JP2003226940A - ばね用ステンレス鋼線 - Google Patents
ばね用ステンレス鋼線Info
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Abstract
優れ、かつ低コストなばね用ステンレス鋼線を提供す
る。 【解決手段】 質量%でC:0.01〜0.25、N:0.01〜0.2
5、Mn:0.5〜4.0、Cr:16〜20、Ni:8.0〜14.0を含有
し、残部がFe及び不純物からなるステンレス鋼を線引き
加工して得られるばね用ステンレス鋼線である。C及びN
を0.15質量%≦C+N≦0.35質量%とし、線引き加工によ
り誘起されるマルテンサイト相を10体積%以下、残部を
オーステナイト相とする。そして、線引き加工後の引張
強さが1300N/mm2以上2000N/mm2未満である。
Description
ト相(γ)金属組織を有するばね用ステンレス鋼線、この
鋼線により製造されたばね、及びばねの製造方法に関す
るものである。特に、耐水素脆性が要求されるばねの素
材に最適なばね用ステンレス鋼線に関するものである。
れる水素燃料電池システムの開発が盛んに行われてい
る。この水素燃料電池システムに用いられる金属素材と
して、従来、耐水素脆性及び耐食性に優れるSUS304やSU
S316などのオーステナイト系ステンレスが知られてい
る。
に関する技術として特開平4-306564号公報に記載の技術
(従来技術1)がある。この技術では、溶融炭酸塩型燃料
電池のカレントコレクタやセパレータとして、ステンレ
ス鋼、鉄基合金、Ni基合金などの中間材に耐溶融塩性、
耐水素脆性に優れる銅や銅合金の被覆を施したものを用
いている。
(従来技術2)では、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ
として、オーステナイト系ステンレス鋼板の表面に前駆
体セラミックス層を形成したものを用い、耐溶融炭酸塩
性の向上を図っている。
(従来技術3)では、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ
材や集電板として、ステンレス鋼などの基材表面に少な
くともCr酸化物、Al酸化物、Ti酸化物を含む酸化被膜を
形成したものを用い、高温で長時間使用する場合の信頼
性や安定性の向上を図っている。
(従来技術4)では、高分子電解質型燃料電池のセパレー
タ板として、ステンレス材の表面に導電性粒子を分散し
た導電性樹脂層を形成したものを用い、接触抵抗の増大
や腐食による出力低下を抑制している。
術では、以下の問題があった。従来技術1及び2は、いず
れもステンレス鋼材の表面に被覆などの加工を伴うた
め、ばねを製造する場合、ばね加工後に被覆工程が必要
となり、工程が増加して作業性が悪くなるだけでなく、
コスト高になる恐れがある。一方、ばね用ステンレス鋼
線に被覆を施した後、ばね加工を行った場合、鋼線表面
の被覆が剥離して、被覆の性能が発揮されない恐れがあ
る。更に、高圧水素を用いる燃料電池である場合の耐水
素脆性に対する考慮もなされていない。これらの事項か
ら、従来技術1及び2をばね用鋼線に適用することは困難
である。
及び2と同様に、ステンレス鋼材の表面に被覆処理を行
う工程が必要であり、ばねを形成する鋼線に適用するこ
とが困難である。また、これら技術は、耐水素脆性の向
上についても全く考慮していない。
おいて耐疲労性、耐水素脆性に優れ、かつ低コストなば
ね用ステンレス鋼線を提供することにある。
の耐疲労性や耐水素脆性に優れると共に低コストなば
ね、及びばねの製造方法を提供することにある。
ーステナイト系ステンレスに対し、特に、C、Nの含有
量、及び加工誘起マルテンサイト相の含有量を規定する
ことで上記の目的を達成する。
5、N:0.01〜0.25、Mn:0.5〜4.0、Cr:16〜20、Ni:8.
0〜14.0を含有し、残部がFe及び不純物からなるステン
レス鋼を線引き加工して得られるばね用ステンレス鋼線
である。C及びNを0.15質量%≦C+N≦0.35質量%とし、
線引き加工により誘起されるマルテンサイト相を10体積
%以下、残部をオーステナイト相とする。そして、線引
き加工後の引張強さが1300N/mm2以上2000N/mm2未満であ
る。更に、質量%でMo:0.1〜3.0、Nb:0.1〜2.0、Ti:
0.1〜2.0、Si:0.9〜2.0のうち、少なくとも1種を含有
することが好ましい。より好ましくは、更に、質量%で
Co:0.2〜2.0を含有することである。
用ステンレス鋼線をばね加工した後、400℃以上600℃以
下で低温焼きなましを行うことを特徴とする。
鋼線は、ステンレス鋼線の化学成分及び金属組織を規定
することで、従来のようにステンレス鋼材の表面に別途
被覆を設けることなく、優れた耐疲労性や耐水素脆性を
有する。また、被覆工程を省略できることで、生産性に
も優れ、コストの削減も可能である。
線から製造されるばねが優れた耐水素脆性や機械的特
性、特に耐疲労性を有する理由を以下に説明する。C、N
などの侵入型固溶元素は、基地であるオーステナイト相
に含有することで、オーステナイト相の相安定化を行う
と共に、結晶格子にひずみを生成して強化する固溶強化
や、金属組織中の転位を固着させる効果(コットレル雰
囲気:転位と溶質原子との弾性的相互作用により転位周
辺に溶質原子が集まった状態であり、エネルギー的に安
定な状態)がある。そのため、本発明ばね用ステンレス
鋼線、及びこの鋼線から製造されるばねは、Fe基である
オーステナイト系ステンレスにC、Nを比較的多量に添加
することでオーステナイト相(γ)安定化による耐水素脆
性が向上する。かつ、C、Nなどの侵入型固溶元素やMo、
Nb、Ti、Siなどのフェライト生成元素の添加から得られ
る固溶強化によって、SUS316などと同等の高い耐食性
と、耐水素脆性、そして機械的特性の両立が可能であ
る。加えて、本発明ばね用ステンレス鋼線やばねは、線
引き加工による組織強化によっても機械的特性の向上を
促進する。
位の固着効果を更に促進するためにばね加工(コイリン
グ)を行った後、ひずみ取りテンパーを行う。すると、
ばね加工といった塑性加工に加え、金属組織中に導入さ
れた転位を適切な温度で低温焼きなまししてC、Nによる
コットレル雰囲気(転位の固着)の形成から得られる組織
強化によって、機械的特性の向上を促進させる。また、
400℃以上600℃以下の低温焼きなましは、水素が集中す
る転位をなくして水素脆化を抑制すると共に、ほとんど
の転位を固着させてばねの機械的特性を向上させること
で、脆化による特性の低下を防止することに有効であ
る。
事項の限定理由を説明する。上記転位の固着効果を得る
ためには、鋼中のC、Nの含有量(質量%)は0.15≦C+N≦
0.30であることが適する。より好ましくは、0.23≦C+N
≦0.30である。従来のSUS304やSUS316などのオーステナ
イト系ステンレスのC+N含有量は、0.15質量%未満であ
り、本発明者らが検討した結果、C+N含有量が0.15質量
%以上であると、転位の固着がより有効に行われるとの
知見を得た。しかし、C+N含有量が0.30質量%を超える
と、鋼線の靭性が不足するため、上限を0.30質量%に規
定する。
引き加工によって誘起されるマルテンサイト相が鋼全体
に対して10体積%以下であることが適する。水素高温高
圧において鋼中に吸蔵される水素は、マルテンサイト相
中では比較的短時間で拡散して転位、格子欠陥、介在物
などの周辺や結晶粒界に集中することで、鋼の水素脆化
を引き起こす起因となる。燃料電池システムを用いた自
動車や家庭用発電機などの環境に用いられるばねにおい
て、特に、ばねの表面に水素脆化が生じると、疲労折損
の原因となり得る。そこで、水素脆化の要因となるマル
テンサイト相の含有率の上限を設け、ばね自身が水素雰
囲気に曝される場合や、ばね表面が水素の拡散速度が比
較的小さいオーステナイト相によって占められる場合な
どであっても、水素脆化の発生を抑制することが可能で
ある。本発明ばね用ステンレス鋼線の金属組織において
マルテンサイト相を除く残部は、実質的にオーステナイ
ト相からなるものとし、マルテンサイト相及びオーステ
ナイト相以外の不可避的な相も含む。
ナイト相安定性と加工時の温度とが相互に影響する。そ
こで、例えば、通常の室温での加工において加工誘起マ
ルテンサイトを10体積%以下に制御するには、C+Nを上
記規定の範囲に含有させることが有効である。
レス鋼線としてばね加工(コイリングなど)を施すのに必
要な1300N/mm2以上に規定する。但し、靭性を考慮して
上限を2000N/mm2未満とする。
向の表面粗さをRzで20μm以下に規定する。より好まし
くは、Rzで7.0μm以下である。鋼線に負荷される応力に
は増減があり、特に、この応力の増減が比較的短時間に
繰り返されるばねは、鋼線の表面疵などに応力集中が発
生し、結果として発生する局所的なすべりに水素が集中
して、水素脆化を起こす起因となる。そこで、本発明
は、鋼線の表面粗さを低減することで応力集中をより低
減し、耐水素脆性の改善を図る。
上は、線引き加工方向と垂直な横断面が円形はもちろん
のこと、楕円、矩形、正方形、及び長方形などの異形断
面を有する鋼線においても成立する。
成分範囲を限定する理由を述べる。Cは強力なオーステ
ナイト形成元素である。また、結晶格子中に侵入型固溶
し、ひずみを導入して強化する効果をもつ。更に、コッ
トレル雰囲気を形成し、金属組織中の転位を固着させる
効果がある。しかし、Cr炭化物が結晶粒界に存在する場
合、オーステナイト相中のCrの拡散速度が低いため、粒
界周辺にCr欠乏層が生じ、靭性及び耐食性の低下が生じ
る。この現象は、Nb、Tiの添加によって抑制することが
可能であるが、Nb、Tiといった添加元素が過剰に存在す
ると、オーステナイト相の不安定を引き起こす。そこ
で、本発明では、有効な含有量としてC:0.01質量%以
上0.25質量%以下とした。
素であり、侵入型固溶強化元素でもある。また、コット
レル雰囲気の形成元素でもある。ただし、オーステナイ
ト相中への固溶には限度があり、多量の添加(0.20質量
%以上、特に0.25質量%超)は、溶解、鋳造の際にブロ
ーホール発生の要因となる。この現象は、Cr、Mnなどの
Nとの親和力が高い元素を添加することで固溶限を上
げ、ある程度の抑制が可能である。しかし、過度に添加
する場合、溶解の際に温度や雰囲気制御が必要となっ
て、コストの増加を招く恐れがあるため、本発明では
N:0.01質量%以上0.25質量%以下とした。
る。また、オーステナイト系ステンレスのオーステナイ
ト相(γ)の相安定にも有効であり、高価なNiの代替元素
となり得る。そして、上記のようにオーステナイト相中
へのNの固溶限を上げる効果も有する。ただし、高温で
の耐酸化性に悪影響を及ぼすため、Mn:0.5質量%以上
4.0質量%以下とした。なお、Mnの含有量は、特に耐食
性を重視した場合、Mn:0.5質量%以上2.0質量%以下が
好ましい。一方、Nの固溶限を上げる、即ち、Nのミクロ
ブローホールを極めて少なくするためには、Mn:2.0質
量%超4.0質量%以下の添加が大きな効果を有するが、
若干耐食性の低下がみられることがある。従って、用途
に応じて、含有量を調整することが好ましい。
な構成元素であり、耐熱特性、耐酸化性を得るために有
効な元素である。本発明では、他の構成元素成分から、
Ni当量、Cr当量を算出し、オーステナイト相(γ)の相安
定性を考慮した上で必要な耐熱性を得るために16質量%
以上、靭性劣化を考慮して20質量%とした。
効である。本発明において、Nの含有量を0.2質量%以上
とする場合、多量のNi含有は、ブローホール発生の原因
となり得る。この場合、Nと親和力の高いMnを添加する
ことが有効であり、オーステナイト系ステンレスを得る
ためにMnの添加量を考慮してNiを添加する必要がある。
そこで、オーステナイト相(γ)の安定化のために8.0質
量%以上、ブローホール抑制とコスト上昇の抑制のため
に14.0質量%以下とする。上記のようにNiは、8.0質量
%以上14.0質量%以下が好ましいが、10.0質量%未満の
範囲では、特に、溶解鋳造工程において、Nを容易に固
溶させることが可能になるため、コストをより低減でき
るというメリットがある。
溶し、耐食性の向上に大きく寄与する。また、鋼中でN
と共存することで疲れ強さ向上に寄与する。そこで、耐
食性の向上に最低限必要な0.1質量%以上、加工性の劣
化を考慮して3.0質量%以下とした。
固溶し、機械的特性をより向上させることで疲れ強さの
向上に大きく寄与する。また、上記のようにN、Cとの親
和力が高く、オーステナイト相(γ)中に微細析出するこ
とで、高温での耐へたり性の向上に寄与する。更に、結
晶粒径の粗大化の抑制、Cr炭化物の粒界析出抑制の効果
もある。ただし、過剰に添加するとFe2Nb(ラーバス)相
を析出する。このとき、強度劣化が見込まれるため、N
b:0.1質量%以上2.0質量%以下とした。
ト生成元素であり、オーステナイト相(γ)中に固溶する
ことで機械的特性をより向上させることができる。ただ
し、オーステナイト相(γ)の安定性を低下させるため、
Ti:0.1質量%以上2.0質量%以下とした。
効果がある。また、溶解精錬時の脱酸剤としても有効で
あり、通常のオーステナイト系ステンレスには、0.6〜
0.7質量%程度含有される。更に固溶強化による機械的
特性を得るためには、0.9質量%以上必要である。そこ
で、本発明では、Siの含有量を0.9質量%以上とする。
ただし、靭性劣化を考慮して、2.0質量%以下とした。
溶強化の効果は、前述のMo、Nb、Ti、Siといったフェラ
イト生成元素ほど得られないが、金属間化合物を構成
し、析出強化が起こる。また、塩素イオンによる腐食に
対して抑制効果がある。ただし、多量の添加は、硫酸、
硝酸に対する耐酸性や大気腐食性を低下させるため、C
o:0.2質量%以上2.0質量%以下とした。
及び不純物とからなる。ここで、不純物とは、有意的に
含有させる元素以外の元素、及び不可避的不純物を含む
ものとする。従って、残部は、実質的にFe及び不可避的
不純物からなるものとする。
るばねは、水素燃料電池システムを用いた自動車、小型
発電機等の耐水素脆性が要求される部位への使用が適す
る。特に、本発明ばね用ステンレス鋼線やばねにおける
耐水素脆性を向上させるメカニズムは、ばねの使用環境
が温度-30℃以上400℃以下、水素分圧0.5atm以上400atm
以下の水素雰囲気において有効である。ばねの使用環境
が上記温度範囲外、即ち-30℃未満又は400℃超の場合、
或いは上記水素分圧の範囲外、即ち0.5atm未満又は400a
tm超の場合、水素が金属中の他のサイトに侵入する可能
性があるからである。実際、水素製造・供給ステーショ
ンでは250atmの水素が作られており、今後更に高い圧力
も考えられるため、後述するように本発明は、水素分圧
400atm程度といった水素高圧環境を検討し、優れた耐水
素脆性を有することを確認している。
する。表1に示す化学成分(不可避的不純物を含む)の鋼
材を溶解鋳造、鍛造、熱間圧延により線材を作製した
後、溶体化と線引き加工とを繰り返し、最終的に線引き
加工の断面減少率が約60%、線径3.0mmの試験片を作製
した。以下、表1に各試料の化学成分(質量%)、引張強
さ(N/mm2)、加工誘起マルテンサイト量(体積%)を示
す。
材2はSUS316-WPAである。比較材3は、線引き加工を液体
窒素中で冷却しながら行うことで、加工誘起マルテンサ
イト量を変化させた。そのほかの試料は、通常の室温で
線引き加工(断面減少率約60%)を行った。この加工誘起
マルテンサイト量は、X線回折によるピーク強度から計
測した。また、本実施例では、ダイスの構成や線速など
や、熱処理の際における鋼線の取り扱いなどの従来行わ
れている工程管理により線引き方向の表面粗さがRzで20
μm以下になるように設定しており、各試料の線引き方
向の表面粗さは、Rzで約15μmであった。
強さを評価した。試験は、ばねでの疲労特性を評価し
た。まず、上記溶体化と線引き加工とを繰り返して得ら
れた線径3.0mmの各試料を圧縮ばねに加工し、その後、
ひずみ取り低温焼きなましを行った。なお、ショットピ
ーニングや窒化などの表面処理は行っていない。得られ
たばねを用いて水素吸蔵試験を行い、水素吸蔵前後で疲
れ強さを調べてみた。以下、試験に用いたコイルばね、
水素吸蔵試験の条件、疲労試験の条件を示す。また、表
2に低温焼きなまし条件、水素吸蔵により得られた水素
吸蔵量、水素吸蔵前後の疲れ強さ、及び水素吸蔵前後の
振幅応力差を示す。
試験機を用い、平均応力を600MPaとして、1.0×107回ま
で未折損であるときの振幅応力を疲れ強さとして測定し
た。また、本試験では、精度を高めるために、1条件に
つきn数=8とし、試験機の回転速度を1800rpmで行っ
た。
8及び10は、水素吸蔵量が若干小さくなっている。これ
は、加工誘起マルテンサイト相中の水素溶解度が小さい
ためと考えられる。そして、鋼線中の水素拡散速度が大
きくなっていると予想されることで金属組織の欠陥など
に水素が移動して集中し、水素脆化が起こり易いと考え
られる。
テンレス鋼である試料No8及び9と比較して、水素吸蔵の
前後で疲れ強さに優れることが分かる。また、試料No6
とほぼ同じ化学成分である試料No10も、疲れ強さが高め
であることが確認できる。更に、強化元素を添加してい
ない試料No1、Mo、Nb、Ti、Siなどの強化元素を添加し
た試料No2〜5、更にCoを添加した試料No6及び7の順に疲
れ強さが高くなる傾向にあることが分かる。
をみると、試料No1〜7は、いずれも疲れ強さの低減がわ
ずかしか起こっていない。また、強化元素を添加してい
ない試料No1、強化元素を添加した試料No2〜5、更にCo
を添加した試料No6及び7の順に、疲れ強さの低下量が少
なくなる傾向にあることが確認できる。
疲れ強さの減少が著しい。この傾向は、加工誘起マルテ
ンサイト量に依存していることが試料8及び10から確認
できる。
0.35質量%で、かつ加工誘起マルテンサイト量が10体積
%以下を満たす本発明ばね用ステンレス鋼線は、水素雰
囲気下でも高い疲れ強さを有し、優れた耐水素脆性を有
するばねの製造が可能であることが分かる。
成分(不可避的不純物を含む)で、試験例1と同様に作製
した鋼線の線引き方向の表面粗さを変化させ、試験例1
と同様にばね加工後、低温焼きなましを施した試料につ
いて、疲れ強さを評価した。試料No11は、電解研磨によ
り表面粗さをRz3μm程度とした。試料No12は、研磨紙で
表面粗さをRz25μm程度にした。試験は、試験例1と同様
に行った。表3に本試験で用いた各試料の化学成分(質量
%)、引張強さ(N/mm2)、加工誘起マルテンサイト量(体
積%)、表4に各試料の線引き方向の表面粗さ、表5に低
温焼きなまし条件、水素吸蔵により得られた水素吸蔵
量、水素吸蔵前後の疲れ強さ、及び水素吸蔵前後の振幅
応力差を示す。
ど、疲れ強さは水素吸蔵の前後で高いことが確認でき
る。試料No1及び11は、水素吸蔵後の疲れ強さの低下が
ほぼ同等の30MPaであった。表面を荒らした試料No12
は、水素吸蔵後の疲れ強さの低下が10MPaと小さかっ
た。これは、試料No1や11と比較して疲れ強さが低下し
ていることで、水素脆化の影響が小さくなってしまった
ためと考えられる。より詳しく調べてみると、表面粗さ
が20μm以下の場合に、疲れ強さにより優れることが分
かった。
成分(不可避的不純物を含む)で、試験例1と同様に作製
した鋼線を試験例1と同様にばね加工し、その後、低温
焼きなまし条件を変化させて、疲れ強さを評価した。試
料No13は、低温焼きなまし条件を500℃×30分、試料No1
4は同条件を600℃×30分、試料No15は同条件を300℃×3
0分とした。試験は、試験例1と同様に行った。表6に本
試験で用いた各試料の化学成分(質量%)、引張強さ(N/m
m2)、加工誘起マルテンサイト量(体積%)、表7に低温焼
きなまし条件、水素吸蔵により得られた水素吸蔵量、水
素吸蔵前後の疲れ強さ、及び水素吸蔵前後の振幅応力差
を示す。
ど、鋼線中の転位や格子欠陥などが消滅することで水素
のトラップサイトが減少し、水素吸蔵量が低下する傾向
にあることが分かる。このように金属組織の欠陥などに
移動して集中するべき水素量が少ないことで、水素脆化
が起こりにくいと考えられる。
が500℃である試料No13が最も疲れ強さが高い。これ
は、500℃においてステンレス鋼のひずみ時効が最も進
むことに起因すると考えられる。低温焼きなましの温度
を更に高くした試料No14は、試料No13と比較して疲れ強
さが低下している。これは、鋼線中の転位がなくなるこ
とで機械的特性が低下し、疲れ強さも低下するためと考
えられる。また、水素吸蔵前後における疲れ強さの変化
をみると、低温焼きなまし温度が500℃である試料No13
が最も優れていることが分かる。
0〜600℃とすると、疲労特性の向上や耐水素脆性の改善
を得ることが分かる。特に、低温焼きなまし温度を変化
させるとき、鋼線の引張強さや耐水素脆性は500℃付近
をピークとしていることが確認できた。従って、実際に
低温焼きなましの条件を決定する際は、試験温度、ひず
み速度、水素雰囲気などといった使用環境に応じて、適
切な温度を選択するとよい。
学成分(不可避的不純物を含む)で、鋼線の線引き加工方
向と垂直な横断面が長径4mm、短径2mmの楕円型の鋼線を
試験例1と同様に作製した試料について、試験例1と同様
の疲労試験を行った。この結果、試料No1〜7とほぼ同様
の結果であり、異形断面を有する鋼線でも、水素雰囲気
下で高い疲れ強さ及び優れた耐水素脆性を有しているこ
とが確認できた。
化学成分(不可避的不純物を含む)で、試験例1と同様に
作製した鋼線にばね加工、低温焼きなましを施した試料
について、水素吸蔵試験条件を変更して、試験例1と同
様の疲労試験を行った。水素吸蔵試験条件は、試験温度
100℃、水素分圧100atmの雰囲気で100時間保持した。こ
の結果、全ての試料において、疲れ強さの低下量が試験
例1と比較して±10MPaの範囲で変化していた。しかし、
疲れ強さ傾向、疲れ強さの低下量の傾向は試験例1とほ
ぼ同様であり、強化元素を添加していない試料、強化元
素を添加した試料、更にCoを添加した試料の順に疲れ強
さが高くなり、疲れ強さの低下量は減少した。更に、水
素吸蔵試験条件において、試験温度-30℃、水素分圧3
50atm、保持時間100時間、試験温度400℃、水素分圧1
00atm、保持時間100時間として試験例1と同様の疲労試
験を行った。その結果、全ての試料において、疲れ強さ
の低下量が試験例1と比較して、それぞれ±20MPa(試
験温度-30℃)、ほぼ同等である±0MPa(試験温度400
℃)の範囲で変化していたが、疲れ強さ傾向、疲れ強さ
の低下量の傾向は試験例1とほぼ同様であった。
ンレス鋼線によれば、Fe基であるオーステナイト系ステ
ンレスの基地強化とC、Nなどの侵入型固溶元素とによっ
て、安価で、かつ水素雰囲気において耐疲労特性、耐水
素脆性に優れるという効果を奏し得る。特に、Mo、Ti、
Nb、Siといったフェライト生成元素の添加による固溶強
化、更にCo添加によって上記耐疲労特性、耐水素脆性に
より優れる。
は、水素雰囲気において耐疲労特性、耐水素脆性に優れ
ることから、燃料電池システムを搭載した燃料電池自動
車や家庭用小型発電機などに用いられるばね材に最適で
ある。また、被覆処理を施した特別な合金線を用いない
ことでコストの上昇を小さくすることが可能であり、工
業的価値が高いものである。
Claims (7)
- 【請求項1】 質量%でC:0.01〜0.25、N:0.01〜0.2
5、Mn:0.5〜4.0、Cr:16〜20、Ni:8.0〜14.0を含有
し、残部がFe及び不純物からなり、C及びNが0.15質量%
≦C+N≦0.35質量%であり、線引き加工により誘起され
るマルテンサイト相が10体積%以下、残部がオーステナ
イト相であり、線引き加工後の引張強さが1300N/mm2以
上2000N/mm2未満であることを特徴とするばね用ステン
レス鋼線。 - 【請求項2】 更に、質量%でMo:0.1〜3.0、Nb:0.1
〜2.0、Ti:0.1〜2.0、Si:0.9〜2.0のうち、少なくと
も1種を含有することを特徴とする請求項1に記載のばね
用ステンレス鋼線。 - 【請求項3】 更に、質量%でCo:0.2〜2.0を含有する
ことを特徴とする請求項2に記載のばね用ステンレス鋼
線。 - 【請求項4】 表面粗さがRzで20μm以下であることを
特徴とする請求項1〜3のいずれかにばね用ステンレス鋼
線。 - 【請求項5】 線引き加工方向と垂直な横断面が楕円、
矩形、正方形、長方形のいずれかであることを特徴とす
る請求項1〜4のいずれかに記載のばね用ステンレス鋼
線。 - 【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載のばね用ス
テンレス鋼線を用いて製造されたことを特徴とするば
ね。 - 【請求項7】 請求項1〜5のいずれかに記載のばね用ス
テンレス鋼線をばね加工した後、400℃以上600℃以下で
低温焼きなましを行うことを特徴とするばねの製造方
法。
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