JP2004034055A - ダイカスト用スリーブ - Google Patents

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Shingo Nogami
野上 信悟
Toshinori Yashiro
矢城 敏則
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Abstract

【課題】溶湯保温性をさらに向上させるとともに、ホットチャンバー型ダイカストマシン用として使用しても焼嵌めが緩むことを防止できるダイカスト用スリーブを提供する。
【解決手段】低熱膨張性金属材料からなる外筒の内面に、サイアロンセラミックスからなる中間筒を設け、該中間筒の内面に、常温における熱伝導率が60W/(m・K)以上の窒化ケイ素セラミックスからなる内筒を設けて構成され、該外筒と中間筒との境界部に位置する外筒の内面または中間筒の外面に、加熱媒体通路を形成したことを特徴とする。
【選択図】   図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コールドチャンバー型またはホットチャンバー型ダイカストマシンにおける溶湯射出装置に装着されて用いられるダイカスト用スリーブに関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイカスト鋳造法は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛などからなる金属製品を高速、高精度に鋳造する方法であり、自動車製品、家電製品などの各種構成部材の製造に広く利用されている。そして、ダイカストマシンにおいては、中空円筒状のダイカスト用スリーブ内に金属溶湯を供給し、スリーブ内を摺動するプランジャチップによって、スリーブと連通する金型キャビティ内に溶湯を射出して、溶湯を冷却固化させて製品を作るものである。
【0003】
このため、スリーブの内面が溶湯により溶損したり、プランジャチップの摺動により摩耗しやすい。スリーブの内面が溶損や摩耗によって損傷すれば、スリーブとプランジャチップとの間に溶湯が侵入してスリーブの摩擦抵抗が増大し、射出速度および射出圧力が安定しないため、射出圧力が金型の末端まで十分に伝わらなくなり、製品に欠陥を生じやすくなる問題がある。また、潤滑油量を増やし摩擦抵抗を低減する方法があるが、潤滑油がガス化して気孔などの鋳造欠陥が発生したり、潤滑油が炭化して介在物になるなど問題を引き起こすことが多く適切ではなかった。
【0004】
従来のダイカスト用スリーブとして、溶湯と接触する内筒を耐溶損性、耐摩耗性に優れるセラミックス材料で形成し、この内筒を金属製の外筒の内面に焼嵌めて一体化した複合構造のダイカスト用スリーブが数多く提案されている。例えば、特開平7−246449号、特公平7−115147号公報などが挙げられる。
【0005】
特開平7−246449号公報には、外筒を高強度で、かつ20℃から300℃までの平均熱膨張係数が1〜5×10−6/℃、20℃から600℃までの平均熱膨張係数が5×10−6/℃以上の低熱膨張特性を有する金属材料により形成し、内筒を窒化ケイ素またはサイアロンなどの窒化ケイ素系セラミックス焼結体で形成したダイカスト用スリーブが記載されている。
【0006】
このダイカスト用スリーブは、内筒を形成する窒化ケイ素系セラミックス材料の20℃から600℃までの熱膨張係数が約3×10−6/℃であるため、550〜600℃の加熱を要する外筒と内筒の焼嵌めの際、外筒と内筒の熱膨張係数の差が大きいので焼嵌め作業が容易にできるという利点を有する。また、ダイカスト用スリーブ内に溶湯を注入して使用した場合には、外筒の温度が通常上昇する300℃程度までは、外筒の20℃から300℃までの平均熱膨張係数が1〜5×10−6/℃と小さく、外筒と内筒の熱膨張係数の差が小さいので、外筒や内筒がその軸方向および円周方向にずれることを抑え、焼嵌め効果を十分に確保できるものである。
【0007】
また、特公平7−115147号公報には、金属製外筒と、窒化ケイ素系セラミックス焼結体で形成した内筒との境界部に複数個の空孔部を設け、空孔部が外筒の内面または内筒の外面に設けられた条溝からなり、条溝の幅aと間隔bとの比a/bが1:1〜6:1の範囲内にあり、金属製外筒内に冷却水路を有するダイカスト用スリーブが記載されている。
【0008】
このダイカスト用スリーブは、外筒と内筒の境界部に設けた空孔部により優れた断熱保温性を有するために、溶湯の注入によっても外筒の温度上昇を低く抑えることができ、もって溶湯が接触するスリーブ下部と接触しないスリーブ上部との間の熱膨張差を低減し、スリーブの反りによる内筒の破損を防止できる。また、外筒に設けた冷却水路によっても外筒の温度上昇を抑える。さらに、断熱保温効果により、薄肉部を有する鋳造製品でも湯廻り不良の発生を防止できるものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来の窒化ケイ素系セラミックス製の内筒を低熱膨張性金属製の外筒に焼嵌めた構造のダイカスト用スリーブは、コールドチャンバー型ダイカストマシン用として使用する場合、焼嵌め効果は十分に維持される。しかしながら、ホットチャンバー型ダイカストマシン用として使用する場合、ダイカスト用スリーブの外周すなわち金属製の外筒の外周からの加熱が必要であるため、焼嵌めが緩んで内筒と外筒との間に隙間ができやすく、その結果、射出速度および射出圧力が不安定になるという問題があった。
【0010】
また、窒化ケイ素またはサイアロンの内筒は、耐溶損性、耐摩耗性、耐熱性、溶湯保温性などに優れているが、特に溶湯保温性については、スリーブの構造や内筒の材質特性を改善することにより、さらに向上できる余地があった。
【0011】
したがって、本発明は前記課題に対処して、溶湯保温性をさらに向上させるとともに、ホットチャンバー型ダイカストマシン用として使用しても焼嵌めが緩むことを防止できるダイカスト用スリーブを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明のダイカスト用スリーブは、低熱膨張性金属材料からなる外筒の内面に、サイアロンセラミックスからなる中間筒を設け、該中間筒の内面に、常温における熱伝導率が60W/(m・K)以上の窒化ケイ素セラミックスからなる内筒を設けて構成され、該外筒と中間筒との境界部に位置する外筒の内面または中間筒の外面に、加熱媒体通路を形成したことを特徴とする。
【0013】
また本発明において、外筒の外周に冷却媒体通路を形成した金属材料からなる冷却用外筒を設けることが望ましい。また、加熱媒体通路内に加熱ヒーターを通すことが好ましい。さらに内筒を形成する窒化ケイ素セラミックスは、常温における4点曲げ強度が600MPa以上であることが望ましい。
【0014】
【作用】
本発明のダイカスト用スリーブは、低熱膨張性金属材料からなる外筒とサイアロン製中間筒との境界部に、加熱媒体通路を形成したことにより、従来のホットチャンバー型ダイカストマシンに用いるダイカスト用スリーブのように、金属製の外筒の外周から加熱する必要がない。
【0015】
加熱媒体通路の内周には熱伝導率が小さいサイアロンセラミックスからなる中間筒、さらに中間筒の外周には低熱膨張性金属材料からなる外筒が配置されるので、中間筒の熱影響による外筒の温度上昇を十分に抑えることができる。このため、外筒と内筒との焼嵌めが緩むことを防止できる。
【0016】
さらに、外筒の外周に、空冷や水冷のための冷却媒体が通る冷却媒体通路を形成した金属材料からなる冷却用外筒を設けることにより、外筒を冷却して温度上昇をより一層抑えることができる。冷却媒体通路は入口から出口まで連続した空孔に施すことが好ましい。
【0017】
加熱媒体通路は、外筒の内面または中間筒の外面の少なくとも一方に形成する。より好ましくは外筒の内面に形成したほうがよい。加熱媒体通路は外筒または中間筒の円周に例えば螺旋状に連続した溝として施される。この加熱媒体通路内に加熱ヒーターを通すことが最も望ましいが、高温のガスなど他の加熱媒体を通しても構わない。
【0018】
また本発明は、金属溶湯と接触する内筒を、常温における熱伝導率が60W/(m・K)以上の窒化ケイ素セラミックス焼結体で形成することを特徴とする。通常の窒化ケイ素は、常温における熱伝導率が高々15W/(m・K)程度であるが、本発明の窒化ケイ素は焼結体中に不純物として存在するアルミニウムおよび酸素の含有量を低減することにより、60W/(m・K)以上の熱伝導率を得られる。
【0019】
この高熱伝導率の窒化ケイ素製の内筒により、外筒と中間筒との境界部の加熱媒体通路から供給された熱を、境界部から内筒の内面すなわち金属溶湯へ迅速にかつ効率よく伝達でき、溶湯保温性を格段に向上させる。
【0020】
また、内筒を形成する窒化ケイ素は、使用中の機械的応力および衝撃に十分に耐えられるように、常温における4点曲げ強度が600MPa以上であることが望ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明に係るダイカスト用スリーブを図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施例に係るダイカスト用スリーブの縦断面図を示す。図1において、ダイカスト用スリーブ1は、低熱膨張性金属材料からなる外筒2の内面に、サイアロンセラミックスからなる中間筒3を焼嵌めて固定し、中間筒3の内面に、高熱伝導率の窒化ケイ素セラミックスからなる内筒4を固定して構成される。そして、外筒2と中間筒3との境界部に位置する外筒2の内面に、加熱ヒーターが通る加熱媒体通路5を形成した。外筒2の外周には冷却媒体通路6を形成した金属材料からなる冷却用外筒7を包囲する形に設けた。8は溶湯注入口である。
【0023】
外筒2は、高強度でかつ低熱膨張性の特性を有する金属材料により形成した。本実施例に係る金属材料は、Ni:32.6重量%、Co:14.9重量%、Al:0.8重量%、Ti:2.3重量%、C:0.03重量%、Si:0.07重量%、Mn:0.09重量%、Cr:0.02重量%、Cu:0.06重量%、P:0.003重量%、S:0.002重量%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0024】
中間筒3は、サイアロンセラミックスにより形成した。本実施例に係るサイアロンセラミックスは、平均粒径(以下、粒径という)0.8μmのSi粉末:87重量%、粒径1.0μmのY粉末:6重量%、粒径0.1μmのAl粉末:4重量%、粒径0.8μmのAlN固溶体粉末:3重量%を配合し、バインダーとしてポリビニルブチラールを原料粉末100重量部あたりに0.5重量部加えて攪拌して得た混合物を1000kg/cmに加圧成形し、得られた成形体を窒素雰囲気下、1750℃で5時間焼成して作製した。
【0025】
内筒4は、窒化ケイ素セラミックスにより形成した。本実施例に係る窒化ケイ素セラミックスは、粒径0.5μmの窒化ケイ素粉末に、焼結助剤として、粒径0.2μmの酸化マグネシウム粉末を2.8体積%、粒径0.2μmの酸化アルミニウム粉末を0.08体積%、粒径2.0μmの酸化イットリウム粉末を0.4体積%添加し、適量の分散剤を加えエタノール中で粉砕、混合した。ついで、真空乾燥後、篩を通して造粒した後、ゴム型に充填し、静水圧により冷間静水圧プレスを行って成形体を作製し、この成形体を1750℃、9気圧の窒素ガス雰囲気中で5時間焼成して作製した。
【0026】
得られた窒化ケイ素セラミックスから、直径10mm×厚さ3mmの熱伝導率および密度測定用の試験片、縦3mm×横4mm×長さ40mmの4点曲げ試験片を採取した。密度はマイクロメ−タによる寸法測定と重量測定の結果から求めた。熱伝導率はレーザーフラッシュ法により常温での比熱および熱拡散率を測定し熱伝導率を算出した。4点曲げ強度は常温にてJIS R1606に準拠して測定を行った。
【0027】
この窒化ケイ素セラミックスは、密度が99.2%、常温における熱伝導率が65W/(m・K)、常温における4点曲げ強度が720MPaであった。また、窒化ケイ素セラミックス中のアルミニウム含有量が0.01重量%、酸素含有量が0.01重量%であった。
【0028】
冷却用外筒7は、熱間金型用合金鋼(SKD61)により形成した。本実施例に係る熱間金型用合金鋼は、C:0.35〜0.42重量%、Si:0.8〜1.2重量%、Mn:0.3〜0.5重量%、P:0.03重量%以下、S:0.01重量%以下、Cr:4.8〜5.5重量%、Mo:1.2〜1.6重量%、V:0.5〜1.1重量%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0029】
上記構成によるダイカスト用スリーブをホットチャンバー型ダイカストマシンの溶湯射出装置に装着して、スリーブ内を摺動するプランジャチップとして耐摩耗性、潤滑性に優れたSKD61からなるプランジャチップを使用し、アルミニウム合金のダイカストに使用した結果、外筒と内筒との焼嵌めが緩むことなく、約150000〜200000ショットの安定した射出を行なうことができた。また、溶湯保温性が従来に比して向上し、湯廻り不良の発生などは全く認められなかった。
【0030】
【発明の効果】
本発明のダイカスト用スリーブは、溶湯保温性が向上するとともに、ホットチャンバー型ダイカストマシン用として使用しても焼嵌めが緩むことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係るダイカスト用スリーブの縦断面図を示す。
【符号の説明】
1 ダイカスト用スリーブ、 2 外筒、 3 中間筒、 4 内筒、5 加熱媒体通路、 6 冷却媒体通路、 7 冷却用外筒、8 溶湯注入口

Claims (4)

  1. 低熱膨張性金属材料からなる外筒の内面に、サイアロンセラミックスからなる中間筒を設け、該中間筒の内面に、常温における熱伝導率が60W/(m・K)以上の窒化ケイ素セラミックスからなる内筒を設けて構成され、該外筒と中間筒との境界部に位置する外筒の内面または中間筒の外面に、加熱媒体通路を形成したことを特徴とするダイカスト用スリーブ。
  2. 前記外筒の外周に、冷却媒体通路を形成した金属材料からなる冷却用外筒を設けたことを特徴とする請求項1に記載のダイカスト用スリーブ。
  3. 前記加熱媒体通路内に加熱ヒーターを通したことを特徴とする請求項1または2に記載のダイカスト用スリーブ。
  4. 前記窒化ケイ素セラミックスは、常温における4点曲げ強度が600MPa以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のダイカスト用スリーブ。
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