JP2004041084A - ヘリコバクター・ピロリ菌に対するワクチン用ペプチド、それをコードする遺伝子、その遺伝子が導入された形質転換体、及びそれらの利用方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明のペプチドは、次の(a)又は(b)のペプチドである。
(a)NH2−SVELIDIGGNRRIFGFNALVDR−CO2Hというアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によってヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を生成するペプチド。
(b)(a)に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によってヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼの抗体を生成するペプチド。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を生成するポリペプチド、それをコードする遺伝子、その遺伝子が導入された形質転換体、及びこれらの利用方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ヘリコバクター・ピロリ菌は、細長いS字型のグラム陰性菌であり、組織学的に胃潰瘍発症者や消化性潰瘍発症者の胃の生体試料から高い頻度で検出される。このヘリコバクター・ピロリ菌を胃内から根絶することによって、胃炎が治癒するととともに、消化性潰瘍の患者の再発率が減少するという報告がされている(Perterson,W.l.,「Helicobacter pylori and peptic Ulcer Disease」,N.Engl. J.Med.,vol.324,1043−1048(1991))。このことから、ヘリコバクター・ピロリ菌は、ヒトの胃内に感染することによって、急性胃炎、慢性胃炎、萎縮性胃炎などの各種胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍を含む消化性潰瘍、さらには胃癌までをも引き起こす原因となると考えられている。
【0003】
ヒトの胃内は胃酸の分泌によって酸性が強くなっているため、通常外部から侵入した細菌は生存することができないが、ヘリコバクター・ピロリ菌は、菌表面に発現しているウレアーゼの作用によって、酸性の強い胃内でも生存することができる。そこで、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すれば、当該菌は胃内で生存することが不可能になり、感染を防ぐことができる。
【0004】
これを利用したワクチンの一つとして、特表平9−509661号公報には、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼあるいはそのサブユニットBが提案されている。上記ウレアーゼあるいはそのサブユニットBは、ワクチンとして生体内に投与されると、抗体を作り出し、その抗体がウレアーゼと結合することによってウレアーゼの活性を抑制するため、ヘリコバクター・ピロリ菌は酸性の強い胃内で生存できなくなるのである。従って、このようなワクチンは、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染を効率よく阻止することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のようにヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼそのもの、あるいはそのサブユニットを直接生体内に投与し免疫する方法は、いくつかの問題点を有している。
【0006】
即ち、酵素であるウレアーゼを直接生体に投与すると、酵素反応が生体内で直ちに惹起し種々の複反応を誘導するため、予期せぬ副作用を誘発する危険性が高い。また、ヒトにとって異種タンパク質であるヘリコバクター・ピロリ菌由来のウレアーゼあるいはそのサブユニットBをヒトに投与することは、不要な免疫応答を惹起した生体に、場合によっては重篤な副作用をもたらしかねないという危険性をはらんでいる。さらに、上記ウレアーゼやそのサブユニットBを得るためには、菌株からの精製作業を行うか、あるいは遺伝子組換えなどの技術を用いて行うかしなければならず、操作が複雑であるとともに、それに伴って多大なコストも必要となる。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な化学合成で作製でき、投与方法や取り扱いの容易なペプチドをヘリコバクター・ピロリ菌に対するワクチンとして提供することを目的とする。さらに本発明は、当該ペプチドの様々な利用方法についても提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本願発明者等は、上記課題について鋭意検討した結果、ヘリコバクター・ピロリ菌(H.pylori)のウレアーゼが有するアミノ酸配列のある特定の一部領域がヘリコバクター・ピロリ菌に対するワクチンとして非常に効果的であるということを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、上記ウレアーゼの有するアミノ酸配列のうち、生体内でウレアーゼに対する抗体を誘導することができる特定の一部領域内のペプチドを、ヘリコバクター・ピロリ菌に対するワクチンとして用いるものである。
【0009】
本発明に係るペプチドは、以下の(a)又は(b)のペプチドである。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によってヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を生成するペプチド。
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によってヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を生成するペプチド。
【0010】
上記(a)のペプチドは、ヘリコバクター・ピロリ菌(H.pylori)由来のウレアーゼのαサブユニットのアミノ酸配列の一部であり、より具体的には、上記(a)のペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列中の第183番目から第204番目の領域に相当する。それゆえ、上記(a)又は(b)のペプチドは、上記ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、H.ピロリ菌と呼ぶ)由来のウレアーゼの抗体を生成する抗原としての機能を有する。それゆえ、上記(a)又は(b)のペプチドは、ヒトなどへ投与されると、生体内においてH.ピロリ菌に対して働く抗体を生成する。この抗体は、ウレアーゼの活性部位である配列番号2に示すアミノ酸配列中の第183番目から第204番目の領域に結合し、活性を抑制する。なお、上述の「免疫反応によってヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を生成するペプチド」とは、言い換えれば、免疫応答によって得られる抗体がヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼと抗原抗体反応をするペプチドとも言える。
【0011】
これによって、H.ピロリ菌は、酸性の強い胃内において生存ができなくなる。即ち、上記(a)又は(b)のペプチドは、H.ピロリ菌のヒトの胃内における生存を阻害することができるため、当該菌の感染阻止あるいは予防に有効に利用できる。それに加え、当該菌の感染阻止のために、酵素であるウレアーゼやそのサブユニットを直接生体内に投与することによって起こり得る種々の副作用を回避することができる。
【0012】
本発明において、「ペプチド」とは一般に用いられる意味と同様であるが、少なくとも2以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合したものを意味する。上記「ペプチド」には、アミノ酸のみから成るホモメリックペプチドだけでなく、非アミノ酸成分をも含むヘテロメリックペプチドも含まれるものとし、また、その構造も直鎖状構造だけでなく、環状構造あるいはエステル結合を含むものであってもよい。
【0013】
また、上記「ペプチド」は、化学合成されたものであってもよいし、細胞、組織などから単離精製された状態であってもよいし、ペプチドをコードする遺伝子を宿主細胞に導入して、そのペプチドを細胞内発現させた状態であってもよい。
【0014】
また、上記「1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、化学合成によって合成されたペプチドの場合には、文字通り配列番号1に示すアミノ酸配列中において「1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加され」た状態で合成されることを意味する。ここで「1またはそれ以上のアミノ酸」とは、置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数のアミノ酸を意味する。また、本発明に係るペプチドは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法に基づいて、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されるものであってもよい。このように、遺伝子工学的手法を用いた場合、上記「1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」アミノ酸配列からなるペプチドは、換言すれば、上記(a)のペプチドの変異体であると言える。
【0015】
上記ペプチドは、その長さが短過ぎる場合には、元のタンパク質の立体構造を反映できなくなり、その長さが長過ぎる場合には、ペプチド合成が複雑になって作製が困難となる。そのため、上記ペプチドは、5個以上30個以下のアミノ酸からなることが好ましく、10個以上25個以下のアミノ酸からなることがより好ましい。また、上記ペプチドが10個以上25個以下のアミノ酸からなる場合、22個のアミノ酸からなる配列番号1に示すアミノ酸配列中から、少なくとも10個のアミノ酸を含む任意の配列を選択することができる。また、上記ペプチドが23個以上のアミノ酸からなる場合は、配列番号1に示すアミノ酸配列において、任意のアミノ酸が挿入、及び/又は付加しているものであればよいが、配列番号2に示すアミノ酸配列において第180番目から第206番目の領域に相当するアミノ酸配列中の23〜25個のアミノ酸配列であることがより好ましい。
【0016】
本発明に係るペプチドの利用方法として、H.ピロリ菌に対するワクチンとしての利用法を挙げることができる。即ち、上記ペプチドを含んでなるH.ピロリ菌に対するワクチンについても本発明に含まれる。このワクチンをヒトに投与すると、生体内ではH.ピロリ菌のウレアーゼに対して特異的な抗体が生成されるため、上記ワクチンはH.ピロリ菌の感染阻止あるいは予防・治療に利用できる。また、上記ワクチンには、免疫原としてウレアーゼそのもの、あるいは、そのサブユニットのようなタンパク質は含まれていないため、副作用を生じるような免疫応答が発生することを回避することができる。
【0017】
本発明に係るペプチドの他の利用方法として、上記ペプチドを動物などの生体に免疫して、H.ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を生産する方法を挙げることができる。この方法によって得られた上記抗体は、H.ピロリ菌のウレアーゼに対して特異的に結合する抗体であるため、ある検体と上記抗体とが免疫反応をしているか否かを判定することによって、上記検体中に当該菌のウレアーゼが含まれているか否かの検出に使用することができる。なお、ここで「免疫する」とは、上記ペプチドを生体内に投与し、免疫反応を起こさせることによって生体内に抗体を生成することを意味する。
【0018】
さらに、ペプチドを乳牛に免疫すると、その乳牛から搾取された牛乳にはペプチドに対する抗体が含まれるため、上記ペプチドを乳牛に投与することによってH.ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を含む牛乳を生産することも可能である。このようにして得られた牛乳は、機能性食品として有用である。
【0019】
また、ペプチドをニワトリに免疫した場合、そのニワトリが産む鶏卵にはヘリコバクター・ピロリ菌に対する抗体が含まれるため、上記ペプチドをニワトリに投与することによってH.ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を含む鶏卵を得ることも可能である。このようにして得られた鶏卵もまた機能性食品として有用である。
【0020】
上述の抗体の生産方法によって得られる抗体は、通常ポリクローナル抗体であるが、本発明には、上記ペプチドを認識するモノクローナル抗体も含まれる。それゆえ、本発明に係る抗体は、上記ペプチドを認識する抗体である。この抗体のうちポリクローナル抗体は、上述の生産方法によって得ることができ、モノクローナル抗体は、本発明のペプチドを用いて従来公知のハイブリドーマ技術などによって作製することができる。
【0021】
上記の抗体は、本発明のペプチド、あるいはH.ピロリ菌のウレアーゼと反応するため、上記ペプチドあるいはウレアーゼを定量することができる。また、上記抗体は、H.ピロリ菌の感染者を治療する抗体医薬品、H.ピロリ菌の診断薬として利用できる可能性がある。なお、診断薬として用いる場合、H.ピロリ菌に感染していると思われるヒト、動物などの胃組織と、上記抗体とを反応させることによって容易に検出することができる。
【0022】
また、本発明に係る遺伝子は、上記ペプチドをコードしている遺伝子であり、この遺伝子を適当な宿主(例えば細菌、酵母)に導入すれば、本発明のペプチドをその宿主内で発現させることができる。
【0023】
なお、上記「遺伝子」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。さらに、上記「遺伝子」は、上記本発明のペプチドをコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0024】
それゆえ、本発明には上記遺伝子を導入してなる形質転換体も含まれる。上記形質転換体は、自身の体内において上記ペプチドを発現させることができる。従って、上記形質転換体の宿主として植物を用い、この植物に上記遺伝子を導入し、発現させれば、上記ペプチドを含む形質転換体を得ることができる。この形質転換体は、H.ピロリ菌の感染を予防するという機能を備えた上記ペプチドを含んでいるため、食べるワクチンとして利用することができる。上記遺伝子が導入される植物としては、上記ペプチドは加熱によってその構造が破壊されるため、生食に適した野菜であることが好ましい。このような野菜として、具体的にはトマト、キュウリ、ニンジンなどを挙げることができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について以下に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0026】
(1)本発明に係るペプチドについて
本発明に係るペプチドの一例として、H.ピロリ菌由来のウレアーゼのαサブユニットにおける特定領域のアミノ酸配列からなるペプチドを挙げて説明する。上記ペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によってH.ピロリ菌のウレアーゼに特異的な抗体を生成するペプチドである。即ち、上記ペプチドは、アミノ酸を一文字表記によって表した場合、NH2−SVELIDIGGNRRIFGFNALVDR−COOHという一次構造を有している。このペプチドが有するアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列中の第183番目から第204番目の領域に相当する。
【0027】
上記ペプチドは、生体内に投与することで、H.ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を自然に誘導することができる。なお、上記ペプチドを生体内に投与する場合には、後述の実施例にも示されるように、牛血清アルブミンなどの他のタンパク質とコンジュゲートさせた状態で投与することが好ましい。これによれば、上記ペプチドの免疫応答能を向上させることができる。上記H.ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体は、H.ピロリ菌のウレアーゼと結合し、活性を抑制するため、H.ピロリ菌は生体中で生存不可能になる。それゆえ、上記ペプチドは、ヒト胃内に感染し種々の疾患を引き起こす原因となるH.ピロリ菌の感染を予防したり、感染したH.ピロリ菌を駆除したりするワクチンの成分として有用である。
【0028】
ところで、配列番号2に示すアミノ酸配列は、H.ピロリ菌のウレアーゼのαサブユニットの一次構造である。上記ウレアーゼは、このαサブユニットと、図1に示す559個のアミノ酸からなる配列を一次構造として有するβサブユニットとが二量体を形成することによってウレアーゼとしての構造を有する。そして、上記αサブユニット中の、上記ペプチドに相当する領域、即ち、配列番号2に示すアミノ酸配列中の第183番目から第204番目の領域は、立体構造を形成するウレアーゼにおいてループ構造をとっており、かつ、外部に露出している。また、上述の第183番目から第204番目の領域は、ウレアーゼが酵素としての活性を発揮するために非常に重要な部位である。このことは、ウレアーゼに対するモノクローナル抗体(HpU−2)(参考文献:Y.Ikeda, R.Fujii, K.Ogino, K.Fukushima, E.Hifumi, T.Uda,「Immunological Features and Inhibitory Effects on Enzymatic Activity of Monoclonal Antibodies against Helicobacter pylori Urease」,Journal of Fermentation and Bioengineering, vol.86, No.3, 271−276(1998))が、ウレアーゼに結合するとその活性を抑制することからも証明される。
【0029】
なお、本実施例においても示されるように、上述のようなアミノ酸配列を有するペプチドを実際に免疫した場合、ウレアーゼそのものを免疫した場合と同じ程度の力価を有し、特異性や親和性もほとんど変わらない抗体を得ることができる。それゆえ、上述のような構造を有するペプチドは、H.ピロリ菌の感染を予防するワクチンとして効率が良い。
【0030】
本発明に係るペプチドは、上述の配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチドのみならず、それを種々に変更させたものも含まれる。この「変更させたもの」とは即ち、配列番号1に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によってH.ピロリ菌のウレアーゼの抗体を生成するペプチドである。
【0031】
その一例として、配列番号1に示すアミノ酸配列中の任意の10以上のアミノ酸配列を挙げることができる。なお、上記ペプチドのアミノ酸数が10以上であれば、ウレアーゼの立体構造を反映することができるため、H.ピロリ菌のウレアーゼの抗体を生成する抗原としての機能を十分に果たすことができる。また、配列番号1に示すアミノ酸配列に他のアミノ酸が付加されている場合、その配列中のアミノ酸の数は、25個以下であることが好ましい。これによれば、ペプチドの化学合成を容易に実施することができ、良質のペプチドを得ることができる。しかしながら、本発明はこれに限定されることなく、免疫によってウレアーゼに対する抗体を生成するものであれば、5個以上の30個以下のアミノ酸からなるペプチドであってもよい。
【0032】
なお、本発明には、上記ペプチドを認識する抗体も含まれるが、上記抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。なお、モノクローナル抗体は、上記ペプチドを抗原として用いて常法のハイブリドーマ技術によって製造することができる。また、ポリクローナル抗体は、宿主動物、例えばラットまたはウサギに、上記ペプチドを投与し、感作された血清を回収することからなる常法によって製造することができる。
【0033】
(2)本発明に係るペプチドの取得方法について
本発明に係るペプチドの取得方法として、適当なものは化学合成によって作製する方法である。ペプチドの化学合成は1つのアミノ酸のカルボキシル基と他のアミノ酸のアミノ基とを脱水的に縮合させて両アミノ酸の間にペプチド結合を生成させる。これを順次繰り返せば、長いペプチド合成が可能である。この方法には液相法と固相法とがあるが、現在では固相法が一般的に用いられる。
【0034】
固相法は、ある担体にアミノ酸を順次導入してペプチドを形成させる方法であり、用いるアミノ酸成分のアミノ基には、副反応を防止するために保護基が付加されている。この保護基は合成終了後に除去(脱保護)される。用いられる保護基としては、Fmoc(Fluorenylmethyloxycarbonyl)基やBoc(Butyloxycarbonyl)基などがある。Fmoc基の方が温和な条件下で脱保護が行えるため、より良質なペプチドを得ることができる。後述の本実施例においては、Fmoc基を保護基として使用し、ペプチド自動合成装置を用いて合成を行っている。
【0035】
上記ペプチドは22個のアミノ酸残基からなる短いペプチドであるため、以上のような化学合成法によって容易に作製することができる。それゆえ、H.ピロリ菌に対するワクチンとして特表平9−509661号公報に提案されていたタンパク質(ウレアーゼそのもの、あるいはそのサブユニット)に比べて、取得が容易であるばかりでなく、経済的にも優れている。
【0036】
しかしながら、本発明に係るペプチドの取得方法は、上述の化学合成法に限定されることなく、遺伝子組み換え技術などを用いて上記ペプチドを取得してもよい。この場合、上記ペプチドをコードする遺伝子をベクターなどに組み込んだ後、発現可能に宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されたペプチドを精製するという方法などを採用することができる。なお、大量発現させることができる適当なプロモーターとともに上記ペプチドをコードする遺伝子を組み込めば、ペプチドを効率よく取得できる可能性がある。
【0037】
また、本発明に係るペプチドをコードする遺伝子については、H.ピロリ菌ウレアーゼのαサブユニットの配列情報に基づいて、そのcDNA(あるいはゲノムDNA)を取得した後、それを鋳型として適当なプライマーを用いてPCRを行うことによって該当する領域を増幅させることで取得することができる。また、部位特異的突然変異誘発法を利用して、変異が導入された遺伝子が得られれば、それを導入した形質転換体においては、上述の(b)のペプチドが翻訳産物として得られる。
【0038】
(3)本発明のペプチドなどの利用方法について
上述のようにして得られたペプチドは、動物などの生体へ投与し免疫することによって、H.ピロリ菌のウレアーゼに対して特異的に作用する抗体を誘導させることができる。この抗体は、上記ウレアーゼと結合してその活性を抑制するため、H.ピロリ菌の生存を阻害するように機能する。そこで、上記ペプチドは、H.ピロリ菌に対するワクチンとして使用することができる。このワクチンは、H.ピロリ菌の感染の予防、あるいはH.ピロリ菌感染者の治療に有用である。
【0039】
なお、上記ペプチドを用いた動物の免疫方法は、特に限定されるものではなく、従来から一般的に行われている方法を各種動物に応じて適宜用いることができる。後述の実施例には、その一例を記載する。
【0040】
また、乳牛に対してある抗原を免疫すると、その乳牛から搾取される乳にも当該抗原に対する抗体が含まれるということが知られている。この方法を利用して上記ペプチドを乳牛に免疫すれば、その乳牛から搾取された乳に上記ペプチドの抗体を含有させることができる。この抗体は、ウレアーゼに対しても作用する抗体であることから、上記ペプチドが免疫された乳牛から採取された牛乳には、H.ピロリ菌の感染を予防する成分が含まれていると言える。それゆえ、この方法を利用して牛乳を採取すれば、その牛乳に機能性食品としての付加価値を付与することができる。同様に、ニワトリに対してある抗原を免疫すると、そのニワトリが産む鶏卵にも当該抗原に対する抗体が含まれるということが知られている。従って、上記ペプチドをニワトリに免疫すれば、そのニワトリが産む鶏卵にも上記ペプチドの抗体を含有させることができ、機能性食品として有用である。
【0041】
また、上記ペプチドをコードする遺伝子を適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。即ち、本発明に係る形質転換体は、上述の(a)又は(b)のペプチドをコードする遺伝子が導入された形質転換体である。ここで、「遺伝子が導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味する。この形質転換体は、生体内で上記ペプチドが発現されるため、H.ピロリ菌の感染を阻止することができる。
【0042】
また、上記「形質転換体」とは、形質転換植物を含む意味であり、上記遺伝子を植物に発現可能に導入すれば形質転換植物となる。形質転換体、形質転換植物の範疇には、生物個体;根、茎、葉、生殖器官(花器官および種子を含む)などの各種器官;各種組織;細胞;などが含まれ、さらにはプロトプラスト、誘導カルス、再生個体およびその子孫なども含まれるものとする。上記形質転換体の作製において、宿主として食用に適した植物を採用すれば、得られた形質転換植物は食べるワクチンとして利用することができる。
【0043】
【実施例】
本発明の実施例について、実験1ないし実験9に基づいて以下に説明する。
【0044】
〔実験1〕ヘリコバクター・ピロリ菌からのウレアーゼの精製
ヘリコバクター・ピロリ菌(ATCC43504)をブルセラブロスで培養した。培養条件は、37℃、025%、CO210%、N285%で行った。3日間インキュベータにて培養後、菌体を回収し、0.15MNaClで洗浄した。続いて、蒸留水を加え激しく攪拌し、菌体中のウレアーゼを抽出した後、遠心分離を行って上澄み液を回収した。この上澄み液を陰イオン交換カラムに添加し、非吸着物質が見られなくなるまで洗浄した後、1MKClによる直線的グラジエントで溶出を行った。溶出されたフラクションのうち目的とするウレアーゼが含まれているものについて、透析を行い濃縮した後、この濃縮液をゲルろ過カラムに添加し、ゲルろ過を行った。
【0045】
ゲルろ過によって得られた各フラクションのうち、ウレアーゼを含んだフラクションを回収し濃縮した。精製の各工程におけるサンプルについて、電気泳動(SDS−PAGE)を行った結果を図2に示す。図2において、レーン1は菌体、レーン2は菌体破砕後、レーン3は陰イオン交換カラム精製後、レーン4はゲルろ過精製後、レーン5は分子量マーカーについての結果である。図2のレーン4に示すように、精製の各工程ごとに夾雑物質が取り除かれ、ゲルろ過精製後の溶液には、分子量31kDa付近のαサブユニット、及び、分子量66kDa付近のβサブユニットの2つのバンドが確認された。この結果より、ゲルろ過によってウレアーゼが精製されたことがわかる。
【0046】
〔実験2〕本発明に係るペプチドの合成
ペプチド自動合成装置を使用しF−moc法によって、C末端側のCys付加生成物として、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチドをC末端のアルギニンより順次合成した。このようにして合成されたペプチドは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて精製された。図3のグラフに示す単一のピークが、HPLCによって分析された目的のペプチドを示している。
【0047】
また、合成されたペプチドの分子量を、マス・スペクトルによって測定した。その結果を図4に示す。図4において、最も高いピークで示されたものが目的のペプチドであり、図中では2価のイオンとして表されているが、推定した目的の分子量と同じ2408.26のペプチドであることが確認された。この合成によって得られたペプチドは、マレイミド法によって牛血清アルブミン(BSA)と結合された。
【0048】
〔実験3〕抗ペプチドポリクローナル抗体の作製
上述の実験2において作製したペプチドコンジュゲートをウサギに免疫した。第1回目の免疫にはフロイント完全アジュバンドを使用し、2回目以降はフロイント不完全アジュバンドを使用した。何れの場合も2週間間隔でウサギの皮下に5ヶ所、筋中に1ヶ所実施した。4回目を実施してから2週間経過後ブースター(追加免疫)を実施した。さらにその2週間後採血を行い、得られた抗血清の力価の測定を行った。その結果を図5に示す。図5において、Aは抗ペプチド抗血清(本発明例)、Bは抗牛アルブミン抗血清(比較例)の力価を表している。
【0049】
図5に示すように、Aのペプチドに対する抗ペプチド抗血清(本発明例)の力価は、Bの抗牛アルブミン抗血清(比較例)の力価の約3×104倍となり、比較例と比べて有意に高い量の抗体が含まれていることが確認された。この結果より、本発明に係るペプチドを動物に免疫することによって、抗原と反応するだけの十分な力価を持つ抗体を誘導できることが分かった。
【0050】
〔実験4〕抗ペプチド抗血清とH.ピロリのウレアーゼとの反応性
実験1でH.ピロリ菌から精製したウレアーゼをイムノプレートに4℃一昼夜でコーティングした。洗浄後2%ゼラチンでブロッキングした。1次反応として抗ペプチド抗血清(比較例においては抗ウレアーゼ抗血清、あるいは抗牛アルブミン抗血清)を100倍希釈から10倍希釈したものを加え、室温で2時間反応させた。洗浄後2次反応としてパーオキシダーゼ標識したウサギ製抗マウスIgを加え、室温で1時間反応させた。洗浄後クエン酸バッファーに溶解したo−フェニレンジアミンを加え、室温で15分間反応させた。その後、2規定の硫酸を加え反応を停止し、490nmの吸光度を測定した。その結果を図6に示す。図6において、Aは抗ペプチド抗血清(本発明例)、Bは抗ウレアーゼ抗血清(比較例)、Cは抗牛アルブミン抗血清(比較例)の場合の各希釈倍数における吸光度を示している。
【0051】
図6に示すように、ウレアーゼの一部に相当するペプチドに対して作製した抗血清はウレアーゼにも強く反応した。また、その強さは4×105倍で、抗ウレアーゼ抗血清のそれと10倍程度しか変わらなかった。それゆえ、本実施例において作製されたペプチドから得られた抗ペプチド抗血清は、抗ウレアーゼ抗血清とほぼ同様にウレアーゼと反応することが分かった。
【0052】
〔実験5〕アフィニティカラムによるウレアーゼ特異的ポリクローナル抗体の精製
実験3のウサギから得られた抗血清中から、ウレアーゼと特異的に反応するポリクローナル抗体を得るために、CNBr activated Sepharose 4B (Pharmacia製)にウレアーゼを結合させたアフィニティカラムを用いて精製を行った。
【0053】
まず、膨潤させたゲルにウレアーゼを加え、4℃で一昼夜反応させ、ブロッキングを行ってアフィニティカラムを作製した。サンプルは、PBSと1:1で混合し、フィルターでろ過した。カラムをPBSでベースラインが落ち着くまで洗浄し、ゲル表面とバッファーの液面がほぼ一致したとき、サンプルを添加した。ゲルに吸着しなかった夾雑物質のピークが見られなくなるまでPBSで洗浄し、さらにその後しばらくの間洗浄を行った。再びゲル表面とバッファーの液面がほぼ一致した時に、溶出バッファーで溶出させた。このとき、溶出バッファーは直ちに2MTris−HCl(pH9.0)で中和された。中和された溶出バッファーについて、2日間透析が実施された後、SDS−PAGE(12%分離ゲル、5%濃縮ゲル、クマシー染色)で抗体の純度が確認された。また、DCプロテインスタンダードアッセイ(BIO−RAD)でタンパク質濃度を求めた。これによって、ポリクローナル抗体が精製されていることが確認された。
【0054】
〔実験6〕アフィニティカラムによって精製した抗ペプチドポリクローナル抗体とウレアーゼとの反応
実験1によってH.ピロリ菌より精製したウレアーゼをイムノプレートに4℃一昼夜でコーティングした。洗浄後3%スキムミルクでブロッキングした。1次反応として精製したポリクローナル抗体(本発明例においては抗ペプチドポリクローナル抗体、比較例においては抗ウレアーゼポリクローナル抗体、あるいは抗牛アルブミンポリクローナル抗体)を66.7nMから10倍希釈したものを加え、室温で2時間反応させた。洗浄後2次反応としてパーオキシダーゼ標識したウサギ製抗マウスIgを加え、室温で15分間反応させた。2規定の硫酸を加え反応を停止し、490nmの吸光度を測定した。その結果を図7に示す。図7において、Aは抗ペプチドポリクローナル抗体(本発明例)、Bは抗ウレアーゼポリクローナル抗体(比較例)、Cは抗牛アルブミンポリクローナル抗体(比較例)の場合の各抗体濃度における吸光度を示している。
【0055】
図7に示すように、抗血清から精製されたポリクローナル抗体は、実験4の抗血清の場合と同様にウレアーゼと反応することが確認された。その反応の強さを親和性定数として表すと、約2×1011/Mと非常に強い値となった。この値は、同じ方法を用いて精製した抗ウレアーゼポリクローナル抗体と同程度の値である。この結果から、抗血清中にはウレアーゼを免疫したときと変わらない特異性の高いポリクローナル抗体を得ることができるということが分かった。
【0056】
〔実験7〕アフィニティカラムにより精製した抗ペプチドポリクローナル抗体と環化ペプチドとの反応
免疫に用いた直鎖状のペプチドを合成する際、両末端にシステインを導入し酸化反応によって環状化させた後、BSAとのコンジュゲートを作製した。これをイムノプレートに4℃一昼夜でコーティングした。洗浄後3%スキムミルクでブロッキングした。1次反応として精製したポリクローナル抗体(本発明例においては抗ペプチドポリクローナル抗体、比較例においては抗ウレアーゼポリクローナル抗体、あるいは抗牛アルブミンポリクローナル抗体)を66.7nMから10倍希釈したものを加え、室温で2時間反応させた。洗浄後2次反応として、パーオキシダーゼ標識したウサギ製抗マウスIgを加え、室温で1時間反応させた。洗浄後クエン酸バッファーに溶解したo−フェニレンジアミンを加え、室温で15分間反応させた。2規定の硫酸を加え反応を停止し、490nmの吸光度を測定した。その結果を図8に示す。図8において、Aは抗ペプチドポリクローナル抗体(本発明例)、Bは抗ウレアーゼポリクローナル抗体(比較例)、Cは抗牛アルブミンポリクローナル抗体(比較例)の場合の各抗体濃度における吸光度を示している。
【0057】
図8に示すように、抗ペプチド抗体は環状化したペプチドと反応し、その強さは約3×108/Mであった。また、該抗ペプチド抗体は、ウレアーゼとも反応し、ウレアーゼに対する抗血清が誘導されていることが分かった。しかし、環状ペプチドと抗ウレアーゼ抗体とは反応しなかった。このことより、ペプチドの構造が直鎖状でも環状であっても、抗体は誘導できることが分かった。また、抗ウレアーゼ抗体に比べて特異的に当該配列を認識していることも分かった。
【0058】
〔実験8〕アフィニティカラムにより精製した抗ペプチドポリクローナル抗体と培養したH.ピロリ菌体との反応
実験5においてアフィニティカラムで精製したポリクローナル抗体(本発明例においては抗ペプチドポリクローナル抗体、比較例においては抗ウレアーゼポリクローナル抗体、あるいは抗牛アルブミンポリクローナル抗体)をコーティング後、BSAでブロッキングしたプレートに、ブルセラブロスで3日間培養した菌体を加え、室温で2時間反応させた。洗浄後ビオチン標識した抗ウレアーゼポリクローナル抗体を加え、室温で1時間反応させた。洗浄後アビジン標識したパーオキシダーゼを加え、室温で1時間反応させた。洗浄後クエン酸バッファーに溶解したo−フェニレンジアミンを100μl加え、室温で15分間反応させた。2規定の硫酸を50μl加え反応を停止し、490nmの吸光度を測定した。
【0059】
その結果を図9に示す。図9において、Aは抗ペプチドポリクローナル抗体(本発明例)、Bは抗ウレアーゼポリクローナル抗体(比較例)、Cは抗牛アルブミンポリクローナル抗体(比較例)の吸光度を示している。図9に示すように、精製されたAの抗ペプチドポリクローナル抗体は、Bの抗ウレアーゼポリクローナル抗体とほぼ同程度にH.ピロリ菌と反応することが確認された。この結果より、上記抗ペプチドポリクローナル抗体は生きているH.ピロリ菌を特異的に認識できることが分かった。
【0060】
〔実験9〕アフィニティカラムによって精製した抗ペプチドポリクローナル抗体とH.ピロリ菌陽性組織片との反応性
H.ピロリ菌に感染している組織(H.ピロリ菌陽性組織)のパラフィン切片を脱パラフィン処理後洗浄した。この組織片を過酸化水素でブロッキングし、抗ペプチドポリクローナル抗体(比較例においては抗ウレアーゼポリクローナル抗体、あるいは抗牛アルブミンポリクローナル抗体)と反応させた。そして、パーオキシダーゼアンチパーオキシダーゼ(PAP)法で発色させた。
【0061】
その結果を図10に示す。なお、図10(a)は抗ペプチドポリクローナル抗体(本発明例)、図10(b)は抗ウレアーゼポリクローナル抗体(比較例)、図10(c)は抗牛アルブミンポリクローナル抗体(比較例)の場合の組織片の染色結果を示している。図10(a)及び(b)の矢印で示す粒のように染まっている部分が、抗体と反応したH.ピロリ菌である。図10(c)には、この粒が見られず、H.ピロリ菌が抗体(抗牛アルブミンポリクローナル抗体)と反応していないことが確認された。また、図10(a)に示すように、抗ペプチドポリクローナル抗体は、図10(b)に示す抗ウレアーゼポリクローナル抗体と同様に、胃粘膜表面に存在するH.ピロリ菌を特異的に認識することが分かった。
【0062】
以上のように、本実施例において作製されたペプチドをウサギに免疫することによって得られた抗ペプチドポリクローナル抗体は、H.ピロリ菌のウレアーゼと抗原抗体反応をすることが確認された。即ち、上記抗ペプチドポリクローナル抗体は、上記ウレアーゼの抗体として作用していると言える。
【0063】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係るペプチドは、免疫反応によってヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を生成することができる。上記ペプチドは、H.ピロリ菌が有するウレアーゼのαサブユニットにおける一次構造のうちの特定の一部領域を含むものである。そのため、H.ピロリ菌に対して特異的に作用する抗体を効率よく誘導することができ、H.ピロリ菌に対するワクチンとして有用である。
【0064】
上記ペプチドをワクチンとして使用すれば、ウレアーゼやそのサブユニットを用いた場合に起こり得る重篤な副作用を回避することができる。さらに、本発明のペプチドは、作製(あるいは取得)が面倒なウレアーゼやそのサブユニットなどのタンパク質とは異なり、化学合成によって容易に作製することができるという点でも優れている。
【0065】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】H.ピロリ菌ウレアーゼのβサブユニットのアミノ酸配列を一文字表記によって示す図である。
【図2】本実施例におけるウレアーゼの精製の各ステップにおけるサンプルのポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を示すゲルの模式図である。
【図3】本実施例において合成したペプチドを高速液体クロマトグラフィーによって分析した結果を示すグラフである。
【図4】本実施例において合成したペプチドの分子量を、マス・スペクトルによって測定した結果を示すスペクトルである。
【図5】本実施例において合成したペプチドをウサギに免疫した後に、ウサギより採取された抗血清の力価測定を行った結果を示すグラフである。
【図6】本実施例において得られた抗ペプチド抗血清とH.ピロリ菌のウレアーゼとの反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図7】本実施例において得られた抗ペプチドポリクローナル抗体とH.ピロリ菌のウレアーゼとの反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図8】本実施例において得られた抗ペプチドポリクローナル抗体と環状化ペプチドとの反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図9】本実施例において得られた抗ペプチドポリクローナル抗体とH.ピロリ菌体との反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図10】H.ピロリ陽性組織片を抗体と反応させた後、PAP法で染色させた結果を示す模式図である。(a)は、抗体が抗ペプチドポリクローナル抗体の場合、(b)は、抗体が抗ウレアーゼポリクローナル抗体の場合、(c)は、抗体が抗牛アルブミンポリクローナル抗体の場合である。
Claims (11)
- 以下の(a)又は(b)のペプチド
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によってヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を生成するペプチド。
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によってヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を生成するペプチド。 - 前記ペプチドは、5個以上30個以下のアミノ酸からなることを特徴とする請求項1に記載のペプチド。
- 前記ペプチドは、10個以上25個以下のアミノ酸からなることを特徴とする請求項1に記載のペプチド。
- 請求項1ないし3の何れか1項に記載のペプチドを含んでなるヘリコバクター・ピロリ菌に対するワクチン。
- 請求項1ないし3の何れか1項に記載のペプチドを生体に免疫して、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を生産する方法。
- 請求項1ないし3の何れか1項に記載のペプチドを乳牛に免疫した後、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を含む牛乳を前記乳牛より採取する方法。
- 請求項1ないし3の何れか1項に記載のペプチドをニワトリに免疫した後、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を含む鶏卵を前記ニワトリより採取する方法。
- 請求項1ないし3の何れか1項に記載のペプチドを認識する抗体。
- 請求項1ないし3の何れか1項に記載のペプチドをコードする遺伝子。
- 請求項9に記載の遺伝子を導入してなる形質転換体。
- 前記遺伝子を植物に導入し、発現させることを特徴とする請求項10に記載の形質転換体。
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---|---|---|---|---|
JPH09509661A (ja) * | 1994-02-23 | 1997-09-30 | オラバックス,インク. | ウレアーゼに基づくヘリコバクター感染に対するワクチンおよび治療 |
-
2002
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