JP2004029480A - 二光子吸収材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】スペクトル、屈折率または偏光状態の変化を、効率的な二光子吸収を介して実現する。
【解決手段】π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、π共役系をアリレン環、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合のいずれかにより構成し、π共役系の分子両端付近のπ共役系内に窒素原子を含む。窒素原子間のπ共役系を拡大すること、または、π共役系の分子両端に電子の偏在を増大させることもできる。
【選択図】 なし
【解決手段】π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、π共役系をアリレン環、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合のいずれかにより構成し、π共役系の分子両端付近のπ共役系内に窒素原子を含む。窒素原子間のπ共役系を拡大すること、または、π共役系の分子両端に電子の偏在を増大させることもできる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、二光子吸収材料に関し、より詳細には、超高密度光メモリなどを実現するための二光子吸収効果を有する有機材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
二光子吸収とは、分子が2つのフォトンを同時に吸収して、基底状態から励起状態へ遷移する現象である。分子が対称分子の場合には、一電子禁制の励起状態への遷移が起こる。このとき2つのフォトンのエネルギーは、同じであっても異なっていてもよい。記録媒体の所定の位置において、二光子吸収によりスペクトル変化、屈折率変化または偏光変化を生じさせ、ビットデータを記録することができる。二光子吸収は、光の強度の二乗に比例して生じるため、二光子吸収を利用したメモリは、一光子吸収を利用したメモリに比べて、スポットサイズを小さくすることができ、超解像記録が実現できる。
【0003】
例えば、D.A.Parthenopoulos et al, “Three−dimensional optical storage memory”, Science, Vol.245, pp.843−845 (1989)には、二光子吸収を利用した3次元光メモリが記載されている。光異性化が可能な有機色素を含む3次元媒体の一点に、波長の異なる2つのビームを集光すると、有機色素が異性化することにより、ビットデータを記録することができる。ビットデータの再生は、別の組み合わせの2つの波長をビットデータ上にアドレスし、その一点から発せられる蛍光によって行う。
【0004】
例えば、James H.Strickler et al, ”Three−dimensional optical data storage in refractive media by two−photon point excitation” Optics Letters Vol.16, No.22, pp.1780−1782 (1991)には、一波長のレーザ光をフォトポリマーに集光し、光強度の大きな集光点付近でのみ二光子吸収を生じさせ、その部分の屈折率変化により、データを記録することが記載されている。データの再生は、微分干渉型顕微分光系を用いて行う。これにより、面内1μm、層間隔3μmの3次元高密度記録再生を行うことができる。
【0005】
また、Brian H.Cumpston et al, ”Two−photon polymerization initiators for three−dimensional optical data storage and microfabrication”, Nature, Vol.398, pp.52−54 (1999)には、二光子吸収型の重合開始剤でアクリル酸を重合させることによりデータを記録し、蛍光を発生させることによりデータを読み出すことが記載されている。
【0006】
このように、二光子吸収を利用したデータ記録は、近赤外から可視領域のレーザを用いて、深紫外から紫外領域の光を用いるのと同等の励起エネルギーが得られ、吸収強度の関係から空間的な超高密度記録ができるので、有力な記録手段として考えられている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、記録媒体として使用可能な現状の材料系では、二光子吸収の効率が極めて低い。データを記録するために、実用上十分なコントラストを実現するためには、光源として、高価な高エネルギーのパルスレーザが必要となるという問題があった。従って、小型で安価なレーザを使って、二光子吸収を利用した実用的なメモリを実現するためには、高効率の二光子吸収型メモリ材料の開発が必須である。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、スペクトル、屈折率または偏光状態の変化を、効率的な二光子吸収を介して実現する二光子吸収材料を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、前記π共役系は、アリレン環、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合のいずれかにより構成され、前記π共役系の分子両端付近に窒素原子を含むことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、π共役系内の窒素置換の効果により、分子軌道の歪みを大きくすることで、二光子吸収を増大させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の二光子吸収材料において、電子供与基を構成する窒素原子と前記炭素−窒素二重結合を構成する窒素原子のうち、電子供与基に最も近い窒素原子の間の前記π共役系を拡大したことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、π共役系を拡大することにより、分子軌道の歪みを広い範囲に存在させることで、二光子吸収を増大させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の二光子吸収材料において、窒素原子を含む電子供与基にπ電子が含有され、前記π共役系の分子両端における電子の偏在が増大されたことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、前記π共役系は、二光子吸収過程を経てシストランス異性化反応が誘起される構造を備えたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、フォトクロミック機能を導入することにより、二光子吸収との組み合わせ機能が可能で、さらに共役系を広げる意味で二光子吸収を増大させることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、前記π共役系の中央部分に、二光子吸収過程を経て分子内環化反応が誘起される構造を備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の前記電子供与基は、ジアルキルアミノ基またはカルバゾール基のいずれかであることを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明は、3次の非線形光学効果を大きくする仕組みのひとつが、特定の励起状態に対する二光子吸収を大きくすることを見いだしたことによる。3次の非線形光学効果、すなわち入射光に対して第3高調波を発生させる効果が大きな有機材料の分子設計における指針を、二光子吸収の大きな有機材料の分子設計に適用する。
【0019】
例えば、Yuhei Mori et al, ”Molecular Orbitals and Third−Harmonic Generation for Symmetrically Substituted Benzylidene Aniline”, Jpn. J. Appl. Phys. Vol.31, pp.896−900 (1992)には、ベンジリデンアニリン型π共役系の両端に電子供与基を有する対称性C2hの有機材料が、フェニレンビニレン型の炭化水素からなる対称性有機材料よりも3次の非線形光学効果が大きいことが記載されている。π共役系内の窒素原子の影響により、分子の端に寄り添うような被占軌道の歪みが、第1励起状態(1Bu)と1Buの上の励起状態(2Ag)との間の遷移双極子を増幅するためである。基底状態から2Agの励起状態に対しては、以下に示す理由により、二光子吸収が大きくなる。
【0020】
3次の非線形光学効果χ(3)は、μを2つの状態間の遷移双極子とすると、
【0021】
【数1】
【0022】
とあらわされる。ここで、Aは比例係数、εは励起状態のエネルギー、hνは励起光である。両端に対称に電子供与基を有するπ電子系分子の場合には、lが1Bu状態、mが2Ag状態のときに、μlm,μmnが大きくなるために、χ( 3)が大きくなる。
【0023】
他方、基底状態から励起状態mへの二光子吸収の遷移確率ωg→mは、
【0024】
【数2】
【0025】
とあらわされる。ここで、Bは比例係数である。分子のみに注目すると、式(2)の分子は、式(1)の分子において、mを特定の状態に固定した場合に相当する。すなわち、3次の非線形光学定数の大きい分子の設計指針が、そのまま状態mへの二光子吸収の大きい分子の設計指針になるといえる。両端に電子供与基を有する対称な共役分子の場合でいえば、特定の位置を窒素に置換した際、分子軌道の歪みの影響で、基底状態から遷移可能なlBu状態と、特定の励起mAg状態との間の遷移双極子μl(Bu)→m(Ag)が大きくなれば、χ(3)が大きくなると同時に、m(Ag)状態に対する二光子吸収も大きくなるといえる。
【0026】
以上説明したとおり、本発明は、二光子吸収を効率良く発現させるための理論的指針として、以下の2つの手段で、二光子吸収を利用した三次元光メモリの材料構成法を提供するものである。
【0027】
(1)π共役系内のヘテロ原子、分子両端に電子供与基を有する対称性π共役分子をベースとして、二光子吸収の増大に寄与する分子軌道の歪みを与える特殊な構造の材料とする。π共役系は、アリレン環、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合のいずれかにより構成される。この材料から、励起状態を介してスペクトル、屈折率または偏光状態の変化を起こしやすい材料へのエネルギー移動によって、情報の書き込みを実現する。二光子吸収の増大に寄与する分子軌道の歪みとは、電子供与基であるアミノ基中を含めπ共役中の窒素原子による分子軌道の歪みであり、空軌道(LUMOおよびLUMO+1)が中心に寄り、占有軌道(HOMOおよびHOMO−1)が端に寄り添うような軌道の歪みである。電子供与基間のπ共役系の拡大、窒素置換の効果により、この歪みを大きくすることで効果的に二光子吸収を増大させる。
【0028】
(2)π共役系内のヘテロ原子、分子両端に電子供与基を有する対称性π共役分子を主骨格とし、(1)において説明した材料の分子中央部分に、光励起によりスペクトル、屈折率または偏光状態の変化を起こす構成部分を有する材料とする。すなわち、フォトクロミック機能を導入する。
【0029】
(第1の実施形態)
上述した材料構成法(1)に基づいた材料であり、分子両端付近のπ共役系内に複数の窒素を効果的に配置して励起状態での分子軌道の歪みを意図的に大きくした。
【0030】
【化1】
【0031】
X1〜X6の少なくとも1つは窒素原子であり、R1〜R4はアルキル基または高分子性置換基であり、Y,Zは水素原子、アルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。
【0032】
以下の材料は、電子供与基を構成する窒素原子と炭素−窒素二重結合を構成する窒素原子のうち、電子供与基に最も近い窒素原子の間のπ共役系を拡大した例である。
【0033】
【化2】
【0034】
X1〜X4の少なくとも1つは窒素原子であり、R1〜R4はアルキル基または高分子性置換基であり、Y,Zは水素原子、アルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。
【0035】
以下の材料は、窒素原子を含む電子供与基にπ電子を含有し、π共役系の分子両端における電子の偏在を増大させた例である。
【0036】
【化3】
【0037】
X1〜X4の少なくとも1つは窒素原子であり、Y,Zは水素原子、アルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。
【0038】
(第2の実施形態)
上述した材料構成法(2)に基づいた材料であり、分子構造内にスペクトルや屈折率を変化させる構造部分を有することが特長である。二光子吸収過程を経て、シストランス異性化反応が誘起される。
【0039】
【化4】
【0040】
X1〜X6の少なくとも1つは窒素原子である。X7とX8は窒素原子でも炭化水素でもよい。R1〜R4はアルキル基または高分子性置換基であり、Yは水素原子、アルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。
【0041】
以下の材料は、二光子吸収過程を経て、分子内環化反応が誘起される。
【0042】
【化5】
【0043】
X1〜X2は電子供与性置換基であって、単純なジアルキル基、カルバゾール基または下記の一般式で表される。
【0044】
【化6】
【0045】
X1〜X3は窒素原子または炭化水素であり、R1〜R2はアルキル基または高分子性置換基である。
【0046】
(実施例1)
重量換算比49:50:1で、アクリル酸モノマと、バインダーとなるポリスチレンアクリロニトリル共重合ポリマと、
【0047】
【化7】
【0048】
で示される第1の実施形態にかかる二光子吸収材料とを混合した混合物を、石英基板上にスピンコート法で薄膜化した。この薄膜に、繰り返し周波数76MHz、パルス幅150fsのチタンサファイアレーザ光を、スポット径0.35μmに絞って100ms間照射した。チタンサファイアレーザ光を二光子吸収材料が吸収し、アクリル酸の重合開始剤となる。
【0049】
アクリル酸を重合すると、モノマに較べてその蛍光強度が増加する。上述した条件で書き込まれたスポット領域に、非常に弱いUV光を照射すると、周囲と比較してコントラスト比が3程度の強い傾向を示す。アクリル酸が重合するしきい値パワーは、730nmで200μWであり、800nmで300μWであった。第1の実施形態にかかる二光子吸収材料を混合しないアクリル酸の場合は、しきい値を超えても重合しない。このようにして、ビットデータを記録し、再生することができる。
【0050】
上述した方法により、3次元メモリ媒体や積層導波路メモリ媒体を作製することができる。
【0051】
(実施例2)
重量換算比4:1で、PMMA(Polymethylmethacrylate)と、
【0052】
【化8】
【0053】
で示される第2の実施形態にかかる二光子吸収型光異性化材料を混合して、厚さ1.5mm、黄橙色の透明プレートを、クレジットカード形状に作成した。このプレートに、波長850nmのチタンサファイアレーザ(210fs、8mW)を照射すると、プレート表面が青色に着色することが認められた。一方、850nmの定常光照射では、色変化がまったく見られなかった。したがって、第2の実施形態にかかる二光子吸収型光異性化材料は、二光子過程でのみ書き込み可能であり、3次元メモリや積層導波路メモリの作製に用いることができる。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、または、π共役分子構造内に光異性化を起こす構成部分を有するπ共役分子において、分子両端付近のπ共役系内の適切な位置に窒素原子を含むことにより、効率的な二光子吸収を実現することができ、小型で安価なレーザを使って、実用的な二光子吸収を利用した3次元メモリや積層導波路メモリを実現することが可能となる。
【0055】
また、本発明によれば、3次の光非線形光学効果を用いた各種のデバイスとしても適用が可能である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、二光子吸収材料に関し、より詳細には、超高密度光メモリなどを実現するための二光子吸収効果を有する有機材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
二光子吸収とは、分子が2つのフォトンを同時に吸収して、基底状態から励起状態へ遷移する現象である。分子が対称分子の場合には、一電子禁制の励起状態への遷移が起こる。このとき2つのフォトンのエネルギーは、同じであっても異なっていてもよい。記録媒体の所定の位置において、二光子吸収によりスペクトル変化、屈折率変化または偏光変化を生じさせ、ビットデータを記録することができる。二光子吸収は、光の強度の二乗に比例して生じるため、二光子吸収を利用したメモリは、一光子吸収を利用したメモリに比べて、スポットサイズを小さくすることができ、超解像記録が実現できる。
【0003】
例えば、D.A.Parthenopoulos et al, “Three−dimensional optical storage memory”, Science, Vol.245, pp.843−845 (1989)には、二光子吸収を利用した3次元光メモリが記載されている。光異性化が可能な有機色素を含む3次元媒体の一点に、波長の異なる2つのビームを集光すると、有機色素が異性化することにより、ビットデータを記録することができる。ビットデータの再生は、別の組み合わせの2つの波長をビットデータ上にアドレスし、その一点から発せられる蛍光によって行う。
【0004】
例えば、James H.Strickler et al, ”Three−dimensional optical data storage in refractive media by two−photon point excitation” Optics Letters Vol.16, No.22, pp.1780−1782 (1991)には、一波長のレーザ光をフォトポリマーに集光し、光強度の大きな集光点付近でのみ二光子吸収を生じさせ、その部分の屈折率変化により、データを記録することが記載されている。データの再生は、微分干渉型顕微分光系を用いて行う。これにより、面内1μm、層間隔3μmの3次元高密度記録再生を行うことができる。
【0005】
また、Brian H.Cumpston et al, ”Two−photon polymerization initiators for three−dimensional optical data storage and microfabrication”, Nature, Vol.398, pp.52−54 (1999)には、二光子吸収型の重合開始剤でアクリル酸を重合させることによりデータを記録し、蛍光を発生させることによりデータを読み出すことが記載されている。
【0006】
このように、二光子吸収を利用したデータ記録は、近赤外から可視領域のレーザを用いて、深紫外から紫外領域の光を用いるのと同等の励起エネルギーが得られ、吸収強度の関係から空間的な超高密度記録ができるので、有力な記録手段として考えられている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、記録媒体として使用可能な現状の材料系では、二光子吸収の効率が極めて低い。データを記録するために、実用上十分なコントラストを実現するためには、光源として、高価な高エネルギーのパルスレーザが必要となるという問題があった。従って、小型で安価なレーザを使って、二光子吸収を利用した実用的なメモリを実現するためには、高効率の二光子吸収型メモリ材料の開発が必須である。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、スペクトル、屈折率または偏光状態の変化を、効率的な二光子吸収を介して実現する二光子吸収材料を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、前記π共役系は、アリレン環、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合のいずれかにより構成され、前記π共役系の分子両端付近に窒素原子を含むことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、π共役系内の窒素置換の効果により、分子軌道の歪みを大きくすることで、二光子吸収を増大させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の二光子吸収材料において、電子供与基を構成する窒素原子と前記炭素−窒素二重結合を構成する窒素原子のうち、電子供与基に最も近い窒素原子の間の前記π共役系を拡大したことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、π共役系を拡大することにより、分子軌道の歪みを広い範囲に存在させることで、二光子吸収を増大させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の二光子吸収材料において、窒素原子を含む電子供与基にπ電子が含有され、前記π共役系の分子両端における電子の偏在が増大されたことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、前記π共役系は、二光子吸収過程を経てシストランス異性化反応が誘起される構造を備えたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、フォトクロミック機能を導入することにより、二光子吸収との組み合わせ機能が可能で、さらに共役系を広げる意味で二光子吸収を増大させることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、前記π共役系の中央部分に、二光子吸収過程を経て分子内環化反応が誘起される構造を備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の前記電子供与基は、ジアルキルアミノ基またはカルバゾール基のいずれかであることを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明は、3次の非線形光学効果を大きくする仕組みのひとつが、特定の励起状態に対する二光子吸収を大きくすることを見いだしたことによる。3次の非線形光学効果、すなわち入射光に対して第3高調波を発生させる効果が大きな有機材料の分子設計における指針を、二光子吸収の大きな有機材料の分子設計に適用する。
【0019】
例えば、Yuhei Mori et al, ”Molecular Orbitals and Third−Harmonic Generation for Symmetrically Substituted Benzylidene Aniline”, Jpn. J. Appl. Phys. Vol.31, pp.896−900 (1992)には、ベンジリデンアニリン型π共役系の両端に電子供与基を有する対称性C2hの有機材料が、フェニレンビニレン型の炭化水素からなる対称性有機材料よりも3次の非線形光学効果が大きいことが記載されている。π共役系内の窒素原子の影響により、分子の端に寄り添うような被占軌道の歪みが、第1励起状態(1Bu)と1Buの上の励起状態(2Ag)との間の遷移双極子を増幅するためである。基底状態から2Agの励起状態に対しては、以下に示す理由により、二光子吸収が大きくなる。
【0020】
3次の非線形光学効果χ(3)は、μを2つの状態間の遷移双極子とすると、
【0021】
【数1】
【0022】
とあらわされる。ここで、Aは比例係数、εは励起状態のエネルギー、hνは励起光である。両端に対称に電子供与基を有するπ電子系分子の場合には、lが1Bu状態、mが2Ag状態のときに、μlm,μmnが大きくなるために、χ( 3)が大きくなる。
【0023】
他方、基底状態から励起状態mへの二光子吸収の遷移確率ωg→mは、
【0024】
【数2】
【0025】
とあらわされる。ここで、Bは比例係数である。分子のみに注目すると、式(2)の分子は、式(1)の分子において、mを特定の状態に固定した場合に相当する。すなわち、3次の非線形光学定数の大きい分子の設計指針が、そのまま状態mへの二光子吸収の大きい分子の設計指針になるといえる。両端に電子供与基を有する対称な共役分子の場合でいえば、特定の位置を窒素に置換した際、分子軌道の歪みの影響で、基底状態から遷移可能なlBu状態と、特定の励起mAg状態との間の遷移双極子μl(Bu)→m(Ag)が大きくなれば、χ(3)が大きくなると同時に、m(Ag)状態に対する二光子吸収も大きくなるといえる。
【0026】
以上説明したとおり、本発明は、二光子吸収を効率良く発現させるための理論的指針として、以下の2つの手段で、二光子吸収を利用した三次元光メモリの材料構成法を提供するものである。
【0027】
(1)π共役系内のヘテロ原子、分子両端に電子供与基を有する対称性π共役分子をベースとして、二光子吸収の増大に寄与する分子軌道の歪みを与える特殊な構造の材料とする。π共役系は、アリレン環、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合のいずれかにより構成される。この材料から、励起状態を介してスペクトル、屈折率または偏光状態の変化を起こしやすい材料へのエネルギー移動によって、情報の書き込みを実現する。二光子吸収の増大に寄与する分子軌道の歪みとは、電子供与基であるアミノ基中を含めπ共役中の窒素原子による分子軌道の歪みであり、空軌道(LUMOおよびLUMO+1)が中心に寄り、占有軌道(HOMOおよびHOMO−1)が端に寄り添うような軌道の歪みである。電子供与基間のπ共役系の拡大、窒素置換の効果により、この歪みを大きくすることで効果的に二光子吸収を増大させる。
【0028】
(2)π共役系内のヘテロ原子、分子両端に電子供与基を有する対称性π共役分子を主骨格とし、(1)において説明した材料の分子中央部分に、光励起によりスペクトル、屈折率または偏光状態の変化を起こす構成部分を有する材料とする。すなわち、フォトクロミック機能を導入する。
【0029】
(第1の実施形態)
上述した材料構成法(1)に基づいた材料であり、分子両端付近のπ共役系内に複数の窒素を効果的に配置して励起状態での分子軌道の歪みを意図的に大きくした。
【0030】
【化1】
【0031】
X1〜X6の少なくとも1つは窒素原子であり、R1〜R4はアルキル基または高分子性置換基であり、Y,Zは水素原子、アルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。
【0032】
以下の材料は、電子供与基を構成する窒素原子と炭素−窒素二重結合を構成する窒素原子のうち、電子供与基に最も近い窒素原子の間のπ共役系を拡大した例である。
【0033】
【化2】
【0034】
X1〜X4の少なくとも1つは窒素原子であり、R1〜R4はアルキル基または高分子性置換基であり、Y,Zは水素原子、アルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。
【0035】
以下の材料は、窒素原子を含む電子供与基にπ電子を含有し、π共役系の分子両端における電子の偏在を増大させた例である。
【0036】
【化3】
【0037】
X1〜X4の少なくとも1つは窒素原子であり、Y,Zは水素原子、アルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。
【0038】
(第2の実施形態)
上述した材料構成法(2)に基づいた材料であり、分子構造内にスペクトルや屈折率を変化させる構造部分を有することが特長である。二光子吸収過程を経て、シストランス異性化反応が誘起される。
【0039】
【化4】
【0040】
X1〜X6の少なくとも1つは窒素原子である。X7とX8は窒素原子でも炭化水素でもよい。R1〜R4はアルキル基または高分子性置換基であり、Yは水素原子、アルキル基またはハロゲン原子のいずれかである。
【0041】
以下の材料は、二光子吸収過程を経て、分子内環化反応が誘起される。
【0042】
【化5】
【0043】
X1〜X2は電子供与性置換基であって、単純なジアルキル基、カルバゾール基または下記の一般式で表される。
【0044】
【化6】
【0045】
X1〜X3は窒素原子または炭化水素であり、R1〜R2はアルキル基または高分子性置換基である。
【0046】
(実施例1)
重量換算比49:50:1で、アクリル酸モノマと、バインダーとなるポリスチレンアクリロニトリル共重合ポリマと、
【0047】
【化7】
【0048】
で示される第1の実施形態にかかる二光子吸収材料とを混合した混合物を、石英基板上にスピンコート法で薄膜化した。この薄膜に、繰り返し周波数76MHz、パルス幅150fsのチタンサファイアレーザ光を、スポット径0.35μmに絞って100ms間照射した。チタンサファイアレーザ光を二光子吸収材料が吸収し、アクリル酸の重合開始剤となる。
【0049】
アクリル酸を重合すると、モノマに較べてその蛍光強度が増加する。上述した条件で書き込まれたスポット領域に、非常に弱いUV光を照射すると、周囲と比較してコントラスト比が3程度の強い傾向を示す。アクリル酸が重合するしきい値パワーは、730nmで200μWであり、800nmで300μWであった。第1の実施形態にかかる二光子吸収材料を混合しないアクリル酸の場合は、しきい値を超えても重合しない。このようにして、ビットデータを記録し、再生することができる。
【0050】
上述した方法により、3次元メモリ媒体や積層導波路メモリ媒体を作製することができる。
【0051】
(実施例2)
重量換算比4:1で、PMMA(Polymethylmethacrylate)と、
【0052】
【化8】
【0053】
で示される第2の実施形態にかかる二光子吸収型光異性化材料を混合して、厚さ1.5mm、黄橙色の透明プレートを、クレジットカード形状に作成した。このプレートに、波長850nmのチタンサファイアレーザ(210fs、8mW)を照射すると、プレート表面が青色に着色することが認められた。一方、850nmの定常光照射では、色変化がまったく見られなかった。したがって、第2の実施形態にかかる二光子吸収型光異性化材料は、二光子過程でのみ書き込み可能であり、3次元メモリや積層導波路メモリの作製に用いることができる。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、または、π共役分子構造内に光異性化を起こす構成部分を有するπ共役分子において、分子両端付近のπ共役系内の適切な位置に窒素原子を含むことにより、効率的な二光子吸収を実現することができ、小型で安価なレーザを使って、実用的な二光子吸収を利用した3次元メモリや積層導波路メモリを実現することが可能となる。
【0055】
また、本発明によれば、3次の光非線形光学効果を用いた各種のデバイスとしても適用が可能である。
Claims (6)
- π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、
前記π共役系は、アリレン環、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合のいずれかにより構成され、
前記π共役系の分子両端付近に窒素原子を含むことを特徴とする二光子吸収材料。 - 電子供与基を構成する窒素原子と前記炭素−窒素二重結合を構成する窒素原子のうち、電子供与基に最も近い窒素原子の間の前記π共役系を拡大したことを特徴とする請求項1に記載の二光子吸収材料。
- 窒素原子を含む電子供与基にπ電子が含有され、前記π共役系の分子両端における電子の偏在が増大されたことを特徴とする請求項1または2に記載の二光子吸収材料。
- π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、
前記π共役系は、二光子吸収過程を経てシストランス異性化反応が誘起される構造を備えたことを特徴とする二光子吸収材料。 - π共役系の分子両端に電子供与基を有する対称性C2hのπ共役分子において、
前記π共役系の中央部分に、二光子吸収過程を経て分子内環化反応が誘起される構造を備えたことを特徴とする二光子吸収材料。 - 前記電子供与基は、ジアルキルアミノ基またはカルバゾール基のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の二光子吸収材料。
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JP2005263738A (ja) * | 2004-03-19 | 2005-09-29 | Kyoto Univ | ポルフィリンオリゴマー誘導体からなる2光子吸収材料 |
JP2005325087A (ja) * | 2004-05-17 | 2005-11-24 | Mitsubishi Chemicals Corp | ジアリールエテン系化合物、フォトクロミック材料および光機能素子 |
JP2007246790A (ja) * | 2006-03-17 | 2007-09-27 | Ricoh Co Ltd | 二光子吸収材料とその用途 |
-
2002
- 2002-06-26 JP JP2002186962A patent/JP2004029480A/ja active Pending
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