亜塩素酸ナトリウムを消滅させ複合半透膜を得た。
【0042】
得られた複合半透膜を上記条件で評価し、塩排除率、透過水量、透過水量低下率を測定した。評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
実施例1において全アミン化合物のうちメタフェニレンジアミンが70重量%、エチレンジアミンが30重量%である水溶液を用いた以外は実施例1と同様に製膜、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
実施例1において全アミン化合物のうちメタフェニレンジアミンが50重量%、エチレンジアミンが50重量%である水溶液を用いた以外は実施例1と同様に製膜、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
実施例1に記載したFT−PS支持膜を、メタフェニレンジアミン1.5重量%と、ε−カプロラクタム1.5重量%とを含む水溶液中に2分間浸漬した。次いで、この支持膜を垂直方向にゆっくりと引上げ、支持膜表面から余分な水溶液を取除いた後、トリメシン酸クロライド0.06重量%を含むデカン溶液を、表面が完全に濡れるように塗布した。次に、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去した後、膜面に残った溶媒を蒸発させるために、膜表面での風速が8m/sとなるように、温度30℃の空気を1分間吹き付けた後、1%Na2CO3水溶液で残存している酸ハライド基を加水分解させた。その後、未反応物を除去するため、90℃の熱水に2分間浸漬後、膜性能向上のため、pH7に調整した次亜塩素酸ナトリウム500ppmを含む溶液中に2分間浸漬し、亜硫酸水素ナトリウム1,000ppm水溶液に浸漬し、残存する次亜塩素酸ナトリウムを消滅させ複合半透膜を得た。
【0046】
得られた複合半透膜を上記条件で評価し、塩排除率、透過水量、透過水量低下率を測定した。評価結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
実施例1に記載したFT−PS支持膜を、アミン濃度が1.5重量%であって、全アミン化合物のうちメタフェニレンジアミンが95重量%、エチレンジアミンが5重量%であり、ε−カプロラクタム1.5重量%を含む水溶液中に2分間浸漬した。次いで、この支持膜を垂直方向にゆっくりと引上げ、支持膜表面から余分な水溶液を取除いた後、トリメシン酸クロライド0.06重量%を含むデカン溶液を、表面が完全に濡れるように塗布した。次に、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去した後、膜面に残った溶媒を蒸発させるために、膜表面での風速が8m/sとなるように、温度30℃の空気を1分間吹き付けた後、1%Na2CO3水溶液で残存している酸ハライド基を加水分解させた。その後、未反応物を除去するため、90℃の熱水に2分間浸漬後、膜性能向上のため、pH7に調整した次亜塩素酸ナトリウム500ppmを含む溶液中に2分間浸漬し、亜硫酸水素ナトリウム1,000ppm水溶液に浸漬し、残存する次亜塩素酸ナトリウムを消滅させ複合半透膜を得た。
【0048】
得られた複合半透膜を上記条件で評価し、塩排除率、透過水量、透過水量低下率を測定した。評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1から、次のことが明らかである。すなわち、実施例1〜3は、脱塩率、透過水量低下率に優れており、透過水量も実用レベルであった。一方、直鎖脂肪族アミンを用いなかった比較例1、アミン成分中のエチレンジアミンの組成が21%以下であった比較例2は、透過水量低下率が大きく、実用上問題があった。
【0051】
【発明の効果】
本発明により、界面活性剤を含む水の透水処理に用いても、透過水量の低下が僅かであり、充分な透過水量を保持できる複合半透膜が提供できる。従って、下水の高度処理に用いても、高水質の透過水を安定して得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】下水処理のプロセスフローを示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえば、し尿や家庭用排水等の下水の高度処理、また、染色排水や電着塗料排水などの排水処理、等に用いる排水処理用分離膜、その製造方法、および排水処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から工業的に利用されている複合半透膜には、微多孔性支持膜上に選択分離性を有する薄膜を形成した複合半透膜が提案されている。これには、たとえば、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物からなる薄膜が支持膜上に形成されたもの(特開昭55−147106号公報、特開昭62−121603号公報など)や、多官能芳香族アミンと多官能脂環式酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなる薄膜が支持膜上に形成されたもの(特開昭62−121603号公報など)がある。
【0003】
これらの複合膜の表面は、通常、荷電を持っており、使用が長期にわたったり、逆符号の荷電物質が処理水中に存在する場合には膜が汚れ、透過水量や脱塩率の低下が発生することがある。特に、下水や排水を処理原水とする場合、処理原水には洗剤として使用された界面活性剤が混入していることが多く、この界面活性剤が複合半透膜の膜面に吸着され、膜の分離性能を低下させることがある。このため、上記の複合半透膜による処理を行うと、時間の経過とともに透過水量が著しく低下して安定な処理が困難であるという問題がある。
【0004】
そこで、膜の汚れ(ファウリング)といった問題点を解決する手段として、選択分離性を有する薄膜上に有機重合体層を被覆する方法が提案されている(たとえば、特許3212129号公報、特開2000−176263号公報など)。
しかしながら、これらの方法は、製造工程の増加、透過水量の低下などの問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した従来の問題を解決し、界面活性剤を含む水の透水処理に用いても、高い脱塩率や高い透過水量を有し、透過水量の低下率の低い複合半透膜を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するため、本発明は以下の構成をとる。すなわち本発明は、界面活性剤を含む水を処理するための排水処理用分離膜であって、架橋ポリアミド分離機能層が多孔性支持膜上に形成され、該架橋ポリアミドは多官能アミン成分として、芳香族アミン成分と直鎖脂肪族アミン成分を含有し、かつ、該多官能アミン成分中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン成分である排水処理用分離膜である。
【0007】
また本発明は、上記の排水処理用分離膜を用いて界面活性剤を含む水を透水処理する水処理方法である。
【0008】
また本発明は、多官能アミン化合物と多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させて多孔性支持膜上に架橋ポリアミド膜を形成させる排水処理用分離膜の製造方法であって、前記多官能アミン化合物は、芳香族アミン化合物および直鎖脂肪族アミン化合物を含有し、かつ、該多官能アミン化合物中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン化合物である排水処理用分離膜の製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の分離膜は、例えば、芳香族アミン化合物および直鎖脂肪族アミン化合物を含む多官能アミン化合物と多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させて微多孔性支持膜上に架橋ポリアミド分離機能層を形成させることにより得られる。
【0010】
本発明において、多孔性支持膜とは、実質的には分離性能を有さない層であり、実質的に分離性能を有する架橋ポリアミド分離機能層に強度を与えるために用いられるものである。
【0011】
多孔性支持膜の構造は特に限定されないが、膜の表面から裏面にわたって孔径が均一な微細な孔を有する構造であるか、または、片面に緻密で微細な孔を有し、その面からもう一方の面まで徐々に孔径が大きくなるような孔を有する非対称構造であり、その微細孔の大きさが100nm以下であることが好ましい。また、多孔性支持膜の厚みは、1μm〜数mmであるのが好ましく、膜強度の観点から10μm以上、扱いやすさ、モジュール加工のしやすさの点で数100μm以下がより好ましい。
【0012】
多孔性支持膜に使用する素材は特に限定されず、例えば、ポリスルホン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン等のホモポリマーまたはコポリマーを単独あるいはブレンドして使用することができる。これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることから、ポリスルホンが好ましく使用される。
【0013】
芳香族アミン化合物は、2個以上のアミノ基を有する芳香族の化合物であればいずれでもよい。例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、パラキシリレンジアミン、ジアミノピリジンなどが用いられる。これらの中では、反応性、得られた膜の性能の面から、特にm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好ましく使用される。
【0014】
直鎖脂肪族アミン化合物は、一般式HR1N−R2−NR3Hで表される化合物が好ましい。ここで、R1、R3は炭素原子数1〜3のアルキル基または水素を表し、R2は炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。ファウリングを防ぐために、直鎖脂肪族アミン化合物は、総炭素原子数が12以下であることが好ましい。例えば、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサンジアミンなどが好ましく用いられる。これらの中で、得られた膜の性能の面から特にエチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミンが特に好ましく使用される。
【0015】
また、直鎖脂肪族アミン化合物のみで用いると脱塩率が低いため、芳香族アミン化合物と混合して用いることにより脱塩率を向上することができる。
【0016】
多官能酸ハロゲン化物としては、たとえば、トリメシン酸ハライド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ハライド、トリメリット酸ハライド、ピロメリット酸ハライド、イソフタル酸ハライド、テレフタル酸ハライド、ナフタレンジカルボン酸ハライド、ジフェニルジカルボン酸ハライド、ピリジンジカルボン酸ハライド、ベンゼンジスルホン酸ハライド、クロルスルホニルイソフタル酸ハライドなどの芳香族酸ハライドを用いることができる。また、シクロヘキサントリカルボン酸ハライド、シクロヘキサンジカルボン酸ハライドなどの脂肪族酸ハライドも用いることができる。なかでも、製膜溶媒に対する溶解性や得られる複合半透膜の特性を考慮すると、イソフタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、トリメシン酸クロライドおよびこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0017】
本発明における架橋ポリアミド分離機能層は、多官能アミン成分として芳香族アミン成分と直鎖脂肪族アミン成分を含有し、多官能アミン成分中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン成分である。ここで、アミン成分とは、ポリアミド中に含まれるアミン残基のことである。アミン成分は、一般式−R1N−R2−NR3−で表され、R1、R3は炭素原子数1〜3のアルキル基または水素を表し、R2は炭素原子数1〜6のアルキル基を表すものが好ましい。また、直鎖脂肪族アミン成分は、重量比で多官能アミン成分中の10%以上30%以下であることがより好ましい。
【0018】
次に本発明の複合半透膜の好ましい製造方法について述べる。
【0019】
まず、密に織ったポリエステル布や不織布などの支持体の上に、例えば、ポリスルホン溶液を一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させて、表面の大部分が直径数十nm以下の微細な孔を有した多孔性支持膜を得る。得られた多孔性支持膜上に、多官能アミン化合物として芳香族アミン化合物および直鎖脂肪族アミン化合物を含む水溶液を塗布し、次に多官能酸ハロゲン化物の溶液を塗布してin−situ界面重縮合反応をさせ、実質的に分離性能を有するポリアミド分離機能層を形成させる。アミン化合物を含む水溶液において、多官能アミン化合物中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン化合物である。より好ましくは、多官能アミン化合物中の重量比で10%以上30%以下が直鎖脂肪族アミン化合物である。
【0020】
多官能アミン化合物水溶液の濃度は、0.1〜20重量%の範囲内にあることが好ましく、0.5〜15重量%の範囲内にあることがより好ましい。多官能アミン化合物濃度が0.1重量%を下回ると、界面重縮合反応の進行が遅くなり、20重量%を超えると分離機能層の膜厚が大きくなり透水性が低下する傾向にある。
【0021】
多官能酸ハロゲン化物を溶解する溶媒は、水と非混和性であり、かつ、多官能酸ハロゲン化物を溶解するとともに、多孔性支持膜の構造を破壊せず、界面重縮合により架橋ポリマを形成し得るものであればよい。例えば、炭化水素化合物、シクロヘキサン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンなどが挙げられるが、反応速度、溶媒の揮発性から、好ましくは、n−ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2トリフルオロエタンなどである。
【0022】
上記溶媒中の多官能酸ハロゲン化物の濃度は、0.01〜1重量%の範囲内であると好ましい。0.01重量%を下回ると、活性層である分離機能層の形成が不十分となりやすく、1重量%を超えると分離機能層表面のカルボキシル基濃度が高くなり、処理原水中にカチオン性有機物(たとえばカチオン界面活性剤など)が含まれる場合に透水性が低下し、また、コスト高となる傾向がある。
【0023】
多官能アミン化合物水溶液および多官能酸ハロゲン化物溶液には、多官能アミン化合物と多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、必要に応じて、アシル化触媒や極性溶媒、酸補足剤、界面活性剤、酸化防止剤などを含有させることもできる。
【0024】
このようにして得られた複合半透膜は、このままでも使用できるが、使用する前に水洗などによって未反応残存物を取り除くことが好ましい。30〜100℃の範囲内にある水で膜を洗浄し、残存するアミノ化合物などを除去することが好ましい。また、洗浄は、上記温度範囲内にある水中に支持膜を浸漬したり、水を吹き付けたりして行うことができる。用いる水の温度が30℃を下回ると、複合半透膜中にアミノ化合物が残存し透過水量が低くなる傾向にある。また、オートクレーブやスチームなどで100℃を超える温度で洗浄を行うと、膜が熱収縮を起こすことがあり、やはり透過水量が低くなる傾向にある。
【0025】
また、このあと、たとえばpHが6〜13の範囲内の塩素含有水溶液に常圧で接触させ、膜の排除率、透水性を高めることも好ましい。
【0026】
本発明の複合半透膜の形態は特に限定されず、例えば、平膜でも中空糸膜、管状膜でも構わない。
【0027】
本発明の複合半透膜を使用することにより、たとえば、操作圧力が0.1〜3MPaの範囲内、より好ましくは0.1〜1.5MPaの範囲内といった低圧領域で、高い透過水量を維持しつつ、複合半透膜や流体分離素子を使用することができる。操作圧力を低くすることができるため、用いるポンプなどの容量を小さくすることができ、消費電力を抑え、造水のコストダウンを図ることができる。
操作圧力が0.1MPaを下回ると、透過水量が少なくなる傾向があり、3MPaを超えるとポンプなどの消費電力が増加するとともに、ファウリングによる膜の目詰まりを起こしやすくなる。
【0028】
本発明の複合半透膜は、pH6.5、濃度が1,500mg/lの塩化ナトリウム水溶液を用い、25℃において、操作圧力1.0MPaで1時間ろ過したときの透過水量が0.5〜3m3/m2・日であることが好ましい。このような複合半透膜は、例えば、前述した製造方法で、製造することができる。透過水量を0.5〜3m3/m2・日の範囲とすることにより、ファウリングの発生を適度に抑え、透水処理を安定的に行うことができる。
【0029】
本発明の複合半透膜では下水等の排水を好ましく処理することができる。たとえば排水中には、界面活性剤などの難生分解性有機物が生物処理で完全には分解されず含まれていることがある。従来の複合半透膜で処理を行うと界面活性剤が膜表面に吸着し、透過水量が低下してしまう。しかし、本発明の複合半透膜は、架橋ポリアミドに含まれる多官能アミン成分として芳香族アミン成分と直鎖脂肪族アミン成分を特定の比率で含んでいることにより、界面活性剤が吸着しにくく透過水量の低下が抑えられる。
【0030】
ここで、透過水量低下率を以下のように定義する。すなわち、25℃にてpH6.5、濃度が1,500mg/lの塩化ナトリウム水溶液を用い操作圧力1.0MPaにて複合半透膜を透過させてろ過した時の透過水量を前透過水量(F1)とし、続いて、この塩化ナトリウム水溶液にノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)を濃度が100mg/lになるように添加してから1時間経過後の透過水量を後透過水量(F2)としたときに、次式で定義される。
【0031】
透過水量低下率=1−(F2/F1)
本発明の複合半透膜は、透過水量低下率が0.35以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.2以下である。このような複合半透膜を用いることにより、界面活性剤に接しても膜面への界面活性剤の吸着がほとんど観られずに、透過水量の低下が僅かであり、充分な透過水量を保持できる。従って、界面活性剤を含む排水の高度処理に用いても、高水質の透過水を安定して得ることができる。
【0032】
本発明の複合半透膜は、取り扱いを容易にするため筐体に納めて流体分離素子とすることができる。この流体分離素子は、たとえば、多数の孔を穿設した筒状の集液管の周りに、複合半透膜の平膜と、トリコットなどの分離液流路材と、プラスチックネットなどの供給液流路材とを含む膜ユニットを巻回し、これらを円筒状の筐体に納めた構造とすると好ましい。複数の流体分離素子を直列あるいは並列に接続して分離膜モジュールとすることもできる。このような分離膜モジュールは排水処理装置に好適に用いることができる。
【0033】
以下、上記複合半透膜を用いた排水処理装置および排水処理方法の好ましいプロセスフローについて図1を用いて説明する。
【0034】
まず、原水である下水を、スクリーン、沈砂、予備曝気槽、最初沈殿槽などに導入して物理的処理を施し、浮遊物や油脂を除去する。このとき、除去効率を上げるために凝集剤等による凝集処理を行うことも好ましい。次に、原水を活性汚泥槽などに導入して生物的処理を施し、原水中の有機物を分解する。その後、最終沈殿槽(図中、記載無し)で懸濁物質を除去し、下水二次処理水を得る。続いて、好ましくは、この下水二次処理水を、砂濾過装置、精密ろ過膜、限外ろ過膜などに供給して、水中の懸濁物質をさらに除去する。ここで、微生物を好適に除去するためには、精密濾過膜や限外濾過膜などを用いることがより好ましく、原水中の高分子除去および後段の膜汚染の軽減のためには、限外濾過膜がさらに好ましい。このような処理を施した水を、本発明の複合半透膜を用いたモジュールに供給し、原水中の塩や有機物を除去する。原水中の塩や有機物が除去された透過水は、親水用水等の用水として再利用することができる。
【0035】
主な処理対象とする下水は、石鹸や洗浄排液のために多量の界面活性剤を含むことがあり、従来のポリアミド系複合半透膜などを用いると早期に透過水量が低下するので安定な処理が困難であったが、本発明では、界面活性剤に接しても膜面への界面活性剤の吸着がほとんど観られずに透過水量の低下が僅かであり、高水質の透過水を安定して得ることができる。
【0036】
また、原水を本発明の複合半透膜に供給する前に精密濾過膜または限外濾過膜で透水処理することが好ましい。このことで、前段で生物学的処理を施した場合にも微生物を好適に除去できるので、後段の複合半透膜モジュールを懸濁物質から保護することができる。
【0037】
【実施例】
実施例および比較例において透過水量は、温度25℃、pH6.5、濃度が1,500mg/lの塩化ナトリウム水溶液を用い操作圧力1.0MPaの条件で1時間ろ過したときの透過水量を評価した。透過水量は、単位時間(日)に単位面積(m2)当たりの膜を透過する水量で求めた。
【0038】
また、温度25℃、pH6.5、濃度が1,500mg/lの塩化ナトリウム水溶液を用い操作圧力1.0MPaにて複合半透膜を透過させてろ過した時の透過水量を前透過水量(F1)とし、続いて、この塩化ナトリウム水溶液にノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)を濃度が100mg/lになるように添加してから1時間経過後の透過水量を後透過水量(F2)とし、次式で透過水量低下率を算出した。
【0039】
透過水量低下率=1−(F2/F1)
脱塩率は次式により求めた。
脱塩率(%)=(1−透過液中の塩濃度/供給液中の塩濃度)×100
透過液中の塩濃度及び供給液中の塩濃度は、各液の電気伝導度を測定することにより求めた。
【0040】
(実施例1)
ポリエステル繊維からなる、縦30cm横20cmの大きさのタフタ(縦糸、横糸とも166デシテックスのマルチフィラメント糸、織密度は縦90本/インチ、横67本/インチ、厚さ160μm)をガラス板上に固定し、その上にポリスルホンの15重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を、200μmの厚みで、25℃にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置し、次いで、90℃2分間熱水中で処理して微多孔性支持膜(以下、FT−PS支持膜という)を得た。このFT−PS支持膜の厚さは200〜210μmであり、純水透過係数は圧力0.1MPa、液温25℃、雰囲気温度25℃で測定したとき0.01〜0.03g/cm2・sec・atmであった。
【0041】
このFT−PS支持膜を、アミン化合物濃度が1.5重量%であって、全アミン化合物のうちメタフェニレンジアミンが79重量%、エチレンジアミンが重量21%であり、ε−カプロラクタム1.5重量%を含む水溶液中に2分間浸漬した。次いで、この支持膜を垂直方向にゆっくりと引上げ、支持膜表面から余分な水溶液を取除いた後、トリメシン酸クロライド0.06重量%を含むデカン溶液を、表面が完全に濡れるように塗布した。次に、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去した後、膜面に残った溶媒を蒸発させるために、膜表面での風速が8m/sとなるように、温度30℃の空気を1分間吹き付けた後、1%Na2CO3水溶液で残存している酸ハライド基を加水分解させた。その後、未反応物を除去するため、90℃の熱水に2分間浸漬後、膜性能向上のため、pH7に調整した次亜塩素酸ナトリウム500ppmを含む溶液中に2分間浸漬し、亜硫酸水素ナトリウム1,000ppm水溶液に浸漬し、残存する次亜塩素酸ナトリウムを消滅させ複合半透膜を得た。
【0042】
得られた複合半透膜を上記条件で評価し、塩排除率、透過水量、透過水量低下率を測定した。評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
実施例1において全アミン化合物のうちメタフェニレンジアミンが70重量%、エチレンジアミンが30重量%である水溶液を用いた以外は実施例1と同様に製膜、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
実施例1において全アミン化合物のうちメタフェニレンジアミンが50重量%、エチレンジアミンが50重量%である水溶液を用いた以外は実施例1と同様に製膜、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
実施例1に記載したFT−PS支持膜を、メタフェニレンジアミン1.5重量%と、ε−カプロラクタム1.5重量%とを含む水溶液中に2分間浸漬した。次いで、この支持膜を垂直方向にゆっくりと引上げ、支持膜表面から余分な水溶液を取除いた後、トリメシン酸クロライド0.06重量%を含むデカン溶液を、表面が完全に濡れるように塗布した。次に、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去した後、膜面に残った溶媒を蒸発させるために、膜表面での風速が8m/sとなるように、温度30℃の空気を1分間吹き付けた後、1%Na2CO3水溶液で残存している酸ハライド基を加水分解させた。その後、未反応物を除去するため、90℃の熱水に2分間浸漬後、膜性能向上のため、pH7に調整した次亜塩素酸ナトリウム500ppmを含む溶液中に2分間浸漬し、亜硫酸水素ナトリウム1,000ppm水溶液に浸漬し、残存する次亜塩素酸ナトリウムを消滅させ複合半透膜を得た。
【0046】
得られた複合半透膜を上記条件で評価し、塩排除率、透過水量、透過水量低下率を測定した。評価結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
実施例1に記載したFT−PS支持膜を、アミン濃度が1.5重量%であって、全アミン化合物のうちメタフェニレンジアミンが95重量%、エチレンジアミンが5重量%であり、ε−カプロラクタム1.5重量%を含む水溶液中に2分間浸漬した。次いで、この支持膜を垂直方向にゆっくりと引上げ、支持膜表面から余分な水溶液を取除いた後、トリメシン酸クロライド0.06重量%を含むデカン溶液を、表面が完全に濡れるように塗布した。次に、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去した後、膜面に残った溶媒を蒸発させるために、膜表面での風速が8m/sとなるように、温度30℃の空気を1分間吹き付けた後、1%Na2CO3水溶液で残存している酸ハライド基を加水分解させた。その後、未反応物を除去するため、90℃の熱水に2分間浸漬後、膜性能向上のため、pH7に調整した次亜塩素酸ナトリウム500ppmを含む溶液中に2分間浸漬し、亜硫酸水素ナトリウム1,000ppm水溶液に浸漬し、残存する次亜塩素酸ナトリウムを消滅させ複合半透膜を得た。
【0048】
得られた複合半透膜を上記条件で評価し、塩排除率、透過水量、透過水量低下率を測定した。評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1から、次のことが明らかである。すなわち、実施例1〜3は、脱塩率、透過水量低下率に優れており、透過水量も実用レベルであった。一方、直鎖脂肪族アミンを用いなかった比較例1、アミン成分中のエチレンジアミンの組成が21%以下であった比較例2は、透過水量低下率が大きく、実用上問題があった。
【0051】
【発明の効果】
本発明により、界面活性剤を含む水の透水処理に用いても、透過水量の低下が僅かであり、充分な透過水量を保持できる複合半透膜が提供できる。従って、下水の高度処理に用いても、高水質の透過水を安定して得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】下水処理のプロセスフローを示す図である。
Claims (8)
- 界面活性剤を含む水を処理するための排水処理用分離膜であって、架橋ポリアミド分離機能層が多孔性支持膜上に形成され、該架橋ポリアミドは多官能アミン成分として、芳香族アミン成分と直鎖脂肪族アミン成分を含有し、かつ、該多官能アミン成分中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン成分である排水処理用分離膜。
- 該直鎖脂肪族アミン成分が一般式−R1N−R2−NR3−で表され、R1、R3は炭素原子数1〜3のアルキル基または水素を表し、R2は炭素原子数1〜6のアルキル基である請求項1に記載の排水処理用分離膜。
- 25℃において、pH6.5、NaCl濃度が1,500mg/lである水溶液を1.0MPaの圧力で1時間ろ過したときの透過水量をF1とし、続いてポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルを100mg/lの濃度となるように前記水溶液に加えて1時間ろ過したときの透過水量をF2としたとき、1−(F2/F1)の値が0.35以下である請求項1〜2のいずれかに記載の排水処理用分離膜。
- pH6.5、NaCl濃度が1,500mg/lである水溶液を、25℃において、1.0MPaの圧力を加えて1時間ろ過したときの透過水量が0.5〜3m3/m2・日の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の排水処理用分離膜。
- 請求項1〜4のいずれかの排水処理用分離膜を用いて界面活性剤を含む水を透水処理する水処理方法。
- 請求項5の水処理方法において、界面活性剤を含む水が下水に少なくとも生物処理を行った下水処理水である水処理方法。
- 界面活性剤を含む水を精密ろ過膜または限外ろ過膜で透水処理した後、さらに請求項1〜4のいずれかの複合半透膜を用いて透水処理する水処理方法。
- 多官能アミン化合物と多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させて多孔性支持膜上に架橋ポリアミド膜を形成させる排水処理用分離膜の製造方法であって、前記多官能アミン化合物は、芳香族アミン化合物および直鎖脂肪族アミン化合物を含有し、かつ、該多官能アミン化合物中の重量比で10%以上50%以下が直鎖脂肪族アミン化合物である排水処理用分離膜の製造方法。
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