つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。図2には、この発明の検出装置を適用可能な車両Veのパワートレーンおよび制御系統の一例が、模式的に示されている。ここに示すパワートレーンにおいては、駆動力源1のトルクが、トルクコンバータ9および前後進切換機構8を介して、動力伝達機構としてのベルト式無段変速機4に伝達されるように構成されている。駆動力源1としては、エンジンまたは電動機のうちの少なくとも一方を用いることができる。このエンジンとしては、例えば、内燃機関、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。以下、駆動力源1としてガソリンエンジンを用いる場合について説明し、便宜上、駆動力源1を“エンジン1”と記す。
前記エンジン1の出力軸に連結されたトルクコンバータ9は、従来一般の車両で採用しているトルクコンバータと同様の構造であって、エンジン1の出力軸が連結されたフロントカバー10にポンプインペラ11が一体化されており、そのポンプインペラ11に対向するタービンランナ12が設けられている。タービンランナ12はシャフト50と一体回転するように連結されている。。これらのポンプインペラ11とタービンランナ12とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラ11とタービンランナ12との間で、流体の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。
また、ポンプインペラ11とタービンランナ12との内周側の部分には、タービンランナ12から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラ11に流入させるステータ13が配置されている。このステータ13は、一方向クラッチ14を介して所定の固定部15に連結されている。
このトルクコンバータ9は、ロックアップクラッチ16を備えている。ロックアップクラッチ16は、フロントカバー10からシャフト50に至る動力伝達経路に対して並列に配置されたものである。ロックアップクラッチ16は、シャフト50と一体回転するように取り付けられており、ロックアップクラッチ16とフロントカバー10との係合・解放が、油圧制御装置59によって制御される。
前後進切換機構8は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、シャフト50とプライマリシャフト51との間の動力伝達状態を切り換えるものである。具体的には、シャフト50の回転方向に対するプライマリシャフト51の回転方向を切り換える機能を備えている。
図2に示す例では、前後進切換機構8としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。すなわち、シャフト50と一体回転するサンギヤ17と、サンギヤ17と同心状に配置されたリングギヤ18とが設けられ、これらのサンギヤ17とリングギヤ18との間に、サンギヤ17に噛合したピニオンギヤ19と、ピニオンギヤ19およびリングギヤ18に噛合した他のピニオンギヤ20とが配置され、ピニオンギヤ19,20がキャリヤ21によって、自転かつ公転自在に保持されている。
さらに、サンギヤ17およびシャフト50と、キャリヤ21とを一体回転可能に連結する前進用クラッチ22が設けられている。またリングギヤ18を選択的に固定することにより、シャフト50の回転方向に対するプライマリシャフト51の回転方向を反転する後進用ブレーキ23が設けられている。上記前進用クラッチ22および後進用ブレーキ23の係合・解放は、油圧制御装置59により制御される。なお、プライマリシャフト51とキャリヤ21とが一体回転するように連結されている。
前記ベルト式無段変速機4は、互いに平行に配置されたプライマリプーリ24とセカンダリプーリ25とを有する。まず、プライマリプーリ24は、プライマリシャフト51と一体回転するように構成されており、プライマリプーリ24は、固定シーブ52と、油圧式のアクチュエータ26によって、プライマリシャフト51の軸線方向に動作させられる可動シーブ53とを有している。
これに対して、セカンダリプーリ25は、セカンダリシャフト55と一体回転するように構成されており、セカンダリプーリ25は、固定シーブ54と、油圧式のアクチュエータ27によって、セカンダリシャフト55の軸線方向に動作させられる可動シーブ56とを有している。さらに、プライマリプーリ24およびセカンダリプーリ25には環状のベルト28が巻き掛けられている。さらに、上記アクチュエータ26,27は、油圧制御装置59により制御される。なお、セカンダリシャフト55には歯車伝動装置29を経由してデファレンシャル6が連結されており、デファレンシャル6には車輪2が連結されている。
つぎに、図2に示された車両Veの制御系統を説明する。まず、電子制御装置(ECU)34が設けられており、この電子制御装置34は、演算処理装置(CPUまたはMPU)と、記憶装置(RAMおよびROM)と、入出力インターフェースとを有するマイクロコンピュータにより構成されている。この電子制御装置34には、エンジン回転速度センサー30の信号、シャフト50の回転速度を検出するタービン回転速度センサー31の信号、プライマリシャフト51の回転速度を検出する入力回転速度センサー32の信号、セカンダリシャフト55の回転速度を検出する出力回転速度センサー33の信号、加速要求検知センサー57の信号、制動要求検知センサー58の信号、シフトポジションセンサ60の信号などが入力される。この電子制御装置34からは、エンジン1を制御する信号、油圧制御装置59を制御する信号などが出力される。
上記のように構成された車両Veにおいて、エンジン1から出力されたトルクは、トルクコンバータ9またはロックアップクラッチ16を経由して前後進切換機構8に伝達される。前後進切換機構8から出力されるトルクは、ベルト式無段変速機4および歯車伝動装置29を経由して車輪2に伝達されて、駆動力が発生する。上記のトルク伝達時に、前記ロックアップクラッチ16が解放されている場合は、ポンプインペラ11とタービンランナ12との間で、流体の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。これに対して、ロックアップクラッチ16が係合された場合は、フロントカバー10とシャフト50との間で、ロックアップクラッチ16の摩擦力により動力伝達がおこなわれる。
一方、シフトポジションセンサ60により、前進ポジションが検知された場合は、前後進切換機構8の前進用クラッチ22が係合され、かつ、後進用ブレーキ23が解放される。すると、シャフト50とキャリヤ21とが一体回転し、シャフト50のトルクがプライマリシャフト51に伝達される。このとき、シャフト50およびプライマリシャフト51が同方向に回転する。
これに対して、シフトポジションセンサ60により、後進ポジションが検知された場合は、前進用クラッチ22が解放され、かつ、後進用ブレーキ23が係合される。すると、エンジントルクがサンギヤ17に伝達された場合は、リングギヤ18が反力要素となって、サンギヤ17のトルクがキャリヤ21を経由してプライマリシャフト51に伝達される。この場合、シャフト50とプライマリシャフト51とは逆方向に回転する。
上記のようにして、エンジントルクがプライマリシャフト51に伝達されるとともに、電子制御装置34に入力される各種の信号、および電子制御装置34に予め記憶されているデータに基づいて、ベルト式無段変速機4の制御が実行される。すなわち、プライマリシャフト51の軸線方向における可動シーブ53の位置が制御されて、プライマリプーリ24の溝幅が調整される。すると、プライマリプーリ24に対するベルト28の巻掛け半径が連続的に変化し、変速比が無段階に変化する。また、セカンダリシャフト55の軸線方向における可動シーブ56の位置が制御されて、ベルト28に対するセカンダリプーリ25の挟圧力が調整される。このようにして、プライマリプーリ24とセカンダリプーリ25との間で、ベルト28を経由して伝達されるトルクの容量が制御される。
上記のベルト式無段変速機4においては、ベルト28とプライマリプーリ24とセカンダリプーリ25との接触部分に発生する摩擦力により、プライマリプーリ24とセカンダリプーリ25との間で動力伝達がおこなわれる。このため、ベルト28の滑りが生じると、ベルト式無段変速機4で動力伝達効率が低下する可能性があるとともに、ベルト式無段変速機4を構成する部品であって、トルク伝達に関与する部品、例えば、ベルト28およびプライマリプーリ24およびセカンダリプーリ25の摩耗や焼き付きが発生し、これらの部品の耐久性が損なわれる可能性がある。この不具合を回避するために、ベルト28に加えられる挟圧力は、ベルト式無段変速機4に入力されるトルクに基づいて決まる挟圧力、具体的には、ベルト28の滑り量を所定量以下に抑制できる挟圧力に制御される。
なお、上記の“ベルト28の滑り”とは、“ベルト28に加えられる挟圧力に基づいて決まるベルト式無段変速機4のトルク容量よりも、ベルト式無段変速機4に入力されるトルクの方が高くなり、ベルト28と、プライマリプーリ24またはセカンダリプーリ25の少なくとも一方とが、接触部分で、回転方向に所定量以上の範囲で相対移動すること。”を意味する。
ところで、図2に示す車両Veにおいては、エンジン1と車輪2との間の動力伝達経路にベルト式無段変速機4が配置されている。このため、エンジントルクがプライマリシャフト51を経由してベルト式無段変速機4に入力される場合(以下、正入力と呼ぶ)と、車輪2の運動エネルギに対応するトルクが、セカンダリシャフト55を経由してベルト式無段変速機4に入力される場合(以下、逆入力と呼ぶ)とが考えられる。この逆入力は、例えば、路面の凹凸の激しい悪路や、段差のある道路などを、車両Veが走行した場合に発生する。したがって、前述のようにベルト28に加える挟圧力を制御することに先立ち、ベルト式無段変速機4に対する入力されるトルクの向きが、正入力であるか逆入力であるかに応じて、ベルト28の滑り検出精度を高めることが好ましい。
このように、ベルト28の滑り検出の内容を、ベルト式無段変速機4に入力されるトルクの向きに応じて変更する場合の制御例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。まず、プライマリシャフト51の回転速度Nin(i)と、セカンダリシャフト55の回転速度Nout (i)とを計測し、この計測結果に基づいて、ベルト式無段変速機4の変速比γ(i)を算出する(ステップS1)。
このステップS1についで、プライマリシャフト51の回転速度Ninおよびセカンダリシャフト55のNout の最新計測データを、それぞれN個用いて、相関係数k(i)が算出される(ステップS2)。この相関係数k(i)は、ベルト式無段変速機4における入力回転速度と出力回転速度とに基づいて求められる係数である。この相関係数k(i)を一般式で示せば、次数式のとおりであり、その詳細は、例えば、特願2001−302181号の願書に添付された明細書に記載されている。
上記ステップS2についで、ベルト式無段変速機4に入力されるトルクの向きが、逆入力である場合に、ベルト28の滑りを想定したときのしきい値kslp1(i)を算出する(ステップS3)。このステップS3についで、前記相関係数k(i)が、しきい値kslp1(i)以下であるか否かが判断される(ステップS4)。このステップS4で否定的に判断された場合は、リターンされる。これに対して、ステップS4で肯定判断された場合は、「ベルト式無段変速機4に対するトルクの入力の向きがいずれであるかを判別する制御」が実施されているか否かが判断される(ステップS5)。
このステップS5で否定的に判断された場合は、「ベルト式無段変速機4に対するトルクの入力の向きがいずれであるかを判別する制御」を実行し(ステップS6)、ステップS7に進む。なお、ステップS6の処理例は後述する。これに対して、ステップS5で肯定判断された場合は、そのままステップS7に進む。
このステップS7では、「ベルト式無段変速機4に対するトルクの入力の向きがいずれであるかを判別する制御」の結果に基づき、逆入力による滑りか否かが判断される(ステップS7)。このステップS7で肯定的に判断された場合は、“ベルト28の滑りが、発生している。”と判定する(ステップS8)。このステップS8についで、ベルト28の滑り量を減少させる制御を実行し(ステップS9)、リターンする。このステップS9では、例えば、ベルト28に加えられる挟圧力を高める制御が実行される。
前記ステップS7で否定的に判断された場合は、正入力によるベルト28の滑りを想定したときのしきい値kslp2(i)を算出する(ステップS10)。このステップS10についで、前記相関係数k(i)が、しきい値kslp2(i)以下であるか否かが判断される(ステップS11)。このステップS11で肯定判断された場合はステップS8に進み、ステップS11で否定的に判断された場合は、リターンされる。
上記の制御において、前記しきい値kslp1(i)およびしきい値kslp2(i)は、各種のパラメータ基づいて設定することができる。前記各種のパラメータとしては、例えば、車速、ベルト式無段変速機4の変速比、ベルト式無段変速機4の実際の変速速度、車両の加減速度、変速指令値などが挙げられる。また、しきい値kslp1(i)としきい値kslp2(i)とは大小関係が異なる。具体的には、しきい値kslp1(i)の方が、しきい値kslp2(i)よりも大きく設定される。その理由は、正入力によるベルト28の滑りが、“急激なダウンシフトに起因するベルト28の滑りである。”と誤判定されることを回避するためである。
つぎに、図1のステップS6の第1の処理例を、図3のフローチャートに基づいて説明する。まず、相関係数k(i)の算出に用いたセカンダリシャフト55の回転速度Nout (i)よりも、n回前に計測されたセカンダリシャフト55の回転速度Nout (i−n)と、このセカンダリシャフト55の回転速度Nout (i−n)よりも1回前に計測されたセカンダリシャフト55の回転速度Nout (i−n−1)とに基づいて、セカンダリシャフト55の回転速度の時間変化量ΔNout (i)を算出する(ステップS21)。
このステップS21についで、車両Veの運転条件に応じたしきい値ΔNout_slp を算出する(ステップS22)。上記車両Veの運転条件としては、例えば、車速、ベルト式無段変速機4の変速比、ベルト式無段変速機4の実際の変速速度、車両の加減速度、変速指令値などが挙げられる。そして、セカンダリシャフト55の回転速度の時間変化量ΔNout (i)が、しきい値ΔNout_slp 以下であるか否かが判断される(ステップS23)。このステップS23で肯定的に判断された場合は、逆入力と判定され(ステップS24)、図1のステップS7に進む。これに対して、ステップS23で否定的に判断された場合は、正入力であると判定され(ステップS25)、図1のステップS7に進む。
このように、図3のフローチャートでは、セカンダリシャフト55の回転速度の時間変化量ΔNout に基づいて、逆入力であるか否かを判断している。その理由は、逆入力によりベルト28の滑りが発生する場合は、セカンダリシャフト55の回転速度Nout が急激に低下して、そのセカンダリシャフト55の回転速度の時間変化量ΔNout が、車両の減速時(アクセル開度の全閉時など)におけるセカンダリシャフト55の回転速度の時間変化量ΔNout よりも、非常に小さい値となるからである。
つぎに、図3のフローチャートに対応するタイムチャートの一例を、図4および図5に示す。図4および図5のタイムチャートでは、相関係数k(i)の時間変化が示され、出力軸回転数の時間変化が示され、出力軸回転加速度の時間変化が示されている。なお、しきい値の変化量Δkslp1およびしきい値の変化量Δkslp2は、便宜上、略一定に示されている。まず、正入力に相当する図4のタイムチャートについて説明する。時刻t1以前においては、相関係数k(i)が、しきい値の変化量Δkslp1を越えており、時刻t1で、相関係数k(i)が、しきい値の変化量Δkslp1以下となっている。つまり、時刻t1において、図1のステップS4で肯定判断される。
一方、時刻t1以前および時刻t1以後のいずれにおいても、出力軸回転加速度、すなわち、セカンダリシャフト55の回転速度の時間変化量ΔNout (i)は、しきい値ΔNout_slp を越えている。つまり、時刻t1において、図1のステップS4で肯定判断され、かつ、図3のステップS25に進むことを意味する。ついで、相関係数k(i)が、しきい値の変化量Δkslp2以下になる時刻t2において、図1のステップS11で肯定判断される。
さらに、逆入力に相当する図5のタイムチャートについて説明する。時刻t1以前では、セカンダリシャフト55の回転速度の時間変化量ΔNout (i)は、しきい値ΔNout_slp を越えている。時刻t1以後は、セカンダリシャフト55の回転速度の時間変化量ΔNout (i−n)が、しきい値ΔNout_slp 未満となっている。すなわち、図3のフローチャートでステップS24に進む。さらに、時刻t2において、相関係数k(i)が、しきい値の変化量Δkslp1以下となり、図1のステップS7で肯定判断される。
さらに、図1のステップS6の第2の処理例を、図6のフローチャートに基づいて説明する。まず、ベルト28の滑りが発生する直前における、ベルト式無段変速機4の変速比γ_preを算出する(ステップS31)。ここで、
γ_pre=γ(i−m)
として算出する。なお、上記数式において“i−m”はベルト28の滑りが発生する直前を意味している。
このステップS31についで、ベルト式無段変速機4の変速比γ_preと、プライマリシャフト51の回転速度Nin(i)と、セカンダリシャフト55の回転速度Nout (i)とに基づいて、ベルト28の相対滑り速度Nslp を算出する(ステップS32)。
具体的には、
ベルト28の相対滑り速度Nslp =Nin(i)/γ_pre−Nout (i)
として算出される。
前記ステップS32についで、車両Veの運転条件に応じたしきい値Nslp_max が算出される(ステップS33)。上記車両Veの運転条件としては、例えば、車速、ベルト式無段変速機4の変速比、ベルト式無段変速機4の実際の変速速度、車両の加減速度、変速指令値などが挙げられる。さらに、ステップS33についで、ベルト28の相対滑り速度Nslp が、しきい値Nslp_max 以下であるか否かが判断される(ステップS34)。このステップS34で肯定的に判断された場合は、ステップS24を経由して、図1のステップS7に進む。これに対して、ステップS34で否定的に判断された場合は、ステップS25を経由して、図1のステップS7に進む。図6のステップS24の処理は、図3のステップS24の処理と同じであり、図6のステップS25の処理は、図3のステップS25の処理と同じである。
以上のように、図6のフローチャートにおいては、プライマリプーリ24およびセカンダリプーリ25に対するベルト28の掛かり径に基づいてベルト式無段変速機4の変速比を算出し、ベルト式無段変速機4の変速比と、プライマリシャフト51の回転速度Ninおよびセカンダリシャフト55の回転速度Nout とに基づいて、逆入力であるか否かを判断している。このように、図6のフローチャートにおいては、ベルトの滑りが発生する直前における変速比(プーリに対するベルトの巻き掛かり径)に基づいて相対滑り速度を算出し、その相対滑り速度に基づいて、正入力または逆入力を判別する処理がおこなわれる。
つぎに、図6のフローチャートに対応するタイムチャートの一例を、図7および図8に示す。図7および図8のタイムチャートでは、相関係数k(i)の時間変化が示され、ベルト式無段変速機4の変速比の時間変化が示され、出力回速度の時間変化および入力回転速度の時間変化が示されている。なお、図7,図8のタイムチャートでは、しきい値の変化量Δkslp1およびしきい値の変化量Δkslp2は、便宜上、略一定に示されている。また、ベルトに滑りが発生していない状態では、変速比に関わりなく入力回転速度と出力回転速度とを同じ回転速度として示すために、入力回転速度として、Nin(i)/γ_preを用いている。
まず、正入力に相当する図7のタイムチャートについて説明する。時刻t1以前においては、相関係数k(i)が、しきい値の変化量Δkslp1を越えているとともに、入力回転速度(破線)と出力回転速度(実線)とが一致している。そして、時刻t1において、変速比が大きくなり始めるとともに、入力回転速度と出力回転速度とに差が生じている。具体的には、入力回転速度の方が出力回転速度よりも高速となっている。
このように、時刻t1でベルトの滑りが開始されると、ベルトが滑る直前におけるベルト式無段変速機の変速比が算出される。さらに、時刻t2において、変速比が小さくなり始めるとともに、相関係数k(i)が、しきい値の変化量Δkslp1以下となり、その後、相関係数k(i)が、しきい値の変化量Δkslp2以下となっている。すなわち、図1のステップS11で肯定判断される。
つぎに、逆入力に相当する図8のタイムチャートについて説明する。時刻t1以前においては、相関係数k(i)が、しきい値の変化量Δkslp1を越えているとともに、入力回転速度と出力回転速度とが一致している。そして、時刻t1において、変速比が大きくなり始めるとともに、入力回転速度と出力回転速度とに差が生じている。具体的には、入力回転速度よりも出力回転速度の方が高速となっている。
このように、時刻t1でベルトの滑りが開始されると、ベルトが滑る直前におけるベルト式無段変速機の変速比が算出される。さらに、時刻t2において、変速比が小さくなり始めるとともに、相関係数k(i)が、しきい値の変化量Δkslp1以下となり、逆入力による滑りと判定される。その後、相関係数k(i)が、しきい値の変化量Δkslp1よりも大きくなっている。なお、図4、図5、図7、図8において、異なる図に示されている時刻同士には対応関係はない。
このように、図1の制御例によれば、同じ相関係数k(i)と、ベルト28の滑り判定に用いるしきい値kslpとの対応関係に基づいて、ベルト28の滑り状態を検出する場合に、ベルト式無段変速機4に入力されるトルクの向きが、正方向であるか逆方向であるかを判断し、その判断結果に基づいて、しきい値kslpを設定している。したがって、ベルト式無段変速機4のベルト28の滑り検出精度を向上することができる。また、セカンダリシャフト55の回転速度の時間変化量に基づいて、逆入力であるか否かを判断しているため、ベルト式無段変速機4に入力されるトルクの向きを高精度に検出できる。
なお、図1の制御例は、相関係数k(i)と比較するしきい値を、逆入力か否かにより変更する制御例であるが、ベルト28の滑りの有無を判断するしきい値、または、ベルト28の滑りの程度(滑り量、滑り速度、滑りの発生回数など)を判断するしきい値を、逆入力か否かにより変更する制御も、各請求項の発明に含まれる。さらに、しきい値の設定方法として、上記の方法以外の設定方法を採用し、相関係数の方がしきい値よりも大きい場合に、“ベルトの滑り量が所定量以上である。”と判定する制御も、各請求項の発明に含まれる。
ここで、図1、図3、図6に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、図1に示されたステップS1ないしステップS8、ステップS10およびステップS11、図3に示されたステップS21ないしステップS25、図6に示されたステップS31ないしステップS34、ステップS24、ステップS25が、この発明の滑り判断手段に相当する。また、しきい値kslpが、この発明の基準値に相当し、しきい値kslp1(i)が、この発明の“セカンダリプーリからプライマリプーリにトルクが伝達される場合に選択する基準値”に相当し、しきい値kslp2(i)が、この発明の“プライマリプーリからセカンダリプーリにトルクが伝達される場合に選択する基準値”に相当し、しきい値ΔNout_slpが、この発明の所定量に相当する。
また、図2に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、ベルト式無段変速機4が、この発明の動力伝達機構に相当し、エンジンおよび電動機が、この発明の駆動力源に相当する。
なお、図1のパワートレーンでは、変速比を連続的に制御することのできる無段変速機として、ベルト式無段変速機4が用いられているが、他の無段変速機、例えば、トロイダル式無段変速機を有する車両に対しても、この発明を適用可能である。トロイダル式無段変速機は、トロイダル面を有する入力ディスクおよび出力ディスクと、各ディスクに対して接触するパワーローラとを有する変速機である。各ディスクとパワーローラとの接触面には潤滑油が存在する。そして、パワーローラを、各ディスクの軸線に直交する平面内で直線状に移動させて、パワーローラと各ディスクとの接触半径を調整することにより、入力ディスクと出力ディスクとの間の変速比が制御される。また、各ディスクとパワーローラとの接触面圧を調整することにより、入力ディスクと出力ディスクとの間で伝達されるトルクの容量が制御される。
すなわち、各ディスクとパワーローラとの接触面圧を高圧にすると、潤滑油がガラス状になり、いわゆるトラクション伝動(せん断力)により、入力ディスクと出力ディスクとの間で動力の伝達がおこなわれる。このように、各ディスクとパワーローラとの接触面圧を調整するための油圧サーボ機構が設けられている。油圧サーボ機構は、ピストンと、各ピストンを動作させる第1の油圧室とを有している。また、パワーローラを各ディスクの軸線に直交する平面内で直線状に移動させる油圧サーボ機構が設けられている。この油圧サーボ機構は、第2の油圧室を有している。このトロイダル式無段変速機においては、駆動力源のトルクが、入力ディスクからパワーローラを経由して出力ディスクに伝達される正入力と、車輪の運動エネルギによるトルクは、出力ディスクからパワーローラを経由して入力ディスクに伝達される逆入力とが発生する。このトロイダル式無段変速機におけるトルク容量は、第1の油圧室の油圧に応じて、各ディスクに加えられる軸線方向の挟圧力により制御される。
このようなトロイダル式無段変速機に対して、この発明を適用することができる。この場合、パワーローラの滑り状態の検出に用いるしきい値が、トロイダル式無段変速機に対するトルクの入力方向に応じて変更される。
さらに、駆動力源と車輪との間に、摩擦式のクラッチなどの動力伝達機構が設けられている車両に対しても、この発明を適用することができる。摩擦式のクラッチの配置位置は、駆動力源と変速機との間の動力伝達経路、または、変速機と車輪との間の動力伝達経路、または有段変速機の一部のいずれであってもよい。この摩擦式のクラッチは、例えば、駆動力源側に設けられた摩擦材と、車輪側に設けられた摩擦材とにより構成される。そして、油圧制御装置(図示せず)などにより、クラッチの係合圧が制御される。
さらに、駆動力源のトルクが駆動力源側に設けられた摩擦材を経由して車輪側に設けられた摩擦材に伝達される正入力と、車輪の運動エネルギに相当するトルクが、車輪側に設けられた摩擦材を経由して駆動力源側に設けられた摩擦材に伝達される逆入力とが生じる。このクラッチを有する車両においては、摩擦材同士の間で生じる滑り状態が、この発明の滑り状態に相当する。そして、クラッチの滑り状態の検出に用いるしきい値が、クラッチに対するトルクの入力方向に応じて変更される。
以上のように、この発明は、入力側の回転部材と出力側の回転部材とが、介在物(例えば、ベルト、パワーローラ、潤滑油)を介して、間接的に動力伝達可能に連結される構成の第1の動力伝達機構(例えば、ベルト式無段変速機、トロイダル式無段変速機)、または、入力側の回転部材と出力側の回転部材とが直接接触する構成の第2の動力伝達機構(摩擦式クラッチ)のいずれにも適用可能である。
そして、
(a)第1の動力伝達機構においては、入力側の回転部材または出力側の回転部材と、介在物との接触部分における滑り状態が検出される。
なお、
(b)トロイダル式無段変速機においては、パワーローラおよび潤滑油を、共に介在物であると把握することができ、この場合は、介在物同士の接触部分(境界面)における滑り状態を検出することもできる。
これに対して、
(c)第2の動力伝達機構においては、入力側の回転部材と出力側の回転部材との接触部分における滑り状態が検出される。
したがって、この発明において、“滑り状態”には、上記(a),(b),(c)で述べた滑り状態が含まれる。
ここで、この実施例に開示された特徴的な構成を記載すれば、以下のとおりである。すなわち、入力側の回転部材と出力側の回転部材との間でトルクが伝達される場合に、前記入力側の回転部材と出力側の回転部材との間における滑り状態を検出する変速機の滑り検出装置において、前記入力側の回転部材から前記出力側の回転部材にトルクが伝達される場合と、前記出力側の回転部材から前記入力側の回転部材にトルクが伝達される場合とで、前記入力側の回転部材と出力側の回転部材との間で発生する滑り状態を検出する基準値を変更する滑り判断手段を備えていることを特徴とする変速機の滑り検出装置である。
ところで、この明細書の「特許請求の範囲」の各請求項に記載されている「滑り判断手段」を、「滑り判断器」または「滑り判断コントローラ」と読み替えることもできる。この場合、実施例で説明した電子制御装置34が、「滑り判断器」および「滑り判断コントローラ」に相当する。また、各請求項に記載されている「動力伝達機構」を「作動機」または「バリエータ」と読み替えることもできる。さらにまた、各請求項に記載されている「滑り判断手段」を、「滑り判断ステップ」と読み替え、「動力伝達機構の滑り検出装置」を、「動力伝達機構の滑り検出方法」と読み替えることもできる。
1…エンジン(駆動力源)、 2…車輪、 4…ベルト式無段変速機、 24…プライマリプーリ、 25…セカンダリプーリ、 28…ベルト、 34…電子制御装置、 51…プライマリシャフト、 55…セカンダリシャフト、 Ve…車両。