JP2004042502A - バリア性透明積層フィルムおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】透明樹脂フィルム基板上に、ケイ素単体ターゲットの窒素含有雰囲気中スパッタリングにより、窒化ケイ素膜を形成して、水蒸気透過度が0.05g/m2/日以下且つ平行光線透過率が80%以上であるバリア性透明積層フィルムを形成する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品あるいは電気・電子部品等の内容物の包装あるいは封止材料、更には透明導電膜の形成用フィルム基板として適した高い水蒸気バリア性と透明性を有するバリア性透明積層フィルムおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記したような包装あるいは封止材料、更には透明導電膜をその上に形成するためのフィルム基板として、水蒸気バリア性と透明性とを兼ね備えたバリア性の透明積層フィルムが望まれていることは周知である。例えば、特開昭61−123534号公報には、主として容器形状のものであるが、金属シリコンのアンモニア含有雰囲気中における反応性スパッタリングにより形成した窒化ケイ素薄膜で被覆されたプラスチック包装部材が開示されている。
【0003】
また、特開2001−283645号公報には、液晶表示素子、太陽電池用光変換素子などにおけるすずドープ酸化インジウムなどの透明導電性薄膜の形成用基板として、透明樹脂フィルム基板上にケイ素酸化物あるいはケイ素窒化物のスパッタリング膜を形成して、水蒸気透過度が1g/m2/日以下のバリア性透明積層フィルム基板を形成する技術が提案されている。但し、その実施例においては、ケイ素酸化物膜が形成された例のみが挙げられ、得られた積層フィルム基板の水蒸気透過度は0.5g/m2/日程度、光線透過率は79〜80%程度であり、未だ満足なレベルとは云い難い。
【0004】
更に、特開平10−58585号公報には、液晶表示素子の透明電極用基板として好適に使用できる、「少なくとも、高分子成形体(A)、酸化珪素、または窒化珪素、または酸化珪素と窒化珪素との混合物からなるガスバリヤ層(B)、炭化物または遷移金属窒化物からなる薄膜層(C)をABCなる順序で形成した積層体」が提案され、またその一実施例(実施例4)として、ポリカーボネートフィルム(A)上に、シリコンをターゲットにAr:N2=1:1の雰囲気中、圧力2mTorrのもとでの直流スパッタリングにより厚さ15nmの窒化珪素膜(B)を、更にAr雰囲気中、圧力2mTorrのもとでの直流スパッタリングにより厚さ10nmの炭化珪素膜(C)を形成した積層体が開示されている。しかし、得られた積層体の水蒸気透過度は、0.7g/m2/日、光線透過率は78%とされ、満足なレベルには到達していない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述の事情に鑑み、本発明の主要な目的は、各種内容物の包装あるいは封止材料として適するほか、特に透明導電性薄膜の形成用基板としての使用に好適な、より高い水蒸気バリア性と透明性を有する積層フィルム、ならびにその効率的な製造方法、を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らの研究によれば、上述の目的が、透明樹脂フィルム基板上に、窒化ケイ素自体のターゲットでなく、ケイ素単体をターゲットとする窒素含有雰囲気中でのスパッタリングによる窒化ケイ素膜を形成することにより、効果的に達成することが見出された。
【0007】
すなわち、本発明のバリア性透明積層フィルムは、透明樹脂フィルム基板上に窒化ケイ素スパッタリング膜を形成してなり、水蒸気透過度が0.05g/m2/日以下且つ平行光線透過率が80%以上であることを特徴とするものである。
【0008】
また本発明のバリア性透明積層フィルムの製造方法は、透明樹脂フィルム基板上に、ケイ素単体ターゲットの窒素含有雰囲気中スパッタリングにより、窒化ケイ素膜を形成することを特徴とするものである。
【0009】
また、観点を変えれば、本発明は、基板上に、ケイ素単体ターゲットの窒素含有雰囲気中スパッタリングにより、窒化ケイ素膜を形成することを特徴とするバリア性透明スパッタリング膜の形成法をも提供するものと解される。
【0010】
本発明に従い、ケイ素(珪素、元素記号:Si)の単体をターゲットとして窒素含有雰囲気中でスパッタリングして得られた窒化ケイ素(SiNx)膜(後記実施例)においては、窒化ケイ素自体をターゲットとして不活性ガス(Ar)雰囲気中でスパッタリングして得られた窒化ケイ素膜(後記比較例)に比べて、小さい膜厚で著しく高い水蒸気バリア性と、更に高い透明性が得られる理由は必ずしも明らかでない。おそらくは、窒化ケイ素ターゲットを構成するSi3N4分子に比べて、より小さいSi原子として、被スパッタリング基板近傍まで移行し、窒素(N)原子と均質な条件で結合して窒化ケイ素(SiNx)膜を形成するために、均質で且つ緻密な窒化ケイ素膜が形成されているためと解される。これに対し、不活性ガス雰囲気中での窒化ケイ素(Si3N4)ターゲットのスパッタリングによる場合は、Si原子とN原子に完全に分離して基板まで移行するわけでなく、化学量論的にも非化学量論的にも均質な窒化ケイ素(SiNx)膜として堆積しないために、形成される窒化ケイ素膜の組成の均質度が低下している可能性もある。いずれにしても、バリア性且つ透明性の良好な窒化ケイ素膜を形成するためには、良好な表面平坦性を有する透明樹脂フィルムを被スパッタリング基板として用いるべきことが確認されている。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のバリア性透明積層フィルムは、前述したように、透明樹脂フィルム基板上に窒化ケイ素スパッタリング膜を形成してなるものであり、好ましくは本発明法に従い、ケイ素単体ターゲットの窒素含有雰囲気中スパッタリングにより形成される。ターゲットを構成するケイ素単体は、単結晶、多結晶または非晶質あるいはこれらの混合物であり得るが、より安定したケイ素単体のスパッタリングのためには、ケイ素単結晶または多結晶を用いることが好ましい。
【0012】
透明樹脂フィルム基板は、当然のこととしてそれ自体が透明性を有することが必要であり、また前述したように表面平坦性、更にはスパッタリングに耐える耐熱性が要求される。このような特性を有する限り透明フィルム基板材料樹脂としては、任意のものが用いられるが、その好ましい例としては、ポリアリーレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン、ポリアミド、セルローストリアセテートなどが用いられるほか、特に表面平坦性のよい透明樹脂フィルムを与えるという観点で、環状オレフィン系(共)重合体(COC)(例えば特開平11−2168175号公報あるいは特開平8−142263号公報に記載されるもの)も好適に用いられる。
【0013】
透明樹脂フィルム基板に要求される表面平坦性の程度としては、JIS−B0601による算術平均粗さRaが10nm以下、特に1nm以下、のものが好ましく用いられる。また透明性の程度は、得られる積層フィルムよりは当然に高いことが要求され、JIS K7361による平行光線透過率が85%以上、特に88%以上、のものが好ましく用いられる。更に耐熱性の観点では、Tgが80℃以上、特に100℃以上、のものが好ましく用いられる。
【0014】
透明樹脂フィルム基板の厚さは、得られる積層フィルムにおける柔軟性(あるいは逆に硬さ)とスパッタリング中に要求される耐熱変形性の兼ね合いで決められるが、一般に10〜500μm、特に10〜300μmの範囲が好ましく用いられる。
【0015】
本発明に従い、このような透明樹脂フィルム上にケイ素単体ターゲットの窒素含有雰囲気中スパッタリングにより窒化ケイ素スパッタリング膜を形成する。このような反応性スパッタリングが可能な限りにおいて、スパッタリング方式は、2極DCグロー放電スパッタリング、3極DCグロー放電スパッタリング、2極RFグロー放電スパッタリング、マグネトロンスパッタリングなど任意のスパッタリング方式が可能であるが、均質かつ緻密な膜質の窒化ケイ素膜を透明樹脂フィルム基板上に良好な密着性が生産性よく形成し得るという観点で、RF領域でのマグネトロンスパッタリング、なかでもプレーナー方式のマグネトロンスパッタリング、が特に好ましく用いられる。
【0016】
スパッタリングのための窒素含有雰囲気は、低圧の純N2雰囲気を用いることもできないわけではないが、成膜速度、膜質制御等の観点でAr等の不活性ガスにより、例えばN2/Arの流量比が0.2〜3.5、特に0.25〜3程度の希釈雰囲気とすることが好ましい。この比が低過ぎると、形成される積層フィルムの透明性が低下する傾向にあり、高すぎると、バリア性が低下する傾向にある。また、スパッタリング中の総ガス圧力としては0.05〜5Pa、特に0.1〜2Pa程度の範囲が好ましく用いられる。基板温度は、透明樹脂フィルム基板の耐熱性が許す範囲内では、高い方が生成する窒化ケイ素膜が緻密化し、水蒸気バリア性が向上する傾向にあるが、基板構成樹脂の融点Tmまたはガラス転移点Tgより10℃低い温度を超えるとフィルム状基板が変形して、却って水蒸気バリア性や透明性が低下する。
【0017】
上述の条件において、成膜速度が10〜100nm/分程度となるようにマグネトロン等のスパッタリング装置のRF出力を調整し、最終的に厚さが8nm以上、特に10〜300nmの範囲の窒化ケイ素膜を形成することが好ましい。厚さが8nm未満では所望の水蒸気バリア性が得られなくなるおそれがあり、300nmを超える透明性が低下し、またクラックの発生により却って水蒸気バリア性が低下するおそれがある。
【0018】
上記した透明樹脂フィルム基板上への、ケイ素単体の窒素含有雰囲気中スパッタリングに際して、上述したN2/Ar流量比、総圧力およびRF出力等を調整することにより一般的にSiNxの式で表わされ、x=0.8〜2.0の範囲内で制御された組成を有する窒化ケイ素膜が形成される。かくして、得られた本発明のバリア性透明積層フィルムは、以下の特性を有することができる:
水蒸気透過度(JIS K7129Bに準拠して、米国モダンコントロール社製「PERMATRAN 3/31」を用いて40℃、100%RHの条件で測定)が、0.05g/m2/日(/気圧)以下、好ましくは上記測定による測定精度下限値である0.02g/m2/日(/気圧)と同等以下;
平行光線透過率(JIS K7361に準拠して、日本電色工業(株)製曇り度計「NDH2000」を用いて測定)が、80%以上、好ましくは85%以上;
黄色度(JIS Z8722に準拠して、日本電色工業(株)製分光式色差計「SE−2000」を用いて測定)が、好ましくは−10〜+10、特に−7〜+7、の範囲。
【0019】
かくして得られた本発明の積層フィルムは、用いた透明樹脂フィルム基板よりは若干増大した耐熱性を有し、その窒化ケイ素膜上に、更に、錫ドープ酸化インジウム(ITO)膜などの透明導電膜を形成して、液晶表示素子をはじめとする各種電子機器への使用に適した透明電極板が形成される。
【0020】
またスパッタリングに際して、例えば周縁部にマスキングを行なって窒化ケイ素膜のない樹脂露出部を形成することにより、あるいは、ヒートシール層を形成することによりシール可能なバリア性透明積層フィルム製包装材料を形成することもできる。
【0021】
また、本発明の積層フィルムの持つ水蒸気バリア性は反応性スパッタリングにより形成した窒化ケイ素膜により発現することは明らかであり、同様な反応性スパッタリングにより、透明樹脂フィルム以外の表面平坦性の良い基板材料上に窒化ケイ素膜を形成して、バリア性透明被覆膜とすることもできる。
【0022】
なお本明細書において、本発明の積層フィルムの持つバリア性を水蒸気バリア性を主として述べているが、本発明の積層フィルムが酸素、炭酸ガスに対するバリア性を有することも確認されており、またフィルム基板の耐久性が許す範囲で有機物質蒸気に対するバリア性も期待される。
【0023】
【実施例】
以下、実施例、比較例により本発明を更に具体的に説明する。
【0024】
(実施例1)
環状オレフィン樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製「ゼオネックスフィルムZF16」:厚さ188μm、表面算術平均粗さRa=0.82mm。以下「COC」と略記)を寸法100mm×100mmに切り取り、これを透明樹脂フィルム基板としてマグネトロンスパッタリング装置(トッキ(株)製「SPR−403」)中の、直径10cmのSi単結晶ターゲット(住友金属鉱山(株)製)と対向する所定位置に配置し、アルゴンガス7cc/分、N22cc/分の割合でスパッタリングガスを流しながら、総ガス圧0.8Pa、基板温度100℃、RF出力800Wの条件で1分間の反応性スパッタリングを行った。基板上には、一見して透明な窒化ケイ素膜が24nmの厚さに形成された。
【0025】
かくして形成された透明積層フィルムについて、上記した方法により測定したところ、積層フィルムは水蒸気透過度が前記「PERMTRAN 3/31」の測定精度下限の0.02g/m2を示し、更に平行光線透過率85%、黄色度5.6を示した。
【0026】
基板、スパッタリング条件および測定結果の概容を、以下の実施例、比較例の結果とともに後記表1にまとめて記す。
【0027】
(実施例2〜9、比較例1〜7)
基板種類、スパッタリング条件を、それぞれ表1に示すように変更する以外は実施例1と同様にして積層フィルムを形成した。それらの測定結果を併せて表1に示す。
【0028】
なお、これらの例に用いた略号で示した基板の内容は以下の通りである:
COC:上記実施例1で用いたものと同じ環状オレフィン系透明樹脂フィルム。(日本ゼオン(株)製「ゼオネックスフィルムZF16」、厚さ188μm、Ra=0.82nm)
PC:ポリカーボネートフィルム(帝人(株)製「ピュアエース」、厚さ188μm、Ra=0.66nm)
PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱化学(株)製「ダイアホイルT600E50」、厚さ50μm、Ra=12.8nm)。
【0029】
【表1】
【0030】
上表1の結果を、以下に若干補足説明する:
本発明に従い形成された実施例1〜9の積層フィルムは、いずれも水蒸気透過度が0.05g/m2/日(/気圧)以下であり、平行光線透過率が80%以上、黄色度が−10〜+10の範囲内にあり、良好な水蒸気バリア性、透明性および色調を示す。
【0031】
これに対し、比較例1は形成された窒化ケイ素膜厚さが5nmと薄いため、所望の水蒸気バリア性が得られていない。また比較例2は窒化ケイ素膜厚さが500nmと過大であり、クラックの発生によりむしろ水蒸気バリア性が低下している。
【0032】
N2を流すことなくAr雰囲気でSi単結晶のスパッタリングを行った比較例3の積層フィルムは水蒸気バリア性は良好であるがSi膜のため平行光線透過率は20%と著しく低下し、黄色度も大である。これに対し、N2流量が小さい比較例4の積層フィルムは比較例3よりは改善されているが、透明性および黄色度の点でやはり満足な値を示していない。
【0033】
表面平坦性の低いPETフィルムを用いた比較例5の積層フィルムでは、透明性は良好であるが、水蒸気バリア性は著しく低下している。
【0034】
Si3N4ターゲットのArガス雰囲気中スパッタリングで得られた比較例6および7の積層フィルムは、24nmと比較的低い膜厚の比較例6では所望の水蒸気バリア性が得られず、160nmと厚い比較例7では、水蒸気透過度が0.06g/m2/日(/気圧)および平行光線透過率79%といずれも不満な値である。
【0035】
【発明の効果】
上述したように本発明によれば透明樹脂フィルム基板上に、ケイ素単体ターゲットの窒素含有雰囲気中スパッタリングにより窒化ケイ素膜を形成することにより、良好な透明性と水蒸気バリア性を兼ね備え、各種包装材料あるいは電子機器用基板として適した積層フィルムが得られる。
Claims (4)
- 透明樹脂フィルム基板上に窒化ケイ素スパッタリング膜を形成してなり、水蒸気透過度が0.05g/m2/日以下且つ平行光線透過率が80%以上である、バリア性透明積層フィルム。
- 黄色度が−10〜+10の範囲である請求項1に記載の積層フィルム。
- 基板上に、ケイ素単体ターゲットの窒素含有雰囲気中スパッタリングにより、窒化ケイ素膜を形成することを特徴とする、水蒸気透過度が0.05g/m2/日以下且つ平行光線透過率が80%以上であるバリア性透明スパッタリング膜の形成法。
- 透明樹脂フィルム基板上に、ケイ素単体ターゲットの窒素含有雰囲気中スパッタリングにより、窒化ケイ素膜を形成することを特徴とする、水蒸気透過度が0.05g/m2/日以下且つ平行光線透過率が80%以上であるバリア性透明積層フィルムの製造方法。
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