JP2004052643A - 車両のニュートラル制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】ニュートラル制御の開始時や終了時に、エンジン負荷の変化に起因してエンジンが吹き上がったりエンジン回転速度が落ち込んだりしてショックが発生することを防止する。
【解決手段】ニュートラル制御の開始時(時間t2 )には所定の開始タイミング時間tiscsに達した時にISCバルブを閉じ制御してエンジン出力を低減する一方、ニュートラル制御の終了時(時間t5 )には所定の終了タイミング時間tisceに達した時にISCバルブを開き制御してエンジン出力を増大させる。これにより、ISCバルブの開度変化から実際に吸入空気量が増減してエンジン出力が変化するまでの応答性が悪くても、ニュートラル制御の開始時および終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジンの吹き上がりやエンジン回転速度NEの落ち込みが抑制される。
【選択図】 図8
【解決手段】ニュートラル制御の開始時(時間t2 )には所定の開始タイミング時間tiscsに達した時にISCバルブを閉じ制御してエンジン出力を低減する一方、ニュートラル制御の終了時(時間t5 )には所定の終了タイミング時間tisceに達した時にISCバルブを開き制御してエンジン出力を増大させる。これにより、ISCバルブの開度変化から実際に吸入空気量が増減してエンジン出力が変化するまでの応答性が悪くても、ニュートラル制御の開始時および終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジンの吹き上がりやエンジン回転速度NEの落ち込みが抑制される。
【選択図】 図8
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は車両のニュートラル制御装置に係り、特に、ニュートラル制御の開始時や終了時にエンジン負荷の変化に起因してショックが発生することを防止する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
(a) 燃料の燃焼で動力を発生するとともに吸入空気量に応じて出力が変化するエンジンと、(b) そのエンジンの出力を流体を介して駆動輪側へ伝達する流体式動力伝達装置と、(c) 動力伝達を接続、遮断するとともに、摩擦係合させられることにより動力を伝達する断続装置と、(d) 停車時に前記断続装置の係合荷重を低下させて略ニュートラル状態とする停車時ニュートラル手段と、を有する車両のニュートラル制御装置が知られている。特開平9−14431号公報に記載の装置はその一例で、変速装置の入力クラッチ(断続装置)を解放してニュートラル状態とすることにより、エンジン負荷を低減して燃費を向上させる一方、登坂路で車両が後退することを防止するために所定のブレーキ装置を作動させるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようなニュートラル制御装置においては、ニュートラル制御の開始時や終了時にエンジンの負荷が変化するため、そのエンジン負荷の変化に起因してエンジンが吹き上がったりエンジン回転速度が落ち込んだりしてショックを生じる可能性があった。アクセルOFF時のエンジン回転速度は、通常、ISCバルブ(アイドル回転速度制御弁)によって予め定められたアイドル回転速度となるように制御されるが、応答性が悪いため、負荷の変化で一時的にエンジン回転速度が変化してしまうのである。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、ニュートラル制御の開始時や終了時にエンジン負荷の変化に起因してショックが発生することを防止することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 燃料の燃焼で動力を発生するとともに吸入空気量に応じて出力が変化するエンジンと、(b) そのエンジンの出力を流体を介して駆動輪側へ伝達する流体式動力伝達装置と、(c) 動力伝達を接続、遮断するとともに、摩擦係合させられることにより動力を伝達する断続装置と、(d) 停車時に前記断続装置の係合荷重を低下させて略ニュートラル状態とする停車時ニュートラル手段と、を有する車両のニュートラル制御装置において、(e) 前記停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御の開始時および終了時の少なくとも一方で、そのニュートラル制御の開始或いは終了に拘らず前記エンジンの回転速度が略一定に維持されるように、そのニュートラル制御の開始または終了に関連して予め定められた所定のタイミングでそのエンジンの吸入空気量を増減するニュートラル時出力制御手段を有することを特徴とする。
【0006】
第2発明は、第1発明の車両のニュートラル制御装置において、前記所定のタイミングを、前記エンジンの回転速度変化に基づいて学習補正する学習手段を有することを特徴とする。
【0007】
第3発明は、第1発明または第2発明の車両のニュートラル制御装置において、前記ニュートラル時出力制御手段による前記吸入空気量の増減制御時に、前記エンジンの回転速度が略一定に維持されるように、その吸入空気量または前記断続装置の係合荷重をフィードバック制御することを特徴とする。
【0008】
【発明の効果】
このような車両のニュートラル制御装置においては、停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御の開始時および終了時の少なくとも一方で、そのニュートラル制御の開始或いは終了に拘らずエンジンの回転速度が略一定に維持されるように、そのニュートラル制御の開始または終了に関連して予め定められた所定のタイミングでエンジンの吸入空気量を増減するため、吸入空気量の増減指令から実際に吸入空気量が増減してエンジンの出力が変化するまでの応答性が悪くても、ニュートラル制御の開始時または終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジンの吹き上がりや落ち込みが抑制される。
【0009】
特に、第2発明では吸入空気量の増減制御を開始するタイミングを、前記エンジンの回転速度変化(吹き上がりや落ち込み)に基づいて学習補正するようになっているため、断続装置の摩擦係数μのバラツキやエンジンの出力特性、応答性等の個体差、経時変化などに拘らず、ニュートラル制御の開始時または終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジンの吹き上がりや落ち込みを一層効果的に抑制できる。
【0010】
第3発明では、ニュートラル時出力制御手段による吸入空気量の増減制御時に、エンジン回転速度が略一定に維持されるように吸入空気量または断続装置の係合荷重をフィードバック制御するため、断続装置の摩擦係数μのバラツキやエンジンの出力特性、応答性等の個体差、経時変化などに拘らず、ニュートラル制御の開始時または終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジンの吹き上がりや落ち込みを一層効果的に抑制できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、燃料の燃焼で動力を発生する内燃機関等のエンジンを走行用の駆動力源として備えている車両に適用されるが、電動モータなどの他の駆動力源を併せて備えているハイブリッド車両などにも適用され得る。流体式動力伝達装置としては、トルク増幅作用を有するトルクコンバータが好適に用いられるが、流体継手などの他の流体式動力伝達装置を採用することもできる。
【0012】
断続装置は、例えばクラッチやブレーキ等の油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置が好適に用いられるが、常にはダイヤフラムスプリングによって接続状態(係合状態)に保持されるとともにクラッチレリーズシリンダによって遮断(解放)される単板式の発進クラッチや、電磁力の作用で摩擦係合させられる電磁式摩擦係合装置などでも良い。
【0013】
断続装置は、例えば流体式動力伝達装置と駆動輪との間に配設された動力伝達切換機構に設けられる。動力伝達切換機構は、例えば遊星歯車式の前後進切換装置で、上記クラッチやブレーキ等の断続装置によって回転要素の連結状態が切り換えられることにより、動力伝達を遮断する遮断状態、前進走行が可能な前進駆動状態、および後進走行が可能な後進駆動状態、が成立させられるように構成される。動力伝達切換機構としては、複数の遊星歯車装置および複数のクラッチやブレーキ(断続装置)を有して、変速比が異なる複数の前進変速段を成立させることができる自動変速機でも良く、単に発進クラッチによって動力伝達が接続、遮断されるだけのものでも良いなど、種々の態様が可能である。
【0014】
停車時ニュートラル手段は、断続装置の係合荷重を略0にして完全に解放する(伝達トルクが0)ものでも良いが、所定の係合荷重でスリップ係合させるものでも良く、スリップ係合の場合は、ニュートラル制御の終了時に係合ショックを抑制しつつ断続装置を速やかに係合させることができる。断続装置のスリップ制御は、例えば励磁電流のデューティ制御などで係合油圧(係合荷重)を連続的に変化させることができるソレノイド弁やリニアソレノイド弁などの係合荷重制御装置を用いて行われる。
【0015】
ニュートラル時出力制御手段は、例えばISCバルブを開閉制御して吸入空気量を増減するように構成されるが、電子スロットル弁など他の弁装置を開閉制御するものでも良い。この吸入空気量に対応して燃料噴射量も制御され、エンジン出力が変化して、エンジン負荷の変化に起因するエンジンの吹き上がりや落ち込みが抑制される。具体的には、ニュートラル制御の開始時にはエンジン負荷が低下するため、吸入空気量を低減してエンジン出力を下げる一方、ニュートラル制御の終了時にはエンジン負荷が増大するため、吸入空気量を増加させてエンジン出力を上昇させれば良い。ニュートラル時出力制御手段は、ニュートラル制御の開始時および終了時の両方で吸入空気量を制御しても良いが、開始時および終了時の何れか一方だけで吸入空気量を制御するものでも良い。
【0016】
吸入空気量を増減する所定のタイミングは、例えばニュートラル制御の開始時には、その断続装置の解放開始(スリップ開始)に同期して吸入空気量(エンジン出力)が低下し始めるように、例えば断続装置の係合荷重の低下開始時間から所定時間tiscsだけ経過した時に吸入空気量の低下指令を出力するように構成される。また、ニュートラル制御の終了時には、断続装置の完全解放に同期して吸入空気量(エンジン出力)が元の状態まで復帰するように、例えば断続装置の係合開始時間から所定時間tisceだけ経過した時に吸入空気量の増加指令を出力するように構成される。断続装置の係合開始は、例えば係合状態に応じて回転速度が変化する所定の回転部材の回転速度変化に基づいて判断することができる。
【0017】
第2発明では、所定のタイミングすなわち上記所定時間tiscs、tisceなどを、エンジンの回転速度変化に基づいて学習補正するようになっているが、吸入空気量の増減速度(或いは変化パターン)についてもエンジンの回転速度変化に基づいて学習補正することが可能である。
【0018】
第3発明は、断続装置の係合荷重を予め定められた変化速度(変化パターン)で変化させつつ、エンジンの回転速度が略一定に維持されるように、そのエンジンの吸入空気量をフィードバック制御するか、逆に、エンジンの吸入空気量を予め定められた変化速度(変化パターン)で変化させつつ、エンジンの回転速度が略一定に維持されるように、断続装置の係合荷重をフィードバック制御するように構成される。
【0019】
また、路面勾配や車両総重量が大きい場合には、車両がずり下がり易くなるため、ニュートラル制御を終了する際のエンジンの回転速度や断続装置の係合荷重の変化速度(増加速度)を、それ等の路面勾配や車両総重量をパラメータとして、それ等が大きい程エンジン回転速度を高くし、係合荷重の増加速度を大きくすることも可能で、坂路でのニュートラル制御終了時の車両のずり下がりを防止できる。
【0020】
また、坂路でニュートラル制御が行われると車両がずり下がる可能性があるため、そのニュートラル制御時にブレーキ装置を作動させて車両のずり下がりを防止するずり下がり防止手段を設けることが望ましい。ブレーキ装置としては、油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる油圧式の摩擦係合装置、例えば動力伝達切換機構のクラッチやブレーキ、或いはドラムブレーキやディスクブレーキなどのホイールブレーキの他、回生制動でブレーキ力を発生する発電機など種々のブレーキ装置を採用できる。
【0021】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動力源としてエンジン12を備えている。エンジン12は、燃料の燃焼で動力を発生するとともに吸入空気量に応じて出力が変化する内燃機関にて構成されているとともに、そのエンジン12の出力は、流体式動力伝達装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式無段変速機18、減速歯車20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0022】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路96(図2参照)の切換弁などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。上記ポンプ翼車14pには、ベルト式無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ28が設けられている。
【0023】
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、ベルト式無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置であり、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されることにより、前後進切換装置16は前進走行用の駆動状態となって一体回転させられ、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機18側へ伝達される一方、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されることにより、前後進切換装置16は後進走行用の駆動状態となって、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力がベルト式無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断する遮断状態(ニュートラル)になる。この前後進切換装置16は動力伝達切換機構に相当する。
【0024】
上記前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、油圧制御回路96のマニュアルバルブ120(図3参照)がシフトレバー77の操作に従って機械的に切り換えられることにより、係合、解放されるようになっている。シフトレバー77は、駐車用の「P」ポジション、後進走行用の「R」ポジション、動力伝達を遮断する「N」ポジション、前進走行用の「D」ポジションおよび「L」ポジションへ操作されるようになっており、「P」ポジションおよび「N」ポジションでは、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油は何れもマニュアルバルブ120からドレーンされて共に解放される。「R」ポジションでは、モジュレータバルブ122によってモジュレータ油圧PMに調圧された作動油がマニュアルバルブ120から後進用ブレーキB1に供給されて係合させられるとともに、前進用クラッチC1内の作動油はマニュアルバルブ120からドレーンされて解放される。また、「D」ポジションおよび「L」ポジションでは、モジュレータ油圧PMに調圧された作動油がマニュアルバルブ120から前進用クラッチC1に供給されて係合させられるとともに、後進用ブレーキB1内の作動油はマニュアルバルブ120からドレーンされて解放される。
【0025】
図1に戻って、ベルト式無段変速機18は、前記入力軸36に設けられた有効径が可変の入力側可変プーリ42と、出力軸44に設けられた有効径が可変の出力側可変プーリ46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。可変プーリ42、46はそれぞれV溝幅が可変で、油圧シリンダを備えて構成されており、入力側可変プーリ42の油圧シリンダの油圧が油圧制御回路96によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、出力側可変プーリ46の油圧シリンダの油圧は、伝動ベルト48が滑りを生じないように油圧制御回路96によって調圧制御される。
【0026】
図2は、図1のエンジン12やベルト式無段変速機18などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、電子制御装置60には、エンジン回転速度センサ62、タービン回転速度センサ64、入力軸回転速度センサ65、車速センサ66、アイドルスイッチ付きスロットルセンサ68、冷却水温センサ70、油温センサ72、アクセル操作量センサ74、フットブレーキスイッチ76、レバーポジションセンサ78、路面勾配センサ80、乗車人数センサ82などが接続され、エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NE、タービン軸34の回転速度(タービン回転速度)NT、入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)NIN、車速V、電子スロットル弁90の全閉状態(アイドル状態)およびその開度(スロットル弁開度)θTH、エンジン12の冷却水温TW 、ベルト式無段変速機18等の油圧制御回路96の油温TOIL 、アクセルペダル等のアクセル操作部材の操作量(アクセル操作量)Acc、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無、シフトレバー77のレバーポジション(操作位置)PSH、路面勾配Φ、乗車人数M、などを表す信号が供給されるようになっている。タービン回転速度NTは、前進用クラッチC1が係合させられた前進走行時には入力軸回転速度NINと一致し、車速Vは、ベルト式無段変速機18の出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTに対応する。また、アクセル操作量Accは運転者の出力要求量を表している。
【0027】
電子制御装置60は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御やベルト式無段変速機18の変速制御、ベルト挟圧力制御、ロックアップクラッチ26の係合、解放制御、などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用と変速制御用とに分けて構成される。エンジン12の出力制御は、電子スロットル弁90、燃料噴射装置92、点火装置94などによって行われ、アクセルOFF時のアイドル回転速度NEidl はISC(アイドル回転速度制御)バルブ95によって制御される。ベルト式無段変速機18の変速制御、ベルト挟圧力制御、およびロックアップクラッチ26の係合、解放制御は、何れも油圧制御回路96によって行われる。油圧制御回路96は、電子制御装置60により励磁されて油路を開閉するソレノイド弁や油圧制御を行うリニアソレノイド弁、それらのソレノイド弁から出力される信号圧に従って油路を開閉したり油圧制御を行ったりする開閉弁、調圧弁などを備えて構成されている。
【0028】
図3は、油圧制御回路96のうち前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の係合、解放制御に関する部分の油圧回路図で、前記マニュアルバルブ120の他、ガレージシフトコントロールバルブ112、ガレージシフトバルブ114を備えている。ガレージシフトコントロールバルブ112は、軸方向へ移動可能なスプール112aおよびそのスプール112aを一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング112bを備えており、電子制御装置60によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLTの出力油圧をパイロット圧として、モジュレータ油圧PMを連続的に調圧制御してガレージシフト油圧PGを出力するようになっており、このガレージシフト油圧PGがガレージシフトバルブ114およびマニュアルバルブ120を経て前進用クラッチC1へ供給されることにより、前進用クラッチC1の係合過渡油圧などが制御される。
【0029】
ガレージシフトバルブ114は、軸方向へ移動可能なスプール114aおよびそのスプール114aを一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング114bを備えており、通常の「D」ポジションでは、電子制御装置60によりソレノイド弁SLおよびDSUが共に励磁されて信号圧が出力されることにより、図の右半分に示すOFF状態に保持されてモジュレータ油圧PMをそのままマニュアルバルブ120側へ出力し、そのモジュレータ油圧PMにより前進用クラッチC1を係合状態に保持する。また、「R」ポジションでも、ガレージシフトバルブ114は図の右半分に示すOFF状態とされ、モジュレータ油圧PMがそのままマニュアルバルブ120側へ出力されて、そのモジュレータ油圧PMにより後進用ブレーキB1が係合状態に保持される。
【0030】
一方、シフトレバー77が「N」ポジションから「D」ポジションへ操作されるガレージシフト(N→Dシフト)時には、ソレノイド弁SLのみが励磁されてソレノイド弁DSUが非励磁とされることにより、ガレージシフトバルブ114は図の左半分に示すON状態となり、ガレージシフトコントロールバルブ112から出力されるガレージシフト油圧PGをマニュアルバルブ120側へ出力する。ガレージシフト油圧PGはリニアソレノイド弁SLTの出力油圧に応じて調圧されるようになっており、前進用クラッチC1は、そのガレージシフト油圧PGの調圧制御で滑らかに係合させられる。また、「D」ポジションでの停車時で、所定のニュートラル制御実行条件を満足する場合には、上記N→Dシフト時と同様にソレノイド弁DSUが非励磁とされることにより図の左半分に示すON状態となり、ガレージシフトコントロールバルブ112から出力されるガレージシフト油圧PGをマニュアルバルブ120側へ出力することにより、リニアソレノイド弁SLTの出力油圧に応じて調圧されるガレージシフト油圧PGにより、前進用クラッチC1が所定のスリップ状態とされて動力伝達が低減される。上記リニアソレノイド弁SLTおよびガレージシフトコントロールバルブ112は、前進用クラッチC1の係合油圧であるガレージシフト油圧PGすなわち係合荷重を制御する係合荷重制御装置として機能している。なお、後進走行用の「R」ポジションにおいても、N→Rシフト時にガレージシフト油圧PGにより後進用ブレーキB1を滑らかに係合させたり、所定のニュートラル制御実行条件を満足する場合に後進用ブレーキB1をスリップ状態としたりすることが可能である。
【0031】
図4は、前記電子制御装置60の信号処理によって実行される各種の機能のうち、「D」ポジションすなわち前進走行用の駆動状態、における停車時に前進用クラッチC1を所定のスリップ状態とする停車時ニュートラル制御、その停車時ニュートラル制御中に登坂路で車両が後退することを防止するヒルスタート制御、および停車時ニュートラル制御中のエンジン出力低減制御、に関する部分を説明するブロック線図で、機能的に停車時ニュートラル手段130、ヒルスタート指令手段140、およびISC閉じ制御手段150を備えており、停車時ニュートラル手段130はスウィープ手段132、フィードバック制御手段134、スリップ油圧学習手段136、および復帰制御手段138を備えている。また、ヒルスタート指令手段140は、ヒルスタート開始指令手段142およびヒルスタート終了指令手段144を備えており、ISC閉じ制御手段150は、閉じ制御開始手段152、開始タイミング学習手段154、閉じ制御終了手段156、および終了タイミング学習手段158を備えている。ISC閉じ制御手段150は、ニュートラル制御の開始時にエンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように、ISCバルブ95により吸入空気量を低減してエンジン出力を低下させる一方、ニュートラル制御の終了時にエンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように、ISCバルブ95により吸入空気量を増大させてエンジン出力を上昇させるもので、ニュートラル時出力制御手段に相当し、開始タイミング学習手段154および終了タイミング学習手段158は学習手段に相当する。
【0032】
電子制御装置60には、車輪に配設されたホイールブレーキ102(図2参照)のブレーキ力を制御するブレーキシステム100が接続されており、そのブレーキシステム100は、上記停車時ニュートラル制御の実行中に登坂路で車両が後退することを防止するため、ヒルスタート指令手段140からの指令に従ってホイールブレーキ102を作動させ、車両を停止状態に保持するずり下がり防止手段の機能を備えている。ホイールブレーキ102はブレーキ装置に相当するもので、油圧式の摩擦係合装置であり、具体的には油圧シリンダに油圧が供給されることにより摩擦材をブレーキドラムやブレーキディスクに押圧してブレーキ力を発生させるドラムブレーキやディスクブレーキなどである。ブレーキシステム100は、電子制御装置60と同様にCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。
【0033】
図5は、上記停車時ニュートラル手段130、ヒルスタート指令手段140、およびISC閉じ制御手段150の具体的な処理内容を説明するフローチャートで、ステップS2はヒルスタート開始指令手段142によって実行され、ステップS3はスウィープ手段132によって実行され、ステップS4およびS5は閉じ制御開始手段152によって実行され、ステップS6〜S8はフィードバック制御手段134によって実行され、ステップS9およびS10はスリップ油圧学習手段136によって実行され、ステップS11は開始タイミング学習手段154によって実行され、ステップS13およびS14は復帰制御手段138によって実行され、ステップS15〜S17は閉じ制御終了手段156によって実行され、ステップS18およびS19はヒルスタート終了指令手段144によって実行され、ステップS23は終了タイミング学習手段158によって実行される。また、図6は、ブレーキシステム100によって実行されるヒルスタート制御を具体的に説明するフローチャートで、図7は、開始タイミング学習手段154、終了タイミング学習手段158によって実行されるステップS11、S23の具体的内容を説明するフローチャートであり、図8は、図5〜図7のフローチャートに従って停車時ニュートラル制御、ヒルスタート制御、およびニュートラル時のエンジン出力低減制御が行われた場合の各部の変化を示すタイムチャートの一例である。上記ブレーキシステム100の信号処理によって実行される図6の各ステップR1〜R6を実行する部分はずり下がり防止手段として機能している。
【0034】
図5のステップS1では、停車時ニュートラル制御の実行開始条件が成立するか否か、具体的には例えば前後進切換装置16が前進走行用の駆動状態で、車速Vが略0で、且つフットブレーキが踏込み操作されているとともに、その状態が所定時間(例えば数秒程度)継続したか否かを判断する。前進走行用の駆動状態か否かは、例えばシフトレバー77の操作ポジションPSHが前進走行ポジション「D」または「L」であるか否かによって判断できる。そして、上記停車時ニュートラル制御の実行開始条件が成立した場合には、ステップS2でクラッチ状態信号cltmodeを「0」から「1」に切り換え、ブレーキシステム100に対してヒルスタート制御の開始を要求するとともに、ステップS3以下を実行して停車時ニュートラル制御を開始する。cltmode=1は、停車時ニュートラル制御の開始、具体的には前進用クラッチC1の解放過渡時を意味している。ブレーキシステム100は、図6のステップR1でクラッチ状態信号cltmode=1か否かを判断し、cltmode=1の場合にはステップR2を実行し、予め定められた一定のブレーキ力でホイールブレーキ102を作動させることにより、ニュートラル制御に拘らず車両を停止状態に保持する。図8の時間t1 は、「D」または「L」ポジションでの走行時にフットブレーキが踏込み操作されて車速Vが0になった時間で、時間t2 は、所定時間が経過してステップS1、更にはステップR1の判断がYES(肯定)になった時間である。
【0035】
ステップS3では、先ず前記ソレノイド弁DSUを非励磁にしてガレージシフトバルブ114を図3の左半分に示すON状態とし、ガレージシフトコントロールバルブ112から出力されるガレージシフト油圧PGがマニュアルバルブ120を経て前進用クラッチC1に供給されるようにする。その後、スリップ油圧学習値gpc1fbに所定値pc1sw2を加算してスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)を求め、そのスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)まで比較的大きな変化率で油圧指令値pc1を速やかに低下させる第1スウィープ制御を実施するとともに、そのスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)に達したら、比較的小さな変化率で油圧指令値pc1をゆっくりと低下させる第2スウィープ制御へ移行する。図8の時間t3 は、油圧指令値pc1がスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)に達した時間で、前進用クラッチC1は、第2スウィープ制御中に滑らかにスリップを開始する。
【0036】
前記リニアソレノイド弁SLTは、油圧指令値pc1に応じて励磁電流のデューティ比DSLTが制御され、ガレージシフト油圧PGが油圧指令値pc1に従って変化させられる。スリップ油圧学習値gpc1fbは、フィードバック制御時にステップS10で記憶装置98(図2参照)に記憶されたもので、前進用クラッチC1が所定のスリップ状態となるスリップ係合荷重である。スリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)は、前進用クラッチC1がスリップする直前のスリップ直前係合荷重であり、上記スリップ油圧学習値gpc1fbに加算する所定値pc1sw2は、前進用クラッチC1がスリップすることがないように予め定められて記憶装置98に記憶されている。また、油温TOIL が高いと摩擦係数μが低下してスリップし易くなり、入力トルクが大きい時にもスリップし易くなるため、所定値pc1sw2は、それ等の油温TOIL や入力トルク推定値(エンジン12のアイドル回転速度など)をパラメータとして、油温TOIL が高い程大きくなり、入力トルク推定値が大きい程大きくなるように定められている。所定値pc1sw2および第1スウィープの変化率は、ガレージシフト油圧PGのアンダーシュートで前進用クラッチC1が解放(スリップ)することがないように定められている。
【0037】
ステップS4は、上記ステップS3のスウィープ制御と並行して実行され、スウィープ制御の開始時間すなわちステップS1の判断がYESになった時間t1 からの経過時間が予め定められた開始タイミング時間tiscsに達したか否かを、タイマなどを用いて判断し、開始タイミング時間tiscsに達したらステップS5を実行して、ISCバルブ95の閉じ制御、すなわちニュートラル時のエンジン出力低減制御を開始する。ISCバルブ95の閉じ制御は、エンジン負荷が変化するニュートラル制御に拘らずエンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように、ISCバルブ95の開度を一定の変化率で予め定められた所定開度だけ閉じるもので、上記開始タイミング時間tiscsは、エンジン負荷が変化する前進用クラッチC1のスリップ開始と略同時にエンジン出力(吸入空気量)が低下し始めるように、エンジン12の出力変化の応答遅れを考慮して定められているとともに、ステップS11で実際のエンジン回転速度NEの変化に基づいて逐次学習補正される。また、油温TOIL によって作動油の粘性が変化し、油温TOIL が低い時には作動油の流動が遅くなって前進用クラッチC1のスリップ開始時間が遅くなるため、上記開始タイミング時間tiscsは、油温TOIL が低い程大きな値になるように油温TOIL をパラメータとして設定され、前記記憶装置98に記憶されている。なお、ニュートラル制御による燃費向上効果を一層高めるために、エンジン回転速度NEが通常のアイドル回転速度NEidl よりも低い回転速度となるように、ISCバルブ95の開度を制御することも可能である。
【0038】
ステップS6では、ガレージシフト油圧PGの低下で前進用クラッチC1が解放(スリップ)し始めたか否かを、例えばタービン回転速度NTが予め定められた所定値(例えば50rpm程度)以上になったか否か、等によって判断し、解放し始めたらステップS7で目標回転速度nttgetを設定するとともに、ステップS8で実際のタービン回転速度NTが目標回転速度nttgetとなるように、油圧指令値pc1すなわちデューティ比DSLTをフィードバック制御する。目標回転速度nttgetは、トルクコンバータ14の速度比e(=NT/NE)が、前進用クラッチC1が完全に解放された時よりも小さい所定値K(例えば0.9程度)となるように、エンジン回転速度NEおよび所定値Kを用いて次式(1) に従って求められる。これにより、前進用クラッチC1は所定のスリップ状態になる。図8の時間t4 は、フィードバック制御によりタービン回転速度NTが目標回転速度nttgetと略一致させられるようになった時間である。
nttget=NE×K ・・・(1)
【0039】
ステップS9では、フィードバック制御が安定状態か否かを、例えば目標回転速度nttgetとタービン回転速度NTとの偏差|nttget−NT|が予め定められた所定値fberr(例えば20〜30rpm程度)より小さいか否か、等によって判断し、安定状態でなければステップS13を実行するが、安定状態であればステップS10を実行し、その時の油圧指令値pc1をスリップ油圧学習値gpc1fbとして記憶装置98に記憶(上書き)する。また、ステップS11では、前進用クラッチC1のスリップ開始時のエンジン回転速度NEの変化に基づいて、例えば図7の(a) に示すフローチャートに従って前記開始タイミング時間tiscsを学習補正する。図7(a) のステップG1−1ではエンジン回転速度NEの吹き上がりが予め定められた所定値(例えば100rpm程度)以上か否かを判断し、所定値以上であればステップG1−3で開始タイミング時間tiscsを所定値だけ小さくして、エンジン12の出力低減タイミングを早くする。エンジン回転速度NEの吹き上がりが所定値以上でない場合は、ステップG1−2でエンジン回転速度NEが落ち込んだか否かを判断し、落ち込んだ場合はステップG1−4で開始タイミング時間tiscsを所定値だけ大きくして、エンジン12の出力低減タイミングを遅くする。また、エンジン回転速度NEの吹き上がりが所定値以下で且つ落ち込みが無い場合は、ステップG1−5を実行して、現在の開始タイミング時間tiscsを維持する。上記ステップS10、S11の学習は、一連の停車時ニュートラル制御で1回行うだけで良い。
【0040】
次のステップS12では、クラッチ状態信号cltmodeを「1」から「2」へ切り換える。cltmode=2は、前進用クラッチC1が目的とするスリップ状態まで解放されたことを意味している。また、ステップS13では、停車時ニュートラル制御の終了条件が成立するか否かを判断し、終了条件が成立するまでステップS8以下を繰り返す。ステップS13の終了条件は、運転者が車両を発進させる可能性があるか否かで、例えばフットブレーキが解除操作されるかアクセルぺダルが踏込み操作された場合、或いはフットブレーキ操作によるブレーキ力(ペダル踏力など)が低下し始めた場合などであり、終了条件が成立した場合にはステップS14で復帰制御を開始する。図8の時間t5 は、フットブレーキのOFFにより終了条件が成立した時間で、ステップS14の復帰制御では、前進用クラッチC1の急係合による駆動力変動(ショック)を抑制しながらができるだけ速やかに係合するように、油圧指令値pc1すなわちガレージシフト油圧PGを所定の変化率で上昇させることにより、その前進用クラッチC1を滑らかに係合させる。前進用クラッチC1はスリップ状態であるため、ニュートラル制御で完全に解放する場合に比較して、ショックを抑制しながら短時間で速やかに係合させることができる。
【0041】
ステップS15では、ガレージシフト油圧PGの上昇で前進用クラッチC1の係合が開始(進行)したか否かを、例えばタービン回転速度NTの変化、具体的にはニュートラル制御開始後の最大値NTmax からの低下幅(NTmax −NT)が所定値(例えば50rpm程度)より大きくなったか否か、等によって判断し、係合が進行し始めたらステップS16以下を実行する。本実施例のニュートラル制御は前進用クラッチC1をスリップ制御するものであるため、油圧指令値pc1の変化に伴ってタービン回転速度NTは直ちに変化し始め、前記時間t5 と略同時に係合が進行し始める。
【0042】
ステップS16では、前進用クラッチC1の係合開始時間すなわち上記ステップS15の判断がYESになった時間t5 からの経過時間が予め定められた終了タイミング時間tisceに達したか否かを、タイマなどを用いて判断し、終了タイミング時間tisceに達したらステップS17を実行して、ISCバルブ95の閉じ制御、すなわちニュートラル時のエンジン出力低減制御を終了する。ISCバルブ95の閉じ制御の終了は、ISCバルブ95の開度を一定の変化率で元の開度まで開くもので、上記終了タイミング時間tisceは、前進用クラッチC1の係合完了と略同時にエンジン出力(吸入空気量)が元の状態まで復帰し、前進用クラッチC1の係合に伴うエンジン負荷の変化(増加)に拘らずエンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように、エンジン12の出力変化の応答遅れを考慮して定められているとともに、ステップS23で実際のエンジン回転速度NEの変化に基づいて逐次学習補正される。また、油温TOIL によって作動油の粘性が変化し、油温TOIL が低い時には作動油の流動が遅くなって前進用クラッチC1の係合所要時間が長くなるため、上記終了タイミング時間tisceは、油温TOIL が低い程大きな値になるように油温TOIL をパラメータとして設定され、前記記憶装置98に記憶されている。
【0043】
ステップS18では、同じく前進用クラッチC1の係合開始時間すなわち上記ステップS15の判断がYESになった時間t5 からの経過時間が、ヒルスタート制御の終了処理を開始するまでの所定時間tdelhsに達したか否かをタイマなどで判断し、所定時間tdelhsに達したらステップS19でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」に切り換えて、ブレーキシステム100に対してヒルスタート制御の終了を要求する。cltmode=3は、前進用クラッチC1の所定の係合過渡時を意味しており、ブレーキシステム100は、図6のステップR3でクラッチ状態信号cltmode=3か否かを判断し、cltmode=3の場合にはステップR4を実行し、ホイールブレーキ102のブレーキ力(ブレーキ油圧)を予め定められた一定の低下速度で低下させる。図8の時間t6 は、所定時間tdelhsが経過してステップS18、更にはステップR3の判断がYESになった時間である。
【0044】
ここで、上記ステップS18の所定時間tdelhsは、前進用クラッチC1の係合完了に同期してホイールブレーキ102の作動が解除されるようにするもので、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどを抑制できるように、ホイールブレーキ102のブレーキ力の低下速度すなわちブレーキが解除されるまでの遅延時間などを考慮して、予め実験などにより設定されている。遅延時間は、本実施例では一定値が設定されるが、ヒルスタート制御時のブレーキ力(ブレーキ油圧)が変化したり、ヒルスタート終了時のブレーキ低下速度が変化したりする場合は、そのブレーキ力および低下速度から遅延時間を算出するようにしても良い。また、路面勾配Φや車両総重量W、エンジン12のトルク、油温TOIL は、登坂路での車両の後退や前進用クラッチC1の伝達トルクに影響するため、所定時間tdelhsは、それ等の路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク(回転速度NEなど)、および油温TOIL をパラメータとするマップなどにより設定されている。すなわち、路面勾配Φや車両総重量Wは、それが大きい程車両が後退し易くなるため、所定時間tdelhsは大きくされ、エンジン12のトルクについては、それが大きい程車両の後退が抑制されるため所定時間tdelhsは小さくされる。油温TOIL については、前進用クラッチC1の摩擦材の摩擦係数μは温度が高い程小さくなって滑り易くなり、登坂路で車両が後退し易くなるため、所定時間tdelhsは油温TOIL が高い程大きくされる。更に、前進用クラッチC1の係合完了時におけるホイールブレーキ102のブレーキ力(ブレーキ油圧)など、実際の制御結果に応じて、所定時間tdelhsを逐次学習補正するようになっている。上記車両総重量Wは、例えば予め設定された車両本体重量および乗車人数Mから求められる。なお、ホイールブレーキ102のブレーキ力の低下速度等の低下パターンを、上記路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、油温TOIL などをパラメータとして変化させることもでき、その場合は、その低下パターンを考慮して所定時間tdelhsを設定すれば良い。
【0045】
図5に戻って、次のステップS20では、ガレージシフト油圧PGの上昇で前進用クラッチC1の係合が完了したか否かを、例えばタービン回転速度NTと入力軸回転速度NINとの偏差|NT−NIN|が予め定められた所定値(例えば50rpm程度)より小さくなったか否か、等によって判断する。入力軸回転速度NINの代わりに、出力軸回転速度NOUTに変速比γを掛け算した値を用いることもできる。そして、前進用クラッチC1の係合が完了した場合には、ステップS21で、ソレノイド弁DSUを励磁してガレージシフトバルブ114を図3の右半分に示すOFF状態とし、モジュレータ油圧PMがガレージシフトバルブ114からマニュアルバルブ120を経て前進用クラッチC1に供給されるようにするなどの終了処理を行い、一連の停車時ニュートラル制御を終了するとともに、ステップS22でクラッチ状態信号cltmodeを「3」から「0」へ切り換える。cltmode=0は、前進用クラッチC1が係合状態であることを意味しており、ブレーキシステム100は、図6のステップR5でクラッチ状態信号cltmode=0か否かを判断し、cltmode=0の場合にはステップR6を実行し、ブレーキ油圧を解放してホイールブレーキ102を直ちに解除する。図8の時間t7 は、前進用クラッチC1の係合が完了してステップS20、更にはステップR5の判断がYESになった時間である。なお、路面勾配Φが大きい場合や変速比γが小さい場合には、前進用クラッチC1の係合完了から所定時間後にステップS22を実行してクラッチ状態信号cltmodeを「3」から「0」へ切り換え、ホイールブレーキ102を完全に解除するようにしても良い。
【0046】
また、次のステップS23では、前進用クラッチC1の係合時のエンジン回転速度NEの変化に基づいて、例えば図7の(b) に示すフローチャートに従って前記終了タイミング時間tisceを学習補正する。図7(b) のステップG2−1では、アイドルスイッチがONか否か、すなわち電子スロットル弁90が全閉か否かを判断し、アイドルONの場合にはステップG2−2でエンジン回転速度NEの落ち込みが予め定められた所定値(例えば100rpm程度)以上か否かを判断し、所定値以上であればステップG2−4で終了タイミング時間tisceを所定値だけ小さくして、エンジン12の出力増大タイミングを早くする。エンジン回転速度NEの落ち込みが所定値以上でない場合は、ステップG2−3でエンジン回転速度NEが吹き上がったか否かを判断し、吹き上がった場合はステップG2−5で終了タイミング時間tisceを所定値だけ大きくして、エンジン12の出力増大タイミングを遅くする。また、エンジン回転速度NEの落ち込みが所定値以下で且つ吹き上がりが無い場合、或いはアイドルスイッチがOFFの場合は、ステップG2−6を実行して、現在の終了タイミング時間tisceを維持する。
【0047】
なお、路面勾配Φや車両総重量Wが大きい場合には、登坂路で車両が後退し易くなるため、ニュートラル制御を終了する際のエンジン12のアイドル回転速度NEidl や前進用クラッチC1の油圧指令値pc1の変化速度(増加速度)を、それ等の路面勾配Φや車両総重量Wをパラメータとして設定することが望ましく、それ等が大きい程アイドル回転速度NEidl を高くするとともに油圧指令値pc1の変化速度を大きくすれば、大きな駆動力(クリープトルク)が得られるようになり、登坂路でのニュートラル制御終了時の車両後退が防止される。
【0048】
このように本実施例では、停車時ニュートラル手段100が、トルクコンバータ14の速度比eが所定値Kとなるように油圧指令値pc1をフィードバック制御するため、前進用クラッチC1の摩擦係数μや油圧シリンダのリターンスプリングの付勢力のバラツキ等の各部の個体差、経時変化などに拘らず常に前進用クラッチC1が所定のスリップ状態とされ、エンジン負荷が低減されて燃費が向上する。
【0049】
また、停車時ニュートラル手段100は、前進用クラッチC1が所定のスリップ状態となるスリップ油圧学習値gpc1fbに所定値pc1sw2を加算してスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)を求め、油圧指令値pc1をそのスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)まで第1スウィープ制御で速やかに低下させた後、第2スウィープ制御で低下速度を遅くしてスリップを開始させるため、前進用クラッチC1のスリップ開始に伴う駆動力変動等のショックを抑制しつつ速やかに停車時ニュートラル状態を達成することができる。その場合に、スリップ油圧学習値gpc1fbは、各部の個体差や経時変化などに拘らず前進用クラッチC1を所定のスリップ状態となるようにするフィードバック制御で得られた油圧指令値pc1であるため、そのスリップ油圧学習値gpc1fbに基づいて定められるスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)も各部の個体差や経時変化などに拘らず適切な値となり、個体差や経時変化に起因して、油圧指令値pc1がスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)に達するまでの急変化時に前進用クラッチC1がスリップし始めてショックが発生したり、逆にスリップし始める時間が遅くなって停車時ニュートラル状態になるまでの時間(タイムラグ)が長くなったりすることが防止される。
【0050】
また、本実施例ではニュートラル制御を終了して前進用クラッチC1を係合させる際に、ステップS15で前進用クラッチC1の係合状態すなわち係合開始を検出し、その係合開始から所定時間tdelhsが経過した後にステップS19でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」に切り換え、ブレーキシステム100によるヒルスタート制御を終了させるようになっており、前進用クラッチC1の係合開始は摩擦材の摩擦係数μなどを反映しているため、その摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化などに拘らずヒルスタート制御を終了するタイミングが適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが抑制される。
【0051】
また、上記所定時間tdelhsは、登坂路での車両の後退や前進用クラッチC1の伝達トルクに影響する路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、および油温TOIL をパラメータとして設定されているため、それ等の路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、および油温TOIL の相違に拘らずヒルスタート制御の終了タイミング、すなわちホイールブレーキ102のブレーキ解除のタイミングが一層適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが一層効果的に抑制される。
【0052】
一方、このようなニュートラル制御においては、前進用クラッチC1のスリップ開始時および係合時にエンジン負荷が変化するため、エンジン12の出力制御の応答性の悪さからエンジン12が吹き上がったり回転速度速度NEが落ち込んだりする恐れがあるが、本実施例では、ニュートラル制御の開始時には所定の開始タイミング時間tiscsに達した時にISCバルブ95が閉じ制御されてエンジン出力が低減される一方、ニュートラル制御の終了時には所定の終了タイミング時間tisceに達した時にISCバルブ95が開き制御されてエンジン出力が増大させられる。このため、ISCバルブ95の開度変化から実際に吸入空気量が増減してエンジン12の出力が変化するまでの応答性が悪くても、ニュートラル制御の開始時および終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジン12の吹き上がりやエンジン回転速度NEの落ち込みが抑制されて、エンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持され、エンジン12のイナーシャなどによるショックが低減される。
【0053】
特に、本実施例では、上記開始タイミング時間tiscsおよび終了タイミング時間tisceが、実際のエンジン12の回転速度変化(吹き上がりや落ち込み)に基づいて学習補正されるため、前進用クラッチC1の摩擦係数μのバラツキやエンジン12の出力特性、応答性等の個体差、経時変化などに拘らず、ニュートラル制御の開始時および終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジン12の吹き上がりやエンジン回転速度NEの落ち込みが一層効果的に低減される。
【0054】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例で前記実施例と共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0055】
図9は、前記図5のフローチャートの一部を変更したもので、前記停車時ニュートラル手段130のフィードバック制御手段134は、前記ステップS5のISC閉じ制御開始時に、そのISCバルブ95の開度が一定の変化率で低減される際に、ステップS101でエンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように油圧指令値pc1をフィードバック制御する。ISCバルブ95の閉じ制御に伴ってエンジン12の出力は低下するため、エンジン回転速度NEを略アイドル回転速度NEidl に維持するための油圧指令値pc1、すなわちガレージシフト油圧PGであって前進用クラッチC1の伝達トルクは、エンジン出力の低下に対応して低下させられ、スリップ量が増大して略ニュートラル状態になる。ステップS102では、ISCバルブ95の開度が予め定められた目標開度まで低下したか否かを判断し、目標開度まで低下したらステップS103でISCバルブ95の開度をその目標開度に固定するとともに、前記ステップS7以下を実行する。
【0056】
本実施例では、ニュートラル制御の開始時にISC閉じ制御手段150によってISCバルブ95が閉じ制御される際に、エンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように油圧指令値pc1すなわち前進用クラッチC1の伝達トルクがフィードバック制御されるため、前進用クラッチC1の摩擦係数μのバラツキやエンジン12の出力特性、応答性等の個体差、経時変化などに拘らず、ニュートラル制御の開始時のエンジン負荷の変化に起因するエンジン12の吹き上がりやエンジン回転速度NEの落ち込みが一層効果的に抑制される。
【0057】
なお、上記油圧指令値pc1をフィードバック制御する代わりに、その油圧指令値pc1を所定の変化率で変化(低下)させながら、エンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるようにISCバルブ95の開度をフィードバック制御するようにしても良い。また、前記ステップS14以下の復帰制御で前進用クラッチC1を係合させる際に、ISCバルブ95の開度を一定の変化率で変化(増大)させるとともに、エンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように油圧指令値pc1をフィードバック制御したり、油圧指令値pc1を一定の変化率で変化(増大)させるとともに、エンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるようにISCバルブ95の開度をフィードバック制御したりしても良い。
【0058】
図10は、前記図5のステップS15で係合開始判断が為された後に前記ヒルスタート終了指令手段144によって行われる処理内容の別の例を説明するフローチャートで、ステップS31でタービン回転速度NTの変化率ΔNTを求めるとともに、ステップS32で、その変化率ΔNTに基づいて前進用クラッチC1の係合が完了する係合完了時刻を算出する。すなわち、現在のタービン回転速度NTを変化率ΔNTで割り算することにより、一定の変化率ΔNTで低下した場合にタービン回転速度NTが0になる時刻を計算によって求めるのである。次のステップS33では、係合完了時刻およびホイールブレーキ102のブレーキ解除の遅延時間などに基づいて、クラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換えるタイミング、すなわちヒルスタート制御を終了させるタイミングを設定し、ステップS34でその切換タイミングに達したか否かを判断し、切換タイミングに達したらステップS35でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換える。ステップS33のcltmode切換タイミングは、前記実施例と同様に路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、油温TOIL をパラメータとして設定される。
【0059】
本実施例では、前進用クラッチC1の係合状態の変化すなわちタービン回転速度NTの変化率ΔNTに基づいて係合完了時刻を予測し、その係合完了時刻に対して所定のタイミングでホイールブレーキ102のブレーキ力が低下させられるようにcltmode切換タイミング、すなわちヒルスタート制御を終了させるタイミングが設定されるため、前進用クラッチC1の摩擦材の摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化などに拘らず係合完了時刻が高い精度で求められ、ヒルスタート制御の終了タイミングが適切に制御される。
【0060】
図11は、図5のステップS15で係合開始判断が為された後にヒルスタート終了指令手段144によって行われる処理内容の更に別の例を説明するフローチャートで、ステップS41では、前進用クラッチC1の実際の伝達トルクtcltを、現在のエンジン回転速度NEやトルクコンバータ14の速度比e(=NT/NE)をパラメータとして次式(2) に従って算出する。トルク比T(e)および容量係数C(e)を求めるためのデータマップや演算式などは、予め記憶装置98に記憶されている。そして、ステップS42で、その伝達トルクtcltが予め定められた判定値α以上になったか否かを判断し、tclt≧αになったらステップS43でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換える。ステップS42の判定値αは、一定値であっても良いが、本実施例では路面勾配Φおよび車両総重量Wをパラメータとして設定され、それ等が大きい程判定値αは大きくされる。伝達トルクtcltは、エンジン12のトルクや摩擦材の摩擦係数μを反映しているため、判定値αの設定に際して必ずしもエンジン12のトルクや摩擦係数μ(油温TOIL )を考慮する必要はない。
tclt=T(e)×C(e)×NE2 ・・・(2)
但し、T(e):速度比eにおけるトルクコンバータトルク比
C(e):速度比eにおけるトルクコンバータ容量係数
【0061】
本実施例では、前進用クラッチC1の伝達トルクtcltを求め、その伝達トルクtcltが予め定められた判定値α以上になったらヒルスタート制御を終了させるようになっており、伝達トルクtcltは摩擦材の摩擦係数μやエンジン12のトルク、更には実際の車両の駆動トルクを反映しているため、摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化、エンジン12のトルクの相違などに拘らず、ヒルスタート制御を終了させるタイミングが適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが良好に抑制される。特に、本実施例では判定値αが路面勾配Φおよび車両総重量Wをパラメータとして設定されるため、ヒルスタート制御の終了タイミングが一層適切に制御される。
【0062】
また、上記判定値αを、路面勾配Φおよび車両総重量Wを考慮して登坂路で車両が後退しない程度の駆動力が得られる伝達トルクtcltとすれば、ヒルスタート制御の終了に際して、ホイールブレーキ102のブレーキ力をステップ的に解除することも可能である。
【0063】
図12は、ステップS51で、前記ステップS41と同様に前記(2) 式に従って伝達トルクtcltを求めた後、ステップS52で、その伝達トルクtclt、変速比γ、減速歯車20および差動歯車装置22の減速比idiff、CVT伝達効率η、およびタイヤ径rt を用いて次式(3) に従って駆動力fdrvを算出する。そして、ステップS53で、その駆動力fdrvが判定値β以上になったか否かを判断し、fdrv≧βになったらステップS54でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換える。ステップS53の判定値βは、一定値が定められても良いが、本実施例ではヒルスタート制御のブレーキが解除されても登坂路で車両が後退しない程度の駆動力fdrvで、車両のころがり抵抗係数R、車両総重量W、路面勾配Φ、重力加速度gをパラメータとして次式(4) に従って求められる。
fdrv=tclt×γ×idiff×η/rt ・・・(3)
β=R×W×g−(W×g× sinΦ) ・・・(4)
【0064】
本実施例では、前進用クラッチC1の伝達トルクtcltに基づいて車両の駆動力fdrvを求め、その駆動力fdrvが判定値β以上になったらヒルスタート制御を終了させるようになっており、駆動力fdrvは摩擦材の摩擦係数μやエンジン12のトルクを反映しているため、摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化、エンジン12のトルクの相違などに拘らず、ヒルスタート制御を終了させるタイミングが適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが良好に抑制される。特に、本実施例では判定値βが路面勾配Φおよび車両総重量Wをパラメータとして設定されるため、ヒルスタート制御の終了タイミングが一層適切に制御される。
【0065】
また、上記判定値βは、路面勾配Φおよび車両総重量Wに基づいて登坂路で車両が後退しない程度の駆動力fdrvとされているため、ヒルスタート制御の終了に際して、ホイールブレーキ102のブレーキ力をステップ的に解除することも可能である。
【0066】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置の骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置の制御系統を説明するブロック線図である。
【図3】図1の車両用駆動装置が備えている油圧制御回路のうち、前後進切換装置の前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の油圧制御に関する部分を説明する回路図である。
【図4】図2の電子制御装置が備えている機能の要部を説明するブロック線図である。
【図5】図4の停車時ニュートラル手段、ヒルスタート指令手段、およびISC閉じ制御手段の処理内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図6】図4のブレーキシステムが備えているヒルスタート制御の処理内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図7】図5のステップS11、S23の学習処理の内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図8】図5〜図7のフローチャートに従って停車時ニュートラル制御およびヒルスタート制御が行われた場合の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。
【図9】図4の停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御の開始時に、ISCバルブを一定の変化率で閉じ制御しながら前進用クラッチC1の油圧指令値pc1をフィードバック制御する場合を説明するフローチャートである。
【図10】図4のヒルスタート終了指令手段の別の態様を説明するフローチャートである。
【図11】図4のヒルスタート終了指令手段の更に別の態様を説明するフローチャートである。
【図12】図4のヒルスタート終了指令手段の更に別の態様を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
12:エンジン 14:トルクコンバータ(流体式動力伝達装置) 16:前後進切換装置 60:電子制御装置 130:停車時ニュートラル手段
134:フィードバック制御手段 150:ISC閉じ制御手段(ニュートラル時出力制御手段) 154:開始タイミング学習手段(学習手段)
158:終了タイミング学習手段(学習手段) C1:前進用クラッチ(断続装置)
【発明の属する技術分野】
本発明は車両のニュートラル制御装置に係り、特に、ニュートラル制御の開始時や終了時にエンジン負荷の変化に起因してショックが発生することを防止する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
(a) 燃料の燃焼で動力を発生するとともに吸入空気量に応じて出力が変化するエンジンと、(b) そのエンジンの出力を流体を介して駆動輪側へ伝達する流体式動力伝達装置と、(c) 動力伝達を接続、遮断するとともに、摩擦係合させられることにより動力を伝達する断続装置と、(d) 停車時に前記断続装置の係合荷重を低下させて略ニュートラル状態とする停車時ニュートラル手段と、を有する車両のニュートラル制御装置が知られている。特開平9−14431号公報に記載の装置はその一例で、変速装置の入力クラッチ(断続装置)を解放してニュートラル状態とすることにより、エンジン負荷を低減して燃費を向上させる一方、登坂路で車両が後退することを防止するために所定のブレーキ装置を作動させるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようなニュートラル制御装置においては、ニュートラル制御の開始時や終了時にエンジンの負荷が変化するため、そのエンジン負荷の変化に起因してエンジンが吹き上がったりエンジン回転速度が落ち込んだりしてショックを生じる可能性があった。アクセルOFF時のエンジン回転速度は、通常、ISCバルブ(アイドル回転速度制御弁)によって予め定められたアイドル回転速度となるように制御されるが、応答性が悪いため、負荷の変化で一時的にエンジン回転速度が変化してしまうのである。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、ニュートラル制御の開始時や終了時にエンジン負荷の変化に起因してショックが発生することを防止することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 燃料の燃焼で動力を発生するとともに吸入空気量に応じて出力が変化するエンジンと、(b) そのエンジンの出力を流体を介して駆動輪側へ伝達する流体式動力伝達装置と、(c) 動力伝達を接続、遮断するとともに、摩擦係合させられることにより動力を伝達する断続装置と、(d) 停車時に前記断続装置の係合荷重を低下させて略ニュートラル状態とする停車時ニュートラル手段と、を有する車両のニュートラル制御装置において、(e) 前記停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御の開始時および終了時の少なくとも一方で、そのニュートラル制御の開始或いは終了に拘らず前記エンジンの回転速度が略一定に維持されるように、そのニュートラル制御の開始または終了に関連して予め定められた所定のタイミングでそのエンジンの吸入空気量を増減するニュートラル時出力制御手段を有することを特徴とする。
【0006】
第2発明は、第1発明の車両のニュートラル制御装置において、前記所定のタイミングを、前記エンジンの回転速度変化に基づいて学習補正する学習手段を有することを特徴とする。
【0007】
第3発明は、第1発明または第2発明の車両のニュートラル制御装置において、前記ニュートラル時出力制御手段による前記吸入空気量の増減制御時に、前記エンジンの回転速度が略一定に維持されるように、その吸入空気量または前記断続装置の係合荷重をフィードバック制御することを特徴とする。
【0008】
【発明の効果】
このような車両のニュートラル制御装置においては、停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御の開始時および終了時の少なくとも一方で、そのニュートラル制御の開始或いは終了に拘らずエンジンの回転速度が略一定に維持されるように、そのニュートラル制御の開始または終了に関連して予め定められた所定のタイミングでエンジンの吸入空気量を増減するため、吸入空気量の増減指令から実際に吸入空気量が増減してエンジンの出力が変化するまでの応答性が悪くても、ニュートラル制御の開始時または終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジンの吹き上がりや落ち込みが抑制される。
【0009】
特に、第2発明では吸入空気量の増減制御を開始するタイミングを、前記エンジンの回転速度変化(吹き上がりや落ち込み)に基づいて学習補正するようになっているため、断続装置の摩擦係数μのバラツキやエンジンの出力特性、応答性等の個体差、経時変化などに拘らず、ニュートラル制御の開始時または終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジンの吹き上がりや落ち込みを一層効果的に抑制できる。
【0010】
第3発明では、ニュートラル時出力制御手段による吸入空気量の増減制御時に、エンジン回転速度が略一定に維持されるように吸入空気量または断続装置の係合荷重をフィードバック制御するため、断続装置の摩擦係数μのバラツキやエンジンの出力特性、応答性等の個体差、経時変化などに拘らず、ニュートラル制御の開始時または終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジンの吹き上がりや落ち込みを一層効果的に抑制できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、燃料の燃焼で動力を発生する内燃機関等のエンジンを走行用の駆動力源として備えている車両に適用されるが、電動モータなどの他の駆動力源を併せて備えているハイブリッド車両などにも適用され得る。流体式動力伝達装置としては、トルク増幅作用を有するトルクコンバータが好適に用いられるが、流体継手などの他の流体式動力伝達装置を採用することもできる。
【0012】
断続装置は、例えばクラッチやブレーキ等の油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置が好適に用いられるが、常にはダイヤフラムスプリングによって接続状態(係合状態)に保持されるとともにクラッチレリーズシリンダによって遮断(解放)される単板式の発進クラッチや、電磁力の作用で摩擦係合させられる電磁式摩擦係合装置などでも良い。
【0013】
断続装置は、例えば流体式動力伝達装置と駆動輪との間に配設された動力伝達切換機構に設けられる。動力伝達切換機構は、例えば遊星歯車式の前後進切換装置で、上記クラッチやブレーキ等の断続装置によって回転要素の連結状態が切り換えられることにより、動力伝達を遮断する遮断状態、前進走行が可能な前進駆動状態、および後進走行が可能な後進駆動状態、が成立させられるように構成される。動力伝達切換機構としては、複数の遊星歯車装置および複数のクラッチやブレーキ(断続装置)を有して、変速比が異なる複数の前進変速段を成立させることができる自動変速機でも良く、単に発進クラッチによって動力伝達が接続、遮断されるだけのものでも良いなど、種々の態様が可能である。
【0014】
停車時ニュートラル手段は、断続装置の係合荷重を略0にして完全に解放する(伝達トルクが0)ものでも良いが、所定の係合荷重でスリップ係合させるものでも良く、スリップ係合の場合は、ニュートラル制御の終了時に係合ショックを抑制しつつ断続装置を速やかに係合させることができる。断続装置のスリップ制御は、例えば励磁電流のデューティ制御などで係合油圧(係合荷重)を連続的に変化させることができるソレノイド弁やリニアソレノイド弁などの係合荷重制御装置を用いて行われる。
【0015】
ニュートラル時出力制御手段は、例えばISCバルブを開閉制御して吸入空気量を増減するように構成されるが、電子スロットル弁など他の弁装置を開閉制御するものでも良い。この吸入空気量に対応して燃料噴射量も制御され、エンジン出力が変化して、エンジン負荷の変化に起因するエンジンの吹き上がりや落ち込みが抑制される。具体的には、ニュートラル制御の開始時にはエンジン負荷が低下するため、吸入空気量を低減してエンジン出力を下げる一方、ニュートラル制御の終了時にはエンジン負荷が増大するため、吸入空気量を増加させてエンジン出力を上昇させれば良い。ニュートラル時出力制御手段は、ニュートラル制御の開始時および終了時の両方で吸入空気量を制御しても良いが、開始時および終了時の何れか一方だけで吸入空気量を制御するものでも良い。
【0016】
吸入空気量を増減する所定のタイミングは、例えばニュートラル制御の開始時には、その断続装置の解放開始(スリップ開始)に同期して吸入空気量(エンジン出力)が低下し始めるように、例えば断続装置の係合荷重の低下開始時間から所定時間tiscsだけ経過した時に吸入空気量の低下指令を出力するように構成される。また、ニュートラル制御の終了時には、断続装置の完全解放に同期して吸入空気量(エンジン出力)が元の状態まで復帰するように、例えば断続装置の係合開始時間から所定時間tisceだけ経過した時に吸入空気量の増加指令を出力するように構成される。断続装置の係合開始は、例えば係合状態に応じて回転速度が変化する所定の回転部材の回転速度変化に基づいて判断することができる。
【0017】
第2発明では、所定のタイミングすなわち上記所定時間tiscs、tisceなどを、エンジンの回転速度変化に基づいて学習補正するようになっているが、吸入空気量の増減速度(或いは変化パターン)についてもエンジンの回転速度変化に基づいて学習補正することが可能である。
【0018】
第3発明は、断続装置の係合荷重を予め定められた変化速度(変化パターン)で変化させつつ、エンジンの回転速度が略一定に維持されるように、そのエンジンの吸入空気量をフィードバック制御するか、逆に、エンジンの吸入空気量を予め定められた変化速度(変化パターン)で変化させつつ、エンジンの回転速度が略一定に維持されるように、断続装置の係合荷重をフィードバック制御するように構成される。
【0019】
また、路面勾配や車両総重量が大きい場合には、車両がずり下がり易くなるため、ニュートラル制御を終了する際のエンジンの回転速度や断続装置の係合荷重の変化速度(増加速度)を、それ等の路面勾配や車両総重量をパラメータとして、それ等が大きい程エンジン回転速度を高くし、係合荷重の増加速度を大きくすることも可能で、坂路でのニュートラル制御終了時の車両のずり下がりを防止できる。
【0020】
また、坂路でニュートラル制御が行われると車両がずり下がる可能性があるため、そのニュートラル制御時にブレーキ装置を作動させて車両のずり下がりを防止するずり下がり防止手段を設けることが望ましい。ブレーキ装置としては、油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる油圧式の摩擦係合装置、例えば動力伝達切換機構のクラッチやブレーキ、或いはドラムブレーキやディスクブレーキなどのホイールブレーキの他、回生制動でブレーキ力を発生する発電機など種々のブレーキ装置を採用できる。
【0021】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動力源としてエンジン12を備えている。エンジン12は、燃料の燃焼で動力を発生するとともに吸入空気量に応じて出力が変化する内燃機関にて構成されているとともに、そのエンジン12の出力は、流体式動力伝達装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式無段変速機18、減速歯車20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0022】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路96(図2参照)の切換弁などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。上記ポンプ翼車14pには、ベルト式無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ28が設けられている。
【0023】
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、ベルト式無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置であり、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されることにより、前後進切換装置16は前進走行用の駆動状態となって一体回転させられ、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機18側へ伝達される一方、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されることにより、前後進切換装置16は後進走行用の駆動状態となって、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力がベルト式無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断する遮断状態(ニュートラル)になる。この前後進切換装置16は動力伝達切換機構に相当する。
【0024】
上記前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、油圧制御回路96のマニュアルバルブ120(図3参照)がシフトレバー77の操作に従って機械的に切り換えられることにより、係合、解放されるようになっている。シフトレバー77は、駐車用の「P」ポジション、後進走行用の「R」ポジション、動力伝達を遮断する「N」ポジション、前進走行用の「D」ポジションおよび「L」ポジションへ操作されるようになっており、「P」ポジションおよび「N」ポジションでは、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油は何れもマニュアルバルブ120からドレーンされて共に解放される。「R」ポジションでは、モジュレータバルブ122によってモジュレータ油圧PMに調圧された作動油がマニュアルバルブ120から後進用ブレーキB1に供給されて係合させられるとともに、前進用クラッチC1内の作動油はマニュアルバルブ120からドレーンされて解放される。また、「D」ポジションおよび「L」ポジションでは、モジュレータ油圧PMに調圧された作動油がマニュアルバルブ120から前進用クラッチC1に供給されて係合させられるとともに、後進用ブレーキB1内の作動油はマニュアルバルブ120からドレーンされて解放される。
【0025】
図1に戻って、ベルト式無段変速機18は、前記入力軸36に設けられた有効径が可変の入力側可変プーリ42と、出力軸44に設けられた有効径が可変の出力側可変プーリ46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。可変プーリ42、46はそれぞれV溝幅が可変で、油圧シリンダを備えて構成されており、入力側可変プーリ42の油圧シリンダの油圧が油圧制御回路96によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、出力側可変プーリ46の油圧シリンダの油圧は、伝動ベルト48が滑りを生じないように油圧制御回路96によって調圧制御される。
【0026】
図2は、図1のエンジン12やベルト式無段変速機18などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、電子制御装置60には、エンジン回転速度センサ62、タービン回転速度センサ64、入力軸回転速度センサ65、車速センサ66、アイドルスイッチ付きスロットルセンサ68、冷却水温センサ70、油温センサ72、アクセル操作量センサ74、フットブレーキスイッチ76、レバーポジションセンサ78、路面勾配センサ80、乗車人数センサ82などが接続され、エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NE、タービン軸34の回転速度(タービン回転速度)NT、入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)NIN、車速V、電子スロットル弁90の全閉状態(アイドル状態)およびその開度(スロットル弁開度)θTH、エンジン12の冷却水温TW 、ベルト式無段変速機18等の油圧制御回路96の油温TOIL 、アクセルペダル等のアクセル操作部材の操作量(アクセル操作量)Acc、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無、シフトレバー77のレバーポジション(操作位置)PSH、路面勾配Φ、乗車人数M、などを表す信号が供給されるようになっている。タービン回転速度NTは、前進用クラッチC1が係合させられた前進走行時には入力軸回転速度NINと一致し、車速Vは、ベルト式無段変速機18の出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTに対応する。また、アクセル操作量Accは運転者の出力要求量を表している。
【0027】
電子制御装置60は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御やベルト式無段変速機18の変速制御、ベルト挟圧力制御、ロックアップクラッチ26の係合、解放制御、などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用と変速制御用とに分けて構成される。エンジン12の出力制御は、電子スロットル弁90、燃料噴射装置92、点火装置94などによって行われ、アクセルOFF時のアイドル回転速度NEidl はISC(アイドル回転速度制御)バルブ95によって制御される。ベルト式無段変速機18の変速制御、ベルト挟圧力制御、およびロックアップクラッチ26の係合、解放制御は、何れも油圧制御回路96によって行われる。油圧制御回路96は、電子制御装置60により励磁されて油路を開閉するソレノイド弁や油圧制御を行うリニアソレノイド弁、それらのソレノイド弁から出力される信号圧に従って油路を開閉したり油圧制御を行ったりする開閉弁、調圧弁などを備えて構成されている。
【0028】
図3は、油圧制御回路96のうち前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の係合、解放制御に関する部分の油圧回路図で、前記マニュアルバルブ120の他、ガレージシフトコントロールバルブ112、ガレージシフトバルブ114を備えている。ガレージシフトコントロールバルブ112は、軸方向へ移動可能なスプール112aおよびそのスプール112aを一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング112bを備えており、電子制御装置60によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLTの出力油圧をパイロット圧として、モジュレータ油圧PMを連続的に調圧制御してガレージシフト油圧PGを出力するようになっており、このガレージシフト油圧PGがガレージシフトバルブ114およびマニュアルバルブ120を経て前進用クラッチC1へ供給されることにより、前進用クラッチC1の係合過渡油圧などが制御される。
【0029】
ガレージシフトバルブ114は、軸方向へ移動可能なスプール114aおよびそのスプール114aを一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング114bを備えており、通常の「D」ポジションでは、電子制御装置60によりソレノイド弁SLおよびDSUが共に励磁されて信号圧が出力されることにより、図の右半分に示すOFF状態に保持されてモジュレータ油圧PMをそのままマニュアルバルブ120側へ出力し、そのモジュレータ油圧PMにより前進用クラッチC1を係合状態に保持する。また、「R」ポジションでも、ガレージシフトバルブ114は図の右半分に示すOFF状態とされ、モジュレータ油圧PMがそのままマニュアルバルブ120側へ出力されて、そのモジュレータ油圧PMにより後進用ブレーキB1が係合状態に保持される。
【0030】
一方、シフトレバー77が「N」ポジションから「D」ポジションへ操作されるガレージシフト(N→Dシフト)時には、ソレノイド弁SLのみが励磁されてソレノイド弁DSUが非励磁とされることにより、ガレージシフトバルブ114は図の左半分に示すON状態となり、ガレージシフトコントロールバルブ112から出力されるガレージシフト油圧PGをマニュアルバルブ120側へ出力する。ガレージシフト油圧PGはリニアソレノイド弁SLTの出力油圧に応じて調圧されるようになっており、前進用クラッチC1は、そのガレージシフト油圧PGの調圧制御で滑らかに係合させられる。また、「D」ポジションでの停車時で、所定のニュートラル制御実行条件を満足する場合には、上記N→Dシフト時と同様にソレノイド弁DSUが非励磁とされることにより図の左半分に示すON状態となり、ガレージシフトコントロールバルブ112から出力されるガレージシフト油圧PGをマニュアルバルブ120側へ出力することにより、リニアソレノイド弁SLTの出力油圧に応じて調圧されるガレージシフト油圧PGにより、前進用クラッチC1が所定のスリップ状態とされて動力伝達が低減される。上記リニアソレノイド弁SLTおよびガレージシフトコントロールバルブ112は、前進用クラッチC1の係合油圧であるガレージシフト油圧PGすなわち係合荷重を制御する係合荷重制御装置として機能している。なお、後進走行用の「R」ポジションにおいても、N→Rシフト時にガレージシフト油圧PGにより後進用ブレーキB1を滑らかに係合させたり、所定のニュートラル制御実行条件を満足する場合に後進用ブレーキB1をスリップ状態としたりすることが可能である。
【0031】
図4は、前記電子制御装置60の信号処理によって実行される各種の機能のうち、「D」ポジションすなわち前進走行用の駆動状態、における停車時に前進用クラッチC1を所定のスリップ状態とする停車時ニュートラル制御、その停車時ニュートラル制御中に登坂路で車両が後退することを防止するヒルスタート制御、および停車時ニュートラル制御中のエンジン出力低減制御、に関する部分を説明するブロック線図で、機能的に停車時ニュートラル手段130、ヒルスタート指令手段140、およびISC閉じ制御手段150を備えており、停車時ニュートラル手段130はスウィープ手段132、フィードバック制御手段134、スリップ油圧学習手段136、および復帰制御手段138を備えている。また、ヒルスタート指令手段140は、ヒルスタート開始指令手段142およびヒルスタート終了指令手段144を備えており、ISC閉じ制御手段150は、閉じ制御開始手段152、開始タイミング学習手段154、閉じ制御終了手段156、および終了タイミング学習手段158を備えている。ISC閉じ制御手段150は、ニュートラル制御の開始時にエンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように、ISCバルブ95により吸入空気量を低減してエンジン出力を低下させる一方、ニュートラル制御の終了時にエンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように、ISCバルブ95により吸入空気量を増大させてエンジン出力を上昇させるもので、ニュートラル時出力制御手段に相当し、開始タイミング学習手段154および終了タイミング学習手段158は学習手段に相当する。
【0032】
電子制御装置60には、車輪に配設されたホイールブレーキ102(図2参照)のブレーキ力を制御するブレーキシステム100が接続されており、そのブレーキシステム100は、上記停車時ニュートラル制御の実行中に登坂路で車両が後退することを防止するため、ヒルスタート指令手段140からの指令に従ってホイールブレーキ102を作動させ、車両を停止状態に保持するずり下がり防止手段の機能を備えている。ホイールブレーキ102はブレーキ装置に相当するもので、油圧式の摩擦係合装置であり、具体的には油圧シリンダに油圧が供給されることにより摩擦材をブレーキドラムやブレーキディスクに押圧してブレーキ力を発生させるドラムブレーキやディスクブレーキなどである。ブレーキシステム100は、電子制御装置60と同様にCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。
【0033】
図5は、上記停車時ニュートラル手段130、ヒルスタート指令手段140、およびISC閉じ制御手段150の具体的な処理内容を説明するフローチャートで、ステップS2はヒルスタート開始指令手段142によって実行され、ステップS3はスウィープ手段132によって実行され、ステップS4およびS5は閉じ制御開始手段152によって実行され、ステップS6〜S8はフィードバック制御手段134によって実行され、ステップS9およびS10はスリップ油圧学習手段136によって実行され、ステップS11は開始タイミング学習手段154によって実行され、ステップS13およびS14は復帰制御手段138によって実行され、ステップS15〜S17は閉じ制御終了手段156によって実行され、ステップS18およびS19はヒルスタート終了指令手段144によって実行され、ステップS23は終了タイミング学習手段158によって実行される。また、図6は、ブレーキシステム100によって実行されるヒルスタート制御を具体的に説明するフローチャートで、図7は、開始タイミング学習手段154、終了タイミング学習手段158によって実行されるステップS11、S23の具体的内容を説明するフローチャートであり、図8は、図5〜図7のフローチャートに従って停車時ニュートラル制御、ヒルスタート制御、およびニュートラル時のエンジン出力低減制御が行われた場合の各部の変化を示すタイムチャートの一例である。上記ブレーキシステム100の信号処理によって実行される図6の各ステップR1〜R6を実行する部分はずり下がり防止手段として機能している。
【0034】
図5のステップS1では、停車時ニュートラル制御の実行開始条件が成立するか否か、具体的には例えば前後進切換装置16が前進走行用の駆動状態で、車速Vが略0で、且つフットブレーキが踏込み操作されているとともに、その状態が所定時間(例えば数秒程度)継続したか否かを判断する。前進走行用の駆動状態か否かは、例えばシフトレバー77の操作ポジションPSHが前進走行ポジション「D」または「L」であるか否かによって判断できる。そして、上記停車時ニュートラル制御の実行開始条件が成立した場合には、ステップS2でクラッチ状態信号cltmodeを「0」から「1」に切り換え、ブレーキシステム100に対してヒルスタート制御の開始を要求するとともに、ステップS3以下を実行して停車時ニュートラル制御を開始する。cltmode=1は、停車時ニュートラル制御の開始、具体的には前進用クラッチC1の解放過渡時を意味している。ブレーキシステム100は、図6のステップR1でクラッチ状態信号cltmode=1か否かを判断し、cltmode=1の場合にはステップR2を実行し、予め定められた一定のブレーキ力でホイールブレーキ102を作動させることにより、ニュートラル制御に拘らず車両を停止状態に保持する。図8の時間t1 は、「D」または「L」ポジションでの走行時にフットブレーキが踏込み操作されて車速Vが0になった時間で、時間t2 は、所定時間が経過してステップS1、更にはステップR1の判断がYES(肯定)になった時間である。
【0035】
ステップS3では、先ず前記ソレノイド弁DSUを非励磁にしてガレージシフトバルブ114を図3の左半分に示すON状態とし、ガレージシフトコントロールバルブ112から出力されるガレージシフト油圧PGがマニュアルバルブ120を経て前進用クラッチC1に供給されるようにする。その後、スリップ油圧学習値gpc1fbに所定値pc1sw2を加算してスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)を求め、そのスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)まで比較的大きな変化率で油圧指令値pc1を速やかに低下させる第1スウィープ制御を実施するとともに、そのスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)に達したら、比較的小さな変化率で油圧指令値pc1をゆっくりと低下させる第2スウィープ制御へ移行する。図8の時間t3 は、油圧指令値pc1がスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)に達した時間で、前進用クラッチC1は、第2スウィープ制御中に滑らかにスリップを開始する。
【0036】
前記リニアソレノイド弁SLTは、油圧指令値pc1に応じて励磁電流のデューティ比DSLTが制御され、ガレージシフト油圧PGが油圧指令値pc1に従って変化させられる。スリップ油圧学習値gpc1fbは、フィードバック制御時にステップS10で記憶装置98(図2参照)に記憶されたもので、前進用クラッチC1が所定のスリップ状態となるスリップ係合荷重である。スリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)は、前進用クラッチC1がスリップする直前のスリップ直前係合荷重であり、上記スリップ油圧学習値gpc1fbに加算する所定値pc1sw2は、前進用クラッチC1がスリップすることがないように予め定められて記憶装置98に記憶されている。また、油温TOIL が高いと摩擦係数μが低下してスリップし易くなり、入力トルクが大きい時にもスリップし易くなるため、所定値pc1sw2は、それ等の油温TOIL や入力トルク推定値(エンジン12のアイドル回転速度など)をパラメータとして、油温TOIL が高い程大きくなり、入力トルク推定値が大きい程大きくなるように定められている。所定値pc1sw2および第1スウィープの変化率は、ガレージシフト油圧PGのアンダーシュートで前進用クラッチC1が解放(スリップ)することがないように定められている。
【0037】
ステップS4は、上記ステップS3のスウィープ制御と並行して実行され、スウィープ制御の開始時間すなわちステップS1の判断がYESになった時間t1 からの経過時間が予め定められた開始タイミング時間tiscsに達したか否かを、タイマなどを用いて判断し、開始タイミング時間tiscsに達したらステップS5を実行して、ISCバルブ95の閉じ制御、すなわちニュートラル時のエンジン出力低減制御を開始する。ISCバルブ95の閉じ制御は、エンジン負荷が変化するニュートラル制御に拘らずエンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように、ISCバルブ95の開度を一定の変化率で予め定められた所定開度だけ閉じるもので、上記開始タイミング時間tiscsは、エンジン負荷が変化する前進用クラッチC1のスリップ開始と略同時にエンジン出力(吸入空気量)が低下し始めるように、エンジン12の出力変化の応答遅れを考慮して定められているとともに、ステップS11で実際のエンジン回転速度NEの変化に基づいて逐次学習補正される。また、油温TOIL によって作動油の粘性が変化し、油温TOIL が低い時には作動油の流動が遅くなって前進用クラッチC1のスリップ開始時間が遅くなるため、上記開始タイミング時間tiscsは、油温TOIL が低い程大きな値になるように油温TOIL をパラメータとして設定され、前記記憶装置98に記憶されている。なお、ニュートラル制御による燃費向上効果を一層高めるために、エンジン回転速度NEが通常のアイドル回転速度NEidl よりも低い回転速度となるように、ISCバルブ95の開度を制御することも可能である。
【0038】
ステップS6では、ガレージシフト油圧PGの低下で前進用クラッチC1が解放(スリップ)し始めたか否かを、例えばタービン回転速度NTが予め定められた所定値(例えば50rpm程度)以上になったか否か、等によって判断し、解放し始めたらステップS7で目標回転速度nttgetを設定するとともに、ステップS8で実際のタービン回転速度NTが目標回転速度nttgetとなるように、油圧指令値pc1すなわちデューティ比DSLTをフィードバック制御する。目標回転速度nttgetは、トルクコンバータ14の速度比e(=NT/NE)が、前進用クラッチC1が完全に解放された時よりも小さい所定値K(例えば0.9程度)となるように、エンジン回転速度NEおよび所定値Kを用いて次式(1) に従って求められる。これにより、前進用クラッチC1は所定のスリップ状態になる。図8の時間t4 は、フィードバック制御によりタービン回転速度NTが目標回転速度nttgetと略一致させられるようになった時間である。
nttget=NE×K ・・・(1)
【0039】
ステップS9では、フィードバック制御が安定状態か否かを、例えば目標回転速度nttgetとタービン回転速度NTとの偏差|nttget−NT|が予め定められた所定値fberr(例えば20〜30rpm程度)より小さいか否か、等によって判断し、安定状態でなければステップS13を実行するが、安定状態であればステップS10を実行し、その時の油圧指令値pc1をスリップ油圧学習値gpc1fbとして記憶装置98に記憶(上書き)する。また、ステップS11では、前進用クラッチC1のスリップ開始時のエンジン回転速度NEの変化に基づいて、例えば図7の(a) に示すフローチャートに従って前記開始タイミング時間tiscsを学習補正する。図7(a) のステップG1−1ではエンジン回転速度NEの吹き上がりが予め定められた所定値(例えば100rpm程度)以上か否かを判断し、所定値以上であればステップG1−3で開始タイミング時間tiscsを所定値だけ小さくして、エンジン12の出力低減タイミングを早くする。エンジン回転速度NEの吹き上がりが所定値以上でない場合は、ステップG1−2でエンジン回転速度NEが落ち込んだか否かを判断し、落ち込んだ場合はステップG1−4で開始タイミング時間tiscsを所定値だけ大きくして、エンジン12の出力低減タイミングを遅くする。また、エンジン回転速度NEの吹き上がりが所定値以下で且つ落ち込みが無い場合は、ステップG1−5を実行して、現在の開始タイミング時間tiscsを維持する。上記ステップS10、S11の学習は、一連の停車時ニュートラル制御で1回行うだけで良い。
【0040】
次のステップS12では、クラッチ状態信号cltmodeを「1」から「2」へ切り換える。cltmode=2は、前進用クラッチC1が目的とするスリップ状態まで解放されたことを意味している。また、ステップS13では、停車時ニュートラル制御の終了条件が成立するか否かを判断し、終了条件が成立するまでステップS8以下を繰り返す。ステップS13の終了条件は、運転者が車両を発進させる可能性があるか否かで、例えばフットブレーキが解除操作されるかアクセルぺダルが踏込み操作された場合、或いはフットブレーキ操作によるブレーキ力(ペダル踏力など)が低下し始めた場合などであり、終了条件が成立した場合にはステップS14で復帰制御を開始する。図8の時間t5 は、フットブレーキのOFFにより終了条件が成立した時間で、ステップS14の復帰制御では、前進用クラッチC1の急係合による駆動力変動(ショック)を抑制しながらができるだけ速やかに係合するように、油圧指令値pc1すなわちガレージシフト油圧PGを所定の変化率で上昇させることにより、その前進用クラッチC1を滑らかに係合させる。前進用クラッチC1はスリップ状態であるため、ニュートラル制御で完全に解放する場合に比較して、ショックを抑制しながら短時間で速やかに係合させることができる。
【0041】
ステップS15では、ガレージシフト油圧PGの上昇で前進用クラッチC1の係合が開始(進行)したか否かを、例えばタービン回転速度NTの変化、具体的にはニュートラル制御開始後の最大値NTmax からの低下幅(NTmax −NT)が所定値(例えば50rpm程度)より大きくなったか否か、等によって判断し、係合が進行し始めたらステップS16以下を実行する。本実施例のニュートラル制御は前進用クラッチC1をスリップ制御するものであるため、油圧指令値pc1の変化に伴ってタービン回転速度NTは直ちに変化し始め、前記時間t5 と略同時に係合が進行し始める。
【0042】
ステップS16では、前進用クラッチC1の係合開始時間すなわち上記ステップS15の判断がYESになった時間t5 からの経過時間が予め定められた終了タイミング時間tisceに達したか否かを、タイマなどを用いて判断し、終了タイミング時間tisceに達したらステップS17を実行して、ISCバルブ95の閉じ制御、すなわちニュートラル時のエンジン出力低減制御を終了する。ISCバルブ95の閉じ制御の終了は、ISCバルブ95の開度を一定の変化率で元の開度まで開くもので、上記終了タイミング時間tisceは、前進用クラッチC1の係合完了と略同時にエンジン出力(吸入空気量)が元の状態まで復帰し、前進用クラッチC1の係合に伴うエンジン負荷の変化(増加)に拘らずエンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように、エンジン12の出力変化の応答遅れを考慮して定められているとともに、ステップS23で実際のエンジン回転速度NEの変化に基づいて逐次学習補正される。また、油温TOIL によって作動油の粘性が変化し、油温TOIL が低い時には作動油の流動が遅くなって前進用クラッチC1の係合所要時間が長くなるため、上記終了タイミング時間tisceは、油温TOIL が低い程大きな値になるように油温TOIL をパラメータとして設定され、前記記憶装置98に記憶されている。
【0043】
ステップS18では、同じく前進用クラッチC1の係合開始時間すなわち上記ステップS15の判断がYESになった時間t5 からの経過時間が、ヒルスタート制御の終了処理を開始するまでの所定時間tdelhsに達したか否かをタイマなどで判断し、所定時間tdelhsに達したらステップS19でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」に切り換えて、ブレーキシステム100に対してヒルスタート制御の終了を要求する。cltmode=3は、前進用クラッチC1の所定の係合過渡時を意味しており、ブレーキシステム100は、図6のステップR3でクラッチ状態信号cltmode=3か否かを判断し、cltmode=3の場合にはステップR4を実行し、ホイールブレーキ102のブレーキ力(ブレーキ油圧)を予め定められた一定の低下速度で低下させる。図8の時間t6 は、所定時間tdelhsが経過してステップS18、更にはステップR3の判断がYESになった時間である。
【0044】
ここで、上記ステップS18の所定時間tdelhsは、前進用クラッチC1の係合完了に同期してホイールブレーキ102の作動が解除されるようにするもので、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどを抑制できるように、ホイールブレーキ102のブレーキ力の低下速度すなわちブレーキが解除されるまでの遅延時間などを考慮して、予め実験などにより設定されている。遅延時間は、本実施例では一定値が設定されるが、ヒルスタート制御時のブレーキ力(ブレーキ油圧)が変化したり、ヒルスタート終了時のブレーキ低下速度が変化したりする場合は、そのブレーキ力および低下速度から遅延時間を算出するようにしても良い。また、路面勾配Φや車両総重量W、エンジン12のトルク、油温TOIL は、登坂路での車両の後退や前進用クラッチC1の伝達トルクに影響するため、所定時間tdelhsは、それ等の路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク(回転速度NEなど)、および油温TOIL をパラメータとするマップなどにより設定されている。すなわち、路面勾配Φや車両総重量Wは、それが大きい程車両が後退し易くなるため、所定時間tdelhsは大きくされ、エンジン12のトルクについては、それが大きい程車両の後退が抑制されるため所定時間tdelhsは小さくされる。油温TOIL については、前進用クラッチC1の摩擦材の摩擦係数μは温度が高い程小さくなって滑り易くなり、登坂路で車両が後退し易くなるため、所定時間tdelhsは油温TOIL が高い程大きくされる。更に、前進用クラッチC1の係合完了時におけるホイールブレーキ102のブレーキ力(ブレーキ油圧)など、実際の制御結果に応じて、所定時間tdelhsを逐次学習補正するようになっている。上記車両総重量Wは、例えば予め設定された車両本体重量および乗車人数Mから求められる。なお、ホイールブレーキ102のブレーキ力の低下速度等の低下パターンを、上記路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、油温TOIL などをパラメータとして変化させることもでき、その場合は、その低下パターンを考慮して所定時間tdelhsを設定すれば良い。
【0045】
図5に戻って、次のステップS20では、ガレージシフト油圧PGの上昇で前進用クラッチC1の係合が完了したか否かを、例えばタービン回転速度NTと入力軸回転速度NINとの偏差|NT−NIN|が予め定められた所定値(例えば50rpm程度)より小さくなったか否か、等によって判断する。入力軸回転速度NINの代わりに、出力軸回転速度NOUTに変速比γを掛け算した値を用いることもできる。そして、前進用クラッチC1の係合が完了した場合には、ステップS21で、ソレノイド弁DSUを励磁してガレージシフトバルブ114を図3の右半分に示すOFF状態とし、モジュレータ油圧PMがガレージシフトバルブ114からマニュアルバルブ120を経て前進用クラッチC1に供給されるようにするなどの終了処理を行い、一連の停車時ニュートラル制御を終了するとともに、ステップS22でクラッチ状態信号cltmodeを「3」から「0」へ切り換える。cltmode=0は、前進用クラッチC1が係合状態であることを意味しており、ブレーキシステム100は、図6のステップR5でクラッチ状態信号cltmode=0か否かを判断し、cltmode=0の場合にはステップR6を実行し、ブレーキ油圧を解放してホイールブレーキ102を直ちに解除する。図8の時間t7 は、前進用クラッチC1の係合が完了してステップS20、更にはステップR5の判断がYESになった時間である。なお、路面勾配Φが大きい場合や変速比γが小さい場合には、前進用クラッチC1の係合完了から所定時間後にステップS22を実行してクラッチ状態信号cltmodeを「3」から「0」へ切り換え、ホイールブレーキ102を完全に解除するようにしても良い。
【0046】
また、次のステップS23では、前進用クラッチC1の係合時のエンジン回転速度NEの変化に基づいて、例えば図7の(b) に示すフローチャートに従って前記終了タイミング時間tisceを学習補正する。図7(b) のステップG2−1では、アイドルスイッチがONか否か、すなわち電子スロットル弁90が全閉か否かを判断し、アイドルONの場合にはステップG2−2でエンジン回転速度NEの落ち込みが予め定められた所定値(例えば100rpm程度)以上か否かを判断し、所定値以上であればステップG2−4で終了タイミング時間tisceを所定値だけ小さくして、エンジン12の出力増大タイミングを早くする。エンジン回転速度NEの落ち込みが所定値以上でない場合は、ステップG2−3でエンジン回転速度NEが吹き上がったか否かを判断し、吹き上がった場合はステップG2−5で終了タイミング時間tisceを所定値だけ大きくして、エンジン12の出力増大タイミングを遅くする。また、エンジン回転速度NEの落ち込みが所定値以下で且つ吹き上がりが無い場合、或いはアイドルスイッチがOFFの場合は、ステップG2−6を実行して、現在の終了タイミング時間tisceを維持する。
【0047】
なお、路面勾配Φや車両総重量Wが大きい場合には、登坂路で車両が後退し易くなるため、ニュートラル制御を終了する際のエンジン12のアイドル回転速度NEidl や前進用クラッチC1の油圧指令値pc1の変化速度(増加速度)を、それ等の路面勾配Φや車両総重量Wをパラメータとして設定することが望ましく、それ等が大きい程アイドル回転速度NEidl を高くするとともに油圧指令値pc1の変化速度を大きくすれば、大きな駆動力(クリープトルク)が得られるようになり、登坂路でのニュートラル制御終了時の車両後退が防止される。
【0048】
このように本実施例では、停車時ニュートラル手段100が、トルクコンバータ14の速度比eが所定値Kとなるように油圧指令値pc1をフィードバック制御するため、前進用クラッチC1の摩擦係数μや油圧シリンダのリターンスプリングの付勢力のバラツキ等の各部の個体差、経時変化などに拘らず常に前進用クラッチC1が所定のスリップ状態とされ、エンジン負荷が低減されて燃費が向上する。
【0049】
また、停車時ニュートラル手段100は、前進用クラッチC1が所定のスリップ状態となるスリップ油圧学習値gpc1fbに所定値pc1sw2を加算してスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)を求め、油圧指令値pc1をそのスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)まで第1スウィープ制御で速やかに低下させた後、第2スウィープ制御で低下速度を遅くしてスリップを開始させるため、前進用クラッチC1のスリップ開始に伴う駆動力変動等のショックを抑制しつつ速やかに停車時ニュートラル状態を達成することができる。その場合に、スリップ油圧学習値gpc1fbは、各部の個体差や経時変化などに拘らず前進用クラッチC1を所定のスリップ状態となるようにするフィードバック制御で得られた油圧指令値pc1であるため、そのスリップ油圧学習値gpc1fbに基づいて定められるスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)も各部の個体差や経時変化などに拘らず適切な値となり、個体差や経時変化に起因して、油圧指令値pc1がスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)に達するまでの急変化時に前進用クラッチC1がスリップし始めてショックが発生したり、逆にスリップし始める時間が遅くなって停車時ニュートラル状態になるまでの時間(タイムラグ)が長くなったりすることが防止される。
【0050】
また、本実施例ではニュートラル制御を終了して前進用クラッチC1を係合させる際に、ステップS15で前進用クラッチC1の係合状態すなわち係合開始を検出し、その係合開始から所定時間tdelhsが経過した後にステップS19でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」に切り換え、ブレーキシステム100によるヒルスタート制御を終了させるようになっており、前進用クラッチC1の係合開始は摩擦材の摩擦係数μなどを反映しているため、その摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化などに拘らずヒルスタート制御を終了するタイミングが適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが抑制される。
【0051】
また、上記所定時間tdelhsは、登坂路での車両の後退や前進用クラッチC1の伝達トルクに影響する路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、および油温TOIL をパラメータとして設定されているため、それ等の路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、および油温TOIL の相違に拘らずヒルスタート制御の終了タイミング、すなわちホイールブレーキ102のブレーキ解除のタイミングが一層適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが一層効果的に抑制される。
【0052】
一方、このようなニュートラル制御においては、前進用クラッチC1のスリップ開始時および係合時にエンジン負荷が変化するため、エンジン12の出力制御の応答性の悪さからエンジン12が吹き上がったり回転速度速度NEが落ち込んだりする恐れがあるが、本実施例では、ニュートラル制御の開始時には所定の開始タイミング時間tiscsに達した時にISCバルブ95が閉じ制御されてエンジン出力が低減される一方、ニュートラル制御の終了時には所定の終了タイミング時間tisceに達した時にISCバルブ95が開き制御されてエンジン出力が増大させられる。このため、ISCバルブ95の開度変化から実際に吸入空気量が増減してエンジン12の出力が変化するまでの応答性が悪くても、ニュートラル制御の開始時および終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジン12の吹き上がりやエンジン回転速度NEの落ち込みが抑制されて、エンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持され、エンジン12のイナーシャなどによるショックが低減される。
【0053】
特に、本実施例では、上記開始タイミング時間tiscsおよび終了タイミング時間tisceが、実際のエンジン12の回転速度変化(吹き上がりや落ち込み)に基づいて学習補正されるため、前進用クラッチC1の摩擦係数μのバラツキやエンジン12の出力特性、応答性等の個体差、経時変化などに拘らず、ニュートラル制御の開始時および終了時のエンジン負荷の変化に起因するエンジン12の吹き上がりやエンジン回転速度NEの落ち込みが一層効果的に低減される。
【0054】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例で前記実施例と共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0055】
図9は、前記図5のフローチャートの一部を変更したもので、前記停車時ニュートラル手段130のフィードバック制御手段134は、前記ステップS5のISC閉じ制御開始時に、そのISCバルブ95の開度が一定の変化率で低減される際に、ステップS101でエンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように油圧指令値pc1をフィードバック制御する。ISCバルブ95の閉じ制御に伴ってエンジン12の出力は低下するため、エンジン回転速度NEを略アイドル回転速度NEidl に維持するための油圧指令値pc1、すなわちガレージシフト油圧PGであって前進用クラッチC1の伝達トルクは、エンジン出力の低下に対応して低下させられ、スリップ量が増大して略ニュートラル状態になる。ステップS102では、ISCバルブ95の開度が予め定められた目標開度まで低下したか否かを判断し、目標開度まで低下したらステップS103でISCバルブ95の開度をその目標開度に固定するとともに、前記ステップS7以下を実行する。
【0056】
本実施例では、ニュートラル制御の開始時にISC閉じ制御手段150によってISCバルブ95が閉じ制御される際に、エンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように油圧指令値pc1すなわち前進用クラッチC1の伝達トルクがフィードバック制御されるため、前進用クラッチC1の摩擦係数μのバラツキやエンジン12の出力特性、応答性等の個体差、経時変化などに拘らず、ニュートラル制御の開始時のエンジン負荷の変化に起因するエンジン12の吹き上がりやエンジン回転速度NEの落ち込みが一層効果的に抑制される。
【0057】
なお、上記油圧指令値pc1をフィードバック制御する代わりに、その油圧指令値pc1を所定の変化率で変化(低下)させながら、エンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるようにISCバルブ95の開度をフィードバック制御するようにしても良い。また、前記ステップS14以下の復帰制御で前進用クラッチC1を係合させる際に、ISCバルブ95の開度を一定の変化率で変化(増大)させるとともに、エンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるように油圧指令値pc1をフィードバック制御したり、油圧指令値pc1を一定の変化率で変化(増大)させるとともに、エンジン回転速度NEが略アイドル回転速度NEidl に維持されるようにISCバルブ95の開度をフィードバック制御したりしても良い。
【0058】
図10は、前記図5のステップS15で係合開始判断が為された後に前記ヒルスタート終了指令手段144によって行われる処理内容の別の例を説明するフローチャートで、ステップS31でタービン回転速度NTの変化率ΔNTを求めるとともに、ステップS32で、その変化率ΔNTに基づいて前進用クラッチC1の係合が完了する係合完了時刻を算出する。すなわち、現在のタービン回転速度NTを変化率ΔNTで割り算することにより、一定の変化率ΔNTで低下した場合にタービン回転速度NTが0になる時刻を計算によって求めるのである。次のステップS33では、係合完了時刻およびホイールブレーキ102のブレーキ解除の遅延時間などに基づいて、クラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換えるタイミング、すなわちヒルスタート制御を終了させるタイミングを設定し、ステップS34でその切換タイミングに達したか否かを判断し、切換タイミングに達したらステップS35でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換える。ステップS33のcltmode切換タイミングは、前記実施例と同様に路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、油温TOIL をパラメータとして設定される。
【0059】
本実施例では、前進用クラッチC1の係合状態の変化すなわちタービン回転速度NTの変化率ΔNTに基づいて係合完了時刻を予測し、その係合完了時刻に対して所定のタイミングでホイールブレーキ102のブレーキ力が低下させられるようにcltmode切換タイミング、すなわちヒルスタート制御を終了させるタイミングが設定されるため、前進用クラッチC1の摩擦材の摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化などに拘らず係合完了時刻が高い精度で求められ、ヒルスタート制御の終了タイミングが適切に制御される。
【0060】
図11は、図5のステップS15で係合開始判断が為された後にヒルスタート終了指令手段144によって行われる処理内容の更に別の例を説明するフローチャートで、ステップS41では、前進用クラッチC1の実際の伝達トルクtcltを、現在のエンジン回転速度NEやトルクコンバータ14の速度比e(=NT/NE)をパラメータとして次式(2) に従って算出する。トルク比T(e)および容量係数C(e)を求めるためのデータマップや演算式などは、予め記憶装置98に記憶されている。そして、ステップS42で、その伝達トルクtcltが予め定められた判定値α以上になったか否かを判断し、tclt≧αになったらステップS43でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換える。ステップS42の判定値αは、一定値であっても良いが、本実施例では路面勾配Φおよび車両総重量Wをパラメータとして設定され、それ等が大きい程判定値αは大きくされる。伝達トルクtcltは、エンジン12のトルクや摩擦材の摩擦係数μを反映しているため、判定値αの設定に際して必ずしもエンジン12のトルクや摩擦係数μ(油温TOIL )を考慮する必要はない。
tclt=T(e)×C(e)×NE2 ・・・(2)
但し、T(e):速度比eにおけるトルクコンバータトルク比
C(e):速度比eにおけるトルクコンバータ容量係数
【0061】
本実施例では、前進用クラッチC1の伝達トルクtcltを求め、その伝達トルクtcltが予め定められた判定値α以上になったらヒルスタート制御を終了させるようになっており、伝達トルクtcltは摩擦材の摩擦係数μやエンジン12のトルク、更には実際の車両の駆動トルクを反映しているため、摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化、エンジン12のトルクの相違などに拘らず、ヒルスタート制御を終了させるタイミングが適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが良好に抑制される。特に、本実施例では判定値αが路面勾配Φおよび車両総重量Wをパラメータとして設定されるため、ヒルスタート制御の終了タイミングが一層適切に制御される。
【0062】
また、上記判定値αを、路面勾配Φおよび車両総重量Wを考慮して登坂路で車両が後退しない程度の駆動力が得られる伝達トルクtcltとすれば、ヒルスタート制御の終了に際して、ホイールブレーキ102のブレーキ力をステップ的に解除することも可能である。
【0063】
図12は、ステップS51で、前記ステップS41と同様に前記(2) 式に従って伝達トルクtcltを求めた後、ステップS52で、その伝達トルクtclt、変速比γ、減速歯車20および差動歯車装置22の減速比idiff、CVT伝達効率η、およびタイヤ径rt を用いて次式(3) に従って駆動力fdrvを算出する。そして、ステップS53で、その駆動力fdrvが判定値β以上になったか否かを判断し、fdrv≧βになったらステップS54でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換える。ステップS53の判定値βは、一定値が定められても良いが、本実施例ではヒルスタート制御のブレーキが解除されても登坂路で車両が後退しない程度の駆動力fdrvで、車両のころがり抵抗係数R、車両総重量W、路面勾配Φ、重力加速度gをパラメータとして次式(4) に従って求められる。
fdrv=tclt×γ×idiff×η/rt ・・・(3)
β=R×W×g−(W×g× sinΦ) ・・・(4)
【0064】
本実施例では、前進用クラッチC1の伝達トルクtcltに基づいて車両の駆動力fdrvを求め、その駆動力fdrvが判定値β以上になったらヒルスタート制御を終了させるようになっており、駆動力fdrvは摩擦材の摩擦係数μやエンジン12のトルクを反映しているため、摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化、エンジン12のトルクの相違などに拘らず、ヒルスタート制御を終了させるタイミングが適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが良好に抑制される。特に、本実施例では判定値βが路面勾配Φおよび車両総重量Wをパラメータとして設定されるため、ヒルスタート制御の終了タイミングが一層適切に制御される。
【0065】
また、上記判定値βは、路面勾配Φおよび車両総重量Wに基づいて登坂路で車両が後退しない程度の駆動力fdrvとされているため、ヒルスタート制御の終了に際して、ホイールブレーキ102のブレーキ力をステップ的に解除することも可能である。
【0066】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置の骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置の制御系統を説明するブロック線図である。
【図3】図1の車両用駆動装置が備えている油圧制御回路のうち、前後進切換装置の前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の油圧制御に関する部分を説明する回路図である。
【図4】図2の電子制御装置が備えている機能の要部を説明するブロック線図である。
【図5】図4の停車時ニュートラル手段、ヒルスタート指令手段、およびISC閉じ制御手段の処理内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図6】図4のブレーキシステムが備えているヒルスタート制御の処理内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図7】図5のステップS11、S23の学習処理の内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図8】図5〜図7のフローチャートに従って停車時ニュートラル制御およびヒルスタート制御が行われた場合の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。
【図9】図4の停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御の開始時に、ISCバルブを一定の変化率で閉じ制御しながら前進用クラッチC1の油圧指令値pc1をフィードバック制御する場合を説明するフローチャートである。
【図10】図4のヒルスタート終了指令手段の別の態様を説明するフローチャートである。
【図11】図4のヒルスタート終了指令手段の更に別の態様を説明するフローチャートである。
【図12】図4のヒルスタート終了指令手段の更に別の態様を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
12:エンジン 14:トルクコンバータ(流体式動力伝達装置) 16:前後進切換装置 60:電子制御装置 130:停車時ニュートラル手段
134:フィードバック制御手段 150:ISC閉じ制御手段(ニュートラル時出力制御手段) 154:開始タイミング学習手段(学習手段)
158:終了タイミング学習手段(学習手段) C1:前進用クラッチ(断続装置)
Claims (3)
- 燃料の燃焼で動力を発生するとともに吸入空気量に応じて出力が変化するエンジンと、
該エンジンの出力を流体を介して駆動輪側へ伝達する流体式動力伝達装置と、
動力伝達を接続、遮断するとともに、摩擦係合させられることにより動力を伝達する断続装置と、
停車時に前記断続装置の係合荷重を低下させて略ニュートラル状態とする停車時ニュートラル手段と、
を有する車両のニュートラル制御装置において、
前記停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御の開始時および終了時の少なくとも一方で、該ニュートラル制御の開始或いは終了に拘らず前記エンジンの回転速度が略一定に維持されるように、該ニュートラル制御の開始または終了に関連して予め定められた所定のタイミングで該エンジンの吸入空気量を増減するニュートラル時出力制御手段を有する
ことを特徴とする車両のニュートラル制御装置。 - 前記所定のタイミングを、前記エンジンの回転速度変化に基づいて学習補正する学習手段を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両のニュートラル制御装置。 - 前記ニュートラル時出力制御手段による前記吸入空気量の増減制御時に、前記エンジンの回転速度が略一定に維持されるように、該吸入空気量または前記断続装置の係合荷重をフィードバック制御する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のニュートラル制御装置。
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