JP2002265209A - カーボンナノチューブの精製方法 - Google Patents

カーボンナノチューブの精製方法

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啓之 伊藤
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 精製カーボンナノチューブの回収率が高く、
精製工程の自動化が容易な精製方法を提供する。 【解決手段】 カーボンナノチューブを高濃度で含有す
る煤状粉末を過酸化水素水溶液中で湿式酸化処理し、ア
モルファスカーボン微粒子を除去する湿式酸化工程(ス
テップ1)と、酸化処理後の煤状固形物を蒸留水中にて
超音波分散と沈降分離を繰り返し行い、ナノ粒子とグラ
ファイトを分離除去する沈降処理工程(ステップ2)
と、沈降処理後の煤状固形物を例えば塩酸等の酸溶液に
て洗浄し金属微粒子を除去する酸処理工程(ステップ
3)とで構成する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、幾何学的、物理化
学的特徴を利用して電子材料やナノテクノロジーへの応
用などさまざまな分野への応用が考えられるカーボンナ
ノチューブの精製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】カーボンナノチューブは、例えば電界放
出型電子源、フラットパネル(電界放出型)ディスプレ
イ、走査プローブ顕微鏡の探針、水素ガス吸蔵物質、ナ
ノボンベとして近年用途が期待されている。このような
急速な需要の拡大から大量に安定して生産することがで
きるカーボンナノチューブの製造方法および精製方法が
研究されている。
【0003】カーボンナノチューブの研究は、1991
年にフラーレンの副生成物として多層ナノチューブ(以
下、MWNTsという。)が飯島らによって発見された
ことから始まった。MWNTsはグラファイト棒のアー
ク放電によるフラーレン合成の際の陰極堆積物に含ま
れ、多層のグラファイトシートが丸まった同心円筒状の
構造を持ち、直径は数十nmの微細物である。その後、
1993年に飯島らは鉄粉末を触媒としたアーク放電に
よって、直径が1nm前後の単層ナノチューブ(以下、
SWNTsという。)を含む煤の合成に成功した。また
それと同時期に、コバルトを触媒としたアーク放電によ
り、直径が1.2nmのSWNTsを合成した。SWN
Tsは一枚のグラファイトシートが円筒状に巻かれた構
造で、直径は数nmである。MWNTsの合成には金属
触媒を必要としないが、SWNTsの合成には金属触媒
が必要不可欠である。また、金属触媒の種類により、異
なる直径のSWNTsを選択的に合成することができ
る。現在さまざまな用途が検討されているが、実用化の
ためには高純度化精製が不可欠である。
【0004】カーボンナノチューブは主にグラファイト
棒を用いたアーク放電によって合成される。アーク放電
は、不活性ガス中で炭素電極間に電圧を印加し放電させ
る方法である。アーク放電により電極間の温度は数千度
に達し、気化した陽極が不活性ガスで冷却され、陰極お
よび装置内壁に煤が堆積する。SWNTsを合成するた
めには、Fe/NiやCo/Niなどの金属触媒を陽極
に添加する必要がある。金属触媒の種類によって合成さ
れるSWNTsの性質や含有量が異なるが、Fe/Ni
を用いると高濃度のSWNTsを含む煤が得られる。そ
の他にもSWNTsの合成法には、高出力のレーザーで
グラファイトを気化させるレーザー蒸発法がある。この
方法はSWNTsの純度の高い煤が得られるという利点
を持つが、アーク放電法に比べて装置が複雑で、かつ煤
の生産性が低いため、大量合成には不向きである。
【0005】アーク放電によって合成された煤の中に
は、SWNTs以外にもアモルファスカーボン、グラフ
ァイト微粒子、金属微粒子、ナノ粒子などの不純物が多
量に含まれている。これら不純物を取り除くためには精
製が必要となるが、現在まで提案されている精製法に
は、燃焼処理法、水熱処理法、限外濾過法、沈降分離法
などがある。
【0006】燃焼処理法は、酸素雰囲気下で加熱すると
炭素は酸化してCO2 等のガスとなることを利用して分
離する方法である。アモルファスカーボンとSWNTs
を比較すると、構造的にSWNTsよりアモルファスカ
ーボンの方が酸化されやすい。したがって、この燃焼温
度の差を利用してSWNTsが酸化されない温度で煤を
大気中で加熱することにより、アモルファスカーボンを
除去することができる。この燃焼処理は、約370℃で
1時間程度が適当とされている。ただし、この方法で
は、SWNTsよりもグラファイトの方が酸化温度が高
いため、グラファイトは除去されない。
【0007】水熱処理法は、合成したSWNTs含有煤
を蒸留水中で還流装置を用いて長時間加熱(100℃)
する方法である。この水熱処理法により、煤中の非晶質
カーボンナノチューブ粒子やカーボンナノ多面体粒子の
ネットワークを破壊することができる。
【0008】限外濾過法は、分離対象物質の大きさを利
用して分離する方法で、レーザー蒸発法で合成した煤に
対し、ナノ粒子とSWNTsを分離することができる。
【0009】また、ナノ粒子、SWNTs、グラファイ
トをその沈降速度の違いを利用して分離する方法もあ
る。蒸留水中で超音波を照射して分散させると、グラフ
ァイトがもっとも速く沈降し、ナノ粒子が分散状態で上
澄みに残る。これを利用して、この方法では、まず超音
波分散後しばらく静置して上澄みを取り除くという処理
を繰り返し行ってナノ粒子を除去し、次にすぐに沈降す
るグラファイトを取り除くため、超音波照射によりSW
NTsを分散させてSWNTsの分散液を取り出すこと
を数回行う。
【0010】さらに、金属粒子は酸処理により除去する
ことができる。例えば、上記沈降処理にて分離した煤を
約6モル/l濃度の濃塩酸中で超音波分散させた後静置
して、金属粒子を取り除く。
【0011】したがって、合成された煤からSWNTs
を精製抽出する方法としては、燃焼処理によってアモル
ファスカーボンを除去し、続いてSWNTsと副生成物
の上記ネットワークを破壊した後、ナノ粒子とグラファ
イトを除去するために超音波照射と沈降分離を繰り返し
行い、最後に酸処理を行って金属粒子を除去することに
より、高純度のSWNTsを得ることができる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従
来の精製方法は、回収率に再現性がないため、工業的に
大量に生産する際の精製方法としては望ましくない。回
収率が低下する原因として考えられるのは燃焼処理であ
る。SWNTsはMWNTsとは異なり、耐酸化性が低
いため、均一な燃焼温度によって均一に酸化しなけれ
ば、アモルファスカーボンとともに目的のSWNTsが
燃焼してしまう。この燃焼温度の不均一性が回収率の再
現性低下の原因と考えられる。また、ナノチューブの端
部は非常に不安定で、燃焼による酸化は不安定部分から
進行するため、ナノチューブの酸化反応が端部から進行
してしまい、ナノチューブの端部が開口して回収率の低
下につながる。
【0013】SWNTsの回収率を向上させる酸化処理
として、過マンガン酸カリウムを徐々に滴下して5時間
程度還流してアモルファスカーボンを除去する方法があ
るが、この酸化処理ではマンガンが混入するため、後工
程にて濃塩酸にて除去する必要がある。
【0014】近い将来、SWNTs、MWNTsがその
特有な性質から多くの用途に大量に使用されることが予
想される。そのためには大量生産に応用可能な製造、精
製方法を確立する必要があるが、現在の製造、精製方法
では高品質のカーボンナノチューブを安定に供給するこ
とができない。
【0015】大量生産するためには、製造、精製工程を
自動化することが必要である。従来の精製方法では、燃
焼処理法を用いると回収率が低下してしまうし、過マン
ガン酸カリウムを用いると副生成物としてマンガンを回
収する必要がある。限外濾過法でも少量ならば分離が可
能であるが、大量に処理するような状況ではフィルター
の早期の交換が必要となる。このように、従来の精製方
法では、合成された煤からSWNTsを精製抽出する際
に、経験による評価に頼るところが大きいため、大量生
産に不向きである。
【0016】本発明は、上記従来技術の問題点に対処し
てなされたもので、大量生産のための精製工程の自動化
が容易で、回収率の高いカーボンナノチューブの精製方
法を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】即ち本発明は、カーボン
ナノチューブを含有する煤状粉末を過酸化水素水溶液中
で湿式酸化処理する工程を備えてなることを特徴とする
カーボンナノチューブの精製方法である。
【0018】また本発明によれば、カーボンナノチュー
ブを含有する煤状粉末を過酸化水素水溶液中で湿式酸化
処理する第1の工程と、該第1の工程で得られた沈降物
から沈降速度の違いによってカーボンナノチューブを主
成分とする区画を単離する第2の工程とを有し、前記第
1および第2の工程を連続的に行うことを特徴とするカ
ーボンナノチューブの精製方法が提供される。
【0019】本発明のカーボンナノチューブの精製方法
は、カーボンナノチューブを含有する煤状粉末を、燃焼
処理および水熱処理によって酸化処理する代わりに、過
酸化水素水溶液中で湿式酸化処理することを特徴とする
もので、これにより精製工程の自動化とカーボンナノチ
ューブの回収率の向上が可能となる。
【0020】本発明では、過酸化水素水の濃度を変化さ
せることにより酸化反応速度を調節することができると
ともに、燃焼酸化とは異なり、ほぼ均一な条件で酸化す
ることができるため、回収率の低下しない、より穏やか
な条件での反応制御が可能である。また、過マンガン酸
カリウムのようなマンガン生成問題を生じることなく、
アモルファスカーボン等の不純物を酸化除去することが
可能となる。
【0021】また、酸化処理とその後の沈降分離処理お
よび酸処理を含む精製工程がすべて液相で行われるた
め、精製工程における各処理を連続して行うことが可能
となり、精製工程の自動化を図ることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づいて本発明の実
施の形態を説明する。図1は、本発明のカーボンナノチ
ューブの精製方法の一実施の形態を示す精製工程図であ
る。本実施の形態の精製工程は、カーボンナノチューブ
を高濃度で含有する煤状粉末を過酸化水素水溶液中で湿
式酸化処理し、アモルファスカーボン微粒子を除去する
湿式酸化工程(ステップ1)と、酸化処理後の煤状固形
物について蒸留水中にて超音波分散と沈降分離を繰り返
し行い、ナノ粒子とグラファイトを分離除去する沈降処
理工程(ステップ2)と、沈降処理後の煤状固形物を例
えば塩酸等の酸溶液にて洗浄し金属微粒子を除去する酸
処理工程(ステップ3)とで構成される。
【0023】カーボンナノチューブを高濃度で含有する
煤状粉末は、例えばグラファイト棒を電極に用いたアー
ク放電法により合成される。この煤状粉末を、まずステ
ップ1にて過酸化水素水溶液、好ましくは10〜25重
量%の過酸化水素水溶液中で加熱還流の条件下で湿式酸
化処理する。この処理で煤状粉末中のアモルファスカー
ボンが酸化されて除去される。
【0024】次に、ステップ2にて、湿式酸化処理後の
煤状固形物を蒸留水中に投入し、超音波にて分散させて
静置後の上澄みを取り除く操作を繰り返し行って、沈降
速度が遅いナノ粒子を除去する。続いて、超音波にて分
散させてその分散液を回収する操作を繰り返し、カーボ
ンナノチューブより速やかに沈降するグラファイトを除
去する。
【0025】最後に、ステップ3にて、沈降処理後の煤
状固形物を濃塩酸中に投入し、超音波にて分散させた後
静置する操作を繰り返して、金属微粒子を溶解除去し、
沈降物を回収する。
【0026】以上のステップ1〜3の工程により精製カ
ーボンナノチューブを高回収率で再現性よく得ることが
できる。また、ステップ1〜3の工程はすべて液相で行
われるため、連続して処理することができ、精製工程を
自動化することができる。
【0027】
【実施例】以下、本発明を実施例についてさらに詳細に
説明する。カーボンナノチューブの作製 直径6mmの純度99.99%のグラファイト棒に直径
3.2mmの穴をあけ、Fe、Ni、Cの各粉末を重量
比で約1:1:3の割合で混合したものを、棒全体に対
してFe/Niの濃度が約5原子%になるように充填し
た。この触媒含有グラファイト棒を陽極に、直径10m
mのグラファイト棒を陰極に用いて、図2に示すアーク
放電装置にてSWNTsを含む煤を以下の手順で合成し
た。
【0028】図2において、まず、陽極1と陰極2を接
触させた状態で取り付けた後、ロータリーポンプ3で排
気し、真空計4にて所定圧力まで達したところで、直流
電源5にて100Aの直流電流を流して、陽極1に詰め
たFe/Ni粉末をグラファイトの通電抵抗加熱により
焼結させた。次に、放電室6内にHeガス導入口7より
Heガスを100Torr(1.33×104Pa)ま
で満たし、直流電流70Aでアーク放電を行った。放電
中は均一な電圧がかかるように電極間距離を約5mmに
保持した。放電後、放電室6の内壁上部と天板に付着し
た、SWNTsが高濃度で含まれる煤を煤回収口8より
回収した。
【0029】カーボンナノチューブの精製 上記製造方法で生成した煤には、さまざまな不純物が含
まれる。まず酸化処理によってアモルファスカーボン微
粒子を除去する。この酸化処理を、以下の7通りで行っ
た。比較例1は従来技術の燃焼処理例を、比較例2は従
来技術の水熱処理例を、実施例1〜5は過酸化水素水に
よる湿式酸化処理例を示すものである。
【0030】比較例1 上記製造方法で生成した煤を370℃のオーブン中で6
0分間酸化処理し、アモルファスカーボンの除去を行っ
た。
【0031】比較例2 上記製造方法で生成した煤を約700mlの蒸留水中に
入れ、還流装置にて還流しつつ加熱した。この処理は、
ラマン散乱分光にて確認し、アモルファスカーボンに起
因するピークがなくなるまで約6時間行った。
【0032】実施例1 上記製造方法で生成した煤を10重量%濃度の過酸化水
素水約700ml中に入れ、還流装置にて還流しつつ加
熱した。この処理は、ラマン散乱分光にて確認し、アモ
ルファスカーボンに起因するピークがなくなるまで行っ
た。
【0033】実施例2 上記製造方法で生成した煤を15重量%濃度の過酸化水
素水約700ml中に入れ、還流装置にて還流しつつ加
熱した。この処理は、ラマン散乱分光にて確認し、アモ
ルファスカーボンに起因するピークがなくなるまで行っ
た。
【0034】実施例3 上記製造方法で生成した煤を20重量%濃度の過酸化水
素水約700ml中に入れ、還流装置にて還流しつつ加
熱した。この処理は、ラマン散乱分光にて確認し、アモ
ルファスカーボンに起因するピークがなくなるまで行っ
た。
【0035】実施例4 上記製造方法で生成した煤を25重量%濃度の過酸化水
素水約700ml中に入れ、還流装置にて還流しつつ加
熱した。この処理は、ラマン散乱分光にて確認し、アモ
ルファスカーボンに起因するピークがなくなるまで行っ
た。
【0036】実施例5 上記製造方法で生成した煤を30重量%濃度の過酸化水
素水約700ml中に入れ、還流装置にて還流しつつ加
熱した。この処理は、ラマン散乱分光にて確認し、アモ
ルファスカーボンに起因するピークがなくなるまで行っ
た。
【0037】次に、上記比較例1、2、および実施例1
〜5の酸化処理を行った各試料について、それぞれ蒸留
水中に移し、ナノ粒子およびグラファイト粒子を除去す
るための沈降処理を行った。初めに、煤状試料を蒸留水
中に超音波分散させ、静置した後、沈降速度が比較的遅
いナノ粒子を多く含む上澄みを除去する操作を、上澄み
の色が透明になるまで繰り返し行った。ついで、分散後
速やかに沈降するグラファイトを除去するために、超音
波分散後のSWNTsを多く含む分散液を回収する操作
を繰り返し行い、SWNTsを濃縮した。
【0038】最後に、上記沈降処理を行った各試料につ
いて、金属微粒子を除去するため、約6モル/lの濃度
の塩酸溶液に入れて超音波で分散させ、約60℃のオー
ブン内で静置した。この操作を煤が沈降するたびに繰り
返し行い、約2日間かけて行った。
【0039】上記したように酸化処理工程を変えてSW
NTsの精製を行った実験例を、比較例1、比較例2、
実施例1〜5として、その精製前後および精製過程の状
態評価を行った。さらに、湿式酸化処理後の沈降処理を
図3に示す自動沈降分離装置にて行った実験例を実施例
6として精製の状態評価を行った。
【0040】図3において、第1槽11はグラファイト
に代表されるようなSWNTsよりも重い不純物を除去
するために設けられ、第2槽12はカーボンアモルファ
ス微粒子やナノ微粒子などのSWNTsよりも軽い不純
物を除去するために設置される。まず、第1槽11中に
湿式酸化処理工程を終えた煤状試料を投入し、蒸留水導
入口13より蒸留水を導入し、超音波発信器14により
超音波振動させることにより、煤状試料を蒸留水中に分
散させる。このとき、上澄みだけを第2槽12に注入す
ることによって、SWNTsよりも重い不純物を除去す
ることができる。次に、第2槽12に入った煤状試料を
再び超音波発信器14により超音波振動させて分散さ
せ、流出防止メッシュ15を通過した上澄みを排水口1
6より排出することによって、SWNTsよりも軽い不
純物を除去することができる。なお、第2槽12では、
アーク放電における電圧および金属触媒等の合成条件に
よってSWNTsの大きさが変化するので、SWNTs
が排出されないよう流出防止メッシュ15の粗さおよび
排水口16の高さを調節する必要がある。また、蒸留水
の流量によっても排水口16の高さを調節する必要があ
る。この自動沈降分離装置を用いた実施例6の実験条件
は以下の通りである。
【0041】実施例6 実施例3と同様に20重量%濃度の過酸化水素水を用い
て湿式酸化処理した後、煤状試料を、図3に示す自動沈
降分離装置に入れ、沈降処理を行った。処理条件として
は、洗浄用蒸留水の流量を0.3リットル/分とし、流
出防止メッシュ15は400メッシュのものを用いた。
第1槽11および第2槽12の容積は約500mlのも
のを使用した。その後、前述した方法で酸処理を行っ
た。
【0042】精製の評価 SWNTsを含む煤状試料の合成および精製状態の評価
は、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所製、冷陰極
電界放射型走査型電子顕微鏡;S4100:加速電圧2
00kV)、透過型電子顕微鏡(TEM、日立製作所
製、冷陰極電界照射型透過型電子顕微鏡;HF200
0:加速電圧200kV)、およびラマン散乱測定を用
いて行った。すなわち、SEM観察により試料中のSW
NTsの全体的な濃縮状態を、TEM観察によりSWN
Tsの表面状態を評価した。また、試料中のSWNTs
の濃度をラマン散乱スペクトルで評価した。
【0043】ラマン散乱スペクトルにおいて、SWNT
s特有のピークは1580cm-1および1600cm-1
付近に現れる。1600cm-1付近のピークは六員環に
起因する振動モードであり、グラファイトシートの振動
モードと一致する。しかしながら、SWNTsは円筒構
造をとるため、シートとは異なり、断面方向にも固有の
振動モードを持つ。1580cm-1付近の振動モードが
これに相当する。これら2種類のピークが存在すること
によって、SWNTsの存在を確認することができる。
また、不完全な構造をとるようなグラファイトやアモル
ファスグラファイトなどに起因する振動モードの吸収は
1350cm-1付近に現れる。今回の測定では、これら
に起因するような1350cm-1付近のピークと、SW
NTsに起因するような1580cm-1および1600
cm-1付近のピークとの相対強度の比較を行うことで精
製の評価とした。評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】表1から明らかなように、燃焼反応による
酸化処理よりも過酸化水素(H22 )水溶液を用いた
湿式酸化処理法の方が回収率が高い。また、過酸化水素
濃度を変えることによって、酸化処理の程度を調節する
ことができ、回収率50%以上とするためには過酸化水
素濃度を10〜25重量%の範囲とすることが好まし
い。一方、過酸化水素を加えない場合、すなわち蒸留水
の場合は、アモルファス不純物とSWNTsが分離しに
くく、酸化処理時間を長く行う必要があるため、回収率
が低い。以上のことから、過酸化水素水が湿式酸化処理
に有効であることが分かる。また、実施例6の評価結果
が示すように、長時間監視の必要な沈降処理を図3に示
すような連続2槽分離方式の装置を用いることによって
自動化することができ、SWNTsを高い回収率で精製
することができる。
【0046】
【発明の効果】上述したように、請求項1〜4の発明に
よれば、カーボンナノチューブを含有する煤状粉末を過
酸化水素水溶液中で湿式酸化処理することにより、酸化
条件を均一かつ容易に制御することができ、カーボンナ
ノチューブの回収率を向上させることができる。
【0047】また、請求項2の発明によれば、湿式酸化
処理の工程と沈降分離処理の工程を連続して行うことに
よって、カーボンナノチューブの量産に必要な精製工程
の自動化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のカーボンナノチューブの精製方法の一
実施の形態を示す精製工程図である。
【図2】カーボンナノチューブを生成するアーク放電装
置の一例を示す模式図である。
【図3】自動沈降分離装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1……陽極、2……陰極、3……ロータリーポンプ、4
……真空計、5……直流電源、6……放電室、7……H
eガス導入口、8……煤回収口、11……第1槽、12
……第2槽、13……蒸留水導入口、14……超音波発
信器、15……流出防止メッシュ、16……排水
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 伊藤 啓之 東京都品川区北品川6丁目7番35号 ソニ ー株式会社内 (72)発明者 田中 泰光 東京都品川区北品川6丁目7番35号 ソニ ー株式会社内 Fターム(参考) 4D071 AA62 AB45 DA20 4G046 CC10

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 カーボンナノチューブを含有する煤状粉
    末を過酸化水素水溶液中で湿式酸化処理する工程を備え
    てなることを特徴とするカーボンナノチューブの精製方
    法。
  2. 【請求項2】 カーボンナノチューブを含有する煤状粉
    末を過酸化水素水溶液中で湿式酸化処理する第1の工程
    と、該第1の工程で得られた沈降物から沈降速度の違い
    によってカーボンナノチューブを主成分とする区画を単
    離する第2の工程とを有し、前記第1および第2の工程
    を連続的に行うことを特徴とするカーボンナノチューブ
    の精製方法。
  3. 【請求項3】 前記過酸化水素水溶液中の過酸化水素濃
    度が10〜25重量%であることを特徴とする請求項1
    または2記載のカーボンナノチューブの精製方法。
  4. 【請求項4】 過酸化水素水溶液中での湿式酸化処理を
    還流条件下で行うことを特徴とする請求項1または2記
    載のカーボンナノチューブの精製方法。
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