JP2003286478A - 撥水膜とその製造方法およびそれを用いたインクジェットヘッドとインクジェット式記録装置 - Google Patents

撥水膜とその製造方法およびそれを用いたインクジェットヘッドとインクジェット式記録装置

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JP2003286478A
JP2003286478A JP2002092120A JP2002092120A JP2003286478A JP 2003286478 A JP2003286478 A JP 2003286478A JP 2002092120 A JP2002092120 A JP 2002092120A JP 2002092120 A JP2002092120 A JP 2002092120A JP 2003286478 A JP2003286478 A JP 2003286478A
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film
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Toru Nakagawa
徹 中川
Tatsuya Hiwatari
竜也 樋渡
Hidekazu Arase
秀和 荒瀬
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Matsushita Electric Industrial Co Ltd
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  • Particle Formation And Scattering Control In Inkjet Printers (AREA)
  • Materials Applied To Surfaces To Minimize Adherence Of Mist Or Water (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】 耐アルカリ性の撥水膜およびその製造方法を
提供することを目的とする。さらに耐アルカリ性に加え
て、耐熱性が高い撥水膜とその製造方法を提供すること
を目的とする。 【解決手段】 固体基材上に形成された撥水膜であっ
て、両末端に少なくとも一つ以上のシロキサン結合(-S
i-O-)を有し中間部にビニル基または/およびエチニル
基とベンゼン環を含む分子(A)と、一方の末端にフッ
化炭素鎖を有し他方の末端に少なくとも一つ以上のシロ
キサン結合(-Si-O-)を有する分子(B)とを含み、か
つ前記分子(A)と前記分子(B)でポリマーを形成し
ていることを特徴とする撥水膜。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐熱性と耐アルカ
リ特性の高い撥水膜とその製造方法、およびそれを用い
たインクジェットヘッドとインクジェット式記録装置に
関する。
【0002】
【従来の技術】撥水膜は、水や油を弾き、その表面に付
着した物質が容易に除去できることから、様々な分野で
広く用いられている。例えば、自動車の窓に形成するこ
とにより、雨の日でも窓が水を弾き良好な視界を確保で
きる。 また、汚れやすい調理機器表面、台所周り、ト
イレ周りなどに形成することにより、汚れが簡単に除去
でき、お手入れが楽になる。さらに、近年、撥水膜は、
インクジェット式記録装置のインクジェットヘッドにも
主要な部品として利用されている。以下に、インクジェ
ットヘッドにはなぜ撥水膜が必要であるかを詳しく説明
する。
【0003】インクジェット式記録装置における印刷の
仕組みは、ノズル板上に開けられた直径数十μmの多数
のノズル孔からそれぞれ数十ピコリットルのインクを紙
などの印字体に向けて吐出し、吐出したインクを印字体
の所定の位置に配置することである。インクジェットヘ
ッドとは、ノズルからインクを所定量吐出する手段を備
えた部品の総称である。インクを印字体の所定の位置に
配置するためには、ノズル板と印字体をそれぞれ機械的
に動かしてこれらの相対的な位置を制御しながらインク
を吐出する。図5(a)はノズル孔34とその近傍の断面図
であり、インク32を吐出する貫通穴を有するノズル板33
の内面には一定量のインク32を貯めておくインク室31が
形成されている。図5(b)で示すように、インク室31
は、圧電素子35の機械的変形などにより、必要に応じて
室内の圧力を高圧力にできるように設計されている。そ
して、インク室31を高圧にすることにより、所定量のイ
ンク36をインク室からノズル板貫通穴を通して矢印37の
ように吐出することが可能となる。ここで、高精細の印
刷を行うためには、貫通穴から吐出されたインクを精度
よく印字体に配置する必要がある。そのためには、ノズ
ルと印字体との相対位置の正確な制御、吐出するインク
量の制御と微小化、および、インクの吐出方向の正確な
制御が必要である。これらの中で、インクの吐出方向を
正確に制御するためには、インクの吐出方向をノズル板
面に対して垂直方向にする必要がある。ここで、もし図
6(a)で示すように穴周辺の一部にインク45が残存して
いるならば、インク47の吐出方向は、図6(b)の矢印48
で示すように残存インク側に片寄り垂直方向からはずれ
てしまう。なぜなら、ノズル34から出たインク47は、残
存するインク45との間で表面張力による引力が働きイン
ク45側に引っ張られるからである。この様なことが起こ
らないよう、通常のプリンタでは、定期的にゴムブレー
ドで穴周辺を拭いて残存インクを除去している。ここ
で、ゴムブレード拭きにより残存インクをきれいに除去
するためには、ノズル板のインク吐出面は撥水性である
ことが必要不可欠であることが分かっている。このた
め、インクジェットノズル板においては、その表面に様
々な撥水膜が形成されている。
【0004】従来から、固体基材上に撥水膜を形成する
には、撥水性を有するポリテトラフルオロエチレン(PT
FE)やその誘導体を基材に塗布することが一般的に行わ
れている。ただし、PTFEやその誘導体は表面エネルギー
が小さく、これらを基材に直接塗布しても膜は簡単に基
材から剥がれてしまう。そこで、膜と基材との密着性を
確保するために、基材表面を荒らした後に撥水膜を塗布
する方法や、荒らした後にポリエチレンサルファイド等
のプライマー層(密着層)を形成してから撥水膜を焼結
する方法が従来から用いられてきた。また、固体基材が
金属の場合、PTFEやこの誘導体の微粒子を金属と一緒に
鍍金する方法がある。
【0005】これに対して、シランカップリング剤を用
いることにより基材表面を荒らすことなく基材に直接密
着性が良い撥水膜を形成する方法が提案されている。以
下にシランカップリング剤を用いた従来の例を5つ上げ
る。
【0006】(第1番目の例)CF3(CF2)8C2H4SiCl3など
のフルオロアルキルトリクロロシランを基材と反応させ
て、撥水性の単分子膜や重合膜を形成する方法がある
(特許第2500816号公報、特許第2525536号公報)。前記
化学式において、CF3(CF2)8 C2H4-がフルオロアルキル
基、-SiCl3がトリクロロシリル基である。この方法で
は、活性水素が表面に存在する基材をフルオロアルキル
トリクロロシランが溶解した溶液にさらし、クロロシリ
ル基(−SiCl)と活性水素とを反応させて基材とSi-O結
合を形成する。この結果、フルオロアルキル鎖はSi-Oを
介して基材に固定される。ここで、フルオロアルキル鎖
が膜に撥水性を付与する。膜の形成条件によって、撥水
膜は単分子膜や重合膜となる。
【0007】(第2番目の例)CF3(CF2)8C2H4Si(OCH3)3
などのフルオロアルキルアルコキシシランなどのフルオ
ロアルキル鎖を含む化合物を含浸した多孔質性の基体を
真空中で加熱し、前記化合物を蒸発させて基材表面を撥
水性にする方法がある(特開平6-143586号公報)。この
方法では、撥水膜と基材との密着性を上げるために二酸
化珪素などの中間層をもうける方法が提案されている。
【0008】(第3番目の例)基材ににチタン、また
は、酸化チタン、インジウム・錫酸化膜を形成し、この
上に、フルオロアルキルシランを真空蒸着法により形成
する方法がある(特開平10-323979号公報)。
【0009】(第4番目の例)ジルコニアやアルミナな
どの酸化物微粒子を基材表面に形成した後、その上にフ
ルオロアルキルクロロシランやフルオロアルキルアルコ
キシシランなどを塗布する方法がある(特開平6-171094
号公報)。
【0010】(第5番目の例)フルオロアルキルアルコ
キシシランに、金属アルコキシドを加えた混合溶液を加
水分解・脱水重合させた後に、この溶液を基材に塗布し
て焼成することにより、金属酸化物中フルオロアルキル
鎖を有する分子が混合した撥水膜を形成する方法がある
(特許第2687060号公報、特許第2874391号公報、特許第
2729714号公報、特許第2555797号公報)。これらの方法
は、フルオロアルキル鎖が膜に撥水性を付与し、金属酸
化物が膜に高い機械的強度を付与する。
【0011】撥水膜は、上述したような様々な形成方法
の中からその用途に応じて最適な方法で選んで作製する
必要がある。インクジェットノズルへの撥水膜の形成に
おいては、特に、シランカップリング剤を用いた方法が
以下の点で他の方法よりも有用である。第1番目には、
基本的には、ノズルの基材を選ばずに撥水処理が可能で
あること。第2番目には、撥水膜の薄膜化が可能である
ことである。なぜ薄膜化が必要であるかというと、図7
(a)で示すように、撥水膜55に開けられたノズル貫通
孔34の側面は撥水性であり膜厚は薄いことが必要であ
る。もし図7(b)のように、撥水膜56の膜厚が厚いと
側面の撥水性のためにインク32がインク室31から貫通孔
34を通して吐出できなくなるからである。このようなこ
とが起こらないためには、膜厚がノズル径よりも充分薄
い必要がある。この理由から、第2番目の特徴は今後ま
すます重要になると考えられる。なぜなら、今後、印刷
はますます高精細になる傾向にあり、それに伴いノズル
径もより小さくなる方向にあり、そのノズル径よりも小
さい膜厚を有する撥水膜が要求されるからである。この
ため、インクジェットノズルへの撥水膜を形成するため
に、上述の第2〜4番目の方法が用いられている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】シランカップリング剤
を用いた撥水膜は、前処理を行わずに様々な基材へ形成
できることから、様々な分野への応用展開が期待され、
インクジェットヘッドにおいては、特に有用である。し
かしながら、シランカップリング剤を用いた従来の撥水
膜はアルカリ性に対して耐久性が無いという課題があっ
た。特に、インクジェットヘッドへ応用において、この
課題は深刻である。なぜなら、一般にインクジェット式
記録装置で用いられているインクはアルカリ性であり、
インクジェットヘッド用撥水膜にはアルカリ溶液に対す
る耐久性が要求されるからである。
【0013】上述1と2の例で述べたような従来のシラ
ンカップリング剤を用いた単分子膜や重合膜は、基材と
Si-O 結合を介して結合している。しかし、この結合は
アルカリ溶液中では加水分解しやすいためアルカリ溶液
に浸漬すると基材から消失しやすく、アルカリ溶液に対
する耐久性が無かった。特に、上述2で述べた方法で
は、密着層がアルカリ溶液に対して溶解しやすい二酸化
珪素であるため、この撥水膜はアルカリ溶液に対して耐
久性がなかった。
【0014】そこで、耐アルカリ性を向上するために、
撥水膜の下に、酸化チタン、チタン、ジルコニア微粒
子、アルミナ微粒子などの耐アルカリ性の下層膜を形成
する上述3、4番目の方法がある。このことにより、少
なくとも下層膜の破壊により撥水膜が固体基材から剥離
することは無くなる。一方、撥水膜と基材間の水素結合
やシロキサン結合がアルカリに破壊されるという問題
は、この構成でも完全には解決されていなかった。その
理由を以下に述べる。従来法で提案されている撥水膜で
は、フルオロアルキルアルコキシシランやフルオロアル
キルクロロシランなど、直鎖分子の片末端にのみ反応基
があるシランカップリング剤を利用している。このよう
なカップリング剤においては、図8で示すように、分子
間の立体障害のため、分子間での3次元重合は起こりに
くく、膜の密度は一般の重合性ポリマーに比べて低い。
シランカップリング剤61は基材表面の水酸基と脱水反応
62を起こしてシロキサン結合を形成したり、水素結合に
より固定される。従って、図9(a)で示すように、基材
表面の水酸基密度が高い基材71ほど、基材近傍の膜(基
材に結合したシランカップリング剤の膜)72の密度は高
くなる。ここで、図9(b)で示すように、下層膜73が酸
化チタン、チタン、ジルコニアなどの場合、これら表面
の水酸基密度が小さいので、下層膜に接触している撥水
膜(基材に結合したシランカップリング剤の膜)74の密
度は低い。図10は、水酸基密度が小さい下層膜83に形
成された撥水膜82,81がアルカリ性成分に曝されたとき
の模式図を示している。下層膜83近傍には水素結合やシ
ロキサン結合を介して固定しているシランカップリング
分子(下層膜近傍の撥水膜)82と、それより離れた箇所
には密度の低い撥水膜(下層膜から離れた部分の撥水
膜)81が形成されている。いま、この膜にアルカリ性の
インクが接触すると、アルカリ性成分であるイオン(OH
-)84が膜81を通過して下層膜83へと向かう。下層膜近
傍の撥水膜82の密度が小さい場合、イオン85は膜82と下
層膜83界面に入り込み、そこに存在する水素結合やシロ
キサン結合を破壊する。結局、下層膜がいくらアルカリ
溶液に対して耐久性があっても、その表面の水酸基密度
が低いと、撥水膜の耐アルカリ性は低くなってしまう。
【0015】また、耐アルカリ性を向上するためには、
アルカリ溶液に対して耐久性がある酸化チタンや酸化ジ
ルコニウム等の金属酸化物にフルオロアルキル鎖を有す
る分子を混入する上述第5番目の例が有用である。しか
し、これら金属酸化物はチタンアルコキシドやジルコニ
ウムアルコキシドを加水分解・脱水重合して形成する必
要があり、これらのアルコキシドは反応性が高く通常の
大気中で即座に加水分解が進むため、撥水膜塗布用コー
ト液は大変扱いにくいという問題があった。このため、
大気中で安定なシリコンアルコキシドが広く用いられて
きた。しかし、シリコンアルコキシドから形成される酸
化珪素はアルカリ溶液中では溶解してしまう。そのた
め、シリコンアルコキシドを用いた撥水膜はアルカリ溶
液に対して耐久性が低いという問題があった。
【0016】本発明は、前記従来の問題を解決し、耐ア
ルカリ性の撥水膜およびその製造方法を提供することを
目的とする。さらに、耐アルカリ性に加えて、耐熱性が
高い撥水膜とその製造方法を提供することを目的とす
る。また、この撥水膜を応用し、アルカリ性のインクに
長時間接触しても破壊されない耐熱性に優れた撥水膜を
有するインクジェットヘッドとインクジェット式記録装
置を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】(1)前記課題を解決す
るために、本発明の一番目の形態は、本発明の撥水膜
は、固体基材上に形成された撥水膜であって、両末端に
少なくとも一つ以上のシロキサン結合(-Si-O-)を有し
中間部にビニル基または/およびエチニル基とベンゼン
環を含む分子(A)と、一方の末端にフッ化炭素鎖を有
し他方の末端に少なくとも一つ以上のシロキサン結合
(-Si-O-)を有する分子(B)とを含み、かつ前記分子
(A)と前記分子(B)でポリマーを形成していること
を特徴とする。
【0018】かかる構成においては、シロキサン結合近
傍に撥水性のビニル基、エチニル基、ベンゼン環、また
は、フッ化炭素鎖が存在するため、シロキサン結合には
アルカリ性成分が近づきにくくなる。その結果、撥水膜
は耐アルカリ性を有する。また、撥水膜は、耐熱性のビ
ニル基、エチニル基、フッ化炭素鎖、およびシロキサン
結合から構成されるため、耐熱性が優れたものとなる。
また、かかる構成の撥水膜は、加熱すると分子(A)内に
含まれるビニル基やエチニル基が徐々に開裂し、分子内
または/および分子同士で炭素−炭素結合(C-C)を形
成する。この結合は強く、耐熱性があるため、撥水膜も
機械的に強く耐熱性の高いものとなる。
【0019】また本発明のより好ましい形態は、分子
(A)の撥水膜表面における濃度が膜内における濃度よ
りも高いことを特徴とする。このために、撥水膜は高い
撥水性を有する。
【0020】(2)本発明の二番目の形態は、固体基材
上への撥水膜の製造方法であって、両末端に反応性官能
基を有し中間部にビニル基または/およびエチニル基と
ベンゼン環を含むシランカップリング剤(A)と、一方
の末端がフッ化炭素鎖で他方の末端に反応性官能基を有
するシランカップリング剤(B)と、有機溶剤、水、お
よび酸性触媒を少なくとも含む化学物質を混合して作製
したコート液を前記基材に塗布し、前記基材を加熱する
ことにより、前記シランカップリング剤(A)と前記シ
ランカップリング剤(B)でポリマーを形成させること
を特徴とする撥水膜の製造方法。
【0021】かかる製造方法により形成される撥水膜
は、両末端に少なくとも一つ以上のシロキサン結合(-S
i-O-)を有し中間部にビニル基または/およびエチニル
基とベンゼン環を含む分子(A)と、一方の末端にフッ
化炭素鎖を有し他方の末端に少なくとも一つ以上のシロ
キサン結合(-Si-O-)を有する分子(B)とを含み、か
つ前記分子(A)と前記分子(B)でポリマーを形成す
るので、耐アルカリ性を耐熱性に優れた特性を有する。
【0022】また、さらに、シランカップリング剤 (A)
内に含まれるビニル基やエチニル基は、例えば、250℃
以上に加熱すると徐々に開裂し、分子内または/および
分子同士で炭素−炭素結合(C-C)を形成する。この結
合は強く、耐熱性があるため、作製される撥水膜も機械
的に強く耐熱性の高いものとなる。
【0023】また、反応性官能基がアルコキシル基であ
る好ましい形態の場合、シランカップリング剤(A)と
(B)のポリマー形成は容易に起こりやすく、耐アルカリ
性と耐熱性に優れた撥水膜が容易に作製できる。
【0024】(3)また本発明の三番目の形態は、イン
クを吐出するノズル孔を有する基材と、前記基材のイン
クを吐出する側に撥水膜が形成されたインクジェットノ
ズルを構成要素として有するインクジェットヘッドにお
いて、前記撥水膜が、本発明の一番目の形態の撥水膜を
用いたインクジェットヘッド、又は本発明の二番目の形
態の製造方法により作製された撥水膜を用いたインクジ
ェットヘッドである。
【0025】このインクジェットヘッドは、耐アルカリ
性と耐熱性に優れた撥水膜を用いているため、安定した
インク吐出と高耐久性を有する。
【0026】(4)また本発明の四番目の形態は、本発
明の三番目の形態を用いたインクジェットヘッドと、相
対的に記録媒体を移動させる移動手段とを備えたことを
特徴とするインクジェット式記録装置である。
【0027】かかるインクジェット式記録装置は、耐ア
ルカリ性と耐熱性に優れた撥水膜を用いているため、安
定したインク吐出と高耐久性を有する。
【0028】
【発明の実施の形態】本発明者らは、アルカリ溶液が撥
水膜に及ぼす影響とそのメカニズムなどについて様々な
解析と実験をした結果、耐アルカリ性と耐熱性の高い撥
水膜を、シランカップリング剤を用いて実現する方法を
見いだした。
【0029】以下、本発明の理解を容易にするため、本
発明の実施の形態例について説明するが、本発明は、こ
の実施の形態例に挙げられたもののみに限定されるもの
ではない。
【0030】(実施の形態1)本発明撥水膜の1番目の
形態は、両末端に少なくとも一つ以上のシロキサン結合
(-Si-O-)を有し中間部にビニル基(−CH = CH −)ま
たは/およびエチニル基(−C ≡ C −)とベンゼン環
を含む分子(A)と、一方の末端にフッ化炭素鎖(−(C
F2)n−;nは自然数)を有し他方の末端に少なくとも一
つ以上のシロキサン結合(-Si-O-)を有する分子(B)
とを含み、かつ前記分子(A)と前記分子(B)でポリ
マーを形成する。分子(B)のフッ化炭素鎖は無極性分
子であるため膜に撥水性を付与する。そして、分子
(A)は分子両末端のシロキサン結合により高密度の重
合膜を形成し、この重合膜内に分子(B)がシロキサン
結合を介して結合する。
【0031】分子(A)としては、-OSi(R1R2)(CH = C
H)t C6H4(CH = CH)uSi(R3R4)O-、または、-OSi(R
1R2)(C ≡ C)t C6H4(C ≡ C)uSi(R3R4)O-、また
は、-OSi(R1R2)(CH = CH)t C6H4(C ≡ C)uSi(R3R4)
O-(R1,R2, R3,R4はメチル基、エチル基、メトキシ基
(-OCH3)、エトキシ基(-OC2H5)、水酸基(-OH)、ま
たはシロキサン結合の構成要素である酸素、t、uは1〜1
0の自然数)がある。
【0032】分子(B)としては、CF3(CF2nC2H4Si
(R1R2)O-(R1,R2はメチル基、またはエチル基、メトキ
シ基(-OCH3)、エトキシ基(-OC2H5)、水酸基(-O
H)、またはシロキサン結合の構成要素である酸素、nは
1〜12の自然数)がある。ここで、膜に高い撥水性を付
与するためには、分子(B)において、n=6〜10が好ま
しい。
【0033】図1に、本発明の一つの例である撥水膜の
構造模式図を示す。この例では、分子(A)としては、
O3Si CH = CH(CH26 CH = CH SiO3、分子(B)とし
てはCF3(CF27C2H4SiO3である(この化学式でSiO3
記述しているが、これは、Siに3個のシロキサン結合を
有することを意味する)。
【0034】ところで、この膜内にはシロキサン結合
(-Si-O-)が存在する。一般にシロキサン結合はアルカ
リ溶液中では加水分解して切断される。しかし、本発明
の撥水膜の構造においては、シロキサン結合の近傍には
撥水性のビニル基、エチニル基、ベンゼン環、または、
フッ化炭素鎖が存在し、これらの基が膜内にアルカリ溶
液が侵入することを防ぐことを本発明者は見出した。こ
の結果、撥水膜がアルカリ中でも破壊されないことを本
発明者らは見出した。
【0035】また、分子(A)を構成するビニル基、エ
チニル基、ベンゼン環、および、分子(B)を構成する
フッ化炭素鎖は300℃以上の耐熱性を有するため、本発
明の撥水膜は300℃以上の耐熱性を有することを本発明
者らは見出した。さらに、ビニル基、エチニル基、ベン
ゼン環を含む分子はこれを含まないものに比べて堅いた
め(分子構造の取りうる自由度が少ない)、この分子は
密にパッキングして膜密度が大きくなり、耐摩耗性が向
上する。
【0036】さらに、かかる構成の撥水膜は、加熱する
と分子(A)内に含まれるビニル基やエチニル基が徐々に
開裂し、分子内または/および分子同士で炭素−炭素結
合(C-C)を形成する。この結合は強く、耐熱性がある
ため、撥水膜も機械的に強く耐熱性の高いものとなる。
【0037】また、この構造では、膜表面近傍の分子
(B)の濃度が高い。このため、分子(B)の分子
(A)に対する割合が低くても高撥水性の膜が得られ
る。分子(B)の割合が低いほど撥水膜の膜密度は向上
する傾向にある。従って、本発明の撥水膜は耐摩耗性に
優れる。
【0038】(実施の形態2)また本発明の2番目の形
態は、固体基材上への撥水膜の製造方法であって、両末
端に反応性官能基を有し中間部にエチニル基または/お
よびエチニル基(−C≡ C −)とベンゼン環を含むシラ
ンカップリング剤(A)と、一方の末端がフッ化炭素鎖
で他方の末端に反応性官能基を有するシランカップリン
グ剤(B)と、有機溶剤、水、および酸性触媒を少なく
とも含む化学物質を混合して作製したコート液を前記基
材に塗布し、前記基材を加熱することにより、前記シラ
ンカップリング剤(A)と前記シランカップリング剤
(B)でポリマーを形成させることを特徴とする。
【0039】シランカップリング剤のカップリング部、
-Si-X(Xはアルコキシル基、塩素、アシロキシ、また
は、アミン)は、有機溶剤、水、及び酸触媒の中では、
下記の化学式(化1)〜(化3)の反応が起こる。
【0040】
【化1】
【0041】
【化2】
【0042】
【化3】
【0043】(化1)の反応は加水分解によるシラノー
ル基(Si-OH)の生成であり、(化2)と(化3)は脱
水重合反応によるシロキサン結合(-Si-O-)の生成であ
る。所定量のシランカップリング剤、有機溶剤、水、酸
触媒を混合すると、その直後から(化1)〜(化3)の
反応が起こる。従って、コート液中には、シランカップ
リング剤の加水分解物、脱水重合物、または、未反応の
反応性官能基を有する分子が混在する。(化1)〜(化
3)の反応は早いので、コート液を作製後すぐにこのコ
ート液を基材に塗布しても良いが、混合直後は化学反応
熱によりコート液の温度が上昇し、塗布状態にばらつき
が出る恐れがあるので、混合後1時間から2時間後に塗布
することが望ましい。このコート液を基材に塗布する
と、基材には膜が形成される。塗布直後の膜内にはシラ
ンカップリング剤、溶媒、水、酸触媒が存在している
が、100℃以上で加熱すると溶媒、水、酸触媒が蒸発
し、それに伴い、未反応の反応性官能基のシラノール化
やシラノール基同士の脱水重合反応が進み、その結果、
基材上には固体薄膜が形成される。図2に示すように、
シランカップリング剤(A)11は分子両末端に反応性
官能基があるので、重合反応の起こる部分を矢印12で
示すように、脱水重合反応を起こし、高密度の3次元重
合膜を形成する。このため、形成される膜は、シランカ
ップリング剤(A)の3次元重合膜中にシランカップリ
ング剤(B)がシロキサン結合を介して固定された構造
となる。なお、膜中でシランカップリング剤(A)と
(B)はシロキサン結合を介して結合して重合膜を形成
しているが、膜中には未反応の反応性官能基やシラノー
ル基(Si-OH)が残存する場合がある。焼成温度が高い
ほどこれらの残存基が少なくなる。また、基材表面に水
酸基(-OH)がある場合、シランカップリング剤は水酸
基と脱水反応してシロキサン結合を形成するか、また
は、水素結合するので、撥水膜は基材に強固に固定され
る。
【0044】また、さらに、シランカップリング剤 (A)
内に含まれるビニル基やエチニル基は、250℃以上に加
熱すると徐々に開裂し、分子内または/および分子同士
で炭素−炭素結合(C-C)を形成する。この結合は強
く、耐熱性があるため、作製される撥水膜も機械的に強
く耐熱性の高いものとなる。
【0045】シランカップリング剤(A)としては、 XsQ3-sSi(CH = CH)t C6H4(CH = CH)uSiR3-mXm、 または、 XsQ3-sSi(C ≡ C)t C6H4(C ≡ C)uSiR3-mXm、 または、 XsQ3-sSi(CH = CH)t C6H4(C ≡ C)uSiR3-mXm (Q、Rはメチル、またはエチル基、t、uは1〜10の自然
数、sとmは1〜3の自然数。なお、S=1、m=1の場合、Q,R
はそれぞれ二個存在するが、それぞれの二個は異なる構
造であってもよい)。
【0046】また、シランカップリング剤(B)として
は、CF3(CF2nC2H4SiR3-mXm(Rはメチル、またはエチ
ル基、nは1〜12の自然数、mは1〜3の自然数。なお、m=1
の場合、Rは二個存在するが、この二個はそれぞれ異な
る構造でもよい)がある。ここで、膜に高い撥水性を付
与するためには、n=6〜10が好ましい。
【0047】コート液を基材に塗布して膜を形成するた
めにはコート液に流動性があることが望ましく、そのた
めには、コート液中のシランカップリング剤の一部のみ
が重合していることが望ましい。なぜなら、すべてのカ
ップリング剤が重合してしまうと、コート液はゲル化
(溶液を含む固体状の形態。寒天や豆腐などがその例)
して流動性を失い、基材上に塗布することが不可能にな
るからである。シランカップリング剤のXが塩素の場
合、カップリング部の反応性があまりにも高いので、水
分量を厳密にコントロールしないとゲル化が起きやす
い。これに対して、Xがアルコキシ基の場合は、水と酸
の存在下でゆっくりと加水分解と脱水重合反応が進むの
で、コート液は基材に容易に塗布することが可能とな
る。
【0048】(実施の形態3)本発明の3番目の形態
は、インクジェットヘッドであって、図3で示すよう
に、インクを吐出するノズル孔34を有するノズル板3
3と、前記板のインクを吐出する側に撥水膜39が形成
されたインクジェットノズル30を構成要素とし、前記
撥水膜が、発明実施の形態1で示された撥水膜を用いて
いることを特徴とする。
【0049】(実施の形態4)本発明の4番目の形態
は、インクジェットヘッドルの製造方法であって、ノズ
ル板に、発明実施の形態2番目の方法を用いて撥水膜を
形成することを特徴とする。
【0050】(本発明実施の形態5)本発明の5番目の
形態は、発明実施の形態3のインクジェットヘッドを有
するインクジェット式記録装置である。
【0051】図4は本発明のインクジェットヘッドを有
するインクジェット式記録装置の全体概略構成を示す。
同図のインクジェット式記録装置140は、圧電素子の
圧電効果を利用して記録を行う本発明のインクジェット
ヘッド141を備え、このインクジェットヘッド141
から吐出したインク滴を紙等の記録媒体142に着弾さ
せて、記録媒体142に記録を行うものである。前記イ
ンクジェットヘッド141は、主走査方向Xに配置した
キャリッジ軸143に設けられたキャリッジ144に搭
載されていて、キャリッジ44がキャリッジ軸143に
沿って往復動するのに応じて、主走査方向Xに往復動す
る。更に、インクジェット式記録装置140は、前記記
録媒体142をインクジェットヘッド141の幅方向
(即ち、主走査方向X)と略垂直方向の副走査方向Y
に、相対的に移動させる複数個のローラ(移動手段)1
45を備える。
【0052】
【実施例】以下に本発明の具体的な実施例を述べる。な
お、本発明が以下の実施例に限定されることがないこと
はいうまでもない。
【0053】(実施例1)基材には、大きさ3cm×5c
m、厚み100μmのステンレス基材(SUS304)を用いた。
【0054】以下に示したC-1、C-2液を調整した。
【0055】C-1液 (1)エタノールと2,2,2-トリフルオロエタノールの混
合溶液(体積比で8:2):30ml (2)1,4-ビス(トリエトキシシリルビニル)ベンゼン
((C2H5O)3Si(CH = CH)C6H4(CH = CH)Si(O C
2H5)3):2ml (3)(2-パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシ
シラン(CF3(CF2)7C2H4Si(OCH3)3):0.2mlC-2液 (1)エタノールと2,2,2-トリフルオロエタノールの混
合溶液(体積比で8:2):19.5ml (2)純水:30ml (3)塩酸(36vol%):0.5ml C-1液を攪拌子で攪拌しながらC-2液を0.4ml滴下した。
滴下後約1時間攪拌してコート液を作製した。これらの
混合液をスピンコート法により基材に塗布した。スピン
コートの条件は3000 rpmで20秒とした。その後、基材を
室温で1時間乾燥した後、200℃で30分焼成した。
【0056】撥水膜の評価は以下の3項目について行っ
た。
【0057】(a)撥水性の評価 撥水膜の純水に対する静的接触角を測定した。
【0058】(b)耐アルカリ特性 pH=8.0の緩衝溶液に撥水膜を塗布した基材を浸漬し、80
℃で100時間放置する。その後、基材を取りだして、純
水に対する静的接触角を測定した。
【0059】なお、緩衝溶液は、以下のA,B液をpH=8.0
になるように適量混合して作製した。
【0060】 A液:0.2Mホウ酸、0.2M塩化ナトリウム B液:0.2M炭酸ナトリウム (c)耐熱性の評価 撥水膜を塗布した基材を300℃のオーブンに300h入れた
後、室温に冷却後水に対する静的接触角を測定した。
【0061】本実施例で作製した撥水膜評価結果を(表
1)に示す。(表1)に示すように、従来法で作製した
撥水膜に比べて耐アルカリ性の高い、耐摩耗性の優れた
撥水膜が実現できた。
【0062】(実施例2)実施例1と同様に撥水膜をス
テンレス基材上に作製した。ただし、C-1液の(2)1,4
-ビス(トリエトキシシリルビニル)ベンゼン((C2H5O)
3SiCH = CHC 6H4CH = CHSi(OC2H5)3)の代わりに、1,4-
ビス(トリメエキシシリルエチニル)ベンゼン((C2H
5O)3SiC≡CC6H4C≡CSi(O C2H5)3)を用いた。
【0063】実施例1と同様に撥水膜の特性を評価した
ところ、耐アルカリ性と耐熱性に優れた特性を有するこ
とが確認できた。
【0064】なお、本実施例の撥水膜にはエチニル基が
含まれ、これはビニル基よりも耐熱性が高いため、本実
施例の撥水膜の耐熱性は実施例1の撥水膜の耐熱性より
も優れたものとなった。
【0065】
【表1】
【0066】(実施例3)基材には、大きさ3cm×3c
m、厚み100μmのステンレス基材(SUS304)を用いた。
【0067】以下に示したC-1、C-2液を調整した。
【0068】C-1液 (1)エタノールと2,2,2-トリフルオロエタノールの混
合溶液(体積比で8:2):30ml (2)1,4-ビス(トリエトキシシリルビニル)ベンゼン
((C2H5O)3Si(CH = CH)C6H4(CH = CH)Si(O C
2H5)3):2ml (3)(2-パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシ
シラン(CF3(CF2)7C2H4Si(OCH3)3):0.2mlC-2液 (1)エタノールと2,2,2-トリフルオロエタノールの混
合溶液(体積比で8:2):19.5ml (2)純水:30ml (3)塩酸(36vol%):0.5ml C-1液を攪拌子で攪拌しながらC-2液を0.4ml滴下した。
滴下後約1時間攪拌してコート液を作製した。これらの
混合液をスピンコート法により基材に塗布した。スピン
コートの条件は3000 rpmで20秒とした。その後、基材を
室温で1時間乾燥した後、200℃で30分焼成した。
【0069】その後、基材に放電加工により直径30μm
のノズル用貫通孔を400個開けてインクジェットノズル
(以下、ノズル板と記す)を作成し、これを用いて印字
用ヘッドを組み立ててインクジェットプリンタに組み込
んだ。
【0070】ノズル板の評価は以下の4項目について行
った。なお、評価に用いたインクはpH=9.0、表面張力35
dyn/cmの黒色インクである。インクは、黒色染料、グリ
セリン、浸透剤、pH調整剤、水を所定の割合を混合して
作製した。また、評価(A)〜(C)は、ノズル孔の開い
ていない基材で評価した。
【0071】A.撥インク性の評価 撥水膜のインクに対する静的接触角と後退接触角を測定
した。また、ノズル板に約30μlのインクをたらし、こ
れを大きさ5mm×30mm、厚み1mmのポリブタジエンのゴム
ブレードで拭き取って、インクが残るかどうかを調べ
た。具体的には、ゴムブレードをノズル板面に対して垂
直に配置し、長さ5mmの辺がノズル板に当たるように
し、一方向に動かし、インクを除去した。除去できたか
どうかは目視で確認した。
【0072】B.耐インク特性 ノズル板をインクに浸漬して70℃で500h放置後、取り出
して純水で洗浄した後、インクに対する静的接触角と後
退接触角を測定した。また、(A)と同様にインクの拭き
取り性も評価した。
【0073】C.耐摩耗性特性 大きさ5mm×30mm、厚み1mmのポリブタジエンのゴムブレ
ードをノズル板面に対して垂直に配置し、長さ5mmの辺
がノズル板に当たるようにし、約2mm程度ゴムブレード
をノズル板方向に押し込んだ。そしてこの状態で、5mm
の辺で5万回擦った。その後、ノズル板のインクに対す
る静的接触角と後退接触角を測定した。
【0074】D.印字特性評価 ノズル板をインクに浸漬して70℃で500h放置した後、こ
のノズル板を用いて印字ヘッドを組み立ててプリンタに
組み込み、印字を行った。印刷された画質は、未処理の
ノズル板を用いて印刷したものと比較した。本実施例で
作製した撥水膜評価結果を(表2)に示す。
【0075】1.結果(A)の評価:できるだけ鏡面に近
く磨いたフッ素樹脂に対するインクの静的接触角は70de
g、後退接触角は70degであった。従って、この値に近い
撥水膜は、フッ素樹脂に匹敵する撥インク性を有すると
いえる。また、静的接触角と後退接触角の値が近いほ
ど、ゴムブレードでノズル表面を拭いたときに残存イン
クは除去されやすい。また、ゴムブレード拭きでも残存
インクは完全に除去できた。従って、インクの良く弾く
撥水膜が実現できていることが示された。
【0076】2.結果(B)の評価:試験後インクに対す
る接触角はほとんど低下しなかった。また、試験後の基
材に滴下したインクはゴムブレード拭きによって完全に
除去されることが確認できた。従って、インクに対して
耐久性のある撥水膜が実現できていることが示された。
【0077】3.結果(C)の評価:接触角の値はほとん
ど変化しなかったので、耐摩耗性のある撥水膜が実現で
きていることが示された。
【0078】4.結果(D)の評価:吐出特性は、試験前
のノズル板と同様に良好であった。これより、インクに
対して耐久性のあるノズル板が実現できていることが示
された。
【0079】以上の結果より、インクジェットプリンタ
に適用可能なノズル板が実現できた。なお、本実施の形
態においてコート液の溶媒としてエタノールと2,2,2-ト
リフルオロエタノールの混合溶液を用いたが、この溶液
は基材に対する濡れ性が良く、均一な撥水膜を形成しや
すい。また、炭化水素鎖を有するシランカップリング剤
において、炭素鎖を構成する炭素数を6としたが、この
値は、アルカリ成分を膜内に侵入することを防ぐのに十
分であり、かつ、耐摩耗性に優れた高密度の膜を形成す
ることのできるものである。
【0080】(実施例4)実施例3と同様の方法を用い
て撥水膜を基材に形成し、これを用いてインクジェット
プリンタを組み立てた。ただし、C-1液の1,4-ビス(ト
リエトキシシリルビニル)ベンゼン((C2H5O)3Si(CH =
CH)C6H4(CH = CH)Si(O C2H5)3)の代わりに、1,4-
ビス(トリエトキシシリルエチニル)ベンゼン((C2H
5O)3Si(C ≡C)C6H4(H ≡ C)Si(O C2H5)3)を用い
た。
【0081】実施例3と同様の評価をしたところ、(表
2)で示すように、インクジェットプリンタに適用可能
なノズル板が実現できることが示された。
【0082】以上の結果より、耐アルカリ性の撥水膜が
実現できた。さらにこの膜を用いて、インクジェットプ
リンタに適用可能なノズル板が実現できた。
【0083】なお、本発明の実施の形態及び実施例にお
いてはシランカップリング剤としてアルコキシシラン化
合物のみを示したが、これに限る必要はなく、水分量を
厳密に制御すれば、反応性の高いクロロシラン化合物や
シラザン化合物などを用いても同様の撥水膜が形成でき
る。また、実施例において、塗布方法はすべてスピンコ
ート法を用いたが、これに限る必要はなく、ディップ
法、スプレイ法など使用できることはいうまでもない。
また、本発明の実施例においては、撥水膜はいくつかの
シランカップリング剤、溶媒としてエタノール、2,2,2-
フルオロエタノール、酸性触媒として塩酸を用いたが、
これに限る必要はなく、例えば、溶媒として、プロパノ
ール、ブタノールやその混合物、酸触媒として硝酸、酢
酸、ギ酸などが使えることはいうまでもない。また、コ
ート液の組成も実施の形態で示したものに限る必要はな
く、撥水性を上げるためにフルオロアルキル鎖を有する
シランカップリング剤の量を増やすなど、その膜の使用
目的によって変えることができる。さらに、実施例で
は、コート液の構成要素は、シランカップリング剤
(A)、(B)と有機溶剤、水、酸触媒からなっているが、こ
れ以外の化学物質として、他の種類のシランカップリン
グ剤、増粘剤、表面張力調整のための界面活性剤などを
添加しても良いことはいうまでもない。さらに、本実施
例において、ノズル孔はすべて放電加工で開けている
が、これに限る必要はなく、レーザ加工、パンチング加
工、エッチング加工などを使用できる。
【0084】
【表2】
【0085】
【発明の効果】以上、本発明によって耐アルカリ性の高
い撥水膜をシランカップリング剤を用いて実現できた。
【0086】本発明の撥水膜はフルオロアルキル鎖を含
み表面エネルギーが低いため、水以外に油など様々な液
体をはじき、また、この膜に固着した固形物も簡単に除
去できる。このため、本発明の撥水膜は調理機器、便器
など汚れが固着しやすい生活用品への防汚膜として有用
である。特に、強アルカリの洗剤にさらされる部分への
防汚膜として有用である。さらに、撥水性が必要とさ
れ、アルカリ溶液に常時さらされる箇所への適用など様
々な分野で利用できる。
【0087】なお、本実施の形態においては、シランカ
ップリング剤(B)として、1,4-ビス(トリエトキシシリ
ルビニル)ベンゼンや1,4-ビス(トリエトキシシリルエ
チニル)ベンゼンを用いたが、これに限る必要は無く、
例えば、(C2H5O)3Si(C ≡ C)C6H4(H = C)Si(O C
2H5)3などのように、ビニル基とエチニル基が混在して
いるシランカップリング剤や、エトキシル基がメトキシ
ル基であるような分子であっても良いことはいうまでも
ない。さらに、シランカップリング剤(A)、(B)以外のシ
ランカップリング剤を混在させ撥水膜を作製しても良い
ことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の撥水膜の構造模式図
【図2】本発明の一実施形態の高密度重合膜が形成され
る過程を示した模式図
【図3】本発明の一実施形態のノズルとその近傍の断面
【図4】本発明の一実施形態のインクジェット式記録装
置を示す図
【図5】(a)は従来例のノズル孔とその近傍の断面図 (b)は同、インク室が高圧になってインクが孔から吐
出される様子を示した模式図
【図6】(a)は従来例のノズル孔にインクが残存して
いる状態を示した模式図 (b)は同、ノズル孔にインクが残存した状態でインク
を吐出場合を示した模式図
【図7】(a)は従来例の撥水膜の膜厚が小さい場合の
ノズル板とその近傍の断面図 (b)は同、撥水膜の膜厚が大きい場合のノズル板とそ
の近傍の断面図
【図8】従来例の片末端にのみ反応基を有するシランカ
ップリング剤の重合の様子を示した模式図
【図9】(a)は従来例の表面水酸基密度の高い基材に
結合したシランカップリング剤の構造模式図 (b)は同、表面水酸基密度の低い基材に結合したシラ
ンカップリング剤の構造模式図
【図10】従来の、水酸基密度の低い基材に結合した撥
水膜がアルカリ性成分に曝された様子を示す模式図
【符号の説明】
1 撥水膜の構造模式図 2 基材 11 シランカップリング剤(A) 12 重合反応の起こる部分 30 インクジェットノズル 31 インク室 32 インク 33 ノズル板 34 ノズル孔 35 圧電素子 36,47 吐出されたインク 37,48 インクの飛翔方向 45 残存インク 55,56 撥水膜 61 シランカップリング剤 62 重合反応の起こる部分 71 表面水酸基密度の高い基材 72 基材に結合したシランカップリング剤 73 表面水酸基密度の低い基材 74 基材に結合したシランカップリング剤 81 下層膜から離れた部分の撥水膜 82 下層膜近傍の撥水膜 83 水酸基密度の低い下層膜 84,85 膜内に侵入するアルカリ性成分 140 インクジェット式記録装置 141 インクジェットヘッド 142 記録媒体 143 キャリッジ軸 144 キャリッジ 145 複数個のローラ(移動手段)
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 荒瀬 秀和 大阪府門真市大字門真1006番地 松下電器 産業株式会社内 Fターム(参考) 2C057 AF70 AG44 AP60 BA04 BA14 4H020 BA32

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 固体基材上に形成された撥水膜であっ
    て、両末端に少なくとも一つ以上のシロキサン結合(-S
    i-O-)を有し中間部にビニル基または/およびエチニル
    基とベンゼン環を含む分子(A)と、一方の末端にフッ
    化炭素鎖を有し他方の末端に少なくとも一つ以上のシロ
    キサン結合(-Si-O-)を有する分子(B)とを含み、か
    つ前記分子(A)と前記分子(B)でポリマーを形成し
    ていることを特徴とする撥水膜。
  2. 【請求項2】 撥水膜表面近傍における分子(B)の濃
    度が、前記撥水膜内における分子(B)の濃度よりも高
    い請求項1記載の撥水膜。
  3. 【請求項3】 固体基材上への撥水膜の製造方法であっ
    て、両末端に反応性官能基を有し中間部にビニル基また
    は/およびエチニル基とベンゼン環を含むシランカップ
    リング剤(A)と、一方の末端がフッ化炭素鎖で他方の
    末端に反応性官能基を有するシランカップリング剤
    (B)と、有機溶剤、水、および酸性触媒を少なくとも
    含む化学物質を混合して作製したコート液を前記基材に
    塗布し、前記基材を加熱することにより、前記シランカ
    ップリング剤(A)と前記シランカップリング剤(B)
    でポリマーを形成させることを特徴とする撥水膜の製造
    方法。
  4. 【請求項4】 反応性官能基がアルコキシル基であるこ
    とを特徴とする請求項3記載の撥水膜の製造方法。
  5. 【請求項5】 インクを吐出するノズル孔を有する基材
    と、前記基材のインクを吐出する側に撥水膜が形成され
    たインクジェットノズルを構成部品として有するインク
    ジェットヘッドにおいて、前記撥水膜が、請求項1に記
    載の撥水膜を用いたインクジェットヘッド。
  6. 【請求項6】 請求項3または4に記載の製造方法により
    作製された撥水膜を用いたインクジェットヘッド。
  7. 【請求項7】 請求項6記載のインクジェットヘッド
    と、相対的に記録媒体を移動させる移動手段とを備えた
    ことを特徴とするインクジェット式記録装置。
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