JP5531909B2 - 高張力鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Cが固溶されにくい鋼材は、溶接時の熱履歴によってCが粒界に濃縮し、HAZの低温靭性に悪影響を及ぼす島状マルテンサイトを形成する。鋼材中のSi含有量を低減すれば、Siが母材に固溶しにくくなり、Cが母材に固溶されやすくなる。その結果、溶接時の島状マルテンサイトの形成を抑制し、低温靭性を向上することが可能となる。
4.0≦(1+2.33Cr)×(1+3.14Mo)≦6.0 (1)
14.0≦7.90C1/2×(1+0.64Si)×(1+4.10Mn)≦19.0 (2)
圧延方向の板厚1/4位置における(100)面のX線面強度比が1.5以下である高張力鋼材。
F1=(1+2.33Cr)×(1+3.14Mo) (1)
F2=7.90C1/2×(1+0.64Si)×(1+4.10Mn) (2)
ただし、上記式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
圧延方向の板厚1/4位置における(100)面のX線面強度比が1.5以下である高張力鋼材。
F1=(1+2.33Cr)×(1+3.14Mo) (1)
F2=7.90C1/2×(1+0.64Si)×(1+4.10Mn) (2)
ただし、上記式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
(a1)上記(A)の化学組成を有するスラブを1000〜1200℃の温度に加熱し、その温度範囲で均熱する工程、
(a2)デスケーリングした後、圧延し、Ar3点以上の温度で圧延を完了させ、300℃以下の温度に冷却する工程、
(a3)Ac3点以上950℃以下の温度に再加熱し、その温度範囲で均熱した後、5℃/sec以上の冷却速度で、200℃以下の温度まで水冷する工程、および、
(a4)500℃以上Ac1点以下の温度に再加熱し、冷却する工程
(b1)上記(A)の化学組成を有するスラブを1000〜1200℃の温度に加熱し、その温度範囲で均熱する工程、
(b2)デスケーリングした後、圧延し、(Ar3点+30℃)以上の温度で圧延を完了させ、Ar3点以上(Ar3点+30℃)以下の温度から、5℃/sec以上の冷却速度で350℃以下まで水冷する工程、および
(b3)500℃以上Ac1点以下の温度に再加熱し、冷却する工程
(b1)上記(A)の化学組成を有するスラブを1000〜1200℃の温度に加熱し、その温度範囲で均熱する工程、
(b2)デスケーリングした後、圧延し、(Ar3点+30℃)以上の温度で圧延を完了させ、Ar3点以上(Ar3点+30℃)以下の温度から、5℃/sec以上の冷却速度で350℃以下まで水冷する工程、および
(b3)500℃以上Ac1点以下の温度に再加熱し、冷却する工程
以下の説明において、含有量についての「%」は「質量%」を意味する。
Cは、鋼の強度を高めるとともに鋼の焼入れ性を高める作用があるので、0.10%以上含有させる。他方、C含有量が過剰であると、HAZの硬さが過度に高くなるとともに、島状マルテンサイトの生成量が増加する。このため、低温継手靱性が損なわれる。これを避けるためにC含有量は0.20%以下とする必要がある。望ましいC含有量は0.15%以下である。
Siは、脱酸元素として有用であり、また鋼の強度を高める作用もあるので、0.02%以上含有させる。一方、すでに述べたように、島状マルテンサイトの生成を抑制するために母材へのSi固溶を避ける必要があるため、Siは一定量以下に制限する必要がある。よって、Si含有量は0.25%以下とする必要がある。Si含有量の好ましい下限は0.03%であり、好ましい上限は0.20%である。
Mnは、焼入れ性を高めて鋼の強度および靭性を確保する上で不可欠な元素であり、0.7%以上含有させる。しかしながら、Mn含有量が過剰な場合、低温継手靭性の劣化が顕著となる。したがって、Mnの含有量は1.6%以下とする必要がある。Mn含有量の好ましい下限は0.9%であり、好ましい上限は1.4%である。
S:0.008%以下
PおよびSは、いずれも不純物として鋼材に混入する元素であり、なるべく低いほうが望ましい。低減した場合の靭性向上効果と経済性の両立を考えた場合、Pは0.02%まで、Sは0.008%まで許容できる。
Crは、鋼の焼入れ性を向上させると共に、強度および靭性を大きく改善する効果があるので、0.5%以上含有させる。しかしながら、その含有量が過剰な場合、継手部の靭性、特に低温靱性が劣化する。したがって、Cr含有量は、1.2%以下とする必要がある。Cr含有量の好ましい下限は0.6%であり、好ましい上限は1.1%である。
Moは、MnおよびCrと同様に、強度と靭性を改善する効果があるので、0.1%以上含有させる。しかしながら、Mo含有量が0.3%以上であるとHAZ靭性が劣化し、コスト高騰も顕著となる。したがって、Mo含有量は0.3%未満とする必要がある。Moの好ましい下限は0.15%であり、好ましい上限は0.28%である。
Tiは、スラブ加熱時のオーステナイト粒径の粗大化を抑制して、母材靭性を改善することができるので、0.004%以上含有させる。しかしながら、0.025%を超えるとその効果が頭打ちとなる他、炭化物を生成しHAZ靭性が劣化する。
Bは、微量の添加で焼入れ性を向上させることができるので、0.0005%以上含有させる。しかしながら、その含有量が過剰な場合、溶接性の劣化が著しい。したがって、B含有量は0.003%以下とする必要がある。
ただし、F1=(1+2.33Cr)×(1+3.14Mo)である。
CrおよびMoには、鋼材の強度および靭性を向上させる効果がある。本発明の鋼材は、合金元素の含有量を極力低減した鋼材であるため、これらの元素の含有量については、それぞれの元素の寄与度を考慮して厳密に規定する必要がある。F1値は、CrおよびMoの強度および靭性への寄与度を考慮した値である。HT720級の鋼材で必要とされる最低限の強度および靭性を得るには、CrおよびMoそれぞれの含有量を上記の範囲とするとともに、F1値を4.0以上であることが必要である。一方、F1値が6.7を超えると、上記の効果が飽和し、材料コストの高騰を招く。
Nは、不純物として鋼材に混入するが、BNの生成を通じてBの効果を低減させる。よって、その含有量は低いことが好ましいが、0.01%まで許容できる。
ただし、F1=(1+2.33Cr)×(1+3.14Mo)である。
CrおよびMoには、鋼材の強度および靭性を向上させる効果がある。本発明の鋼材は、合金元素の含有量を極力低減した鋼材であるため、これらの元素の含有量については、それぞれの元素の寄与度を考慮して厳密に規定する必要がある。F1値は、CrおよびMoの強度および靭性への寄与度を考慮した値である。HT720級の鋼材で必要とされる最低限の強度および靭性を得るには、CrおよびMoそれぞれの含有量を上記の範囲とするとともに、F1値を4.0以上とすることが必要である。一方、F1値が6.0を超えると、上記の効果が飽和し、材料コストの高騰を招く。
ただし、F2=7.90C1/2×(1+0.64Si)×(1+4.10Mn)である。
C、SiおよびMnは、前述のように、比較的安価に強度を確保できる元素であり、経済的な観点からは積極的に活用することが好ましい。しかし、本発明の鋼材は、合金元素の含有量を極力低減した鋼材であるため、これらの元素の含有量については、それぞれの元素の寄与度を考慮して厳密に規定する必要がある。F2値は、C、SiおよびMnの強度への寄与度を考慮した値である。HT720級の鋼材で必要とされる最低限の強度を得るには、F2値が14.0以上であることが必要である。一方、F2値が19.0を超えるとHAZ靭性の劣化を招く。
Vは、鋼材を焼戻しした際の強度低下を抑制する効果を有するので、必要に応じて添加してもよい。ただし、その含有量が過剰な場合には溶接性の劣化を招く。よって、Vを添加する場合には、その含有量を0.1%以下とする。上記の効果が顕著となるのは、その含有量が0.01%以上の場合である。
Nbは、Vと同様に、焼戻し時の強度低下を抑制する効果を有し、しかも、圧延時、および処理時において結晶を細粒化して、靭性を向上させる効果を有しているため、必要に応じて添加してもよい。ただし、その含有量が過剰な場合には溶接性およびHAZ靭性の劣化を招く。よって、Nbを添加する場合には、その含有量を0.02%以下とする。上記の効果が顕著となるのは、その含有量が0.005%以上の場合である。
本発明の鋼材は、上記の化学組成を有するとともに、「圧延方向の板厚1/4位置の(100)面のX線面強度比」が1.5以下であることが必要である。母材靭性の低下を防止するためには、へき開面が揃ったラスマルテンサイトの生成を抑える必要がある。板厚1/4位置の(100)面のX線面強度比を1.5以下に制限すると、へき開面が揃っていない組織が得られる。なお、板厚1/4位置での組織のX線面強度比を見るのは、鋼材の平均的な位置での組織のへき開面を見るためである。
本発明にかかる高張力鋼材を得る方法については、上記の組織が得られるのであれば、特に制約はないが、たとえば、下記の製造方法を採用することができる。
まず、上述のような化学組成を有するスラブを用意する。スラブの製造方法は問わないが、たとえば、連続鋳造法により製造すればよい。
スラブは1000〜1200℃で加熱し、その温度範囲で均熱するのがよい。加熱温度が1000℃未満であると合金元素の固溶が不十分となり強度低下を招くおそれがある。一方、加熱温度が1200℃を超えると結晶粒の粗大化を招き靭性が低下するおそれがある。均熱は、鋼板表面温度と鋼板内部の温度差が40℃以下となるまで行うのがよい。均熱時間は、設備仕様に従い、上記の条件を満足するのに十分な時間とすればよい。
圧延前には、スラブをデスケーリングするのがよい。本発明で規定される化学組成を満足するスラブは、Si含有量が0.25%以下と低いため、スケールの成長が早く、圧延時にスケールに起因する鋼板表面疵が発生しやすい。よって、加熱炉から抽出されたスラブは圧延前にデスケーリングするのがよい。デスケーリングは圧延パス毎に行うことが好ましい。
圧延後は、焼入れを行う。焼入れは、圧延後の鋼材を冷却した後、再加熱し、焼入れを行う、通常の焼入れでもよいし、圧延後の鋼材をそのまま焼入れする、いわゆる直接焼入れでもよい。
焼入れ後は、最終工程として焼戻しを行うことが好ましい。焼戻し温度は、500℃以上Ac1点以下とするのが好ましい。焼戻し温度が500℃未満では、十分な焼戻し効果が得られず低温靭性が確保できないおそれがある。また、焼戻し温度がAc1点を超えると、本発明の化学組成を有する鋼材では、HT720級の強度を確保できないおそれがある。焼戻し後の鋼材は、空冷すればよい。焼戻し後、水冷を行うことで、更なる高靭性をえることが可能であるが、本発明鋼は空冷でも十分な靭性を確保できる。
Ar3点=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo+0.35(t−8)
Ac3点=910.7−295.7C+61.2Si−30.3Mn+333.1P−27.1Cu−2.6Cr−27.5Ni−1.8Mo+70.9V
Ac1点=712+20.1Si−17.8Mn−9.8Mo+11.9Cr−19.1Ni
Claims (4)
- 質量%で、C:0.10〜0.20%、Si:0.02〜0.25%、Mn:0.7〜1.6%、P:0.02%以下、S:0.008%以下、Cr:0.5〜1.2%、Mo:0.1〜0.3%未満、Ti:0.004〜0.025%、B:0.0005〜0.003%、Al:0.01〜0.05%およびN:0.01%以下を含有し、下記(1)式から求められるF1値が4.0〜6.7であり、下記(2)式から求められるF2値が14.0〜19.0であり、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延方向の板厚1/4位置における(100)面のX線面強度比が1.5以下であることを特徴とする高張力鋼材。
F1=(1+2.33Cr)×(1+3.14Mo) (1)
F2=7.90C1/2×(1+0.64Si)×(1+4.10Mn) (2)
ただし、上記式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。 - さらに、質量%で、V:0.1%以下およびNb:0.02%以下の一方または両方を含有する化学組成を有することを特徴とする請求項1に記載の高張力鋼材。
- 下記(a1)〜(a4)の工程を有することを特徴とする、圧延方向の板厚1/4位置における(100)面のX線面強度比が1.5以下である高張力鋼材の製造方法。
(a1)請求項1または2に記載の化学組成を有するスラブを1000〜1200℃の温度に加熱し、その温度範囲で均熱する工程、
(a2)デスケーリングした後、圧延し、Ar3点以上の温度で圧延を完了させ、300℃以下の温度に冷却する工程、
(a3)Ac3点以上950℃以下の温度に再加熱し、その温度範囲で均熱した後、5℃/sec以上の冷却速度で、200℃以下の温度まで水冷する工程、および、
(a4)500℃以上Ac1点以下の温度に再加熱し、冷却する工程 - 下記(b1)〜(b3)の工程を有することを特徴とする、圧延方向の板厚1/4位置における(100)面のX線面強度比が1.5以下である高張力鋼材の製造方法。
(b1)請求項1または2に記載の化学組成を有するスラブを1000〜1200℃の温度に加熱し、その温度範囲で均熱する工程、
(b2)デスケーリングした後、圧延し、(Ar3点+30℃)以上の温度で圧延を完了させ、Ar3点以上(Ar3点+30℃)以下の温度から、5℃/sec以上の冷却速度で350℃以下まで水冷する工程、および
(b3)500℃以上Ac1点以下の温度に再加熱し、冷却する工程
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