JP2002060844A - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

方向性電磁鋼板の製造方法

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JP2002060844A
JP2002060844A JP2000247587A JP2000247587A JP2002060844A JP 2002060844 A JP2002060844 A JP 2002060844A JP 2000247587 A JP2000247587 A JP 2000247587A JP 2000247587 A JP2000247587 A JP 2000247587A JP 2002060844 A JP2002060844 A JP 2002060844A
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annealing
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grain
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JP2000247587A
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Hiroaki Toda
広朗 戸田
Tetsuo Toge
哲雄 峠
Atsuto Honda
厚人 本田
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Original Assignee
Kawasaki Steel Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 コイル全幅および全長にわたって欠陥のない
均一で密着性に優れたフォルステライト被膜を有し、か
つ磁気特性にも優れた方向性電磁鋼板を安定して製造す
る。 【解決手段】 C:0.02〜0.10mass%, Si:2.0 〜4.5
mass%, Mn:0.05〜0.2mass%, Seおよび/またはS:
0.01〜0.04mass%およびSb:0.005 〜0.05mass%を含有
する組成になる鋼スラブを素材として、中間焼鈍を挟ん
で2回以上の冷間圧延を施すいわゆる2回冷延法により
方向性電磁鋼板を製造するに際し、中間焼鈍板の鋼板表
面近傍におけるMn量を、地鉄部のMn量に対する比で 0.8
以下に規制する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、変圧器その他の
電気機器の鉄心等の用途に供して好適な方向性電磁鋼板
の製造方法に関し、特に中間焼鈍板の鋼板表面近傍にお
ける脱Mn量を制御することによって、磁気特性および被
膜特性の有利な向上を図ろうとするものである。
【0002】
【従来の技術】方向性電磁鋼板は、主として変圧器ある
いは回転機器等の鉄心材料として使用され、磁気特性と
して磁束密度が高く、鉄損および磁気歪が小さいことが
要求される。とくに最近では、省エネルギー、省資源の
観点から磁気特性に優れた方向性電磁鋼板に対するニー
ズはますます高まっている。
【0003】磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を得るに
は、(110)〔001〕方位、いわゆるゴス方位に高
度に集積した2次再結晶組織を得ることが肝要である。
かかる方向性電磁鋼板は、二次再結晶に必要なインヒビ
ター、例えばMnS,MnSe,AlN,BN等を含む鋼スラブ
を、加熱後、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施
したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧
延によって最終板厚とし、ついで脱炭焼鈍後、鋼板にMg
Oを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上
げ焼鈍を行うことによって製造される。
【0004】そして、この方向性電磁鋼板の表面には、
特殊な場合を除いて、フォルステライト (Mg2SiO4)を主
体とする絶縁被膜(以下、単にフォルステライト被膜と
いう)が形成されているのが一般的である。この被膜
は、表面の電気的絶縁だけでなく、その低熱膨張性に起
因する引張応力を鋼板に付与することにより、鉄損さら
には磁気歪を効果的に改善する。
【0005】また、一般に方向性電磁鋼板は、フォルス
テライト被膜の上にガラス質のコーティングが施される
が、このコーティングは非常に薄く透明であるため、フ
ォルステライト被膜が製品の最終的な外観を決定する。
従って、その外観の良否は製品価値を大きく左右し、例
えば地鉄が一部露出したような被膜をもつものは製品と
して不適当とされるなど、被膜性状が製品歩留りに及ぼ
す影響は極めて大きい。従って、形成されたフォルステ
ライト被膜は、外観が均一で欠陥のないこと、またせん
断、打ち抜きおよび曲げ加工等において被膜のはく離が
生じないように密着性に優れることが要求される。さら
に、その表面は平滑で、鉄心として積層した場合に高い
占積率を有することが必要とされる。
【0006】このようなフォルステライト被膜は、最終
仕上げ焼鈍において形成されるが、その被膜形成挙動は
鋼中のMnS,MnSe,AlN等のインヒビター効果に影響す
るため、優れた磁気特性を得るために必須の過程である
二次再結晶そのものにも影響を及ばす。また、形成され
たフォルステライト被膜は、二次再結晶が完了したあと
には不要となるインヒビター成分を被膜中に吸い上げて
鋼を純化することによっても、鋼板の磁気特性の向上に
貢献している。従って、このフォルステライト被膜形成
過程を制御して被膜を均一に生成させることは、優れた
磁気特性を有する方向性電磁鋼板を得る上で非常に重要
である。
【0007】このように製品品質に多大な影響を及ぼす
フォルステライト被膜は、一般に以下のような工程で形
成される。まず、所望の最終板厚に冷間圧延された方向
性電磁鋼板用の最終冷延板を、湿水素中にて 700〜900
℃の温度で連続焼鈍する。この焼鈍(脱炭焼鈍)によっ
て、冷間圧延後の組織を最終仕上げ焼鈍において適正な
二次再結晶が起こるように一次再結晶させると共に、製
品の磁気特性の時効劣化を防止するため、鋼中に0.01〜
0.10mass%程度含まれる炭素を 0.003mass%程度以下ま
でに減少させる。また、同時に鋼中Siの酸化によって、
SiO2を含むサブスケールを鋼板表層に生成させる。その
後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を鋼板上に塗布してか
ら、コイル状に巻取り、還元性あるいは非酸化性雰囲気
中において二次再結晶焼鈍と純化焼鈍を兼ねた最終仕上
げ焼鈍を最高1200℃程度の温度で行うことにより、主と
して以下の反応式で示される固相反応によってフォルス
テライト被膜を形成させる。 2MgO+SiO2→Mg2SiO4
【0008】このフォルステライト被膜は、1μm 前後
の微細結晶が緻密に集積したセラミックス被膜であり、
上述したように、脱炭焼鈍において鋼板表層に生成した
SiO2を含有するサブスケールを一方の原料として、その
鋼板上に生成させるものであるから、このサブスケール
の種類、量、分布等はフォルステライトの核生成や粒成
長挙動に関与すると共に、被膜結晶粒の粒界や粒そのも
のの強度にも影響を及ぼし、従って仕上げ焼鈍後の被膜
品質に多大な影響を及ぼす。
【0009】また、他方の原料物質であるMgOを主体と
する焼鈍分離剤は、水に懸濁したスラリーとして鋼板に
塗布されるため、乾燥させた後も物理的に吸着したH2
を保有するほか、一部が水和してMg(OH)2 に変化してい
る。そのため、仕上げ焼鈍中は 800℃付近まで少量なが
らH2Oを放出し続ける。このH2Oにより仕上げ焼鈍中に
鋼板表面は酸化される。この酸化もフォルステライトの
生成挙動に影響を及ぼすと共にインヒビター効果にも影
響を与え、この追加酸化量が多いと磁気特性が劣化する
要因となる。このマグネシアが放出するH2Oによる酸化
のし易さも、脱炭焼鈍で形成されたサブスケールの物性
に大きく影響される。特に板厚が薄くなると、表面の影
響が相対的に強まるため、脱炭焼鈍時に形成されるサブ
スケール品質の制御は、優れた磁気特性を得る上で極め
て重要である。
【0010】以上述べたように、脱炭焼鈍において鋼板
表層に形成されるサブスケールの品質を制御すること
は、優れたフォルステライト被膜を適切な温度で均一に
形成させるために、また二次再結晶を正常に発現させる
ために欠かせない技術であり、方向性電磁鋼板の製造技
術の重要な項目の一つである。
【0011】これまで方向性電磁鋼板の脱炭焼鈍に関し
ては、例えば特開昭59−185725号公報に開示されている
ような、脱炭焼鈍後、鋼板の酸素含有量を制御する方
法、特公昭57−1575号公報に開示されているような、雰
囲気の酸化度を脱炭焼鈍の前部領域では0.15以上とし、
引き続く後部領域では酸化度を0.75以下でかつ前部領域
よりも低くする方法、特開平2−240215号公報や特公昭
54−24686 号公報に示されているような、脱炭焼鈍後に
非酸化性雰囲気中で 850〜1050℃の熱処理を行う方法、
特公平3−57167 号公報に開示されているような、脱炭
焼鈍後の冷却を750 ℃以下の温度域では酸化度を 0.008
以下として冷却する方法、また特開平6−336616号公報
に開示されているような、均熱過程における水素分圧に
対する水蒸気分圧の比を0.70未満に、かつ昇温過程にお
ける水素分圧に対する水蒸気分圧の比を均熱過程よりも
低い値にする方法、さらに特開平7−278668号公報に開
示されているような、昇温速度と焼鈍雰囲気を規定する
方法等が知られている。
【0012】その他、鋼中S≦0.014 mass%でスラブ加
熱温度が1280℃未満の低い温度に限定されるが、特開平
6−184638号公報では、酸化膜成分の組成を(FeO+Mn
O)/酸化膜中全SiO2 で0.10〜0.50、かつ酸化膜中全
SiO2 が 0.6〜1.7 (g/m2)となるように脱炭焼鈍を行っ
て、均一なグラス被膜を有し、磁気特性の著しく優れた
方向性電磁鋼板を製造する技術が開示されている。
【0013】上述した技術はいずれも、雰囲気、温度等
の脱炭焼鈍条件を調整してサブスケールの品質を制御す
る方法であるが、脱炭焼鈍前の鋼板の表面状態に応じて
サブスケール品質を制御する方法として、特公昭58−46
547 号公報には、脱炭焼鈍前にSi, OあるいはSi, O,
Hを含有するSi化合物を付着させる技術、特開平7−18
8757号公報には、脱炭焼鈍前の地鉄表面Siと鋼中Si濃度
の差(ΔSi)が鋼中Si濃度の20%を超える材料に対し、
ΔSiに応じたSi化合物を塗布する技術が開示されてい
る。さらに、これらを発展させた技術として、特開平10
−195536号公報には、中間焼鈍板の表面酸化層中におけ
るSi, O量を制御する方法が、また特開平11−140546号
公報には、中間焼鈍板の表面酸化物のSi濃度と地鉄のSi
濃度との比率に応じて、脱炭焼鈍前の鋼板表面へのSi化
合物の付着量を制御する方法が開示されている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】上述した方法はいずれ
も、一定の効果は認められるとはいえ、必ずしも十分な
ものではなく、脱炭焼鈍時に形成されるサブスケール品
質には依然としてばらつきがあり、結果として得られる
磁気特性が安定しない場合があった。すなわち、優れた
品質を有する製品を安定して生産し、一層の歩留り向上
を図るためには、いまだ改善の余地が残されていた。こ
の発明は、上記の実状に鑑み開発されたもので、コイル
全幅および全長にわたって欠陥のない均一で密着性に優
れたフォルステライト被膜を有し、かつ磁気特性にも優
れた方向性電磁鋼板を安定して製造することができる方
法を提案することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、上記
の目的を達成すべく、脱炭焼鈍後に形成されるサブスケ
ールの品質および仕上げ焼鈍後に形成されるフォルステ
ライト被膜の品質のみならず、脱炭焼鈍前の各工程にお
ける鋼板の表面状態について綿密な検討を行った。その
結果、中間焼鈍後の鋼板表層部の脱Mn量とそれに引き続
く最終冷延時の圧下量で決定される脱炭焼鈍前の鋼板表
層部の脱Mn量が製品品質と強い相関関係にあることを見
出した。
【0016】すなわち、脱炭焼鈍前の鋼板表層部の脱Mn
量が少ないと、脱炭焼鈍時に形成されるサブスケール中
のMn酸化物が多くなるために、仕上げ焼鈍中の被膜形成
過程が変化し、それに起因して磁気特性が劣化すること
を新たに知見した。従って、脱炭焼鈍前の鋼板表層部の
脱Mn量を測定し、その結果を脱炭焼鈍条件に反映してサ
ブスケール中のMn酸化物量を制御することができれば、
サブスケール品質を一定に制御することが可能となる。
しかしながら、脱炭焼鈍前の鋼板表層部で脱Mnが生じて
いる領域の鋼板厚み方向深さはおよそ1μm に達しない
厚さであるため、オンラインで制度良く短時間に測定す
ることは困難である。それ故、その結果を直ちに脱炭焼
鈍条件に反映させることは難しい。
【0017】しかしながら、上述したように、脱炭焼鈍
前の鋼板表層部の脱Mn量は中間焼鈍後の鋼板表層部の脱
Mn量とその後の最終冷延時の圧下量で決定される。従っ
て、中間焼鈍後に冷間圧延工程が入ることを考えると、
中間焼鈍後の鋼板表層部のMn量を迅速かつ的確に評価で
きれば、脱炭焼鈍条件へ反映させることは難しくない。
また、中間焼鈍後の脱Mnが生じている領域の鋼板厚み方
向深さは、脱炭焼鈍前の鋼板表層部のそれより厚いの
で、その測定も容易となる。
【0018】そこで、中間焼鈍後の鋼板表層部のMn量を
評価する方法について種々検討したところ、グロー放電
分光法の活用に想い到り、このグロー放電分光法を利用
して中間焼鈍後の鋼板表層部の脱Mn量を所定の範囲に制
御することにより、所望の目的が効果的に達成されると
の知見を得た。この発明は、上記の知見に立脚するもの
である。
【0019】すなわち、この発明の要旨構成は次のとお
りである。 1.C:0.02〜0.10mass%, Si:2.0 〜4.5 mass%, M
n:0.05〜0.2 mass%, Seおよび/またはS:0.01〜0.0
4mass%およびSb:0.005 〜0.05mass%を含有する組成
になる鋼スラブを、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼
鈍を施したのち、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を
施し、ついで脱炭焼鈍を施したのち、鋼板表面に焼鈍分
離剤を塗布してから、二次再結晶焼鈍および純化焼鈍を
施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法にお
いて、中間焼鈍板の鋼板表面近傍におけるMn量を、地鉄
部のMn量に対する比で 0.8以下に規制することを特徴と
する方向性電磁鋼板の製造方法。この発明において、中
間焼鈍板の鋼板表面近傍とは、鋼板の最表面から1.5 μ
m の深さまでを指し、また地鉄部とは、最表面から少な
くとも5μm 以上の深さを指し、Mn量はこれらの領域で
の平均値とする。
【0020】2.中間焼鈍を、鋼板表層部にMn酸化物を
生成させる条件下で行い、その後、酸洗または研削等に
より鋼板表層部のスケールを除去することによって、鋼
板表面近傍のMn量を調整することを特徴とする上記1記
載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0021】3.鋼スラブが、さらに、Cu:0.05〜0.20
mass%および/またはMo:0.005 〜0.05mass%を含有す
る組成になることを特徴とする上記1または2記載の方
向性電磁鋼板の製造方法。
【0022】4.中間焼鈍板の地鉄部に対する鋼板表面
近傍のMn量比をs、一方脱炭焼鈍工程の加熱時における
雰囲気酸化度(P[H2O]/P[H2]:雰囲気の水素分圧に対
する水蒸気分圧の比)をyとする時、上記s値に応じて
yの値を下記式を満足する範囲に制御することを特徴と
する上記1,2または3記載の方向性電磁鋼板の製造方
法。 記 y≧0.40−0.4 ×(0.8−s)(但し、y≦0.60)
【0023】
【発明の実施の形態】以下、この発明を導くに至った経
緯について具体的に説明する。インヒビター成分として
MnSeおよびSbを利用する製品の一層の歩留りの向上を図
るために、磁気特性が劣化した製品に対応する脱炭焼鈍
板のサブスケール品質について種々の調査を行った。そ
の結果、最終製品の磁気特性が劣化した脱炭焼鈍板サブ
スケールでは、サブスケール表層部でのMn酸化物生成量
が多いことが判明した。その原因を調べるため、0.22mm
厚の最終冷延板を多数用意し、同一条件で脱炭焼鈍を行
った結果、最終製品の磁気特性が劣化した最終冷延板を
用いた場合には、やはりサブスケール表層部でのMn酸化
物生成量が多いことが確認された。
【0024】そこで、発明者らは、上記のような磁気特
性の劣化原因は、より上流工程にあるのではないかと考
え、インヒビター成分としてMnSeおよびSbを利用する素
材の中間焼鈍板 (0.60mm厚) について各種調査を行っ
た。グロー放電分光法によれば、迅速にMnの濃度プロフ
ァイルを求めることができる。このグロー放電分光を利
用して、中間焼鈍後、酸洗処理を施して表面スケールを
除去した鋼板表面のMnプロファイルを求めた一例を、図
1に示す。同図に示したように、グロー放電分光では、
1回の測定で地鉄内部の元素濃度と表面近傍の元素濃度
を求めることができる。同図は、スパッタリング速度か
ら換算した深さと測定元素の強度とを示していて、例え
ば換算深さ1μm に相当する間隔で表面近傍と地鉄部分
についてMnの換算強度を求めることができる。
【0025】そこで、中間焼鈍板のグロー放電分光法に
よるMnプロファイルを測定した。そして、最表面から
1.5μm 深さまで(鋼板表面近傍)の積算強度を、深さ
5μm から 6.5μm まで(鋼板地鉄部)の積算強度で割
った積算強度比(s)を求めた。得られた値(s)と製
品板(各0.23mm厚)の磁気特性とを比べた結果を、図2
に示す。同図に示したとおり、s値が 0.8を超えると磁
気特性の劣化が顕著であることが分かる。これに対し、
s値が 0.8以下、特にs値が 0.6以下の場合には、優れ
た磁気特性が得られている。
【0026】次に、s=0.5, 0.7, 0.9 の場合に対応す
る脱炭焼鈍板サブスケール品質の調査をグロー放電分光
法により行ったところ、s値が大きい場合にはサブスケ
ール表層部(鋼板最表面から約 0.5μm 深さまで)のMn
濃度が高いことが判明した。その結果を図3に示す。サ
ブスケールの厚みは約2〜3μm であるので、s値が高
くなるとサブスケール表層部でのMn酸化物生成量が多く
なることが分かる。
【0027】この場合、中間焼鈍板の板厚は0.60mm、脱
炭焼鈍前の最終冷延板の板厚は0.22mmなので、中間焼鈍
板の最表面から 1.5μm 深さの領域は、最終冷延板では
最表面から0.55μm 深さの領域になる。従って、s値が
低い場合、最終冷延板表層部でのMn濃度が低いために、
サブスケール表層部でのMn酸化物生成量が少なくなると
考えられる。
【0028】次に、脱炭焼鈍板サブスケール表層部での
Mn酸化物生成量が多いと、磁気特性の劣化が顕著になる
理由を調べるために、次の手順で供試材を用意し、二次
再結晶焼鈍途中で試料を引き出して、各種調査を行っ
た。すなわち、s値が異なる中間焼鈍板(0.60mm厚)に
ついて、0.22mm厚まで冷間圧延し、ついで脱炭焼鈍を行
ったのち、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤を塗布し
て供試材を用意した。次に、二次再結晶焼鈍は窒素雰囲
気中 850℃で行い、5時間焼鈍後に試料を引き出した。
【0029】途中で引き出した試料の表面を薄膜X線で
調査した結果、s値が高くて製品の磁気特性が劣った試
料では、二次再結晶焼鈍途中のオリビン形成が遅いこと
が判明した。すなわち、通常、焼鈍初期には、次式に従
いオリビン[(Fe1-x, Mgx )2SiO4]が形成する反応が進
行する。 Fe2SiO4 +xMgO → (Fe1-x , Mgx )2SiO4+xFeO ここで、Fe2SiO4 は脱炭焼鈍時に形成されたサブスケー
ル表層のファイヤライトであり、この式はファイヤライ
ト中のFeの一部がMgに置換されることを示している。
なお、さらに反応が進行すると、次式に従い、フォルス
テライト(Mg2SiO4) が生成する。 (Fe1-x, Mgx )2SiO4+ (1-x)MgO → Mg2SiO4+ (1-x)Fe
O
【0030】測定例として、s=0.5 (試料A)、s=
0.9 (試料B)であった途中引き出し試料表面の薄膜X
線測定結果を、図4に示す。同図から明らかなように、
試料Bは試料Aに比べて、オリビン形成が遅いことが分
かる。
【0031】次に、次式で定義する途中引き出し焼鈍に
よる鋼板単位面積当たりの酸素目付量の増分ΔO(g/
m2) とs値との関係について調べた結果を、図5に示
す。 ΔO(g/m2) =(途中引き出し後の鋼板単位面積当たり
の酸素目付量)−(脱炭焼鈍板の鋼板単位面積当たりの
酸素目付量) 図5から明らかなように、s値が高いほどΔOが多くな
る。すなわち、二次再結晶焼鈍初期での追加酸化量が多
くなることが分かる。
【0032】二次再結晶焼鈍途中の追加酸化量が多い
と、鋼板表層部のインヒビター分解が促進されるために
磁気特性が劣化する要因になることは、従来から報告さ
れている。従って、s値が高いと脱炭焼鈍板サブスケー
ル表層部のMn酸化物生成量が多くなって二次再結晶焼鈍
初期でのオリビン形成が遅くなるために、その間の追加
酸化量が増し、インヒビター分解が促進されて磁性劣化
を招き易くなるものと考えられる。脱炭焼鈍板サブスケ
ール中のMn酸化物は、(Fe1-y, Mny )2SiO4の形でファイ
ヤライトのFeの一部がMnで置換した形で存在しているた
め、この存在比がオリビン形成反応に何らかの影響を及
ぼし、結果として、Mn酸化物量が多い場合にオリビン形
成が遅れることになるものと考えられる。また、焼鈍初
期にオリビンが早期に形成された方が、その間の追加酸
化量が少なくなる理由は、まだ明確に解明されたわけで
はないが、おそらくファイヤライトであるよりは、オリ
ビンが形成された方が鋼板表層部が雰囲気に対して緻密
になるためと考えられる。
【0033】次に、脱炭焼鈍板サブスケール表層部のMn
酸化物生成量は、脱炭焼鈍前の鋼板表層部のMn濃度分布
の他、脱炭焼鈍時の雰囲気酸化度(P[H2O]/P[H2]:雰
囲気の水素分圧に対する水蒸気分圧の比)の影響を受け
ると考えられるので、その影響を調べる実験を行った。
C:0.041 mass%、Si:3.43mass%、Mn:0.07mass%、
Se:0.020 mass%およびSb:0.025 mass%を含有する組
成になるけい素鋼スラブを、1430℃の温度で20分間加熱
後、熱間圧延により 2.0mm厚の熱延板とした。ついで 9
50℃, 1分間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により
板厚:0.6mm の中間厚としたのち、酸化度(P[H2O]/P
[H2])を種々に変化させて1000℃, 1分間の中間焼鈍を
行った。その後、酸洗および研削条件を変更してスケー
ルを除去する処理を行ったのち、2回目の冷間圧延によ
り最終板厚:0.22mmに仕上げた。ここで、スケール除去
処理後の中間焼鈍板のグロー放電分光法によるMnプロフ
ァイルの測定を行い、最表面から 1.5μm 深さまで(鋼
板表面近傍)の積算強度を深さ 8.5μm から10μm まで
(鋼板地鉄部)の積算強度で割った積算強度比(s)を
求めた。
【0034】その後、これらの冷延板を脱脂して表面を
清浄化したのち、H2−H2O−N2雰囲気中にて、雰囲気酸
化度(P[H2O]/P[H2])を種々変化させて、820 ℃の温
度で脱炭焼鈍を施した。ついで、マグネシア:100 重量
部に対しTiO2:2重量部と SrSO4:2重量部を配合した
焼鈍分離剤をスラリー状にして、それぞれの脱炭焼鈍板
コイルに塗布して乾燥させたのち、窒素雰囲気中にて 8
50℃, 50時間の二次再結晶焼鈍を行い、ついで水素雰囲
気中にて30℃/hの速度で1180℃まで昇温したのち、1180
℃, 5時間の純化焼鈍を行った。かくして得られたコイ
ルのフォルステライト被膜の外観と曲げ密着性、さらに
は磁気特性を評価し、中間焼鈍板のs値と脱炭焼鈍工程
の加熱時における雰囲気酸化度との間の関係について調
べた結果を、図6に示す。同図に示したように、中間焼
鈍板のMn量比をs、一方脱炭焼鈍工程の加熱時における
雰囲気酸化度(P[H2O]/P[H2])をyとする時、 y≧0.40−0.4 ×(0.8−s)(但し、y≦0.60) の関係が満足される場合に、とりわけ良好な磁気特性を
有する製品が得られることが判明した。
【0035】図6から、s値が高くなると、良好な磁気
特性を得るためには、脱炭焼鈍工程の加熱時における酸
化度を高くする必要があることが分かる。脱炭焼鈍時の
酸化度を高くすることは、一見、Mn酸化物生成量が増大
するように思われ、「サブスケール表層部のMn酸化物生
成量が多い場合、磁気特性は劣化する」というこれまで
の結果と矛盾するように考えられる。しかしながら、実
際に脱炭焼鈍板サブスケール中のMn酸化物生成量を調べ
たところ、加熱時の雰囲気酸化度が低い方がMn酸化物生
成量は多く、本実験結果は、「サブスケール表層部のMn
酸化物生成量が多い場合、磁気特性は劣化する」という
これまでの結果と一致した。おそらく、加熱時の雰囲気
酸化度が高い方が、酸化初期時に鋼板表面に緻密な酸化
膜が形成され、その後のMn酸化物の生成が抑制されるた
めに、上記のような結果になると考えられる。また、y
>0.60で特性が劣化するのは、この酸化度ではFeOが生
成するためと考える。
【0036】次に、この発明において素材の成分組成を
前記の範囲に限定した理由について説明する。 C:0.02〜0.10mass% Cは、熱間圧延時のα−γ変態を利用して結晶組織の改
善を行うために有用な成分であるが、含有量が0.02mass
%に満たないと良好な一次再結晶組織が得られず、一方
0.10mass%を超えると脱炭が難しくなって脱炭不良とな
り、磁気特性の劣化を招くので、C量は0.02〜0.10mass
%の範囲に限定した。
【0037】Si:2.0 〜4.5 mass% Siは、製品の電気抵抗を高め、渦電流損を低減させる上
で重要な成分である。しかしながら、含有量が 2.0mass
%に満たないと最終仕上げ焼鈍中にα−γ変態によって
結晶方位が損なわれ、一方 4.5mass%を超えると冷延性
に問題が生じるので、Si量は 2.0〜4.5 mass%の範囲に
限定した。
【0038】Mn:0.05〜0.2 mass%,Seおよび/または
S:0.01〜0.04mass% MnとSe, Sとは、インヒビターMnSe, MnSとして機能す
るものであるが、Mn量が0.05mass%未満、またSeやS量
が0.01mass%未満ではインヒビター機能が不十分とな
り、一方Mn量が 0.2mass%を超え、またSeやS量が0.04
mass%を超えるとスラブ加熱の際に必要とする温度が高
くなりすぎて実用的でないので、Mnは0.05〜0.2 mass
%、またSe,Sは単独または併用いずれの場合において
も0.01〜0.04mass%の範囲に限定した。
【0039】Sb:0.005 〜0.05mass% Sbは、補助インヒビターとして機能し、磁気特性の向上
に有用な元素である。しかしながら、含有量が 0.005ma
ss%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.05mass
%を超えると脱炭性が悪くなるので、Sb量は0.005 〜0.
05mass%の範囲に限定した。
【0040】以上、必須成分について説明したが、この
発明では、その他にもCuを以下の範囲で含有させること
ができる。 Cu:0.05〜0.20mass% Cuは、磁気特性の向上および安定化に有効な元素であ
り、Cuを添加するとインヒビターはMnSeあるいはMnSか
らCuSeあるいはCuSに変化する。この発明では、中間焼
鈍後の鋼板表面近傍のMn量を制御するため、MnSeやMnS
をインヒビターとするよりも、CuSeやCuSをインヒビタ
ーとして使用する方が望ましい。しかしながら、含有量
が0.05mass%に満たないとインヒビターとして十分に機
能せず、一方0.20mass%を超えると酸洗性や熱間圧延時
の脆性が悪化するので、Cuは0.05〜0.20mass%の範囲で
含有させる必要がある。
【0041】また、この発明では、必要に応じ、磁気特
性あるいは被膜特性の改善成分としてCr, Sn, Ge, Ni,
P, NbおよびVなどを単独または複合して添加すること
が可能である。 Cr:0.05〜0.30mass% Crは、含有量が0.05%未満ではその添加効果に乏しく、
一方0.30mass%を超えると良好な一次再結晶組織が得ら
れないので、Cr量は0.05〜0.30mass%程度で含有させる
のが好ましい。 Sn:0.03〜0.30mass%,Ge:0.03〜0.30mass% Sn,Geは、含有量が0.03mass%未満ではその添加効果に
乏しく、一方0.30mass%を超えると良好な一次再結晶組
織が得られないので、それぞれの0.02〜0.30mass%程度
で含有させることが好ましい。 Ni:0.03〜0.50mass% Niは、含有量が0.03mass%未満ではその添加効果に乏し
く、一方0.50mass%を超えると熱間強度が低下するの
で、Ni量は0.03〜0.50mass%程度とするのが好ましい。 P:0.002 〜0.30mass% Pは、含有量が 0.002mass%未満では添加効果に乏し
く、一方0.30mass%を超えると良好な一次再結晶組織が
得られないので、P量は0.002 〜0.30mass%程度とする
のが好ましい。 Nb:0.003 〜0.10mass%,V:0.003 〜0.10mass% Nb, Vはいずれも、含有量が 0.003mass%に満たないと
その添加効果に乏しく、一方0.10mass%を超えると脱炭
性が悪化するので、それぞれ0.003 〜0.10mass%程度で
含有させることが好ましい。
【0042】Mo:0.005 〜0.10mass% さらに、表面性状を改善するためにMoを添加することが
できる。しかしながら、含有量が 0.005mass%に満たな
いとその添加効果に乏しく、一方0.10mass%を超えると
脱炭性が悪化するので、Mo量は 0.005〜0.10mass%程度
とするのが好ましい。
【0043】次に、この発明の好適製造条件について具
体的に説明する。従来より用いられている製鋼法で上記
の好適成分組成に調整した溶鋼を、連続鋳造法あるいは
造塊法で鋳造し、必要に応じて分塊工程を挟んでスラブ
とし、ついで1250〜1450℃の温度範囲でスラブ加熱を行
ったのち、熱間圧延を施す。ついで、必要に応じて熱延
板焼鈍を行ったのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以
上の冷間圧延により最終板厚の冷延板とする。この時、
中間焼鈍板の鋼板表面近傍におけるMn量を、地鉄部のMn
量に対する比で 0.8以下にすることが肝要である。ここ
に、中間焼鈍板の鋼板表面近傍とは、その最表面から
1.5μm の深さまでを指す。また、地鉄部とは、最表面
から少なくとも5μm 以上の深さ範囲を指す。深さ5μ
m 以上で一定範囲の測定を行えば、Mnの局所的変動は無
視でき、地鉄部のMn量を容易かつ正確に求めることがで
きる。
【0044】このMn量比の測定方法としては、グロー放
電分光法が簡便であるが、表面近傍部と地鉄部を削りだ
して化学分析を行うあるいは蛍光X線分析を行う等の他
の測定法を採用してもよい。その際、中間焼鈍は、雰囲
気酸化度をシリカのみが生成する領域ではなく、それよ
りも高い領域として、鋼板表層部にMn酸化物を生成させ
る条件で行い、その後、酸洗または研削等により鋼板表
層のスケールを除去することによって、鋼板表面近傍の
Mn量を調整することが望ましい。鋼板表層の除去量は、
酸洗濃度、温度、ブラシロール研磨や弾性ロール研磨の
砥粒番定や回転速度などを変更することによって制御す
ることができる。
【0045】ついで、脱炭焼鈍を行うが、この脱炭工程
において加熱時における雰囲気酸化度(P[H2O]/P
[H2])をy、中間焼鈍板の最表面から 1.5μm 深さまで
(鋼板表面近傍)のMn量の平均値を、最表面から少なく
とも5μm 以上の深さ範囲(鋼板地鉄部)のMn量の平均
値で割ったMn量比をsとする時、 y≧0.40−0.4 ×(0.8−s)(但し、y≦0.60) を満たす条件とすることが望ましい。
【0046】また、脱炭焼鈍板のサブスケール量につい
ては、鋼板の酸素目付量(片面当たり)で 0.5〜1.0 g/
m2程度とするのが好ましい。というのは、0.5 g/m2未満
では、フォルステライトの原料となるサブスケールが不
足するために良好な被膜が形成しにくく、一方 1.0 g/m
2 超えるとフォルステライト被膜が過剰に生成し厚くな
るため、占積率の低下をきたすからである。
【0047】上記のような脱炭焼鈍を施した鋼板表面
に、マグネシアを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状
にして塗布した後、乾燥する。ここで、焼鈍分離剤に用
いるマグネシアは、水和量(20℃,6分間にて水和後、
1000℃,1時間の強熱による減量)が1〜4mass%の範
囲のものを用いるのがよい。というのは、マグネシアの
水和量が1mass%未満ではフォルステライト被膜の生成
が不充分となり、一方4mass%を超えるとコイル層間へ
の持ち込み水分量が多くなりすぎて鋼板の追加酸化量が
多くなるため、良好なフォルステライト被膜が得られな
くなるおそれがあるからである。また、30℃でのクエン
酸活性度 (CAA40)は30秒から 150秒のものを用いるのが
よい。というのは、クエン酸活性度が30秒未満では反応
性が強すぎてフォルステライトが急激に生成して剥落し
易く、一方 150秒を超えると反応性が弱すぎてフォルス
テライト生成が進行しないからである。さらに、BET
(比表面積) は10〜40 m2/g 程度のものを用いるのがよ
い。というのは、10 m2/g 未満では反応性が弱すぎてフ
ォルステライト生成が進行せず、一方 40 m2/gを超える
と反応性が強すぎてフォルステライトが急激に生成し、
剥落し易くなるからである。またさらに、焼鈍分離剤の
塗布量は鋼板片面当たり4〜10g/m2の範囲で塗布するの
が好ましい。というのは、塗布量が4g/m2より少ないと
フォルステライトの生成が不十分となり、一方10g/m2
超えるとフォルステライト被膜が過剰に生成し厚くなる
ために占積率の低下をきたすからである。
【0048】さらに、被膜特性および磁気特性の一層の
均一性向上を目的として、焼鈍分離剤中にTiO2, SnO2,
Fe2O3, CaOのような酸化物、 MgSO4やSnSO4 のような硫
化物あるいはSrSO4, Sr(OH)2・8H2OようなSr化合物のう
ちから選んだ1種または2種以上をそれぞれ単独または
複合して添加してもよい。
【0049】ついで、二次再結晶焼鈍および純化焼鈍
(最終仕上げ焼鈍)を施したのち、りん酸塩系の絶縁コ
ーティング好ましくは張力を有する絶縁コーティングを
施して製品とする。二次再結晶焼鈍は、焼鈍中 750〜90
0 ℃のある温度で20〜70時間の保定焼鈍を行ってから昇
温する方法、あるいは保定を行わずに焼鈍する方法のい
ずれでも良い。また、最終冷延後あるいは最終仕上げ焼
鈍後または絶縁コーティング後に既知の磁区細分化処理
を行うこともでき、より一層の鉄損の低減に有効であ
る。
【0050】
【実施例】実施例1C:0.043 mass%, Si:3.35mass
%, Mn:0.067 mass%, Se:0.020 mass%,Sb:0.023 m
ass%およびMo:0.012 mass%を含有し、残部はFeおよ
び不可避的不純物からなるけい素鋼スラブを、1420℃で
20分間加熱後、熱間圧延により 2.6mm厚の熱延板とし
た。ついで、950 ℃, 1分間の熱延板焼鈍後、1回目の
冷間圧延により板厚:0.8 mmとしたのち、雰囲気酸化度
(P[H2O]/P[H2])とその後の酸洗・研削処理条件を種
々に変化させて、1000℃,1分間の中間焼鈍を行い、鋼
板表層部におけるMn量を種々に変更した。そして、グロ
ー放電分光法により中間焼鈍板のMnプロファイルを測定
し、鋼板表面近傍におけるMn量を、グロー放電分光法で
測定したMnの地鉄部に対する積算強度比(s)で求め
た。但し、鋼板表面近傍とは最表面から 1.5μm の深さ
までを指す。
【0051】その後、2回目の冷間圧延にて最終板厚:
0.29mmに仕上げ、これを脱脂して表面を清浄化したの
ち、H2 −H2 O−N2 雰囲気中にて 830℃の温度で脱
炭焼鈍を行った。なお、その際、雰囲気酸化度(P[H
2O]/P[H2])を表1に示すように変更した。ついで、マ
グネシア:100 重量部に対しTiO2:2重量部、 SrSO4
2重量部、MgSO4 ・7H2O:1重量部を配合した焼鈍分離
剤をスラリー状にして、それぞれの脱炭焼鈍板コイルに
塗布して乾燥させたのち、窒素雰囲気中にて 850℃, 50
時間の二次再結晶焼鈍を施し、ついで窒素:20%、水
素:80%の雰囲気中にて30℃/hの速度で1180℃まで昇温
したのち、水素雰囲気中にて1180℃, 5時間の純化焼鈍
を施した。しかるのち、りん酸マグネシウムとコロイダ
ルシリカを主成分とする絶縁コーティングを施した。
【0052】かくして得られた各製品コイルの磁気特性
(磁束密度B8 、鉄損W17/50)と被膜の曲げ密着性およ
び被膜外観を調査した。なお、被膜の曲げ密着性は、5
mm間隔の種々の径を有する丸棒に試験片を巻き付け、被
膜が剥離しない最小径で評価した。得られた結果を表1
に併記する。
【0053】
【表1】
【0054】同表から明らかなように、この発明に従う
条件で製造した発明例はいずれも、良好な被膜特性およ
び磁気特性を示している。
【0055】実施例2 C:0.04mass%, Si:3.4 mass%, Mn:0.073 mass%,
Se:0.020 mass%, Sb:0.023 mass%, Cu:0.12mass%
およびMo:0.012 mass%を含有し、残部はFeおよび不可
避的不純物からなるけい素鋼スラブを、1420℃で20分間
加熱後、熱間圧延により 2.0mm厚の熱延板とした。つい
で、 950℃, 1分間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延
にて板厚:0.5 mmとした後、雰囲気酸化度(P[H2O]/P
[H2])とその後の酸洗・研削処理条件を種々に変化させ
て、 950℃,1分間の中間焼鈍を行い、鋼板表層部にお
けるMn量を種々に変更した。そして、グロー放電分光法
により中間焼鈍板のMnプロファイルを測定し、鋼板表面
近傍におけるMn量を、グロー放電分光法で測定したMnの
地鉄部に対する積算強度比(s)で求めた。但し、鋼板
表面近傍とは最表面から 1.5μm の深さまでを指す。
【0056】その後、2回目の冷間圧延にて最終板厚:
0.19mmに仕上げ、これを脱脂して表面を清浄化したの
ち、H2 −H2 O−N2 雰囲気中にて 820℃の温度で脱
炭焼鈍を行った。なお、その際、雰囲気酸化度(P[H
2O]/P[H2])を表2に示すように変更した。ついで、マ
グネシア:100 重量部に対しTiO2:1.5 重量部、 SrS
O4:2重量部を配合した焼鈍分離剤をスラリー状にし
て、それぞれの脱炭焼鈍板コイルに塗布して乾燥させた
のち、窒素雰囲気中にて 840℃, 50時間の二次再結晶焼
鈍を施し、ついで水素雰囲気中にて35℃/hの速度で1180
℃まで昇温したのち、1180℃, 5時間の純化焼鈍を行っ
た。しかるのち、りん酸マグネシウムとコロイダルシリ
カを主成分とする絶縁コーティングを施した。
【0057】かくして得られた各製品コイルの磁気特性
(磁束密度B8 、鉄損W17/50)と被膜の曲げ密着性およ
び被膜外観を調査した。得られた結果を表2に併記す
る。
【0058】
【表2】
【0059】同表から明らかなように、この発明に従う
条件で製造した発明例はいずれも、良好な被膜特性およ
び磁気特性を示している。
【0060】
【発明の効果】かくして、この発明に従い、中間焼鈍板
の鋼板表面近傍におけるMn量を制御することによって、
磁気特性と被膜特性に優れた方向性電磁鋼板を安定して
製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 グロー放電分光法により得られる中間焼鈍板
のMnプロファイルとMnの表面近傍および地鉄部の積算強
度の算出要領を示す図である。
【図2】 中間焼鈍板のs値と製品板の磁気特性との関
係を示す図である。
【図3】 s値が異なる試料の脱炭焼鈍板サブスケール
のMnプロファイルを示す図である。
【図4】 s値が異なる二次再結晶焼鈍途中材の表面
を、薄膜X線回折により調べた結果を示す図である。
【図5】 中間焼鈍板のs値と二次再結晶焼鈍途中での
鋼板の追加酸化量との関係を示す図である。
【図6】 中間焼鈍板のs値と脱炭焼鈍工程の加熱時に
おける雰囲気酸化度(P[H2O]/P[H2])が磁気特性に及
ぼす影響を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 本田 厚人 岡山県倉敷市水島川崎通1丁目(番地な し) 川崎製鉄株式会社水島製鉄所内 Fターム(参考) 4K033 AA02 BA02 CA01 CA02 CA03 CA04 CA07 CA08 EA02 FA01 FA12 HA03 JA04 LA01 RA04 SA02 TA02 5E041 AA02 AA19 CA02 HB05 HB07 HB11 NN17

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.02〜0.10mass%, Si:2.0 〜4.5
    mass%, Mn:0.05〜0.2mass%, Seおよび/またはS:
    0.01〜0.04mass%およびSb:0.005 〜0.05mass%を含有
    する組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、必要に応じて
    熱延板焼鈍を施したのち、中間焼鈍を挟む2回以上の冷
    間圧延を施し、ついで脱炭焼鈍を施したのち、鋼板表面
    に焼鈍分離剤を塗布してから、二次再結晶焼鈍および純
    化焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造
    方法において、 中間焼鈍板の鋼板表面近傍におけるMn量を、地鉄部のMn
    量に対する比で 0.8以下に規制することを特徴とする方
    向性電磁鋼板の製造方法。
  2. 【請求項2】 中間焼鈍を、鋼板表層部にMn酸化物を生
    成させる条件下で行い、その後、酸洗または研削等によ
    り鋼板表層部のスケールを除去することによって、鋼板
    表面近傍のMn量を調整することを特徴とする請求項1記
    載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  3. 【請求項3】 鋼スラブが、さらに、Cu:0.05〜0.20ma
    ss%および/またはMo:0.005 〜0.05mass%を含有する
    組成になることを特徴とする請求項1または2記載の方
    向性電磁鋼板の製造方法。
  4. 【請求項4】 中間焼鈍板の地鉄部に対する鋼板表面近
    傍のMn量比をs、一方脱炭焼鈍工程の加熱時における雰
    囲気酸化度(P[H2O]/P[H2]:雰囲気の水素分圧に対す
    る水蒸気分圧の比)をyとする時、上記s値に応じてy
    の値を下記式を満足する範囲に制御することを特徴とす
    る請求項1,2または3記載の方向性電磁鋼板の製造方
    法。 記 y≧0.40−0.4 ×(0.8−s)(但し、y≦0.60)
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP2025766A1 (en) * 2006-05-24 2009-02-18 Nippon Steel Corporation Process for producing grain-oriented magnetic steel sheet with high magnetic flux density
JP2011111645A (ja) * 2009-11-26 2011-06-09 Jfe Steel Corp 方向性電磁鋼板の製造方法

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