JP2002170220A - 磁気記録媒体およびその製造方法 - Google Patents

磁気記録媒体およびその製造方法

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JP2002170220A JP2000363661A JP2000363661A JP2002170220A JP 2002170220 A JP2002170220 A JP 2002170220A JP 2000363661 A JP2000363661 A JP 2000363661A JP 2000363661 A JP2000363661 A JP 2000363661A JP 2002170220 A JP2002170220 A JP 2002170220A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 保護層表面への汚染物質の吸着を防ぐことに
より保護層と潤滑層との密着性・結合性を向上させると
ともに、潤滑層の劣化を防止することにより長期間にわ
たり使用されても安定性に優れた磁気記録媒体を提供
し、さらに、そのような磁気記録媒体を高価な設備投資
を行うことなく簡単に製造することができる製造方法を
提供する。 【解決手段】 保護層表面への汚染物質の吸着を防止す
るために保護層表面に一時的に被覆層(汚染防止層)を
設け、ついで、潤滑剤を、汚染防止層を構成する溶媒と
同一の溶媒と混合するか、または汚染防止層を構成する
材料を溶解する溶媒と混合して調製された潤滑剤溶液
を、汚染防止層の上に塗布することによって、汚染防止
層が潤滑剤溶液に取り込まれた潤滑層を形成することに
より、結果的に、磁性層、保護層、および潤滑層が順次
積層された磁気記録媒体を得る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、現在、コンピュー
タの外部記録装置として主流となっている磁性層を具え
たハードディスクドライブ(HDD)に用いられる磁気
記録媒体に関し、詳しくは、磁性層と保護層と潤滑層と
を具えた磁気記録媒体に関する。さらに詳しくは、保護
層表面の汚染を防止するための暫定的な被覆層、すなわ
ち汚染防止層が設けられ、その被覆層の上に潤滑剤溶液
が塗布されることにより、被覆層が潤滑剤溶液に取り込
まれて形成された潤滑層を具えた磁気記録媒体、および
そのような磁気記録媒体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】磁気記録媒体は、固定磁気記録媒体装置
などにおいてコンピュータなどのデータ記録媒体として
汎用的に利用されている。固定磁気記録媒体装置は、磁
気記録媒体駆動機構、磁気ヘッド駆動機構、磁気ヘッド
停止機構、およびデータ転送制御機構とともに、単数も
しくは複数の磁気記録媒体を組み込んだ装置である。
【0003】従来型の固定記録媒体装置は、磁気記録媒
体の回転時に磁気ヘッドが浮上し、磁気記録媒体を回転
させる回転駆動モータの停止時に磁気ヘッドが磁気記録
媒体表面と接触するコンタクト・スタート・ストップ
(CSS)方式が採用されている。この方法では、磁気
記録媒体の回転開始時および停止時にヘッドが磁気記録
媒体表面と摺動し、ヘッドと記録媒体表面との間に摩擦
が生じる。このような摩擦等から磁性層を保護するため
に保護層が設けられており、さらに保護層の表面潤滑特
性を改善するために潤滑層が積層されている。潤滑層
は、保護層表面に均一な膜厚で安定に形成されることが
必要であり、保護層との密着性・結合性が高いことが重
要である。
【0004】近年、固定磁気記録媒体装置においては、
高記録密度化、大容量化、およびデータ転送速度高速化
などの進歩が著しい。そして、このような高記録密度
化、大容量化、およびデータ転送速度高速化に対応する
ために、潤滑層が、保護層表面に均一な膜厚で密着して
安定に形成されることが益々重要になっている。
【0005】高密度化に対応するために、磁気記録媒体
の上に直接あるいは保護層を介して脂肪族炭化水素アル
コキシシランが被覆され、さらにこの上に潤滑剤が被覆
された構造とすることにより、磁性層あるいは保護層と
潤滑層との密着性を高めた磁気記録媒体が開発されてい
る(特開昭60−38729号公報)。
【0006】また、保護層と潤滑剤層との間の密着性を
高めることを目的とした層を設けることなく、保護層と
潤滑層との密着性を高めるために水酸基やピペロニル基
などの末端基を持ったパーフルオロポリエーテル系潤滑
剤が使用されている。このような潤滑剤は、例えばアウ
ジモント社から商品名「Fomblin Z DOL」
や「AM2001」で市販されている。慣用のパーフル
オロポリエーテル潤滑剤の多くは、分子量が低すぎると
潤滑特性が悪化し、耐熱性にも劣り、一方、分子量が高
すぎると吸着傾向になるため、数平均分子量(Mn)が
1500〜5500のものが使用されている。さらに密
着性を高めるために、潤滑層に加熱処理や紫外線照射な
どの処理が施されることも多い。
【0007】しかしながら、保護層表面は大気中に曝露
された瞬間からガス吸着や表面汚染が進行するために表
面エネルギーが低下し始め、大気中に曝露される時間が
長くなるほど、加熱処理や紫外線照射を施しても密着性
・結合性が向上し難くなる傾向がある。
【0008】そこで、潤滑層形成まで大気中に曝露する
ことなく、保護層形成に続いて蒸着により潤滑層を形成
させる試みがなされている。例えば、特開平9−120
524号公報には、密閉環境中で昇温された温度におい
て蒸着された潤滑層を有する磁気記録媒体が開示されて
いる。また、特開平8−321036号公報には、真空
条件下、気相重合により合成した潤滑剤を保護層上に吸
着させて形成された磁気記録媒体が開示されている。
【0009】しかしながら、蒸着により潤滑層を形成す
る方法では、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤は分子
量分布を有するために、低分子量成分が優先的に保護層
に吸着してしまい、蒸着後の媒体表面の平均分子量が、
蒸着される前の潤滑剤よりも低分子量化しやすい。低分
子量成分は、磁気記録媒体回転時の固定磁気記録媒体装
置内の昇温で蒸発してしまうため潤滑膜としての機能が
低下する。さらに、潤滑膜の膜厚を制御するための機構
を有した蒸着専用設備が必要である。
【0010】また、気相重合により潤滑層を形成する方
法では、平均分子量を制御するのが困難である。
【0011】保護層へのガス吸着や表面汚染は保護層と
潤滑層との密着性を低下させるだけでなく、酸化などに
よる潤滑層の劣化を促進させ、劣化した潤滑層はヘッド
に付着してヘッド汚れを生じさせることになる。ヘッド
に汚れが生じると、安定した低浮上飛行ができず、書き
込み読み取りの出力が不安定になり、最悪の場合にはヘ
ッドの墜落による傷の発生、さらにはヘッドクラッシュ
という重大な障害を引き起こす。
【0012】そこで、純水または低級アルコールを含む
純水によるスクラブ洗浄、低級アルコールを含む純水に
よる浸漬・引き上げ洗浄、低級アルコールを含む有機溶
媒によるヴェーパー洗浄のうちのいずれかの方法で保護
膜表面を洗浄した後に潤滑層を形成することにより、磁
気ヘッドへの汚れ転写が少なくてヘッド浮上し易く、か
つ、磁気ヘッド浮上量を低減できる磁気記録媒体が提案
されている(特開2000−235708号公報)。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、保護
層表面への汚染物質の吸着を防ぐことにより保護層と潤
滑層との密着性・結合性を向上させるとともに、潤滑層
の劣化を防止することにより長期間にわたり使用されて
も安定性に優れた磁気記録媒体を提供し、また、そのよ
うな磁気記録媒体を高価な設備投資を行うことなく簡単
に製造することができる製造方法を提供することにあ
る。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、このよう
な課題を解決するために、磁気記録媒体を製造する際
に、保護層表面への汚染物質の吸着を防止するために保
護層表面に一時的に被覆層を設け、ついで、その被覆層
の上に潤滑剤溶液を塗布することによって被覆層が潤滑
剤溶液に取り込まれた潤滑層を形成することにより、結
果的に、磁性層、保護層、および潤滑層が順次積層され
た長期使用安定性に優れた磁気記録媒体を提供できるこ
とを見出した。
【0015】すなわち、本発明の第1の形態である磁気
記録媒体は、非磁性基板上にそれぞれ少なくとも1層の
順次積層された磁性層、保護層、および潤滑層を有する
磁気記録媒体であって、その潤滑層は、保護層上に積層
された汚染防止層上に潤滑剤溶液を塗布することによ
り、その汚染防止層が潤滑剤溶液に取り込まれて形成さ
れた潤滑層であることを特徴とする。
【0016】上記第1の形態において、その潤滑剤溶液
は、汚染防止層を構成する溶媒と同一の溶媒と、潤滑剤
とから成るか、または汚染防止層を構成する材料を溶解
する溶媒と、潤滑剤とから成ることが好ましい。
【0017】また、本発明の第2の形態は、磁気記録媒
体の製造方法であって、 1)非磁性基板上に少なくとも1層の磁性層を形成する
工程、 2)その磁性層上に少なくとも1層の保護層を真空成膜
する工程、 3)その保護層を外気に触れさせることなく、保護層上
に汚染防止層を形成する工程、および 4)その汚染防止層上に潤滑剤溶液を塗布することによ
り汚染防止層が潤滑剤溶液に取り込まれた潤滑層を形成
する工程、を具えることを特徴とする。
【0018】さらにまた、本発明の第3の形態である磁
気記録媒体の製造方法は、 1)非磁性基板上に少なくとも1層の磁性層を形成する
工程、 2)その磁性層上に少なくとも1層の保護層を真空成膜
する工程、 3)その保護層を外気に触れさせることなく、保護層上
に汚染防止層を形成する工程、および 4)その汚染防止層を構成する溶媒と同一の溶媒と、潤
滑剤とから成る潤滑剤溶液、または、その汚染防止層を
構成する材料を溶解する溶媒と、潤滑剤とから成る潤滑
剤溶液を、汚染防止層上に塗布することにより潤滑層を
形成する工程、を具えることを特徴とする。
【0019】上記第2または第3の形態において、工程
3)は、有機溶媒を不活性ガス中で気化させて得られた
混合ガスを真空装置内に導入することにより保護層上に
汚染防止層を形成する工程であることが好ましい。
【0020】さらにまた、本発明の第4の形態である磁
気記録媒体の製造方法は、 1)非磁性基板上に少なくとも1層の磁性層を形成する
工程、 2)その磁性層上に少なくとも1層の保護層を真空成膜
する工程、 3)その保護層が大気中に曝されてから10分以内に、
保護層上に汚染防止層を形成する工程、および 4)その汚染防止層上に潤滑剤溶液を塗布することによ
り汚染防止層が潤滑剤溶液に取り込まれて潤滑層を形成
する工程を具えることを特徴とする。
【0021】さらにまた、本発明の第5の形態である磁
気記録媒体の製造方法は、 1)非磁性基板上に少なくとも1層の磁性層を形成する
工程、 2)その磁性層上に少なくとも1層の保護層を真空成膜
する工程、 3)その保護層が大気中に曝されてから10分以内に、
保護層上に汚染防止層を形成する工程、および 4)その汚染防止層を構成する溶媒と同一の溶媒と、潤
滑剤とから成るか、または、その汚染防止層を構成する
材料を溶解する溶媒と、潤滑剤とから成る潤滑剤溶液
を、その汚染防止層上に塗布することにより潤滑層を形
成する工程、を具えることを特徴とする。
【0022】上記第4または第5の形態において、工程
3)は、保護層が大気中に曝されてから10分以内に、
保護層を有機溶媒に浸漬することにより保護層上に汚染
防止層を形成する工程であることが好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】本発明の磁気記録媒体は、非磁性
基板上にそれぞれ少なくとも1層の順次積層された磁性
層、保護層、および潤滑層を有する。
【0024】本発明で使用される非磁性基板は、アルミ
合金、ガラス、プラスチック基板など慣用のいかなる非
磁性基板でもよい。具体的なプラスチック基板として
は、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエチレン
テレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミ
ドなどから成る基板を挙げることができる。基板は、ど
のような大きさのディスク基板であってもよく、またそ
の形態も、ディスク状に限られず、カード状、帯状など
いかなる形態でもよい。
【0025】本発明で使用される磁性層は、記録層とし
て使用できる強磁性金属を含み、具体的には、CoCr
TaPt、CoCrTaPt−Cr23、CoCrTa
Pt−SiO2、CoCrTaPt−ZrO2、CoCr
TaPt−TiO2、CoCrTaPt−Al23など
を成分とする磁性層である。
【0026】磁性層の厚さは、20nm以下であり、好
ましくは10〜20nmである。磁性層を複数用いて多
層構造の記録層としてもよい。
【0027】保護層は、記録層を形成する磁性層をヘッ
ドの衝撃、外界の腐蝕性物質などの腐蝕から保護する機
能を有する。保護層は、保護層を形成する慣用のいかな
る成分から形成されてもよく、特に限定されない。具体
的には、炭素、窒素含有炭素、水素含有炭素などから成
る。
【0028】保護層の厚さは8nm以下であり、好まし
くは3〜8nmである。保護層は1層でも多層でもよ
い。
【0029】各層の形成方法は特に限定されるものでは
ないが、通常、各方式スパッタ法により成膜される。ス
パッタ法の中でも、マグネトロン・スパッタリング法に
よる連続成膜が好ましい。保護層は、スパッタ法の他
に、CVD法によっても形成される。さらに、3nm以
下の保護層の形成には、FCA(Filtered Cathodic Ar
c)法を使用してもよい。
【0030】本発明の磁気記録媒体においては、磁性層
と保護層とが順次積層されていればよいが、さらに、必
要な機能を有する層を非磁性基板と磁性層との間に設け
ることができる。通常、基板上には下地層が設けられ
る。下地層は、下地層を形成する慣用のいかなる成分か
ら形成されてもよく、特に限定されない。具体的には、
Cr、Cr−W、Cr−V、Cr−Mo、Cr−Si、
Ni−Al、Co67Cr 33、Mo、W、Pt、Al23
などから成る。
【0031】非磁性基板がプラスチック基板である場合
には、シード層と、下地層とを順次積層してもよく、ま
た、緩衝層と、シード層と、下地層とを順次積層しても
よい。シード層とは、磁気記録媒体の表面の平坦性を向
上させ、且つ保磁力も向上せしめることができる層であ
る。このような機能を有する層は、具体的には、Tiを
主成分として含有する金属膜から成る。緩衝層は、シー
ド層の成膜にあたり成膜粒子が衝突してプラスチック基
板表面に及ぼすダメージを緩和することができるか、お
よび/または、昇温降温にともなうプラスチック基板と
シード層との膨張収縮の差を緩和することができる層で
ある。
【0032】好ましい磁気記録媒体は、非磁性基板を真
空中に導入してスパッタ法によりCr下地層、Co合金
磁性層をこの順に形成し、ついで、スパッタ法またはC
VD法によりカーボン保護層を形成する。
【0033】保護層への汚染物質の吸着を防ぐことによ
り保護層と潤滑層との密着性・結合性は高められる。本
発明では、保護層を形成してから潤滑層を形成するまで
の間、保護層を被覆する層を設けることにより、保護層
表面の汚染、およびガス吸着による潤滑剤分子の吸着部
位減少を防止し、保護層と潤滑層との密着性・結合性を
高める。本明細書中では、このような機能を有する被覆
層を汚染防止層と称する。汚染防止層は、最終的に得ら
れた磁気記録媒体において保護層と潤滑層との間に残っ
ていてもよいが、製造プロセスでの保護層表面の汚染、
およびガス吸着による潤滑剤分子の吸着部位減少を防ぐ
ことが目的であるため、得られた磁気記録媒体において
は、実質的に残存しないことが好ましい。
【0034】保護層を形成した後、形成された保護層を
外気に触れさせる前に有機溶媒を保護層表面に蒸着させ
て汚染防止層を形成した後に、大気圧下に戻す。好まし
くは、保護層を真空蒸着により形成し、ついで、有機溶
媒を不活性ガス中で気化させて得られた混合ガスを真空
装置内に導入することにより保護層上に汚染防止層を形
成した後に、大気圧下に戻す。
【0035】有機溶媒としては、フッ素系潤滑剤溶媒が
挙げられ、住友スリーエム製「PF−5060」、「F
C−77」、および「Novec HFE」シリーズ、
三井デュポンフロロケミカル製「Vertrel」シリ
ーズ、日本ゼオン製「ゼオローラ」シリーズ、並びにア
ウジモント製「Hガルデン」シリーズなどが市販されて
いる。不活性ガスとしては、好ましくは窒素ガスおよび
アルゴンガスが使用される。混合ガス中の有機溶媒の濃
度は、常温における飽和蒸気圧近傍であればよく、使用
する溶媒により変化する。蒸着効率を考慮すると、有機
溶媒の濃度は高い程好ましい。
【0036】保護層を形成した後に、大気圧下に戻して
もよいが、その場合は、大気圧下に戻してから汚染防止
層が形成されるまでの時間が短いほど好ましい。表面エ
ネルギーに関係ある指標として潤滑層の形成されていな
い保護膜表面における水の接触角の値があるが、大気中
に曝露されてから10分後には接触角の値が変化してお
り、表面エネルギーの低下が確認されている。したがっ
て、外気に触れてから10分以内に汚染防止層が形成さ
れなければならない。好ましくは5分以内である。形成
された保護層を外気に曝した後に汚染防止層を形成する
場合には、汚染防止層は、大気圧下に戻してから10分
以内に有機溶媒に浸漬させることにより形成されること
が好ましい。使用される有機溶媒は上述のとおりであ
る。保護層が形成された媒体は、上記列挙の市販の有機
溶媒に、通常、常温で数秒から数十秒の間浸漬される。
【0037】また、汚染防止層は、潤滑剤溶液中で酸化
還元することにより、潤滑剤溶液に溶解するか、または
昇華あるいは蒸発により消失する分子を保護層表面に吸
着することにより形成されてもよい。
【0038】さらにまた、汚染防止層の形成は、大気圧
下に戻してから10分以内に有機溶媒蒸気中に曝すこと
により形成されてもよい。有機溶媒蒸気への曝露は、有
機溶媒沸点近傍の温度に制御された密閉空間内で行われ
る。
【0039】形成された汚染防止層の上に潤滑剤溶液を
塗布して、潤滑層を形成する。潤滑剤溶液は、公知のデ
ィップコート法やスピンコート法などにより塗布され
る。したがって、潤滑膜の膜厚を制御するための機構を
有した蒸着専用設備などが不要であり、特別な分子量制
御も必要とされない。
【0040】汚染防止層は、保護層表面の汚染を防止
し、かつガス吸着による潤滑剤分子の吸着部位の減少を
防止できるものであれば、特に限定されるものではない
が、汚染防止層が潤滑剤溶液に取り込まれて潤滑層を形
成できるものであることが好ましい。
【0041】本明細書において使用される「汚染防止層
が潤滑剤溶液に取り込まれて形成された潤滑層」は、保
護層表面に吸着した汚染防止層を構成する材料(分子)
が、潤滑剤溶液中に拡散・吸収される態様、潤滑剤溶液
中で消失する態様、潤滑剤溶液中の吸着力の強い潤滑剤
分子と置換される態様のすべてを含み、最終的に得られ
た磁気記録媒体において汚染防止層が独立して存在して
いないことを意味する。
【0042】したがって、汚染防止層を構成する材料
は、具体的には、酸化還元などの化学反応後に溶解など
で最終的に潤滑剤溶液中に拡散・吸収され得るか、ある
いは、蒸発、昇華などで最終的に消失し得るか、または
潤滑剤溶液中の吸着力の強い潤滑剤分子と置換され得る
ものである。汚染防止層を構成する材料は、潤滑剤溶液
中の吸着力の強い潤滑剤分子と置換する分子であること
が好ましく、したがって、汚染防止層を構成する材料と
保護層との結合が、潤滑層と保護層との結合より弱くな
るように選択されることが好ましい。
【0043】潤滑剤溶液は、潤滑剤を、汚染防止層を構
成する溶媒と同一の溶媒と混合して調製されるか、また
は汚染防止層を構成する材料を溶解する溶媒と混合して
調製されることが好ましい。
【0044】潤滑剤としては、パーフルオロポリエーテ
ルが使用される。その中でもパーフルオロポリエーテル
の末端に保護層との結合性を高めるような誘導体が導入
されているものが好ましく、市販されているものとし
て、水酸基が導入されたZ−dol(商品名、アウジモ
ント社製)およびZ−Tetraol(商品名、アウジ
モント社製)、ピペロニル基が導入されたAM2001
(商品名、アウジモント社製)およびAM3001(商
品名、アウジモント社製)などを挙げることができる。
また、パーフルオロポリエーテルに添加剤を加えて潤滑
剤として使用してもよい。添加剤としては、シクロフォ
スファゼン化合物(ダウ・ケミカル社製X1P(商品
名))などを挙げることができる。
【0045】汚染防止層が潤滑剤溶液に組み込まれる具
体的なメカニズムの具体例として次のものを挙げること
ができる。
【0046】a)保護層表面にフルオロカーボン系溶媒
を吸着させ、その後、潤滑剤溶液塗布時に潤滑剤溶液中
にフルオロカーボン系溶媒が拡散して、フルオロカーボ
ンと潤滑剤溶液中の潤滑剤分子とが置換することにより
汚染防止層が消失する。
【0047】b)保護層表面に一酸化炭素ガスを吸着さ
せ、その後、潤滑剤溶液塗布時に潤滑剤溶液中で一酸化
炭素ガスが酸化して二酸化炭素ガスになることにより汚
染防止層が消失する。
【0048】c)保護層表面にヨウ素を吸着させ、つい
で潤滑剤溶液に浸漬させた後、磁気記録媒体を電極とし
てカソードに掃引し、水素発生とともにヨウ素を脱離さ
せることにより汚染防止層が消失する。
【0049】カーボン保護層上に形成された汚染防止層
が潤滑剤溶液に取り込まれた潤滑層を形成した後、加熱
または紫外線照射を施すことにより、カーボン保護層と
強固に結合する結合性パーフルオロポリエーテル系潤滑
剤と、保護層と弱く結合する移動性パーフルオロポリエ
ーテル系潤滑剤との比率の調整を行ってもよい。
【0050】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、
本発明は本実施例にのみ限定されるものではない。
【0051】AlMg合金の非磁性基板に無電解メッキ
によりNi−Pメッキを施して非磁性層を形成し、その
表面をポリッシュで研磨した。ついで、ダイヤモンドス
ラリーを使用したテクスチュアーにより、表面粗さがR
a=1nmとなるようにほぼ同心円状に溝を形成した。
得られた基板を洗浄後、スパッタ装置内で層厚50nm
のCr非磁性金属下地層を形成し、連続して下地層の上
に層厚30nmのCoCrPtを含む磁性層を形成し
た。ついで、真空装置内で磁性層の上に層厚7nmの窒
素添加されたカーボン保護層をCVD法により形成し
た。得られた媒体を用いて以下の例に示す磁気記録媒体
を作製した。
【0052】(実施例1)真空装置内で保護層を形成し
た後、その装置内に、室温にて窒素ガス中でフロン系溶
剤(住友スリーエム製PF5060(商品名))を飽和
蒸気圧に達するまで気化させた混合ガスを導入して、大
気圧に戻し、保護層表面をフロン系溶剤で被覆した。約
1時間後、同一のフロン系溶剤にパーフルオロポリエー
テル系潤滑剤(アウジモント社製Fomblin Z−
Dol(商品名))を0.05重量%溶解させて潤滑剤
溶液を調製し、その潤滑剤溶液を公知のディップコート
法により液面引き下げ速度を任意に調節することで膜厚
が2.0nm(ESCAを用いて測定)になるように塗
布して潤滑層を形成した。
【0053】(実施例2)真空装置内で保護層を形成し
た後、その装置内に、窒素ガスを導入して大気圧に戻し
た後5分以内に、常圧常温下で、その媒体をフロン系溶
剤(住友スリーエム製PF5060(商品名))に浸漬
して10秒間静置した後、2mm/秒で液面を引き下げ
ることにより保護層表面をフロン系溶剤で被覆した。約
1時間後、実施例1と同様に、同一のフロン系溶剤にパ
ーフルオロポリエーテル系潤滑剤(アウジモント社製F
omblin Z−Dol(商品名))を0.05重量
%溶解させて潤滑剤溶液を調製し、その潤滑剤溶液を公
知のディップコート法により液面引き下げ速度を任意に
調節することで膜厚が2.0nm(ESCAを用いて測
定)になるように塗布して潤滑層を形成した。
【0054】(実施例3)保護層表面を被覆するフロン
系溶剤および潤滑剤溶液の溶媒として住友スリーエム製
FC−77(商品名)を使用した以外は、実施例1と同
様に潤滑層を形成した。
【0055】(比較例1)真空装置内で保護層を形成し
た後、その装置内に、窒素ガスを導入して大気圧に戻し
た。約1時間後に、フロン系溶剤(住友スリーエム製P
F5060(商品名))にパーフルオロポリエーテル系
潤滑剤(アウジモント社製FomblinZ−Dol
(商品名))を0.05重量%溶解させて調製した潤滑
剤溶液を公知のディップコート法により液面引き下げ速
度を任意に調節することで膜厚が2.0nm(ESCA
を用いて測定)になるように塗布して潤滑層を形成し
た。
【0056】(比較例2)真空装置内で保護層を形成し
た後、その装置内に、パーフルオロポリエーテル系潤滑
剤(アウジモント社製Fomblin Z−Dol(商
品名))を150℃に加熱しながら曝露し、膜厚が2.
0nm(ESCAを用いて測定)になるように曝露時間
を調節して蒸着により潤滑層を形成した。
【0057】実施例1〜3および比較例1〜2により得
られた磁気記録媒体について、次のとおり被覆層(汚染
防止層)の形成性、汚染物質吸着性、潤滑層の形成性、
潤滑層の密着性、および潤滑層の低分子量成分を測定し
た。
【0058】1.被覆層(汚染防止層)の形成 各例の磁気記録媒体を作製する際に、潤滑剤溶液を塗布
する直前の媒体表面に対して飛行時間型二次イオン質量
分析(TOF−SIMS)を行い、媒体表面のフラグメ
ントを分析した。
【0059】実施例1〜3の潤滑剤溶液を塗布する直前
の媒体表面からは、フロン系溶剤の存在を示すフッ素フ
ラグメントおよびCFn(nは1〜3の整数)フラグメ
ントが検出された。一方、比較例1の潤滑剤溶液を塗布
する直前の媒体表面からは、フッ素フラグメントも、C
n(nは1〜3の整数)フラグメントも検出されなか
った。これは、実施例の保護層表面にはフロン系溶剤の
被覆層が形成されたことを示す。
【0060】2.汚染物質吸着性 各例の磁気記録媒体を作製する際に、潤滑剤溶液を塗布
する直前の媒体表面に対して、酸、アルカリの代表的な
吸着ガスであるアンモニアガスおよび二酸化硫黄ガスの
吸着性をTOF−SIMSによりそれぞれ評価した。各
ガス吸着量(相対値)を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】実施例1〜3は、保護層表面に被覆層(汚
染防止層)を有していない比較例1と比べると、アンモ
ニアガス、二酸化硫黄ガスともに吸着量が極めて少ない
ことがわかる。この結果から、汚染防止層が汚染物質の
吸着を防止していることがわかる。
【0063】3.潤滑層の形成性 実施例2および比較例1において、潤滑剤溶液をディッ
プコートする際の条件(潤滑剤溶液の濃度、引き上げ速
度)を同一にしたところ、最終的に得られた磁気記録媒
体において潤滑層が同一の層厚であった(誤差±0.1
nm)。この結果から、実施例2の磁気記録媒体におい
ては、潤滑剤溶液の塗布時に被覆層が潤滑剤溶液に取り
込まれて、すなわち、被覆層を構成する分子が潤滑剤溶
液に含有される潤滑剤分子と置換されて潤滑層が形成さ
れたと推定される。
【0064】4.潤滑層の密着性 各例において得られた磁気記録媒体をフロン系溶媒PF
5060に浸漬し、5分間の超音波洗浄を行った後に、
潤滑層の層厚を測定した。これを結合性潤滑層層厚とし
て、全層厚に対するパーセンテージを求めた(結合率=
結合性潤滑層層厚/全層厚)。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】実施例1〜3の磁気記録媒体の潤滑層は、
比較例1に比べて密着性に優れていることがわかる。ま
た、実施例1〜3の潤滑層は、真空蒸着により形成され
た潤滑層である比較例2とほぼ同等に優れた密着性を有
することがわかる。
【0067】5.潤滑層の低分子量成分 各例において得られた磁気記録媒体を150℃で1時間
加熱し、加熱前後で全層厚を測定し、層厚減少率を求め
た。
【0068】
【表3】
【0069】この結果から、比較例2の真空蒸着により
形成された潤滑層を有する磁気記録媒体は、加熱による
層厚の減少率が大きく、したがって、低分子量成分が多
いことがわかる。
【0070】
【発明の効果】本発明によると、保護層と潤滑層との密
着性・結合性を向上させるとともに、潤滑層の劣化を防
止して、長期間にわたり使用されても優れた安定性を維
持することができる磁気記録媒体を提供することができ
る。
【0071】また、本発明の製造方法によると、低分子
量成分が優先的に保護層に吸着するという問題もなく、
潤滑膜の膜厚を制御するための機構を有した蒸着専用設
備も必要なく、比較的簡単に長期安定性に優れた磁気記
録媒体を製造することができる。

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 非磁性基板上にそれぞれ少なくとも1層
    の順次積層された磁性層、保護層、および潤滑層を有す
    る磁気記録媒体であって、前記潤滑層は、保護層上に積
    層された汚染防止層上に潤滑剤溶液を塗布することによ
    り、該汚染防止層が潤滑剤溶液に取り込まれて形成され
    た潤滑層であることを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 【請求項2】 前記潤滑剤溶液は、汚染防止層を構成す
    る溶媒と同一の溶媒と、潤滑剤とから成ることを特徴と
    する請求項1に記載の磁気記録媒体。
  3. 【請求項3】 前記潤滑剤溶液は、汚染防止層を構成す
    る材料を溶解する溶媒と、潤滑剤とから成ることを特徴
    とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
  4. 【請求項4】 磁気記録媒体の製造方法であって、1)
    非磁性基板上に少なくとも1層の磁性層を形成する工
    程、 2)前記磁性層上に少なくとも1層の保護層を真空成膜
    する工程、 3)前記保護層を外気に触れさせることなく、保護層上
    に汚染防止層を形成する工程、および 4)前記汚染防止層上に潤滑剤溶液を塗布することによ
    り該汚染防止層が潤滑剤溶液に取り込まれた潤滑層を形
    成する工程を具えることを特徴とする磁気記録媒体の製
    造方法。
  5. 【請求項5】 磁気記録媒体の製造方法であって、 1)非磁性基板上に少なくとも1層の磁性層を形成する
    工程、 2)前記磁性層上に少なくとも1層の保護層を真空成膜
    する工程、 3)前記保護層を外気に触れさせることなく、保護層上
    に汚染防止層を形成する工程、および 4)前記汚染防止層を構成する溶媒と同一の溶媒と、潤
    滑剤とから成る潤滑剤溶液、または、前記汚染防止層を
    構成する材料を溶解する溶媒と、潤滑剤とから成る潤滑
    剤溶液を、汚染防止層上に塗布することにより潤滑層を
    形成する工程を具えることを特徴とする磁気記録媒体の
    製造方法。
  6. 【請求項6】 前記工程3)は、有機溶媒を不活性ガス
    中で気化させて得られた混合ガスを真空装置内に導入す
    ることにより保護層上に汚染防止層を形成する工程であ
    ることを特徴とする請求項4または5に記載の磁気記録
    媒体の製造方法。
  7. 【請求項7】 磁気記録媒体の製造方法であって、 1)非磁性基板上に少なくとも1層の磁性層を形成する
    工程、 2)前記磁性層上に少なくとも1層の保護層を真空成膜
    する工程、 3)前記保護層が大気中に曝されてから10分以内に、
    保護層上に汚染防止層を形成する工程、および 4)前記汚染防止層上に潤滑剤溶液を塗布することによ
    り該汚染防止層が潤滑剤溶液に取り込まれた潤滑層を形
    成する工程を具えることを特徴とする磁気記録媒体の製
    造方法。
  8. 【請求項8】 磁気記録媒体の製造方法であって、 1)非磁性基板上に少なくとも1層の磁性層を形成する
    工程、 2)前記磁性層上に少なくとも1層の保護層を真空成膜
    する工程、 3)前記保護層が大気中に曝されてから10分以内に、
    保護層上に汚染防止層を形成する工程、および 4)前記汚染防止層を構成する溶媒と同一の溶媒と、潤
    滑剤とから成る潤滑剤溶液、または、前記汚染防止層を
    構成する材料を溶解する溶媒と、潤滑剤とから成る潤滑
    剤溶液を、汚染防止層上に塗布することにより潤滑層を
    形成する工程を具えることを特徴とする磁気記録媒体の
    製造方法。
  9. 【請求項9】 前記工程3)は、保護層が大気中に曝さ
    れてから10分以内に、保護層を有機溶媒に浸漬するこ
    とにより保護層上に汚染防止層を形成する工程であるこ
    とを特徴とする請求項7または8に記載の磁気記録媒体
    の製造方法。
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