JP2004037543A - 液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板および液晶プロジェクター用偏光変換素子 - Google Patents

液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板および液晶プロジェクター用偏光変換素子 Download PDF

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Abstract

【課題】全可視光領域において輝度やコントラストの高い液晶プロジェクターを得ることができ、耐熱性および耐湿性に優れ、長期間にわたって安定な特性が得られる液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板を提供すること。
【解決手段】上記の課題は、複数の透明層が一体的に積層された積層体よりなり、当該積層体における少なくとも二つの透明層が環状オレフィン系樹脂よりなる位相差フィルムにより形成されていることを特徴とする液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板によって解決される。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板および液晶プロジェクター用偏光変換素子に関する。さらに詳しくは、光線波長400nm〜800nmの全波長領域(全可視光領域)において輝度およびコントラストが高い液晶プロジェクターを得ることができ、耐熱性および耐湿性に優れ長期間にわたって安定な特性が得られる液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板およびこの液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板を具えた液晶プロジェクター用偏光変換素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶プロジェクターに用いられる偏光変換素子は、入射される自然光を、偏光面が互いに直交するP偏光光およびS偏光光に分離し、分離されたP偏光光およびS偏光光のいずれか一方の偏光面を実質的に90度回転させることにより、出射される当該偏光光における偏光面の角度を他方の偏光光における偏光面と一致させる機能を有するものである。このような偏光変換素子によれば、得られる偏光光の大部分を利用することができるので、液晶プロジェクターにおいて高い光の利用効率を得られる。
このような偏光変換素子において、入射される偏光光における偏光面を実質的に90度回転させる手段としては、1/2波長板と称される波長板が用いられている。この波長板は、光の波長λに対し(X+1/2)λ(Xは0または1以上の整数を表す。)またはこれに近似した値の位相差(以下、「特定の位相差」という。)を与えるものであり、このような波長板としては、従来、水晶製のものが使用されていた。
しかしながら、水晶製の波長板は加工コストなどの関係で価格が高いという問題がある。そこで、水晶製の波長板に代わって、ポリカーボネートなどの透明樹脂よりなるフィルムに延伸加工などを施した位相差フィルムを波長板として使用することが試みられている。
【0003】
而して、輝度およびコントラストが高い液晶プロジェクターを得るためには、波長板として用いられる位相差フィルムは、全可視光領域の光に対して特定の位相差を与えるものであることが必要である。然るに、従来の位相差フィルムでは、ある波長の光に対しては目的とする特定の位相差を与えることができ、これにより偏光光の偏光面を高効率で実質的に90度回転させることができるものの、それ以外の波長の光に対しては得られる位相差が特定の位相差から大きく逸脱するために、入射される偏光光における偏光面に対する出射される偏光光における偏光面の角度が、90度から大きくずれてしまう、という問題がある。
そこで、斯かる問題を解決し、広範囲にわたる波長の光に対して、特定の位相差を与えることができ、これにより、偏光光における偏光面を実質的に90度回転させることが可能な波長板として、複数の位相差フィルムを、各々の光軸が交差するよう積層してなるものが提案されている。
【0004】
しかしながら、このような波長板においては、以下のような問題がある。
従来、透明樹脂製の位相差フィルムとしては、例えばポリカーボネート系樹脂フィルム、トリアセチルアセテート樹脂フィルムおよびアクリル系樹脂フィルムなどが用いられている。
然るに、ポリカーボネート系樹脂フィルムにおいては、光弾性係数が大きいものであって、温度や応力の変動によって位相差が変動する範囲が大きいため、位相差フィルムの製造工程において熱履歴や圧力履歴を受けることにより、所期の位相差値が得られないことがある。
また、トリアセチルアセテート樹脂フィルムやアクリル系樹脂フィルムにおいては、耐熱性が低く、また、吸水性が高いものであるため、使用時の温度や湿度の変化によって位相差値が所期の値から変動したり、積層した位相差フィルムの各光軸の交差する角度が所期の値からずれたりしてしまい、その結果、長期間にわたって安定な特性を得ることが困難である。
以上のような理由から、全可視光領域において安定して特定の位相差を与えることができ、しかもこのような特性が長期間にわたって安定して保持される、透明樹脂製の位相差フィルムからなる波長板は実現されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、全可視光領域において輝度およびコントラストが高い液晶プロジェクターを得ることができ、耐熱性および耐湿性に優れ、長期間にわたって安定な特性が得られる優れた液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板およびこの液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板を具えた液晶プロジェクター用偏光変換素子を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板は、複数の透明層が一体的に積層された積層体よりなり、当該積層体における少なくとも二つの透明層が環状オレフィン系樹脂よりなる位相差フィルムにより形成されていることを特徴とする。
また本発明の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板においては、環状オレフィン系樹脂が、下記一般式(1)で表される単量体から得られる重合体、または下記一般式(1)で表される単量体およびこれと共重合可能な単量体から得られる共重合体であることが好ましい。
【0007】
【化2】
Figure 2004037543
【0008】
(式中、R1 〜R4 は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、またはその他の1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていてもよい。R1 とR2 またはR3 とR4 は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R1 またはR2 とR3 またはR4 とは互いに結合して、単環または多環構造を形成してもよい。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。)
【0009】
本発明の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板においては、光線波長400nm〜800nmの全波長領域において、下記式(a)の値が(0.40〜0.55)+X(Xは0または1以上の整数)であることが好ましい。
【0010】
【数3】
式(a)
Re(λ)/λ
(式中、λは光線波長、Re(λ)は当該光線波長におけるnmで表された位相差値である。)
【0011】
本発明の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板においては、光線波長400nm〜800nmの全波長領域において、入射される偏光光における偏光面に対する出射される偏光光における偏光面の角度が90度±10度の範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板においては、位相差フィルムにより形成された透明層に対する偏光光の入射角度をθ度とし、当該透明層の面上において、入射される偏光光における偏光面と当該透明層の光軸とのなす角度をα度としたとき、下記式(b)で算出されるβの値が5〜80度であることが好ましい。
【0013】
【数4】
式(b)
β=tan−1(tanα/cosθ)
【0014】
本発明の液晶プロジェクター用偏光変換素子は、上記のいずれかに記載の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板を具えてなることを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板は、環状オレフィン系樹脂よりなる位相差フィルムにより形成された、透明層を2層以上有する積層体からなるものである。
【0016】
〔環状オレフィン系樹脂〕
位相差フィルムを構成する環状オレフィン系樹脂としては、下記▲1▼〜▲6▼のような(共)重合体を用いることが好ましい。
▲1▼上記一般式(1)で表される単量体(以下、「特定単量体」という。)の開環重合体(以下、「特定の開環重合体」という。)。
▲2▼特定単量体と共重合性単量体との開環共重合体(以下、「特定の開環共重合体」という。)。
▲3▼上記特定の開環重合体または特定の開環共重合体の水素添加(共)重合体(以下、「特定の水素添加(共)重合体」という。)。
▲4▼上記特定の開環重合体または特定の開環共重合体をフリーデルクラフト反応により環化した後、水素添加した(共)重合体(以下、「特定の環化水素添加(共)重合体」という。)。
▲5▼特定単量体の付加重合体(以下、「特定の付加重合体」という。)。
▲6▼特定単量体とオレフィン性二重結合含有化合物との付加共重合体(以下、「特定の付加共重合体」という。)。
【0017】
特定単量体の具体例としては、
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[5.2.1.02,6 ]−8−デセン、
トリシクロ[4.4.0.12,5 ]−3−ウンデセン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6 .02,7 .09,13]−4−ペンタデセン、
ペンタシクロ[7.4.0.12,5 .19,12.08,13]−3−ペンタデセン、
ペンタシクロ[8.4.0.12,5 .19,12.08,13]−3−ヘキサデセン、
ヘプタシクロ[8.7.0.13,6 .110,17 .112,15 .02,7 .011,16 ]−4−エイコセン、
ヘプタシクロ[8.8.0.14,7 .111,18 .113,16 .03,8 .012,17 ]−5−ヘンエイコセン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
【0018】
5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ペンタフルオロエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリス(フルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラキス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロ−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5−ヘプタフルオロ−イソプロピル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロ−5,6,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジクロロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−ヘプタフルオロプロポキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
【0019】
8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−ジフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17, 10]−3−ドデセン、
8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
【0020】
8,8,9,9−テトラフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラキス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロ−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−ペンタフルオロプロポキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロ−8−ペンタフルオロエチル−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8−ヘプタフルオロ−イソプロピル−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−クロロ−8,9,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジクロロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5   .17,10]−3−ドデセン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
【0021】
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 7,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセンなどを挙げることができる。ただし、本発明に用いられる特定単量体は上記の化合物に限定されるものではない。
これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
特定単量体のうち好ましいものは、上記一般式(1)におけるR1 およびR3 が水素原子または炭素数1〜30、さらに好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜4、最も好ましくは1〜2の炭化水素基であり、R2 およびR4 が水素原子または一価の有機基であって、R2 およびR4 の少なくとも一つは極性基であるものである。また、mは0〜3の整数、pは0〜3の整数であり、より好ましくはp=0、m=1〜4、さらに好ましくはp=0、m=0〜2、とくに好ましくはp=0、m=1である。このような条件を満足することにより、得られる環状オレフィン系樹脂の耐熱性、吸湿性および接着性のバランスが良好で、得られる位相差フィルムを積層する際にその前後における位相差の変化や各光軸が交差する角度の変化が十分に抑制される点で好ましい。
【0023】
特定単量体における極性基としては、例えば、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アリーロキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、シアノ基、アミノ基、アミド基、イミド基、トリオルガノシロキシ基、トリオルガノシリル基、アシル基、アルコキシシリル基、スルホン基、およびカルボキシル基などが挙げられる。これらの中では、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基が好ましく、重合性、熱安定性やコスト面などのバランスから、特にアルコキシカルボニル基が好ましい。さらにこれらの極性基は、二価の有機基を介して結合していてもよい。
【0024】
特定単量体のうち、特に、R2 およびR4 のうち少なくとも一方が式−(CH2 n COORで表される基(以下、「特定の有機基」という。)である特定単量体により得られる環状オレフィン系樹脂は、高いガラス転移温度(以下、「Tg」という。)および低い吸湿性、さらに各種材料との優れた密着性を有するものとなる点で好まい。上記の特定の有機基を示す式において、Rは炭素数1〜12、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2の炭化水素基、最も好ましくはメチル基である。また、nは通常0〜5であるが、nの値が小さいものほど、得られる環状オレフィン系樹脂のTgが高くなるので好ましく、さらにnが0である特定単量体は、その合成が容易である点で、また、得られる環状オレフィン系樹脂が高いTgを示すものとなる点で好ましい。
【0025】
さらに、特定単量体は、前記一般式(1)においてR1 またはR3 がアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基、さらに好ましくは1〜2のアルキル基、特にメチル基であることが好ましく、特にこのアルキル基が、特定の有機基が結合した炭素原子と同一の炭素原子に結合されていることが好ましい。また、一般式(1)においてmが1である特定単量体は、Tgの高い環状オレフィン系樹脂が得られる点で好ましい。
特定単量体としては特に、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ〔4.4.0.12,5 .17,10〕−3−ドデセンが好ましい。
【0026】
本発明において、特定の開環重合体および特定の開環共重合体(以下、両者を総称して「特定の開環(共)重合体」という。)を得るための開環重合反応は、メタセシス触媒の存在下に行われる。
このメタセシス触媒は、(a)成分:W、MoおよびReの化合物から選ばれた少なくとも1種と、(b)成分:デミングの周期表IA族元素(例えばLi、Na、Kなど)、IIA族元素(例えば、Mg、Caなど)、IIB族元素(例えば、Zn、Cd、Hgなど)、III B族元素(例えば、B、Alなど)、IVB族元素(例えば、Si、Sn、Pbなど)、あるいはIVA族元素(例えば、Ti、Zrなど)の化合物であって、少なくとも1つの該元素−炭素結合あるいは該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組み合わせからなる触媒である。また、この場合において触媒の活性を高めるために、後述の(c)成分:添加剤が添加されたものであってもよい。
【0027】
(a)成分として適当なW、MoあるいはReの化合物の代表例としては、WCl6 、MoCl5 、ReOCl3 などの特開平1−132626号公報第8頁左下欄第6行〜第8頁右上欄第17行に記載の化合物を挙げることができる。
(b)成分の具体例としては、n−C4 9 Li、(C2 5 3 Al、(C2 5 2 AlCl、(C2 5 1.5 AlCl1.5 、(C2 5 )AlCl2 、メチルアルモキサン、LiHなど特開平1−132626号公報第8頁右上欄第18行〜第8頁右下欄第3行に記載の化合物を挙げることができる。
添加剤である(c)成分の代表例としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類などを好適に用いることができるが、さらに特開平1−132626号公報第8頁右下欄第16行〜第9頁左上欄第17行に示される化合物を使用することができる。
【0028】
メタセシス触媒の使用量としては、上記(a)成分と特定単量体とのモル比で「(a)成分:特定単量体」が、通常、1:500〜1:50,000となる範囲、好ましくは1:1,000〜1:10,000となる範囲とされる。
(a)成分と(b)成分との割合は、金属原子比で「(a)成分:(b)成分」が1:1〜1:50、好ましくは1:2〜1:30の範囲とされる。
(a)成分と(c)成分との割合は、モル比で「(a)成分:(c)成分」が1:0.005〜1:15、好ましくは1:0.05〜1:7の範囲とされる。
【0029】
特定の開環共重合体を得るための共重合性単量体の具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのシクロオレフィンを挙げることができる。シクロオレフィンの炭素数としては、4〜20が好ましく、さらに好ましくは5〜12である。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
特定の単量体と共重合性単量体の好ましい使用範囲は、重量比で「特定の単量体:共重合性単量体」が100:0〜50:50であり、さらに好ましくは100:0〜60:40である。
【0030】
開環重合反応において、得られる特定の開環(共)重合体の分子量の調節は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類によっても行うことができるが、本発明においては、分子量調節剤を反応系に共存させることにより調節する。
ここに、好適な分子量調節剤としては、例えばエチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィン類およびスチレンを挙げることができ、これらのうち、1−ブテン、1−ヘキセンが特に好ましい。
これらの分子量調節剤は、単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
分子量調節剤の使用量としては、開環重合反応に供される特定単量体1モルに対して0.005〜0.6モル、好ましくは0.02〜0.5モルとされる。
【0031】
開環重合反応において用いられる溶媒(特定単量体、メタセシス触媒および分子量調節剤の溶媒)としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素、クロロブタン、ブロモヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどの、ハロゲン化アルカン、ハロゲン化アリールなどの化合物、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル、ジメトキシエタンなどの飽和カルボン酸エステル類、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類などを挙げることができ、これらは単独であるいは混合して用いることができる。これらのうち、芳香族炭化水素が好ましい。
反応系における溶媒の使用量としては、「溶媒:特定単量体」が重量比で、通常1:1〜10:1となる量とされ、好ましくは1:1〜5:1となる量とされる。
【0032】
特定の開環(共)重合体を得るための開環重合工程において、特定単量体を開環重合させる、または特定単量体と共重合性単量体とを開環共重合させてもよいが、さらに、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの共役ジエン化合物、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−非共役ジエン共重合体、ポリノルボルネンなどの主鎖に炭素−炭素間二重結合を2つ以上含む不飽和炭化水素系ポリマーなどの存在下に特定単量体または特定単量体と共重合性単量体とを開環(共)重合させてもよい。
【0033】
以上のようにして得られる特定の開環(共)重合体は、本発明における環状オレフィン系樹脂としてそのままでも用いられるが、これをさらに水素添加して得られた特定の水素添加(共)重合体は、長期間にわたって安定な特性を得られる樹脂として有用である。
【0034】
水素添加反応は、通常の方法、すなわち特定の開環(共)重合体の溶液に水素添加触媒を添加し、これに常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを0〜200℃、好ましくは20〜180℃で作用させることによって行われる。
【0035】
水素添加触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものを使用することができる。この水素添加触媒としては、不均一系触媒および均一系触媒が挙げられる。
不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニアなどの担体に担持させた固体触媒を挙げることができる。また、均一系触媒としては、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムなどを挙げることができる。触媒の形態は、粉末でも粒状でもよい。
【0036】
これらの水素添加触媒の添加量は、「特定の開環(共)重合体:水素添加触媒」が重量比で1:1×10−6〜1:2となる割合で使用される。
水素添加することにより得られる特定の水素添加(共)重合体は、優れた熱安定性を有するものとなり、成形加工時や製品としての使用時において加熱による特性の劣化が生じにくくなる。
この特定の水素添加(共)重合体における水素添加率は、500MHz、 1H−NMRで測定した値が通常は50%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは98%以上であり、特に好ましくは99%以上である。水素添加率が高いほど、熱や光に対する安定性が優れたものとなる。
【0037】
また、本発明においては、環状オレフィン系樹脂として、特定の環化水素添加(共)重合体も使用できる。
特定の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化する方法は特に限定されるものではないが、特開昭50−154399号公報に記載の酸性化合物を用いた公知の方法が採用できる。酸性化合物としては、具体的には、AlCl3 、BF3 、FeCl3 、Al2 3 、HCl、CH2 ClCOOH、ゼオライト、活性白土などのルイス酸またはブレンステッド酸が用いられる。
環化された開環(共)重合体は、特定の開環(共)重合体と同様にして水素添加される。
【0038】
さらに、本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂としては、特定の付加重合体または特定の付加共重合体も使用することができる。
特定の付加共重合に用いられるオレフィン性二重結合含有化合物としては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなどの、好ましくは炭素数2〜12、さらに好ましくは炭素数2〜8の鎖状オレフィン系化合物を挙げることができる。
また、アルケニル基含有環状炭化水素系単量体およびシクロペンタジエン系単量体も、オレフィン性二重結合含有化合物として使用することができる。斯かる単量体の具体例としては、例えば、4−ビニルシクロペンテン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロペンテンなどのビニルシクロペンテン系単量体、4−ビニルシクロペンタン、4−イソプロペニルシクロペンタンなどのビニルシクロペンタン系単量体などのビニル化5員環炭化水素系単量体、4−ビニルシクロヘキセン、4−イソプロペニルシクロヘキセン、1−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセン、2−メチル−4−ビニルシクロヘキセン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセンなどのビニルシクロヘキセン系単量体、4−ビニルシクロヘキサン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキサンなどのビニルシクロヘキサン系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、4−フェニルスチレン、p−メトキシスチレンなどのスチレン系単量体、d−テルペン、1−テルペン、ジテルペン、d−リモネン、1−リモネン、ジペンテンなどのテルペン系単量体、4−ビニルシクロヘプテン、4−イソプロペニルシクロヘプテンなどのビニルシクロヘプテン系単量体、4−ビニルシクロヘプタン、4−イソプロペニルシクロヘプタンなどのビニルシクロヘプタン系単量体、シクロペンタジエン、1−メチルシクロペンタジエン、2−メチルシクロペンタジエン、2−エチルシクロペンタジエン、5−メチルシクロペンタジエン、5,5−メチルシクロペンタジエンなどが挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
特定単量体とオレフィン性二重結合含有化合物の好ましい使用範囲は、「特定単量体:オレフィン性二重結合含有化合物」が、重量比で90:10〜40:60であり、さらに好ましくは85:15〜50:50である。
【0039】
本発明において、特定の付加重合体または特定の付加共重合体を得るためには、通常の付加重合法を使用できる。
上記特定の付加共重合体または特定の付加共重合体を合成するための触媒としては、チタン化合物、ジルコニウム化合物およびバナジウム化合物から選ばれた少なくとも一種と、助触媒としての有機アルミニウム化合物とが用いられる。
ここで、チタン化合物としては、四塩化チタン、三塩化チタンなどを、またジルコニウム化合物としてはビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドなどを挙げることができる。
【0040】
さらに、バナジウム化合物としては、一般式
VO(OR5 a b 、またはV(OR5 c d 
(R5 は炭化水素基、Xはハロゲン原子であって、0≦a≦3、0≦b≦3、2≦(a+b)≦3、0≦c≦4、0≦d≦4、3≦(c+d)≦4である。)
で表されるバナジウム化合物、あるいはこれらの電子供与付加物が用いられる。ここに、電子供与体としては、アルコール、フェノール類、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、有機酸または無機酸のエステル、エーテル、酸アミド、酸無水物、アルコキシシランなどの含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアナートなどの含窒素電子供与体などが挙げられる。
【0041】
さらに、助触媒としての有機アルミニウム化合物としては、少なくとも1つのアルミニウム−炭素結合あるいはアルミニウム−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも一種が用いられる。
上記において、例えばバナジウム化合物を用いる場合におけるバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物の比率は、バナジウム原子に対するアルミニウム原子の比(Al/V)が2以上であり、好ましくは2〜50、特に好ましくは3〜20の範囲である。
【0042】
付加重合に使用される重合反応用溶媒は、開環重合反応に用いられるものとして記載した溶媒から選ばれたものを使用することができる。また、得られる付加(共)重合体の分子量の調節は、通常、水素を用いて行われる。
【0043】
本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂は、30℃のクロロホルム中での固有粘度(ηinh )が0.2〜5dl/g、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が8,000〜100,000、重量平均分子量(Mw)が20,000〜300,000の範囲のものが好適である。
固有粘度(ηinh )および各平均分子量が上記範囲にあることによって、当該環状オレフィン系樹脂は、その成形加工性、耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性などが良好となる。
【0044】
本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂は、そのゲル含有量が5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。
ここで、ゲル含有量は、以下のようにして測定することができる。
環状オレフィン系樹脂を秤量し、その値をm1 とする。次いで、秤量した環状オレフィン系樹脂を室温で完全に溶解できる良溶媒、例えばトルエンに溶解し、この溶液を0.1μmのメンブレンフィルターにより濾過し、メンブレンフィルター上に捕集された環状オレフィン系樹脂の量を測定し、その値をm2 とする。そして、下記式;
ゲル含有量=(m2 /m1 )×100
によりゲル含有量を求める。
本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂のゲル含有量が5重量%を超える場合には、最終的に得られる波長板においてブツ状の光学的な歪みや欠陥が発生することがあり、また表面に凹凸が発生して収差を悪化させる場合があるために好ましくない。
【0045】
本発明においては、環状オレフィン系樹脂として、上記のような、特定の開環(共)重合体、特定の水素添加(共)重合体、特定の付加重合体、特定の付加(共)重合体または特定の環化水素添加(共)重合体を適宜選択して用いることができるが、これに紫外線吸収剤または酸化防止剤などを添加してさらに安定化することができる。また、加工性を向上させるために、滑剤などの従来の樹脂加工において用いられる添加剤を添加することもできる。
【0046】
酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−ジオキシ−3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどの公知のものを用いることができる。
また、紫外線吸収剤としては、例えば2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどの公知のものを使用することができる。
【0047】
本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂のTgは、通常100℃以上であり、好ましくは110℃〜350℃、さらに好ましくは115〜250℃、特に好ましくは120〜200℃である。
このTgが100℃未満の場合には、得られる位相差フィルムは、熱による光学特性の変化が大きいものとなるため、長期間にわたって安定な特性を有する液晶プロジェクターを得ることが困難となる。一方、Tgが350℃より大きい場合には、後述する延伸加工などでTg近辺まで加熱して加工する場合に、樹脂が熱劣化する可能性が高くなる。
【0048】
〔位相差フィルム〕
本発明の波長板を構成する位相差フィルムは、上記の環状オレフィン系樹脂よりなる樹脂フィルム(以下、「光学用フィルム」という。)を延伸加工して得られ、この光学用フィルムは、上記の環状オレフィン系樹脂を溶融成形法あるいは溶剤キャスト法などにより成形することにより得ることができる。上記の成形法のうち、膜厚の均一性およびフィルム表面が平滑になる点から溶剤キャスト法が好ましい。
【0049】
溶剤キャスト法により光学用フィルムを得るための具体的な方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を適用すればよいが、例えば、本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂を溶媒に溶解または分散させて適度の濃度のフィルム形成液を調製し、このフィルム形成液を適当なキャリア上に注ぐかまたは塗布し、乾燥により溶媒を除去した後、キャリアから剥離させる方法が挙げられる。
以下に、溶剤キャスト法により光学用フィルムを得る方法の具体的な条件を示すが、本発明においてはこれらの条件に限定されるものではない。
【0050】
環状オレフィン系樹脂を溶媒に溶解または分散させる際には、樹脂の濃度を、通常は0.1〜90重量%、好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは10〜35重量%にする。樹脂の濃度が過小の場合には、十分な厚みのフィルムを得ることが困難になり、また、溶媒の蒸発に伴う発泡等によりフィルムの表面が平滑性を保てないなどの問題が生じる。一方、樹脂の濃度が過大の場合には、フィルム形成液の粘度が高くなるために、厚みや表面の粗さが均一な光学用フィルムを得ることが難しくなる。
【0051】
室温でのフィルム形成液の粘度は、通常は1〜1,000,000(mPa・s)、好ましくは10〜100,000(mPa・s)、さらに好ましくは100〜50,000(mPa・s)、特に好ましくは1,000〜40,000(mPa・s)である。
【0052】
溶剤キャスト法に使用する溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノールなどのグリコールモノエーテル系溶媒、ジアセトンアルコール、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、4−メチル−2−ペンタノン等のケトン系溶媒、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、シクロヘキサノン、エチルシクロヘキサノン、1,2−ジメチルシクロヘキサン等のシクロオレフィン系溶媒、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン含有溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、1−ペンタノール、1−ブタノール等のアルコール系溶媒を挙げることができる。
【0053】
また、上記の溶媒以外でも、SP値(溶解度パラメーター)が通常10〜30(MPa1/2 )、好ましくは10〜25(MPa1/2 )、さらに好ましくは15〜25(MPa1/2 )、特に好ましくは15〜20(MPa1/2 )の範囲の溶媒を使用することにより、表面平滑性と光学特性との良好な光学用フィルムを得ることができる。
【0054】
上記の溶媒は複数を混合して使用することができ、この場合には、混合系としたときのSP値の範囲を上記範囲内とすることが好ましい。この混合系でのSP値の値は、混合される溶媒の重量比で予測することができ、例えば二種の溶媒の混合系ではそれぞれの重量分率をW1,W2、SP値をSP1,SP2とすると、混合系のSP値は下記式:
SP値=W1・SP1+W2・SP2
により計算した値として求めることができる。
【0055】
光学用フィルムを溶剤キャスト法により製造する方法としては、上記のフィルム形成液をダイスやコーターを使用して金属ドラム、スチールベルト、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム、テフロン(登録商標)ベルトなどの基材の表面上に塗布し、その後溶剤を乾燥により除去し、基材よりフィルムを剥離する方法が一般に挙げられる。また、塗布方法としては、ダイスやコーターを使用する方法の他に、スプレー、ハケ、ロールコート、スピンコート、ディッピングなどによる方法を利用することができる。また、上記のフィルム形成液を繰り返し塗布することで、厚みや表面の粗さなどを制御してもよい。
【0056】
上記溶剤キャスト法の乾燥工程については、特に制限はなく一般的に用いられる方法、例えば多数のローラを介して乾燥炉中を通過させる方法などで実施することができるが、乾燥工程において溶媒の蒸発に伴い気泡が発生すると、フィルムの特性を著しく低下させるので、これを避けるために、乾燥工程を2段階以上の複数工程とし、各工程での温度あるいは風量を制御することが好ましい。
【0057】
また、光学用フィルム中の残留溶媒量は、通常は10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下である。ここで、光学用フィルム中の残留溶媒量が10重量%より大きいと、実際に使用したときに経時による寸法変化が大きくなり好ましくない。また、残留溶媒によりTgが低くなり、耐熱性も低下することから好ましくない。
【0058】
また、後述する延伸工程を好適に行うためには、光学用フィルム中の残留溶媒量を上記範囲内で適宜調節することが必要となる場合がある。具体的には、延伸配向時の位相差を安定して均一に発現させるために、残留溶媒量を通常は10〜0.1重量%、好ましくは5〜0.1重量%、さらに好ましくは1〜0.1重量%にすることがある。光学用フィルム中に残留溶媒が微量存在することで、延伸加工が容易になる、あるいは位相差の制御が容易になる場合がある。
【0059】
本発明において、光学用フィルムの厚さは、通常は0.1〜3000μm、好ましくは0.1〜1000μm、さらに好ましくは1〜500μm、最も好ましくは5〜300μmである。この厚みが0.1μm未満である場合には、実質的に取り扱いが難しくなる。一方、この厚みが3000μmを超える場合には、ロール状に巻き取ることが困難になるとともに、光の透過率が低下するので好ましくない。
【0060】
光学用フィルムの厚み分布は、通常は平均値に対して±20%以内、好ましくは±10%以内、さらに好ましくは±5%以内、特に好ましくは±3%以内である。また、1cmあたりの厚みの変動の程度は、通常は10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下であることが望ましい。光学用フィルムの厚みを制御することにより、当該光学用フィルムを延伸配向した際に位相差ムラの発生を防ぐことができる。
【0061】
本発明に用いられる位相差フィルムは、上記方法によって得られた光学用フィルムを延伸加工することによって得られる。具体的には、当該光学用フィルムを、公知の一軸延伸法あるいは二軸延伸法を用いて延伸加工することによって位相差フィルムを得ることができる。
【0062】
延伸法としては、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、周縁の異なるロールを利用する縦一軸延伸法など、あるいは横一軸と縦一軸を組合わせた二軸延伸法、インフレーション法による延伸法などを用いることができる。
【0063】
一軸延伸法を利用する場合には、延伸速度は通常1〜5000%/分であり、好ましくは50〜1000%/分であり、さらに好ましくは100〜1000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
二軸延伸法としては、同時に互いに交わる2方向に延伸を行う方法や一軸延伸をした後に最初の延伸方向と異なる方向に延伸を行う方法がある。これらの方法において、2つの延伸軸が交わる角度は、通常は120〜60度の範囲である。また、延伸速度は各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよく、通常は1〜5000%/分であり、好ましくは50〜1000%/分であり、さらに好ましくは100〜1000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0064】
延伸加工を行う温度は、特に限定されるものではないが、用いられる環状オレフィン系樹脂のTgを基準として、通常は(Tg±30℃)、好ましくは(Tg±10℃)、さらに好ましくは(Tg−5〜Tg+10℃)の範囲である。前記範囲内とすることにより、位相差のムラの発生を抑えることが可能となり、また、屈折率楕円体の制御が容易になることから好ましい。
【0065】
延伸倍率は、所望する特性により決定されるため特に限定はされないが、通常は1.01〜10倍、好ましくは1.1〜5倍、さらに好ましくは1.1〜3倍である。延伸倍率が10倍を超える場合には、位相差の制御が困難になる場合がある。
【0066】
延伸したフィルムは、そのまま冷却してもよいが、(Tg−20℃〜Tg)の温度雰囲気下に少なくとも10秒間以上、好ましくは30秒間〜60分間、さらに好ましくは1分間〜60分間静置されることが好ましい。これにより、位相差特性の経時変化が少なく安定した位相差フィルムが得られる。
【0067】
また、位相差フィルムの線膨張係数は温度20℃から100℃の範囲において好ましくは1×10−4(1/℃)以下であり、さらに好ましくは9×10−5(1/℃)以下であり、特に好ましくは8×10−5(1/℃)以下であり、最も好ましくは7×10−5(1/℃)以下である。また、延伸方向とそれに垂直方向の線膨張係数差が好ましくは5×10−5(1/℃)以下であり、さらに好ましくは3×10−5(1/℃)以下であり、特に好ましくは1×10−5(1/℃)以下である。
線膨張係数および線膨張係数差を上記の条件を満足することにより、得られる液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板においては、使用時の温度および湿度などの環境変化によって発生する位相差の変化が抑えられ、これにより、環境変化による輝度の変化が非常に少ない液晶プロジェクターが得られる。
【0068】
上記のようにして延伸したフィルムは、延伸により分子が配向する結果、透過光に位相差を与えるようになるが、この位相差は、延伸前のフィルムの位相差値、延伸倍率、延伸温度および延伸配向後のフィルムの厚さとを調製することにより制御することができる。例えば、延伸前のフィルムの厚さが一定の場合には、延伸倍率が大きいフィルムほど位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸倍率を変更することによって所望の位相差値の位相差フィルムを得ることができる。
【0069】
本発明に用いられる位相差フィルムの光線波長550nmにおける、位相差フィルムが使用される状態における位相差値は、通常190〜900nm、好ましくは240〜320nm、さらに好ましくは250〜300nmである。この位相差値が190nm未満である場合または900nmを超える場合には、広範囲にわたる波長の光に対して特定の位相差を得ることが困難になる。
【0070】
ここで、「位相差フィルムが使用される状態における位相差値」とは、本発明の波長板が使用される光学系において、該波長板における位相差フィルムに対して偏光光が入射される角度と同じ角度で入射された状態において測定された位相差値のことをいう。
たとえば、偏光光が入射される角度が0度、すなわち位相差フィルムの面に対して垂直に偏光光が入射される場合には垂直入射における位相差値を、また任意の角度、たとえば偏光光が入射される角度が45度の場合には、入射角度が45度における位相差値をいう。
また、偏光光が入射される前後にガラスなどの透明媒体が設けられている場合には、透明媒体の屈折率を考慮する必要があるため、同じ透明媒体を設けた状態において測定された位相差値をいう。偏光光が位相差フィルムに対して垂直に入射される場合には、透明媒体の屈折率の影響を考慮する必要がないので、透明媒体を設けずに測定してもよい。
【0071】
本発明で用いられる位相差フィルムは、光弾性係数(CP )が好ましくは0×10−12 〜100×10−12 (Pa−1)であり、さらに好ましくは0×10−12 〜80×10−12 (Pa−1)、特に好ましくは0×10−12 〜50×10−12 (Pa−1)、より好ましくは0×10−12 〜30×10−12 (Pa−1)、最も好ましくは0×10−12 〜20×10−12 (Pa−1)である。
また、位相差フィルムの応力光学係数(CR )は、好ましくは1500×10−12 〜4000×10−12 (Pa−1)、さらに好ましくは1700×10−12 〜4000×10−12 (Pa−1)  であり、特に好ましくは2000×10−12 〜4000×10−12 (Pa−1)である。
【0072】
ここで光弾性係数(CP )および応力光学係数(CR )については、種々の文献(Polymer  Journal,Vol.27,No.9,pp943−950(1995),日本レオロジー学会紙,Vol.19,No.2,pp93−97(1991),光弾性実験法,日刊工業新聞,昭和50年第7版)に記載されており公知の事実であり、前者がポリマーのガラス状態での応力による位相差の発生程度を表すのに対し、後者は流動状態での応力による位相差の発生程度を表す。
光弾性係数(CP )が大きいことは、ポリマーをガラス状態下で使用した場合に外的因子または自らの凍結した歪みから発生した応力などにより位相差が変化しやすいことを表し、積層した際の歪みの残留および温度変化や湿度変化などに伴う材料の収縮により発生する微小な応力によって、不必要な位相差を発生しやすいことを意味する。このことから光弾性係数(Cp )は小さい程よい。
一方、応力光学係数(CR )が大きいことは、少ない延伸倍率で光学用フィルムに所望の位相差を与えることができ、光学用フィルムに大きな位相差を与え易くもなり、同じ位相差を所望の場合には応力光学係数(CR )が小さいものと比べてフィルムを薄肉化できるという大きなメリットがある。
【0073】
光弾性係数(CP )が100×10−12 (Pa−1)を超える場合には、本発明の波長板においては、位相差フィルムを積層する際にかかる応力や使用する際の環境変化などによって、当該位相差フィルムの位相差が変化し、これにより、各々の位相差フィルムの光軸が交差する角度が、所期の角度から逸脱してしまい、その結果、液晶プロジェクターにおける偏光板を透過する光量が低下してしまうために好ましくない。
また、応力光学係数(CR )が1500×10−12 (Pa−1)未満である場合には、延伸の際に位相差の発現が抑止されてしまい好ましくない。一方、応力光学係数が4000×10−12 (Pa−1)を超える場合には延伸による位相差の制御が困難となり好ましくない。
【0074】
〔波長板〕
本発明の波長板は、複数の透明層が一体的に積層された積層体であり、当該積層体における少なくとも二つの透明層が上記の位相差フィルムにより形成されている。各位相差フィルムの位相差値の組み合わせとしては、互いの位相差値が大きく異なる位相差フィルムを積層してもよいが、位相差フィルムが使用される状態において同一もしくは近似した位相差を有する位相差フィルムを積層することにより、広範囲にわたる波長の光に対して特定の位相差を得ることができるので好ましい。位相差フィルムが使用される状態における各々の位相差フィルムの位相差値の差の範囲については、通常0nm〜100nm、好ましくは0nm〜70nm、さらに好ましくは0nm〜30nm、特に好ましくは0〜10nmである。この差が大きい程、各々の位相差フィルムが有する、光に対する位相差の波長分散性の影響が大きくなり、広範囲にわたる波長の光に対して特定の位相差を与える波長板を得ることが困難となる。
【0075】
また、各位相差フィルムは、それぞれの光軸が互いに交差するように積層される。それにより、波長板の複屈折率(Δn)と厚さ(d)との積(Δnd)で定義される位相差における波長分散性(波長依存性)を、任意に制御することができ、広範囲にわたる波長の光に対して特定の位相差を得ることができる。
ここで、位相差フィルムの光軸は、進相軸でも遅相軸でもよいが、通常は遅相軸を用いることが多い。
【0076】
また、位相差フィルムを積層する際に各々の位相差フィルムの光軸が交差する角度は、使用する位相差フィルムの位相差値により適宜調整されるが、たとえば偏光光が位相差フィルム面に対して垂直に入射する場合には、通常10〜70度、好ましくは30〜60度、さらに好ましくは40〜50度である。
【0077】
本発明の波長板においては、位相差フィルムにより形成された偏光光の入射角度をθ度と、偏光光における偏光面と当該透明層の光軸のなす角度をα度としたとき、下記式(b)で算出されるβの値が通常5〜80度、好ましくは10〜70である。
【0078】
【数5】
式(b)
β=tan−1(tanα/cosθ)
【0079】
上記式(b)により算出されるβは、θ=0度のときは角度αと同じ値となるが、θ≠0度のときには図1および図2に示すように、位相差フィルムよりなる透明層30の光軸33が、当該透明層30に入射される偏光光34の進行方向に対して垂直な面Mに投影されたときに、この投影された軸と当該偏光光34における偏光面35とのなす角を表すものである。
ここで図1は、位相差フィルムよりなる透明層30が透明支持体31、32によって傾斜して配置された状態を示す説明図であり、図2(a)は、図1においてA方向から見たときにおける光軸33と偏光面35との関係を示す説明図であり、図2(b)は、図1において、B方向から見たときにおける位相差フィルムからなる透明層30と偏光光34との関係を示す説明図である。
【0080】
また、位相差フィルムよりなる透明層を2層有するする場合には、最初に透過する位相差フィルムよりなる透明層におけるβの値は通常5〜50度、好ましくは10〜30度であり、2番目に透過する位相差フィルムよりなる透明層におけるβの値は通常40〜80度、好ましくは50〜70度に設定される。
ここで、位相差フィルムにより形成された透明層の各々に対して垂直に偏光光が入射する構成、すなわち透明層に対する偏光光の入射角度θの値が0である構成においては、β=αであるから、各透明層におけるβの値が上記の範囲を満足するためには、αの値が上記βの範囲を満足するよう設定すればよい。
一方、位相差フィルムよりなる透明層の各々に対して斜めの方向に偏光光が入射する構成、たとえば透明層に対する偏光光の入射角度θの値が45度である構成において、各透明層におけるβの値が上記の範囲を満足するためには、最初に透過する位相差フィルムよりなる透明層におけるαの値を、通常3.5〜40.1度、好ましくは7.1〜22.2度に設定し、二番目に透過する位相差フィルムよりなる透明層におけるαの値を、通常30.7〜76.0度、好ましくは40.1〜62.8度に設定すればよい。
【0081】
位相差フィルムの光軸と入射する偏光光における偏光面とのなす角度および各々の位相差フィルムの光軸が交差する角度を上記の範囲内とすることで、広範囲にわたる波長の光に対して特定の位相差を与える波長板が確実に得られる。
【0082】
位相差フィルムによって形成される透明層の数は、2層以上であれば特に限定されないが、積層すべき位相差フィルムの数が多くなると各位相差フィルムの光軸が交差する角度を調整して積層することが難しくなり、また、得られる波長板における光線透過率が低下することがあるので、通常2〜10枚、好ましくは2〜5枚、さらに好ましくは2〜3枚である。
【0083】
本発明の波長板は、全可視光領域において、下記式(a)で表される値が(0.40〜0.55)+Xであることが好ましく、さらに好ましくは(0.43〜0.55)+X、特に好ましくは(0.45〜0.55)+Xである。ここでXは0または1以上の整数を表すが、X=0の場合には、当該波長板の製造が容易となるので好ましい。
【0084】
【数6】
式(a):  Re(λ)/λ
(式中、λは光線波長、Re(λ)は当該光線波長におけるnmで表された位相差値である。)
【0085】
上記式(a)の値を表す式(0.40〜0.55)+Xにおける括弧内の値が、0.5あるいは0.5に近いものは、入射される偏光光における偏光面を目的とする角度に高い効率で回転させることができるために好ましく、従って、括弧内の値は、好ましくは0.45〜0.55、さらに好ましくは0.47〜0.53、特に好ましくは0.48〜0.52である。本発明の波長板において、括弧内の値が0.4よりも低い値、もしくは0.55を超えた値のものは、入射される偏光光における偏光面を目的とする角度に高い効率で回転させることができなくなり、このために輝度の高い液晶プロジェクターを得ることができない。
【0086】
本発明の波長板においては、入射される偏光光における偏光面に対する出射される偏光光における偏光面の角度は、全可視光領域において、通常90度±10度の範囲であり、好ましくは90度±7度の範囲であり、さらに好ましくは90度±5度の範囲である。この角度が90度±5度の範囲であれば、偏光板の透過軸に入射され得る偏光光の量が多くなる点で特に好ましい。上記の角度が90度±10度の範囲を逸脱すると偏光板を透過する偏光光の量が少なくなり、その結果、輝度の高い液晶プロジェクターを得ることができない場合がある。
【0087】
入射される偏光光における偏光面に対する出射される偏光光における偏光面の角度については、各々の位相差フィルムに与えられる位相差と各々の位相差フィルムの光軸が交差する角度を調整することにより、上記の範囲内に設定することができる。
【0088】
本発明の波長板は、積層されたすべての透明層が位相差フィルムより形成されたものでもよく、一部の透明層が位相差フィルムにより形成されたものでもよい。位相差フィルムの積層方法としては、位相差フィルムを、例えば公知の(感圧型)接着剤やUV硬化型接着剤などを用い、位相差フィルムどうしを一体的に積層する方法、ガラスなどよりなる透明基板の両面の各々に位相差フィルムを一体的に積層する方法などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
本発明の波長板によれば、位相差フィルムよりなる二層以上の透明層が積層されているため、全可視光領域の光に対して、安定して特定の位相差を与えることができ、これにより、入射される偏光光における偏光面を所期の角度に確実に回転させることができるので、輝度およびコントラストが高い液晶プロジェクターを得ることができる。
また、透明層を形成する位相差フィルムは環状オレフィン系樹脂よりなり、当該環状オレフィン系樹脂は耐熱性および耐湿性が共に高いものであるため、熱による応力の発生が少なく、また吸湿による応力の発生が少ないものである。そのため、当該位相差フィルムよりなる透明層は、温度環境および湿度環境などの環境の変化が生じても、透明層に与える位相差の変動が少なく、したがって、長期間にわたって安定な特性が得られる。
【0090】
図3は、本発明に係る液晶プロジェクター用偏光変換素子の一例における構成を示す説明図であり、図4は、図3に示す液晶プロジェクター用偏光変換素子のA−A’断面図である。
この液晶プロジェクター用偏光変換素子15においては、複数の偏光分離膜52および複数の反射膜53が、それぞれ自然光Lの方向に対してたとえば45度に傾斜した状態で、交互に離間して並ぶよう配置され、偏光分離膜52における出射側の面(図4において右斜め下側を向いた面)と反射膜53との間には、透明材料よりなる下地基材51Aが配置され、偏光分離膜52における入射側の面(図4において左斜め上側を向いた面)と反射膜53の間には、透明材料よりなる下地基材51Bが配置されている。そして、下地基材51Aにおける出射側の面には、上述の本発明に係る波長板50が設けられている。
下地基材51A、51Bを構成する材料としては有機材料および無機材料のいずれも用いることができるが、無機材料を用いることが好ましく、無機材料としてはガラス材料が特に好ましい。
波長板50における出射側の表面には、その表面での反射による光の損失を防止するために、有機化合物および/または無機化合物からなる表面反射防止処理がなされてもよい。
【0091】
このような素子においては、入射される自然光Lは、偏光分離膜52によりP偏光光とS偏光光に分離される。具体的には、P偏光光は当該偏光分離膜52を透過しS偏光光は偏光分離膜52を90度の角度に反射する。そしてP偏光光は下地基材51Aを介して波長板50に到達し、この波長板50によりS偏光光に変換されて出射される。一方、S偏光光は下地基材51Bを介して反射膜53に到達し、当該反射膜53により90度の角度に反射され、さらに下地基材51Bを介して出射される。
本発明に係る偏光変換素子によれば、前述の波長板が設けられているため、目的とする偏光光を高い効率で得ることができる。
【0092】
本発明に係る液晶プロジェクター用偏光変換素子は、図3および図4に示す構成に限定されず、種々の変更を加えることができる。
例えば、偏光分離膜52は、P偏光光を透過し、S偏光光を反射するものであってもよい。
また、図5に示すように、波長板50が、偏光分離膜52における出射側の面(図5において右斜め下側を向いた面)に密着して配置され、当該波長板50における出射側の面(図5において右斜め下側を向いた)と反射膜53との間に、下地基材51Aが配置された構成であってもよい。
【0093】
〔液晶プロジェクター〕
図6は、本発明に係る偏光変換素子が設けられた液晶プロジェクターの一例における構成を示す説明図である。この図において、12は可視領域の自然光を照射する光源装置であって、例えばメタルハライドランプよりなる光源ランプ12Aと、放物面鏡12Bとを有する。16Aおよび16Bは、インテグレーターレンズであり、多数のレンズ素子が面方向に沿って配列されて構成されている。15は、本発明の波長板を有する例えば図1に示す構成の偏光変換素子である。17A、17B、17C、17Dは、コンデンサーレンズであり、18A、18B、18Cおよび18Dは全反射ミラー、19Aおよび19Bは、ダイクロイックミラーである。また、20A、20Bおよび20Cは液晶板、14はクロスプリズム、13は投写レンズである。
【0094】
このような液晶プロジェクターにおいては、光源装置12からの自然光が、インテグレーターレンズ16A、16Bを介して偏光変換素子15に入射され、この偏光変換素子15により偏光光に変換されて当該偏光変換素子15から出射される。
具体的には、偏光変換素子15における偏光分離素子によって、自然光がP偏光光およびS偏光光に分離され、これらの偏光光のうち例えばP偏光光の偏光面が、当該偏光変換素子15における波長板によって実質的に90度回転することにより、実質的に一の偏光面を有する偏光光として、当該偏光変換素子15から出射される。
この偏光光は、コンデンサーレンズ17Aを通過して全反射ミラー18Aにより反射された後、ダイクロイックミラー19Aによって、例えば赤色成分の光と、緑色成分および青色成分の光に分離される。分離された赤色成分の光は、全反射ミラー18A、コンデンサーレンズ17Bおよび液晶板20Aを介してクロスプリズム14に入射される。一方、緑色成分および青色成分の光は、ダイクロイックミラー19Bにより分離され、緑色成分の光は、全反射ミラー18C、18D、コンデンサーレンズ17C及び液晶板20Bを介してクロスプリズム14に入射され、青色成分の光は、コンデンサーレンズ17Dおよび液晶板20Cを介してクロスプリズム14に入射される。
そして、クロスプリズム14によって赤色成分、緑色成分および青色成分の光が合成され、この合成された光が投写レンズ13によって適宜のスクリーンに照射され、これにより、スクリーン上にはカラー画像が投写される。
【0095】
このような液晶プロジェクターによれば、本発明に係る偏光変換素子15が設けられているため、光源装置12からの光を高い効率で利用することができ、その結果、高い輝度を得ることができると共にコントラストが高い画像を得ることができ、しかも、このような良好な特性を長期間にわたって安定に維持することができる。
【0096】
【実施例】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、以下において、「部」は、特に断りのない限り「重量部」を意味する。
【0097】
<合成例1>
特定単量体として8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12 ,5.17,10 ]−3−ドデセン250部と、分子調節剤として1−ヘキセン27部と、開環重合反応溶液としてトルエン750部とを窒素置換した反応容器に仕込み、この溶液を60℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒としてトリエチルアルミニウム(1.5モル/1)のトルエン溶液0.62部と、t−ブタノールおよびメタノールで変性した六塩化タングステン(t−ブタノール:メタノール:タングステン=0.35モル:0.3モル:1モル)のトルエン溶液(0.05モル/1)3.7部とを添加し、この系を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であり、得られた開環重合体について、30℃のクロロホルム中の固有粘度(ηinh )を測定したところ、0.62dl/gであった。
このようにして得られた開環重合体溶液をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C6 5 3 3 を、「開環重合体溶液:RuHCl(CO)[P(C6 5 3 3 」が重量比で1:0.00012の割合となるように添加し、水素ガス圧100kg/cm2 、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応を行い、水素添加重合体溶液を得た。
【0098】
得られた水素添加重合体溶液を冷却した後、水素ガスを放圧した。この水素添加重合体溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体である樹脂Aを得た。
このようにして得られた樹脂Aについて 1H−NMRを用いて水素添加率を測定したところ99.9%であった。また、当該樹脂AについてDSC法によりTgを測定したところ165℃であった。また、当該樹脂Aについて、GPC法(溶媒:テトラヒドロフラン)により、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定したところ、数平均分子量(Mn)は42000、重量平均分子量(Mw)は180000であり、分子量分布(Mw/Mn)を計算すると4.29であった。また、当該樹脂Aについて、23℃における飽和吸水率を測定したところ0.3重量%であった。また、当該樹脂Aについて、30℃のクロロホルム中の固有粘度(ηinh )を測定したところ0.67dl/gであった。また、当該樹脂Aについて、ゲル含有量を測定したところ、0.4重量%であった。
【0099】
<合成例2>
特定単量体として8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12 ,5.17,10 ]−3−ドデセン225部と、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン25部とを使用し、分子量調節剤である1−ヘキセンの添加量を43部としたこと以外は、合成例1と同様にして水素添加重合体である樹脂Bを得た。得られた樹脂Bの水素添加率は99.9%であり、Tgは140℃であり、23℃における飽和吸水率は0.25重量%であり、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は40000、重量平均分子量(Mw)は165000であり、30℃のクロロホルム中の固有粘度(ηinh )は0.65dl/gであり、ゲル含有量は0.3重量%であった。
【0100】
<合成例3>
特定単量体として8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12 ,5.17,10 ]−3−ドデセン215部と、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン35部とを使用し、分子量調節剤である1−ヘキセンの添加量を18部としたこと以外は、合成例1と同様にして水素添加重合体である樹脂Cを得た。得られた樹脂Cの水素添加率は99.9%であり、Tgは125℃であり、23℃における飽和吸水率は0.20重量%であり、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は41000、重量平均分子量(Mw)は172000であり、30℃のクロロホルム中の固有粘度(ηinh )は0.66dl/gであり、ゲル含有量は0.3重量%であった。
【0101】
<樹脂フィルム製造例1>
合成例1で得られた樹脂Aをトルエンに濃度が30重量%になるように溶解することによりフィルム形成液を調製した。得られたフィルム形成液の室温における粘度は30000mPa・sであった。このフィルム形成液を、井上金属工業製「INVEXラボコーター」を用い、アクリル酸系表面処理剤によって親水化(易接着化)処理を施した厚さ100μmのPETフィルム(東レ(株)製、ルミラU94)に、乾燥後のフィルムの厚みが100μmになるように塗布し、これを50℃で一次乾燥を行った後、90℃で二次乾燥を行い、その後、PETフィルムから剥がすことにより、厚みが100μmの樹脂フィルムAを得た。得られた樹脂フィルムAの残留溶媒量は、0.5重量%であった。
この樹脂フィルムAの全光線透過率および波長550nmにおける位相差を測定したところ、全光線透過率は93%であり、波長550nmにおける位相差は6.8nmであった。また、樹脂フィルムAの光弾性係数(CP )および応力光学係数(CR )を、後述の方法により求めたところ、光弾性係数(CP )が4×10−12 (Pa−1)、応力光学係数(CR )が1750×10−12 (Pa−1)であった。
【0102】
光弾性係数(CP ):短冊状に変形させたフィルムサンプルに、室温(25℃)にて、一定の荷重を加え、この状態でフィルムサンプルに発生した位相差を測定した。この操作を、フィルムサンプルに加える荷重を変えて数回行った。このようにしてフィルムサンプルに加わる応力と当該フィルムサンプルに発生する位相差との関係を表すデータを取得し、このデータから光弾性係数(CP )を求めた。
応力光学係数(CR ):フィルムサンプルに、Tg以上の温度を加熱し、当該フィルムサンプルに一定の荷重を加えた。その後フィルムサンプルが数パーセント伸びた状態でゆっくりと室温まで冷却した。この状態でフィルムサンプルに発生した位相差を測定した。この操作を、フィルムサンプルに加える荷重を変えて数回行った。このようにしてフィルムサンプルに加わる応力と当該フィルムサンプルに発生する位相差との関係を表すデータを取得し、このデータから応力光学係数(CR )を求めた。
【0103】
<樹脂フィルム製造例2>
樹脂Aの代わりに合成例2で得られた樹脂Bを使用したこと以外は、樹脂フィルム製造例1と同様にして、厚みが100μmの樹脂フィルムBを作製し、光弾性係数(CP )、応力光学係(CR )、残留溶媒量、全光線透過率および550nmにおける位相差を測定した。結果を表1に示す。
【0104】
<樹脂フィルム製造例3>
樹脂Aの代わりに合成例3で得られた樹脂Cを使用したこと以外は、樹脂フィルム製造例1と同様にして、厚みが100μmの樹脂フィルムCを作製し、光弾性係数(CP )、応力光学係数(CR )、残留溶媒量、全光線透過率および550nmにおける位相差を測定した。結果を表1に示す。
【0105】
<比較用樹脂フィルム製造例1>
樹脂Aの代わりに出光石油化学製ポリカーボネート「A2700」(Tg:155℃)を用い、トルエンの代わりに塩化メチレンを用いたこと以外は樹脂フィルム製造例1と同様にして、ポリカーボネートよりなる厚みが100μmの樹脂フィルムDを作製し、当該樹脂フィルムDについて光弾性係数(CP )、応力光学係数(CR )、残留溶媒量、全光線透過率および550nmにおける位相差を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
Figure 2004037543
【0107】
<実施例1>
樹脂フィルムAを、テンター内で170℃(Tg+5℃)に加熱し、延伸速度400%/分、延伸倍率1.7倍の条件で延伸した後、110℃の雰囲気下で約2分間この状態を保持しながら冷却し、室温へとさらに冷却して取り出し、位相差フィルムAを得た。この位相差フィルムAの厚みを測定したところ、80μmであり、波長550nmにおける位相差を下記の方法により測定したところ、275nmであった。
この位相差フィルムAについて、波長480nm、550nm、630nmおよび750nmにおける位相差を下記の方法により測定し、Re(λ)/λを算出した。また、この位相差フィルムAについて後述する方法により照度測定を行った。以上の結果を表2に示した。さらに、この位相差フィルムAの分光透過率を後述する方法により測定した。この結果を図7に示した。
【0108】
〔位相差値測定方法〕
王子計測機器(株)製「KOBRA−21ADH」を用い、波長480nm、550nm、630nmおよび720nmにおける位相差を測定し、当該波長以外の部分については上記波長での位相差値を用いてコーシーの分散式を用いて計算した。ここで、特に注のない場合にはフィルムサンプル面の上下は空気であり、また垂直入射での測定である。
【0109】
〔分光透過率測定方法〕
日立製作所製「Spectrophotometer  U−3310型分光光度計」を用い、装置のリファレンス側にポラロイド社製の偏光板(TECH  SPEC:平均透過率38%品)を50mm角に切断したもの2枚をパラレルニコルとなる状態に設置した。一方、測定サンプル側に同じ偏光板をクロスニコルとなる状態に設置し、2枚の偏光板の間にサンプル挟み込み、400nmから800nmにおける分光透過率を測定した。
【0110】
〔照度測定方法〕
セイコーエプソン社製液晶プロジェクター「ELP−7250」に内蔵されている偏光変換素子における直線偏光出射面側に取り付けられている波長板を取り外し、投写レンズから1m離れた位置に縦850mm、横120mm、厚さ8mmの単板ガラス(旭硝子社製サンカットΣグレー)を配置し、当該単板ガラスの表面に白色画像を投写した。そして単板ガラスの裏面側からミノルタ社製デジタル照度計「T−1H」を用いて照度測定を行った。得られた照度の値をXとする。次に、取り外した波長板の代わりに位相差フィルムAおよび波長板Aを配置し、上記と同様にして照度測定を行い、上記の照度の値Xを100としたときの相対照度を求めた。
【0111】
前記位相差フィルムAの2枚を、各々の光軸が45度で交わるように、厚さ20μmのアクリル系接着剤を用いて一体的に積層し、本発明の波長板Aを得た。この波長板Aの波長480nm、550nm、630nmおよび750nmにおける位相差を測定し、Re(λ)/λを算出した。結果を表2に示す。
波長板Aにおいて、波長400nm〜800nmにおける上記Re(λ)/λの値が0.49から0.48の間にあることを確認した。また、この波長板Aの入射される偏光光における偏光面に対する出射される偏光光の偏光面の角度を測定したところ、92度から85度の範囲にあった。
さらに波長板Aについて、前述の方法により照度測定を行った。また、この波長板Aを100℃において1時間加熱し、この加熱後の波長板Aについて前述の方法により照度測定を行った。結果を表2に示す。また、この波長板Aの分光透過率を前述の方法により測定した。結果を図7に示した。
【0112】
<実施例2>
樹脂フィルムAの代わりに樹脂フィルムBを用い、延伸条件を、延伸倍率が1.3倍、加熱温度が145℃(Tg+5℃)としたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムBを作製し、この位相差フィルムBの厚みおよび波長550nmにおける位相差を測定したところ、厚みが88.5μmであり、波長550nmにおける位相差が275nmであった。
位相差フィルムBについて、波長480nm、550nm、630nmおよび750nmにおけるRe(λ)/λを実施例1と同様にして算出した。結果を表2に示す。また、この位相差フィルムBの分光透過率を実施例1と同様にして測定したところ、位相差フィルムAと同様の傾向を示した。
この位相差フィルムBを2枚用いて、実施例1と同様にして波長板Bを得た。この波長板Bについて、波長480nm、550nm、630nmおよび750nmにおけるRe(λ)/λを実施例1と同様にして算出した。結果を表2に示す。
波長板Bにおいて、波長400nm〜800nmにおける上記Re(λ)/λの値が0.49から0.48の間にあることを確認した。また、この波長板Bの入射される偏光光における偏光面に対する出射される偏光光の偏光面の角度を測定したところ、92度から85度の範囲にあった。
さらに、波長板Bについて実施例1と同様にして照度測定を行った。結果を表2に示す。また、この波長板Bの分光透過率を実施例1と同様にして測定したところ、波長板Aと同様の傾向を示した。
【0113】
<実施例3>
樹脂フィルムAの代わりに樹脂フィルムCを用い、延伸条件を、延伸倍率が1.2倍、加熱温度が130℃(Tg+5℃)としたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムCを作製し、この位相差フィルムCの厚みおよび波長550nmにおける位相差を測定したところ、厚みが88.5μmであり、波長550nmにおける位相差が275nmであった。
位相差フィルムCについて、波長480nm、550nm、630nmおよび750nmにおけるRe(λ)/λを実施例1と同様にして算出した。結果を表2に示す。また、この位相差フィルムCの分光透過率を実施例1と同様にして測定したところ、位相差フィルムAと同様の傾向を示した。
この位相差フィルムCを2枚用いて、実施例1と同様にして波長板Cを得た。この波長板Cについて、波長480nm、550nm、630nmおよび750nmにおけるRe(λ)/λを実施例1と同様にして算出した。結果を表2に示す。
波長板Cにおいて、波長400nm〜800nmにおける上記Re(λ)/λの値が0.49から0.48の間にあることを確認した。また、この波長板Cの入射される偏光光における偏光面に対する出射される偏光光の偏光面の角度を測定したところ、92度から85度の範囲にあった。
さらに、波長板Cについて実施例1と同様にして照度測定を行った。結果を表2に示す。また、この波長板Cの分光透過率を実施例1と同様にして測定したところ、波長板Aと同様の傾向を示した。
【0114】
<実施例4>
樹脂フィルムAを用い、延伸条件を、延伸倍率がそれぞれ1.9倍、1.6倍としたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムA2、A3を作製した。この位相差フィルムA2、A3の厚みはそれぞれ75μm、83μmであった。また、波長550nmにおける位相差を測定したところ、位相差値は垂直に入射される場合において、それぞれ390nm、230nmであった。
断面が二等辺直角三角形(二つの内角が45度でもう一つの内角が90度である三角形)である屈折率が1.52のガラスよりなるプリズム2個を用意し、一方のプリズム(以下、「プリズム(1)」という。)のテーパ面上に、位相差フィルムA2および位相差フィルムA3をこの順で、かつ角度αの値がそれぞれ14度および57度となる条件で接着剤により一体的に積層し、この位相差フィルムA3上に、他方のプリズム(以下、「プリズム(2)」という。)をそのテーパ面が位相差フィルムA3に接するよう、接着剤により一体的に積層することにより、本発明の波長板A’を得た。この波長板A’におけるプリズム(1)側を入射側とし、プリズム(2)側を出射面として、当該波長板A’に対して偏光光を垂直に入射したときに(位相差フィルムA2、A3に対する偏光光の入射角度θが45度)、位相差フィルムA2、A3における前記式(b)で算出されるβの値は、それぞれ20度および65度である。
この波長板A’について、プリズム(1)側を入射側とし、波長480nm、550nm、630nmおよび720nmにおける位相差を測定し、Re(λ)/λを算出した。結果を表2に示す。
波長板A’において、波長400nm〜800nmにおける上記Re(λ)/λの値が0.49から0.50の間にあることを確認した。また、この波長板A’の入射される偏光光における偏光面に対する出射される偏光光の偏光面の角度を測定したところ、91度から88度の範囲にあった。
さらに、波長板A’について実施例1と同様にして照度測定を行った。結果を表2に示す。また、この波長板A’の分光透過率を実施例1と同様にして測定したところ、波長板Aと同様の傾向を示した。
また、位相差フィルムA2、A3のそれぞれについて、1枚だけをαの角度が、位相差フィルムA2が17度、位相差フィルムA3が61度となるようプリズム(1)およびプリズム(2)のテーパ面の間に貼り合わせ、位相差フィルムA2、A3の各々の波長550nmにおける位相差を上記波長板A’と同様にして測定したところ、いずれも275nmであった。また、位相差フィルムA2、A3を、αの角度を上記の角度以外の角度となるようプリズム(1)およびプリズム(2)のテーパ面の間に貼り合わせ、位相差フィルムA2、A3の各々の波長550nmにおける位相差を測定したところ、いずれも275nmからずれてしまい不適であった。
【0115】
<比較例1>
樹脂フィルムAの代わりに樹脂フィルムDを用い、延伸条件を、延伸倍率が1.1倍、加熱温度が160℃(Tg+5℃)としたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムDを作製し、この位相差フィルムDの厚みおよび波長550nmにおける位相差を測定したところ、厚みが88.5μmであり、波長550nmにおける位相差が275nmであった。
この位相差フィルムDを2枚用いて、実施例1と同様にして波長板Dを得た。この波長板Dについて、波長480nm、550nm、630nmおよび750nmにおけるRe(λ)/λを実施例1と同様にして算出した。結果を表2に示す。
さらに、波長板Dについて実施例1と同様にして照度測定を行った。結果を表2に示す。また、この波長板Dの分光透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を図7に示す。
【0116】
【表2】
Figure 2004037543
【0117】
表2から明らかなように、実施例1〜4に係る波長板A〜CおよびA’によれば、液晶プロジェクターに設置した場合に、液晶プロジェクターの照度が位相差フィルムA〜Cと比較して大幅に向上することが理解される。このことは、図7に示したように、波長板Aは400nm〜800nmの光線波長において高い透過率を示しているのに対して、位相差フィルムAは、長波長側および短波長側の領域において透過率が低下することに起因していると考えられる。
また、図7より明らかなように、本発明の波長板A〜CおよびA’においては、加熱した後でも長波長側および短波長側の領域において光の透過率が均一であり、表2に示したように液晶プロジェクターの照度も変化がない。これに対して、ポリカーボネート製の位相差フィルムDが積層された波長板Dにおいては、加熱した後に、長波長側および短波長側の領域において光の透過率が低下するため、表2に示したように液晶プロジェクターの照度も低下する。
【0118】
【発明の効果】
本発明の波長板によれば、位相差フィルムよりなる二層以上の透明層が積層されているため、全可視光領域の光に対して、安定して特定の位相差を与えることができ、これにより、入射される偏光光における偏光面を所期の角度に確実に回転させることができるので、輝度およびコントラストが高い液晶プロジェクターを得ることができる。
また、透明層を形成する位相差フィルムは環状オレフィン系樹脂よりなり、このような環状オレフィン系樹脂は耐熱性および耐湿性が共に高いものであるため、熱による応力の発生が少なく、また吸湿による応力の発生が少ないものである。そのため、当該位相差フィルムよりなる透明層は、温度環境および湿度環境などの環境の変化が生じても、透明層に与える位相差の変動が少なく、したがって、長期間にわたって安定な特性が得られる。
本発明に係る偏光変換素子によれば、前述の波長板が設けられているため、目的とする偏光光を高い効率で得ることができる。
本発明に係る偏光変換素子が設けられた液晶プロジェクターによれば、光源装置からの光を高い効率で利用することができ、その結果、高い輝度を得ることができると共にコントラストが高い画像を得ることができ、しかも、このような良好な特性を長期間にわたって安定に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の波長板における位相差フィルムと偏光面とがなす角度を示す説明図である。
【図2】(a)は図1においてA方向から見たときにおける構成を示す説明図であり、(b)は図1においてB方向から見たときにおける構成を示す説明図である。
【図3】本発明の液晶プロジェクター用偏光変換素子の一例における構成を示す説明図である。
【図4】図3の断面図である。
【図5】本発明の液晶プロジェクター用偏光変換素子の他の例における構成を示す説明用の断面図である。
【図6】本発明に係る偏光変換素子が設けられた液晶プロジェクターの一例における構成を示す説明図である。
【図7】実施例1および比較例1における波長板の分光透過率の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
12  光源装置
12A  光源ランプ
12B 放物面鏡
13 投写レンズ
14 クロスプリズム
15 偏光変換素子
16A、16B インテグレーターレンズ
17A、17B、17C、17D コンデンサーレンズ
18A、18B、18C、18D 全反射ミラー
19A、19B、 ダイクロイックミラー
20A、20B、20C  液晶板
30  透明層
31  透明支持体
32 透明支持体
33  光軸
34  偏光光
35 偏光面
50  波長板
51A、51B  下地基材
52 偏光分離膜
53 反射膜

Claims (6)

  1. 複数の透明層が一体的に積層された積層体よりなり、当該積層体における少なくとも二つの透明層が環状オレフィン系樹脂よりなる位相差フィルムにより形成されていることを特徴とする液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板。
  2. 環状オレフィン系樹脂が、下記一般式(1)で表される単量体から得られる重合体、または下記一般式(1)で表される単量体およびこれと共重合可能な単量体から得られる共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板。
    Figure 2004037543
    (式中、R1 〜R4 は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、またはその他の1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていてもよい。R1 とR2 またはR3 とR4 は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R1 またはR2 とR3 またはR4 とは互いに結合して、単環または多環構造を形成してもよい。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。)
  3. 光線波長400nm〜800nmの全波長領域において、下記式(a)の値が(0.40〜0.55)+X(Xは0または1以上の整数)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板。
    Figure 2004037543
    (式中、λは光線波長、Re(λ)は当該光線波長におけるnmで表された位相差値である。)
  4. 光線波長400nm〜800nmの全波長領域において、入射される偏光光における偏光面に対する出射される偏光光における偏光面の角度が90度±10度の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板。
  5. 位相差フィルムにより形成された透明層に対する偏光光の入射角度をθ度とし、当該透明層の面上において、入射される偏光光における偏光面と当該透明層の光軸とのなす角度をα度としたとき、下記式(b)で算出されるβの値が5〜80度であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板。
    Figure 2004037543
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の液晶プロジェクター用偏光変換素子用波長板を具えてなることを特徴とする液晶プロジェクター用偏光変換素子。
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