JP2004042133A - 耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手およびその製造方法を提案する。
【解決手段】溶接材料を用いて鋼材同士を溶接し、溶接部を形成したのち、該溶接部の止端部に、付加溶接を施し、止端部近傍表面の最大引張残留応力を鋼材の0.2 %耐力の30%以下とする。付加溶接は、溶接時の冷却過程で50℃以上450 ℃未満の変態開始温度を有する溶接金属を形成できる溶接材料を使用することが好ましい。また、付加溶接の溶接材料は、C:0.20%以下、Cr:5.0 〜18.0%、Ni:3.0 〜15.0%を含有し、あるいはさらに、Si:0.2 〜1.0 %、Mn:0.4 〜2.5 %を含み、あるいはさらにMo:4.0 %以下、Nb:1.0 %以下の1種または2種を含有することが好ましい。
【選択図】 図1
【解決手段】溶接材料を用いて鋼材同士を溶接し、溶接部を形成したのち、該溶接部の止端部に、付加溶接を施し、止端部近傍表面の最大引張残留応力を鋼材の0.2 %耐力の30%以下とする。付加溶接は、溶接時の冷却過程で50℃以上450 ℃未満の変態開始温度を有する溶接金属を形成できる溶接材料を使用することが好ましい。また、付加溶接の溶接材料は、C:0.20%以下、Cr:5.0 〜18.0%、Ni:3.0 〜15.0%を含有し、あるいはさらに、Si:0.2 〜1.0 %、Mn:0.4 〜2.5 %を含み、あるいはさらにMo:4.0 %以下、Nb:1.0 %以下の1種または2種を含有することが好ましい。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手に係り、とくに溶接部に発生する引張残留応力の減少、あるいは圧縮残留応力の導入による、耐応力腐食割れ性の改善に関する。
【0002】
【従来の技術】
ラインパイプ、石油精製プラント、化学プラント等の各種装置や、LPG、液体アンモニア、苛性ソーダ等を貯蔵する各種タンクの鋼構造物では、作用する応力とそれぞれの環境がもたらす腐食との相互作用により、各種の応力腐食割れが発生し、大きな問題となっている。
【0003】
これらの応力腐食割れの多くは、溶接部の止端部を起点に発生しており、その原因は溶接時の引張残留応力と鋼構造物として作用する引張応力(以下、外部応力)が重畳して大きな引張応力が溶接部の止端部に作用するためである。したがって、溶接後の引張残留応力の低減や圧縮応力の導入は、応力腐食割れの防止に効果があると考えられ、これまでに引張残留応力の低減手段や圧縮応力の導入手段について、多くの提案がなされている。
【0004】
溶接部の引張残留応力の低減手段としては、例えば、一般に溶接後熱処理を行なうことであったが、溶接後熱処理は多大な費用を要するという問題がある。また、溶接部の引張残留応力の低減手段として、例えば、特開昭57−169798 号公報には、管を溶接結合した後に、溶接部近傍の両側に、 管外周面に沿ってビード溶着を施す管の溶接方法が提案されている。この技術によれば、溶接部内面の引張残留応力を解消し、応力腐食割れを防止することができるとしている。しかし、特開昭57−169798 号公報に記載された技術では、使用する溶接材料やビード溶着の適切な位置の選択について不明な点が多く、所望の圧縮残留応力を導入ができない場合があるという問題があった。
【0005】
また、特開昭54−97555号公報には、引張応力下にある母材の一面に、母材金属の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する肉盛材料で溶接肉盛を施し、 母材の他面に圧縮応力を生じさせる応力腐食防止方法が提案されている。しかし、低合金鋼板では、溶接材料と被溶接材である鋼板との熱膨張係数差を大きくすることが難しいため、特開昭54−97555号公報に記載された技術を応用しても、低合金鋼板の溶接継手では、所望の圧縮残留応力ができない場合があるという問題があった。
【0006】
また、特開平11−138290 号公報には、溶接により生成する溶接金属を、溶接後の冷却過程でマルテンサイト変態を起こさせ、室温において該マルテンサイト変態の開始時よりも膨張している状態とする溶接方法が提案されている。特開平11−138290 号公報に記載された技術では、溶接材料として、マルテンサイト変態開始温度が250 ℃未満170 ℃以上の鉄合金を使用することが好ましいとしている。
【0007】
また、特開2000−84670号公報には、溶接が完了する室温もしくはその付近でマルテンサイト変態膨張が終了する溶接材料と炭酸ガス含有シールドガスとを用いてアーク溶接する溶接方法が提案されている。特開2000−84670号公報に記載された技術によれば、溶接金属が母材側に深く溶け込み、溶接止端部近傍の残留応力を容易に圧縮とすることができるとしている。また、この方法は、補修溶接としても利用できるとしている。
【0008】
また、特開2000−17380号公報には、オーステナイトからマルテンサイトに変態を開始する温度が200 ℃以上350 ℃以下であり、変態開始温度における降伏強度が60kg/mm2以上、120 kg/mm2以下である溶接金属を形成する溶接用ワイヤを用いて溶接する方法が提案されている。
【0009】
【発明の解決しようとする課題】
しかしながら、特開平11−138290 号公報、特開2000−17380号公報、特開2000−84670号公報に記載された技術では、室温もしくはその付近でマルテンサイト変態膨張が終了する溶接材料、あるいはマルテンサイト変態開始温度が、170 ℃以上250 ℃未満、あるいは200 ℃以上350 ℃以下である溶接材料を用いて溶接金属を生成するが、溶接部の強度、 靭性と耐応力腐食性を両立させることには問題を残していた。
【0010】
本発明は、こうした従来技術の問題を有利に解決し、耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手およびその製造方法を提案することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、溶接部の応力腐食割れの起点が溶接止端部近傍であることに鑑みて、応力腐食割れにおよぼす溶接止端部近傍の引張残留応力の影響について鋭意検討した。
まず、本発明者らが行なった基礎的な実験結果について説明する。
【0012】
被溶接材である鋼板同士を各種溶接材料を用いて溶接後、さらに応力除去焼鈍条件を変化させて、止端部近傍表面の最大引張残留応力が鋼板の0.2 %耐力の10〜50%の範囲となる主溶接部を有する溶接継手を作製した。これら溶接継手から、平滑4点曲げ応力腐食割れ試験片を採取した。そして、これら試験片に外部応力を鋼板の0.2 %耐力の80%まで作用させ、種々の応力腐食割れ試験を行って割れ発生の有無を調べた。その結果を表1に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
表1から、止端部表面の最大引張残留応力が被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の30%以下であれば、外部応力が被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の80%まで作用しても溶接止端部近傍からの応力腐食割れは発生しないことがわかる。
そしてさらに、本発明者らは、所望の強度および靭性を有する溶接部の溶接継手を形成したのち、その溶接部の止端部に簡易な付加溶接を施すだけで、溶接止端部近傍表面に残留する引張応力を被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の30%以下とすることができることを見出した。
【0015】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)被溶接材である鋼材同士を溶接材料を用いて溶接された溶接継手であって、前記溶接により形成された溶接部の止端部近傍表面の最大引張残留応力が前記鋼材の0.2 %耐力の30%以下であることを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手。
(2)(1)において、前記溶接部の止端部近傍の溶接金属が、溶接時の冷却過程で50℃以上450 ℃未満の変態開始温度を有することを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手。
(3)溶接材料を用いて被溶接材である鋼材同士を溶接して溶接継手とする溶接継手の製造方法において、前記溶接により形成された溶接部の止端部に、付加溶接を施し、前記溶接部の止端部近傍表面の最大引張残留応力を前記鋼材の0.2 %耐力の30%以下とすることを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手の製造方法。
(4)(3)において、前記付加溶接が、溶接時の冷却過程で50℃以上450 ℃未満の変態開始温度を有する溶接金属を形成できる溶接材料を使用することを特徴とする溶接継手の製造方法。
(5)(4)において、前記溶接材料が、C:0.20質量%以下、Cr:5.0 〜18.0質量%、Ni:3.0 〜15.0質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する溶接材料であることを特徴とする溶接継手の製造方法。
(6)(5)において、前記組成に加えてさらに、Si:0.2 〜1.0 質量%、Mn:0.4 〜2.5 質量%を含み、あるいはさらにMo:4.0 質量%以下、Nb:1.0 質量%以下の1種または2種を含有することを特徴とする溶接継手の製造方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の溶接継手の製造方法について、 説明する。
本発明では、まず、所望の強度および靭性の溶接金属が得られるように、所定の溶接材料を用い所定の溶接条件で、被溶接材である鋼材同士を溶接し、所望の強度および靭性を有する主溶接部である溶接部を形成し、溶接継手とする。本発明では、この際、使用する鋼材、および主溶接部を形成する溶接材料はとくに限定されない。所望の強度および靭性の溶接継手が得られるように適宜選定できる。
【0017】
ついで、本発明では、溶接継手の主溶接部である溶接部の止端部に、付加溶接を施す。止端部に付加溶接を施すことにより、止端部近傍表面の最大引張残留応力を低減することができる。なお、本発明でいう「止端部近傍」とは、止端部から10mm以内の範囲をいうものとする。
応力腐食割れの発生は作用する引張応力の大きさに依存する。最終的に鋼構造物に作用する引張応力は、溶接による引張残留応力に外部応力が重畳して決まるが、それらの単純な和ではない。しかし、本発明者らの検討によれば、溶接部の止端部表面の最大引張残留応力が、被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下であれば、外部応力が鋼材の0.2 %耐力の80%まで作用しても応力腐食割れは発生しないことが確認されている。このようなことから、本発明では、溶接継手の溶接部止端部近傍表面の最大引張残留応力を被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下に限定した。これにより、溶接継手における応力腐食割れの発生を防止できる。
【0018】
止端部に施す付加溶接は、主溶接部である溶接金属(溶接部)の止端部近傍表面の最大引張残留応力が、被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下とすることができればよく、被覆アーク溶接、TIG溶接、MIG溶接、サブマージ溶接等いずれの溶接方法による一層溶接あるいは多層溶接など、付加溶接の方法は、とくに限定されない。なお、付加溶接では、主溶接部である溶接部の止端部近傍表面の最大引張残留応力が、被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下となるように、形成される溶接金属を調整することが好ましい。
【0019】
溶接金属は、溶接の冷却時にマルテンサイト変態を生じ、マルテンサイト変態開始からある程度温度が降下するまでの間に一旦膨張する。従って、溶接後の冷却過程でマルテンサイト変態を起こさせ、しかも室温においてマルテンサイト変態の開始時よりも膨張している状態とすることにより、冷却過程で溶接金属に生じた引張残留応力を緩和、あるいは引張残留応力に変えて圧縮残留応力を与えることができる。
【0020】
溶接金属(溶接部)の止端部表面の最大引張残留応力を、被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下に調整するためには、付加溶接では、溶接時の冷却過程で、50℃以上450 ℃未満のマルテンサイト変態開始温度を有する溶接金属を形成できる溶接材料を使用することが好ましい。
図1に、組成の異なる2種(A,B)の溶接金属の変態特性を示す。
【0021】
溶接金属Aのような変態特性を有する溶接金属を形成する溶接材料を用いて付加溶接を行なうと、生成した溶接金属のマルテンサイト変態による膨張量を最適にすることができ、且つ、該膨張量の大きな状態が室温付近となって、溶接金属の冷却過程終了時には、溶接金属がマルテンサイト変態開始時(Ms点)と同じ状態あるいは膨張している状態となる。このような膨張状態の溶接金属を溶接により形成すれば、主溶接部に残留する引張残留応力が緩和され、 あるいは圧縮残留応力が付加されることになる。溶接金属をこのような膨張状態とするには、付加溶接に際し、50℃以上450 ℃未満のマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を有する溶接金属を形成できる溶接材料を使用することが好ましい。なお、溶接金属のMs点はより好ましくは、100 ℃以上350 ℃未満である。
【0022】
一方、付加溶接に際し、図1に示す溶接金属Bのような、Ms点が450 ℃以上の高温となる変態特性を有する溶接金属を形成する溶接材料を用いると、生成した溶接金属のマルテンサイト変態による膨張量の大きな状態が高温となり、溶接金属の冷却過程で収縮し、室温付近では、溶接金属がマルテンサイト変態開始時(Ms点)より収縮した状態となる。このため、却って引張応力が残留することになる。なお、Ms点が50℃未満の場合には、マルテンサイト変態により室温までに生じる膨張量が少なく主溶接部の引張残留応力を解消するまでに至らない。
【0023】
次に、50℃以上450 ℃未満、より好ましくは100 ℃以上350 ℃未満のマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を有する溶接金属を形成できる溶接材料の好ましい組成について説明する。なお、以下、質量%は単に%と記す。
マルテンサイト変態開始温度は、C、Cr、Niの含有量、あるいはさらにSi、Mn、およびMo、Nbの含有量を調整することにより変化させることができる。
【0024】
C:0.20%以下
Cは、溶接金属の硬さを増加させ、溶接性を低下させる元素であり、本発明では、できるだけ低減することが好ましい。溶接割れの観点からは、0.20%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、0.01%以上、0.10%以下である。
【0025】
Cr:5.0 〜18.0%
Crは、製造工程における加工性にさほど影響を及ぼさずに、溶接金属のマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を低下できる元素であり、溶接金属のMs点を450 ℃未満とするために、本発明では5.0 %以上含有することが好ましい。一方、18.0%を超える含有は溶接金属組織にフェライト組織が出現して靱性の低下を招く。このため、Crは5.0 〜18.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは5.0 〜13.0%である。
【0026】
Ni:3.0 〜15.0%
Niは、Crと同様に、製造工程における加工性にさほど影響を及ぼさずに、溶接金属のMs点を低下できる元素であり、溶接金属のMs点を450 ℃未満とするために、3.0 %以上含有することが好ましい。一方、Niを15.0%を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。このため、Niは3.0 〜15.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは5.0 〜13.0である。
【0027】
上記した化学成分に加えて、さらにSi:0.2 〜1.0 %、Mn:0.4 〜2.5 %、あるいはさらにMo:4.0 %以下、Nb:1.0 %以下の1種または2種を選択して含有できる。
Si:0.2 〜1.0 %
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、含有する場合には、0.2 %以上含有することが好ましい。一方、1.0 %を超える含有は溶接材料製造工程における加工性を低下させる。このため、Siは0.2 〜1.0 %の範囲に限定することが好ましい。
【0028】
Mn:0.4 〜2.5 %
Mnは、脱酸剤として作用する元素であり、含有する場合には、0.4 %以上含有することが好ましい。一方、2.5 %を超える含有は溶接材料製造工程における加工性を低下させる。このため、Mnは0.4 〜2.5 %の範囲に限定することが好ましい。
【0029】
Mo:4.0 %以下、Nb:1.0 %以下の1種または2種
Mo、Nbは,いずれも溶接金属のMs点を調整するために必要に応じ選択して含有できる。
Moは、さらに溶接部の耐食性を向上させる作用を有し、0.1 %以上の含有が好ましいが、4.0 %を超えて含有すると、溶接材料製造工程における加工性が低下する。このため、Moは4.0 %以下に限定することが好ましい。
【0030】
Nbは、溶接金属のMs点低下のために0.001 %以上の含有が好ましいが、1.0 %を超えると溶接材料製造工程における加工性が低下する。このため、Nbは1.0 %以下に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
なお、溶接金属のマルテンサイト開始温度は被溶接材である鋼材からの希釈により鋼材組成によって若干変化するが、上記した組成の溶接材料を使用することにより、被溶接材が炭素鋼板でも、あるいはステンレス鋼板のような高合金鋼板であっても形成される溶接金属のMs点を450 ℃未満50℃以上、好ましくは350 ℃未満100 ℃以上とすることができ、応力腐食割れ防止について効果を得ることができる。
【0031】
上記した製造方法で作製された溶接継手は、主溶接部である溶接部の止端部近傍表面の最大引張残留応力が、被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下となる。なお、主溶接部である溶接金属の止端部近傍の溶接金属は、50℃以上450 ℃未満のマルテンサイト変態開始温度を有することが好ましい。なお、より好ましくは100 ℃以上350 ℃未満である。
【0032】
【実施例】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。
被溶接材として表2に示す鋼板を用いた。鋼板Aは、JIS SB410 相当の溶接構造用鋼であり、鋼板Bは、JIS SUS304相当のステンレス鋼である。板厚はいずれも20mmである。
【0033】
これら鋼板に突き合わせ用V開先を加工し、鋼板同士を開先面で突合せて、それぞれに適する市販の溶接材料を用いて溶接し、主溶接部である溶接部の止端部近傍に形成し溶接継手とした。ついで、この溶接継手のビードと同一方向に、表3に示す被覆アーク溶接材料を用い付加溶接を行った。付加溶接は、これら溶接継手の主溶接部の止端部に施した。
【0034】
得られた溶接継手から付加溶接により形成された溶接金属を採取し分析して求めた変態開始温度およびFEM による応力解析で求めた止端部近傍表面の最大引張残留応力の値を表4に示す。
なお、変態開始温度は、村田らが示した次式(溶接学会論文集、第9巻(1991)第1号,p.160 〜p.167 ,「応力緩和に及ぼす合金元素および変態温度の影響」)
A=719 −795C−35.55Si −13.25Mn −23.7Cr−26.5Ni−23.7Mo−11.85Nb
(ここに、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Nb:各元素の含有量(質量%))
を使用して算出した。
【0035】
また、得られた溶接継手から試験片を採取して応力腐食割れ試験を実施した。応力腐食割れ試験の応力負荷は、定歪み4点曲げ法により行った。試験片は厚さ7mm×幅60mm×長さ170 mmの板状試験片を用い、表面は研削せず黒皮、余盛り付きとした。なお、これら試験片は、試験片に切出し後も溶接残留応力が維持されることが、別途検討したFEM による応力解析で確かめられている。この試験片に、均一応力負荷領域が40mm長さになるよう、被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の80%に相当する曲げ応力を負荷して腐食環境に浸漬した。
【0036】
鋼板Aを用いた溶接継手から採取した試験片については、NACE TM0177 に規定される硫化物応力腐食割れ試験用Solution A(5%NaCl+0.5%CH3COOH+1 気圧H2S)環境に30日間浸漬、鋼板Bを用いた溶接継手から採取した試験片については、JIS G0576 に規定されるステンレス鋼の塩化物応力腐食割れ試験用42%塩化マグネシウム環境に7日間浸漬した。浸漬後の試験片について、応力腐食割れ発生の有無を調査した。応力腐食割れ発生の有無は、試験片表面を10倍のルーペで観察することにより調べた。
【0037】
応力腐食割れ試験結果を表4に併記する。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
本発明例は、被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の80%の外部応力負荷条件で、いずれも応力腐食割れの発生は認められなかった。一方、本発明の範囲を外れる比較例では、被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の80%の外部応力負荷条件で、いずれも応力腐食割れの発生が認められ、耐応力腐食割れ性が十分ではないことがわかる。
【0042】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、耐応力腐食割れ性が大幅に向上した溶接継手が得られ、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接金属の変態特性の一例を模式的に示す説明図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手に係り、とくに溶接部に発生する引張残留応力の減少、あるいは圧縮残留応力の導入による、耐応力腐食割れ性の改善に関する。
【0002】
【従来の技術】
ラインパイプ、石油精製プラント、化学プラント等の各種装置や、LPG、液体アンモニア、苛性ソーダ等を貯蔵する各種タンクの鋼構造物では、作用する応力とそれぞれの環境がもたらす腐食との相互作用により、各種の応力腐食割れが発生し、大きな問題となっている。
【0003】
これらの応力腐食割れの多くは、溶接部の止端部を起点に発生しており、その原因は溶接時の引張残留応力と鋼構造物として作用する引張応力(以下、外部応力)が重畳して大きな引張応力が溶接部の止端部に作用するためである。したがって、溶接後の引張残留応力の低減や圧縮応力の導入は、応力腐食割れの防止に効果があると考えられ、これまでに引張残留応力の低減手段や圧縮応力の導入手段について、多くの提案がなされている。
【0004】
溶接部の引張残留応力の低減手段としては、例えば、一般に溶接後熱処理を行なうことであったが、溶接後熱処理は多大な費用を要するという問題がある。また、溶接部の引張残留応力の低減手段として、例えば、特開昭57−169798 号公報には、管を溶接結合した後に、溶接部近傍の両側に、 管外周面に沿ってビード溶着を施す管の溶接方法が提案されている。この技術によれば、溶接部内面の引張残留応力を解消し、応力腐食割れを防止することができるとしている。しかし、特開昭57−169798 号公報に記載された技術では、使用する溶接材料やビード溶着の適切な位置の選択について不明な点が多く、所望の圧縮残留応力を導入ができない場合があるという問題があった。
【0005】
また、特開昭54−97555号公報には、引張応力下にある母材の一面に、母材金属の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する肉盛材料で溶接肉盛を施し、 母材の他面に圧縮応力を生じさせる応力腐食防止方法が提案されている。しかし、低合金鋼板では、溶接材料と被溶接材である鋼板との熱膨張係数差を大きくすることが難しいため、特開昭54−97555号公報に記載された技術を応用しても、低合金鋼板の溶接継手では、所望の圧縮残留応力ができない場合があるという問題があった。
【0006】
また、特開平11−138290 号公報には、溶接により生成する溶接金属を、溶接後の冷却過程でマルテンサイト変態を起こさせ、室温において該マルテンサイト変態の開始時よりも膨張している状態とする溶接方法が提案されている。特開平11−138290 号公報に記載された技術では、溶接材料として、マルテンサイト変態開始温度が250 ℃未満170 ℃以上の鉄合金を使用することが好ましいとしている。
【0007】
また、特開2000−84670号公報には、溶接が完了する室温もしくはその付近でマルテンサイト変態膨張が終了する溶接材料と炭酸ガス含有シールドガスとを用いてアーク溶接する溶接方法が提案されている。特開2000−84670号公報に記載された技術によれば、溶接金属が母材側に深く溶け込み、溶接止端部近傍の残留応力を容易に圧縮とすることができるとしている。また、この方法は、補修溶接としても利用できるとしている。
【0008】
また、特開2000−17380号公報には、オーステナイトからマルテンサイトに変態を開始する温度が200 ℃以上350 ℃以下であり、変態開始温度における降伏強度が60kg/mm2以上、120 kg/mm2以下である溶接金属を形成する溶接用ワイヤを用いて溶接する方法が提案されている。
【0009】
【発明の解決しようとする課題】
しかしながら、特開平11−138290 号公報、特開2000−17380号公報、特開2000−84670号公報に記載された技術では、室温もしくはその付近でマルテンサイト変態膨張が終了する溶接材料、あるいはマルテンサイト変態開始温度が、170 ℃以上250 ℃未満、あるいは200 ℃以上350 ℃以下である溶接材料を用いて溶接金属を生成するが、溶接部の強度、 靭性と耐応力腐食性を両立させることには問題を残していた。
【0010】
本発明は、こうした従来技術の問題を有利に解決し、耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手およびその製造方法を提案することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、溶接部の応力腐食割れの起点が溶接止端部近傍であることに鑑みて、応力腐食割れにおよぼす溶接止端部近傍の引張残留応力の影響について鋭意検討した。
まず、本発明者らが行なった基礎的な実験結果について説明する。
【0012】
被溶接材である鋼板同士を各種溶接材料を用いて溶接後、さらに応力除去焼鈍条件を変化させて、止端部近傍表面の最大引張残留応力が鋼板の0.2 %耐力の10〜50%の範囲となる主溶接部を有する溶接継手を作製した。これら溶接継手から、平滑4点曲げ応力腐食割れ試験片を採取した。そして、これら試験片に外部応力を鋼板の0.2 %耐力の80%まで作用させ、種々の応力腐食割れ試験を行って割れ発生の有無を調べた。その結果を表1に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
表1から、止端部表面の最大引張残留応力が被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の30%以下であれば、外部応力が被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の80%まで作用しても溶接止端部近傍からの応力腐食割れは発生しないことがわかる。
そしてさらに、本発明者らは、所望の強度および靭性を有する溶接部の溶接継手を形成したのち、その溶接部の止端部に簡易な付加溶接を施すだけで、溶接止端部近傍表面に残留する引張応力を被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の30%以下とすることができることを見出した。
【0015】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)被溶接材である鋼材同士を溶接材料を用いて溶接された溶接継手であって、前記溶接により形成された溶接部の止端部近傍表面の最大引張残留応力が前記鋼材の0.2 %耐力の30%以下であることを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手。
(2)(1)において、前記溶接部の止端部近傍の溶接金属が、溶接時の冷却過程で50℃以上450 ℃未満の変態開始温度を有することを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手。
(3)溶接材料を用いて被溶接材である鋼材同士を溶接して溶接継手とする溶接継手の製造方法において、前記溶接により形成された溶接部の止端部に、付加溶接を施し、前記溶接部の止端部近傍表面の最大引張残留応力を前記鋼材の0.2 %耐力の30%以下とすることを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手の製造方法。
(4)(3)において、前記付加溶接が、溶接時の冷却過程で50℃以上450 ℃未満の変態開始温度を有する溶接金属を形成できる溶接材料を使用することを特徴とする溶接継手の製造方法。
(5)(4)において、前記溶接材料が、C:0.20質量%以下、Cr:5.0 〜18.0質量%、Ni:3.0 〜15.0質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する溶接材料であることを特徴とする溶接継手の製造方法。
(6)(5)において、前記組成に加えてさらに、Si:0.2 〜1.0 質量%、Mn:0.4 〜2.5 質量%を含み、あるいはさらにMo:4.0 質量%以下、Nb:1.0 質量%以下の1種または2種を含有することを特徴とする溶接継手の製造方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の溶接継手の製造方法について、 説明する。
本発明では、まず、所望の強度および靭性の溶接金属が得られるように、所定の溶接材料を用い所定の溶接条件で、被溶接材である鋼材同士を溶接し、所望の強度および靭性を有する主溶接部である溶接部を形成し、溶接継手とする。本発明では、この際、使用する鋼材、および主溶接部を形成する溶接材料はとくに限定されない。所望の強度および靭性の溶接継手が得られるように適宜選定できる。
【0017】
ついで、本発明では、溶接継手の主溶接部である溶接部の止端部に、付加溶接を施す。止端部に付加溶接を施すことにより、止端部近傍表面の最大引張残留応力を低減することができる。なお、本発明でいう「止端部近傍」とは、止端部から10mm以内の範囲をいうものとする。
応力腐食割れの発生は作用する引張応力の大きさに依存する。最終的に鋼構造物に作用する引張応力は、溶接による引張残留応力に外部応力が重畳して決まるが、それらの単純な和ではない。しかし、本発明者らの検討によれば、溶接部の止端部表面の最大引張残留応力が、被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下であれば、外部応力が鋼材の0.2 %耐力の80%まで作用しても応力腐食割れは発生しないことが確認されている。このようなことから、本発明では、溶接継手の溶接部止端部近傍表面の最大引張残留応力を被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下に限定した。これにより、溶接継手における応力腐食割れの発生を防止できる。
【0018】
止端部に施す付加溶接は、主溶接部である溶接金属(溶接部)の止端部近傍表面の最大引張残留応力が、被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下とすることができればよく、被覆アーク溶接、TIG溶接、MIG溶接、サブマージ溶接等いずれの溶接方法による一層溶接あるいは多層溶接など、付加溶接の方法は、とくに限定されない。なお、付加溶接では、主溶接部である溶接部の止端部近傍表面の最大引張残留応力が、被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下となるように、形成される溶接金属を調整することが好ましい。
【0019】
溶接金属は、溶接の冷却時にマルテンサイト変態を生じ、マルテンサイト変態開始からある程度温度が降下するまでの間に一旦膨張する。従って、溶接後の冷却過程でマルテンサイト変態を起こさせ、しかも室温においてマルテンサイト変態の開始時よりも膨張している状態とすることにより、冷却過程で溶接金属に生じた引張残留応力を緩和、あるいは引張残留応力に変えて圧縮残留応力を与えることができる。
【0020】
溶接金属(溶接部)の止端部表面の最大引張残留応力を、被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下に調整するためには、付加溶接では、溶接時の冷却過程で、50℃以上450 ℃未満のマルテンサイト変態開始温度を有する溶接金属を形成できる溶接材料を使用することが好ましい。
図1に、組成の異なる2種(A,B)の溶接金属の変態特性を示す。
【0021】
溶接金属Aのような変態特性を有する溶接金属を形成する溶接材料を用いて付加溶接を行なうと、生成した溶接金属のマルテンサイト変態による膨張量を最適にすることができ、且つ、該膨張量の大きな状態が室温付近となって、溶接金属の冷却過程終了時には、溶接金属がマルテンサイト変態開始時(Ms点)と同じ状態あるいは膨張している状態となる。このような膨張状態の溶接金属を溶接により形成すれば、主溶接部に残留する引張残留応力が緩和され、 あるいは圧縮残留応力が付加されることになる。溶接金属をこのような膨張状態とするには、付加溶接に際し、50℃以上450 ℃未満のマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を有する溶接金属を形成できる溶接材料を使用することが好ましい。なお、溶接金属のMs点はより好ましくは、100 ℃以上350 ℃未満である。
【0022】
一方、付加溶接に際し、図1に示す溶接金属Bのような、Ms点が450 ℃以上の高温となる変態特性を有する溶接金属を形成する溶接材料を用いると、生成した溶接金属のマルテンサイト変態による膨張量の大きな状態が高温となり、溶接金属の冷却過程で収縮し、室温付近では、溶接金属がマルテンサイト変態開始時(Ms点)より収縮した状態となる。このため、却って引張応力が残留することになる。なお、Ms点が50℃未満の場合には、マルテンサイト変態により室温までに生じる膨張量が少なく主溶接部の引張残留応力を解消するまでに至らない。
【0023】
次に、50℃以上450 ℃未満、より好ましくは100 ℃以上350 ℃未満のマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を有する溶接金属を形成できる溶接材料の好ましい組成について説明する。なお、以下、質量%は単に%と記す。
マルテンサイト変態開始温度は、C、Cr、Niの含有量、あるいはさらにSi、Mn、およびMo、Nbの含有量を調整することにより変化させることができる。
【0024】
C:0.20%以下
Cは、溶接金属の硬さを増加させ、溶接性を低下させる元素であり、本発明では、できるだけ低減することが好ましい。溶接割れの観点からは、0.20%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、0.01%以上、0.10%以下である。
【0025】
Cr:5.0 〜18.0%
Crは、製造工程における加工性にさほど影響を及ぼさずに、溶接金属のマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を低下できる元素であり、溶接金属のMs点を450 ℃未満とするために、本発明では5.0 %以上含有することが好ましい。一方、18.0%を超える含有は溶接金属組織にフェライト組織が出現して靱性の低下を招く。このため、Crは5.0 〜18.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは5.0 〜13.0%である。
【0026】
Ni:3.0 〜15.0%
Niは、Crと同様に、製造工程における加工性にさほど影響を及ぼさずに、溶接金属のMs点を低下できる元素であり、溶接金属のMs点を450 ℃未満とするために、3.0 %以上含有することが好ましい。一方、Niを15.0%を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。このため、Niは3.0 〜15.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは5.0 〜13.0である。
【0027】
上記した化学成分に加えて、さらにSi:0.2 〜1.0 %、Mn:0.4 〜2.5 %、あるいはさらにMo:4.0 %以下、Nb:1.0 %以下の1種または2種を選択して含有できる。
Si:0.2 〜1.0 %
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、含有する場合には、0.2 %以上含有することが好ましい。一方、1.0 %を超える含有は溶接材料製造工程における加工性を低下させる。このため、Siは0.2 〜1.0 %の範囲に限定することが好ましい。
【0028】
Mn:0.4 〜2.5 %
Mnは、脱酸剤として作用する元素であり、含有する場合には、0.4 %以上含有することが好ましい。一方、2.5 %を超える含有は溶接材料製造工程における加工性を低下させる。このため、Mnは0.4 〜2.5 %の範囲に限定することが好ましい。
【0029】
Mo:4.0 %以下、Nb:1.0 %以下の1種または2種
Mo、Nbは,いずれも溶接金属のMs点を調整するために必要に応じ選択して含有できる。
Moは、さらに溶接部の耐食性を向上させる作用を有し、0.1 %以上の含有が好ましいが、4.0 %を超えて含有すると、溶接材料製造工程における加工性が低下する。このため、Moは4.0 %以下に限定することが好ましい。
【0030】
Nbは、溶接金属のMs点低下のために0.001 %以上の含有が好ましいが、1.0 %を超えると溶接材料製造工程における加工性が低下する。このため、Nbは1.0 %以下に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
なお、溶接金属のマルテンサイト開始温度は被溶接材である鋼材からの希釈により鋼材組成によって若干変化するが、上記した組成の溶接材料を使用することにより、被溶接材が炭素鋼板でも、あるいはステンレス鋼板のような高合金鋼板であっても形成される溶接金属のMs点を450 ℃未満50℃以上、好ましくは350 ℃未満100 ℃以上とすることができ、応力腐食割れ防止について効果を得ることができる。
【0031】
上記した製造方法で作製された溶接継手は、主溶接部である溶接部の止端部近傍表面の最大引張残留応力が、被溶接材である鋼材の0.2 %耐力の30%以下となる。なお、主溶接部である溶接金属の止端部近傍の溶接金属は、50℃以上450 ℃未満のマルテンサイト変態開始温度を有することが好ましい。なお、より好ましくは100 ℃以上350 ℃未満である。
【0032】
【実施例】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。
被溶接材として表2に示す鋼板を用いた。鋼板Aは、JIS SB410 相当の溶接構造用鋼であり、鋼板Bは、JIS SUS304相当のステンレス鋼である。板厚はいずれも20mmである。
【0033】
これら鋼板に突き合わせ用V開先を加工し、鋼板同士を開先面で突合せて、それぞれに適する市販の溶接材料を用いて溶接し、主溶接部である溶接部の止端部近傍に形成し溶接継手とした。ついで、この溶接継手のビードと同一方向に、表3に示す被覆アーク溶接材料を用い付加溶接を行った。付加溶接は、これら溶接継手の主溶接部の止端部に施した。
【0034】
得られた溶接継手から付加溶接により形成された溶接金属を採取し分析して求めた変態開始温度およびFEM による応力解析で求めた止端部近傍表面の最大引張残留応力の値を表4に示す。
なお、変態開始温度は、村田らが示した次式(溶接学会論文集、第9巻(1991)第1号,p.160 〜p.167 ,「応力緩和に及ぼす合金元素および変態温度の影響」)
A=719 −795C−35.55Si −13.25Mn −23.7Cr−26.5Ni−23.7Mo−11.85Nb
(ここに、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Nb:各元素の含有量(質量%))
を使用して算出した。
【0035】
また、得られた溶接継手から試験片を採取して応力腐食割れ試験を実施した。応力腐食割れ試験の応力負荷は、定歪み4点曲げ法により行った。試験片は厚さ7mm×幅60mm×長さ170 mmの板状試験片を用い、表面は研削せず黒皮、余盛り付きとした。なお、これら試験片は、試験片に切出し後も溶接残留応力が維持されることが、別途検討したFEM による応力解析で確かめられている。この試験片に、均一応力負荷領域が40mm長さになるよう、被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の80%に相当する曲げ応力を負荷して腐食環境に浸漬した。
【0036】
鋼板Aを用いた溶接継手から採取した試験片については、NACE TM0177 に規定される硫化物応力腐食割れ試験用Solution A(5%NaCl+0.5%CH3COOH+1 気圧H2S)環境に30日間浸漬、鋼板Bを用いた溶接継手から採取した試験片については、JIS G0576 に規定されるステンレス鋼の塩化物応力腐食割れ試験用42%塩化マグネシウム環境に7日間浸漬した。浸漬後の試験片について、応力腐食割れ発生の有無を調査した。応力腐食割れ発生の有無は、試験片表面を10倍のルーペで観察することにより調べた。
【0037】
応力腐食割れ試験結果を表4に併記する。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
本発明例は、被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の80%の外部応力負荷条件で、いずれも応力腐食割れの発生は認められなかった。一方、本発明の範囲を外れる比較例では、被溶接材である鋼板の0.2 %耐力の80%の外部応力負荷条件で、いずれも応力腐食割れの発生が認められ、耐応力腐食割れ性が十分ではないことがわかる。
【0042】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、耐応力腐食割れ性が大幅に向上した溶接継手が得られ、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接金属の変態特性の一例を模式的に示す説明図である。
Claims (6)
- 被溶接材である鋼材同士を溶接材料を用いて溶接した溶接継手であって、前記溶接により形成された溶接部の止端部近傍表面の最大引張残留応力が前記鋼材の0.2 %耐力の30%以下であることを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手。
- 前記溶接部の止端部近傍の溶接金属が、冷却過程で50℃以上450 ℃未満の変態開始温度を有することを特徴とする請求項1に記載の耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手。
- 溶接材料を用いて被溶接材である鋼材同士を溶接し、溶接継手とする溶接継手の製造方法において、前記溶接により形成された溶接部の止端部に、付加溶接を施し、前記溶接部の止端部近傍表面の最大引張残留応力を前記鋼材の0.2 %耐力の30%以下とすることを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた溶接継手の製造方法。
- 前記付加溶接が、冷却過程で50℃以上450 ℃未満の変態開始温度を有する溶接金属を形成できる溶接材料を使用することを特徴とする請求項3に記載の溶接継手の製造方法。
- 前記溶接材料が、C:0.20質量%以下、Cr:5.0 〜18.0質量%、Ni:3.0 〜15.0質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する溶接材料であることを特徴とする請求項4に記載の溶接継手の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、Si:0.2 〜1.0 質量%、Mn:0.4 〜2.5 質量%を含み、あるいはさらにMo:4.0 質量%以下、Nb:1.0 質量%以下の1種または2種を含有することを特徴とする請求項5に記載の溶接継手の製造方法。
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