JP2003002793A - リン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法 - Google Patents
リン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法Info
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Abstract
(57)【要約】
【課題】 単結晶の大型化や高速成長化を図ることが可
能になるリン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法を提
供する。 【解決手段】 リン酸チタン酸カリウム(KTiOPO
4 )の単結晶3をK2O−P2 O5 系のフラックス中で
成長させるに当たり、原料を加熱して融液4を形成する
工程と、この融液4に種結晶1を接触させて種結晶1を
回転しつつ種結晶1上にリン酸チタン酸カリウム単結晶
3を育成させる工程とを有し、さらに融液4中に含まれ
るK2 O,P2 O5 ,TiO2 のモル分率をK2 O−T
iO2 −P2 O5 三元状態図上において、ABCDの4
点で囲まれる領域内とし、リン酸チタン酸カリウム単結
晶3を育成させる工程に先立ち結晶析出飽和温度Tsよ
りも100℃以上高い温度において融液4を撹拌する工
程を有し、リン酸チタン酸カリウム単結晶3を育成させ
る工程中における種結晶1の回転の平均回転数を100
rpm以上とする。
能になるリン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法を提
供する。 【解決手段】 リン酸チタン酸カリウム(KTiOPO
4 )の単結晶3をK2O−P2 O5 系のフラックス中で
成長させるに当たり、原料を加熱して融液4を形成する
工程と、この融液4に種結晶1を接触させて種結晶1を
回転しつつ種結晶1上にリン酸チタン酸カリウム単結晶
3を育成させる工程とを有し、さらに融液4中に含まれ
るK2 O,P2 O5 ,TiO2 のモル分率をK2 O−T
iO2 −P2 O5 三元状態図上において、ABCDの4
点で囲まれる領域内とし、リン酸チタン酸カリウム単結
晶3を育成させる工程に先立ち結晶析出飽和温度Tsよ
りも100℃以上高い温度において融液4を撹拌する工
程を有し、リン酸チタン酸カリウム単結晶3を育成させ
る工程中における種結晶1の回転の平均回転数を100
rpm以上とする。
Description
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、リン酸チタン酸カ
リウム(KTiOPO4 )単結晶の製造方法に関する。
さらに詳細にはフラックス法によるリン酸チタン酸カリ
ウム単結晶の製造方法の改良に関するものである。 【0002】 【従来の技術】電子機器の高性能化、小型化の進展にと
もない、電子機器を構成する電子部品に機能性を有する
各種の単結晶材料を採用することが増えてきている。例
えば電気光学的機能を有するリン酸チタン酸カリウム等
や、強誘電性を有するチタン酸バリウム、あるいはシリ
コンやガリウム砒素等の単結晶材料がこれに相当する。 【0003】例えばコヒーレンシーの良好なレーザ光を
透過させることにより、基本波長の1/2の波長の短波
長レーザ光を得る非線型光学素子としては、MTiOX
O4(MはK,Rb,Cs等のIa族金属を、XはP,
As等のVa族元素をそれぞれ表す)単結晶、その中で
もリン酸チタン酸カリウム(KTiOPO4 ,以下KT
Pと略記する)単結晶が用いられている。 【0004】KTP等の機能性単結晶は、良質の電子部
品を効率良く製造するために、大口径の単結晶基板を効
率良く切り出すことが可能な、結晶欠陥の少ない大型の
単結晶インゴットとして得られることが望ましい。 【0005】KTP等の化合物の化学当量融液は、加熱
融解にともなって分解し、化学当量組成からずれるの
で、化学当量融液から目的とする組成の単結晶を得るこ
とは困難である。そこで、これら化合物の化学当量組成
の単結晶を製造する一般的な方法として、単結晶の原料
組成物を融剤に過飽和状態に融解した融液、即ち過冷却
状態の融液から成長させる融剤(フラックス)法があ
る。とりわけ、融液に種結晶を接触させ、この種結晶上
に選択的にエピタキシャル成長させるTSSG(Top Se
ededSolution Growth)法が通常採用される。 【0006】TSSG法により、実際にKTP単結晶を
成長させるには、ルツボ中で融剤を含むKTP原料組成
物を融解して融液とし、種結晶をこの融液表面に接触さ
せ、かつ種結晶を垂直軸に沿って回転させながら融液を
徐冷し、過飽和状態として種結晶上にのみ単結晶を成長
させればよい。このTSSG法によれば、単結晶の大口
径化が期待でき、また種結晶の結晶方位を選ぶことによ
り、成長する単結晶の成長方位を制御することが可能で
あるという特徴を有する。種結晶としては、所望とする
単結晶と同一組成の単結晶を、機械加工により例えば角
柱状に切り出して使用する。また融剤としては、KTP
の構成成分であるリン酸カリウム系(K 2 O−P2 O5
系)が主として用いられる。原料組成物を融液とし、育
成を行うルツボの材料としては、高温での耐蝕性を考慮
して白金が採用される。 【0007】ここで、従来のTSSG法による単結晶成
長装置の一例の概略構成を、図1を参照して説明する。
図1において、炉材6上に配置された白金等のルツボ5
内に、単結晶成分が融剤中に融解された融液4が、アル
ミナ管材7が内壁に形成された加熱炉8により所定の温
度に保持制御されている。この融液4に、サファイアや
白金等からなる回転ロッド2及びその先端の種結晶保持
具に保持された種結晶1を接触させることにより、この
種結晶1上に単結晶3が成長を開始する。尚、アルミナ
管材7を内壁とする加熱炉8は保温等のために蓋10に
より覆われている。また、回転ロッド2、種結晶1並び
に単結晶3を回転させたり引き上げたりするための機構
9が回転ロッド2に接続される。 【0008】融液4の調製は、セルフフラックス法と呼
ばれる方法が一般的である。すなわち、目的とするKT
P(KTiOPO4 )単結晶の構成成分である、リン酸
カリウム系(K2 O−P2 O5 系)フラックスが採用さ
れる。セルフフラックス法による融液4は、フラックス
組成に対して所望の溶質比率でKTiOPO4 の化学量
論組成が含まれるようにKH2 PO4 ,K2 HPO4 及
びTiO2 の各原料粉末を秤量・混合して原料組成物と
し、これを白金製のルツボ中で加熱・融解することによ
り調製される。 【0009】尚、以下本明細書においては、単結晶の原
料組成物のみを融解して融液とする場合と、単結晶の原
料組成物を融剤(フラックス)に溶解して溶液とする場
合との双方を含めて、融解および融液の語で代表するも
のとする。また同じく、本明細書においては、単結晶成
分のみの原料組成物、及びこれに融剤を含めたもの双方
を含めて、原料組成物の語で代表するものとする。 【0010】 【発明が解決しようとする課題】ところで、上述したフ
ラックス法の問題点として、育成中に融剤として使用し
ているフラックスが結晶に取り込まれる、フラックス包
有(フラックスインクルージョン)と呼ばれる欠陥など
が発生しやすいことが挙げられる。 【0011】従来のKTP結晶の育成においては、育成
容器内の温度分布を小さくし、かつ融液の冷却速度を小
さくすることにより、その結果として結晶の成長レート
を小さく抑えて、フラックス包有等の欠陥を抑制してき
た。従って、従来は、KTP結晶の成長が遅く、大きな
結晶を得ることが困難であり、その結果として、単結晶
が高価になっていた。 【0012】一方、KTP単結晶の工業的に生産するた
めには、単結晶を低廉化することが求められることか
ら、所望の品質の結晶を、より大型化、又はより高速成
長化する必要がある。 【0013】特にKTP単結晶を複屈折プリズムのよう
な光学素子に用いる場合には、前述した非線形光学素子
に用いる場合と比較して、大型で安価な単結晶が求めら
れる。KTP単結晶を用いた複屈折プリズムは、例えば
光磁気ディスクに記録された信号を読み取る光学ピック
アップに使用することができ、KTP単結晶の複屈折を
利用して光磁気ディスクに記録された信号に対応して偏
向方向が異なる戻り光を検出することができる。 【0014】そして、結晶の大型化や高速成長化を図る
ためには、単結晶の育成時の融液の冷却速度を大きくす
る必要があり、その結果フラックス包有などの欠陥の発
生が顕著に現れるようになる。このため、如何にしてフ
ラックス包有などの欠陥を抑えるかが、KTP結晶の大
型化や高速成長化を実現するための重要な育成技術的課
題であった。 【0015】上述の問題の解決のために、本発明は、単
結晶の大型化や高速成長化を図ることが可能になるリン
酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法を提供するもので
ある。 【0016】 【課題を解決するための手段】本発明のリン酸チタン酸
カリウム単結晶の製造方法は、リン酸チタン酸カリウム
(KTiOPO4 )の単結晶をK2 O−P2 O5 系のフ
ラックス中で成長させるに当たり、原料を加熱して融液
を形成する工程と、この融液にリン酸チタン酸カリウム
の種結晶を接触せしめ結晶析出飽和温度以下の温度で徐
冷するとともに種結晶を回転しつつ種結晶上にリン酸チ
タン酸カリウム単結晶を育成させる工程とを有して、さ
らに融液中に含まれるK2 O,P2 O5 ,TiO2 のモ
ル分率をK2 O−TiO2 −P2 O5 三元状態図上にお
いて、A(K2 O:40mol%,TiO2 :28mo
l%,P2 O5 :32mol%)、B(K2 O:43m
ol%,TiO2 :28mol%,P2 O5 :29mo
l%)、C(K2 O:37mol%,TiO2 :34m
ol%,P2 O5 :29mol%)、D(K2 O:36
mol%,TiO2 :34mol%,P2 O5 :30m
ol%)の4点で囲まれる領域内とし、種結晶上にリン
酸チタン酸カリウム単結晶を育成させる工程に先立ち結
晶析出飽和温度よりも100℃以上高い温度において融
液を撹拌する工程を有し、リン酸チタン酸カリウム単結
晶を育成させる工程中における種結晶の回転の平均回転
数を100rpm以上とするものである。 【0017】上述の本発明のリン酸チタン酸カリウム単
結晶の製造方法によれば、融液の組成をK2 O−TiO
2 −P2 O5 三元状態図上において上記ABCDの4点
で囲まれる領域内とすることにより、リン酸チタン酸カ
リウム単結晶を育成させる工程中における結晶の成長速
度の変動を小さくして結晶成長を安定化することがで
き、かつ成長速度を充分に大きくすることが可能にな
る。また、単結晶の育成工程に先立ち結晶析出飽和温度
よりも100℃以上高い温度において融液を攪拌する工
程を有することにより、攪拌により融液組成を充分に均
質化することができるため、単結晶の育成工程における
成長速度の変動を小さくすることができる。さらに、リ
ン酸チタン酸カリウム単結晶を育成させる工程中におけ
る種結晶の回転の平均回転数を100rpm以上とする
ことにより、種結晶と同時に回転する単結晶の回転によ
り融液内に対流を発生させて、融液組成を充分に均質化
することができるため、単結晶の育成工程における成長
速度の変動を小さくすることができる。従って、単結晶
中におけるフラックス包有や脈理等の欠陥の発生を抑制
することが可能になると共に、結晶の成長速度を大きく
することが可能になる。 【0018】 【発明の実施の形態】本発明は、リン酸チタン酸カリウ
ム(KTiOPO4 )の単結晶をK2 O−P 2 O5 系の
フラックス中で成長させるリン酸チタン酸カリウム単結
晶の製造方法において、原料を加熱して融液を形成する
工程と、この融液にリン酸チタン酸カリウムの種結晶を
接触せしめ結晶析出飽和温度以下の温度で徐冷するとと
もに種結晶を回転しつつ種結晶上にリン酸チタン酸カリ
ウム単結晶を育成させる工程とを有し、融液中に含まれ
るK2 O,P2 O5 ,TiO2 のモル分率をK2 O−T
iO2 −P2 O5 三元状態図上において、A(K2 O:
40mol%,TiO2:28mol%,P2 O5 :3
2mol%)、B(K2 O:43mol%,TiO2 :
28mol%,P2 O5 :29mol%)、C(K
2 O:37mol%,TiO2 :34mol%,P2 O
5 :29mol%)、D(K2 O:36mol%,Ti
O2 :34mol%,P2 O5 :30mol%)の4点
で囲まれる領域内とし、種結晶上にリン酸チタン酸カリ
ウム単結晶を育成させる工程に先立ち、結晶析出飽和温
度よりも100℃以上高い温度において融液を撹拌する
工程を有し、リン酸チタン酸カリウム単結晶を育成させ
る工程中における種結晶の回転の平均回転数を100r
pm以上とするリン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方
法である。 【0019】以下、本発明を適用した具体的な実施の形
態について、図面を参照しながら詳細に説明する。な
お、本発明がこの実施の形態及び各実施例に限定される
ものではないことは言うまでもない。 【0020】本発明のリン酸チタン酸カリウム単結晶の
製造方法においても、先に説明した図1に示す一般的な
単結晶製造装置を使用して前述のTSSG(Top Seeded
Solution Growth)法により単結晶を育成することがで
きる。 【0021】以下、図1に示す単結晶製造装置を使用し
た本発明のリン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法の
実施の形態を説明する。この単結晶製造装置の上部に
は、種結晶1を回転させるとともに、育成されたリン酸
チタン酸カリウム(KTP)単結晶を融液4中から引上
げるための回転・引上げ機構9が配置される。 【0022】まず、所定の温度に保持された抵抗加熱炉
等の加熱炉8の中央に、炉材6を介して白金製のルツボ
5を配置し、このルツボ5中に、出発原料であるKTP
成分がK2 O−P2 O5 系融剤に融解されてなる融液4
を収納する。具体的には、原料粉末(例えばKH2 PO
4 、K2 HPO4 、TiO2 )を所定の組成に秤量混合
し、各原料粉末をルツボ5に充填して、これを加熱炉8
で加熱してルツボ5内の原料粉末を融解させて融液4と
する。 【0023】回転ロッド2の先端に種結晶1を取り付け
て、回転ロッド2を回転させる。このとき、融液4の過
冷却状態を制御することで種結晶1の表面に単結晶3の
結晶成長が行われる。結晶成長後、炉を冷却させて、充
分冷えてから単結晶3を回転ロッド2の先端から取り外
す。そして、取り出した単結晶3を、用途に応じた所定
の形状に加工する。 【0024】育成に使用される融液4の出発組成は、セ
ルフフラックスと呼ばれるKTP(KTiOPO4 )の
構成成分であるリン酸カリウム系(K2 O−P2 O
5 系)のフラックス例えばK6(K6 P4 O13)フラッ
クスを使用し、このフラックスに対して所望の溶質比率
でKTP(KTiOPO4 )の化学量論組成が含まれる
ようにする。そのために、例えば所定割合のKH2 PO
4 、K2 HPO4 、TiO2 の各粉末を秤量・配合し、
加熱炉8の加熱により白金製のルツボ5中で溶解させる
ことで作製される。 【0025】本発明においては、さらにこの融液4の出
発組成を、図2に示すK2 O−TiO2 −P2 O5 三元
状態図上において、融液4中に含まれるK2 O,P2 O
5 ,TiO2 のモル分率がA(K2 O:40mol%,
TiO2 :28mol%,P 2 O5 :32mol%)、
B(K2 O:43mol%,TiO2 :28mol%,
P2 O5 :29mol%)、C(K2 O:37mol
%,TiO2 :34mol%,P2 O5 :29mol
%)、D(K2 O:36mol%,TiO2 :34mo
l%,P2 O5 :30mol%)の4点で囲まれる領域
内となるように設定する。 【0026】また、原料粉末を溶解して融液4とした後
に、結晶析出飽和温度Tsよりも100℃以上高い温度
において融液4を攪拌する工程を行ってから、KTP単
結晶3の育成工程を行うようにする。 【0027】この融液4の攪拌工程の温度は、あまり高
くし過ぎると、融液4中の成分の揮発による組成のずれ
や製造装置の劣化が懸念される。このため、より好まし
くは結晶析出飽和温度+200℃以下の温度とする。 【0028】さらに、KTP単結晶3の育成時の種結晶
1の回転の平均回転数を100rpm以上とする。尚、
KTP単結晶3も種結晶1と同じ回転数で共に回転す
る。ここで、「平均回転数」は、育成工程の開始時から
終了時までの結晶の回転数の平均値とする。即ち例えば
単結晶3の周速度があまり大きくならないように、結晶
成長に従い回転数を減らしていった場合には、例えば育
成工程の時間と開始時の回転数及び終了時の回転数とか
ら平均値を算出する。ただし、回転方向を途中で反転さ
せるような場合には、反転時の少ない回転数の部分を含
めずに各回転方向の最大回転数から平均値を求める。 【0029】平均回転数を高くすることにより、融液4
と単結晶3との接触がより均質化されるため、良質なK
TP単結晶3がより速く成長することになる。 【0030】尚、平均回転数の上限は、種結晶1や回転
・引上げ機構9が破壊されない程度の回転数にする。 【0031】(実施例)以下、本発明をさらに詳しく具
体的な実施例により説明する。 【0032】実施例1 まず、出発原料として、下記の重量の各試薬粉末を秤量
混合した。 KH2 PO4 1486.4g K2 HPO4 634.2g TiO2 509g この出発原料を融解して得られる融液の組成は、表1に
示すようにK2 O:TiO2 :P2 O5 =40.0:2
8.0:32.0(mol%)となる。また、この組成
は、図2のK2 O−TiO2 −P2 O5 三元状態図上の
位置が点J1となる。 【0033】次に、内径120mm、深さ120mmの
円筒型の白金製のルツボ5を使用し、ルツボ5内に上述
の各試薬粉末を混合した原料粉末を充填した。続いて、
高温加熱により、原料粉末を完全に溶解させてKTP成
分及びフラックス成分を含む融液4を形成した。このと
き、水分の蒸発により、融液4の重量は2400gとな
る。 【0034】融液4を収納したルツボを、図1に示した
ように加熱炉8中に設置する。次に、加熱炉8をこの融
液4の組成における結晶析出飽和温度Ts(KTP結晶
が融解も成長もしない時の融液表面の温度:この実施例
1では1085℃)に対して、100℃以上高い119
0℃まで昇温し、一定時間保持した後に、融液4の組成
の均質化を図るため、融液4中に有効断面積が12cm
2 である撹拌治具を降ろし、攪拌治具を一定方向に10
0rpmの回転数で15時間連続して回転させた。 【0035】次に、融液4中にKTP結晶を試験的に浸
漬し、融液4の組成における結晶析出飽和温度Tsを正
確に測定した。具体的には融液4を一定温度に保ちなが
ら、融液4中にKTP結晶の試験小片を浸漬し、結晶を
回転数200rpmで回転させながら30分間保持し
て、KTP結晶の試験小片の成長状況を観察した。そし
て、融液4の温度を変化させて同様の操作を繰り返し行
い、KTP結晶が融解も成長もしない時の融液4の表面
温度を結晶析出飽和温度Tsとした。 【0036】母材となる種結晶1として、c軸方向が略
鉛直方向となる断面方形伏(a軸×b軸:2mm×2m
m)の柱状であり、かつc軸方向の長さが10〜15m
mのであるように切り出したKTP単桔晶を使用した。
この種結晶1をその長軸が回転ロッド2の軸方向と一致
し、かつ回転に際して偏心や歳差運動等を起こさないよ
うに、種結晶保持具(図示せず)を介して、回転ロッド
2の先端に取付けた。そして、この種結晶1を融液4の
表面に接触させた。 【0037】そして、回転ロッド2を回転させながら、
融液4の表面に接触した種結晶1にKTP単結晶3を析
出、育成(結晶成長)させた。このとき、加熱炉8の徐
冷速度は0.1℃/hで育成時間は91時間とした。ま
た、種結晶1の回転の回転数は、育成開始時の200r
pmから育成終了時(91時間後)の100rpmま
で、回転数が直線的に徐々に低下する条件とした。即ち
種結晶1の回転の平均回転数は150rpmである。
尚、結晶成長の偏りを防止するため、1分間隔で回転方
向の反転を行った。また、種結晶1の引上げは行ってい
ないため、結晶成長は徐々に融液4中へと拡大する。 【0038】育成終了後、得られたKTP単結晶3を回
転・引上げ機構9により融液4から引上げ、単結晶3の
下端が融液4の表面から約5mmの高さ位置に配される
ように保持して、50℃/hの冷却速度で室温まで冷却
した後、加熱炉8より取り出した。 【0039】これにより、重量97gのKTP単結晶3
を得た。単位時間当りの結晶成長重量を表す平均成長レ
ートは、1.07g/hourであった。 【0040】尚、従来のKTP結晶の大型化、高速成長
の報告としては、育成期間28日で結晶重量300gの
報告がある(J.Crystal Growth180(1997)p85〜93 P.Rej
mankova 等参照)。この場合の平均成長レートを示す
と、およそ0.45g/hourである。しかもこの報
告では内径150mmの容器を使用しており、融液量が
本実施例の約1.5倍であると推定される。従って、融
液量を同一に揃えたとすると、本実施例の成長レートは
過去の報告の約3.5倍に相当することがわかる。 【0041】得られたKTP単結晶3に対して、結晶中
のフラックス包有の有無について目視で確認を行った。
フラックス包有があると単結晶3中に不透明な部分が観
察される。本実施例で得られたKTP単結晶3では、不
透明な部分は観察されず、フラックス包有の発生は見ら
れなかった。 【0042】また、得られたKTP単結晶3に対して、
結晶内部の脈理の有無についても目視で確認を行った。
脈理とは屈折率の変動によって虹色の縞が見られる現象
であり、正確には屈折率の変動Δnで表せるが、特に目
視で確認できるレベル即ち比較的大きな屈折率の変動を
示すのものを一般的に脈理と呼んでいる。本実施例で得
られたKTP単結晶3では、虹色の縞は観察されず、脈
理の発生は見られなかった。 【0043】実施例2〜実施例6 出発原料として、KH2 PO4 、K2 HPO4 、TiO
2 の各試料粉末を表1に示す重量で秤量混合して、融液
4の組成が、それぞれ表1に示すように、K2O:Ti
O2 :P2 O5 =43.0:28.0:29.0(mo
l%)、37.0:34.0:29.0(mol%)、
36.0:34.0:30.0(mol%)、38.
0:32.0:30.0(mol%)、40.0:3
1.0:29.0(mol%)となるようにして、その
他は実施例1と同様に各融液4の組成の結晶析出飽和温
度Tsに対して100℃以上高い温度で撹拌を行った
後、KTP単結晶3を育成して、それぞれ実施例2、実
施例3、実施例4、実施例5、実施例6のKTP単結晶
3の試料を得た。これら実施例2〜実施例6で使用した
融液4の組成は、図2のK2 O−TiO 2 −P2 O5 三
元状態図上の位置が点J2〜J6の各位置で示される。 【0044】これら実施例2〜実施例6で得られたKT
P単結晶3は、表1に示すように、結晶重量が61〜9
9g、平均成長レートが0.67〜1.08g/hou
rであり、いずれの実施例のKTP単結晶3についても
フラックス包有や脈理は見られなかった。 【0045】実施例7・実施例8 それぞれ実施例5、実施例6と同一の組成の融液4を使
用して、さらにKTP単結晶3の育成の際の種結晶1の
回転の平均回転数を100rpmとした他は、実施例1
と同様にしてKTP単結晶3を育成して、実施例7、実
施例8のKTP単結晶3の試料を得た。これら実施例
7、実施例8で使用した融液4の組成は、図2のK2 O
−TiO 2 −P2 O5 三元状態図上の位置が点J7(J
5に一致)、J8(J6に一致)の各位置で示される。 【0046】これら実施例7、実施例8で得られたKT
P単結晶3は、表1に示すように、結晶重量がそれぞれ
73g、62g、平均成長レートが0.80g/hou
r、0.68g/hourであり、いずれの実施例のK
TP単結晶3についてもフラックス包有や脈理は見られ
なかった。 【0047】実施例9 実施例5及び実施例7と同一の組成であり、かつ融液4
の重量が10000gとなるように、表1に示すように
各原料粉末を秤量混合して、融液4を作製した。また、
内径190mm、深さ190mmの円筒型の白金製のル
ツボ5を使用した。その他は実施例5と同様にしてKT
P単結晶3を育成して、実施例9のKTP単結晶3の試
料を得た。この実施例9で使用した融液4の組成は、図
2のK2 O−TiO2 −P2 O5三元状態図上の位置が
点J9(J5及びJ7に一致)の位置で示される。 【0048】この実施例9で得られたKTP単結晶3
は、表1に示すように、結晶重量が283g、平均成長
レートが3.11g/hourであり、フラックス包有
や脈理は見られなかった。 【0049】実施例10 実施例5及び実施例7と同一の組成であり、かつ融液4
の重量が20000gとなるように、表1に示すように
各原料粉末を秤量混合して、融液4を作製した。また、
内径240mm、深さ240mmの円筒型の白金製のル
ツボ5を使用した。さらに、KTP単結晶3の育成の際
の種結晶1の回転の平均回転数を130rpmとした他
は、実施例5と同様にしてKTP単結晶3を育成して、
実施例10のKTP単結晶3の試料を得た。この実施例
10で使用した融液4の組成は、図2のK2 O−TiO
2 −P2 O 5 三元状態図上の位置が点J10(J5及び
J7及びJ9に一致)の位置で示される。 【0050】この実施例10で得られたKTP単結晶3
は、表1に示すように、結晶重量が456g、平均成長
レートが5.01g/hourであり、フラックス包有
や脈理は見られなかった。 【0051】この実施例10の結果は、前述したP.Rejm
ankova等の報告と比較すると、結晶重量で約1.5倍、
平均成長レートで約11倍に達する。 【0052】比較例1〜比較例5 出発原料として、KH2 PO4 、K2 HPO4 、TiO
2 の各試料粉末を表1に示す重量で秤量混合して、融液
4の組成が、それぞれ表1に示すように、K2O:Ti
O2 :P2 O5 =43.3:28.0:28.7(mo
l%)、36.0:35.0:29.0(mol%)、
40.0:32.0:28.0(mol%)、42.
0:27.0:31.0(mol%)、38.0:3
0.0:32.0(mol%)となるようにして、その
他は実施例1と同様に、各融液4の組成の結晶析出飽和
温度Tsに対して100℃以上高い温度で撹拌を行った
後、KTP単結晶3を育成して、それぞれ比較例1、比
較例2、比較例3、比較例4、比較例5のKTP単結晶
3の試料を得た。これら比較例1〜比較例5で使用した
融液4の組成は、図2のK2 O−TiO 2 −P2 O5 三
元状態図上の位置が点H1〜H5の各位置で示される。 【0053】これら比較例1〜比較例5で得られたKT
P単結晶3は、表1に示すように、結晶重量が36〜8
2g、平均成長レートが0.4〜0.9g/hourで
あった。 【0054】比較例1及び比較例3で得られたKTP結
晶では、フラックスの包有は見られなかったが、結晶中
に屈折率変動を示す脈理が観察された。これら比較例1
(H1)及び比較例3(H3)のような図2中の線分B
Cより下側、すなわちP2 O5 成分が29mol%より
小さい融液組成では脈理が発生することがわかった。 【0055】また、比較例2で得られたKTP結晶では
脈理は見られなかったが、フラックスの包有が観察され
た。この比較例2(H2)のような図2中の線分CDよ
り右側、すなわちフラックスに対するKTP濃度の高い
(チタンの濃度が高い)組成領域では、結晶成長時の成
長速度の変動が大きく、包有を低減することが困難であ
った。 【0056】また、比較例5で得られたKTP結晶では
脈理は見られなかったが、フラックスの包有が観察され
た。この比較例5(H5)のような図2中の線分ADよ
り上側、すなわちK2 O成分とP2 O5 成分の比率K2
O/P2 O5 比が1.2より小さい融液組成では、安定
な結晶成長を維持するのが困難であり、その結果フラッ
クス包有が発生しやすいことがわかった。 【0057】また、比較例4で得られたKTP結晶では
フラックス包有も脈理も見られなかったが、結晶重量及
び平均成長レートが小さかった。この比較例4(H4)
のような図2中の線分ABより左側、すなわちKTP濃
度の低い組成領域では、結晶の育成時の成長速度が小さ
いため、高品質な結晶を作製する上では有効であるが、
KTP単結晶3の大型化や高速成長化を図る本発明製法
の目的を達成し得ないことがわかった。 【0058】比較例6〜比較例9 それぞれ実施例5又は実施例6と同一の組成の融液4を
使用して、さらにKTP単結晶3の育成工程の前の融液
4の攪拌工程の温度を変更した他は、実施例5又は実施
例6と同様にしてKTP単結晶3を育成して、比較例6
〜比較例9のKTP単結晶3の試料を得た。比較例6
は、実施例5と同一の組成の融液4を使用して、結晶析
出飽和温度Ts+70℃で融液の攪拌工程を行った。比
較例7は、実施例6と同一の組成の融液4を使用して、
結晶析出飽和温度Ts+70℃で融液の攪拌工程を行っ
た。比較例8は、実施例5と同一の組成の融液4を使用
して、結晶析出飽和温度Ts+50℃で融液の攪拌工程
を行った。比較例9は、実施例6と同一の組成の融液4
を使用して、結晶析出飽和温度Ts+50℃で融液の攪
拌工程を行った。これら比較例6〜比較例9で使用した
融液4の組成は、図2のK2 O−TiO 2 −P2 O5 三
元状態図上の位置が点H6,H7,H8,H9の各位置
で示される。 【0059】これら比較例6〜比較例9で得られたKT
P単結晶3は、表1に示すように、結晶重量が92〜1
20g、平均成長レートが1.01〜1.32g/ho
urであった。また、いずれの結晶についても、脈理は
見られなかったが、フラックス包有が発生した。 【0060】従って、融液4の組成が同一で融液4の攪
拌工程の温度が結晶析出飽和温度Tsより100℃以上
高い実施例5及び実施例6の場合と比較すると、これら
比較例6〜比較例9では融液4の撹拌工程の温度が低い
ために、撹拌時に十分な融液4の組成の均質化が行われ
ず、その結果として育成時の結晶成長速度の変動が大き
く、フラックス包有を低減することが困難であったと考
えられる。 【0061】比較例10、比較例11 それぞれ実施例5、実施例6と同一の組成の融液4を使
用して、さらにKTP単結晶3の育成工程における種結
晶1の回転の平均回転数を80rpmとした他は、実施
例5、実施例6と同様にしてKTP単結晶3を育成し
て、それぞれ比較例10、比較例11のKTP単結晶3
の試料を得た。これら比較例10、比較例11で使用し
た融液4の組成は、図2のK2 O−TiO2 −P2 O5
三元状態図上の位置が点H10,H11の各位置で示さ
れる。 【0062】これら比較例10及び比較例11で得られ
たKTP単結晶3は、表1に示すように、結晶重量が9
6g、105g、平均成長レートが1.05、1.15
g/hourであった。また、いずれの結晶について
も、脈理は見られなかったが、フラックス包有が発生し
た。 【0063】従って、融液4の組成が同一で結晶育成時
の種結晶1の回転の平均回転数が大きい実施例5及び実
施例6の場合と比較すると、これら比較例10及び比較
例11では結晶育成時の種結晶1の平均回転数が小さい
ことにより、結晶の回転により生じる融液4内の対流の
効果が小さく、充分な融液4の組成の均質化が行われ
ず、その結果として結晶成長時の成長速度の変動が大き
く、フラックス包有を低減することが困難であったと考
えられる。 【0064】 【表1】 【0065】表1及び図2から、融液4中に含まれるK
2 O、P2 O5 、TiO2 のモル分率(mol%)が、
K2 O−TiO2 −P2 O5 三元状態図上において、A
(40, 28, 32)、B(43, 28, 29)、C
(37, 34, 29)、D(36, 34, 30)の4点
で囲まれる領域内である組成の融液4を使用し、かつ種
結晶1上にKTP単結晶3を育成する工程に先立ち、結
晶析出飽和温度Tsより100℃以上高い温度で撹拌す
る工程を設け、さらにKTP単結晶3の育成工程におい
て種結晶1の回転の平均回転数が100rpm以上とし
て、KTP単結晶3の育成を行うことによって、特にK
TP結晶中に発生するフラックス包有や脈理等の欠陥の
発生を抑制することができることがわかる。 【0066】また、実施例9及び実施例10のように、
KTP単結晶3の育成工程における結晶成長速度を速く
しても、フラックス包有や脈理等の欠陥を発生すること
なく、結晶重量を多くすることができることがわかる。
従って、KTP単結晶3の大型化や高速成長化が可能に
なることがわかる。 【0067】これにより、KTP単結晶3から成る複屈
折プリズム等の光学素子を、低価格で実現することがで
きる。 【0068】尚、上述の各実施例では、出発原料として
KH2 PO4 、K2 HPO4 、TiO2 の各試薬を使用
したが、反応後に同じ組成となるような試薬であればこ
れらに限るものではない。例えば、K2 CO3 、KNO
3 、NH4 H2 PO4 等の試薬を使用すれば、同じ組成
の融液を形成して、同様に結晶育成を行うことが可能で
ある。 【0069】尚、本発明は上述の各実施例に何ら限定さ
れるものではない。例えば、他の結晶方位軸やルツボ径
や融液量を大きくしてKTP単結晶を育成する場合に
も、工程の一部分として用いることが可能である。 【0070】 【発明の効果】本発明製法によれば、結晶中に発生する
フラックス包有や脈理等の欠陥の発生を抑制することが
できるため、リン酸チタン酸カリウム単結晶の大型化や
高速成長化を図ることができる。従って、大型でかつ低
価格のリン酸チタン酸カリウム単結晶を製造することが
可能になる。
リウム(KTiOPO4 )単結晶の製造方法に関する。
さらに詳細にはフラックス法によるリン酸チタン酸カリ
ウム単結晶の製造方法の改良に関するものである。 【0002】 【従来の技術】電子機器の高性能化、小型化の進展にと
もない、電子機器を構成する電子部品に機能性を有する
各種の単結晶材料を採用することが増えてきている。例
えば電気光学的機能を有するリン酸チタン酸カリウム等
や、強誘電性を有するチタン酸バリウム、あるいはシリ
コンやガリウム砒素等の単結晶材料がこれに相当する。 【0003】例えばコヒーレンシーの良好なレーザ光を
透過させることにより、基本波長の1/2の波長の短波
長レーザ光を得る非線型光学素子としては、MTiOX
O4(MはK,Rb,Cs等のIa族金属を、XはP,
As等のVa族元素をそれぞれ表す)単結晶、その中で
もリン酸チタン酸カリウム(KTiOPO4 ,以下KT
Pと略記する)単結晶が用いられている。 【0004】KTP等の機能性単結晶は、良質の電子部
品を効率良く製造するために、大口径の単結晶基板を効
率良く切り出すことが可能な、結晶欠陥の少ない大型の
単結晶インゴットとして得られることが望ましい。 【0005】KTP等の化合物の化学当量融液は、加熱
融解にともなって分解し、化学当量組成からずれるの
で、化学当量融液から目的とする組成の単結晶を得るこ
とは困難である。そこで、これら化合物の化学当量組成
の単結晶を製造する一般的な方法として、単結晶の原料
組成物を融剤に過飽和状態に融解した融液、即ち過冷却
状態の融液から成長させる融剤(フラックス)法があ
る。とりわけ、融液に種結晶を接触させ、この種結晶上
に選択的にエピタキシャル成長させるTSSG(Top Se
ededSolution Growth)法が通常採用される。 【0006】TSSG法により、実際にKTP単結晶を
成長させるには、ルツボ中で融剤を含むKTP原料組成
物を融解して融液とし、種結晶をこの融液表面に接触さ
せ、かつ種結晶を垂直軸に沿って回転させながら融液を
徐冷し、過飽和状態として種結晶上にのみ単結晶を成長
させればよい。このTSSG法によれば、単結晶の大口
径化が期待でき、また種結晶の結晶方位を選ぶことによ
り、成長する単結晶の成長方位を制御することが可能で
あるという特徴を有する。種結晶としては、所望とする
単結晶と同一組成の単結晶を、機械加工により例えば角
柱状に切り出して使用する。また融剤としては、KTP
の構成成分であるリン酸カリウム系(K 2 O−P2 O5
系)が主として用いられる。原料組成物を融液とし、育
成を行うルツボの材料としては、高温での耐蝕性を考慮
して白金が採用される。 【0007】ここで、従来のTSSG法による単結晶成
長装置の一例の概略構成を、図1を参照して説明する。
図1において、炉材6上に配置された白金等のルツボ5
内に、単結晶成分が融剤中に融解された融液4が、アル
ミナ管材7が内壁に形成された加熱炉8により所定の温
度に保持制御されている。この融液4に、サファイアや
白金等からなる回転ロッド2及びその先端の種結晶保持
具に保持された種結晶1を接触させることにより、この
種結晶1上に単結晶3が成長を開始する。尚、アルミナ
管材7を内壁とする加熱炉8は保温等のために蓋10に
より覆われている。また、回転ロッド2、種結晶1並び
に単結晶3を回転させたり引き上げたりするための機構
9が回転ロッド2に接続される。 【0008】融液4の調製は、セルフフラックス法と呼
ばれる方法が一般的である。すなわち、目的とするKT
P(KTiOPO4 )単結晶の構成成分である、リン酸
カリウム系(K2 O−P2 O5 系)フラックスが採用さ
れる。セルフフラックス法による融液4は、フラックス
組成に対して所望の溶質比率でKTiOPO4 の化学量
論組成が含まれるようにKH2 PO4 ,K2 HPO4 及
びTiO2 の各原料粉末を秤量・混合して原料組成物と
し、これを白金製のルツボ中で加熱・融解することによ
り調製される。 【0009】尚、以下本明細書においては、単結晶の原
料組成物のみを融解して融液とする場合と、単結晶の原
料組成物を融剤(フラックス)に溶解して溶液とする場
合との双方を含めて、融解および融液の語で代表するも
のとする。また同じく、本明細書においては、単結晶成
分のみの原料組成物、及びこれに融剤を含めたもの双方
を含めて、原料組成物の語で代表するものとする。 【0010】 【発明が解決しようとする課題】ところで、上述したフ
ラックス法の問題点として、育成中に融剤として使用し
ているフラックスが結晶に取り込まれる、フラックス包
有(フラックスインクルージョン)と呼ばれる欠陥など
が発生しやすいことが挙げられる。 【0011】従来のKTP結晶の育成においては、育成
容器内の温度分布を小さくし、かつ融液の冷却速度を小
さくすることにより、その結果として結晶の成長レート
を小さく抑えて、フラックス包有等の欠陥を抑制してき
た。従って、従来は、KTP結晶の成長が遅く、大きな
結晶を得ることが困難であり、その結果として、単結晶
が高価になっていた。 【0012】一方、KTP単結晶の工業的に生産するた
めには、単結晶を低廉化することが求められることか
ら、所望の品質の結晶を、より大型化、又はより高速成
長化する必要がある。 【0013】特にKTP単結晶を複屈折プリズムのよう
な光学素子に用いる場合には、前述した非線形光学素子
に用いる場合と比較して、大型で安価な単結晶が求めら
れる。KTP単結晶を用いた複屈折プリズムは、例えば
光磁気ディスクに記録された信号を読み取る光学ピック
アップに使用することができ、KTP単結晶の複屈折を
利用して光磁気ディスクに記録された信号に対応して偏
向方向が異なる戻り光を検出することができる。 【0014】そして、結晶の大型化や高速成長化を図る
ためには、単結晶の育成時の融液の冷却速度を大きくす
る必要があり、その結果フラックス包有などの欠陥の発
生が顕著に現れるようになる。このため、如何にしてフ
ラックス包有などの欠陥を抑えるかが、KTP結晶の大
型化や高速成長化を実現するための重要な育成技術的課
題であった。 【0015】上述の問題の解決のために、本発明は、単
結晶の大型化や高速成長化を図ることが可能になるリン
酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法を提供するもので
ある。 【0016】 【課題を解決するための手段】本発明のリン酸チタン酸
カリウム単結晶の製造方法は、リン酸チタン酸カリウム
(KTiOPO4 )の単結晶をK2 O−P2 O5 系のフ
ラックス中で成長させるに当たり、原料を加熱して融液
を形成する工程と、この融液にリン酸チタン酸カリウム
の種結晶を接触せしめ結晶析出飽和温度以下の温度で徐
冷するとともに種結晶を回転しつつ種結晶上にリン酸チ
タン酸カリウム単結晶を育成させる工程とを有して、さ
らに融液中に含まれるK2 O,P2 O5 ,TiO2 のモ
ル分率をK2 O−TiO2 −P2 O5 三元状態図上にお
いて、A(K2 O:40mol%,TiO2 :28mo
l%,P2 O5 :32mol%)、B(K2 O:43m
ol%,TiO2 :28mol%,P2 O5 :29mo
l%)、C(K2 O:37mol%,TiO2 :34m
ol%,P2 O5 :29mol%)、D(K2 O:36
mol%,TiO2 :34mol%,P2 O5 :30m
ol%)の4点で囲まれる領域内とし、種結晶上にリン
酸チタン酸カリウム単結晶を育成させる工程に先立ち結
晶析出飽和温度よりも100℃以上高い温度において融
液を撹拌する工程を有し、リン酸チタン酸カリウム単結
晶を育成させる工程中における種結晶の回転の平均回転
数を100rpm以上とするものである。 【0017】上述の本発明のリン酸チタン酸カリウム単
結晶の製造方法によれば、融液の組成をK2 O−TiO
2 −P2 O5 三元状態図上において上記ABCDの4点
で囲まれる領域内とすることにより、リン酸チタン酸カ
リウム単結晶を育成させる工程中における結晶の成長速
度の変動を小さくして結晶成長を安定化することがで
き、かつ成長速度を充分に大きくすることが可能にな
る。また、単結晶の育成工程に先立ち結晶析出飽和温度
よりも100℃以上高い温度において融液を攪拌する工
程を有することにより、攪拌により融液組成を充分に均
質化することができるため、単結晶の育成工程における
成長速度の変動を小さくすることができる。さらに、リ
ン酸チタン酸カリウム単結晶を育成させる工程中におけ
る種結晶の回転の平均回転数を100rpm以上とする
ことにより、種結晶と同時に回転する単結晶の回転によ
り融液内に対流を発生させて、融液組成を充分に均質化
することができるため、単結晶の育成工程における成長
速度の変動を小さくすることができる。従って、単結晶
中におけるフラックス包有や脈理等の欠陥の発生を抑制
することが可能になると共に、結晶の成長速度を大きく
することが可能になる。 【0018】 【発明の実施の形態】本発明は、リン酸チタン酸カリウ
ム(KTiOPO4 )の単結晶をK2 O−P 2 O5 系の
フラックス中で成長させるリン酸チタン酸カリウム単結
晶の製造方法において、原料を加熱して融液を形成する
工程と、この融液にリン酸チタン酸カリウムの種結晶を
接触せしめ結晶析出飽和温度以下の温度で徐冷するとと
もに種結晶を回転しつつ種結晶上にリン酸チタン酸カリ
ウム単結晶を育成させる工程とを有し、融液中に含まれ
るK2 O,P2 O5 ,TiO2 のモル分率をK2 O−T
iO2 −P2 O5 三元状態図上において、A(K2 O:
40mol%,TiO2:28mol%,P2 O5 :3
2mol%)、B(K2 O:43mol%,TiO2 :
28mol%,P2 O5 :29mol%)、C(K
2 O:37mol%,TiO2 :34mol%,P2 O
5 :29mol%)、D(K2 O:36mol%,Ti
O2 :34mol%,P2 O5 :30mol%)の4点
で囲まれる領域内とし、種結晶上にリン酸チタン酸カリ
ウム単結晶を育成させる工程に先立ち、結晶析出飽和温
度よりも100℃以上高い温度において融液を撹拌する
工程を有し、リン酸チタン酸カリウム単結晶を育成させ
る工程中における種結晶の回転の平均回転数を100r
pm以上とするリン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方
法である。 【0019】以下、本発明を適用した具体的な実施の形
態について、図面を参照しながら詳細に説明する。な
お、本発明がこの実施の形態及び各実施例に限定される
ものではないことは言うまでもない。 【0020】本発明のリン酸チタン酸カリウム単結晶の
製造方法においても、先に説明した図1に示す一般的な
単結晶製造装置を使用して前述のTSSG(Top Seeded
Solution Growth)法により単結晶を育成することがで
きる。 【0021】以下、図1に示す単結晶製造装置を使用し
た本発明のリン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法の
実施の形態を説明する。この単結晶製造装置の上部に
は、種結晶1を回転させるとともに、育成されたリン酸
チタン酸カリウム(KTP)単結晶を融液4中から引上
げるための回転・引上げ機構9が配置される。 【0022】まず、所定の温度に保持された抵抗加熱炉
等の加熱炉8の中央に、炉材6を介して白金製のルツボ
5を配置し、このルツボ5中に、出発原料であるKTP
成分がK2 O−P2 O5 系融剤に融解されてなる融液4
を収納する。具体的には、原料粉末(例えばKH2 PO
4 、K2 HPO4 、TiO2 )を所定の組成に秤量混合
し、各原料粉末をルツボ5に充填して、これを加熱炉8
で加熱してルツボ5内の原料粉末を融解させて融液4と
する。 【0023】回転ロッド2の先端に種結晶1を取り付け
て、回転ロッド2を回転させる。このとき、融液4の過
冷却状態を制御することで種結晶1の表面に単結晶3の
結晶成長が行われる。結晶成長後、炉を冷却させて、充
分冷えてから単結晶3を回転ロッド2の先端から取り外
す。そして、取り出した単結晶3を、用途に応じた所定
の形状に加工する。 【0024】育成に使用される融液4の出発組成は、セ
ルフフラックスと呼ばれるKTP(KTiOPO4 )の
構成成分であるリン酸カリウム系(K2 O−P2 O
5 系)のフラックス例えばK6(K6 P4 O13)フラッ
クスを使用し、このフラックスに対して所望の溶質比率
でKTP(KTiOPO4 )の化学量論組成が含まれる
ようにする。そのために、例えば所定割合のKH2 PO
4 、K2 HPO4 、TiO2 の各粉末を秤量・配合し、
加熱炉8の加熱により白金製のルツボ5中で溶解させる
ことで作製される。 【0025】本発明においては、さらにこの融液4の出
発組成を、図2に示すK2 O−TiO2 −P2 O5 三元
状態図上において、融液4中に含まれるK2 O,P2 O
5 ,TiO2 のモル分率がA(K2 O:40mol%,
TiO2 :28mol%,P 2 O5 :32mol%)、
B(K2 O:43mol%,TiO2 :28mol%,
P2 O5 :29mol%)、C(K2 O:37mol
%,TiO2 :34mol%,P2 O5 :29mol
%)、D(K2 O:36mol%,TiO2 :34mo
l%,P2 O5 :30mol%)の4点で囲まれる領域
内となるように設定する。 【0026】また、原料粉末を溶解して融液4とした後
に、結晶析出飽和温度Tsよりも100℃以上高い温度
において融液4を攪拌する工程を行ってから、KTP単
結晶3の育成工程を行うようにする。 【0027】この融液4の攪拌工程の温度は、あまり高
くし過ぎると、融液4中の成分の揮発による組成のずれ
や製造装置の劣化が懸念される。このため、より好まし
くは結晶析出飽和温度+200℃以下の温度とする。 【0028】さらに、KTP単結晶3の育成時の種結晶
1の回転の平均回転数を100rpm以上とする。尚、
KTP単結晶3も種結晶1と同じ回転数で共に回転す
る。ここで、「平均回転数」は、育成工程の開始時から
終了時までの結晶の回転数の平均値とする。即ち例えば
単結晶3の周速度があまり大きくならないように、結晶
成長に従い回転数を減らしていった場合には、例えば育
成工程の時間と開始時の回転数及び終了時の回転数とか
ら平均値を算出する。ただし、回転方向を途中で反転さ
せるような場合には、反転時の少ない回転数の部分を含
めずに各回転方向の最大回転数から平均値を求める。 【0029】平均回転数を高くすることにより、融液4
と単結晶3との接触がより均質化されるため、良質なK
TP単結晶3がより速く成長することになる。 【0030】尚、平均回転数の上限は、種結晶1や回転
・引上げ機構9が破壊されない程度の回転数にする。 【0031】(実施例)以下、本発明をさらに詳しく具
体的な実施例により説明する。 【0032】実施例1 まず、出発原料として、下記の重量の各試薬粉末を秤量
混合した。 KH2 PO4 1486.4g K2 HPO4 634.2g TiO2 509g この出発原料を融解して得られる融液の組成は、表1に
示すようにK2 O:TiO2 :P2 O5 =40.0:2
8.0:32.0(mol%)となる。また、この組成
は、図2のK2 O−TiO2 −P2 O5 三元状態図上の
位置が点J1となる。 【0033】次に、内径120mm、深さ120mmの
円筒型の白金製のルツボ5を使用し、ルツボ5内に上述
の各試薬粉末を混合した原料粉末を充填した。続いて、
高温加熱により、原料粉末を完全に溶解させてKTP成
分及びフラックス成分を含む融液4を形成した。このと
き、水分の蒸発により、融液4の重量は2400gとな
る。 【0034】融液4を収納したルツボを、図1に示した
ように加熱炉8中に設置する。次に、加熱炉8をこの融
液4の組成における結晶析出飽和温度Ts(KTP結晶
が融解も成長もしない時の融液表面の温度:この実施例
1では1085℃)に対して、100℃以上高い119
0℃まで昇温し、一定時間保持した後に、融液4の組成
の均質化を図るため、融液4中に有効断面積が12cm
2 である撹拌治具を降ろし、攪拌治具を一定方向に10
0rpmの回転数で15時間連続して回転させた。 【0035】次に、融液4中にKTP結晶を試験的に浸
漬し、融液4の組成における結晶析出飽和温度Tsを正
確に測定した。具体的には融液4を一定温度に保ちなが
ら、融液4中にKTP結晶の試験小片を浸漬し、結晶を
回転数200rpmで回転させながら30分間保持し
て、KTP結晶の試験小片の成長状況を観察した。そし
て、融液4の温度を変化させて同様の操作を繰り返し行
い、KTP結晶が融解も成長もしない時の融液4の表面
温度を結晶析出飽和温度Tsとした。 【0036】母材となる種結晶1として、c軸方向が略
鉛直方向となる断面方形伏(a軸×b軸:2mm×2m
m)の柱状であり、かつc軸方向の長さが10〜15m
mのであるように切り出したKTP単桔晶を使用した。
この種結晶1をその長軸が回転ロッド2の軸方向と一致
し、かつ回転に際して偏心や歳差運動等を起こさないよ
うに、種結晶保持具(図示せず)を介して、回転ロッド
2の先端に取付けた。そして、この種結晶1を融液4の
表面に接触させた。 【0037】そして、回転ロッド2を回転させながら、
融液4の表面に接触した種結晶1にKTP単結晶3を析
出、育成(結晶成長)させた。このとき、加熱炉8の徐
冷速度は0.1℃/hで育成時間は91時間とした。ま
た、種結晶1の回転の回転数は、育成開始時の200r
pmから育成終了時(91時間後)の100rpmま
で、回転数が直線的に徐々に低下する条件とした。即ち
種結晶1の回転の平均回転数は150rpmである。
尚、結晶成長の偏りを防止するため、1分間隔で回転方
向の反転を行った。また、種結晶1の引上げは行ってい
ないため、結晶成長は徐々に融液4中へと拡大する。 【0038】育成終了後、得られたKTP単結晶3を回
転・引上げ機構9により融液4から引上げ、単結晶3の
下端が融液4の表面から約5mmの高さ位置に配される
ように保持して、50℃/hの冷却速度で室温まで冷却
した後、加熱炉8より取り出した。 【0039】これにより、重量97gのKTP単結晶3
を得た。単位時間当りの結晶成長重量を表す平均成長レ
ートは、1.07g/hourであった。 【0040】尚、従来のKTP結晶の大型化、高速成長
の報告としては、育成期間28日で結晶重量300gの
報告がある(J.Crystal Growth180(1997)p85〜93 P.Rej
mankova 等参照)。この場合の平均成長レートを示す
と、およそ0.45g/hourである。しかもこの報
告では内径150mmの容器を使用しており、融液量が
本実施例の約1.5倍であると推定される。従って、融
液量を同一に揃えたとすると、本実施例の成長レートは
過去の報告の約3.5倍に相当することがわかる。 【0041】得られたKTP単結晶3に対して、結晶中
のフラックス包有の有無について目視で確認を行った。
フラックス包有があると単結晶3中に不透明な部分が観
察される。本実施例で得られたKTP単結晶3では、不
透明な部分は観察されず、フラックス包有の発生は見ら
れなかった。 【0042】また、得られたKTP単結晶3に対して、
結晶内部の脈理の有無についても目視で確認を行った。
脈理とは屈折率の変動によって虹色の縞が見られる現象
であり、正確には屈折率の変動Δnで表せるが、特に目
視で確認できるレベル即ち比較的大きな屈折率の変動を
示すのものを一般的に脈理と呼んでいる。本実施例で得
られたKTP単結晶3では、虹色の縞は観察されず、脈
理の発生は見られなかった。 【0043】実施例2〜実施例6 出発原料として、KH2 PO4 、K2 HPO4 、TiO
2 の各試料粉末を表1に示す重量で秤量混合して、融液
4の組成が、それぞれ表1に示すように、K2O:Ti
O2 :P2 O5 =43.0:28.0:29.0(mo
l%)、37.0:34.0:29.0(mol%)、
36.0:34.0:30.0(mol%)、38.
0:32.0:30.0(mol%)、40.0:3
1.0:29.0(mol%)となるようにして、その
他は実施例1と同様に各融液4の組成の結晶析出飽和温
度Tsに対して100℃以上高い温度で撹拌を行った
後、KTP単結晶3を育成して、それぞれ実施例2、実
施例3、実施例4、実施例5、実施例6のKTP単結晶
3の試料を得た。これら実施例2〜実施例6で使用した
融液4の組成は、図2のK2 O−TiO 2 −P2 O5 三
元状態図上の位置が点J2〜J6の各位置で示される。 【0044】これら実施例2〜実施例6で得られたKT
P単結晶3は、表1に示すように、結晶重量が61〜9
9g、平均成長レートが0.67〜1.08g/hou
rであり、いずれの実施例のKTP単結晶3についても
フラックス包有や脈理は見られなかった。 【0045】実施例7・実施例8 それぞれ実施例5、実施例6と同一の組成の融液4を使
用して、さらにKTP単結晶3の育成の際の種結晶1の
回転の平均回転数を100rpmとした他は、実施例1
と同様にしてKTP単結晶3を育成して、実施例7、実
施例8のKTP単結晶3の試料を得た。これら実施例
7、実施例8で使用した融液4の組成は、図2のK2 O
−TiO 2 −P2 O5 三元状態図上の位置が点J7(J
5に一致)、J8(J6に一致)の各位置で示される。 【0046】これら実施例7、実施例8で得られたKT
P単結晶3は、表1に示すように、結晶重量がそれぞれ
73g、62g、平均成長レートが0.80g/hou
r、0.68g/hourであり、いずれの実施例のK
TP単結晶3についてもフラックス包有や脈理は見られ
なかった。 【0047】実施例9 実施例5及び実施例7と同一の組成であり、かつ融液4
の重量が10000gとなるように、表1に示すように
各原料粉末を秤量混合して、融液4を作製した。また、
内径190mm、深さ190mmの円筒型の白金製のル
ツボ5を使用した。その他は実施例5と同様にしてKT
P単結晶3を育成して、実施例9のKTP単結晶3の試
料を得た。この実施例9で使用した融液4の組成は、図
2のK2 O−TiO2 −P2 O5三元状態図上の位置が
点J9(J5及びJ7に一致)の位置で示される。 【0048】この実施例9で得られたKTP単結晶3
は、表1に示すように、結晶重量が283g、平均成長
レートが3.11g/hourであり、フラックス包有
や脈理は見られなかった。 【0049】実施例10 実施例5及び実施例7と同一の組成であり、かつ融液4
の重量が20000gとなるように、表1に示すように
各原料粉末を秤量混合して、融液4を作製した。また、
内径240mm、深さ240mmの円筒型の白金製のル
ツボ5を使用した。さらに、KTP単結晶3の育成の際
の種結晶1の回転の平均回転数を130rpmとした他
は、実施例5と同様にしてKTP単結晶3を育成して、
実施例10のKTP単結晶3の試料を得た。この実施例
10で使用した融液4の組成は、図2のK2 O−TiO
2 −P2 O 5 三元状態図上の位置が点J10(J5及び
J7及びJ9に一致)の位置で示される。 【0050】この実施例10で得られたKTP単結晶3
は、表1に示すように、結晶重量が456g、平均成長
レートが5.01g/hourであり、フラックス包有
や脈理は見られなかった。 【0051】この実施例10の結果は、前述したP.Rejm
ankova等の報告と比較すると、結晶重量で約1.5倍、
平均成長レートで約11倍に達する。 【0052】比較例1〜比較例5 出発原料として、KH2 PO4 、K2 HPO4 、TiO
2 の各試料粉末を表1に示す重量で秤量混合して、融液
4の組成が、それぞれ表1に示すように、K2O:Ti
O2 :P2 O5 =43.3:28.0:28.7(mo
l%)、36.0:35.0:29.0(mol%)、
40.0:32.0:28.0(mol%)、42.
0:27.0:31.0(mol%)、38.0:3
0.0:32.0(mol%)となるようにして、その
他は実施例1と同様に、各融液4の組成の結晶析出飽和
温度Tsに対して100℃以上高い温度で撹拌を行った
後、KTP単結晶3を育成して、それぞれ比較例1、比
較例2、比較例3、比較例4、比較例5のKTP単結晶
3の試料を得た。これら比較例1〜比較例5で使用した
融液4の組成は、図2のK2 O−TiO 2 −P2 O5 三
元状態図上の位置が点H1〜H5の各位置で示される。 【0053】これら比較例1〜比較例5で得られたKT
P単結晶3は、表1に示すように、結晶重量が36〜8
2g、平均成長レートが0.4〜0.9g/hourで
あった。 【0054】比較例1及び比較例3で得られたKTP結
晶では、フラックスの包有は見られなかったが、結晶中
に屈折率変動を示す脈理が観察された。これら比較例1
(H1)及び比較例3(H3)のような図2中の線分B
Cより下側、すなわちP2 O5 成分が29mol%より
小さい融液組成では脈理が発生することがわかった。 【0055】また、比較例2で得られたKTP結晶では
脈理は見られなかったが、フラックスの包有が観察され
た。この比較例2(H2)のような図2中の線分CDよ
り右側、すなわちフラックスに対するKTP濃度の高い
(チタンの濃度が高い)組成領域では、結晶成長時の成
長速度の変動が大きく、包有を低減することが困難であ
った。 【0056】また、比較例5で得られたKTP結晶では
脈理は見られなかったが、フラックスの包有が観察され
た。この比較例5(H5)のような図2中の線分ADよ
り上側、すなわちK2 O成分とP2 O5 成分の比率K2
O/P2 O5 比が1.2より小さい融液組成では、安定
な結晶成長を維持するのが困難であり、その結果フラッ
クス包有が発生しやすいことがわかった。 【0057】また、比較例4で得られたKTP結晶では
フラックス包有も脈理も見られなかったが、結晶重量及
び平均成長レートが小さかった。この比較例4(H4)
のような図2中の線分ABより左側、すなわちKTP濃
度の低い組成領域では、結晶の育成時の成長速度が小さ
いため、高品質な結晶を作製する上では有効であるが、
KTP単結晶3の大型化や高速成長化を図る本発明製法
の目的を達成し得ないことがわかった。 【0058】比較例6〜比較例9 それぞれ実施例5又は実施例6と同一の組成の融液4を
使用して、さらにKTP単結晶3の育成工程の前の融液
4の攪拌工程の温度を変更した他は、実施例5又は実施
例6と同様にしてKTP単結晶3を育成して、比較例6
〜比較例9のKTP単結晶3の試料を得た。比較例6
は、実施例5と同一の組成の融液4を使用して、結晶析
出飽和温度Ts+70℃で融液の攪拌工程を行った。比
較例7は、実施例6と同一の組成の融液4を使用して、
結晶析出飽和温度Ts+70℃で融液の攪拌工程を行っ
た。比較例8は、実施例5と同一の組成の融液4を使用
して、結晶析出飽和温度Ts+50℃で融液の攪拌工程
を行った。比較例9は、実施例6と同一の組成の融液4
を使用して、結晶析出飽和温度Ts+50℃で融液の攪
拌工程を行った。これら比較例6〜比較例9で使用した
融液4の組成は、図2のK2 O−TiO 2 −P2 O5 三
元状態図上の位置が点H6,H7,H8,H9の各位置
で示される。 【0059】これら比較例6〜比較例9で得られたKT
P単結晶3は、表1に示すように、結晶重量が92〜1
20g、平均成長レートが1.01〜1.32g/ho
urであった。また、いずれの結晶についても、脈理は
見られなかったが、フラックス包有が発生した。 【0060】従って、融液4の組成が同一で融液4の攪
拌工程の温度が結晶析出飽和温度Tsより100℃以上
高い実施例5及び実施例6の場合と比較すると、これら
比較例6〜比較例9では融液4の撹拌工程の温度が低い
ために、撹拌時に十分な融液4の組成の均質化が行われ
ず、その結果として育成時の結晶成長速度の変動が大き
く、フラックス包有を低減することが困難であったと考
えられる。 【0061】比較例10、比較例11 それぞれ実施例5、実施例6と同一の組成の融液4を使
用して、さらにKTP単結晶3の育成工程における種結
晶1の回転の平均回転数を80rpmとした他は、実施
例5、実施例6と同様にしてKTP単結晶3を育成し
て、それぞれ比較例10、比較例11のKTP単結晶3
の試料を得た。これら比較例10、比較例11で使用し
た融液4の組成は、図2のK2 O−TiO2 −P2 O5
三元状態図上の位置が点H10,H11の各位置で示さ
れる。 【0062】これら比較例10及び比較例11で得られ
たKTP単結晶3は、表1に示すように、結晶重量が9
6g、105g、平均成長レートが1.05、1.15
g/hourであった。また、いずれの結晶について
も、脈理は見られなかったが、フラックス包有が発生し
た。 【0063】従って、融液4の組成が同一で結晶育成時
の種結晶1の回転の平均回転数が大きい実施例5及び実
施例6の場合と比較すると、これら比較例10及び比較
例11では結晶育成時の種結晶1の平均回転数が小さい
ことにより、結晶の回転により生じる融液4内の対流の
効果が小さく、充分な融液4の組成の均質化が行われ
ず、その結果として結晶成長時の成長速度の変動が大き
く、フラックス包有を低減することが困難であったと考
えられる。 【0064】 【表1】 【0065】表1及び図2から、融液4中に含まれるK
2 O、P2 O5 、TiO2 のモル分率(mol%)が、
K2 O−TiO2 −P2 O5 三元状態図上において、A
(40, 28, 32)、B(43, 28, 29)、C
(37, 34, 29)、D(36, 34, 30)の4点
で囲まれる領域内である組成の融液4を使用し、かつ種
結晶1上にKTP単結晶3を育成する工程に先立ち、結
晶析出飽和温度Tsより100℃以上高い温度で撹拌す
る工程を設け、さらにKTP単結晶3の育成工程におい
て種結晶1の回転の平均回転数が100rpm以上とし
て、KTP単結晶3の育成を行うことによって、特にK
TP結晶中に発生するフラックス包有や脈理等の欠陥の
発生を抑制することができることがわかる。 【0066】また、実施例9及び実施例10のように、
KTP単結晶3の育成工程における結晶成長速度を速く
しても、フラックス包有や脈理等の欠陥を発生すること
なく、結晶重量を多くすることができることがわかる。
従って、KTP単結晶3の大型化や高速成長化が可能に
なることがわかる。 【0067】これにより、KTP単結晶3から成る複屈
折プリズム等の光学素子を、低価格で実現することがで
きる。 【0068】尚、上述の各実施例では、出発原料として
KH2 PO4 、K2 HPO4 、TiO2 の各試薬を使用
したが、反応後に同じ組成となるような試薬であればこ
れらに限るものではない。例えば、K2 CO3 、KNO
3 、NH4 H2 PO4 等の試薬を使用すれば、同じ組成
の融液を形成して、同様に結晶育成を行うことが可能で
ある。 【0069】尚、本発明は上述の各実施例に何ら限定さ
れるものではない。例えば、他の結晶方位軸やルツボ径
や融液量を大きくしてKTP単結晶を育成する場合に
も、工程の一部分として用いることが可能である。 【0070】 【発明の効果】本発明製法によれば、結晶中に発生する
フラックス包有や脈理等の欠陥の発生を抑制することが
できるため、リン酸チタン酸カリウム単結晶の大型化や
高速成長化を図ることができる。従って、大型でかつ低
価格のリン酸チタン酸カリウム単結晶を製造することが
可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】フラックス法による単結晶の製造装置を示す図
である。 【図2】各実施例及び各比較例の融液組成の位置を示す
K2 O−TiO2 −P2 O5 三元状態図である。 【符号の説明】 1 種結晶、2 回転ロッド、3 (KTP)単結晶、
4 融液、5 ルツボ、8 加熱炉
である。 【図2】各実施例及び各比較例の融液組成の位置を示す
K2 O−TiO2 −P2 O5 三元状態図である。 【符号の説明】 1 種結晶、2 回転ロッド、3 (KTP)単結晶、
4 融液、5 ルツボ、8 加熱炉
Claims (1)
- 【特許請求の範囲】 【請求項1】 リン酸チタン酸カリウム(KTiOPO
4 )の単結晶を、K2 O−P2 O5 系のフラックス中で
成長させるリン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法に
おいて、 原料を加熱して融液を形成する工程と、 上記融液にリン酸チタン酸カリウムの種結晶を接触せし
め、結晶析出飽和温度以下の温度で徐冷するとともに上
記種結晶を回転しつつ、該種結晶上にリン酸チタン酸カ
リウム単結晶を育成させる工程とを有し、 上記融液中に含まれるK2 O,P2 O5 ,TiO2 のモ
ル分率をK2 O−TiO2 −P2 O5 三元状態図上にお
いて、A(K2 O:40mol%,TiO2 :28mo
l%,P2 O5 :32mol%)、B(K2 O:43m
ol%,TiO 2 :28mol%,P2 O5 :29mo
l%)、C(K2 O:37mol%,TiO2 :34m
ol%,P2 O5 :29mol%)、D(K2 O:36
mol%,TiO2 :34mol%,P2 O5 :30m
ol%)の4点で囲まれる領域内とし、 上記種結晶上に上記リン酸チタン酸カリウム単結晶を育
成させる工程に先立ち、上記結晶析出飽和温度よりも1
00℃以上高い温度において上記融液を撹拌する工程を
有し、 上記リン酸チタン酸カリウム単結晶を育成させる工程中
における上記種結晶の回転の平均回転数を100rpm
以上とすることを特徴とするリン酸チタン酸カリウム単
結晶の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2001186970A JP2003002793A (ja) | 2001-06-20 | 2001-06-20 | リン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
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---|---|---|---|
JP2001186970A JP2003002793A (ja) | 2001-06-20 | 2001-06-20 | リン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
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ID=19026334
Family Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2001186970A Pending JP2003002793A (ja) | 2001-06-20 | 2001-06-20 | リン酸チタン酸カリウム単結晶の製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2003002793A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN106958041A (zh) * | 2017-05-27 | 2017-07-18 | 山东大学 | 一种xTeO2·P2O5(x=2,4)晶体的制备方法及制备装置 |
CN112126979A (zh) * | 2020-09-10 | 2020-12-25 | 中国科学院福建物质结构研究所 | 一种晶体生长装置 |
-
2001
- 2001-06-20 JP JP2001186970A patent/JP2003002793A/ja active Pending
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN106958041A (zh) * | 2017-05-27 | 2017-07-18 | 山东大学 | 一种xTeO2·P2O5(x=2,4)晶体的制备方法及制备装置 |
CN106958041B (zh) * | 2017-05-27 | 2019-01-29 | 山东大学 | 一种xTeO2·P2O5(x=2,4)晶体的制备方法及制备装置 |
CN112126979A (zh) * | 2020-09-10 | 2020-12-25 | 中国科学院福建物质结构研究所 | 一种晶体生长装置 |
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