JP2004018649A - ガスバリア性組成物、コート剤およびフィルム - Google Patents
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Abstract
【課題】高湿度下でも優れたガスバリア性を有するガスバリア性組成物、ガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)と、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)と、無機層状化合物、シリカ、金属酸化物から選ばれる一種またはそれらのうちの二種以上の混合物(C)を含有してなり、(A)、(B)、(C)の質量比が下記式(1)、(2)を満足することを特徴とするガスバリア性組成物。
(A)/(B) = 95/5〜5/95 (1)
(C)/[(A)+(B)] =0.001〜1.0 (2)
【選択図】 なし
【解決手段】分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)と、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)と、無機層状化合物、シリカ、金属酸化物から選ばれる一種またはそれらのうちの二種以上の混合物(C)を含有してなり、(A)、(B)、(C)の質量比が下記式(1)、(2)を満足することを特徴とするガスバリア性組成物。
(A)/(B) = 95/5〜5/95 (1)
(C)/[(A)+(B)] =0.001〜1.0 (2)
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高湿度下でも優れたガスバリア性を有するガスバリア性フィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアミド、ポリエステル等の熱可塑性樹脂フィルムは強度、透明性、成形性、ガスバリア性に優れていることから、包装材料として幅広い用途に使用されている。しかしながら、レトルト処理食品等の長期間の保存性が求められる用途に用いる場合には、さらに高度なガスバリア性が要求される。
【0003】
ガスバリア性を改良するために、ビニルアルコール単位を40モル%以上含有するビニル系ポリマーと、マレイン酸または無水マレイン酸単位を10モル%以上含有するビニル系ポリマー、及び無機層状化合物からなる層を熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に形成する方法が開示されている(特開平2001−335736)が、高湿度下におけるガスバリア性の点で不十分であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記のような問題に対して、生産性の高いバリア性コート剤を提供し、該コート剤を塗布することで高湿度下でも高いガスバリア性を有するバリア性フィルムを提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の樹脂組成物を含有するコート剤をフィルムの表面に塗布し、該樹脂組成物からなる層を形成させることにより、上記の課題が解決できることを見出し本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、
分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)と、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)と、無機層状化合物、シリカ、および金属酸化物から選ばれる一種または二種以上の化合物(C)を含有してなり、(A)、(B)、(C)の質量比が下記式(1)、(2)を満足することを特徴とするガスバリア性組成物。
(A)/(B)=95/5〜5/95 (1)
(C)/[(A)+(B)]=0.001〜1.0 (2)
及び、上記(A)〜(C)にさらに溶媒(D)を含有したコート剤、さらには、上記組成物の層を熱可塑性樹脂フィルム上に設けたガスバリア性フィルムをその要旨とするものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0007】
まず、ガスバリア性組成物とコート剤との共通する(A)〜(C)の各成分について述べる。
本発明における分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)としては高分子、オリゴマー、低分子化合物のいずれでもよい。高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレートや多糖類(7個以上の単糖がポリグリコシル化している高分子化合物:澱粉、セルロース、ガラクトマンナン、カラギーナン、キチン、キトサンなど)、あるいは水酸基変成された各種高分子化合物などが挙げられる。オリゴマーとしては例えばオリゴ糖(3個から6個の単糖がグリコシル結合しているもの:ラフィノース、ゲンチアノースなど)や上記高分子化合物における分子鎖の短いものが挙げられる。低分子化合物としては例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、単糖類(二糖類、オリゴ糖、多糖類の構成成分であり、通常Cm(H2O)nで表されるもの:グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、エリトロース、アラビノースなど)、二糖類(2個の単糖がグリコシル結合しているもの:麦芽糖、乳糖、ショ糖、セロビオースなど)、糖アルコール(単糖類を還元して得られるポリヒドロキシアルカン:ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、キシリトール、エリトリトール、グリセロールなど)、さらには芳香族化合物としてカテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン)、レゾルシノール(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)などが挙げられる。上記化合物は、その水酸基の一部がエステル化、カルボキシメチル化、アセチル化、リン酸化、カルボキシル化、アミノ化、アリルエーテル化、メチルエーテル化、カルボキシメチルエーテル化、グラフト化等の置換や変性をされていてもよい。これらの化合物の中でも特にポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体がガスバリア性の点で好ましく、特にポリビニルアルコールが好ましい。
【0008】
本発明において好ましく用いられるポリビニルアルコールは、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化するなどの公知の方法を用いて得ることができる。ビニルエステルとしては、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に最も好ましい。
【0009】
本発明の効果を損ねない範囲で、ビニルエステルに対し他のビニル化合物を共重合することも可能である。他のビニル系モノマーとしては、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸およびそのエステル、塩、無水物、アミド、ニトリル類や、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩、炭素数2〜30のα−オレフィン類、アルキルビニルエーテル類、ビニルピロリドン類などが挙げられる。
【0010】
なお、ケン化方法としては公知のアルカリケン化法や酸ケン化法を用いることができ、中でもメタノール中で水酸化アルカリを使用して加アルコール分解する方法が好ましい。
ケン化度は100%に近いほどガスバリア性の観点からは好ましい。ケン化度が低すぎるとバリア性能が低下してくる。ケン化度は通常約90%以上、好ましくは95%以上で、平均重合度は50〜3000、好ましくは80〜2500、より好ましくは100〜2000のものがよい。
【0011】
また、フィルムに積層されるポリビニルアルコール中の水酸基の比率が低すぎると、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)とのエステル化反応率が低下し、本発明の目的とするガスバリア性フィルムを得ることができない。また、疎水性の共重合成分を多量に含有させると水溶性が損なわれ、コート剤の生産の際に不都合が生じる。そのため、ポリビニルアルコールにおけるビニルアルコール単位と他のビニル化合物単位のモル比は10/90〜100/0が好ましい。
【0012】
分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)とは、分子内に下記構造式(1)で表される構造を含む化合物のことである。
【0013】
【化1】
【0014】
ここでRは原子または原子団を表し、全て同じでも、全て異なっていてもよく、またいくつかは同じ原子または原子団であってもよい。Rとしてはたとえば水素や、塩素や臭素といったハロゲン原子のほか、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、エステル基、フェニル基等でもよく、メチル基やエチル基などのアルキル基でもよい。ただし、廃棄処理などを考慮すると、塩素などのハロゲン原子は含まれていないことがより好ましい。また、化合物(B)は環状になっていてもよく、芳香環であってもよい。そのような場合には構造式(1)におけるRの数が少なくなることもある。
さらに、化合物(B)のカルボキシル基のうち、2つのカルボキシル基の間で作られる無水物構造を少なくとも1つ有する化合物も本発明においては構造式(1)で表される化合物と同様の効果を発現する。
この様な化合物としては高分子、オリゴマー、低分子化合物の何れでもよいが、コート剤の粘度を考えた時、低分子化合物の方が粘度が低く取り扱いやすいので、オリゴマーや低分子化合物が好ましく、低分子化合物がより好ましい。
そのような化合物としては1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、クエン酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸あるいはこれら化合物の無水物などが挙げられるが、特に1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸が反応性の点で好ましい。
【0015】
本発明で好ましく用いられる1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸は部分的にエステル化もしくはアミド化されていてもよい。なお、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸中のカルボキシル基は、乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造となりやすく、湿潤時や水溶液中では開環してカルボン酸構造となるが、本発明ではこれら閉環、開環を区別せず1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸として記述する。
【0016】
本発明のガスバリア組成物において、化合物(A)と化合物(B)の質量比(A)/(B)は95/5〜5/95、好ましくは、90/10〜10/90、より好ましくは、80/20〜20/80、さらに好ましくは60/40〜20/80、特に好ましくは40/60〜20/80の範囲であることが必要である。(A)が95%を超えたり5%未満のときは、特に高湿度雰囲気下におけるフィルムのガスバリア性を発現させることができない。
【0017】
本発明において、ガスバリア性を向上させるために無機層状化合物、シリカ、金属酸化物超微粒子から選ばれる一種または二種以上の化合物(C)を添加することが必要である。(C)の添加量は、質量換算で(C)/[(A)+(B)]の値が0.001〜1.0である必要があり、0.005〜0.5であることがより好ましく、0.01〜0.3であることがさらに好ましく、0.01〜0.2であることが特に好ましい。(C)の添加量が0.001未満の場合はガスバリア性を向上させる効果が認められず、1.0を超えた場合は、フィルムの外観や成膜性が悪化してしまう。
【0018】
本発明における無機層状化合物とは、単位結晶層が重なって層状構造を形成する無機化合物であり、溶媒中で膨潤、劈開するものが好ましい。
【0019】
無機層状化合物としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、バーミキュライト、フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マーガライト、クリントナイト、アナンダイト、緑泥石、ドンバサイト、スドーアイト、クッケアイト、クリノクロア、シャモサイト、ニマイト、テトラシリリックマイカ、タルク、パイロフィライト、ナクライト、カオリナイト、ハロイサイト、クリソタイル、ナトリウムテニオライト、ザンソフィライト、アンチゴライト、ディッカイト、ハイドロタルサイトなどが挙げられ、膨潤性フッ素雲母やモンモリロナイトが特に好ましい。
【0020】
これらの無機層状化合物は、天然に産するものであっても、人工的に合成あるいは変性されたものでもよく、またそれらをオニウム塩などの有機物で処理したものであってもよい。
【0021】
本発明で使用するシリカは特に限定されないが、取り扱い性の観点からコロイダルシリカがより好適に用いられる。粒子形状は、球状でも平板状でも数珠状でもよいが、ガスバリア性の観点からは平板状のものが好ましい。粒子径についても特に限定されず、ガスバリア層の膜厚に合わせて種々の粒子径のものを用いることができる。シリカは、旭硝子株式会社、日本アエロジル株式会社などから市販されている。また、コロイダルシリカは多摩化学工業株式会社、扶桑化学工業株式会社、日産化学工業株式会社などから市販されている。
【0022】
本発明で使用する金属酸化物は特に限定されないが、Li、Na、Kなどのアルカリ金属、Ca、Mgなどのアルカリ土類金属、Al、Zn、Snなどの両性金属、Ti、Zr、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Mn、Hoなどの遷移金属の酸化物が好適に用いられる。これらの金属酸化物は他種の金属やフッ素をドープしたものでもよい。また、これらの金属酸化物は粒径100nm以下の超微粒子スラリー状になっているものが取り扱い性やガスバリア性、フィルムの外観などの点からより好ましく用いることができる。具体的には、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化亜鉛や酸化チタンの超微粒子スラリーが好ましい。これらの金属酸化物超微粒子のスラリーは例えばシーアイ化成株式会社などから市販されている。
【0023】
上記の無機層状化合物、シリカ、金属酸化物は二種類以上のものを添加してもよい。
【0024】
本発明のガスバリア性組成物においては、熱処理などにより化合物(A)と化合物(B)とがエステル結合で架橋されていることがバリア性の発現には好ましい。エステル結合の分析は、ATR法によってコート層の赤外スペクトルを測定することで分析することができる。化合物(A)と化合物(B)とがエステル結合で架橋された場合、化合物(B)中のカルボニル基の吸収ピークが高波数側にシフトする。従って、本発明のガスバリア性組成物から化合物(B)の差スペクトルをとって残る吸収ピークをエステル結合に由来するピークとする。ここでは、1600〜1850cm−1の領域に限定してベースラインをとり、ガスバリア性組成物と化合物(B)のカルボニル基のピークの吸光度を規格化し、ベースラインを下回らないように両者ピークの差スペクトルをとり、1695〜1800cm−1に残る吸収ピークをエステル結合由来のピークと判断した。例えば、化合物(A)と化合物(B)がそれぞれポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の場合、上記の方法で差スペクトルをとり、残った1720cm−1付近のピークをエステル結合のカルボニルに由来するピークと判断した。
【0025】
本発明のガスバリア性組成物には、エステル化反応を促進する目的で公知の触媒を加えることができる。例えば、マンガン、カルシウム、コバルト、マグネシウム、亜鉛、鉛、アンチモンなどの酸化物や酢酸塩や炭酸塩、チタン、スズ、鉛などの有機金属化合物、塩化ハフニウム(IV)・テトラヒドロフランやハフニウムtert−ブトキシドなどのハフニウム塩、ジフェニルアンモニウムトリフラートなどが挙げられる。
【0026】
本発明のガスバリア性組成物に架橋剤成分を少量添加することによって、ガスバリア性をさらに向上させることができる。架橋剤としては、イソシアネート化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、ジルコニウム塩化合物、オキサゾリン化合物などが挙げられる好ましい添加量は、化合物(A)〜(C)の総量100質量部に対して1〜20質量部である。
【0027】
本発明のガスバリア性組成物には、その特性を大きく損わない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤、粘着付与剤などが添加されていてもよい。
【0028】
熱安定剤、酸化防止剤及び劣化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
粘着付与剤としては、C5、C9系石油樹脂、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂、アルキルフェノール樹脂などの合成樹脂系のものやロジン、テルペンなどの天然樹脂系のものなどが挙げられる。これらは、水素化、不均化、二量化、エステル化などの変性物でもよく、混合性の点から水系で用いる際にはエマルションの形態で使用することが好ましい。
【0030】
その他の添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、アルミナ、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、ゼオライト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維、フラーレン(C60、C70など)、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0031】
本発明のガスバリア性組成物は、前記した化合物(A)〜(C)および溶媒(D)を主な成分とするコート剤として使用することができる。溶媒(D)としては、フィルム生産時の環境の点から水を使用することが好ましい。溶解性の向上や乾燥工程の短縮、溶液の安定性の改善といった目的により、アルコールなどの有機溶媒を少量添加することもできる。
【0032】
コート剤の調製方法としては、撹拌機を備えた溶解釜等を用いて公知の方法で行えばよく、撹拌機としては、ホモジナイザー、ボールミル、高圧分散装置など公知の装置を用いることができる。この時次に述べるアルカリ化合物を、化合物(B)の水溶液に加えておくことにより水溶液の安定性が向上する。
【0033】
本発明のコート剤を調製する際に、アルカリ化合物を加えることが好ましい。特に化合物(B)のカルボキシル基に対して0.1〜30モル%、好ましくは1〜25モル%のアルカリ化合物を加えることが好ましい。アルカリ化合物を適正量添加することにより、得られるフィルムのガスバリア性が格段に向上される。アルカリ化合物としては、化合物(B)に含まれるカルボキシル基を中和できるものであれば特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、有機水酸化アンモニウム化合物等が挙げられる。
【0034】
また、アルカリ金属塩を加えることによってもガスバリア性が向上する。このようなアルカリ金属塩としては、炭酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、および酢酸塩などの有機酸とアルカリ金属からなる塩などが好ましく、特に、次亜リン酸ナトリウムが好ましい。好ましい添加量は化合物(A)〜(C)の総量100質量部に対して0.1〜30質量部である。
【0035】
本発明のガスバリア性フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、化合物(A)と化合物(B)と化合物(C)を前述のように規定された配合比で含有してなるガスバリア性組成物の層が形成されたものであり、本発明のガスバリア性コート剤をフィルムの表面にコートした後、加熱乾燥することによって得られる。
【0036】
本発明のガスバリア性フィルムに用いられる熱可塑性樹脂フィルムとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂、および液晶ポリエステル樹脂、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、トリアセチルセルロース、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、直鎖状ポリイミドまたはそれらの混合物よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体が挙げられ、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。特に耐熱性と透明性の点からはポリカーボネートやポリアリレートが好ましく、耐熱性と経済性の点からはポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0037】
フィルムを製造する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を押出機で加熱・溶融してTダイより押し出し、冷却ロールなどにより冷却固化させて未延伸フィルムを得るか、もしくは円形ダイより押し出して水冷あるいは空冷により固化させて未延伸フィルムを得る。
延伸フィルムを製造する場合は、未延伸フィルムを一旦巻き取った後、または連続して同時2軸延伸法または逐次2軸延伸法により延伸する方法が好ましい。フィルム機械的特性や厚み均一性能面からはTダイによるフラット式製膜法とテンター延伸法を組み合わせる方法が好ましい。
【0038】
また、フィルムとコート層の接着性を向上するためにフィルム表面にコロナ放電処理をしてもよく、アンカーコートをしてもよい。
【0039】
さらに、ガスバリア性向上、電極の形成、導電性の付与、反射防止、熱線・UV遮蔽等の目的で、ガスバリアフィルムにさらに無機物からなる層が形成されていてもよい。この場合、無機物層は、熱可塑性樹脂フィルムとガスバリア層の間にあってもよいし、ガスバリア層の上面(熱可塑性樹脂フィルムと逆側)に形成されていてもよい。このとき、無機物層とガスバリア層のいずれかの層、または両層が2層以上形成されていてもよく、例えば、これらの層を交互に設けて複層化することもできる。
【0040】
このような無機物層は、無機物であれば特に制限されないが、アルミニウムなどの金属や酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化錫、ITO、FTOなどの金属酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、ダイヤモンドライクカーボン、銀、酸化鉄およびこれらの混合物などが挙げられ、酸化珪素が好ましい。
【0041】
無機物層の形成方法は特に限定されず、ゾル−ゲル法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理気相成長法(PVD)、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法などの化学気相成長法(CVD)、めっき法などの公知の方法が挙げられる。また、無機物層の厚みに関しても特に限定されないが、通常0.5nm〜1μmが好ましく、1nm〜0.1μmがより好ましく、5nm〜50nmが特に好ましい。無機物層の膜厚が1μm以上になると曲げなどによってクラックが発生しやすくなり、界面での剥離が起こりやすくなったりするので好ましくない。また、0.5nm以下ではガスバリア性を向上させる効果が認められなくなるので好ましくない。
【0042】
本発明のガスバリア性フィルムにおいては、化合物(A)がポリビニルアルコールであり、化合物(B)が1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であり、化合物(C)がコロイダルシリカであり、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸中のカルボキシル基に対して0.1〜30モル%のアルカリ化合物を層に含有することが好ましい。
【0043】
本発明におけるガスバリア性フィルムのガスバリア層の厚みは、フィルムのガスバリア性を十分高めるためには少なくとも0.03μmより厚くすることが望ましい。上限としては特にないが、あまり厚すぎるとベースフィルムの特性が活かせなくなるので、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下であることが望ましい。
【0044】
また、コート剤をフィルムにコートする際の溶液濃度は、液の粘度や反応性、用いる装置の仕様によって適宜変更されるものであるが、あまりに希薄な溶液ではガスバリア性を発現するのに充分な厚みの層をコートすることが困難となり、また、その後の乾燥工程において長時間を要するという問題を生じやすい。一方、溶液の濃度が高すぎると、混合操作や保存性などに問題を生じることがある。この様な観点から、本発明のコート剤における固形分濃度は5〜60質量%の範囲であることが好ましく、10〜50質量%の範囲であることがより好ましい。
【0045】
コート剤をフィルムにコーティングする方法は特に限定されないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング等の通常の方法を用いることができる。延伸に先だってコーティングを行うには、まず未延伸フィルムにコーティングして乾燥した後、テンター式延伸機に供給してフィルムを走行方向と幅方向に同時に延伸(同時2軸延伸)、熱処理するか、あるいは、多段熱ロール等を用いてフィルムの走行方向に延伸を行った後にコーティングし、乾燥後、テンター式延伸機によって幅方向に延伸(逐次2軸延伸)してもよい。また、走行方向の延伸とテンターでの同時2軸延伸を組み合わせることも可能である。
【0046】
本発明においては、ガスバリア層を形成するために、コーティング後にフィルムを130℃以上で熱処理することが好ましく、熱処理時間を短くするために150℃以上で熱処理することが好ましい。また、熱処理時間は通常1秒以上、好ましくは3秒以上がよい。熱処理温度が低かったり、熱処理時間が短かすぎるとガスバリア性が不十分となる場合がある。
【0047】
本発明のガスバリア性組成物は、20℃、90%RHにおける酸素透過係数が500ml・μm/m2・day・MPa以下であることが好ましく、より好ましくは300ml・μm/m2・day・MPa以下であり、さらに100ml・μm/m2・day・MPa以下が好ましい。
【0048】
さらに、本発明のガスバリアフィルムにはラミネート加工を行っても良い。
【0049】
【実施例】
次に、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
酸素バリア性は、モコン社製酸素バリア測定器(OX−TRAN 2/20)により20℃、相対湿度90%の雰囲気における値を測定した。
また、ガスバリア層の酸素透過係数Pcは、下記式を用いて算出した。
1/QF=1/QB+L/PC
ただし、QF:ガスバリアフィルムの酸素透過度(ml/m2・day・MPa)
QB:熱可塑性樹脂フィルムの酸素透過度(ml/m2・day・MPa)
PC:ガスバリア層の酸素透過係数(ml・μm/m2・day・MPa)
L:ガスバリア層厚み(μm)
なお、厚み12μmのPETフィルムの酸素透過度は900ml/m2・day・MPa、また、厚み15μmのナイロン6フィルムの酸素透過度は400ml/m2・day・MPa、厚み100μmのポリカーボネートフィルムの酸素透過度は9500ml/m2・day・MPa、とした。
【0051】
コートフィルムの外観を目視で判断した。無色透明であれば○、半透明であれば△、白濁していれば×とし、下記の実施例に合わせて表1に示した。
【0052】
参考例(各溶液の調製)
(ア)中和度15%(アルカリ化合物:水酸化ナトリウム)の1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸水溶液(I)の調製
水97.2gに水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)1.0gと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(和光純薬工業株式会社製、試薬一級)9.8gを添加、溶解し10質量%水溶液(I)とした。
(イ)ポリビニルアルコール水溶液(II)の調製
水27.00gにポリビニルアルコール(ユニチカケミカル社製 UF100、重合度1000、ケン化度99.4)3.00gを添加・溶解し10質量%水溶液(II)とした。
(ウ)中和度15%(アルカリ化合物:水酸化ナトリウム)のビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体(ダイセル化学工業株式会社製 VEMA A−106)水溶液(III)の調製
水94.9gに水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)0.75gとビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体(ダイセル化学工業株式会社製 VEMA A−106)9.8gを添加、溶解し10質量%水溶液(III)とした。
【0053】
実施例1
上記の溶液(I)10.8gと溶液(II)4.2gとコロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、スノーテックスO、固形分約20.5質量%)0.34gを混合、攪拌して、ポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸とコロイダルシリカの質量比が30/70/5、固形分濃度10.2質量%のコート剤を調製した。
このコート剤を2軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ株式会社製エンブレットPET12、厚み12μm)のコロナ面処理上に乾燥後の塗膜厚みが約1μmになるようにメイヤーバーでコートし、100℃で2分間乾燥した後、200℃で15秒間熱処理した。
得られたコートフィルムは透明であり、このフィルムの20℃、90%RHにおける酸素透過度は3ml/m2・day・MPa、コート層の酸素透過係数は3ml・μm/m2・day・MPa、と優れたガスバリア性を示した。詳細は表1に示した。
【0054】
実施例2
コロイダルシリカの代わりに、アンチモンドープ酸化スズ水分散体(石原産業株式会社製、SN−100D、固形分濃度30%)を用いる以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0055】
実施例3
コロイダルシリカの代わりに、モンモリロナイト(クニミネ工業株式会社製、クニピアF)を用いる以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0056】
実施例4〜6
ポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の組成を変えて実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこれらのフィルムの物性をまとめた。
【0057】
実施例7、8
参考例において、水酸化ナトリウムの添加量を変えて実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0058】
実施例9
コロイダルシリカの添加量を変えて実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0059】
実施例10
参考例において、ポリビニルアルコールに変えてリン酸化澱粉(日澱化学社製プリバインP−63)を用いて溶液(I)を調製した以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0060】
実施例11
参考例において、水酸化ナトリウム1.0gの変わりに水酸化カリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)1.4gを用いて溶液(I)を調製し、溶液(I)を11.2g用いたこと以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0061】
実施例12
基材フィルムをポリカーボネートフィルム(日本ジーイープラスチック株式会社製LEXAN、厚み100μm)に変えた以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムは透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0062】
実施例13
基材フィルムをSiO2蒸着PETフィルム(尾池工業株式会社製MOS−TH、厚み12μm)に変えた以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムは透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0063】
実施例14
実施例1と同様にコート剤を調製した。
次に、ナイロン6樹脂をTダイを備えた押出機(75mm径、L/Dが45の緩圧縮タイプ単軸スクリュー)を用いて、シンリンダー温度260℃、Tダイ温度270℃でシート状に押出し、表面温度10℃に調節された冷却ロール上に密着させて急冷し、厚み150μmの未延伸フィルムとした。続いて、未延伸フィルムをグラビアロール式コーターに導き、乾燥後のコート厚みが20μmになるようにコーティングし、80℃の熱風ドライヤー中で30秒間乾燥した。次に、フィルムをテンター式同時2軸延伸機に供給し、温度100℃で2秒間予熱した後、170℃で縦方向に3倍、横方向に3.5倍の倍率で延伸した。次に、横方向弛緩率5%で、200℃で30秒間の熱処理を行い、室温まで冷却後延伸フィルムを巻き取った。こうして得られたコートフィルムは厚みが17.0μm、コート層の厚みが2.0μmであった。得られたフィルムは透明であり、ガスバリア性に優れたものであった。表1にこのフィルムの物性を示した。
【0064】
比較例1
1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の代わりにビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体を用いた以外は実施例1と同様にしてコート剤を調製した。すなわち、上記の溶液(II)4.2gと溶液(III)10.6gとコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックスO、固形分約20.5質量%)0.34gを混合、攪拌して、ポリビニルアルコールとビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体とコロイダルシリカの質量比が30/70/5、固形分濃度10.2質量%のコート剤を調製した。
これを2軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)上に乾燥後の塗膜厚みが約1μmになるようにメイヤーバーでコートし、100℃で2分間乾燥した後、200℃で15秒間熱処理した。得られたフィルムの物性を表1に示す。ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体は分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されているような構造ではないため、分子内にいくら多くのカルボキシル基を有していても、ここで採用された熱処理条件では、本発明のガスバリアフィルムのような高いガスバリア性のコート層を形成することができなかった。
【0065】
【表1】
【0066】
【発明の効果】
本発明によれば、優れたガスバリア性能を有するフィルムを生産性良く製造することができ、また、高湿度下でも優れたガスバリア性を保持することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は高湿度下でも優れたガスバリア性を有するガスバリア性フィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアミド、ポリエステル等の熱可塑性樹脂フィルムは強度、透明性、成形性、ガスバリア性に優れていることから、包装材料として幅広い用途に使用されている。しかしながら、レトルト処理食品等の長期間の保存性が求められる用途に用いる場合には、さらに高度なガスバリア性が要求される。
【0003】
ガスバリア性を改良するために、ビニルアルコール単位を40モル%以上含有するビニル系ポリマーと、マレイン酸または無水マレイン酸単位を10モル%以上含有するビニル系ポリマー、及び無機層状化合物からなる層を熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に形成する方法が開示されている(特開平2001−335736)が、高湿度下におけるガスバリア性の点で不十分であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記のような問題に対して、生産性の高いバリア性コート剤を提供し、該コート剤を塗布することで高湿度下でも高いガスバリア性を有するバリア性フィルムを提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の樹脂組成物を含有するコート剤をフィルムの表面に塗布し、該樹脂組成物からなる層を形成させることにより、上記の課題が解決できることを見出し本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、
分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)と、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)と、無機層状化合物、シリカ、および金属酸化物から選ばれる一種または二種以上の化合物(C)を含有してなり、(A)、(B)、(C)の質量比が下記式(1)、(2)を満足することを特徴とするガスバリア性組成物。
(A)/(B)=95/5〜5/95 (1)
(C)/[(A)+(B)]=0.001〜1.0 (2)
及び、上記(A)〜(C)にさらに溶媒(D)を含有したコート剤、さらには、上記組成物の層を熱可塑性樹脂フィルム上に設けたガスバリア性フィルムをその要旨とするものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0007】
まず、ガスバリア性組成物とコート剤との共通する(A)〜(C)の各成分について述べる。
本発明における分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)としては高分子、オリゴマー、低分子化合物のいずれでもよい。高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレートや多糖類(7個以上の単糖がポリグリコシル化している高分子化合物:澱粉、セルロース、ガラクトマンナン、カラギーナン、キチン、キトサンなど)、あるいは水酸基変成された各種高分子化合物などが挙げられる。オリゴマーとしては例えばオリゴ糖(3個から6個の単糖がグリコシル結合しているもの:ラフィノース、ゲンチアノースなど)や上記高分子化合物における分子鎖の短いものが挙げられる。低分子化合物としては例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、単糖類(二糖類、オリゴ糖、多糖類の構成成分であり、通常Cm(H2O)nで表されるもの:グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、エリトロース、アラビノースなど)、二糖類(2個の単糖がグリコシル結合しているもの:麦芽糖、乳糖、ショ糖、セロビオースなど)、糖アルコール(単糖類を還元して得られるポリヒドロキシアルカン:ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、キシリトール、エリトリトール、グリセロールなど)、さらには芳香族化合物としてカテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン)、レゾルシノール(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)などが挙げられる。上記化合物は、その水酸基の一部がエステル化、カルボキシメチル化、アセチル化、リン酸化、カルボキシル化、アミノ化、アリルエーテル化、メチルエーテル化、カルボキシメチルエーテル化、グラフト化等の置換や変性をされていてもよい。これらの化合物の中でも特にポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体がガスバリア性の点で好ましく、特にポリビニルアルコールが好ましい。
【0008】
本発明において好ましく用いられるポリビニルアルコールは、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化するなどの公知の方法を用いて得ることができる。ビニルエステルとしては、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に最も好ましい。
【0009】
本発明の効果を損ねない範囲で、ビニルエステルに対し他のビニル化合物を共重合することも可能である。他のビニル系モノマーとしては、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸およびそのエステル、塩、無水物、アミド、ニトリル類や、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩、炭素数2〜30のα−オレフィン類、アルキルビニルエーテル類、ビニルピロリドン類などが挙げられる。
【0010】
なお、ケン化方法としては公知のアルカリケン化法や酸ケン化法を用いることができ、中でもメタノール中で水酸化アルカリを使用して加アルコール分解する方法が好ましい。
ケン化度は100%に近いほどガスバリア性の観点からは好ましい。ケン化度が低すぎるとバリア性能が低下してくる。ケン化度は通常約90%以上、好ましくは95%以上で、平均重合度は50〜3000、好ましくは80〜2500、より好ましくは100〜2000のものがよい。
【0011】
また、フィルムに積層されるポリビニルアルコール中の水酸基の比率が低すぎると、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)とのエステル化反応率が低下し、本発明の目的とするガスバリア性フィルムを得ることができない。また、疎水性の共重合成分を多量に含有させると水溶性が損なわれ、コート剤の生産の際に不都合が生じる。そのため、ポリビニルアルコールにおけるビニルアルコール単位と他のビニル化合物単位のモル比は10/90〜100/0が好ましい。
【0012】
分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)とは、分子内に下記構造式(1)で表される構造を含む化合物のことである。
【0013】
【化1】
【0014】
ここでRは原子または原子団を表し、全て同じでも、全て異なっていてもよく、またいくつかは同じ原子または原子団であってもよい。Rとしてはたとえば水素や、塩素や臭素といったハロゲン原子のほか、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、エステル基、フェニル基等でもよく、メチル基やエチル基などのアルキル基でもよい。ただし、廃棄処理などを考慮すると、塩素などのハロゲン原子は含まれていないことがより好ましい。また、化合物(B)は環状になっていてもよく、芳香環であってもよい。そのような場合には構造式(1)におけるRの数が少なくなることもある。
さらに、化合物(B)のカルボキシル基のうち、2つのカルボキシル基の間で作られる無水物構造を少なくとも1つ有する化合物も本発明においては構造式(1)で表される化合物と同様の効果を発現する。
この様な化合物としては高分子、オリゴマー、低分子化合物の何れでもよいが、コート剤の粘度を考えた時、低分子化合物の方が粘度が低く取り扱いやすいので、オリゴマーや低分子化合物が好ましく、低分子化合物がより好ましい。
そのような化合物としては1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、クエン酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸あるいはこれら化合物の無水物などが挙げられるが、特に1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸が反応性の点で好ましい。
【0015】
本発明で好ましく用いられる1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸は部分的にエステル化もしくはアミド化されていてもよい。なお、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸中のカルボキシル基は、乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造となりやすく、湿潤時や水溶液中では開環してカルボン酸構造となるが、本発明ではこれら閉環、開環を区別せず1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸として記述する。
【0016】
本発明のガスバリア組成物において、化合物(A)と化合物(B)の質量比(A)/(B)は95/5〜5/95、好ましくは、90/10〜10/90、より好ましくは、80/20〜20/80、さらに好ましくは60/40〜20/80、特に好ましくは40/60〜20/80の範囲であることが必要である。(A)が95%を超えたり5%未満のときは、特に高湿度雰囲気下におけるフィルムのガスバリア性を発現させることができない。
【0017】
本発明において、ガスバリア性を向上させるために無機層状化合物、シリカ、金属酸化物超微粒子から選ばれる一種または二種以上の化合物(C)を添加することが必要である。(C)の添加量は、質量換算で(C)/[(A)+(B)]の値が0.001〜1.0である必要があり、0.005〜0.5であることがより好ましく、0.01〜0.3であることがさらに好ましく、0.01〜0.2であることが特に好ましい。(C)の添加量が0.001未満の場合はガスバリア性を向上させる効果が認められず、1.0を超えた場合は、フィルムの外観や成膜性が悪化してしまう。
【0018】
本発明における無機層状化合物とは、単位結晶層が重なって層状構造を形成する無機化合物であり、溶媒中で膨潤、劈開するものが好ましい。
【0019】
無機層状化合物としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、バーミキュライト、フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マーガライト、クリントナイト、アナンダイト、緑泥石、ドンバサイト、スドーアイト、クッケアイト、クリノクロア、シャモサイト、ニマイト、テトラシリリックマイカ、タルク、パイロフィライト、ナクライト、カオリナイト、ハロイサイト、クリソタイル、ナトリウムテニオライト、ザンソフィライト、アンチゴライト、ディッカイト、ハイドロタルサイトなどが挙げられ、膨潤性フッ素雲母やモンモリロナイトが特に好ましい。
【0020】
これらの無機層状化合物は、天然に産するものであっても、人工的に合成あるいは変性されたものでもよく、またそれらをオニウム塩などの有機物で処理したものであってもよい。
【0021】
本発明で使用するシリカは特に限定されないが、取り扱い性の観点からコロイダルシリカがより好適に用いられる。粒子形状は、球状でも平板状でも数珠状でもよいが、ガスバリア性の観点からは平板状のものが好ましい。粒子径についても特に限定されず、ガスバリア層の膜厚に合わせて種々の粒子径のものを用いることができる。シリカは、旭硝子株式会社、日本アエロジル株式会社などから市販されている。また、コロイダルシリカは多摩化学工業株式会社、扶桑化学工業株式会社、日産化学工業株式会社などから市販されている。
【0022】
本発明で使用する金属酸化物は特に限定されないが、Li、Na、Kなどのアルカリ金属、Ca、Mgなどのアルカリ土類金属、Al、Zn、Snなどの両性金属、Ti、Zr、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Mn、Hoなどの遷移金属の酸化物が好適に用いられる。これらの金属酸化物は他種の金属やフッ素をドープしたものでもよい。また、これらの金属酸化物は粒径100nm以下の超微粒子スラリー状になっているものが取り扱い性やガスバリア性、フィルムの外観などの点からより好ましく用いることができる。具体的には、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化亜鉛や酸化チタンの超微粒子スラリーが好ましい。これらの金属酸化物超微粒子のスラリーは例えばシーアイ化成株式会社などから市販されている。
【0023】
上記の無機層状化合物、シリカ、金属酸化物は二種類以上のものを添加してもよい。
【0024】
本発明のガスバリア性組成物においては、熱処理などにより化合物(A)と化合物(B)とがエステル結合で架橋されていることがバリア性の発現には好ましい。エステル結合の分析は、ATR法によってコート層の赤外スペクトルを測定することで分析することができる。化合物(A)と化合物(B)とがエステル結合で架橋された場合、化合物(B)中のカルボニル基の吸収ピークが高波数側にシフトする。従って、本発明のガスバリア性組成物から化合物(B)の差スペクトルをとって残る吸収ピークをエステル結合に由来するピークとする。ここでは、1600〜1850cm−1の領域に限定してベースラインをとり、ガスバリア性組成物と化合物(B)のカルボニル基のピークの吸光度を規格化し、ベースラインを下回らないように両者ピークの差スペクトルをとり、1695〜1800cm−1に残る吸収ピークをエステル結合由来のピークと判断した。例えば、化合物(A)と化合物(B)がそれぞれポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の場合、上記の方法で差スペクトルをとり、残った1720cm−1付近のピークをエステル結合のカルボニルに由来するピークと判断した。
【0025】
本発明のガスバリア性組成物には、エステル化反応を促進する目的で公知の触媒を加えることができる。例えば、マンガン、カルシウム、コバルト、マグネシウム、亜鉛、鉛、アンチモンなどの酸化物や酢酸塩や炭酸塩、チタン、スズ、鉛などの有機金属化合物、塩化ハフニウム(IV)・テトラヒドロフランやハフニウムtert−ブトキシドなどのハフニウム塩、ジフェニルアンモニウムトリフラートなどが挙げられる。
【0026】
本発明のガスバリア性組成物に架橋剤成分を少量添加することによって、ガスバリア性をさらに向上させることができる。架橋剤としては、イソシアネート化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、ジルコニウム塩化合物、オキサゾリン化合物などが挙げられる好ましい添加量は、化合物(A)〜(C)の総量100質量部に対して1〜20質量部である。
【0027】
本発明のガスバリア性組成物には、その特性を大きく損わない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤、粘着付与剤などが添加されていてもよい。
【0028】
熱安定剤、酸化防止剤及び劣化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
粘着付与剤としては、C5、C9系石油樹脂、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂、アルキルフェノール樹脂などの合成樹脂系のものやロジン、テルペンなどの天然樹脂系のものなどが挙げられる。これらは、水素化、不均化、二量化、エステル化などの変性物でもよく、混合性の点から水系で用いる際にはエマルションの形態で使用することが好ましい。
【0030】
その他の添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、アルミナ、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、ゼオライト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維、フラーレン(C60、C70など)、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0031】
本発明のガスバリア性組成物は、前記した化合物(A)〜(C)および溶媒(D)を主な成分とするコート剤として使用することができる。溶媒(D)としては、フィルム生産時の環境の点から水を使用することが好ましい。溶解性の向上や乾燥工程の短縮、溶液の安定性の改善といった目的により、アルコールなどの有機溶媒を少量添加することもできる。
【0032】
コート剤の調製方法としては、撹拌機を備えた溶解釜等を用いて公知の方法で行えばよく、撹拌機としては、ホモジナイザー、ボールミル、高圧分散装置など公知の装置を用いることができる。この時次に述べるアルカリ化合物を、化合物(B)の水溶液に加えておくことにより水溶液の安定性が向上する。
【0033】
本発明のコート剤を調製する際に、アルカリ化合物を加えることが好ましい。特に化合物(B)のカルボキシル基に対して0.1〜30モル%、好ましくは1〜25モル%のアルカリ化合物を加えることが好ましい。アルカリ化合物を適正量添加することにより、得られるフィルムのガスバリア性が格段に向上される。アルカリ化合物としては、化合物(B)に含まれるカルボキシル基を中和できるものであれば特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、有機水酸化アンモニウム化合物等が挙げられる。
【0034】
また、アルカリ金属塩を加えることによってもガスバリア性が向上する。このようなアルカリ金属塩としては、炭酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、および酢酸塩などの有機酸とアルカリ金属からなる塩などが好ましく、特に、次亜リン酸ナトリウムが好ましい。好ましい添加量は化合物(A)〜(C)の総量100質量部に対して0.1〜30質量部である。
【0035】
本発明のガスバリア性フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、化合物(A)と化合物(B)と化合物(C)を前述のように規定された配合比で含有してなるガスバリア性組成物の層が形成されたものであり、本発明のガスバリア性コート剤をフィルムの表面にコートした後、加熱乾燥することによって得られる。
【0036】
本発明のガスバリア性フィルムに用いられる熱可塑性樹脂フィルムとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂、および液晶ポリエステル樹脂、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、トリアセチルセルロース、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、直鎖状ポリイミドまたはそれらの混合物よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体が挙げられ、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。特に耐熱性と透明性の点からはポリカーボネートやポリアリレートが好ましく、耐熱性と経済性の点からはポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0037】
フィルムを製造する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を押出機で加熱・溶融してTダイより押し出し、冷却ロールなどにより冷却固化させて未延伸フィルムを得るか、もしくは円形ダイより押し出して水冷あるいは空冷により固化させて未延伸フィルムを得る。
延伸フィルムを製造する場合は、未延伸フィルムを一旦巻き取った後、または連続して同時2軸延伸法または逐次2軸延伸法により延伸する方法が好ましい。フィルム機械的特性や厚み均一性能面からはTダイによるフラット式製膜法とテンター延伸法を組み合わせる方法が好ましい。
【0038】
また、フィルムとコート層の接着性を向上するためにフィルム表面にコロナ放電処理をしてもよく、アンカーコートをしてもよい。
【0039】
さらに、ガスバリア性向上、電極の形成、導電性の付与、反射防止、熱線・UV遮蔽等の目的で、ガスバリアフィルムにさらに無機物からなる層が形成されていてもよい。この場合、無機物層は、熱可塑性樹脂フィルムとガスバリア層の間にあってもよいし、ガスバリア層の上面(熱可塑性樹脂フィルムと逆側)に形成されていてもよい。このとき、無機物層とガスバリア層のいずれかの層、または両層が2層以上形成されていてもよく、例えば、これらの層を交互に設けて複層化することもできる。
【0040】
このような無機物層は、無機物であれば特に制限されないが、アルミニウムなどの金属や酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化錫、ITO、FTOなどの金属酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、ダイヤモンドライクカーボン、銀、酸化鉄およびこれらの混合物などが挙げられ、酸化珪素が好ましい。
【0041】
無機物層の形成方法は特に限定されず、ゾル−ゲル法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理気相成長法(PVD)、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法などの化学気相成長法(CVD)、めっき法などの公知の方法が挙げられる。また、無機物層の厚みに関しても特に限定されないが、通常0.5nm〜1μmが好ましく、1nm〜0.1μmがより好ましく、5nm〜50nmが特に好ましい。無機物層の膜厚が1μm以上になると曲げなどによってクラックが発生しやすくなり、界面での剥離が起こりやすくなったりするので好ましくない。また、0.5nm以下ではガスバリア性を向上させる効果が認められなくなるので好ましくない。
【0042】
本発明のガスバリア性フィルムにおいては、化合物(A)がポリビニルアルコールであり、化合物(B)が1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であり、化合物(C)がコロイダルシリカであり、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸中のカルボキシル基に対して0.1〜30モル%のアルカリ化合物を層に含有することが好ましい。
【0043】
本発明におけるガスバリア性フィルムのガスバリア層の厚みは、フィルムのガスバリア性を十分高めるためには少なくとも0.03μmより厚くすることが望ましい。上限としては特にないが、あまり厚すぎるとベースフィルムの特性が活かせなくなるので、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下であることが望ましい。
【0044】
また、コート剤をフィルムにコートする際の溶液濃度は、液の粘度や反応性、用いる装置の仕様によって適宜変更されるものであるが、あまりに希薄な溶液ではガスバリア性を発現するのに充分な厚みの層をコートすることが困難となり、また、その後の乾燥工程において長時間を要するという問題を生じやすい。一方、溶液の濃度が高すぎると、混合操作や保存性などに問題を生じることがある。この様な観点から、本発明のコート剤における固形分濃度は5〜60質量%の範囲であることが好ましく、10〜50質量%の範囲であることがより好ましい。
【0045】
コート剤をフィルムにコーティングする方法は特に限定されないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング等の通常の方法を用いることができる。延伸に先だってコーティングを行うには、まず未延伸フィルムにコーティングして乾燥した後、テンター式延伸機に供給してフィルムを走行方向と幅方向に同時に延伸(同時2軸延伸)、熱処理するか、あるいは、多段熱ロール等を用いてフィルムの走行方向に延伸を行った後にコーティングし、乾燥後、テンター式延伸機によって幅方向に延伸(逐次2軸延伸)してもよい。また、走行方向の延伸とテンターでの同時2軸延伸を組み合わせることも可能である。
【0046】
本発明においては、ガスバリア層を形成するために、コーティング後にフィルムを130℃以上で熱処理することが好ましく、熱処理時間を短くするために150℃以上で熱処理することが好ましい。また、熱処理時間は通常1秒以上、好ましくは3秒以上がよい。熱処理温度が低かったり、熱処理時間が短かすぎるとガスバリア性が不十分となる場合がある。
【0047】
本発明のガスバリア性組成物は、20℃、90%RHにおける酸素透過係数が500ml・μm/m2・day・MPa以下であることが好ましく、より好ましくは300ml・μm/m2・day・MPa以下であり、さらに100ml・μm/m2・day・MPa以下が好ましい。
【0048】
さらに、本発明のガスバリアフィルムにはラミネート加工を行っても良い。
【0049】
【実施例】
次に、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
酸素バリア性は、モコン社製酸素バリア測定器(OX−TRAN 2/20)により20℃、相対湿度90%の雰囲気における値を測定した。
また、ガスバリア層の酸素透過係数Pcは、下記式を用いて算出した。
1/QF=1/QB+L/PC
ただし、QF:ガスバリアフィルムの酸素透過度(ml/m2・day・MPa)
QB:熱可塑性樹脂フィルムの酸素透過度(ml/m2・day・MPa)
PC:ガスバリア層の酸素透過係数(ml・μm/m2・day・MPa)
L:ガスバリア層厚み(μm)
なお、厚み12μmのPETフィルムの酸素透過度は900ml/m2・day・MPa、また、厚み15μmのナイロン6フィルムの酸素透過度は400ml/m2・day・MPa、厚み100μmのポリカーボネートフィルムの酸素透過度は9500ml/m2・day・MPa、とした。
【0051】
コートフィルムの外観を目視で判断した。無色透明であれば○、半透明であれば△、白濁していれば×とし、下記の実施例に合わせて表1に示した。
【0052】
参考例(各溶液の調製)
(ア)中和度15%(アルカリ化合物:水酸化ナトリウム)の1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸水溶液(I)の調製
水97.2gに水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)1.0gと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(和光純薬工業株式会社製、試薬一級)9.8gを添加、溶解し10質量%水溶液(I)とした。
(イ)ポリビニルアルコール水溶液(II)の調製
水27.00gにポリビニルアルコール(ユニチカケミカル社製 UF100、重合度1000、ケン化度99.4)3.00gを添加・溶解し10質量%水溶液(II)とした。
(ウ)中和度15%(アルカリ化合物:水酸化ナトリウム)のビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体(ダイセル化学工業株式会社製 VEMA A−106)水溶液(III)の調製
水94.9gに水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)0.75gとビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体(ダイセル化学工業株式会社製 VEMA A−106)9.8gを添加、溶解し10質量%水溶液(III)とした。
【0053】
実施例1
上記の溶液(I)10.8gと溶液(II)4.2gとコロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、スノーテックスO、固形分約20.5質量%)0.34gを混合、攪拌して、ポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸とコロイダルシリカの質量比が30/70/5、固形分濃度10.2質量%のコート剤を調製した。
このコート剤を2軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ株式会社製エンブレットPET12、厚み12μm)のコロナ面処理上に乾燥後の塗膜厚みが約1μmになるようにメイヤーバーでコートし、100℃で2分間乾燥した後、200℃で15秒間熱処理した。
得られたコートフィルムは透明であり、このフィルムの20℃、90%RHにおける酸素透過度は3ml/m2・day・MPa、コート層の酸素透過係数は3ml・μm/m2・day・MPa、と優れたガスバリア性を示した。詳細は表1に示した。
【0054】
実施例2
コロイダルシリカの代わりに、アンチモンドープ酸化スズ水分散体(石原産業株式会社製、SN−100D、固形分濃度30%)を用いる以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0055】
実施例3
コロイダルシリカの代わりに、モンモリロナイト(クニミネ工業株式会社製、クニピアF)を用いる以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0056】
実施例4〜6
ポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の組成を変えて実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこれらのフィルムの物性をまとめた。
【0057】
実施例7、8
参考例において、水酸化ナトリウムの添加量を変えて実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0058】
実施例9
コロイダルシリカの添加量を変えて実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0059】
実施例10
参考例において、ポリビニルアルコールに変えてリン酸化澱粉(日澱化学社製プリバインP−63)を用いて溶液(I)を調製した以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0060】
実施例11
参考例において、水酸化ナトリウム1.0gの変わりに水酸化カリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)1.4gを用いて溶液(I)を調製し、溶液(I)を11.2g用いたこと以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムはいずれも透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0061】
実施例12
基材フィルムをポリカーボネートフィルム(日本ジーイープラスチック株式会社製LEXAN、厚み100μm)に変えた以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムは透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0062】
実施例13
基材フィルムをSiO2蒸着PETフィルム(尾池工業株式会社製MOS−TH、厚み12μm)に変えた以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。得られたフィルムは透明であり、ガスバリア性に優れていた。表1にこのフィルムの物性をまとめた。
【0063】
実施例14
実施例1と同様にコート剤を調製した。
次に、ナイロン6樹脂をTダイを備えた押出機(75mm径、L/Dが45の緩圧縮タイプ単軸スクリュー)を用いて、シンリンダー温度260℃、Tダイ温度270℃でシート状に押出し、表面温度10℃に調節された冷却ロール上に密着させて急冷し、厚み150μmの未延伸フィルムとした。続いて、未延伸フィルムをグラビアロール式コーターに導き、乾燥後のコート厚みが20μmになるようにコーティングし、80℃の熱風ドライヤー中で30秒間乾燥した。次に、フィルムをテンター式同時2軸延伸機に供給し、温度100℃で2秒間予熱した後、170℃で縦方向に3倍、横方向に3.5倍の倍率で延伸した。次に、横方向弛緩率5%で、200℃で30秒間の熱処理を行い、室温まで冷却後延伸フィルムを巻き取った。こうして得られたコートフィルムは厚みが17.0μm、コート層の厚みが2.0μmであった。得られたフィルムは透明であり、ガスバリア性に優れたものであった。表1にこのフィルムの物性を示した。
【0064】
比較例1
1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の代わりにビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体を用いた以外は実施例1と同様にしてコート剤を調製した。すなわち、上記の溶液(II)4.2gと溶液(III)10.6gとコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックスO、固形分約20.5質量%)0.34gを混合、攪拌して、ポリビニルアルコールとビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体とコロイダルシリカの質量比が30/70/5、固形分濃度10.2質量%のコート剤を調製した。
これを2軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)上に乾燥後の塗膜厚みが約1μmになるようにメイヤーバーでコートし、100℃で2分間乾燥した後、200℃で15秒間熱処理した。得られたフィルムの物性を表1に示す。ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体は分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されているような構造ではないため、分子内にいくら多くのカルボキシル基を有していても、ここで採用された熱処理条件では、本発明のガスバリアフィルムのような高いガスバリア性のコート層を形成することができなかった。
【0065】
【表1】
【0066】
【発明の効果】
本発明によれば、優れたガスバリア性能を有するフィルムを生産性良く製造することができ、また、高湿度下でも優れたガスバリア性を保持することができる。
Claims (16)
- 分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)と、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)と、無機層状化合物、シリカ、および金属酸化物から選ばれる一種または二種以上の化合物(C)を含有してなり、(A)、(B)、(C)の質量比が下記式(1)、(2)を満足することを特徴とするガスバリア性組成物。
(A)/(B)=95/5〜5/95 (1)
(C)/[(A)+(B)]=0.001〜1.0 (2) - 化合物(A)がポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1記載のガスバリア性組成物。
- 化合物(B)が1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする請求項1または2記載のガスバリア性組成物。
- 化合物(B)に含まれるカルボキシル基に対して0.1〜30モル%のアルカリ化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性組成物。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性組成物において化合物、(A)と化合物(B)とがエステル結合でつながっていることを特徴とするガスバリア性組成物。
- 20℃、90%RHにおける酸素透過係数が500ml・μm/m2・day・MPa以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性組成物。
- 分子内に2個以上の水酸基を有する化合物(A)と、分子内の連続する3個以上の炭素原子のそれぞれにカルボキシル基が少なくとも1個ずつ結合されている化合物(B)と、無機層状化合物、シリカ、および金属酸化物から選ばれる一種または二種以上の化合物(C)、および溶媒(D)を含有し、(A)、(B)、(C)の固形分質量比が下記式(1)、(2)を満足することを特徴とするガスバリア性コート剤。
(A)/(B)= 95/5〜5/95 (1)
(C)/[(A)+(B)] = 0.001〜1.0 (2) - 化合物(A)がポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項7記載のガスバリア性コート剤。
- 化合物(B)が1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする請求項7または8のいずれかに記載のガスバリア性コート剤。
- 化合物(B)中のカルボキシル基に対して0.1〜30モル%のアルカリ化合物を含有することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のガスバリア性コート剤。
- 溶媒(D)が水であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載のガスバリア性コート剤。
- 熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性組成物からなるガスバリア層を設けたことを特徴とするガスバリア性フィルム。
- 熱可塑性樹脂フィルムがナイロン6フィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムである請求項12に記載のガスバリア性フィルム。
- 熱可塑性樹脂フィルムがポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、トリアセチルセルロースから選ばれる一種または二種以上の樹脂の混合物からなるフィルムであることを特徴とする請求項12に記載のガスバリア性フィルム。
- 請求項12〜14いずれかに記載のガスバリア性フィルムにおいて、熱可塑性樹脂フィルムとガスバリア層の間、またはガスバリア層の外側に、さらに無機物層を設けたことを特徴とするガスバリア性フィルム。
- 熱可塑性フィルムの少なくとも片面に、請求項7〜11のいずれかに記載のガスバリア性コート剤を塗布した後、130℃以上で熱処理することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
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