JP2004019910A - 発進クラッチ制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】発進クラッチの発進制御によりエンジン回転数が過剰に低下することを防止する。
【解決手段】発進制御開始直前の平均エンジン回転数Neaが現在のエンジン回転数Neよりも大きいときには(S120)、エンジン回転数又はエンジンの出力トルクに応じた目標係合圧(Pcltne)に基づき発進クラッチの係合圧を制御し(S130)、現在のエンジン回転数Neが発進制御開始直前の平均エンジン回転数Nea以上になったときには(S120)、発進クラッチの伝達トルクに応じた第一の目標係合圧Pclta1と、目標係合エンジン回転数と現在のエンジン回転数との偏差に基づくフィードバック制御の第二の目標係合圧Pclta2との差を目標係合圧として発進クラッチの係合圧を制御する(S140)。
【選択図】 図2
【解決手段】発進制御開始直前の平均エンジン回転数Neaが現在のエンジン回転数Neよりも大きいときには(S120)、エンジン回転数又はエンジンの出力トルクに応じた目標係合圧(Pcltne)に基づき発進クラッチの係合圧を制御し(S130)、現在のエンジン回転数Neが発進制御開始直前の平均エンジン回転数Nea以上になったときには(S120)、発進クラッチの伝達トルクに応じた第一の目標係合圧Pclta1と、目標係合エンジン回転数と現在のエンジン回転数との偏差に基づくフィードバック制御の第二の目標係合圧Pclta2との差を目標係合圧として発進クラッチの係合圧を制御する(S140)。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等の車輌の発進クラッチに係り、更に詳細には車輌の発進時に於ける発進クラッチ制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
車輌の発進時に無段変速機の発進クラッチを制御する発進クラッチ制御装置の一つとして、例えば特開平6−247189号公報に記載されている如く、車輌の発進時に発進クラッチの係合完了を判定し、発進クラッチの係合完了が判定された後に無段変速機の変速比を最大状態より最小状態に向けて徐々に変化するよう制御する発進クラッチ制御装置が既に知られている。
【0003】
かかる発進クラッチ制御装置によれば、発進クラッチの係合完了が判定された後に無段変速機の変速比が最大状態より最小状態に向けて徐々に変化されるので、発進クラッチの係合完了前に無段変速機の変速比が最大状態より最小状態に向けて徐々に変化され、発進クラッチの係合が完了する段階に於いて無段変速機の変速比が小さくなっていることに起因してエンジン回転数が過剰に低下したり、発進クラッチの係合完了後に遅れて無段変速機の変速比が最大状態より最小状態に向けて徐々に変化され、無段変速機の変速が遅れることに起因してエンジン回転数が過剰に上昇したりすることを防止することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし上記公開公報に記載された発進クラッチ制御装置に於いては、発進クラッチの係合開始時に於けるエンジン回転数が考慮されないため、エンジン回転数が低下した状況に於いて発進クラッチの係合が開始されると、エンジン回転数が更に低下し、エンジン回転数が過剰に低下してしまう虞れがあり、この点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、従来の発進クラッチ制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、発進制御が行われる際のエンジン回転数を考慮して発進クラッチの発進制御を実行することにより、エンジン回転数が過剰に低下することを防止することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述の主要な課題は、本発明によれば、発進クラッチを非係合状態より係合状態へ発進制御する発進クラッチ制御装置に於いて、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数を考慮して前記発進クラッチの非係合状態より係合状態への発進制御を行うことを特徴とする発進クラッチ制御装置(請求項1の構成)、又は発進クラッチを非係合状態より係合状態へ発進制御する発進クラッチ制御装置に於いて、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数に基づいて前記発進クラッチの非係合状態より係合状態への発進制御を行うことを特徴とする発進クラッチ制御装置(請求項2の構成)によって達成される。
【0007】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、発進制御開始直前のエンジン回転数と現在のエンジン回転数との大小関係に応じて前記発進制御の内容を変更するよう構成される(請求項3の構成)。
【0008】
【発明の作用及び効果】
上記請求項1の構成によれば、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数を考慮して発進クラッチが非係合状態より係合状態へ発進制御されるので、エンジン回転数が考慮されることなく発進クラッチの発進制御が実行される場合に比して、発進クラッチの発進制御よるエンジン負荷の増大に起因してエンジン回転数が過剰に低下する虞れを確実に低減することができる。
【0009】
上記請求項2の構成によれば、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数に基づいて発進クラッチが非係合状態より係合状態へ発進制御されるので、エンジン回転数に基づくことなく発進クラッチの発進制御が実行される場合に比して、発進クラッチの発進制御よるエンジン負荷の増大に起因してエンジン回転数が過剰に低下する虞れを確実に低減することができる。
【0010】
また上記請求項3の構成によれば、発進制御開始直前のエンジン回転数と現在のエンジン回転数との大小関係に応じて発進制御の内容が変更されるので、発進制御開始直前のエンジン回転数と現在のエンジン回転数との大小関係に応じて発進制御をそれぞれ最適の内容にて実行することができる。
【0011】
【課題解決手段の好ましい態様】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進制御開始直前のエンジン回転数は発進制御開始直前の所定時間に亘るエンジン回転数の平均値であるよう構成される(好ましい態様1)。
【0012】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は発進制御開始直前のエンジン回転数が現在のエンジン回転数よりも大きいときには、エンジン回転数又はエンジンの出力トルクに応じた目標係合圧に基づき発進クラッチの係合圧を制御するよう構成される(好ましい態様2)。
【0013】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は現在のエンジン回転数が発進制御開始直前のエンジン回転数以上になったときには、発進クラッチの伝達トルクに応じた第一の目標係合圧と、目標係合エンジン回転数と現在のエンジン回転数との偏差に基づくフィードバック制御の第二の目標係合圧との差を目標係合圧として発進クラッチの係合圧を制御するよう構成される(好ましい態様3)。
【0014】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は発進制御が開始された時点より所定の時間が経過していないときには、エンジン回転数又はエンジンの出力トルクに応じた目標係合圧に基づき発進クラッチの係合圧を制御するよう構成される(好ましい態様4)。
【0015】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は発進制御が開始された時点より所定の時間が経過し且つ現在のエンジン回転数が発進制御開始直前のエンジン回転数以上である場合に、第一の目標係合圧と第二の目標係合圧との差を目標係合圧として発進クラッチの係合圧を制御するよう構成される(好ましい態様5)。
【0016】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は発進制御を実行する際には変速機のアップシフトを禁止するよう構成される(好ましい態様6)。
【0017】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は発進制御を実行する際に駆動輪の駆動スリップが生じる虞れがあるときには、エンジン制御装置に対しエンジンの出力トルクの低下要求を出力するよう構成される(好ましい態様7)。
【0018】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記1乃至3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置はイグニッションスイッチのON後最初に発進制御を実行する際には発進制御の目標係合圧を低減補正するよう構成される(好ましい態様8)。
【0019】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記1乃至3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置はシフトレンジが非走行レンジにあり且つブレーキ装置が作動されている場合にエンジン制御装置に対しエンジンの始動を許可するよう構成される(好ましい態様9)。
【0020】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様9の構成に於いて、発進クラッチ制御装置はシフトレンジが非走行レンジにあり且つブレーキ装置が作動されており且つ運転者が運転席に着座している場合にエンジン制御装置に対しエンジンの始動を許可するよう構成される(好ましい態様10)。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3又は5の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は、機関負荷率に基づき演算される発進クラッチの目標伝達トルクと、演算された目標伝達トルクとトルクセンサの出力との偏差に基づくフィードバック制御量と、発進クラッチに対する指示係合圧と実係合圧との差との和を第一の目標係合圧として演算するよう構成される(好ましい態様11)。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進クラッチはエンジンと変速機との間の動力伝達経路に位置するよう構成される(好ましい態様12)。
【0023】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様12の構成に於いて、変速機は無段変速機構と前後進切換装置とを含み、発進クラッチは前後進切換装置の前進クラッチであるよう構成される(好ましい態様13)。
【0024】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様13の構成に於いて、変速機は無段変速機構と前後進切換装置とを含み、発進クラッチはエンジンと前後進切換装置との間の動力伝達経路に位置するよう構成される(好ましい態様14)。
【0025】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進クラッチは変速機と駆動輪との間の動力伝達経路に位置するよう構成される(好ましい態様15)。
【0026】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進クラッチは自動変速機の発進クラッチであるよう構成される(好ましい態様16)。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施の形態(以下単に実施形態という)について詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明による発進クラッチ制御装置の実施形態が適用される車輌の動力伝達装置を示すスケルトン図である。尚簡略化の目的で、図1に於いては前後進切換装置の上半分のみが図示されている。
【0029】
図1に於いて、動力伝達装置10は例えば横置き型FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車に好適なものとして構成されており、走行用動力源としての内燃機関であるエンジン12を備えている。エンジン12の出力は、前後進切換装置16、ベルト式無段変速機構構(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22へ伝達され、更に図1には示されていない一対のユニバーサルジョイントを介して左右の駆動輪24L、24Rへ伝達される。
【0030】
前後進切換装置16は車輌の前後進を切換える装置であり、図示の実施形態に於いてはダブルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されている。エンジン12のクランク軸12aに連結された前後進切換装置16の入力軸26はサンギヤ16sに連結され、ベルト式無段変速機構構18の入力軸36はキャリア16cに連結されている。
【0031】
キャリア16cとサンギヤ16sとの間には油圧式の前進クラッチ38が配設されており、図には示されていないが前進クラッチ38のクラッチ板は油圧シリンダのピストンにより駆動され、油圧シリンダのピストンは戻しばねにより前進クラッチ38の解放位置へ付勢されている。特に図には示されていないシフトレバーがD、2、Lレンジなどの前進走行レンジに設定されると、油圧シリンダの油圧Pcltが油圧制御回路39によって増大され、ピストンが戻しばねのばね力に抗して前進クラッチ38の係合位置へ向けて駆動され、これにより前進クラッチ38が係合せしめられて入力軸26が入力軸36に直結され、前後進切換装置16が入力軸36と一体に回転することにより前進方向の駆動力がベルト式無段変速機構構18等を介して駆動輪24R、24Lへ伝達される。
【0032】
これに対しシフトレバーが後進走行レンジであるRレンジに設定されると、リングギヤ16rとハウジングの如き非回転部材との間に配設された油圧式の後進ブレーキ40が油圧制御回路39によって制御されることにより係合せしめられリングギヤ16rが非回転部材に連結されると共に、前進クラッチ38が油圧制御回路39によって制御されることにより解放され、入力軸36は入力軸26とは逆方向へ回転し、これにより後進方向の駆動力がベルト式無段変速機構構18等を介して駆動輪24R、24Lへ伝達される。尚図示の実施形態に於いては、後述の如く、前進クラッチ38は発進クラッチとして使用される。
【0033】
ベルト式無段変速機構18は、入力軸36に設けられた有効径が可変の入力側可変プーリ装置42と、出力軸44に設けられた有効径が可変の出力側可変プーリ装置46と、それらの可変プーリ装置42、46のV溝に巻き掛けられた伝動ベルト48とを有し、動力伝達部材として機能する伝動ベルト48と可変プーリ装置42、46のV溝の壁面との間の摩擦力を介して動力の伝達を行うようになっている。
【0034】
入力側可変プーリ装置42はそのV溝幅、即ち伝動ベルト48の巻き掛かり径(有効径)を変更するための入力側油圧シリンダ42cを有し、油圧シリンダ42cに対し給排される作動油の油圧Paは油圧制御回路52によって制御され、これにより可変プーリ装置42のV溝幅が変化して伝動ベルト48の巻き掛かり径が変更され、変速比γ(=入力側回転速度Nin/出力側回転速度Nout)が無段階に連続的に変化せしめられる。
【0035】
同様に、出力側可変プーリ装置46はそのV溝幅を変更するための出力側油圧シリンダ46cを有し、油圧シリンダ46c内の油圧Pbも油圧制御回路52により調圧され、これにより伝動ベルト48に対する出力側可変プーリ装置46の挟圧力が調節されることによって伝動ベルト48の張力が調節され、伝動ベルト48が可変プーリ装置42及び46に対し滑ることが防止される。尚油圧制御回路39及び52は電子制御装置54により制御される。
【0036】
電子制御装置54には回転数センサ60により検出されたエンジン回転数Neを示す信号、スロットル開度センサ62により検出されたスロットル開度θを示す信号、車速センサ64により検出された車速Vを示す信号、アイドルスイッチ(SW)66よりのON−OFF信号がエンジン制御装置68を介して入力され、制動制御に関する情報が制動制御装置70より入力される。
【0037】
また電子制御装置54には回転数センサ72により検出されたベルト式無段変速機構18の入力軸36の回転速度Ninを示す信号、シフトポジション(SP)センサ74により検出されたシフトレンジを示す信号、トルクセンサ76により検出された入力軸36のトルク(前進クラッチ38の出力軸のトルク)Toutを示す信号、圧力センサ78により検出された前進クラッチ38の油圧シリンダの油圧Pcltを示す信号、温度センサ80により検出された前進クラッチ38のクラッチオイルの温度Toilを示す信号、当技術分野に於いて公知の路面μセンサ82より走行路の摩擦係数が低摩擦係数であるか否かを示す信号、図には示されていないが運転席に設けられた荷重センサの如き着座センサ84より運転者が運転席に着座しているか否かを示す信号が入力される。
【0038】
電子制御装置54は図には示されていない前進クラッチ制御ルーチンに従って前進クラッチ38の係合状態を制御すると共に、図には示されていない前後進切換制御ルーチンに従って前進クラッチ38及び後進ブレーキ40の係合状態を制御する。また電子制御装置54は図には示されていない変速制御ルーチンに従ってベルト式無段変速機構18の入力側回転速度Ninが車輌の走行状態により定まる目標入力側回転速度Nintになるよう制御する。
【0039】
特に図示の実施形態に於いては、後に詳細に説明する如く、電子制御装置54は、シフトポジションセンサ74により検出されたシフトレンジがNレンジ、Pレンジ又はRレンジにあるときには前進クラッチ38を解放するが、シフトレンジがDレンジの如き前進走行レンジにあるときには、原則としてスロットル開度θに基づき前進クラッチ38の目標伝達トルクTclttを演算すると共に、温度センサ80により検出された前進クラッチ38のオイルの温度Toilに基づき係数αを演算し、下記の式1に従って目標伝達トルクTclttを達成するに必要な目標伝達トルク発生油圧Pclttを演算する。尚下記の式1に於いて、係数Aは前進クラッチ38の油圧シリンダの断面積であり、Wは前進クラッチ38の戻しばねの荷重である。
Pcltt=(α・Tcltt+W)/A ……(1)
【0040】
また電子制御装置54は、トルクセンサ76により検出された出力トルクToutと目標伝達トルクTclttとの偏差ΔTp(=Tout−Tcltt)に基づきその積分値ΔTi及び微分値ΔTdを演算し、Kp、Ki、Kdをそれぞれ比例項の係数、積分項の係数、微分項の係数とする下記の式2に従ってPIDフィードバック制御量Ppidを演算する。
Ppid=Kp・ΔTp+Ki・ΔTi+Kd・ΔTd ……(2)
【0041】
そして電子制御装置54は、油圧制御回路39に対する指示油圧Pcltaと圧力センサ78により検出された実油圧PcltとのオフセットΔPclt(=Pclta−Pclt)を演算すると共に、下記の式3に従って目標伝達トルク発生油圧PclttとPIDフィードバック制御量PpidとオフセットΔPcltとの和として指示油圧(第一の目標係合圧)Pclta1を演算し、該指示油圧Pcltaに基づき前進クラッチ38の油圧シリンダの油圧(係合圧)を制御する。
Pclta1=Pcltt+Ppid+ΔPclt ……(3)
【0042】
また電子制御装置54は、図2に示されたフローチャートに従って発進制御、即ち前進クラッチ38の係合圧を徐々に増大させてエンジン12の駆動トルクを駆動輪へ伝達させ車輌を発進させる制御を行う。特に電子制御装置54は、発進制御開始条件が成立すると、即ちシフトポジションセンサ74により検出されたシフトレンジが走行レンジにあり且つアイドルスイッチ66がOFF状態になると、それまでのN(正の一定の整数)サイクルに亘るエンジン回転数Neの平均値Neaを演算する。
【0043】
そして電子制御装置54は、発進制御が開始された時点より所定の時間ΔT(正の定数)が経過し且つNea≦Neであるか否かを判別し、所定の時間ΔT(正の定数)が経過し且つNea≦Neである条件が成立していないときには、エンジン回転数Neが高いほど低い値になるようエンジン回転数Neに基づき目標係合圧Pcltneが演算され、該目標係合圧Pcltneを目標係合圧Pcltaとして前進クラッチ38の係合圧を制御する。
【0044】
これに対し所定の時間ΔT(正の定数)が経過し且つNea≦Neである条件が成立しているときには、電子制御装置54は、機関負荷率としてのスロットル開度θに基づき図には示されていないマップより前進クラッチ38の目標係合回転数Net(図5に示されたグラフに於いてエンジントルクTeが最大になるエンジン回転数Ne)と現在のエンジン回転数Neとの偏差ΔNeに基づくフィードバック制御の目標係合圧(第二の目標係合圧)Pclta2を演算し、第一の目標係合圧Pclta1と第二の目標係合圧Pclta2との差を目標係合圧Pcltaとして前進クラッチ38の係合圧を制御する。
【0045】
また電子制御装置54は、発進制御を実行する際に駆動輪の駆動スリップが生じる虞れがあるか否かを判定し、駆動輪の駆動スリップが生じる虞れがあるときには、エンジン制御装置68に対しエンジン12の出力トルクを低減する要求信号を出力する。
【0046】
また電子制御装置54は、イグニッションスイッチがONになった後最初に発進制御を実行する際には、発進制御の目標係合圧Pcltaを低減補正し、クラッチオイルの粘性が高いことに起因して前進クラッチ38の係合圧が過剰になることを防止する。
【0047】
更に電子制御装置54は、シフトレンジが非走行レンジにあり且つブレーキ装置が作動されており且つ運転者が運転席に着座している場合にエンジン制御装置68に対しエンジン12の始動を許可する信号を出力するが、上記条件の何れかが充足されていないときにはエンジン制御装置68に対しエンジン12の始動を禁止する信号を出力することにより、前進クラッチ38の解放が不十分であることによりエンジン12の始動時に車輌が急発進する虞れを低減する。
【0048】
エンジン制御装置68は、図には示されていないアクセルペダルの踏込量等に応じて燃料噴射装置等を制御することによりエンジン12の出力を制御し、特に電子制御装置54よりエンジン12の始動禁止信号が入力されているときには、エンジン12の始動を行わず、また電子制御装置54よりエンジン12の出力トルク低減要求信号が入力されているときには、エンジン12の出力トルクを低減する。
【0049】
更に制動制御装置70は、図には示されていない圧力センサにより検出されるマスタシリンダ圧力等に基づき図には示されていない制動力制御用の油圧制御回路を制御することにより各車輪の制動力を運転者の制動要求に応じて制御すると共に、何れかの車輪の制動スリップが過剰であるときには、当該車輪の制動スリップが適正な値になるよう油圧制御回路を制御することによって当該車輪の制動圧を増減制御するアンチスキッド制御(所謂ABS制御)を行う。また制動制御装置70は、電子制御装置54より制動圧の増大要求信号が入力されているときには制動圧を増大補正し、逆に電子制御装置54より制動圧の低下要求信号が入力されているときには制動圧を低下補正する。
【0050】
尚図には詳細に示されていないが、電子制御装置54、エンジン制御装置68、制動制御装置70はCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有しこれらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路を含む一般的な構成のものであってよい。
【0051】
次に図2及び図3に示されたフローチャートを参照して、図示の実施形態に於いて前進クラッチ38を発進クラッチとして行われる発進制御について説明する。尚図2及び図3に示されたフローチャートによる発進制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0052】
まずステップ10に於いてはシフトポジションセンサ74により検出されたシフトポジションがDレンジの如き走行レンジであるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ50へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ20へ進む。
【0053】
ステップ20に於いてはアイドルスイッチ66がOFF状態にあるか否かの判別、即ち運転者により図には示されていないアクセルペダルが踏み込まれているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ50へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ30へ進む。
【0054】
尚図には示されていないイグニッションスイッチ(IGSW)の閉成後最初にステップ20に於いて肯定判別が行われたときには、それまでのN(正の一定の整数)サイクルに亘るエンジン回転数Neの平均値Neaが発進制御開始直前の平均エンジン回転数として演算され、RAMに記憶される。
【0055】
ステップ30に於いては例えば前進クラッチ38の入力回転数Neと出力回転数Ncout(=Nin)との比較又は前進クラッチ38の係合圧Pcltに基づき、前進クラッチ38の係合が完了しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ60へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ40へ進む。
【0056】
ステップ40に於いては車速Vが比較的小さい正の基準値Vo以下であり且つエンジン回転数Neが基準値Neo(正の定数)以下であるか否かの判別、即ち車速が0又は低速域にあり且つエンジン回転数Neが低下した状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ50に於いて前進クラッチ38の発進制御が終了され、肯定判別が行われたときにはステップ60に於いて無段変速機18のアップシフトが禁止される。
【0057】
尚ステップ60に於ける無段変速機18のアップシフトの禁止は省略されてもよい。またエンジン12がリーンバーンエンジンや筒内噴射エンジンである場合には、このステップ60に於いてエンジン制御装置68に対しリッチスパイク運転モードへの切換え禁止要求信号が出力されることにより、エンジン12の出力の急激な増大変化が防止されることが好ましい。
【0058】
ステップ70に於いては路面μセンサ82の検出結果に基づき走行路が例えば雨や雪による低摩擦係数の路面であるか否かの判別、即ち駆動輪の駆動スリップが生じ易い状況であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ80へ進む。
【0059】
ステップ80に於いては運転者により図には示されていないアクセルペダル及びブレーキペダルの両者が踏み込まれた所謂両踏み状態により車輌がストール状態にあるか否かの判別、即ちアイドルスイッチ66がOFF状態にあり且つ図には示されていないブレーキスイッチがON状態にあり且つ車速Vが実質的に0であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ90へ進む。
【0060】
ステップ90はエンジン12の排気量が高い車輌の場合に実行され、このステップ90に於いてはスロットル開度θが基準値以上であり駆動輪の駆動スリップが発生する虞れがある状況であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100に於いてエンジン回転数Neが過剰になったり駆動輪の駆動スリップが生じたりしない程度にエンジン12の出力トルクが低減され、否定判別が行われたときにはステップ110へ進む。尚この場合エンジン12の出力トルクの低減量は例えば前進クラッチ38のオイルの温度Toilに応じて可変設定されてよい。
【0061】
ステップ110に於いては発進クラツチ38について発進制御が開始された時点よりエンジン回転数Neを十分に上昇させるに必要な所定の時間ΔT(正の定数)が経過したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ130へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ120へ進む。
【0062】
ステップ120に於いては発進制御開始直前の平均エンジン回転数Neaが現在のエンジン回転数Ne以下であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ140へ進み、否定判別が行われたときにはステップ130に於いてエンジン回転数Neが高いほど低い値になるようエンジン回転数Neに基づき目標係合圧Pcltneが演算され、前進クラッチ38の目標係合圧Pcltaが目標係合圧Pcltneに設定される。
【0063】
ステップ140に於いては上記式3に従って第一の目標係合圧Pclta1が演算され、目標係合エンジン回転数Netとエンジン回転数Neとの偏差ΔNeに基づくフィードバック制御による第二の目標係合圧Pclta2が演算され、前進クラッチ38の目標係合圧PcltaがPclta1とPclta2との差に設定される。
【0064】
尚ステップ130及び140に於ける目標係合圧Pcltaは、その時々のエンジントルクに応じた前進クラッチ38の伝達トルク容量以下の係合圧になるよう上限ガードされ、また前進クラッチ38によるトルクの伝達が実質的に行われない下限圧力にて下限ガードされる。またステップ140に於いてはβを前進クラッチ38の伝達トルク容量として前進クラッチ38の目標係合圧Pcltaが下記の式4に従って演算されることにより、遠心クラッチを模擬する係合圧に設定されてもよい。
Pclta=β・Ne2 ……(4)
【0065】
ステップ150に於いては上記ステップ30の場合と同様、前進クラッチ38の係合が完了しているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ160に於いて前進クラッチ38の係合完了記憶フラグFfが1にセットされた後ステップ200へ進み、否定判別が行われたときにはステップ170へ進む。
【0066】
ステップ170に於いては前進クラッチ38の係合完了記憶フラグFfが0であるか否かの判別、即ちイグニッションスイッチON後最初の発進制御時であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ180に於いて前進クラッチ38のオイルの温度Toilに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより補正係数Koが演算されると共に、前進クラッチ38の目標係合圧PcltaがKo・Pcltaに補正され、肯定判別が行われたときにはステップ190へ進む。
【0067】
ステップ190に於いては前進クラッチ38のオイルの温度Toilに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより補正係数Koが演算されると共に、Kfを初回発進制御の補正係数(1よりも小さい正の定数)として前進クラッチ38の目標係合圧PcltaがKo・Kf・Pcltaに補正され、ステップ200に於いては前進クラッチ38の係合圧Pcltがステップ180又は190に於いて演算された目標係合圧Pcltaになるようフィードバック制御される。
【0068】
次に図4に示されたフローチャートを参照して、図示の実施形態に於けるエンジン12の始動許可制御について説明する。尚図4に示されたフローチャートによる始動許可制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰り返し実行され、イグニッションスイッチの開成後所定の時間継続して実行される。
【0069】
まずステップ210に於いては図には示されていないイグニッションスイッチ(IGSW)がONであるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ220に於いてエンジン12の始動許可フラグFeが0にリセットされ、フラグFeが0であること(エンジン12の始動を禁止すること)を示す信号がエンジン制御装置68へ出力されると共に、制動制御装置70に対し制動圧を低下させて車輪の制動力を低下すべき指令信号が出力され、肯定判別が行われたときにはステップ230へ進む。
【0070】
ステップ230に於いてはエンジン12がまだ始動されておらず停止状態にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図4に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ240へ進む。
【0071】
ステップ240に於いてはシフトポジションがNレンジ又はPレンジにあるか否かの判別、即ち非走行レンジにあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図4に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ250へ進む。
【0072】
ステップ250に於いては制動制御装置70よりの情報に基づき図には示されていないブレーキペダルが踏み込まれ若しくはパーキングブレーキが作動されているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図4に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ260へ進む。
【0073】
ステップ260に於いては着座センサ84により運転者が運転席に着座していることが検出されているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図4に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ270に於いてエンジン12の始動許可フラグFeが1にセットされ、フラグFeが1であること(エンジン12の始動が許可されること)を示す信号がエンジン制御装置68へ出力されると共に、制動制御装置70に対し制動圧を増大させて車輪の制動力を増加すべき旨の指令信号が出力される。
【0074】
かくして図示の実施形態によれば、発進制御開始条件が成立すると、即ちシフトポジションが走行レンジにあり且つアイドルスイッチ66がOFF状態にあると、ステップ10及び20に於いて肯定判別が行われ、ステップ110以降の発進制御が実行される。
【0075】
特に図示の実施形態に於いては、発進制御が開始された時点よりエンジン回転数Neを十分に上昇させるに必要な所定の時間ΔTが経過し且つ発進制御開始直前の平均エンジン回転数Neaが現在のエンジン回転数Ne以下であるときには、前進クラッチ38の係合制御によりエンジン回転数Neが過剰に低下する虞れが低いので、ステップ110及び120に於いて肯定判別が行われ、ステップ140に於いて前進クラッチ38の係合圧Pcltが前進クラッチ38の目標伝達トルクTclttに基づく第一の目標係合圧Pclta1と、目標係合エンジン回転数Netとエンジン回転数Neとの偏差ΔNeに基づくフィードバック制御による第二の目標係合圧Pclta2との差に基づいて制御される。
【0076】
これに対し発進制御が開始された時点より所定の時間ΔTが経過していない場合や発進制御開始直前の平均エンジン回転数Neaが現在のエンジン回転数Neよりも大きいときには、前進クラッチ38の係合圧の増大によりエンジン回転数Neが過剰に低下する虞れがあるので、ステップ110又は120に於いて否定判別が行われ、ステップ130に於いてエンジン回転数Neが高いほど低い値になるようエンジン回転数Neに基づき目標係合圧Pcltneが演算され、前進クラッチ38の目標係合圧Pcltaが目標係合圧Pcltneに基づいて制御される。
【0077】
従って発進制御開始直前のエンジン回転数及びその後のエンジン回転数に応じて前進クラッチ38の係合圧Pcltを最適に制御することができ、これにより発進制御に起因してエンジン回転数Neが過剰に低下することを確実に防止しつつ車輌を違和感なく発進させることができる。
【0078】
また図示の実施形態によれば、前進クラッチ38の係合完了後であっても、車速Vが0又は低速域にあり且つエンジン回転数Neが低下した状況であるときには、ステップ30及び40に於いて肯定判別が行われ、ステップ60以降が実行されるので、例えばアクセルペダルとブレーキペダルの両踏みや登坂路走行等に起因して車速V及びエンジン回転数Neが低下した場合にも前進クラッチ38の発進制御が行われ、前進クラッチ38に適度の滑りが与えられ、従ってかかる状況に於けるエンジン回転数Neの過剰低下を確実に防止することができる。
【0079】
また図示の実施形態によれば、前進クラッチ38について発進制御が実行されるときには、ステップ60に於いて無段変速機18のアップシフトが禁止されるので、無段変速機18のアップシフトに起因して前進クラッチ38の係合が遅れることを防止し、これにより発進制御を速やかに完了させることができる。またステップ60に於いて上述の如くエンジン制御装置68に対しリッチスパイク運転モードへの切換え禁止要求信号が出力される場合には、エンジン12の出力の急激な増大変化及びこれに起因するショックの発生を確実に防止することができる。
【0080】
また図示の実施形態によれば、ステップ70及び90に於いて発進制御が実行される際に駆動輪の駆動スリップが生じる虞れがあるか否かが判定され、またステップ80に於いてエンジンの出力が無駄に消費される状況であるか否かが判定され、これらの場合にはステップ100に於いてエンジン制御装置68に対しエンジン12の出力トルクを低減する要求信号が出力するされるので、駆動輪の駆動スリップに起因して車輌の発進が適正に行われなくなったりエンジンの出力が無駄に消費されたり前進クラッチ38の摩擦材が早期に摩耗することを効果的にに防止することができる。
【0081】
また一般に、前進クラッチ38のオイルの温度Toilが低くその粘性が高いときには、過渡的な係合圧の制御の応答性が悪いが、定常的な係合圧の制御に於いては実際の係合圧が目標係合圧に比して高くなり易い。そのため過渡的な係合圧の制御の場合にはオイルの温度Toilが低くいほど高くなるよう目標係合圧を補正し、定常的な係合圧の制御の場合にはオイルの温度Toilが低くいほど低くなるよう目標係合圧を補正することが従来より行われている。
【0082】
しかし前進クラッチ38の油圧制御装置36に組み込まれているピストンやアキュムレータなどの摺動部の抵抗は2回目以降の発進制御時に比して初回の発進制御時に高いため、上記オイルの温度Toilに基づく目標係合圧の補正のみによってはこの摺動部の抵抗に起因する目標係合圧と実係合圧との偏差を十分に補償することができない。
【0083】
図示の実施形態によれば、イグニッションスイッチがONになった後最初に発進制御を実行する際には、ステップ150に於いて否定判別が行われると共にステップ170に於いて肯定判別が行われ、ステップ190に於いて発進制御の目標係合圧Pcltaがオイルの温度Toilに基づく補正係数Koに加えて補正係数Kfによっても低減補正されるので、クラッチオイルの粘性が高いことに起因して前進クラッチ38の係合圧が過剰になること及びこれに起因してエンジン回転数Neが過剰に低下することを確実に防止することができる。
【0084】
また図示の実施形態によれば、車輌が停止状態にあり(ステップ230)且つシフトレンジが非走行レンジにあり(ステップ240)且つブレーキ装置が作動されており(ステップ250)且つ運転者が運転席に着座している場合(ステップ260)にエンジン制御装置68に対しエンジン12の始動を許可する信号が出力されるが、上記条件の何れかが充足されていないときにはエンジン制御装置68に対しエンジン12の始動を禁止する信号が出力されるので、前進クラッチ38の解放が不十分である状況に於いてエンジン12が始動され車輌が急発進することを確実に防止することができる。
【0085】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0086】
例えば上述の実施形態に於いては、ステップ110及び120に於いて発進制御開始直前の平均エンジン回転数Nea及び現在のエンジン回転数Neに基づき、前進クラッチ38の係合圧の増大によりエンジン回転数Neが過剰に低下する虞れがあるか否かが判定されるようになっているが、前進クラッチ38の係合圧の増大によりエンジン回転数Neが過剰に低下する虞れがあるか否かが例えば発進制御開始直前のエンジン回転数及びその後のエンジン回転数の変化により判定される構成の如く、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数を考慮することにより、前進クラッチ38の係合圧の増大によりエンジン回転数Neが過剰に低下する虞れが低減されるよう修正されてもよい。
【0087】
また上述の実施形態に於いては、ステップ110又は120に於いて否定判別が行われたときには、ステップ130に於いてエンジン回転数Neが高いほど低い値になるようエンジン回転数Neに基づき目標係合圧Pcltneが演算され、前進クラッチ38の目標係合圧Pcltaが目標係合圧Pcltneに基づいて制御されるようになっているが、エンジン12の出力トルクTeが高いほど高い値になるよう出力トルクTeに基づき目標係合圧Pcltetが演算され、前進クラッチ38の目標係合圧Pcltaが目標係合圧Pcltetに基づいて制御されるよう修正されてもよい。
【0088】
また上述の実施形態に於いては、ステップ230〜260の全ての条件が成立する場合にエンジン12の始動が許可されるようになっているが、これらの条件の何れか、例えばステップ260の判別が省略されてもよい。
【0089】
また上述の実施形態に於いては、発進クラッチとしての前進クラッチ38は駆動源としてのエンジン12と変速機である無段変速機構18との間に設けられているが、発進クラッチは変速機と駆動輪との間に設けられてもよく、その場合には変速機の変速比をγとして上記式1は下記の式5に置き換えられる。
Pcltt=(α・Tcltt・γ+W)/A ……(5)
【0090】
また上述の実施形態に於いては、発進クラッチは前後進切換装置16の前進クラッチ38であるが、発進クラッチは前後進切換装置16の前進クラッチ38とは独立にエンジン12と前後進切換装置16との間又は変速機と駆動輪との間に設けられてもよい。
【0091】
また上述の実施形態に於いては、変速機構はベルト式の無段変速機構18であるが、変速機構は例えばトロイダルコーン式の無段変速機構の如く当技術分野に於いて公知の任意の無段変速機構であってもよく、また変速機は自動変速機であってもよく、特に変速機が自動変速機である場合には、発進クラッチは自動変速機の発進クラッチであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による発進クラッチ制御装置の実施形態が適用される車輌の動力伝達装置を示すスケルトン図である。
【図2】図1に示された前進クラッチを発進クラッチとして行われる発進制御ルーチンの要部を示すフローチャートである。
【図3】図1に示された前進クラッチを発進クラッチとして行われる発進制御ルーチンの残りの部分を示すフローチャートである。
【図4】図示の実施形態に於けるエンジンの始動許可制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】エンジン回転数NeとエンジントルクTeとスロットル開度θとの間の関係を示すグラフである。
【図6】前進クラッチのオイルの温度Toilと前進クラッチの目標係合圧Pcltaに対する補正係数Koとの間の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
12…エンジン
14…トルクコンバータ
16…前後進切換装置
18…ベルト式無段変速機構
39、52…油圧制御回路
54…電子制御装置
60…回転数センサ
62…スロットル開度センサ
64…車速センサ
66…アイドルスイッチ
68…エンジン制御装置
70…制動制御装置
72…回転数センサ
74…シフトポジションセンサ
76…トルクセンサ
78…圧力センサ
80…温度センサ
82…μセンサ
84…着座センサ
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等の車輌の発進クラッチに係り、更に詳細には車輌の発進時に於ける発進クラッチ制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
車輌の発進時に無段変速機の発進クラッチを制御する発進クラッチ制御装置の一つとして、例えば特開平6−247189号公報に記載されている如く、車輌の発進時に発進クラッチの係合完了を判定し、発進クラッチの係合完了が判定された後に無段変速機の変速比を最大状態より最小状態に向けて徐々に変化するよう制御する発進クラッチ制御装置が既に知られている。
【0003】
かかる発進クラッチ制御装置によれば、発進クラッチの係合完了が判定された後に無段変速機の変速比が最大状態より最小状態に向けて徐々に変化されるので、発進クラッチの係合完了前に無段変速機の変速比が最大状態より最小状態に向けて徐々に変化され、発進クラッチの係合が完了する段階に於いて無段変速機の変速比が小さくなっていることに起因してエンジン回転数が過剰に低下したり、発進クラッチの係合完了後に遅れて無段変速機の変速比が最大状態より最小状態に向けて徐々に変化され、無段変速機の変速が遅れることに起因してエンジン回転数が過剰に上昇したりすることを防止することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし上記公開公報に記載された発進クラッチ制御装置に於いては、発進クラッチの係合開始時に於けるエンジン回転数が考慮されないため、エンジン回転数が低下した状況に於いて発進クラッチの係合が開始されると、エンジン回転数が更に低下し、エンジン回転数が過剰に低下してしまう虞れがあり、この点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、従来の発進クラッチ制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、発進制御が行われる際のエンジン回転数を考慮して発進クラッチの発進制御を実行することにより、エンジン回転数が過剰に低下することを防止することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述の主要な課題は、本発明によれば、発進クラッチを非係合状態より係合状態へ発進制御する発進クラッチ制御装置に於いて、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数を考慮して前記発進クラッチの非係合状態より係合状態への発進制御を行うことを特徴とする発進クラッチ制御装置(請求項1の構成)、又は発進クラッチを非係合状態より係合状態へ発進制御する発進クラッチ制御装置に於いて、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数に基づいて前記発進クラッチの非係合状態より係合状態への発進制御を行うことを特徴とする発進クラッチ制御装置(請求項2の構成)によって達成される。
【0007】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、発進制御開始直前のエンジン回転数と現在のエンジン回転数との大小関係に応じて前記発進制御の内容を変更するよう構成される(請求項3の構成)。
【0008】
【発明の作用及び効果】
上記請求項1の構成によれば、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数を考慮して発進クラッチが非係合状態より係合状態へ発進制御されるので、エンジン回転数が考慮されることなく発進クラッチの発進制御が実行される場合に比して、発進クラッチの発進制御よるエンジン負荷の増大に起因してエンジン回転数が過剰に低下する虞れを確実に低減することができる。
【0009】
上記請求項2の構成によれば、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数に基づいて発進クラッチが非係合状態より係合状態へ発進制御されるので、エンジン回転数に基づくことなく発進クラッチの発進制御が実行される場合に比して、発進クラッチの発進制御よるエンジン負荷の増大に起因してエンジン回転数が過剰に低下する虞れを確実に低減することができる。
【0010】
また上記請求項3の構成によれば、発進制御開始直前のエンジン回転数と現在のエンジン回転数との大小関係に応じて発進制御の内容が変更されるので、発進制御開始直前のエンジン回転数と現在のエンジン回転数との大小関係に応じて発進制御をそれぞれ最適の内容にて実行することができる。
【0011】
【課題解決手段の好ましい態様】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進制御開始直前のエンジン回転数は発進制御開始直前の所定時間に亘るエンジン回転数の平均値であるよう構成される(好ましい態様1)。
【0012】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は発進制御開始直前のエンジン回転数が現在のエンジン回転数よりも大きいときには、エンジン回転数又はエンジンの出力トルクに応じた目標係合圧に基づき発進クラッチの係合圧を制御するよう構成される(好ましい態様2)。
【0013】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は現在のエンジン回転数が発進制御開始直前のエンジン回転数以上になったときには、発進クラッチの伝達トルクに応じた第一の目標係合圧と、目標係合エンジン回転数と現在のエンジン回転数との偏差に基づくフィードバック制御の第二の目標係合圧との差を目標係合圧として発進クラッチの係合圧を制御するよう構成される(好ましい態様3)。
【0014】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は発進制御が開始された時点より所定の時間が経過していないときには、エンジン回転数又はエンジンの出力トルクに応じた目標係合圧に基づき発進クラッチの係合圧を制御するよう構成される(好ましい態様4)。
【0015】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は発進制御が開始された時点より所定の時間が経過し且つ現在のエンジン回転数が発進制御開始直前のエンジン回転数以上である場合に、第一の目標係合圧と第二の目標係合圧との差を目標係合圧として発進クラッチの係合圧を制御するよう構成される(好ましい態様5)。
【0016】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は発進制御を実行する際には変速機のアップシフトを禁止するよう構成される(好ましい態様6)。
【0017】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は発進制御を実行する際に駆動輪の駆動スリップが生じる虞れがあるときには、エンジン制御装置に対しエンジンの出力トルクの低下要求を出力するよう構成される(好ましい態様7)。
【0018】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記1乃至3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置はイグニッションスイッチのON後最初に発進制御を実行する際には発進制御の目標係合圧を低減補正するよう構成される(好ましい態様8)。
【0019】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記1乃至3の構成に於いて、発進クラッチ制御装置はシフトレンジが非走行レンジにあり且つブレーキ装置が作動されている場合にエンジン制御装置に対しエンジンの始動を許可するよう構成される(好ましい態様9)。
【0020】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様9の構成に於いて、発進クラッチ制御装置はシフトレンジが非走行レンジにあり且つブレーキ装置が作動されており且つ運転者が運転席に着座している場合にエンジン制御装置に対しエンジンの始動を許可するよう構成される(好ましい態様10)。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3又は5の構成に於いて、発進クラッチ制御装置は、機関負荷率に基づき演算される発進クラッチの目標伝達トルクと、演算された目標伝達トルクとトルクセンサの出力との偏差に基づくフィードバック制御量と、発進クラッチに対する指示係合圧と実係合圧との差との和を第一の目標係合圧として演算するよう構成される(好ましい態様11)。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進クラッチはエンジンと変速機との間の動力伝達経路に位置するよう構成される(好ましい態様12)。
【0023】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様12の構成に於いて、変速機は無段変速機構と前後進切換装置とを含み、発進クラッチは前後進切換装置の前進クラッチであるよう構成される(好ましい態様13)。
【0024】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様13の構成に於いて、変速機は無段変速機構と前後進切換装置とを含み、発進クラッチはエンジンと前後進切換装置との間の動力伝達経路に位置するよう構成される(好ましい態様14)。
【0025】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進クラッチは変速機と駆動輪との間の動力伝達経路に位置するよう構成される(好ましい態様15)。
【0026】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、発進クラッチは自動変速機の発進クラッチであるよう構成される(好ましい態様16)。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施の形態(以下単に実施形態という)について詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明による発進クラッチ制御装置の実施形態が適用される車輌の動力伝達装置を示すスケルトン図である。尚簡略化の目的で、図1に於いては前後進切換装置の上半分のみが図示されている。
【0029】
図1に於いて、動力伝達装置10は例えば横置き型FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車に好適なものとして構成されており、走行用動力源としての内燃機関であるエンジン12を備えている。エンジン12の出力は、前後進切換装置16、ベルト式無段変速機構構(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22へ伝達され、更に図1には示されていない一対のユニバーサルジョイントを介して左右の駆動輪24L、24Rへ伝達される。
【0030】
前後進切換装置16は車輌の前後進を切換える装置であり、図示の実施形態に於いてはダブルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されている。エンジン12のクランク軸12aに連結された前後進切換装置16の入力軸26はサンギヤ16sに連結され、ベルト式無段変速機構構18の入力軸36はキャリア16cに連結されている。
【0031】
キャリア16cとサンギヤ16sとの間には油圧式の前進クラッチ38が配設されており、図には示されていないが前進クラッチ38のクラッチ板は油圧シリンダのピストンにより駆動され、油圧シリンダのピストンは戻しばねにより前進クラッチ38の解放位置へ付勢されている。特に図には示されていないシフトレバーがD、2、Lレンジなどの前進走行レンジに設定されると、油圧シリンダの油圧Pcltが油圧制御回路39によって増大され、ピストンが戻しばねのばね力に抗して前進クラッチ38の係合位置へ向けて駆動され、これにより前進クラッチ38が係合せしめられて入力軸26が入力軸36に直結され、前後進切換装置16が入力軸36と一体に回転することにより前進方向の駆動力がベルト式無段変速機構構18等を介して駆動輪24R、24Lへ伝達される。
【0032】
これに対しシフトレバーが後進走行レンジであるRレンジに設定されると、リングギヤ16rとハウジングの如き非回転部材との間に配設された油圧式の後進ブレーキ40が油圧制御回路39によって制御されることにより係合せしめられリングギヤ16rが非回転部材に連結されると共に、前進クラッチ38が油圧制御回路39によって制御されることにより解放され、入力軸36は入力軸26とは逆方向へ回転し、これにより後進方向の駆動力がベルト式無段変速機構構18等を介して駆動輪24R、24Lへ伝達される。尚図示の実施形態に於いては、後述の如く、前進クラッチ38は発進クラッチとして使用される。
【0033】
ベルト式無段変速機構18は、入力軸36に設けられた有効径が可変の入力側可変プーリ装置42と、出力軸44に設けられた有効径が可変の出力側可変プーリ装置46と、それらの可変プーリ装置42、46のV溝に巻き掛けられた伝動ベルト48とを有し、動力伝達部材として機能する伝動ベルト48と可変プーリ装置42、46のV溝の壁面との間の摩擦力を介して動力の伝達を行うようになっている。
【0034】
入力側可変プーリ装置42はそのV溝幅、即ち伝動ベルト48の巻き掛かり径(有効径)を変更するための入力側油圧シリンダ42cを有し、油圧シリンダ42cに対し給排される作動油の油圧Paは油圧制御回路52によって制御され、これにより可変プーリ装置42のV溝幅が変化して伝動ベルト48の巻き掛かり径が変更され、変速比γ(=入力側回転速度Nin/出力側回転速度Nout)が無段階に連続的に変化せしめられる。
【0035】
同様に、出力側可変プーリ装置46はそのV溝幅を変更するための出力側油圧シリンダ46cを有し、油圧シリンダ46c内の油圧Pbも油圧制御回路52により調圧され、これにより伝動ベルト48に対する出力側可変プーリ装置46の挟圧力が調節されることによって伝動ベルト48の張力が調節され、伝動ベルト48が可変プーリ装置42及び46に対し滑ることが防止される。尚油圧制御回路39及び52は電子制御装置54により制御される。
【0036】
電子制御装置54には回転数センサ60により検出されたエンジン回転数Neを示す信号、スロットル開度センサ62により検出されたスロットル開度θを示す信号、車速センサ64により検出された車速Vを示す信号、アイドルスイッチ(SW)66よりのON−OFF信号がエンジン制御装置68を介して入力され、制動制御に関する情報が制動制御装置70より入力される。
【0037】
また電子制御装置54には回転数センサ72により検出されたベルト式無段変速機構18の入力軸36の回転速度Ninを示す信号、シフトポジション(SP)センサ74により検出されたシフトレンジを示す信号、トルクセンサ76により検出された入力軸36のトルク(前進クラッチ38の出力軸のトルク)Toutを示す信号、圧力センサ78により検出された前進クラッチ38の油圧シリンダの油圧Pcltを示す信号、温度センサ80により検出された前進クラッチ38のクラッチオイルの温度Toilを示す信号、当技術分野に於いて公知の路面μセンサ82より走行路の摩擦係数が低摩擦係数であるか否かを示す信号、図には示されていないが運転席に設けられた荷重センサの如き着座センサ84より運転者が運転席に着座しているか否かを示す信号が入力される。
【0038】
電子制御装置54は図には示されていない前進クラッチ制御ルーチンに従って前進クラッチ38の係合状態を制御すると共に、図には示されていない前後進切換制御ルーチンに従って前進クラッチ38及び後進ブレーキ40の係合状態を制御する。また電子制御装置54は図には示されていない変速制御ルーチンに従ってベルト式無段変速機構18の入力側回転速度Ninが車輌の走行状態により定まる目標入力側回転速度Nintになるよう制御する。
【0039】
特に図示の実施形態に於いては、後に詳細に説明する如く、電子制御装置54は、シフトポジションセンサ74により検出されたシフトレンジがNレンジ、Pレンジ又はRレンジにあるときには前進クラッチ38を解放するが、シフトレンジがDレンジの如き前進走行レンジにあるときには、原則としてスロットル開度θに基づき前進クラッチ38の目標伝達トルクTclttを演算すると共に、温度センサ80により検出された前進クラッチ38のオイルの温度Toilに基づき係数αを演算し、下記の式1に従って目標伝達トルクTclttを達成するに必要な目標伝達トルク発生油圧Pclttを演算する。尚下記の式1に於いて、係数Aは前進クラッチ38の油圧シリンダの断面積であり、Wは前進クラッチ38の戻しばねの荷重である。
Pcltt=(α・Tcltt+W)/A ……(1)
【0040】
また電子制御装置54は、トルクセンサ76により検出された出力トルクToutと目標伝達トルクTclttとの偏差ΔTp(=Tout−Tcltt)に基づきその積分値ΔTi及び微分値ΔTdを演算し、Kp、Ki、Kdをそれぞれ比例項の係数、積分項の係数、微分項の係数とする下記の式2に従ってPIDフィードバック制御量Ppidを演算する。
Ppid=Kp・ΔTp+Ki・ΔTi+Kd・ΔTd ……(2)
【0041】
そして電子制御装置54は、油圧制御回路39に対する指示油圧Pcltaと圧力センサ78により検出された実油圧PcltとのオフセットΔPclt(=Pclta−Pclt)を演算すると共に、下記の式3に従って目標伝達トルク発生油圧PclttとPIDフィードバック制御量PpidとオフセットΔPcltとの和として指示油圧(第一の目標係合圧)Pclta1を演算し、該指示油圧Pcltaに基づき前進クラッチ38の油圧シリンダの油圧(係合圧)を制御する。
Pclta1=Pcltt+Ppid+ΔPclt ……(3)
【0042】
また電子制御装置54は、図2に示されたフローチャートに従って発進制御、即ち前進クラッチ38の係合圧を徐々に増大させてエンジン12の駆動トルクを駆動輪へ伝達させ車輌を発進させる制御を行う。特に電子制御装置54は、発進制御開始条件が成立すると、即ちシフトポジションセンサ74により検出されたシフトレンジが走行レンジにあり且つアイドルスイッチ66がOFF状態になると、それまでのN(正の一定の整数)サイクルに亘るエンジン回転数Neの平均値Neaを演算する。
【0043】
そして電子制御装置54は、発進制御が開始された時点より所定の時間ΔT(正の定数)が経過し且つNea≦Neであるか否かを判別し、所定の時間ΔT(正の定数)が経過し且つNea≦Neである条件が成立していないときには、エンジン回転数Neが高いほど低い値になるようエンジン回転数Neに基づき目標係合圧Pcltneが演算され、該目標係合圧Pcltneを目標係合圧Pcltaとして前進クラッチ38の係合圧を制御する。
【0044】
これに対し所定の時間ΔT(正の定数)が経過し且つNea≦Neである条件が成立しているときには、電子制御装置54は、機関負荷率としてのスロットル開度θに基づき図には示されていないマップより前進クラッチ38の目標係合回転数Net(図5に示されたグラフに於いてエンジントルクTeが最大になるエンジン回転数Ne)と現在のエンジン回転数Neとの偏差ΔNeに基づくフィードバック制御の目標係合圧(第二の目標係合圧)Pclta2を演算し、第一の目標係合圧Pclta1と第二の目標係合圧Pclta2との差を目標係合圧Pcltaとして前進クラッチ38の係合圧を制御する。
【0045】
また電子制御装置54は、発進制御を実行する際に駆動輪の駆動スリップが生じる虞れがあるか否かを判定し、駆動輪の駆動スリップが生じる虞れがあるときには、エンジン制御装置68に対しエンジン12の出力トルクを低減する要求信号を出力する。
【0046】
また電子制御装置54は、イグニッションスイッチがONになった後最初に発進制御を実行する際には、発進制御の目標係合圧Pcltaを低減補正し、クラッチオイルの粘性が高いことに起因して前進クラッチ38の係合圧が過剰になることを防止する。
【0047】
更に電子制御装置54は、シフトレンジが非走行レンジにあり且つブレーキ装置が作動されており且つ運転者が運転席に着座している場合にエンジン制御装置68に対しエンジン12の始動を許可する信号を出力するが、上記条件の何れかが充足されていないときにはエンジン制御装置68に対しエンジン12の始動を禁止する信号を出力することにより、前進クラッチ38の解放が不十分であることによりエンジン12の始動時に車輌が急発進する虞れを低減する。
【0048】
エンジン制御装置68は、図には示されていないアクセルペダルの踏込量等に応じて燃料噴射装置等を制御することによりエンジン12の出力を制御し、特に電子制御装置54よりエンジン12の始動禁止信号が入力されているときには、エンジン12の始動を行わず、また電子制御装置54よりエンジン12の出力トルク低減要求信号が入力されているときには、エンジン12の出力トルクを低減する。
【0049】
更に制動制御装置70は、図には示されていない圧力センサにより検出されるマスタシリンダ圧力等に基づき図には示されていない制動力制御用の油圧制御回路を制御することにより各車輪の制動力を運転者の制動要求に応じて制御すると共に、何れかの車輪の制動スリップが過剰であるときには、当該車輪の制動スリップが適正な値になるよう油圧制御回路を制御することによって当該車輪の制動圧を増減制御するアンチスキッド制御(所謂ABS制御)を行う。また制動制御装置70は、電子制御装置54より制動圧の増大要求信号が入力されているときには制動圧を増大補正し、逆に電子制御装置54より制動圧の低下要求信号が入力されているときには制動圧を低下補正する。
【0050】
尚図には詳細に示されていないが、電子制御装置54、エンジン制御装置68、制動制御装置70はCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有しこれらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路を含む一般的な構成のものであってよい。
【0051】
次に図2及び図3に示されたフローチャートを参照して、図示の実施形態に於いて前進クラッチ38を発進クラッチとして行われる発進制御について説明する。尚図2及び図3に示されたフローチャートによる発進制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0052】
まずステップ10に於いてはシフトポジションセンサ74により検出されたシフトポジションがDレンジの如き走行レンジであるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ50へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ20へ進む。
【0053】
ステップ20に於いてはアイドルスイッチ66がOFF状態にあるか否かの判別、即ち運転者により図には示されていないアクセルペダルが踏み込まれているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ50へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ30へ進む。
【0054】
尚図には示されていないイグニッションスイッチ(IGSW)の閉成後最初にステップ20に於いて肯定判別が行われたときには、それまでのN(正の一定の整数)サイクルに亘るエンジン回転数Neの平均値Neaが発進制御開始直前の平均エンジン回転数として演算され、RAMに記憶される。
【0055】
ステップ30に於いては例えば前進クラッチ38の入力回転数Neと出力回転数Ncout(=Nin)との比較又は前進クラッチ38の係合圧Pcltに基づき、前進クラッチ38の係合が完了しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ60へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ40へ進む。
【0056】
ステップ40に於いては車速Vが比較的小さい正の基準値Vo以下であり且つエンジン回転数Neが基準値Neo(正の定数)以下であるか否かの判別、即ち車速が0又は低速域にあり且つエンジン回転数Neが低下した状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ50に於いて前進クラッチ38の発進制御が終了され、肯定判別が行われたときにはステップ60に於いて無段変速機18のアップシフトが禁止される。
【0057】
尚ステップ60に於ける無段変速機18のアップシフトの禁止は省略されてもよい。またエンジン12がリーンバーンエンジンや筒内噴射エンジンである場合には、このステップ60に於いてエンジン制御装置68に対しリッチスパイク運転モードへの切換え禁止要求信号が出力されることにより、エンジン12の出力の急激な増大変化が防止されることが好ましい。
【0058】
ステップ70に於いては路面μセンサ82の検出結果に基づき走行路が例えば雨や雪による低摩擦係数の路面であるか否かの判別、即ち駆動輪の駆動スリップが生じ易い状況であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ80へ進む。
【0059】
ステップ80に於いては運転者により図には示されていないアクセルペダル及びブレーキペダルの両者が踏み込まれた所謂両踏み状態により車輌がストール状態にあるか否かの判別、即ちアイドルスイッチ66がOFF状態にあり且つ図には示されていないブレーキスイッチがON状態にあり且つ車速Vが実質的に0であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ90へ進む。
【0060】
ステップ90はエンジン12の排気量が高い車輌の場合に実行され、このステップ90に於いてはスロットル開度θが基準値以上であり駆動輪の駆動スリップが発生する虞れがある状況であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100に於いてエンジン回転数Neが過剰になったり駆動輪の駆動スリップが生じたりしない程度にエンジン12の出力トルクが低減され、否定判別が行われたときにはステップ110へ進む。尚この場合エンジン12の出力トルクの低減量は例えば前進クラッチ38のオイルの温度Toilに応じて可変設定されてよい。
【0061】
ステップ110に於いては発進クラツチ38について発進制御が開始された時点よりエンジン回転数Neを十分に上昇させるに必要な所定の時間ΔT(正の定数)が経過したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ130へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ120へ進む。
【0062】
ステップ120に於いては発進制御開始直前の平均エンジン回転数Neaが現在のエンジン回転数Ne以下であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ140へ進み、否定判別が行われたときにはステップ130に於いてエンジン回転数Neが高いほど低い値になるようエンジン回転数Neに基づき目標係合圧Pcltneが演算され、前進クラッチ38の目標係合圧Pcltaが目標係合圧Pcltneに設定される。
【0063】
ステップ140に於いては上記式3に従って第一の目標係合圧Pclta1が演算され、目標係合エンジン回転数Netとエンジン回転数Neとの偏差ΔNeに基づくフィードバック制御による第二の目標係合圧Pclta2が演算され、前進クラッチ38の目標係合圧PcltaがPclta1とPclta2との差に設定される。
【0064】
尚ステップ130及び140に於ける目標係合圧Pcltaは、その時々のエンジントルクに応じた前進クラッチ38の伝達トルク容量以下の係合圧になるよう上限ガードされ、また前進クラッチ38によるトルクの伝達が実質的に行われない下限圧力にて下限ガードされる。またステップ140に於いてはβを前進クラッチ38の伝達トルク容量として前進クラッチ38の目標係合圧Pcltaが下記の式4に従って演算されることにより、遠心クラッチを模擬する係合圧に設定されてもよい。
Pclta=β・Ne2 ……(4)
【0065】
ステップ150に於いては上記ステップ30の場合と同様、前進クラッチ38の係合が完了しているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ160に於いて前進クラッチ38の係合完了記憶フラグFfが1にセットされた後ステップ200へ進み、否定判別が行われたときにはステップ170へ進む。
【0066】
ステップ170に於いては前進クラッチ38の係合完了記憶フラグFfが0であるか否かの判別、即ちイグニッションスイッチON後最初の発進制御時であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ180に於いて前進クラッチ38のオイルの温度Toilに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより補正係数Koが演算されると共に、前進クラッチ38の目標係合圧PcltaがKo・Pcltaに補正され、肯定判別が行われたときにはステップ190へ進む。
【0067】
ステップ190に於いては前進クラッチ38のオイルの温度Toilに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより補正係数Koが演算されると共に、Kfを初回発進制御の補正係数(1よりも小さい正の定数)として前進クラッチ38の目標係合圧PcltaがKo・Kf・Pcltaに補正され、ステップ200に於いては前進クラッチ38の係合圧Pcltがステップ180又は190に於いて演算された目標係合圧Pcltaになるようフィードバック制御される。
【0068】
次に図4に示されたフローチャートを参照して、図示の実施形態に於けるエンジン12の始動許可制御について説明する。尚図4に示されたフローチャートによる始動許可制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰り返し実行され、イグニッションスイッチの開成後所定の時間継続して実行される。
【0069】
まずステップ210に於いては図には示されていないイグニッションスイッチ(IGSW)がONであるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ220に於いてエンジン12の始動許可フラグFeが0にリセットされ、フラグFeが0であること(エンジン12の始動を禁止すること)を示す信号がエンジン制御装置68へ出力されると共に、制動制御装置70に対し制動圧を低下させて車輪の制動力を低下すべき指令信号が出力され、肯定判別が行われたときにはステップ230へ進む。
【0070】
ステップ230に於いてはエンジン12がまだ始動されておらず停止状態にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図4に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ240へ進む。
【0071】
ステップ240に於いてはシフトポジションがNレンジ又はPレンジにあるか否かの判別、即ち非走行レンジにあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図4に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ250へ進む。
【0072】
ステップ250に於いては制動制御装置70よりの情報に基づき図には示されていないブレーキペダルが踏み込まれ若しくはパーキングブレーキが作動されているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図4に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ260へ進む。
【0073】
ステップ260に於いては着座センサ84により運転者が運転席に着座していることが検出されているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図4に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ270に於いてエンジン12の始動許可フラグFeが1にセットされ、フラグFeが1であること(エンジン12の始動が許可されること)を示す信号がエンジン制御装置68へ出力されると共に、制動制御装置70に対し制動圧を増大させて車輪の制動力を増加すべき旨の指令信号が出力される。
【0074】
かくして図示の実施形態によれば、発進制御開始条件が成立すると、即ちシフトポジションが走行レンジにあり且つアイドルスイッチ66がOFF状態にあると、ステップ10及び20に於いて肯定判別が行われ、ステップ110以降の発進制御が実行される。
【0075】
特に図示の実施形態に於いては、発進制御が開始された時点よりエンジン回転数Neを十分に上昇させるに必要な所定の時間ΔTが経過し且つ発進制御開始直前の平均エンジン回転数Neaが現在のエンジン回転数Ne以下であるときには、前進クラッチ38の係合制御によりエンジン回転数Neが過剰に低下する虞れが低いので、ステップ110及び120に於いて肯定判別が行われ、ステップ140に於いて前進クラッチ38の係合圧Pcltが前進クラッチ38の目標伝達トルクTclttに基づく第一の目標係合圧Pclta1と、目標係合エンジン回転数Netとエンジン回転数Neとの偏差ΔNeに基づくフィードバック制御による第二の目標係合圧Pclta2との差に基づいて制御される。
【0076】
これに対し発進制御が開始された時点より所定の時間ΔTが経過していない場合や発進制御開始直前の平均エンジン回転数Neaが現在のエンジン回転数Neよりも大きいときには、前進クラッチ38の係合圧の増大によりエンジン回転数Neが過剰に低下する虞れがあるので、ステップ110又は120に於いて否定判別が行われ、ステップ130に於いてエンジン回転数Neが高いほど低い値になるようエンジン回転数Neに基づき目標係合圧Pcltneが演算され、前進クラッチ38の目標係合圧Pcltaが目標係合圧Pcltneに基づいて制御される。
【0077】
従って発進制御開始直前のエンジン回転数及びその後のエンジン回転数に応じて前進クラッチ38の係合圧Pcltを最適に制御することができ、これにより発進制御に起因してエンジン回転数Neが過剰に低下することを確実に防止しつつ車輌を違和感なく発進させることができる。
【0078】
また図示の実施形態によれば、前進クラッチ38の係合完了後であっても、車速Vが0又は低速域にあり且つエンジン回転数Neが低下した状況であるときには、ステップ30及び40に於いて肯定判別が行われ、ステップ60以降が実行されるので、例えばアクセルペダルとブレーキペダルの両踏みや登坂路走行等に起因して車速V及びエンジン回転数Neが低下した場合にも前進クラッチ38の発進制御が行われ、前進クラッチ38に適度の滑りが与えられ、従ってかかる状況に於けるエンジン回転数Neの過剰低下を確実に防止することができる。
【0079】
また図示の実施形態によれば、前進クラッチ38について発進制御が実行されるときには、ステップ60に於いて無段変速機18のアップシフトが禁止されるので、無段変速機18のアップシフトに起因して前進クラッチ38の係合が遅れることを防止し、これにより発進制御を速やかに完了させることができる。またステップ60に於いて上述の如くエンジン制御装置68に対しリッチスパイク運転モードへの切換え禁止要求信号が出力される場合には、エンジン12の出力の急激な増大変化及びこれに起因するショックの発生を確実に防止することができる。
【0080】
また図示の実施形態によれば、ステップ70及び90に於いて発進制御が実行される際に駆動輪の駆動スリップが生じる虞れがあるか否かが判定され、またステップ80に於いてエンジンの出力が無駄に消費される状況であるか否かが判定され、これらの場合にはステップ100に於いてエンジン制御装置68に対しエンジン12の出力トルクを低減する要求信号が出力するされるので、駆動輪の駆動スリップに起因して車輌の発進が適正に行われなくなったりエンジンの出力が無駄に消費されたり前進クラッチ38の摩擦材が早期に摩耗することを効果的にに防止することができる。
【0081】
また一般に、前進クラッチ38のオイルの温度Toilが低くその粘性が高いときには、過渡的な係合圧の制御の応答性が悪いが、定常的な係合圧の制御に於いては実際の係合圧が目標係合圧に比して高くなり易い。そのため過渡的な係合圧の制御の場合にはオイルの温度Toilが低くいほど高くなるよう目標係合圧を補正し、定常的な係合圧の制御の場合にはオイルの温度Toilが低くいほど低くなるよう目標係合圧を補正することが従来より行われている。
【0082】
しかし前進クラッチ38の油圧制御装置36に組み込まれているピストンやアキュムレータなどの摺動部の抵抗は2回目以降の発進制御時に比して初回の発進制御時に高いため、上記オイルの温度Toilに基づく目標係合圧の補正のみによってはこの摺動部の抵抗に起因する目標係合圧と実係合圧との偏差を十分に補償することができない。
【0083】
図示の実施形態によれば、イグニッションスイッチがONになった後最初に発進制御を実行する際には、ステップ150に於いて否定判別が行われると共にステップ170に於いて肯定判別が行われ、ステップ190に於いて発進制御の目標係合圧Pcltaがオイルの温度Toilに基づく補正係数Koに加えて補正係数Kfによっても低減補正されるので、クラッチオイルの粘性が高いことに起因して前進クラッチ38の係合圧が過剰になること及びこれに起因してエンジン回転数Neが過剰に低下することを確実に防止することができる。
【0084】
また図示の実施形態によれば、車輌が停止状態にあり(ステップ230)且つシフトレンジが非走行レンジにあり(ステップ240)且つブレーキ装置が作動されており(ステップ250)且つ運転者が運転席に着座している場合(ステップ260)にエンジン制御装置68に対しエンジン12の始動を許可する信号が出力されるが、上記条件の何れかが充足されていないときにはエンジン制御装置68に対しエンジン12の始動を禁止する信号が出力されるので、前進クラッチ38の解放が不十分である状況に於いてエンジン12が始動され車輌が急発進することを確実に防止することができる。
【0085】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0086】
例えば上述の実施形態に於いては、ステップ110及び120に於いて発進制御開始直前の平均エンジン回転数Nea及び現在のエンジン回転数Neに基づき、前進クラッチ38の係合圧の増大によりエンジン回転数Neが過剰に低下する虞れがあるか否かが判定されるようになっているが、前進クラッチ38の係合圧の増大によりエンジン回転数Neが過剰に低下する虞れがあるか否かが例えば発進制御開始直前のエンジン回転数及びその後のエンジン回転数の変化により判定される構成の如く、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数を考慮することにより、前進クラッチ38の係合圧の増大によりエンジン回転数Neが過剰に低下する虞れが低減されるよう修正されてもよい。
【0087】
また上述の実施形態に於いては、ステップ110又は120に於いて否定判別が行われたときには、ステップ130に於いてエンジン回転数Neが高いほど低い値になるようエンジン回転数Neに基づき目標係合圧Pcltneが演算され、前進クラッチ38の目標係合圧Pcltaが目標係合圧Pcltneに基づいて制御されるようになっているが、エンジン12の出力トルクTeが高いほど高い値になるよう出力トルクTeに基づき目標係合圧Pcltetが演算され、前進クラッチ38の目標係合圧Pcltaが目標係合圧Pcltetに基づいて制御されるよう修正されてもよい。
【0088】
また上述の実施形態に於いては、ステップ230〜260の全ての条件が成立する場合にエンジン12の始動が許可されるようになっているが、これらの条件の何れか、例えばステップ260の判別が省略されてもよい。
【0089】
また上述の実施形態に於いては、発進クラッチとしての前進クラッチ38は駆動源としてのエンジン12と変速機である無段変速機構18との間に設けられているが、発進クラッチは変速機と駆動輪との間に設けられてもよく、その場合には変速機の変速比をγとして上記式1は下記の式5に置き換えられる。
Pcltt=(α・Tcltt・γ+W)/A ……(5)
【0090】
また上述の実施形態に於いては、発進クラッチは前後進切換装置16の前進クラッチ38であるが、発進クラッチは前後進切換装置16の前進クラッチ38とは独立にエンジン12と前後進切換装置16との間又は変速機と駆動輪との間に設けられてもよい。
【0091】
また上述の実施形態に於いては、変速機構はベルト式の無段変速機構18であるが、変速機構は例えばトロイダルコーン式の無段変速機構の如く当技術分野に於いて公知の任意の無段変速機構であってもよく、また変速機は自動変速機であってもよく、特に変速機が自動変速機である場合には、発進クラッチは自動変速機の発進クラッチであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による発進クラッチ制御装置の実施形態が適用される車輌の動力伝達装置を示すスケルトン図である。
【図2】図1に示された前進クラッチを発進クラッチとして行われる発進制御ルーチンの要部を示すフローチャートである。
【図3】図1に示された前進クラッチを発進クラッチとして行われる発進制御ルーチンの残りの部分を示すフローチャートである。
【図4】図示の実施形態に於けるエンジンの始動許可制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】エンジン回転数NeとエンジントルクTeとスロットル開度θとの間の関係を示すグラフである。
【図6】前進クラッチのオイルの温度Toilと前進クラッチの目標係合圧Pcltaに対する補正係数Koとの間の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
12…エンジン
14…トルクコンバータ
16…前後進切換装置
18…ベルト式無段変速機構
39、52…油圧制御回路
54…電子制御装置
60…回転数センサ
62…スロットル開度センサ
64…車速センサ
66…アイドルスイッチ
68…エンジン制御装置
70…制動制御装置
72…回転数センサ
74…シフトポジションセンサ
76…トルクセンサ
78…圧力センサ
80…温度センサ
82…μセンサ
84…着座センサ
Claims (3)
- 発進クラッチを非係合状態より係合状態へ発進制御する発進クラッチ制御装置に於いて、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数を考慮して前記発進クラッチの非係合状態より係合状態への発進制御を行うことを特徴とする発進クラッチ制御装置。
- 発進クラッチを非係合状態より係合状態へ発進制御する発進クラッチ制御装置に於いて、発進制御開始直前のエンジン回転数及び現在のエンジン回転数に基づいて前記発進クラッチの非係合状態より係合状態への発進制御を行うことを特徴とする発進クラッチ制御装置。
- 発進制御開始直前のエンジン回転数と現在のエンジン回転数との大小関係に応じて前記発進制御の内容を変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の発進クラッチ制御装置。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2008075838A (ja) * | 2006-09-25 | 2008-04-03 | Jatco Ltd | 発進摩擦要素制御装置 |
CN112757913A (zh) * | 2021-02-01 | 2021-05-07 | 海马汽车有限公司 | 一种行驶控制方法、装置及车辆 |
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2002
- 2002-06-20 JP JP2002179959A patent/JP2004019910A/ja active Pending
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2008075838A (ja) * | 2006-09-25 | 2008-04-03 | Jatco Ltd | 発進摩擦要素制御装置 |
CN112757913A (zh) * | 2021-02-01 | 2021-05-07 | 海马汽车有限公司 | 一种行驶控制方法、装置及车辆 |
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