JP2004002526A - インクジェット記録液用水性着色粒子分散体、その製造方法及びインクジェット記録液 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】アルキル基および/またはアルケニル基とカルボキシル基とを含有し、かつ、酸価が101〜300mgKOH/gであるポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基の一部乃至全部を塩基性化合物で中和してなるポリエステル樹脂と顔料(B)とを必須の成分とする着色樹脂(I)が、水性媒体(II)中に粒子状で分散されていることを特徴とする、インクジェット記録液用水性着色粒子分散体、その製造方法および該分散体を含有するインクジェット記録液。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、記録ヘッドから記録液(インク)の液滴を吐出させ、紙等の被記録媒体上に文字情報、画像等を記録するインクジェット記録液に好適に使用できる水性着色粒子分散体、その製造方法および該水性着色粒子分散体を含有させてなるインクジェット記録液に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来インクジェット記録方法の分野においては、画像形成のために使用される記録液として、染料を水に溶解し、さらに必要に応じ有機溶剤や水溶性高分子を添加したものが広く用いられている。しかし、記録液が水溶性であるため、画像の耐水性が劣り、更に、染料を着色剤として使用するため、画像の耐候性が劣り、屋外用途には使用できないものであった。
【0003】
前記従来技術の欠点を解消するため、20〜1000eq/tonの範囲でイオン性基を有するポリエステル樹脂をテトラヒドロフラン等の溶剤に溶解し、染料又は顔料を添加することにより着色し、粒子化した着色樹脂粒子を含む溶液を脱溶剤化し、冷却後に水を加えた水系分散体からなるインクジェット記録液が特開平6−340835号公報等に開示されている。しかしながら、該技術によるインクジェット記録液は、クリーニングにより容易に印刷可能な状態に復旧できる等の再分散性が十分でなく、また、着色樹脂粒子の沈殿や凝集が生じやすく、保存安定性も劣っていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、屋外でも使用に耐える耐水性及び耐候性を備えた画像を提供でき、更に、インクの信頼性にかかわる再分散性と保存安定性に優れるインクジェット記録液を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、アルキル基および/またはアルケニル基とカルボキシル基とを含有し、かつ、酸価が101〜300mgKOH/gであるポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基の一部乃至全部を塩基性化合物で中和してなるポリエステル樹脂と顔料(B)とを必須成分とする着色樹脂が水性媒体(II)中に粒子状で分散している分散体からなるインクジェット記録液は、一度固化しても容易に分散できる等の再分散性に優れること、着色粒子の凝集や沈殿が無く保存安定性に優れること、屋外での使用に耐える耐水性及び耐候性を備えること、該分散体は、ポリエステル樹脂(A)と、顔料(B)からなる着色樹脂(I)を、アルコール系溶剤および/またはグリコ−ルエ−テル系溶剤に溶解させてなる着色樹脂溶液を用い、ポリエステル樹脂(A)中のカルボキシル基の一部乃至全部の塩基性化合物による中和と、該着色樹脂溶液の水性媒体(II)中への分散とを行う製造方法により、簡便に得ることができること等を見出し、本発明をなすに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、アルキル基および/またはアルケニル基とカルボキシル基とを含有し、かつ、酸価が101〜300mgKOH/gであるポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基の一部乃至全部を塩基化合物で中和してなるポリエステル樹脂と、顔料(B)とを、必須の成分とする着色樹脂が、水性媒体(II)中に粒子状で分散されていることを特徴とする、インクジェット記録液用水性着色粒子分散体を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、アルキル基および/またはアルケニル基とカルボキシル基とを含有し、かつ、酸価が101〜300mgKOH/gであるポリエステル樹脂(A)と、顔料(B)とを必須の成分とする着色樹脂(I)を、アルコール系溶剤および/またはグリコ−ルエ−テル系溶剤に溶解させてなる着色樹脂溶液を用い、ポリエステル樹脂(A)中のカルボキシル基の一部乃至全部の塩基性化合物による中和と、該着色樹脂溶液の水性媒体(II)中への分散を行うことを特徴とする、インクジェット記録液用水性着色粒子分散体の製造方法を提供するものである。
【0008】
更に、本発明は、前記のインクジェット記録液用水性着色粒子分散体を必須成分としてなることを特徴とする、インクジェット記録液を提供するものである。
【0009】
【発明実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明で使用するポリエステル樹脂(A)としては、アルキル基および/またはアルケニル基とカルボキシル基とを含有し、かつ、酸価が101〜300mgKOH/gであるポリエステル樹脂であれば特に制限無く使用できる。ポリエステル樹脂(A)は、例えば、
▲1▼アルキル基やアルケニル基を有する二塩基酸と、二価のアルコールとを必須として、必要に応じてその他の二塩基酸やその無水物、三官能以上の多塩基酸やその無水物、一塩基酸、三官能以上のアルコール、一価のアルコール等を混合し、窒素雰囲気中で加熱下に酸価を測定しながら脱水縮合する方法、
▲2▼二塩基酸やその無水物と二価のアルコールとを必須として調製した、末端に水酸基を有するカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(主鎖中にカルボキシル基を有していても良い)を加熱溶解し、そこにアルキル基やアルケニル基を有する酸無水物を投入し、ポリエステル樹脂の末端水酸基に開環付加させる方法、
▲3▼二塩基酸やその無水物と二価のアルコールとを必須の成分として調製した、末端にカルボキシル基を有するポリエステル樹脂(主鎖中にカルボキシル基を含有していても良い)を加熱溶融し、そこにアルキル基やアルケニル基を有する脂肪族モノエポキシ化合物を投入し、ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基の一部に開環付加させる方法、
等の調製方法により調製できる。
【0010】
前記した調製方法で使用される装置としては、窒素導入口、温度計、攪拌装置、精留塔等を備えた反応容器等の回分式の製造装置が好適に使用できるほか、脱気口を備えた押出機や連続式の反応装置、混練機等も使用できる。また、前記脱水縮合の際、必要に応じて反応系を減圧することによって、エステル化反応を促進することもできる。さらに、エステル化反応の促進のために、種々の触媒を添加することもできる。
【0011】
ポリエステル樹脂(A)の有するアルキル基、アルケニル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、イソノニル基、ドデシル基、ドデセニル基等が挙げられる。
【0012】
前記調製方法▲1▼で使用する、アルキル基やアルケニル基を有する二塩基酸としては、例えば、n−ブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸等の二塩基酸やそれらの無水物が挙げられる。
【0013】
二価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコ−ル、1,2−プロピレングリコ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、ジエチレングリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、ネオペンチルグリコ−ル等の脂肪族ジオ−ル類;ビスフェノ−ルA、ビスフェノ−ルF等のビスフェノ−ル類;ビスフェノ−ルAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノ−ルAのプロピレンオキサイド付加物等のビスフェノ−ルAアルキレンオキサイド付加物;キシリレンジグリコ−ル、シクロヘキサンジメタノ−ル、水添ビスフェノ−ルA等のアラルキレングリコ−ルまたは脂環式のジオ−ル類等が挙げられる。
【0014】
その他の二塩基酸やその無水物としては、例えば、マレイン酸、フマ−ル酸、イタコン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、デカン−1,10−ジカルボン酸等の脂肪族二塩基酸;フタル酸、テトラヒドロフタル酸およびその無水物、ヘキサヒドロフタル酸およびその無水物、テトラブロムフタル酸およびその無水物、テトラクロルフタル酸およびその無水物、ヘット酸およびその無水物、ハイミック酸およびその無水物、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族又は脂環式の二塩基酸等が挙げられる。
【0015】
三官能以上の多塩基酸やその無水物としては、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
【0016】
一塩基酸としては、例えば、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸等が挙げられる。
【0017】
三官能以上の多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロ−ルエタン、トリメチロ−ルプロパン、ソルビト−ル、1,2,3,6−ヘキサンテトロ−ル、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリト−ル、ジペンタエリスリト−ル、2−メチルプロパントリオ−ル、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレ−ト等が挙げられる。
【0018】
また、三官能以上の多価アルコールとして、下記に示すようなポリエポキシ化合物も挙げられる。例えば、エチレングリコール、ヘキサンジオ−ル、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、水添ビスフェノールA等の種々の脂肪族ないしは脂環式ポリオールのポリグリシジルエーテル類;
【0019】
ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF等の種々のフェノ−ル性水酸基の2個を含有する化合物のポリグリシジルエーテル類;前記したフェノ−ル性水酸基の2個を含有する化合物のエチレンオキシドもしくはプロピレンオキシド付加体等の誘導体のジグリシジルエーテル類;
【0020】
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の、各種のポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル類;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレ−トのポリグリシジルエーテル類;アジピン酸、ブタンテトラカルボン酸、プロパントリカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の種々の脂肪族ないしは芳香族ポリカルボン酸のポリグリシジルエステル類;
【0021】
ブタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン、ドデカジエン、シクロオクタジエン、α−ピネン、ビニルシクロヘキセン等の各種の炭化水素系ジエンのビスエポキシド類;ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等の種々の脂環式ポリエポキシ化合物;ポリブタジエン、ポリイソプレン等の種々のジエンポリマーのエポキシ化物;等が挙げられる。
【0022】
一価のアルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。
【0023】
調製方法▲2▼のカルボキシル基含有ポリエステル樹脂や、調製方法▲3▼のカルボキシル基含有ポリエステル樹脂を調製するのに用いる、二塩基酸やその無水物と二価のアルコールとしては、例えば、調製方法▲1▼で用いる、その他の二塩基酸やその無水物、二価のアルコール等を用いることができる。また、例えば、製造方法▲1▼で用いる、三官能以上の多塩基酸やその無水物、一塩基酸、三官能以上の多価アルコール、一価のアルコール等も必要に応じて調製しても良い。
【0024】
製造方法▲2▼で使用する、アルキル基やアルケニル基を有する酸無水物としては、例えば、n−ブチル無水コハク酸、n−ペンチル無水コハク酸、ネオペンチル無水コハク酸、n−ヘキシル無水コハク酸、n−ヘプチル無水コハク酸、n−オクチル無水コハク酸、イソオクチル無水コハク酸、2−エチルヘキシル無水コハク酸、n−ドデシル無水コハク酸、イソドデシル無水コハク酸、n−ドデセニル無水コハク酸、イソドデセニル無水コハク酸、6−ブチル−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物、6−n−オクチル−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物等が挙げられる。アルキル基やアルケニル基を有する酸無水物は、単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。
【0025】
調製方法▲3▼で使用する、アルキル基やアルケニル基を有する脂肪族モノエポキシ化合物としては、例えば、ヒマシ油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、桐油脂肪酸等、種々の飽和あるいは不飽和の脂肪酸のモノグリシジルエステルや、イソノナン酸、バ−サチック酸等の分岐脂肪酸のモノグリシジルエステル等が挙げられる。前記した分岐脂肪酸のモノグリシジルエステルの市販品としては、カージュラE10(シェルケミカル社製)等が挙げられる。脂肪族モノエポキシ化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。
【0026】
前記した▲1▼〜▲3▼の調製方法で用いる、二塩基酸やその無水物、三官能以上の多塩基酸やその無水物、一塩基酸は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。また、カルボキシル基の一部または全部がアルキルエステル、アルケニルエステル又はアリ−ルエステルとなっているものも使用できる。
【0027】
また、前記した▲1▼〜▲3▼の調製方法で用いる、二価のアルコール、三価以上のアルコール、一価のアルコールは、単独で使用してもよいし2種以上のものを併用しても良い。
【0028】
また、例えば、ジメチロ−ルプロピオン酸、ジメチロ−ルブタン酸、6−ヒドロキシヘキサン酸等の、1分子中に水酸基とカルボキシル基を併有する化合物あるいはそれらの反応性誘導体も前記調製方法▲1▼〜▲3▼で使用できる。
【0029】
ポリエステル樹脂(A)は、例えば、前記調製方法▲1▼で得られるアルキル基および/またはアルケニル基とカルボキシル基とを含有するポリエステル樹脂(A1)であれば良いが、なかでも、調製方法▲2▼で得られる、末端に水酸基を有するカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の末端水酸基にアルキル基またはアルケニル基を有する酸無水物を開環付加させて生成する末端構造を有するポリエステル樹脂(A2)や、調製方法▲3▼で得られる、末端にカルボキシル基を有するポリエステル樹脂の末端カルボキシル基にアルキル基またはアルケニル基を有する脂肪族モノエポキシ化合物を開環付加させて生成する末端構造を有するポリエステル樹脂(A3)であれば、顔料の分散が良好となり、着色樹脂を粒子状で水性媒体中に分散させた際に着色粒子が安定に分散することから好ましい。この際使用する末端に水酸基を有するポリエステル樹脂や末端にカルボキシル基を有するポリエステル樹脂は、既にアルキル基やアルケニル基を含有していても良いし、含有していなくても良い。
【0030】
ポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル樹脂(A2)の有する末端構造やポリエステル樹脂(A3)の有する末端構造を、それぞれ単独でポリエステル樹脂1分子中に含んでいても良いし、これらの末端構造を両方有していてもよい。
【0031】
ポリエステル樹脂(A)は、なかでも、調製方法▲2▼で得られる一般式(1)で表される末端構造や、調製方法▲3▼で得られる一般式(2)または(3)で表される末端構造を有するポリエステル樹脂であれば特に好ましい。
【化3】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なり、水素原子、炭素原子数4〜20のアルキル基又は炭素原子数4〜20のアルケニル基を表すが、両方ともに水素原子であることはない。また、R3は炭素原子数4〜20のアルキル基又は炭素原子数4〜20のアルケニル基を表し、R4は炭素原子数4〜20のアルキル基又は炭素原子数4〜20のアルケニル基を表す。)
【0032】
前記一般式(1)、(2)及び(3)中のR1〜R4が示している炭素原子数4〜20のアルキル基や炭素原子数4〜20のアルケニル基は、直鎖状でも分岐状でも良く、例えば、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ペプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ドデシル基、ドデセニル基等が挙げられる。
【0033】
次に、ポリエステル樹脂(A)の性状について説明する。
ポリエステル樹脂(A)は、顔料の分散が良いこと、水性媒体(II)中での着色粒子の分散安定性が良好なこと、画像の耐水性及び耐候性が良好なことから、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による重量平均分子量が5,000〜300,000の範囲にあることが好ましく、なかでも、7,000〜100,000の範囲であることが好ましい。
【0034】
ポリエステル樹脂(A)は、酸価が101〜300mgKOH/gの範囲となるようにカルボキシル基を有することが必要である。該樹脂(A)中のカルボキシル基の一部乃至全部が塩基性化合物により中和されていることにより、着色樹脂の微細な粒子化が容易で、かつ、粒子が水性媒体中で安定に存在し、再分散性も良好となる。酸価が101mgKOH/g未満のポリエステル樹脂、例えば酸価が30mgKOH/gのポリエステル樹脂を用いても、分散体中で凝集や沈殿がなく、保存安定性に優れるが、再分散性が良好ではなく、好ましくない。更に、高濃度の画像を得るべく、酸価が30mgKOH/gのポリエステル樹脂を、例えば、ポリエステル樹脂と顔料の合計を基準として、20〜40重量%という比較的少ない使用割合で使用すると、着色粒子の凝集や沈殿が起き、保存安定性も良好でなくなる。酸価が101〜300mgKOH/gであるポリエステル樹脂(A)を用いることより、前記のような少ない使用量でも、保存安定性と再分散性が共に良好で、且つ、画像の濃度も高くできるインクジェット記録液用水性着色粒子分散体が得られる。また、酸価が、300mgKOH/gを超えると、親水性が高くなり着色樹脂粒子が水性媒体(II)中で溶解するため、好ましくない。
【0035】
ポリエステル樹脂(A)の酸価は、120〜200mgKOH/gの範囲がより好ましく、120〜180mgKOH/gの範囲が更に好ましい。
【0036】
ポリエステル樹脂(A)中のカルボキシル基の一部乃至全部の中和に使用される塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ化合物、それらの炭酸塩、それらの酢酸塩;アンモニア水;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミン類、ジエタノールアミンなどのアルカノールアミン類等を使用することができる。これらは、単独でも、2種以上の併用でも構わない。なかでも、トリエチルアミンが好ましい。
【0037】
塩基性化合物の使用量は、ポリエステル樹脂(A)を水性媒体中に安定に分散させるような量であれば良く制限は無いが、ポリエステル樹脂(A)中のカルボキシル基に対して、1.0〜2.0倍当量が好ましく、更に、1.05〜1.3倍当量がより好ましい。
【0038】
次に、本発明に使用する顔料(B)について説明する。本発明において「顔料」とは、着色剤であって、水、油、有機溶剤等に不溶の粉末をいう。顔料(B)として使用できる代表的なものを挙げると、特に制限はないが、アゾ系、フタロシアニン系、ペリレン系、キナクリドン系などの多環式顔料;酸化チタン、亜鉛華、酸化鉄、酸化コバルト等の金属酸化物;サ−マルブラック法、アセチレンブラック法、チャンネルブラック法、ファ−ネスブラック法、ランプブラック法等により製造される各種のカ−ボンブラック等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用できるし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
顔料(B)の使用量は、特に制限はないが、インクジェット記録液の保存安定性と再分散性に優れることから、ポリエステル樹脂(A)と顔料(B)の全重量を基準として、0.2〜60重量%の範囲にあることが好ましく、0.2〜40重量%がより好ましい。また、得られる画像の濃度を上げるため、更に、ポリエステル樹脂(A)の使用量を少なくすることもできる。画像の濃度を上げるための顔料(B)の使用量としては、ポリエステル樹脂(A)と顔料(B)の全重量を基準として、50〜85重量%の範囲が好ましく、60〜80重量%がより好ましい。
【0040】
本発明においては、水性着色粒子を構成する必須成分であるポリエステル樹脂(A)、顔料(B)以外に他の成分を加えることもできる。使用できる他の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料分散剤等の添加剤類、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカ−ボネ−ト、石油樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどの他の樹脂類等が挙げられる。
【0041】
本発明のインクジェット記録液用水性着色粒子分散体を得るには、製造方法に制限はないが、例えば、本発明のインクジェット記録液用水性着色粒子分散体の製造方法により容易に得ることができる。
【0042】
次に、本発明の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、ポリエステル樹脂(A)と顔料(B)とを必須の成分とする着色樹脂(I)を、アルコール系溶剤および/またはグリコ−ルエ−テル系溶剤に溶解させてなる着色樹脂溶液を用い、ポリエステル樹脂(A)中のカルボキシル基の一部乃至全部の塩基性化合物による中和と、該着色樹脂溶液の水性媒体(II)中への分散とを行う製造方法であれば、特に制限はないが、好ましい製造方法としては、例えば、
工程▲1▼ ポリエステル樹脂(A)、顔料(B)と、その他必要に応じて添加剤、例えば、保水剤、分散助剤等とを混合、混練し、着色樹脂(I)とする工程、
工程▲2▼ 着色樹脂(I)を、アルコール系溶剤および/またはグリコ−ルエ−テル系溶剤に溶解して着色樹脂溶液とする工程、
工程▲3▼ 着色樹脂溶液と塩基性化合物を含有する水性媒体とを混合して、ポリエステル樹脂(A)中のカルボキシル基の一部乃至全部の塩基性化合物による中和と、着色樹脂溶液中の着色樹脂(I)の粒子状での分散とを行い、その後好ましくは急速冷却することにより水性着色粒子分散体とする工程、
からなる製造方法等が挙げられる。
【0043】
工程▲1▼において使用される装置に特に制限はないが、ポリエステル樹脂(A)に顔料(B)が湿潤し、顔料(B)がポリエステル樹脂(A)中に良好に分散させることができるものであればよい。これらの装置の例としては、1軸あるいは2軸の各種の混練機若しくは押出機、加圧ニ−ダ−、2本あるいは3本ロ−ル等がある。
【0044】
工程▲2▼において、使用されるアルコール系溶剤および/またはグリコールエーテル系溶剤には特に制限はなく、ポリエステル樹脂(A)を溶解できるものであれば使用することができる。
【0045】
アルコ−ル系溶剤としては、例えば、メタノ−ル、エタノ−ル、プロパノ−ル、ブタノ−ル、アミルアルコ−ル、ヘキサ−ノ−ル、オクタノ−ル、シクロヘキサノ−ル、ベンジルアルコ−ル等の1価アルコ−ル類;エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、グリセリン等のグリコ−ル類等が挙げられる。
【0046】
本発明においてグリコ−ルエ−テル系溶剤とは、グリコ−ル類のアルキルエ−テル又はグリコ−ル類のアルキルエ−テルエステルを総称するものとする。かかるグリコ−ルエ−テル系溶剤としては、例えば、エチレングリコ−ルモノメチルエ−テル、エチレングリコ−ルモノエチルエ−テル、エチレングリコ−ルモノブチルエ−テル、エチレングリコ−ルジメチルエ−テル、エチレングリコ−ルジエチルエ−テル、エチレングリコ−ルジブチルエ−テル、プロピレングリコ−ルモノメチルエ−テル、プロピレングリコ−ルモノエチルエ−テル、プロピレングリコ−ルモノブチルエ−テル、ジエチレングリコ−ルモノメチルエ−テル、ジエチレングリコ−ルモノエチルエ−テル、ジエチレングリコ−ルモノブチルエ−テル、トリエチレングリコ−ルモノメチルエ−テル、トリエチレングリコ−ルモノエチルエ−テル、トリエチレングリコ−ルモノブチルエ−テル、エチレングリコ−ルモノエチルエ−テルアセテ−ト、ジエチレングリコ−ルモノエチルエ−テルアセテ−ト、プロピレングリコ−ルモノエチルエ−テルアセテ−ト等が挙げられる。
【0047】
アルコ−ル系溶剤やグリコ−ルエ−テル系溶剤は、それぞれ単独で使用しても良いし、2種以上を併用することもできる。前記アルコ−ル系溶剤やグリコ−ルエ−テル系溶剤は、最終のインクジェット記録液の成分としてそのまま使用することができるので、本発明の製造方法における工程中において、これら溶剤類を除去する必要がなく、製造工程が著しく簡略化され、時間的・コスト的な利点も大きいという顕著な効果をももたらす。
【0048】
アルコール系溶剤および/またはグリコール系溶剤の使用量は、特に、着色樹脂100重量部に対して、35〜70重量部が好ましく、35〜65重量部がより好ましい。
【0049】
工程▲3▼において、着色樹脂(I)をアルコール系溶剤および/またはグリコ−ルエ−テル系溶剤に溶解させて得られた着色樹脂溶液は、必要に応じて加熱及び/又は加圧し、水性媒体(II)と混合される。その結果、着色樹脂(I)が粒子状で水性媒体(II)中に微細に分散した水性分散体が得られる。
【0050】
前記工程▲3▼では、ポリエステル樹脂(A)中のカルボキシル基の一部乃至全部の中和を塩基性化合物を含有した水性媒体と混合することにより行っているが、該カルボキシル基の中和は、この方法に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基が塩基性化合物により中和されたポリエステル樹脂に、顔料(B)を混合しても良いし、着色樹脂(I)または着色樹脂溶液に塩基性化合物を加えて中和しても良いし、着色樹脂溶液を水性媒体に分散させた後、攪拌下で塩基性化合物を加えて中和する方法等であっても良い。
【0051】
工程▲3▼で用いる分散装置には特に制限はないが、通常の機械的撹拌が可能な装置等を使用することができる。かかる装置としては、特に制限はないが、代表的な市販品を例示すると、マントンゴ−リン高圧ホモジナイザ−(ゴ−リン社)、連続式超音波ホモジナイザ−(日本精機株式会社)、ナノマイザ−(ナノマイザ−社)、マイクロフルイダイザ−(みずほ工業株式会社)、ハレル型ホモジナイザ−、スラッシャ(三井鉱山株式会社)、キャビトロン(株式会社ユ−ロテック)などの装置を例示することができ、なかでも回転型連続式分散装置である「キャビトロン」が好ましい。
【0052】
前記回転型連続式分散装置キャビトロンは、スリットを有するリング状の突起を備えた固定子と、スリットを有するリング状の突起を備えた回転子とが、間隔を保って相互に咬み合うように同軸上に設けられた構造を有する回転型連続分散装置であり、これを用いた分散方法は、この分散装置の固定子と回転子の中心部分に、着色樹脂溶液と水性媒体(II)とを供給し、回転子を回転させながら該スリットと該間隔とを通して中心部分から外周の方向に流動させることにより、水性媒体(II)中に着色樹脂(I)を粒子状で分散させる方法である。
【0053】
以下、図面により前記のような回転型連続式分散装置を用いた本発明の製造方法について詳しく説明する。
【0054】
図1は本発明の製造方法に用いられる回転型連続式分散装置の固定子の一例を示す斜視図、図2は本発明の製造方法に用いられる回転型連続式分散装置の回転子の一例を示す斜視図、図3は本発明に用いる回転型連続式分散装置の要部の一例を表した断面図、図4は図3のA−A’断面を側面から見たときの固定子突起と回転子突起の組み合わせ状態を表した図である。
【0055】
図1〜図4に示すように、回転型連続式分散装置の固定子1は、中心に設置され、その中心に液入口2を備えている。固定子1の円形状の面上には、固定子1と同心円でリング状に並べられた突起3が1段又は2段以上の多段状に備えられており、従って、突起3同士の間隙には、円周溝4が形成されている。そして、突起3同士の間には複数のスリット5が形成されている。
【0056】
この分散装置内の固定子1に対向する内壁の中心には駆動軸6が設置され、駆動装置に接続されて回転される。回転子7は、固定子1と平行で、かつ中心が揃うように駆動軸6の先端に固定されている。固定子1に対向する回転子7の面上には、回転子7と同心円でリング上に並べられた突起8が一段または2段以上の多段状に備わっている。従って、突起8同士の間隙には、固定子1と同様に、環状の溝9が形成されている。そして、突起8同士の間には複数のスリット10が形成されている。
【0057】
この固定子1と回転子7とは、固定子1の突起3と回転子7の突起8が僅かな間隙を保つように、咬み合わされた状態で使用に供される。
【0058】
この分散装置の液入口部2に、着色樹脂溶液と塩基性化合物を含有する加熱された水性媒体が供給され、これらからなる混合物は回転子7が回転すると、最も内側に位置する回転子7の突起8のスリット10に入り、遠心力により該回転子7の突起8の外側から環状の溝9に吐出され、次いで最も内側に位置する固定子1の突起3のスリット5に入る。さらに、このスリット5に流入した混合物は、固定子1の環状の溝4に押し出される。このようにして当該混合物は、回転子7の回転により遠心力を受け、スリット内を液入口から吐出口へと流動する。一方、回転子7と固定子1のスリットのずれにより混合物の遠心流れの封じ込めと開放が繰り返されて差圧が発生する。さらに、回転子7と固定子1の微少隙間で混合液に対し剪断力が働く。この中心から外周方向への流れと円周方向流れが直角に衝突し、それによって、強力な撹拌・破砕効果が発生し、これにより着色樹脂溶液中の着色樹脂(I)が、塩基性化合物を含有する水性媒体中に粒子状で分散した分散体が得られる。
【0059】
この分散装置の回転子7の回転数は駆動軸に接続された駆動モーターで制御される。回転数が大きく周速が大きいほど大きい遠心力と剪断力を受けて、水性媒体(II)中に粒子状で分散した着色樹脂(I)の粒子径が小さくなる。直径10cmの回転子を使用して重量平均粒子径が100ナノメートル(nm)以下のインクジェット記録液用水性着色粒子分散体を製造する場合、好ましい回転数は3,000〜10,000rpmである。
【0060】
このような回転型連続式分散装置を使用する場合、着色樹脂溶液の良好な流動性を維持するために、当該分散装置には保温のためのジャケットを設置することが好ましい。そして、分散装置内の温度は、着色樹脂溶液の温度、供給する水性媒体(II)の温度、および、ジャケットによる保温効果と装置内での剪断により発生する熱量のバランスを取ることにより、一定温度に制御される。
【0061】
かかる分散装置内の圧力は、水性媒体(II)の装置内における蒸気圧と高速回転する回転子による吐出圧で決まる。また、得られた水性着色粒子分散体を冷却して得られる分散体の取り出しは、取り出し口に自動圧力制御弁を設けて、内部圧を一定に保ちつつ、分散液を大気圧下に連続的に取り出すのが好ましい。
【0062】
次に、本発明の水性着色粒子分散体の性状について説明する。本発明の水性着色粒子分散体は、ポリエステル樹脂(A)と、顔料(B)とを必須の成分とする着色樹脂(I)が水性媒体中に粒子状で安定に存在しているものである。かかる樹脂粒子の重量平均粒子径は、記録ヘッドの目詰まりを防止するため、5〜1000nmの範囲にあることが好ましく、10〜100nmの範囲にあることがより好ましい。本発明でいう平均粒子径とは粒度分布測定機であるマイクロトラックUPA150(Leeds plus Northlop社製光散乱式粒度分布計)で測定した50%重量平均粒子径の値をいう。
【0063】
なお、本発明で用いる水性媒体(II)とは、水を主成分とする液体であればよく、水以外の成分として、各種水溶性塩類、水不溶性の塩類、ポリビニルアルコ−ル、カルボキシメチルセルロ−ス、ヒドロキシメチルセルロ−ス、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等の水溶性高分子、各種の界面活性剤、メタノ−ル、エタノ−ル、ジアセトンアルコ−ル、アセトン、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル等の水溶性溶剤等を含むこともできる。
【0064】
次に、本発明のインクジェット記録液について説明する。
本発明のインクジェット記録液は、例えば、前記水性着色粒子分散体を必須の成分とし、さらに必要に応じて各種の添加剤等を加えて調製される。これら添加剤としては、多価アルコ−ル類のような湿潤剤、表面張力調整剤として各種の界面活性剤、シリコ−ン系化合物等の消泡剤等を好適に使用することができる。
【0065】
【実施例】
次に、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。例中において、「部」、「%」は、特にことわりがない限り、重量基準である。尚、GPC法による重量平均分子量の測定は、ShodexGPCSYSTEM−21〔昭和電工(株)製〕を使用し、重量平均粒子径の測定は、マイクロトラックUPA150(Leeds plus Northlop社製光散乱式粒度分布計)を使用した。
【0066】
合成例1〔ポリエステル樹脂(A)の合成〕
攪拌装置、窒素導入管、温度センサ−、精留塔を備えた内容量5リットルのフラスコに、ビスフェノ−ルAのエチレンオキサイド付加物(平均付加モル数2.2、水酸基価360mgKOH/g)1521部、ジエチレングリコ−ル150部、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル168部、トリメチロールプロパン96部を仕込み、系内が均一になったことを確認した後、ジブチル錫オキサイド1.5部を投入した。さらに系の温度を150℃まで上げ、イソフタル酸1065部を投入し、フラスコ内の気相中に窒素ガスを導入しながら3時間を要して温度を240℃まで上げた。留出する水を系外に除去しながら内容物の酸価が5mgKOH/g以下となるまで同温度で縮合反応を進めた。次いで、180℃まで降温し、無水トリメリット酸737部を仕込み、酸価130mgKOH/gになったらカ−ジュラE10〔シェルケミカル社製の分岐脂肪酸(炭素数10)のグリシジルエステル〕158部を加え、同温度で1時間反応させて、最終的に、GPC法による重量平均分子量が12000で、酸価が125mgKOH/gのポリエステル樹脂を得た。これをポリエステル樹脂(A1)と略記する。
【0067】
合成例2〔比較対照用ポリエステル樹脂(A′)の調製〕
攪拌装置、窒素導入管、温度センサ−、精留塔を備えた内容量5リットルのフラスコに、ビスフェノ−ルAのエチレンオキサイド付加物(平均付加モル数2.2、水酸基価360mgKOH/g)1065部、ジエチレングリコ−ル809部、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル248部を仕込み、系内が均一になったことを確認した後、ジブチル錫オキサイド1.5部を投入した。さらに系の温度を150℃まで上げ、テレフタル酸2079部及びイソフタル酸244部を投入し、フラスコ内の気相中に窒素ガスを導入しながら3時間を要して温度を240℃まで上げた。留出する水を系外に除去しながら内容物の酸価が46mgKOH/g以下となるまで同温度で縮合反応を進めた。次いで、同温度でカ−ジュラE10〔シェルケミカル社製の分岐脂肪酸(炭素数10)のグリシジルエステル〕180部を加え、同温度で1時間反応させて、最終的に、GPC法による重量平均分子量が8,100で、酸価が32mgKOH/gのポリエステル樹脂を得た。これをポリエステル樹脂(A′1)と略記する。
【0068】
合成例3(同上)
攪拌装置、窒素導入管、温度センサ−、精留塔を備えた内容量5リットルのフラスコに、ビスフェノ−ルAのエチレンオキサイド付加物(平均付加モル数2.2、水酸基価360mgKOH/g)627部、ジエチレングリコ−ル477部、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル156部及びトリメチロールプロパン66部を仕込み、系内が均一になったことを確認した後、ジブチル錫オキサイド1.5部を投入した。さらに系の温度を150℃まで上げ、テレフタル酸1466部を仕込みフラスコ内の気相中に窒素ガスを導入しながら3時間を要して温度を240℃まで上げた。留出する水を系外に除去しながら内容物の酸価が24mgKOH/g以下となるまで同温度で縮合反応を進めた。次いで、同温度でカ−ジュラE10〔シェルケミカル社製の分岐脂肪酸(炭素数10)のグリシジルエステル〕113部を加え、同温度で1時間反応させて、最終的に、GPC法による重量平均分子量が14,500で、酸価が13.5mgKOH/gのポリエステル樹脂を得た。これをポリエステル樹脂(A′2)と略記する。
【0069】
実施例1(インクジェット記録液の調製)
ポリエステル樹脂(A1)600部とカーボンブラック(キャボット社製エルフテックス8)400部をヘンシェルミキサ−で予備混合した後、2軸連続混練機(バレル温度100℃)を用いて溶融混練して着色樹脂(I)を得た。次いで、内容積が2リットルのフラスコに着色樹脂(I)500部とトリエチレングリコ−ルモノブチルエ−テル250部を仕込み、撹拌しながら温度を80℃に加熱して着色樹脂溶液を得た。この着色樹脂溶液を80℃に加熱しながらキャビトロンCD1010(ユ−ロテック社製)に毎分100gの速度で移送した。別途準備した水性媒体タンクにトリエチルアミンをイオン交換水で希釈した11.0%濃度のトリエチルアミン水溶液を入れ、熱交換器で80℃に加熱しながら毎分0.1リットルの速度で、前記着色樹脂溶液と同時にキャビトロンに移送し、キャビトロンを回転子の回転速度7500rpmの条件で運転して、固形分が33.0%の水性着色粒子分散体を得た。
【0070】
得られた水性着色粒子分散体80部に、グリセリン7部、イオン交換水12.5部及びデモ−ルN〔花王(株)製ナフタレンスルフォン酸系界面活性剤〕0.5部を加え混合して、インクジェット記録液(J−1)を得た。(J−1)中の着色粒子の重量平均粒子径は67nmであった。
【0071】
次に、インクジェット記録液(J−1)の評価(記録液の安定性評価、印字画質の評価、耐水性の評価、耐光性の評価、再分散性の評価、印刷物の色濃度の評価)を以下のようにして行った。結果を重量平均粒子径と共に第1表に示す。
【0072】
(1)記録液の安定性の評価;インクジェット記録液を70℃で7日間保存した後の重量平均粒子径で評価した。この数値が初期値と近い程保存安定性が良好であることを表す。
【0073】
(2)印字画質の評価;EPSON社製インクジェットプリンタ−:CL−700を使用し、漢字混じり日本語文字(明朝体、14ポイント)をA4サイズ普通紙に印字し、文字の鮮明度及びひげ状のにじみの程度を以下の基準で5段階目視評価した。
5:鮮明でにじみがない。
4:概ね鮮明であるが部分的ににじみがある。
3:複雑な漢字が不鮮明。
2:かな文字部分にもにじみが多い。
1:全体に不鮮明。
【0074】
(3)耐水性の評価;印字画質の評価の際に印字した普通紙を20℃で24時間放置した後、静水中に1分間浸漬してから引き上げ、自然乾燥させた後に印字画像を下記の基準で5段階目視評価した。
5:鮮明でにじみがほとんどない。
4:にじみが若干認められる。
3:画線部分が広がっている。
2:文字の判読が困難。
1:文字がほとんど消失。
【0075】
(4)耐候性の評価;普通紙にベタ印字した試験片を用い、キセノンウェザ−メ−タ−Ci35A〔アトラス(Atlas)社製促進耐候性試験機、照射強度0.5J/sec/m2、ブラックパネル温度63℃、相対湿度55%〕を使用して、連続照射100時間後の試験片と未照射試験片の色差(△E)で評価した。この値が大きい程耐候性が悪いことを示す。
【0076】
(5)再分散性の評価;アルミシャーレ内にスポイトでインクジェット記録液を10滴滴下し、70℃で1時間保存した後室温まで冷却した。これに、水をスポイトで5〜6滴垂らして展開し、サンプルの状態を観察した。一度固化したインクジェット記録液が水によって直に分散したものを、再分散性が良好であると評価し、分散せずに固まった状態を維持しているものを不良と評価した。
【0077】
(6)印刷物の色濃度の評価;普通紙にベタ印字した試験片を用い、グレタグ濃度計 D186(GRETAG MACBETH AG社製濃度測定器)で試験片の色濃度を測定した。測定値の値が高い程、色濃度が濃いことを示す。
【0078】
実施例2(同上)
ポリエステル樹脂(A1)600部とカーボンブラック400部の代わりに、ポリエステル樹脂(A1)600部とKET BLUE 123〔大日本インキ化学工業(株)製銅フタロシアニンブル−系顔料〕400部を使用した以外は実施例1と同様にして、インクジェット記録液(J−2)を得た。(J−2)中の着色粒子の重量平均粒子径は60nmであった。実施例1と同様の評価を行い、結果を重量平均粒子径と共に第1表に示す。
【0079】
実施例3(同上)
ポリエステル樹脂(A1)600部とカーボンブラック400部の代わりに、ポリエステル樹脂(A1)400部とKET BLUE 123 600部を使用し、トリエチルアミンをイオン交換水で希釈した11.0%のトリエチルアミン水を6.61%に変えた以外は実施例1と同様にして、インクジェット記録液(J−3)を得た。(J−3)中の着色粒子の重量平均粒子径は72nmであった。実施例1と同様の評価を行い、結果を重量平均粒子径と共に第1表に示す。
【0080】
実施例4(同上)
ポリエステル樹脂(A1)600部とカーボンブラック400部の代わりに、ポリエステル樹脂(A1)300部とKET BLUE 123 700部を使用し、トリエチルアミンをイオン交換水で希釈した11.0%のトリエチルアミン水を4.96%に変えた以外は実施例1と同様にして、インクジェット記録液(J−4)を得た。(J−4)中の着色粒子の重量平均粒子径は70nmであった。実施例1と同様の評価を行い、結果を重量平均粒子径と共に第1表に示す。
【0081】
比較例1(比較対照用インクジェット記録液の調製)
ポリエステル樹脂(A′1)600部とKET BLUE 123 400部とをヘンシェルミキサ−で予備混合した後、2軸連続混練機(バレル温度100℃)を用いて溶融混練して着色樹脂(I′)を得た。次いで、内容積が2リットルのフラスコに着色樹脂(I′)500部とトリエチレングリコ−ルモノブチルエ−テル250部を仕込み、撹拌しながら温度を80℃に加熱して着色樹脂溶液を得た。この着色樹脂溶液を80℃に加熱しながらキャビトロンCD1010に毎分100gの速度で移送した。別途準備した水性媒体タンクにトリエチルアミンをイオン交換水で希釈した2.5%濃度のトリエチルアミン水溶液を入れ、熱交換器で80℃に加熱しながら毎分0.1リットルの速度で、前記着色樹脂溶液と同時にキャビトロンに移送し、キャビトロンを回転子の回転速度7500rpmの条件で運転して、固形分が33.0%の水性着色粒子分散体を得た。
【0082】
得られた水性着色粒子分散体30部にグリセリン26部、イオン交換水44部を加えて比較対照用インクジェット記録液(j−1)を得た。(j−1)中の着色粒子の重量平均粒子径は90nmであった。実施例1と同様の評価を行い、結果を重量平均粒子径と共に第2表に示す。
【0083】
比較例2(同上)
ポリエステル樹脂(A′1)600部とKET BLUE 123 400部の代わりに、ポリエステル樹脂(A′2)300部とKayaset Magenta J−011〔日本化薬(株)製赤色直接染料:C.I.DR−227〕150部を使用した以外は比較例1と同様にして、インクジェット記録液(j−2)を得た。(j−2)中の着色樹脂粒子の重量平均粒子径は60.5nmであった。実施例1と同様の評価を行い、結果を重量平均粒子径と共に第2表に示す。
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【発明の効果】
実施例及び比較例に示したとおり、本発明の水性着色粒子分散体を用いてなるインクジェット記録液を使用すると、高品質の印字画像が得られ、その画像の耐水性及び耐候性も良好であることが明らかである。また、本発明のインクジェット記録液は保存安定性及び再分散性も良好で、万年筆、水性ボ−ルペン等の筆記具にも使用することができる。
【0086】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いる回転型連続式分散装置の固定子の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に用いる回転型連続式分散装置の回転子の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明に用いる回転型連続式分散装置の要部の一例を表した断面図である。
【図4】図3のA−A′部を側面から見たときの固定子突起と回転子突起の組み合わせ状態を表した図である。
【符号の説明】
1 固定子
2 液入口
3 固定子の突起
4 固定子の円周溝
5 固定子突起のスリット
6 回転子の駆動軸
7 回転子
8 回転子の突起
9 回転子の円周溝
10 回転子突起のスリット
Claims (9)
- アルキル基および/またはアルケニル基とカルボキシル基とを含有し、かつ、酸価が101〜300mgKOH/gであるポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基の一部乃至全部を塩基性化合物で中和してなるポリエステル樹脂と顔料(B)とを必須の成分とする着色樹脂が、水性媒体(II)中に粒子状で分散されていることを特徴とする、インクジェット記録液用水性着色粒子分散体。
- ポリエステル樹脂(A)が、酸価が120〜200mgKOH/gのポリエステル樹脂である、請求項1記載のインクジェット記録液用水性着色粒子分散体。
- ポリエステル樹脂(A)の含有量が、ポリエステル樹脂(A)と顔料(B)との合計を基準として、20〜40重量%である、請求項3記載のインクジェット記録液用水性着色粒子分散体。
- アルキル基および/またはアルケニル基とカルボキシル基とを含有し、かつ、酸価が101〜300mgKOH/gであるポリエステル樹脂(A)と顔料(B)とを必須の成分とする着色樹脂(I)を、アルコール系溶剤および/またはグリコ−ルエ−テル系溶剤に溶解させてなる着色樹脂溶液を用い、ポリエステル樹脂(A)中のカルボキシル基の一部乃至全部の塩基性化合物による中和と、該着色樹脂溶液の水性媒体(II)中への分散を行うことを特徴とする、インクジェット記録液用水性着色粒子分散体の製造方法。
- スリットを有するリング状の突起を備えた固定子と、スリットを有するリング状の突起を備えた回転子とが、間隔を保って相互に咬み合うように同軸上に設けられた構造を有する回転型連続分散装置を用い、この分散装置の固定子と回転子の中心部分に、着色樹脂溶液と塩基性化合物を含有する水性媒体とを供給して、回転子を回転させながら該スリットと該間隔とを通して中心部分から外周の方向に流動させることにより、ポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基の一部乃至全部が塩基化合物で中和された着色樹脂を水性媒体中に粒子状で分散させる、請求項5記載のインクジェット記録液用水性着色粒子分散体の製造方法。
- ポリエステル樹脂(A)の使用量が、ポリエステル樹脂(A)と顔料(B)との合計を基準として、20〜40重量%である、請求項7記載のインクジェット記録液用水性着色粒子分散体の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項記載のインクジェット記録液用水性着色粒子分散体を含有してなることを特徴とする、インクジェット記録液。
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