JP2004029769A - 複写機の記録用半導電性ポリイミド系無端ベルト - Google Patents
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Abstract
【解決手段】導電性物質を含有するポリイミド系前駆体を閉環イミド化してなる熱硬化性ポリイミド系樹脂層からなる表面層と、導電性物質を含有するポリイミド系前駆体を閉環イミド化してなる熱硬化性ポリイミド系樹脂層からなる裏面層との二層を有する遠心成形法により形成された無端ベルトであって、前記表面層と裏面層との二層が同時に閉環イミド化されてなり、前記表面層の表面電気抵抗値が109Ω/□〜1013Ω/□であり、前記裏面層の表面電気抵抗値より大きく、かつ無端ベルトの体積電気抵抗値が前記表面層の表面電気抵抗値より小さい値を有する複写機の記録用半導電性ポリイミド系無端ベルトに構成するものである。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複写機の記録用半導電性ポリイミド系無端ベルトに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来よりカーボンブラック等の混合により導電性が付与された合成樹脂製の無端ベルトは知られ、実用もされているが、その無端ベルトの電気抵抗値が充分でないとか、電気抵抗値のバラツキが大きくて安定した状態で半導電性を付与できにくいのが実状である。これは、最近の複写機等の中間転写ベルト等における極めて高品質で高性能の要求に対しては、極めて不満足なものとなっている。更に、耐熱性、機械的特性においてもより一層の改良が求められてきている。
【0003】
このような状況の中で、導電性の付与された単層のポリイミド系樹脂からなる無端ベルトが開発され、これを複写機等の中間転写ベルトに使用した例がある。これは従来のものよりも改良はされているが、前記転写ベルトにおける極めて重要な要素である転写効率と除電効率とが相反する関係にあり、電気抵抗値もバラツキ、安定して製品が得がたく、十分満足できる製品となっていない。
【0004】
また、ポリイミド系樹脂の優れた耐熱性と機械的特性を考慮して面状発熱体等に利用しようとすると、より高い導電性の付与が必要になり、その結果、多くの導電性物質を混合することになる。しかしながら、この場合導電性は高くなるが、ポリイミド系樹脂自体の機械的物性の低下を招き、表面精度、厚み精度等も悪くなり実用できなくなる。
【0005】
一方、ポリイミド前駆体溶液を、他種素材でつくられた導電性無端ベルト表面に塗布し乾燥して複数層の無端ベルト状物を形成し、前記ポリイミド系前駆体のみを閉環イミド化してなる複数層の無端ベルトも知られている。このものは、耐熱性を付与せしめるという趣旨から開発されていると考えられるが、層間の接着が不十分なためか層間剥離を生じ、耐久性に欠ける。更に表面精度や厚み精度も充分ではなく、その結果、電気抵抗値がバラツキ、満足されるものとなっていない。いずれの場合も、高品質、高性能の要求に対しては十分に答えられるものとなっていないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らは、前記従来技術の種々の欠点を解決し、厳しい要望に対して十分満足できる半導電性の無端ベルトを開発すべく鋭意検討した結果、ついに本発明をするに至った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、次の手段によって達成される。即ち、導電性物質を含有するポリイミド系前駆体を閉環イミド化してなる熱硬化性ポリイミド系樹脂層からなる表面層と、導電性物質を含有するポリイミド系前駆体を閉環イミド化してなる熱硬化性ポリイミド系樹脂層からなる裏面層との二層を有する遠心成形法により形成された無端ベルトであって、前記表面層と裏面層との二層が同時に閉環イミド化されてなり、前記表面層の表面電気抵抗値が109Ω/□〜1013Ω/□であり、前記裏面層の表面電気抵抗値より大きく、かつ無端ベルトの体積電気抵抗値が前記表面層の表面電気抵抗値より小さい値を有する複写機の記録用半導電性ポリイミド系無端ベルトに構成するものである。
【0008】
本発明において、ポリイミド系前駆体とは、一般に耐熱性ポリマーとして知られるポリイミドにおいて、加熱処理することによって縮合反応して、閉環イミド化する前段階のもので、別名ポリアミック酸又はポリアミド酸と呼ばれているものである。このポリアミック酸の合成法は特に制限はないが、一般には、例えばテトラカルボン酸二無水物と有機ジアミンの当モル量を低温にてN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等の有機極性溶媒中で重合反応させることによって行われる。そして、一般にはポリアミック酸溶液として得られる。この原料となるテトラカルボン酸二無水物としては、具体的に例えばピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等であるが、これらの化合物に限定されない。一方、有機ジアミンとしては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、P−フェニレンジアン等が例示できる。勿論これらの化合物に限定されものではない。
【0009】
本発明においては、少なくとも分子鎖中にイミド結合を形成するポリアミック酸であれば、同様に目的は達成されるものである。従って用途、目的によって出発原料を選択してポリアミック酸を合成すればよい。このポリアミック酸が本発明でいうポリイミド系前駆体に相当する。
【0010】
又、導電性物質とは、該ポリイミド系前駆体に混合することによって最終的に得られるポリイミド系無端ベルトの電気抵抗特性、つまり半導電性領域をつくり出す機能を有する物質で、一般にはその微粉末を混合することによって達成されるものである。
【0011】
具体的には、例えば、天然ガス、油あるいはアセチレンガス等の焼成によって生成するカーボンブラックや、酸化インジュウム、酸化第2錫、チタン酸ブラック、チタン酸ウィスカー等の金属化合物の微粉末などが例示できるが、これに限定されるものではない。これらの中で、カーボンブラックが好ましく用いられる。このカーボンブラックの中でもDBP吸油量が100乃至360ml/100gの範囲のものはより好ましい。例えば、アセチレンブラックEC(電気化学工業(株)製)、三菱カーボン#3250、#3750、MA−100(三菱化成(株)製)、ケッチェンブラック(ライオン(株)製)等をあげることができる。ここでDBP吸油量とは、ASTM(アメリカ標準試験法)D2414−6TTによって測定されたもので、カーボンブラック100gに吸収されたDBP(ジブチルフタレート)の量をmlにて現わした値である。
【0012】
前記導電性物質は2種以上混合してもよく、組合せによってはより安定した半導電性が得られる場合もある。混合量については、希望する半導電領域等を勘案して適宜決定すればよいが、一般には約2乃至30%(重量)(対該前駆体固形物)、好ましくは3乃至15%(重量)である。この混合量からも明らかなように従来技術に比較して、少量の混合で大きな半導電性効果が得られる。
【0013】
更に、電気抵抗とは、体積電気抵抗又は表面電気抵抗のことであり、これは三菱油化(株)製の抵抗測定機「ハイレスタ」又は「ロレスタ」(いずれも商品名)によって測定したものである。体積電気抵抗値か表面電気抵抗値かは該機に付設されている切りかえスイッチによって測定できる。
【0014】
前記前駆体に導電性物質を混合する場合に、必要ならば更に他の第三成分を更に混合することもできる。例えばフッ素系又はシリコーン系の各有機化合物、ワックス類、カップリング剤等の相溶化剤等を第三成分の一つとしてあげることができるが、これに限定されるものではない。この相溶化剤の中でも界面活性能を有するフッ素有機化合物は、該前駆体と導電性物質との混合において、より相溶性が改善され、その結果、分散が均一に行われ多層成形性及び表面精度並びに厚み精度においてより好ましい結果をもたらす。
【0015】
この際、以上の相溶化剤は、2種以上混合してもよく、また表面層及び裏面層を形成するポリイミド系前駆体の双方又は一方に加えればよい。混合量は、該前駆体(固形分)に対して2%(重量)以下、好ましくは0.001乃至0.1%(重量)であるが、これに限定されるものではない。
【0016】
前記界面活性能を有するフッ素有機化合物について、更に詳細に説明する。これは、疎水性グループであるフッ素結合有機基と親水性グループである例えばスルホン酸塩基、カルボン酸塩基、第4級アンモニュウム塩基、水酸基等とが結合した化合物である。このフッ素結合有機基は、炭素数が5乃至18程度の鎖状アルキル又はこれにエーテル結合が導入された有機基にフッ素原子が複数個結合された場合が多いが、これに限定されるものではない。ここで疎水性は、炭素数、エーテル結合の度合、フッ素原子の数によって左右される。親水性はその結合基の種類によって左右される。従って、全体の界面活性能は両基の種類のバランスによって異なるので、実際に混合する場合には予備的に実験し選択しておくことが望ましい。
【0017】
ここで親水性基が、スルホン酸塩又はカルボン酸塩の場合には、アニオン型、アンモニュウム塩では、カチオン型、水酸基では非イオン型としても区別できる。本発明では特に限定はされないが、好ましくは非イオン型である。更に具体的に非イオン型の化合物として、例えば三菱マテリアル(株)製のEFTOP(エフトップ、商品名)のタイプEF−351,−352,122A3等があり、アニオン型の化合物としては、EFTOPのタイプEF−104,−112,123B等が例示できる。尚、以上の第三成分は、必要ならば添加すればよいことは勿論である。
【0018】
次に前記導電性物質の混合方法について、その具体例を述べる。この方法としては、例えば、まず前記例示する重合反応等によって得られたポリイミド系前駆体(ポリアミック酸)の溶液を、そのまま、もしくは更に同種又は異種の有機極性溶媒を混合し、スラリー状の液体とする。これに該物質の所定量を添加し、均一に分散混合する。この混合においては、十分分散せしめることが好ましいので、例えば、超音波、粘りローラ、ボールミルあるいはサンドミル等を使うことが効果的である。しかしこれらに限定されるものではない。ここで有機極性溶媒は、前記したポリアミック酸の合成の際に使用するものの他に、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールエーテル等も例示できる。
【0019】
該溶媒の使用量は、導電性物質等の混合量と後工程の積層形成性等との関係において、好ましい条件で決められる。特に成形性においては、妥当な溶液粘度が必要となるので、その粘度との関係を予備的に検討し、使用量を決めておくことが好ましい。好ましい溶液粘度は、約300乃至2000センチポイズ(以下、cpsと呼ぶ)であるが、この値に特に制限はない。
【0020】
次に積層成形について説明する。この成形法については、例えばコーテング法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、遠心成形法等が例示できるが、中でも効果的な方法として、遠心成形法が好ましく利用される。この方法は、例えば円筒シリンダーの回転により、遠心力によって該シリンダーの内面に無端ベルト状に流延成形するものであり、閉環イミド化前にこの操作を繰り返すことにより幾層にも効率的に積層可能で、必要な厚さでもって表面精度の良い無端ベルト状物が成形できる。しかし、本発明はこれらの方法に限定はされない。
【0021】
前記した遠心成形法の1例を更に具体的に説明すると次のとおりである。回転可変式駆動モーター敷設の回転ドラムの内面に、必要に応じてシリコーンオイル等の離型剤を稀く塗布する。予め必要な塗布厚が得られるように、前記ポリイミド系前駆体のスラリー溶液の供給量と決めておき、該ドラムをゆっくりと回転しながら、その内側に例えば、スリット状供給装置から該溶液をほぼ均一に供給する。その後回転速度をあげ、一定の回転速度で一定時間回転する。時間と共に全体が均一に流延され、一定厚みをもった塗布膜となる。ここで回転速度と回転時間とは、対称となるポリイミド系前駆体スラリー溶液の状態、必要な塗布厚み、精度等によって異なるので、予備的実験により決めておくことが望ましい。
【0022】
次に、その回転を続けながら塗布面を直接及び/又は間接的に溶媒が蒸発除去される温度で一定時間加熱する。この加熱温度と時間は、溶媒の種類、塗布厚み等によって異なるので、これについても予備的に決めておくことが望ましい。しかし、この段階で閉環イミド化反応が実質的に行われないような条件設定が必要である。温度については、約50乃至150℃であり、150℃よりも高くしないようにすることが好ましい。溶媒が蒸発するにしたがって固化し、形態が維持され、へたりのない自己支持性を有するポリイミド前駆体の無端ベルト状物が成形され、この時点で温度を常温に下げる。この際、例えば有機溶媒を用いたポリイミド系前駆体を用いて形成された前記自己支持性を有するポリイミド前駆体の無端ベルト状物は、その時点で有機溶媒を10重量%以上含有していることが望ましく、更に、15〜50重量%含有していることがより望ましい。有機溶媒が10重量%未満では自己支持性を有するポリイミド前駆体の無端ベルト状物が収縮する傾向を有し、次の層を形成するとき、その内面にポリイミド系前駆体のスラリー溶液を均一に塗布することができにくいこともあって好ましくない場合が多い。しかしながら、前記値は特に制限を受けるものではなく、好ましい多層ベルトを得られるように考慮して行えば、どのような値であってもよい。
【0023】
次いで、2層目を積層形成するために準備したポリイミド系前駆体のスラリー溶液を用い、前記自己支持性を有するポリイミド前駆体の無端ベルト状物の内面に、前記と同様にして2層目を積層形成すればよい。同様の操作を繰り返すことによって、幾層にもコーティングすることができる。積層数は特に限定されないが、2乃至3層により、本発明の目的は達成できる場合が多い。この際、例えば3層目を積層形成する時点でも、前記2層目の有機溶媒の含有量については、前記に述べたことと同様のことが云え、以下何層になっても同様のことが云える。このようにして積層された層により無端ベルト状物の膜厚は、特に制限はないが、一般には、約30乃至150ミクロンにすることができるが、しかしながら、この厚みについては使用目的によって異なるので、必要に応じて決めればよい。半導電性は、膜厚によってもその領域に変化があるので、必要な半導電性が得られるように、各層の厚みをどうするか、予備的に検討しておくことが望ましい。以上、遠心成形法を具体例で説明したが、この遠心成形法と他の例えば前記の各コーティング法との併用も可能である。
【0024】
多層成形して得られた自己支持性のポリイミド前駆体の無端ベルト状物は、引き続き閉環イミド化せしめて、目的とする熱硬化性ポリイミド系樹脂層を有する無端ベルトを得ることができる。閉環イミド化によって、より安定した半導電性と精度のよい厚みと表面、更に高い耐熱性と機械的特性を発現する。この閉環イミド化は、前記した工程の温度より高温で、一般的には、約200乃至400℃で一定時間加熱処理することによって達成される。しかしながら、その加熱温度や加熱方法については特に制限されるものはない。例えば、引き続き回転ドラム内で直接及び/又は間接的に回転しながら加熱するか、あるいは回転ドラムから剥離し取り出して別の加熱装置にて加熱するなどの方法がとられる。この際、別の加熱装置で加熱するばあいは、一旦遠心成形機から取り出す必要があるので、こうした工程を行う場合には、自己支持性を有する前記前駆体の複数層からなる無端ベルト状物中の有機溶媒含有率については、前記に述べたことと同様のことが云える。加熱に際しては、一挙に約200乃至400℃に加熱してもよいが、まず、例えば、100乃至200℃の低温からスタートし、この段階で残存する溶媒を完全に除去して、更により高温にするという多段階熱処理が、より好ましいものとして例示できる。この加熱の際に、真空にするとか不活性ガスを流すとか等の条件が加味されてもさしつかえない。熱源は特に限定されない。例えば熱風炉、赤外線加熱炉など既存のものが利用できる。この際、閉環イミド化は、加熱処理以外の処理により行うこともいっこうに差し支えないことは勿論である。
【0025】
例えば前記したような製造方法によって得られる多層形成された無端ベルトは少なくとも2層を有するもので、具体的には、導電性物質を含有するポリイミド系前駆体を閉環イミド化してなる熱硬化性ポリイミド系樹脂層からなる表面層と、導電性物質を含有するポリイミド系前駆体を閉環イミド化してなる熱硬化性ポリイミド系樹脂層からなる裏面層との二層を有する遠心成形法により形成された無端ベルトであるとともに、前記表面層と前記裏面層との二層が同時に閉環イミド化されているものである。その上、前記表面層の表面電気抵抗値が109Ω/□〜1013Ω/□であり、前記裏面層の表面電気抵抗値より大きく、かつ無端ベルトの体積電気抵抗値が前記表面層の表面電気抵抗値より小さい値を有するものであり、こうした無端ベルトを作成するのは、前記の通り、遠心成形法で行うのが好適である。
【0026】
本発明における「同時に閉環イミド化される」旨の用語は、前記したような閉環イミド化が一工程で達成されることを意味しており、閉環イミド化の際の反応速度の異同は問わない。閉環イミド化の達成は、通常では前記したとおり熱処理工程により行われ、本発明では、このような閉環イミド化工程が一工程で行われるものである。この際、閉環イミド化工程を2回以上に分割して行う場合であっても、それは本発明においては一工程の範囲である。したがって、このような工程が行われる前に、表面層と裏面層の二層が閉環イミド化前の状態で積層されている必要がある。
【0027】
本発明の無端ベルトの層構成は、前記の通り少なくとも二層を有するものであり、層間剥離を防ぐ狙いから、表面層と裏面層とは同じ前駆体を用いるのが好ましい。また、前記表面層の表面電気抵抗値が前記裏面層の表面電気抵抗値より大きく、かつ無端ベルトの体積電気抵抗値が前記表面層の表面電気抵抗値より小さい値を有するものである。また、表面層と裏面層の形成については、ポリイミド系前駆体を用いる場合、表面層と裏面層とを同時に閉環イミド化されることが好ましい。
【0028】
また、表面層と裏面層の表面電気抵抗値については、表面層の表面電気抵抗値が裏面層の表面電気抵抗値より大きい値を示す限り特に制限がないが、通常では、表面層は108〜1015Ω/□、好ましくは、109〜1013Ω/□、裏面層は101〜108Ω/□、好ましくは、103〜108Ω/□を例示でき、このような範囲とすることにより、体積電気抵抗値や表面電気抵抗値のバラツキが少ない半電導性ベルトの提供が可能となる。
【0029】
本発明が、表面層と裏面層の構成を同じポリイミド前駆体を使い、かつ多層成形したことにより不可避的に結合しているもので、これも大きな特徴となっており、これが層間強度の向上につながり、ベルトとして使用する際の層間剥離を防止する作用効果を奏する。この電気絶縁層の成形の場合には、導電性物質の混合は必要でないが、積層成形と後処理の閉環イミド化、その他の条件については前記と同様である。
【0030】
また、本発明の無端ベルトは、他の無端ベルトの基体と複合成形することも可能である。この複合成形は、例えば無端布製ベルトを基体として、これを例えば遠心成形機の回転ドラムの内面に装着して、その上に前記ポリイミド系前駆体のベルト状物を積層することによって行われ、こうして多層無端ベルトを得ることもできる。この場合、前記他の基体自身は導電性を有しても有していなくてもよい。
【0031】
本発明によって得られた半導電性ポリイミド系無端ベルトは、高い性能と品質を持っていることから、その用途は多方面にわたる。例えば、複写機等の中間転写ベルト又は転写兼定着用ベルト等、更には、OA機器等の各種プリンターの記録用ベルトの基材としての利用がある。
【0032】
【実施例】
次に実施例によって本発明を更に詳述する。
(実施例1)
3,3′,4,4′−ビフェルテトラカルボン酸二無水物とP−フェニレンジアミンとの当量をN−メチルピロリドン溶媒中で常温にて重合反応して得られたポリアミック酸溶液に、更に溶媒のN,N−ジメチルアセトアミドを混合し、稀釈した。次に、この中に100℃で2時間乾燥したDBP吸油量が100ml/100gのカーボンブラック(三菱化成(株)製の三菱カーボンMA−100)を添加し、ボールミルで1時間(25℃)十分混合した。得られたスラリー状液体の組成は、ポリアミック酸固形分14%(重量)、カーボンブラック12.0%(重量)(対ポリアミック酸固形分)、その他が溶媒量であり、溶液粘度は800cps(25℃)であった(以下、原料Aと呼ぶ)。
【0033】
一方、前記同様にして合成した、ポリアミック酸溶液に、原料Aの場合よりも多量のN,N・ジメチルアセトアミドを加え稀釈し、これにカーボンブラックとして100℃、2時間乾燥したDBP吸油量が360ml/100gのケッチンブラックEC(ライオン(株)製)を添加し、ボールミルで1時間(25℃)十分混合しスラリー状の液体を得た。このものの組成は、ポリアミック酸固形分11.2%(重量)、カーボンブラック3.5%(重量)(対ポリアミック酸固形分)、他は、溶媒量で、溶液粘度は500cps(25℃)であった(以下、B原料と呼ぶ)。
【0034】
また、成形機として次の構造の遠心成形機を準備した。即ち、該成形機は一対の並設された回転ロール上に、幅500mm、内周長500mmで内周面が面粗さ0.6S以上に鏡面仕上げされた円筒状シリンダーが載置された構造を有しており、かつロール全体を囲むように配設された取外し自在な加熱炉を有しているものである。ここで円筒状シリンダーは回転ロールの回転に連れて回転できる構造であり、このシリンダーを回転させながら、その内周面にポリイミド系前駆体のスラリー溶液を所定量供給し、乾燥工程を経ることにより自己支持性のあるベルト状物が作成されるのである。本実施例における無端ベルト状物はこのような遠心成形機によって得られたもので、以下該成形機をC装置と呼ぶことにする。
【0035】
次にC装置を使って、原料Aと原料Bとによる二層無端ベルトの成形法について説明する。
【0036】
まず、A原料の120gをC装置における円筒状シリンダーの幅に相対する長さでスリット状の出口を持つ容器に入れる。次にC装置をゆっくりと回転駆動させながら、該シリンダーの内側に該容器からA原料を供給した。ここでの供給は、該シリンダーの全内表面積にわたって、ほぼ均一に塗布されるようにゆっくりと行った。全量の塗布が終了したら、更に回転速度を高め400回/分の速度で5分間回転した。全体が均一になった時点から外部加熱を開始した。徐々に温度を上げて、最終的には、100乃至120℃で約30分加熱した。加熱を停止し、常温に冷却し回転を止めた。この段階で有機溶媒は60〜80重量%程度蒸発除去され、残りの20〜40重量%程度を含有する自己支持性のあるポリイミド前駆体の無端ベルト状物が得られた。この時の厚みは50ミクロンであった。
【0037】
次に、この状態で得られたボリイミド前駆体の無端ベルト状物の上に、更に原料Bの120gを使って前記同様の条件で塗布−加熱−冷却し、二層からなる自己支持性のあるポリイミド前駆体の無端ベルト状物を遠心成形した。この時の有機溶媒の含有量は20〜40重量%程度であった。最後に、この無端ベルト状物を該シリンダーから剥離し、次いで該ベルト状物の内径より約3%小さい外径を有する棒体を該ベルト状物に挿入した後、別の加熱装置に入れて、徐々に温度を上げながら200乃至300℃で40分間、300乃至400℃で40分間加熱した。この段階では残存する有機溶媒を上昇せしめつつ、ポリイミド前駆体のポリアミック酸を閉環し、イミド化し、目的とする熱硬化性ポリイミド系樹脂製の無端ベルトを得た。このものの厚みは70ミクロン±3ミクロンで、表面つまりA原料による層の表面電気抵抗値は5×1010〜1×1011Ω/□、裏面、つまりB原料による層のそれは1×103〜3×103Ω/□であった。またこの無端ベルトの体積電気抵抗値は5×107〜1×108Ω・cmであり、表面電気抵抗値ともバラツキが極めて少ないものであった。このベルトは耐熱性が極めて高く、又機械的強度は、引張強度30kg/mm2、引張伸度20%、耐屈曲回数10000回以上と極めて優れたものであった。
【0038】
(実施例2)
3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とP−フェニレンジアミンとをN−メチルピロリドン液中で、常温にて重合反応して得られたポリアミック酸溶液600gに、更にN−メチルピロリドン250gを添加し稀釈する。この稀釈溶液の中に100℃で2時間乾燥したDBP吸油量210ml/100gのカーボンブラック(電気化学工業(株)製のアセチレンブラック)10gと界面活性能フッ素有機化合物として非イオン型のEFTOP(三菱マテリアル(株)製)EF−351 0.1gとを加え、混合後、更にボールミルで25℃で1時間撹拌混合し、均一なスラリー液を得た。このものの組成は、ポリアミック酸固形分13.9%(重量)、該カーボンブラック剤濃度8.5%(重量)(対ポリアミック酸固形分)、該界面活性剤0.087%(重量)、その他がN−メチルピロリドンであり、溶液粘度は700cps(25℃)であった。(以下、D原料と呼ぶ)。
【0039】
一方、D原料と同じように反応して得たポリアミック酸溶液600gにN−メチルピロリドン300gを加えて稀釈し、これに100℃で2時間乾燥して得たDBP吸油量210ml/100gのカーボンブラック(三菱カーボンブラック#3750)10gと界面活性能フッ化有機化合物として、アニオン型のEF−351 0.1gを加えて全体を混合して、最後にボールミルにて1時間(25℃)十分に分散混合し、スラリー状の液体を得た。このものの組成は、ポリアミック酸固形物として13.1%(重量)、カーボンブラック8.3%(重量)(対ポリアミック酸固形物)、EF−351が0.087%(重量)、残りは溶媒のN−メチルピロリドンであり、溶液粘度は650cps(25℃)であった(以下、E原料と呼ぶ)。
【0040】
次に前記C装置を使って、実施例1と同じ手順と条件にて遠心成形した。つまりD原料からE原料の順序で塗布・乾燥して二層からなる自己支持性のポリイミド前駆体からなるベルト状物を成形し、最後に実施例1と同様にして加熱し閉環イミド化して、D原料からなる表面層及びE原料からなる裏面層を有する強靭な半導電性無端ベルトを製造した。
【0041】
ここで使用したD原料は130g、E原料は120gであった。得られた該無端ベルトの厚さは70ミクロン±3ミクロン、D原料による表面層の表面電気抵抗値は1×109〜5×109Ω/□、E原料による裏面層のそれは5×104乃至1×105Ω/□、またベルト自身の体積電気抵抗値は5×105〜8×105Ω・cmであり、表面粗度は1ミクロン以下の値を示した。
【0042】
又、ここで、前記界面活性剤「EF−351」の代わりにアニオン型のものとしてEFTOPタイプEF−104(三菱マテリアル(株)製)についても前記と全く同様にしてに層成形後に閉環イミド化し無端ベルトを得た。これについての品質、電気的特性は前記EF−351の場合と同じ値を示した。
【0043】
又両者共、溶媒を蒸発させる時に発生する表面の「浮きまだら」模様も見られなかった。遠心力による流延も円滑で、その結果短時間で成形できた。
【0044】
(比較例)
実施例1と同様にして合成した、ポリアミック酸溶液を使って、これに更にN,N−ジメチルアセトアミドを加えて稀釈した。この中に100℃で2時間乾燥したDBP吸油量100ml/100gのカーボンブラック(三菱カーボンMA−100)を添加混合し、ボールミルに入れて25℃で1時間撹拌し均一なスラリー状の液体を得た。このものの組成は、ポリアミック酸固形分として14.2%(重量)、カーボンブラック12.2%(対ポリアミック酸固形分)、残りは溶媒量であり、溶液粘度は500cps(25℃)であった。
【0045】
このスラリー状液体の245gを用いて、前記C装置を使って前記の実施例2の手順と条件に従って、遠心成形し、100乃至120℃で30分間回転しながら加熱し、溶媒を蒸発せしめて自己支持性のあるポリイミド系前駆体の無端ベルト状物を得た。円筒シリンダーから取り出し、2段階加熱して残存溶媒の完全除去を伴って閉環イミド化し、ポリイミド系樹脂からなる無端ベルトを得た。このベルトの厚みは、70ミクロン±5ミクロン、表面電気抵抗値は5×108〜5×1011Ω/□であり、体積電気抵抗値は1×107〜5×109Ω・cmであった。更にその機械的物性値は、引張強度(kg/mm2)20、引張伸度(%)20、耐屈曲回数1200回であった。このベルトは、本発明の多層成形品に比較して性能、品質が劣っていることがわかった。
【0046】
【発明の効果】
以上、説明して明らかなように、本発明の導電性ポリイミド系多層無端ベルトは、転写ベルトにおける極めて重要な要素である転写効率と除電効率との相反する関係を解決し、電気抵抗値のバラツキが極めて小さく、安定していて該ベルトの表面精度、厚み精度等における抜群の品質を有している。更に、使用中に層間剥離も生ぜず、しかも耐熱性が良好で機械的特性も卓越している等あらゆる品質及び性能において高度にバランスのとれている好適なものである。
Claims (2)
- 導電性物質を含有するポリイミド系前駆体を閉環イミド化してなる熱硬化性ポリイミド系樹脂層からなる表面層と、導電性物質を含有するポリイミド系前駆体を閉環イミド化してなる熱硬化性ポリイミド系樹脂層からなる裏面層との二層を有する遠心成形法により形成された無端ベルトであって、前記表面層と裏面層との二層が同時に閉環イミド化されてなり、前記表面層の表面電気抵抗値が109Ω/□〜1013Ω/□であり、前記裏面層の表面電気抵抗値より大きく、かつ無端ベルトの体積電気抵抗値が前記表面層の表面電気抵抗値より小さい値を有することを特徴とする複写機の記録用半導電性ポリイミド系無端ベルト。
- 前記裏面層の表面電気抵抗値が103Ω/□〜108Ω/□
である請求項1に記載の複写機の記録用半導電性ポリイミド系無端ベルト。
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