JP2002327214A - 炭素鋼及び低合金鋼の溶接後熱処理方法 - Google Patents

炭素鋼及び低合金鋼の溶接後熱処理方法

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JP2002327214A
JP2002327214A JP2002056160A JP2002056160A JP2002327214A JP 2002327214 A JP2002327214 A JP 2002327214A JP 2002056160 A JP2002056160 A JP 2002056160A JP 2002056160 A JP2002056160 A JP 2002056160A JP 2002327214 A JP2002327214 A JP 2002327214A
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cooling
creep
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Kazuhiro Kimura
一弘 木村
Masayoshi Yamazaki
政義 山崎
Hiromichi Hongo
宏通 本郷
Junichi Kinugawa
純一 衣川
Takashi Watabe
隆 渡部
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 溶接継手部のクリープ強度を向上させると共
に、亀裂の発生及び進展による溶接継手部の損傷を抑制
することが可能な炭素鋼及び低合金鋼の溶接後熱処理方
法を提供する。 【解決手段】 炭素鋼及び低合金鋼の溶接継手におい
て、オーステナイト単相温度域に所定の時間保持して焼
きなました後、空冷あるいはそれ以下の冷却速度の徐冷
によって冷却するようにした溶接後熱処理を施す。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、炭素鋼及
び低合金鋼の溶接後熱処理方法に関し、特に、クリープ
が問題となる高温で長期間使用される炭素鋼及びフェラ
イト系耐熱鋼の溶接後熱処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】従来、溶接金属や溶接熱影響
部が存在する溶接継手部では、引張強度やクリープ強度
等、機械的強度の低下が生じるとともに、溶接によって
生じた不均一な組織に起因して亀裂の発生及び進展が起
きやすいものであった。
【0003】そのため、従来より、このような溶接によ
る機械特性の低下を低減することを目的として、溶接後
熱処理が行われている。
【0004】例えば、JIS規格Z3700(溶接後熱
処理方法)では、炭素鋼及び低合金鋼の溶接後熱処理方
法について規定している。この規格によれば、材料をP
−1〜P−5、P−9の6種類に区分し、各区分毎に、
溶接後熱処理の最低保持温度が定められていると共に、
溶接部の厚さに応じた最小保持時間も定められている。
【0005】温度について言えば、P−2及びP−9材
で焼き入れ焼き戻し鋼についてのみ、後熱処理温度の上
限は焼き戻し温度を越えてはならないと規定している。
一方、後熱処理温度の上限が規定されていない炭素鋼及
び低合金鋼については、通常、材料のAc1温度より5
0℃低い温度を後熱処理温度の上限としている。
【0006】たとえば、2.25Cr−1Mo鋼(JI
S SCMV4NT)を用いて、その母材(白三角
印)、溶接金属(白四角印)及び通常の溶接後熱処理を
行った溶接継手(白丸印)の550℃における応力−破
断時間曲線を図10に示した。この図によれば、短時間
側では、通常の溶接後熱処理を施した溶接継手のクリー
プ強度は、母材のクリープ強度に比べて低下してしまう
ことが示されている。
【0007】この従来の溶接後熱処理条件は、690℃
で28時間保持後、毎時50℃(50℃/h)以下の速
度で冷却するものであって、やはり、溶接後熱処理を施
した溶接継手の長時間クリープ強度、亀裂の発生や進展
による損傷の抑制を改善することに限界があった。
【0008】一方で、最近になって、この出願の発明者
らは、マルテンサイト変態やベイナイト変態を生じた組
織を有する鋼材に比べて、オーステナイト温度域から徐
冷した焼きなました組織を有する鋼材の方が優れた長時
間クリープ強度を有することが明らかにしている。
【0009】以下、確認されたクリープ強度等の調査結
果について、詳述する。
【0010】先ず0.5Cr−0.5Mo鋼について、
熱処理を実施し、初期組織を変化させてフェライト・パ
ーライト組織を得た従来例について述べる。これによれ
ば、次のような作用を有するものであった。
【0011】図7、8は、長時間クリープ強度に及ぼす
初期組織の影響を示したものであり、長時間クリープ強
度の高い材料を得るためには、オーステナイト単相温度
域から、空冷以下の冷却速度で徐冷することが重要であ
ることを示している。
【0012】ここでは、オーステナイト単相温度域から
の冷却速度の違いに起因して初期組織がそれぞれ異なっ
ており、冷却速度はマルテンサイトが最も大きく、次に
ベイナイトが大きく、フェライト+パーライトが最も遅
い冷却、実際には炉冷、である。
【0013】なお、2種類の焼戻しマルテンサイトは一
番上のマルテンサイトと同様の急速冷却の後焼戻し処理
を施している。
【0014】図7は、熱処理により初期組織を変化させ
た結果得られた、0.5Cr−0.5Mo鋼の応力−破
断時間曲線を示す。この図によれば、数万時間以上の長
時間域では、マルテンサイト組織(白丸印)及びベイナ
イト組織(白四角印)に比べて、焼きなましたフェライ
ト組織(黒四角印)が最も高いクリープ強度を有するこ
とがわかる。また、焼なましたフェライト(フェライト
+パーライト)組織(黒菱形印)は、長時間になるほ
ど、マルテンサイト組織やベイナイト組織よりも高いク
リープ強度を有することが判る。
【0015】図8は、同鋼を575℃の温度、3.2kg
f/mm2 の一定応力で保った場合におけるひずみと時間の
関係を表すクリープ曲線を示している。この図によれ
ば、マルテンサイト組織(中太実線)に比べてベイナイ
ト組織(太実線)の方が高いクリープ強度を有するが、
焼きなましたフェライト・パーライト組織(太点線)は
さらに高いクリープ強度を有することが判る。
【0016】以上の図6、7からは、図6中黒菱形印
(◆)で示したフェライト+パーライトが、長時間の領
域では、最も高いクリープ強度を有することを示してい
る。
【0017】したがって、冷却速度の大きなマルテンサ
イトやベイナイトよりも、冷却速度の小さなフェライト
+パーライトの方が、優れた長時間クリープ強度を有す
ることが判る。
【0018】図9は、異なる熱処理により初期組織の異
なる3種類の2.25Cr−1Mo鋼、JIS−STB
A24(焼きなまし)、JIS−SCMV4NT(焼な
らし、焼戻し)、ASMEA542(焼入れ、焼戻し)
を用意し、当該鋼の550℃における応力−破断時間曲
線を示す。
【0019】この図9において、熱処理が異なるため、
異なる初期組織を有する2.25Cr−1Mo鋼のクリ
ープ強度特性が示される。オーステナイト単相温度域か
らの冷却速度は、○印(焼きなまし)が最も小さく、△
印(焼きならし、焼戻し)が中間の速度、□印(焼入
れ、焼戻し)が最も大きな速度である。
【0020】短時間側では、冷却速度の大きな組織
(□)が最も高いクリープ強度を示している。しかし、
数万時間域ではクリープ強度の差は消滅している。この
ため、実機プラントで長時間使用を考慮した場合、小さ
な冷却速度で徐冷した場合の短時間クリープ強度の低さ
は問題にならない。
【0021】すなわち、オーステナイト単相温度域から
の空冷以下の冷却速度で徐冷した場合、急速冷却した材
料に比べて、短時間のクリープ強度は低くなるが、高温
の実機プラントで材料を10年あるいはそれ以上の長期
間使用した場合、急速冷却による高強度化の効果は消滅
する。このため、実機プラントでの使用を考慮した場
合、空冷以下の冷却速度で徐冷することによる短時間ク
リープ強度の低下は問題にならないことを示している。
【0022】しかしながら、このようなクリープ特性が
高められた鋼材に対しても、溶接後熱処理温度は、焼き
戻し温度あるいはAc1より50℃低い温度以下に制限
されている。
【0023】そしていずれにしても、従来の溶接後熱処
理によると、溶接金属や溶接熱影響部が存在する溶接継
手部では、依然として引張強度やクリープ強度の低下が
生じるとともに、溶接によって生じた不均一な組織に起
因した亀裂の発生及び進展が起きやすいという問題が残
されていた。
【0024】この出願の発明は、上記の事情に鑑みてな
されたものであって、従来の溶接後熱処理法に比べて、
特に長時間クリープ強度の改善と亀裂の発生や進展によ
る損傷の抑制に一層有効な溶接後熱処理方法を提供する
ものである。
【0025】
【課題を解決するための手段】この出願の発明は、上記
の課題を解決するものとして、炭素鋼及び低合金鋼の溶
接継手において、オーステナイト単相温度域に所定の時
間保持して焼きなました後、空冷あるいはそれ以下の冷
却速度の徐冷によって冷却する、溶接後熱処理方法(請
求項1)を提供する。
【0026】また、この出願の発明は、焼きなまし温
度、冷却手段、冷却温度の考慮によって、930℃で3
0分保持し、炉冷による冷却としたり(請求項2)、炉
冷による冷却速度を毎分1℃としたりする(請求項3)
溶接後熱処理方法をも提供する。
【0027】この出願の発明によれば、溶接後熱処理と
して焼きなまし(Ac3以上のオーステナイト温度域か
らの徐冷)を実施することにより、溶接継手部の長時間
クリープ強度の改善をすると共に、溶接によって生じた
不均一な組織を消失させることにより、この不均一な組
織に起因する亀裂の発生及び進展による損傷を本質的に
抑制することが可能となる。
【0028】したがって、発電用ボイラ・タービン、原
子力発電設備、石油工業用及び石油化学工業装置等に使
用されている高温構造物の多くは、その寿命が溶接継手
部の損傷に支配されていることから、この発明の溶接後
熱処理により、安全性及び信頼性を向上させるととも
に、装置の寿命を延長させることが可能となる。
【0029】
【発明の実施の形態】この出願の発明は上記のとおりの
特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態につい
て説明する。
【0030】この出願の発明では、フェライト+パーラ
イトが、長時間の領域で、最も高いクリープ強度を有す
ることを示し、冷却速度の大きなマルテンサイトやベイ
ナイトよりも、冷却速度の小さなフェライト+パーライ
トの方が、優れた長時間クリープ強度を有するとの知見
から、「オーステナイト単相温度域からの冷却速度は空
冷以下の徐冷とする」という条件を導びいている。
【0031】この出願の発明において、焼なまし熱処理
を十分に行うためには、オーステナイト単相温度域に保
持した後、少なくとも空冷以下の遅い速度で冷却する必
要がある。ここで空冷とは「静止状態にある空気中での
自然冷却」を意味するものとし、先に示したJIS規格
3700(溶接後熱処理方法)に規定の冷却速度に準拠
して、例えば「冷却速度は280℃/h以下」と、規定
することも可能である。
【0032】一般に、物質は温度変化に伴い熱膨張又は
収縮し、冷却中に収縮する。多結晶物質を急冷した場
合、熱収縮に伴う個々の結晶粒の変形を緩和できず、内
部にひずみが蓄積され、極端な場合には、材料が焼き割
れによって破壊される。
【0033】このように破壊するほど極端でないが、急
速な冷却により、内部にひずみが多量に蓄積されている
場合に、わずかな外部力でも、ミクロレベルでは極めて
大きな応力が発生する領域が局所的に形成され、そのよ
うな大応力発生領域では、弾性変形領域を超え、塑性変
形を起こし、転位が放出され、クリープ変形を生じる。
このため、冷却時に、材料内部にひずみを蓄積させない
ことが重要であって、急速冷却は好ましくないことはい
うまでもなく、この発明においては、たとえミクロレベ
ルでも大きな応力が発生する領域を形成しないようにす
るため、安全性を見込んで、上述の逆の見方から、空冷
よりも速い冷却を好ましくない冷却速度の目安とするも
のである。
【0034】炭素鋼及び低合金鋼に関する従来の溶接後
熱処理は、焼戻し温度あるいはAc1より50℃低い温
度が熱処理温度の上限であり、オーステナイト単相温度
域よりもかなり低い温度域であった。言い換えれば、こ
の出願の発明の溶接後熱処理は、従来の熱処理温度より
かなり高い温度域のオーステナイト単相温度域で行われ
る。
【0035】また、溶接後熱処理を施す対象の材質とし
ては、炭素鋼及び低合金鋼としている。これは、たとえ
ば、9〜12Crの高合金鋼では、実用の時間範囲内で
は、焼なまし組織のクリープ強度がマルテンサイト組織
やベイナイト組織のクリープ強度よりも高くなることは
ないと考えられるためである。
【0036】なお、対象とする炭素鋼及び低合金鋼は、
JIS規格3700(溶接後熱処理方法)に記載のもの
に限らず、海外規格のそれを包含するものとする。
【0037】この出願の発明による溶接後熱処理方法
は、図1に示すように、炭素鋼及び低合金鋼の溶接継手
を、オーステナイト単相温度域に所定の時間保持した
後、空冷あるいはそれ以下の冷却速度の徐冷によって冷
却するものであり、この発明の溶接後熱処理方法によっ
て、焼なました組織がマルテンサイト組織やベイナイト
組織よりも優れた長時間クリープ強度を有するのは、ク
リープ変形を担う可動転位密度が低いためである。この
発明者らによって明らかにされたこのような知見は、長
時間クリープ強度及びクリープ変形に関する重要な基本
原理であり、この出願の発明によって初めて溶接後熱処
理に適用されるものである。
【0038】この出願の発明の新しい溶接後熱処理にお
ける保持温度、保持時間の推奨条件は、母材製造時の熱
処理条件におけるオーステナイト温度域での保持温度、
保持時間である。より詳しくは、保持温度はオーステナ
イト単相温度域に限定され、保持時間は、熱処理時にお
けるオーステナイト単相温度域での保持時間を目安に決
めることができる。
【0039】この出願の発明による新しい溶接後熱処理
方法を溶接継手部に適用する場合には、溶接継手部の特
性、すなわち、その安全性、信頼性を向上させることが
できるため、溶接継手部の損傷による機器の破損や事故
等を低減させることが可能である。
【0040】以下、この出願の発明について、図面によ
り、さらに詳細に説明する。
【0041】
【実施例】この発明の溶接継手新PWHTは、図1に示
すように、炭素鋼又は低合金鋼の溶接継手を溶接後熱処
理し、オーステナイト単相温度930℃で30分保持
後、冷却速度を毎分1℃(1℃/min)とする炉冷に
よって冷却する方法を採用した。
【0042】母材には、板厚50mmの2.25Cr−
1Mo鋼(JIS SCMV 4NT)を用いた。母材と
溶接金属の化学組成を表1に示した。
【0043】
【表1】
【0044】溶接金属と母材の化学組成に顕著な違いは
認められない。また母材には、表2に示したような焼き
ならしおよび焼き戻しの熱処理が施されている。
【0045】
【表2】
【0046】狭開先サブマージアーク溶接法により溶接
し、溶接施工条件を表3に示した。また、溶接線は、供
試材圧延方向に対して直角の方向とした。なお、板厚3
0mm以上の厚板を板厚に比して小さな隙間で開先を対
向させ、機械化又は自動化したアーク溶接を行う方法を
とることができる。狭開先の隙間は、板厚200mmま
では約20mm以下、200mmを超えるものは約30
mm以下とすることが好ましい。
【0047】溶接後熱処理は、この出願の発明のオース
テナイト単相領域の温度での焼きならし条件(930℃
PWHT)と、あるいは比較のためAc1より下の通常
の条件(690℃PWHT)の2つのうちのいずれかの
条件で行なった。
【0048】
【表3】
【0049】溶接部のクリープ強度に及ぼす十分な焼き
なまし溶接後熱処理の影響を調べた。図2および3に、
母材、溶接金属、690℃PWHTおよび930℃PW
HTによる溶接継手について、550℃−78MPa
(8kgf/mm2)でのクリープ曲線およびクリープ速度−
時間曲線をそれぞれ示した。なお、930℃PWHT溶
接継手のクリ−プ試験は、約17000時間(平成13
年6月1日現在)を経過して進行中である。
【0050】従来技術の欄に記載したように、550℃
−78MPaのクリープ試験条件下でのクリープ破断強
度は、基底クリープ強度に支配されると考えることがで
きる。約18000時間経過後の930℃PWHT溶接
継手のクリープ歪は約0.009と他よりも小さく、6
90℃PWHT溶接継手の約1/3、そして、溶接金属
および母材の約1/2である。これらのことから、溶接
継手のクリープ歪は、通常の690℃での溶接後熱処理
に比べて、溶接後の十分な930℃での焼きなましによ
って抑制されることが明らかとなった。さらに注目すべ
きは、930℃PWHT溶接継手のクリープ歪は、母材
のクリープ歪よりも小さくなっていることがわかった。
したがって、十分に焼きなまされた930℃PWHT溶
接継手のクリープ強度は、焼きならし、焼き戻し処理さ
れたままの母材よりも高いのである。
【0051】また、図3では、930℃PWHT溶接継
手のクリープ速度は、クリープ試験開始直後から他より
も低く、1000〜2000時間域で母材と同程度にな
るものの、その後さらに低下して約10000時間では
他に比べて1/2以下の低い値を示すことがわかった。
【0052】図4および5に、母材、溶接金属、690
℃PWHTおよび930℃PWHTによる溶接継手につ
いて、550℃−69MPa(7kgf/mm2)でのクリー
プ曲線およびクリープ速度−時間曲線をそれぞれ示し
た。なお、930℃PWHT溶接継手のクリ−プ試験
は、約16000時間(平成13年6月1日現在)を経
過して進行中である。
【0053】図4から、78MPaの場合と同様、この
発明の新しい溶接後熱処理を行った溶接継手のクリープ
歪み(太実線)は、通常の溶接後熱処理を行った溶接継
手だけでなく、母材及び溶接金属よりも小さいことが判
る。そしてやはり、930℃での十分な焼きなまし溶接
後熱処理により、溶接継手のクリープ強度を高める効果
が、明確に観察された。図5からは、930℃PWHT
溶接継手を除く全てのものについて、ほぼ同じクリープ
破壊挙動およびほぼ同じクリープ破壊寿命が観察され
た。この930℃PWHT溶接継手のクリープ速度−時
間曲線は、約1000時間でこぶを描き、そのクリープ
速度は約10000時間の時点で他の材料と同程度とな
る。しかしながら、この930℃PWHT溶接継手のク
リープ速度は、このこぶの前では他の材料よりも小さ
く、そしてこぶの後は約10000時間まで時間の増加
とともに著しく減少し、そして、10000時間の時点
で他に比べての約1/5もの低い値であった。
【0054】図6に、母材、溶接金属、690℃PWH
T溶接継手、および930℃PWHT溶接継手につい
て、550℃における応力−最小クリープ速度曲線を示
した。母材は、約200MPaの高応力域では、約10
という大きな応力指数を示しているが、この応力指数は
応力の低下に伴って減少し、50MPa以下の低応力域
では約2という小さな値を示している。そして、溶接金
属および690℃PWHT溶接継手についての最小クリ
ープ速度は、高応力域では母材よりも高いものの、この
クリープ速度の差は応力の低下とともに縮小し、80M
Pa未満の応力域では、930℃PWHT溶接継手以外
のすべてについて、ほぼ同様の最小クリープ速度を示す
ことが確認された。一方の、930℃PWHT溶接継手
の最小クリープ速度は、78MPaでは他の1/2〜1
/3程度であるが、69MPaで他の1/3〜1/6程
度にまで減少し、低応力側ほど相対的に小さな値を示す
といえる。
【0055】ところで、焼きなましたフェライト+パー
ライト組織が、マルテンサイトやベイナイト組織よりも
優れた長時間クリープ強度を示すのは、クリープ変形を
担う可動転位密度が低いためである。従って、応力負荷
による転位の発生量が減少する低応力域ほどその効果は
より顕著に認められると考えられる。すると、図6に見
られるように、930℃PWHT溶接継手の最小クリー
プ速度が、78MPaよりも低応力側の69MPaで相
対的に小さな値を示す傾向は、より低応力領域において
顕著になると考えられる。母材であるJISSCMV4
NTの550℃での許容引張応力が48MPaであるこ
とを考慮すると、実機使用条件に相当する低応力域で
は、930℃PWHT溶接継手は、690℃PWHT溶
接継手のみならず母材および溶接金属よりも、著しく高
いクリープ強度を有すると考えられる。
【0056】さらに、母材および溶接金属の化学成分が
ほとんど同じ場合、930℃PWHTでは溶接金属およ
び溶接熱影響部を全てオーステナイト単相温度域に保持
するため、溶接により形成された不均一な組織形態は完
全に消滅し、溶接部の母材と同様の焼きなましによるフ
ェライトパーライト組織となる。従って、この発明のP
WHTにより、HAZ部の不均一組織を消滅させ、タイ
プIVクラック発生そのものを本質的に抑制できることが
予想される。
【0057】これらの結果によって、本発明の新しい溶
接後熱処理を行うことにより、溶接継手部のクリープ強
度を著しく改善し、優れていることが実証される。
【0058】
【発明の効果】この出願の発明によれば、溶接継手部の
クリープ強度を向上させると共に、亀裂の発生及び進展
による溶接継手部の損傷を抑制することが可能である。
【0059】したがって、機器の損傷や事故等の発生を
抑制することが可能となる、さらに、溶接継手部のみな
らず、優れた長時間クリープ強度を有する耐熱鋼の開発
に対して、重要かつ新しい示唆を与える。
【0060】溶接継手部の損傷や事故等の発生を抑制す
ることにより、プラントの安全操業に対して大いに寄与
する。また、プラントの保守点検を従来よりも簡素化で
きることが期待できるため、保守点検費の削減及びプラ
ントの稼働効率を向上させることができる。これによ
り、極めて大きな経済的効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の新規な溶接後熱処理フロー図を示
す。
【図2】 2.25Cr−1Mo鋼の母材、溶接金属、
通常の溶接後熱処理を行った溶接継手及びこの発明の溶
接後熱処理を行った溶接継手のクリープ曲線を示す図で
ある。
【図3】 2.25Cr−1Mo鋼の母材、溶接金属、
通常の溶接後熱処理を行った溶接継手及びこの発明の溶
接後熱処理を行った溶接継手のクリープ速度−時間曲線
を示す図である。
【図4】 2.25Cr−1Mo鋼の母材、溶接金属、
通常の溶接後熱処理を行った溶接継手及びこの発明の溶
接後熱処理を行った溶接継手のクリープ曲線を示す図で
ある。
【図5】 2.25Cr−1Mo鋼の母材、溶接金属、
通常の溶接後熱処理を行った溶接継手及びこの発明の溶
接後熱処理を行った溶接継手のクリープ速度−時間曲線
を示す図である。
【図6】 2.25Cr−1Mo鋼の母材、溶接金属、
通常の溶接後熱処理を行った溶接継手及びこの発明の溶
接後熱処理を行った溶接継手の、最小クリープ速度−応
力曲線を示す図である。
【図7】 0.5Cr−0.5Mo鋼の応力−破断時間
曲線を示す図である。
【図8】 0.5Cr−0.5Mo鋼のクリープ曲線を
示す図である。
【図9】 2.25Cr−1Mo鋼の応力−破断時間曲
線を示す図である。
【図10】 2.25Cr−1Mo鋼の母材、溶接金
属、通常の溶接後熱処理を行った溶接継手の550℃に
おける応力−破断時間曲線を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 衣川 純一 茨城県つくば市千現一丁目2番1号 独立 行政法人物質・材料研究機構 (72)発明者 渡部 隆 茨城県つくば市千現一丁目2番1号 独立 行政法人物質・材料研究機構 Fターム(参考) 4K042 AA24 BA04 BA14 CA15 DA03 DC02 DC03 DE04

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭素鋼及び低合金鋼の溶接継手におい
    て、オーステナイト単相温度域に所定の時間保持して焼
    きなました後、空冷あるいはそれ以下の冷却速度の徐冷
    によって冷却することを特徴とする溶接後熱処理方法。
  2. 【請求項2】 請求項1において、930℃のオーステ
    ナイト単相温度域で30分保持し、冷炉による冷却とす
    ることを特徴とする溶接後熱処理方法。
  3. 【請求項3】 請求項1又は2において、冷炉による冷
    却速度を毎分1℃として冷却することを特徴とする溶接
    後熱処理方法。
JP2002056160A 2001-03-02 2002-03-01 炭素鋼及び低合金鋼の溶接後熱処理方法 Pending JP2002327214A (ja)

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2012529994A (ja) * 2009-06-15 2012-11-29 イェスタムプ・ハードテック・アクチエボラーグ 鋼板ブランクを成形し、硬化する方法
JP2014035174A (ja) * 2012-08-10 2014-02-24 Hitachi Ltd ボイラ用メンブレンパネルの熱処理方法およびこの熱処理を実施したボイラ装置
CN109182680A (zh) * 2018-11-19 2019-01-11 攀钢集团江油长城特殊钢有限公司 一种冷镦用马氏体不锈钢棒线材的退火硬度的控制方法

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