JP2002302454A - アオサを原料とする抗ウイルス剤 - Google Patents

アオサを原料とする抗ウイルス剤

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Abstract

(57)【要約】 【課題】既に食料として安全性が確認されている材料で
あるアオサを利用して、抗ウイルス剤、および抗ウイル
ス性餌飼料を提供すること。 【解決手段】活性成分として、アオサ又はアオサの有機
溶媒抽出画分を含有することを特徴とする抗ウイルス
剤、および該抗ウイルス剤を含有する餌飼料が開示され
る。また、上記抗ウイルス剤の製造方法が開示される。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、海藻の一種である
アオサ、及びアオサ抽出物の餌飼料及び薬品等への利用
に関する。特に、アオサのもつ抗ウイルス成分の利用に
関する。
【0002】
【従来の技術】養殖漁業では生産効率を重視した過密生
産が行われており、かかる過密養殖に起因して、養殖魚
の斃死を招く様々な魚病が報告されている。このような
魚病のうち、バクテリア等が原因の場合には、抗生物質
等の多様な薬剤により魚病を抑制することができ、抗生
物質による魚病抑制は既に養殖業における一つの産業分
野となっている。
【0003】ウイルス病に関しても、1980年代以降、種
々のウイルス性の魚病被害が報告されはじめた。たとえ
ば、ヒラメラブドウイルス(HRV:200nm長さ、弾丸上の
形態、エンベロープあり)は、1980年代前半に北海道の
ヒラメ養殖場で広まり、ヒラメの稚魚の80%が死滅した
と報告されている。またサケ科魚類の伝染性造血器壊死
症ウイルス(IHNV:200nm長さ、弾丸上の形態、エンベ
ロープあり)による被害額は、国内では20〜30億円/
年、世界での被害額は数100億円に上るといわれてお
り、全世界で警戒されている。
【0004】しかし、養殖魚のウイルス病対策について
は、診断薬および予防ワクチンの開発が行われている
が、未だそれほど進んでいない。例えば、1999年には、
マダイ等の養殖時に多く報告されているイリドウイルス
に対するワクチンが開発されたが、ワクチンは魚体一匹
ずつに注射をしなくてはならないため、現場ではあまり
普及していないのが現状である。
【0005】一方、アオサは海水中で成長する緑藻の一
種であり、海岸や海水湖では窒素やリンを多く含有した
富栄養化により大量に発生する。このため、従来からア
オサの存在は海域の富栄養化状態を示す指標の一つとさ
れてきた。アオサは窒素やリンを取り込んで増殖するた
め、アオサによる自然浄化作用は非常に重要とされてい
る。しかし、一方ではアオサの処理に苦慮しているのが
現状であり、その有効利用が望まれている。この観点か
ら見ると、アオサは一部で食品として応用的に利用され
ている安全な食料源であり、またタンパク質、ビタミ
ン、ミネラル等の栄養成分に着目して家畜の飼料添加物
等への応用を目指した基礎研究が着手されている。しか
し、これまでに決定的な有効利用法が見つかっておら
ず、大量消費を目指した新たな有効な利用法の開発が望
まれている。
【0006】本発明者らは、アオサを有効利用するため
に以前から研究を続けてきたが、アオサ中の含硫アミノ
酸であるD−システノール酸が体内の中性脂肪を低減す
ること、及び有害なラジカルを生成させるフェトン反応
を阻害することを見出し、これらについては既に特許出
願を行っている(特願2000-202404,2000-103724)。
【0007】しかし、アオサの有効利用の観点から、ア
オサの成分について種々の観点で更に十分な分析および
評価が望まれる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑
みてなされたもので、アオサの生理活性成分を探求し、
アオサの有効利用を図る研究の一環としてなされたもの
である。
【0009】本発明の第一の目的は、既に食料として安
全性が確認されている材料であるアオサを利用して、抗
ウイルス剤を提供することである。
【0010】本発明の第二の目的は、アオサを利用し
て、ウイルス抑制効果を有する餌飼料を提供することで
ある。
【0011】
【課題を達成するための手段】本発明者らは、不稔性ア
オサについて、抗腫瘍性、抗菌性、抗メラニン性、神経
細胞助長性、抗ウイルス性等の様々な生理活性について
鋭意分析し、検討した。その結果、アオサに抗ウイルス
作用が存在することを見いだし、本願発明に至った。こ
れまでにアオサやその抽出物がウイルス感染を抑制する
という生理活性を持つことは報告されていない。
【0012】即ち、本発明による抗ウイルス剤は、アオ
サまたはアオサの有機溶媒抽出画分を含有することを特
徴とするものである。
【0013】また、本発明による餌飼料は、餌飼料成分
と共に上記抗ウイルス剤を含有することを特徴とするも
のである。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明において「アオサ」とは、
入り江等の海に浮遊し、自然界に存在するアオサ(Ulv
a)属に属する藻類を意味する。不稔性アオサ(Ulva la
ctuca)は、年間を通して培養生産が容易にできるの
で、本発明で用いるための好ましいアオサである。 本
発明において、アオサから抗ウイルス活性成分を抽出す
る場合、使用するアオサはアオサそのもの(生の藻体)
でもよく、乾燥した藻体でもよい。アオサから抗ウイル
ス成分を抽出する場合、乾重量あたり数10倍量の有機溶
媒でアオサから抽出することが有効である。また、より
高純度の抽出物を必要とする場合は、乾重量あたり数倍
の水又はリン酸緩衝液(PH7)で水溶性画分を抽出後、
その残渣にアオサ乾重量あたり数10倍量の有機溶媒を加
えて抽出することで、より高純度の抽出物が回収でき
る。ここで使用する有機溶媒にはメタノール、エタノー
ル、クロロホルム等が含まれるが、これに限定されるも
のではない。さらに減圧等により、この抽出物から有機
溶媒を除去し、その抽出物を1%ジメチルスルホオキシ
ド(DMSO)に溶解させることができる。なお真空乾燥等に
より乾燥させ、粉末状にして長期保存することも可能で
ある。
【0015】こうして得られたアオサの有機溶媒抽出画
分は、後述の実施例で示すように効果的な抗ウイルス活
性を有している。また、アオサそれ自体についても、有
効な抗ウイルス活性が認められた。従って、アオサおよ
びその有機溶媒抽出画分は、抗ウイルス剤として有用で
ある。
【0016】本発明はまた、特に抗ウイルス活性を有す
る機能性飼料を提供する。その一つの態様として、アオ
サを1mm以下に微粉砕し、脂溶性画分を露呈しやすくし
たもの、及び上記のように有機溶媒抽出物を、従来使用
されている既知成分からなる餌に混合して魚病ウイルス
の感染を防止する技術を提供する。
【0017】次に、アオサから抗ウイルス剤を抽出し、
更にこれを用いて抗ウイルス性餌飼料を製造するための
一つの方法を説明する。この方法は、図1に示すよう
に、 1:アオサ回収工程 2:アオサの水抽出工程 3:アオサの有機溶媒抽出工程 4:アオサ抽出物の乾燥工程、及び 5:アオサ抽出物の餌料添加工程、からなる。
【0018】アオサ回収工程1では、自然界に存在する
アオサ又は培養生産したアオサを回収籠にて回収し、集
積する。このための装置としては、本発明者らの特願平
11-066247に記載の装置が利用可能である。
【0019】アオサ水抽出工程2では、アオサに泥が混
ざっている場合には水で洗浄した後、アオサの乾燥重量
比で数10倍の水を加え、ホモジナイザーによりアオサを
粉砕し、遠心分離又はメッシュ濾過によりアオサ粉砕残
渣を得る。
【0020】アオサ有機溶媒抽出工程3では、該アオサ
残渣にアオサの乾燥重量の数10倍の有機溶媒を加え、抽
出を行う。有機溶媒としてはエタノール、メタノール、
クロロホルムなどがあげられるが、操作上の容易さから
メタノール又はエタノールが好ましい。
【0021】アオサ抽出物の乾燥工程4は、真空凍結乾
燥装置にてアオサ抽出物を乾燥させる工程である。乾燥
によって粉末化が可能となり、長期保存が容易になる。
また、乾燥により、餌への混合が容易になる。抽出にメ
タノールやクロロホルムを使用した場合は、これらの有
機溶媒を真空減圧下において完全に除去した後、乾燥さ
せることとなる。しかし、毒性の低いエタノールを使用
した場合には、エタノールを真空減圧下で完全に除去す
る必要はなく、少量のエタノール溶液として抽出物を保
存すること、又は後述の餌料添加工程に利用することが
できる。
【0022】アオサ抽出物餌料添加工程5は、魚の餌と
なる配合餌料や魚ミンチに、該アオサ有機溶媒抽出物を
混合する工程である。この工程は、一連のアオサ抽出工
程に隣接する大規模な場合と、給餌時の現場にて混合す
る小規模または簡易型の2つに分類される。どちらの場
合においても、アオサの有機溶媒抽出物を餌に混合する
割合は重量比で0.1〜2%が望ましい。
【0023】なお、図1の方法では、抗ウイルス成分と
してアオサの有機溶媒抽出画分を用いたが、その代わり
にアオサそれ自体を用いてもよい。その場合、アオサ回
収工程1からのアオサ、またはアオサの水抽出工程2を
経たアオサの何れを用いてもよい。何れの場合にも、ア
オサそのものを餌に混合する割合は、重量比で1〜20
%、望ましくは3〜10%である。
【0024】
【実施例】実施例1 アオサ抽出物の製造、及び抗ウイルス活性試験。
【0025】実験には、横浜海の公園から採取した不稔
性アオサ(Ulva lactuca)を使用した。なお、ここで使用
したアオサは、不燃性アオサMHI-ATRC-1株として工業技
術院生命工学工業技術研究所に寄託新生したが、緑藻で
あるとの理由で受託拒否の対象となった株である。
【0026】上記のアオサ乾重量換算10gにリン酸緩衝
液(pH7)を加え、粉砕し、水溶液として抽出後、さら
にその残差から有機溶媒で抽出を行った。抽出した成分
を乾燥し、重量を測定した。その結果、リン酸緩衝液抽
出成分は480mg、クロロホルム抽出成分は1000mg、メタ
ノール抽出成分は1440mg、エタノール抽出成分は1520m
gであった。操作性のよいエタノールやメタノールで
は、ほぼ同重量の粗抽出物を得ることができた。抽出し
たそれぞれの画分を1%DMSOに溶解し、抗ウイルス活性
の評価に使用した。
【0027】2種類の魚病ウイルス[ヒラメラブドウイ
ルス(HRV8401−H株―宿主:コイ由来EPC細胞)及びサ
ケ科魚類の伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNVChAb株―
宿主:マスノスケ胚由来CHSE―214細胞)]を使用して、
アオサ抽出物の抗ウイルス活性を評価した。ウイルス溶
液とアオサ抽出物を1時間共存させた後、ウイルスを各
種宿主細胞に接種した。接種後、シャーレ上で7日間培
養し、培養により出現するプラーク(ウイルスの感染に
よって溶解した細胞群が穴状に出現したもの)の数を測
定した。アオサ抽出物を添加していない場合のプラーク
数を100として、その減少率を測定した。
【0028】アオサのメタノール抽出液とリン酸緩衝液
抽出液のウイルス感染抑制効果を、2種類のウイルスで
調べた。その結果図2、3に示すようにメタノール抽出物
は、2種類のウイルス(IHNV,HRV)の感染を濃度依存的
に抑制した。メタノール抽出物50μg/ml以上の濃度では
プラークを完全(100%)阻害した。図2及び図3に示す
ように、アオサのリン酸緩衝液抽出物では、プラーク形
成阻害はほとんど見られなかった。
【0029】さらに、メタノール抽出で抑制効果を示し
たIHNVにおいて、エタノール、及びクロロホルムの抽出
液の抗ウイルス活性を比較した。その結果図4に示すよ
うに3種の有機溶媒抽出物(メタノール、エタノール、
クロロホルム)には、同程度のウイルス抑制効果が認め
られた。これらの結果から、この抗ウイルス活性を持つ
性分は脂溶性の物質であろうと考えられる。作用機構に
ついては明確ではないが、アオサの有機溶媒抽出物の有
効成分は脂溶性と考えられるため、ウイルスのエンベロ
ープ(脂質やタンパク質からなるウイルスを包む膜)部
分などに作用し、効果を発揮するものと考えられる。
【0030】実施例2: アオサの餌料への配合と抗ウ
イルス活性 アオサの配合は、乾燥したアオサの微粉末を、魚油類、
又は植物油類等を混合した配合飼料に添加した。固形物
の添加濃度は10%(重量比)とした。
【0031】アオサ抽出物の配合は、乾燥したアオサの
微粉末を、魚油類、又は植物油類等を混合した配合飼料
に添加した。固形物の添加濃度は2%(重量比)とし
た。
【0032】上記2種の混合形態において、魚類用の餌
料は水中でも形を保つことができ、養殖魚(ヒラメ)が
容易に接種することが可能であった。
【0033】次に、アオサの抗ウイルス活性を確認する
ために、アオサ及びアオサのメタノール抽出物を投与し
たヒラメ成魚のウイルス抵抗性について検証した。HRV
ウイルスを感染させたヒラメ(1群100匹)に各アオサ粉
末10%(重量比)とアオサのメタノール抽出物2%(重
量比)を配合した餌料を給餌してから5週間飼育し、そ
の生存率を調べた。その結果を表1に示す。表1に示した
ように通常の餌を与えたグループの生存率は59%まで顕
著に低下した。一方、アオサ粉末を添加したグループで
は生存率94%、メタノール抽出物を添加したグループで
は96%と高い生存率であった。
【0034】
【表1】
【0035】なお、HRVウイルスを感染させずに飼育し
たブランク試験での生存率は、アオサ無添加では95%、
アオサ粉末添加では96%、アオサのメタノール抽出物で
は97%であり、上記の抗ウイルス活性に影響を及ぼすも
のではなかった。
【0036】以上の結果から抗ウイルス成分を含むアオ
サ又はアオサの有機溶媒抽出物を給餌することで、成魚
においてウイルス病に対する抵抗性、即ちウイルス病に
よる死滅率の低減が可能となった。
【0037】
【発明の効果】上記実験結果より、本発明のアオサ又は
アオサの有機溶媒抽出物は、各種魚病ウイルスに対する
抗ウイルス活性を有し、抗ウイルス剤の他、抗ウイルス
性餌料の添加成分、及び医薬品原料としても有用であ
る。特に、養殖事業において、ワクチン注射などの煩雑
な作業をすることなく、餌と共に抗ウイルス成分を投与
することでウイルスを予防する効果を奏する。
【0038】本発明の抗ウイルス剤は、脂溶性のエンベ
ロープを有する種々のウイルスに効果を発揮すると考え
られ、エンベロープを有する多様なウイルス、たとえば
インフルエンザウイルスなどに対する抗ウイルス剤とし
ても有用であることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】アオサからの抗ウイルス成分抽出及び加工の工
程を示すグラフである。
【図2】アオサ抽出物のヒラメラブドウイルスに対する
抑制効果を示すグラフである。
【図3】アオサ抽出物のサケ科魚類伝染性造血器壊死症
ウイルスに対する抑制効果を示すグラフである。
【図4】各種アオサ抽出物のサケ科魚類伝染性造血器壊
死症ウイルスに対する抑制効果を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) //(C12P 1/00 C12R 1:89 C12R 1:89) (72)発明者 宮坂 政司 神奈川県横浜市中区錦町12番地 三菱重工 業株式会社横浜製作所内 (72)発明者 菅田 清 神奈川県横浜市金沢区幸浦一丁目8番地1 三菱重工業株式会社横浜研究所内 Fターム(参考) 2B005 GA01 GA02 HA02 JA02 LB07 2B150 AA01 AA08 AB10 BE04 CD31 CE26 CJ08 DD48 DD57 4B064 AH19 CA08 CE08 CE16 DA04 DA11 4C088 AA15 BA10 CA06 NA14 ZB33 ZC61

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 活性成分として、アオサ又はアオサの有
    機溶媒抽出画分を含有することを特徴とする抗ウイルス
    剤。
  2. 【請求項2】 魚病の治療または予防における、請求項
    1に記載の抗ウイルス剤の使用。
  3. 【請求項3】 動物用餌飼料と共に、請求項1に記載の
    抗ウイルス剤を含有することを特徴とする抗ウイルス性
    餌飼料。
  4. 【請求項4】 回収したアオサから水溶性成分を除去す
    るための、水抽出工程と;上記水抽出工程で得た残渣か
    ら脂溶性画分を抽出するための、有機溶媒抽出工程と;
    上記有機溶媒抽出工程で得た脂溶性画分を乾燥する工程
    と;を具備することを特徴とする抗ウイルス剤の製造方
    法。
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