JP2002060972A - 自動車燃料タンク用ステンレス鋼板 - Google Patents
自動車燃料タンク用ステンレス鋼板Info
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- JP2002060972A JP2002060972A JP2000251442A JP2000251442A JP2002060972A JP 2002060972 A JP2002060972 A JP 2002060972A JP 2000251442 A JP2000251442 A JP 2000251442A JP 2000251442 A JP2000251442 A JP 2000251442A JP 2002060972 A JP2002060972 A JP 2002060972A
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- stainless steel
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- fuel tank
- mass
- acrylic resin
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- Cooling, Air Intake And Gas Exhaust, And Fuel Tank Arrangements In Propulsion Units (AREA)
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- Other Surface Treatments For Metallic Materials (AREA)
Abstract
(57)【要約】
【目的】 加工性に優れた自動車燃料タンク用ステンレ
ス鋼板を提供する。 【構成】 この自動車燃料タンク用ステンレス鋼板は、
一軸引張りで加工したときの破断伸びが50%以上,加
工硬化率が4000N/mm2以下のオーステナイト系
ステンレス鋼板、又は一軸引張りで加工したときの破断
伸びが30%以上,ランクフォード値(r値)が1.3
以上のフェライト系ステンレス鋼板を基材とし、基材表
面にガラス転移温度0〜20℃のエポキシ変性アクリル
樹脂からなる下層皮膜及び1〜35質量%の割合で固形
潤滑剤粒子が分散しているアクリル樹脂からなる上層皮
膜を積層している。 【効果】 ステンレス鋼本来の優れた耐食性が活用さ
れ、長期間にわたって貯蔵ガソリンの揮散が防止され
る。
ス鋼板を提供する。 【構成】 この自動車燃料タンク用ステンレス鋼板は、
一軸引張りで加工したときの破断伸びが50%以上,加
工硬化率が4000N/mm2以下のオーステナイト系
ステンレス鋼板、又は一軸引張りで加工したときの破断
伸びが30%以上,ランクフォード値(r値)が1.3
以上のフェライト系ステンレス鋼板を基材とし、基材表
面にガラス転移温度0〜20℃のエポキシ変性アクリル
樹脂からなる下層皮膜及び1〜35質量%の割合で固形
潤滑剤粒子が分散しているアクリル樹脂からなる上層皮
膜を積層している。 【効果】 ステンレス鋼本来の優れた耐食性が活用さ
れ、長期間にわたって貯蔵ガソリンの揮散が防止され
る。
Description
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、内面耐食性に優れると
共に、長期間にわたって貯蔵燃料の揮散を防止する気密
性に優れた自動車用燃料タンクに用いられるステンレス
鋼に関する。
共に、長期間にわたって貯蔵燃料の揮散を防止する気密
性に優れた自動車用燃料タンクに用いられるステンレス
鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車や自動二輪に搭載される燃料タン
ク(以下、自動車用燃料タンクで総称する)は、ガソリ
ンを通常貯蔵しているが、気密性が悪いと気化したガソ
リンが大気中に散逸する。ガソリンの散逸は、最近特に
重視されている地球環境に悪影響を及ぼす原因の一つで
ある。この点、樹脂を素材とした従来の燃料タンクで
は、十分な気密性が確保できない。Znめっき鋼板,A
lめっき鋼板等の表面処理鋼板を素材にした燃料タンク
も知られているが、燃料タンクに加工する際にめっき層
に剥離や亀裂が生じやすい。剥離,亀裂等の欠陥部は、
ガソリンの劣化によって生じる有機酸を含む腐食性環境
に曝されたとき腐食発生の起点になる。その結果、孔食
による穴開き等が発生すると気密性が低下する。穴開き
に至らなくても、燃料タンク内に腐食生成物が堆積する
とフィルタを目詰りさせる原因になる。
ク(以下、自動車用燃料タンクで総称する)は、ガソリ
ンを通常貯蔵しているが、気密性が悪いと気化したガソ
リンが大気中に散逸する。ガソリンの散逸は、最近特に
重視されている地球環境に悪影響を及ぼす原因の一つで
ある。この点、樹脂を素材とした従来の燃料タンクで
は、十分な気密性が確保できない。Znめっき鋼板,A
lめっき鋼板等の表面処理鋼板を素材にした燃料タンク
も知られているが、燃料タンクに加工する際にめっき層
に剥離や亀裂が生じやすい。剥離,亀裂等の欠陥部は、
ガソリンの劣化によって生じる有機酸を含む腐食性環境
に曝されたとき腐食発生の起点になる。その結果、孔食
による穴開き等が発生すると気密性が低下する。穴開き
に至らなくても、燃料タンク内に腐食生成物が堆積する
とフィルタを目詰りさせる原因になる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】長期間にわたって良好
な気密性を維持するため、代表的な耐食材料であるステ
ンレス鋼板を燃料タンク用素材に使用することが検討さ
れている。しかし、ステンレス鋼板は、普通鋼に比較す
ると加工性に劣り、深絞り,圧縮加工等を伴う複雑加工
で燃料タンクに成形すると加工割れが発生しやすいため
所定形状への成形が困難であった。加工割れは、燃料タ
ンクの気密性を損ない貯蔵燃料を揮散させ、加工によっ
て導入される欠陥部が腐食起点となりやすい。特に劣化
ガソリンと接触するタンク内面では腐食が進行し、タン
ク内における腐食生成物の堆積や穴開きに至る孔食が発
生しやすい。しかし、燃料タンクへの加工に必要な深絞
り性を備え、且つ耐食性が要求される燃料タンク用とし
て好適なステンレス鋼板は、これまでのところ実用化さ
れていない。
な気密性を維持するため、代表的な耐食材料であるステ
ンレス鋼板を燃料タンク用素材に使用することが検討さ
れている。しかし、ステンレス鋼板は、普通鋼に比較す
ると加工性に劣り、深絞り,圧縮加工等を伴う複雑加工
で燃料タンクに成形すると加工割れが発生しやすいため
所定形状への成形が困難であった。加工割れは、燃料タ
ンクの気密性を損ない貯蔵燃料を揮散させ、加工によっ
て導入される欠陥部が腐食起点となりやすい。特に劣化
ガソリンと接触するタンク内面では腐食が進行し、タン
ク内における腐食生成物の堆積や穴開きに至る孔食が発
生しやすい。しかし、燃料タンクへの加工に必要な深絞
り性を備え、且つ耐食性が要求される燃料タンク用とし
て好適なステンレス鋼板は、これまでのところ実用化さ
れていない。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、このような問
題を解消すべく案出されたものであり、材質が特定され
たステンレス鋼基材の表面にプレス加工時に潤滑剤とし
て働く皮膜を形成することにより、プレス加工時に金型
への材料の均一な流込みを確保して耐食性に必要な不動
態皮膜に与える損傷を少なくし、長期間に渡って優れた
気密性が維持され、貯蔵燃料の揮散がない自動車用燃料
タンクを提供することを目的とする。
題を解消すべく案出されたものであり、材質が特定され
たステンレス鋼基材の表面にプレス加工時に潤滑剤とし
て働く皮膜を形成することにより、プレス加工時に金型
への材料の均一な流込みを確保して耐食性に必要な不動
態皮膜に与える損傷を少なくし、長期間に渡って優れた
気密性が維持され、貯蔵燃料の揮散がない自動車用燃料
タンクを提供することを目的とする。
【0005】本発明の自動車燃料タンク用ステンレス鋼
板は、その目的を達成するため、オーステナイト系又は
フェライト系ステンレス鋼板を基材とし、ガラス転移温
度0〜20℃のエポキシ変性アクリル樹脂からなる下層
皮膜及び1〜35質量%の割合で固形潤滑剤粒子が分散
しているアクリル樹脂からなる上層皮膜が基材表面に順
次積層している。
板は、その目的を達成するため、オーステナイト系又は
フェライト系ステンレス鋼板を基材とし、ガラス転移温
度0〜20℃のエポキシ変性アクリル樹脂からなる下層
皮膜及び1〜35質量%の割合で固形潤滑剤粒子が分散
しているアクリル樹脂からなる上層皮膜が基材表面に順
次積層している。
【0006】オーステナイト系ステンレス鋼板として
は、一軸引張りで加工したときの破断伸びが50%以
上,加工硬化率が4000N/mm2以下の鋼板が使用
される。なかでも、Cr:15〜20質量%,Ni:5
〜19質量%,Cu:0〜5質量%を含み、S含有量が
0.005質量%以下に規制された組成をもつオーステ
ナイト系ステンレス鋼板が好ましい。フェライト系ステ
ンレス鋼板としては、一軸引張りで加工したときの破断
伸びが30%以上,ランクフォード値(r値)1.3以
上の鋼板が使用される。なかでも、Cr:11〜20質
量%,S:0.005質量%以下の組成をもつフェライ
ト系ステンレス鋼板が好ましい。
は、一軸引張りで加工したときの破断伸びが50%以
上,加工硬化率が4000N/mm2以下の鋼板が使用
される。なかでも、Cr:15〜20質量%,Ni:5
〜19質量%,Cu:0〜5質量%を含み、S含有量が
0.005質量%以下に規制された組成をもつオーステ
ナイト系ステンレス鋼板が好ましい。フェライト系ステ
ンレス鋼板としては、一軸引張りで加工したときの破断
伸びが30%以上,ランクフォード値(r値)1.3以
上の鋼板が使用される。なかでも、Cr:11〜20質
量%,S:0.005質量%以下の組成をもつフェライ
ト系ステンレス鋼板が好ましい。
【0007】ステンレス鋼基材の表面には、ガラス転移
温度0〜20℃のエポキシ変性アクリル樹脂からなる下
層皮膜、次いで1〜35質量%の割合で固形潤滑剤粒子
が分散しているアクリル樹脂からなる上層皮膜が順次積
層される。固形潤滑剤粒子としては、平均粒径0.1〜
5μmの合成樹脂粉末及び/又はシリカ粉末が使用され
る。合成樹脂粉末は1〜15質量%の割合で、シリカ粉
末は1〜20質量%の割合で、合成樹脂粉末及びシリカ
粉末を併用するとき合計量が1〜35質量%の割合で上
層皮膜に分散される。
温度0〜20℃のエポキシ変性アクリル樹脂からなる下
層皮膜、次いで1〜35質量%の割合で固形潤滑剤粒子
が分散しているアクリル樹脂からなる上層皮膜が順次積
層される。固形潤滑剤粒子としては、平均粒径0.1〜
5μmの合成樹脂粉末及び/又はシリカ粉末が使用され
る。合成樹脂粉末は1〜15質量%の割合で、シリカ粉
末は1〜20質量%の割合で、合成樹脂粉末及びシリカ
粉末を併用するとき合計量が1〜35質量%の割合で上
層皮膜に分散される。
【0008】
【作用】燃料タンクは、複雑形状に鋼板をプレス加工す
ることにより製造されており、燃料タンク本体1にイン
レットパイプ2,フュエルパイプ3,フュエルリターン
パイプ4,サブタンク5,ドレーンプラグ6等の各種部
材が溶接,ろう付け等で取り付けられる(図1)。燃料
タンク形状に鋼板を成形するときのプレス加工は、伸
び,圧縮等が複合された複雑な塑性変形を伴う加工であ
る。
ることにより製造されており、燃料タンク本体1にイン
レットパイプ2,フュエルパイプ3,フュエルリターン
パイプ4,サブタンク5,ドレーンプラグ6等の各種部
材が溶接,ろう付け等で取り付けられる(図1)。燃料
タンク形状に鋼板を成形するときのプレス加工は、伸
び,圧縮等が複合された複雑な塑性変形を伴う加工であ
る。
【0009】過酷な加工を受けることから、基材に使用
するステンレス鋼板の加工性が不足すると、過酷な加工
を受けた部位にクラックが発生しやすい。そこで、本発
明者等は、加工条件と材質との関係を種々照査した結
果、一軸引張りで加工したときの破断伸びが50%以
上,加工硬化率が4000N/mm2以下のオーステナ
イト系ステンレス鋼板及び一軸引張りで加工したときの
破断伸びが30%以上,ランクフォード値(r値)1.
3以上のフェライト系ステンレス鋼板が燃料タンク用基
材に適していることを見出し、特願2000−2334
16号として出願した。
するステンレス鋼板の加工性が不足すると、過酷な加工
を受けた部位にクラックが発生しやすい。そこで、本発
明者等は、加工条件と材質との関係を種々照査した結
果、一軸引張りで加工したときの破断伸びが50%以
上,加工硬化率が4000N/mm2以下のオーステナ
イト系ステンレス鋼板及び一軸引張りで加工したときの
破断伸びが30%以上,ランクフォード値(r値)1.
3以上のフェライト系ステンレス鋼板が燃料タンク用基
材に適していることを見出し、特願2000−2334
16号として出願した。
【0010】しかし、燃料タンクの形状は、自動車メー
カごと更には車種ごとに異なり、浅いものから深いもの
まで様々である。浅い燃料タンクは、一般的に比較的小
さな加工度でステンレス鋼板をプレス加工することによ
り所定形状に成形できるため、先に提案した材質のステ
ンレス鋼板が使用可能である。しかし、深い燃料タンク
は大きな加工度を必要とすることから、当該ステンレス
鋼板を使用した場合でも割れ,破断等の加工欠陥が生じ
ることがある。同様な加工欠陥は、浅い燃料タンクであ
っても大きな加工を受けた縦壁部等にも生じがちであ
る。
カごと更には車種ごとに異なり、浅いものから深いもの
まで様々である。浅い燃料タンクは、一般的に比較的小
さな加工度でステンレス鋼板をプレス加工することによ
り所定形状に成形できるため、先に提案した材質のステ
ンレス鋼板が使用可能である。しかし、深い燃料タンク
は大きな加工度を必要とすることから、当該ステンレス
鋼板を使用した場合でも割れ,破断等の加工欠陥が生じ
ることがある。同様な加工欠陥は、浅い燃料タンクであ
っても大きな加工を受けた縦壁部等にも生じがちであ
る。
【0011】加工欠陥は、プレス加工されるステンレス
鋼基材に潤滑油を塗布することによりある程度防止され
る。しかし、塗布された潤滑油は、金型に材料が流れ込
む際に基材表面を均一に覆った状態でなく基材の一部が
露出した状態(膜切れ)で基材表面に分布する。潤滑油
のない表面部で金型に基材が直接接触し、局部的に大き
な変形が生じる結果、亀裂,破断等の加工欠陥が散見さ
れる。
鋼基材に潤滑油を塗布することによりある程度防止され
る。しかし、塗布された潤滑油は、金型に材料が流れ込
む際に基材表面を均一に覆った状態でなく基材の一部が
露出した状態(膜切れ)で基材表面に分布する。潤滑油
のない表面部で金型に基材が直接接触し、局部的に大き
な変形が生じる結果、亀裂,破断等の加工欠陥が散見さ
れる。
【0012】そこで、本発明では、膜切れに起因した加
工欠陥を発生させがちな潤滑油に代えて、固形潤滑剤粒
子を分散させた皮膜を基材表面に設けることによりプレ
ス成形時に金型への材料の円滑な流込みを確保し、加工
欠陥のない燃料タンク部材への成形を可能にしている。
すなわち、固形潤滑剤粒子は、皮膜に分散した状態で基
材表面に存在するため、材料各部が均等な条件下で加工
され、亀裂,破断等の加工欠陥が防止される。
工欠陥を発生させがちな潤滑油に代えて、固形潤滑剤粒
子を分散させた皮膜を基材表面に設けることによりプレ
ス成形時に金型への材料の円滑な流込みを確保し、加工
欠陥のない燃料タンク部材への成形を可能にしている。
すなわち、固形潤滑剤粒子は、皮膜に分散した状態で基
材表面に存在するため、材料各部が均等な条件下で加工
され、亀裂,破断等の加工欠陥が防止される。
【0013】均等な条件下での加工は、オーステナイト
系ステンレス鋼板にあってはマルテンサイト変態に起因
した局部的な硬質化,フェライト系ステンレス鋼板にあ
っては局部的な加工硬化を抑制し、プレス加工自体も容
易になる。また、不動態皮膜の損傷も抑制され、ステン
レス鋼本来の優れた耐食性を活用した燃料タンクが得ら
れる。更には、ステンレス鋼板各部が均等な条件下で成
形されるため、上ハーフ及び下ハーフに形成されるフラ
ンジ部の皺発生も少なくなり、フランジ部をシーム溶接
して燃料タンクを組み立てる際の溶接性も安定し、気密
性に優れたシーム溶接部が得られる。
系ステンレス鋼板にあってはマルテンサイト変態に起因
した局部的な硬質化,フェライト系ステンレス鋼板にあ
っては局部的な加工硬化を抑制し、プレス加工自体も容
易になる。また、不動態皮膜の損傷も抑制され、ステン
レス鋼本来の優れた耐食性を活用した燃料タンクが得ら
れる。更には、ステンレス鋼板各部が均等な条件下で成
形されるため、上ハーフ及び下ハーフに形成されるフラ
ンジ部の皺発生も少なくなり、フランジ部をシーム溶接
して燃料タンクを組み立てる際の溶接性も安定し、気密
性に優れたシーム溶接部が得られる。
【0014】
【実施の形態】オーステナイト系ステンレス鋼板は、塑
性変形によってマトリックスが変態して加工誘起マルテ
ンサイトが生成し、普通鋼に比較して硬質化しやすい材
料である。この点、一軸引張りによる加工で破断伸びが
50%以上,加工硬化率が4000N/mm2以下のオ
ーステナイト系ステンレス鋼板を基材に使用すると、加
工割れ等の欠陥を発生させることなく所定形状の燃料タ
ンクに加工できる。フェライト系ステンレス鋼板は、普
通鋼に比較してCr含有量が高いため硬質化しており、
伸びも低い鋼材であるが、破断伸びが30%以上,ラン
クフォード値(r値)が1.3以上のフェライト系ステ
ンレス鋼板を使用すると加工割れ等の欠陥が発生するこ
となく所定形状の燃料タンクに加工できる。
性変形によってマトリックスが変態して加工誘起マルテ
ンサイトが生成し、普通鋼に比較して硬質化しやすい材
料である。この点、一軸引張りによる加工で破断伸びが
50%以上,加工硬化率が4000N/mm2以下のオ
ーステナイト系ステンレス鋼板を基材に使用すると、加
工割れ等の欠陥を発生させることなく所定形状の燃料タ
ンクに加工できる。フェライト系ステンレス鋼板は、普
通鋼に比較してCr含有量が高いため硬質化しており、
伸びも低い鋼材であるが、破断伸びが30%以上,ラン
クフォード値(r値)が1.3以上のフェライト系ステ
ンレス鋼板を使用すると加工割れ等の欠陥が発生するこ
となく所定形状の燃料タンクに加工できる。
【0015】破断伸び及び加工硬化係数は、次のように
して測定される。圧延方向に直交する方向を長手方向に
するサンプルを各鋼板から切り出し、JIS Z220
1に規定される13B号定型試験片に加工し、破断伸び
及び加工硬化率のデータを採取する。破断伸びは、速度
20mm/分で試験片を引っ張り、破断後の試験片を突
き合わせて標点間距離の伸び率を測定し、この測定値を
破断伸びとして使用する。加工硬化率は、30%及び4
0%の引張歪を加えたときの応力をそれぞれ測定し、2
点間の勾配を算出することにより求められる。ランクフ
ォード値(r値)の測定では、圧延方向に直交する方向
を長手方向にするサンプルを各鋼板から切り出し、JI
S Z2201に規定される13B号に加工した定型試
験片に15%の歪を与えたときの板厚及び板幅を測定
し、幅収縮率の自然対数値を板厚減少率の自然対数値で
除した値としてランクフォード値(r値)が算出され
る。
して測定される。圧延方向に直交する方向を長手方向に
するサンプルを各鋼板から切り出し、JIS Z220
1に規定される13B号定型試験片に加工し、破断伸び
及び加工硬化率のデータを採取する。破断伸びは、速度
20mm/分で試験片を引っ張り、破断後の試験片を突
き合わせて標点間距離の伸び率を測定し、この測定値を
破断伸びとして使用する。加工硬化率は、30%及び4
0%の引張歪を加えたときの応力をそれぞれ測定し、2
点間の勾配を算出することにより求められる。ランクフ
ォード値(r値)の測定では、圧延方向に直交する方向
を長手方向にするサンプルを各鋼板から切り出し、JI
S Z2201に規定される13B号に加工した定型試
験片に15%の歪を与えたときの板厚及び板幅を測定
し、幅収縮率の自然対数値を板厚減少率の自然対数値で
除した値としてランクフォード値(r値)が算出され
る。
【0016】オーステナイト系ステンレス鋼板として
は,Cr:15〜20質量%,Ni:5〜19質量%,
Cu:0〜5質量%を含み、必要に応じてS含有量が
0.005質量%以下に規制されており、好ましくは、
C+N:0.10質量%以下,Si:2.0質量%以
下,Mn:5.0質量%以下を含む鋼種が使用される。
オーステナイト系ステンレス鋼板は、更にMo:3.0
質量%以下,Al:0.5質量%以下,Ti,Nb,Z
r,V:何れも1.0質量%以下,B:0.1質量%以
下,希土類(REM):0.05質量%以下,Ca:
0.03質量%以下の1種又は2種以上を含むことがで
きる。
は,Cr:15〜20質量%,Ni:5〜19質量%,
Cu:0〜5質量%を含み、必要に応じてS含有量が
0.005質量%以下に規制されており、好ましくは、
C+N:0.10質量%以下,Si:2.0質量%以
下,Mn:5.0質量%以下を含む鋼種が使用される。
オーステナイト系ステンレス鋼板は、更にMo:3.0
質量%以下,Al:0.5質量%以下,Ti,Nb,Z
r,V:何れも1.0質量%以下,B:0.1質量%以
下,希土類(REM):0.05質量%以下,Ca:
0.03質量%以下の1種又は2種以上を含むことがで
きる。
【0017】フェライト系ステンレス鋼板としては、C
r:11〜20質量%を含み、必要に応じてS含有量が
0.01質量%以下に規制され、好ましくはC+N:
0.10質量%以下,Si:1.0質量%以下,Mn:
1.0質量%以下を含む鋼種が使用される。フェライト
系ステンレス鋼板は、更にMo:3.0質量%以下,A
l:0.5質量%以下,Ti,Nb,Zr,V:何れも
1.0質量%以下,B:0.1質量%以下,希土類(R
EM):0.05質量%以下,Ca:0.03質量%以
下の1種又は2種以上を含むことができる。
r:11〜20質量%を含み、必要に応じてS含有量が
0.01質量%以下に規制され、好ましくはC+N:
0.10質量%以下,Si:1.0質量%以下,Mn:
1.0質量%以下を含む鋼種が使用される。フェライト
系ステンレス鋼板は、更にMo:3.0質量%以下,A
l:0.5質量%以下,Ti,Nb,Zr,V:何れも
1.0質量%以下,B:0.1質量%以下,希土類(R
EM):0.05質量%以下,Ca:0.03質量%以
下の1種又は2種以上を含むことができる。
【0018】以下、本発明で使用されるステンレス鋼板
に含まれる合金成分及び含有量を説明する。 (C+N):C,Nは、多量に含まれると固溶強化によ
り0.2%耐力や硬さを上昇させる合金成分である。特
に、オーステナイト系ステンレス鋼にあっては、加工誘
起マルテンサイト相が過度に硬質化するため加工硬化が
大きくなる。その結果、加工性が著しく低下して深絞り
加工時にフランジ部から流入する素材の流入抵抗が大き
くなり、所定形状への深絞りができず、フランジ皺抑え
部に大きな皺が発生し、溶接時に必要な平坦度が確保で
きず、生産性が損なわれることになる。また、Cを過剰
に含む場合、オーステナイト系ステンレス鋼では深絞り
の際に大きな歪を受けた部分に時期割れと称される遅れ
破壊現象が生じやすくなり、フェライト系ステンレス鋼
では鋼中に過剰なC系炭化物が生成し耐食性が低下す
る。このようなことから、C,Nの合計含有量を0.1
0質量%以下に規制する。
に含まれる合金成分及び含有量を説明する。 (C+N):C,Nは、多量に含まれると固溶強化によ
り0.2%耐力や硬さを上昇させる合金成分である。特
に、オーステナイト系ステンレス鋼にあっては、加工誘
起マルテンサイト相が過度に硬質化するため加工硬化が
大きくなる。その結果、加工性が著しく低下して深絞り
加工時にフランジ部から流入する素材の流入抵抗が大き
くなり、所定形状への深絞りができず、フランジ皺抑え
部に大きな皺が発生し、溶接時に必要な平坦度が確保で
きず、生産性が損なわれることになる。また、Cを過剰
に含む場合、オーステナイト系ステンレス鋼では深絞り
の際に大きな歪を受けた部分に時期割れと称される遅れ
破壊現象が生じやすくなり、フェライト系ステンレス鋼
では鋼中に過剰なC系炭化物が生成し耐食性が低下す
る。このようなことから、C,Nの合計含有量を0.1
0質量%以下に規制する。
【0019】Si:製鋼段階で脱酸剤として添加される
合金成分であるが、オーステナイト系ステンレス鋼にあ
っては2.0質量%を超える過剰量のSi,フェライト
系ステンレス鋼にあっては1.0質量%を超える過剰量
のSiが含まれると材質が硬質化すると共に、加工硬化
が大きくなり、成形性が低下する。 Mn:オーステナイト系ステンレス鋼では、Mn含有量
の増加に応じて加工誘起マルテンサイト相が生成しがた
くなり、加工硬化率が低下する。しかし、過剰量のMn
含有は、製鋼時に耐火物損傷を促進させる原因となり、
また加工割れの起点となるMn系介在物を増加させる。
このような欠点を防止するため、Mn含有量を5.0質
量%以下に規制する。他方、フェライト系ステンレス鋼
は、Mn含有量の増加に応じて硬質化する。しかし、M
n含有量を過度に規制すると製鋼コストを大幅に上昇さ
せることになるので、コストミニマムで抑制可能な1.
0質量%にMn含有量の上限を設定した。
合金成分であるが、オーステナイト系ステンレス鋼にあ
っては2.0質量%を超える過剰量のSi,フェライト
系ステンレス鋼にあっては1.0質量%を超える過剰量
のSiが含まれると材質が硬質化すると共に、加工硬化
が大きくなり、成形性が低下する。 Mn:オーステナイト系ステンレス鋼では、Mn含有量
の増加に応じて加工誘起マルテンサイト相が生成しがた
くなり、加工硬化率が低下する。しかし、過剰量のMn
含有は、製鋼時に耐火物損傷を促進させる原因となり、
また加工割れの起点となるMn系介在物を増加させる。
このような欠点を防止するため、Mn含有量を5.0質
量%以下に規制する。他方、フェライト系ステンレス鋼
は、Mn含有量の増加に応じて硬質化する。しかし、M
n含有量を過度に規制すると製鋼コストを大幅に上昇さ
せることになるので、コストミニマムで抑制可能な1.
0質量%にMn含有量の上限を設定した。
【0020】S:過剰量のSが含まれると、腐食の起点
となるMnS系の硫化物が鋼中に多量に分散する。ま
た、過酷な加工に供される燃料タンク用途では、S含有
量の増加に応じて割れが発生しやすくなる。しかし、S
はフェライト形成元素であり、フェライト系ステンレス
鋼及びオーステナイト系ステンレス鋼に自然混入する水
準が異なるため、S含有量をオーステナイト系ステンレ
ス鋼では0.005質量%以下に、フェライト系ステン
レス鋼では0.01質量%以下に規制することが好まし
い。
となるMnS系の硫化物が鋼中に多量に分散する。ま
た、過酷な加工に供される燃料タンク用途では、S含有
量の増加に応じて割れが発生しやすくなる。しかし、S
はフェライト形成元素であり、フェライト系ステンレス
鋼及びオーステナイト系ステンレス鋼に自然混入する水
準が異なるため、S含有量をオーステナイト系ステンレ
ス鋼では0.005質量%以下に、フェライト系ステン
レス鋼では0.01質量%以下に規制することが好まし
い。
【0021】Ni:オーステナイト系ステンレス鋼では
必須の合金成分であり、オーステナイト相を維持する上
で少なくとも5質量%が必要である。加工誘起マルテン
サイト相の生成に起因する加工硬化はNi含有量の増加
に伴って生じにくくなり、加工硬化率が低減する。しか
し、Niは高価な元素であり、19質量%以下の含有に
よって燃料タンクへの成形が可能であることから、Ni
含有量の上限を19.0質量%とした。他方、フェライ
ト系ステンレス鋼では、多量のNiが含まれると通常の
製造工程で得られる焼鈍組織中にマルテンサイト組織が
混入して耐食性が低下する。そこで、フェライト均一組
織が安定的に得られるように、Ni含有量の上限を0.
60質量%に設定した。
必須の合金成分であり、オーステナイト相を維持する上
で少なくとも5質量%が必要である。加工誘起マルテン
サイト相の生成に起因する加工硬化はNi含有量の増加
に伴って生じにくくなり、加工硬化率が低減する。しか
し、Niは高価な元素であり、19質量%以下の含有に
よって燃料タンクへの成形が可能であることから、Ni
含有量の上限を19.0質量%とした。他方、フェライ
ト系ステンレス鋼では、多量のNiが含まれると通常の
製造工程で得られる焼鈍組織中にマルテンサイト組織が
混入して耐食性が低下する。そこで、フェライト均一組
織が安定的に得られるように、Ni含有量の上限を0.
60質量%に設定した。
【0022】Cr:オーステナイト系ステンレス鋼では
耐食性を確保し且つオーステナイト相を安定させること
から15質量%以上のCrが必要であり、フェライト系
ステンレス鋼では耐食性を確保するために11質量%以
上のCrが必要である。しかし、過剰量のCrが含まれ
るとオーステナイト系ステンレス鋼,フェライト系ステ
ンレス鋼共に硬さが増加して加工性が低下するため、C
r含有量の上限を20質量%に設定した。
耐食性を確保し且つオーステナイト相を安定させること
から15質量%以上のCrが必要であり、フェライト系
ステンレス鋼では耐食性を確保するために11質量%以
上のCrが必要である。しかし、過剰量のCrが含まれ
るとオーステナイト系ステンレス鋼,フェライト系ステ
ンレス鋼共に硬さが増加して加工性が低下するため、C
r含有量の上限を20質量%に設定した。
【0023】Cu:オーステナイト系ステンレス鋼で
は,加工誘起マルテンサイト相の生成に起因する加工硬
化を抑制し、加工性を向上させる有効な合金成分であ
る。特に2.0質量%以上のCuを含ませることによっ
てNi含有量の自由度が拡大し、Ni含有量を下限値5
質量%近くまで下げることができ、鋼材コストの節減が
可能になる。また、Cu添加は耐応力腐食割れ性の改善
にも有効であり、本発明を制約するものではないが,C
uの添加効果は2.0質量%以上で顕著になる。しか
し、過剰量のCuが含まれると熱間加工性に悪影響が現
れるので、Cu含有量の上限を5.0質量%に規定す
る。他方、フェライト系ステンレス鋼では、Cu含有量
の増加に従って材質が硬質化するので、製鋼コストミニ
マムで抑制可能な0.50質量%にCu含有量の上限を
規定することが好ましい。
は,加工誘起マルテンサイト相の生成に起因する加工硬
化を抑制し、加工性を向上させる有効な合金成分であ
る。特に2.0質量%以上のCuを含ませることによっ
てNi含有量の自由度が拡大し、Ni含有量を下限値5
質量%近くまで下げることができ、鋼材コストの節減が
可能になる。また、Cu添加は耐応力腐食割れ性の改善
にも有効であり、本発明を制約するものではないが,C
uの添加効果は2.0質量%以上で顕著になる。しか
し、過剰量のCuが含まれると熱間加工性に悪影響が現
れるので、Cu含有量の上限を5.0質量%に規定す
る。他方、フェライト系ステンレス鋼では、Cu含有量
の増加に従って材質が硬質化するので、製鋼コストミニ
マムで抑制可能な0.50質量%にCu含有量の上限を
規定することが好ましい。
【0024】Mo:必要に応じて添加される合金成分で
あり、耐食性を改善する作用を呈する。しかし、過剰量
のMo添加は硬さを上昇させる原因となるので、Moを
添加する場合には上限を3.0質量%に規定する。 Al:必要に応じて添加される合金成分であり、製鋼段
階で脱酸作用を呈する。また、Ti,Zr,Bの添加直
前に脱酸剤として添加すると鋼中の酸素濃度が低下する
ため、Ti,Zr,Bの歩留まりが向上し且つ安定化す
る。しかし、過剰量のAlが含まれると材質が著しく硬
質化し、成形性にとって有害な硬質介在物が生じやすく
なる。そのため、Alを添加する場合には上限を0.5
質量%に規定することが好ましい。
あり、耐食性を改善する作用を呈する。しかし、過剰量
のMo添加は硬さを上昇させる原因となるので、Moを
添加する場合には上限を3.0質量%に規定する。 Al:必要に応じて添加される合金成分であり、製鋼段
階で脱酸作用を呈する。また、Ti,Zr,Bの添加直
前に脱酸剤として添加すると鋼中の酸素濃度が低下する
ため、Ti,Zr,Bの歩留まりが向上し且つ安定化す
る。しかし、過剰量のAlが含まれると材質が著しく硬
質化し、成形性にとって有害な硬質介在物が生じやすく
なる。そのため、Alを添加する場合には上限を0.5
質量%に規定することが好ましい。
【0025】Ti,Nb,Zr,V:必要に応じて添加
される合金成分であり、固溶強化元素を固定し、材質の
硬さを低減し、ひいては加工性を向上させる作用を呈す
る。これら元素の添加効果は、1.0質量%で飽和し、
それ以上添加しても増量に見合った効果が期待できな
い。 B:必要に応じて添加される合金成分であり、熱間加工
性を向上させ、熱延時の割れ防止に有効である。しか
し、過剰量のB含有は却って熱間加工性が低下すること
になるので、Bを添加する場合には上限を0.1質量%
に規定する。
される合金成分であり、固溶強化元素を固定し、材質の
硬さを低減し、ひいては加工性を向上させる作用を呈す
る。これら元素の添加効果は、1.0質量%で飽和し、
それ以上添加しても増量に見合った効果が期待できな
い。 B:必要に応じて添加される合金成分であり、熱間加工
性を向上させ、熱延時の割れ防止に有効である。しか
し、過剰量のB含有は却って熱間加工性が低下すること
になるので、Bを添加する場合には上限を0.1質量%
に規定する。
【0026】REM(希土類元素):必要に応じて添加
される合金成分であり、Bと同様に熱間加工性の改善に
有効である。しかし、過剰に添加すると添加効果が飽和
することに加え、硬質化を招き成形加工性が低下するこ
とから、REMを添加する場合には上限を0.05質量
%に規定する。 Ca:必要に応じて添加される合金成分であり、製鋼段
階で脱酸作用を呈し、熱間加工性の改善にも有効であ
る。しかし、0.03質量%を超える過剰量のCaを添
加しても、添加効果が飽和し、清浄度が低下する。
される合金成分であり、Bと同様に熱間加工性の改善に
有効である。しかし、過剰に添加すると添加効果が飽和
することに加え、硬質化を招き成形加工性が低下するこ
とから、REMを添加する場合には上限を0.05質量
%に規定する。 Ca:必要に応じて添加される合金成分であり、製鋼段
階で脱酸作用を呈し、熱間加工性の改善にも有効であ
る。しかし、0.03質量%を超える過剰量のCaを添
加しても、添加効果が飽和し、清浄度が低下する。
【0027】オーステナイト系,フェライト系ステンレ
ス鋼の何れにおいても、基材に比較してCrが濃化され
た不動態皮膜(具体的にはCr濃度:25原子%以上,
Fe濃度:75原子%以下)が基材表面に形成されてい
ると、劣化ガソリンを含む腐食環境下に曝されても孔食
等が発生しない耐食性に優れた燃料タンクとなる。更
に、ステンレス鋼表面に生成する不動態皮膜をCrリッ
チに改質するとき、劣化ガソリンを含む腐食環境におい
ても十分な耐食性を呈することが判った。すなわち、燃
料を貯蔵している燃料タンクを長時間高温雰囲気に放置
すると、ガソリンが劣化して有機酸を含む腐食環境にな
るが、このような腐食環境に曝されるとステンレス鋼で
あっても腐食が進行する。このときの腐食が不動態皮膜
中のFe分が多い部分で発生・進行することから、ステ
ンレス鋼表面に通常生成している不動態皮膜をCrリッ
チに改質するとき、腐食が著しく抑制される。
ス鋼の何れにおいても、基材に比較してCrが濃化され
た不動態皮膜(具体的にはCr濃度:25原子%以上,
Fe濃度:75原子%以下)が基材表面に形成されてい
ると、劣化ガソリンを含む腐食環境下に曝されても孔食
等が発生しない耐食性に優れた燃料タンクとなる。更
に、ステンレス鋼表面に生成する不動態皮膜をCrリッ
チに改質するとき、劣化ガソリンを含む腐食環境におい
ても十分な耐食性を呈することが判った。すなわち、燃
料を貯蔵している燃料タンクを長時間高温雰囲気に放置
すると、ガソリンが劣化して有機酸を含む腐食環境にな
るが、このような腐食環境に曝されるとステンレス鋼で
あっても腐食が進行する。このときの腐食が不動態皮膜
中のFe分が多い部分で発生・進行することから、ステ
ンレス鋼表面に通常生成している不動態皮膜をCrリッ
チに改質するとき、腐食が著しく抑制される。
【0028】不動態皮膜のCr濃度が腐食抑制に及ぼす
効果は、酸性雰囲気ではFeに比較してCrの溶出速度
が極めて遅く、溶出に起因する欠陥の発生が少ないこと
に起因するものと考えられる。不動態皮膜のCrリッチ
への改質は、水素ガス等の還元性雰囲気中での熱処理
や、大気雰囲気中で焼鈍した後にフッ酸,硝酸等で酸洗
処理することにより達成される。なかでも,不動態皮膜
のCr濃度を25原子%以上,Fe濃度を75原子%以
下にすると、腐食抑制効果が顕著になる。
効果は、酸性雰囲気ではFeに比較してCrの溶出速度
が極めて遅く、溶出に起因する欠陥の発生が少ないこと
に起因するものと考えられる。不動態皮膜のCrリッチ
への改質は、水素ガス等の還元性雰囲気中での熱処理
や、大気雰囲気中で焼鈍した後にフッ酸,硝酸等で酸洗
処理することにより達成される。なかでも,不動態皮膜
のCr濃度を25原子%以上,Fe濃度を75原子%以
下にすると、腐食抑制効果が顕著になる。
【0029】オーステナイト系,フェライト系ステンレ
ス鋼板の何れにおいても、鋼板表面にエポキシ変性アク
リル樹脂層(下層皮膜)及び固形潤滑剤粒子を分散させ
たアクリル樹脂皮膜(上層皮膜)を形成することにより
加工性が格段に改善され、燃料タンク形状にプレス成形
した際に亀裂,破断等の加工欠陥が防止される。下層皮
膜及び上層皮膜は、耐カジリ性を向上させ且つ短時間の
アルカリ洗浄による溶解除去を可能にする上から合計1
〜10μmの膜厚にすることが好ましい。
ス鋼板の何れにおいても、鋼板表面にエポキシ変性アク
リル樹脂層(下層皮膜)及び固形潤滑剤粒子を分散させ
たアクリル樹脂皮膜(上層皮膜)を形成することにより
加工性が格段に改善され、燃料タンク形状にプレス成形
した際に亀裂,破断等の加工欠陥が防止される。下層皮
膜及び上層皮膜は、耐カジリ性を向上させ且つ短時間の
アルカリ洗浄による溶解除去を可能にする上から合計1
〜10μmの膜厚にすることが好ましい。
【0030】下層皮膜には、ステンレス鋼製基材との密
着性に優れたエポキシ変性アクリル樹脂が使用される。
エポキシ変性アクリル樹脂としては、エポキシオリゴマ
ーの数平均分子量が500〜2000,エポキシ変性量
が3〜20質量%,ガラス転移温度が0〜20℃,酸価
が40〜300の範囲にあるものが好ましい。アクリル
樹脂を変性するエポキシオリゴマーの分子量が500未
満であると,皮膜の密着性向上効果が不充分となり、プ
レス加工時における皮膜のカジリ,不動態皮膜の損傷,
内面耐食性の低下等の原因となる。逆に2000を超え
る分子量では、樹脂皮膜のアルカリ溶解性が低下する。
また、3質量%未満のエポキシ変性量では、下層皮膜の
ステンレス鋼基材に対する密着性に劣り、プレス加工時
における皮膜のカジリ,不動態皮膜の損傷,内面耐食性
の低下等の原因となる。逆に、20質量%を超えるエポ
キシ変性量では、樹脂皮膜のアルカリ溶解性が低下す
る。
着性に優れたエポキシ変性アクリル樹脂が使用される。
エポキシ変性アクリル樹脂としては、エポキシオリゴマ
ーの数平均分子量が500〜2000,エポキシ変性量
が3〜20質量%,ガラス転移温度が0〜20℃,酸価
が40〜300の範囲にあるものが好ましい。アクリル
樹脂を変性するエポキシオリゴマーの分子量が500未
満であると,皮膜の密着性向上効果が不充分となり、プ
レス加工時における皮膜のカジリ,不動態皮膜の損傷,
内面耐食性の低下等の原因となる。逆に2000を超え
る分子量では、樹脂皮膜のアルカリ溶解性が低下する。
また、3質量%未満のエポキシ変性量では、下層皮膜の
ステンレス鋼基材に対する密着性に劣り、プレス加工時
における皮膜のカジリ,不動態皮膜の損傷,内面耐食性
の低下等の原因となる。逆に、20質量%を超えるエポ
キシ変性量では、樹脂皮膜のアルカリ溶解性が低下す
る。
【0031】ガラス転移温度は、ステンレス鋼基材に対
する下層皮膜の密着性を高め、且つ燃料タンク形状への
プレス加工に耐える加工性を確保する上から0〜20℃
の範囲に維持される。ガラス転移温度が0℃より低い
と、皮膜強度が不足し、不動態皮膜の損傷,内面耐食性
の低下等の原因となる。逆に、20℃を超えるガラス転
移温度では、ステンレス鋼基材に対する下層皮膜の密着
性が不充分となる。
する下層皮膜の密着性を高め、且つ燃料タンク形状への
プレス加工に耐える加工性を確保する上から0〜20℃
の範囲に維持される。ガラス転移温度が0℃より低い
と、皮膜強度が不足し、不動態皮膜の損傷,内面耐食性
の低下等の原因となる。逆に、20℃を超えるガラス転
移温度では、ステンレス鋼基材に対する下層皮膜の密着
性が不充分となる。
【0032】樹脂皮膜を設けたステンレス鋼基材をプレ
ス加工によって燃料タンク形状に成形した後、洗浄工程
を経て上ハーフ及び下ハーフが互いにシーム溶接され、
各種部品を溶接・ろう付けすることにより燃料タンクが
組み立てられるが、基材表面にある樹脂皮膜が溶接・ろ
う付け時の加熱で熱分解すると異臭(ヒューム)が発生
し、作業環境を悪化させる。したがって、溶接・ろう付
けに先立って樹脂皮膜を基材表面から除去しておくこと
が好ましい。この点、エポキシ変性アクリル樹脂の酸価
を40〜300の範囲に調整しておくと、溶接・ろう付
けに先立つアルカリ脱脂洗浄工程で樹脂皮膜が容易に溶
解除去されるため、従来の生産ラインに余分な工程を入
れることなく、溶接・ろう付け時のヒューム発生を防止
できる。
ス加工によって燃料タンク形状に成形した後、洗浄工程
を経て上ハーフ及び下ハーフが互いにシーム溶接され、
各種部品を溶接・ろう付けすることにより燃料タンクが
組み立てられるが、基材表面にある樹脂皮膜が溶接・ろ
う付け時の加熱で熱分解すると異臭(ヒューム)が発生
し、作業環境を悪化させる。したがって、溶接・ろう付
けに先立って樹脂皮膜を基材表面から除去しておくこと
が好ましい。この点、エポキシ変性アクリル樹脂の酸価
を40〜300の範囲に調整しておくと、溶接・ろう付
けに先立つアルカリ脱脂洗浄工程で樹脂皮膜が容易に溶
解除去されるため、従来の生産ラインに余分な工程を入
れることなく、溶接・ろう付け時のヒューム発生を防止
できる。
【0033】エポキシ変性アクリル樹脂皮膜は、酸価が
高いほどアルカリに溶解しやすく、酸価40以上になる
と極短時間のアルカリ洗浄によってステンレス鋼基材か
らほぼ完全に除去される。しかし、300を超える酸価
では、エポキシ変性アクリル樹脂皮膜が脆くなり、プレ
ス成形時に皮膜のカジリが発生しやすく、基材表面の不
動態皮膜が損傷し、燃料タンクの内面耐食性を劣化させ
る原因となる。
高いほどアルカリに溶解しやすく、酸価40以上になる
と極短時間のアルカリ洗浄によってステンレス鋼基材か
らほぼ完全に除去される。しかし、300を超える酸価
では、エポキシ変性アクリル樹脂皮膜が脆くなり、プレ
ス成形時に皮膜のカジリが発生しやすく、基材表面の不
動態皮膜が損傷し、燃料タンクの内面耐食性を劣化させ
る原因となる。
【0034】エポキシ変性アクリル樹脂皮膜(下層皮
膜)の上に固形潤滑剤粒子を分散させたエポキシ樹脂皮
膜(上層皮膜)を形成することにより、燃料タンクへの
プレス加工に要求される加工性が付与される。上層皮膜
用のエポキシ樹脂としては、酸価40〜300,ガラス
転移温度40〜80℃のエポキシ樹脂に所定量の固形潤
滑剤粒子を分散させたものが好ましい。固形潤滑剤粒子
の分散によってプレス加工時の潤滑性が確保され、カジ
リ等の欠陥を発生させることなくステンレス鋼基盤を燃
料タンク形状にプレス成形できる。固形潤滑剤粒子とし
ては、ポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,フッ素
樹脂等の合成樹脂粉末やシリカ,二硫化モリブデン,黒
鉛,二硫化タングステン等の無機粉末が使用される。
膜)の上に固形潤滑剤粒子を分散させたエポキシ樹脂皮
膜(上層皮膜)を形成することにより、燃料タンクへの
プレス加工に要求される加工性が付与される。上層皮膜
用のエポキシ樹脂としては、酸価40〜300,ガラス
転移温度40〜80℃のエポキシ樹脂に所定量の固形潤
滑剤粒子を分散させたものが好ましい。固形潤滑剤粒子
の分散によってプレス加工時の潤滑性が確保され、カジ
リ等の欠陥を発生させることなくステンレス鋼基盤を燃
料タンク形状にプレス成形できる。固形潤滑剤粒子とし
ては、ポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,フッ素
樹脂等の合成樹脂粉末やシリカ,二硫化モリブデン,黒
鉛,二硫化タングステン等の無機粉末が使用される。
【0035】固形潤滑剤粒子による加工性向上効果は、
1〜15質量%の合成樹脂粉末,1〜20質量%のシリ
カ粉末又は合計量で1〜35質量%の合成樹脂粉末及び
シリカ粉末を分散させるとき顕著になる。しかし、固形
潤滑剤粒子を過剰に配合すると、皮膜強度の低下に起因
するカジリがプレス加工時に発生しやすくなり、不動態
皮膜の損傷,内面耐食性の低下等の原因となる。
1〜15質量%の合成樹脂粉末,1〜20質量%のシリ
カ粉末又は合計量で1〜35質量%の合成樹脂粉末及び
シリカ粉末を分散させるとき顕著になる。しかし、固形
潤滑剤粒子を過剰に配合すると、皮膜強度の低下に起因
するカジリがプレス加工時に発生しやすくなり、不動態
皮膜の損傷,内面耐食性の低下等の原因となる。
【0036】固形潤滑剤粒子としては、樹脂皮膜中に埋
没することなく所定の加工性を付与する上から平均粒径
0.1〜5μmの粉末が使用される。0.1μm未満の
平均粒径では,樹脂皮膜中に固形潤滑剤粒子が埋没して
しまい、プレス加工用金型への滑り込み性が不充分にな
る。逆に5μmを超える平均粒径では、樹脂皮膜から固
形潤滑剤粒子が突出しすぎてプレス加工用金型で削り取
られやすくなるため、必要とする潤滑性が得られない。
上層塗膜の酸価は、下層塗膜と同様な理由から40〜3
00の範囲に調整することが好ましい。ガラス転移温度
は、ブロッキング現象を防止し、必要な加工性を確保す
る上で40〜80℃の範囲に調整することが好ましい。
40℃未満のガラス転移温度では、耐気温が40℃近く
まで上昇する夏季等において上層皮膜に粘着性が発現
し、ブロッキングが生じやすくなる。
没することなく所定の加工性を付与する上から平均粒径
0.1〜5μmの粉末が使用される。0.1μm未満の
平均粒径では,樹脂皮膜中に固形潤滑剤粒子が埋没して
しまい、プレス加工用金型への滑り込み性が不充分にな
る。逆に5μmを超える平均粒径では、樹脂皮膜から固
形潤滑剤粒子が突出しすぎてプレス加工用金型で削り取
られやすくなるため、必要とする潤滑性が得られない。
上層塗膜の酸価は、下層塗膜と同様な理由から40〜3
00の範囲に調整することが好ましい。ガラス転移温度
は、ブロッキング現象を防止し、必要な加工性を確保す
る上で40〜80℃の範囲に調整することが好ましい。
40℃未満のガラス転移温度では、耐気温が40℃近く
まで上昇する夏季等において上層皮膜に粘着性が発現
し、ブロッキングが生じやすくなる。
【0037】
【実施例】表1の成分・組成をもつ板厚0.8mmのス
テンレス鋼板を基材に使用した。
テンレス鋼板を基材に使用した。
【0038】
【0039】メチルメタクリレート,ブチルアクリレー
ト,メタクリル酸の各成分量を変化させて共重合させる
ことにより酸価及びガラス転移温度が異なるアクリル樹
脂のエマルジョン処理液を複数調製した。下層皮膜用樹
脂は、ガラス転移温度0〜20℃のエマルジョン処理液
にビスフェノールA型エポキシオリゴマーを反応させて
エポキシ変性することにより用意した。上層皮膜用樹脂
は、ガラス転移温度40〜80℃のエマルジョン処理液
に合成樹脂粉末を分散することによって用意した。
ト,メタクリル酸の各成分量を変化させて共重合させる
ことにより酸価及びガラス転移温度が異なるアクリル樹
脂のエマルジョン処理液を複数調製した。下層皮膜用樹
脂は、ガラス転移温度0〜20℃のエマルジョン処理液
にビスフェノールA型エポキシオリゴマーを反応させて
エポキシ変性することにより用意した。上層皮膜用樹脂
は、ガラス転移温度40〜80℃のエマルジョン処理液
に合成樹脂粉末を分散することによって用意した。
【0040】ロールコータを用いて各ステンレス鋼板に
エポキシ変性アクリル樹脂を塗布し、到達板温120℃
で焼き付けることにより下層塗膜を形成した後、合成樹
脂粉末を分散させたエマルジョン処理液を同様に塗布
し、到達板温120℃で焼き付けることにより上層塗膜
を形成した。ステンレス鋼板に設けられた下層皮膜及び
上層皮膜の層構成を表2に示す。
エポキシ変性アクリル樹脂を塗布し、到達板温120℃
で焼き付けることにより下層塗膜を形成した後、合成樹
脂粉末を分散させたエマルジョン処理液を同様に塗布
し、到達板温120℃で焼き付けることにより上層塗膜
を形成した。ステンレス鋼板に設けられた下層皮膜及び
上層皮膜の層構成を表2に示す。
【0041】
【0042】樹脂皮膜が形成されたステンレス鋼板をプ
レス成形し、アルカリ洗浄した後、図1に示す形状の燃
料タンクを作製した。得られた燃料タンクをガソリン5
0リットルで満たした後、インレットパイプ2,フュエ
ルパイプ3,フュエルリターンパイプ4,サブタンク
5,ドレーンプラグ6等の各種部材の開口部からガソリ
ンの揮発がないように接続部を密封した。
レス成形し、アルカリ洗浄した後、図1に示す形状の燃
料タンクを作製した。得られた燃料タンクをガソリン5
0リットルで満たした後、インレットパイプ2,フュエ
ルパイプ3,フュエルリターンパイプ4,サブタンク
5,ドレーンプラグ6等の各種部材の開口部からガソリ
ンの揮発がないように接続部を密封した。
【0043】作製された燃料タンクを次の燃料揮散試験
及び内面腐食試験に供した。 [燃料揮散試験]温度25℃,湿度60%RHの一定環
境に維持した密閉容器に燃料タンク全体を収容し、一昼
夜放置した後,密閉容器内の炭化水素濃度を測定した。
炭化水素が検出されない場合(使用した測定検出値の限
界値0.1g未満)をガソリンの揮散がないものと判断
し、合格(○)と判定した。炭化水素が検出された場合
を、不合格(×)と判定した。比較のため、樹脂及びZ
nめっき鋼板を素材とする燃料タンクを作製し、同様な
条件下でガソリンの揮散有無を調査した。更に、各素材
から作製した別の燃料タンクを自動車に実装し、15万
マイル(約24万km)を走行した後、自動車から燃料
タンクを取り外した。そして、作製直後の燃料タンクと
同様に50リットルのガソリンを注入した後、揮散した
炭化水素濃度を測定し、合格・不合格を判定した。
及び内面腐食試験に供した。 [燃料揮散試験]温度25℃,湿度60%RHの一定環
境に維持した密閉容器に燃料タンク全体を収容し、一昼
夜放置した後,密閉容器内の炭化水素濃度を測定した。
炭化水素が検出されない場合(使用した測定検出値の限
界値0.1g未満)をガソリンの揮散がないものと判断
し、合格(○)と判定した。炭化水素が検出された場合
を、不合格(×)と判定した。比較のため、樹脂及びZ
nめっき鋼板を素材とする燃料タンクを作製し、同様な
条件下でガソリンの揮散有無を調査した。更に、各素材
から作製した別の燃料タンクを自動車に実装し、15万
マイル(約24万km)を走行した後、自動車から燃料
タンクを取り外した。そして、作製直後の燃料タンクと
同様に50リットルのガソリンを注入した後、揮散した
炭化水素濃度を測定し、合格・不合格を判定した。
【0044】[内面腐食試験]プレス成形された燃料タ
ンクから試験片を切り出し、燃料タンクの内側に当たる
面を試験面とした。腐食試験液として、蟻酸350pp
mを含む水を等量のガソリンに混合した試験液A及びメ
タノール85質量%,ガソリン15質量%,蟻酸350
ppmを含む試験液Bの2種類を用意した。50℃に加
温した試験液A,Bに試験片を浸漬し、1週間ごとに試
験液A,Bを取り替えながら試験片を浸漬し続けた。1
2週間後に試験液A,Bから試験片を引き上げ、試験片
表面を観察して発銹面積率を求めた。発銹面積率が10
%未満を○,10〜30%を△,30%以上を×として
内面耐食性を評価した。
ンクから試験片を切り出し、燃料タンクの内側に当たる
面を試験面とした。腐食試験液として、蟻酸350pp
mを含む水を等量のガソリンに混合した試験液A及びメ
タノール85質量%,ガソリン15質量%,蟻酸350
ppmを含む試験液Bの2種類を用意した。50℃に加
温した試験液A,Bに試験片を浸漬し、1週間ごとに試
験液A,Bを取り替えながら試験片を浸漬し続けた。1
2週間後に試験液A,Bから試験片を引き上げ、試験片
表面を観察して発銹面積率を求めた。発銹面積率が10
%未満を○,10〜30%を△,30%以上を×として
内面耐食性を評価した。
【0045】表3の試験結果にみられるように、本発明
に従って樹脂皮膜を施したステンレス鋼板から作製され
た燃料タンクは、劣化ガソリンを充填した場合でもほと
んど発銹が観察されず、製造直後及び15万マイル走行
後の何れにおいても炭化水素の揮散が検出されなかっ
た。炭化水素の揮散は、各種加工部位は勿論、溶接部,
ろう付け部等の接続部位においても検出されなかった。
優れた内面耐食性及び耐揮散性は、ステンレス鋼板に施
した樹脂皮膜が潤滑剤となってプレス加工時の加工性を
向上させると共に、ステンレス鋼板表面に生成している
不動態皮膜に対する保護膜として働いていることを意味
する。すなわち、不動態皮膜の損傷発生が樹脂皮膜によ
り防止されるため、ステンレス鋼本来の優れた耐食性が
発現した結果である。実際、鋼種番号1のステンレス鋼
基材から作製され最も過酷な加工を受けた燃料タンク縦
壁部の内面側をXPS分析したときのO1sピーク強度
(図2)からも、不動態皮膜に損傷が生じていないこと
が判る。
に従って樹脂皮膜を施したステンレス鋼板から作製され
た燃料タンクは、劣化ガソリンを充填した場合でもほと
んど発銹が観察されず、製造直後及び15万マイル走行
後の何れにおいても炭化水素の揮散が検出されなかっ
た。炭化水素の揮散は、各種加工部位は勿論、溶接部,
ろう付け部等の接続部位においても検出されなかった。
優れた内面耐食性及び耐揮散性は、ステンレス鋼板に施
した樹脂皮膜が潤滑剤となってプレス加工時の加工性を
向上させると共に、ステンレス鋼板表面に生成している
不動態皮膜に対する保護膜として働いていることを意味
する。すなわち、不動態皮膜の損傷発生が樹脂皮膜によ
り防止されるため、ステンレス鋼本来の優れた耐食性が
発現した結果である。実際、鋼種番号1のステンレス鋼
基材から作製され最も過酷な加工を受けた燃料タンク縦
壁部の内面側をXPS分析したときのO1sピーク強度
(図2)からも、不動態皮膜に損傷が生じていないこと
が判る。
【0046】これに対し、同一鋼種のステンレス鋼板を
使用した場合でも、樹脂皮膜を設けることなくプレス成
形したものでは、15万マイル走行前後での炭化水素の
揮散は検出されなかったが、過酷な加工を受けた縦壁部
に銹が発生していた。この発銹は、プレス加工で生じた
不動態皮膜の損傷部を起点にするものと考えられる。不
動態皮膜の損傷は、同じ鋼種番号1のステンレス鋼基材
から作製された燃料タンク縦壁部の内面側をXPS分析
したときのO1sピーク強度(図3)からも窺われる。
樹脂で作製した燃料タンクは、製造直後の時点でも炭化
水素の揮散が検出され、15万マイル実装後の検査では
揮散量が大幅に増加していた。また、Znめっき鋼板か
ら作製された燃料タンクは、15万マイル走行後に炭化
水素の揮散が検出され、劣化ガソリンを充填した場合に
は著しい腐食が生じた。
使用した場合でも、樹脂皮膜を設けることなくプレス成
形したものでは、15万マイル走行前後での炭化水素の
揮散は検出されなかったが、過酷な加工を受けた縦壁部
に銹が発生していた。この発銹は、プレス加工で生じた
不動態皮膜の損傷部を起点にするものと考えられる。不
動態皮膜の損傷は、同じ鋼種番号1のステンレス鋼基材
から作製された燃料タンク縦壁部の内面側をXPS分析
したときのO1sピーク強度(図3)からも窺われる。
樹脂で作製した燃料タンクは、製造直後の時点でも炭化
水素の揮散が検出され、15万マイル実装後の検査では
揮散量が大幅に増加していた。また、Znめっき鋼板か
ら作製された燃料タンクは、15万マイル走行後に炭化
水素の揮散が検出され、劣化ガソリンを充填した場合に
は著しい腐食が生じた。
【0047】
【0048】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明の自動車
燃料タンク用ステンレス鋼板は、材質が特定されたステ
ンレス鋼板に樹脂被覆を施しているので、過酷な加工を
施しても加工割れが発生することなく、しかもステンレ
ス鋼板表面に生成している不動態皮膜が樹脂皮膜によっ
て保護されるため、過酷な加工を受ける部位でも不動態
皮膜の損傷が防止される。その結果、ステンレス鋼本来
の優れた耐食性が発現し、長期にわたって優れた気密性
が維持される燃料タンクとなる。また、Alめっき鋼板
等を素材とする燃料タンクと異なり、素材自体で耐食性
を確保していることから、めっき層の剥離,亀裂等に起
因する耐食性低下の懸念もない。そのため、地球環境に
とって有害な貯蔵ガソリンの揮散がない燃料タンクが提
供される。
燃料タンク用ステンレス鋼板は、材質が特定されたステ
ンレス鋼板に樹脂被覆を施しているので、過酷な加工を
施しても加工割れが発生することなく、しかもステンレ
ス鋼板表面に生成している不動態皮膜が樹脂皮膜によっ
て保護されるため、過酷な加工を受ける部位でも不動態
皮膜の損傷が防止される。その結果、ステンレス鋼本来
の優れた耐食性が発現し、長期にわたって優れた気密性
が維持される燃料タンクとなる。また、Alめっき鋼板
等を素材とする燃料タンクと異なり、素材自体で耐食性
を確保していることから、めっき層の剥離,亀裂等に起
因する耐食性低下の懸念もない。そのため、地球環境に
とって有害な貯蔵ガソリンの揮散がない燃料タンクが提
供される。
【図1】 燃料タンクの概略斜視図
【図2】 樹脂皮膜を設けたステンレス鋼板をプレス加
工して得られた燃料タンクの縦壁部内面側をXPS分析
した結果を示すグラフ
工して得られた燃料タンクの縦壁部内面側をXPS分析
した結果を示すグラフ
【図3】 樹脂皮膜のないステンレス鋼板をプレス加工
して得られた燃料タンクの縦壁部内面側をXPS分析し
た結果を示すグラフ
して得られた燃料タンクの縦壁部内面側をXPS分析し
た結果を示すグラフ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) // B05D 7/14 C22C 38/00 302X C22C 38/00 302 38/58 38/58 B60K 15/02 Z (72)発明者 武津 博文 大阪府堺市石津西町5番地 日新製鋼株式 会社技術研究所内 (72)発明者 石川 半二 兵庫県尼崎市鶴町1番地 日新製鋼株式会 社技術研究所内 (72)発明者 森川 茂 兵庫県尼崎市鶴町1番地 日新製鋼株式会 社技術研究所内 Fターム(参考) 3D038 CA06 CB01 CC19 4D075 CA06 CA33 DA06 DB04 DC13 EB22 EB53 EC03 EC54 4F100 AA20C AA20H AB04A AK01C AK01H AK25B AK25C AK25J AK53B AL01 AL06B BA03 BA07 BA10A BA10C CA19C GB16 GB32 JA05B JB02 JD02 JK08A JK12A JK14 JK16C JK16H YY00A YY00B YY00C YY00H 4K044 AA03 AB10 BA14 BA18 BA19 BA21 BB03 BB11 BC02 BC05 CA53
Claims (3)
- 【請求項1】 一軸引張りで加工したときの破断伸びが
50%以上,加工硬化率が4000N/mm2以下のオ
ーステナイト系ステンレス鋼板を基材とし、ガラス転移
温度0〜20℃のエポキシ変性アクリル樹脂からなる下
層皮膜及び1〜35質量%の割合で固形潤滑剤粒子が分
散しているアクリル樹脂からなる上層皮膜が前記ステン
レス鋼基材に順次積層されている自動車燃料タンク用ス
テンレス鋼板。 - 【請求項2】 一軸引張りで加工したときの破断伸びが
30%以上,ランクフォード値(r値)1.3以上のフ
ェライト系ステンレス鋼板を基材とし、ガラス転移温度
0〜20℃のエポキシ変性アクリル樹脂からなる下層皮
膜及び1〜35質量%の割合で固形潤滑剤粒子が分散し
ているアクリル樹脂からなる上層皮膜が前記ステンレス
鋼基材に順次積層されている自動車燃料タンク用ステン
レス鋼板。 - 【請求項3】 固形潤滑剤粒子が平均粒径0.1〜5μ
mの合成樹脂粉末及び/又はシリカ粉末である請求項1
又は2記載の自動車燃料タンク用ステンレス鋼板。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2000251442A JP2002060972A (ja) | 2000-08-22 | 2000-08-22 | 自動車燃料タンク用ステンレス鋼板 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2000251442A JP2002060972A (ja) | 2000-08-22 | 2000-08-22 | 自動車燃料タンク用ステンレス鋼板 |
Related Child Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002043651A Division JP2002332576A (ja) | 2002-02-20 | 2002-02-20 | 自動車燃料タンク用オーステナイト系ステンレス鋼板 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2002060972A true JP2002060972A (ja) | 2002-02-28 |
Family
ID=18740850
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2000251442A Withdrawn JP2002060972A (ja) | 2000-08-22 | 2000-08-22 | 自動車燃料タンク用ステンレス鋼板 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2002060972A (ja) |
Cited By (7)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2003277891A (ja) * | 2002-03-27 | 2003-10-02 | Nisshin Steel Co Ltd | 耐衝撃特性に優れたステンレス鋼製の自動車用燃料タンクまたは給油管 |
EP1350653A1 (en) * | 2002-03-27 | 2003-10-08 | Nisshin Steel Co., Ltd. | Corrosion-resistant fuel tank and fuel-filler tube for motor vehicle |
JP2006124807A (ja) * | 2004-11-01 | 2006-05-18 | Nisshin Steel Co Ltd | 自動車用燃料タンク又は給油管 |
JP2007254763A (ja) * | 2006-03-20 | 2007-10-04 | Jfe Steel Kk | 耐面歪み性及び表面性状に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼板 |
JP2008095138A (ja) * | 2006-10-11 | 2008-04-24 | Nisshin Steel Co Ltd | オーステナイト鋼 |
CN105563912A (zh) * | 2015-12-21 | 2016-05-11 | 常熟市广汇机械设备有限公司 | 静电纺纳米丝束的法兰 |
US11427881B2 (en) | 2014-10-31 | 2022-08-30 | Nippon Steel Stainless Steel Corporation | Ferrite-based stainless steel plate, steel pipe, and production method therefor |
-
2000
- 2000-08-22 JP JP2000251442A patent/JP2002060972A/ja not_active Withdrawn
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2003277891A (ja) * | 2002-03-27 | 2003-10-02 | Nisshin Steel Co Ltd | 耐衝撃特性に優れたステンレス鋼製の自動車用燃料タンクまたは給油管 |
EP1350653A1 (en) * | 2002-03-27 | 2003-10-08 | Nisshin Steel Co., Ltd. | Corrosion-resistant fuel tank and fuel-filler tube for motor vehicle |
JP2006124807A (ja) * | 2004-11-01 | 2006-05-18 | Nisshin Steel Co Ltd | 自動車用燃料タンク又は給油管 |
JP2007254763A (ja) * | 2006-03-20 | 2007-10-04 | Jfe Steel Kk | 耐面歪み性及び表面性状に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼板 |
JP2008095138A (ja) * | 2006-10-11 | 2008-04-24 | Nisshin Steel Co Ltd | オーステナイト鋼 |
US11427881B2 (en) | 2014-10-31 | 2022-08-30 | Nippon Steel Stainless Steel Corporation | Ferrite-based stainless steel plate, steel pipe, and production method therefor |
CN105563912A (zh) * | 2015-12-21 | 2016-05-11 | 常熟市广汇机械设备有限公司 | 静电纺纳米丝束的法兰 |
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