JP2003346322A - 磁気記録媒体及びその製造方法 - Google Patents
磁気記録媒体及びその製造方法Info
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Abstract
イオンのサブ・プランテーションにより自由エネルギー
損失の小さい緻密なテトラヘドラル構造の炭素保護膜を
形成できるが、入射する炭素イオンが記録磁性膜との界
面に混合領域を形成する問題があり、緻密で硬いテトラ
ヘドラル・カーボンの形成により保護膜を薄膜化できて
も、反って磁気特性を劣化させる問題を発生するという
欠点があった。 【解決手段】円板状の基材上に少なくとも下地膜、記録
磁性膜、炭素含有保護膜からなる磁気記録媒体に於い
て、記録磁性膜上に多層の保護膜を備えることにより下
層の保護膜が炭素イオンの記録磁性膜への入射を阻止
し、磁気特性を変化させることなくカソーディク・アー
ク蒸着による硬く耐蝕性と耐摩耗性に優れた保護膜を備
えた磁気記録媒体を提供できる。
Description
方法に係り、特に、1平方インチ当り50ギガビット以
上の高記録密度を可能とし、且つ、信頼性の高い磁気記
憶装置を実現するための磁気記録媒体、及びその製造方
法に関する。
造方法は、極めて平滑な非磁性基板上に少なくとも記録
磁性膜の結晶配向や粒径制御のためマグネトロン・スパ
ッタリング法でCr、Cr−V、Cr−TiなどのCr
合金からなる下地膜と前記下地膜上にマグネトロン・ス
パッタリング法でCoCrTaやCoCrPtなどの記
録磁性膜を磁化容易軸が基板と平行、もしくはほぼ平行
になるように形成する。記録磁性膜としては、この他に
垂直磁気異方性を有するCo、Co−Niや軟磁性材料
であるパーマロイ膜の上に形成されたCo−Crなどの
垂直磁化膜などがある。さらにプラズマプロセスによる
物理的気相蒸着(PVD)法、又は化学的気相蒸着(C
VD)法で炭素主体の保護膜を形成する。炭素膜の成長
過程では成膜方式による蒸着粒子エネルギーの違いが膜
物性に反映され、例えば、スパッタ粒子の平均エネルギ
ーは5eV程度であり、プラズマCVDのガス種はさら
に低い0.03eVの熱運動エネルギー程度であるが、
基板バイアスにより炭化水素イオンが数百Vで加速され
る。一般に、低圧での低エネルギー蒸着粒子の表面堆積
では緻密なテトヘドラルカーボン構造は成長せず、とく
に炭化水素ラジカルの表面堆積ではポリマー重合する。
逆に、炭素イオンを加速して入射させると、膜内部に侵
入し、大きな内部圧力を受け自由エネルギー損失の小さ
い緻密なテトラヘドラル構造が成長する。しかし、過剰
のイオン入射エネルギーは熱に変換され、熱的に安定な
グラファイト・ライクなトリゴナル構造を成長させてし
まう。一方、アーク放電を利用したカソーディック・ア
ーク蒸着法ではグラファイト・カソードを用いること
で、50〜70eVのエネルギーで炭素イオンを引き出
すことができ、硬く緻密な炭素膜(テトラヘドラル・カ
ーボン膜)の形成に適していることから磁気記録デバイ
スへの応用が期待されている。一般にカソーディック・
アーク蒸着法により形成されるテトラヘドラル・カーボ
ン膜は炭素価電子のsp3混成による結合比率が高く、質
量密度は2.5g・cm−3以上になる。プラズマCV
D法でもアセチレンを反応ガスにした電子サイクロトロ
ン共鳴を用いてイオンエネルギーを制御すれば高密度の
水素化炭素膜を形成できるが、質量密度は2.4g・c
m−3までにしか上がらない。このようなカソーディッ
ク・アーク蒸着法によるテトラヘドラル・カーボン膜の
質量密度に関しては、Ferrari等によって"Density, sp3
fraction, and cross-sectional structure of amorph
ous carbon films determined by x-ray reflectivity
and electron energy-loss spectroscopy"(PHYSICAL RE
VIEW B, 62 (2000) pp.11089-11103)のなかで詳しく述
べられている。カソーディック・アーク蒸着において基
板に入射する炭素イオンのエネルギーEiは素電荷、プ
ラズマポテンシャル、基板バイアス、初期イオンエネル
ギーをそれぞれe、Vp、Vb、Eoとして[式1]で示さ
れることがShi Xu等によって“Properties of carbon i
on deposited tetrahedral amorphouscarbon films as
a function of ion energy”(Journal of Applied Phys
ics,79 (1996) pp.7234-7240)のなかで詳しく記載され
ている。[式1]から電子温度が5eV〜10eVのプ
ラズマで浮遊電位(Vp−Vf)は23V〜46Vとな
り、アーク源で約25eVのエネルギーを得たC+イオ
ンはフローティング基板に約50〜70eVのエネルギ
ーに入射することになる。上記のフローティングポテン
シャルに関しては、Chapmanによる“GLOW DISCHARGE PO
CESS”( John Wiley & Sons, Inc., New York 1980)
を原書とする“プラズマプロセシングの基礎”(電気書
院 1985年、第47−65項)の中で詳しく述べられて
いる。
による炭素薄膜の作製とその応用技術についてはトライ
ボロジスト第45巻10号(2000年)第739−7
46項のなかで詳しく記載されている。炭素イオンは約
60eVのエネルギーでテトラヘドラル・カーボン膜に
入射すると約2原子層相当の0.4nm程度侵入する
が、成膜初期では質量数の大きいCo等の金属原子に入
射するためエネルギー交換が少なく、金属磁性膜に0.
65nm程度まで侵入してしまう。その結果、記録磁性
層の表面に0.65nmの厚さで混合領域が形成され
て、磁気特性が変化する欠点のあることがわかった。
れたカソーディク・アーク蒸着法を用いれば、炭素イオ
ンのサブ・プランテーションにより緻密なテトラヘドラ
ル構造の炭素保護膜を形成できるが、入射する炭素イオ
ンが記録磁性膜との界面に混合領域を形成し磁気特性を
変化させる問題があり、緻密で硬いテトラヘドラル・カ
ーボン保護膜を備えた磁気ディスクを作製しても、反っ
て磁気特性を劣化させる問題を発生するという欠点があ
った。
イオン入射により記録磁性膜で磁気特性が劣化するのを
阻止するため、保護膜を多層化したことを特徴とする磁
気記録媒体及びその製造方法を提供することである。
は、円板状の基材上に少なくとも下地膜、記録磁性膜、
保護膜からなる磁気記録媒体において、前記保護膜が前
記記録磁性膜上に形成された多層保護膜であって、最上
層のが質量密度2.5g・cm-3以上の炭素膜であるこ
とを特徴とする。
保護膜の最上層を除く少なくとも一層が最上層よりも質
量密度の低い厚さ0.2nm〜2nmの炭素皮膜である
ことを特徴とする。
記の多層保護膜の最上層を除く少なくとも一層が炭素に
少なくとも水素、窒素、硼素、珪素、フッ素の何れかを
含む厚さ0.2nm〜2nmの皮膜から成ることにあ
る。
記の多層保護膜の最上層を除く少なくとも一層が珪素、
又はその酸化物、窒化物、炭化物、若しくは硼素、又は
その酸化物、窒化物、炭化物、若しくは非磁性金属、又
はその酸化物、窒化物、炭化物から成る厚さ0.2nm
〜2nmの皮膜とすることにある。
状の基材上に少なくとも下地膜、記録磁性膜、保護膜を
順次形成する工程を有する磁気記録媒体の製造方法に於
いて、前記保護膜が前記記録磁性膜上に形成された多層
保護膜であって、最上層の保護膜をアークプラズマ源か
ら引き出された炭素イオンの入射により形成することを
特徴とする。
は、前記の多層保護膜の最上層を除く少なくとも一層に
厚さ0.2nm〜2nmの炭素皮膜をマグネトロン・ス
パッタリング法、又はプラズマCVD法により形成するこ
とを特徴とする。
は、前記の多層保護膜の最上層を除く少なくとも一層に
炭素に水素、窒素、硼素、珪素、フッ素の何れかを含む
厚さ0.2nm〜2nmの皮膜をマグネトロン・スパッ
タリング法、又はプラズマCVD法により形成すること特
徴とする。本発明の磁気記録媒体の製造方法は、前記の
多層保護膜の最上層を除く少なくとも一層に珪素、又は
その酸化物、窒化物、炭化物、若しくは硼素、又はその
酸化物、窒化物、炭化物、若しくは非磁性金属、又はそ
の酸化物、窒化物、炭化物から成る厚さ0.2nm〜2
nmの皮膜をマグネトロン・スパッタリング法、又はプ
ラズマCVD法により形成することを特徴とする。本発明
の磁気記録媒体の製造方法は、円板状の基材上に少なく
とも下地膜、記録磁性膜、保護膜からなる磁気記録媒体
の製造方法に於いて、前記記録磁性膜上に保護膜をアー
クプラズマ源から引き出された炭素イオンの入射により
形成する成膜工程で成膜開始から一定時間だけ基板に正
バイアスを加えることを特徴とする。また、本発明の磁
気記録媒体の製造方法は、円板状の基材上に少なくとも
下地膜、記録磁性膜、保護膜からなる磁気記録媒体の製
造方法に於いて、前記記録磁性膜上に保護膜をアークプ
ラズマ源から引き出された炭素イオンの入射により形成
する成膜工程で成膜開始から一定時間だけメタン、エタ
ン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブチレ
ン、アセチレン、トルエン等の炭化水素ガスを供給する
ことを特徴とする。
る。上記構成の磁気記録媒体では、多層保護膜が磁性膜
に積層されるのでアークイオン源から引き出された炭素
イオンが約60eVのエネルギーで入射しても、多層保
護膜でのエネルギー損失により記録磁性膜まで到達、又
は、界面下に侵入せず、磁気特性の変動を阻止できる。
すなわち、記録磁性膜と多層保護膜の最下層との界面で
混合領域の形成を防止するのに有効である。入射粒子エ
ネルギーは入射粒子と標的粒子が同じ場合に最も良く伝
達され、炭素皮膜が最上層を除く少なくとも一層にあれ
ばイオン阻止能が高く下層保護膜を薄くできるので望ま
しいが、最上層を除く少なくとも一層が炭素に少なくと
も水素、窒素、硼素、珪素、フッ素の何れかを含む皮膜
や珪素、又はその酸化物、窒化物、若しくは非磁性金
属、又はその酸化物、窒化物、炭化物から成る皮膜であ
ってもよい。例えば、密度2g/cm3の炭素皮膜をスパッ
タ蒸着した場合、多層保護膜の最上層を除く少なくとも
一層の厚さが0.5nmあれば、約60eVのエネルギ
ーで入射する炭素イオンは阻止されて記録磁性膜に侵入
しない。その他の原子から構成された皮膜でも、原子
数、質量数及び密度に応じて膜厚を適正化すれば入射炭
素イオンの侵入を阻止できる。多層保護膜の最上層を除
く少なくとも一層の厚さは1原子層相当の0.2nm以
上であれば入射イオンの減速効果があらわれるが、記録
磁性膜への侵入を阻止するには2原子層相当以上が必要
である。しかし、下層膜を厚くすると磁気スペーシング
が広がる欠点があり、一方、多層保護膜の最上層の薄膜
化は磁気記録媒体の耐摺動性を劣化させるため、最上層
を除く下層膜は1nm以上となる膜厚を上限とするのが望
ましい。多層保護膜の厚さを3nm以下とするならば、
最上層を除く下層の厚さは0.2nm〜2nmの範囲と
する必要がある。
施の形態を説明する。図1は本発明の特徴を最もよく表
している磁気ディスクの断面構成図、図2は本発明の実
施例に示すカソーディック・アーク蒸着装置を備えた磁
気記ディスク製造設備の構成図、図3は本発明の実施例
及び比較例に示すカソーディック・アーク蒸着装置の構
成図、図4は本発明の比較例1に示す磁気記ディスクの
断面構成図、図5は本発明の比較例2に示す磁気記ディ
スクの断面構成図、図6は本発明の実施例および比較例
に示す磁気記録媒体で測定したラマンスペクトルの比
較、図7は本発明に係わる核阻止能計算によるCo膜に
入射する炭素イオンと入射エネルギーの関係図、図8は
本発明に係わる核阻止能計算による炭素膜に入射する炭
素イオンと入射エネルギーの関係図、図9は本発明に係
わる入射原子と標的原子のエネルギー伝達の相関、図1
0は本発明の実施例2に示す磁気ディスクの断面構成
図、図11は本発明の実施例3に示す磁気ディスクの断
面構成図、表1は本発明の実施例1と比較例1、2に示
す磁気ディスクの磁気特性の比較、表2は本発明の実施
例2、3と比較例1に示す磁気ディスクの磁気特性の比
較、表3は本発明の実施例4、5と比較例1に示す磁気
ディスクの磁気特性の比較である。
クを図3のカソーディック・アーク蒸着装置を備えた図
2の磁気ディスク製造設備により作製した。本実施例の
磁気ディスクは、ガラス製のディスク状基体1にマグネ
トロン・スパッタリングにより膜厚が10nmのNiC
r系プリコード膜2と、膜厚が20nmのCr合金下地
膜3と、膜厚が25nmのCoCr系合金の記録磁性膜
4と、膜厚が0.5nmの炭素薄膜を下層保護膜5とし
て順次成膜し、更にカソーディック・アーク蒸着により
上層保護膜6を膜厚1.5nmで積層してある。この磁
気ディスクの磁気特性とラマンスペクトルを測定した。
本実施例におけるラマンスペクトルの測定結果は、図6
に図示されるグラフ28である。図2の磁気ディスク製
造設備はマグネトロン・スパッタリング電極9a〜9c
と共に図3のカソーディック・アーク蒸着装置11を搭
載し、上層保護膜6を除く各層が下層保護膜5を含めて
マグネトロン・スパッタリングにより形成される。一
方、図2のカソーディック・アーク蒸着装置はアーク・
プラズマ源13と、成膜室14と、ダクト15と成膜室
14内に置かれた基板16と、ダクト15と成膜室14
の結合部に設けられた電磁偏向器17から構成され、上
層保護膜6の成膜に用いた。この装置では、前記のアー
クプラズマ源13内にある可動アノード18がグラファ
イトロッドのカソード19に接触することでアーク放電
を発生し、そのときにアークプラズマ源13から飛び出
す炭素イオンがダクト15を介して成膜室14の基板1
6に入射し、炭素皮膜を作製する。基板16は電気的に
浮遊したホルダー23に保持される。基板16には電源
24によりバイアスを印加することが可能であるが、本
実施例では、バイアスは印加せず動作時の基板は浮遊電
位とした。
6を質量密度2.5g・cm-3以上の炭素膜とすること
ができ、プラズマCVD法によって形成される炭素膜よ
りも保護特性(耐蝕性や耐摩耗性)の良い保護膜を形成
することができる。また、本実施の形態における下層保
護膜5と上層保護膜6は、双方とも炭素を用いた炭素膜
であるが、形成方法の違いにより質量密度が異なるた
め、その質量密度の違いに応じて、層を対応付けて識別
する。 [比較例1]実施例1においてアルゴンガスに窒素ガス
を10%混合した1.3Paの雰囲気でグラファイト・
カソード19のマグネトロンスパッタ・スパッタリング
により2nmの膜厚で窒素化炭素膜のみを保護膜25と
して直接記録磁性膜4上に形成し、磁気特性と保護膜の
ラマンスペクトルを測定した。本比較例におけるラマン
スペクトルの測定結果は、図6に図示されるグラフ29
である。図4は本比較例に示す磁気ディスクの断面構成
図である。 [比較例2]実施例1において保護膜を多層にせず、カ
ソーディック・アーク蒸着により炭素膜26のみを2n
mの膜厚で記録磁性膜4上に直接積層し、図5に示す断
面構成の磁気ディスクを作製して磁気特性とラマンスペ
クトルを測定した。本比較例におけるラマンスペクトル
の測定結果は、図6に図示されるグラフ27である。
ィスクの磁気特性は表1に示す通り、実施例1と比較例
1とでほぼ一致したのに対し、保護膜を多層化せずにカ
ソーディック・アーク蒸着により炭素膜24のみを記録
磁性膜4上に直接形成した比較例2では、角型比S*及
び残留磁化Mrと磁性層膜厚δの積Mr・δがそれぞれ
3.5%、5%減少し、保磁力Hcが4%上昇した。一
方、図6に示すラマンスペクトルの比較では、記録磁性
膜4上の炭素皮膜に由来するラマンスペクトルが実施例
1(測定グラフ28)と比較例2(測定グラフ27)で
ほぼ同じ所謂テトラヘドラル・カーボン構造に特有な形
状なのに対し、比較例1(測定グラフ29)では140
0cm-1付近の所謂Dバンドのピーク強度が高くスパッタ
蒸着カーボン膜に特有な形状であった。比較例2におけ
る炭素膜26について高分解ラザフォード後方散乱分析
法の測定結果に基づき計算した質量密度は2.8g・c
m−3であった。
出される炭素イオン入射により上層保護膜6を形成すれ
ば、実施例1の如く磁気特性は変化せず、下層保護膜5
は記録磁性膜4に入射する炭素イオンの侵入阻止に有効
であり、且つ、下層保護膜を0.5nmの膜厚で設けて
も記録磁性膜4上に積層した炭素皮膜の化学構造に殆ど
影響しなかった。一般にアークプラズマ源13から引き
出されるイオンのエネルギーは主にターゲット材質によ
り決まり、グラファイト・カソード19から放出される
炭素イオン1個のエネルギーが約60eVでCo膜に入
射したとして、核阻止能計算すると深さ0.62nmま
で侵入するのに対して(図7参照)、炭素膜への侵入深
さは0.4nmとなる(図8参照)。それ故、厚さ0.
5nmの炭素膜を下層保護膜5とすれば、炭素イオンは
下層保護膜5を貫いて記録磁性膜に到達、又は侵入しな
くなる。核阻止能計算では、皮膜への入射原子が膜を構
成する標的原子と間でトーマス・フェルミ・ポテンシャ
ルを仮定したクーロン力によりエネルギーを失うまで皮
膜内部に侵入するとした。図7,8はそれぞれ核阻止能
計算によるCo膜及び炭素膜に入射する炭素イオンと入
射エネルギーの関係である。
に変換されるエネルギーはエネルギー伝達関数により表
され、炭素原子との衝突により変換されるエネルギーは
図9に示す関係にあって、入射する炭素原子よりも質量
数の大きいCo原子との衝突ではエネルギーの変換が小
さく、炭素イオンの侵入は深くなる。通常、混合層の厚
さを定量するにはオージェー電子分光法による深さ方向
の分析が用いられるが、1次電子の非弾性衝突による平
均自由行程から推定される2次電子の脱出深さは1.5
〜2nmであるため、混合層がそれ以下で薄い場合は定
量が容易でない。このようなオージェー電子分光法での
2次電子脱出深さと1次電子エネルギーの関係について
は山科俊郎、福田伸による“表面分析の基礎と応用”
(東京大学出版会 1991年、第56−64項)のな
かで詳しく記載されている。このため磁気特性(Mr
δ)の変化が記録磁性膜の膜厚減少に起因すると仮定
し、これから混合層の厚さを見積もると0.6nmとな
り、図7に示す核阻止能計算による侵入深さ0.62n
mとほぼ一致した。即ち、実施例1に示す下層保護膜5
は、核阻止能計算で示した通り、カソーディク・アーク
蒸着による炭素イオンの記録磁性膜4への入射を阻止す
るのに有効で、この下層保護膜5を備えることで磁気特
性を変化させることなく硬く耐蝕性と耐摩耗性に優れた
保護膜を備えた磁気記録媒体を提供できる。勿論、実施
例1で基板を負バイアスすると、印加するバイアス電圧
によりイオンが加速されるので下層保護膜を厚くしない
と記録磁性膜4に入射する炭素イオンの侵入を阻止でき
ない。このような基板バイアスはイオンのエネルギー制
御に有効であるが、過剰のイオン入射エネルギーは熱に
変換され、熱的に安定なグラファイト・ライクなトリゴ
ナル構造を成長させてしまう。例えば、グラファイト・
カソード19から放出され、基板16に入射する炭素イ
オン1個のエネルギーは約60eVであり、これを負バ
イアスで基板に加速して炭素膜を形成したところ、−4
00V以上のバイアス電圧で炭素膜のラマンスペクトル
における所謂Dバンドの相対強度が急増した。すなわ
ち、炭素イオンの入射エネルギーを460eV以上にま
で加速するとテトラヘドラル炭素構造の成長が妨げら
れ、膜構造の強度は劣化する。図8からエネルギーが4
60eVの炭素イオンの入射による侵入深さは2nmで
ある。よって、有効な基板の負バイアスである400V
以下に対応して作製される下層保護膜の上限膜厚は2n
mである。
を下地膜とした面内磁気異方性を有するCoCr系合金
であったが、垂直磁気異方性を有するCo、CoNi系
合金や軟磁性材料であるパーマロイ膜などの上に形成さ
れたCoCr系合金などの垂直磁化膜、及びCo等の磁
性層とPd等の非磁性層を交互に積層した人工格子多層
膜であっても、実施例1に示した如く、下層保護膜がカ
ソーディク・アーク蒸着による成膜工程で炭素イオンの
記録磁性膜4への入射を阻止するのに有効であることは
勿論である。例えば、厚さ200nmの鉄ニッケル軟磁
性層下地層で裏打ちした厚さ20nmのCo−Cr垂直磁
気異方性層上にマグネトロン・スパッタリング法による
炭素皮膜を下層保護膜として形成してからカソーディッ
ク・アーク蒸着で上層保護膜となる炭素皮膜を形成した
場合、Co−Cr垂直磁気異方性層に直接カソーディッ
ク・アーク蒸着により炭素保護膜を形成した場合に比べ
て、垂直磁気ディスク膜面に垂直な方向に測った保磁力
が5%上昇した。即ち、垂直磁気ディスクであっても保
護膜を二層化しないと、カソーディック・アーク蒸着に
よる炭素イオン入射によりCo−Cr垂直磁気異方性層
等に炭素原子が侵入して磁気特性を変動させた。
5として膜厚が0.5nmの窒素化炭素膜30を備えた
磁気ディスクを図10に示す断面構成図で作製し、磁気
特性を測定した。この窒素化炭素膜30はアルゴンガス
に窒素ガスを10%混合した1.3Paの雰囲気でグラ
ファイト・カソードのマグネトロン・スパッタリングに
より形成した。上層保護膜6の形成は、実施例1と同様
のカソーディック・アーク蒸着法で実施した。
5として膜厚が0.5nmの珪素含有炭素膜31を備え
た磁気ディスクを図11に示す断面構成図で作製し、磁
気特性を測定した。この珪素含有炭素膜31は20at
%の珪素を含むグラファイト・ターゲットによりマグネ
トロン・スパッタリングで形成した。上層保護膜6の形
成は、実施例1と同様のカソーディック・アーク蒸着法
で実施した。
クの磁気特性は、共に表2に示す如く比較例1の結果と
ほぼ一致し、すなわち、実施例1で示したカソーディッ
ク・アーク蒸着法による磁気特性と同様であることが分
かった。これにより、実施例2、3においても、上記の
窒素化炭素膜、珪素含有炭素膜が下層保護膜としてカソ
ーディック・アーク蒸着による成膜工程で炭素イオンの
記録磁性膜4への侵入を阻止するのに有効であることが
判明した。
とも水素、硼素、珪素、フッ素の何れかを含む薄膜材料
や、非磁性金属、又はその酸化物、窒化物、炭化物から
成る薄膜材料であってもよいが、エネルギー伝達関数に
示す通り、炭素原子との衝突により変換されるエネルギ
ーは、質量数が炭素原子に近いほど大きく、侵入が浅く
なり、薄くできるので有利である。また、炭素イオン入
射は下層保護膜内部の元素を上層保護膜内部にも拡散さ
せるため、下層保護膜としては炭素イオン入射による上
層保護膜の物性、構造への影響の少ない材料、又は、少
なくとも保護膜の性能を劣化させない材料の中から選ぶ
必要がある。
く、実施例1において保護膜を、カソーディック・アー
ク蒸着により炭素膜のみ2nmの膜厚で記録磁性膜4上
に直接積層した。但し、本実施例では、カソーディック
・アーク蒸着の成膜工程で、成膜開始から一定時間だけ
基板に50Vの正バイアスを印加した。本実施例では基
板に入射するイオン束により毎秒1平方センチメートル
あたり約1.25x1016個の割合で炭素原子が堆積し
た。質量密度2.8g・cm−3の炭素膜は約2.7x
10 15個・cm−2の面密度で原子層が厚さ約0.19
nmに積層したと近似できるので、予想される成膜速度
は0.89nm/秒となり、実測値と一致した。従っ
て、0.6秒で約0.5nmの膜厚の初期成長層が形成
される。本実施例で基板に正バイアスを印加する時間は
0.7秒とした。本実施例によれば、下層保護膜5と上
層保護膜6の双方の形成を、カソーディック・アーク蒸
着法とそのバイアスの制御によって行うことができる。
そして、本実施例1と同様に、下層保護膜5により上層
保護膜6の形成時に炭素イオンが記録磁性膜4に侵入す
ることを防止することができ、磁気特性の優れた磁気記
録媒体を製造することができる。
おいて保護膜を多層にせず、カソーディック・アーク蒸
着により炭素膜のみを2nmの膜厚で記録磁性膜4上に
直接積層した。但し、本実施例では、カソーディック・
アーク蒸着の成膜工程で、成膜開始から0.7秒間だけ
エチレンガスを基板付近に導入した。
製された磁気ディスクの磁気特性を測定したところ、何
れも表3に示す如く比較例1での結果とほぼ一致した。
実施例4では、カソーディック・アーク蒸着の成膜工程
おいて、成膜開始から0.7秒間基板に印加した50V
の正バイアスがイオンを減速して記録磁性膜4に到達し
た炭素イオンの侵入を阻止し、磁気特性の変動を防ぐの
に有効であった。一方、実施例5では、カソーディック
・アーク蒸着の成膜工程おいて、成膜開始から0.7秒
間基板付近に導入したエチレンガスの一部が励起、分解
されて炭化水素ラジカルとなって記録磁性膜4上に堆積
することで、カソーディク・アーク蒸着による炭素イオ
ンの記録磁性膜4への入射を阻止し、磁気特性の変動を
防ぐのに有効に作用した。
ディック・アーク蒸着による炭素イオンの入射により、
sp3炭素比率が高く、緻密で硬い炭素保護膜を作製す
るにあたり、炭素イオンの記録磁性膜への侵入を阻止で
きるので、磁気特性を変化させることなく硬く耐蝕性と
耐摩耗性に優れた保護膜を備えた磁気記録媒体を製造す
ることができる。
クの断面構成図
ビーム蒸着装置の構成図
装置を備えた磁気記ディスク製造設備の構成図
構成図
構成図
体で測定したラマンスペクトルの比較
射する炭素イオンと入射エネルギーの関係図
射する炭素イオンと入射エネルギーの関係図
ル。
構成図
構成図
ド膜、3…Cr合金下地膜、4…CoCr系合金記録磁
性膜、5…緩衝膜、6…炭素保護膜、7…ローダー、8
a〜8f…ゲート弁、9a〜9c…マグネトロン・スパッ
タリング電極、10…ヒーター、11…カソーディック
・アーク蒸着装置、12…アンローダー、13… アー
クプラズマ源、14… 成膜室、15…ダクト、16…
基板、17a…電磁コイル(偏向コイル)、17b…電磁
コイル(ソレノイドコイル)、18…可動アノード、1
9…カソード、20…アーク電源、21…排気配管、2
2…アークプラズマビーム、23…基板ホルダー、24
…バイアス電源、25…窒素化炭素保護膜、26…炭素
膜、27…比較例1でのラマンスペクトル、28…実施
例1でのラマンスペクトル、29…比較例2でのラマン
スペクトル、30…窒素化炭素緩衝膜、31…珪素含有
炭素緩衝膜
Claims (11)
- 【請求項1】円板状の基材上に少なくとも下地膜、記録
磁性膜、保護膜を有する磁気記録媒体において、前記保
護膜が前記記録磁性膜上に形成された多層保護膜であっ
て、該多層保護膜の最上層が質量密度2.5g・cm-3
以上の炭素膜であることを特徴とする磁気記録媒体。 - 【請求項2】請求項1記載の磁気記録媒体において、前
記多層保護膜の最上層を除く少なくとも一層が最上層よ
りも質量密度の低い厚さ0.2nm〜2nmの炭素皮膜
であることを特徴とする磁気記録媒体。 - 【請求項3】請求項1記載の磁気記録媒体において、前
記多層保護膜の最上層を除く少なくとも一層が炭素に少
なくとも水素、窒素、硼素、珪素、フッ素の何れかを含
む厚さ0.2nm〜2nmの皮膜から成ることを特徴と
する磁気記録媒体。 - 【請求項4】請求項1記載の磁気記録媒体において、前
記多層保護膜の最上層を除く少なくとも一層が珪素、又
はその酸化物、窒化物、炭化物、若しくは硼素、又はそ
の酸化物、窒化物、炭化物、若しくは非磁性金属、又は
その酸化物、窒化物、炭化物から成る厚さ0.2nm〜
2nmの皮膜であることを特徴とする磁気記録媒体。 - 【請求項5】円板状の基材上に少なくとも下地膜、記録
磁性膜、保護膜を順次形成する工程を有する磁気記録媒
体の製造方法において、前記保護膜の形成工程が前記記
録磁性膜上に形成する多層保護膜の形成工程であり、該
多層保護膜の最上層の形成工程が、アークプラズマ源か
ら引き出された炭素イオンの入射により形成する工程で
あることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。 - 【請求項6】請求項5記載の磁気記録媒体の製造方法に
おいて、前記多層保護膜の形成工程のうちの前記多層保
護膜の最上層を除く少なくとも一層の形成工程が、マグ
ネトロン・スパッタリング法、又はプラズマCVD法で厚
さ0.2nm〜2nmの炭素皮膜を形成する工程である
ことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。 - 【請求項7】請求項5記載の磁気記録媒体の製造方法に
おいて、前記多層保護膜の形成工程のうちの前記多層保
護膜の最上層を除く少なくとも一層の形成工程が、マグ
ネトロン・スパッタリング法、又はプラズマCVD法で炭
素で水素、窒素、硼素、珪素、フッ素の何れかを含む厚
さ0.2nm〜2nmの皮膜を形成する工程であること
特徴とする磁気記録媒体の製造方法。 - 【請求項8】請求項5記載の磁気記録媒体の製造方法に
おいて、前記多層保護膜の形成工程のうちの前記多層保
護膜の最上層を除く少なくとも一層の形成工程が、マグ
ネトロン・スパッタリング法、又はプラズマCVD法で珪
素、又はその酸化物、窒化物、炭化物、若しくは硼素、
又はその酸化物、窒化物、炭化物、若しくは非磁性金
属、又はその酸化物、窒化物、炭化物から成る厚さ0.
2nm〜2nmの皮膜を形成する工程であることを特徴
とする磁気記録媒体の製造方法。 - 【請求項9】円板状の基材上に少なくとも下地膜、記録
磁性膜、保護膜からなる磁気記録媒体の製造方法におい
て、前記記録磁性膜上に保護膜をアークプラズマ源から
引き出された炭素イオンの入射により形成する成膜工程
で、成膜開始から一定時間だけ基板に正バイアスを加え
ることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。 - 【請求項10】円板状の基材上に少なくとも下地膜、記
録磁性膜、保護膜からなる磁気記録媒体の製造方法にお
いて、前記記録磁性膜上に保護膜をアークプラズマ源か
ら引き出された炭素イオンの入射により形成する成膜工
程で、成膜開始から一定時間だけメタン、エタン、プロ
パン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブチレン、アセ
チレン、トルエン等の炭化水素ガスを供給することを特
徴とする磁気記録媒体の製造方法。 - 【請求項11】請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁
気記録媒体を備えた磁気記憶装置。
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