JP2004052876A - 車両のニュートラル制御装置 - Google Patents

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Koji Taniguchi
谷口 浩司
Katsumi Kono
河野 克己
Kenji Matsuo
松尾 賢治
Ryoji Hanebuchi
羽渕 良司
Tadashi Ishihara
石原 匡
Kazutoshi Nozaki
野崎 和俊
Toru Matsubara
松原 亨
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Abstract

【課題】断続装置を接続してニュートラル制御を終了する際に、ベルト式無段変速機の変速比が小さいと、所定の駆動力が得られなくて登坂路で車両が後退する可能性がある。
【解決手段】前進用クラッチをスリップ状態とするニュートラル制御(t4 〜t5 )を終了する際に、前進用クラッチの係合開始(時間t5 )を判断し、所定のタイミング(時間t6 )でヒルスタート制御を終了してブレーキ力を低下させる場合、ベルト式無段変速機の変速比γが小さいと所定の駆動力が得られないため、ヒルスタート制御の終了タイミングがずれて登坂路で車両が後退する可能性があるため、変速比γが所定値RTOMAX以下の場合にはニュートラル制御を禁止する。
【選択図】   図7

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は車両のニュートラル制御装置に係り、特に、坂路での車両のずり下がりを防止する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
(a) 動力伝達を接続、遮断するとともに、摩擦係合させられることにより動力を伝達する断続装置と、(b) 停車時に前記断続装置の係合荷重を低下させて略ニュートラル状態とする停車時ニュートラル手段と、を有する車両のニュートラル制御装置が知られている。特開平5−79562号公報に記載の装置はその一例で、所定のニュートラル制御実行条件を満たす場合には、フォワードクラッチ(断続装置)を解放してニュートラル状態とすることにより、エンジン負荷を低減して燃費を向上させるようになっている。また、特開平9−14431号公報には、上記停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御時にブレーキ装置を作動させて、登坂路で車両が後退することを防止することが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようなニュートラル制御装置において、変速機の変速比が小さい場合、例えば急停車などでベルト式無段変速機を最大変速比まで戻せなかったような場合には、十分なトルク増幅作用が得られなくなるため、ニュートラル制御の終了時に断続装置を係合させるとともにブレーキ装置を解除する際に、所望の駆動力が得られなくて坂路で車両がずり下がったり、所定のクリープトルクが得られなかったりする可能性があった。また、ニュートラル制御で断続装置をスリップ係合させる場合には、所定のクリープトルクを発生させることができるが、変速機の変速比が小さいと所定のクリープトルクが得られなくなる。クラッチやブレーキで変速段を切り換える遊星歯車式の有段変速機の場合は、一般に停車時であってもクラッチやブレーキの係合状態を変更して変速段を切り換えることができるが、ベルト式無段変速機の場合、特にスリップ制御などでクリープトルクがベルトに作用していると変速比を変更することは困難で、上記問題が発生する。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、変速機の変速比に起因してずり下がりが発生したり所定のクリープトルクが得られなくなったりすることを防止することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 動力伝達を接続、遮断するとともに、摩擦係合させられることにより動力を伝達する断続装置と、(b) 停車時に前記断続装置の係合荷重を低下させて略ニュートラル状態とする停車時ニュートラル手段と、(c) 変速比を変更できる変速機と、を有する車両のニュートラル制御装置において、(d) 停車時に前記変速機の変速比が所定値RTOMAX以下の場合には、前記停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御を禁止するニュートラル制御禁止手段を有することを特徴とする。
【0006】
第2発明は、(a) 動力伝達を接続、遮断するとともに、摩擦係合させられることにより動力を伝達する断続装置と、(b) 停車時に前記断続装置の係合荷重を低下させて所定のスリップ状態とする停車時ニュートラル手段と、(c) 変速比を変更できる変速機と、を有する車両のニュートラル制御装置において、(d) 停車時に前記変速機の変速比が所定値RTOMAX以下の場合には、前記停車時ニュートラル手段による前記断続装置のスリップ制御時に、そのスリップ制御よりもその断続装置の係合荷重を更に低下させてその変速機の負荷トルクを低減するとともに、前記変速比が前記所定値RTOMAXよりも大きくなるようにその変速機をダウンシフトする停車時ダウンシフト手段を有することを特徴とする。
【0007】
第3発明は、第1発明または第2発明の車両のニュートラル制御装置において、前記所定値RTOMAXは、路面勾配が大きい程大きな値となるようにその路面勾配をパラメータとして定められていることを特徴とする。
【0008】
【発明の効果】
第1発明の車両のニュートラル制御装置においては、停車時に変速機の変速比が所定値RTOMAX以下の場合には、停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御が禁止されるため、ニュートラル制御が実行されてその制御中や制御終了時に駆動力不足により坂路で車両がずり下がることが未然に防止される。
【0009】
第2発明の車両のニュートラル制御装置においては、停車時に変速機の変速比が所定値RTOMAX以下の場合には、停車時ニュートラル手段によるスリップ制御よりも断続装置の係合荷重を更に低下させ、変速機の負荷トルクを低減するとともに、変速比が所定値RTOMAXよりも大きくなるように変速機をダウンシフトするため、ニュートラル制御のスリップ制御中や制御終了時に駆動力不足により坂路で車両がずり下がることが防止される。また、変速機の変速比が所定値RTOMAX以下の場合でも、停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御(スリップ制御)が行われるため、エンジン負荷が低減されて燃費が向上するとともに、必要に応じて所定のクリープトルクが得られる。また、断続装置の係合荷重を低下させて変速機の負荷トルクを低減するため、ベルト式無段変速機や2軸噛合式変速機のように停車時の変速が比較的困難な変速機においても、容易且つ迅速に変速が行われる。
【0010】
第3発明では、上記所定値RTOMAXが、路面勾配が大きい程大きな値となるように路面勾配をパラメータとして定められているため、路面勾配の相違に拘らず坂路での車両のずり下がりが適切に防止される。特に、第1発明に適用した場合には、停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御が、変速機の変速比および路面勾配に基づいて禁止されることになり、坂路での車両のずり下がりを適切に防止しつつニュートラル制御による燃費向上効果を十分に享受できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、燃料の燃焼で動力を発生する内燃機関等のエンジンを走行用の駆動力源として備えているとともに、そのエンジンの出力を流体を介して伝達する流体式動力伝達装置を有する車両に好適に適用されるが、電動モータなどの他の駆動力源を備えているハイブリッド車両などにも適用され得る。流体式動力伝達装置としては、トルク増幅作用を有するトルクコンバータが好適に用いられるが、流体継手などの他の流体式動力伝達装置を採用することもできる。
【0012】
断続装置は、例えばクラッチやブレーキ等の油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置が好適に用いられるが、常にはダイヤフラムスプリングによって接続状態(係合状態)に保持されるとともにクラッチレリーズシリンダによって遮断(解放)される単板式の発進クラッチや、電磁力の作用で摩擦係合させられる電磁式摩擦係合装置などでも良い。
【0013】
断続装置は、駆動力源から駆動輪までの間に配設された動力伝達切換機構に設けられる。動力伝達切換機構は、例えば遊星歯車式の前後進切換装置で、上記クラッチやブレーキ等の断続装置によって回転要素の連結状態が切り換えられることにより、動力伝達を遮断する遮断状態、前進走行が可能な前進駆動状態、および後進走行が可能な後進駆動状態、が成立させられるように構成される。動力伝達切換機構としては、複数の遊星歯車装置および複数のクラッチやブレーキ(断続装置)を有して、変速比が異なる複数の前進変速段を成立させることができる自動変速機でも良く、単に発進クラッチによって動力伝達が接続、遮断されるだけのものでも良いなど、種々の態様が可能である。
【0014】
停車時ニュートラル手段は、第1発明では、断続装置の係合荷重を略0にして完全に解放するものでも良いが、所定の係合荷重でスリップ係合させるものでも良く、スリップ係合の場合は、ニュートラル制御の終了時に係合ショックを抑制しつつ断続装置を速やかに係合させることができる。断続装置のスリップ制御は、例えば励磁電流のデューティ制御などで係合油圧(係合荷重)を連続的に変化させることができるソレノイド弁やリニアソレノイド弁などの係合荷重制御装置を用いて行われる。
【0015】
変速機は、変速比を連続的に変更できるベルト式無段変速機が好適に用いられるが、複数のクラッチやブレーキの係合状態によって変速比が異なる複数の変速段が成立させられる遊星歯車式や、同期噛合式クラッチによって変速する2軸噛合式等の有段変速機、或いはトロイダル型などの他の無段変速機を用いることもできる。また、変速機は、車速およびスロットル弁開度などの運転状態に応じて自動的に変速比や変速段が変更される自動変速機でも良いし、運転者の選択操作に従って機械的に、或いは電気的に変速比或いは変速段が変更される手動変速機でも良い。第2発明では、少なくとも電気的に変速比や変速段を変更できる変速機が用いられる。
【0016】
所定値RTOMAXは、例えば坂路での車両のずり下がりを防止できる程度の駆動力が得られる変速比、或いは所定のクリープトルクが得られる程度の変速比などで、無段変速機の場合は変速比そのものの値を設定すれば良いが、有段変速機の場合には、変速比が大きい第1変速段か否か、或いは第2変速段以下か否かなど、変速段の種類で設定することもできる。
【0017】
所定値RTOMAXは、第3発明のように路面勾配をパラメータとして設定することが望ましいが、路面勾配に関係無く一定値が定められても良い。また、車両総重量が大きい場合も坂路で車両がずり下がり易くなるため、車両総重量などの他の物理量をパラメータとして設定されるようにすることもできる。
【0018】
第2発明の停車時ダウンシフト手段は、例えば変速機の変速比を最大変速比(第1変速段)までダウンシフトするように構成されるが、少なくとも所定値RTOMAXより大きくなるようにダウンシフトすれば良い。
【0019】
停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御時には、坂路で車両がずり下がり易くなるため、そのニュートラル制御時にブレーキ装置を作動させて車両のずり下がりを防止するとともに、そのニュートラル制御を終了して前記断続装置を係合させる際にブレーキ装置のブレーキ力を解除するずり下がり防止手段を設けることが望ましい。ブレーキ装置の解除は、断続装置の係合に同期して行われることが望ましく、例えばブレーキ力を低下させるタイミングやブレーキ力の低下速度などを断続装置の係合状態に基づいて制御すれば良い。
【0020】
上記ブレーキ装置は、少なくとも坂路での車両のずり下がり、一般には前進駆動状態における登坂路での車両の後退を防止するものであれば良いが、車両の前後進を阻止するものでも良く、例えば変速機や前後進切換装置などに設けられたクラッチやブレーキで、駆動力源のニュートラル状態(自由回転)を許容しつつ坂路での車両のずり下がりを防止するものや、車輪に設けられたホイールブレーキなどが用いられる。ブレーキ装置としては、油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる摩擦係合装置が好適に用いられるが、回生制動でブレーキ力を発生する発電機など、ブレーキ力を制御可能な他のブレーキ装置を用いたり、機械的にロックして回転を阻止する噛合式等のブレーキ装置を採用したりすることもできる。
【0021】
ずり下がり防止手段は、路面の勾配に拘らず予め定められた一定のブレーキ力でブレーキ装置を作動させるものでも良いが、路面の勾配などに応じてブレーキ力を変更したり、車両を停止状態に保持するように車両の動きに応じてブレーキ力を増減制御したりするものなど、種々の態様が可能である。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、流体式動力伝達装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式無段変速機18、減速歯車20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0023】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路96(図2参照)の切換弁などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。上記ポンプ翼車14pには、ベルト式無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ28が設けられている。
【0024】
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、ベルト式無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置であり、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されることにより、前後進切換装置16は前進走行用の駆動状態となって一体回転させられ、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機18側へ伝達される一方、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されることにより、前後進切換装置16は後進走行用の駆動状態となって、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力がベルト式無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断する遮断状態(ニュートラル)になる。この前後進切換装置16は動力伝達切換機構に相当する。
【0025】
上記前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、油圧制御回路96のマニュアルバルブ120(図3参照)がシフトレバー77の操作に従って機械的に切り換えられることにより、係合、解放されるようになっている。シフトレバー77は、駐車用の「P」ポジション、後進走行用の「R」ポジション、動力伝達を遮断する「N」ポジション、前進走行用の「D」ポジションおよび「L」ポジションへ操作されるようになっており、「P」ポジションおよび「N」ポジションでは、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油は何れもマニュアルバルブ120からドレーンされて共に解放される。「R」ポジションでは、モジュレータバルブ122によってモジュレータ油圧PMに調圧された作動油がマニュアルバルブ120から後進用ブレーキB1に供給されて係合させられるとともに、前進用クラッチC1内の作動油はマニュアルバルブ120からドレーンされて解放される。また、「D」ポジションおよび「L」ポジションでは、モジュレータ油圧PMに調圧された作動油がマニュアルバルブ120から前進用クラッチC1に供給されて係合させられるとともに、後進用ブレーキB1内の作動油はマニュアルバルブ120からドレーンされて解放される。
【0026】
図1に戻って、ベルト式無段変速機18は、前記入力軸36に設けられた有効径が可変の入力側可変プーリ42と、出力軸44に設けられた有効径が可変の出力側可変プーリ46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。可変プーリ42、46はそれぞれV溝幅が可変で、油圧シリンダを備えて構成されており、入力側可変プーリ42の油圧シリンダの油圧が油圧制御回路96によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、出力側可変プーリ46の油圧シリンダの油圧は、伝動ベルト48が滑りを生じないように油圧制御回路96によって調圧制御される。
【0027】
図2は、図1のエンジン12やベルト式無段変速機18などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、電子制御装置60には、エンジン回転速度センサ62、タービン回転速度センサ64、入力軸回転速度センサ65、車速センサ66、アイドルスイッチ付きスロットルセンサ68、冷却水温センサ70、油温センサ72、アクセル操作量センサ74、フットブレーキスイッチ76、レバーポジションセンサ78、路面勾配センサ80、乗車人数センサ82などが接続され、エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NE、タービン軸34の回転速度(タービン回転速度)NT、入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)NIN、車速V、電子スロットル弁90の全閉状態(アイドル状態)およびその開度(スロットル弁開度)θTH、エンジン12の冷却水温TW 、ベルト式無段変速機18等の油圧制御回路96の油温TOIL 、アクセルペダル等のアクセル操作部材の操作量(アクセル操作量)Acc、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無、シフトレバー77のレバーポジション(操作位置)PSH、路面勾配Φ、乗車人数M、などを表す信号が供給されるようになっている。タービン回転速度NTは、前進用クラッチC1が係合させられた前進走行時には入力軸回転速度NINと一致し、車速Vは、ベルト式無段変速機18の出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTに対応する。また、アクセル操作量Accは運転者の出力要求量を表している。
【0028】
電子制御装置60は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御やベルト式無段変速機18の変速制御、ベルト挟圧力制御、ロックアップクラッチ26の係合、解放制御、などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用と変速制御用とに分けて構成される。エンジン12の出力制御は電子スロットル弁90、燃料噴射装置92、点火装置94などによって行われ、ベルト式無段変速機18の変速制御、ベルト挟圧力制御、およびロックアップクラッチ26の係合、解放制御は、何れも油圧制御回路96によって行われる。ベルト式無段変速機18の変速制御は、車速Vおよびスロットル弁開度θTHをパラメータとして予め定められた変速マップ(変速条件)に従って行われ、車速Vが小さくスロットル弁開度θTHが大きい程、変速比γが大きくされるとともに、車速V=0の停車時には基本的には最大変速比γmax まで戻される。油圧制御回路96は、電子制御装置60により励磁されて油路を開閉するソレノイド弁や油圧制御を行うリニアソレノイド弁、それらのソレノイド弁から出力される信号圧に従って油路を開閉したり油圧制御を行ったりする開閉弁、調圧弁などを備えて構成されている。
【0029】
図3は、油圧制御回路96のうち前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の係合、解放制御に関する部分の油圧回路図で、前記マニュアルバルブ120の他、ガレージシフトコントロールバルブ112、ガレージシフトバルブ114を備えている。ガレージシフトコントロールバルブ112は、軸方向へ移動可能なスプール112aおよびそのスプール112aを一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング112bを備えており、電子制御装置60によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLTの出力油圧をパイロット圧として、モジュレータ油圧PMを連続的に調圧制御してガレージシフト油圧PGを出力するようになっており、このガレージシフト油圧PGがガレージシフトバルブ114およびマニュアルバルブ120を経て前進用クラッチC1へ供給されることにより、前進用クラッチC1の係合過渡油圧などが制御される。
【0030】
ガレージシフトバルブ114は、軸方向へ移動可能なスプール114aおよびそのスプール114aを一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング114bを備えており、通常の「D」ポジションでは、電子制御装置60によりソレノイド弁SLおよびDSUが共に励磁されて信号圧が出力されることにより、図の右半分に示すOFF状態に保持されてモジュレータ油圧PMをそのままマニュアルバルブ120側へ出力し、そのモジュレータ油圧PMにより前進用クラッチC1を係合状態に保持する。また、「R」ポジションでも、ガレージシフトバルブ114は図の右半分に示すOFF状態とされ、モジュレータ油圧PMがそのままマニュアルバルブ120側へ出力されて、そのモジュレータ油圧PMにより後進用ブレーキB1が係合状態に保持される。
【0031】
一方、シフトレバー77が「N」ポジションから「D」ポジションへ操作されるガレージシフト(N→Dシフト)時には、ソレノイド弁SLのみが励磁されてソレノイド弁DSUが非励磁とされることにより、ガレージシフトバルブ114は図の左半分に示すON状態となり、ガレージシフトコントロールバルブ112から出力されるガレージシフト油圧PGをマニュアルバルブ120側へ出力する。ガレージシフト油圧PGはリニアソレノイド弁SLTの出力油圧に応じて調圧されるようになっており、前進用クラッチC1は、そのガレージシフト油圧PGの調圧制御で滑らかに係合させられる。また、「D」ポジションでの停車時で、所定のニュートラル制御実行条件を満足する場合には、上記N→Dシフト時と同様にソレノイド弁DSUが非励磁とされることにより図の左半分に示すON状態となり、ガレージシフトコントロールバルブ112から出力されるガレージシフト油圧PGをマニュアルバルブ120側へ出力することにより、リニアソレノイド弁SLTの出力油圧に応じて調圧されるガレージシフト油圧PGにより、前進用クラッチC1が所定のスリップ状態とされて動力伝達が低減される。上記リニアソレノイド弁SLTおよびガレージシフトコントロールバルブ112は、前進用クラッチC1の係合油圧であるガレージシフト油圧PGすなわち係合荷重を制御する係合荷重制御装置として機能している。なお、後進走行用の「R」ポジションにおいても、N→Rシフト時にガレージシフト油圧PGにより後進用ブレーキB1を滑らかに係合させたり、所定のニュートラル制御実行条件を満足する場合に後進用ブレーキB1をスリップ状態としたりすることが可能である。
【0032】
図4は、前記電子制御装置60の信号処理によって実行される各種の機能のうち、「D」ポジションすなわち前進走行用の駆動状態、における停車時に前進用クラッチC1を所定のスリップ状態とする停車時ニュートラル制御、およびその停車時ニュートラル制御中に登坂路で車両が後退することを防止するヒルスタート制御に関する部分を説明するブロック線図で、機能的に停車時ニュートラル手段130およびヒルスタート指令手段140を備えており、停車時ニュートラル手段130はスウィープ手段132、フィードバック制御手段134、学習手段136、および復帰制御手段138を備えている。また、ヒルスタート指令手段140は、ヒルスタート開始指令手段142、係合開始判定手段144、およびヒルスタート終了指令手段146を備えている。電子制御装置60には、車輪に配設されたホイールブレーキ102(図2参照)のブレーキ力を制御するブレーキシステム100が接続されており、そのブレーキシステム100は、上記停車時ニュートラル制御の実行中に登坂路で車両が後退することを防止するため、ヒルスタート指令手段140からの指令に従ってホイールブレーキ102を作動させ、車両を停止状態に保持するずり下がり防止手段の機能を備えている。ホイールブレーキ102はブレーキ装置に相当するもので、油圧式の摩擦係合装置であり、具体的には油圧シリンダに油圧が供給されることにより摩擦材をブレーキドラムやブレーキディスクに押圧してブレーキ力を発生させるドラムブレーキやディスクブレーキなどである。ブレーキシステム100は、電子制御装置60と同様にCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。
【0033】
図5は、上記停車時ニュートラル手段130およびヒルスタート指令手段140の具体的な処理内容を説明するフローチャートで、ステップS3はヒルスタート開始指令手段142によって実行され、ステップS4〜S6はスウィープ手段132によって実行され、ステップS7〜S9はフィードバック制御手段134によって実行され、ステップS10およびS11は学習手段136によって実行され、ステップS13およびS14は復帰制御手段138によって実行され、ステップS15は係合開始判定手段144によって実行され、ステップS16〜S18はヒルスタート終了指令手段146によって実行される。また、図6は、ブレーキシステム100によって実行されるヒルスタート制御を具体的に説明するフローチャートで、図7は、それ等の図5および図6のフローチャートに従って停車時ニュートラル制御およびヒルスタート制御が行われた場合の各部の変化を示すタイムチャートの一例である。ブレーキシステム100の信号処理によって実行される図6の各ステップR1〜R6を実行する部分はずり下がり防止手段として機能している。
【0034】
図5のステップS1では、停車時ニュートラル制御の実行開始条件が成立するか否か、具体的には例えば前後進切換装置16が前進走行用の駆動状態で、車速Vが略0で、且つフットブレーキが踏込み操作されているとともに、その状態が所定時間(例えば数秒程度)継続したか否かを判断する。前進走行用の駆動状態か否かは、例えばシフトレバー77の操作ポジションPSHが前進走行ポジション「D」または「L」であるか否かによって判断できる。そして、上記停車時ニュートラル制御の実行開始条件が成立した場合には、ステップS2でベルト式無段変速機18の変速比γが予め定められた所定値RTOMAXよりも大きいか否かを判断し、γ>RTOMAXであればステップS3を実行するが、γ≦RTOMAXの場合にはニュートラル制御を行うことなく終了する。所定値RTOMAXは、ニュートラル制御の終了時に前進用クラッチC1を係合させるとともにブレーキシステム100によるヒルスタート制御を終了する際に登坂路での車両の後退を防止できる程度の駆動力が得られる変速比で、一定値が定められても良いが、本実施例では路面勾配Φおよび車両総重量Wをパラメータとして設定され、それ等が大きい程登坂路で車両は後退し易くなるため、所定値RTOMAXは大きくされる。車両総重量Wは、例えば予め設定された車両本体重量および乗車人数Mから求められる。このステップS2を実行する部分は、ニュートラル制御禁止手段として機能している。
【0035】
ステップS3では、クラッチ状態信号cltmodeを「0」から「1」に切り換え、ブレーキシステム100に対してヒルスタート制御の開始を要求する。cltmode=1は、停車時ニュートラル制御の開始、具体的には前進用クラッチC1の解放過渡時を意味しており、ブレーキシステム100は、図6のステップR1でクラッチ状態信号cltmode=1か否かを判断し、cltmode=1の場合にはステップR2を実行し、予め定められた一定のブレーキ力でホイールブレーキ102を作動させることにより、ニュートラル制御に拘らず車両を停止状態に保持する。図7の時間t1 は、「D」または「L」ポジションでの走行時にフットブレーキが踏込み操作されて車速Vが0になった時間で、時間t2 は、所定時間が経過してステップS1、S2、更にはステップR1の判断がYES(肯定)になった時間である。
【0036】
図5のステップS4では、先ず前記ソレノイド弁DSUを非励磁にしてガレージシフトバルブ114を図3の左半分に示すON状態とし、ガレージシフトコントロールバルブ112から出力されるガレージシフト油圧PGがマニュアルバルブ120を経て前進用クラッチC1に供給されるようにする。その後、スリップ油圧学習値gpc1fbに所定値pc1sw2を加算してスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)を求め、そのスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)まで比較的大きな変化率で油圧指令値pc1を速やかに低下させる第1スウィープ制御を実施する。前記リニアソレノイド弁SLTは、この油圧指令値pc1に応じて励磁電流のデューティ比DSLTが制御され、ガレージシフト油圧PGが油圧指令値pc1に従って変化させられる。スリップ油圧学習値gpc1fbは、フィードバック制御時にステップS11で記憶装置98(図2参照)に記憶されたもので、前進用クラッチC1が所定のスリップ状態となるスリップ係合荷重である。スリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)は、前進用クラッチC1がスリップする直前のスリップ直前係合荷重であり、上記スリップ油圧学習値gpc1fbに加算する所定値pc1sw2は、前進用クラッチC1がスリップすることがないように予め定められて記憶装置98に記憶されている。また、油温TOIL が高いと摩擦係数μが低下してスリップし易くなり、入力トルクが大きい時にもスリップし易くなるため、所定値pc1sw2は、それ等の油温TOIL や入力トルク推定値(エンジン12のアイドル回転速度など)をパラメータとして、油温TOIL が高い程大きくなり、入力トルク推定値が大きい程大きくなるように定められている。所定値pc1sw2および第1スウィープの変化率は、ガレージシフト油圧PGのアンダーシュートで前進用クラッチC1が解放(スリップ)することがないように定められている。
【0037】
ステップS5では、油圧指令値pc1がスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)より低い値まで低下したか否かを判断し、pc1<(gpc1fb+pc1sw2)になったらステップS6で第2スウィープ制御を実行する。図7の時間t3 は、油圧指令値pc1がスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)に達してステップS5の判断がYESになった時間である。第2スウィープ制御では、前進用クラッチC1のスリップの開始に伴う駆動力変動(ショック)ができるだけ抑制されるように、比較的小さな変化率で油圧指令値pc1をゆっくりと低下させ、その油圧指令値pc1に応じてリニアソレノイド弁SLTのデューティ比DSLTが制御されることにより、ガレージシフト油圧PGが油圧指令値pc1に追従してゆっくりと低下させられる。
【0038】
ステップS7では、ガレージシフト油圧PGの低下で前進用クラッチC1が解放(スリップ)し始めたか否かを、例えばタービン回転速度NTが予め定められた所定値(例えば50rpm程度)以上になったか否か、等によって判断し、解放し始めたらステップS8で目標回転速度nttgetを設定するとともに、ステップS9で実際のタービン回転速度NTが目標回転速度nttgetとなるように、油圧指令値pc1すなわちデューティ比DSLTをフィードバック制御する。目標回転速度nttgetは、トルクコンバータ14の速度比e(=NT/NE)が、前進用クラッチC1が完全に解放された時よりも小さい所定値K(例えば0.9程度)となるように、エンジン回転速度NEおよび所定値Kを用いて次式(1) に従って求められる。これにより、前進用クラッチC1は所定のスリップ状態になる。図7の時間t4 は、フィードバック制御によりタービン回転速度NTが目標回転速度nttgetと略一致させられるようになった時間である。
nttget=NE×K   ・・・(1)
【0039】
ステップS10では、フィードバック制御が安定状態か否かを、例えば目標回転速度nttgetとタービン回転速度NTとの偏差|nttget−NT|が予め定められた所定値fberr(例えば20〜30rpm程度)より小さいか否か、等によって判断し、安定状態でなければステップS13を実行するが、安定状態であればステップS11を実行し、その時の油圧指令値pc1をスリップ油圧学習値gpc1fbとして記憶装置98に記憶(上書き)する。また、ステップS12でクラッチ状態信号cltmodeを「1」から「2」へ切り換えた後、ステップS13で、停車時ニュートラル制御の終了条件が成立するか否かを判断し、終了条件が成立するまでステップS9以下を繰り返す。cltmode=2は、前進用クラッチC1が目的とするスリップ状態まで解放されたことを意味している。なお、ステップS11の学習は、一連の停車時ニュートラル制御で1回行うだけでも良い。
【0040】
ステップS13の終了条件は、運転者が車両を発進させる可能性があるか否かで、例えばフットブレーキが解除操作されるかアクセルぺダルが踏込み操作された場合、或いはフットブレーキ操作によるブレーキ力(ペダル踏力など)が低下し始めた場合などであり、終了条件が成立した場合にはステップS14で復帰制御を開始する。図7の時間t5 は、フットブレーキのOFFにより終了条件が成立した時間で、ステップS14の復帰制御では、前進用クラッチC1の急係合による駆動力変動(ショック)を抑制しながらができるだけ速やかに係合するように、油圧指令値pc1すなわちガレージシフト油圧PGを所定の変化率で上昇させることにより、その前進用クラッチC1を滑らかに係合させる。前進用クラッチC1はスリップ状態であるため、ニュートラル制御で完全に解放する場合に比較して、ショックを抑制しながら短時間で速やかに係合させることができる。
【0041】
ステップS15では、ガレージシフト油圧PGの上昇で前進用クラッチC1の係合が開始(進行)したか否かを、例えばタービン回転速度NTの変化、具体的にはニュートラル制御開始後の最大値NTmax からの低下幅(NTmax −NT)が所定値(例えば50rpm程度)より大きくなったか否か、等によって判断し、係合が進行し始めたらステップS16以下を実行する。タービン回転速度NTは、断続装置である前進用クラッチC1の係合状態を表しており、そのタービン回転速度NTを検出するタービン回転速度センサ64を含んで係合状態検出手段が構成されている。本実施例のニュートラル制御は前進用クラッチC1をスリップ制御するものであるため、油圧指令値pc1の変化に伴ってタービン回転速度NTは直ちに変化し始め、前記時間t5 と略同時に係合が進行し始める。そして、ステップS16で、ヒルスタート制御の終了処理を開始するまでの所定時間tdelhsを設定するとともに、ステップS17で、その所定時間tdelhsが経過したか否かをタイマなどで判断し、所定時間tdelhsが経過したらステップS18でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」に切り換えて、ブレーキシステム100に対してヒルスタート制御の終了を要求する。cltmode=3は、前進用クラッチC1の所定の係合過渡時を意味しており、ブレーキシステム100は、図6のステップR3でクラッチ状態信号cltmode=3か否かを判断し、cltmode=3の場合にはステップR4を実行し、ホイールブレーキ102のブレーキ力(ブレーキ油圧)を予め定められた一定の低下速度で低下させる。図7の時間t6 は、所定時間tdelhsが経過してステップS17、更にはステップR3の判断がYESになった時間である。
【0042】
ここで、上記ステップS16で設定される所定時間tdelhsは、前進用クラッチC1の係合完了に同期してホイールブレーキ102の作動が解除されるようにするもので、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどを抑制できるように、ホイールブレーキ102のブレーキ力の低下速度すなわちブレーキが解除されるまでの遅延時間などを考慮して、予め実験などにより設定されている。遅延時間は、本実施例では一定値が設定されるが、ヒルスタート制御時のブレーキ力(ブレーキ油圧)が変化したり、ヒルスタート終了時のブレーキ低下速度が変化したりする場合は、そのブレーキ力および低下速度から遅延時間を算出するようにしても良い。また、路面勾配Φや車両総重量W、エンジン12のトルク、油温TOIL は、登坂路での車両の後退や前進用クラッチC1の係合トルクに影響するため、所定時間tdelhsは、それ等の路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク(回転速度NEなど)、および油温TOIL をパラメータとするマップなどにより設定されている。すなわち、路面勾配Φや車両総重量Wは、それが大きい程車両は後退し易くなるため、所定時間tdelhsは大きくされ、エンジン12のトルクについては、それが大きい程登坂路での後退が抑制されるため所定時間tdelhsは小さくされる。油温TOIL については、前進用クラッチC1の摩擦材の摩擦係数μは温度が高い程小さくなって滑り易くなり、登坂路で車両が後退し易くなるため、所定時間tdelhsは油温TOIL が高い程大きくされる。更に、前進用クラッチC1の係合完了時におけるホイールブレーキ102のブレーキ力(ブレーキ油圧)など、実際の制御結果に応じて、所定時間tdelhsを逐次学習補正するようになっている。なお、ホイールブレーキ102のブレーキ力の低下速度等の低下パターンを、上記路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、油温TOIL などをパラメータとして変化させることもでき、その場合は、その低下パターンを考慮して所定時間tdelhsを設定すれば良い。
【0043】
図5に戻って、次のステップS19では、ガレージシフト油圧PGの上昇で前進用クラッチC1の係合が完了したか否かを、例えばタービン回転速度NTと入力軸回転速度NINとの偏差|NT−NIN|が予め定められた所定値(例えば50rpm程度)より小さくなったか否か、等によって判断する。入力軸回転速度NINの代わりに、出力軸回転速度NOUTに変速比γを掛け算した値を用いることもできる。そして、前進用クラッチC1の係合が完了した場合には、ステップS20で、ソレノイド弁DSUを励磁してガレージシフトバルブ114を図3の右半分に示すOFF状態とし、モジュレータ油圧PMがガレージシフトバルブ114からマニュアルバルブ120を経て前進用クラッチC1に供給されるようにするなどの終了処理を行い、一連の停車時ニュートラル制御を終了するとともに、ステップS21でクラッチ状態信号cltmodeを「3」から「0」へ切り換える。cltmode=0は、前進用クラッチC1が係合状態であることを意味しており、ブレーキシステム100は、図6のステップR5でクラッチ状態信号cltmode=0か否かを判断し、cltmode=0の場合にはステップR6を実行し、ブレーキ油圧を解放してホイールブレーキ102を直ちに解除する。図7の時間t7 は、前進用クラッチC1の係合が完了してステップS19、更にはステップR5の判断がYESになった時間である。なお、路面勾配Φが大きい場合には、前進用クラッチC1の係合完了から所定時間後にステップS21を実行してクラッチ状態信号cltmodeを「3」から「0」へ切り換え、ホイールブレーキ102を完全に解除するようにしても良い。
【0044】
このように本実施例では、停車時ニュートラル手段130が、トルクコンバータ14の速度比eが所定値Kとなるように油圧指令値pc1をフィードバック制御するため、前進用クラッチC1の摩擦係数μや油圧シリンダのリターンスプリングの付勢力のバラツキ等の各部の個体差や経時変化などに拘らず常に前進用クラッチC1が所定のスリップ状態とされ、エンジン負荷が低減されて燃費が向上するとともにクリープ力が適切に制御される。
【0045】
また、停車時ニュートラル手段130は、前進用クラッチC1が所定のスリップ状態となるスリップ油圧学習値gpc1fbに所定値pc1sw2を加算してスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)を求め、油圧指令値pc1をそのスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)まで第1スウィープ制御で速やかに低下させた後、第2スウィープ制御で低下速度を遅くしてスリップを開始させるため、前進用クラッチC1のスリップ開始に伴う駆動力変動等のショックを抑制しつつ速やかに停車時ニュートラル状態を達成することができる。その場合に、スリップ油圧学習値gpc1fbは、各部の個体差や経時変化などに拘らず前進用クラッチC1を所定のスリップ状態となるようにするフィードバック制御で得られた油圧指令値pc1であるため、そのスリップ油圧学習値gpc1fbに基づいて定められるスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)も各部の個体差や経時変化などに拘らず適切な値となり、個体差や経時変化に起因して、油圧指令値pc1がスリップ直前油圧指令値(gpc1fb+pc1sw2)に達するまでの急変化時に前進用クラッチC1がスリップし始めてショックが発生したり、逆にスリップし始める時間が遅くなって停車時ニュートラル状態になるまでの時間(タイムラグ)が長くなったりすることが防止される。
【0046】
また、本実施例ではニュートラル制御を終了して前進用クラッチC1を係合させる際に、ステップS15で前進用クラッチC1の係合状態すなわち係合開始を検出し、その係合開始から所定時間tdelhsが経過した後にステップS18でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」に切り換え、ブレーキシステム100によるヒルスタート制御を終了させるようになっており、前進用クラッチC1の係合開始は摩擦材の摩擦係数μなどを反映しているため、その摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化などに拘らずヒルスタート制御を終了するタイミングが適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが抑制される。
【0047】
上記所定時間tdelhsは、登坂路での車両の後退や前進用クラッチC1の係合トルクに影響する路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、および油温TOIL をパラメータとして設定されているため、それ等の路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、および油温TOIL の相違に拘らずヒルスタート制御の終了タイミング、すなわちホイールブレーキ102のブレーキ解除のタイミングが一層適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが一層効果的に抑制される。
【0048】
一方、このようにニュートラル制御終了時にブレーキシステム100によるヒルスタート制御を終了させるタイミングをきめ細かく制御すると、例えば急ブレーキによる停車などでベルト式無段変速機18が最大変速比γmax まで戻らなかった場合には、そのベルト式無段変速機18によるトルク増幅作用が十分に得られないため、ニュートラル制御の終了時に前進用クラッチC1を係合させても所定の駆動力(アクセルOFFの場合はクリープトルク)が得られず、ヒルスタート制御の終了タイミングがずれて登坂路で車両が後退する可能性があるが、本実施例では、ニュートラル制御を開始する前にステップS2でベルト式無段変速機18の変速比γが所定値RTOMAX以下か否かを判断し、γ≦RTOMAXの場合にはニュートラル制御が中止されるため、ニュートラル制御が実行されてその制御終了時に駆動力不足で車両が後退することが確実に防止される。
【0049】
特に、本実施例では上記所定値RTOMAXが、路面勾配Φおよび車両総重量Wをパラメータとして設定され、それ等が大きい程所定値RTOMAXが大きくされて、ニュートラル制御の実施が制限されるため、路面勾配Φや車両総重量Wの相違に拘らずニュートラル制御の実施が適切に制限されて、そのニュートラル制御の実施に起因する登坂路での車両の後退が回避されるとともに、そのニュートラル制御の制限が必要最小源に限定されて、ニュートラル制御の実施による燃費向上効果を十分に享受できる。
【0050】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例で前記実施例と共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0051】
図8は、前記ステップS2でニュートラル制御の実行を制限する代わりに、前進用クラッチC1のスリップ制御(S8、S9)に先立ってステップS201〜S203を実行し、ベルト式無段変速機18の変速比γを最大変速比γmax までダウンシフトするものである。すなわち、前進用クラッチC1が解放(スリップ)し始めて前記ステップS7の判断がYESになったら、ステップS201でベルト式無段変速機18の変速比γが所定値RTOMAX以下か否かを判断し、γ>RTOMAXであればそのままステップS8以下を実行するが、γ≦RTOMAXの場合には、ステップS202で前進用クラッチC1を解放してベルト式無段変速機18の負荷トルクを低減するとともに、ステップS203で変速比γを最大変速比γmax とするダウンシフト指令を変速制御手段等に出力して、ベルト式無段変速機18を強制的に最大変速比γmax までダウンシフトさせた後、ステップS8以下を実行する。ステップS202の前進用クラッチC1の解放制御は、前記油圧指令値pc1を0として前進用クラッチC1を完全解放するものでも良いが、ステップS8以下の実行でショックを防止しつつ速やかに所定のスリップ状態を実現する上で、完全に解放する直前の状態とすることが望ましく、例えば前記(1) 式の所定値Kを1.0より小さく0.95程度以上の範囲で設定して目標回転速度nttgetを求め、タービン回転速度NTがその目標回転速度nttgetとなるように油圧指令値pc1すなわちデューティ比DSLTをフィードバック制御するようにしても良い。
【0052】
本実施例では、ベルト式無段変速機18の変速比γが所定値RTOMAX以下の場合には、ニュートラル制御の実行中に最大変速比γmax までベルト式無段変速機18を強制的にダウンシフトさせるため、ニュートラル制御の終了時に駆動力不足で車両が後退することが防止される。その場合に、前進用クラッチC1を解放或いは略解放してベルト式無段変速機18の負荷トルクを低減するため、停車中すなわち可変プーリ42、46の回転停止中であっても容易且つ迅速に変速を行うことができる。また、停車時のベルト式無段変速機18の変速比γが所定値RTOMAX以下の場合でもニュートラル制御(スリップ制御)が行われるため、エンジン負荷が一層低減されて燃費が向上する。
【0053】
本実施例では、ステップS201〜S203を実行する部分が、停車時ダウンシフト手段として機能している。
【0054】
図9は、前記図5のフローチャートの一部を変更したもので、前記ステップS16〜S18の代わりにステップS31〜S35を実行する場合である。すなわち、ずり下がり防止終了手段として機能する前記ヒルスタート終了指令手段146の処理内容が相違するもので、ステップS31でタービン回転速度NTの変化率ΔNTを求めるとともに、ステップS32で、その変化率ΔNTに基づいて前進用クラッチC1の係合が完了する係合完了時刻を算出する。具体的には、現在のタービン回転速度NTを変化率ΔNTで割り算することにより、一定の変化率ΔNTで低下した場合にタービン回転速度NTが0になる時刻を計算によって求めるのである。
【0055】
次のステップS33では、係合完了時刻およびホイールブレーキ102のブレーキ解除の遅延時間などに基づいて、クラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換えるタイミング、すなわちヒルスタート制御を終了させるタイミングを設定し、ステップS34でその切換タイミングに達したか否かを判断し、切換タイミングに達したらステップS35でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換える。ステップS33のcltmode切換タイミングは、前記実施例と同様に路面勾配Φ、車両総重量W、エンジン12のトルク、油温TOIL をパラメータとして設定される。
【0056】
本実施例では、前進用クラッチC1の係合状態の変化すなわちタービン回転速度NTの変化率ΔNTに基づいて係合完了時刻を予測し、その係合完了時刻に対して所定のタイミングでホイールブレーキ102のブレーキ力が低下させられるようにcltmode切換タイミング、すなわちヒルスタート制御を終了させるタイミングが設定されるため、前進用クラッチC1の摩擦材の摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化などに拘らず係合完了時刻が高い精度で求められ、ヒルスタート制御の終了タイミングが適切に制御される。
【0057】
図10は、同じく前記図5のフローチャートの一部を変更したもので、前記ステップS16〜S18の代わりにステップS41〜S43を実行する場合である。すなわち、ずり下がり防止終了手段として機能する前記ヒルスタート終了指令手段146の処理内容が相違するもので、ステップS41では、前進用クラッチC1の実際の伝達トルクtcltを、現在のエンジン回転速度NEや速度比e(=NT/NE)をパラメータとして次式(2) に従って算出する。トルク比T(e)および容量係数C(e)を求めるためのデータマップや演算式などは、予め記憶装置98に記憶されている。そして、ステップS42で、その伝達トルクtcltが予め定められた判定値α以上になったか否かを判断し、tclt≧αになったらステップS43でクラッチ状態信号cltmodeを「2」から「3」へ切り換える。ステップS42の判定値αは、一定値であっても良いが、本実施例では路面勾配Φおよび車両総重量Wをパラメータとして設定され、それ等が大きい程判定値αは大きくされる。伝達トルクtcltは、エンジン12のトルクや摩擦材の摩擦係数μを反映しているため、判定値αの設定に際して必ずしもエンジン12のトルクや摩擦係数μ(油温TOIL )を考慮する必要はない。
tclt=T(e)×C(e)×NE2    ・・・(2)
但し、T(e):速度比eにおけるトルクコンバータトルク比
C(e):速度比eにおけるトルクコンバータ容量係数
【0058】
本実施例では、前進用クラッチC1の伝達トルクtcltを求め、その伝達トルクtcltが予め定められた判定値α以上になったらヒルスタート制御を終了させるようになっており、伝達トルクtcltは摩擦材の摩擦係数μやエンジン12のトルク、更には実際の車両の駆動トルクを反映しているため、摩擦係数μのバラツキなどの個体差や経時変化、エンジン12のトルクの相違などに拘らず、ヒルスタート制御を終了させるタイミングが適切に制御され、登坂路での車両の後退や発進時のもたつき、ショックなどが良好に抑制される。特に、本実施例では判定値αが路面勾配Φおよび車両総重量Wをパラメータとして設定されるため、ヒルスタート制御の終了タイミングが一層適切に制御される。
【0059】
また、上記判定値αを、路面勾配Φおよび車両総重量Wを考慮して登坂路で車両が後退しない程度の駆動力が得られる伝達トルクtcltとすれば、ヒルスタート制御の終了に際して、ホイールブレーキ102のブレーキ力をステップ的に解除することも可能である。
【0060】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置の骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置の制御系統を説明するブロック線図である。
【図3】図1の車両用駆動装置が備えている油圧制御回路のうち、前後進切換装置の前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の油圧制御に関する部分を説明する回路図である。
【図4】図2の電子制御装置が備えている機能の要部を説明するブロック線図である。
【図5】図4の停車時ニュートラル手段およびヒルスタート指令手段の処理内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図6】図4のブレーキシステムが備えているヒルスタート制御の処理内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図7】図5および図6のフローチャートに従って停車時ニュートラル制御およびヒルスタート制御が行われた場合の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。
【図8】図5のステップS2でニュートラル制御を禁止する代わりに、ニュートラル制御を実施するとともにベルト式無段変速機をダウンシフトさせる場合の実施例を説明するフローチャートである。
【図9】図4のヒルスタート終了指令手段の別の態様を説明するフローチャートである。
【図10】図4のヒルスタート終了指令手段の更に別の態様を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
16:前後進切換装置  18:ベルト式無段変速機(変速機)  60:電子制御装置  130:停車時ニュートラル手段  C1:前進用クラッチ(断続装置)  γ:変速比
ステップS2:ニュートラル制御禁止手段
ステップS201〜S203:停車時ダウンシフト手段

Claims (3)

  1. 動力伝達を接続、遮断するとともに、摩擦係合させられることにより動力を伝達する断続装置と、
    停車時に前記断続装置の係合荷重を低下させて略ニュートラル状態とする停車時ニュートラル手段と、
    変速比を変更できる変速機と、
    を有する車両のニュートラル制御装置において、
    停車時に前記変速機の変速比が所定値RTOMAX以下の場合には、前記停車時ニュートラル手段によるニュートラル制御を禁止するニュートラル制御禁止手段を有する
    ことを特徴とする車両のニュートラル制御装置。
  2. 動力伝達を接続、遮断するとともに、摩擦係合させられることにより動力を伝達する断続装置と、
    停車時に前記断続装置の係合荷重を低下させて所定のスリップ状態とする停車時ニュートラル手段と、
    変速比を変更できる変速機と、
    を有する車両のニュートラル制御装置において、
    停車時に前記変速機の変速比が所定値RTOMAX以下の場合には、前記停車時ニュートラル手段による前記断続装置のスリップ制御時に、該スリップ制御よりも該断続装置の係合荷重を更に低下させて該変速機の負荷トルクを低減するとともに、前記変速比が前記所定値RTOMAXよりも大きくなるように該変速機をダウンシフトする停車時ダウンシフト手段を有する
    ことを特徴とする車両のニュートラル制御装置。
  3. 前記所定値RTOMAXは、路面勾配が大きい程大きな値となるように該路面勾配をパラメータとして定められている
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のニュートラル制御装置。
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JP2008057573A (ja) * 2006-08-29 2008-03-13 Toyota Motor Corp 車両の発進制御装置

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