【発明の詳細な説明】
転移性腫瘍の同定および治療用組成物
本発明は腫瘍細胞の増殖を同定および抑制するための組成物に関する。
西欧世界において最も多い病因の1つは悪性腫瘍の出現である。問題は今日で
も、従来同様、腫瘍の早期発見と引き続く治療である。近年、腫瘍の増殖の確認
および転移の形成の確認のためのいくつかのマーカーが記載されている(Potter
-Jordan,K.およびLippman,M.,1994,Hematol.Oncol.Clin.North Am.8,73〜100(19
94)参照)。これらのマーカーのいくつか、例えばerbE−2、カテプシン(Ca
thepsin)Dは多数の研究において良好に使用可能なものであることが証明された
。最近ではタンパク質CD44の変種が重要性を増してきている(Kaufmann et a
l.Lancet 345,615〜619(1995),EP 0531300,DE‐OS 4134982)。更に、EP−35
1313、CA121:29448、CA115:69417、Medline
95085293、CA111:209896からは抗原抗体−システムが公知
であり、このシステムにおいてはN−グリコシド結合サッカライドを含有するタ
ンパク質が使用される。これらの文献から、腫瘍マーカータンパク質上の特定の
エピトープを特異的に認識し、これと反応し、かつラジ
オアイソトープにより標識され、かつ/または細胞破壊作用または細胞毒作用物
質と結合可能である、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体を転移性の腫瘍
の診断および治療に適用可能であるということは公知である。
抗体は特異的なエピトープに反応する。一般に、異なる腫瘍は異なるマーカー
を発現し、かつ他方では1つのマーカーは常に1つのサブセットのみに対応する
。従って、多要素治療の領域においては腫瘍治療のために複数の異なるマーカー
が望ましい。
従って、本願の課題は、できるだけ種々異なる腫瘍のために一様に使用可能で
ある、腫瘍の増殖を同定するためのまたは抑制するための組成物を開発すること
である。
この課題は、N−グリコシド結合サッカライドを有するタンパク質と反応する
抗体を含有し、このサッカライドがB2、3、4型またはA2型の血液型特異的
抗原に属することを特徴とする、腫瘍の増殖を同定しかつ抑制する組成物により
達成される。
本発明の目的のためには特異的なサッカライドで修飾されている、動物または
ヒト由来のタンパク質の全ての任意の変種を挙げることができる。
抗体とは1価または多価の抗体およびポリまたはモノクローナル抗体を意味す
るが、これらのフラグメントおよび誘導体(F(ab’)2、Fab’およびF
a
bフラグメントを包含する)をも意味し、更に少なくとも2つの抗原結合位もし
くはエピトープ結合位を有する、キメラ抗体またはハイブリッド抗体、または2
個の特異的組換え抗体(例えば、Quadrome、Triome)、種間−ハイブリッド抗体
、抗イディオタイプ抗体およびこれらから化学的に修飾されたものおよびこれら
の抗体の誘導体として理解されるべきもの、および公知の抗体獲得のための慣用
法を介してまたはDNA組換えを介して、ハイブリドーマ技術または抗体工学に
より、または公知の方法により合成または半合成可能であるものか、および前記
の定義した糖鎖に関して中和特性または結合特性を有するものである。多用の文
献の内から単に例として次の文献を示す:
75;Biocca,S.et al.,Embo,J.9,101〜108,1990;Bird,R.E.et al.,Science 242,4
23〜426,1988;Boss,M.A.et al.,Nucl.Acids Res.12,3791〜3806,1984;Boulianne
,G.L.et al.,Nature 312,643〜646,1984;Bukovsky,J.& Kennett,R.H.,Hybridoma
fi,219〜228,1987;Diano,M.et al.,Anal.Biochem.166,223〜229,1987;Huston,J
.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85,5879〜5883,1988;Jones,P.T.et al.,Nat
ure 321,522〜525,1986;Langone,J.J.& Vunakis,H.V.(Hrsg.),Methods Enzymo
l,121,Academic Press,London,1987;Morrison;Morrison,S.et al.,Proc.Natl.Ac
ad.Sci.USA 81,6851〜6855
,1984;Oi,V.T.& Morrison S.L.,Bio Techniques 4,214〜221,1986;Riechmann,L.
et al.,Nature 332,323〜327,1988;Tramontano,A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.
USE 83,736〜6740,1986;Wood,C.R.et al.,Nature 314,446〜449,1985。
エピトープに対するポリクローナル抗体の製造に関しては、多くの方法が提供
されている。例えばこの目的のためには、公知法で種々の動物を本発明によるグ
リコペプチド、またはそのフラグメントで注射することにより免疫化し、かつこ
れにより得られた血清から所望のポリクローナル抗体を公知法により獲得し、か
つ精製することができる。同様に、タンパク質投与に対する免疫応答を上昇させ
るためには種々のアジュバントを、免疫化に選択した動物に依存して、使用する
ことができ、例えばフロインドアジュバント、ミネラルゲル、例えば水酸化アル
ミニウム、表面活性物質、例えばポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン
、ヘモシアニン、ジニトロフェノールまたはリゾレシチンを使用することができ
る。本発明においてはモノクローナル抗体が有利である。特に有利であるのは抗
体M−N#1であり、これはDSMZ(Deutche Sammlung von Mikroorganismen
und Zellkulturen GmbH,Braunschweig)に寄託した細胞培養体DSM ACC2
333から得られる。
本発明による使用に有利なモノクローナル抗体は、
セルラインの培養を介して抗体を製造するために提供される全ての適当な方法に
より得ることができる。この種の公知方法には、例えばケーラーおよびミルスタ
イン(Koehler,G & Milstein,C.,1975前記)またはタツガートおよびサムロフ(
Taggart & Samloff,Science 219,1228-1230,1983)により記載された、ハイブリ
ドーマ細胞を用いる方法、またはヒトB細胞ハイブリドーマを用いる方法(Kozb
or et al.,Immunology Today4,72-79,1983)を挙げることができる。B−リンパ
球からのジーンライブラリー(Ward et al.,1989;Nature 341,544-546)および
ファージベクター上の“コンビナトリアル(combonatorial)”ライブラリー(M
c Cafferty et al.,1990,Nature 348,552-554;Krang et al.;1991,PNAS88,4363-
4366)の使用もこの方法に挙げることができる。
抗体は公知法により精製される、例えば免疫吸着または免疫親和性クロマトグ
ラフィーを介して、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)また
はこれらの組合せを介して精製される。分子のイディオタイプを含有する抗体フ
ラグメントは同様にして公知法により製造することができる。例えばF(ab’)2
フラグメントは完全ポリ−またはモノクローナル抗体のペプシン消化により得
ることができる。Fab’フラグメントは、例えば該当するF(ab’)2フラ
グメントのジスルフィド架橋結合を還元すること
により得ることができ、Fabフラグメントは例えば、パパインおよび還元剤で
の抗体分子の処理により得ることができる。
抗体、そのフラグメントまたは誘導体の同定および選択のためには全ての公知
法を使用することができる。例えば、もしこれが単離または精製した抗原に結合
している場合にはこれを相応する標識付けにより、または例えばポリアクリルア
ミドゲルを介して精製された抗原の免疫沈降を介して、検出可能であることによ
るか、または抗体を血液型抗原に対して他の血液型特異的抗体と、糖側鎖への結
合に関して競合させることによる。
しかし本発明の課題は、抗体の製造のためのハイブリドーマセルラインの使用
もしくは本発明による使用のための製剤、および本発明による使用のための製剤
の製法でもある。
この種の抗体を含有する組成物を動物およびヒトにおける腫瘍疾患において使
用することが本発明により見いだされた。この使用とはこの腫瘍疾患の予防、制
御、診断または治療を包含する。
該抗体の本発明による使用は、B2、3、4型またはA2型の血液型特異的抗
原に属する、N−グリコシド結合サッカライドを有するタンパク質が種々異なる
腫瘍を同定および治療することを可能にする、という意外な観察を基にする。実
験は、全ての糖タンパク質
を抗体の製造に使用することができるわけではないことを示した。こうしてO−
グリコシド結合サッカライドを有するタンパク質は不適であることが示された。
こうして、特に本発明による抗体を多数の障害、疾患および状態のために臨床的
に使用することが特に有利である。
動物またはヒトの身体における治療すべき疾患または障害または影響を与える
べき状態の種類および原因に依存して、この抗体製剤を全身的に、局部的にまた
は局所的に該当する組織または器官に投与することが望ましい。全身的な作用の
仕方は例えば種々の器官または器官系が要治療である場合に所望である。これに
対して、腫瘍の局所的発現にのみ影響を与えるべき場合には局所的な作用を考慮
すべきである。
該当する抗体は、専門家に公知な全ての経腸または非経腸投与ルートで投与す
ることができる。全身的投与のためには、例えば静脈内、血管内、筋肉内、動脈
内、腹膜内、経口または胸腔内が提供される。むしろ、局所適用は、例えば、皮
下、皮内、心臓内、葉内、髄内、肺内または治療すべき組織(結合組織、骨組織
、筋肉組織、神経組織、上皮組織または骨組織)上または中に行なわれる。達成
すべき免疫抑制作用の期間及び強度に依存して、抗体製剤を1日当たり、1回ま
たは複数回で、断続的に、数日、数週間または数ヶ月にわたって、種々異なる投
与量で、投与することがで
きる。前記投与のために好適な抗体製剤の製造のためには専門家に公知の注入可
能な、生理学的に認容性の溶剤を、無菌の形で使用することができる。腸管外注
射または注入のためのそのまま使用可能な溶液の製造のためには、公知の等張水
溶液、例えば生理食塩水、またはγ−グロブリンを含有しない相当する血漿タン
パク質溶液を提供することができる。しかしながら、この製剤は凍結乾燥製品も
しくは乾燥製剤の形であってもよく、例えばキット・オブ・パートとしてこれを
使用の直前に公知注入可能な溶剤1種と滅菌条件下に再構成することができる。
注射、注入または灌流のための、本発明おいて使用すべき抗体製剤の最終的製造
は、前記定義により精製した抗体を前記生理学的に認容性の溶剤の1種と混合す
ることより行なわれ、この溶剤は場合により、公知担体または助剤で補足されて
いてもよい(例えば、血清アルブミン、デキストロース、ナトリウムビスルフェ
ート、EDTA)。
投与すべき抗体の量は、治療すべき疾患または障害または影響を与えるべき状
態および該当する患者(動物またはヒト)の種類および重さに依存する。しかし
ながら、投与量単位当たり該当する動物の体重kg当たり、使用すべき投与量0
.5〜2、有利に0.7〜1.5mgである。
次に、本発明を実施例につき詳細に説明する:材料および方法
セルライン:NM−081(Goshetal,1983,InVitro 19,919-928)、MT−4
50(Kim1986,J.Surg.Opa 133,151-165)ならびにMTLN2、MTLN3、M
TLy、MTPa、MTC(Nevietal,1982,J.Natl.Cancer Inst.68,507-517;Li
chtmer et al.,1987,エnvasion Matastaxis 7,73-82)セルラインをFCS(ウシ
胎児性血清)10%を補足したDMEM中で培養した。ラインRBAおよびMT
ABをATCC(American Type Culture Collection;番号CRL1747およ
びCRL1666)から入手した。
サブトラクティブ(substractive)免疫化:組織培養細胞をPBS/5mM
EDTAで収穫し、次いでPBS中で3回洗浄した。それぞれのサブトラクショ
ンのためには予めプレ血清を採取した雌のBalbC/B16F1ハイブリッド
マウス10匹に、所望の抗原を有しない腫瘍−または組織培養細胞2×106を
皮内注射した(寛容原性抗原として、興味のない抗体がこの抗原に対して生産さ
れる抗原)。24時間後および48時間後、それぞれのマウスにシクロホスファ
ミド200mg/kgを腹膜内に注射した。3週間後に、相応して寛容原性抗原
およびシクロホスファミドを再度注射した。これから10日後に、テスト血液を
採血した。寛容原性抗原の最後の注射の3週間後に、抗体を製造すべき、腫瘍−
または組織培養細胞2×106
個を皮内に注射した(免疫原として)。この免疫原をそれぞれ3週間後に更に2
回注射した。最後の免疫の10日後にテスト血液を採血した。寛容原性抗原免疫
により、および免疫原免疫により得られたテスト血液をそれぞれのプレ血清と比
較した、この際寛容原性抗原および免疫原での細胞−ELISAをターゲットと
して使用した。これにより、寛容原性抗原への免疫応答が最大に妨害されるマウ
ス、かつ免疫原への免疫応答が最大に強化されているマウスを同定することは可
能であった。これらのマウスはハイブリドーマセルを製造するために選択された
。最後のテスト血液採血の4週間後、これらのマウスから脾臓を取りだし、脾臓
細胞をSP2/0骨髄腫細胞と融合した。
モノクローナル抗体:ハイブリドーマ細胞をハルロウおよびラーネの方法(Ha
rlow & Lane,1988,Antibodies:A Laboratory Manual;Cold spring Harbor Labor
atory press)により製造した。ハイブリドーマを抗体の生産に関して細胞−E
LISA中でテストし、この際免疫原をターゲットとして使用した。抗体をEL
ISAテストでプラスであったハイブリドーマ細胞の調節した培地から製造した
、この際タンパク質G−アガロース(Dianova)を親和性カラムとして使用した
。
細胞−ELISA:ターゲット細胞をPBS/5mM EDTAを用いて収穫
し、かつDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)/10%FCS中に再
懸濁した(2×106/ml)。抗体テスト溶液50μlを担持板のU字型凹部
中(担持板当たり凹部96個)にそれぞれピペットで添加し、次いで細胞のアリ
コート50μlを添加した。細胞および抗体からなる混合物を37℃で3時間イ
ンキュベートし、次いでPBSのアリコート200μlで3回洗浄した。最初に
結合した抗体をセイヨウワサビペルオキシダーゼに結合した家兎−抗マウス抗体
と共にインキュベートし、かつ引き続きABTS(2,2’−アジノ−ジ−(3
−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホネート))で検出した。
免疫沈降:細胞を(35S)L−メチオニン(500mCi/ml)と、透析し
たFCSを補足したメチオニン不含RPMI−培地中で4時間インキュベートし
て、標識付けした。パルス追跡分析のために、細胞を(35S)L−メチオニン(
500mCi/ml)と、透析したFCSを補足したメチオニン不含RPMI−
培地中で15分間インキュベートし、次いで洗浄し、メチオニン含有培地で更に
インキュベートした。免疫沈降のために細胞をRIPA(radioimmunoprecipita
tion)緩衝剤中で溶解し、かつアリコートを抗体5μgで免疫沈降した。ウレク
ス・エウロパエウスレシチンに結合するタンパク質の精製のために、この細胞を
PBS/1%NP40/1mM PMSFで溶解し、遠心分離し、かつこの溶解
物をウレクス・エウロパエウ
スレシチンビーズと4℃で1時間インキュベートした。次いでこのビーズをPB
Sで3回洗浄し、かつ過剰の緩衝液を除去した。このビーズを1%SDS/20
mMリン酸塩中pH7で煮沸した。次いでRIPA−緩衝液の20倍過剰を添加
し、かつ上澄みを、ウレクス・エウロパエウスレシチンビーズを分離した後、免
疫沈降のために使用した。免疫沈降したタンパク質を0.5U N−グリコシダー
ゼF、2.5mU O−グリコシダーゼまたは5mUノイラミニダーゼで処理した
実験において、抗原/抗体−マトリックスビーズコンプレックスを最初に100
mMリン酸塩緩衝液、pH7.0で中で洗浄した。緩衝液を除去し、次いでマト
リックスビーズを1%SDS/20mMリン酸塩、pH7.0、5μl中で5分
間沸騰させた。次いでこの酵素を20mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)/1m
M CaSO445μl中に添加した。酵素反応の能力を、前記酵素の全てのもの
により消化される、免疫沈降CD44v4−v7タンパク質での類似の消化法と
の比較により確認した。免疫沈降したタンパク質をSDS(ドデシル硫酸ナトリ
ウム)−PAGE(ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動)により分離した。ゲル
をPPO(2,5−ジフェニルオキサゾール)で処理し、かつX線感光性フィル
ム材料に晒す。
転移テスト:雌のw/FuラットにPBS中のMT−450細胞5×105個
を皮下注射した。この動物を
、その腫瘍の大きさが法定の限界に達するまで、またはラットが死亡寸前になる
まで規則的に観察した。次いで、この動物を殺し、解剖を実施した。抗体での治
療実験においては、ラットに腫瘍細胞を抗体(200μg/ラット)と共に注射
した。その後、この動物に、抗体200μgを腫瘍細胞を注射した部位に週2回
、4週間にわたって皮下投与した。
窪んだ室8個を有する担持板(Nunc)上で増殖させた。細胞懸濁液からの細胞
をシトスピン(cytospin)遠心分離器を用いてシラン被覆担持板上に固定した。
両方の場合に、担持板上に固定した細胞をPBSで3回洗浄し、4%パラホルム
アルデヒド中に固定し、次いでPBS/10%FCS(FPBS)中で30分間
インキュベートした。これに抗体溶液(FPBS中)を添加し、かつインキュベ
ーションを更に2時間続行した。引き続き、細胞を3回PBSで洗浄し、かつF
PBSで希釈したテキサスレッド複合家兎抗マウスIgと共に1時間インキュベ
ートした。PBSでの洗浄工程を2回行なった後、染色した細胞を室スライド上
に乗せた。
合成オリゴサッカライドへの結合
固体マトリックスに固定した血液型特異的オリゴサッカライド(SYNSORB(R))
をChembiomed杜(カナダ、エドモントン在)から購入した。オリゴサ
ッカライドの化学的構造を第4表中に記載する。mA
b M−N#1(200μlPBS/l& BSA中の0.2μg)を負荷した(
または対照として未負荷の)SYNSORB(R)−ビーズ10mgと共にインキ
ュベートした。インキュベーションの後、上澄みを集め、血液型Bの唾液ムチン
に対する反応性を次のように試験した。血液型Bまたは血液型Oの個体の唾液を
採取後すぐに15分間沸騰する水浴中で加熱し、引き続き13000gで5分間
遠心分離した。透明な上澄液を0.1M炭酸塩緩衝液、pH9で1:80に希釈
した。この希釈溶液を用いて、ELISAプレート(NUNC免疫板)を室温で1時
間インキュベートした。このプレートをPBSで洗浄した後、これをPBS、3
BSAとインキュベートした。SYNSORB(R)−ビーズにM−N#1を吸着
させた後に、上澄み100μlを被覆されたELISAプレート上に二重に重複
してそれぞれピペットで加えた。0℃で一夜インキュベーションした後、このプ
レートをPBSで洗浄し、引き続きアルカリ性ホスファターゼに結合した山羊抗
マウスIgG(Sigma,St.Louis,MO,USA)100μlと1時間室温でインキュベ
ートした。PBSで洗浄した後、結合した抗体をp−ニトロフェニルホスフェー
ト(Sigma)で検出した。
結果および討議
サブトラクティブ免疫化により、ラットの乳癌セルラインの転移性腫瘍上のエ
ピトープと特異的に反応す
る、モノクローナル抗体を製造することが達せられた。まず、マウスを非転移性
ラット−乳癌セルラインNM−081(寛容原性抗原として)で免疫化した。1
日もしくは2日後に、活性化した免疫細胞を殺すために、マウスをシクロホスフ
ァミドで処理した。3週間後、寛容原性抗原およびシクロホスファミドの注射を
繰り返した。更に3週間後このマウスを転移性ラット−乳癌セルラインMT−4
50(免疫原として)を投与した。免疫化およびシクロホスファミド処理の効力
は、それぞれ寛容原性抗原、シクロホスファミドもしくは免疫原での処理の前ま
たは処理後に採取した血清を用いて細胞−ELISAによりテストした、この際
NM−081細胞またはMT−450細胞をターゲットとして使用した。血清は
第2の免疫化及びシクロホスファミド処理の10日後寛容原性抗原に対して全く
免疫反応を示さず、シクロホスフアミド処理の効力を証明した。しかしながら、
これらの全ての血清は免疫原に対して強化された反応性を示した。
免疫化マウスの脾臓細胞をハイブリドーマの生成のために使用した。ハイブリ
ドーマのいずれもが、寛容原性抗原のみをサブトラクティブ免疫化の有効性で認
識する抗体を全く生産しなかった。
ハイブリドーマの1つは細胞ELISA中で特異的に転移性MT−450細胞
とのみ反応する抗体(M−N#1)を生産した。この抗体はMT−450細胞で
免疫蛍光染色をも示し(図1)かつ免疫沈降に使用することができる。但し、ウ
ェスタンブロット法においては全く反応性を示さない。
抗体が転移特異的に発現するエピトープのみを認識するだけでなく、腫瘍転移
を抑制するかどうかを調べるために、MT−450細胞をラットの胸腺組織中に
注射し、引き続きM−N#1−抗体で、または対照抗体で同じアイソタイプを処
理した。M−N#1−抗体は腫瘍の増殖を抑制し、このことは一方では、対照動
物中でよりもより少ない動物において腫瘍が形成され、かつ他方では増殖した腫
瘍が対照動物中でより明らかに小さいという結果に導いた。更に、抗体は腫瘍を
有する動物のリンパ節中の転移増殖を抑制する作用をも有した。M−N#1−抗
体で処理した動物の生存期間も明らかに対照動物より長い(図2)。
M−N#1−抗体の特異性を調べるために組織切片で免疫組織学的なM−N#
1−抗体での染色を、転移能力の異なるラインを包含する組織培養物中の種々異
なる乳房腫瘍セルラインおよびMT−W9乳房腫瘍系の腫瘍に実施した(図3)
。MT−W9系の腫瘍の内で、抗体は転移性MT−450およびMT−449と
反応したが、非転移性MT−W9AおよびMT−W9Bとは反応しなかった。培
養物中の細胞の内、低い転移能力を有するラインのいずれとも反応しなかった(
第1表)。転移性の乳癌セルラインの内のいくつかは
この抗体と反応したが、いくつかは反応しなかった。このことは、M−N#1エ
ピトープの発現は全ての腫瘍のための転移工程に必須なものではないことを意味
する。
M−N#1−抗原が動物中の生理学的条件下に同様に発現されるかどうかを確
定するために、一連のラット組織をM−N#1−抗体との反応性に関して調査し
た。腺特性を有する上皮細胞はプラスに反応した(第2表)。脾臓、胸腺からの
またはリンパ節からの白血球および腹膜からのマクロファージはマイナスであっ
た。パラフィン切片においては、胃の内体領域および洞領域の上皮、膵臓の胞状
細胞および腸管の洞の基底細胞は染色された。強い反応性は骨髄にも見られた。
なぜM−N#1−エピトープが転移性乳腺腫に発現するかという原因は正常な生
理学的条件下にもこの抗原が乳腺組織に存在するということでもあるかもしれな
い。正常な乳腺組織はM−N#1−抗体と全く反応を示さず、妊娠および授乳期
にも全く反応を示さない。興味深いことに、授乳期の終了の2日後から乳腺の退
行開始まで、および退行相の間、M−N#1−エピトープの強い発現が見られる
(図4)。
退行期の特徴はアポプトーシスによる細胞の除去(プログラムされた細胞死)
である。他の器官もアポプトーシスにより退行する。これには去勢後の前立腺も
属する。前立腺の組織も、正常の乳腺組織と同様に、
全くM−N#1−エピトープの発現を示さない。すでに去勢の2日後、前立腺の
退行の開始で、M−N#1−抗原の強い発現が見られ、この発現は退行期間の間
保持される(図5)。このデータはM−N#1−抗原がアポプトーシスの組織で
発現されることを示唆している。
M−N#1−抗体と関連する抗原の同定のためには、細胞溶解物から反応性材
料をM−N#1−抗体と免疫沈降させ、引き続き沈降した材料をゲル電気泳動で
分離した。沈降した材料は不連続バンドに分離せず、“べっとりとしたシミ”の
ように見え、この材料がポストトランスレーション変容体(post-translational
modification)であろうことを示唆している。従って、免疫沈降材料を種々の
グリコシダーゼで処理した。N−グリコシダーゼFでの処理のみが効果を有し、
“べっとりとしたシミ”を見かけの分子量49/51kDを有する2つのバンド
に減少させた(図6)。コンドロイチンスルフェートおよびヘパランスルフェー
ト変性は除いた。
興味深いことには、N−グリコシダーゼFでの処理の後、M−N#1−抗原は
もはやM−N#1−抗体と免疫沈降をすることができなかった。MT−450溶
解物の熱処理後、M−N#1−抗原の免疫沈降性は破壊されないので、M−N#
1により認識される抗原は糖残基と思われる。このことはMT−450細胞をツ
ニカマイシン(tunicamycin)での処理も免疫沈降性の材料を消失させることか
ら確認された。
MT−450細胞の放射性フコースでの標識付けにより、M−N#1−抗体に
より認識されるN−グリコシド結合糖がフルコース化されていることが示された
:i)この抗体は、35S−標識細胞からのものと類似の分子量を有するタンパク
質をフコース標識細胞の溶解物から沈降した(図7)。ii)N−グリコシダー
ゼFでの免疫沈降したタンパク質の処理はフコースの脱離に導く(図7)。ii
i)ウレクス・エウロパエウスレシチンでのフコース化タンパク質の精製および
引き続くM−N#1−抗体での免疫沈降は35S−標識後と類似の分子量を有する
タンパク質を同定する。iv)M−N#1−抗体へのタンパク質の結合はD−フ
コースおよびD−ガラクトースの量の上昇により抑制される。L−フコースは結
合に全く影響を有しない(図8)。v)M−N#1−抗体とヒト赤血球および血
管内皮との反応性は血液型の状態に依存する。BおよびAB型(示さず)の個体
の赤血球との反応性、およびB型個体の幽門および十二指腸の上皮との反応性は
、これらが血液型抗原を分泌する場合、見られる。A型の個体の内では、この個
体が血液型抗原を分泌する場合、幽門の上皮との反応は見られるが、十二指腸の
上皮、空腸または赤血球との反応は見られない(第3表)。iv)M−N#1−
抗体はELISA−実験に
おいて、血液型Bの個体のヒト唾液に結合する。この結合は、合成により製造し
たB2、3、4型およびA2型の血液型糖により妨害されるが、B1、A1、3
、4型またはH型により妨害されない。この結合の妨害は1−2結合フコースに
依存する(第5表)。
第1表
ラットからの乳癌細胞の免疫蛍光染色
免疫蛍光染色
セルラインをCD44特異性抗体5G8および1.LASML(Sleeman et a
l.,Cancer Research 56 3134-3141,1996)で、およびM−N#1−抗体で実施し
た。染色強度は4段階(−;染色せず、+++;強く染色)で主観的に決定した
。転移能力は文献(Sleeman et al.,Cancer Res.56,3134-3141,1996)に記載さ
れているような分類で行なった。細胞の約10%が強く染色した。
第2表
正常組織の免疫組織学的染色 パラフィン切片をM−N#1抗体で免疫組織的に染色した(材料および方法)
4段階(第1表参照)で主観的に評価した。
第3表
血液型ABO、分泌または非分泌に関して表現型を分類した個体の胃十二指腸
のM−N#1抗体での免疫ペルオキシダーゼ染色
第4表
結合に関する研究で使用したABH関連オリゴサッカライドの構造第5表
固体結合したオリゴサッカライドへのM−N#1の結合
固体マトリックスに固定したオリゴサッカライドへのM−N#1−抗体の結合
は「材料および方法」の項に記載されている。
図に関する記載
図1:M−N#1−抗体を用いるNM−081およびMT−450細胞の免疫
蛍光染色。MT−450のみが抗体により染色される(赤色免疫蛍光)。
図2:腫瘍を有するラットの腫瘍増殖および生存へのM−N#1−抗体の効果
。
MT−450細胞5×105個を皮下に注射し、かつその後対照抗体(IB7
)またはM−N#1それぞれ200μgで1週間当たり2回処理したWista
r Furthラットの、腫瘍増殖をAに(最初の腫瘍の容量)および生存をB
に示した。
図3:MT系の腫瘍のパラフイン切片のM−N#1−抗体での免疫組織化学的
染色。
図4:授乳期終了後の雌のBDX−ラットの乳房組織のパラフィン切片のM−
N#1−抗体での免疫組織
化学的染色。時間0でラットの子供を引き離した。
図5:ラットの前立腺組織のパラフィン切片のM−N#1−抗体での免疫組織
化学的染色。雄のBDXラットを0日目に去勢し、記載した時間に前立腺組織を
採取し、M−N#1−抗体で染色した。
図6:M−N#1−抗原はN−グリコシド結合糖残基の一部である。MT−4
50細胞の放射性標識付け細胞分解物をM−N#1で免疫沈降し、かつ沈降した
タンパク質をSDSアクリロアミドゲル上で分離した。
M−N#1沈降タンパク質はべっとりとしたシミとして移動する(第1のバン
ド)。アルファベットはゲル電気泳動分離前の免疫沈降処理を示す:NGF:N
−グリコシダーゼF;OG:O−グリコシダーゼ;N:ノイラミニダーゼ。Re
−I.P.edとは、酵素処理した免疫沈降物を“再沈降”したことを意味する
。図の右側部分はツニカマイシン処理の結果を示す。M−N#1−T450細胞
を放射性メチオニンで標識付けする前に、記載した時間の間ツニカマイシンで処
理し、標識付けの後免疫沈降した。対照は抗体なしでの沈降を示す。
図7:M−N#1−抗原のフコシル化の証明
MT−450細胞を放射性フコースで標識付けし、この細胞の溶解物中のタン
パク質をM−N#1で沈降させた(対照=抗体なしでの沈降)。図はSDS ポ
リ
アクリルアミドゲル上での沈降タンパク質の分離である。NGF(N−グリコシ
ダーゼF)は分離の前に、NGFで処理された免疫沈降タンパク質を示す。実験
“U.エウロパエウス”(図の右側)のためにはMT450細胞を14C−メチオ
ニンで標識付けし、かつ抽出物をウレクス・エウロパエウスレシチンカラムを通
して精製した。結合したタンパク質を溶離し、抗体なしで(cont)またはM−N
#1−抗体で沈降させた。NGFはN−グリコシダーゼF処理を示す。
図8:フコースおよびガラクトースでのM−N#1−結合の競合。放射性標識
付けした(14C−メチオニン)MT−450細胞の溶解物中のタンパク質をフコ
ースまたはガラクトースの上昇濃度または不存在で、M−N#1−抗体で免疫沈
降し、かつゲル電気泳動で分離した。
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(72)発明者 ペーター ヘルリッヒ
ドイツ連邦共和国 カールスルーエ フォ
ーゲルザング 8
(72)発明者 キム アンテー
アメリカ合衆国 ニューヨーク スナイダ
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