JP2004037866A - 印刷版の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】直接レーザー彫刻してレリーフ画像を制作する際のカスを容易に除去できるばかりでなく、印刷版表面のタックが小さくできる印刷版の製造方法を提供する。
【解決手段】感光性樹脂組成物を光架橋させてシート状あるいは円筒状の印刷原版を作成する工程、前記印刷原版にレーザー光線を照射し目的のパターンを形成し印刷版を作成する工程、得られた印刷版の表面に0.5MPa以上20MPa以下、かつ、温度が50℃以上140℃以下の高温高圧水あるいはスチームを吹き付け洗浄する工程を含むことを特徴とする印刷版の製造方法。
【選択図】 選択図なし

Description

【0001】
【本発明の属する技術分野】
本発明はレーザー彫刻によるフレキソ印刷版用レリーフ画像作成、エンボス加工等の表面加工用パターンの形成、タイル等の印刷用レリーフ画像形成に適したレーザー彫刻印刷原版にレーザーを照射し画像パターンを形成することによる印刷版の製造方法、およびその工程で発生し、印刷版表面に残存する粉末状および粘稠性液状彫刻カスの除去方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
段ボール、紙器、紙袋、軟包装用フィルムなどの包装材、壁紙、化粧板などの建装材、ラベル印刷などに用いられるフレキソ印刷は各種の印刷方式の中でその比重を高めている。これに用いる印刷版の製作には、通常、感光性樹脂が用いられることが多く、液状の樹脂、又はシート状に成形された固体樹脂板を用い、フォトマスクを感光性樹脂上に置き、マスクを通して光を照射し架橋反応を起こさせた後、非架橋部分を現像液で洗い落とすという方法が用いられてきた。近年、感光性樹脂表面にブラックレーヤーという薄い光吸収層を設け、これにレーザー光を照射し感光性樹脂板上に直接マスク画像を形成後、そのマスクを通して光を照射し架橋反応を起こさせた後、光の非照射部分の非架橋部分を現像液で洗い落とす、いわゆるフレキソCTPという技術が開発され、印刷版製作の効率改善効果から、採用が進みつつある。しかしながら、この技術も現像工程が残るなど、効率改善効果も限られたものであり、レーザーを使って直接印刷原版上にレリーフ画像を形成し、しかも現像不要である技術の開発が求められている。
【0003】
その方法として直接レーザーで印刷原版を彫刻する方法が挙げられる。この方法で凸版印刷版やスタンプを作成することは既に行なわれており、それに用いられる材料も知られている。
例えば米国特許3549733号ではポリオキシメチレンまたはポリクロラールを用いることが開示されている。また特表平10−512823号公報(ドイツ国特許A19625749号)にはシリコーンポリマーもしくはシリコーンフッ素ポリマーを用いることが記載されているが、これらの公報に記載の発明では、感光性樹脂は用いられておらず、彫刻カスの除去方法についても記載されていない。
【0004】
特開2001−121833号公報(欧州特許公開1080883号公報)には、シリコーンゴムを用い、その中にレーザー光線の吸収体としてカーボンブラックを混合する記載があるが、感光性樹脂を用いたものではない。また、特開2001−328365号公報には、グラフト共重合体中に可視光の波長よりも小さな粒子径の無孔質シリカを充填し、機械的強化を実施することが記載されているが、これも感光性樹脂を用いたものではなく、彫刻カスの除去方法についても触れられていない。
【0005】
非感光性樹脂を用いた印刷原版の場合、レーザー光線が照射された部分が除去されるが、樹脂の焼きつき等が発生し、表面に付着した彫刻カスが除去できない現象が発生する。画像パターンが微細になるほど、この傾向は強まる。例えば、微細網点パターンでは彫刻カスが除去されず、パターンが埋まった状態となる。
【0006】
他方、日本国特許2846954号、2846955号(米国特許第5798202号、第5804353号)にはSBS、SIS、SEBS等の熱可塑性エラストマーを機械的、光化学的、熱化学的に強化された材料を用いることが開示されている。熱可塑性エラストマーを用いる場合、赤外線領域の発振波長を有するレーザーを用いて彫刻を実施すると、熱によりレーザービーム径の寸法を大きく逸脱した部分の樹脂までが溶融するため、高解像度の彫刻パターンを形成することができない。そのため、熱可塑性エラストマー層に充填剤を添加することにより機械的に強化を図ることが必須とされている。前記特許では、熱可塑性エラストマー層の機械的強化とレーザー光の吸収性向上を目的として、特に機械的強化効果の極めて高いカーボンブラックが多量に混合されている。しかしながら、カーボンブラックが多量に混合されているために、光を用いて光化学的強化を試みる場合、どうしても光線透過性を犠牲にすることになる。したがって、これらの材料をレーザー彫刻すると除去が難しいカス(液状の粘稠物を含む)が大量に発生し、その処理に多大な時間を要するばかりでなく、レリーフに融解によるエッジ(樹脂の縁)を生じたり、網点の形状が崩れるなどの難点を生じる。
【0007】
しかしながら、従来技術においては、レーザー彫刻時に発生する粉末状および粘稠性液状カスの除去については一切触れられていない。レーザー彫刻法において、これらの彫刻カスの除去は極めて重要な工程である。折角形成した画像パターンでも、彫刻カスが残存していれば印刷時に不良となり、また粘稠性液状カスが残存し表面タックが大きければ、印刷時、紙紛が印刷版に付着し印刷上のトラブルの要因となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
直接レーザー彫刻してレリーフ画像を制作する際に発生し、版表面に残存する粉末状および粘稠性液状彫刻カスを容易に除去できるばかりでなく、印刷面のタックが小さい印刷版を製作する方法およびレーザー彫刻カスの除去方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討し、感光性樹脂組成物を光硬化させて作製した印刷原版を、0.5MPa以上20MPa以下、温度が50℃以上140℃以下の高圧水あるいは高圧スチームを吹き付ける方法により上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、レーザー光照射により溶融あるいは分解し易い樹脂版を用いること、樹脂の溶融あるいは分解により多量に発生する粘稠性の液状カスを無機多孔質体(c)で吸収除させ、高圧温水あるいは高圧スチームで版表面に存在する粉末状あるいは粘稠性液状カスを浮き上がらせ除去することが、本発明の基本思想である。
【0010】
すなわち、本発明は下記の通りである。
1. 感光性樹脂組成物を光架橋させてシート状あるいは円筒状の印刷原版を作成する工程、前記印刷原版にレーザー光線を照射し目的のパターンを形成し印刷版を作成する工程、得られた印刷版の表面に0.5MPa以上20MPa以下、かつ、温度が50℃以上140℃以下の高温高圧水あるいはスチームを吹き付け洗浄する工程を含むことを特徴とする印刷版の製造方法。
2. 感光性樹脂組成物が、数平均分子量1000以上30万以下の樹脂(a)、数平均分子量が1000未満の重合性不飽和基を有する有機化合物(b)、無機多孔質体(c)を含有することを特徴とする1.に記載の印刷版の製造方法。
3. 有機化合物(b)の全体量の20wt%以上が脂環族、芳香族の少なくとも1種類以上の誘導体であることを特徴とする2.に記載の印刷版の製造方法。
【0011】
4. 無機多孔質体(c)が、比表面積が10m/g以上1500m/g以下であり、平均細孔径が1nm以上1000nm以下、細孔容積が0.1ml/g以上10ml/g以下、かつ吸油量が10ml/100g以上2000ml/100g以下であることを特徴とする2.に記載の印刷版の製造方法。
5. 無機多孔質体(c)の数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下であることを特徴とする2.に記載の印刷版の製造方法。
6. 感光性樹脂組成物を光架橋させて形成したシート状あるいは円筒状の印刷原版にレーザー光線を照射することにより照射部を除去する工程において、該工程で発生し印刷版表面に残存するカスを、0.5MPa以上20MPa以下、温度が50℃以上140℃以下の高温高圧水あるいはスチームを吹き付け除去することを特徴とするレーザー彫刻カスの除去方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、さらに詳細に本発明の好ましい実施態様を説明する。本発明では、感光性樹脂組成物を光架橋させて形成した印刷原版と高温高圧水あるいはスチームによる洗浄法との組み合わせが、彫刻カスの除去に極めて有効である。また、本発明で使用する印刷原版は、レーザー光照射により溶融あるいは分解しやすいことが好ましく、また溶融あるいは分解し生成した粘稠性液状カスを吸収除去し易い工夫が施されていることが好ましい。
【0013】
本発明では、印刷原版にレーザー光線を照射し目的のパターンを形成するレーザー彫刻の工程を経た後、彫刻版の表面に0.5MPa以上20MPa以下、温度が50℃以上140℃以下の高温高圧水あるいはスチームを吹き付ける方法によりレーザー彫刻工程で発生する粉末状カスおよび液状カスを除去することができる。特に粘稠性液状カスは温水あるいはスチームにより版表面から浮き上がらせることができるので、粘稠性液状カスの除去に効果的である。温水あるいはスチームの圧力が、0.5MPa以上であれば、粉末状カスの除去が十分でき、20MPa以下であれば細かい画像パターンを破壊することなく彫刻カスを除去することができる。また、水の温度が50℃以上であれば、粘稠性液状カスを十分に版表面から浮き上がらせることができ、版表面のタックを低減させることも可能である。140℃以下であれば版への熱的ダメージを少なく抑えることができる。水単独で使用することもできるが、水と界面活性剤を混合した溶液、無機塩類を溶解させた水溶液、アルカリイオン水等を洗浄液として使用しても構わない。レーザー彫刻された印刷版に吹付けられた洗浄液は、メッシュフィルター、オイル吸着マットフィルター、不織布フィルター、紙フィルターにより彫刻カス除去処理後、再利用することも可能である。
【0014】
溶融あるいは分解し易い樹脂を用いるとレーザー彫刻時に多量の粘稠性液状カスが発生する。粘稠性液状カスを吸収除去する方法として、シート状あるいは円筒状の印刷原版中に無機多孔質体を含有させることが極めて有効である。印刷原版を構成する樹脂として液状化し易い樹脂や分解し易い樹脂が好ましい。特に数平均分子量の比較的小さな樹脂を用いて光架橋反応により網目構造を形成させる感光性樹脂組成物を使用することが好ましい。
【0015】
以下に本発明で用いる感光性樹脂組成物について詳細に説明する。
感光性樹脂組成物を構成する樹脂(a)の数平均分子量の範囲は、1000以上30万以下が好ましく、より好ましくは2000以上10万以下、更に好ましくは5000以上5万以下である。1000以上であれば、印刷版の機械的強度を十分確保でき、また、30万以下であれば、レーザー光線照射により十分に分解させることができる。本発明の数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、分子量既知のポリスチレン標品に対して評価したものである。
【0016】
分解し易い樹脂としては、分子鎖中に分解し易いモノマー単位としてスチレン、アクリルエステル類、メタクリルエステル類、エステル化合物類、エーテル化合物類、ニトロ化合物類、脂肪族環状化合物類等が含まれていることが好ましい。特にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラエチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート類、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ニトロセルロース、ポリオキシエチレン、ポリノルボルネン、ポリシクロヘキサジエン水添物、あるいは分岐構造の多いデンドリマー等の樹脂は、分解し易いものの代表例である。樹脂の分解し易さを測る指標として、空気下において熱重量分析法を用いて測定した重量減少率がある。本発明で用いる樹脂(a)の重量減少率は、500℃において50wt%以上であることが好ましい。50wt%以上であれば、レーザー光線の照射により樹脂を充分に分解させることができる。
【0017】
また、溶融し易い樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、エラストマーであっても非エラストマーであっても構わない。
熱可塑性エラストマーとして特に限定するものではないが、スチレン系熱可塑性エラストマーであるSBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。熱可塑性エラストマーは加熱することにより流動化するため、本発明の無機多孔質体(c)と混合することが可能となる。熱可塑性エラストマーとは、加熱することにより流動し通常の熱可塑性プラスチック同様成形加工ができ、常温ではゴム弾性を示す材料である。分子構造としては、ポリエーテルあるいはゴム分子のようなソフトセグメントと、常温付近では加硫ゴムと同じく塑性変形を防止するハードセグメントからなり、ハードセグメントとしては凍結相、結晶相、水素結合、イオン架橋など種々のタイプが存在する。
【0018】
印刷版の用途により、熱可塑性エラストマーの種類を選択できる。例えば、耐溶剤性が要求される分野では、ウレタン系、エステル系、アミド系、フッ素系熱可塑性エラストマーが好ましく、耐熱性が要求される分野では、ウレタン系、オレフィン系、エステル系、フッ素系熱可塑性エラストマーが好ましい。また、熱可塑性エラストマーの種類により、硬度を大きく変えることができる。通常の印刷版での用途では、ショアA硬度が20〜75度の領域、紙、フィルム、建築材料の表面凹凸パターンを形成するエンボス加工の用途では、比較的硬い材料が必要であり、ショアD硬度で、30〜80度の領域である。
【0019】
非エラストマー性のものとして、特に限定するものではないが、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0020】
熱可塑性樹脂の軟化温度は、50℃以上500℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以上350℃以下、更に好ましい範囲は100℃以上250℃以下である。軟化温度が50℃以上であれば常温で固体として取り扱うことができ、シート状あるいは円筒状に加工したものを変形させずに取り扱うことができる。また軟化温度が500℃以下である場合、シート状あるいは円筒状に加工する際に極めて高い温度に加熱する必要がなく、混合する他の化合物を変質、分解させずに済む。本発明の軟化温度の測定は、動的粘弾性測定装置を用い、室温から温度を上昇していった場合、粘性率が大きく変化する(粘性率曲線の傾きが変化する)最初の温度で定義する。
【0021】
また、樹脂(a)は、溶剤可溶性樹脂であっても構わない。具体的には、ポリスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ノボラック樹脂、アルキッド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
樹脂(a)は、通常反応性の高い重合性不飽和基を持たないものが多いが、分子鎖の末端あるいは側鎖に反応性の高い重合性不飽和基を有していても構わない。反応性の高い重合性不飽和基を有する樹脂(a)を用いた場合、極めて機械的強度の高い印刷原版を作製することができる。
【0022】
しかしながら、反応性の高い重合性不飽和基の存在量が1分子あたり平均で2を越えて大きい場合、光を照射して硬化させたものの収縮が大きくなるので、好ましい存在量としては1分子あたり平均2以下である。特にポリウレタン系、ポリエステル系熱可塑性エラストマーでは、比較的簡単に分子内に反応性の高い重合性不飽和基を導入することが可能である。ここで言う分子内とは高分子主鎖の末端、高分子側鎖の末端や高分子主鎖中や側鎖中に直接、重合性不飽和基が付いている場合なども含まれる。例えば直接、重合性の不飽和基をその分子末端に導入したものを用いても良いが、別法として、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、エステル基などの反応性基を複数有する数千程度の分子量の上記成分の反応性基と結合しうる基を複数有する結合剤(例えば水酸基やアミノ基の場合のポリイソシアネートなど)を反応させ、分子量の調節、及び末端の結合性基への変換を行った後、この末端結合性基と反応する基と重合性不飽和基を有する有機化合物と反応させて末端に重合性不飽和基を導入する方法などの方法が好適にあげられる。
【0023】
有機化合物(b)は、ラジカル、または付加重合反応に関与する不飽和結合を有した化合物であり、樹脂(a)との希釈のし易さを考慮すると数平均分子量は1000未満が好ましい。有機化合物(b)は例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリルアルコール、アリルイソシアネート等のアリル化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、シアネートエステル類等があげられるが、その種類の豊富さ、価格等の観点から(メタ)アクリル酸及びその誘導体が好ましい例である。
【0024】
該誘導体は、シクロアルキル−、ビシクロアルキル−、シクロアルケン−、ビシクロアルケン−などの脂環族、ベンジル−、フェニル−、フェノキシ−などの芳香族、アルキル−、ハロゲン化アルキル−、アルコキシアルキル−、ヒドロキシアルキル−、アミノアルキル−、テトラヒドロフルフリル−、アリル−、グリシジル−、アルキレングリコール−、ポリオキシアルキレングリコール−、(アルキル/アリルオキシ)ポリアルキレングリコール−やトリメチロールプロパン等の多価アルコールのエステルなどがあげられる。
【0025】
本発明において、これら重合性の不飽和結合を有する有機化合物(b)はその目的に応じて1種若しくは2種以上のものを選択できる。例えば印刷版として用いる場合、印刷インキの溶剤であるアルコールやエステル等の有機溶剤に対する膨潤を押さえるために用いる有機化合物として長鎖脂肪族、脂環族または芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましい。
樹脂組成物より得られる印刷原版の機械強度を高めるためには、有機化合物(b)としては脂環族または芳香族の誘導体が少なくとも1種類以上有することが好ましく、この場合、有機化合物(b)の全体量の20wt%以上であることが好ましく、更に好ましくは50wt%以上である。
【0026】
印刷版の反撥弾性を高めるため例えば特開平7−239548号に記載されているようなメタクリルモノマーを使用するとか、公知の印刷用感光性樹脂の技術知見等を利用して選択することができる。
無機多孔質体(c)とは、粒子中に微小細孔を有する、あるいは微小な空隙を有する無機粒子であり、レーザー彫刻において多量に発生する粘稠性の液状カスを吸収除去するための添加剤であり、版面のタック防止効果も有する。本発明の無機多孔質体は粘稠な液状カスの吸収を目的として添加するものであり、数平均粒子径、比表面積、平均細孔径、細孔容積、灼熱減量がその性能に大きく影響する。
【0027】
本発明は、レーザー照射により切断され易い樹脂を採用し、それ故分子の切断時に多量に低分子のモノマー、オリゴマー類が発生するため、この粘稠性の液状カスを多孔質無機吸収剤を用いて行うという、これまでの技術思想に全くない新しい概念を導入していることに特徴がある。したがって、前述した通り粘稠性液状カスの吸収に用いる多孔質無機吸収剤の数平均粒子径、比表面積、平均細孔径、細孔容積、灼熱減量、給油量等の物性が極めて重要な要素となる。例えば、多孔質シリカの選定においても、ヒュームドシリカのように無孔質微粒や細孔径が小さく液状カスを十分に吸収できないもの等、単一粒子では粘稠性液状カスの除去に関して効果の極めて低いものも存在し、また、樹脂の分子量あるいは樹脂の粘度も粘稠性液状カス吸収にも大きく影響する。
【0028】
無機多孔質体(c)は、数平均粒径が0.1〜100μmであることが好ましい。この数平均粒子径の範囲のものを用いた場合、本発明の樹脂組成物より得られる原版をレーザーで彫刻する際に粉塵が舞うことなく、彫刻装置を汚染することもない。また、樹脂(a)及び有機化合物(b)との混合を行う際に粘度の上昇、気泡の巻き込み、粉塵の大量発生等の不都合を生じることもない。また、レーザー彫刻した際レリーフ画像を設計通り形成でき、印刷物の精細さを確保することができる。より好ましい平均粒子径の範囲は、0.5〜20μmであり、更に好ましい範囲は3〜10μmである。無機多孔質体(c)の平均粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、商標「LA910」)を用いて測定した値である。
【0029】
無機多孔質体(c)の比表面積の範囲は、10m/g以上1500m/g以下が好ましい。より好ましい範囲は、100m/g以上800m/g以下である。比表面積が10m/g以上である場合、レーザー彫刻時の液状カスの除去が充分となり、また、1500m/g以下であれば、感光性樹脂組成物の粘度上昇を抑え、また、チキソトロピー性を抑えることができる。本発明の比表面積は、−196℃における窒素の吸着等温線からBET式に基づいて求められる。
【0030】
無機多孔質体(c)の平均細孔径は、レーザー彫刻時に発生する液状カスの吸収量に極めて大きく影響を及ぼす。平均細孔径の好ましい範囲は、1nm以上1000nm以下が好ましく、より好ましくは2nm以上200nm以下、更に好ましくは2nm以上50nm以下である。平均細孔径が1nm以上であれば、レーザー彫刻時に発生する液状カスの吸収性が確保でき、1000nm以下である場合、粒子の比表面積が大きく液状カスの吸収量を十分に確保できる。平均細孔径が1nm未満の場合、液状カスの吸収量が少ない理由については明確になっていないが、液状カスが粘稠性であるため、ミクロ孔に入り難く吸収量が少ないためではないかと推定している。例えばモルデナイト、ホーランダイト、トドロカイト、フォージャサイト等は1nm未満のミクロ孔を有する多孔質粒子であり、比表面積も大きいが、前記液状カスの除去に関して効果を発現しない。本発明の平均細孔径は、窒素吸着法を用いて測定した値である。平均細孔径が2〜50nmのものは特にメソ孔と呼ばれ、メソ孔を有する多孔質粒子が液状カスを吸収する能力が極めて高い。本発明の細孔径分布は、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。
【0031】
無機多孔質体(c)の細孔容積は、0.1ml/g以上10ml/g以下が好ましく、より好ましくは0.2ml/g以上5ml/g以下である。細孔容積が0.1m/g以上の場合、粘稠性液状カスの吸収量は十分であり、また10ml/g以下の場合、粒子の機械的強度を確保することができる。本発明において細孔容積の測定には、窒素吸着法を用いる。本発明の細孔容積は、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。
【0032】
本発明の液状カス吸着量を評価する指標として、吸油量がある。これは、無機多孔質体100gが吸収する油の量で定義する。本発明で用いる無機多孔質体の吸油量の好ましい範囲は、10ml/100g以上2000ml/100g以下、より好ましくは50ml/100g以上1000ml/100g以下である。吸油量が10ml/100g以上であれば、レーザー彫刻時に発生する液状カスの除去が十分であり、また2000ml/100g以下であれば、無機多孔質体の機械的強度を十分に確保できる。吸油量の測定は、JIS−K5101に準じて行った。
【0033】
無機多孔質体(c)は、特に赤外線波長領域のレーザー光照射により変形あるいは溶融せずに多孔質性を保持することが必要である。950℃において2時間処理した場合の灼熱減量が、15wt%以下が好ましく、より好ましくは10wt%以下であることが望ましい。
無機多孔質体の粒子形状は特に限定するものではなく、球状、扁平状、針状、無定形、あるいは表面に突起のある粒子などを使用することができる。また、粒子の内部が空洞になっている粒子、シリカスポンジ等の均一な細孔径を有する球状顆粒体などを使用することも可能である。特に限定するものではないが、例えば、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、シリカ−ジルコニア多孔質ゲル、ポーラスアルミナ、多孔質ガラス等を挙げることができる。また、層状粘土化合物などのように、層間に数nm〜100nmの空隙が存在するものについては、細孔径を定義できないため、本発明においては層間に存在する空隙の間隔を細孔径と定義する。
【0034】
更にこれらの細孔あるいは空隙にレーザー光の波長の光を吸収する顔料、染料等の有機色素を取り込ませることもできる。
また、無機多孔質体の表面をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の有機化合物で被覆し表面改質処理を行い、より親水性化あるいは疎水性化した粒子を用いることもできる。
本発明において、これらの無機多孔質体(c)は1種類もしくは2種類以上のものを選択でき、無機多孔質体(c)を添加することによりレーザー彫刻時の液状カスの発生抑制、及びレリーフ印刷版のタック防止等の改良が有効に行われる。
【0035】
本発明で用いる感光性樹脂組成物における樹脂(a)、有機化合物(b)、及び無機多孔質体(c)の割合は、通常、樹脂(a)100重量部に対して、有機化合物(b)は5〜200重量部が好ましく、20〜100重量部の範囲がより好ましい。又、無機多孔質体(c)は1〜100重量部が好ましく、2〜50重量部の範囲がより好ましい。更に好ましい範囲は、2〜20重量部である。
有機化合物(b)の割合が、上記の範囲であれば、得られる印刷版などの硬度と引張強伸度のバランスがとりやすい。また、架橋反応での収縮も小さく、厚み精度を確保できる。
【0036】
また、無機多孔質体(c)の量が上記の範囲であれば、版面のタック防止効果、及びレーザー彫刻した際に、彫刻液状カスの発生を抑制するなどの効果が十分発揮される。また、透明性が損なわれることなく、また、特にフレキソ版として利用する際の硬度として適する。光、特に紫外線を用いて感光性樹脂組成物を硬化させレーザー彫刻印刷原版を作製する場合、光線透過性が架橋反応に影響する。したがって、用いる無機多孔質体の屈折率が感光性樹脂組成物の屈折率に近いものを用いることが有効である。
【0037】
感光性樹脂組成物中に無機多孔質体を混合する方法として、熱可塑性樹脂を加熱して流動化させた状態で直接無機多孔質体(c)を添加する方法、あるいは熱可塑性樹脂と光重合性有機化合物(b)を最初に混錬した中に無機多孔質体(c)を添加する方法のいずれでも構わない。ただし、特に分子量の低い光重合性有機物(b)に直接、無機多孔質体(c)を混合する方法は避けることが好ましい。
すなわち、この第三の方法を用いた場合、無機多孔質体のカス吸収性能を低下させることがある。この理由は明確ではないが、無機多孔質体粒子中の細孔あるいは空隙に低粘度の有機化合物が侵入し、印刷原版を作製する際の露光工程において、細孔内の重合性有機物(b)が硬化し細孔あるいは空隙を埋めてしまうためではないかと推定している。
【0038】
本発明の感光性樹脂組成物を光もしくは電子線の照射により架橋して印刷版などとしての物性を発現させるが、その際に重合開始剤を添加することができる。重合開始剤は一般に使用されているものから選択でき、例えば高分子学会編「高分子データ・ハンドブック−基礎編」1986年培風館発行、にラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合の開始剤が例示されている。また、光重合開始剤を用いて光重合により架橋を行なうことは、本発明の樹脂組成物の貯蔵安定性を保ちながら、生産性良く印刷原版を生産出来る方法として有用であり、その際に用いる開始剤も公知のものが使用できるが、例えばベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4‘−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2、2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノンなどのアセトフェノン類;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシル酸メチル、ベンゾフェノン、ベンジル、ジアセチル、ジフェニルスルフィド、エオシン、チオニン、アントラキノン類等の光ラジカル重合開始剤のほか、光を吸収して酸を発生する芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩等の光カチオン重合開始剤あるいは光を吸収して塩基を発生する重合開始剤などが挙げられる。重合開始剤の添加量は通常樹脂(a)と有機化合物(b)の合計量の0.01〜10wt%範囲が好ましい。
【0039】
その他、樹脂組成物には用途や目的に応じて重合禁止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、滑剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを添加することができる。
樹脂組成物をシート状、もしくは円筒状に成形する方法は、既存の樹脂の成形方法を用いることができる。例えば、注型法、ポンプや押し出し機等の機械で樹脂をノズルやダイスから押し出し、ブレードで厚みを合わせる、ロールによりカレンダー加工して厚みを合わせる方法等が例示できる。その際、樹脂の性能を落とさない範囲で加熱しながら成形を行なうことも可能である。
【0040】
また、必要に応じて圧延処理、研削処理などをほどこしても良い。通常はPETやニッケルなどの素材からなるバックフィルムといわれる下敷きの上に成形される場合が多いが、直接印刷機のシリンダー上に成形する場合などもありうる。バックフィルムの役割は、印刷原版の寸法安定性を確保することである。したがって、寸法安定性の高いものを選択する必要がある。線熱膨張係数を用いて評価すると、好ましい材料の上限値は100ppm/℃以下、更に好ましくは70ppm/℃以下である。材料の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンチオエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂からなる液晶樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。また、これらの樹脂を積層して用いることもできる。例えば、厚み4.5μmの全芳香族ポリアミドフィルムの両面に厚み50μmのポリエチレンテレフタレートの層を積層したシート等でもよい。
【0041】
また、バックフィルムの線熱膨張係数を小さくする方法として、充填剤を添加する方法、全芳香族ポリアミド等のメッシュ状クロス、ガラスクロスなどに樹脂を含浸あるいは被覆する方法などを挙げることができる。充填剤としては、通常用いられる有機系微粒子、金属酸化物あるいは金属等の無機系微粒子、有機・無機複合微粒子など用いることができる。また、多孔質微粒子、内部に空洞を有する微粒子、マイクロカプセル粒子、低分子化合物が内部にインターカレーションする層状化合物粒子を用いることもできる。特に、アルミナ、シリカ、酸化チタン、ゼオライト等の金属酸化物微粒子、ポリスチレン・ポリブタジエン共重合体からなるラテックス微粒子、高結晶性セルロース等の天然物系の有機系微粒子等が有用である。
【0042】
本発明で用いるバックフィルムの表面に物理的、化学的処理を行うことにより、感光性樹脂組成物層あるいは接着剤層との接着性を向上させることができる。物理的処理方法としては、サンドブラスト法、微粒子を含有した液体を噴射するウエットブラスト法、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、紫外線あるいは真空紫外線照射法などを挙げることができる。また、化学的処理方法としては、強酸・強アルカリ処理法、酸化剤処理法、カップリング剤処理法などである。
【0043】
成形された感光性樹脂組成物は光もしくは電子線の照射により架橋せしめ、印刷原版を形成する。また、成型しながら光もしくは電子線の照射により架橋させることもできる。その中でも光を使って架橋させる方法は、装置が簡便で厚み精度が高くできるなどの利点を有し好適である。硬化に用いられる光源としては高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ等が挙げられ、その他公知の方法で硬化を行うことができる。硬化に用いる光源は、1種類でも構わないが、波長の異なる2種類以上の光源を用いて硬化させることにより、樹脂の硬化性が向上することがあるので、2種類以上の光源を用いることも差し支えない。
【0044】
レーザー彫刻に用いる原版の厚みは、その使用目的に応じて任意に設定して構わないが、印刷版として用いる場合には、一般的に0.1〜7mmが好ましい。場合によっては、組成の異なる材料を複数積層していても構わない。
レーザー彫刻においては、形成したい画像をデジタル型のデータとしてコンピューターを利用してレーザー装置を操作し、原版上にレリーフ画像を作成する。レーザー彫刻に用いるレーザーは、原版が吸収を有する波長を含むものであればどのようなものを用いてもよいが、彫刻を高速度で行なうためには出力の高いものが望ましく、炭酸ガスレーザーやYAGレーザー、半導体レーザー等の赤外線あるいは赤外線放出固体レーザーが好ましいものの一つである。また、紫外線領域に発振波長を有する紫外線レーザー、例えばエキシマレーザー、第3あるいは第4高調波へ波長変換したYAGレーザー、銅蒸気レーザー等は、有機分子の結合を切断するアブレージョン加工が可能であり、微細加工に適する。また、レーザーは連続照射でも、パルス照射でも良い。一般には樹脂は炭酸ガスレーザーの10μm近傍に吸収を持つため、特にレーザー光の吸収を助けるような成分の添加は必須ではないが、YAGレーザーは1.06μm近傍の波長であり、この波長の吸収を有するものはあまり無い。その場合、これの吸収を助ける成分である、染料、顔料の添加が必要となる。このような染料の例としては、ポリ(置換)フタロシアニン化合物および金属含有フタロシアニン化合物、;シアニン化合物;スクアリリウム染料;カルコゲノピリロアリリデン染料;クロロニウム染料;金属チオレート染料;ビス(カルコゲノピリロ)ポリメチン染料;オキシインドリジン染料;ビス(アミノアリール)ポリメチン染料;メロシアニン染料;及びキノイド染料などが挙げられる。顔料の例としてはカーボンブラック、グラファイト、亜クロム酸銅、酸化クロム、コバルトクロームアルミネート、酸化鉄等の暗色の無機顔料や鉄、アルミニウム、銅、亜鉛のような金属粉およびこれら金属にSi、Mg、P、Co、Ni、Y等をドープしたもの等が挙げられる。これら染料、顔料は単独で使用しても良いし、複数を組み合わせて使用しても良いし、複層構造にするなどのあらゆる形態で組み合わせても良い。
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
実施例及び比較例中、レーザー彫刻は炭酸ガスレーザー彫刻機(BAASEL社製、商標「TYP STAMPLAS SN 09」)を用いて行い、彫刻のパターンは、網点、500μm幅の凸線による線画、及び、500μm幅の白抜き線を含むパターンを作成して実施した。彫刻深さは0.55mmとした。
【0046】
比較例としてレーザー彫刻後、エタノールを含浸させた不織布(旭化成株式会社製、商標「BEMCOT M−3」)を用いてレリーフ印刷版上のカスを拭き取った。
また、彫刻カス除去後のレリーフ印刷版面のタック測定は株式会社東洋精機製作所製タックテスターを用いて行なった。 タック測定は、20℃において、試料片の平滑な部分に半径50mm、幅13mmのアルミニウム輪の幅13mmの部分を接触させ、該アルミニウム輪に0.5kgの荷重を加え4秒間放置した後、毎分30mmの一定速度で前記アルミニウム輪を引き上げ、アルミニウム輪が試料片から離れる際の抵抗力をプッシュプルゲージで読み取る。この値が大きいもの程、ベトツキ度が大きい。
【0047】
更に、彫刻した部位のうち、80lpiで面積率約10%の網点部の形状を電子顕微鏡にて観察した。
【0048】
【実施例1】
温度計、攪拌機、還流器を備えた1Lのセパラブルフラスコに旭化成株式会社製ポリカーボネートジオールである、商標「PCDL L4672」(数平均分子量1990、OH価56.4)447.24gとトリレンジイソシアナート30.83gを加え80℃に加温下に約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート14.83gを添加し、さらに約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約2個)である数平均分子量約10000の樹脂(ア)を製造した。
【0049】
樹脂(a)として上記の樹脂(ア)100重量部、有機化合物(b)としてベンジルメタクリレート(略してBZMA、分子量176)25重量、シクロヘキシルメタクリレート(略してCHMA、分子量167)19重量部、ブトキシジエチレングリコールメタクリレート(略してBDEGMA、分子量230)6重量部、無機多孔質体(c)として富士シリシア化学株式会社製、多孔質性微粉末シリカである、商標「サイロスフェアC−1504」(以下略してC−1504、数平均粒子径4.5μm、比表面積520m/g、平均細孔径12nm、細孔容積1.5ml/g、灼熱減量2.5wt%、吸油量290ml/100g)5重量部、光重合開始剤として2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン0.6重量部、その他添加剤として2,6−ジ−t−ブチルアセトフェノン0.5重量部を加えて樹脂組成物を作成した。これらをPETフィルム上に厚さ2.8mmのシート状に成形したのち、旭化成株式会社製ALF型213E露光機を用い、真空の条件下レリーフ面 2000mJ/cm、バック面1000mJ/cmの条件で10分間露光し、印刷原版を作製した。
【0050】
これらをBAASEL社製のレーザー彫刻機をもちいて、パターンの彫刻を行なったところ、印刷版表面には、粉末状および粘稠性液状彫刻カスが観察された。
その後、レーザー彫刻後、彫刻カスの除去には、高温高圧洗浄機(ケルヒャー社製、商標名「HDS795」)を用いて実施した。高温スチームの温度は107℃、圧力は5MPaであった。レーザー彫刻を行った印刷版と高圧スチームの噴出するノズルとの間の距離は、0.15mとした。印刷版表面に存在していた彫刻カスを除去することができた。また、網点部にも彫刻カスの残存は見られず、網点部のパターン形状も円錐状で良好であり、欠けなども見られなかった。彫刻カス除去後のレリーフ上のタックは、40N/mであった。
【0051】
本実施例で用いている有機化合物(b)の内、脂環族および芳香族の誘導体は、BZMA、CHMAである。
【0052】
【実施例2】
無機多孔質体(c)が、富士シリシア化学株式会社製、多孔質性微粉末シリカ、商標名「サイロホービック4004」(数平均粒子径8.0μm、比表面積300m/g、平均細孔径17nm、細孔容積1.25ml/g、灼熱減量5.0wt%、吸油量200ml/100g)であること以外、実施例1と同様にして印刷原版を作製した。
【0053】
実施例1と同じ方法により、彫刻カスの除去の状態、レリーフ上のタックを評価した。表面に存在していた彫刻カスを除去することができた。また、網点部にも彫刻カスの残存は見られず、網点部のパターン形状も円錐状で良好であり、欠けなども見られなかった。彫刻カス除去後のレリーフ上のタックは、50N/mであった。
【0054】
【実施例3】
樹脂(a)として、旭化成株式会社製スチレンブタジエン共重合体、商標「タフプレンA」(以下略してSBS)を用い、加圧ニーダーを用いて混錬する以外、実施例1と同様にして印刷原版を作製した。
実施例1と同じ方法により、彫刻カスの除去の状態、レリーフ上のタックを評価した。表面に存在していた彫刻カスを除去することができた。また、網点部にも彫刻カスの残存は見られず、網点部のパターン形状も円錐状で良好であり、欠けなども見られなかった。彫刻カス除去後のレリーフ上のタックは、35N/mであった。
【0055】
本発明の実施例で用いるSBSの数平均分子量はGPCを用いて測定したところ、7.7万であった。またSBSの軟化温度は、130℃であった。軟化温度の測定には、レオメトリックス・サイエンティフィック・エフ・イー社製の粘弾性測定装置、回転型のレオメーターを用いて測定した。測定周波数は10rad/秒、昇温速度は10℃/分で室温から加熱を開始し、最初に粘性率が大きく低下する温度を軟化点として求めた。
【0056】
【実施例4】
高温高圧洗浄機から出る水温を80℃とする以外、実施例3と同様にして、彫刻カスの除去の状態、レリーフ上のタックを評価した。表面に存在していた彫刻カスを除去することができた。また、網点部にも彫刻カスの残存は見られず、網点部のパターン形状も円錐状で良好であり、欠けなども見られなかった。彫刻カス除去後のレリーフ上のタックは、40N/mであった。
【0057】
【比較例1】
印刷原版として、天然ゴム版(厚さ3mm)を使用する以外、実施例1と同じ方法により、彫刻カスの除去の状態を評価した。液状カスはほとんど観察されなかった。レリーフ表面に付着していた粉末状の彫刻カスを除去することができたが、網点部に存在する彫刻カスを除去することはできなかった。網点部パターンの間にカスが埋め込まれたような状態の部分も見られた。
【0058】
【比較例2】
彫刻カスの除去方法が、エタノールを含浸させた不織布(旭化成株式会社製、商標「BEMCOT M−3」)を用いてレリーフ印刷版上のカスを拭き取る方法であること以外は、実施例1と同様の方法により、彫刻カスの除去の状態、レリーフ上のタックを評価した。レリーフ面を3回拭き取ることにより、レリーフ表面の粉末状および粘稠性液状カスの除去はできた。レリーフ上のタックは、55N/mであり、高温高圧洗浄機を用いて除去する方法に比較して若干高い結果となった。
【0059】
【比較例3】
洗浄機から出る水温を40℃とする以外、実施例3と同様にして彫刻カスの除去の状態、レリーフ上のタックを評価した。表面に存在していた粉末状の彫刻カスを除去することができたが、網点部に存在する彫刻カスを一部分除去することはできなかった。レリーフ上のタックは100N/mであり、実施例3に比較して大きいものであった。
【0060】
【発明の効果】
本発明の感光性樹脂組成物を光硬化させて形成した印刷原版を、レーザー彫刻した後、高温高圧水あるいはスチームを照射することにより、粉末状および多量に発生する粘稠性液状カスを容易に除去することができ、しかも印刷版表面のタックを小さくすることが可能な彫刻カスの除去方法である。

Claims (6)

  1. 感光性樹脂組成物を光架橋させてシート状あるいは円筒状の印刷原版を作成する工程、前記印刷原版にレーザー光線を照射し目的のパターンを形成し印刷版を作成する工程、得られた印刷版の表面に0.5MPa以上20MPa以下、かつ、温度が50℃以上140℃以下の高温高圧水あるいはスチームを吹き付け洗浄する工程を含むことを特徴とする印刷版の製造方法。
  2. 感光性樹脂組成物が、数平均分子量1000以上30万以下の樹脂(a)、数平均分子量が1000未満の重合性不飽和基を有する有機化合物(b)、および無機多孔質体(c)を含有することを特徴とする請求項1に記載の印刷版の製造方法。
  3. 有機化合物(b)の全体量の20wt%以上が脂環族、芳香族の少なくとも1種類以上の誘導体であることを特徴とする請求項2に記載の印刷版の製造方法。
  4. 無機多孔質体(c)が、比表面積が10m/g以上1500m/g以下であり、平均細孔径が1nm以上1000nm以下、細孔容積が0.1ml/g以上10ml/g以下、かつ吸油量が10ml/100g以上2000ml/100g以下であることを特徴とする請求項2に記載の印刷版の製造方法。
  5. 無機多孔質体(c)の数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の印刷版の製造方法。
  6. 感光性樹脂組成物を光架橋させて形成したシート状あるいは円筒状の印刷原版にレーザー光線を照射することにより照射部を除去する工程において、該工程で発生し印刷版表面に残存するカスを、0.5MPa以上20MPa以下、温度が50℃以上140℃以下の高温高圧水あるいはスチームを吹き付け除去することを特徴とするレーザー彫刻カスの除去方法。
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