JP2004011807A - 無段変速機の滑り検出装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】無段変速機における小さい滑りであっても迅速に、また正確に検出できる装置を提供する。
【解決手段】入力部材と出力部材との間に介在させた伝動部材を介して前記入力部材と出力部材との間でトルクを伝達し、前記入力部材および出力部材と前記伝動部材との間のトルク伝達位置を変化させることにより変速比を連続的に変化させる無段変速機の滑り検出装置において、前記入力部材の回転数と出力部材の回転数とから変速比を求める変速比検出手段(ステップS2)と、その変速比検出手段(ステップS2)で求められた変速比の振動成分を求める振動成分検出手段(ステップS3)と、その振動成分検出手段(ステップS3)で求められた変速比の振動成分に基づいて前記無段変速機での滑りを検出する滑り判定手段(ステップS4)とを備えている。
【選択図】 図1
【解決手段】入力部材と出力部材との間に介在させた伝動部材を介して前記入力部材と出力部材との間でトルクを伝達し、前記入力部材および出力部材と前記伝動部材との間のトルク伝達位置を変化させることにより変速比を連続的に変化させる無段変速機の滑り検出装置において、前記入力部材の回転数と出力部材の回転数とから変速比を求める変速比検出手段(ステップS2)と、その変速比検出手段(ステップS2)で求められた変速比の振動成分を求める振動成分検出手段(ステップS3)と、その振動成分検出手段(ステップS3)で求められた変速比の振動成分に基づいて前記無段変速機での滑りを検出する滑り判定手段(ステップS4)とを備えている。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、摩擦力やトラクションオイルのせん断力などを利用してトルクを伝達する無段変速機の滑りを検出するための装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ベルト式無段変速機あるいはトラクション式(トロイダル型)無段変速機などの変速機は、噛み合いに依らないでトルクを伝達するから、その伝達トルク(もしくはトルク容量)を超えてトルクが作用することにより、過剰な滑りが生じることがある。そのような過剰な滑りが生じると、動力の伝達効率が低下したり、あるいは耐久性が損なわれたりし、特に無段変速機では、ベルトなどの伝動部材やトルク伝達面の摩耗などが大きくなる場合が考えられる。
【0003】
従来、無段変速機の故障を車両の走行に不具合が生じる前に検出するための装置が特開昭62−2059号公報に記載されている。この公報に記載された発明は、入出力回転数から求まる変速比が最大値や最小値を超えた場合や、その変速比の変化速度が設定値以上になった場合に、故障の判定をおこない、その頻度が高くなった場合にユーザーに警報を発するように構成されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記の公報に記載された発明によれば、無段変速機での滑りを検出することができる。しかしながら、それは、無段変速機の故障の結果としての滑りもしくは故障の要因となっている滑りであり、そのために、変速比が上下限のいずれかの限界値を超え、あるいは変速速度が過大になることにより、故障の判定をおこなうようにしている。したがって上記従来の装置では、変速比や変速速度がそのように極端な値になるまでは、ベルトなどの滑りを検出することができない。
【0005】
無段変速機では、トルクの伝達を媒介するベルトやパワーローラを挟み付ける挟圧力が高ければ、滑りが生じにくくなるが、その反面、動力の伝達効率が低下する。したがって挟圧力は、滑りが生じない範囲で可及的に低く設定することが望まれるが、無段変速機に作用するトルクが急激に変化した場合には、それに伴う滑りを事前にもしくは直ちに検出する必要がある。そのためにはいわゆるミクロスリップからマクロスリップへの変化を検出するなど、僅かな挙動の変化を滑りとして検出する必要があるが、上記の公報に記載された発明では、このような技術的課題に着目していないのみならず、故障とは言い得ない一時的な、あるいは微妙な滑りを検出することができない。
【0006】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、無段変速機での小さい滑りをも容易に検出することのできる滑り検出装置を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用】
この発明は、上記の目的を達成するために、無段変速機の入出力回転数から求まる変速比の振動成分に基づいて滑りを検出するように構成したことを特徴とするものである。より具体的には、請求項1の発明は、入力部材と出力部材との間に介在させた伝動部材を介して前記入力部材と出力部材との間でトルクを伝達し、前記入力部材および出力部材と前記伝動部材との間のトルク伝達位置を変化させることにより変速比を連続的に変化させる無段変速機の滑り検出装置において、前記入力部材の回転数と出力部材の回転数とから変速比を求める変速比検出手段と、その変速比検出手段で求められた変速比の振動成分を求める振動成分検出手段と、その振動成分検出手段で求められた変速比の振動成分に基づいて前記無段変速機での滑りを検出する滑り判定手段とを備えていることを特徴とする滑り検出装置である。
【0008】
したがって請求項1の発明では、伝動部材を介して入力部材と出力部材との間でトルクが伝達され、入力部材および出力部材が回転し、その回転数の比率が変速比として検出される。入力部材や出力部材の回転数は、無段変速機に入力されるトルクや無段変速機の出力側のトルクによって変動するので、検出された変速比の所定の振動成分が求められる。その変速比の振動成分には、無段変速機での滑りに起因する振動成分が含まれているので、その変速比の振動成分に基づいて無段変速機の滑りが検出される。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の構成において、前記滑り判定手段によって前記無段変速機での滑りが検出されたことにより前記無段変速機のトルク容量を増大させるトルク容量増大手段を更に備えていることを特徴とする滑り検出装置である。
【0010】
したがって請求項2の発明では、無段変速機での滑りが、無段変速機に作用するトルクに対して無段変速機のトルク容量が相対的に小さいことにより生じたので、そのトルク容量を増大させることにより、滑りが抑制もしくは回避される。
【0011】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする無段変速機を含む駆動機構について説明すると、この発明は、車両に搭載される駆動機構を対象とすることができ、その駆動機構に含まれる無段変速機は、ベルトを伝動部材としたベルト式の無段変速機や、パワーローラを伝動部材とするとともにオイル(トラクション油)のせん断力を利用してトルクを伝達するトロイダル型(トラクション式)無段変速機である。図4には、ベルト式無段変速機1を含む車両用駆動機構の一例を模式的に示しており、この無段変速機1は、前後進切換機構2およびトルクコンバータ3を介して動力源4に連結されている。
【0012】
その動力源4は、一般の車両に搭載されている動力源と同様のものであって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関や、電動機、あるいは内燃機関と電動機とを組み合わせた機構などを採用することができる。なお、以下の説明では、動力源4をエンジン4と記す。
【0013】
エンジン4の出力軸に連結されたトルクコンバータ3は、従来一般の車両で採用しているトルクコンバータと同様の構造であって、エンジン4の出力軸が連結されたフロントカバー5にポンプインペラー6が一体化されており、そのポンプインペラー6に対向するタービンランナー7が、フロントカバー5の内面に隣接して配置されている。これらのポンプインペラー6とタービンランナー7とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラー6が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナー7に送ることによりタービンランナー7にトルクを与えて回転させるようになっている。
【0014】
また、ポンプインペラー6とタービンランナー7との内周側の部分には、タービンランナー7から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラー6に流入させるステータ8が配置されている。このステータ8は、一方向クラッチ9を介して所定の固定部10に連結されている。
【0015】
このトルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ11を備えている。ロックアップクラッチ11は、ポンプインペラー6とタービンランナー7とステータ8とからなる実質的なトルクコンバータに対して並列に配置されたものであって、フロントカバー5の内面に対向した状態で前記タービンランナー7に保持されており、油圧によってフロントカバー5の内面に押し付けられることにより、入力部材であるフロントカバー5から出力部材であるタービンランナー7に直接、トルクを伝達するようになっている。なお、その油圧を制御することによりロックアップクラッチ11のトルク容量を制御できる。
【0016】
前後進切換機構2は、エンジン4の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図4に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。
【0017】
すなわち、サンギヤ12と同心円上にリングギヤ13が配置され、これらのサンギヤ12とリングギヤ13との間に、サンギヤ12に噛合したピニオンギヤ14とそのピニオンギヤ14およびリングギヤ13に噛合した他のピニオンギヤ15とが配置され、これらのピニオンギヤ14,15がキャリヤ16によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ12とキャリヤ16と)を一体的に連結する前進用クラッチ17が設けられ、またリングギヤ13を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ18が設けられている。
【0018】
無段変速機1は、従来知られているベルト式無段変速機と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリー19と従動プーリー20とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ21,22によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリー19,20の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリー19,20に巻掛けたベルト23の巻掛け半径(プーリー19,20の有効径)、言い換えればトルク伝達位置が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリー19が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ16に連結されている。
【0019】
なお、従動プーリー20における油圧アクチュエータ22には、無段変速機1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリー20における各シーブがベルト23を挟み付けることにより、ベルト23に張力が付与され、各プーリー19,20とベルト23との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対して駆動プーリー19における油圧アクチュエータ21には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
【0020】
無段変速機1の出力部材である従動プーリー20がギヤ対24およびディファレンシャル25に連結され、さらにそのディファレンシャル25が左右の駆動輪26に連結されている。
【0021】
上記の無段変速機1およびエンジン4を搭載した車両の動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、エンジン4の回転数(ロックアップクラッチ11の入力回転数)Neを検出して信号を出力するエンジン回転数センサー27、タービンランナー7の回転数(ロックアップクラッチ11の出力回転数)を検出して信号を出力するタービン回転数センサー28、駆動プーリー19の回転数Ninを検出して信号を出力する入力回転数センサー29、従動プーリー20の回転数Noutを検出して信号を出力する出力回転数センサー30などが設けられている。
【0022】
上記の前進用クラッチ17および後進用ブレーキ18の係合・解放の制御、および前記ベルト23の挟圧力の制御、ならびにロックアップクラッチ11の係合・解放を含むトルク容量の制御、さらには変速比の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)31が設けられている。この電子制御装置31は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定などの制御を実行するように構成されている。また、エンジン4を制御するエンジン用電子制御装置(E−ECU)32が設けられ、これらの電子制御装置31,32の間で相互にデータを通信するようになっている。
【0023】
上記の無段変速機1を対象としたこの発明の装置は、無段変速機1での滑りを検出するとともに、その検出結果に応じた制御を実行するように構成されている。図1はその制御例を示しており、この図1にフローチャートで示すルーチンは、所定の短い時間毎に繰り返し実行される。
【0024】
図1において、先ず、無段変速機1の入力回転数Nin(i)と出力回転数Nout(i)とが計測される(ステップS1)。また、その計測された回転数Nin(i),Nout(i)を使用して変速比γ(i)が算出される(ステップS2)。なお、これらの入出力回転数Nin(i),Nout(i)は、前記入力回転数センサー29および出力回転数センサー30によって検出された回転数である。
【0025】
ついで、算出された変速比γ(i)に含まれる振動成分γ_vib(i)が算出される(ステップS3)。このような算出は、例えば変速比の検出信号をフィルタ処理することによりおこなわれ、より具体的にバンドパスフィルタ処理することにより実行される。
【0026】
上記の振動成分γ_vib(i)は、無段変速機1でのベルト23といずれかのプーリー19,20との間の滑りに起因するものであり、滑りの程度に応じて大きく変化する。そこでステップS4では、フィルタ処理して得られた変速比の振動成分γ_vib(i)の絶対値が、予め定めた判断基準値(閾値)Slp_jdg1より大きいか否かが判断される。
【0027】
このステップS4で肯定的に判断された場合、すなわち上記の振動成分γ_vib(i)の絶対値が、判断基準値Slp_jdg1より大きい場合には、無段変速機1に滑りが生じたことが判定される(ステップS5)。具体的には、ベルト23の滑りが生じたことが判定される。同時に、滑り判定フラグSlp_flagが“1”にセットされる。
【0028】
ついで、無段変速機1での滑りに対応した制御が実行され(ステップS6)、その後にリターンする。この対応制御の一例は、無段変速機1での滑りに起因する異常を防止することを目的とする制御であり、無段変速機1のトルク容量を増大する制御や無段変速機1に作用するトルクを低下させる制御などが含まれる。前者のトルク容量を増大する制御は、例えばプーリー19,20がベルト23を挟み付ける挟圧力を増大する制御である。
【0029】
一方、ステップS4で否定的に判断された場合、すなわち前記振動成分γ_vib(i)の絶対値が判断基準値Slp_jdg1以下であった場合には、変速比γ(i)をバンドパスフィルタ処理して得られた振動成分γ_vib(i)が、他の判断基準値Slp_jdg2より大きくかつ滑り判定フラグSlp_flagが“1”であるか否かが判断される(ステップS7)。この第2の判断基準値Slp_jdg2は、滑りが終了したことを判定するためのものであって、前述した第1の判断基準値Slp_jdg1より小さい値である。すなわち、滑りが発生したことを判定する判断基準値Slp_jdg1と滑りが終了したことを判定するための判断基準値Slp_jdg2とに、ハンチングを防止するためのヒステリシスが設定されている。
【0030】
したがって既に滑りの判定が成立していて滑り判定フラグSlp_flagが“1”になっており、かつ変速比γ(i)の振動成分γ_vib(i)が第2の判断基準値Slp_jdg2より大きい状態になっていれば、ベルト滑りが継続していてステップS7で肯定的に判断されるので、ステップS5に進み、前述した制御が継続される。これに対して、滑り判定が成立していないことにより滑り判定フラグSlp_flagが“1”になっていない場合、あるいは前記振動成分γ_vib(i)が第2の判断基準値Slp_jdg2以下である場合には、ステップS7で否定的に判断される。この場合、無段変速機1での滑りが収束し、あるいは滑りが発生していないことになる。したがって無段変速機1での滑りのないいわゆる通常時の制御が実行され、かつ滑り判定フラグSlp_flagが“0”に設定される(ステップS8)。
【0031】
したがって図1に示す制御を実行するように構成されたこの発明に係る制御装置によれば、入力部材である駆動プーリー19の回転数Ninと出力部材である従動プーリー20の回転数Noutとの比率すなわち変速比の変化に基づいて無段変速機1での滑りを判定し、特にその変速比の所定の振動成分に基づいて無段変速機1での滑りを判定するように構成したので、無段変速機1での滑りを正確に、また迅速に検出することができる。
【0032】
例えば、路面摩擦係数の小さい低μ路を通過することにより、駆動輪にスリップが生じた後、駆動輪がグリップ力を回復し、それに伴ってベルト23の滑りが生じた場合、駆動系全体の回転数が増大した後に駆動輪の回転数(出力回転数)が低下するので、入出力回転数の比として求められる変速比が急激に増大する。また、その場合、駆動系の全体に慣性力や弾性力が作用するので、ベルト23の滑りが継続していることと相まって、変速比が大小に大きく変化する。このようにしていわゆる振動する変速比の所定周波数の振動成分を取り出すことにより、無段変速機1での滑りが生じている状態での変速比と滑りのない通常状態での変速比とが明確に峻別される。その結果、低μ路の通過や路面突起の乗り上げあるいは窪みの通過などによる駆動輪の空転およびその後のグリップ力の回復などによって無段変速機1に滑りが生じた場合、この発明の検出装置によれば、そのような滑りを迅速かつ正確に検出することができる。
【0033】
上述した具体例では、変速比γ(i)の所定の振動成分γ_vib(i)を直接、判断基準値Slp_jdg1,Slp_jdg2と比較するように構成したが、この発明は、これに限らず、フィルタ処理などによって得られた検出値を更に加工し、その加工した値に基づいて滑りの判定をおこなうように構成することができる。その例を以下に説明する。
【0034】
図2は、前記変速比γ(i)の振動成分γ_vib(i)の累積値(時間窓積分値)を使用するように構成した例を説明するためのフローチャートであって、入出力回転数Nin(i),Nout(i)の計測(ステップS1)、変速比γ(i)の算出(ステップS2)、変速比の振動成分γ_vib(i)の算出(ステップS3)が、前述した図1に示す制御におけると同様にして実施される。ついで、現時点から所定回数Nだけ遡る振動成分γ_vib(i−N)〜γ_vib(i)を累積できるか否かが判断される(ステップS31)。これは、過去、N回分の振動成分γ_vib(i−N)〜γ_vib(i)が得られているか否かの判断である。このステップS31で肯定的に判断された場合には、過去N回分のそれぞれの振動成分γ_vib(i−N)〜γ_vib(i)の絶対値を積算して累積値γ_sum(i)が求められる(ステップS32)。
【0035】
これに続くステップS40では、その累積値γ_sum(i)が、予め定めた第1の判断基準値Slp_jdg11より大きいか否かが判断される。このステップS40で肯定的に判断された場合には、無段変速機1でのベルト23の滑りの判定が成立して滑り判定フラグSlp_flagが“1”にセットされ(ステップS5)、またベルト23の滑りに対応した制御が実行される(ステップS6)。
【0036】
一方、ステップS40で否定的に判断された場合には、前記累積値γ_sum(i)が第2の滑り判断基準値Slp_jdg12より大きく、かつ滑り判定フラグSlp_flagが“1”にセットされているか否かが判断される(ステップS70)。これは、前述した図1におけるステップS7と同様の判断であり、ベルト23の滑りが継続しているか否か、あるいはベルト23の滑りが終了したか否かを判断するためのものである。したがって第2の判断基準値Slp_jdg12は、ハンチングを防止するために、前記第1の判断基準値Slp_jdg11よりも小さい値である。
【0037】
したがってこのステップS70で肯定的に判断された場合には、ステップS5に進み、また反対にステップS70で否定的に判断された場合には、ステップS8に進んで、通常制御が実施され、かつ滑り判定フラグSlp_flagがゼロリセットされる。
【0038】
なお、前述したステップS31で否定機に判断された場合には、ステップS8に進んで通常制御が継続される。
【0039】
したがってこの図2に示す制御を実行するように構成した場合であっても、前述した図1に示す制御を実行するように構成した場合と同様に、小さい滑りであっても、迅速かつ正確に検出することができる。また、図2に示すように構成すれば、累積値を採用していることにより、雑音などの影響を低減することができる。
【0040】
さらに、図3は、滑りの誤判定を防止するために、上述した累積値γ_sum(i)にローパスフィルタ処理などのなまし処理を施すように構成した例を示している。すなわち、前述したステップS32で求められた累積値γ_sum(i)になまし処理(ローパスフィルタ処理)が施されて、ローパスフィルタ処理値γ_sumf(i)が求められる(ステップS33)。
【0041】
そして、このローパスフィルタ処理値γ_sumf(i)が予め定めた第1の判断基準値Slp_jdg21より大きいか否かが判断され(ステップS41)、そのステップS41で肯定的に判断された場合には、前述したステップS5およびステップS6に進む。これとは反対にステップS41で否定的に判断された場合には、上記のローパスフィルタ処理値γ_sumf(i)が、ハンチングを防止するために第1の判断基準値Slp_jdg21より小さい値として予め定めた第2の判断基準値Slp_jdg22より大きく、かつ滑り判定フラグSlp_flagが“1”にセットされているか否かが判断される(ステップS71)。このステップS71で肯定的に判断された場合には、上述したステップS5およびステップS6に進み、反対に否定的に判断された場合には、ステップS8に進んで通常制御が実行され、かつ滑り判定フラグSlp_flagがゼロリセットされる。
【0042】
このように制御すれば、累積値γ_sumに含まれる雑音などによる影響が解消もしくは抑制されるので、ベルト23の小さい滑りを迅速に、また正確に検出することができる。
【0043】
ここで、上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS2の機能的手段が、この発明の変速機検出手段に相当し、またステップS3の機能的手段が、この発明の振動成分検出手段に相当し、さらにステップS4,S40,S41の各機能的手段が、この発明の滑り判定手段に相当する。
【0044】
なお、この発明は上述した具体例に限定されないのであって、図4に示す駆動系統に組み込まれた無段変速機に限らず、他の任意に配置された無段変速機での滑りを検出するための装置に適用することができる。また、上述した各判断基準値は、予め定めた一定値であってもよいが、加減速度や駆動要求量(例えばアクセル開度)などの車両の運転状態に応じて変化する変数としてもよい。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、入力部材と出力部材との検出された回転数から変速比が求められ、さらにその変速比の所定の振動成分が求められ、その振動成分に基づいて無段変速機の滑りが判定されるので、小さい滑りであっても正確に、また迅速に検出することができる。
【0046】
また、請求項2の発明によれば、滑りが検出された場合に、無段変速機のトルク容量を増大させるので、滑りを解消もしくは防止して、無段変速機の耐久性などを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の検出装置による検出制御の一例を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図2】この発明の検出装置による検出制御の他の例を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図3】この発明の検出装置による検出制御の更に他の例を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図4】この発明に係る無段変速機を含む駆動機構を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…無段変速機、 19…駆動プーリー、 20…従動プーリー、 23…ベルト、 26…駆動輪、 31…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)。
【発明の属する技術分野】
この発明は、摩擦力やトラクションオイルのせん断力などを利用してトルクを伝達する無段変速機の滑りを検出するための装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ベルト式無段変速機あるいはトラクション式(トロイダル型)無段変速機などの変速機は、噛み合いに依らないでトルクを伝達するから、その伝達トルク(もしくはトルク容量)を超えてトルクが作用することにより、過剰な滑りが生じることがある。そのような過剰な滑りが生じると、動力の伝達効率が低下したり、あるいは耐久性が損なわれたりし、特に無段変速機では、ベルトなどの伝動部材やトルク伝達面の摩耗などが大きくなる場合が考えられる。
【0003】
従来、無段変速機の故障を車両の走行に不具合が生じる前に検出するための装置が特開昭62−2059号公報に記載されている。この公報に記載された発明は、入出力回転数から求まる変速比が最大値や最小値を超えた場合や、その変速比の変化速度が設定値以上になった場合に、故障の判定をおこない、その頻度が高くなった場合にユーザーに警報を発するように構成されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記の公報に記載された発明によれば、無段変速機での滑りを検出することができる。しかしながら、それは、無段変速機の故障の結果としての滑りもしくは故障の要因となっている滑りであり、そのために、変速比が上下限のいずれかの限界値を超え、あるいは変速速度が過大になることにより、故障の判定をおこなうようにしている。したがって上記従来の装置では、変速比や変速速度がそのように極端な値になるまでは、ベルトなどの滑りを検出することができない。
【0005】
無段変速機では、トルクの伝達を媒介するベルトやパワーローラを挟み付ける挟圧力が高ければ、滑りが生じにくくなるが、その反面、動力の伝達効率が低下する。したがって挟圧力は、滑りが生じない範囲で可及的に低く設定することが望まれるが、無段変速機に作用するトルクが急激に変化した場合には、それに伴う滑りを事前にもしくは直ちに検出する必要がある。そのためにはいわゆるミクロスリップからマクロスリップへの変化を検出するなど、僅かな挙動の変化を滑りとして検出する必要があるが、上記の公報に記載された発明では、このような技術的課題に着目していないのみならず、故障とは言い得ない一時的な、あるいは微妙な滑りを検出することができない。
【0006】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、無段変速機での小さい滑りをも容易に検出することのできる滑り検出装置を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用】
この発明は、上記の目的を達成するために、無段変速機の入出力回転数から求まる変速比の振動成分に基づいて滑りを検出するように構成したことを特徴とするものである。より具体的には、請求項1の発明は、入力部材と出力部材との間に介在させた伝動部材を介して前記入力部材と出力部材との間でトルクを伝達し、前記入力部材および出力部材と前記伝動部材との間のトルク伝達位置を変化させることにより変速比を連続的に変化させる無段変速機の滑り検出装置において、前記入力部材の回転数と出力部材の回転数とから変速比を求める変速比検出手段と、その変速比検出手段で求められた変速比の振動成分を求める振動成分検出手段と、その振動成分検出手段で求められた変速比の振動成分に基づいて前記無段変速機での滑りを検出する滑り判定手段とを備えていることを特徴とする滑り検出装置である。
【0008】
したがって請求項1の発明では、伝動部材を介して入力部材と出力部材との間でトルクが伝達され、入力部材および出力部材が回転し、その回転数の比率が変速比として検出される。入力部材や出力部材の回転数は、無段変速機に入力されるトルクや無段変速機の出力側のトルクによって変動するので、検出された変速比の所定の振動成分が求められる。その変速比の振動成分には、無段変速機での滑りに起因する振動成分が含まれているので、その変速比の振動成分に基づいて無段変速機の滑りが検出される。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の構成において、前記滑り判定手段によって前記無段変速機での滑りが検出されたことにより前記無段変速機のトルク容量を増大させるトルク容量増大手段を更に備えていることを特徴とする滑り検出装置である。
【0010】
したがって請求項2の発明では、無段変速機での滑りが、無段変速機に作用するトルクに対して無段変速機のトルク容量が相対的に小さいことにより生じたので、そのトルク容量を増大させることにより、滑りが抑制もしくは回避される。
【0011】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする無段変速機を含む駆動機構について説明すると、この発明は、車両に搭載される駆動機構を対象とすることができ、その駆動機構に含まれる無段変速機は、ベルトを伝動部材としたベルト式の無段変速機や、パワーローラを伝動部材とするとともにオイル(トラクション油)のせん断力を利用してトルクを伝達するトロイダル型(トラクション式)無段変速機である。図4には、ベルト式無段変速機1を含む車両用駆動機構の一例を模式的に示しており、この無段変速機1は、前後進切換機構2およびトルクコンバータ3を介して動力源4に連結されている。
【0012】
その動力源4は、一般の車両に搭載されている動力源と同様のものであって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関や、電動機、あるいは内燃機関と電動機とを組み合わせた機構などを採用することができる。なお、以下の説明では、動力源4をエンジン4と記す。
【0013】
エンジン4の出力軸に連結されたトルクコンバータ3は、従来一般の車両で採用しているトルクコンバータと同様の構造であって、エンジン4の出力軸が連結されたフロントカバー5にポンプインペラー6が一体化されており、そのポンプインペラー6に対向するタービンランナー7が、フロントカバー5の内面に隣接して配置されている。これらのポンプインペラー6とタービンランナー7とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラー6が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナー7に送ることによりタービンランナー7にトルクを与えて回転させるようになっている。
【0014】
また、ポンプインペラー6とタービンランナー7との内周側の部分には、タービンランナー7から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラー6に流入させるステータ8が配置されている。このステータ8は、一方向クラッチ9を介して所定の固定部10に連結されている。
【0015】
このトルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ11を備えている。ロックアップクラッチ11は、ポンプインペラー6とタービンランナー7とステータ8とからなる実質的なトルクコンバータに対して並列に配置されたものであって、フロントカバー5の内面に対向した状態で前記タービンランナー7に保持されており、油圧によってフロントカバー5の内面に押し付けられることにより、入力部材であるフロントカバー5から出力部材であるタービンランナー7に直接、トルクを伝達するようになっている。なお、その油圧を制御することによりロックアップクラッチ11のトルク容量を制御できる。
【0016】
前後進切換機構2は、エンジン4の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図4に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。
【0017】
すなわち、サンギヤ12と同心円上にリングギヤ13が配置され、これらのサンギヤ12とリングギヤ13との間に、サンギヤ12に噛合したピニオンギヤ14とそのピニオンギヤ14およびリングギヤ13に噛合した他のピニオンギヤ15とが配置され、これらのピニオンギヤ14,15がキャリヤ16によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ12とキャリヤ16と)を一体的に連結する前進用クラッチ17が設けられ、またリングギヤ13を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ18が設けられている。
【0018】
無段変速機1は、従来知られているベルト式無段変速機と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリー19と従動プーリー20とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ21,22によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリー19,20の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリー19,20に巻掛けたベルト23の巻掛け半径(プーリー19,20の有効径)、言い換えればトルク伝達位置が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリー19が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ16に連結されている。
【0019】
なお、従動プーリー20における油圧アクチュエータ22には、無段変速機1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリー20における各シーブがベルト23を挟み付けることにより、ベルト23に張力が付与され、各プーリー19,20とベルト23との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対して駆動プーリー19における油圧アクチュエータ21には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
【0020】
無段変速機1の出力部材である従動プーリー20がギヤ対24およびディファレンシャル25に連結され、さらにそのディファレンシャル25が左右の駆動輪26に連結されている。
【0021】
上記の無段変速機1およびエンジン4を搭載した車両の動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、エンジン4の回転数(ロックアップクラッチ11の入力回転数)Neを検出して信号を出力するエンジン回転数センサー27、タービンランナー7の回転数(ロックアップクラッチ11の出力回転数)を検出して信号を出力するタービン回転数センサー28、駆動プーリー19の回転数Ninを検出して信号を出力する入力回転数センサー29、従動プーリー20の回転数Noutを検出して信号を出力する出力回転数センサー30などが設けられている。
【0022】
上記の前進用クラッチ17および後進用ブレーキ18の係合・解放の制御、および前記ベルト23の挟圧力の制御、ならびにロックアップクラッチ11の係合・解放を含むトルク容量の制御、さらには変速比の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)31が設けられている。この電子制御装置31は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定などの制御を実行するように構成されている。また、エンジン4を制御するエンジン用電子制御装置(E−ECU)32が設けられ、これらの電子制御装置31,32の間で相互にデータを通信するようになっている。
【0023】
上記の無段変速機1を対象としたこの発明の装置は、無段変速機1での滑りを検出するとともに、その検出結果に応じた制御を実行するように構成されている。図1はその制御例を示しており、この図1にフローチャートで示すルーチンは、所定の短い時間毎に繰り返し実行される。
【0024】
図1において、先ず、無段変速機1の入力回転数Nin(i)と出力回転数Nout(i)とが計測される(ステップS1)。また、その計測された回転数Nin(i),Nout(i)を使用して変速比γ(i)が算出される(ステップS2)。なお、これらの入出力回転数Nin(i),Nout(i)は、前記入力回転数センサー29および出力回転数センサー30によって検出された回転数である。
【0025】
ついで、算出された変速比γ(i)に含まれる振動成分γ_vib(i)が算出される(ステップS3)。このような算出は、例えば変速比の検出信号をフィルタ処理することによりおこなわれ、より具体的にバンドパスフィルタ処理することにより実行される。
【0026】
上記の振動成分γ_vib(i)は、無段変速機1でのベルト23といずれかのプーリー19,20との間の滑りに起因するものであり、滑りの程度に応じて大きく変化する。そこでステップS4では、フィルタ処理して得られた変速比の振動成分γ_vib(i)の絶対値が、予め定めた判断基準値(閾値)Slp_jdg1より大きいか否かが判断される。
【0027】
このステップS4で肯定的に判断された場合、すなわち上記の振動成分γ_vib(i)の絶対値が、判断基準値Slp_jdg1より大きい場合には、無段変速機1に滑りが生じたことが判定される(ステップS5)。具体的には、ベルト23の滑りが生じたことが判定される。同時に、滑り判定フラグSlp_flagが“1”にセットされる。
【0028】
ついで、無段変速機1での滑りに対応した制御が実行され(ステップS6)、その後にリターンする。この対応制御の一例は、無段変速機1での滑りに起因する異常を防止することを目的とする制御であり、無段変速機1のトルク容量を増大する制御や無段変速機1に作用するトルクを低下させる制御などが含まれる。前者のトルク容量を増大する制御は、例えばプーリー19,20がベルト23を挟み付ける挟圧力を増大する制御である。
【0029】
一方、ステップS4で否定的に判断された場合、すなわち前記振動成分γ_vib(i)の絶対値が判断基準値Slp_jdg1以下であった場合には、変速比γ(i)をバンドパスフィルタ処理して得られた振動成分γ_vib(i)が、他の判断基準値Slp_jdg2より大きくかつ滑り判定フラグSlp_flagが“1”であるか否かが判断される(ステップS7)。この第2の判断基準値Slp_jdg2は、滑りが終了したことを判定するためのものであって、前述した第1の判断基準値Slp_jdg1より小さい値である。すなわち、滑りが発生したことを判定する判断基準値Slp_jdg1と滑りが終了したことを判定するための判断基準値Slp_jdg2とに、ハンチングを防止するためのヒステリシスが設定されている。
【0030】
したがって既に滑りの判定が成立していて滑り判定フラグSlp_flagが“1”になっており、かつ変速比γ(i)の振動成分γ_vib(i)が第2の判断基準値Slp_jdg2より大きい状態になっていれば、ベルト滑りが継続していてステップS7で肯定的に判断されるので、ステップS5に進み、前述した制御が継続される。これに対して、滑り判定が成立していないことにより滑り判定フラグSlp_flagが“1”になっていない場合、あるいは前記振動成分γ_vib(i)が第2の判断基準値Slp_jdg2以下である場合には、ステップS7で否定的に判断される。この場合、無段変速機1での滑りが収束し、あるいは滑りが発生していないことになる。したがって無段変速機1での滑りのないいわゆる通常時の制御が実行され、かつ滑り判定フラグSlp_flagが“0”に設定される(ステップS8)。
【0031】
したがって図1に示す制御を実行するように構成されたこの発明に係る制御装置によれば、入力部材である駆動プーリー19の回転数Ninと出力部材である従動プーリー20の回転数Noutとの比率すなわち変速比の変化に基づいて無段変速機1での滑りを判定し、特にその変速比の所定の振動成分に基づいて無段変速機1での滑りを判定するように構成したので、無段変速機1での滑りを正確に、また迅速に検出することができる。
【0032】
例えば、路面摩擦係数の小さい低μ路を通過することにより、駆動輪にスリップが生じた後、駆動輪がグリップ力を回復し、それに伴ってベルト23の滑りが生じた場合、駆動系全体の回転数が増大した後に駆動輪の回転数(出力回転数)が低下するので、入出力回転数の比として求められる変速比が急激に増大する。また、その場合、駆動系の全体に慣性力や弾性力が作用するので、ベルト23の滑りが継続していることと相まって、変速比が大小に大きく変化する。このようにしていわゆる振動する変速比の所定周波数の振動成分を取り出すことにより、無段変速機1での滑りが生じている状態での変速比と滑りのない通常状態での変速比とが明確に峻別される。その結果、低μ路の通過や路面突起の乗り上げあるいは窪みの通過などによる駆動輪の空転およびその後のグリップ力の回復などによって無段変速機1に滑りが生じた場合、この発明の検出装置によれば、そのような滑りを迅速かつ正確に検出することができる。
【0033】
上述した具体例では、変速比γ(i)の所定の振動成分γ_vib(i)を直接、判断基準値Slp_jdg1,Slp_jdg2と比較するように構成したが、この発明は、これに限らず、フィルタ処理などによって得られた検出値を更に加工し、その加工した値に基づいて滑りの判定をおこなうように構成することができる。その例を以下に説明する。
【0034】
図2は、前記変速比γ(i)の振動成分γ_vib(i)の累積値(時間窓積分値)を使用するように構成した例を説明するためのフローチャートであって、入出力回転数Nin(i),Nout(i)の計測(ステップS1)、変速比γ(i)の算出(ステップS2)、変速比の振動成分γ_vib(i)の算出(ステップS3)が、前述した図1に示す制御におけると同様にして実施される。ついで、現時点から所定回数Nだけ遡る振動成分γ_vib(i−N)〜γ_vib(i)を累積できるか否かが判断される(ステップS31)。これは、過去、N回分の振動成分γ_vib(i−N)〜γ_vib(i)が得られているか否かの判断である。このステップS31で肯定的に判断された場合には、過去N回分のそれぞれの振動成分γ_vib(i−N)〜γ_vib(i)の絶対値を積算して累積値γ_sum(i)が求められる(ステップS32)。
【0035】
これに続くステップS40では、その累積値γ_sum(i)が、予め定めた第1の判断基準値Slp_jdg11より大きいか否かが判断される。このステップS40で肯定的に判断された場合には、無段変速機1でのベルト23の滑りの判定が成立して滑り判定フラグSlp_flagが“1”にセットされ(ステップS5)、またベルト23の滑りに対応した制御が実行される(ステップS6)。
【0036】
一方、ステップS40で否定的に判断された場合には、前記累積値γ_sum(i)が第2の滑り判断基準値Slp_jdg12より大きく、かつ滑り判定フラグSlp_flagが“1”にセットされているか否かが判断される(ステップS70)。これは、前述した図1におけるステップS7と同様の判断であり、ベルト23の滑りが継続しているか否か、あるいはベルト23の滑りが終了したか否かを判断するためのものである。したがって第2の判断基準値Slp_jdg12は、ハンチングを防止するために、前記第1の判断基準値Slp_jdg11よりも小さい値である。
【0037】
したがってこのステップS70で肯定的に判断された場合には、ステップS5に進み、また反対にステップS70で否定的に判断された場合には、ステップS8に進んで、通常制御が実施され、かつ滑り判定フラグSlp_flagがゼロリセットされる。
【0038】
なお、前述したステップS31で否定機に判断された場合には、ステップS8に進んで通常制御が継続される。
【0039】
したがってこの図2に示す制御を実行するように構成した場合であっても、前述した図1に示す制御を実行するように構成した場合と同様に、小さい滑りであっても、迅速かつ正確に検出することができる。また、図2に示すように構成すれば、累積値を採用していることにより、雑音などの影響を低減することができる。
【0040】
さらに、図3は、滑りの誤判定を防止するために、上述した累積値γ_sum(i)にローパスフィルタ処理などのなまし処理を施すように構成した例を示している。すなわち、前述したステップS32で求められた累積値γ_sum(i)になまし処理(ローパスフィルタ処理)が施されて、ローパスフィルタ処理値γ_sumf(i)が求められる(ステップS33)。
【0041】
そして、このローパスフィルタ処理値γ_sumf(i)が予め定めた第1の判断基準値Slp_jdg21より大きいか否かが判断され(ステップS41)、そのステップS41で肯定的に判断された場合には、前述したステップS5およびステップS6に進む。これとは反対にステップS41で否定的に判断された場合には、上記のローパスフィルタ処理値γ_sumf(i)が、ハンチングを防止するために第1の判断基準値Slp_jdg21より小さい値として予め定めた第2の判断基準値Slp_jdg22より大きく、かつ滑り判定フラグSlp_flagが“1”にセットされているか否かが判断される(ステップS71)。このステップS71で肯定的に判断された場合には、上述したステップS5およびステップS6に進み、反対に否定的に判断された場合には、ステップS8に進んで通常制御が実行され、かつ滑り判定フラグSlp_flagがゼロリセットされる。
【0042】
このように制御すれば、累積値γ_sumに含まれる雑音などによる影響が解消もしくは抑制されるので、ベルト23の小さい滑りを迅速に、また正確に検出することができる。
【0043】
ここで、上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS2の機能的手段が、この発明の変速機検出手段に相当し、またステップS3の機能的手段が、この発明の振動成分検出手段に相当し、さらにステップS4,S40,S41の各機能的手段が、この発明の滑り判定手段に相当する。
【0044】
なお、この発明は上述した具体例に限定されないのであって、図4に示す駆動系統に組み込まれた無段変速機に限らず、他の任意に配置された無段変速機での滑りを検出するための装置に適用することができる。また、上述した各判断基準値は、予め定めた一定値であってもよいが、加減速度や駆動要求量(例えばアクセル開度)などの車両の運転状態に応じて変化する変数としてもよい。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、入力部材と出力部材との検出された回転数から変速比が求められ、さらにその変速比の所定の振動成分が求められ、その振動成分に基づいて無段変速機の滑りが判定されるので、小さい滑りであっても正確に、また迅速に検出することができる。
【0046】
また、請求項2の発明によれば、滑りが検出された場合に、無段変速機のトルク容量を増大させるので、滑りを解消もしくは防止して、無段変速機の耐久性などを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の検出装置による検出制御の一例を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図2】この発明の検出装置による検出制御の他の例を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図3】この発明の検出装置による検出制御の更に他の例を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図4】この発明に係る無段変速機を含む駆動機構を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…無段変速機、 19…駆動プーリー、 20…従動プーリー、 23…ベルト、 26…駆動輪、 31…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)。
Claims (2)
- 入力部材と出力部材との間に介在させた伝動部材を介して前記入力部材と出力部材との間でトルクを伝達し、前記入力部材および出力部材と前記伝動部材との間のトルク伝達位置を変化させることにより変速比を連続的に変化させる無段変速機の滑り検出装置において、
前記入力部材の回転数と出力部材の回転数とから変速比を求める変速比検出手段と、
その変速比検出手段で求められた変速比の振動成分を求める振動成分検出手段と、
その振動成分検出手段で求められた変速比の振動成分に基づいて前記無段変速機での滑りを検出する滑り判定手段と
を備えていることを特徴とする無段変速機の滑り検出装置。 - 前記滑り判定手段によって前記無段変速機での滑りが検出されたことにより前記無段変速機のトルク容量を増大させるトルク容量増大手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の滑り検出装置。
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JP2010532845A (ja) * | 2007-07-11 | 2010-10-14 | ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング | 摩擦式無段変速機の制御方法、ならびに該制御方法を実施するための手段を備えた変速機 |
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2002
- 2002-06-07 JP JP2002167585A patent/JP2004011807A/ja active Pending
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JP2010533269A (ja) * | 2007-07-11 | 2010-10-21 | ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング | 摩擦式無段変速機の制御方法、ならびに該制御方法を実施するための手段を備えた変速機 |
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